以下、本発明に係るアンテナの第1の実施形態について、図面を用いて説明する。なお、本実施形態は、RFIDタグ通信装置に備えられるパッチアンテナを例示し、詳細を説明する。
まず初めに、RFIDタグ通信装置1について説明する。図1は、RFIDタグ通信装置1の全体斜視図である。
RFIDタグ通信装置1は、例えば、店舗や倉庫に置いてある商品の棚卸をする場合において、個々の商品に添付されたRFID(Radio Frequency Identification)タグと無線通信し、RFIDタグのEPC(Electronic Product Code)データを読取る装置である。
RFIDタグ通信装置1は、ハンドル2と、パッチアンテナ100と、クリップ3と、端末Sとを有する。
ハンドル2は、略筒状の棒状部材である。ハンドル2は、一箇所で折り曲げられ肩部21を形成する。ハンドル2の先端には、パッチアンテナ100が、所定の角度回動可能に取り付けられている。
パッチアンテナ100は、略方形の所定の厚みを有する板状の部材である。具体的には、パッチアンテナ100は、前面カバー110と背面カバー120と後述するアンテナ部200とを有している。前面カバー110及び背面カバー120は、アンテナ部200の両面を覆うように配置され、アンテナ部200を外部環境から保護する。
クリップ3は、ハンドル2の肩部21に取り付けられる。クリップ3は、ハンドル2の長手方向に沿って離間して配置される2つの爪31を有する。2つの爪31は、互いに離接可能に設けられる。
端末Sは、商品に付されたRFIDタグから受信したデータを表示するディスプレーS1を備えた、タブレット端末やスマートフォンを用いることができる。端末Sは、クリップ3の2つの爪31の間に挟まれて固定される。
次に、パッチアンテナ100の構造について、図1、及び、図2を用いて説明する。図2は、図1のRFIDタグ通信装置1のパッチアンテナ100の背面カバー120及び前面カバー110を取り外し、アンテナ部200を露出した状態を示している。
アンテナ部200は、図2に示すように、グランド板金300と、放射器400と、給電部材500と切替手段600とを備えている。
グランド板金300は、金属板を折り曲げて形成される一面が開放した箱状の部材である。具体的には、グランド板金300は、後述する放射器400等が固定される略矩形板状の底壁320と、底壁320の周縁に曲げ加工により形成された複数の側壁310と、を備える。グランド板金300の側壁310の内側には、放射器400及び給電部材500が配置される。そして、グランド板金300は、側壁310の底壁320から離間した縁により形成される開口部330を塞ぐように前面カバー110に取り付けられる。
放射器400は、図2に示すように略円環状の円板である。放射器400は、その外周の互いに相対する位置に2つの切欠き410(図4)を備える。なお、2つの切欠き410を有することにより、放射器400は、円偏波を放射することができる。放射器400の前面カバー110側の面を第1面420とし、その裏側面を第2面440とする。放射器400は、グランド板金300の底壁320と略平行に配置される。放射器400は、グランド板金300の略中心に放射器400の中心が重なるように配置され、複数のスペーサ430(図6)を介してグランド板金300の底壁320に固定される。本実施形態においては、放射器400は、3ヶ所に配置したスペーサ430を介して底壁320に固定される。スペーサ430は、放射器400のアンテナ性能に影響を与えない樹脂製のものを用いた。
給電部材500は、帯状の薄板形状を有している。給電部材500は、図2に示すように、グランド板金300の底壁320と放射器400との間に配置される。給電部材500の放射器400側の面を第1面530とし、その裏側面を第2面540とする。給電部材500は、放射器400の外周の外側から中心へ向かって延び、放射器400と給電部材500の一部が重なる位置に配置される。
すなわち給電部材500は、グランド板金300の内側において、グランド板金300の一つの角から底壁320の対向する角に向かって延設される。そして、給電部材500の長手方向の両端部は、グランド板金300の底壁320にスペーサ510を介して、それぞれネジで固定される。
また、給電部材500は、第2面540の放射器400の外周の外側に給電点520を有する。なお、給電点520は、ケーブル(図示せず)を介してRFIDタグ通信装置1の給電回路(図示せず)と接続され、給電部材500に電力を供給する。そして、給電部材500は、給電点520から給電された高周波信号により放射器400を励振させる。
図3は、図2の切替手段600を放射器400側から見た斜視図である。切替手段600は、操作アーム610と補填部材650と、を有する。
操作アーム610は、把持部620と、連結部621と、第1アーム部622と、第2アーム部623と、を有する。操作アーム610は、例えば、一枚の樹脂製の板を抜き加工して形成されている。
把持部620は、連結部621の長手方向の中間位置から長手方向と直交する方向に延設されている。把持部620は、連結部621と繋がる部分と反対側の端部が前面カバー110の側壁から突出し、作業者が抜き刺し可能な長さを有する。
また、連結部621の両端部には、把持部620と反対方向に延びる細長い帯状の第1アーム部622及び第2アーム部623が設けられている。第1アーム部622と第2アーム部623は、略平行に設けられている。
操作アーム610は、放射器400から放射される放射波に影響を与えない絶縁部材、例えば、樹脂材料により形成される。
補填部材650は、連結部621から離間した第1アーム部622の先端の放射器400側の面、及び、第2アーム部623の先端の放射器400側の面に貼り付けられている。
補填部材650は、操作アーム610を第1位置に配置した状態で、放射器400の切欠き410を覆う面積を有する。さらに詳しく言えば、補填部材650は、操作アーム610を第1位置に配置した状態で、補填部材650の周縁が、切欠き410の開口に重なり、放射器400の外周縁と連続する。
すなわち、補填部材650は、第1位置において、切欠き410の開口に重なり、放射器400の外縁と連続する外辺651を有する。言い換えれば、外辺651は、切欠き410により断続された放射器400の外縁をおぎなう。すなわち、補填部材650が切欠き410の全体を覆った場合に、補填部材650の外辺651が放射器400の外周を繋ぐ。
補填部材650は、放射器400と同じように給電部材500からの高周波信号により励振する材料により形成される。本実施形態においては、放射器400と同じ材料を用いて作製した。
切替手段600は、放射器400の第1面420と対向して設けられ、把持部620の長手方向に沿って所定の幅でスライド可能に配置される。切替手段600のスライド構造については、特に限定されないが、例えば、前面カバー110の裏面111に把持部620のスライドをガイドするレール部材(図示せず)を設け、レール部材に沿ってスライドするようにすることもできる。具体的には、操作アーム610は、補填部材650が切欠き410を覆う第1位置と、補填部材650が切欠き410から外れた第2位置との間で移動される。このとき補填部材は、放射器400の第1面420に押しつけられ、第1面420に摺接する。操作アーム610を移動させる場合、例えば、作業者は、前面カバー110から突出している把持部620の基端を摘んで抜き挿しする。把持部620を引っ張ると補填部材650が第2位置に移動し、逆に把持部620を押し込むと補填部材650が第1位置に移動する。
次に、補填部材650の機能について図4、図5及び図6を用いて説明する。
図4は、図2の切替手段600を第2位置に配置した状態のアンテナ部200を示す図である。図5は、図2の切替手段600を第1位置に配置した状態のアンテナ部200を示す図である。図6は、図5のアンテナ部200をF6−F6で切断した断面図である。
図4に示すように、切欠き410を開放した状態で給電部材500に給電がされると、パッチアンテナ100は円偏波の電磁波を放射する。円偏波は、放射器400の2つの切欠き410の内辺411の間の距離と、放射器400の外縁部の直径との差により、2種類の周波数の電磁波が発生することにより放射される。
一方、図4、5の矢印に沿って、操作アーム610を図示左方向に押し込むと、図5、図6に示すように、補填部材650は、放射器400の第1面420と接触した状態で放射器400に沿って移動し、切欠き410を覆う。これにより、補填部材650は、放射器400と電気的に一体化し、あたかも切欠き410の設けられていない円環状の放射器のように振る舞う。つまり、切替手段600を図5に示す位置(第1位置)に切替えた状態で給電部材500に給電すると、本実施形態に係るパッチアンテナ100は、直線偏波を放射する。上述したように、操作アーム610を第1位置に配置すると、図5,6に示すように、補填部材650の外辺651は、切欠き410の開口と重なる。
これにより、放射器400の外縁の形状が円形に近似し、切欠き410が塞がれた状態で放射器から放射する電磁波の周波数を一つにでき、直線偏波を放射することができる。
このように、本実施形態のパッチアンテナ100によると、操作アーム610を2つの位置で切替えるだけで、放射する電磁波の種類を円偏波と直線偏波との間で簡単に切替ることができる。
このため、例えば、巨大な倉庫や工場のラインにおいて、規則正しく並べられている商品の同じ位置に同じ方向で付されたRFIDタグを読み取る場合には、操作アーム610を第1位置に切り替えて、通信距離を稼ぐことができる直線偏波を用いて商品情報を取得する。これにより、倉庫の全体を歩き回る必要がなく、効率よく作業をすることができる。
一方、小売店の店舗等における商品は、陳列方法も様々であるため、RFIDタグの方向もバラバラである。このような状況におけるRFIDタグの読み取り作業に直線偏波モードを用いると、その偏波の方向とRFIDタグの方向が異なる商品が多くなるため、陳列棚に配置された商品の正確な商品情報を読み取ることができない虞がある。
そこで、このような状況におけるRFIDタグの読み取り作業においては、操作アーム610を第2位置に切り替えて、円偏波を用いて商品情報を取得する。円偏波は、通信距離では、直線偏波には及ばない。しかしながら、RFIDタグの位置や方向が異なるような状況であっても、商品情報を確実に読み取ることができる。これにより、店舗に陳列されている商品に付されているRFIDタグの方向を揃える必要がなく、効率よく作業をすることができる。
つまり、本実施形態によると、上述のような倉庫と店舗の両方で商品情報を取得するような作業が必要な場合においても、一台のRFIDタグ通信装置1で作業をすることができる。
また、本実施形態によると、直線偏波と円偏波を切り替えるための専用の部品の取り外しや取付け作業がないため、このような部品を紛失する虞もない。
これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
例えば、本実施形態では、円環状の放射器400を例示したが、放射器の形状はこれに限らない。例えば、図7に示す放射器400aのように、正方形の放射器の対角線上の対向する2つの角を切り欠いた形状とすることもできる。この場合には、この2つの切欠き410aを補填部材650で塞ぐことのできる切替手段(図示せず)を設けて、円偏波と直線偏波を切替できるようにしてもよい。