JP2016173293A - メソポーラス金属膜を用いた分子センサー、酸化還元触媒及びリチウムイオン電池電極 - Google Patents

メソポーラス金属膜を用いた分子センサー、酸化還元触媒及びリチウムイオン電池電極 Download PDF

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Abstract

【課題】従来よりも高感度かつ安定動作する分子センサーを提供する。
【解決手段】金などの金属化合物と複合した両親媒性ブロックコポリマーミセル溶液中の電極に電圧を印加することによりこのミセルを電極上に堆積させることで電極上に形成した当該金属の新規なメソポーラス膜をセンサーとして使用する。これをグルコース検出等に使用することにより、高感度の検出が可能となるとともに、検知動作を行う部分が粉末とは異なり膜という安定した一体構造であるとともに、一様で制御可能な細孔径が実現できるので、安定した性能を発揮できる。
【選択図】なし

Description

本発明はメソポーラス金属膜を用いた分子センサー、酸化還元触媒及びリチウムイオン電池電極に関する。
これまでにない化学的また物理的な特性の発現のために、物質のナノ構造制御は材料化学分野において極めて重要である。特に、ナノ(メソ)ポーラス構造は急を要する諸問題を解決するために必須である多くの機能サイトを有する表面を確実に提供することができる。これまで、各種の組成を有する多くのメソポーラス材料が両親媒性有機分子の自己組織化により作製されたとの報告がなされており、またガス吸蔵、分離、触媒、イオン交換、センシング、高分子重合、薬物送達等を含む広い応用可能性のために強い関心を集めてきた(非特許文献1〜3)。
とりわけ、金属メソポーラス材料はかなりのキャリア密度を示し、これによって注目すべき光応答を示すことができる。これは、他の組成のメソポーラス材料(例えば、シリカ組成(非特許文献4、5)、カーボンベース組成(非特許文献6、7)等)を使用しても達成できない。例えば、近赤外(NIR)領域から可視(VIS)領域における光の自由空間輻射波長(free space radiation wavelength)は、それが金属表面における自由電子のプラズマ振動と相互作用するとき、その大きさが1〜2桁小さくなる(非特許文献8、9)。励起された表面プラズマ振動(excited surface plasma oscillation)つまり表面プラズモンにより、金属の表面モルフォロジーをナノメートルスケールで制御することによって柔軟に操作できるという注目すべき特性がもたらされる(非特許文献10〜13)。焼結によって大サイズの集塊になりがちであることでしばしば制約を受けている金属ナノ粒子の動作機構を検討するに、三次元(3−D)的に広がった金属フレームワークは緊急に必要とされている機能を設計するために極めて重要であるところの、豊富な反応/吸着サイトを確実にもたらすであろう。
膜及び粒子の形状をとるナノ構造化された金(Au)材料は、いくつかの酸化反応(例えばCO、ブドウ糖、メタノールの酸化反応)及びO還元反応で高度の触媒活性を示した(非特許文献14〜18)だけではなく、その局所化された表面プラズモン共鳴のために独特な光特性をも示した(非特許文献19〜21)。ソフトテンプレート法及びハードテンプレート法により多様なメソポーラス金属及び合金が作製されたが(非特許文献22〜26)、一様なメソ細孔を有する金薄膜はこのような方法では未だに作成できていない。それは、テンプレート周囲でのAuの結晶成長を制御するのが困難だからである。ハードテンプレートを使用するほとんど全ての場合において、ナノ構造化されたAu材料は、メソポーラス構造を持たないナノ粒子、ナノシート及びナノワイヤとして得られるのみであった(非特許文献27、28)。コロイド結晶テンプレート法は三次元秩序を有するマクロポーラス(3-D ordered macroporous, 3-DOMとも呼ばれる)材料を形成するための有効的な技法のひとつであるが(非特許文献29〜32)、周期的なメソポーラス構造(例えば3−D六角形構造と類似した逆オパール)を有するAu材料の合成はきわめて難しい(非特許文献33)。本願発明者の知る限り、メソポーラス/ナノポーラスAu材料を作成する唯一の道は、脱合金化によるものが報告されているだけである(非特許文献34〜36)。これは,合金(2元以上)から特定金属を選択的に溶出させることでポーラス構造を作成するプロセスである(非特許文献37、38)。しかしながら、この脱合金化という手法では構造的なパラメータに対する制御性が乏しく、厳格な実験条件下でのプロセスを必要とするが、それにも拘わらず出来上がる孔はサイズ及び形状が不規則である。従って、Au結晶の形状をナノポーラス構造化することは非常に困難である。また、Auに限らず、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、銀(Ag)、すず(Sn)等の金属についても、メソポーラス金属膜を得ることは非常に困難である。ましてや、安定した品質のメソポーラス金属膜を製造し、更にメソ細孔サイズなども広い範囲で調節することは、極めて困難である。
本発明の課題は、上述した従来技術では得られなかった新規なAu等の金属を用いたメソポーラス金属膜を用いて、新規な分子センサー、酸化還元触媒及びリチウムイオン電池電極を提供することにある。
本発明の一側面によれば、金、鉄、コバルト、ニッケル、銅、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、スズ、及びこれらの2種以上の合金からなる群より選択される少なくとも1種である金属の膜であってメソ細孔を有するメソポーラス金属膜を備える分子センサーが与えられる。
ここで、前記メソ細孔の平均直径が5nmから100nmであってよい。
また、当該物資センサーは導電性基板上に形成されてよい。
また、隣接する前記メソ細孔の間の平均壁厚が10nmから50nmであってよい。
また、膜厚が0nm超10mm未満であってよい。
また、平均直径×0.9から平均直径×1.1の範囲の直径を有するメソ細孔の割合が、全メソ細孔中、60%から100%であってよい。
また、前記金属は金であってよい。
また、当該物資センサーは前記メソポーラス金属膜を電極として使用して測定対象のアンペロメトリー応答を測定してよい。
また、当該分子センサーはグルコース検出を行ってよい。
本発明の他の側面によれば、金、鉄、コバルト、ニッケル、銅、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、スズ、及びこれらの2種以上の合金からなる群より選択される少なくとも1種である金属の膜であってメソ細孔を有するメソポーラス金属膜を備える酸化還元触媒が与えられる。
ここで、前記メソ細孔の平均直径が5nmから100nmであってよい。
また、この酸化還元触媒は導電性基板上に形成されてよい。
また、隣接する前記メソ細孔の間の平均壁厚が10nmから50nmであってよい。
また、膜厚が0nm超10mm未満であってよい。
また、平均直径×0.9から平均直径×1.1の範囲の直径を有する前記メソ細孔の割合が、全メソ細孔中、60%から100%であってよい。
前記金属は金であってよい。
本発明の更に他の側面によれば、金、鉄、コバルト、ニッケル、銅、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、スズ、及びこれらの2種以上の合金からなる群より選択される少なくとも1種である金属の膜であってメソ細孔を有するメソポーラス金属膜を備えるリチウムイオン電池電極が与えられる。
ここで、前記メソ細孔の平均直径が5nmから100nmであってよい。
また、当該電極は導電性基板上に形成されてよい。
また、隣接する前記メソ細孔の間の平均壁厚が10nmから50nmであってよい。
また、膜厚が0nm超10mm未満であってよい。
また、平均直径×0.9から平均直径×1.1の範囲の直径を有する前記メソ細孔の割合が、全メソ細孔中、60%から100%であってよい。
また、前記金属は金であってよい。
本発明によれば、従来得られなかったメソポーラス構造を有するAu等の金属膜を用いることができるので、高感度で安定した品質の分子センサーが提供される。同様に非常に活性の高い酸化還元触媒及びリチウムイオン電池電極も与えられる。
本発明で使用可能なメソポーラスAu膜の製造方法を説明する図であり、(A)ミセル集合体からのメソポーラスAu膜形成のメカニズムを概念的に説明する図。(B)液相中で(3mLのTHFを使って)形成されたPS18000−b−PEO7500ミセルのTEM像。(B−1)HAuCl源なしの場合、(B−2)HAuCl源を使用した場合。(B)のTEM像中で、黒点は電子ビーム照射によってミセルの表面上に形成されたAuナノ粒子である。(B−1)及び(B−2)右上の差し込み図に、それぞれの場合のチンダル現象を示す。 (A−1)及び(A−2)本発明の一実施例においてPS18000−b−PEO7500ミセル及び溶媒として3mLのTHFを含む典型的な電解液を使用して作製したメソポーラスAu膜の上側表面のSEM像。ここで、堆積時間は1000秒であった。(B−1)〜(B−3)本発明の一実施例において、PS18000−b−PEO7500ミセル及び異なる量のTHFを含む3種類の電解液を使用して作製したメソポーラスAu膜の上側表面のSEM像(THF量:(B−1)1mL、(B−2)2mL、(B−3)3mL)。(C−1)〜(C−3)本発明の一実施例においてPS18000−b−PEO7500ミセル及び溶媒として3mLのTHFを含む典型的な電解液を使用して作製したメソポーラスAu膜の高倍率TEM像。結晶格子の割り付けは図13に示す。 本発明の一実施例において、PS18000−b−PEO7500ミセル及び異なる溶媒組成(試料II:3mLのTHF、試料III:3mLのTHF+40μLの1,3,5−TIPBz)を含む2種類の電解液で作製したメソポーラスAu膜のSEM像((A−1)、(B−1))及びその上の対応する532nmの励起の下での電場分布を示す図((A−2)、(B−2)、(B−3))。(A−2)及び(B−2)の電場の大きさは膜中の10nmの深さで得られたものであり、適度なEフィールドの大きさは破線の正方形で示すように細孔表面の内側あるいは周辺で明確に観測される。(B−3)の電場分布は膜表面から得られたものであり、突出した物体の周辺における強い電場(ホットスポット)を示す(実線の正方形でマーキングしている)。(B−4)はメソポーラスAu膜上の断面電場分布(試料III)。(C−1)、(C−2)、(D−1)、(D−2)それぞれ(A−1)及び(A−2)中の破線の正方形で示される領域の拡大SEM像、並びに(B−1)及び(B−2)中の破線の正方形で示される領域中の電場分布を示す図。 本発明で使用可能なメソポーラスAu膜上に被覆されたナイルブルー分子の表面増強ラマン散乱(SERS)測定を示す図。(A)PS18000−b−PEO7500ミセル及び3mLのTHF+40μLの1,3,5−TIPBz溶媒を含む電解液を用いて作製されたメソポーラスAu膜(試料III)の写真。(B)振動強度についての対応するSERSスペクトルマッピングを示す図。(C)メソポーラスAu膜(試料III)上の代表的なSERSスペクトル。メソポーラスAu領域(堆積領域)及び非多孔性領域(堆積していない領域)の両者を測定した。(D)PS18000−b−PEO7500ミセル及び異なる溶媒組成(試料I:1mLのTHF、試料II:3mLのTHF、試料III:3mLのTHF+40μLの1,3,5−TIPBz)を含む3種類の電解液で作製したメソポーラスAu膜上での代表的なSERSスペクトル。比較のために、メソ細孔を持っていないスパッタされたAu膜についてのデータも示す。SERSスペクトルのばらつきはそれぞれにつき±5%である。このばらつきは、吸着された分子層の表面粗さ及び非一様性によるものである。 PS18000−b−PEO7500ミセル及び異なる量のTHF((A):1mL、(B):2mL、(C):3mL)を含む3種類の電解液で作製したメソポーラスAu膜の上面のSEM像及び対応する細孔サイズ分布曲線を示す図。平均細孔サイズは(A):19nm、(B):24nm及び(C):25nmであった。 (A1)3mLのTHFを含むがHAuCl源は含まない水溶液中で形成されたPS18000−b−PEO7500ミセルのSEM像。(B1)3mLのTHF及びHAuCl源を含む水溶液中で形成されたPS18000−b−PEO7500ミセルのSEM像。(A2)、(B2)それぞれ(A1)及び(B1)のミセルサイズ分布ヒストグラム。 非常に短い堆積時間((A):10秒、(B):30秒、(C):100秒)で作製したメソポーラスAu膜の上面のSEM像。ここに示したすべての膜はPS18000−b−PEO7500ミセル及び溶媒として3mLのTHFを含む典型的な電解液で作製した。 PS18000−b−PEO7500ミセル及び異なる量の1,3,5−TIPBz((A):10μL、(B):20μL、(C):30μL及び(D):40μL)を含む4種類の電解液で作製したメソポーラスAu膜の条件のSEM像及び対応する細孔サイズ分布曲線を示す図。電解液中のTHF量は3mLに固定した。平均メソ細孔サイズは(A):32nm、(B):32nm、(C):40nm及び(D):40nmであった。 (A):PS18000−b−PEO7500ミセル及び(B):PS63000−b−PEO26000ミセルを含む2種類の異なる電解液で作製したメソポーラスAu膜のSEM像及び対応する細孔サイズ分布曲線を示す図。電解液中のTHF量は3mLに固定した。平均メソ細孔サイズは(A):25nm及び(B):60nmであった。 堆積時間と膜厚との関係を示す図。(A〜E)PS18000−b−PEO7500ミセル及び溶媒として3mLのTHFを含む典型的な電解液を用いて作製したメソポーラスAu膜の断面SEM像。堆積時間は(A):600秒、(B):1000秒、(C):1800秒、(D):2500秒及び(E):3600秒とした。(F)はメソポーラスAu膜の成長速度を示す。 PS18000−b−PEO7500ミセル及び溶媒として3mLのTHFを含む典型的な電解液により作製したメソポーラスAu膜についてのECSA(electrochemically active surface area)の計算結果を示す図。(A)酸性溶液(0.5M HSO)中での色々な膜厚のメソポーラスAu膜のサイクリックボルタモグラム(CV)。(B)ECSAと膜厚との関係を示す図。(C)全ECSAと膜堆積との関係を示す図。 単層メソポーラスAu膜中のメソ細孔配置モデルを示す概念図。 PS18000−b−PEO7500ミセル及び溶媒として3mLのTHFを含む典型的な電解液で作製したメソポーラスAu膜の高拡大TEM像。(A)中において、(a)積層欠陥(stacking fault)、(b)転位、(c)折れ曲がりバンド(kink band)のようないくつかの欠陥を矢印で示す。スケールバーは(A)が5nm、(B)〜(G)は1nmであり、ゾーン軸は[110]方向である。 (a)〜(c)はPS18000−b−PEO7500ミセル及び溶媒として3mLのTHFを含む典型的な電解液によって作製されたメソポーラスAu膜のXPSスペクトル(測定対象:(a)ポリマーミセルを除去した後のメソポーラスAu膜、(b)エッチング処理後のメソポーラスAu膜(上面から5nmの厚さの部分を除去)、(c)ポリマーミセルを除去する前のメソ構造化されたAu膜)。(d)はスパッタリング法によって作製された非多孔質Au膜のXPSスペクトル。 電解液中に溶解したAu種の配位状態(coordination environment)を調べるための測定結果を示す図。(A)各種の溶液(PS−b−PEOミセルとHAuClの両方を含む溶媒、PS−b−PEOミセルのみを含む溶媒、及びHAuClのみを含む溶媒)のUV−bisスペクトル。(B)同じ溶媒のラマンスペクトル。(C)(B)の左端の長方形領域の拡大図。 PS18000−b−PEO7500ミセル及び溶媒としてTHFを含む典型的な電解液により作製されたメソポーラスAu膜の各種の位置のSEM像。電解液の二つの別個に準備したバッチから二つの膜を別々に作製した。 (A)剥離試験前の典型的なメソポーラスAu膜の写真。(B)剥離試験前の典型的なメソポーラスAu膜のSEM像。(C)剥離試験後の典型的なメソポーラスAu膜の写真。(D)剥離試験後の典型的なメソポーラスAu膜のSEM像。試験対象の試料であるメソポーラスAu膜はPS18000−b−PEO7500ミセル及び溶媒としてTHFを含む典型的な電解液によって作製された。 各種の温度の下でのメソポーラスAu膜の堆積プロセス中の電流測定結果のプロット。全ての堆積プロセスはPS18000−b−PEO7500ミセル及び溶媒として3mLのTHFを含む典型的な電解液の下で行われた。 各種の温度((A)0℃、(B)25℃、(C)40℃、及び(D)60℃)で作製したAu膜のSEM像。全ての膜はPS18000−b−PEO7500ミセル及び溶媒として3mLのTHFを含む典型的な電解液によって作製した。 (A)三種類の電解液で作製したメソポーラスAu膜のSEM像。ここで三種類の電解液はそれぞれPS18000−b−PEO7500ミセル及び溶媒として三種類の溶媒組成、すなわち(試料I)1mLのTHF,(試料II)3mLのTHF及び(試料III)3mLのTHF+40μLの1,3.5−TIPBzを使用した。(B)メソポーラスAu膜(試料I、試料II及び試料III)の散乱スペクトル。比較のため、メソ細孔を持たないスパッタされたAu膜についても測定した。(C)メソポーラスAu膜(試料III)の散乱スペクトルの膜上位置依存性を示すグラフ。(B)のグラフ中に見られる広帯域のスペクトルは、膜中の色々なタイプのメソ細孔及びナノ突起からの光学的応答がまとめられた効果によるものである。 (A−1)、(B−1)、(C−1)三種類の電解液で作製したメソポーラスAu膜のSEM像。ここで三種類の電解液はそれぞれPS18000−b−PEO7500ミセル及び溶媒として三種類の溶媒組成、すなわち(試料I)1mLのTHF,(試料II)3mLのTHF及び(試料III)3mLのTHF+40μLの1,3,5−TIPBzを使用した。(A−2)、(B−2)、(C−2)532nmでの励起の下での(A−1)、(B−1)及び(C−1)にそれぞれ対応するメソポーラスAu膜上のEフィールド分布を示す図。メソポーラスAu構造上での電界増強は、細孔サイズが大きくなるについて増大する。 メソポーラスAu膜(試料I)上での牛血清アルブミンの自己組織化単分子層(SAM−BSA)のFT−IR吸収スペクトル。比較のため、メソ細孔のない平坦なAu表面上でのSAM−BSAのFT−IR吸収スペクトル(図中、2本のスペクトル中の小さい方)も示す。裸のシリコン(Si)上のBSA膜からはFT−IR信号は検出されなかった。 メソポーラスAu膜の電気化学的特性を調べるための、二種類の異なる電解液で作成されたメソポーラスAu膜(試料II及び試料III)のサイクリックボルタモグラム。比較対照用に、メソ細孔を持っていない、スパッタで作成したAu膜についても測定した。サイクリックボルタモグラムを得るために使用した溶液は0.1M KOHに2M CHOHを添加したものであり、走引速度は50mVs−1とした。 同じ細孔サイズ(25nm)で膜厚の異なる複数種類のメソポーラスAu膜の検知性能の測定結果を示す図。メソポーラスAu膜の膜厚の違いは、電着時間を300秒、600秒及び1500秒の三通りに変化させることにより実現した。比較対照用に、メソ細孔を持っていない、スパッタで作製したAu膜についても測定した。(a)濃度が0.0mMから18mMまでグルコースを連続的に添加していったときの、上記三種類のメソポーラスAu膜及びスパッタで作製したAu膜の0.3Vにおける動的アンペロメトリー応答。(b)(a)の測定対象である三種類のメソポーラスAu膜及びスパッタで作製したAu膜にそれぞれ対応するキャリブレーションカーブ。(c)濃度が低濃度域の0.00mMから0.18mMまでグルコースを連続的に添加していったときの、上記電着時間が1500秒のメソポーラスAu膜の0.3Vにおける動的アンペロメトリー応答。(d)(c)の測定対象である電着時間が1500秒のメソポーラスAu膜に対応するキャリブレーションカーブ。 図24(a)の動的アンペロメトリー応答の測定結果(メソポーラスAu膜は電着時間1500秒のもの)と特許文献1のメソポーラスPt膜(膜厚はメソポーラスAu膜とほぼ同じであり、平均メソ細孔サイズは18nm)を使用して同じ条件で行った実験結果とを比較する図。この図ではメソ細孔を持っていないスパッタで作製したAu膜についての測定結果も示す。 (A)PS18000−b−PEO7500を含む典型的な電解液で作製したメソポーラスCu膜のSEM像。(B)PS18000−b−PEO7500を含む典型的な電解液で作製したメソポーラスAgベース合金のSE像。 実施例のメソポーラスAu膜を作成するために使用した電気化学セルの概念図。
本発明で使用可能なメソポーラス金属膜は、メソ細孔を有するメソポーラス金属膜であって、前記金属は、Au、Fe、Co、Ni、Cu、Ru、Rh、Pd、Ag、Sn、及びこれらの2種以上の合金からなる群より選択される少なくとも1種である。前記金属の中でも、触媒活性、光特性等の点で、金が好ましい。
なお、本明細書において、「金属膜」とは、一対の主平面を有し、一方の主平面と他方の主平面との間が金属結合で連結された部分を有する膜であり、金属粒子からなる単層膜を包含せず、及び/又は、面方向に1000nm超の距離にわたり金属結合で連結された部分を有する膜をいう。
前記メソ細孔の平均直径は、特に限定されず、メソポーラス金属膜の特性や作製の容易さ等の観点から、好ましくは5nmから100nmであり、より好ましくは10nmから90nmであり、更により好ましくは20nmから70nmである。なお、本明細書において、「メソ細孔の直径」とは、SEM像から測定されるものをいい、「メソ細孔の平均直径」とは、SEM像から測定されるメソ細孔の直径の分布曲線から算出されるものをいう。また、本明細書において、「メソ細孔の直径」を「メソ細孔サイズ」ともいい、「メソ細孔の平均直径」を「平均メソ細孔サイズ」ともいう。
本発明で使用可能なメソポーラス金属膜は、作製の容易さや用途の観点から、導電性基板上に形成されたものであることが好ましい。導電性基板としては、特に限定されず、Au、Pt、Cu等の導電性金属を表面に蒸着したSiウエハが挙げられる。導電性基板の具体例としては、Au−Siウエハ、Pt−Siウエハ、Cu−Siウエハ等が挙げられ、特性等の観点から、Au−SiウエハやPt−Siウエハが好ましい。
隣接する前記メソ細孔の間の平均壁厚は、特に限定されず、メソポーラス金属膜の特性や作製の容易さ等の観点から、好ましくは10nmから40nmであり、より好ましくは15nmから35nmであり、更により好ましくは20nmから30nmである。なお、本明細書において、「隣接するメソ細孔の間の壁厚」とは、SEM像から測定されるものをいい、「隣接するメソ細孔の間の平均壁厚」とは、SEM像から測定されるメソ細孔の間の壁厚の分布曲線から算出されるものをいう。
本発明で使用可能なメソポーラス金属膜の膜厚は、いかようにも制御することが可能であり、具体的には、めっき時間を調節することにより、所望の値とすることができる。原理的にはミリメートルオーダーの膜厚を実現することもできる。したがって、本発明に係るメソポーラス金属膜の膜厚は、特に限定されず、好ましくは0nm超10mm未満であり、膜表面の均一性やクラックの少なさ等の観点から、より好ましくは0nm超1μm以下であり、更により好ましくは0.5nmから500nmである。
本発明で使用可能なメソポーラス金属膜において、メソ細孔の直径の分布範囲は特に限定されず、メソ細孔の直径の均一性が高くなりやすく、得られるメソポーラス金属膜の特性等が良好となりやすいことから、平均直径×0.9から平均直径×1.1の範囲の直径を有するメソ細孔の割合が、全メソ細孔中、好ましくは60%から100%であり、より好ましくは70%から100%であり、更により好ましくは80%から100%であり、特に好ましくは90%から100%である。
本発明で使用可能なメソポーラス金属膜の製造方法は、両親媒性ブロックコポリマーのミセルと金属化合物とを含む電解質溶液中に浸漬した電極間に電圧を印加して、一方の電極上に前記金属と前記ブロックコポリマーとの複合体(以下では複合ミセルとも言う)を堆積させる工程を含み、前記金属は、金、鉄、コバルト、ニッケル、銅、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、白金、スズ、及びこれらの2種以上の合金からなる群より選択される少なくとも1種である。前記金属の中でも、触媒活性、光特性等の点で、金が好ましい。
両親媒性ブロックコポリマーとは、疎水性部分と親水性部分とを含むブロックコポリマーをいい、疎水性ポリマーと親水性ポリマーとのブロックコポリマーであっても、疎水性部分と親水性部分とを含む互いに異なる2種のポリマー同士のブロックコポリマーであってもよく、ミセル形成能等の観点から、疎水性ポリマーと親水性ポリマーとのブロックコポリマーが好ましい。両親媒性ブロックコポリマーは、2種のポリマーから構成されるジブロックコポリマーであっても、3種以上のブロックから構成されるトリブロックコポリマー以上であってもよく、入手のしやすさ等の観点から、ジブロックコポリマーまたはトリブロックコポリマーが好ましい。
以下、両親媒性ブロックコポリマーが疎水性ポリマーと親水性ポリマーとのブロックコポリマーである場合について、説明する。疎水性ポリマーとしては、特に限定されず、ポリスチレン(「PS」という場合がある。)等のフェノール性水酸基含有ポリマーが挙げられ、より剛直で、構造規定剤としての機能により優れるミセルが形成されやすい点から、ポリスチレンが好ましい。親水性ポリマーとしては、特に限定されず、ポリ(オキシエチレン)(「PEO」という場合がある。)等のポリ(オキシアルキレン);ジメチルポリシロキサン等のポリシロキサン;ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸等のカルボキシル基含有ポリマー;ポリ(N−メチル−2−ビニルピリジニウム)ヨウ素塩等が挙げられ、疎水性ポリマー、特にポリスチレンとの親水性・疎水性差が大きくなりやすい点から、ポリ(オキシエチレン)が好ましい。疎水性ポリマーと親水性ポリマーとのブロックコポリマーとしては、ミセル形成能等の観点から、フェノール性水酸基含有ポリマー−ポリ(オキシアルキレン)ブロックコポリマーが好ましい。
両親媒性ブロックコポリマーの具体例としては、ポリスチレン−b−ポリ(オキシエチレン)、ポリスチレン−b−ポリ(2−ビニルピリジン)−b−ポリ(オキシエチレン)、ポリ(2−ビニルピリジン)−b−ジメチルポリシロキサン、ポリスチレン−b−ポリアクリル酸、ポリスチレン−b−ポリ(N−メチル−2−ビニルピリジニウム)ヨウ素塩等が挙げられ、ミセル形成能等の観点から、ポリスチレン−b−ポリ(オキシエチレン)が好ましい。なお、「−b−」とは、ポリマー同士がブロックコポリマーを形成していることを表す。
両親媒性ブロックコポリマー中の各ブロックを構成するポリマーの分子量は、ミセル形成能等の観点から、3000から100000が好ましく、5000から70000がより好ましい。両親媒性ブロックコポリマーが疎水性ポリマーと親水性ポリマーとのブロックコポリマーである場合、ミセル形成能等の観点から、疎水性ポリマーの分子量は、7000から100000が好ましく、10000から70000がより好ましく、親水性ポリマーの分子量は、3000から50000が好ましく、5000から30000がより好ましい。
金属化合物としては、例えば、金、鉄、コバルト、ニッケル、銅、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、白金、スズまたはこれらの2種以上の金属の酸化物、塩化物、フッ化物、臭化物、ヨウ化物、水酸化物、硫化物、無機酸塩(硫酸塩、硝酸塩等)、錯体等が挙げられ、反応性、安定性、入手のしやすさ等の観点から、上記金属の錯体が好ましく、HAuCl等の、上記金属のハロゲノ錯体がより好ましい。
電解質溶液は、例えば、両親媒性ブロックコポリマーの溶液と金属化合物の水溶液とを混合し、水の存在により両親媒性ブロックコポリマーのミセルを形成することにより、得ることができる。よって、電解質溶液における溶媒としては、例えば、両親媒性ブロックコポリマーの溶液における溶媒や水等が挙げられる。両親媒性ブロックコポリマーの溶液における溶媒としては、両親媒性ブロックコポリマーを溶解することができる限り、特に限定されず、例えば、両親媒性ブロックコポリマー中の疎水性ブロックを溶解する溶媒が挙げられ、優れた溶解性が得られやすいことから、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、テトラヒドロピラン、4,4−ジメチル−1,3−ジオキサン等の環状エーテル系溶媒が好ましく、テトラヒドロフランがより好ましい。なお、両親媒性ブロックコポリマー中の疎水性ブロックとは、両親媒性ブロックコポリマー中で疎水性を示す部分をいい、両親媒性ブロックコポリマーが、疎水性ポリマーと親水性ポリマーとのブロックコポリマーである場合は、疎水性ポリマーを指し、両親媒性ブロックコポリマーが、疎水性部分と親水性部分とを含む互いに異なる2種のポリマー同士のブロックコポリマーである場合は、疎水性部分を指す。
電解質溶液は、更にエタノール等のアルコール等を溶媒として含んでいてもよい。
電解質溶液中の両親媒性ブロックコポリマーの濃度としては、例えば、0.25mg/mLから2.5mg/mLが挙げられ、0.5mg/mLから2.0mg/mLが好ましい。
電解質溶液中の金属化合物の濃度としては、例えば、1mMから10mMが挙げられ、3mMから8mMが好ましい。
電極間に印加される電圧は、通常の標準電極電位に従う。得られるメソポーラス金属膜の特性、金属とブロックコポリマーとの複合体の堆積の効率等の観点から、電流値を上げる方向(堆積速度を上げる)に作用させても問題はない。
本発明で使用可能なメソポーラス金属膜の製造方法は、一方の電極上への上記複合体の堆積の終了後に、上記一方の電極上の上記複合体から上記ブロックコポリマーを除去する工程を含んでもよい。上記工程において上記ブロックコポリマーが除去された箇所はメソ細孔に転換されて、メソポーラス金属膜が得られる。ブロックコポリマーを除去する方法としては、特に限定されず、例えば、UVオゾンクリーナー、Oプラズマ処理等を用いて、上記複合体中のブロックコポリマーを分解する方法等の乾式除去法や、上述の両親媒性ブロックコポリマーの溶液における上述の溶媒で上記複合体中のブロックコポリマーを溶解する方法等の湿式除去法が挙げられる。
本発明で使用可能なメソポーラス金属膜の製造方法において、製造されるメソポーラス金属膜のメソ細孔の平均直径は、上記電解質溶液中の上記溶媒(即ち、両親媒性ブロックコポリマー中の疎水性ブロックを溶解する溶媒)の量を変化させることにより、及び/または上記電解質溶液中に疎水性の有機化合物を添加することにより、調節することができる。
電解質溶液において、両親媒性ブロックコポリマー中の疎水性ブロックを溶解する溶媒)の量としては、例えば、5体積%から50体積%が挙げられ、10体積%から45体積%が好ましい。この範囲内において上記濃度を増加させるほど、メソ細孔の平均直径が大きくなる傾向にある。なお、本明細書において、体積に関する数値は、特に断りがない限り、室温(具体的には、20〜30℃)における値である。
上記疎水性の有機化合物としては、特に限定されず、例えば、1,3,5−トリイソプロピルベンゼン、n−ヘプタン、1,3,5−トリメチルベンゼン、1,3,5−トリエチルベンゼン等が挙げられる。電解質溶液中の上記疎水性の有機化合物の濃度としては、例えば、0.25μL/mLから10μL/mLが挙げられ、0.5μL/mLから7μL/mLが好ましい。この範囲内において上記濃度を増加させるほど、メソ細孔の平均直径が大きくなる傾向にある。
本発明の実施の形態においては、このようにして得られたメソポーラス金属膜を備えることで、当該膜が有しているメソ細孔に起因する優れた特性を利用した高性能の分子センサーが提供される。上記分子センサーとしては、例えば、グルコースセンサー、pHセンサー等が挙げられる。また、このメソポーラス金属膜はこれ以外の種々の用途にも適用可能である。このような用途としては、例えば、上記メソポーラス金属膜を備える酸化及び/または還元触媒、上記メソポーラス金属膜を備えるリチウムイオン電池電極等が挙げられる。上記酸化及び/または還元触媒としては、例えば、メタノール酸化触媒が挙げられる。本発明に係るメソポーラス金属膜を備える酸化及び/または還元触媒は、例えば、燃料電池電極触媒等への応用が期待される。上記リチウムイオン電池電極は、例えば、負極として用いることができる。上記酸化及び/または還元触媒、上記分子センサー及び上記リチウムイオン電池電極は、メソポーラス金属膜に加えて、このメソポーラス金属膜を支持する基材、またメソポーラス金属膜以外の無機膜、無機粒子、有機膜、有機粒子等を備えていてもよい。
このメソポーラス金属薄膜(特に,メソポーラス金薄膜)は、他のメソポーラス白金膜(特許文献1)やメソポーラス金属粉体等の従来のメソポーラス金属材料と比較して、触媒活性、光吸収特性、光散乱特性、吸着特性等の特性に優れており、分子センサー、触媒材料、電極材料、吸着材料等への応用がはるかに期待されるものである。特に,薄膜の形態であるため,電極としてそのまま使用できることが利点である。
金属粒子の間に形成されるナノスケール間隙に大きな電磁場増強効果が発生することは、良く知られているが、光学のバビネの原理(Babinet principle)を考えれば、この逆のメソ細孔の間に存在する薄い壁や突起の周りにも電磁場増強効果が発現する。本発明で提案する材料は、メソ細孔中に加えて細孔間の薄い壁や突起物の近くにも形成された多くの「電磁場ホットスポット」のために、光散乱効果だけではなく分子検出のための表面増強ラマン散乱(SERS)でも高い性能を示す(非特許文献39)。本願発明者は、図1(A)に示すように、ソフトテンプレートとしてポリスチレン−block−ポリ(オキシエチレン)(polystyrene-block-poly(oxyethylene、PS−b−PEO)ジブロックコポリマーを利用することによって、細孔サイズを微調節したメソポーラスAu膜を作成する効率的な方法を見出した。この方法では、電解質溶液中で、HAuClがHイオンとAuCl イオンとに分解され、水素結合によりミセルのオキシエチル(EO)シェルと相互作用する。この相互作用はAuCl よりもHとの間の方が大きく、その結果、作用電極表面へと向かう、正に帯電したミセルを生成する。ここにおいて、AuCl イオンはミセルの電気化学的堆積に伴ってそれぞれ還元されて金属のAuとなる。その結果得られるメソポーラスAu膜は実際に高い散乱性能を示し、従ってSERS(非特許文献40)や表面増強赤外吸収(SEIRA)(非特許文献41)で見られるような分子検出についての高い活性を示した。局所化された表面プラズモン(LSPR)により大きく増強された電界(E-field)の大きさが、メソ細孔内やその周辺ではっきりと見られた。電場の大きさ及びLSPR周波数は単に細孔のサイズを調節するだけで簡単に調節できる。この方法により、簡単なソフトテンプレート法で光学機能を調節するための新規な手段が与えられる。
更には、同様な方法により、Auだけではなく、Fe、Co、Ni、Cu、Ru、Rh、Pd、Ag、Pt、Sn、またこれらの合金のメソポーラス金属膜を作成することもできる。
以下、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明する。ここで、以下の実施例は本発明を限定するためのものではなく、あくまでその理解を助けるために説明することに注意されたい。本発明の技術的範囲は特許請求の範囲によってのみ規定されるものである。
以下の実施例では先ずメソポーラスAu膜を図1(A)に概念的に示す新規な製造方法で作成するとともに、その各種の特徴を調べる。この製造方法は連続金属膜の作成のために実際に使用されてきた電気化学的方法に基づくものである。PS−b−PEOミセルの存在下で電極表面にAuめっきするため、前駆体溶液を以下のようにして準備した。PS−b−PEOジブロックコポリマーを、そのユニマーとしてのPSブロックの良好な溶媒であるテトラヒドロフラン(tetrahydrofuran、THF)中に完全に溶解した。透明なPS−b−PEO/THF溶液中には、動的光散乱(DLS)で測定したところ、ミセルも凝集体も検出されなかった。この作成に当たって、THFは必須であった。それは、PS−b−PEOはTHFなしでは水中にもエタノール中にも溶解できないからである。エタノールを連続的に添加した後、この溶液中にHAuCl水溶液をゆっくりと滴下し、その結果、ポリスチレン(PS)ブロックの方が水への溶解度が低いことによってPSをコアとするPS−b−PEOの球形のミセルが形成された。図1(B)に示すように、PSコアとPEOシェルによって構築された球形ミセルが透過型電子顕微鏡(TEM)により観察され、これらの平均直径は約25nmであった。図1(B)に示すように、電解液中ではチンダル現象も観察された。図1(A)に示したように、親水性のEOブロックはミセルの外層付近にある水−HAuCl錯体と相互作用することができる。これについては後述する。電解液中にPS−b−PEOミセルが存在することを直接確認するため、ブラウン運動している一様サイズのポリマーミセルを共焦点レーザー走査顕微鏡(confocal scanning laser microscope)を用いて視覚化した。電位を印加することによって、Au種と相互作用した複合ミセル(ブロックコポリマーのEOシェル中に一部Au化合物イオンが取り込まれたり、あるいはEOシェルの周囲にAu化合物イオンが引き寄せられた状態、つまりブロックコポリマーのミセルとAu化合物イオンが複合したもの)は作用電極に近づけられ、作用電極その上にメソポーラスAu材料として堆積した。
PS−b−PEO、ポリ(エチレン−co−ブチレン)−b−PEO(KLE)等のブロックコポリマーは,しばしばメソポーラス金属酸化物を合成するための鋳型としてゾルゲル反応に基づいて使用されている(非特許文献41、42)。これらの場合に、溶液の蒸発によって予め形成された規則的に配列したメソ構造体が形成される。ここで、この相の中で無機フレームワークは確実に誘導される。これはメソポーラスPtの生成過程の大筋(非特許文献22)とある種類似した状況である。これに対して、本願の方法は電気的駆動力により引き起こされる「ミセル集合体」に基づいている。ここにおいて、金属の堆積(フレームワーク構築)とミセルの集積とは同時に生起する。これは、球体の複合ミセルの電気化学的堆積過程は溶媒の蒸発を伴わず完全に液相中で進行するからである。従って、本願の方法は,先行するメソポーラス膜の作製方法(溶媒揮発法(evaporation-induced self-assembly)、EISAと呼ばれる)とはその考え方が異なる。
ミセルの役割をもっと明確に確認するため、メソ構造の成長をその初期段階(開始後10秒、30秒及び100秒)においてSEMを使用して検討した。10秒経過後、図7(A)で矢印によって示すように、多量の初期Au種子が形成された。図7(A)中の斜め楕円で示すようなAu枝状部の曲がった表面はミセルの方向付け効果(directing effect)による。堆積時間をさらに延長して30秒とすると、図7(B)に示すように、多数のメソ細孔が観察されたが、各メソ細孔の形成は完全には終わっていなかった。堆積を100秒まで進行させると、推定される膜厚はメソ細孔サイズのほぼ半分に到達し、図7(C)に示すように、Au骨格が充分に構築されていた。
ここで、図7に示すAu膜の膜厚について説明すれば、Au堆積の初期段階ではAu膜は基板上に一様に成長してはいないため、正確な膜厚を示すことは困難である。しかし、図10に示すように、Au膜厚が一定の成長速度で増加すると仮定した場合には、平均膜厚は図7の(A)(10秒後)、(B)(30秒後)及び(C)(100秒後)についてそれぞれ1nm、4nm及び11nmと推定される。
PS−b−PEOミセルを完全に除去した後に、メソポーラスAu膜が得られた。その特性を注意深く測定した。図2(A)に示すように、この膜の全体に渡って互いに連結された籠状の一様なメソ細孔が観察された。図2(A)及び図5(C)に示すように、メソポーラスAu膜の上面の走査型電子顕微鏡(SEM)像は一様なサイズ(平均25±5nm)で壁厚が25nm±5nmのメソ細孔の存在を示した。メソポーラスAu膜(図2(A))中にできた細孔のサイズはTEM(図1(B))及びSEM(図6)で観察された球形ミセルのサイズとほとんど同じであった。このことは、球形ミセルが鋳型として働くことを意味している。
これに加えて、メソポーラスAu膜の細孔サイズは、THFの量を変えることによって非常に容易に制御可能であった。THFの量は、ここでは1mLから3mLまで変化させた。これは凹状のAu表面によって引き起こされるメソポーラスAu膜の光学的特性を調節することに関する最も重要な技術である。THFはPSブロックの良好な溶媒であるため、ミセル中のPSコアはTHFの量を減らすにつれて次第に縮小する。実際、THFの量を減らすことによって、図2(B)及び図5に示すように、壁厚に大きな変化をもたらすことなく、細孔サイズを約19nmまで小さくなるように制御できた。PS−b−PEOを完全に溶解するためのTHFの最小量(1mL)を使用しても、ポリマーのミセルは縮小した形態で安定して元の形態を維持することができ、これによってできたメソ細孔は図2(B−1)に示すように実際に球形の形態であった。その平均の細孔サイズ及び壁厚はそれぞれ約19nm及び約25nmであった。
一方、疎水性の有機化合物を添加することによって、細孔サイズを拡大することができる。細孔膨張剤として1,3,5−トリイソプロピルベンゼン(1,3,5-triisopropylbenzene、1,3,5−TIPBz)を使用した場合には、実効細孔サイズが1,3,5−TIPBzなしの場合の25nmから、図8に示すように、32nm(10μLの1,3,5−TIPBz)、32nm(20μLの1,3,5−TIPBz)、40nm(30μLの1,3,5−TIPBz)及び40nm(40μLの1,3,5−TIPBz)へと増大した。細孔サイズの増大とともに、細孔壁は突出部の様相を呈するようになった。
これに加えて、図9に示すように、PS−b−PEO中のPSブロックの分子量はまた細孔サイズの制御にも使用することができる。SEMにより見積もったところ、PS63000−b−PEO26000を使用して作製したメソポーラスAu膜の平均細孔サイズは約60nmであった。なお、今回の実験結果からは,PEOブロック側の分子量の影響はほとんど確認されなかった。
ゾル−ゲル法を用いたメソポーラス金属酸化物膜の製造方法とは異なり、本願の製造方法では、電気化学析出(electrochemical deposition)により膜成長速度の容易かつ正確な制御を行なうことができるという利点がもたらされる。すなわち、この方法を使用することで、単に堆積時間を調節するだけで膜厚を細かく調整することが可能となる。図10に示したところのPS18000−b−PEO7500を使用して作製したメソポーラスAu膜の膜厚は、堆積時間が600秒、1000秒、1800秒、2500秒及び3600秒の場合にそれぞれ70nm、140nm、170nm、230nm及び440nmであり、この場合の成長速度はおよそ0.1nm/秒と計算された。
また、図11に示すように、酸性媒体(0.5M HSO)中でのサイクリックボルタンメトリーを使用して電気化学的活性表面積(electrochemically active surface area、ECSA)も計算した。
ここで図11について補足説明すれば、理想表面積は以下の計算により見積もることができる。先ず、図12に示す単層のメソポーラスAu膜を考える。平均細孔サイズ及び平均壁厚は、それぞれ25nm及び25nmと仮定する。また、図12に示すように、この膜が長さ125nm、幅100nm及び高さ25nmの直方体であり、3個の球状メソ細孔及び4個の半球状メソ細孔を有すると仮定する。
図12のモデルを使用することで、メソ細孔内の全表面積Sは5個の球状メソ細孔を検討することによって求めることができる。
S=5×4・π・R=5×4×3.14×(12.5×10−9=9.8125×10−15(m
また、このモデルのバルク膜堆積Vは以下のように求めることができる。
V=(125×10−7)×(100×10−7)×(25×10−7)=3.125×10−16(cm
従って、体積で正規化した表面積Pは以下のように求めることができる。
P=S・V−1=31.4(m・cm−3
この計算結果は電気化学的計測によって求められた値49.1m・cm−3(後述)よりも少し小さい。その理由は、メソポーラスAu膜中の実際の細孔の表面は凹凸がある(つまり、平坦ではない)からである。図2及び図13の高分解能TEM像にも原子サイズの段差や折れ曲がりを有する凹凸の表面が示されているが、これらにより想定したよりも表面積が大きくなる。
ここで図11に戻れば、同図(A)において破線の楕円で示されたピークの面積はAu酸化物種の還元に対応する。Au表面についての酸化物種の還元に対応する電荷は400μCcm−2である(非特許文献45、46)との仮定に基づき、膜中のECSAを観察された電荷から理論的に計算した。図11(B)及び(C)に示すように、メソポーラスAu膜の全表面積は比例的に増加した。体積で正規化したECSA(膜体積(cm)当たり)は、図11(C)に示すように約49.1mcm−3であり、膜厚が5μmに到達するまでほとんど一定であった。従って、厚膜であっても,メソポーラスAu膜の内部は電気化学的活性を有する表面としても動作することができ、またメソポーラス構造がこの膜の内部で一様に形成されることが証明された。
細孔壁中のAuの原子構造を広範かつ注意深く調べるため、単層のメソポーラスAu膜を作成して、図2(C)及び図13に示すように、その断面の試料をTEMにより観察した。これらのTEM像より、球状のメソ細孔は結晶化したAuの連続したネットワークによって取り囲まれていることがわかった。Auのfcc結晶に対応付けられる格子縞は細孔壁の内側にはっきりと観察された。図13に示す、[001]方向に沿って見た高分解能TEM像は、(111)格子縞を、メソポーラスAu膜の単結晶性の積層欠陥とともに示していた。図2(C)に示すように、高次面を露出する凹状表面を生成するために、いくつかの結晶ドメイン連続的に結合されていた。図13(A)中で矢印で示したように、(a)積層欠陥、(b)転位、(c)折れ曲がりバンドのようないくつかの欠陥が存在していた。これらの欠陥はAuの結晶成長時の局所的なひずみ及び/または可溶性のAu種の還元に伴うメソポーラス構造の膜の電気化学的堆積によるものかもしれない。XPSを使用してAu膜の表面組成及び酸化状態を判定した。図14に示すように、高分解能Au 4fスキャンは、スピン軌道結合により3.7eVだけ分離している87.7eV及び84.0eVのダブレットを示し、膜中にAu(0)種が存在することが確認された。
電解質溶液を、図15に示すように、UV−Vis吸収及びラマン分光法によって調べた。紫外線スペクトルにおいて、324nm付近のピークはAuCl 種の典型的なd−d遷移に対応する。278nm付近のもう一つのバンドは、PSブロック中のベンゼン環の存在によって現れる。ラマンスペクトルでは、溶液中のAuCl 種の対称モード(A1g)、半対称モード(B2g)及び曲げモード(B1g)により、それぞれ347cm−1、324cm−1及び171cm−1にピークが現れる。他の全てのピークは溶媒及びPS−b−PEOジブロックコポリマーに関連していた。UV−Vis吸収とラマンスペクトルの両方から、Au種はClが配位子となったAu(III)であると考えられることがわかる。従って、本願におけるメソポーラスAu膜を得る方法は、PS−b−PEOミセルと可溶性のAu種との相互作用により実現される。すなわち、図1(A)に示すように、HAuClがHとAuCl とに分解して、水素結合によって、PS−b−PEOミセルのEOシェル領域と相互作用する。更に、AuCl は溶液中だけではなくPS−b−PEOミセルの親水性領域中でも自由イオンであると考えられる。AuCl を含むミセルは、EOシェル部分中のH/AuCl 比により、電気的に中性でも、あるいは負または正に帯電することもある。本願の実験条件では、HAuCl水溶液添加後のミセル溶液はゼータ電位で僅かに正であった。従って、H3Oに富むミセルは正に帯電して作用極(負極)表面に移動した。
図16に示すように、本発明の方法は非常に高い再現性(100%)を示す。実際、本願発明者は同じ実験手順を多数回繰り返し、毎回正確に同じメソポーラス構造を得た。縁の部分であっても、同じメソポーラス構造が確実に形成された。本方法の高い再現性を示すため、二つの膜A、Bを別個に作成して、それぞれについてその多くの位置P1〜P9のSEM像を示したものが図16である。これからわかるように、膜A、B、また位置P1〜P9が違っても、それらのSEM像は酷似している。
電着されたメソポーラスAu膜は、図17に示すように、基板(つまり、作用電極)上に良好に接着していた。図17にその結果を示した剥離試験は、電着されたメソポーラスAu膜と基板との接着性を、3M社のスコッチテープ(登録商標)を使用して膜の試料上で行う90°剥離試験である。メソポーラスAu膜からのテープ剥離は、一定の力5.0±0.1N、試験距離20mmで行った。剥離試験後、堆積したAu膜は依然として基板上に付着していることが観察された。剥離試験前後の試料をSEMで観察し、元のメソポーラス構造が、メソ細孔の変形もクラックや擦り傷の形成もなく、良好に維持されていることを確認した。
良好なメソポーラス構造を実現するためには、結晶成長速度、つまり結果として得られる結晶サイズが最も重要なファクターである。非特許文献23によれば、Wiesner他はビルディングブロックとしてのナノ粒子の直径が、これらのナノ粒子が相互作用するブロックのサイズについての臨界点以下である必要があることを見出した。非特許文献44によれば、メソポーラス金属酸化物の場合には、メソポーラス構造は壁厚が核形成及び粒子成長速度により制御される結晶サイズよりも大きい場合だけ充分に維持される。本願の電気化学的方法では、Au結晶サイズはAu成長速度によって支配される。堆積のための浴温はAu成長速度制御のための重要な因子の一つである。図18に示す色々な温度下でのメソポーラスAu膜堆積についての電流測定結果のプロットから、浴温の上昇に伴って、還元電流が増大する(つまり、堆積速度が増加する)ことが判明した。図19に示すように、明らかに、温度が25℃以下の場合だけメソポーラス構造が形成されることが確認された。これと対照的に、40℃以上の場合には、Au結晶成長速度が速くなり、大きなバルクAu結晶が主に形成されて、その結果メソポーラス構造はうまく発達しなかった。
メソポーラスAu膜の基本的な光学的性質を調べるため、細孔サイズの異なる三点の典型的な膜を比較した。ここで、PS18000−b−PEO7500ミセル及び三種類の溶媒組成(試料I:1mLのTHF(平均細孔サイズ15nm)、試料II:3mLのTHF(同25nm)、及び試料III:3mLのTHFと40μLの1,3,5−TIPBz(同40nm))を含む三種類の電解液で作製したメソポーラスAu膜を選択した。
特注の暗視野分光顕微鏡を使用して、図20に示す代表的な散乱スペクトルを測定し、スパッタで作製したメソ細孔を持っていないAu膜から得たスペクトルと比較した。図20(B)からわかるように、散乱光強度は、細孔サイズが大きくなるにつれて系統的に増大した。これは、メソ細孔表面と可視周波数領域の電磁波との相互作用が増大したことを示している。この結果は、Au表面と光との相互作用が強くなったことを示唆している。これは個々のメソ細孔周辺の電磁界が大きくなることによるものであろう。細孔サイズが大きくなるにつれて、入射光の電磁界(Eフィールド)に曝されるAu体積が増大することから、細孔の表面に誘起される電荷も増大するからである。他の観点として、そのようになる理由は、細孔を大きくすると、細孔サイズが可視光によって誘起されるところのAu表面上で振動する電荷密度波の波長に近づいてくることから、光に対してより効率的に応答できるようになるということに関係があるかもしれない。ここで、(局所化された)表面プラズモンの電荷密度波波長は100nmよりも下の範囲であることに注意されたい。図20(C)からわかるように、Au表面の各点は、ナノメートルスケールでのそれらの多様なモルフォロジーを反映して、様々な散乱強度また様々な共鳴周波数を以て、様々な態様で応答する。従って、図20(B)に示すように、広帯域の散乱スペクトルは、膜中の多数のメソ細孔について総和を取った効果によるものである。
観察されたスペクトルに対する更に深い洞察を得るために、有限差分時間領域(finite-difference time domain、FDTD)アルゴリズムを使用したシミュレーションに基づいて電場分布を評価した。明確にわかるように、実験的に観察されたところの図20に示す三種類の膜の散乱強度の傾向は、図3及び図21中の電場の強度に明確に対応した。図21からわかるように、電場の大きさは細孔サイズが大きくなるにつれて増大した。図3(C)及び図3(D)からわかるように、メソ細孔の内部または周辺にかなりの大きさの電場の大きさがはっきりと見られた。一方、もっと大きな細孔については、図3(B−3)から明瞭にわかるように、強い電場点(ホットスポット)が突出物の周辺に出現するというはっきりした傾向がある。図3(B−4)の断面像からもまた、メソ細孔内部で強い電場が発生することを示す上記特徴が確認される。特に、試料IIIについては、図3(B−3)に示すように、細孔が顕著なナノサイズの突出部を持つ連結して屈曲した細孔壁と集塊をなし、電場がそこに集中して大きな強度を与える傾向を有する。このような延伸した壁上の突出部は、より長い波長(近赤外)領域でのプラズモン共振周波数を示す。これと対照的に、他の二つの膜(より小さい細孔を持つ試料I及び試料II)は波形の表面及び突出部がより少なく、共振周波数が少し高く(つまり、波長がより短く)なり、電場や散乱がより小さくなる。
メソポーラスAu膜は水中で安定であり、またAu表面へのタンパク質及びアミノ酸との親和性が高いことは、この膜をバイオセンシングのための基板として利用する際に大いに有益である。最先端のアプタマー利用センシング(apta-sensing)のほとんどのものは、しばしば特定のターゲット分子のために合理的に設計されたリンカー分子を有する、チオール基が導入されたアプタマーに基づいている。よって、本願のメソポーラスAu膜はアプタマー利用センシング用SERSに適する最良の基板であると考えられる。
ここで、図4に示すように、細孔サイズの異なる上述の三つのタイプの膜(試料I、試料II及び試料III、なお、全図においてこれらはそれぞれSample I、Sample II及びSample IIIと表記)についてSERS性能を調べた。具体的には、ナイルブルー(Nile blue)溶液(10−6Mエタノール溶液)の液滴(5μL)をメソポーラスAu膜(0.3cm×1.5cm)上に一様に広げ、当該基板を窒素ガス気流の下で室温において大気中で乾燥させた。メソポーラスAu膜上にコーティングしたナイルブルー分子から波長532nmのレーザーでの励起によって得られたSERSスペクトルを記録した。試料IIIについての光学顕微鏡像及び対応するSERSスペクトルマッピング像を図4(A)〜(C)に示す。ここで、メソポーラスAu領域上ではSERS信号が大幅に増大することが明瞭に視覚化されている。SERS効果の増強機構は主にメソポーラスAuにより引き起こされる電磁場増強効果によるものである。メソ細孔を持たないスパッタされたAu膜(全図においてSputtered Auと表記)表面ははるかに少ないSERS信号強度を示す。ナノ細孔モルフォロジーにより引き起こされるもっとも劇的な効果は、実際のところ、図20(B)に示す増強された光散乱からわかるように、光と金表面との強い相互作用によって引き起こされたフィールド増強であり、従ってこのSERS効果を、図3及び図21に示すように、電磁的な起源に帰することができる。これに加えて、分子吸着によって引き起こされる化学的SERS効果は小さいはずである。それは、SERS強度への分子吸着の寄与は、電磁界の大きさがメソポーラスAu膜に比べて大幅に低減している、図4(C)中の下側のカーブのオーダーだからである。更には、化学的SERS効果はナイルブルー分子とAu原子との間の局所的な結合の性質によって決まる吸着単分子層の効果であり、なおかつ、吸着されたナイルブルーは多層になっているはずであるから、SERS強度の違いは表面モルフォロジーの効果に帰結されると、問題なく結論付けることができる。
更に、図4(D)に示すように、分子からのSERS信号強度は、メソ細孔サイズが大きくなるにつれて増大した。この結果は、図20(B)に示す散乱強度と同じ傾向を示し、これらの膜の細孔構造の影響を示している。つまり、より大きなメソ細孔においては、局所化された表面プラズモンの励起による電場増強がより強く生じ、このためより強い光散乱が生じるからである。増強された電場は、本願での測定で見られるように、吸着された分子からのより強いSERS信号をもたらす。なお、最も強いSERS強度は、散乱スペクトル中のピーク位置の波長に近い670nm付近のレーザー励起波長について期待されることに注意されたい。しかしながら、必ずしも最適ではない532nmのレーザーを使用した本願の実験においても、既に十分高いSERS信号を示している。このことは、本願のメソポーラスAu基板の高い性能の証拠となる。
SERS増強係数を見積もるため、Auをスパッタした同じ面積の膜(つまり非SERS基板)を、(非SERSの弱い信号を可視化するために)ナイルブルーの10−3Mという高濃度のエタノール溶液の液滴(5μL)で被覆した。その結果を図4(C)に示す(ラマン強度が大幅に低い方)。同じ測定条件を使用した場合、SERS増強係数(EF)は以下の式により簡単に計算される。
EF=[ISERS/CSERS]/[IRS/CRS
ここで、ISERS及びIRSはそれぞれSERS信号及び非SERS信号のラマン強度、CSERS及びCRSはそれぞれSERS基板及び非SERS基板上に滴下された分子の濃度である。1642cm−1における最も強いピークをこの計算に使用して、1.2×10という増強指数の計算結果を得た。本願材料の信号増強係数は以前報告されたナノ構造の試料(非特許文献48〜50)と同じ様なオーダーであるが、メソポーラスAu基板を使用することで、高い空間分解能を有するスペクトルマッピングを用いることによって、局所的な光学的特性と微調整されたモルフォロジーとを関連付けるための体系的な理解に至ることができた。このような情報は電磁界増強の起源及びメカニズムを解明するために間違いなく有用である。
大サイズのメソ細孔を更に明らかにするために、以下で図22を参照して、本願のメソポーラスAu膜上での大きな生体分子(タンパク質)を選択検出する例を示す。減衰全反射(ATR)形態でのFT−IR構成を使用して表面増強赤外吸収分光(SEIRA)を行った。この測定では、清浄なメソポーラス基板上に吸着された牛血清アルブミン(BSA、平均直径8.6nm)の自己組織化単分子層(SAM)を検体タンパク質として使用した。メソポーラスAu膜(試料II)(0.3cm×1.5cm)をBSA溶液(10−3M水溶液、pH=7.1)中に24時間浸漬し、その後蒸留水で完全にすすいでBSA単分子層を細孔表面に残し、最後に窒素ガス流中で乾燥させた。図22に示すように、FT−IR吸収スペクトル中にはタンパク質のバンド(Amide−I及びAmide−II)がはっきりと観察され、BSAの単分子層が吸着されていることの証拠が示された。本願のメソポーラスAu膜ではSAM−BSAタンパク質の非常に大きな信号強度が観察された。なお、SEIRAについての可視周波数領域での増強係数は、SERSの場合の(E/Eとは異なり、(E/Eに比例することに注意されたい(ここで、EはメソポーラスAu基板上の局所電界の振幅を意味し、Eは入射光の電界の振幅を意味する)。上述の差異、及び本試料では可視領域に比べて赤外領域での電磁界強度が小さいことを考慮すれば、ここで示されたSEIRAの信号増強は十分満足できるものである。
上で示したように、本願の電気化学的に堆積させた、調節可能な細孔を有するメソポーラスAu膜は、ソフトテンプレートで作製した一様なメソ空間を設計することによって調節される魅力的な光学特性を提供することができる。メソポーラスAu膜を作成するためにいくつかの努力がなされてきたが、Auの結晶成長を制御するのが困難であるために、精密に設計されたメソ細孔を有する連続したAu膜はまだ実現されていない。この問題を克服するため、本願で提案したところの、安定したPS−b−PEOジブロックコポリマーを構造規定剤(pore directing agent)として利用する電気化学的合成は極めて効率的である。出来上がった膜では、一様なサイズにされたメソ細孔が膜全体に分布し、このメソ細孔サイズはPS−b−PEOジブロックコポリマーの分子量及び電解液組成を変化させることにより、19nmから60nm、あるいは更に広い範囲で制御される。本方法はメソポーラスAu膜の新規な光学的用途を示すだけではなく、ソフトテンプレートを用いて,メソポーラス金属を合成する画期的な手法を提供している。このような三次元的に広がった金属フレームワークは目的とする分子のための十分な吸着及び反応サイトを確実に提供することができるが、これは将来的に新たな機能を実現するために極めて重要である。本願の電気化学的方法により,一様なメソ細孔を他の金属や合金に組み込んだ材料を合成することが可能である。
SARS用途のほかに、本願のメソポーラスAu膜は燃料電池用触媒等の電極触媒用途やアンペロメトリー型センサー等のセンサー材料としても良好な性能を示す。これについて実験結果を参照して以下で説明する。
図23に示すように、本願のメソポーラスAu膜は、メソ細孔を持っていないスパッタで作製したAu膜に比べて非常に高い電極触媒性能を発揮することが明らかになった。表面積による正規化の後でもまだ、本願のメソポーラスAu膜はスパッタで作製したAu膜に比べて3倍も高い活性を示した。このことは、メソポーラスAu表面の高い触媒効率を示している。他の金属ナノ粒子担持カーボンなどの触媒と比較して,自己支持型Au多孔質系は支持体は必要なく,そのまま電極として使用できることから,将来理想的な触媒となるであろう。
ここで、本発明に基づく分子センサーの一実施例を説明する。Auはセンサー用途のための良好な候補とみなされている。ここでは例としてグルコースを検出対象物質とし、図10に示すように、同じ細孔サイズで堆積時間を変化させた本願の三種類のメソポーラスAu膜の検出性能を調べた。上で説明したメソポーラスAu膜の場合の検出特性を、メソ細孔を持っていないスパッタで作製したAu膜と比較した。メソポーラスAu膜の性能は堆積時間、つまり膜厚に依存していた。図24(a)及び(b)に示すように、グルコースの広い濃度範囲(0.0mMから18.0mM)で、メソポーラスAu膜は卓越したアンペロメトリー応答を示すとともに、劣化は比較的僅かであった。グルコース濃度が非常に低い場合(0.00mMから0.18mMの範囲)であっても、メソポーラスAu膜電極はグルコースに対して非常に高感度であるという性能を示した。注意深く計算した結果、図24(c)及び(d)に示すように、現在得られているメソポーラスAu膜を使用することで、3.35μMという検出限界を得た。重要なことに、膜を水ですすぐことで、洗浄して本来の状態まで繰り返し戻すことができるが、これは本センサーが臨床検査室での高い実用可能性を持っていることを示している。
なお、以上の説明ではメソポーラス金属膜としてAuの膜だけについて説明したが、他の金属または合金を使用したメソポーラス金属膜も同様に実現できる。
ここで、図24(a)で使用したメソポーラスAu膜と特許文献1のメソポーラスPt膜とを比較するため、図24(a)と実験条件をそろえてグルコースの検出を行った。その結果を、図25に示す。これからわかるように、本発明に係るメソポーラスAu膜の方が比較対象のメソポーラスPt膜に比べて2倍を超える検出出力を得ることができ、本発明の膜の分子センサーへの適合性が確認された。
図26にはこのようなAu以外の金属でできたメソポーラス金属膜の例のSEM像を示す。図26(A)にメソポーラスCu膜の例を示す。よく知られているように、Cu塩は容易に水に溶解してアクア錯体を形成する。従って、これらのCuアクア錯体は効果的にEO基(つまり、ポリマーミセル表面)と相互作用を起こす。本願発明者はこのようにして、Au以外では既にFe、Co、Ni、Cu、Ru、Rh、Pd、Ag、Pt、Snという広い範囲の金属について同様にして細孔サイズのばらつきの非常に少ないメソポーラス金属膜を作成することができた。
更に、単体の金属だけではなく、合金でも同様なメソポーラス金属膜が実現できることを、図26(B)に示すように、Cuベースの合金について実証した。
図26の(A)、(B)に示されたメソポーラス金属膜は、先に示したAuの場合に比べると表面凹凸は多いが、連続した膜となっている。更に、上述の形成メカニズムから当然予測できるように、これらの何れのメソポーラス金属膜でも、その細孔サイズのばらつきが非常に小さくなっていることが図からわかる。
[製造方法の細部]
上で説明したメソポーラスAu膜の製造は電気化学的な方法に基づいている。この電気化学的方法は一様な金属膜の一般的な製造に実際に使用されてきたものである。実施例として既に述べたメソポーラスAu膜の典型的な製造方法の細部を以下で説明する。
10mgのポリスチレン−b−ポリ(オキシエチレン)(PS−b−PEO)を3mLのTHFに40℃で完全に溶解し、次にこの溶液に1.5mLのエタノールを添加した。HAuClの水溶液(最終濃度は8mLの電解液に5mM)を透明なPS−b−PEO溶液にゆっくりと添加すると、水の存在により、球形のミセルが形成された。室温で30分間静かに攪拌を行い、溶解した金種がミセルの外側部のPEO領域中に充分に取り込まれるようにした。最後に、透明で明黄色の電解液(pH=2.5)が得られ、これをそのまま電着に使用した。
電気化学装置(米国のCH Instruments社のCHI 842B電気化学アナライザー(electrochemical analyzer))を使用して、前駆体溶液からの電気化学的堆積を行った。ここで、電気化学装置は対電極としてのプラチナワイヤー、参照電極としてのAg/AgCl、及び作用電極としての導電性基板を含む従来の三電極システムを使用した。典型的な電着セルの概念図を図27に示す。本実施例では、使用した典型的な導電性基板は代表的なサイズが0.45cm(0.3cm×1.5cm)のAu−Siウエハであり、ダイシングカッターで作製した。最適なAuの電着は、−0.5Vの一定の電位(vs.Ag/AgCl)で1000秒間、室温で攪拌なしで行った。電着処理の間、図18に示すように金の還元のために安定な電流が流れた。Auの堆積後、ミセル(ソフトテンプレートとして使用したもの)を、UVオゾンクリーナーあるいは低出力Oプラズマ処理によって完全に除去した。これはIR分析によって確認した。メソポーラス金属酸化膜から有機テンプレートを完全に除去するために広く使用されている手法である大気中でのか焼をこの膜に適用したところ、テンプレートは除去できたが、Auの粒子成長によってメソポーラス構造が崩れてしまった。
[特性評価方法]
上述の実施例で多くの測定結果を示した。これらの測定に使用した機器などを以下にまとめて示す。
走査型電子顕微鏡(SEM)像は、日立製のHR−SEM SU8000顕微鏡を加速電圧5kVで使用することで得た。透過型電子顕微鏡(TEM)像は、日本電子製のJEM−2100Fを加速電圧200kVで使用して撮影した。X線光電子分光(XPS)スペクトルはMg Kα X線源付きの日本電子製JPS−9010TRを使用して、室温で記録した。全ての結合エネルギーはC1s(285.0eV)を参照して較正した。UV−Vis吸収スペクトルは日本分光製のV−570 UV−Vis−NIR分光計によって記録した。ラマンスペクトルはHoriba-Jobin-Yvon製のT64000ラマン分光システムを使用し、レーザー波長514.5nmとして記録した。メソポーラスAu膜電着及びサイクリックボルタンメトリー測定は上述のCHI 842B電気化学アナライザー(CH Instruments)を使用して行った。対電極としてのプラチナワイヤー、参照電極としてのAg/AgCl、及び作用電極を含む従来の三電極セルを使用した。散乱スペクトル及びSERS特性測定は、共焦点ラマン顕微鏡(WITec Alpha 300S)を使用して行った。暗視野及びSERS走査の空間分解能は何れも0.2秒/ピクセルの積分時間で約300nm(20×20μmの走査面積上に64×64ピクセル)であった。UV−NIR光源(ZEISS製のハロゲンランプHAL 100)及び暗視野レンズ(ZEISS製の50×/0.55NA)を使用して暗視野散乱特性を調べた。SERS特性の測定のため、532nmでの第2高調波ダイオードポンプNd:VOレーザー(Witec)(0.5mW)を、100×対物レンズ(オリンパス製、0.9NA)を使用してナイルブルーで処理したAu多孔質部の走査領域上にフォーカスした。各測定の前に、SiウエハのSiラマンピーク強度を測定することにより、強度の較正を慎重に行った。表面増強赤外吸収分光(SEIRA)は減衰全反射(ATR)形態でのFT−IR構成(Thermo Fisher Scientific製のNicolet IS50R−FTIR)を使用して行った。Auメソポーラス構造の電界分布は三次元有限差分時間領域(FDTD)法を使用して計算した(Synopsys社製微小光学素子設計・解析ソフトウェアRsoft Fullwave使用)。三次元モデル化は、メソポーラスAu膜の走査電子顕微鏡写真の形状に基づいて行った。z軸に沿い、その電気ベクトルがxz面に沿って振動する励起電界伝搬は、Auメソポーラス表面の頂部から注入した。
特開2012−167300号公報
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Claims (23)

  1. 金、鉄、コバルト、ニッケル、銅、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、スズ、及びこれらの2種以上の合金からなる群より選択される少なくとも1種である金属の膜であってメソ細孔を有するメソポーラス金属膜を備える分子センサー。
  2. 前記メソ細孔の平均直径が5nmから100nmである、請求項1に記載のメソポーラス金属膜を備える分子センサー。
  3. 導電性基板上に形成された、請求項1または2に記載のメソポーラス金属膜を備える分子センサー。
  4. 隣接する前記メソ細孔の間の平均壁厚が10nmから50nmである、請求項1から3の何れかに記載のメソポーラス金属膜を備える分子センサー。
  5. 膜厚が0nm超10mm未満である、請求項1から4の何れかに記載のメソポーラス金属膜を備える分子センサー。
  6. 平均直径×0.9から平均直径×1.1の範囲の直径を有するメソ細孔の割合が、全メソ細孔中、60%から100%である、請求項1から5の何れかに記載のメソポーラス金属膜を備える分子センサー。
  7. 前記金属は金である、請求項1から6の何れかに記載のメソポーラス金属膜を備える分子センサー。
  8. 前記メソポーラス金属膜を電極として使用して測定対象のアンペロメトリー応答を測定する、請求項1から7の何れかに記載のメソポーラス金属膜を備える分子センサー。
  9. グルコース検出を行う、請求項1から8の何れかに記載のメソポーラス金属膜を備える分子センサー。
  10. 金、鉄、コバルト、ニッケル、銅、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、スズ、及びこれらの2種以上の合金からなる群より選択される少なくとも1種である金属の膜であってメソ細孔を有するメソポーラス金属膜を備える酸化還元触媒。
  11. 前記メソ細孔の平均直径が5nmから100nmである、請求項10に記載の酸化還元触媒。
  12. 導電性基板上に形成される、請求項10または11に記載の酸化還元触媒。
  13. 隣接する前記メソ細孔の間の平均壁厚が10nmから50nmである、請求項10から12の何れかに記載の酸化還元触媒。
  14. 膜厚が0nm超10mm未満である、請求項10から13の何れかに記載の酸化還元触媒。
  15. 平均直径×0.9から平均直径×1.1の範囲の直径を有する前記メソ細孔の割合が、全メソ細孔中、60%から100%である、請求項10から14の何れかに記載の酸化還元触媒。
  16. 前記金属は金である、請求項10から15の何れかに記載の酸化還元触媒。
  17. 金、鉄、コバルト、ニッケル、銅、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、スズ、及びこれらの2種以上の合金からなる群より選択される少なくとも1種である金属の膜であってメソ細孔を有するメソポーラス金属膜を備えるリチウムイオン電池電極。
  18. 前記メソ細孔の平均直径が5nmから100nmである、請求項17に記載のリチウムイオン電池電極。
  19. 導電性基板上に形成される、請求項17または18に記載のリチウムイオン電池電極。
  20. 隣接する前記メソ細孔の間の平均壁厚が10nmから50nmである、請求項17から19の何れかに記載のリチウムイオン電池電極。
  21. 膜厚が0nm超10mm未満である、請求項17から20の何れかに記載のリチウムイオン電池電極。
  22. 平均直径×0.9から平均直径×1.1の範囲の直径を有する前記メソ細孔の割合が、全メソ細孔中、60%から100%である、請求項17から21の何れかに記載のリチウムイオン電池電極。
  23. 前記金属は金である、請求項17から22の何れかに記載のリチウムイオン電池電極。
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