JP2016161417A - 画像処理装置、画像処理方法、イメージングシステム - Google Patents

画像処理装置、画像処理方法、イメージングシステム Download PDF

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Abstract

【課題】蛍光染色標本の画像を基に、当該標本内の関心領域を特定するのにより適した領域特定用画像を生成するための技術を提供する。【解決手段】本発明は、蛍光染色標本内の関心領域を特定するのに適した領域特定用画像を生成する画像処理装置であって、蛍光染色標本の蛍光画像に対して第1の代替色を適用し、前記蛍光画像の輝度情報を前記第1の代替色で表現する代替色蛍光画像を生成する蛍光画像変換手段と、前記蛍光染色標本の位相画像に対して前記第1の代替色と異なる第2の代替色を適用し、前記位相画像の輝度情報を前記第2の代替色で表現する代替色位相画像を生成する位相画像変換手段と、前記代替色蛍光画像と前記代替色位相画像とを合成して領域特定用画像を生成する画像生成手段と、を備える画像処理装置を提供する。【選択図】図5

Description

本発明は、標本内の関心領域を特定するための技術に関する。
抗体医薬を中心とした分子標的薬治療の普及に伴い、In situ ハイブリダイゼーション(In situ Hybridization;ISH)および免疫組織化学(Immunohistochemistry;IHC)の重要性が高まっている。
例えば、抗体医薬トラスツズマブ(Trastuzumab)の標的物質であるヒト上皮成長因子受容体2(Human epidermal growth factor−2;HER2)の遺伝子増幅やタンパク過剰発現を調べる「HER2検査」においては、蛍光ISH(Fluorescense ISH;FISH)染色やIHC染色が使用されている。
このHER2検査は、浸潤性の腫瘍細胞で生じている遺伝子増幅やタンパク過剰発現を調べる方法であるため、標本中の腫瘍細胞やその領域を特定する必要がある。更に同じ標本中に非浸潤性と浸潤性の腫瘍細胞がある場合には、浸潤性の腫瘍細胞を抽出する必要がある。
それゆえ一般的には、検体組織から複数の組織切片標本を作製し、その標本の一つをヘマトキシリンおよびエオジン(Hematoxylin&eosin;H&E)で染色する。そして、H&E染色標本を用いて浸潤性の腫瘍細胞を特定し、これを関心領域(Region of Interest;ROI)とする。更に、H&E染色標本とは別の標本に対してFISH染色又はIHC染色を施し、検査用の蛍光染色標本を作製する。H&E染色標本で特定した関心領域に対応する、蛍光染色標本内の領域を顕微鏡観察により特定する。そして、このように特定した蛍光染色標本内の領域の遺伝子増幅やタンパク過剰発現を、蛍光顕微鏡などを用いて調べる。
しかしながら、H&E染色標本を用いて特定した関心領域に対応する領域をFISH染色やIHC染色標本の中から特定する方法は、膨大な手間と熟練性を有するため、術者依存度が高く、病理診断における検査のばらつきの要因となり得る。
また、関心領域の特定に用いるH&E染色標本と、検査に用いる蛍光染色標本(FISH染色標本、IHS染色標本など)では、細胞の位置や形状が厳密には一致しない。したがって、本来的には、一つの標本で関心領域の決定と病理診断の両方が実施できることが望ましい。例えば、特許文献1と特許文献2には、同一の標本から関心領域の決定と標的物質の検査を行う方法が開示されている。
特許第5540102号公報(WO2011/046807号公報) 特許第5631999号公報(WO2011/040872号公報)
Optics Express,Vol.17,Issue 15,pp.13080−13094(2009) JOSA,Vol.73,Issue 11,pp.1434−1441(1983)
FISHやIHCを用いる検査方法では、H&E染色による関心領域の決定が利用されている。これは、FISH染色やIHC染色で得られる染色像が、関心領域を決定するために不可欠な線維性組織や結合組織の構造、細胞核の位置や大きさ、さらにはクロマチンや核小体など、細胞核内外の詳細な構造を十分に可視化していないことに起因する。
特許文献1に記載の方法では、DAPI(4’,6−diamino−2−phenylidole dihydrochloride)を用いて細胞核を蛍光染色した標本について、蛍光画像と屈折暗視野画像を取得する。蛍光画像に対しヘマトキシリン染色のような疑似カラーを付けるとともに、屈折暗視野画像に対しエオジン染色のような疑似カラーを付け、その2つの画像を合成してH&E染色画像に類似した画像を得ている。
また、特許文献2に記載の方法では、DAPIを用いて細胞核を蛍光染色した標本について、蛍光画像と自家蛍光画像を含む複数種の蛍光画像を取得する。そして、複数種の蛍光画像のそれぞれを色チャンネルとする合成画像に対し所定の色変換行列を適用し、H&E染色画像に類似した画像を得ている。
しかしながら、屈折暗視野画像(特許文献1)や自家蛍光画像(特許文献2)を用いる従来の方法では、細胞核内及び細胞核外の詳細な構造を把握できるだけのコントラストの付いた画像を得ることができない。それゆえ、従来の方法は、H&E染色で可視化される画像情報を十分に再現することができていなかった。
本発明は、上記課題を克服するものであり、蛍光染色標本の画像を基に、当該標本内の関心領域を特定するのにより適した領域特定用画像を生成するための技術を提供することを目的とする。
本発明の第一態様は、蛍光染色標本内の関心領域を特定するのに適した領域特定用画像を生成する画像処理装置であって、蛍光染色標本の蛍光画像に対して第1の代替色を適用し、前記蛍光画像の輝度情報を前記第1の代替色で表現する代替色蛍光画像を生成する蛍光画像変換手段と、前記蛍光染色標本の位相画像に対して前記第1の代替色と異なる第2の代替色を適用し、前記位相画像の輝度情報を前記第2の代替色で表現する代替色位相画像を生成する位相画像変換手段と、前記代替色蛍光画像と前記代替色位相画像とを合成して領域特定用画像を生成する画像生成手段と、を備える画像処理装置を提供する。
本発明の第二態様は、蛍光染色標本内の関心領域を特定するのに適した領域特定用画像を生成する画像処理装置であって、蛍光染色標本の蛍光画像に対して第1の代替色を適用し、前記蛍光画像の輝度情報を前記第1の代替色で表現する代替色蛍光画像を生成する蛍光画像変換手段と、前記蛍光染色標本の位相画像に対して前記第1の代替色と異なる第2の代替色を適用し、前記位相画像の輝度情報を前記第2の代替色で表現する代替色位相画像を生成する位相画像変換手段と、前記蛍光染色標本の自家蛍光画像に対して前記第1の代替色と異なる第3の代替色を適用し、前記自家蛍光画像の輝度情報を前記第3の代替色で表現する代替色自家蛍光画像を生成する自家蛍光画像変換手段と、前記代替色蛍光画像と前記代替色位相画像と前記代替色自家蛍光画像とを合成して領域特定用画像を生成する画像生成手段と、を備える画像処理装置を提供する。
本発明の第三態様は、蛍光染色標本の蛍光画像を取得するための蛍光画像取得ユニットと、前記蛍光染色標本の位相画像を取得するための位相画像取得ユニットと、を有する撮像装置と、前記蛍光画像取得ユニットで取得された前記蛍光画像と前記位相画像取得ユニットで取得された前記位相画像とを用いて領域特定用画像を生成する画像処理装置と、を
備えるイメージングシステムを提供する。
本発明の第四態様は、蛍光染色標本の蛍光画像を取得するための蛍光画像取得ユニットと、前記蛍光染色標本の明視野画像を取得するための明視野画像取得ユニットと、を有する撮像装置と、前記蛍光画像取得ユニットで取得された前記蛍光画像と前記明視野画像取得ユニットで取得されたデフォーカスの異なる複数の明視野画像とを用いて領域特定用画像を生成する画像処理装置と、を備えるイメージングシステムを提供する。
本発明の第五態様は、蛍光染色標本内の関心領域を特定するのに適した領域特定用画像を生成する画像処理方法であって、コンピュータが、蛍光染色標本の蛍光画像に対して第1の代替色を適用し、前記蛍光画像の輝度情報を前記第1の代替色で表現する代替色蛍光画像を生成するステップと、コンピュータが、前記蛍光染色標本の位相画像に対して前記第1の代替色と異なる第2の代替色を適用し、前記位相画像の輝度情報を前記第2の代替色で表現する代替色位相画像を生成するステップと、コンピュータが、前記代替色蛍光画像と前記代替色位相画像とを合成して領域特定用画像を生成するステップと、を含む画像処理方法を提供する。
本発明の第六態様は、蛍光染色標本内の関心領域を特定するのに適した領域特定用画像を生成する画像処理方法であって、コンピュータが、蛍光染色標本の蛍光画像に対して第1の代替色を適用し、前記蛍光画像の輝度情報を前記第1の代替色で表現する代替色蛍光画像を生成するステップと、コンピュータが、前記蛍光染色標本の位相画像に対して前記第1の代替色と異なる第2の代替色を適用し、前記位相画像の輝度情報を前記第2の代替色で表現する代替色位相画像を生成するステップと、コンピュータが、前記蛍光染色標本の自家蛍光画像に対して前記第1の代替色と異なる第3の代替色を適用し、前記自家蛍光画像の輝度情報を前記第3の代替色で表現する代替色自家蛍光画像を生成するステップと、コンピュータが、前記代替色蛍光画像と前記代替色位相画像と前記代替色自家蛍光画像とを合成して領域特定用画像を生成するステップと、を含む画像処理方法を提供する。
本発明の第七態様は、本発明に係る画像処理方法の各ステップをコンピュータに実行させるプログラムを提供する。
本発明によれば、蛍光染色標本の画像を基に、当該標本内の関心領域を特定するのにより適した領域特定用画像を生成することができる。
本発明の実施形態に係るイメージングシステムの構成を示す図。 蛍光フィルターユニットの構成を示す図。 位相画像取得ユニットの構成を示す図。 第一の実施形態に係る画像処理装置の機能構成を示す図。 第一の実施形態に係るイメージングシステムの処理フローを示す図。 第二の実施形態に係る画像処理装置の機能構成を示す図。 第二の実施形態に係るイメージングシステムの処理フローを示す図。 明視野画像取得ユニットの構成を示す図。 第三の実施形態に係る画像処理装置の機能構成を示す図。 検討例1で取得した画像を示す図。 検討例2で取得した画像を示す図。 実施例1で取得した画像を示す図。 実施例2で取得した画像を示す図。 実施例3で取得した画像を示す図。 実施例4で取得した画像を示す図。
本発明は、蛍光染色標本内の関心領域(ROI、関心領域とも呼ばれる)を特定するのに適した領域特定用画像を生成するための技術に関する。本発明に係る技術は、蛍光染色標本を固定したスライド(プレパラートとも呼ばれる)のデジタル顕微鏡画像を取得し観察するバーチャル・スライド・システムなどのイメージングシステムに適用することができる。
以下に述べる本発明の実施形態では、領域特定用画像の生成方法として、次の2つの方法を提案する。方法1は、同じ蛍光染色標本の「蛍光画像」と「位相画像」とから領域特定用画像を合成する方法であり、方法2は、同じ蛍光染色標本の「蛍光画像」と「自家蛍光画像」と「位相画像」とから領域特定用画像を合成する方法である。
具体的には、方法1では、
1)蛍光画像に対して第1の代替色を適用し、蛍光画像の輝度情報を第1の代替色で表現する代替色蛍光画像を生成する、
2)位相画像に対して第1の代替色と異なる第2の代替色を適用し、位相画像の輝度情報を第2の代替色で表現する代替色位相画像を生成する、
3)代替色蛍光画像と代替色位相画像とを合成して領域特定用画像を生成する、
という処理を行う。
また、方法2では、
1)蛍光画像に対して第1の代替色を適用し、蛍光画像の輝度情報を第1の代替色で表現する代替色蛍光画像を生成する、
2)位相画像に対して第1の代替色と異なる第2の代替色を適用し、位相画像の輝度情報を第2の代替色で表現する代替色位相画像を生成する、
3)自家蛍光画像に対して第1の代替色と異なる第3の代替色を適用し、自家蛍光画像の輝度情報を第3の代替色で表現する代替色自家蛍光画像を生成する、
4)代替色蛍光画像と代替色位相画像と代替色自家蛍光画像とを合成して領域特定用画像を生成する、
という処理を行う。
「蛍光染色標本」は、標的物質に対し蛍光物質が付加された標本であり、例えば、FISH染色標本、IHC染色標本などが含まれる。「蛍光画像」は、蛍光染色によって付加された蛍光物質から発生する蛍光の強度を表す画像である。「自家蛍光画像」は、標的物質の蛍光ではなく、組織由来の蛍光の強度を表す画像である。「位相画像」は、標本を透過した光の位相変化を可視化した画像である。
例えば、病理診断に用いられる組織切片を例にとると、細胞核の蛍光画像は標本内での細胞核の位置関係や細胞核内の構造(染色体、クロマチンなど)の画像情報を含み、位相画像は細胞核内の構造(クロマチン、核小体など)及び細胞核外の構造(線維性組織や結合組織の構造など)の画像情報を含んでいる。したがって、これらの画像情報に対し異なる代替色を適用し、それらを合成することで、細胞核の位置・大きさ、細胞核内の構造、細胞核外の構造などの詳細構造が可視化された領域特定用画像を得ることができる。また、自家蛍光画像も細胞核外の組織の画像情報を含んでいるため、方法2のように自家蛍光画像も合成に用いることで、細胞核外の構造をより詳細に可視化することができる。
この領域特定用画像を用いれば、標本全体のなかから検査を行うべき関心領域を探索し特定する作業(スクリーニング)を適切かつ高信頼に行うことができる。そして、領域特定用画像は、検査用の蛍光染色標本から得られた細胞核の蛍光画像と位相画像(と自家蛍光画像)から生成されるので、同一の標本を用いて関心領域の決定と標的物質の検査が可
能となる。それゆえ、H&E染色標本の画像で特定した関心領域と蛍光染色標本内の領域との対応付けといった、手間のかかる作業や熟練性を要する作業が不要となり、検査が迅速化、簡便化される。また、領域特定用画像から決定した腫瘍細胞そのものの遺伝子増幅やタンパク過剰発現を調べることが出来るため、H&E染色標本の画像で領域を決定する方法に比べて、より直接的な検査結果を得ることが出来る。
上記方法1、2において、「第1の代替色」にはヘマトキシリン染色の同系色を用いるとよい。同系色とは、色相が同一又は類似している色をいう。ヘマトキシリン染色の同系色には、例えば、赤紫から青の色相範囲内の色が該当する。また「第2の代替色」と「第3の代替色」には、グレースケール(無彩色)か、又は、エオジン染色の同系色を用いるとよい。エオジン染色の同系色には、例えば、赤から紫の色相範囲内の色が該当する。なお、ヘマトキシリン染色の同系色の色相範囲とエオジン染色の同系色の色相範囲は一部重なるが、第1の代替色と第2及び第3の代替色を異なる色相から選択すれば、問題はない。第2の代替色と第3の代替色は同じでもよいし、互いに異なっていてもよい。第2の代替色と第3の代替色の色相が同じで、彩度が異なっていてもよい。
第1の代替色にヘマトキシリン染色の同系色を用い、第2の代替色や第3の代替色にグレースケール(又はグレースケールに近い低彩度の色)を用いた場合には、ヘマトキシリン染色像に良く似た領域特定用画像が得られる。第1の代替色にヘマトキシリン染色の同系色を用い、第2の代替色と第3の代替色の少なくとも一方にエオジン染色の同系色を用いた場合には、H&E染色像に良く似た領域特定用画像が得られる。これにより、利用者は、病理学的検査において広く慣れ親しんだヘマトキシリン染色像やH&E染色像に良く似た画像を用いて、関心領域を決定することができる。即ち、病理学的検査分野において数十年に渡って蓄積されたヘマトキシリン染色またはH&E染色に関する知見をそのまま利用できるようになり、より正確な関心領域の決定が可能となる。
上記方法1、2を実施するための具体的な実施形態について以下説明する。ただし、以下の実施形態は本発明の好ましい構成を例示するものであり、本発明はこれに限定されない。
<第一の実施形態>
本発明の第一の実施形態は、標本の蛍光画像を取得する蛍光画像取得ユニットと標本の位相画像を取得する位相画像取得ユニットを有する撮像装置と、領域特定用画像を生成する画像処理装置とを具備するイメージングシステムである。このイメージングシステムは、例えば、In situ ハイブリダイゼーションまたは免疫組織化学を用いた標本中の標的物質を検査するために利用される。
In situ ハイブリダイゼーション(ISH)は、医学、生物学領域などで広く普及している一般技術であり、臨床検査領域にも取り入れられている。ISHでは、通常、32Pや35Sなどの放射性同位体、チミンダイマーやジゴキシゲニンなどの抗原性物質(ハプテン)、または蛍光性化合物などで標識したRNAプローブやDNAプローブを利用する。そして、細胞の染色体DNA(デオキシリボ核酸)や組織中のRNA(リボ核酸)を標的として、前記プローブとハイブリッド形成させる。これにより、特定遺伝子の染色体上バンドの位置、特定遺伝子の染色体上での増幅、あるいは遺伝子産物であるmRNA(メッセンジャーRNA)の組織中の量や局在領域などが決定できる。また、蛍光性の化合物で標識したRNAプローブやDNAプローブを用いる方法を、FISH(Fluorescence In Situ Hybridization)と呼び分けることもある。
免疫組織化学は、細胞や組織上の特定の標的物質を、その標的物質を特異的に認識する
抗体によって検出する方法であり、医学、生物学領域などで広く普及している一般技術である。一般的には、組織をホルマリン等で固定後、パラフィン包埋したブロックから薄切した切片上に特定の標的物質を認識する抗体を反応させ、反応した抗体の有無から標的物質の存在を判断する。この標的物質と反応させる抗体を、通常、一次抗体と呼ぶ。一次抗体に、視覚または装置により検出し得るシグナルを発する物質を標識しておけば、そのシグナルの強度から一次抗体の量がわかる。そして、この量は切片上の抗原の量に対応する。この目的を達成するためのシグナルを発する物質としては、蛍光性化合物や酵素などが挙げられる。また、蛍光性化合物を使用する方法を蛍光抗体法、酵素を使用する方法を酵素抗体法と呼び分けることもある。
本実施形態において、ISHや免疫組織化学には、公知の方法が適用可能であり、特に限定されない。好適には、蛍光性化合物を利用するFISHや蛍光抗体法を適用することができる。
本実施形態において、標本とは、in vivoまたはin vitroで得られた生物学的組織、細胞または液体由来の試料など、生物学的被験体から得られた試料を意味する。それゆえ、本実施形態において適用される標本に限定は無く、ヒトを含む哺乳動物から分離された体液、例えば、血液、血清、血漿、尿、精液、ずい液、唾液、汗、涙、腹水、羊水、細胞、組織、器官、あるいはそれらを含む希釈液などであり得る。また標本は、哺乳動物にも限定されず、原核生物由来のものでも真核生物由来のものでも良い。さらに標本は、組織を含む生物学的試料の切片、例えば、器官または組織の切片であり得るし、生物学的試料からの抽出物、例えば、抗原、抗体、タンパク質、核酸であり得る。
本実施形態において、標的物質とは、ISHや免疫組織化学を用いて検出できる標本中の成分であれば、特に限定されない。例えば、核酸(例えば、ポリヌクレオチド、DNA、RNA、アプタマー)、ペプチド、タンパク質、脂質、糖類、ホルモン、抗体、リガンド、レセプター、酵素などであり得る。若干の実施形態では、標的物質はタンパク質または核酸を含み得る。
本実施形態では、標本の少なくとも一部の領域の細胞核を蛍光染色する。この工程は、蛍光性のインターカレーターやグルーブバインダーにより、細胞核を染色する工程を意味している。それゆえこの工程には、公知のISHや免疫組織化学、特に、FISHや蛍光抗体法で実施される核の対比染色が含まれる。この一例として、パラフィン包埋切片を用いたFISHにおける対比染色を以下に示すが、細胞核を蛍光染色する方法はこれに限定されない。
(FISH染色における対比染色)
(1)脱パラフィン処理
キシレンやキシレン代替品を入れた容器に病理切片を浸漬させ、パラフィンを除去する。温度はとくに限定されるものではないが、通常は室温で実施される。浸漬時間は1〜30分であることが好ましい。また、必要に応じてキシレンを交換してもよい。
次に、エタノールを入れた容器に病理切片を浸漬させ、キシレンを除去する。温度はとくに限定されるものではないが、通常は室温で実施される。浸漬時間は1〜30分であることが好ましい。また、必要に応じてエタノールを交換してもよい。
次に、水や緩衝液を入れた容器に病理切片を浸漬させ、エタノールを除去する。温度はとくに限定されるものではないが、通常は室温で実施される。浸漬時間は1〜30分であることが好ましい。また、必要に応じて水や緩衝液を交換してもよい。
(2)塩酸処理
組織切片の状態に応じて、塩酸処理を行う。塩酸処理条件は特に限定されないが、0.
2N−塩酸溶液を入れた容器に組織切片を浸漬させる。浸漬時間は、1〜60分であることが好ましい。
次に、水や緩衝液を入れた容器に病理切片を浸漬させ、塩酸溶液を除去する。温度はとくに限定されるものではないが、通常は室温で実施される。浸漬時間は1〜30分であることが好ましい。また、必要に応じて水や緩衝液を交換してもよい。
次に、2×SSCを入れた容器に病理切片を浸漬させる。温度はとくに限定されるものではないが、通常は室温で実施される。浸漬時間は1〜30分であることが好ましい。また、必要に応じて2×SSCを交換してもよい。
(3)加熱処理
公知の方法に従い、加熱処理溶液を入れた容器に組織切片を浸漬させて、過熱処理を行う。加熱処理条件は特に限定されないが、過熱処理液としては、0.01Mクエン酸緩衝液(pH6.0)、1mMトリス塩酸緩衝液(pH8.0〜9.0)、1N−チオシアン酸ナトリウムなどを用いることができる。加熱方法としては、ホットプレート、ウォーターバス、オートクレーブ、マイクロウェーブ、圧力鍋などを用いることができる。加熱温度は、50〜130℃、加熱時間は、1〜60分であることが好ましい。
次に、水や緩衝液を入れた容器に病理切片を浸漬させる。温度はとくに限定されるものではないが、通常は室温で実施される。浸漬時間は1〜30分であることが好ましい。また、必要に応じて水や緩衝液を交換してもよい。
次に、2×SSCを入れた容器に病理切片を浸漬させる。温度はとくに限定されるものではないが、通常は室温で実施される。浸漬時間は1〜30分であることが好ましい。また、必要に応じて2×SSCを交換してもよい。
(4)タンパク質分解酵素処理
公知の方法に従い、組織切片のタンパク質分解酵素処理を行う。タンパク質分解酵素処理条件は特に限定されないが、酵素処理液としては、トリプシン溶液、ペプシン溶液、プロテアーゼK溶液などを用いることができる。また、タンパク質分解酵素処理は、組織切片上に酵素処理液を添加して行う。処理時間は、1〜60分であることが好ましい。また、反応温度は、4℃〜40℃であることが好ましい。
次に、2×SSCを入れた容器に病理切片を浸漬させる。温度はとくに限定されるものではないが、通常は室温で実施される。浸漬時間は1〜30分であることが好ましい。また、必要に応じて2×SSCを交換してもよい。
次に、水を入れた容器に病理切片を浸漬させ、2×SSCを除去する。温度はとくに限定されるものではないが、通常は室温で実施される。浸漬時間は1〜30分であることが好ましい。また、必要に応じて水を交換してもよい。その後、組織切片を乾燥させる。
(5)ハイブリダイゼーション
公知の方法に従い、蛍光性化合物で標識されたDNAプローブ溶液を、組織切片上に添加する。その上に20×20mm程度のカバーグラスを被せて、その周囲をペーパーボンドで塞ぐ。組織切片を湿潤箱に入れ、ハイブリダイゼーション反応を行う。ハイブリダイゼーション条件は特に限定されないが、反応時間は1〜48時間が好ましい。反応温度は、4〜45℃であることが好ましい。
(6)洗浄
ペーパーボンドを剥がし、50%ホルムアミド含有2×SSCを入れた容器に病理切片を浸漬させる。温度はとくに限定されるものではないが、通常は室温〜50℃で実施される。浸漬時間は1〜30分であることが好ましい。また、必要に応じて50%ホルムアミド含有2×SSCを交換してもよい。
次に、2×SSCを入れた容器に病理切片を浸漬させる。温度はとくに限定されるものではないが、通常は室温〜50℃で実施される。浸漬時間は1〜30分であることが好ま
しい。また、必要に応じて2×SSCを交換してもよい。
次に、0.1%NP−40含有2×SSCを入れた容器に病理切片を浸漬させる。温度はとくに限定されるものではないが、通常は室温〜50℃で実施される。浸漬時間は1〜30分であることが好ましい。また、必要に応じて0.1%NP−40含有2×SSCを交換してもよい。
次に、2×SSCを入れた容器に病理切片を浸漬させる。温度はとくに限定されるものではないが、通常は室温で実施される。浸漬時間は1〜30分であることが好ましい。また、必要に応じて2×SSCを交換してもよい。その後、組織切片を乾燥させる。
(7)細胞核の対比染色
公知の方法に従い、細胞核の対比染色を行う。組織切片上に対比染色液を滴下し、その上に20×20mm程度のカバーグラスを被せる。必要に応じて、カバーグラスの周辺をマニキュア等で塞いでもよい。
上述したように、本実施形態における細胞核を蛍光染色する工程には、ISHやIHCで実施される対比染色が含まれている。また、対比染色剤は、細胞核を染色するための蛍光性化合物であれば特に限定されない。例えば、7−aminoactinomycinD、Acridine Orange、DAPI、Ethidium bromide、Hoechst33258、Hoechist33342、Propidium iodide、SYBR Greenなどが挙げられる。また、本実施形態では、蛍光の褪色防止剤が添加された蛍光性化合物や、蛍光性化合物を含有したマウント剤も適用可能である。好例としては、DAPI染色剤、あるいはDAPI含有マウント剤が挙げられる。
(イメージングシステムの構成)
次に、蛍光画像ならびに位相画像の取得方法を、図1を用いて説明する。図1は、本発明の実施形態に係るイメージングシステムの構成の模式図である。イメージングシステムは、標本7の蛍光画像及び位相画像を取得する撮像装置100と、撮像装置100で取得された画像に対し各種画像処理を施す画像処理装置11を備えている。
(蛍光画像取得ユニット)
撮像装置100は、標本7の蛍光画像を取得するための蛍光画像取得ユニット(蛍光顕微鏡)を有している。以下、蛍光画像取得ユニットの構成について説明する。
蛍光励起用光源1から発せられた励起光は、励起光ユニット13を通り、光軸A2に沿って蛍光フィルターユニット3に導かれる。
蛍光フィルターユニット3は、図2に示すように、励起フィルター4と、吸収フィルター5と、ビームスプリッター6とをユニット化したものである。励起フィルター4は、標本を染色した蛍光性化合物の励起波長の光を透過させる光学部品である。吸収フィルター5は、標本を染色した蛍光性化合物の蛍光波長を含む波長の光を透過させる光学部品である。ビームスプリッター6は、入射光を透過光と反射光の二つの光に分離する光学部品である。ビームスプリッター6には公知のものが利用できる。好適には、特定波長よりも短い波長の光を反射すると共に、特定波長よりも長い波長の光を透過する性質を有する、波長依存型のビームスプリッターが適用される。このようなビームスプリッターを、ダイクロイックミラーと呼ぶこともある。
蛍光励起用光源1は、典型的には、発光ダイオード(LED)、金属ハロゲンまたは他のアークランプであるが、他のインコヒーレント光源またはレーザーのようなコヒーレント光源を使用することができる。また、蛍光励起用光源1の光は、複数の蛍光性の化合物に対応する励起光を含んでいる。それゆえ、発生した光を効率よく標本7に照射するために、励起光ユニット13にレンズあるいは反射板を設けることもできる。ビームスプリッ
ター6は、蛍光励起用光源1から発せられた励起光のうち、標本7を染色した蛍光色素の励起波長成分を反射して標本7の方向に導く。
典型的な例において、蛍光画像は下記の方法で取得される。本実施形態において、標本7は、少なくとも細胞核を染色するための蛍光性化合物で染色されており、励起光に応答して蛍光を発生する。そして発生した蛍光の一部は、第一レンズユニット8を介してビームスプリッター6へと導かれる。ビームスプリッター6は、第一レンズユニット8からの蛍光の一部を透過させる。透過した蛍光は光軸B9に沿って進み、第二レンズユニット25へと導かれる。さらに、第二レンズユニット25の先には画像取得ユニット10が配置されている。画像取得ユニット10で取得された蛍光画像のデータは、画像処理装置11に入力され、画像処理装置11で処理、記録される。また利用者は、取得した蛍光画像を画像処理装置11のディスプレイ(不図示)で確認することができる。
複数の蛍光性化合物で染色された標本の蛍光画像を取得する場合は、蛍光フィルターユニット3を交換すればよい。例えば、DAPIやHoechst33342による細胞核の蛍光染色を行った場合、UV励起用の蛍光フィルターユニット(励起フィルター:360〜370nm、吸収フィルター:420〜460nm、ダイクロイックミラー:410nm)を用いることができる。また、FITC標識抗体やDNAプローブなどを用いて標的物質の蛍光染色を行った場合は、B励起用の蛍光フィルターユニット(励起フィルター:470〜495nm、吸収フィルター:510〜550nm、ダイクロイックミラー:505nm)を用いることができる。また、TRITC(Tetramethylrhodamine−5−(and 6)−isothiocyanate)標識抗体やDNAプローブなどを用いて標的物質の蛍光染色を行った場合は、G励起用のフィルターユニット(励起フィルター:540〜550nm、吸収フィルター:575〜625nm、ダイクロイックミラー:570nm)を用いることができる。
撮像装置100は、一般に市販されている蛍光フィルターユニットを用いることができる。本実施形態においては、上記に示した波長特性と同じ、または類似した蛍光フィルターユニットを選択することができるし、新たに作製したユニットを選択しても良い。
また、細胞核の蛍光画像の取得に加えて、標本の自家蛍光を含む、別の蛍光画像を取得する場合、その励起・蛍光スペクトルに適した蛍光フィルターユニットを用意し、ユニットを自動または手動で入れ替えながら蛍光画像を取得することができる。さらに、蛍光用マルチバンドパスフィルターを用いれば、蛍光の多重染色画像を同時に取得することも可能となる。
さらには、蛍光フィルターユニットとして、公知の液晶波長可変フィルターユニットを使用することもできる。液晶波長可変フィルターユニットは、電圧の大きさによって任意にフィルター透過波長を設定することが可能で、様々な波長の光を選択的に透過、遮断することができる。これにより、上述した物理的なフィルターユニットの交換が不要となる。
また、蛍光画像取得ユニットには、必要に応じて、熱線カットフィルター(不図示)を備えることもできる。熱源カットフィルターは、可視光よりも波長が長い赤外線を吸収するフィルターであり、これにより標本7の過熱を抑制することができる。さらに、必要に応じて、紫外線カットフィルター(不図示)を備えることもできる。紫外線カットフィルターは、可視光よりも波長が短い紫外線を吸収するフィルターであり、これにより標本7の劣化を抑制することができる。
本実施形態において、細胞核の蛍光染色を行った標本の少なくとも一部の領域の蛍光画
像が取得される。取得する標本の領域は限定されない。例えば、標本のXY平面の全域の蛍光画像を取得しても良いし、XY平面の一部の領域の蛍光画像を取得しても良い。また、標本のZ軸方向においても限定はなく、標本の厚みを包括する全域を取得しても良いし、特定の領域(層)のみを取得しても良い。なお、Z軸方向は撮像装置100の光軸(光軸B9)に平行な方向であり、XY平面は、Z軸方向に垂直で且つ標本7の表面に平行な面である。
以上のとおり、本実施形態では、蛍光画像取得ユニットが、蛍光励起用光源1、励起光ユニット13、蛍光フィルターユニット3、第一レンズユニット8、第二レンズユニット25、及び、画像取得ユニット10から構成されている。
(位相画像取得ユニット)
撮像装置100は、標本7の位相画像を取得するための位相画像取得ユニットを有している。以下、位相画像取得ユニットの構成について説明する。
位相画像取得ユニットでは、位相画像として、位相差画像を取得してもよいし、定量位相画像を取得してもよい。定量位相画像とは、光が位相物体(例えば標本)を透過する際に生じる位相差量を、定量的に画像化したものである。それゆえ定量位相画像は、位相差画像とは異なり、光学的に薄い物体(例えば細胞質)は明るく可視化され、光学的に厚い物体(例えば細胞核)は暗く可視化される特徴を持つ。
図3に、位相差画像を取得するための位相画像取得ユニット(位相差顕微鏡)の構成例を示す。
透過照明用光源12から発せられた光は、照明ユニット14に送りこまれる。照明ユニット14は、コレクタレンズ15、視野絞り16、第一コンデンサレンズ17、リングスリット18、第二コンデンサレンズ19から構成される。また、第一コンデンサレンズ17、リングスリット18、第二コンデンサレンズ19をまとめて位相差観察用コンデンサユニット20と称されることもある。
照明ユニット14に送りこまれた光は、リングスリット18を介して、標本7に照射される。標本7に到達した光は、標本内部を直進する直接光と、位相物体により曲がって進んだ回折光とに分かれ、第一レンズユニット8で集光される。位相画像取得ユニットでは、対物レンズ21と位相板22から構成された位相差観察用の第一レンズユニット8を用いる。なお、蛍光観察と位相差観察とで第一レンズユニット8を入れ替えてもよいし、共用可能な構成の場合には同じ第一レンズユニット8を用いてもよい。また、第一レンズユニット8は、自動または手動により、所望の倍率のものに切り替えられるように構成されていてもよい。
位相板22には、光の位相を1/4λずらす効果を持つ1/4波長板と光を吸収するNDフィルター23がリング状に配置されている。それゆえ、対物レンズ21により集光された直接光は、位相板22により位相が1/4λずらされると同時に、NDフィルターにより減光される。一方、対物レンズ21により集光された回折光の大部分は、位相板22の透明部分を通過する。
そして、位相板22を通過した直接光と回折光は、光軸B9の方向に導かれ、第二レンズユニット25を介して、画像取得ユニット10に到達し、明暗のコントラストがついた位相差画像が取得される。また、位相差画像は、画像処理装置11で処理・記録され、利用者は、取得した位相差画像をディスプレイで確認することができる。
定量位相画像を取得するための位相画像取得ユニットとしては、微分干渉顕微鏡など公
知の方法を用いることができる。例えば、標本7からの透過光と、標本7を通過しない光(基準光)とを干渉させた干渉縞を取得し、フリンジスキャン法やフーリエ変換法などで干渉縞を解析して位相接続(フェイズ・アンラップ処理)することで定量位相画像を取得することができる。
また、トールボット干渉計を利用することで、基準光を必要とせずに定量位相画像を取得する方法が挙げられる。この方法では、トールボット型干渉計により得られる干渉縞を、フーリエ変換法などで解析して位相接続(フェイズ・アンラップ処理)することで、定量位相画像を取得することができる。例えば、トールボット干渉計を基本としてハルトマンマスクを改善した方法が、参考文献[Optics Express,Vol.17,
Issue 15,pp.13080−13094(2009)]に記載されている。
本実施形態において、取得される位相画像の領域は、取得した蛍光画像の領域の少なくとも一部の領域を含んでいればよい。例えば、取得した蛍光画像の領域(XY平面)と同じ大きさの領域(XY平面)の位相画像を取得しても良いし、違っていても良い。また、標本の厚み方向(Z軸方向)においても同様で、取得した蛍光画像と同じ層の位相画像を取得しても良いし、その層を包括する全域の位相画像を取得しても良い。
また、取得される蛍光画像の大きさと、取得される位相画像の大きさは、蛍光画像と位相画像のXY軸上の位置的関係が維持されている限り限定はなく、同じであっても良いし、異なっていても良い。
画像取得ユニット10は、標本7からの透過光や蛍光を電気信号に変換し、画像データを生成するためのイメージング用の撮像デバイスである。典型的には、CCDイメージセンサー、CMOSイメージセンサー、EM−CCDイメージセンサーなどを用いたモノクロあるいはカラーの高感度冷却カメラを、画像取得ユニット10として用いることができる。なお、本実施形態の撮像装置100は、市販のカメラを用いても良いし、新たに作製したカメラを用いても良い。
本実施形態では、蛍光画像取得ユニットと位相画像取得ユニットを一つの撮像装置100に実装している。この構成は、光学系の一部や画像取得ユニット10を共通にすることで、システム構成の簡易化・小型化・低コスト化を図ることができる利点をもつ。ただし、蛍光画像の取得と位相画像の取得を別個の画像取得ユニットで行ってもよいし、蛍光画像取得用の撮像装置と位相画像取得用の撮像装置を設けてもよい。
(画像処理装置)
図4は、画像処理装置11がもつ領域特定用画像の生成に関する機能の構成を模式的に示すブロック図である。画像処理装置11は、画像記憶部110、蛍光画像変換部111、位相画像変換部112、画像生成部113、画像ビューワ114、パラメータ設定部115などの機能を有している。
画像記憶部110は、撮像装置100で取得された画像データや画像処理装置11で生成された画像データを記憶する機能である。蛍光画像変換部111は、蛍光画像に対して第1の代替色を適用し代替色蛍光画像を生成する機能である。位相画像変換部112は、位相画像に対して第2の代替色を適用し代替色位相画像を生成する機能である。画像生成部113は、代替色蛍光画像と代替色位相画像とを合成して領域特定用画像を生成する機能である。
画像ビューワ114は、領域特定用画像をディスプレイに表示し、利用者による関心領域の探索・決定作業を支援するアプリケーションソフトウェアである。また、画像ビューワ114は、領域特定用画像と検査用の蛍光画像のあいだの対応領域を切り替え又は並べ
て表示し、利用者による関心領域の検査・診断を支援する機能も有する。
パラメータ設定部115は、蛍光画像変換部111、位相画像変換部112、画像生成部113で利用される画像処理パラメータを記憶する機能である。また、パラメータ設定部115は、利用者に画像処理パラメータの変更や選択を行わせる機能を提供してもよい。画像処理パラメータには、代替色を定義する情報と、合成方法を定義する情報とが含まれるとよい。代替色を定義する情報は、例えば、RGB値、Lab値HSV値、トーンカーブ、カラーパレット、カラールックアップテーブル、関数、色変換行列など、どのような形式でもよい。
画像処理装置11は、CPU(中央演算処理装置)、メモリ、補助記憶装置(ハードディスク、半導体ディスク、外部ストレージなど)、ディスプレイ、入力装置などを有するコンピュータにより構成することができる。本実施形態における画像処理装置11の機能は、補助記憶装置に格納されたプログラムをCPUが実行することで実現されるものである。なお、画像処理装置11の機能の一部又は全部をASICやFPGAなどの回路で実現してもよいし、クライアント−サーバシステムやクラウドコンピューティングや分散コンピューティングなどで実現してもよい。
また、画像処理装置11は、画像取得に必要な操作や、撮像装置100の制御も行う。例えば、励起光量の調整、蛍光フィルターユニットの切り替え、レンズの切り替え、露光時間の調整、視野絞りの調整、開口絞りの調整、標本ステージの移動、画像取得ユニットの感度調整などの制御が可能である。
(イメージングシステムの動作)
次に、イメージングシステムの動作の一例を、図5に示したフローチャートを用いて説明する。
ステップS50では、蛍光画像取得ユニットにより標本7の細胞核の蛍光画像が取得される。この蛍光画像のデータは画像処理装置11の画像記憶部110に格納される。一方、ステップS51では、位相画像取得ユニットにより同じ標本7の位相画像が取得される。この位相画像のデータは画像処理装置11の画像記憶部110に格納される。本実施形態では、蛍光画像と位相画像のいずれも8ビットのグレースケール画像(輝度情報を0〜255の値でもつ画像)である。
ステップS52では、蛍光画像変換部111が、画像記憶部110から蛍光画像を読み込むと共に、パラメータ設定部115から第1の代替色を定義する情報を読み込む。そして、蛍光画像変換部111は、蛍光画像に対して第1の代替色を適用し、蛍光画像の輝度情報を第1の代替色で表現した代替色蛍光画像を生成する。代替色蛍光画像のデータは、画像生成部113に渡される。
本明細書において「画像に対して代替色を適用する」とは、画像の各画素値(輝度情報を8ビットでもつ画像であれば、0〜255の値)に対し、代替色を割り当てる(マッピングする)操作を意味する。このような操作で得られる代替色画像は疑似カラー画像と呼ばれることもある。代替色を割り当てる操作には、様々な方法を用いることができる。例えば、代替色を定義する情報として、1つの色値(例えば最大画素値に対応するRGB値、Lab値、HSV値など)が与えられた場合は、当該色値を線形又は所定のトーンカーブにマッピングすることで各画素値に対応する色値を計算するとよい。また、代替色を定義する情報として、トーンカーブ、カラーパレット、カラールックアップテーブル、関数、色変換行列などが与えられた場合は、各画素値に対応する色値を取得ないし計算することができる。なお、代替色には、有彩色だけでなく、無彩色を用いることができる。また、画素値に応じて色相が変化するカラールックアップテーブルを用いることもできる。
本実施形態において、代替色を適用する目的は、後述の合成画像(領域特定用画像)において、関心領域を決定するために不可欠な細胞核の内側及び外側の構造的情報を視覚化させることにある。それゆえ、細胞核の蛍光画像に対して第1の代替色を適用する第一の目的は、標本における細胞核の位置情報に加え、細胞核内のより詳細な構造を可視化させることである。即ち、第1の代替色により核内の構造が可視化できるだけのコントラストが与えられればよく、細胞核の蛍光画像に適用する第1の代替色は、特に限定されるものではない。それゆえ第1の代替色には、任意の色を用いることができる。
一方で、染色に使用する蛍光性化合物は、化合物特有の蛍光色を発する性質を有している。利用者の指示に基づき、蛍光性化合物が有する蛍光色に類似した代替色を適用しても良い。例えば、DAPIやHoechst33342は、460〜480nm付近に蛍光
極大波長を持つDNAの蛍光染色剤であるが、蛍光波長域は、この蛍光極大波長を中心に400〜600nmまで広く分布している。それゆえ、代替色として青〜水色の色相範囲の色を適用しても良い。また、Acridine Orangeは、二本鎖DNAに結合して526nm付近に蛍光極大波長を持つ蛍光染色剤である。この場合は、代替色として緑〜オレンジ色の色相範囲の色を適用しても良い。
また病理学的検査においては、標本が有する詳細な情報を可視化させる方法として、ヘマトキシリン染色やH&E染色が利用され続けてきた。そして、長年に渡って蓄積されたヘマトキシリン染色やH&E染色に関する知見が、関心領域の決定に活用されている。それゆえ、関心領域を決定する際、任意の代替色や蛍光化合物に類似した代替色ではなく、ヘマトキシリン染色に類似した代替色が好まれる場合もあり得る。
ヘマトキシリンにより染色された細胞核は、典型的には450〜650nmにかけてブロードな吸収スペクトルを持つことが知られている。それゆえ、細胞核の蛍光染色画像に対してヘマトキシリン染色の同系色である、赤紫〜紫〜青紫〜青の色相範囲の色を適用しても良い。
蛍光画像変換部111は、細胞核の蛍光画像をカラー反転(ネガポジ反転)し、その後にヘマトキシリン染色の同系色を第1の代替色として適用すると良い。あるいは、この処理と同じ結果が得られるようなカラールックアップテーブルを用いてもよい。これにより、蛍光画像の背景色(典型的には黒色)が、ヘマトキシリン染色像やH&E染色像の背景色である白色に置換され、ヘマトキシリン染色によく近似した合成画像を得ることができる。
ステップS53では、位相画像変換部112が、画像記憶部110から位相画像を読み込むと共に、パラメータ設定部115から第2の代替色を定義する情報を読み込む。そして、位相画像変換部112は、位相画像に対して第2の代替色を適用し、位相画像の輝度情報を第2の代替色で表現した代替位相画像を生成する。代替位相画像のデータは、画像生成部113に渡される。
位相画像では、位相物体、即ち、コラーゲンなどの線維性の組織、線維芽細胞、細胞外マトリックス、結合組織、細胞膜、核小体などが、明瞭なコントラストを持って可視化される。そして、明瞭に可視化されたこれら構造が、関心領域を決定するための重要な判断材料となる。
それゆえ、位相画像と蛍光画像が合成された際に、細胞核の内側及び外側の詳細な構造の把握が可能なコントラストが得られるように、位相画像に適用する第2の代替色を選ぶと良い。即ち、位相画像に適用する第2の代替色は、細胞核の蛍光画像に適用した第1の
代替色と異なる色であれば、特に限定されるものではない。例えば第2の代替色は、無彩色及び有彩色の中から任意の色を選択することができる。
一方、上述したように、関心領域の決定においては、ヘマトキシリン染色、またはH&E染色で蓄積された多くの知見が利用される。それゆえ、位相画像に適用する第2の代替色においても、ヘマトキシリン染色、またはH&E染色に類似した代替色が好まれる場合もあり得る。
ヘマトキシリン染色の場合は、細胞核以外は無染色となる。これを模擬するのであれば、第2の代替色としては、グレースケール、又は、グレースケールに近い低彩度の色を用いるとよい。また、エオジンにより染色されたコラーゲン、線維芽細胞、細胞外マトリックス、結合組織、細胞膜などは、典型的には500〜550nmに極大吸収スペクトルを持つことが知られている。それゆえ、H&E染色を模擬するのであれば、エオジン染色の同系色である、赤〜赤紫〜紫の色相範囲の色を第2の代替色として用いるとよい。
ヘマトキシリンおよびエオジン染色の色合いは、染色条件により大きく異なり、染色を実施する術者や施設間でのばらつきが大きいことも知られている。それゆえ、各施設で得られたH&E染色標本の吸収スペクトルデータを調べて、この色相に対応した第1及び第2の代替色を適用しても良い。
ステップS54では、画像生成部113が、代替色蛍光画像と代替色位相画像を合成して、領域特定用画像を生成する。画像生成部113は、細胞核内外の詳細な構造を可視化させるために、代替色蛍光画像と代替色位相画像の位置的関係を保ったまま領域特定用画像を生成する。例えば、代替色蛍光画像が可視化する細胞核のクロマチンの分布と、代替色位相画像が可視化する細胞核の核小体が正しく重なるように、2つの画像のXY軸上の位置的関係を保つように重ね合わせる。
蛍光画像と位相画像のXY軸上の位置的関係を保つ方法としては、図1に代表されるイメージングシステムにおいて、XYステージ(不図示)の座標を保ち、蛍光画像と位相画像を連続的に取得していく方法が好適である。しかし、両画像を独立に取得し、その後、画像処理装置において、両画像の位置合わせを行うこともできる。
代替色蛍光画像と代替色位相画像の合成処理には、例えば、加算合成法、加算平均合成法、乗算、比較明合成法、アルファブレンドなどを用いることができる。加算合成法は、2つの画像の画素値を色チャンネルごとに加算する方法である。例えば、一方の画像の画素値が(R1,G1,B1)であり、他方の画像の画素値が(R2,G2,B2)である場合、加算合成により得られる画素値は(R1+R2,G1+G2,B1+B2)となる。加算平均合成法は、2つの画像の画素値を色チャンネルごとに平均する方法である。加算平均合成により得られる画素値は((R1+R2)÷2,(G1+G2)÷2,(B1+B2)÷2)となる。乗算は、2つの画像の画素値を色チャンネルごとに乗算する方法である。例えば、乗算により得られる画素値は((R1×R2)÷Rmax,(G1×G2)÷Gmax,(B1×B2)÷Bmax)となる。ここで、Rmax、Gmax、
Bmaxは各色チャンネルの最大値である。比較明合成法は、2つの画像の画素ごとの明度を比較し、高明度の方の画素値を用いて1枚の画像にする方法である。例えば、(R1,G1,B1)より(R2,G2,B2)の明度が高い場合は、合成後の画素値として(R2,G2,B2)が出力される。アルファブレンドは、透過度を決める係数(アルファ値)を用いて2つの画像の画素値を色チャンネルごとに重み付け加算する方法である。係数をaとしたとき、合成後の画素値は(a×R1+(1−a)×R2,a×G1+(1−a)×G2,a×B1+(1−a)×B2)となる。本実施形態において、合成方法に限定はないが、典型的には、加算合成法やアルファブレンドが適用される。また、画像を合
成する際、位相画像の透過度を変化させることで、結合組織のコントラストを任意に変更することもできる。
ステップS54で生成された領域特定用画像は、画像記憶部110に格納される。ステップS55では、画像ビューワ114が領域特定用画像をディスプレイに表示する。利用者は、マウスなどの入力装置を利用して、領域特定用画像の拡大/縮小、スクロールを行うことができる。そして、利用者は、結合組織や核小体を含む細胞核の構造的情報が視覚化された領域特定用画像を用いて、生物学的または病理学的な関心領域を決定することができる。その後、利用者は、画像ビューワ114上で、領域特定用画像を検査用の蛍光画像に切り替えたり、両画像を並べて表示し、関心領域としてマークした部分の標的物質の検査を行うことができる。
領域特定用画像の使用方法としては、例えば、IHCやISHにおいて、検体組織から複数の組織切片標本を作製し、その標本の一つをH&E染色し、大まかな関心領域を決定した後、領域特定用画像を用いて、より詳細な関心領域を決定する方法が挙げられる。また、H&E染色標本を使用せず、領域特定用画像を利用して、関心領域を決定し、その後、IHC検査やISH検査を実施する方法も挙げられる。なお、関心領域とは、例えばがんの浸潤部など、ある範囲を指す場合や、個々の細胞を指す場合もあり、限定されるものではない。
第一の実施形態において取得される各画像と領域特定用画像の利点を簡単に説明する。DAPIやHoechst33342などの蛍光性インターカレーターは、DNAに特異的に結合するため、標本における細胞核の位置情報や、クロマチンの分布状態を可視化することができる。しかし、タンパク質成分を多く含む核小体は、これらインターカレーターでは可視化させることができない。即ち、DAPIによる対比染色単独の蛍光画像は、関心領域を決定する為に必要な情報を可視化していない。一方、位相画像は、位相物体に明瞭なコントラストを与える。即ち、線維性組織、線維芽細胞、細胞外マトリックス、結合組織、細胞膜、核小体など、明瞭に可視化させる。それゆえ、蛍光画像と位相画像を取得・合成することで、関心領域を決定するために不可欠な細胞核の内側及び外側の構造的情報がより良く可視化される。これにより、FISH染色やIHC染色を用いた検査において、同一の標本からの関心領域の決定と標的物質の検査が可能となる。それゆえ、H&E染色標本で関心領域を決定する従来の方法に比べて、検査が大幅に迅速化、簡便化される。
次に、位相画像として定量位相画像を利用する効果について説明する。定量位相画像は、位相物体の位相差情報を定量的に可視化させた画像である。即ち、光学的に薄い物体、例えば、細胞質や薄いタンパク質の膜などは、薄く(明るく)可視化され、光学的に厚い物体、例えば、クロマチンや核小体は、厚く(暗く)可視化される。それゆえ、位相差観察法に見られるブライトコントラストやダークコントラストがなく、位相物体の有無や量をコントラスト差として可視化させることができる。それゆえ利用者は、得られた領域特定用画像をより直観的に(観たままに)解釈することができ、FISH染色やIHC染色を施した標本からの関心領域の決定がより容易となる。
<第二の実施形態>
本発明の第二の実施形態では、蛍光画像と位相画像に加え、結合組織の自家蛍光画像を用いることで、H&E染色画像に極めてよく近似した領域特定用画像を合成する方法について説明する。
自家蛍光画像に適用する第3の代替色は、エオジン染色の同系色である赤〜赤紫〜紫を適用すると良い。これにより、H&E染色と同様に、結合組織の構造に明瞭なコントラス
トを与えるだけでなく、標本中の赤血球を明瞭に可視化させることができる。さらに、よりエオジン染色に近似した画像を得るために、自家蛍光画像をカラー反転(ネガポジ反転)することで背景色を白色に置換した後、エオジン染色の同系色を適用するとよい。さらに位相画像には、自家蛍光で表現した結合組織に更なるコントラストを与えるように、グレースケール、又は、グレースケールに近い低彩度の代替色を適用するとよい。
図6は、第二の実施形態の画像処理装置11の機能構成を模式的に示すブロック図である。第一の実施形態の機能構成(図4)との違いは、自家蛍光画像変換部116を有する点である。自家蛍光画像変換部116は、標本7の自家蛍光画像に対して第3の代替色を適用し代替色自家蛍光画像を生成する機能である。
図7のフローチャートを用いて、第二の実施形態のイメージングシステムの動作の一例を説明する。
ステップS70では、蛍光画像取得ユニットが標本7の細胞核の蛍光画像を取得する。またステップS71では、蛍光画像取得ユニットが自家蛍光画像取得用のフィルターユニットに切り替え、同じ標本7の自家蛍光画像を取得する。さらにステップS72では、位相画像取得ユニットが同じ標本7の位相画像を取得する。これらの画像データは画像処理装置11の画像記憶部110に格納される。
次に、蛍光画像変換部111が、細胞核の蛍光画像をカラー反転(ネガポジ反転)し(ステップS73)、その後、第1の代替色として、ヘマトキシリン染色の同系色(例えば青紫色)を適用する(ステップS74)。また、自家蛍光画像変換部116が、自家蛍光画像をカラー反転(ネガポジ反転)し(ステップS75)、その後、第3の代替色として、エオジン染色の同系色(例えば赤紫色)を適用する(ステップS76)。また、位相画像変換部112が、位相画像に対して第2の代替色としてグレースケールを適用する(ステップS77)。そして、画像生成部113が、代替色蛍光画像と代替色位相画像と代替色自家蛍光画像を合成して、領域特定用画像を生成する(ステップS78)。この領域特定用画像は、H&E染色で可視化される細胞内外の詳細な構造を非常によく再現している。例えば、後述の検討例1(図10A)に示したように、細胞核の蛍光画像と自家蛍光画像から生成された合成画像は、線維性の結合組織の構造を詳細に可視化することができない。一方、本実施形態では、この合成画像に対し、位相画像の情報、即ち、線維性組織、線維芽細胞、細胞外マトリックス、結合組織、細胞膜、核小体の明瞭なコントラストが重ねられるため、関心領域の決定に適した画像が得られることになる。
それゆえ利用者は、病理学的検査において広く慣れ親しんだH&E染色によく近似した画像を用いて、関心領域を決定することができる(ステップS79)。即ち、病理学的検査分野において数十年に渡って蓄積されたヘマトキシリン染色またはH&E染色に関する知見をそのまま利用できるようになり、より正確な関心領域の決定が可能となる。
<第三の実施形態>
本発明の第三の実施形態では、デフォーカスを変えて撮像された複数の明視野画像を合成して位相画像を生成する方法について説明する。
(明視野画像取得ユニット)
図1及び図8を参照して、本実施形態の撮像装置100が備える明視野画像取得ユニットの構成を説明する。図1はイメージングシステムの全体構成を模式的に示す図であり、図8は明視野画像取得ユニットの構成を模式的に示す図である。なお、蛍光画像取得ユニットの構成は第一の実施形態と同じものを用いることができるので、説明を省略する。
図8に示すように、本実施形態の明視野画像取得ユニットは、透過照明用光源12、照
明ユニット14、第一レンズユニット8、第二レンズユニット25、及び、画像取得ユニット10から構成される明視野顕微鏡である。照明ユニット14は、コレクタレンズ26、視野絞り27、第一コンデンサレンズ28、開口絞り29、第二コンデンサレンズ30を有する。第一コンデンサレンズ28、開口絞り29、第二コンデンサレンズ30をまとめて明視野観察用コンデンサユニット31と称されることもある。第一レンズユニット8、第二レンズユニット、及び、画像取得ユニット14については、第一の実施形態と同じものを用いることができる。
透過照明用光源12から発せられた光は、照明ユニット14を介して、標本7に照射される。標本7を透過した光は、第一レンズユニット8及び第二レンズユニット25を介して、画像取得ユニット10に結像する。そして、画像取得ユニット10によって明視野画像が取得され、そのデータは画像処理装置11に送信される。
本実施形態では、明視野画像取得ユニットによって、デフォーカスを変えながら標本7を複数回撮像し、デフォーカスの異なる(Z軸方向の焦点位置が異なる)複数の明視野画像が取得される。具体的には、第一レンズユニット8を、自動または手動で、任意の距離(Z軸方向)と幅で移動しながら、画像取得ユニット10で画像を取り込む。これにより、標本7に対するZ軸方向の焦点位置が異なる複数の明視野画像が得られる。また、別の方法として、標本7を保持するXYZステージ(不図示)をZ軸方向に所定のピッチで移動させながら複数回の撮像を行うことでも、同様の画像群を取得することができる。このような撮像手法は、Zスタック撮像、又はフォーカス・ブラケッティングとも呼ばれる。撮像装置100によって得られた複数の明視野画像のデータは、画像処理装置11の画像記憶部110に格納される。
図9は、第三の実施形態の画像処理装置11の機能構成を模式的に示すブロック図である。第一の実施形態の機能構成(図4)との違いは、位相画像生成部117を有する点である。位相画像生成部117は、デフォーカスを変えて撮像された複数の明視野画像から位相画像を生成する機能である。
位相画像生成部117は、画像記憶部110から複数の明視野画像のデータを読み込み、それらを合成して位相画像を生成する。生成された位相画像は位相画像変換部112に出力され、第一の実施形態や第二の実施形態で述べた領域特定用画像の生成に利用される。
複数の明視野画像を合成して位相画像を生成する方法には、公知の方法を含め、どのような方法を用いてもよい。例えば、デフォーカスを変えた複数の明視野画像にTIE(Transport Intensity Equation)法を適用することで定量位相画像を取得する方法が、参考文献[JOSA,Vol.73,Issue 11,pp.1434−1441(1983)]に記載されている。本実施形態の位相画像生成部117はこの参考文献の方法を用いることとする。
さらに、上記の方法で取得された定量位相画像からは、微分干渉顕微鏡で取得可能な微分干渉画像や、位相差顕微鏡で取得可能な位相差画像を合成することもできる。例えば、上記のデフォーカスを変えた複数の明視野画像にTIE法を適用することで、定量位相画像だけでなく、位相差画像、微分干渉画像を取得することができる。
本実施形態では、蛍光画像取得ユニットと明視野画像取得ユニットを一つの撮像装置100に実装している。この構成は、光学系の一部や画像取得ユニット10を共通にすることで、システム構成の簡易化・小型化・低コスト化を図ることができる利点をもつ。ただし、蛍光画像の取得と明視野画像の取得を別個の画像取得ユニットで行ってもよいし、蛍
光画像取得用の撮像装置と明視野画像取得用の撮像装置を設けてもよい。例えば、蛍光画像や明視野画像を取得するための高感度モノクロカメラとは別に、明視野画像を取得する為のカラーカメラを搭載し、モノクロカメラの画像から領域特定用画像を生成し、カラーカメラによりH&E染色標本などのカラー画像を取得してもよい。
以上述べた本実施形態の構成によれば、明視野画像から位相差画像や定量位相画像の合成が可能となる。それゆえ、位相画像を取得するための専用のユニットが不要となる。例えば、図3に示したような、位相差画像を取得するための位相差観察用対物レンズや位相差板、または、定量位相画像を取得する為の専用CCDカメラが不要となる。それゆえ、標本の撮影が簡便になるだけでなく、イメージングシステムの小型化も可能となる。
本実施形態では、正立型顕微鏡システムを例に説明したが、本発明はこれに限らず、倒立型顕微鏡システムにも適用することができる。
<実施例>
以下、本発明の効果及び利点を説明するために、いくつかの検討例と本発明の実施例を説明する。ただし、下記の実施例は本発明を例示するものに過ぎず、本発明の範囲は下記の実施例により何ら限定されるものではない。
[検討例1]
検討例1では、関心領域の決定に用いる領域特定用画像を生成するに当たり、細胞核ならびに結合組織が最も明瞭に可視化される画像の取得方法を選定した。以下に、その選定方法と結果を示す。
(1)標本の脱パラフィン処理
浸潤性乳管癌のホルマリン固定パラフィン包埋組織切片スライド標本(US Biomax社)の脱パラフィン処理は、以下の手順で行った。
a)キシレン(和光純薬工業社)を入れた容器に上記の標本を浸漬し、室温で10分間、静置させた。また、この操作を3回行った。
b)99.5%エタノール(和光純薬工業社)を入れた容器に標本を浸漬し、室温で5分間、静置させた。また、この操作を2回行った。
c)90%エタノールを入れた容器に標本を浸漬し、室温で5分間、静置させた。
d)80%エタノールを入れた容器に標本を浸漬し、室温で5分間、静置させた。
e)70%エタノールを入れた容器に標本を浸漬し、室温で5分間、静置させた。
f)超純水を入れた容器に標本を浸漬し、室温で3分間、静置させた。また、この操作を3回行った。
g)標本を室温で乾燥させた。
(2)標本中の細胞核の蛍光染色
脱パラフィン処理を行った標本に、DAPI含有水溶性マウント(ベクターラボラトリーズ社)を30μL滴下し、22×22mmのカバーグラス(松浪硝子工業社)を被せ、これを細胞核の蛍光染色標本とした。
(3)自家蛍光画像を用いた合成画像の取得
上記の蛍光染色標本を用いて、細胞核の蛍光画像と、組織由来の自家蛍光画像を取得した。尚、画像の取得に当たっては、図1に示したイメージングシステムを使用した。また、以降の検討において、特に記載がない限り、撮影には40倍の対物レンズ(NA0.75)を使用した。
始めに、U励起用の蛍光フィルターユニットを用いて、細胞核(DAPI)の蛍光画像を取得した。次に、G励起用のフィルターユニットを用いて、標本の自家蛍光画像を取得した。
次に、細胞核の蛍光画像をカラー反転し、その後、ヘマトキシリン染色に類似した代替色(青紫色)を適用した。同様に、自家蛍光画像をカラー反転し、その後、エオジン染色に類似した代替色(赤紫)を適用した。最後に、二つの画像から合成画像を生成した。
(4)暗視野画像を用いた合成画像の取得
操作(3)で使用した標本を用いて、細胞核の蛍光画像、組織由来の自家蛍光画像、ならびに暗視野画像を取得した。
始めに、U励起用の蛍光フィルターユニットを用いて、細胞核(DAPI)の蛍光画像を取得した。次に、G励起用のフィルターユニットを用いて、標本の自家蛍光画像を取得した。次に、暗視野観察に対応した対物レンズ(40倍、NA0.65)と暗視野観察用コンデンサを用いて、標本の暗視野画像を取得した。
次に、細胞核の蛍光画像をカラー反転し、その後、ヘマトキシリン染色に類似した代替色(青紫色)を適用した。同様に、自家蛍光画像をカラー反転し、その後、エオジン染色に類似した代替色(赤紫)を適用した。さらに、暗視野画像にはグレースケールの代替色を適用し、三つの画像から合成画像を生成した。
(5)位相差画像を用いた合成画像の取得
操作(3)で使用した標本を用いて、細胞核の蛍光画像、組織由来の自家蛍光画像、ならびに位相差画像を取得した。
始めに、U励起用の蛍光フィルターユニットを用いて、細胞核(DAPI)の蛍光画像を取得した。次に、G励起用のフィルターユニットを用いて、標本の自家蛍光画像を取得した。次に、位相差観察に対応した対物レンズ(40倍、NA0.75)と位相差観察用コンデンサを用いて、標本の位相差画像を取得した。
次に、細胞核の蛍光画像をカラー反転し、その後、ヘマトキシリン染色に類似した代替色(青紫色)を適用した。同様に、自家蛍光画像をカラー反転し、その後、エオジン染色に類似した代替色(赤紫)を適用した。さらに、位相差画像にはグレースケールの代替色を適用し、三つの画像から合成画像を生成した。
(6)合成画像の比較
図10Aは、操作(3)で得られたDAPI蛍光画像と自家蛍光画像の合成画像である。この合成画像は前述の特許文献2の方法で得られる画像に相当する。DAPIによる細胞核の位置情報と共に、自家蛍光画像により結合組織が可視化されている。しかし、エオジン染色に相当する自家蛍光画像では、核小体や結合組織の詳細な構造を明瞭に可視化させることが出来なかった。それゆえ、本合成画像は、関心領域の決定に必要な情報を十分に可視化させているとは言い難かった。
図10Bは、操作(4)で得られたDAPI蛍光画像、自家蛍光画像、暗視野画像の合成画像である。この合成画像は前述の特許文献1の方法で得られる画像に相当する。DAPIによる細胞核の位置情報と共に、自家蛍光画像ならびに暗視野画像により結合組織が可視化されている。しかし、エオジン染色に相当する自家蛍光画像ならびに暗視野画像では、図10Aの合成画像と同様に、結合組織の詳細な構造を可視化させることが出来なかった。それゆえ、本合成画像は、関心領域の決定に必要な情報を十分に可視化させているとは言い難かった。
図10Cは、操作(5)で得られたDAPI蛍光画像、自家蛍光画像、位相差画像の合成画像である。この合成画像は前述の第二の実施形態の方法で得られる領域特定用画像に相当する。DAPIによる細胞核の位置情報と共に、位相差画像により結合組織が可視化されている。位相差観察は、蛍光観察や暗視野観察とは異なり、標本が持つ位相差をコントラストに変換して画像化する特徴を持つ。それゆえ図10Cの画像では、図10Aや図10Bの画像では確認することができなかった線維性の結合組織に適切なコントラストが
与えられ、詳細な構造が可視化されている。
以上の検討により、蛍光画像と位相画像による合成画像(図10C)が、最も明瞭に細胞核ならびに結合組織を可視化できることが分かった。
[検討例2]
検討例2では、蛍光画像と位相画像から領域特定用画像を生成するに当たり、より関心領域の決定に適した位相画像を選定するための検討を行った。以下に、その検討方法と結果を示す。
ヒト正常乳腺のホルマリン固定パラフィン包埋組織切片スライド標本(BioChain社)の脱パラフィン処理を上記の操作(1)の手順に従って実施した。その後、以下の手順に従い、標本の脱水、透徹、封入を行った。
(脱水操作)
a)85%エタノールを入れた容器に標本を浸漬し、室温で5分間、静置させた。
b)95%エタノールを入れた容器に標本を浸漬し、室温で5分間、静置させた。
c)99.5%エタノールを入れた容器に標本を浸漬し、室温で5分間、静置させた。
d)99.5%エタノールを入れた容器に標本を浸漬し、室温で5分間、静置させた。
(透徹操作)
e)キシレンを入れた容器に標本を浸漬し、室温で5分間、静置させた。
f)キシレンを入れた容器に標本を浸漬し、室温で5分間、静置させた。
(封入操作)
g)マウント剤を標本に滴下し、22×22mmのカバーグラスを被せ、ヒト正常乳腺の無染色標本を作製した。
次に、位相差観察に対応した対物レンズ(40倍、NA0.75)と位相差観察用コンデンサを用いて、無染色標本の位相差画像を取得した。
次に、明視野観察に対応した対物レンズ(40倍、NA0.75)と明視野観察用コンデンサを用いて、対物レンズをZ軸方向に0.3μmずつ移動させながら、無染色標本のZスタック明視野画像を取得した。その後、取得した複数枚の明視野画像から、定量位相画像と位相差画像を合成した。
さらに、フェーズイメージングカメラ(PHASICS社)を用いて、無染色標本の定量位相画像を取得した。
図11Aは、位相差観察により取得した位相差画像である。線維性の組織や細胞膜などの組織構造が識別できるだけでなく、核小体も明瞭に識別できる。
図11Bは、フェーズイメージングカメラにより取得した定量位相画像である。定量位相画像では、組織構造が定量的に可視化されるため、Z軸方向に厚みのある画像が得られる。図11Aの画像と比較して、結合組織の構造がより明瞭に可視化される半面、膜成分が細胞核を覆うため、核小体の視認性が低下することが分かった。
図11Cは、デフォーカスを変えた複数枚の明視野画像から合成した定量位相画像である。図11Bの画像と同様に、結合組織の構造がより明瞭に可視化される半面、膜成分が細胞核を覆うため、核小体の視認性が低下している。
図11Dは、デフォーカスを変えた複数枚の明視野画像から合成した位相差画像である。図11Aと同様に、線維性の組織や細胞膜などの組織構造が可視化されるに加え、核小体を明瞭に確認することができる。
以上のように、位相差画像と定量位相画像は、それぞれ異なる特徴を示しており、関心領域を決定する際には、これらの画像を使い分ける方法が効果的と言える。
[実施例1]
FISH染色標本のDAPI蛍光画像と位相差画像を取得し、それらを合成した領域特定用画像を生成し、細胞核内外の構造を可視化させた。尚、検討に使用したHER2−FISHポジティブコントロールスライド標本(パソロジー研究所社)のFISH染色は下記の手順で実施した。
a)標本の脱パラフィン処理を操作(1)の手順に従って実施した。
b)96〜98℃に加温した10mMクエン酸緩衝液中に標本を浸漬させて、20分間、過熱した。
c)純水を入れた容器に標本を浸漬し、室温で2分間、静置させた。尚、この操作は2回行った。
d)標本にプロテアーゼ溶液を200μL滴下し、湿潤箱中で30分間、静置した。
e)純水を入れた容器に標本を浸漬し、室温で2分間、静置させた。この操作は2回行った。
f)2×SSCを入れた容器に標本を浸漬し、室温で2分間、静置させた。この操作は2回行った。
g)標本の脱水を検討例2(脱水操作)の手順に従って実施し、その後、標本を乾燥させた。
h)標本にHER2−FISHプローブ(KREATECH社)を10μL滴下し、22×22mmのカバーグラスを被せて、37℃の湿潤インキュベーター内で一昼夜、静置した。
i)50%ホルムアミド含有2×SSCを入れた容器に標本を浸漬し、45℃で10分間、静置させた。この操作は3回行った。
j)0.1%NP−40含有2×SSCを入れた容器に標本を浸漬し、45℃で10分間、静置させた。
k)2×SSCを入れた容器に標本を浸漬し、室温で10分間、静置させた。
l)標本の脱水を検討例2(脱水操作)の手順に従って実施し、その後、標本を乾燥させた。
m)DAPI含有水溶性マウントを30μL滴下し、22×22mmのカバーグラスを被せ、これをFISH染色標本とした。
上記のFISH染色標本を用いて、蛍光画像と位相差画像の合成画像を作成した。
始めに、蛍光観察に対応した対物レンズ(40倍、NA0.95)を用いて蛍光画像を取得した。まず、U励起用の蛍光フィルターユニットを用いて、DAPI蛍光画像を取得した。次に、B励起用の蛍光フィルターユニットを用いて、CEP17(17番染色体セントロメア)の蛍光画像を取得した。次に、G励起用の蛍光フィルターユニットを用いて、HER2遺伝子の蛍光画像を取得した。次に、位相差観察に対応した対物レンズと位相差観察用コンデンサを用いて、FISH染色標本の位相差画像を取得した。
次に、取得した蛍光画像ならびに位相差画像に対し代替色を適用した。尚、代替色は、DAPI、CEP17、HER2遺伝子、位相差の順に、青、緑、赤、グレースケールを適用した。その後、4枚の画像を加算合成法により重ね合わせ、1枚の合成画像を生成した。
図12Aは、FISH染色標本の蛍光画像であり、図12Bはその一部拡大像である。細胞核の内部に、CEP17とHER2遺伝子の蛍光シグナルを確認することができる。しかし、図12Aの蛍光画像からは、細胞核内外の詳細な構造を確認することは出来ない。
図12Cは、FISH染色標本の蛍光画像と位相差画像から生成した領域特定用画像であり、図12Dはその一部拡大像である。細胞核の位置情報やCEP17とHER2遺伝
子の蛍光シグナルに加えて、細胞膜、核膜、核小体なども可視化されている。
以上のように、実施例1の方法を用いることで、FISH染色標本からの関心領域の決定と標的物質の検査が可能となる。それゆえ、膨大な手間と熟練性を要していたH&E染色を用いた関心領域の特定作業が不要となり、検査が迅速化、簡便化される。また、領域特定用画像から決定した腫瘍細胞そのものの遺伝子増幅やタンパク過剰発現を調べることも可能で、より直接的な検査結果を得ることができる。
[実施例2]
実施例2では、DAPI染色標本の蛍光画像と位相差画像と自家蛍光画像を取得し、それらを合成してH&E染色に近似した領域特定用画像を生成した。
始めに、ヒト正常乳腺のホルマリン固定パラフィン包埋組織切片スライド標本(BioChain社)の脱パラフィン処理を、検討例1に記載の操作(1)に従って実施した。次に、脱パラフィン処理を行った標本に、DAPI含有水溶性マウントを30μL滴下し、22×22mmのカバーグラスを被せ、これを細胞核の蛍光染色標本とした。その後、検討例1に記載の操作(5)に従って蛍光画像、位相差画像、及び自家蛍光画像を取得し、それらを合成して、H&E染色によく近似した領域特定用画像を生成した。
次に、コントロール標本として、上記の蛍光染色標本のH&E染色と明視野画像の取得を行った。尚、標本のH&E染色は、以下の手順で行った。
a)PBSを入れた容器に標本を浸漬し、室温で一昼夜、静置させた。
b)PBSを入れた容器に標本を浸漬し、室温で5分間、静置させた。この操作を2回行った。
c)ヘマトキシリン(サクラファインテックジャパン社)を入れた容器に標本を浸漬し、室温で5分間、静置させた。
d)水道水を用いて標本の色出しを行い、細胞核のヘマトキシリン染色を行った。
e)エオジン(サクラファインテックジャパン社)を入れた容器に標本を浸漬し、室温で1分間、静置させた。
f)85%エタノール、95%エタノール、無水エタノールを入れた容器をそれぞれ準備し、標本を順に浸漬し、余分なエオジンを洗い流した。
g)キシレンを入れた容器に標本を浸漬し、室温で3分間、静置させた。この操作を2回行った。
h)マウント剤を標本に滴下し、22×22mmのカバーグラスを被せ、H&E染色標本を作製した。
最後に、40倍の対物レンズ(NA0.75)と明視野コンデンサを用いて、作製したH&E染色標本の明視野画像を取得した。
図13Aは、蛍光画像と位相差画像と自家蛍光画像から合成した領域特定用画像であり、図13Cは、同一標本のH&E染色画像である。両画像の比較から明らかなように、生成した領域特定用画像では、細胞核の位置情報に加え、線維性組織が明瞭に可視化されている。
更に、図13Bは、図13Aの領域特定用画像の一部拡大像であり、図13Dは、図13CのH&E染色画像の一部拡大像である。両画像の比較から明らかなように、領域特定用画像でも、H&E染色が可視化する核内情報(クロマチンの局在等)が十分に確認できることが分かる。
以上のように、蛍光画像と位相差画像と自家蛍光画像から合成した領域特定用画像は、H&E染色がもたらす細胞核内外の構造的情報を非常に良く反映している。さらに、細胞核にはヘマトキシリン染色に類似した青紫を適用し、また、細胞膜成分にはエオジン染色に類似した赤紫色を適用しているため、H&E染色に極めて近似した合成画像となってい
る。それゆえ、本実施例の方法では、病理学的検査において広く慣れ親しんだH&E染色に近似した画像を用いて、関心領域を決定することができる。
[実施例3]
実施例3では、DAPI染色標本の蛍光画像と定量位相画像を取得し、それらを合成した領域特定用画像を生成し、核内構造を可視化させた。尚、検討に使用したHER2−FISHポジティブコントロールスライド標本のDAPI染色は、下記の手順で実施した。
a)標本の脱パラフィン処理を操作(1)の手順に従って実施した。
b)標本の脱水は、検討例2(脱水操作)の手順に従って実施し、その後、標本を乾燥させた。
c)DAPI含有水溶性マウントを30μL滴下し、22×22mmのカバーグラスを被せ、これをDAPI染色標本とした。
始めに、U励起用の蛍光フィルターユニットを用いて、標本のDAPI蛍光画像を取得した。次に、位相差観察に対応した対物レンズと位相差観察用コンデンサを用いて、標本の位相差画像を取得した。次に、フェーズイメージングカメラを用いて、標本の定量位相画像を取得した。
その後、DAPI蛍光画像には青紫色の代替色を適用し、位相差画像には赤紫の代替色を適用し、2枚の画像を加算合成法により重ね合わせ、1枚の領域特定用画像を生成した。同様に、DAPI蛍光画像には青紫色の代替色を、定量位相画像には赤紫の代替色を適用し、それらを合成して領域特定用画像を生成した。
図14Aは、DAPI蛍光画像と位相差画像から生成した領域特定用画像である。細胞核の位置的情報だけでなく、細胞膜、核膜、核小体などを確認することができる。
図14Bは、DAPI蛍光画像と定量位相画像から生成した領域特定用画像である。細胞核の位置的情報、細胞膜、核膜、核小体だけでなく、図14Aでは識別できなかった薄いタンパク質の膜成分も可視化されている。
以上のように、DAPI蛍光画像と定量位相画像から生成した領域特定用画像では、DAPI蛍光画像と位相差画像から生成させた領域特定用画像とは異なり、標本が有する位相情報が定量的に可視化される。例えば、図14Bが示すように、タンパク質の膜成分の重なりが明暗で可視化されるため、標本の立体的な把握が容易になる。また代替色として、細胞核にはヘマトキシリン染色に類似した青紫を適用し、また、細胞膜成分(定量位相画像)にはエオジン染色に類似した赤紫色を適用しているため、図14Bの画像は、図14Aに比べてよりH&E染色に類似した画像となっている。
[実施例4]
実施例4では、図1に示したイメージングシステムにより、IHC染色標本のDAPI染色画像とデフォーカスを変えた複数の明視野画像を取得し、それらを合成した領域特定用画像により、核内外の構造を可視化させた。尚、検討に使用したHER2−IHCポジティブコントロールスライド標本(パソロジー研究所社)の免疫蛍光染色は下記の手順で実施した。
a)標本の脱パラフィン処理を操作(1)の手順に従って実施した。
b)標本にプロテアーゼ溶液を100μL滴下し、湿潤箱中で5分間、静置した。
c)PBSを入れた容器に標本を浸漬し、室温で3分間、静置させた。この操作は3回行った。
d)5μg/mLのマウス抗ヒトHER2モノクローナル抗体溶液(ニチレイバイオサイエンス社)を100μL滴下し、湿潤箱中で30分間、静置した。
e)PBSを入れた容器に標本を浸漬し、室温で3分間、静置させた。この操作は3回
行った。
f)10μg/mLのTRITC標識Goat抗マウスIgGポリクローナル抗体溶液(Santa Cruz社)を100μL滴下し、湿潤箱中で60分間、静置した。
g)PBSを入れた容器に標本を浸漬し、室温で3分間、静置させた。この操作は3回行った。
h)標本の脱水を検討例2(脱水操作)の手順に従って実施し、その後、標本を乾燥させた。
i)DAPI含有水溶性マウントを30μL滴下し、22×22mmのカバーグラスを被せ、これをIHC染色標本とした。
IHC染色標本の蛍光画像と明視野画像は、図1に示したイメージングシステムにより取得した。始めに、IHC染色標本を標本ステージに設置した。次に、画像処理装置11で動作するソフトウェアを用いて、露光時間(U励起:2秒、G励起:4秒、明視野観察:0.2秒)とZ間隔(0.3μm)を設定し、標本の蛍光画像および明視野画像を取得した。
次に、取得した明視野画像から位相画像(定量位相画像ならびに位相差画像)を生成した。
次に、蛍光画像ならびに位相画像に対し代替色(DAPI:青紫、TRITC:赤、位相画像:グレースケール)を適用した。その後、蛍光画像と定量位相画像を合成した領域特定用画像、ならびに蛍光画像と位相差画像を合成した領域特定用画像を生成した。
図15Aは、IHC染色標本の蛍光画像である。細胞核(DAPI)が青紫色で、HER2タンパク(TRITC)が赤色で可視化されている。しかし、図15Aの蛍光画像からは、核小体などの細胞内の構造を確認することは出来ない。
図15Bは、IHC染色標本の蛍光画像と定量位相画像から生成した領域特定用画像である。細胞核の位置的情報ならびにHER2タンパクシグナルだけでなく、細胞の境界面、細胞質、核小体も可視化されている。さらに、細胞膜や細胞質成分が定量的に可視化されているため、15Bの画像はヘマトキシリン染色に類似した画像として視認される。
図15Cは、IHC染色標本の蛍光画像と位相差画像から生成した領域特定用画像である。この画像では、細胞核を覆っていた細胞膜や細胞質成分が除かれるため、核内の構造をより明瞭に視認することができる。
以上のように、本実施例では、蛍光画像と明視野画像から、特徴の異なる複数の領域特定用画像を生成することが可能である。これにより利用者は、一方の領域特定用画像から標本の組織構造を定量的(直観的)に把握し、他方の領域特定用画像から細胞核内の詳細な構造を把握することが可能となる。これによりIHC染色標本からの関心領域の決定が可能となり、決定した領域そのものの標的物質シグナルの観察・解析が実施できるようになる。
<他の実施形態>
以上述べた各実施形態及び各実施例は、本発明の好ましい具体例を示したものにすぎず、本発明の範囲はこれらの具体例に限られない。例えば、領域特定用画像の合成に用いる画像(蛍光画像、位相画像、自家蛍光画像、明視野画像など)はどのような装置で取得してもよいし、どのような順番で取得してもよい。また、フローチャートに示した処理手順は一例であり、必要に応じて、処理の順番を入れ替えたり、処理を並列に実行したりしてもよい。
11:画像処理装置、111:蛍光画像変換部、112:位相画像変換部、113:画像生成部、116:自家蛍光画像変換部、100:撮像装置

Claims (18)

  1. 蛍光染色標本内の関心領域を特定するのに適した領域特定用画像を生成する画像処理装置であって、
    蛍光染色標本の蛍光画像に対して第1の代替色を適用し、前記蛍光画像の輝度情報を前記第1の代替色で表現する代替色蛍光画像を生成する蛍光画像変換手段と、
    前記蛍光染色標本の位相画像に対して前記第1の代替色と異なる第2の代替色を適用し、前記位相画像の輝度情報を前記第2の代替色で表現する代替色位相画像を生成する位相画像変換手段と、
    前記代替色蛍光画像と前記代替色位相画像とを合成して領域特定用画像を生成する画像生成手段と、
    を備えることを特徴とする画像処理装置。
  2. 前記第1の代替色は、ヘマトキシリン染色と同系色であり、
    前記第2の代替色は、グレースケール、又は、エオジン染色と同系色である
    ことを特徴とする請求項1に記載の画像処理装置。
  3. 前記第1の代替色は、赤紫から青の色相範囲内の色であり、
    前記第2の代替色は、グレースケール、又は、赤から紫の色相範囲内の色である
    ことを特徴とする請求項1に記載の画像処理装置。
  4. 蛍光染色標本内の関心領域を特定するのに適した領域特定用画像を生成する画像処理装置であって、
    蛍光染色標本の蛍光画像に対して第1の代替色を適用し、前記蛍光画像の輝度情報を前記第1の代替色で表現する代替色蛍光画像を生成する蛍光画像変換手段と、
    前記蛍光染色標本の位相画像に対して前記第1の代替色と異なる第2の代替色を適用し、前記位相画像の輝度情報を前記第2の代替色で表現する代替色位相画像を生成する位相画像変換手段と、
    前記蛍光染色標本の自家蛍光画像に対して前記第1の代替色と異なる第3の代替色を適用し、前記自家蛍光画像の輝度情報を前記第3の代替色で表現する代替色自家蛍光画像を生成する自家蛍光画像変換手段と、
    前記代替色蛍光画像と前記代替色位相画像と前記代替色自家蛍光画像とを合成して領域特定用画像を生成する画像生成手段と、
    を備えることを特徴とする画像処理装置。
  5. 前記第1の代替色は、ヘマトキシリン染色と同系色であり、
    前記第2の代替色は、グレースケール、又は、エオジン染色と同系色であり、
    前記第3の代替色は、グレースケール、又は、エオジン染色と同系色である
    ことを特徴とする請求項3に記載の画像処理装置。
  6. 前記第1の代替色は、赤紫から青の色相範囲内の色であり、
    前記第2の代替色は、グレースケール、又は、赤から紫の色相範囲内の色であり、
    前記第3の代替色は、グレースケール、又は、赤から紫の色相範囲内の色である
    ことを特徴とする請求項4に記載の画像処理装置。
  7. 前記位相画像は、定量位相画像又は位相差画像である
    ことを特徴とする請求項1〜6のうちいずれか1項に記載の画像処理装置。
  8. 前記蛍光画像は、蛍光顕微鏡により取得された画像である
    ことを特徴とする請求項1〜7のうちいずれか1項に記載の画像処理装置。
  9. 前記位相画像は、位相差顕微鏡により取得された画像、又は、微分干渉顕微鏡により取得された画像である
    ことを特徴とする請求項1〜8のうちいずれか1項に記載の画像処理装置。
  10. デフォーカスを変えて撮像された前記蛍光染色標本の複数の明視野画像を取得し、前記複数の明視野画像を合成して前記位相画像を生成する位相画像生成手段をさらに備える
    ことを特徴とする請求項1〜8のうちいずれか1項に記載の画像処理装置。
  11. 前記蛍光染色標本は、FISH染色又はIHC染色が施された標本である
    ことを特徴とする請求項1〜10のうちいずれか1項に記載の画像処理装置。
  12. 蛍光染色標本の蛍光画像を取得するための蛍光画像取得ユニットと、前記蛍光染色標本の位相画像を取得するための位相画像取得ユニットと、を有する撮像装置と、
    前記蛍光画像取得ユニットで取得された前記蛍光画像と前記位相画像取得ユニットで取得された前記位相画像とを用いて領域特定用画像を生成する、請求項1〜11のうちいずれか1項に記載の画像処理装置と、
    を備えることを特徴とするイメージングシステム。
  13. 前記蛍光画像取得ユニットは、蛍光顕微鏡であり、
    前記位相画像取得ユニットは、位相差顕微鏡、又は、微分干渉顕微鏡である
    ことを特徴とする請求項12に記載のイメージングシステム。
  14. 蛍光染色標本の蛍光画像を取得するための蛍光画像取得ユニットと、前記蛍光染色標本の明視野画像を取得するための明視野画像取得ユニットと、を有する撮像装置と、
    前記蛍光画像取得ユニットで取得された前記蛍光画像と前記明視野画像取得ユニットで取得されたデフォーカスの異なる複数の明視野画像とを用いて領域特定用画像を生成する、請求項10に記載の画像処理装置と、
    を備えることを特徴とするイメージングシステム。
  15. 前記蛍光画像取得ユニットは、蛍光顕微鏡であり、
    前記明視野画像取得ユニットは、明視野顕微鏡である
    ことを特徴とする請求項14に記載のイメージングシステム。
  16. 蛍光染色標本内の関心領域を特定するのに適した領域特定用画像を生成する画像処理方法であって、
    コンピュータが、蛍光染色標本の蛍光画像に対して第1の代替色を適用し、前記蛍光画像の輝度情報を前記第1の代替色で表現する代替色蛍光画像を生成するステップと、
    コンピュータが、前記蛍光染色標本の位相画像に対して前記第1の代替色と異なる第2の代替色を適用し、前記位相画像の輝度情報を前記第2の代替色で表現する代替色位相画像を生成するステップと、
    コンピュータが、前記代替色蛍光画像と前記代替色位相画像とを合成して領域特定用画像を生成するステップと、
    を含むことを特徴とする画像処理方法。
  17. 蛍光染色標本内の関心領域を特定するのに適した領域特定用画像を生成する画像処理方法であって、
    コンピュータが、蛍光染色標本の蛍光画像に対して第1の代替色を適用し、前記蛍光画像の輝度情報を前記第1の代替色で表現する代替色蛍光画像を生成するステップと、
    コンピュータが、前記蛍光染色標本の位相画像に対して前記第1の代替色と異なる第2
    の代替色を適用し、前記位相画像の輝度情報を前記第2の代替色で表現する代替色位相画像を生成するステップと、
    コンピュータが、前記蛍光染色標本の自家蛍光画像に対して前記第1の代替色と異なる第3の代替色を適用し、前記自家蛍光画像の輝度情報を前記第3の代替色で表現する代替色自家蛍光画像を生成するステップと、
    コンピュータが、前記代替色蛍光画像と前記代替色位相画像と前記代替色自家蛍光画像とを合成して領域特定用画像を生成するステップと、
    を含むことを特徴とする画像処理方法。
  18. 請求項16又は17に記載の画像処理方法の各ステップをコンピュータに実行させることを特徴とするプログラム。
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