(1)エンジンの全体構成
図1および図2は、本発明の一実施形態にかかるエンジンの制御装置の構成を示す図である。当実施形態のエンジンは、4ストロークのエンジン本体1と、エンジン本体1に燃焼用の空気(吸気)を導入するための吸気マニホールド20と、エンジン本体1から外部に排気を排出するための排気システム30とを備えている。
ここでは、エンジン本体1が、特定方向に並ぶ4つの気筒2A〜2Dを有する4気筒エンジンであって、主としてガソリンを燃料とするガソリンエンジンの場合について説明する。
エンジン本体1は、気筒2A〜2Dが内部に形成されたシリンダブロック2と、シリンダブロック2の上面に設けられたシリンダヘッド3と、気筒2A〜2Dに往復摺動可能に挿入されたピストン4とを有している。
ピストン4の上方には燃焼室5が形成されており、この燃焼室5には、燃料が、インジェクタ10からの噴射によって供給される。噴射された燃料と空気との混合気は燃焼室5で燃焼し、ピストン4はその燃焼による膨張力で押し下げられて上下に往復運動する。
ピストン4はコネクティングロッド16を介してクランク軸15と連結されており、ピストン4の往復運動に応じて、クランク軸15は中心軸回りに回転する。
シリンダブロック2には、クランク軸15の回転速度をエンジンの回転速度として検出するエンジン回転速度センサSW1が設けられている。
シリンダヘッド3には、燃料を燃焼室5に向けて噴射するインジェクタ10と、インジェクタ10から噴射された燃料と空気との混合気に対し火花放電による点火を行う点火プラグ11とが、各気筒2A〜2Dにつきそれぞれ1組ずつ設けられている。
インジェクタ10は、燃料の噴射口となる複数の噴孔を先端部に有しており、各気筒2A〜2Dの燃焼室5をその吸気側の側方から臨むように設けられている。インジェクタ10から噴射される燃料の噴射圧力は、30MPa以上という、ガソリンエンジンとしてはかなり高い値に設定されている。
点火プラグ11は、火花を放電するための電極を先端部に有しており、各気筒2A〜2Dの燃焼室5を上方から臨むように設けられている。
当実施形態のエンジン本体1は、その幾何学的圧縮比(ピストン4が下死点にあるときの燃焼室容積とピストン4が上死点にあるときの燃焼室容積との比)が、15以上20以下という、ガソリンエンジンとしてはかなり高い値に設定されている。このように高い幾何学的圧縮比を設定しているのは、理論熱効率の向上や、後述するCI燃焼(圧縮自己着火燃焼)での着火性確保のためである。
また、当実施形態のような4ストローク4気筒のエンジンでは、各気筒2A〜2Dに設けられたピストン4がクランク角で180°(180°CA)の位相差をもって上下運動するため、これに対応して、各気筒2A〜2Dでの点火のタイミングも、180°CAずつ位相をずらしたタイミングに設定される。具体的には、気筒2A,2B,2C,2Dの気筒番号をそれぞれ1番、2番、3番、4番とすると、1番気筒2A→3番気筒2C→4番気筒2D→2番気筒2Bの順に点火が行われる。このため、例えば1番気筒2Aが膨張行程であれば、3番気筒2C、4番気筒2D、2番気筒2Bは、それぞれ、圧縮行程、吸気行程、排気行程となる。
シリンダヘッド3には、吸気マニホールド20から供給される空気を各気筒2A〜2Dの燃焼室5に導入するための吸気ポート6と、吸気ポート6を開閉する吸気弁8と、各気筒2A〜2Dの燃焼室5で生成された排気を排気システム30に導出するための排気ポート7と、排気ポート7を開閉する排気弁9とが設けられている。なお、図例のエンジンはいわゆるダブルオーバーヘッドカムシャフト式(DOHC)エンジンであり、1つの気筒につき吸気弁8および排気弁9が2つずつ設けられている。
吸気弁8および排気弁9は、それぞれ、シリンダヘッド3に配設された一対のカムシャフト等を含む動弁機構13,14により、クランク軸15の回転に連動して開閉駆動される。
吸気弁8用の動弁機構13には、吸気弁8の開閉時期を変更可能な可変機構13aが設けられている。
排気弁9用の動弁機構14には、排気行程中にのみ排気弁9を開弁させる第1のカムと、排気行程に加えて吸気行程にも排気弁9を開弁させる第2のカムと、排気弁9に駆動力を伝達するカムをこれら第1カムと第2カムとの間で切り替える切替機構14aが組み込まれている。すなわち、この切替機構14aは、排気弁9を排気行程だけでなく吸気行程でも開弁可能にするとともに、この吸気行程中の排気弁9の開弁動作(内部EGRモード)を実行するか停止するかを切り替える機能を有している。
切替機構14aによって排気弁9に駆動力を伝達するカムとして第2のカムが選択されると、図3に示すように、排気弁9が排気行程だけでなく吸気行程中にも開弁するので、高温の排気(既燃ガス)が内部EGRガス(EGR:External Exhaust Gas Recirculation)として排気ポート7から燃焼室5に逆流する。当実施形態では、図3に示すように、内部EGRモードでは、排気弁9のリフト量は、ピーク位置から減少した後所定期間一定量で維持される。このように、当実施形態では、排気弁9が内部EGRモードで開閉されることで、高温の排気を筒内に残留させる内部EGRが実現される。なお、図3は、吸気弁8および排気弁9のバルブリフトを示したものであり、‘EX’が排気弁9のリフトを示し、‘IN’が吸気弁8のリフトを示している。
一方、切替機構14aによって第1のカムが選択された場合には、排気弁9が排気行程のみで開弁するようになるので、内部EGRが停止される(排気の逆流が停止される)。
また、排気弁9用の動弁機構14には、排気弁9の閉弁時期を変更することが可能な排気閉弁時期変更機構14bが組み込まれている。本実施形態では、排気弁9の開弁期間は一定に維持しつつ閉弁時期が変更される。このような構成の機構は既に公知であり、その詳細な構造の説明は省略する。
吸気マニホールド20は、単一の吸気管23の上流端部に接続された所定容積のサージタンク22と、サージタンク22と各気筒2A〜2Dの吸気ポート6とを連結する複数の(4本の)独立吸気通路21とを有している。
吸気管23の途中部には、吸気管23の通路を開閉可能なスロットル弁25と、エンジン本体1に吸入される空気(新気)の流量を検出するためのエアフローセンサSW2とが設けられている。
サージタンク22には、外部EGR装置50が接続されている。外部EGR装置50は、後述する中間排気管40と吸気マニホールド20とを連結するEGR通路51と、EGR通路51の途中部に設けられてEGR通路51を開閉可能なEGR弁52とを含む。外部EGR装置50は、さらに、EGR通路51の途中部に設けられてエンジンの冷却水等を利用した熱交換器からなるEGRクーラ53を有している。
外部EGR装置50は、外部EGRを行うため、すなわち、エンジン本体1から排出されて中間排気管40を流下する排気の一部を外部EGRガスとして吸気マニホールド20を介して各気筒2A〜2Dに還流させるために用いられる。
具体的には、EGR弁52が開弁すると、中間排気管40を流れる排気の一部は、EGR通路51を通ってサージタンク22へと還流され、再び各気筒2A〜2Dに導入される。外部EGRガスは、EGR通路51の通過中に冷却される。従って、各気筒2A〜2Dに還流される外部EGRガスは、比較的低温である。特に、当実施形態では、EGR通路51にEGRクーラ53が設けられている。そのため、各気筒2A〜2Dに導入される外部EGRガスは、中間排気管40を通過する排気の温度よりも大幅に低いものとなる。一方、EGR弁52が全閉になると、中間排気管40からEGR通路51に排気は流れず、外部EGRは停止される。
排気システム30は、各気筒2A〜2Dの排気ポート7にそれぞれ上流端部が接続されてこれら排気ポート7から延びる複数の独立排気通路31と、各独立排気通路31の下流端部(エンジン本体1から遠ざかる側の端部)が独立状態を維持したまま互いに近接するように束ねられた集約部34と、集約部34の下流側に設けられて独立排気通路31の全てと連通する共通の空間が内部に形成されたスライド部(排気集合部)35と、スライド部35の下流側にディフューザー部36を介して接続された単一の中間排気管40と、中間排気管40の下流側に設けられて触媒48aを内蔵する触媒コンバータ48と、触媒コンバータ48から下流側には下流側排気通路41と、この下流側排気通路41内の排気をスライド部35に還流する排気還流装置90とを有している。触媒コンバータ48には、例えば三元触媒からなる触媒48aが内蔵されている。排気システム30のこれらの詳細構造については後述する。
また、排気システム30には、排気の温度を検出するための排気温度センサSW4が設けられている。当実施形態では、触媒コンバータ48に流入する前の排気の温度を検出しており、スライド部35に排気温度センサSW4が取り付けられている。また、触媒コンバータ48には、触媒48aの温度を検出するための触媒温度センサSW5が設けられている。
(2)排気システムの詳細構造
排気還流装置90は、下流側排気通路41のうち触媒コンバータ48のすぐ下流側の部分と、スライド部35とを連結する排気還流通路91と、排気還流通路91の途中部に設けられて排気還流通路91を開閉可能な切替弁92とを含んでいる。
この排気還流装置90では、切替弁92が開弁されるとともに、後述するように、スライド部35内に生じる負圧が増大されると、触媒コンバータ48から排出された排気の一部が、下流側排気通路41から排気還流通路91内に流入するとともに排気還流通路91を通ってスライド部35に還流され、その後、再び触媒コンバータ48に導入される。一方、スライド部35内に生じる負圧が低減されるとともに、切替弁92が閉弁された場合には、下流側排気通路41から排気還流通路91に排気は流れず、排気還流通路91を介した排気の還流は停止される。
各独立排気通路31は、その各下流端部31aの位置が一致するように、気筒列方向の中央側を指向して延びている。これら独立排気通路31の各下流端部31aは、エンジン本体1の排気側の壁面中央(上面視で2番気筒2Bと3番気筒2Cの間に対応する位置)から下流側に離れた位置において1箇所に束ねられており、束ねられた各独立排気通路31の各下流端部31aと、これらを束ねた状態に保持する保持部材等により、集約部34が形成されている。
当実施形態では、集約部34の中央に排気還流通路91の下流端が配置されており、排気還流通路91は各独立排気通路31とともに束ねられて保持されている。
具体的には、図1のIV−IV線断面図である図4に示すように、各独立排気通路31の各下流端部31aと排気還流通路91の下流端91aとは、中央に排気還流通路91の下流端91aが位置し、その周囲に各独立排気通路31の各下流端部31a周方向に等間隔で位置して、全体として略円形の断面を有する状態で保持されている。
図6に示すように、集約部34の下流端部は、集約部34の中心軸xを中心として下流に向かうに従って縮径する略円錐台形状をなす外形を有しており、各独立排気通路31の下流端部31aには、それぞれ、その下流側先端に、下流に向かうに従って中心軸x側に向かって傾斜する独立排気通路側傾斜部31bが設けられている。これに伴い、各独立排気通路31の下流端部31aの流路面積は、下流側の方が上流側よりも小さくなっている。
このように各独立排気通路31の下流端部31aの流路面積が下流に向かうに従って小さくされていることで、各独立排気通路31を通過する排気の速度はこの下流端部31aの通過中に高められる。
図4のV矢示図である図5に示すように、各独立排気通路側傾斜部31bには、それぞれ独立排気通路31の内側と外側とを連通する開口部31cが形成されている。当実施形態では、各傾斜部31bの一部が、下流端から上流に向かって略半円状に切り欠かれることで、開口部31cが形成されている。
図6に示すように、スライド部35は、単管状を有し、集約部34(各独立排気通路31の下流端部31a)の下流側部分が内側に挿入された状態で、集約部34の中心軸xと同軸で集約部34から下流側に延びている。各独立排気通路31(集約部34)を通過した排気は、このスライド部35の内側で集合する。
スライド部35は、軸xを中心軸とする円筒状を有し流路面積一定で上下流方向に延びる上流端部分35aと、この上流端部分35aから下流に延びるスライド部側傾斜部(ノズル部)35bと、軸xを中心軸とする円筒状を有し流路面積一定でスライド部側傾斜部35bから下流に延びるストレート部35cとからなる。スライド部35は、上下流方向にスライド変位可能に取り付けられており、集約部34に対して上下流方向に相対変位される。
スライド部側傾斜部35bは、独立排気通路側傾斜部31bに沿って延びる形状を有しており、軸xを中心として下流に向かうに従って縮径する略円錐台形状をなす外形を有している。これに伴い、スライド部側傾斜部35bの流路面積は下流側ほど小さくなっている。また、これに伴い、スライド部35は、スライド部側傾斜部35bと独立排気通路側傾斜部31bとが接触(当接)する位置よりも上流側へスライド変位できないようになっている。以下、これらが接触する状態にあるスライド部62の位置を、スライド部35の最上流位置と称する。
図6および図7に示されるように、スライド部35が最上流位置にある状態において、スライド部側傾斜部35bの内周面は各独立排気通路側傾斜部31bの外周面(集約部34の下流端部の外周面)全体と接触し、各開口部31cはスライド部側傾斜部35bの内周面により塞がれる。従って、スライド部35が最上流位置にある状態では、各独立排気通路31を通過した排気は、開口部31cから独立排気通路31の外周側に流出することなくスライド部35内に流入する。
ここで、スライド部35が最上流位置にある状態において、スライド部側傾斜部35bは、独立排気通路31の下流端よりも下流側に延びており、スライド部35の流路面積は独立排気通路31の下流端よりも下流側においても下流ほど小さくなっている。従って、各独立排気通路31を通過した排気は、スライド部側傾斜部35bにおいてもその速度を高められる。
上記のように各独立排気通路31からスライド部35に向けて排気が高速で噴出されると、スライド部35内において、その噴出ガスの周囲には相対的に圧力の低い負圧部が生成される。したがって、ある気筒の独立排気通路31からスライド部35に排気が噴出されると、他の独立排気通路31に負圧が作用して、そこから排気が下流側へと吸い出されることになる。また、排気還流通路91の下流端に負圧が作用して、排気還流通路91には、その内側からスライド部35側に向かって排気を吸い出す力が作用する。これは、エゼクタ効果として知られている。
一方、図8および図9に示されるように、スライド部35が最上流位置から下流側にスライド変位すると、スライド部側傾斜部35bは独立排気通路側傾斜部31bから下流側に離間する。この状態において、これら傾斜部35b、31c間には通路が区画されるとともに、各開口部31cは開放される。そのため、この状態では、各独立排気通路31を通過した排気の一部は、開口部31cを通って傾斜部35b、31c間の通路(以下、外部通路という場合がある)を通って流下する。すなわち、図9の矢印で示すように、独立排気通路31を流下した排気は、独立排気通路31内の通路に加えてこの外部通路を通過してスライド部35に流入することになり、スライド部35に流入する前に排気が通過する部分の流路面積は大きくなる。
このように流路面積が拡大されると、スライド部35に流入する際の排気の速度は小さく抑えられる。従って、スライド部35が最上流位置から下流側にスライド変位した状態では、スライド部35内に生成される負圧は、スライド部35が最上流位置にあるときよりも小さくなる。このようにスライド部35に生成される負圧が小さくなると、他の独立排気通路31および排気還流通路91に作用する排気を吸い出す力は小さくなる。
ここで、外部通路の流路面積はスライド部35の下流側への変位量が大きいほど大きくなる。従って、スライド部35の下流側への変位量が大きいほどスライド部35内に生成される負圧は小さくなる。このように、当実施形態では、スライド部35が変位することで、スライド部35内に生成される負圧が変更される。
スライド部35の下流側には、単管状のディフューザー部36が設けられている。ディフューザー部36は、下流に向かうに従って流路面積が拡大するよう構成されている。具体的には、ディフューザー部36の上流端部は略円筒状の外形を有し、この上流端部よりも下流側の部分は軸xを中心とする略円錐台形状の外形を有している。ディフューザー部36の内側には上流からスライド部35の下流端部が挿入されており、スライド部35は、ディフューザー部63によりスライド可能に支持されている。
上記のように独立排気通路31の下流端部31aおよびスライド部側傾斜部35bにおいて高速とされた排気は、流路面積一定で上下流に延びるスライド部35のストレート部35cおよびディフューザー部36を通過するにつれて減速され、これに伴って排気の圧力は回復する。
上記集約部34、スライド部35およびディフューザー部36は、アウターシェル38の内側にそれぞれ収容されている。すなわち、排気システム30には、これらを収容するアウターシェル38が設けられており、このアウターシェル38から下流側に下流側排気管41が延びている。
図8に示すように、アウターシェル38のうちスライド部側傾斜部35bの外側を囲む部分は、このスライド部側傾斜部35bと平行に延びており、下流に向かうに従って中心軸x側に傾斜するアウターシェル側傾斜部38aを構成している。図8に示すように、このアウターシェル側傾斜部38aは、スライド部側傾斜部35bが下流側にスライド変位した際にスライド部側傾斜部35bに下流側から当接するように設けられており、スライド部35は、この当接位置よりも下流側には変位することができないようになっている。すなわち、スライド部35は、この当接位置を最下流位置としてこの最下流位置と上記最上流位置との間でのみスライド変位可能となっている。
スライド部35は、スライドアクチュエータ(負圧変更手段)39によってスライド変位される。
当実施形態では、スライドアクチュエータ39は、ダイアフラム式であり、図10および図11に示すように、ダイアフラム本体39aと、ダイアフラム本体39aから所定の方向に延びてダイアフラム本体39aによってこのダイアフラム本体39aと接離する方向にスライド変位される第1シャフト39bと、第1シャフト39bの先端(反ダイアフラム本体側)に接続されるレバー部39cと、レバー部39cに固定される第2シャフト39dと、第2シャフト39dの先端(反レバー部側)に接続されるとともにスライド部35に接続されるフォーク部39e(図6)とを有している。
さらに、図6に示すように、フォーク部39eは、アウターシェル38の内側に収容されてスライド部35の外側面に取り付けられた半円状のフォーク部本体と、フォーク部本体の中央からアウターシェル38を貫通してアウターシェル38外に延びる接続部とを有し、この接続部において、第2シャフト39dの先端に固定されている。
このように構成されたスライドアクチュエータ39は、ダイアフラム本体39aによって第1シャフト39bがスライド変位されると、レバー部39cが第2シャフト39dの中心軸が通る部分を支点として搖動し、これに伴い第2シャフト39dがその中心軸を中心として回転し、この第2シャフト39dの回転に伴ってフォーク部39eがその接続部を支点として回動することで、スライド部35をスライド変位させる。例えば、図6に示す状態から第1シャフト39bがスライド変位することで、フォーク部39eが接続部を支点として回動して図8に示す状態となる。
(3)制御系
次に、図12を用いて、エンジンの制御系について説明する。当実施形態のエンジンは、自動車等の車両に搭載されており、車両に備わるECU(エンジン制御ユニット)60によって制御される。ECU60は、周知のとおり、CPU、ROM、RAM等から構成されるマイクロプロセッサであり、本発明にかかる制御手段に相当するものである。
ECU60には、各種センサからの情報が入力される。例えば、ECU60は、エンジンに設けられたエンジン回転速度センサSW1、エアフローセンサSW2、運転者により操作される図外のアクセルペダルの開度を検出するアクセル開度センサSW3、および、排気システム30に設けられた排気温度センサSW4、触媒温度センサSW5と電気的に接続されており、これらのセンサからの入力信号(エンジン回転速度、吸気流量、アクセルペダルの開度、排気温度、触媒温度の情報)を受け付ける。
ECU60は、各センサ(SW1〜SW5等)からの入力信号に基づいて種々の演算等を実行しつつ、エンジンの各部を制御する。すなわち、ECU60は、インジェクタ10、点火プラグ11、可変機構13a、切替機構14a、排気閉弁時期変更機構14b、スライドアクチュエータ39、スロットル弁25、EGR弁52、切替弁92等と電気的に接続されており、上記演算の結果等に基づいて、これらの機器にそれぞれ駆動用の制御信号を出力する。なお、当実施形態では、ポンピングロスを小さく抑えるべくスロットル弁25はほぼ常時全開とされている。
(4)制御内容
(4−1)全体の制御の流れ
図13は、全体の制御の流れを示したフローチャートである。このフローチャートに沿って、当実施形態における全体の制御の流れを説明する。
まず、ECU60は、ステップS1にて触媒48aが未活性状態であるか否かを判定する。例えば、ECU60は、触媒温度センサSW5で検出された触媒48aの温度推移に基づいて、触媒48aの活性状態を判定する。
ステップS1の判定がNOの場合、すなわち、触媒48aが活性状態である場合は、ステップS2に進み、後述する通常制御を実施する。
一方、ステップS1の判定がYESであって触媒48aが未活性状態である場合は、ステップS3に進む。ステップS3では、気筒から排出された排気の温度であって触媒48aに流入する前の温度が触媒温度よりも高いか否かを判定する。当実施形態では、排気温度センサSW4で検出された排気温度が、触媒温度センサSW5で検出された触媒温度よりも高いか否かを判定する。
ステップS3の判定がNOの場合、すなわち、触媒48aに流入する排気の温度が触媒温度以下の場合は、ステップS2に進む。
一方、ステップS3の判定がYESであって触媒48aに流入する排気の温度が触媒温度よりも高い場合は、ステップS4に進む。ステップS4では、切替弁92を開弁するとともに、スライド部35の位置を最上流位置にする。
以上のように、当実施形態では、触媒48aが未活性状態であり、かつ、触媒48aに流入する排気の温度が触媒温度よりも高い場合、切替弁92が開弁されるとともにスライド部35の位置が最上流位置とされる。
上記のように、スライド部35が最上流位置とされるとスライド部35に生じる負圧は最大となり、排気還流通路91の下流側(スライド部35側)には、排気還流通路91内のガスをスライド部35側に吸い出す大きな力が作用する。従って、スライド部35が最上流位置にされるとともに切替弁92が開弁されると、排気還流通路91を通って触媒コンバータ48を通過した後の排気がスライド部35に還流され、この排気は、再び触媒コンバータ48に流入する。
(4−2)通常制御の制御概要
次に、ステップS2にて実施される通常制御、すなわち、触媒48aが活性状態にある、あるいは、排気温度が触媒温度以下の通常時に実施される通常制御について説明する。この通常制御では、切替弁92は閉弁され、排気の触媒コンバータ48への再流入は停止される。
図14は、エンジンの運転中にECU60によって参照される制御マップを概念的に示した図である。この制御マップでは、エンジンの運転領域が第1運転領域(低負荷領域)A1、第2運転領域A2、第3運転領域A3の3つに分割されている。ECU60は、エンジンの運転中、負荷(アクセル開度に基づく要求トルク)および回転速度の各値から、エンジンが図14のマップ中のどの運転領域で運転されているかを逐次判定し、各運転領域に応じてインジェクタ10等を制御する。
当実施形態では、エンジン負荷が第2基準負荷T2以上となる高負荷側およびエンジン回転数が基準回転数N1以上となる高回転数側の領域に設定された第3運転領域A3では、点火プラグ11からの火花放電による強制点火をきっかけに混合気を火炎伝播により燃焼させる火花点火燃焼(以下、SI燃焼という場合がある)が実施される。一方、他の領域に設定された第1、第2運転領域A1、A2では、ピストン4の圧縮作用により混合気を高温、高圧化して圧縮上死点(圧縮行程と排気行程の間のTDC)付近で自着火させる圧縮自着火燃焼(以下、CI燃焼という場合がある)が実施される。第1運転領域A1は、エンジン負荷が第1基準負荷T1以下且つエンジン回転数が基準回転数N1以下の低負荷領域に設定されており、第2運転領域A2は、エンジン負荷が第2基準負荷T1から第2基準負荷T2まで且つエンジン回転数が第1基準回転数N1までの中負荷領域に設定されている。
図15は、横軸をエンジン負荷として、エンジン負荷の変化に応じて筒内のガス成分がどのように変化するかを示した図である。破線は、空気過剰率λ=1の線である。
図15に示すように、第1運転領域A1では、リーンCI燃焼(混合気の空気過剰率λが1より大きくされた状態でのCI燃焼)が実施され、第2運転領域A2では、空気過剰率λ=1のCI燃焼が実施される。また、第3運転領域A3では空気過剰率λ=1のSIが実行される。
(i)第1運転領域
第1運転領域A1は、エンジン負荷が低い領域である。そのため、燃焼によって得られるエネルギーは小さく筒内の温度が低くなりやすい。
そこで、第1運転領域A1では、安定したCI燃焼を実現するために筒内に逆流する高温の排気の量すなわち内部EGRガス量を多くするべく、排気弁9を内部EGRモードで開弁させるとともに、EGR弁52を閉弁して外部EGRを停止する。また、内部EGRガス量をより多く確保するべく、スライド部35を最上流位置よりも下流側の位置にしてスライド部35に生じる負圧を小さく抑える。当実施形態では、スライド部35を最下流位置として、負圧を最小とする。すなわち、スライド部35に生じる負圧が大きいと、独立排気通路31を介して筒内および排気ポート7内のガスを下流側へ吸い出す力が大きくなり、排気が排気ポート7から筒内へ逆流しにくくなる。そこで、第1運転領域A1では、上記のように、スライド部35に生じる負圧を小さく抑えて、筒内への排気の逆流量すなわち内部EGRガス量を多く確保する。
ただし、第1運転領域A1においても、エンジン負荷が高くなると筒内の温度は高くなる。そして、この温度が過剰に高くなると過早着火等の異常燃焼の発生や燃焼騒音の増大のおそれがある。そこで、第1運転領域A1では、エンジン負荷が高いほど内部EGR率(筒内の全ガス量のうち内部EGRガスが占める割合)を小さくする。当実施形態では、エンジン負荷が高いほど排気弁9の閉弁時期を進角側にし、吸気行程中に排気弁9が開弁している期間を短くすることで内部EGR率を小さくする。
(ii)第2運転領域
上記のように、第2運転領域A2でもCI燃焼が実施される。しかし、この領域A2は、エンジン負荷が比較的高く燃焼によって筒内の温度が高くなりやすい領域である。そのため、第1運転領域A1と異なり、第2運転領域A2では、CI燃焼実施時に過早着火等の異常燃焼の発生や燃焼騒音の増大が生じやすくなるという問題がある。
そこで、第2運転領域A2では、過早着火等を回避するために筒内の温度を低く抑えるべく、内部EGRガス量を少なくするとともに、外部EGRを実施する。すなわち、第2運転領域A2では、比較的高温の内部EGRガス量を減少させることで圧縮開始前の筒内の温度を低下させる。また、比較的低温の外部EGRガスを導入することで、EGRガスによる筒内のガス温度の上昇を抑制しつつトータルのEGRガス(内部EGRガスと外部EGRガスとからなる)量すなわち比熱比が高い不活性ガス量をある程度確保し、これにより燃焼開始前の筒内の温度を低く抑えるとともに燃焼温度を低く抑える。ここで、燃焼温度が低下すれば排気の温度が低下して、EGRガスの温度、特に、内部EGRガスの温度が低下するため、これによって、圧縮開始前の筒内の温度はさらに低下する。
具体的には、第2運転領域A2においても、排気弁9の開閉モードを内部EGRモードとして内部EGRガスを筒内に導入するが、排気閉弁時期を第1、第2運転領域A1よりも進角側にすることで、内部EGRガス量を少なく抑える。また、スライド部35を最上流位置としてスライド部35に生じる負圧を高め、これにより、排気の筒内への逆流量を抑えるとともに、外部EGR通路51に流入する排気の量を多くして外部EGRガスを多く確保する。すなわち、スライド部35に生じる負圧が高められると、筒内から排出される排気の量すなわち排気流量が多くなるため、外部EGR通路51に流入する排気の量を多くすることができる。
なお、当実施形態では、上記のように、第2運転領域A2では空気過剰率λ=1の燃焼を実施しており、上記EGRガス量の調整によって新気量が空気過剰率λ=1となるように調整される。また、当実施形態では、図15に示すように、第1運転領域A1のうち第2運転領域A2と隣接する領域では、第2運転領域A2に向けて外部EGRガスを徐々に導入する。
(iii)第3運転領域
第3運転領域A3では、上記のように空気過剰率λ=1のSI燃焼が実施される。当実施形態では、圧縮行程の後期のような比較的遅いタイミングでインジェクタ10から燃料を噴射させるとともにこの燃料噴射の後に点火プラグ11に火花点火を行わせ、これにより、圧縮上死点を少し過ぎたタイミング(膨張行程の初期)から火炎伝播により混合気を燃焼させる。
また、第3運転領域A3では、排気弁9は通常モード(排気行程でのみ開弁するモード)とされて内部EGRガスの導入が停止されるとともに、エンジン負荷の増大に伴って外部EGRガス量が低減され混合気の空気過剰率λが1となるように新気量が増大される。
さらに、当実施形態では、第3運転領域A3において、エンジン回転数が高い側では、新気量確保のためにエンジンの背圧を小さく抑えるべく、スライド部35を最下流位置としてスライド部35に生じる負圧を小さく抑える一方、エンジン回転数が低く負荷が高い側では、エンジン出力確保のために掃気性を高めるべく、スライド部35を最上流位置としてスライド部35に生じる負圧を大きくする。
なお、吸気弁8は、新気量等に応じて可変機構13aによってその開閉時期が変更される。例えば、CI燃焼が実施される第1、第2運転領域A1、A2では、吸気弁8の閉弁時期は比較的進角側とされ、SI燃焼が実施される第3運転領域A3では、吸気弁8の閉弁時期は遅角側とされ開弁期間が長くされる。
(5)作用等
以上のように、当実施形態に係るエンジンの制御装置では、触媒の未活性時において、触媒48a(触媒コンバータ48)よりも上流側における排気の温度すなわち触媒48aに流入する排気の温度が触媒温度よりも高い場合に、スライド部35を最上流位置にするとともに切替弁92を開弁させて、高温の排気を触媒通過後に再び触媒48aに流入させている。そのため、この高温の排気によって触媒48aの温度を高めることができ、より確実に、かつ、より早期に触媒を活性化させることができ、排気性能を良好にすることができる。
特に、この装置では、高温の排気を触媒48aへ再流入させる際に、スライド部35が最上流位置とされてスライド部35に発生する負圧が高められている。そのため、下流側排気通路41から排気還流通路91に流入して、スライド部35に向かう排気の流量を多くして、触媒48aに再流入する高温の排気の量を多くすることができる。また、エンジン本体から排出される排気流量全体をも多くすることができる。従って、多量の高温の排気によって触媒48aの活性化を促進することができる。
また、当実施形態に係る装置では、燃焼により得られるエネルギーが小さく筒内の温度が低くなりやすい第1運転領域A1において、排気弁9を内部EGRモードで開閉させるとともにスライド部35を最下流位置としてスライド部35に生じる負圧を最小としている。そのため、排気ポート7から下流側へ吸い出される排気量を少なく抑えて、高温の内部EGRガスを筒内に多量に導入することができ、安定したCI燃焼を実現することができる。
ここで、この第1運転領域A1では、燃焼により得られるエネルギーが小さいことに伴い排気温度が低く、触媒48aが未活性状態に陥るおそれがあるが、この場合には、上記のようにスライド部35が最上流位置にされるとともに切替弁92が開弁されて触媒48aに高温の排気が再流入されることで触媒48aの活性が促進されるため、通常時においてCI燃焼を促進しつつ、触媒48aの活性化を促進することができる。
具体的には、第1運転領域A1のうちエンジン回転数が低い領域(例えば、図14に示すように所定の回転数N0よりも低回転数側の領域A1_a)では、特に、筒内に供給される燃料量が少なく燃焼により得られるエネルギーが小さく、排気温度が低くなる。そのため、例えば、この領域A1_aで継続して運転した場合には、触媒48aの温度が活性温度以下に低下して未活性状態に陥るおそれがある。
これに対して、第1運転領域A1のうちエンジン回転数が高い領域(例えば、図13に示す領域A1_b)では、燃料量が比較的多く排気温度は比較的高くなる。そのため、低回転数側の領域A1_aで継続して運転されこれに伴い触媒48aが未活性状態になった後、この高回転数側の領域A1_bでの運転が開始されてスライド部35が最上流位置に変更されることで、触媒48aを再び活性状態にすることができる。そして、触媒48aが再び活性状態となった後は、スライド部35が最下流位置に変更されることで再び筒内に多量の内部EGRガスが導入されるため、CI燃焼を促進することができる。
(6)変形例
上記実施形態では、触媒が未活性、かつ、触媒48a(触媒コンバータ48)よりも上流側における排気の温度すなわち触媒48aに流入する排気の温度が触媒温度よりも高い場合に、スライド部35を最上流位置にしてスライド部35の負圧を最大とする場合について説明したが、この負圧は最小値よりも大きければよく、スライド部35の位置は最下流位置よりも上流側の位置であればよい。
また、第1運転領域A1において、触媒48aが活性しているときのスライド部35の位置および負圧も最上流位置および最大値に限らず、触媒が未活性のときのスライド部35の位置よりも上流側およびこの場合における負圧よりも小さければよい。
また、上記実施形態では、排気還流装置90に、排気還流通路91を開閉可能な切替弁92を設けた場合について説明したが、この切替弁92は省略してもよい。すなわち、排気還流通路91の下流側(スライド部35側)の部分の負圧が大きくない場合には、この通路91を通ってスライド部35に還流する量は少なく抑えられるため、切替弁92を省略して、この負圧すなわちスライド部35の負圧の変更によってのみ、排気還流通路91を介した排気の還流の実施、停止を切り替えてもよい。
また、排気還流通路91は、触媒48aの下流側と、各独立排気通路31を通過したガスが集合する部分とを連通していればよく、具体的な接続箇所は上記に限らない。
また、上記実施形態では、各独立排気通路31を上記のように構成するとともにこれに対して上下流方向に変位するスライド部35を設け、このスライド部35の変位によってスライド部35内の負圧が変更されるようにした場合について説明したが、上記負圧を変更するための具体的構成はこれに限らない。例えば、各独立排気通路31の下流側に固定式の通路およびこの通路の流路面積を変更可能なバルブ等を設け、このバルブ等によって流路面積の絞り量を変更することで負圧を変更させてもよい。
また、スライド部35を変位させるためのスライドアクチュエータ39の具体的構成は上記に限らない。
また、上記実施形態では、4つの気筒2A,2B,2C,2Dの各排気ポート7からそれぞれ個別に独立排気通路31が延びる場合について説明したが、排気順序が連続しない気筒については、これら気筒の排気ポート7からそれぞれ延びる独立排気通路を下流側において一本の通路にまとめてもよい。例えば、4気筒エンジンにおいて、上流側が二股に分岐した独立排気通路を用意し、この独立排気通路の2つの上流端を排気順序が連続しない2番気筒2Bの排気ポートおよび3番気筒2Cに接続させるようにしてもよい。
また、各運転領域における燃焼形態は上記に限らず、エンジンは、第1運転領域A1および第2運転領域A2においてSI燃焼が実施されるもの等であってもよい。