JP2016131708A - 中心静脈圧の測定方法、中心静脈圧の測定システム、およびプログラム - Google Patents

中心静脈圧の測定方法、中心静脈圧の測定システム、およびプログラム Download PDF

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Abstract

【課題】シャント血管を有しない患者においても、通常の静脈を介して、中心静脈圧を簡易に、かつ安全に計測することができるようにすること。【解決手段】測定システムでは、患者の腕が駆血され、当該駆血された部分よりも下流側の静脈に溶液を穿刺針50から注入しながら、注入される溶液の他に時間あたりの流量(溶液速度)と溶液回路51と溶液回路52の接続部の圧(回路圧)とが測定される。なお、これらの測定は、複数の溶液速度について行なわれる。そして、これらの測定値における溶液速度と回路圧との関係が、直線で近似される。そして、当該直線上の溶液速度がゼロのときの回路圧から、心臓と回路圧測定点との高さの差に相当する圧を加算することにより、中心静脈圧が導出される。【選択図】図1

Description

本開示は、中心静脈圧の測定方法に関し、特に、中心静脈圧を容易かつ安全に測定するための、測定方法、測定システム、およびプログラムに関する。
中心静脈圧は、心臓に対する負荷の程度や体内の水分量を把握するために計測される重要な数値の一つである。その基準値は、5〜12cmH2O(約3.7〜約8.8mmHg)とされる。そして、当該基準値と患者の測定値とが比較され、あるいは、患者の測定値の推移が観察され、その結果が、患者の心臓に対する負荷の程度や体内の水分量の適正さの判断に利用され得る。たとえば、測定値が基準値より高い場合には、あるいは、患者の測定値が連続的に上昇している場合には、心不全や体内水分量過多の疑いが生じる。また、測定値が基準値より低い場合には、あるいは、患者の測定値が連続的に低下している場合には、出血や脱水などのために循環血液量が少ないか、アナフィラキシーショックなどにより末梢血管が拡張している、などという疑いが生じる。
通常、中心静脈圧を測定するためには、たとえば、患者の頸静脈にカテーテルを挿し、当該カテーテルを心臓付近の上大静脈まで挿入する必要がある(非特許文献1)。
一方、主に慢性腎不全のために血液透析を行う患者においては、上肢の動脈と静脈とを外科手術により接合し、当該静脈に動脈の血液を直接に流通させることにより、当該静脈の圧と血流を増大させ、以て、当該静脈から血液を体外循環させ、また当該静脈に戻せるようにした、いわゆるシャント血管が作製される。
そこで、シャント血管を有する患者において、中心静脈圧を測定するために、シャント血管を作成した上肢を駆血し、溶液を注入することなく、駆血された箇所よりも下流側のシャント血管の圧力を測定することにより、中心静脈圧を測定する方法が考案された(特許文献1)。
特開2013−188382号公報
株式会社トップ、"トップ静脈圧測定用マノメーターセット"、[online]、平成15年6月、[平成26年6月30日検索]、インターネット〈URL:http://www.top-tokyo.co.jp/medical/pdf/5010_3.pdf〉
上記のように、従来の中心静脈圧の測定法は、大がかりな施術を要し、また時に死亡事故の発生が想定されるほどに危険な施術であるため、従来、中心静脈圧の測定は、設備の整っている大規模な病院でしかおこなえなかった。
一方、特許文献1に記載された中心静脈圧の測定法は、駆血された箇所よりも下流側のシャント血管の圧力を測定することにより、中心静脈圧を測定することはできるが、通常の静脈の圧力を測定することにより、中心静脈圧を測定することはできない。これは、静脈において血液の逆流を防ぐ役割を果たしている静脈弁の存在のため、通常の静脈では血液が流通していない状態では静脈弁の下流側の圧力が静脈弁の上流側に伝わらないか、あるいは低減して伝えられるためである。
なお、シャント血管については、動脈の血液が直接シャント血管に流通するために、静脈弁の機能は破壊される。さらに、動脈の血液が直接シャント血管に流通するために、シャント血管が拡張し、これに伴って、静脈弁の弁輪も拡張し、その結果、静脈弁は閉鎖不全状態になる。そして、これらの静脈弁機能の喪失のため、シャント血管においては、血液が流通していない状態であっても静脈弁の下流側の圧力が静脈弁の上流側に伝わるので、シャント血管の存在する上肢を駆血し、駆血された箇所よりも下流側のシャント血管の圧力を測定するだけで、中心静脈圧を測定することができる。
本開示は、かかる実情に鑑み考え出されたものであり、その目的は、シャント血管を有しない患者においても、通常の静脈を介して、中心静脈圧を簡易に、かつ安全に計測することができるようにすることである。
本開示のある局面に従った中心静脈圧の測定方法は、駆血した患者の四肢に対して当該駆血された箇所よりも下流側の静脈に溶液を流通させる流路が接続されている状態で、当該溶液の単位時間あたりの流量を測定する工程と、流路の圧力を測定する工程と、単位時間あたりの流量と圧力との複数の組合せに基づいて、単位時間あたりの流量がゼロのときの流路の圧力を導出することにより中心静脈圧の推定値を導出する工程とを備える。
好ましくは、中心静脈圧の推定値を導出する工程は、単位時間あたりの流量と圧力との複数の組合せに基づいて、両者の関係を示す関数を生成する工程と、関数における単位時間あたりの流量がゼロのときの流路の圧力を推定する工程とを含む。
好ましくは、関数を生成する工程が、単位時間あたりの流量が100mL/hr以上の場合における単位時間あたりの流量と圧力との複数の組合せ基づいて、関数を生成する工程である。
好ましくは、関数が一次関数である。
好ましくは、圧力を測定する工程が、単位時間あたりの流量が一定である状態において、圧力の周期的変動を平坦化し、該平坦化された圧力を算出する工程を含む。
好ましくは、心臓の位置と流路の圧力の測定点との鉛直方向の高さの差異で、流路の圧力を補正する工程を含む。
本開示のある局面に従った中心静脈圧の測定システムは、駆血した患者の四肢に対して当該駆血された箇所よりも下流側の静脈に溶液を流通させる流路が接続されている状態で、当該溶液の単位時間あたりの流量を測定するための第1の測定手段と、流路の圧力を測定するための第2の測定手段と、メモリと、単位時間あたりの流量の測定値および圧力の測定値をメモリに記憶するためのプロセッサとを備え、プロセッサは、単位時間あたりの流量と圧力との複数の組合せに基づいて、単位時間あたりの流量がゼロのときの流路の圧力を導出することにより中心静脈圧の推定値を導出するように構成されている。
好ましくは、中心静脈圧の推定値を導出することが、単位時間あたりの流量と圧力との複数の組合せに基づいて、関数を生成することと、該関数により単位時間あたりの流量がゼロのときの静脈に接続されている流路の圧力を導出することとを含んでいる。
好ましくは、圧力を測定することが、単位時間あたりの流量が一定である状態における圧力の周期的変動を平坦化して、平坦化された圧力を算出することを含んでいる。
好ましくは、プロセッサは、心臓の位置と溶液の流路内圧の測定点との鉛直方向の高さの差異に基づいて、測定された圧力を補正する工程をさらに実行するように構成されている。
好ましくは、第2の測定手段は、圧力を、単位時間あたりの流量が100mL/hr以上であることを条件として測定する。
本開示のある局面に従ったプログラムは、患者の中心静脈圧を測定するためのコンピュータによって実行されるプログラムであって、プログラムは、コンピュータに、駆血した患者の四肢に対して当該駆血された箇所よりも下流側の静脈に溶液を流通させる流路が接続されている状態で測定された、当該溶液の単位時間あたりの流量を取得する工程と、流路の圧力を取得する工程と、単位時間あたりの流量と圧力との複数の組合せに基づいて、単位時間あたりの流量がゼロのときの流路の圧力を導出することにより中心静脈圧の推定値を導出する工程とを実行させる。
好ましくは、中心静脈圧の推定値を導出する工程が、単位時間あたりの流量と圧力との複数の組合せに基づいて、関数を生成する工程と、該関数により単位時間あたりの流量がゼロのときの静脈に接続されている流路の圧力を推定する工程とを含む。
好ましくは、関数が一次関数である。
好ましくは、圧力を取得する工程が、単位時間あたりの流量が一定である状態における圧力の周期的変動を平坦化して、該平坦化された圧力を算出する工程を含む。
好ましくは、プログラムは、コンピュータに、心臓の位置と溶液の流路内圧の測定点との鉛直方向の高さとの差異に基づいて、測定された圧力を補正する工程をさらに実行させる。
好ましくは、圧力を取得する工程では、単位時間あたりの流量が100mL/hr以上であることを条件として測定された圧力が取得される。
第1の実施の形態において利用される、中心静脈圧の測定システムの構成の一例を模式的に示す図である。 測定システムのハードウェア構成の一例を示す図である。 中心静脈圧を測定するために測定装置のコントローラによって実行される処理の一例のフローチャートである。 第1の実施の形態における近似直線の生成の方法の一例を説明するための図である。 測定システムにおいて利用される数式を示す図である。 第3の実施の形態の測定システムの構成の一例を模式的に示す図である。 図6の測定システムのハードウェア構成の一例を示す図である。 第3の実施の形態の測定システムにおいて、溶液貯留容器の高さを変えながら行なわれた、回路圧の測定結果の一例を模式的に示す図である。
以下に、図面を参照しつつ、本開示の実施の形態について説明する。以下の説明では、同一の部品および構成要素には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同じである。したがって、これらの説明は繰り返さない。
[第1の実施の形態]
<1.前提>
本開示の中心静脈圧の測定システムにおける前提を説明する。本開示では、駆血した患者の四肢の静脈における溶液の流れは、粘性液体の流れの一例として捉えられ、その挙動が考察される。
ベルヌーイの定理によれば、2点間の圧差は、単位時間あたりの流量の2乗に比例する。しかし、ベルヌーイの定理は、導管を流通する溶液には全く粘性がない、いわゆる理想流体であるか、あるいは2点間には実質的に流量抵抗がないことを前提としている。すなわち、駆血した患者の四肢の静脈を流通する溶液が粘性を有しない、いわゆる理想流体に近いために、静脈の内径の狭小・拡大に伴う流量抵抗が実質的に存在しない場合、あるいは、2点間の静脈が極めて太く、あるいは短いため、2点間にそもそも実質的に流量抵抗が存在しない場合には、溶液の流れの方向における2点間の圧差は、当該2点のそれぞれにおける溶液の流速(単位時間あたりの流量を断面積で割った値)によってのみ決定される。すなわち、流量抵抗の影響を受けない2点間の圧差は、単位時間あたりの流量の2乗に比例する。これに対し、導管を流通する溶液に粘性があり、かつ導管が細く、あるいは長ければ、導管の2点間に流量抵抗が発生するので、導管における溶液の流れの方向における2点間の圧差は、それぞれの点における静脈の断面積と単位時間あたりの流量だけではなく、2点間の流量抵抗の影響も受ける。そして、溶液の粘性が大きくなればなるほど、流量抵抗の影響も大きくなり、2点間の圧差は、流量抵抗の影響を受けて単位時間あたりの流量に比例するようになる。
本願発明者による実験によれば、駆血した上肢の当該駆血された箇所よりも下流側の静脈に接続された、溶液を流通させる流路おける圧は、溶液の単位時間あたりの流量に比例した。一方、溶液の流れの終点である上大静脈の圧は、溶液の単位時間あたりの流量にかかわらず、一定であると考えられる。したがって、上記の駆血された箇所よりも下流側の静脈に接続された、溶液を流通させる流路の圧測定点と上大静脈との間の圧差は、溶液の単位時間あたりの流量に比例したことになる。すなわち、溶液を流通させる流路および駆血した患者の四肢の静脈における溶液の流れが、粘性液体の流れの一例として捉えられたと考えられる。なお、理想流体の粘度はゼロであるとの前提に対し、30℃の水の粘度は0.797mPa・sであり、生理食塩水の粘度は0.811mPa・sである。
第1の実施の形態では、先端に接続された穿刺針で患者の腕の静脈を穿刺することにより、溶液を流通させる流路である補液ラインを静脈に接続する。次に、当該接続点より上流側で当該静脈を駆血し、駆血部位より下流側では血液が流れていない状態にする。その後、補液ラインから、その先端に接続された穿刺針を通して当該血液が流れていない状態の静脈に溶液を注入する。そして、当該溶液の単位時間あたりの流量を変化させながら、補液ラインの圧力を測定し、当該測定の結果に基づいて、溶液の単位時間あたりの流量と補液ライン内の圧力の関係を導き出し、当該関係に基づいて、単位時間あたりの流量がゼロのときの補液ライン内の圧力を予測する。当該予測された圧力は、前記静脈(尺骨皮静脈)が鎖骨下静脈に移行し、その後、内頚静脈と合流して腕頭静脈となる点での圧の推定値とみなされる。ところで、左右の腕頭静脈は合流して上大静脈となるが、腕頭静脈も上大静脈も共に極めて太い血管であるため、鎖骨下静脈と内頚静脈との合流点の圧(腕頭静脈の起始部の圧)と心臓の近傍の圧(上大静脈の終点部の圧=中心静脈圧)との間に実質的に圧差がなく、したがって、鎖骨下静脈と内頚静脈との合流点の圧は中心静脈圧と等しいとみなして差し支えない。本明細書では、これ以後、鎖骨下静脈と内頚静脈との合流点の圧を中心静脈圧とみなす。
なお、本明細書では、中心静脈圧の測定の対象となる者を、「患者」と呼ぶ。
<2.測定システムの構成>
図1は、第1の実施の形態において利用される、中心静脈圧の測定システムの構成の一例を模式的に示す図である。図1を参照して、当該測定システムの構成を説明する。
測定システム1は、主に、測定装置20と、圧力センサ15と、ポンプ16と、穿刺針50と、溶液貯留容器60と、圧力測定用チャンバ70とを含む。測定システム1では、手首を駆血バンドBで駆血された患者に対して、中心静脈圧の測定が行なわれる。穿刺針50は、患者の腕LAの、駆血バンドBで駆血された部位より下流側の静脈に穿刺される。
溶液貯留容器60は、溶液(生理食塩水等)を貯留し、溶液回路51を介して穿刺針50に接続される。溶液回路51上には、ポンプ16が設置されており、穿刺針50を通して静脈に流通する溶液の速度を決定すると伴に、溶液貯留容器60内の圧がポンプ16の下流に伝わらないようにするための圧遮断機能を果たしている。圧力測定用チャンバ70は、溶液貯留容器60が貯留するのと同じ溶液を貯留し、溶液回路52を介してポンプ16よりも下流で溶液回路51に接続され、さらにチャンバ内の水面の高さが溶液回路51と溶液回路52との接続部の高さと等しくになるように高さが調整されている。
ポンプ16は、溶液貯留容器60に貯留された溶液を、穿刺針50へ送る。圧力センサ15は、圧力測定用チャンバ70内の溶液の圧力を測定するために、圧力測定用チャンバ70に取り付けられている。上記のように、圧力測定用チャンバ70内の溶液は、溶液回路52を介してポンプ16よりも下流の溶液回路51と導通している。したがって、第1の実施の形態では、圧力センサ15が計測する圧力値は、溶液回路51と溶液回路52との接続部の圧(以下、適宜「回路圧」)とみなされる。当該圧力値は、中心静脈圧と、溶液回路52が溶液回路51に接続される部位の心臓からの高さ、および溶液の単位時間あたりの流量によって決まる。すなわち、溶液回路52が溶液回路51と接続される部位の心臓からの高さが一定であれば、回路圧と中心静脈圧との圧差は溶液の単位時間あたりの流量に比例する。
測定装置20は、ポンプ16が搬送する溶液の単位時間あたりの流量を取得する。第1の実施の形態では、穿刺針50が穿刺されている部位よりも上流側で静脈が駆血されることにより、穿刺針50が穿刺されている部位への血液の供給が停止されている。したがって、第1の実施の形態では、ポンプ16によって搬送される溶液のみが流通するので、ポンプ16によって搬送される溶液の単位時間あたりの流量が、静脈内の流体の単位時間あたりの流量とみなされる。
測定装置20は、また、圧力センサ15によって測定される圧力値を取得する。そして、測定装置20は、ポンプ16によって搬送される溶液の単位時間あたりの流量と圧力センサ15によって測定される圧力値とを用いて、中心静脈圧を算出する。
<3.測定システムのハードウェア構成>
図2は、測定システム1のハードウェア構成の一例を示す図である。図2を参照して、測定システム1のハードウェア構成を説明する。
図2に示されるように、測定システム1は、上述したように、圧力センサ15と、ポンプ16と、測定装置20とを含む。
測定装置20は、当該測定システム1の動作を制御するコントローラ10と、記憶装置11とを含む。
コントローラ10は、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサを含む。記憶装置11は、たとえば、ハードディスクやフラッシュメモリなどの記録媒体によって実現される。なお、記憶装置11は、測定装置20の本体に固定されていてもよいし、当該本体に対して着脱可能であってもよい。そして、記憶装置11の記憶領域は、コントローラ10のプロセッサが実行するプログラムを記憶するプログラム記憶領域111と、当該プログラムの実行に利用される各種のデータを記憶するデータ記憶領域112とを含む。
測定装置20は、さらに、通信装置12と、操作器13と、表示装置14とを含む。
通信装置12は、測定システム1が他の機器と通信するために設けられ、たとえば無線送受信装置からなる。操作器13は、測定システム1が外部からの操作を受け付けるために設けられる。そして、操作器13は、たとえば、操作ボタン、および/または、タッチパネルによって実現される。表示装置14は、測定システム1が情報を表示するために設けられる。そして、表示装置14は、たとえば液晶表示装置やプラズマディスプレイ等によって実現される。
<4.中心静脈圧の測定処理>
図3は、中心静脈圧を測定するために測定装置20のコントローラ10によって実行される処理の一例のフローチャートである。図3を参照して、中心静脈圧を測定するための処理の流れを説明する。
操作器13に対して中心静脈圧の測定の指示が入力されると、ステップS10で、コントローラ10は、ポンプ16の駆動を100ml/hrの単位時間あたりの流量から開始させる。そして、制御はステップS20へ進められる。なお、測定システム1では、コントローラ10は、ポンプ16の駆動を100ml/hrの単位時間あたりの流量から開始させた後、徐々に、当該ポンプ16の駆動力を上昇させる。これにより、ポンプ16によって実現される溶液の流量は、徐々に増加する。
ステップS100で、コントローラ10は、その時点でポンプ16において実現されている単位時間あたりの流量を取得し、また、圧力センサ15から回路圧とを取得する。そして、コントローラ10は、取得した単位時間あたりの流量を溶液の単位時間あたりの流量(溶液速度)としてデータ記憶領域112に記録し、さらに、取得した回路圧をデータ記憶領域112に記録する。そして、制御はステップS110へ進められる。
ステップS110で、コントローラ10は、単位時間あたりの流量が予め定められた速度(たとえば、600mL/hr)を超えたかどうかを判断する。そして、コントローラ10は、まだ単位時間あたりの流量が予め定められた速度を超えていないと判断すると(ステップS110でNO)、ステップS120へ制御を進め、超えていると判断すると(ステップS110でYES)、ステップS200へ制御を進める。
ステップS120で、コントローラ10は、ステップS100で単位時間あたりの流量と回路圧を取得した時点から所定時間が経過したか否かを判断し、経過したと判断するまでステップS110の制御にとどまる(ステップS110でNO)。そして、コントローラ10は、上記所定時間が経過したと判断すると(ステップS110でYES)、ステップS120へ制御を進める。コントローラ10は、このような制御を繰り返すことにより、ステップS100でポンプ16の駆動を開始させてから所定時間ごとに、溶液速度および回路圧を取得し、これらをデータ記憶領域112へ記録する。
一方、ステップS200で、コントローラ10は、ポンプ16の駆動を停止させ、それまでに取得した単位時間あたりの流量および回路圧について、回路圧の単位時間あたりの流量に対する近似直線を生成する。図4は、近似直線の生成の方法の一例を説明するための図である。図4を参照して、近似直線の生成について説明する。
図4では、横軸は溶液速度を示し、縦軸は回路圧を示す。図4のグラフには、ステップS100〜ステップS200において取得された回路圧の4個の測定値が、対応する単位時間あたりの流量(溶液速度)に対してプロットされている。図4中の線L1は、上記4個の測定値のプロットの近似直線である。
図3に戻って、ステップS200で、コントローラ10は、中心静脈圧の推定値を決定する。第1の実施の形態において、中心静脈圧は、近似直線に基づいて決定される。つまり、コントローラ10は、近似直線の切片、つまり、単位時間あたりの流量がゼロの値に対応する回路内圧の値を、中心静脈圧から心臓からの回路内圧の測定点までの高さに対応する圧を差し引いた値として導出する。図4に示された例では、近似直線(線L1)は、溶液速度をx、回路内圧をyとした場合、一次式「y=0.1029x+3.7851」で表される。
さらに、コントローラ10は、流量がゼロの値に対応する回路内圧(=3.7851mmHg)に心臓からの回路内圧の測定点までの高さに対応する圧(=0.52mmHg)を加えて、中心静脈圧を導出する。これにより、中心静脈圧は、「4.3501mmHg」と導出される。
そして、図3に示された処理が終了する。
<5.測定結果についての考察>
以上説明した第1の実施の形態では、測定システム1において、患者の腕が駆血され、当該駆血された部分よりも下流側の静脈に溶液を注入しながら当該溶液の単位時間あたりの流量(溶液速度)と溶液回路51と溶液回路52の接続部の圧(回路圧)とが測定される。なお、これらの測定は、複数の溶液速度について行なわれる。そして、これらの測定値における溶液速度と回路圧との関係として、近似直線が生成される。そして、近似直線上の溶液速度がゼロのときの回路圧として、中心静脈圧から心臓からの回路内圧の測定点までの高さに対応する圧が差し引かれた値が導出され、さらに該導出値に心臓からの回路内圧の測定点までの高さに対応する圧を加えて中心静脈圧が算出される。
本開示では、血管における血液の流れが、導管における粘性液体の流れの一例として捉えられる。
ベルヌーイの定理は、導管を流通する溶液には全く粘性がない、いわゆる理想流体であるか、あるいは2点間には実質的に流量抵抗がないことを前提としており、測定システム1にベルヌーイの定理を当てはめると、図5中の式(1)で表される。式(1)において、TVは溶液回路を流通する溶液の流速(=単位時間あたりの流量を断面積で割った値)、CVは上腕静脈と内頚静脈との接合部における上腕静脈を流通する溶液の流速(=単位時間あたりの流量を断面積で割った値)を表し、Tpは流体の回路圧、CVPは上腕静脈と内頚静脈との接合部における圧力であって、中心静脈圧に等しい。ρは流体の密度を表す。式(1)を書き換えると、式(2)が得られる。式(2)でQは溶液の単位時間あたりの流量、TSは回路の断面積、CSは上腕静脈と内頚静脈との接合部における上腕静脈の断面積を示す。さらに、流速とは、単位時間あたりの流量を断面積で割った値であるとして、式(2)を書き換えると、式(3)が得られる。式(3)をさらに書き換えると、式(4)が得られる。式(4)によれば、測定システム1において、回路圧と中心静脈圧との差は、単位時間あたりの流量(Q)の二乗に比例することになる。しかし、図4に示された単位時間あたりの流量(溶液速度)の測定範囲において、回路圧の測定値は、測定された単位時間あたりの流量に対して、ベルヌーイの定理とは異なる挙動を示している。これは、溶液には無視できない程度の大きさの粘性が存在し、かつ上腕静脈は断面積が4mm〜20mmと細く、長さは30〜50cmと長いことによる。すなわち、理想流体の粘度はゼロであるとの前提に対し、30℃の水の粘度0.797mPa・s、生理食塩水の粘度は、その1.018倍である。すなわち、溶液を上腕動脈に流通させた場合には、ベルヌーイの定理に従う要素と流量抵抗の存在による要素とが合わさった挙動を示すはずであるが、実際には流量抵抗の存在による要素の方が強いので、観察上、溶液速度と回路圧との関係は一次関数で示されることとなる。
中心静脈圧は、溶液速度が100ml/hrであるという比較的高い範囲のデータの近似直線(図4の直線L1)に基づいて特定される。溶液速度の低い側のデータを除外することは、次のような見解に基づく。
遅い単位時間あたりの流量では、ジェットが血管壁に当たって二次的な抵抗を形成する程度が弱いという利点がある反面、欠点としては、圧の測定が不安定である。静脈には静脈弁があり、静脈弁が血流の逆流を防いでいる。今、患者の四肢を駆血して、駆血された部位よりも下流側の静脈へ流入する血液を遮断し、一方、駆血された部位よりも下流側の静脈へ穿刺針を穿刺して、血液ではなく溶液を流通させる時、流通速度が遅いときには、ポンプの駆動に伴う単位時間あたりの流量の変動、いわゆる脈流のため静脈弁の開く程度が変化し、抵抗値が変動すると思われる。さらに、遅い単位時間あたりの流量では回路圧も低くなり、呼吸に伴う胸腔の圧変動(呼吸のたびにわずかずつ異なる)がこれを上回るようになり、これも回路圧の測定を不安定にする。そのため遅い流量では、相関係数もやや小さくなる。
なお、現実に中心静脈圧が測定されるシステムの具体的な構成によっては、溶液速度が100ml/hrよりも低い場合であっても、上記したような「圧の測定の不安定」という欠点が生じない場合があり得る。また、システムの具体的な構成によっては、溶液速度が100ml/hrよりも高い場合であっても、上記欠点が生じる場合があり得る。本実施の形態の「100ml/hr」は、上記欠点が生じない(または、考慮する必要性が低い)溶液速度の閾値の一例である。上記欠点を生じない溶液速度の閾値は、システムの具体的な構成によって変更される場合があり得る。
[第2の実施の形態]
第2の実施の形態では、第1の実施の形態と同様に、測定システム1において、回路圧の測定が行なわれる。なお、第2の実施の形態の回路圧の測定では、各溶液速度において、特定の時間(たとえば、7秒程度)、継続して回路圧が測定される。そして、当該特定の時間に測定された複数の回路圧の平均値が、当該溶液速度での回路圧の測定値とされる。
より具体的には、コントローラ10は、上記特定の時間、溶液速度が一定になるようにポンプ16の駆動を制御する。そして、コントローラ10は、たとえば0.5秒に1回、回路圧を測定する。これにより、各溶液速度において7秒間ずつ回路圧が測定された場合、各溶液速度について13個の測定値が取得される。そして、コントローラ10は、これらの13個の測定値の測定値の平均値を算出することにより、各溶液速度での回路圧を特定する。
第2の実施の形態では、回路圧の測定値への人間の呼吸の影響を消去することができる。より具体的には、上大静脈が存在する人間の胸腔内の圧力は一定ではない。人間が空気を吸うと、胸腔内の圧力は陰圧となる。人間が空気を吐くと、胸腔内の圧力は大気圧に等しくなる。そして、回路圧の測定値も、このような呼吸による影響を受ける。より具体的には、呼吸中の回路圧の測定値は、一定周期の波動を描く。
第2の実施の形態では、溶液速度間で、回路圧の測定値に対する呼吸の影響を極力、消去するため、特定の時間継続して回路圧を計測し、得られた計測結果の平均値(積分平均値)を算出することにより、各溶液速度での回路圧の測定値を決定する。
なお、特定の時間は、1回分の呼吸に要する時間以上とされることが好ましい。また、人間は、平均的に1分間に18回程度呼吸するといわれている。このため、特定の時間の一例としては、上記したような7秒程度とされることが好ましい。
[第3の実施の形態]
図6は、第3の実施の形態の測定システムの構成の一例を模式的に示す図である。図7は、第3の実施の形態の測定システムのハードウェア構成の一例を示す図である。図6および図7を参照して、第3の実施の形態の測定システムを用いた中心静脈圧の測定について説明する。
第3の実施の形態では、第1の実施の形態(図1参照)と比較して、測定システムは、ポンプ16を含まない。一方、第3の実施の形態の測定システムは、滴下チャンバ18と、当該滴下チャンバ18の単位時間における溶液の滴下数(滴下速度)を計測する滴下速度測定装置19とを含む。第3の実施の形態の測定システムでは、溶液貯留容器60内の溶液は、重力の作用により、滴下チャンバ18内へと滴下される。滴下チャンバ18内の溶液は、患者の駆血された腕の当該駆血された部分よりも下流側の静脈に注入される。
第3の実施の形態では、心臓に対する溶液貯留容器60における溶液の液面の高さ(以下、単に「溶液貯留容器60の高さ」という)が回路圧を示す指標の一例として採用される。
第3の実施の形態において、コントローラ10は、溶液貯留容器60の心臓に対する高さを様々に変化させながら、滴下測定装置19を用いて、各高さでの滴下速度を測定する。そして、溶液貯留容器60の心臓に対する高さと滴下速度との間の一次関数を求める。そして、コントローラ10は、当該一次関数を用いて、滴下速度がゼロになるときの溶液貯留容器60の心臓に対する高さの推定値を算出する。この高さが中心静脈圧に相当する。
図8は、患者の心臓に対する溶液貯留容器60の高さを変えながら行なわれた、滴下速度の測定結果の一例を模式的に示す図である。図8のグラフにおいて、縦軸は、患者の心臓からの溶液貯留容器60の高さを示している。横軸は、滴下速度を示す。
図8のグラフには、6個の測定値がプロットされている。図8中の線L2は、6個の測定値に対して生成された近似直線である。図8に示されるように、測定点が、下方に位置するほど、左方に位置する。つまり、患者の心臓からの溶液貯留容器60の高さが低くなるほど、滴下速度が低くなる。
第3の実施の形態のコントローラ10は、たとえば、患者の心臓からの溶液貯留容器60の高さを変更しながら滴下速度を測定する。そして、コントローラ10は、取得された複数の測定値に対して線L2として示されたような近似直線を生成する。
そして、コントローラ10は、近似直線(線L2)上の値であって、滴下速度がゼロのときの患者の心臓からの溶液貯留容器60の高さを、中心静脈圧に相当する値として設定する。図8では、当該値は、値DAで示されている。
第3の実施の形態によれば、測定システムが滴下測定装置19を備えていれば、ポンプや圧力センサを備えていなくとも、患者の中心静脈圧についての評価の出力など、間接的に中心静脈圧を測定することができる。
今回開示された各実施の形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。また、実施の形態および各変形例において説明された発明は、可能な限り、単独でも、組合わせても、実施することが意図される。
1 測定システム、10 コントローラ、11 記憶装置、12 通信装置、13 操作器、14 表示装置、15,15A,15B 圧力センサ、16 ポンプ、19 滴下速度測定装置、20 測定装置。

Claims (17)

  1. 駆血した患者の四肢に対して当該駆血された箇所よりも下流側の静脈に溶液を流通させる流路が接続されている状態で、当該溶液の単位時間あたりの流量を測定する工程と、前記流路の圧力を測定する工程と、
    前記単位時間あたりの流量と前記圧力との複数の組合せに基づいて、前記単位時間あたりの流量がゼロのときの前記流路の圧力を導出することにより中心静脈圧の推定値を導出する工程とを備える、中心静脈圧の測定方法。
  2. 前記中心静脈圧の推定値を導出する工程は、
    前記単位時間あたりの流量と前記圧力との複数の組合せに基づいて、両者の関係を示す関数を生成する工程と、
    前記関数における前記単位時間あたりの流量がゼロのときの前記流路の圧力を推定する工程とを含む、請求項1に記載の中心静脈圧の測定方法。
  3. 前記関数を生成する工程が、
    前記単位時間あたりの流量が100mL/hr以上の場合における前記単位時間あたりの流量と前記圧力との複数の組合せ基づいて、前記関数を生成する工程である、請求項2に記載の中心静脈圧の測定方法。
  4. 前記関数が一次関数である、請求項2または請求項3に記載の中心静脈圧の測定方法。
  5. 前記圧力を測定する工程が、
    前記単位時間あたりの流量が一定である状態において、前記圧力の周期的変動を平坦化し、該平坦化された圧力を算出する工程を含む、請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の中心静脈圧の測定方法。
  6. 心臓の位置と前記流路の圧力の測定点との鉛直方向の高さの差異で、前記流路の圧力を補正する工程を含む、請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の中心静脈圧の測定方法。
  7. 駆血した患者の四肢に対して当該駆血された箇所よりも下流側の静脈に溶液を流通させる流路が接続されている状態で、当該溶液の単位時間あたりの流量を測定するための第1の測定手段と、
    前記流路の圧力を測定するための第2の測定手段と、
    メモリと、
    前記単位時間あたりの流量の測定値および前記圧力の測定値を前記メモリに記憶するためのプロセッサとを備え、
    前記プロセッサは、前記単位時間あたりの流量と前記圧力との複数の組合せに基づいて、前記単位時間あたりの流量がゼロのときの前記流路の圧力を導出することにより中心静脈圧の推定値を導出するように構成されている、中心静脈圧の測定システム。
  8. 前記中心静脈圧の推定値を導出することが、
    前記単位時間あたりの流量と前記圧力との複数の組合せに基づいて、関数を生成することと、
    該関数により前記単位時間あたりの流量がゼロのときの前記静脈に接続されている流路の圧力を導出することとを含んでいる、請求項7に記載の中心静脈圧の測定システム。
  9. 前記圧力を測定することが、
    前記単位時間あたりの流量が一定である状態における前記圧力の周期的変動を平坦化して、平坦化された圧力を算出することを含んでいる、請求項7または請求項8に記載の中心静脈圧の測定システム。
  10. 前記プロセッサは、心臓の位置と前記溶液の流路内圧の測定点との鉛直方向の高さの差異に基づいて、前記測定された圧力を補正する工程をさらに実行するように構成されている、請求項7〜請求項9のいずれか1項に記載の中心静脈圧の測定システム。
  11. 前記第2の測定手段は、前記圧力を、前記単位時間あたりの流量が100mL/hr以上であることを条件として測定する、請求項7〜請求項10のいずれか1項に記載の中心静脈圧の測定システム。
  12. 患者の中心静脈圧を測定するためのコンピュータによって実行されるプログラムであって、
    前記プログラムは、前記コンピュータに、駆血した患者の四肢に対して当該駆血された箇所よりも下流側の静脈に溶液を流通させる流路が接続されている状態で測定された、当該溶液の単位時間あたりの流量を取得する工程と、
    前記流路の圧力を取得する工程と、
    前記単位時間あたりの流量と前記圧力との複数の組合せに基づいて、前記単位時間あたりの流量がゼロのときの前記流路の圧力を導出することにより中心静脈圧の推定値を導出する工程とを実行させる、プログラム。
  13. 前記中心静脈圧の推定値を導出する工程が、
    前記単位時間あたりの流量と前記圧力との複数の組合せに基づいて、関数を生成する工程と、
    該関数により前記単位時間あたりの流量がゼロのときの前記静脈に接続されている流路の圧力を推定する工程とを含む、請求項12に記載のプログラム。
  14. 前記関数が一次関数である、請求項13に記載のプログラム。
  15. 前記圧力を取得する工程が、
    前記単位時間あたりの流量が一定である状態における前記圧力の周期的変動を平坦化して、該平坦化された圧力を算出する工程を含む、請求項12〜請求項14のいずれか1項に記載のプログラム。
  16. 前記プログラムは、前記コンピュータに、前記溶液の流路内圧の測定点との鉛直方向の高さの差異に基づいて、前記測定された圧力を補正する工程をさらに実行させる、請求項12〜請求項15のいずれか1項に記載のプログラム。
  17. 前記圧力を取得する工程では、前記単位時間あたりの流量が100mL/hr以上であることを条件として測定された圧力が取得される、請求項12〜請求項16のいずれか1項に記載のプログラム。
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