以下、添付した図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。なお、以下の説明は特許請求の範囲に記載される技術的範囲や用語の意義を限定するものではない。また、図面の寸法比率は説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
(実施形態)
図1は、本発明を組み込んだ磁気刺激治療システム10を示す側面図、図2は、図1に示される磁気刺激装置20の要部を示す側面図である。
図示する磁気刺激治療システム10は、パーキンソン病、うつ病などの脳神経疾患や脳卒中後のリハビリテーションなどに対する治療法の一つである脳を直接刺激する療法において使用される。脳を直接刺激する療法として、患者の頭部の特定の部位に磁気刺激を与える磁気刺激療法、たとえば、反復経頭蓋磁気刺激法(rTMS:Repetitive transcranial magnetic stimulation)が用いられている。磁気刺激療法は、頭蓋内に電場を誘導させることによって神経を刺激する治療法であり、磁気エネルギーを散逸させずに組織を刺激できること、脳をより正確にかつ確実に刺激できること、などの特徴を有する。
図1を参照して、磁気刺激治療システム10は、患者の脳を磁気エネルギーによって刺激する磁気刺激装置20と、治療時に患者が着座するシート30とを有する。
シート30は、座面部31と、背もたれ部32と、フットサポート部33と、座面部31を支持するベース部34と、ベース部34の下面に取り付けられたキャスター35を備える。座面部31、背もたれ部32、およびフットサポート部33は、傾斜角度を患者の姿勢に合わせて調整自在である。座面部31の側方には、アームレスト36が取り付けられている。背もたれ部32の頂部には、患者の頭部を固定するヘッドレスト37が取り付けられている。シート30は、キャスター35によって移動自在である。
磁気刺激装置20は、医療用具としての磁気刺激コイル21(以下、単に「コイル21」ともいう)と、コイル21が下面側に取り付けられたコイル取付部22と、コイル取付部22を懸垂支持するアーム部23と、アーム部23の基端部が取り付けられたアーム取付部24と、アーム取付部24を支持するポスト部25と、ポスト部25が取り付けられたカート部26とを備える。医療用具は、コイル21に限定されるものではなく、治療用装置、診断用装置、研究用装置、検査用装置などにおいて使用される器具であって、姿勢を調整することが必要な器具が広く含まれる。
コイル21は生体(患者)の頭部に磁気刺激を与える。コイル21に内蔵されるコイル要素は円形状、8の字形状、円錐形状などの形状を適宜採用することができる。それぞれの形状によって頭部に与える磁場形状が異なるので、たとえば脳神経疾患の種類に応じて、採用するコイル要素の形状を選定する。コイル要素には数千Aオーダの大電流が流されるため、コイル要素の周囲にはコイル要素を冷却する冷却部(図示せず)が取り付けられている。コイル21は、コイル取付部22に対して着脱自在に取り付けられる。治療内容に応じて、コイル要素の形状が異なるコイル21に交換される。コイル21の冷却部は、カート部26に内蔵されたチラー装置41に接続されている。チラー装置41は、冷却した冷媒を供給ホース42aを介して冷却部に供給する。コイル要素を冷却した冷媒は、冷却部から排出ホース42bを介してチラー装置41に戻される。
コイル取付部22は、アーム部23の先端下面側に、ボールジョイント43を介して懸垂支持される。コイル取付部22は、ボールジョイント43によって、アーム部23に対する姿勢を所望の姿勢に調整できる。アーム部23の基端部は、関節部44を介してアーム取付部24に取り付けられる。関節部44によって、アーム部23は、垂直面内において回動自在である。アーム取付部24は、ベアリング部(図示せず)を介してポスト部25に取り付けられる。ベアリング部によって、アーム取付部24は、水平面内において回動自在である。ポスト部25は、カート部26の上面に、スライド機構を介して、患者に対して接近離間する方向(紙面左右方向)にスライド移動自在に取り付けられる。アーム部23、アーム取付部24、およびポスト部25によってアームアセンブリ500が構成されている。上記のスライド機構を介して、アームアセンブリ500はスライド移動する。
アーム部23に対するコイル取付部22の姿勢の調整、アーム部23の垂直面内における回動、アーム取付部24の水平面内における回動、およびポスト部25のスライド移動によって、患者の頭部に対するコイル21の姿勢を所望の姿勢に調整できる。磁気刺激は患者の頭部の特定の部位に正確に与えなければならない。このため、コイル21の姿勢の調整が終わると、ボールジョイント43、関節部44、ベアリング部、およびスライド機構は、動作不能状態にロックされる。これによって、コイル21の位置決めを高精度に行っている。
カート部26には、チラー装置41のほか、コイル要素に大電流を供給する電気部品を収納した電流供給装置45、および磁気刺激治療システム10全体の動作を制御するコントローラ46が内蔵されている。コントローラ46には、入出力部を介して、コイル要素の温度、チラー装置41からの信号、電流供給装置45からの信号、生体から取得した生体信号などが入力される。生体信号として、患者の心電信号(心電図データを生成するため)、患者の指先を流れる血液の赤色光と赤外光との透過度(動脈血酸素飽和度(以下、SpO2という)を測定するため)、生体の筋電信号(筋電図データを生成するため)などがある。コントローラ46からは、入出力部を介して、チラー装置41の動作を制御する信号、電流供給装置45の動作を信号などが出力される。カート部26には、コントローラ46に接続されたモニター47が取り付けられている。モニター47には、電流供給装置45の動作状態、患者の状態などが表示される。コントローラ46は、生体信号を用いて、電流供給装置45の作動を制御し、コイル21が生体に与える磁気刺激の強度を制御する。
カート部26の下面には、キャスター48が備えられている。カート部26ひいては磁気刺激装置20は、キャスター48によって移動自在である。
磁気刺激治療システム10を用いた磁気刺激療法は概略次のように行われる。
まず、磁気刺激療法による治療を開始する前に、術者は、コイル21の位置を、患者の症状の治療に適した位置に精密に設定する。コイル21の位置が適切であるか否かは、モニター47の表示(磁気刺激を受けている部位)によって確認できる。
治療が開始されると、コントローラ46は、電流供給装置45を制御し、コイル21に電流を供給する。コイル21から患者の頭蓋内に電場が誘導され、患者の頭部に磁気刺激が付与される。この磁気刺激によって、たとえば、パーキンソン病などの脳神経疾患の治療を行なう。コントローラ46は、コイル21に出力する電流の大きさ、電流を流す間隔および時間を変化させることによって、磁気刺激の強度を制御する。
コントローラ46は、患者の生体信号(心電信号、透過度、筋電信号)に基づいて、心電図データ、SpO2、筋電図データなどをモニター47に表示する。術者はこれらの表示を見ることによって、治療の状況、治療中の患者の様態を容易に把握できる。術者は、患者の状態を監視しながら、患者の状態に合わせて磁気刺激の強度を適切に調整する。
磁気刺激療法においては、上述したように、コイル21の位置を患者の症状の治療に適した位置に精密に設定する必要がある。コイル21の位置を調整する作業の作業性を向上させる観点から、磁気刺激装置20には次の点が要請されている。
第1に、比較的重いコイル21のアーム部23に対する姿勢の調整が容易であること。
第2に、比較的重いコイル21を支持しているアーム部23を、コイル21の重みを感じることなく操作可能であること。
第3に、アームアセンブリ500をスライド移動させる位置の調整が容易であること、および
第4に、コイル21の交換が容易であることである。以下、順に説明する。
[1.医療用具の姿勢ロック装置]
まず、第1の、コイル21のアーム部23に対する姿勢の調整を容易にする医療用具の姿勢ロック装置100について説明する。
従来、アームなどの支持体に医療用具をその姿勢を調整自在に支持する場合には、ボール部とロッド部とを備えるボールジョイントが一般的に広く用いられている。ボールジョイントのボール部を支持体の受部に対して回動不能にロックする電磁ブレーキを用いることよって、支持体に対する医療用具の姿勢をロックすることも一般的に行われている。電磁ブレーキは、ボール部の外周面に対して接触自在なシューと、シューをボール部の外周面に押圧する弾発力を付勢するバネと、バネの弾発力に抗してシューをボール部の外周面から離反させる方向に吸引する磁力を生じる電磁石とを有する。電磁石に通電すると、シューがバネの弾発力に抗してボール部の外周面から離反する。これによって、医療用具の姿勢を調整できる。一方、電磁石への通電を停止すると、シューがバネの弾発力が付勢されてボール部の外周面に押し付けられる。ボール部とシューとの間の摩擦力によって、ボール部が医療用具の自重によって回動することを阻止し、支持体に対する医療用具の姿勢をロックする。
しかしながら、バネ力による摩擦のみで医療用具の自重を支える構造となっているため、比較的重い医療用具を支えることは難しい。また、ロック解除時は、医療用具は完全にフリーな状態となり、医療用具の姿勢を調整している術者の手に医療用具の荷重が急に作用する。その結果、術者は、医療用具の微小な位置決め動作を行うことが難しくなってしまう。
そこで、本実施形態の磁気刺激装置20にあっては、医療用具の姿勢ロック装置100を次のように構成している。
図3A(A)(B)は、医療用具の姿勢ロック装置100を、医療用具の姿勢をロックしている状態において示す平面図、正面図、図3Bは、図3A(A)の3B−3B線に沿う断面図である。図4A(A)(B)は、医療用具の姿勢ロック装置100を、医療用具の姿勢を微調整している状態において示す平面図、正面図、図4Bは、図4A(A)の4B−4B線に沿う断面図である。図5は、医療用具の姿勢ロック装置100を、医療用具の姿勢を微調整している状態において示す側面図である。図6は、医療用具の姿勢ロック装置100を、第1のブレーキ部による第1の抵抗力の付勢を解除し、第2のブレーキ部による第2の抵抗力の付勢を解除した状態において示す断面図である。
本実施形態の医療用具の姿勢ロック装置100(以下、「姿勢ロック装置100」ともいう)は、概説すると、ボール部101とロッド部102とを備えるボールジョイント43のロッド部102に接続される医療用具と、ボールジョイント43のボール部101を受部103に対して回動不能にロックすることによって、支持体に対する医療用具の姿勢をロックするブレーキ機構104と、を有する。ブレーキ機構104は、第1のブレーキ部105と、第2のブレーキ部106と、第1のスイッチ107と、第2のスイッチ108と、を有する。第1のブレーキ部105は、ボール部101の外周面に対して接触自在な第1のシュー109を備え、第1のシュー109をボール部101の外周面に押圧することによって、ボール部101が医療用具の自重によって回動することに対して抵抗となる第1の抵抗力f1を付勢する。第2のブレーキ部106は、ボール部101の外周面のうち第1のシュー109が接触する部位とは異なる部位に対して接触自在な第2のシュー110を備え、第2のシュー110をボール部101の外周面に押圧することによって、ボール部101が医療用具の自重によって回動することに対して抵抗となる第2の抵抗力(f2)を付勢する。第1のスイッチ107は、第1のブレーキ部105による第1の抵抗力f1の付勢または付勢解除を選択的に切り替える。第2のスイッチ108は、第2のブレーキ部106による第2の抵抗力f2の付勢または付勢解除を選択的に切り替える。姿勢ロック装置100は、医療用具の姿勢を微調整するときには、第1の抵抗力f1または第2の抵抗力f2のいずれか一方のみを付勢する。医療用具の姿勢をロックするときには、第1の抵抗力f1および第2の抵抗力f2の両者を付勢している。なお、本実施形態にあっては、上記の「医療用具」は、生体(例えば、頭部)に磁気刺激を与える磁気刺激療法において用いるコイル21である。ただし、コイル21は、コイル取付部22を介してボールジョイント43のロッド部102に接続されていることから、上記の「医療用具の自重」は、コイル21およびコイル取付部22の両者の自重となる。以下、詳述する。
図2を参照して、姿勢ロック装置100は、支持体に相当するアーム部23の先端部に設けられている。コイル21は、ボールジョイント43を介してアーム部23に垂下されている。
図3A、図3B、図4A、および図4Bを参照して、姿勢ロック装置100は、中空の筒状ケーシング111を有し、上端開口部は中心穴112aを備える蓋部材112によって封止されている。ケーシング111内の底部に、下皿113が取り付けられている。下皿113には、ボール部101の略下半分が接触する断面円弧形状の受部103が形成されている。受部103には、ロッド部102を挿通する貫通孔103aが形成されている。下皿113の上方には、下皿113に対して接近離反移動自在に上皿114が収納されている。上皿114には、ボール部101の略上半分が接触する断面円弧形状の第1のシュー109が形成されている。第1のシュー109には、後述する第2のブレーキ部106のシャフト116を挿通する中心穴109aが形成されている。ボール部101は、下皿113の受部103と上皿114の第1のシュー109との間に挟まれている。下皿113および上皿114の形成材料は特に限定されるものではないが、例えば、高硬度のゴム材料から形成することができる。蓋部材112と上皿114との間には、第1のシュー109をボール部101の外周面に押圧する弾発力を付勢するバネ115が取り付けられている。
第1のブレーキ部105は、ボール部101の外周面に対して接触自在な第1のシュー109と、蓋部材112と上皿114との間に取り付けられ第1のシュー109をボール部101の外周面に押圧する弾発力を付勢するバネ115とを備える。第1のブレーキ部105は、バネ115の弾発力によって、ボール部101がコイル21およびコイル取付部22の両者の自重によって回動することに対して抵抗となる第1の抵抗力f1を付勢する。
第2のブレーキ部106は、倍力機構であるトグル機構を利用したトグルクランプから構成されている。第2のブレーキ部106は、第1のシュー109の中心穴109aを挿通するシャフト116と、シャフト116にトグル機構117を介して接続される操作レバー118を有する。シャフト116の図中下端に示される先端には、ボール部101の外周面に対して接触自在な第2のシュー110を備えている。第2のシュー110の形成材料は特に限定されるものではないが、例えば、高硬度のゴム材料から形成することができる。第2のシュー110は、第1のシュー109に形成した中心穴109aの部位においてボール部101の外周面に接触する。つまり、第2のシュー110は、ボール部101の外周面のうち第1のシュー109が接触する部位とは異なる部位に対して接触自在である。第2のブレーキ部106は、図3A(B)、図3B、図4A(B)、図4Bのように操作レバー118を倒すと、リンク機構の一種であるトグル機構117によって、シャフト116がボール部101に向けて押し下げられ、第2のシュー110をボール部101の外周面に押圧する力を付勢する。第2のブレーキ部106は、このようにトグル機構117によって変換された力によって、ボール部101がコイル21およびコイル取付部22の両者の自重によって回動することに対して抵抗となる第2の抵抗力f2を付勢する。
第1のスイッチ107は、上皿114の下面側に配置したリリースカム119から構成されている。リリースカム119は、回転軸120と、回転軸120に取り付けられた偏心カム121と、回転軸120に接続されケーシング111の外側に配置された操作レバー122とを有する。操作レバー122を図4A(B)、図4B、図5に示される位置から図3A(B)、図3Bに示される位置まで回動すると、偏心カム121の凸部121aが下方側に変位する。これによって、第1のブレーキ部105は、上皿114の第1のシュー109がバネ115の弾発力によってボール部101の外周面に押圧され、第1の抵抗力f1を付勢する。一方、操作レバー122を図3A(B)、図3Bに示される位置から図4A(B)、図4B、図5に示される位置まで回動すると、偏心カム121の凸部121aが上方側に変位する。これによって、第1のブレーキ部105は、上皿114の第1のシュー109がバネ115の弾発力に抗してボール部101の外周面から離反するため、第1の抵抗力f1の付勢を解除する。
第2のスイッチ108は、第2のブレーキ106におけるトグル機構117によって構成されている。操作レバー118を図3A(B)、図3B、図4A(B)、図4Bに示される位置まで倒すと、第2のブレーキ部106は、トグル機構117によってシャフト116がボール部101に向けて押し下げられ、第2の抵抗力f2を付勢する。一方、操作レバー118を図6に示される位置まで起こすと、第2のブレーキ部106は、トグル機構117によってシャフト116が引き上げられてボール部101の外周面から離反するため、第2の抵抗力f2の付勢を解除する。第2のブレーキ部106はトグルクランプから構成されているので、シャフト116は、操作レバー118を倒したり起こしたりするワンアクションによって容易に動作する。ノブボルトを正逆に回して第2のシュー110をボール部101の外周面に押圧したり押圧解除したりする形態に比べて、第2の抵抗力f2の付勢または付勢解除の選択的な切り替えを簡易迅速に行うことができる。
第1のスイッチ107には、図示省略するが、電気的スイッチが接続され、第1のスイッチ107の操作に連動して、他の可動部(関節部44、ベアリング部、およびスライド機構など)のロック/フリーが切り替えられる。具体的には、第1のブレーキ部105によって第1の抵抗力f1を付勢するときには、第1のスイッチ107の操作に連動して、他の可動部も動作不能状態にロックされる。これによって、コイル21の姿勢や位置が固定される。逆に、第1のブレーキ部105による第1の抵抗力f1の付勢を解除するときには、第1のスイッチ107の操作に連動して、他の可動部も動作可能状態のフリーとされる。これによって、アームアセンブリ500を動かしてコイル21の姿勢や位置を調整できる。なお、第1のスイッチ107とは別個独立に、他の可動部(関節部44、ベアリング部、およびスライド機構など)のロック/フリーを切り替える専用の操作スイッチを設けることもできる。専用の操作スイッチを設ける場合には、第1の抵抗力f1を付勢してコイル21の姿勢を保った状態のまま、アーム部23の他の関節を動かしてコイル21の位置を調整することが可能となる。
本実施形態では、姿勢ロック装置100は、コイル21の姿勢を微調整するときには、第2の抵抗力f2のみを付勢し(図4B)、コイル21の姿勢をロックするときには、第1の抵抗力f1および第2の抵抗力f2の両者を付勢している(図3B)。コイル21の姿勢を微調整するときでも、第2のブレーキ部106が第2の抵抗力f2を付勢していることから、コイル21およびコイル取付部22は完全フリーな状態にはならない。術者は、コイル21およびコイル取付部22の両者の自重を支える力を必要としない。したがって、コイル21の姿勢を調整するための操作力が大きくならないことから、コイル21の姿勢を微調整するときの作業性が良好になる。また、コイル21の姿勢をロックするときには、第1の抵抗力f1および第2の抵抗力f2の両者を付勢するため、ボール部101を受部103に対して回動不能にロックする制動力が増す。したがって、比較的重いコイル21を安定的に支えることが可能となる。
ここで、コイル21の姿勢を微調整するときに付勢する第2の抵抗力f2は、コイル21がボールジョイント43を介して移動可能な範囲内の位置においてコイル21およびコイル取付部22の両者の自重によってボール部101が回動する回動力のうち最大の回動力Fmaxよりも小さいことが好ましい。第2の抵抗力f2が最大の回動力Fmax以上であると、コイル21の姿勢を調整するための操作力が大きくなることから、コイル21の姿勢を微調整することができなくなる。一方、第2の抵抗力f2が最大の回動力Fmaxよりも小さいと、コイル21の姿勢によってはコイル21およびコイル取付部22の両者の自重によって多少動くこともあるが、コイル21の姿勢を調整するための操作力が大きくならないことから、コイル21の姿勢を微調整するときの作業性が良好になる。
作用を説明する。
コイル21の姿勢をロックしている状態から、アーム部23に対するコイル21の姿勢を微調整するときには、術者は、第2のスイッチ108によって第2のブレーキ部106による第2の抵抗力f2を付勢したまま、第1のスイッチ107によって第1のブレーキ部105による第1の抵抗力f1の付勢を解除する。具体的には、第2のブレーキ部106の操作レバー118を図4A(B)、図4Bに示される位置に倒したまま、リリースカム119の操作レバー118を図4A(B)、図4Bに示される位置まで回動する。これによって、第2のブレーキ部106は、トグル機構117によってシャフト116がボール部101に向けて押し下げられたままであり、第2の抵抗力f2を付勢する。第1のブレーキ部105は、偏心カム121の凸部121aが上方側に変位するため、上皿114の第1のシュー109がバネ115の弾発力に抗してボール部101の外周面から離反し、第1の抵抗力f1の付勢を解除する。
術者は、コイル21の位置を患者の症状の治療に適した位置に設定する。このとき、第2のブレーキ部106が第2の抵抗力f2を付勢していることから、コイル21およびコイル取付部22は完全フリーな状態ではない。術者は、コイル21およびコイル取付部22の両者の自重を支える力を必要としない。したがって、コイル21の姿勢を調整するための操作力が大きくならないことから、コイル21の姿勢を微調整するときの作業性が良好になる。
コイル21の姿勢の微調整が終了し、コイル21の姿勢をロックするときには、術者は、第2のスイッチ108によって第2のブレーキ部106による第2の抵抗力f2を付勢したまま、第1のスイッチ107によって第1のブレーキ部105による第1の抵抗力f1を付勢する。具体的には、第2のブレーキ部106の操作レバー118を図3A(B)、図3Bに示される位置に倒したまま、リリースカム119の操作レバー122を図3A(B)、図3Bに示される位置まで回動する。これによって、第2のブレーキ部106は、トグル機構117によってシャフト116がボール部101に向けて押し下げられたままであり、第2の抵抗力f2を付勢する。第1のブレーキ部105は、偏心カム121の凸部121aが下方側に変位するため、上皿114の第1のシュー109がバネ115の弾発力によってボール部101の外周面に押圧され、第1の抵抗力f1を付勢する。
コイル21の姿勢をロックしている状態から、コイル21の姿勢を大きく変更するときには、術者は、第2のスイッチ108によって第2のブレーキ部106による第2の抵抗力f2の付勢を解除し、第1のスイッチ107によって第1のブレーキ部105による第1の抵抗力f1の付勢も解除する。具体的には、第2のブレーキ部106の操作レバー118を図6に示される位置まで起こし、リリースカム119の操作レバー122を図6に示される位置まで回動する。これによって、第2のブレーキ部106は、トグル機構117によってシャフト116が引き上げられてボール部101の外周面から離反するため、第2の抵抗力f2の付勢を解除する。第1のブレーキ部105は、偏心カム121の凸部121aが上方側に変位するため、上皿114の第1のシュー109がバネ115の弾発力に抗してボール部101の外周面から離反し、第1の抵抗力f1の付勢を解除する。
術者は、コイル21の位置を大きく変更する。このとき、第1の抵抗力f1の付勢が解除され、第2の抵抗力f2の付勢が解除されていることから、コイル21およびコイル取付部22は完全フリーな状態である。術者は、コイル21およびコイル取付部22の両者の自重を支える力は必要となるものの、制動力が作用しないことから、コイル21の姿勢を大きく変更するときの作業性が阻害されることはない。
特殊な形状、例えば湾曲形状を有するガイド部材に沿ってコイル21を移動させることによって、コイル21の姿勢を変更する形態も考えられる。しかしながら、術者がそのような特殊な形状を有するガイド部材を使っていない場合には、術者は直感的な操作をすることが難しい。本実施形態では、種々の機械において用いられているボールジョイント43を介してコイル21をアーム部23に支持していることから、コイル21の姿勢を調整する動作を直感的に行うことができる。
図7は、医療用具の姿勢をロックする制動力を増す改変例を示す断面図である。
図7に示す改変例においては、ボール部101の外周面のうち第1のシュー109が接触する範囲131および第2のシュー110が接触する範囲132を粗面化してある。粗面化する手段は特に限定されない。ブラスト処理、レーザ光の照射による表面処理などによって、所望の範囲を粗面化することができる。
ボール部101の外周面を粗面化することによって、ボール部101の外周面と第1のシュー109との摩擦力、およびボール部101の外周面と第2のシュー110との摩擦力が増し、コイル21の姿勢をロックする制動力が一層増す。したがって、比較的重いコイル21をより一層安定的に支えることが可能となる。
ここで、ボールジョイント43のロッド部102が鉛直方向に対して最も傾斜したとき、第1のシュー109は粗面化された外周面に接触し、かつ、第2のシュー110は粗面化された外周面に接触することが好ましい。
ロッド部102が鉛直方向に対して最も傾斜したときが、コイル21およびコイル取付部22の両者の自重によってボール部101が回動する回動力が最大となる。したがって、コイル21およびコイル取付部22の両者の自重の影響を最も受けるときに、コイル21の姿勢をロックする制動力が増えるように設定することによって、比較的重いコイル21をより一層安定的に支えることが可能となる。
医療用具の姿勢をロックする制動力を増す他の改変例として、ボールジョイント43のボール部101の形状を特定形状にすることが挙げられる。
つまり、ボールジョイント43のボール部101の形状は、ロッド部102が鉛直方向に対して傾斜したときにおける第1のシュー109と受部103との間の距離が、ロッド部102が鉛直方向に沿って位置するときに比べて大きい非真球形状(断面が長円形状)を有することが好ましい。
このように構成することによって、コイル21およびコイル取付部22の両者の自重の影響を受けやすいときに、第1のシュー109と受部103との間の距離が大きくなり、ボール部101の外周面と第1のシュー109との摩擦力が増える。したがって、コイル21の姿勢をロックする制動力が増えるように設定することによって、比較的重いコイル21をより一層安定的に支えることが可能となる。
同様に、ボールジョイント43のボール部101の形状は、ロッド部102が鉛直方向に対して傾斜したときにおける第2のシュー110と受部103との間の距離が、ロッド部102が鉛直方向に沿って位置するときに比べて大きい非真球形状(断面が長円形状)を有することが好ましい。
このように構成することによって、コイル21およびコイル取付部22の両者の自重の影響を受けやすいときに、第2のシュー110と受部103との間の距離が大きくなり、ボール部101の外周面と第2のシュー110との摩擦力が増える。したがって、コイル21の姿勢をロックする制動力が増えるように設定することによって、比較的重いコイル21をより一層安定的に支えることが可能となる。
以上説明したように、本実施形態の医療用具の姿勢ロック装置100によれば、ブレーキ機構104は、ボール部101がコイル21およびコイル取付部22の両者の自重によって回動することに対して抵抗となる第1の抵抗力f1を付勢する第1のブレーキ部105と、第2の抵抗力f2を付勢する第2のブレーキ部106と、を有し、コイル21の姿勢を微調整するときには、第2の抵抗力f2のみを付勢し、コイル21の姿勢をロックするときには、第1の抵抗力f1および第2の抵抗力f2の両者を付勢している。
このように構成することによって、コイル21の姿勢を微調整するときでも、第2のブレーキ部106が第2の抵抗力f2を付勢していることから、コイル21およびコイル取付部22は完全フリーな状態にはならない。術者は、コイル21およびコイル取付部22の両者の自重を支える力を必要としない。したがって、コイル21の姿勢を調整するための操作力が大きくならないことから、コイル21の姿勢を微調整するときの作業性が良好になる。また、コイル21の姿勢をロックするときには、第1の抵抗力f1および第2の抵抗力f2の両者を付勢するため、ボール部101を受部103に対して回動不能にロックする制動力が増す。したがって、比較的重いコイル21を安定的に支えることが可能となる。
コイル21の姿勢を微調整するときに付勢する第2の抵抗力f2は、コイル21がボールジョイント43を介して移動可能な範囲内の位置においてコイル21およびコイル取付部22の両者の自重によってボール部101が回動する回動力のうち最大の回動力(Fmax)よりも小さくしている。
このように構成することによって、コイル21の姿勢によってはコイル21およびコイル取付部22の両者の自重によって多少動くこともあるが、コイル21の姿勢を調整するための操作力が大きくならないことから、コイル21の姿勢を微調整するときの作業性が良好になる。
ボール部101の外周面のうち第1のシュー109が接触する範囲131および第2のシュー110が接触する範囲132は粗面化されている。
このように構成することによって、ボール部101の外周面と第1のシュー109との摩擦力、およびボール部101の外周面と第2のシュー110との摩擦力が増し、コイル21の姿勢をロックする制動力が一層増す。したがって、比較的重いコイル21をより一層安定的に支えることが可能となる。
ボールジョイント43のロッド部102が鉛直方向に対して最も傾斜したとき、第1のシュー109は粗面化された外周面に接触し、かつ、第2のシュー110は粗面化された外周面に接触する。
このように構成することによって、コイル21およびコイル取付部22の両者の自重の影響を最も受けるときに、コイル21の姿勢をロックする制動力が増えるように設定でき、比較的重いコイル21をより一層安定的に支えることが可能となる。
ボールジョイント43のボール部101の形状は、ロッド部102が鉛直方向に対して傾斜したときにおける第1のシュー109と受部103との間の距離が、ロッド部102が鉛直方向に沿って位置するときに比べて大きい非真球形状を有する。
このように構成することによって、コイル21およびコイル取付部22の両者の自重の影響を受けやすいときに、ボール部101の外周面と第1のシュー109との摩擦力を増やして、コイル21の姿勢をロックする制動力が増えるように設定でき、比較的重いコイル21をより一層安定的に支えることが可能となる。
ボールジョイント43のボール部101の形状は、ロッド部102が鉛直方向に対して傾斜したときにおける第2のシュー110と受部103との間の距離が、ロッド部102が鉛直方向に沿って位置するときに比べて大きい非真球形状を有する。
このように構成することによって、コイル21およびコイル取付部22の両者の自重の影響を受けやすいときに、ボール部101の外周面と第2のシュー110との摩擦力を増やして、コイル21の姿勢をロックする制動力が増えるように設定でき、比較的重いコイル21をより一層安定的に支えることが可能となる。
コイル21は、ボールジョイント43を介してアーム部23に垂下されている。
このように構成することによって、懸垂荷重を受けるコイル21の姿勢を安定的に支えることが可能となる。
医療用具としては、生体(例えば、頭部)に磁気刺激を与える磁気刺激療法において用いる磁気刺激コイル21である。
このように構成することによって、コイル21の姿勢を微調整して、コイル21の位置を患者の症状の治療に適した位置に設定することができる。
医療用具の姿勢ロック装置100は、上述した構成に限定されるものではなく、適宜改変可能である。
第1のブレーキ部105、および第2のブレーキ部106の構成は上述した構成に限定されず、ボールジョイント43のボール部101に制動力として作用する第1の抵抗力f1、第2の抵抗力f2を付勢できる限りにおいて適宜の構成を作用できる。例えば、第2のブレーキ部106のシャフト116に代えてバネを用いてもよい。また、バネの弾発力を利用して抵抗力を形成するほか、電磁力や流体圧を利用して抵抗力を形成するようにしてもよい。
第1のスイッチ107、および第2のスイッチ108は、手動の構成に限られるものではなく、電磁力や流体圧を利用して、抵抗力の付勢または付勢解除を選択的に切り替えるようにしてもよい。
[2.アーム部23のリンク機構]
次に、第2の、コイル21を支持しているアーム部23を、コイル21の重みを感じることなく操作可能にするアーム部23のリンク機構について説明する。
本実施形態の磁気刺激装置20にあっては、アーム部23のリンク機構を次のように構成している。
図8(A)(B)は、本実施形態のアーム部23のリンク機構を示す側面図、底面図である。図9は、弾発力が作用する方向の効果の説明に供する図、図10は、本実施形態におけるアームトルク線図の一例を示すグラフである。図11は、スプリングのみを使用した対比例のアーム部23のリンク機構を示す側面図、図12は、対比例におけるアームトルク線図の一例を示すグラフである。
図11、図12を参照して、アーム部23を一定の位置に保持させるトルクTarm(以下、「アーム保持トルク」という)は、アーム部23の重心がアーム回転軸201と水平位置にあるときがピークとなる。この位置よりアーム部23が下がるまたは上がるにつれて、アーム保持トルクは小さくなる。
図12に符号「※」によって示すように、対比例のようにスプリング(コイルバネ、ガススプリングなど)によってアーム部23を支える方式は、アーム部23が下がるにつれて、スプリングがサポートする力が増大し、アーム保持トルクとスプリングサポートトルクTspring2とのバランスがとれないという欠点がある。アーム部23の関節ブレーキを解除したときに、アーム部23がスプリングの力によって跳ね上がってしまい、治療位置にコイルを合わせようとしたときに 、非常に操作性が悪くなってしまう。
図8を参照して、本実施形態のアーム部23のリンク機構は、TarmがTspringにほぼ等しくなる構成を有している。アーム部23のリンク機構は、概説すると、医療用具が取り付けられるアーム部23と、アーム部23がアーム回転軸201を中心にして回転自在に取り付けられる非回転のアーム取付部24と、可変長ロッド202と、固定長ロッド203と、を有する。可変長ロッド202は、押される力に対して戻ろうとする弾発力を付勢する弾発部材204を含み、全長の長さが可変である。固定長ロッド203は、全長の長さが固定である。可変長ロッド202の一端202aを、アーム取付部24に回動自在に取り付け、可変長ロッド202の他端202bを、固定長ロッド203の一端203aと回動自在に連結している。固定長ロッド203の他端203bを、アーム部23が回転するのに伴なってアーム回転軸201のまわりを可動するように、アーム部23に取り付けている。そして、アーム部23の重心がアーム回転軸201と水平位置になるとき、弾発力の作用方向Yが固定長ロッド203の他端が可動する回転軌道x4の接線方向となるように設定してある。医療用具は、生体(例えば、頭部)に磁気刺激を与える磁気刺激療法において用いるコイル21である。以下、詳述する。
可変長ロッド202の弾発部材204は、たとえば圧縮スプリングから構成されている。弾発部材204はガススプリングから構成することもできる。
可変長ロッド202の一端202aがアーム取付部24に連結されている軸を「スプリング固定軸x1」という。可変長ロッド202の他端202bは、固定長ロッド203の一端203aに連結され、自由に動くことができる。この軸を「スプリング自由軸x2」という。固定長ロッド203の他端203bは、アーム部23の回転とともに可動する。この軸を「スプリング可動軸x3」という。また、固定長ロッド203の他端が可動する回転軌道を「スプリング可動軸回転軌道x4」という。
弾発力の作用方向Yがスプリング可動軸回転軌道x4の接線方向と一致したとき、弾発力はすべて回転トルクとして使用できるので最も効率が良い。その位置からアーム部23が回転することによって、弾発力の作用方向Yが接線方向からずれ、接線方向の力が減少していく。たとえば、図9のように、接線方向から60°ずれた場合は、弾発力の半分の力がスプリングサポート力となる。
固定長ロッド203を使用し、スプリング可動軸をアーム回転軸201付近に設けることによって、アーム部23の回転時に弾発力の作用方向を大きく変えることができる。
アーム重心角度が負になるとき、必要なアーム保持トルクは小さくなるので、弾発力の増大より弾発力が作用する方向の効果が大きいとき、スプリングサポートトルクも小さくなっていく。
スプリングサポートトルクTspringは(1)式で表される。
Tspring=r・kδL・cosθ …(1)
ここで、
r :スプリング可動軸回転軌道半径、
k :バネ定数、
δL: スプリング伸縮長、
θ : スプリング作用角度である。
アーム部23の重心が水平位置(θ0)から移動したとき、スプリング伸縮長をδL’、スプリング作用角度をθ’とすると、(2)式を満たすようにスプリングを配置することによって、図10のように、TarmがTspringにほぼ等しいアーム部23のリンク機構が実現できる。
kδL’・cosθ’/kδL・cos│θ0│<1 …(2)
以上説明したように、本実施形態のアーム部23のリンク機構によれば、弾発部材204を含む可変長ロッド202の一端202aを、アーム取付部24に回動自在に取り付け、可変長ロッド202の他端202bを、固定長ロッド203の一端203aと回動自在に連結し、固定長ロッド203の他端203bを、アーム部23が回転するのに伴なってアーム回転軸201のまわりを可動するように、アーム部23に取り付けている。そして、アーム部23の重心がアーム回転軸201と水平位置になるとき、弾発力の作用方向が固定長ロッド203の他端203bが可動する回転軌道の接線方向となるように設定してある。なお、アーム回転軸201の摩擦力や抵抗を持たせるためのダンパーを持つことによって、接線方向への許容を持たすことが可能になる。
このように構成することによって、アーム部23の角度に応じた保持トルクを得ることができ、懸垂荷重の重みを感じることなく操作が可能なアーム部23を実現できる。俯角においても上記対応が容易に実現できる。また、カウンターウェイトを用いる方式に比べて、磁気刺激装置20の小型化・軽量化を容易に実現できる。
医療用具としては、生体(例えば、頭部)に磁気刺激を与える磁気刺激療法において用いる磁気刺激コイル21である。
このように構成することによって、コイル21が取り付けられるアーム部23を重みを感じることなく操作することが可能となり、コイル21の位置を患者の症状の治療に適した位置に容易に設定することができる。
[3.医療装置用のスライド装置300]
次に、第3の、アームアセンブリ500をスライド移動させる位置の調整を容易にする医療装置用のスライド装置300について説明する。
従来、アームやこのアームを支持するポスト部などを含むアームアセンブリを備える医療装置においては、アームアセンブリをスライド移動させ、アームに取り付けられた医療用具の前後位置を調整することが行われている。
しかしながら、医療装置の傾斜の程度によっては、アームアセンブリの位置のロックを解除すると、アームアセンブリが予期せずにスライド移動することがある。また、医療用具が比較的重い場合にも、アームアセンブリの位置のロックを解除すると、アームの重心方向に向かってアームアセンブリが予期せずにスライド移動することがある。このような予期しないスライド移動が生じると、医療用具の位置合わせ等において支障が生じてしまう。
そこで、本実施形態の磁気刺激装置20にあっては、医療装置用のスライド装置300を次のように構成している。
図13は、医療装置用のスライド装置300を示す平面図、図14は、医療装置用のスライド装置300におけるポスト部25の内部構造の要部を示す断面図、図15は、テンション付与部材を示す斜視図である。
本実施形態の医療装置用のスライド装置300(以下、「スライド装置300」ともいう)は、概説すると、スライドテーブル301と、ベルト部材302と、1つまたは複数のローラー部材303と、テンション付与部材304と、を有する。スライドテーブル301は、医療用具が取り付けられるアームアセンブリ500が取り付けられている。アームアセンブリ500は、アーム部23を支持するポスト部25を有し、アーム部23に医療用具が取り付けられる。ベルト部材302は、スライドテーブル301の移動方向に沿って配置されている。ローラー部材303は、スライドテーブル301に設けられベルト部材302が掛け渡されている。テンション付与部材304は、ローラー部材303に掛け渡されるベルト部材302にテンションを付与する。そして、ローラー部材303に掛け渡されたベルト部材302によって、スライドテーブル301にスライド移動に対する負荷を付勢している。医療用具は、生体(例えば、頭部)に磁気刺激を与える磁気刺激療法において用いるコイル21である。以下、詳述する。
図13を参照して、スライドテーブル301は、図中左右方向に移動する。スライド装置300は、スライドテーブル301のスライド移動をガイドする2本のリニアガイド305を有する。スライドテーブル301は、2本のリニアガイド305に跨るように載置されている。ベルト部材302は、リニアガイド305と平行に伸びている。
図14を参照して、スライドテーブル301には、複数(図示例では3個)のローラー部材303が回転自在に取り付けられている。3個のローラー部材303は、2個のアイドルプーリー303a、303bと、1個の制動プーリー303cとを有する。2個のアイドルプーリー303a、303bの間の上方位置に制動プーリー303cが配置され、三角形状をなすように配置されている。アイドルプーリー303a、303bは、なくてもよいが、アイドルプーリーを増やすことによって、容易にスライド移動の負荷を付与することができる。ベルト部材302は、2個のアイドルプーリー303a、303bから上方に持ち上がって、制動プーリー303cに掛け渡されている。ベルト部材302は、ローラー部材303(アイドルプーリー303a、303b、制動プーリー303c)に係合自在なタイミングベルトから形成されている。ベルト部材302は、ローラー部材303に対して滑りが生じなければ適宜の種類のベルトを用いることができ、タイミングベルトに限定されるものではない。例えば、摩擦力によってローラー部材303に係合自在な平ベルトでもよい。
複数のローラー部材303のうち少なくとも1つの制動プーリー303cは、その回転を停止するロック機構306を備える。1つのローラー部材の場合にはそのローラー部材にロック機構306を備える。ロック機構306は、例えば、電磁クラッチを備えた電磁ブレーキから構成されている。電磁ブレーキに通電すると、ロックが解除され、制動プーリー303cは自由に回転する。電磁ブレーキへの通電を停止すると、ロックが働き、制動プーリー303cはその回転を停止する。ロック機構306によって当該ロック機構306を備えるローラー部材303(制動プーリー303c)の回転を停止することによって、スライドテーブル301の位置をロック自在である。制動プーリー303cおよびアイドルプーリー303a、303bは、スライドテーブル301の移動に伴って回転する。
図15を参照して、テンション付与部材304は、複数のローラー部材303に掛け渡されるベルト部材302にテンションを付与する。テンション付与部材304は、タイミングベルト302の端部が固定されたスライダー310と、スライダー310をリニアガイド305と平行な方向に沿って移動させる駆動部311とを有する。タイミングベルト302の他方の端部は固定されている。スライダー310は、長孔312aを有する下板312と、下板312にねじ止めされる上板313とを有する。下板312にはタイミングベルト302の山部302aが係合する図示しない係合孔が形成されている。下板312と上板313との間にタイミングベルト302の端部を挟み、上板313を下板312にねじ止めすることによって、タイミングベルト302の端部がスライダー310に固定される。下板312の長孔312aには、スライド装置300のベース314に締結されたガイドピン315が挿通される。スライダー310は、ガイドピン315によってガイドされて、リニアガイド305と平行な方向に沿って移動自在である。駆動部311は、スライド装置300のベース314に固定され、上板313のフランジ部313aに締結される調整ボルト316を有する。調整ボルト316を回してスライダー310を駆動部311の側に移動させると、タイミングベルト302にテンションを付与することができる。調整ボルト316を逆の方向に回してスライダー310を駆動部311とは反対側に移動させると、タイミングベルト302に付与するテンションの強さを小さくすることができる。
テンション付与部材304は、タイミングベルト302に付与するテンションを調整自在に構成されている。テンションの調整は、調整ボルト316を正逆適宜方向に回してスライダー310の移動位置を調整することによって行う。テンション付与部材304によってタイミングベルト302に付与するテンションの強さを調整することによって、スライドテーブル301のスライド移動に対する負荷の大きさを調整自在である。スライド移動に対する負荷の大きさを調整できることから、アームアセンブリ500をスライド移動するときの操作力を所望の大きさに調整することができる。
作用を説明する。
コイル21の位置を調整する場合に、アームアセンブリ500を患者に対して前進させたり後退させたりするときには、制動プーリー303cのロック機構306を解除し、アームアセンブリ500を前後にスライド移動させ、コイル21の前後位置を調整する。
このとき、タイミングベルト302は、テンションが付与された状態において、3つのプーリー303a、303b、303cを使用して屈曲されている。屈曲したタイミングベルト302によって、スライドテーブル301にはスライド移動に対する負荷が付勢されている。適度な大きさの負荷がスライドテーブル301に付勢されることから、術者は良好な操作感覚を持ってアームアセンブリ500をスライド移動させることができる。
磁気刺激装置20を多少傾斜して使用している場合であっても、適度な大きさの負荷がスライドテーブル301に付勢されることから、制動プーリー303cのロック機構306を解除しても、アームアセンブリ500が予期せずにスライド移動することがない。また、コイル21は比較的重い医療用具であり、アーム部23の重心位置は先端側に寄っている。このような場合であっても、適度な大きさの負荷がスライドテーブル301に付勢されることから、制動プーリー303cのロック機構306を解除しても、アーム部23の重心方向に向かってアームアセンブリ500が予期せずにスライド移動することがない。このような予期しないスライド移動が生じないため、コイル21の位置合わせ等において支障が生じない。
コイル21の位置合わせが完了し、アームアセンブリ500のスライド位置が定まると、ロック機構306によって制動プーリー303cの回転を停止する。これによって、スライドテーブル301の位置がロックされる。
以上説明したように、本実施形態の医療装置用のスライド装置300によれば、スライドテーブル301と、ベルト部材302と、1つまたは複数のローラー部材303と、テンション付与部材304と、を有し、ローラー部材303(303a、303b、303c)に掛け渡されたベルト部材302によって、スライドテーブル301にスライド移動に対する負荷を付勢している。
このように構成することによって、適度な大きさの負荷がスライドテーブル301に付勢されることから、術者は良好な操作感覚を持ってアームアセンブリ500をスライド移動させることができる。磁気刺激装置20を多少傾斜して使用している場合や、アーム部23の重心位置が先端側に寄っているような場合であっても、適度な大きさの負荷がスライドテーブル301に付勢されることから、アームアセンブリ500が予期せずにスライド移動することがない。予期しないスライド移動を防止できることから、コイル21の位置合わせ等を正確に行うことができる。
テンション付与部材304は、付与するテンションを調整自在に構成され、テンション付与部材304によってベルト部材302に付与するテンションの強さを調整することによって、スライド移動に対する負荷の大きさを調整自在である。
このように構成することによって、スライド移動に対する負荷の大きさを調整できることから、アームアセンブリ500をスライド移動するときの操作力を所望の大きさに調整することができる。
テンション付与部材304は、調整ボルト316を回すことによって、ベルト部材の保持位置を移動させ、ベルト部材302に付与するテンションの強さを調整する。
このように構成することによって、調整ボルト316を回すだけで、ベルト部材302に付与するテンションの強さを簡単に調整することができる。したがって、スライド移動に対する負荷の大きさを簡単に調整でき、アームアセンブリ500をスライド移動するときの操作力を所望の大きさに簡単に調整することができる。
ベルト部材302は、ローラー部材303に係合自在なベルト(タイミングベルトや平ベルト)から形成され、制動プーリー303cはロック機構306を備え、ロック機構306によって制動プーリー303cの回転を停止することによって、スライドテーブル301の位置をロック自在である。
このように構成することによって、アームアセンブリ500をスライド移動させた後の任意の位置において、アームアセンブリ500を簡単にロックすることができる。
医療用具としては、生体(例えば、頭部)に磁気刺激を与える磁気刺激療法において用いる磁気刺激コイル21である。
このように構成することによって、アームアセンブリ500を前後にスライド移動およびロックして、コイル21の位置を患者の症状の治療に適した位置に設定することができる。
医療装置用のスライド装置300は、上述した構成に限定されるものではなく、適宜改変可能である。
例えば、テンション付与部材304として、タイミングベルト302の一端部の位置を変更する態様を示したが、これに限定されない。タイミングベルト302の両端部の位置を固定したまま、制動プーリー303cの軸を上方に移動させる構成によって、タイミングベルト302にテンションを付与するようにしてもよい。また、制動プーリー303cの軸位置を上下方向に調節自在に構成することによって、付与するテンションの大きさを調整することもできる。
[4.コイル21の着脱装置400]
次に、第4の、コイル21の交換を容易にする着脱装置400について説明する。
磁気刺激療法においては脳神経疾患の種類に応じて、採用するコイル要素の形状を選定する必要があり、磁気刺激装置に取り付けるコイルを簡単に交換できることが要請されている。
しかしながら、従来の磁気刺激装置にあっては、コイルの交換作業を簡単に行うための機構について考察されていないのが実情である。
そこで、本実施形態の磁気刺激装置20にあっては、コイル21の着脱装置400を次のように構成している。
図16は、磁気刺激装置20におけるアーム部23の先端部分を上方から見た図、図17(A)は、磁気刺激装置20におけるアーム部23、コイル取付部22、および磁気刺激コイル21を、磁気刺激コイル21をコイル取付部22に取り付ける前の状態において示す斜視図、図17(B)は、磁気刺激装置20におけるアーム部23、コイル取付部22、および磁気刺激コイル21を、図17(A)とは異なる方向から見て、磁気刺激コイル21をコイル取付部22に取り付けた状態において示す斜視図である。図18(A)は、図16の18−18線に沿う断面図、図18(B)は、図18(A)における符号18Bの部分を示す拡大断面図、図19(A)は、図16の19−19線に沿う断面図、図19(B)は、図19(A)における符号19Bの部分を示す拡大断面図である。
本実施形態の磁気刺激コイル21の着脱装置400(以下、「コイル21の着脱装置400」ともいう)は、概説すると、生体(例えば、頭部)に磁気刺激を与える磁気刺激療法において用いるコイル21と、アーム部23に支持され磁気刺激コイル21を取り付けるコイル取付部22と、第1係合部401と、第2係合部402と、ロック部403と、解放部404と、を有する。第1係合部401は、コイル21に形成され、レール形状を備える。第2係合部402は、コイル取付部22に形成され、第1係合部401を相対的にスライドさせることによって第1係合部401と係合自在なレール形状を備える。ロック部403は、第1係合部401と第2係合部402とが係合した状態を維持する。解放部404は、ロック部403において第1係合部401と第2係合部402とが係合した状態を解放する。以下、詳述する。
上述したとおり、コイル取付部22は、アーム部23に対する姿勢を調整自在に構成されている。アーム部23に対するコイル取付部22の姿勢を調整することによって、コイル取付部22に取り付けられたコイル21のアーム部23に対する姿勢が調整される。コイル取付部22を介在させることによって、コイル21自体に姿勢調整のための機構、例えばボールジョイントなどを設ける必要がなく、コイル21の小型軽量化を図ることができる。
図16〜図19を参照して、第1係合部401は、コイル21のケーシング上面に形成され、第2係合部402は、コイル取付部22のケーシング下に形成されている。第1係合部401および第2係合部402は、相対的にスライドさせることによって係合自在なレール形状を備える(図17(A)、図18(A)(B)を参照)。第1係合部401および第2係合部402をレール形状としたのは、コイル21が比較的重いことを考慮したものである。
ロック部403は、第1係合部401および第2係合部402の一方(図示例では、第2係合部402)に形成された爪部405と、第1係合部401および第2係合部402の他方(図示例では、第1係合部401)に形成され爪部405が嵌り合う凹部406と、を有する(図19(A)(B)を参照)。
解放部404は、第1係合部401と第2係合部402とを相対的に離間させる押し部407を有する。押し部407によって第1係合部401と第2係合部402とを相対的に離間させることによって、爪部405と凹部406との嵌り合いを解放する(図17(B)、図19(A)(B)を参照)
押し部407は、コイル取付部22に脱落不能に保持されている(図19(A)(B)を参照)。コイル21を取り付けていないときでも、押し部407がコイル取付部22から脱落することはない。
押し部407は、コイル21の第1係合部401に当接することなくコイル取付部22の第2係合部402に当接して、第2係合部402を第1係合部401から離間させる(図19(A)(B)を参照)。押し部407の押し込み方向に沿う長さは、コイル21の第1係合部401に当接しない長さ寸法に設定されている。
第1係合部401、第2係合部402、ロック部403、および解放部404の形成材料は、非金属材料であることが好ましい。コイル21の固定に、ネジやコイルスプリングなどの金属を用いないため、コイル21の性能に悪影響を及ぼす虞がないからである。
作用を説明する。
コイル取付部22に既に取り付けられているコイル21を交換する場合には、解放部404の押し部407を押す(図17(B)、図19(A)(B)を参照)。押し部407は、コイル21の第1係合部401に当接することなくコイル取付部22の第2係合部402に当接して、第2係合部402を第1係合部401から離間させる。これによって、爪部405と凹部406との嵌り合いが解放される。押し部407を押し込んでもコイル21の第1係合部401に当接しないことから、第1係合部401と第2係合部402との係合解除と同時に、コイル21を押し出すことがない。したがって、コイル取付部22からのコイル21の予期しない脱落を未然に防止することができる。術者は、コイル取付部22からコイル21を抜き取る(図17(A)を参照)。
術者は、新たなコイル21の第1係合部401をコイル取付部22の第2係合部402に沿わせて、相対的にスライドさせる(図17(A)、図18(A)(B)を参照)。所定の位置までスライドさせると、第2係合部402の爪部405が第1係合部401の凹部406に嵌り合う。これによって、ロック部403は、第1係合部401と第2係合部402とが係合した状態を維持する。
以上説明したように、本実施形態のコイル21の着脱装置400は、コイル21と、コイル取付部22と、コイル21に形成されレール形状を備える第1係合部401と、コイル取付部22に形成され第1係合部401を相対的にスライドさせることによって第1係合部401と係合自在なレール形状を備える第2係合部402と、ロック部403と、解放部404と、を有する。
このように構成することによって、コイル21の第1係合部401をコイル取付部22の第2係合部402に沿わせて相対的にスライドさせることによって、コイル21をコイル取付部22に簡単に取り付けることができる。ロック部403によって、第1係合部401と第2係合部402とが係合した状態が維持されるため、コイル21の脱落が生じない。コイル21を交換するときには、解放部404によって、第1係合部401と第2係合部402とが係合した状態が解放されるため、コイル21を簡単に抜き取ることができる。第1係合部401と第2係合部402、ロック部403、解放部404は、非金属材料から構成することができるので、コイル21の性能に悪影響を及ぼさない。
ロック部403は、第2係合部402の爪部405と、第1係合部401の凹部406とを有し、解放部404は、押し部407によって第1係合部401と第2係合部402とを相対的に離間させることによって、爪部405と凹部406との嵌り合いを解放する。
このように構成することによって、ロック部403は第1係合部401と第2係合部402とが係合した状態を容易に維持でき、解放部404は第1係合部401と第2係合部402とが係合した状態を容易に解放することができる。
押し部407は、コイル取付部22に脱落不能に保持されている。
このように構成することによって、コイル21を取り付けていないときでも、押し部407がコイル取付部22から脱落することはない。
押し部407は、コイル21の第1係合部401に当接することなくコイル取付部22の第2係合部402に当接して、第2係合部402を第1係合部401から離間させている。
このように構成することによって、押し部407を押し込んでもコイル21の第1係合部401に当接しないことから、第1係合部401と第2係合部402との係合解除と同時に、コイル21を押し出すことがない。したがって、コイル取付部22からのコイル21の予期しない脱落を未然に防止することができる。
コイル取付部22は、アーム部23に対する姿勢を調整自在に構成され、アーム部23に対するコイル取付部22の姿勢を調整することによって、コイル取付部22に取り付けられたコイル21のアーム部23に対する姿勢が調整される。
このように構成することによって、コイル取付部22を介在させて、コイル21自体に姿勢調整のための機構、例えばボールジョイントなどを設ける必要がなく、コイル21の小型軽量化を図ることができる。
第1係合部401、第2係合部402、ロック部403、および解放部404の形成材料は、非金属材料である。
このように構成することによって、コイル21の固定に、ネジやコイルスプリングなどの金属を用いないため、コイル21の性能に悪影響を及ぼす虞がない。