MRIの画質劣化の要因の1つとして、傾斜磁場分布の歪みが知られている。スライス選択方向、位相エンコード方向、周波数エンコード方向の各傾斜磁場の分布は、例えば、印加方向に沿った位置に応じて線形に磁場強度が変化するのが理想である。しかしながら実際には、傾斜磁場コイルにパルス電流を供給すると渦電流が発生し、渦電流による磁場が傾斜磁場に加わって傾斜磁場分布の歪みが生じる。
以下、渦電流によって生じる磁場を「渦電流磁場」と称する。渦電流磁場は、主に傾斜磁場のスイッチングに起因して、傾斜磁場コイルの近辺にある金属から電磁誘導によって発生する磁場成分であり、傾斜磁場コイルの漏れ磁束が主な原因である。渦電流磁場によって、本来の磁場強度や磁場分布から大きく乖離すると、画質劣化のおそれがある。
また、渦電流磁場には、0次成分から高次の成分まで存在する。渦電流磁場の1次成分は、例えば、磁場中心からの距離にほぼ比例して増減する磁場成分である。一方、渦電流磁場の0次成分は、静磁場強度を増減させる磁場成分として捉えることができる。
ここで、ラーモア周波数は静磁場強度に比例する。従って、渦電流磁場の0次成分により撮像領域の被検体内のラーモア周波数が変化する場合、ラーモア周波数を基準周波数としたRFパルスの相対的な周波数(基準周波数との差)が変化する。
例えば渦電流磁場の0次成分により、1.5テスラの静磁場強度が1.50001テスラに上がる場合、0.00001テスラに比例する分だけ、被検体内のラーモア周波数が上昇する。その場合、以下の実施形態では、ラーモア周波数の上昇分だけRFパルスの周波数が上がるように、RF送信コイルに供給されるRFパルス電流の位相を進める。
即ち、以下の実施形態では、渦電流磁場の0次成分から推定されるラーモア周波数の変化に追従するように、RFパルスの出力制御波形に周波数変調が施される。これにより、MRI装置は、撮像領域に送信されるRFパルスの中心周波数を、渦電流磁場の0次成分を反映した撮像領域の被検体内の実際のラーモア周波数にできる限り近づける。
なお、以下の説明では、周波数変調も位相変調も基本的には同じ意味であるものとする。位相が1秒間に360°進むように位相変調を施すことは、周波数が1Hz上がるように周波数変調を施すことと同じだからである。
以下、MRI装置及びMRI方法の実施形態について、添付図面に基づいて説明する。なお、各図において同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
<第1の実施形態>
図1は、第1の実施形態のMRI装置10の全体構成の一例を示すブロック図である。なお、後述の第2〜第4の実施形態では図1のシーケンス修正機能66が省略される点を除き、図1のブロック図は、第2〜第4の実施形態にも共通である。ここでは一例として、MRI装置10の構成要素を寝台装置20、ガントリ30、制御装置40の3つに分けて説明する。
第1に、寝台装置20は、支持台21と、天板22と、支持台21内に配置される天板移動機構23とを有する。
天板22の上面には、被検体Pが載置される。また、天板22の上面には、被検体Pに装着されるRFコイル装置100が接続される接続ポート25が複数配置される。
支持台21は、天板22を水平方向(装置座標系のZ軸方向)に移動可能に支持する。天板移動機構23は、天板22がガントリ30外に位置する場合に、支持台21の高さを調整することで、天板22の鉛直方向の位置を調整する。また、天板移動機構23は、天板22を水平方向に移動させることで天板22をガントリ30内に入れ、撮像後には天板22をガントリ30外に出す。
第2に、ガントリ30は、例えば円筒状に構成され、撮像室に設置される。ガントリ30は、静磁場磁石31と、シムコイル32と、傾斜磁場コイル33と、RFコイル34とを有する。
静磁場磁石31は、例えば超伝導コイルであり、円筒状に構成される。静磁場磁石31は、後述の制御装置40の静磁場電源42から供給される電流により、撮像空間に静磁場を形成する。撮像空間とは例えば、被検体Pが置かれて、静磁場が印加されるガントリ30内の空間を意味する。なお、静磁場電源42を設けずに、静磁場磁石31を永久磁石で構成してもよい。
シムコイル32は、例えば円筒状に構成され、静磁場磁石31の内側において、静磁場磁石31と軸を同じにして配置される。シムコイル32は、後述の制御装置40のシムコイル電源44から供給される電流により、静磁場を均一化するオフセット磁場を形成する。
傾斜磁場コイル33は、例えば円筒状に構成され、シムコイル32の内側に配置される。傾斜磁場コイル33は、X軸傾斜磁場コイル33xと、Y軸傾斜磁場コイル33yと、Z軸傾斜磁場コイル33zとを有する。
本明細書では、特に断りのない限り、X軸、Y軸、Z軸は装置座標系であるものとする。ここでは一例として、装置座標系のX軸、Y軸、Z軸を以下のように定義する。まず、鉛直方向をY軸方向とし、天板22は、その上面の法線方向がY軸方向となるように配置される。天板22の水平移動方向をZ軸方向とし、ガントリ30は、その軸方向がZ軸方向となるように配置される。X軸方向は、これらY軸方向、Z軸方向に直交する方向であり、図1の例では天板22の幅方向である。
X軸傾斜磁場コイル33xは、後述のX軸傾斜磁場電源46xから供給される電流に応じたX軸方向の傾斜磁場Gxを撮像領域に形成する。同様に、Y軸傾斜磁場コイル33yは、後述のY軸傾斜磁場電源46yから供給される電流に応じたY軸方向の傾斜磁場Gyを撮像領域に形成する。同様に、Z軸傾斜磁場コイル33zは、後述のZ軸傾斜磁場電源46zから供給される電流に応じたZ軸方向の傾斜磁場Gzを撮像領域に形成する。
そして、スライス選択方向傾斜磁場Gss、位相エンコード方向傾斜磁場Gpe、及び、読み出し方向(周波数エンコード方向)傾斜磁場Groは、装置座標系の3軸方向の傾斜磁場Gx、Gy、Gzの合成により、任意の方向に設定可能である。
上記撮像領域は、例えば、1画像又は1セットの画像の生成に用いられるMR信号の収集範囲の少なくとも一部であって、画像となる領域である。撮像領域は例えば、撮像空間の一部として装置座標系で3次元的に規定される。例えば折り返しアーチファクトを防止するために、画像化される領域よりも広範囲でMR信号が収集される場合、撮像領域はMR信号の収集範囲の一部である。一方、MR信号の収集範囲の全てが画像となり、MR信号の収集範囲と撮像領域とが合致する場合もある。また、上記「1セットの画像」は、例えばマルチスライス撮像などのように、1のパルスシーケンスで複数画像のMR信号が一括的に収集される場合の複数画像である。
RFコイル34は、例えば円筒状に構成され、傾斜磁場コイル33の内側に配置される。ここでは一例として、RFコイル34は、RFパルスの送信及びMR信号の受信を兼用する全身用QDコイル(図示せず)を含む。QD(Quadrature)コイルとは、直交位相方式のRFコイル装置である。
第3に、制御装置40は、静磁場電源42と、シムコイル電源44と、傾斜磁場電源46と、傾斜磁場パルス波形生成回路47と、RF送信器48と、RF受信器50と、RFパルス波形生成回路54と、可変周波数生成回路56と、固定周波数生成回路57と、シーケンスコントローラ58と、処理回路60と、入力デバイス72と、ディスプレイ74と、記憶回路76とを有する。
傾斜磁場パルス波形生成回路47は、シーケンスコントローラ58から入力される各軸の傾斜磁場パルス波形に基づいて、X軸傾斜磁場パルス用の波形信号、Y軸傾斜磁場パルス用の波形信号、Z軸傾斜磁場パルス用の波形信号を生成する。傾斜磁場パルス波形生成回路47は、これら各軸の波形信号を傾斜磁場電源46に入力する。
傾斜磁場電源46は、X軸傾斜磁場電源46xと、Y軸傾斜磁場電源46yと、Z軸傾斜磁場電源46zとを有する。X軸傾斜磁場電源46x、Y軸傾斜磁場電源46y、Z軸傾斜磁場電源46zは、傾斜磁場パルス波形生成回路47から入力される各軸の波形信号に基づいて、傾斜磁場Gx、Gy、Gzを形成するための各電流をX軸傾斜磁場コイル33x、Y軸傾斜磁場コイル33y、Z軸傾斜磁場コイル33zにそれぞれ供給する。
固定周波数生成回路57は、後述のプレスキャンにより算出されたRFパルスの中心周波数値をシーケンスコントローラ58から取得する。固定周波数生成回路57は、例えば安定度の高い水晶発振器などを有する。固定周波数生成回路57は、取得した中心周波数値の搬送周波数を上記水晶発振器により生成し、生成した搬送周波数をRFパルス波形生成回路54に入力する。
RFパルス波形生成回路54は、その演算回路が例えば半導体基板上に形成されており、この半導体基板上には、クロック信号(以下、「基板のクロック信号」という)の発振器(図示せず)も設けられている。RFパルス波形生成回路54は、基板のクロック信号に従って、デジタルのパルス波形信号を生成する。
さらに、RFパルス波形生成回路54は、デジタルのパルス波形信号をD/A変換(Digital to Analogue Conversion)することで、アナログのパルス波形信号を生成する。このとき、RFパルス波形生成回路54は、シーケンスコントローラ58から入力されるパルスシーケンスにおけるRFパルスの出力制御波形により定まる矩形波のバンド幅に合うように、アナログのパルス波形信号を圧縮又は伸長する。
この後、RFパルス波形生成回路54は、固定周波数生成回路57から入力された搬送周波数に上記アナログのパルス波形信号を変調し、変調後のパルス波形信号をRF送信器48に入力する。
可変周波数生成回路56は、不図示の位相同期回路、デジタル直接合成発振器(Direct Digital Synthesizer)、ミキサ等を内蔵する。可変周波数生成回路56は、上記変調後のパルス波形信号をRFパルス波形生成回路54から取得し、変調後のパルス波形信号に対してΔfの周波数変調を更に施し、周波数変調後のパルス波形信号をRF送信器48に入力する。
但し、第1の実施形態では、渦電流磁場の0次成分から推定されるラーモア周波数の変化に追従するように、処理回路60内でRFパルスの出力制御波形にΔfの周波数変調が施され、周波数変調後のパルスシーケンスがシーケンスコントローラ58に入力される。従って、第1の実施形態では、可変周波数生成回路56は、上記Δfの周波数変調を実行しない。
RF送信器48は、RFパルス波形生成回路54から入力された変調後のパルス波形信号に基づいて、核磁気共鳴を起こすラーモア周波数のRFパルス電流を生成する(但し、Δfの周波数変調が可変周波数生成回路56により実行される後述の第3の実施形態では、RF送信器48は、可変周波数生成回路56から入力される周波数変調後のパルス波形信号に基づいて上記RFパルス電流を生成する)。RF送信器48は、生成したRFパルス電流をRFコイル34に送信する。このRF電流パルスに応じたRFパルスが、RFコイル34から被検体Pに送信される。
RFコイル34の全身用QDコイルや、被検体Pに装着されるRFコイル装置100は、被検体P内の原子核スピンがRFパルスによって励起されることで発生したMR信号を検出し、検出されたMR信号は、RF受信器50に入力される。
RF受信器50は、受信したMR信号に所定の信号処理を施した後、A/D(analog to digital)変換を施すことで、デジタル化されたMR信号の複素データである生データを生成する。RF受信器50は、MR信号の生データを処理回路60(の画像再構成機能62)に入力する。
シーケンスコントローラ58は、処理回路60の指令に従って、傾斜磁場電源46、RF送信器48及びRF受信器50の駆動に必要な制御情報を記憶する。ここでの制御情報とは、例えば、傾斜磁場電源46に印加すべきパルス電流の強度や印加時間、印加タイミング等の動作制御情報を記述したパルスシーケンスの情報である。シーケンスコントローラ58は、記憶した所定のパルスシーケンスに従って傾斜磁場電源46、RF送信器48及びRF受信器50を駆動させることで、傾斜磁場Gx、Gy、Gz及びRFパルスを発生させる。シーケンスコントローラ58は、専用のハードウェアで構成しても良いし、プロセッサを内蔵し、このプロセッサによるソフトウェア処理で上記の各機能を実現してもよい。
処理回路60も、専用のハードウェアで構成しても良いし、プロセッサを内蔵し、このプロセッサによるソフトウェア処理で各種を実現することもできる。以下では、処理回路60が、プロセッサによるソフトウェア処理によって各種機能を実現する例を説明する。具体的には、図1に示すように、処理回路60は、システム制御機能61、画像再構成機能62、画像処理機能64、及び、シーケンス補正機能66を、記憶回路76に保存されるプログラム、或いは、処理回路60のプロセッサ内に直接記憶されたプログラムを実行することによって実現する。
ここで、プロセッサとは例えば、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、或いは、特定用途向け集積回路(Application Specific Integrated Circuit:ASIC)、プログラマブル論理デバイス(例えば、単純プログラマブル論理デバイス(Simple Programmable Logic Device:SPLD)、複合プログラマブル論理デバイス(Complex Programmable Logic Device:CPLD)、及びフィールドプログラマブルゲートアレイ(Field Programmable Gate Array:FPGA))等の回路を意味する。
処理回路60やシーケンスコントローラ58が具備するプロセッサの数は、1つでもよいし、2つ以上でもよい。
システム制御機能61は、本スキャンの撮像条件の設定、撮像動作及び撮像後の画像表示において、MRI装置10全体のシステム制御を行う。上記撮像条件とは例えば、どの種類のパルスシーケンスにより、どのような条件でRFパルス等を送信し、どのような条件で被検体PからMR信号を収集するかを意味する。撮像条件の例としては、撮像空間内の位置的情報としての撮像領域、フリップ角、繰り返し時間TR(Repetition Time)、スライス数、撮像部位、スピンエコー法やパラレルイメージング等のパルスシーケンスの種類などが挙げられる。上記撮像部位とは、例えば、頭部、胸部、腹部などの被検体Pのどの部分を撮像領域として画像化するかを意味する。
上記「本スキャン」は、T1強調画像などの目的とする診断画像の撮像のためのスキャンであって、位置決め画像用のMR信号収集のスキャンや、較正スキャンを含まないものとする。スキャンとは、MR信号の収集動作を指し、画像再構成を含まないものとする。
較正スキャンとは例えば、本スキャンの撮像条件の内の未確定のものや、画像再構成処理や画像再構成後の補正処理に用いられる条件やデータを決定するために、本スキャンとは別に行われるスキャンを指す。較正スキャンの例としては、本スキャン前に、本スキャンでのRFパルスの中心周波数を算出するシーケンスなどが挙げられる。プレスキャンとは、較正スキャンの内、本スキャン前に行われるものを指す。
また、システム制御機能61は、撮像条件の設定画面情報をディスプレイ74に表示させ、入力デバイス72からの指示情報に基づいて撮像条件を設定し、撮像条件に基づいてパルスシーケンスを設定する。
シーケンス修正機能66は、システム制御機能61により(暫定的に)設定されたパルスシーケンスを修正し、修正後のパルスシーケンスをシーケンスコントローラ58に入力する。ここでの修正は、渦電流磁場の0次成分を算出し、渦電流磁場の0次成分によるラーモア周波数の変化に追従するように、RFパルスの出力制御波形を修正するものであり、詳細は後述する。
入力デバイス72は、撮像条件や画像処理条件を設定する機能をユーザに提供する。
画像再構成機能62は、位相エンコードステップ数及び周波数エンコードステップ数に応じて、RF受信器50から入力されるMR信号の生データをk空間データとして配置及び保存する。k空間とは、周波数空間の意味である。画像再構成機能62は、k空間データにフーリエ変換を含む画像再構成処理を施すことで、被検体Pの画像データを生成する。画像再構成機能62は、再構成直後の画像データを記憶回路76に保存する。
画像処理機能64は、再構成直後の画像データを記憶回路76から取り込み、これに所定の画像処理を施し、画像処理後の画像データを表示用画像データとして記憶回路76に保存する。
記憶回路76は、上記の表示用画像データに対し、その表示用画像データの生成に用いた撮像条件や被検体Pの情報(患者情報)等を付帯情報として付属させて記憶する。
また、処理回路60、入力デバイス72、ディスプレイ74、記憶回路76の4つを1つのコンピュータとして構成し、例えば制御室に設置してもよい。
また、上記説明では、MRI装置10の構成要素をガントリ30、寝台装置20、制御装置40の3つに分類したが、これは一解釈例にすぎない。例えば、天板移動機構23は、制御装置40の一部として捉えてもよい。
或いは、RF受信器50は、ガントリ30外ではなく、ガントリ30内に配置されてもよい。この場合、例えばRF受信器50に相当する電子回路基盤がガントリ30内に配設される。そして、RFコイル装置100等によって電磁波からアナログの電気信号に変換されたMR信号は、当該電子回路基盤内のプリアンプで増幅され、デジタル信号としてガントリ30外に出力され、画像再構成機能62に入力される。ガントリ30外への出力に際しては、例えば光通信ケーブルを用いて光デジタル信号として送信すれば、外部ノイズの影響が軽減されるので望ましい。
図2は、スライス選択方向傾斜磁場パルスと、これにより生じる渦電流磁場の0次成分の各強度の時間変化に起因するラーモア周波数のずれ一例を示す模式図である。図2の上段のRFは、搬送周波数に乗せられる前の入力信号としての励起RFパルスの波形を示す。なお、本実施形態では、例えば図2の上段のような波形信号が周波数変調によってラーモア周波数帯の搬送周波数に乗せられ、当該搬送周波数及びΔfにより変調された波形がRFコイル34からRFパルスとして出力されるので、図2の上段は、実際に出力されるRFパルスの強度の時間変化とは異なる。
図2の中段のGssは、励起RFパルスと同時に印加されるスライス選択方向傾斜磁場パルスGssの強度の時間変化を示し、図2の下段は、スライス選択方向傾斜磁場パルスGssにより生じる渦電流磁場の0次成分の時間変化に起因する磁気共鳴周波数(即ち、ラーモア周波数)のずれ(deviation)の時間変化を示す。なお、ラーモア周波数のずれとは、渦電流磁場が存在しないときの本来のラーモア周波数からのずれのことのである。図2の上段、中段、下段の各横軸のtは、経過時間を示す。
図2の中段、下段に示すように、スライス選択方向傾斜磁場パルスGssの強度が増加すると、渦電流磁場の0次成分の強度も増加し、ラーモア周波数も増加する。その後、スライス選択方向傾斜磁場パルスGssの強度が一定の期間では、渦電流磁場の0次成分の強度は、時定数に従って指数関数的に減衰し、ラーモア周波数も低下する。
但し、図2の例では、渦電流磁場の0次成分が指数関数的減衰によって強度0になる前に、スライス選択方向傾斜磁場パルスGssの強度が減少するため、この減少に伴って渦電流磁場の0次成分の強度もマイナスの値に下がり、ラーモア周波数も本来の周波数よりも負側に振れる。その後、スライス選択方向傾斜磁場パルスGssの強度はゼロで一定となるため、渦電流磁場の0次成分は、時定数に従って、指数関数的に回復し、ラーモア周波数も本来の周波数に徐々に戻る。
ここで、スライス選択方向が例えばZ軸方向の場合、シーケンス修正機能66は、Z軸傾斜磁場パルスの強度が一定値(ゼロも含む)の期間において、正の強度だった渦電流磁場の0次成分が指数関数的にゼロに減衰する場合の時定数τza、及び、負の強度だった渦電流磁場の0次成分が指数関数的にゼロに回復する場合の時定数τzbを記憶している。
このような時定数τza,τzbは、例えばMRI装置10の据付調整時に測定し、シーケンス修正機能66やシステム制御機能61等に記憶させておくことができる。Y軸傾斜磁場パルスの強度が一定値の期間に、正の強度だった渦電流磁場の0次成分が指数関数的にゼロに減衰する場合の時定数τya、及び、負の強度だった渦電流磁場の0次成分が指数関数的にゼロに回復する場合の時定数τybに関しても、上記同様に事前測定によりシーケンス修正機能66やシステム制御機能61に記憶される。
X軸傾斜磁場パルスの強度が一定値の期間に、正の強度だった渦電流磁場の0次成分が指数関数的にゼロに減衰する場合の時定数τxa、及び、負の強度だった渦電流磁場の0次成分が指数関数的にゼロに回復する場合の時定数τxbに関しても、上記同様に事前測定によりシーケンス修正機能66やシステム制御機能61に記憶される。
シーケンス修正機能66は、全ての傾斜磁場パルスの強度の時間変化及び上記の各時定数に基づいて、各傾斜磁場パルスにより生じる渦電流磁場の0次成分の強度を経過時間tの関数として計算する。そのために、シーケンス修正機能66は、スライス選択方向、位相エンコード方向、読み出し方向の全ての傾斜磁場パルスGss,Gpe,Groについて、その強度の時間変化(波形)をそれぞれ算出する。
ここでは一例として、傾斜磁場パルスの波形は、X軸傾斜磁場コイル33x、Y軸傾斜磁場コイル33y、Z軸傾斜磁場コイル33zへの各供給電流(の時間変化)の指令値に基づいて、指令値に従った波形の傾斜磁場パルスが発生するという仮定の下で算出される。なお、パルスシーケンスにおいて、電流値の指令値ではなく電圧値(の時間変化)の指令値に基づいて傾斜磁場コイル33への供給電力が規定されている場合、シーケンス修正機能66は、電圧値の指令値に基づいて上記演算を実行する。
パルスシーケンスの期間内のある時刻txにおける渦電流磁場の0次成分の強度は、パルスシーケンスの開始時刻から時刻txまでに印加された全傾斜磁場パルスによってそれぞれ生じる渦電流磁場の0次成分の積算値(合算値)として算出可能である。このような渦電流磁場の0次成分の強度は、公知技術により算出可能であるため、詳細な説明を省略する。
ここで、ある時刻txでの渦電流磁場の0次成分の強度を算出するために、上記のようにパルスシーケンスの開始時刻から時刻txまでに印加された全傾斜磁場パルスを考慮する方が正確であるが、演算負荷が大きい。また、時定数による減衰を考慮すると、直近の所定期間の傾斜磁場パルス以外によって生じた渦電流磁場の0次成分は、無視しても差し支えないと考えられる。
即ち、ある時刻txでの渦電流磁場の0次成分の強度を算出するためには、当該時刻txを終期とする所定期間PS内に印加された全傾斜磁場パルスのみを考慮しても、十分な精度で算出可能である。この点、次の図3を参照しながら具体的に説明する。
図3は、渦電流磁場の0次成分の強度の算出において考慮される傾斜磁場パルスの時間範囲の一例を示す模式的タイミング図である。図3では一例として、フィールドエコー法のパルスシーケンスを示すが、本実施形態は、スピンエコー法などの他のパルスシーケンスにも適用可能である。
図3において、各横軸は経過時間tに対応し、上段のRFはRFパルス、その下のGssはスライス選択方向傾斜磁場、その下のGpeは位相エンコード方向傾斜磁場、その下のGroは読み出し方向(周波数エンコード方向)傾斜磁場、最下段のSIGNALは発生するMR信号をそれぞれ示す。
ここでは一例として、パルスシーケンスの始めには、フリップ角が90°の励起RFパルスの送信と共に、スライス選択方向傾斜磁場パルスGssが印加される。
次に、位相エンコード方向傾斜磁場パルスGpeが印加され、負の極性の読み出し方向傾斜磁場パルスGroが印加される。
次に、位相エンコード方向傾斜磁場パルスGpeの印加は終了し、読み出し方向傾斜磁場パルスGroの極性が反転される。この極性反転後の読み出し方向傾斜磁場パルスGroの印加の下で、MR信号が検出される。
ここまでが位相エンコードステップ1つ分のMR信号の収集である。そして、励起RFパルスの送信開始から繰り返し時間TRの経過後、同様の処理が位相エンコード数だけ繰り返され、1画像分のMR信号が収集される。
ここで、図3の右側において、励起RFパルスの印加中の、即ち、励起RFパルス内の時刻txに着目する。シーケンス修正機能66は、この励起RFパルス内の時刻txにおける渦電流磁場の0次成分の強度を以下のように算出し、周波数変調を実行する。
まず、シーケンス修正機能66は、渦電流磁場の0次成分の各時定数を含むパルスシーケンスの条件に基づいて、渦電流磁場の0次成分の強度を十分な精度で算出できるように、所定期間PSを定める。例えば、図3に例示するように、繰り返し時間TRの3倍以上を所定期間PSとして定める。
次に、シーケンス修正機能66は、パルスシーケンスの条件に基づいて、時刻txを終期とする所定期間PS内に印加される傾斜磁場パルスを全て選択する。
次に、シーケンス修正機能66は、選択した傾斜磁場パルスを発生させるためにX軸傾斜磁場コイル33x、Y軸傾斜磁場コイル33y、Z軸傾斜磁場コイル33zに供給される各電流値又は各電圧値(の時間変化)の指令値をパルスシーケンスの条件から取得する。
次に、シーケンス修正機能66は、取得した電流値又は各電圧値の指令値に基づいて、各傾斜磁場パルスの強度の時間変化(波形)を算出する。
次に、シーケンス修正機能66は、上記のように算出した所定期間PS内の各傾斜磁場パルスの強度の時間変化に基づいて、これら傾斜磁場パルスによりそれぞれ生じる渦電流磁場の0次成分を経過時間tの関数としてそれぞれ算出及び合算する。この合算値が、時刻txが含まれる励起RFパルス内の、渦電流磁場の0次成分の時間変化となる。シーケンス修正機能66は、パルスシーケンスにおける他の全てのRFパルスについても上記と同様に、渦電流磁場の0次成分の時間変化を算出する。
次に、シーケンス修正機能66は、パルスシーケンスに含まれる全RFパルスについてそれぞれ、RFパルス内における被検体P内の実際のラーモア周波数を算出する。このラーモア周波数は、上記のようにRFパルス毎に算出した渦電流磁場の0次成分の時間変化と、静磁場磁石31が発生する磁場強度とに基づいて算出される。
次に、シーケンス修正機能66は、パルスシーケンスに含まれる全RFパルスの出力制御波形に対してそれぞれ、上記のように算出された各RFパルス内における実際のラーモア周波数に追従するように周波数変調を施すことで、各RFパルスの出力制御波形を修正する。ここでの追従とは、出力されるRFパルス内の周波数が実際のラーモア周波数に合致するように、周波数変調を実行することである。
より具体的には、RFコイル34内の全身用QDコイルのように、直交位相方式のRF送信コイルの場合、回転座標系において互いに直交する第1の軸側と、第2の軸側とに互いに位相が90°異なる電流がそれぞれ供給され、RFパルスが発生する。直交位相方式のRF送信コイルの場合、RFパルスの実部成分及び虚部成分はそれぞれ、互いに直交する第1の軸側に供給される第1の電流成分と、第2の軸側に供給される第2の電流成分とに相当する。RFパルスの位相及び振幅は、その実部成分及び虚部成分から算出可能であるが、その算出方法は公知なので、ここでは説明を省略する。
例えば、パルスシーケンスで規定されたRFパルスの出力制御波形で決まる中心周波数よりも、渦電流磁場の0次成分を反映した実際のラーモア周波数の方が低い場合、RFパルス内のRF信号の位相が遅れるように、RFパルス電流の出力制御波形に対して周波数変調が実行される。この周波数変調後のRFパルス電流は、例えば位相分割器を経由してから直交位相方式のRF送信コイルの第1の軸側と、第2の軸側とにそれぞれ供給されるため、第1の軸側と、第2の軸側とに供給される各RFパルス電流の位相は互いに90°異なる。
これにより、当該RF送信コイルから電磁波として放射されるRFパルス内の周波数は、渦電流磁場の0次成分の時間変化に起因して変化する被検体内の実際のラーモア周波数にほぼ合致する。このようにして、シーケンス修正機能66は、パルスシーケンスを修正する。
図4は、RFパルスの周波数変調が実行されない場合の従来のスライスプロファイル(図4(b))と、第1の実施形態によってRFパルスの周波数変調が実行される場合のスライスプロファイル(図4(c))の一例を示す模式図である。スライスプロファイルとは、傾斜磁場によって空間的に選択された領域から、RFパルスの印加に応答して発生するMR信号の強度を1次元で示した図である。図4(b)、(c)は、一例として、Z方向のスライスプロファイルを示している。また、図4(b)、(c)の夫々の下段には、周波数変調が行われない場合のRFパルスの周波数成分と、周波数変調が行われる場合のRFパルスの周波数成分を示している。ここで、RFパルスの周波数成分の形状自体は、いずれの場合も、sinc関数をフーリエ変換した矩形であるものとしている。但し、周波数変調を行っていない図4(b)では、RFパルスの中心周波数f0は固定であり、周波数変調を行っている図4(c)では、RFパルスの中心周波数は時間的に変化するものとしている。
一方、図4(b)、(c)において、Z方向のスライスプロファイルは、位置Zにおけるラーモア周波数f(Z)を規定する以下の(式1)で表すことができる。
f(Z)=f0+(γ/2π)・Gz・Z (式1)
ここで、f0は、渦電流磁場が存在しないときの本来のラーモア周波数である。また、γは磁気回転比と呼ばれる定数であり、Gzは、Z方向の傾斜磁場の大きさである。RFパルスは帯域幅をもっているため、スライスプロファイルは、この帯域幅と傾斜磁場Gzとで定まる厚みを持っている。
渦電流磁場の0次成分が存在し、またこの0次成分が時間変化する場合、実際のラーモア周波数は、RFパルスの夫々の印加時刻において本来のラーモア周波数から変動するし、また、図4(a)に示したように、夫々のRFパルス内においても時間的に変化する。実際のラーモア周波数と本来のラーモア周波数とのずれをΔf(t)で表し、このずれを考慮すると、(式1)は、以下の(式2)のようになる。
f(Z)=f0+Δf(t)+(γ/2π)・Gz・Z (式2)
図4(b)、(c)の中央部に示すグラフは、(式2)に対応するグラフである。ずれΔf(t)が、例えば、RFパルス内の時刻t1、t2、t3で変化すると、ずれΔf(t)に応じて、グラフの位置はZ方向にシフトすることになる。
したがって、周波数変調を行わない従来の場合は、図4(b)に示すように、RFパルス内の時刻t1、t2、t3において、スライスプロファイルの中心位置がずれることなる。このため、スライスプロファイルの等価的な厚みは、本来の厚みよりも大きくなってしまう。
これに対して、本実施形態の周波数変調が実行される場合、渦電流磁場の0次成分によるラーモア周波数のシフトに追従するようにRFパルスの出力制御波形が修正されるので、出力されるRFパルスの中心周波数は、実際のラーモア周波数にほぼ合致する。このため、図4(c)に示すように、スライスプロファイルの厚みは、本来の厚みが維持されることになる。
図5は、第1の実施形態のMRI装置10の動作の流れの一例を示すフローチャートである。以下、前述した各図を適宜参照しながら、図5に示すステップ番号に従って、MRI装置10の動作を説明する。
[ステップS1]システム制御機能61(図1参照)は、入力デバイス72を介してMRI装置10に対して入力された撮像条件に基づいて、撮像条件を設定する。また、公知のプレスキャンによってRFパルスの中心周波数値が算出され、RFパルスの中心周波数値がシーケンスコントローラ58から固定周波数生成回路57に入力される。この後、ステップS2に進む。
[ステップS2]システム制御機能61は、ステップS1で設定した撮像条件に基づいて、各RFパルスの出力制御波形及び送信タイミングや、各傾斜磁場パルスの出力制御波形及び送信タイミングが含まれるパルスシーケンスを暫定的に設定する。この後、ステップS3に進む。
[ステップS3]シーケンス修正機能66は、ステップS2で暫定的に設定されたパルスシーケンスの全条件をシステム制御機能61から取得する。シーケンス修正機能66は、前述のように、渦電流磁場の0次成分の強度を十分な精度で算出できるように、パルスシーケンスの条件に基づいて所定期間PSを決定する(図3参照)。
次に、シーケンス修正機能66は、前述のように、パルスシーケンスのRFパルス毎に、その送信タイミング及びRFパルス内において時間的に変化する渦電流磁場の0次成分の強度を算出し、さらに、算出した0次成分の強度に基づいて、RFパルス毎に、その送信タイミング及び当該RFパルス内におけるラーモア周波数を算出する。
次に、シーケンス修正機能66は、前述のように、各RFパルスの出力制御波形に対してそれぞれ、その送信タイミング及び当該RFパルス内におけるラーモア周波数の時間変化に追従するように周波数変調を施すことで、各RFパルスの出力制御波形を修正する。このようにしてシーケンス修正機能66は、ステップS2で暫定的に設定されたパルスシーケンスを修正する。
この後、ステップS4に進む。
[ステップS4]シーケンス修正機能66は、ステップS3で修正したパルスシーケンスをシーケンスコントローラ58に入力する。この後、ステップS5に進む。
[ステップS5]シーケンスコントローラ58は、ステップS4で入力されたパルスシーケンスに従ってMRI装置10の各部を制御し、本スキャンのデータ収集を実行させる。具体的には、天板22には被検体Pが載置されており、シムコイル電源44からシムコイル32に電流が供給されて、撮像空間に形成された静磁場が均一化される。
そして、入力デバイス72からシステム制御機能61に撮像開始指示が入力されると、シーケンスコントローラ58は、パルスシーケンスに従って傾斜磁場パルス波形生成回路47、傾斜磁場電源46、RF送信器48、RF受信器50、RFパルス波形生成回路54、可変周波数生成回路56等を駆動させる。これにより、シーケンスコントローラ58は、被検体Pの撮像部位が含まれる撮像領域に傾斜磁場を形成させると共に、RFコイル34(この例では全身用QDコイル)からRFパルスを撮像領域に送信させる。
RFパルスに関して具体的に説明すると、RFパルス波形生成回路54は、前述のように基板のクロック信号に基づいてデジタルのパルス波形信号を生成し、これをD/A変換することでアナログのパルス波形信号を生成する。このとき、RFパルス波形生成回路54は、シーケンスコントローラ58から入力されるパルスシーケンスにおけるRFパルスの出力制御波形により定まる矩形波のバンド幅に適合するように、アナログのパルス波形信号を圧縮又は伸長する。RFパルス波形生成回路54は、固定周波数生成回路57からの搬送周波数に上記アナログのパルス波形信号を変調し、変調後のパルス波形信号をRF送信器48に入力する。
ここで、シーケンスコントローラ58からRFパルス波形生成回路54に入力されるパルスシーケンスにより定まる矩形波は、渦電流磁場の0次成分を考慮した被検体P内のラーモア周波数に追従したものに修正されている(ステップS3)。従って、RF送信器48に入力される変調後のパルス波形信号も、実際のラーモア周波数に追従したものに修正されたものとなる。
RF送信器48は、入力されたパルス波形信号に基づいてRFパルス電流を生成し、これを全身用QDコイルに送信する。このRF電流パルスに応じたRFパルスが、全身用QDコイルから被検体Pに送信される。
このため、被検体P内の核磁気共鳴により生じたMR信号がRFコイル装置100(及び全身用QDコイル)により検出されて、RF受信器50に入力される。RF受信器50は、MR信号に前述の処理を施すことでMR信号の生データを生成し、これら生データを画像再構成機能62に入力する。画像再構成機能62は、MR信号の生データをk空間データとして配置及び保存する。
この後、ステップS6に進む。
[ステップS6]画像再構成機能62は、上記本スキャンにより生成されたk空間データにフーリエ変換を含む画像再構成処理を施すことで画像データを再構成し、得られた画像データを記憶回路76に保存する。画像処理機能64は、記憶回路76から再構成後の画像データを取り込み、これに所定の画像処理を施すことで2次元の表示用画像データを生成し、この表示用画像データを記憶回路76に保存する。この後、システム制御機能61は、表示用画像データが示す画像をディスプレイ74に表示させる。
以上が第1の実施形態のMRI装置10の動作説明である。
以下、第1の実施形態と従来技術との違いについて説明する。従来技術では、RFパルスの送信において、渦電流磁場の0次成分に起因する実際のラーモア周波数の変化が考慮されていない。このため、従来技術では、スライスプロフィルの形状が劣化する(スライスプロファイルの幅が広がる)場合があった。また、脂肪抑制パルスのように狭帯域な周波数選択的RFパルスを印加する場合には、脂肪のラーモア周波数がシフトすることによって、抑制すべき脂肪が抑制されず、逆に、抑制すべきではない水成分が抑制されてしまうという問題もあった。
一方、第1の実施形態では、シーケンス修正機能66は、渦電流磁場の0次成分を算出し、渦電流磁場の0次成分に基づいて各RFパルスの送信タイミング及び当該RFパルス内におけるラーモア周波数を算出する。そして、シーケンス修正機能66は、各RFパルスの出力制御波形に対して、その送信タイミング及び当該RFパルス内における実際のラーモア周波数に追従するように周波数変調を施す。
従って、制御装置40のハードウェア側(シーケンスコントローラ58)には、上記のように修正済のパルスシーケンスが本スキャン前に入力される。このため、実際に出力されるRFパルスの周波数は、渦電流磁場の時間変化に起因する実際のラーモア周波数に追従し、本来意図したスライスプロファイルを得ることが可能となる。このため、本実施形態では、撮像条件に即した局所励起を実現することができる。特に、送信期間が長いRFパルスの場合には、第1の実施形態による改善の効果が顕著に表れる。
また、渦電流磁場によって変化する脂肪や水のラーモア周波数は、RFパルスの内部においても追従されるため、脂肪等の不要信号をより確実に抑制することができ、画質を向上させることができる。
さらに、第1の実施形態では、各RFパルスの送信タイミングに対してそれぞれ算出される渦電流磁場の0次成分の強度に関し、直近の所定期間PS内に印加される傾斜磁場パルスのみが反映される。所定期間PSは、時定数による減衰を考慮し、十分な精度で渦電流磁場の0次成分の強度を算出できるようにシーケンス設定機能66により定められる。従って、第1の実施形態によれば、渦電流磁場の0次成分の強度の算出の演算負荷を最小限度に留めることができる。
<第2の実施形態>
第1の実施形態では、処理回路60内でパルスシーケンス(におけるRFパルスの出力制御波形)が修正され、修正後のパルスシーケンスが制御装置40におけるハードウェア側に入力される例を述べた。第2の実施形態では、ハードウェア側のRFパルス波形生成回路54において、アナログのパルス波形信号に対する周波数変調が実行されるため、シーケンス修正機能66は省略される。
従って、第2の実施形態のMRI装置の装置構成は、シーケンス修正機能66が省略される点を除き、図1で説明した第1の実施形態のMRI装置10と同様であるため、ブロック図を省略し、フローチャートで第1の実施形態との違いのみを説明する(この点、第3の実施形態、第4の実施形態も同様である)。
図6は、第2の実施形態のMRI装置の動作の流れの一例を示すフローチャートである。以下、図5に示すステップ番号に従って、第2の実施形態のMRI装置の動作を説明する。
[ステップS21,S22]第1の実施形態の図5のステップS1,ステップS2と同様であるので、重複する説明を省略する。この後、ステップS23に進む。
[ステップS23]システム制御機能61は、ステップS22で設定したパルスシーケンスをシーケンスコントローラ58に入力する。この後、ステップS24に進む。
[ステップS24]第1の実施形態と同様に、撮像空間に形成された静磁場がシムコイル電源44及びシムコイル32により均一化される。
そして、入力デバイス72からシステム制御機能61に撮像開始指示が入力されると、シーケンスコントローラ58は、入力されたパルスシーケンスに従って制御装置40の各部を駆動させることで、本スキャンとしてのMR信号の収集を実行する。ここでは一例として、以下の<1>〜<4>のサブステップが順次繰り返されることで、本スキャンが実行される。
<1>シーケンスコントローラ58は、パルスシーケンスに従って、X軸傾斜磁場コイル33x、Y軸傾斜磁場コイル33y、Z軸傾斜磁場コイル33zに供給される各電流値又は各電圧値(の時間変化)の指令値を傾斜磁場パルス波形生成回路47及びRFパルス波形生成回路54にリアルタイムで順次入力すると共に、RFパルスの出力制御波形をRFパルス波形生成回路54にリアルタイムで順次入力する。この入力に同期して、RFパルス波形生成回路54は、X軸傾斜磁場コイル33x、Y軸傾斜磁場コイル33y、Z軸傾斜磁場コイル33zへの供給電流(供給電圧)の指令値に応じて渦電流磁場の0次成分及びラーモア周波数のシフト量を第1の実施形態と同様に算出する。
<2>RFパルス波形生成回路54は、第1の実施形態と同様にアナログのパルス波形信号を生成後、ラーモア周波数のシフト量に追従するように、アナログのパルス波形信号に周波数変調を施す。RFパルス波形生成回路54は、固定周波数生成回路57からの搬送周波数に周波数変調された後のアナログのパルス波形信号を、前述同様に更に変調し、変調後のパルス波形信号をRF送信器48に入力する。
<3>RF送信器48は、入力されたパルス波形信号に基づいてRFパルス電流を生成し、これを全身用QDコイルに送信する。このRF電流パルスに応じたRFパルスが、全身用QDコイルから被検体Pに送信される。
<4>RFパルスの送信後、RFコイル装置100は、被検体PからのMR信号を検出する。検出されたMR信号は、第1の実施形態と同様に処理され、最終的には画像再構成機能62においてk空間データに変換されて保存される。
以上の<1>〜<4>を繰り返すことで本スキャンのMR信号の収集が終了後、ステップS25に進む。
[ステップS25]第1の実施形態の図5のステップS6と同様であるので、重複する説明を省略する。以上が図5のフローチャートの説明である。
このように第2の実施形態のMRI装置では、実際のラーモア周波数に追従するように、RFパルスの出力制御波形に対する周波数変調がRFパルス波形生成回路54においてリアルタイムで順次実行されるため、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。
<第3の実施形態>
第1の実施形態では、パルスシーケンスにおけるRFパルスの出力制御波形が処理回路60内で修正され、第2の実施形態では、パルスシーケンスにおけるRFパルスの出力制御波形がハードウェア側のRFパルス波形生成回路54で修正される例を述べた。第3の実施形態のMRI装置は、パルスシーケンスにおけるRFパルスの出力制御波形を修正せずに、ラーモア周波数のシフトに追従するように可変周波数生成回路56がRFパルスの中心周波数にΔfの周波数変調を施す。
図7は、第3の実施形態のMRI装置の動作の流れの一例を示すフローチャートである。以下、図7に示すステップ番号に従って、第3の実施形態のMRI装置の動作を説明する。
[ステップS31〜S33]第2の実施形態の図6のステップS21〜S23とそれぞれ同様であるので、重複する説明を省略する。この後、ステップS34に進む。
[ステップS34]第1の実施形態と同様に、撮像空間に形成された静磁場がシムコイル電源44及びシムコイル32により均一化される。
そして、入力デバイス72からシステム制御機能61に撮像開始指示が入力されると、シーケンスコントローラ58は、入力されたパルスシーケンスに従って制御装置40の各部を駆動させることで、本スキャンとしてのMR信号の収集を実行する。ここでは一例として、以下の<1’>〜<4’>のサブステップが順次繰り返されることで、本スキャンが実行される。
<1’>シーケンスコントローラ58は、パルスシーケンスに従って、X軸傾斜磁場コイル33x、Y軸傾斜磁場コイル33y、Z軸傾斜磁場コイル33zに供給される各電流値又は各電圧値(の時間変化)の指令値を傾斜磁場パルス波形生成回路47及び可変周波数生成回路56にリアルタイムで順次入力すると共に、RFパルスの出力制御波形をRFパルス波形生成回路54にリアルタイムで順次入力する。可変周波数生成回路56は、シーケンスコントローラ58からの入力に同期して、X軸傾斜磁場コイル33x、Y軸傾斜磁場コイル33y、Z軸傾斜磁場コイル33zへの供給電流(供給電圧)の指令値に基づいて、渦電流磁場の0次成分及びラーモア周波数のシフト量を前述同様に算出する。
<2’>RFパルス波形生成回路54は、第1の実施形態と同様に、アナログのパルス波形信号を生成後、固定周波数生成回路57からの搬送周波数にアナログのパルス波形信号を変調する。RFパルス波形生成回路54は、変調後のパルス波形信号を可変周波数生成回路56に入力する。可変周波数生成回路56は、サブステップ<1’>で算出したラーモア周波数のシフト量に追従するように、RFパルス波形生成回路54から入力されたパルス波形信号に周波数変調を施し、周波数変調後のパルス波形信号をRF送信器48に入力する。
<3’>RF送信器48は、入力されたパルス波形信号に基づいて前述同様にRFパルス電流を生成し、これを全身用QDコイルに送信する。このRF電流パルスに応じたRFパルスが、全身用QDコイルから被検体Pに送信される。
<4’>前述同様にMR信号が検出され、k空間データとして保存される。
以上のサブステップ<1’>〜<4’>を繰り返すことで本スキャンのMR信号の収集が終了後、ステップS35に進む。
[ステップS35]第1の実施形態の図5のステップS6と同様であるので、重複する説明を省略する。以上が図7のフローチャートの説明である。
第3の実施形態では、RFパルス波形生成回路54において固定周波数生成回路57からの搬送周波数に変調されたパルス波形信号は、可変周波数生成回路56に入力され、ラーモア周波数のシフト量に追従するように更に周波数変調されてから、RF送信器48に入力される。従って、RFコイル34から出力されるRFパルスの中心周波数は、実際のラーモア周波数のシフトに追従した値となる。従って、第3の実施形態のMRI装置においても、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。
<第4の実施形態>
第4の実施形態のMRI装置は、パルスシーケンスにおけるRFパルスの出力制御波形を修正せずに、RFパルスの生成元となる搬送周波数を、ラーモア周波数のシフトに追従するようにハードウェア側でずらす。ここでは一例として、ラーモア周波数のシフトに追従するように、固定周波数生成回路57は、搬送周波数をずらす。
図8は、第4の実施形態のMRI装置の動作の流れの一例を示すフローチャートである。以下、図8に示すステップ番号に従って、第4の実施形態のMRI装置の動作を説明する。
[ステップS41〜S43]第2の実施形態の図6のステップS21〜S23とそれぞれ同様であるので、重複する説明を省略する。この後、ステップS44に進む。
[ステップS44]第1の実施形態と同様に、撮像空間に形成された静磁場がシムコイル電源44及びシムコイル32により均一化される。
そして、入力デバイス72からシステム制御機能61に撮像開始指示が入力されると、シーケンスコントローラ58は、入力されたパルスシーケンスに従って制御装置40の各部を駆動させることで、本スキャンとしてのMR信号の収集を実行する。ここでは一例として、以下の<1”>〜<4”>のサブステップが順次繰り返されることで、本スキャンが実行される。
<1”>シーケンスコントローラ58は、パルスシーケンスに従って、X軸傾斜磁場コイル33x、Y軸傾斜磁場コイル33y、Z軸傾斜磁場コイル33zに供給される各電流値又は各電圧値(の時間変化)の指令値を傾斜磁場パルス波形生成回路47及び固定周波数生成回路57にリアルタイムで順次入力すると共に、RFパルスの出力制御波形をRFパルス波形生成回路54にリアルタイムで順次入力する。これに同期して、固定周波数生成回路57は、X軸傾斜磁場コイル33x、Y軸傾斜磁場コイル33y、Z軸傾斜磁場コイル33zへの供給電流(供給電圧)の指令値に基づいて渦電流磁場の0次成分及びラーモア周波数のシフト量を前述同様にリアルタイムで順次算出する。固定周波数生成回路57は、このシフト量に追従するように周波数をシフトさせた搬送周波数を生成し、生成した搬送周波数をRFパルス波形生成回路54にリアルタイムで順次入力する。
<2”>RFパルス波形生成回路54は、第1の実施形態と同様にアナログのパルス波形信号を生成後、固定周波数生成回路57からの搬送周波数にアナログのパルス波形信号を変調する(ここで変調されるRFパルスの波形は、実際のラーモア周波数に追従するように、サブステップ<1”>で周波数が更にシフトされている)。RFパルス波形生成回路54は、変調後のパルス波形信号をRF送信器48に入力する。
<3”>RF送信器48は、前述同様に、入力されたパルス波形信号に基づいてRFパルス電流を生成し、これを全身用QDコイルに送信する。このRF電流パルスに応じたRFパルスが、全身用QDコイルから被検体Pに送信される。
<4”>前述同様にMR信号が検出され、k空間データとして保存される。
以上のサブステップ<1”>〜<4”>を繰り返すことで本スキャンのMR信号の収集が終了後、ステップS45に進む。
[ステップS45]第1の実施形態の図5のステップS6と同様であるので、重複する説明を省略する。以上が図8のフローチャートの説明である。
第4の実施形態では、RFパルス波形生成回路54に入力される搬送周波数は、ラーモア周波数のシフトに追従するようにシフトされている。この搬送周波数に基づいてRFパルスが生成されるので、RFコイル34から出力されるRFパルスの中心周波数は、実際のラーモア周波数のシフトに追従した変調となる。従って、第4の実施形態のMRI装置においても、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。
以上説明した各実施形態磁気共鳴イメージング装置によれば、渦電流磁場に起因してラーモア周波数が変化した場合でも、画質の劣化を抑制することができる。
<各実施形態の補足事項>
[1]上記各実施形態では、RFパルスを送信するRFコイル装置として、RFコイル34内の直交位相方式の全身用QDコイルが用いられる例を述べた。本発明の実施形態は、直交位相方式に限らず、他の方式でRFパルスを送信するRFコイル装置の場合にも、RFパルスの出力制御波形を周波数変調する上記各実施形態の技術は適用可能である。
[2]請求項の用語と実施形態との対応関係を説明する。なお、以下に示す対応関係は、参考のために示した一解釈であり、本発明を限定するものではない。
傾斜磁場パルス波形生成回路47、傾斜磁場電源46、及び、傾斜磁場コイル33は、請求項記載の傾斜磁場発生回路の一例である。
第1の実施形態において、シーケンス修正機能66、シーケンスコントローラ58、可変周波数生成回路56、RFパルス波形生成回路54、RF送信器48、及び、RFコイル34は、請求項記載のRF送信回路の一例である。
第2〜第4の実施形態において、シーケンスコントローラ58、可変周波数生成回路56、RFパルス波形生成回路54、RF送信器48、及び、RFコイル34は、請求項記載のRF送信回路の一例である。
入力デバイス72を介して撮像条件を取得し、撮像条件に基づいてパルスシーケンスを設定するシステム制御機能61は、請求項記載の処理回路で実現される機能の一例である。
[3]本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。