JP2016128610A - マグネシウム合金鋳造材、マグネシウム合金鋳造コイル材、マグネシウム合金展伸材、マグネシウム合金接合材、マグネシウム合金鋳造材の製造方法、マグネシウム合金展伸材の製造方法、及びマグネシウム合金部材の製造方法 - Google Patents

マグネシウム合金鋳造材、マグネシウム合金鋳造コイル材、マグネシウム合金展伸材、マグネシウム合金接合材、マグネシウム合金鋳造材の製造方法、マグネシウム合金展伸材の製造方法、及びマグネシウム合金部材の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】優れた難燃性及び加工性を有するマグネシウム(Mg)合金鋳造材、Mg合金鋳造コイル材、Mg合金展伸材、Mg合金接合材、Mg合金鋳造材の製造方法、Mg合金展伸材の製造方法、及びMg合金部材の製造方法を提供する。
【解決手段】Alを含有するマグネシウム合金からなるマグネシウム合金鋳造材であって、前記マグネシウム合金は、ASTM規格におけるAZ91合金をベース合金とし、更にCaを0.5質量%以上3質量%以下含有し、残部がMg及び不可避不純物であり、DASが4.5μm未満であり、AlとCaとを含む第一の金属間化合物と、AlとMgとを含む第二の金属間化合物とを含有し、前記第一の金属間化合物と前記第二の金属間化合物との両金属間化合物が隣り合って存在する箇所を具え、前記第一の金属間化合物の平均粒径が2μm以下であるマグネシウム合金鋳造材。
【選択図】図1

Description

本発明は、マグネシウム合金(以下、Mg合金と呼ぶことがある)からなる各種の部材、特にプレス加工といった塑性加工が施されたMg合金部材の素材に適したMg合金鋳造材、Mg合金鋳造コイル材、Mg合金展伸材、Mg合金接合材、及びMg合金鋳造材の製造方法、並びにMg合金部材に関するものである。特に、難燃性及び加工性に優れるMg合金鋳造材、Mg合金展伸材に関するものである。
マグネシウム合金は、構造材用金属の中で最軽量の合金であり、資源量、リサイクル性、衝撃吸収性、耐凹み性といった様々な面で優れている。そのため、近年、携帯電話やノート型パーソナルコンピュータといった携帯用電気・電子機器類の筐体や自動車部品、鉄道車両用部品などの各種の部材の構成材料にマグネシウム合金が利用されてきている。
マグネシウム合金からなる製品は、ダイカスト法やチクソモールド法による鋳造材が主流である。特許文献1は、連続鋳造法により製造した鋳造板に圧延加工を施すことで、プレス加工性に優れるマグネシウム合金板が得られる旨を開示している。
国際公開第2006/003899号
マグネシウム合金は、非常に活性で燃え易い。マグネシウム合金の難燃性を高めるためには、特許文献1に記載されるようにCaの添加が効果的である。しかし、Caを添加すると加工性が低下する。具体的には、鋳造材に圧延といった展伸加工を施したり、展伸加工が施された展伸材にプレス加工といった塑性加工を施したりすると割れが生じ易く、展伸材や塑性加工材の生産性の低下を招く。
従って、圧延材といった展伸材やプレス加工材といった塑性加工材を生産性よく製造するために、その素材となる鋳造材自体が加工性に優れることが望まれる。
そこで、本発明の目的の一つは、難燃性に優れる上に、加工性にも優れるマグネシウム合金鋳造材を提供することにある。また、本発明の他の目的は、難燃性及び加工性の双方に優れるマグネシウム合金鋳造材を製造可能なマグネシウム合金鋳造材の製造方法を提供することにある。
更に、本発明の他の目的は、難燃性及び加工性の双方に優れるマグネシウム合金展伸材、この展伸材の素材に適したマグネシウム合金鋳造コイル材を提供することにある。
更に、本発明の他の目的は、難燃性及び機械的特性の双方に優れるマグネシウム合金部材、このマグネシウム合金部材の素材に適したマグネシウム合金接合材を提供することにある。
本発明者らは、難燃性を向上するためにCaを比較的多く添加すると共に、強度といった機械的特性や耐食性も向上するためにAlも添加したマグネシウム合金を対象として、種々の条件で鋳造材を作製した。その結果、連続鋳造法を利用すると共に、鋳造時の冷却速度を非常に速くして急冷することでCaを含有するマグネシウム合金であっても、圧延といった展伸加工性に優れる鋳造材が得られること、この鋳造材を素材とすることでプレス加工といった塑性加工性に優れる展伸材が得られるとの知見を得た。また、展伸加工性に優れる鋳造材の組織を調べたところ、特定の鋳造組織を有していた。本発明は、上記知見に基づくものである。
本発明のマグネシウム合金鋳造材は、Alを含有するマグネシウム合金からなる鋳造材であり、上記マグネシウム合金は、Alを2質量%以上11質量%以下、かつCaを0.1質量%以上10質量%以下含有する。そして、この鋳造材は、DAS(dendrite arm spacing)が4.5μm未満である。
上記本発明鋳造材は、以下の本発明製造方法により製造することができる。本発明のマグネシウム合金鋳造材の製造方法は、Alを含有するマグネシウム合金からなる鋳造材を製造する方法であり、以下の準備工程と鋳造工程とを具える。
準備工程:Alを2質量%以上11質量%以下、かつCaを0.1質量%以上10質量%以下含有するマグネシウム合金の溶湯を準備する工程。
鋳造工程:一対の鋳造ロールを具える双ロール連続鋳造機により上記溶湯を連続鋳造して鋳造材を製造する工程。
そして、上記鋳造時の冷却速度を650℃/秒以上とする。
Caの含有量を多くするほど合金の液相線温度及び固相線温度が低下して合金溶湯が凝固し難くなり、完全に凝固するまでの時間が長くなる。即ち、Caを比較的多く含む、特に0.1質量%以上含むMg合金溶湯では、未凝固の状態が長くなり易く、その結果、DASが大きくなるなどして加工性の低下を招く、と考えられる。本発明製造方法は、冷却速度を非常に速めることでDASを非常に小さくすることができ、DASが4.5μm未満の本発明鋳造材を製造することができる。DASが十分に小さいことで本発明鋳造材は、圧延などの展伸加工を施した際に割れが生じ難く、加工性に優れる上に、Caを特定の範囲で含有することで、難燃性にも優れる。
本発明製造方法の一形態として、上記一対の鋳造ロール間のギャップをgr、上記鋳造ロールに向かって上記溶湯を排出するノズルの開口部の間隔をgnとするとき、gn<grとなるように、上記鋳造ロール間のギャップ及び上記ノズルの開口部の間隔の少なくとも一方を調整する形態が挙げられる。
本発明者らは、冷却速度を速めるためには、溶湯をできるだけ速やかに鋳造ロールにより冷却することが好ましい、との知見を得た。上記形態は、ノズルの開口部の間隔が鋳造ロール間のギャップよりも小さいことで、ノズルの開口部を鋳造ロールに近づけたり、ノズル本体の厚さを厚くして断熱性を高めたりすることができる。従って、上記形態は、高温状態の溶湯を鋳造ロールに接触できることから、鋳造時の冷却速度を十分に大きくでき、DASが十分に小さい鋳造材を製造することができる。
本発明製造方法の一形態として、上記準備工程では、所定量のうちの一部のCaを含有するCa含有溶湯を作製してから、残部のCaを添加して上記マグネシウム合金の溶湯を作製する形態が挙げられる。
本発明者らは、Caを上記特定の範囲で含有する鋳造材を製造する場合、多段階に分けてCaを混合させることが好ましい、との知見を得た。上記形態は、Ca含有溶湯に更にCaを添加することでCaを均一的に混合できるため、Caの偏在を抑制できる。従って、上記形態は、Caが偏在して凝固し難い箇所が存在し、DASが大きな箇所が局所的に形成され、その結果加工性が低下する、といった不具合の発生を効果的に防止できる。
本発明鋳造材の一形態として、上記マグネシウム合金がAlとCaとを含む第一の金属間化合物を含有し、上記第一の金属間化合物の最大径が5μm以下である形態が挙げられる。
Caを多く含有するほど難燃性を高められるものの、上述のように凝固し難くなることで鋳造材に粗大な金属間化合物が形成され易い。ここで、添加元素にAlを含有するMg合金は、高強度で耐食性に優れる。しかし、AlとCaとの双方を上記範囲で含有するMg合金では、AlとCaとを含有する金属間化合物が粗大な粒子となって晶出し易い。粗大な金属間化合物は、鋳造材に圧延などの展伸加工を施す際に割れの起点となり易く、鋳造材の加工性の低下を招く。上記粗大な金属間化合物を圧延などの展伸加工時の負荷により微細にしようとすると、展伸加工装置に過大な負荷が加えられる上に、素材が不均一に加工される。また、上記粗大な金属間化合物が展伸材に残存すると、この展伸材にプレス加工などの塑性加工を施す際、上記粗大な金属間化合物が割れの起点となり、展伸材の加工性の低下を招く。上記形態は、AlとCaとを含む金属間化合物が十分に小さいことで、割れの起点になり難く、展伸加工の加工性に優れる。また、本発明鋳造材に展伸加工を施してなる展伸材(本発明展伸材)には、鋳造材中のAlとCaとを含む金属間化合物が残存するものの、当該金属間化合物は、上述のような非常に微細な粒子であることから、当該展伸材にプレス加工などの塑性加工を施す際にも割れの起点になり難く、この展伸材も加工性に優れる。上記金属間化合物が微細に晶出した上記形態の鋳造材は、上述した連続鋳造時の冷却速度を非常に大きくする本発明製造方法により製造できる。
本発明鋳造材の一形態として、上記マグネシウム合金がAlとCaとを含む第一の金属間化合物を含有し、上記DASと上記第一の金属間化合物の最大径との差の絶対値が2.5μm以下である形態が挙げられる。
本発明鋳造材は、DASが小さいことから、上記差が小さい上記形態は、AlとCaとを含む金属間化合物も小さく、かつ、この金属間化合物はDASと同程度な大きさであるといえる。また、上記形態は、上記差が小さいことから、微細な鋳造組織中に、同様に微細な金属間化合物が存在した均一的な組織といえる。このような微細で均一的な組織であることから、上記形態は、上記金属間化合物が割れの起点となり難く、加工性により優れる。
本発明鋳造材の一形態として、上記マグネシウム合金がAlとCaとを含む第一の金属間化合物を含有し、上記DASと上記AlとCaとを含む第一の金属間化合物の最大径との和が5μm以下である形態が挙げられる。
本発明鋳造材は、DASが小さいことから、上記和が小さい上記形態は、AlとCaとを含む金属間化合物も十分に小さいといえる。従って、上記形態は、微細な鋳造組織中に非常に微細な金属間化合物が存在した均一的な組織といえる。このような微細で均一的な組織であることから、上記形態は、上記金属間化合物が割れの起点となり難く、加工性により優れる。上記和が小さい上に、上述した差も小さい形態であると、加工性に更に優れる。
本発明鋳造材の一形態として、上記マグネシウム合金がAlとCaとを含む第一の金属間化合物と、AlとMgとを含む第二の金属間化合物とを含有しており、上記第一の金属間化合物と上記第二の金属間化合物との両金属間化合物が隣り合って存在する箇所を具える形態が挙げられる。また、上記形態の鋳造材を素材として、圧延などの展伸加工を施すことで、本発明展伸材が得られる。本発明のマグネシウム合金展伸材は、Alを2質量%以上11質量%以下、かつCaを0.1質量%以上10質量%以下含有するマグネシウム合金からなる展伸材であり、上記マグネシウム合金は、更に、AlとCaとを含む第一の金属間化合物と、AlとMgとを含む第二の金属間化合物とを含有する。そして、この展伸材では、上記第一の金属間化合物と上記第二の金属間化合物との両金属間化合物の粒子が隣り合った粒子群を含む。
本発明者らが調べたところ、Ca及びAlを上記特定の範囲で含有するMg合金を上記特定の冷却速度で連続鋳造して得られた鋳造材は、上記両金属間化合物が隣り合った状態でデンドライト組織のアーム間に晶出し、両金属間化合物が網目状に存在する組織を有する、との知見を得た。また、この組織を有する鋳造材に圧延といった展伸加工を施すと、得られた展伸材(本発明展伸材)も、上記両金属間化合物の粒子が隣り合ってなる微細な粒子群が分散して存在する組織を有する、との知見を得た。更に、上記微細な粒子群が分散した組織を有する展伸材は、プレス加工といった塑性加工を施した際、割れなどが生じ難く、加工性に優れる、との知見を得た。従って、上記形態の鋳造材は、圧延などの展伸加工の加工性に優れる上に、プレス加工といった塑性加工の加工性に優れる展伸材が得られる。上記本発明展伸材は、プレス加工といった塑性加工の加工性に優れる上に、Caを特定の範囲で含有することで難燃性にも優れる。
本発明鋳造材の一形態として、上記マグネシウム合金がAlとCaとを含む第一の金属間化合物を含有し、この金属間化合物の平均粒径が2μm以下である形態が挙げられる。
上記形態は、AlとCaとを含む金属間化合物の平均粒径が小さいことで、上記Mg合金中に存在する金属間化合物はいずれも微細といえる。従って、上記形態は、上記金属間化合物が割れの起点となり難く、加工性により優れる。特に、上記形態において、上記金属間化合物の最大径が5μm以下であると、更に割れ難く、加工性に更に優れる。この鋳造材に圧延加工などの展伸加工を施すことで得られた展伸材(本発明展伸材の一形態)もAlとCaとを含む金属間化合物の最大径が5μm以下で、かつ平均粒径が2μm以下となる。この展伸材も、上記金属間化合物がいずれも微細であって割れの起点になり難く、プレス加工などの塑性加工の加工性に優れる。また、この展伸材は、微細で均一的な大きさの金属間化合物が分散した組織を有することで分散強化による強度の向上も期待できる。この展伸材を素材としてプレス加工といった塑性加工を施した塑性加工材も、上記分散強化された組織を維持することで、強度、耐衝撃性、剛性に優れる。
本発明鋳造材又は本発明展伸材の一形態として、マグネシウム合金鋳造材又はマグネシウム合金展伸材において、当該鋳造材又は当該展伸材の厚さ方向の表層領域及び中央領域に存在するAlとCaとを含む第一の金属間化合物が微細で、均一的な大きさである形態が挙げられる。上記表層領域とは、上記鋳造材又は上記展伸材の表面から厚さ方向に当該鋳造材又は当該展伸材の厚さの20%までの領域とする。上記中央領域とは、上記鋳造材又は上記展伸材の厚さ方向の中心から表面側に向かって当該鋳造材又は当該展伸材の厚さの10%までの領域とする。そして、上記鋳造材又は上記展伸材はいずれも、上記表層領域及び上記中央領域の各領域における上記AlとCaとを含む第一の金属間化合物の最大径が5μm以下、かつ平均粒径が2μm以下であり、更に、上記表層領域における上記平均粒径と、上記中央領域における上記平均粒径との差が20%以内である。
上記形態は、表面領域と中央領域とに存在する上記金属間化合物の大きさの差が小さいことから、鋳造材の全体又は展伸材の全体に亘って、上記金属間化合物の大きさが均一的で微細である、といえる。従って、上記形態は、圧延などの展伸加工やプレス加工などの塑性加工時に割れなどが生じ難く、加工性に優れる。
本発明鋳造材又は本発明展伸材の一形態として、上記マグネシウム合金がAlとMgとを含む第二の金属間化合物及びAlとMnとを含む第三の金属間化合物の少なくとも一方を含有し、上記第二の金属間化合物及び上記第三の金属間化合物の少なくとも一方の金属間化合物の平均粒径が2μm以下である形態が挙げられる。
本発明鋳造材や本発明展伸材は、上述のAlとCaとを含有する金属間化合物だけでなく、上記形態のようにAlとMgとを含有する金属間化合物やAlとMnとを含有する金属間化合物を含有する形態が有り得る。本発明鋳造材では、上述のように連続鋳造時の冷却速度を大きくして急冷することで、上述の金属間化合物のいずれもが小さく均一的であり、これら金属間化合物が割れの起点となり難い。従って、上記形態の鋳造材は、圧延などの展伸加工性に優れる。また、この鋳造材を素材として得られた本発明展伸材も、素材(上記形態の鋳造材)と同様に上述の金属間化合物がいずれも小さく均一的である。従って、上記形態の展伸材は、プレス加工などの塑性加工性に優れる。
本発明鋳造材又は本発明展伸材の一形態として、上記マグネシウム合金が、更に、Zn,Mn,Si,Sr,Y,Cu,Ag,Ce,Sn,Li,Zr,Be,Ni,Au及び希土類元素(Y,Ceを除く)から選択される少なくとも1種の元素を、Alとの合計で7.3質量%以上含有し、残部がMg及び不純物からなる形態が挙げられる。
上記形態は、種々の元素を含有することで、強度、耐塑性変形性、耐食性、耐熱性などの種々の特性に優れる。
上記本発明鋳造材は種々の形状を取り得る。例えば、上記本発明鋳造材からなる長さが100m以上の板状材を巻き取ってなる本発明マグネシウム合金鋳造コイル材が挙げられる。
本発明鋳造材は、上述のように連続鋳造で製造されるため、100m以上といった長尺な板状材を容易に製造でき、この板状材を巻き取ることで本発明コイル材が得られる。本発明コイル材は、圧延などの展伸加工の素材に利用する場合、展伸加工装置に素材を連続的に供給可能であるため、展伸材の生産性の向上に寄与することができる。得られた展伸材を巻き取ることで展伸コイル材を製造できる。そして、この展伸コイル材は、プレス加工などの塑性加工の素材に利用する場合、塑性加工装置に素材を連続的に供給可能であるため、塑性加工材(本発明マグネシウム合金部材の一形態)の生産性の向上に寄与することができる。
本発明展伸材の一形態として、上記AlとCaとを含む第一の金属間化合物の最大径と上記AlとMgとを含む第二の金属間化合物の最大径との差の絶対値が2μm下である形態が挙げられる。
上記形態は、上記第一の金属間化合物と上記第二の金属間化合物との両金属間化合物の差が小さいことから、これら両金属間化合物の大きさのばらつきが小さく、均一的な組織といえる。従って、上記形態は、上記両金属間化合物が割れの起点となり難く、加工性により優れる。
本発明展伸材の一形態として、上記マグネシウム合金展伸材の発火温度が600℃以上、引張強さが300MPa以上である形態が挙げられる。
上記形態は、上述のように加工性に優れる上に、発火温度が十分に高いことで耐熱性に優れ、引張強さが十分に高いことで高強度である。そのため、上記形態は、耐熱性及び高強度が望まれる種々の分野の部材であって、プレス加工といった塑性加工が施されてなる部材の素材に好適に利用することができる。
上記本発明展伸材を素材とした本発明マグネシウム合金部材を提案する。本発明のマグネシウム合金部材は、上記本発明展伸材に室温以上500℃以下の加熱温度でプレス加工を施してなる。
上述のように本発明展伸材は、加工性に優れることから、プレス加工を良好に行えて、生産性よく本発明マグネシウム合金部材を製造することができる。複雑な形状や加工度が高いプレス加工を行う場合には、加熱温度を高めるほど塑性加工性を高められ、高精度に成形することができる。また、本発明展伸材は、上述のように発火温度が高く、高強度であることから、本発明展伸材を素材とする本発明マグネシウム合金部材も発火温度が高く、高強度である。
上記本発明展伸材を複数用意して接合し、大型材とした本発明マグネシウム合金接合材を提案する。本発明のマグネシウム合金接合材は、複数の上記本発明展伸材と、上記本発明展伸材同士が摩擦撹拌接合により接合された接合領域とを具える。
本発明者らが調べたところ、板状の本発明展伸材を摩擦撹拌接合により接合して一体化された接合材は、プレス加工といった塑性加工を施した場合でも、接合領域で破断せず、接合領域を有していない一様な素材と同様に扱える、との知見を得た。複数の本発明展伸材を摩擦撹拌接合により接合することで、任意の大きさや任意の平面形状にすることができ、本発明接合材は、大型な塑性加工材の素材や所望の形状の塑性加工材の素材に好適に利用することができる。
本発明マグネシウム合金鋳造材、鋳造コイル材、展伸材、及び接合材は、難燃性及び加工性の双方に優れる。本発明マグネシウム合金部材は、難燃性に優れる上に、高強度である。本発明マグネシウム合金鋳造材の製造方法は、本発明鋳造材を製造することができる。
図1(A)は、試料No.1-22の鋳造材の顕微鏡写真(5000倍)、図1(B)は、試料No.1-22の展伸材の顕微鏡写真(5000倍)である。 図2は、試料No.1-22の鋳造材のFE-EPMAによる組成マッピング像であり、図2(A)はCaの濃度分布、図2(B)はAlの濃度分布を示す。 図3(A)は、試料No.100の鋳造材の顕微鏡写真(5000倍)、図3(B)は、試料No.100の展伸材の顕微鏡写真(5000倍)である。 図4は、鋳造ロールのギャップとノズルの開口部の間隔との関係を説明する説明図である。
以下、本発明をより詳細に説明する。
[組成]
本発明マグネシウム合金鋳造材、鋳造コイル材、展伸材(接合材を構成する素材である場合を含む)、マグネシウム合金部材を構成するマグネシウム合金はいずれも、Ca及びAlを必須の添加元素とし、残部がMg(50質量%以上)及び不純物からなる。
Caを0.1質量%以上含有することで難燃性に優れ、発火温度を向上できる。Caの含有量が多いほど発火温度を高められ、難燃性を考慮すると、0.5質量%以上、更に1質量%以上が好ましい。但し、Caが多過ぎると加工性の低下を招くため、上限を10質量%とする。加工性を考慮すると、Caの含有量は3質量%以下がより好ましい。
Alを2質量%以上含有するマグネシウム合金は、強度及び耐食性に優れる。Alの含有量は、多いほど強度及び耐食性に優れるマグネシウム合金となることから、強度及び耐食性を考慮すると、2.5質量%以上、更に4.5質量%以上が好ましい。但し、Alが多過ぎると加工性の低下を招くことから、Alの含有量の上限を11質量%とする。Alの含有量が7.3質量%以上、特に8.3質量%〜9.5質量%であるMg-Al系合金は、強度や硬度といった機械的特性、耐食性、塑性加工性に優れて好ましい。
Ca及びAl以外の添加元素は、Zn,Mn,Si,Sr,Y,Cu,Ag,Ce,Sn,Li,Zr,Be,Ni,Au及び希土類元素(Y,Ceを除く)から選択される1種以上の元素が挙げられる。これらの元素を含む場合、各元素の含有量は、0.01質量%以上10質量%以下、好ましくは0.1質量%以上5質量%以下が挙げられる。上記Ca及びAl以外の添加元素と、Alとの合計の含有量が7.3質量%以上であることが好ましい。Alに加えて上記添加元素を含有することで、元素の種類にもよるが、強度や硬度、靭性、耐衝撃性、耐凹み性といった機械的特性、制振性、耐食性、耐熱性などの種々の特性を向上することができる。上記添加元素のうち、Si,Sn,Y,Ce及び希土類元素(Y,Ceを除く)から選択される1種以上の元素を合計0.001質量%以上、好ましくは合計0.1質量%以上5質量%以下含有すると、耐熱性、難燃性をより向上することができる。希土類元素を含有する場合、その合計含有量は0.1質量%以上が好ましく、特に、Yを含有する場合、その含有量は0.5質量%以上が好ましい。不純物は、例えば、Feなどが挙げられる。
Mg-Al系合金のより具体的な組成は、例えば、ASTM規格におけるAZ系合金(Mg-Al-Zn系合金、Zn:0.2質量%〜1.5質量%)、AM系合金(Mg-Al-Mn系合金、Mn:0.15質量%〜0.5質量%)、Mg-Al-RE系合金(RE:希土類元素)、AJ系合金(Mg-Al-Sr系合金、Sr:0.2質量%〜7.0質量%)などが挙げられる。特に、Alを8.3質量%〜9.5質量%、Znを0.5質量%〜1.5質量%含有するMg-Al系合金、代表的にはAZ91合金をベース合金とすると、耐食性、機械的特性に優れて好ましい。
[DAS]
本発明鋳造材は、DASが4.5μm未満と非常に小さい。鋳造時の冷却速度を大きくする(速める)ことでDASを更に小さくすることができ、DASが4μm以下、更に3μm以下の鋳造材とすることができる。DASが小さいほど、加工性に優れる傾向にあり、特に下限を設けない。DASの測定方法は後述する。
[Al-Ca金属間化合物]
(鋳造材、鋳造コイル材)
本発明鋳造材(鋳造コイル材を構成する板状材を含む)の代表的な組織では、AlとCaとを含む金属間化合物(例えば、Al2Caなど)が存在し、当該金属間化合物が微細である。AlとCaとを含む金属間化合物は、主として晶出物であり、鋳造時に生成された大きさが、鋳造以降の工程においても実質的に維持される、或いは加工によって更に微細になる。本発明製造方法では、鋳造時の冷却速度を特定の大きさにして急冷することで、AlとCaとを含む金属間化合物の最大径を5μm以下にできる。鋳造時の冷却速度を大きくすることで、上記最大径を更に小さくすることができ、当該最大径が3μm以下、更に1.5μm以下の鋳造材とすることができる。Caの含有量などによっては、上記最大径が1μm以下という上記金属間化合物が非常に微細な形態とすることができる。上記金属間化合物は、微細であるほど割れの起点になり難く、上記最大径の下限は特に設けない。上記金属間化合物、及び後述する金属間化合物の最大径、平均粒径などの測定方法は後述する。
本発明鋳造材の代表的な組織では、AlとCaとを含む金属間化合物がいずれも微細で均一的な大きさである。具体的には、上記金属間化合物の平均粒径が2μm以下である。この形態は、DASが小さく微細な鋳造組織中に、微細で均一的な金属間化合物が存在するという微細で均一的な組織を有することから、粗大な金属間化合物の粒子が局所的に存在して、この粗大な粒子が割れの起点になる、といった不具合が生じ難く、加工性に優れる。鋳造条件や組成などによっては、上記金属間化合物の平均粒径が1.5μm以下、更に1.0μm以下の鋳造材とすることができる。
本発明鋳造材の代表的な組織では、当該鋳造材の厚さ方向の全体に亘って、AlとCaとを含む金属間化合物のばらつきが小さく、或いは実質的にばらつきがなく、均一的な大きさである。具体的には、上述した表層領域及び中央領域の両領域において上記金属間化合物の最大径及び平均粒径が小さく、かつ両領域の平均粒径の差が小さい(20%以内)。鋳造条件や組成などによっては、上記両領域の平均粒径の差が15%以下の鋳造材とすることができる。
(展伸材)
本発明鋳造材中に存在するAlとCaとを含む金属間化合物は、上述のように微細であることで、当該鋳造材に圧延といった展伸加工を施す際、過度に負荷を与えることなく圧延を行える。そのため、得られた展伸材中に存在する上記金属間化合物の大きさは、鋳造材のときの大きさが実質的に維持される、或いは、展伸加工により更に小さい。従って、本発明展伸材の代表的な組織では、AlとCaとを含む金属間化合物(例えば、Al2Caなど)が存在し、当該金属間化合物が微細である。例えば、上記金属間化合物の最大径が5μm以下、更に3.0μm以下、特に1.5μm以下を満たす形態や、平均粒径が2μm以下、更に1μm以下、特に0.5μm以下を満たす形態が挙げられる。また、上述した表層領域及び中央領域の両領域において上記金属間化合物の最大径及び平均粒径が小さく、かつ両領域の平均粒径の差が20%以下、更に15%以下の展伸材とすることができる。
(接合材)
上記本発明展伸材を複数用意して接合した本発明接合材において接合領域を除く箇所は、上記本発明展伸材の組織(例えば、AlとCaとを含む金属間化合物の最大径:5μm以下、平均粒径:2μm以下、表層領域と中央領域とにおける平均粒径の差:20%以内)を実質的に維持する。
(マグネシウム合金部材)
上記本発明展伸材や本発明接合材にプレス加工などの塑性加工を施した本発明マグネシウム合金部材において、塑性加工が実質的に施されなかった箇所(代表的には平坦な箇所)や加工度が小さい塑性加工が施された場合は、上記本発明展伸材の組織(例えば、AlとCaとを含む金属間化合物の最大径:5μm以下、平均粒径:2μm以下、表層領域と中央領域とにおける平均粒径の差:20%以内)を実質的に維持する。
[DASとAl-Ca金属間化合物との関係]
上述のようにDASが小さく、かつAlとCaとを含む金属間化合物も小さいことで、本発明鋳造材(鋳造コイル材を構成する板状材を含む)の代表的な組織では、DASと上記金属間化合物との差も小さい(絶対値で2.5μm以下)。即ち、この組織は、DASが小さく微細な鋳造組織中に、微細で均一的な大きさで、かつDASと同様な大きさの上記金属間化合物が分散して存在する組織といえる。このような特有の微細・分散組織を有することで、上記金属間化合物が割れの起点になり難く、加工性により優れる。鋳造条件や組成などによっては、上記差の絶対値が2μm以下といった鋳造材とすることができる。
上述のようにDASが小さく、かつAlとCaとを含む金属間化合物も小さいことで、本発明鋳造材(鋳造コイル材を構成する板状材を含む)の代表的な組織では、DASと上記金属間化合物との和も小さい(5μm以下)。上記和が小さいことで、DAS及び上記金属間化合物の双方が十分に小さく、加工性に優れる。鋳造条件や組成などによっては、上記和が5μm以下、更に4μm以下、特に3.5μm以下といった鋳造材としたり、更に、上述の差の絶対値が2.5μm以下、かつ上記和が5μm以下の双方を満たす鋳造材としたりすることができる。
[Al-Mg金属間化合物]
(鋳造材、鋳造コイル材)
本発明鋳造材(鋳造コイル材を構成する板状材を含む)は、Alを含有することから、当該鋳造材の代表的な組織では、AlとMgとを含む金属間化合物(例えば、Al12Mg17)が、主として、AlとCaとを含む金属間化合物に隣接して存在する。本発明者らが調べたところ、AlとCaとを含む金属間化合物は、AlとMgとを含む金属間化合物よりも優先的に結晶相を形成する傾向にある、との知見を得た。従って、本発明では、DASと共に、加工性の阻害要因となり易いAlとCaとを含む金属間化合物の大きさを特定の範囲にすることを提案する。
上述のように鋳造時の冷却速度を特定の大きさにして急冷することで、AlとMgとを含む金属間化合物も微細にすることができ、例えば、平均粒径を2μm以下とすることができる。この場合、AlとMgとを含む金属間化合物及び上述したAlとCaとを含む金属間化合物のいずれもが微細であるため、これら二種の金属間化合物が隣接して存在していても、各金属間化合物が割れの起点になり難く、加工性を阻害し難い。
(展伸材)
上記二種の金属間化合物が隣接した状態で含有する本発明鋳造材に展伸加工を施してなる本発明展伸材も、上記二種類の金属間化合物からなる粒子が隣接して存在する、という特有の組織を有する。展伸材が、上記二種類の金属間化合物が隣接して存在する組織を有することは、鋳造材においても上記二種類の金属間化合物が隣接して存在していたことを示す指標の一つとなる。
AlとMgとを含む金属間化合物は、晶出物もあるものの、主として析出物である。析出物は、鋳造以降の製造工程の熱履歴により成長することがあるものの、鋳造材中に存在するときに微細であると、展伸材中においても微細な状態で存在し易い。例えば、AlとMgとを含む金属間化合物の平均粒径が2μm以下である展伸材とすることができる。また、展伸加工時の負荷により、AlとMgとを含む金属間化合物をより微細にすることもでき、当該金属間化合物の平均粒径が1μm以下、更に0.5μm以下といった展伸材とすることができる。
AlとMgとを含む金属間化合物が微細である場合、上述のようにAlとCaとを含む金属間化合物が微細であることから、これら二種類の金属間化合物が均一的な大きさである展伸材とすることができる。例えば、上記二種類の金属間化合物の最大径の差(絶対値)が2μm以下、製造条件などによっては、更に1.5μm以下である展伸材とすることができ、割れの起点になり難い。
[Al-Mn金属間化合物]
本発明鋳造材(鋳造コイル材を構成する板状材を含む)は、組成によっては、更に別の金属間化合物を含有する形態、即ち、3種以上の複数種の金属間化合物を含有する形態になり得る。例えば、添加元素に更にMnを含有する場合、AlとMnとを含む金属間化合物(例えば、MnAl4など)を含有する形態が挙げられる。上述のように鋳造時の冷却速度を特定の大きさにして急冷することから、上記AlとMnとを含む金属間化合物も微細であり、例えば、平均粒径が2μm以下を満たす。従って、この金属間化合物自体も割れの起点になり難い。
AlとMnとを含む金属間化合物が存在する鋳造材を素材として得られた本発明展伸材も、当該金属間化合物が存在する形態となり得る。AlとMnとを含む金属間化合物も主として晶出物であることから、鋳造以降の製造工程の熱履歴により成長することがあるものの、上述のように鋳造材のときに微細であると、展伸材中においても微細にし易い。例えば、AlとMnとを含む金属間化合物の平均粒径が2μm以下である展伸材とすることができる。また、上述のように展伸加工時の負荷により、AlとMnとを含む金属間化合物をより微細にすることもでき、当該金属間化合物の平均粒径が0.5μm以下、更に0.3μm以下といった展伸材とすることができる。
AlとMgとを含む金属間化合物やAlとMnとを含む金属間化合物が存在する展伸材を用いた本発明接合材において接合領域以外の箇所や、本発明マグネシウム合金部材においてプレス加工が実質的に施されていない箇所などは、展伸材と同様の組織を実質的に維持することから、上述のように微細で均一的な大きさの上記金属間化合物が存在する組織を有する。
[特性]
本発明鋳造材、鋳造コイル材、展伸材、接合材、及びマグネシウム合金部材(以下、まとめて本発明材と呼ぶことがある)は、Caを特定量含有することで、いずれも発火温度が高い。Caの含有量が多いほど発火温度も高く、例えば、600℃以上、更に650℃以上である。
本発明材は、連続鋳造を行っていること、また、この連続鋳造材を素材に用いていることに加えて、Alを特定量含有することで機械的特性にも優れ、例えば、引張強さが大きい。特に、連続鋳造材に展伸加工を施した本発明展伸材は、引張強さが更に高く、組成にもよるが、例えば、300MPa以上を満たす形態とすることができる。
[形状]
(鋳造材、鋳造コイル材)
本発明鋳造材の代表的な形状は、平面が矩形状の板状材が挙げられる。連続鋳造後に適宜切断することで、比較的長さが短い鋳造シート材としたり、切断せず、例えば、長さが10m以上、更に50m以上、特に100m以上の長尺材とすることもできる。長尺材を巻き取ることで本発明鋳造コイル材が得られる。
本発明鋳造材の厚さは、10mm以下、更に7mm以下、特に5mm以下であると、厚さ方向に均一的な速度で急冷し易く、DASや金属間化合物を十分に小さくし易い。また、鋳造コイル材の場合、板状材の厚さが10mm以下であることで巻き取り易い。
本発明鋳造材の幅は、適宜選択することができる。上述のように接合材とすることで容易に広幅の展伸材を製造できるため、幅が狭いものでもよい。本発明鋳造材の幅は、100mm〜300mm程度とすると製造し易いと期待される。
(展伸材)
本発明展伸材の代表的な形状は、平面が矩形状の板状材が挙げられる。上述の鋳造シート材を素材とした場合、比較的長さが短い展伸シート材が得られ、鋳造コイル材を素材とした場合、展伸コイル材や適宜切断して展伸シート材が得られる。また、所望の形状に打ち抜きなどを行うことで、所望の平面形状の展伸材とすることができる。
本発明展伸材の厚さは、5mm以下、更に3mm以下、特に1mm以下であると、薄型で軽量な塑性加工材(代表的には、プレス加工材)を製造できる。また、このように薄くすることで摩擦撹拌接合により接合し易く、接合材の生産性の向上に寄与することができる。
本発明展伸材の幅は、適宜選択することができる。幅が細い展伸材を複数用意して摩擦撹拌接合により広幅(例えば、1000mm以上、更に2000mm以上)の展伸材とすることができる。
(マグネシウム合金部材)
本発明マグネシウム合金部材は、少なくとも一部にプレス加工が施された塑性加工材であり、加工形態により種々の形状を取り得る。
[製造方法]
(準備工程)
まず、Alを2質量%以上11質量%以下、かつCaを0.1質量%以上10質量%以下含有し、残部Mg及び不純物からなるマグネシウム合金、又はAl,Caに加えて上述の添加元素を所望の量含有し、残部Mg及び不純物からなるマグネシウム合金の溶湯を用意する。代表的には、ベース組成のインゴットを溶解したベース溶湯に、所望の添加元素を溶解することで、所望の組成の溶湯を作製できる。特に、本発明のようにCaを特定の範囲で含有する鋳造材を作製する場合には、上記ベース溶湯に対して所望の量のCaを一度に溶解するのではなく、多段階に分けて溶解すると、所望の量のCaを均一的に混合でき、Caの偏在を防止できる。その結果、溶湯を均一的に急冷することができ、DASや金属間化合物を十分に小さくすることができる。
具体的には、所定量の一部のCaを含むCa含有溶湯を作製し、この溶湯に残部のCaを更に追加して所望の量のCaを含有する溶湯を作製する。上記Ca含有溶湯は、例えば、ベース組成のインゴットとして、例えば、所定量の全量の1質量%〜90質量%のCaを含むものを用意して溶解したり、ベース組成のインゴットとしてCaを含有しないものを用意し(当該インゴット中のCaの含有量は予め測定しておく)、このインゴットの溶解時に所望の量となるようにCaを同時に溶解して作製したりすることが挙げられる。Ca含有溶湯を利用することで、溶湯から不純物を除去する際や成分調整の際などで溶湯の燃焼を防止でき、酸化物の生成の低減といった効果も奏する。また、Caを多段階で混合することで、(1)正確な成分調整が行い易い、(2)品質の安定などといった効果も奏する。上記Ca含有溶湯に残部のCaを混合する場合、1度に混合してもよいが、更に多段階に分けて混合してもよい。上記Ca含有溶湯に対しても複数回に分けて残部のCaを混合することで、成分調整をより正確に行い易い。この場合、各回のCaの混合量を均等な量としてもよいし、異ならせてもよい。
上記溶解は、酸化物の生成を低減するために、酸素濃度が低い雰囲気(5体積%以下)、或いは酸素を実質的に含有しない雰囲気、例えば、窒素やアルゴンといった不活性ガス雰囲気、二酸化炭素雰囲気、不活性ガスと二酸化炭素との混合雰囲気などで行うことが好ましい。
(鋳造工程)
本発明製造方法では、急冷凝固が可能な連続鋳造法を利用する。また、本発明鋳造材は、代表的には板状材とすることから、連続鋳造法として、板状材の鋳造に適した双ロール鋳造法や双ベルト鋳造法などを利用する。特に、可動鋳型として一対の鋳造ロールを具える双ロール鋳造法は、剛性及び熱伝導性に優れ、熱容量が大きい鋳型を用いることで急冷凝固が可能で、冷却速度を大きくし易い上に、偏析が少なく、従来のダイカスト材やチクソモールド材と比較して高強度・高硬度な鋳造材を形成できて好ましい。
そして、本発明製造方法では、鋳造時の冷却速度を650℃/秒以上とすることを最大の特徴とする。上記冷却速度が大きいほどDASや種々の金属間化合物の成長を抑制して、微細にし易い。従って、冷却速度は、1000℃/秒以上、更に1500℃/秒以上、特に2000℃/秒以上が好ましく、上限は特に設けないが、量産体制では1000℃/秒〜5000℃/秒程度が利用し易い。冷却速度は、例えば、AZ系合金については、一般的なMg-Al-Zn系合金において成立する以下の式を利用して決定する。種々の組成や仕様(厚さ、幅など)のテストピースを用いて、DAS:dと冷却速度:Vとの関係を予め求めて、相関データを作成しておき、この相関データを参照して、所望のDASとなるように冷却速度を調整すると、作業性に優れる。
dをDAS(μm)、冷却速度(℃/秒)をVとするとき、d=35.5×V-0.31
なお、AZ系合金以外の組成のマグネシウム合金については、α,βを組成(合金種)による定数、d'をDAS(μm)とするとき、d'=α×V’で表わされる式により冷却速度:V’を求めるとよい。
冷却速度を上記特定の範囲とするには、例えば、鋳造ロールの温度を低くしたり、鋳造ロールの周速を遅くしたり、ロール荷重を大きくしたりすることが挙げられる。つまり、鋳造ロール自体の脱熱能力を高めたり、溶湯と鋳造ロールとの接触時間を長くしたり、溶湯が鋳造ロールに十分に接触できるようにしたりして、ノズルから排出された溶湯が鋳造ロールにより十分に冷却されるようにすることが挙げられる。
特に、図4に示すように、一対の鋳造ロール100間のギャップ(一対の鋳造ロール100間が最も近接した箇所:ギャップ位置pgの間隔)をgr、鋳造ロール100に向かって溶湯を排出するノズル200の開口部220の間隔をgnとするとき、gn<grとなるように、ノズル200の間隔gn及び鋳造ロール100のギャップgrの少なくとも一方を調整すると冷却速度を大きく(速く)し易い。
図4(A)に示すように、ノズル200を構成する一対のノズル本体210の外表面間の間隔が大きい場合(ノズル200の全体厚さが厚い場合)、gn<grを満たすようにノズル200の間隔gnを調整すると、ノズル本体210の厚さを厚くできる。そのため、ノズル本体210の断熱性を高められることから、ノズル200の開口部220から排出される溶湯は、鋳造ロール100の近傍まで高温に維持されて、鋳造ロール100に接触して冷却される。従って、ギャップ位置pgの溶湯の温度を高められることから、冷却速度を大きくすることができる。ノズル本体210は、公知の材料により構成することができる。
或いは、図4(B)に示すようにノズル200を構成する一対のノズル本体210の外表面間の間隔が狭い場合(ノズル200の全体厚さが薄い場合)、鋳造ロール100のギャップ位置pgにノズル200自体を近接して配置できる。そのため、ノズル200の開口部220から排出された溶湯は、鋳造ロール100に接触するまでの距離が短いことから、鋳造ロール100に直ちに接触して冷却される。従って、ギャップ位置pgの溶湯の温度を高められることから、冷却速度を大きくすることができる。
具体的なノズル200の間隔gnは、gn=0.8×gr〜0.95×grが挙げられる。なお、鋳造ロール間のギャップは、鋳造材の厚さを決定する因子となるため、調整には限界があるが、ノズルの間隔は比較的変化させ易い。
鋳造ロールから排出された鋳造材は、適宜な長さに切断することで鋳造シート材を製造でき、切断せずに長尺材を巻き取ることで鋳造コイル材を製造できる。長尺材を巻き取るにあたり、鋳造材において巻き取り直前の箇所を加熱したり保温したりなどして150℃以上となるようにして巻き取ることで、コイルの内径(巻き取り径)が小さい場合などでも、割れなどを生じることなく巻き取れる。
(溶体化工程)
本発明鋳造材を素材として、圧延などの展伸加工を施して本発明展伸材を製造する場合、展伸加工前に溶体化処理を施すと、組成を均質化したり、Alといった元素を固溶させることができて好ましい。溶体化処理は、添加元素の種類や含有量にもよるが、保持温度:350℃以上、特に、保持温度:380℃〜420℃、保持時間:60分〜2400分(1時間〜40時間)とすることが好ましい。保持時間は、Alといった添加元素の含有量が多いほど長くすることが好ましい。上記保持時間からの冷却工程において、水冷や衝風といった強制冷却などを利用して、冷却速度を速めると(好ましくは1℃/min以上、より好ましくは50℃/min以上)、粗大な析出物(代表的には金属間化合物)の析出を抑制することができて好ましい。
(展伸工程)
本発明鋳造材や、上記溶体化処理を施した処理材に圧延、押出、鍛造などの展伸加工を施すにあたり、素材(圧延途中のものを含む)を加熱することで加工性を高められるため、少なくとも1回(1パス)は温間加工とする。特に、本発明鋳造材は、Caを含有することで加工性に劣ることから、複数回(多パス)を温間加工とすることが好ましい。但し、素材の加熱温度が高過ぎると、析出物の過度な成長や過度の析出を招いたり、素材の焼き付きが発生したり、素材の結晶粒が粗大化して得られた展伸材の機械的特性が低下したりする。そのため、温間展伸加工における素材の加熱温度は、400℃以下、更に350℃以下が好ましい。特に、素材の加熱温度が300℃超の加工と、300℃以下の加工とを組み合せて行い、300℃超の加工をできるだけ少なくすること(好ましくは、溶体化処理以降、素材が300℃超に保持される時間の総合計が6時間以下、より好ましくは1時間程度にすること)が好ましい。300℃以下の加工は、素材の加熱温度を100℃以上280℃以下とすることがより好ましい。
展伸加工が例えば圧延の場合、多パスの圧延を施すことで、所望の板厚にできると共に、素材の平均結晶粒径を小さくしたり(例えば、30μm以下、更に20μm以下、特に10μm以下、好ましくは5μm以下)、圧延やプレス加工といった塑性加工性を高められる。圧延は、公知の条件を利用できる。例えば、素材だけでなく圧延ロールも加熱すると、加工性をより高められる。また、仕上げ圧延などで圧下率が小さい圧延では、冷間で圧延を施してもよい。圧延のパス数、1パスあたりの加工度、総加工度、後述する圧延途中や圧延後の熱処理などの条件は、所望の厚さや所望の特性(引張強さなど)を有する展伸材(圧延材)が得られるように適宜選択することができる。圧延材の幅も適宜選択することができ、広幅のものを作製して適宜切断して、所望の幅としてもよいし、摩擦撹拌接合により接合することで広幅材にできるため、細幅の圧延材としてもよい。
多パスの圧延を行う場合、パス間に中間熱処理を行ってもよい。中間熱処理を行うことで、当該熱処理までの圧延により加工対象である素材に導入された歪みや残留応力、集合組織などを除去、軽減できる。その結果、当該熱処理後の圧延で不用意な割れや歪み、変形を防止でき、より円滑に圧延を行える。中間熱処理の保持温度も、350℃以下、更に300℃以下、特に250℃以上280℃以下とすると、上記析出物の成長や結晶粒の粗大化などを防止できて好ましい。保持時間は、20分〜60分が挙げられる。
(展伸加工後の加工・処理)
上記展伸材に、加工により導入された歪みの除去などを目的として最終熱処理(最終焼鈍)を施すことができる。或いは、展伸材が圧延材である場合、最終熱処理を施さず矯正加工を施すことができる。矯正加工が施された矯正材にプレス加工といった塑性加工を施す場合、塑性加工時に動的再結晶化が生じることで塑性加工性に優れる。矯正加工は、圧延材を100℃〜300℃、好ましくは150℃以上280℃以下に加熱して行う温間矯正が挙げられる。温間矯正には、圧延材を加熱可能な加熱炉と、加熱された圧延材に連続的に曲げ(歪)を付与するために複数のロールが上下に対向して千鳥状に配置されたロール部とを具えるロールレベラ装置を好適に利用できる。上記ロールレベラ装置により、圧延材は上記加熱炉内に導入されて加熱されながら上記ロール部に送られ、ロール部の上下のロール間を通過するごとに、これらのロールにより順次曲げが付与される。
その他、上記圧延材や最終熱処理が施された熱処理材、矯正材に研磨を施してもよい。研磨は、研磨粉の飛散防止のため、湿式研磨が好ましい。特に、ベルト研磨は、板状材に対して連続的に研磨を施すことができ、作業性に優れる。
(接合)
素材として上記本発明展伸材(代表的には圧延材。その他、圧延材に上述した最終熱処理や矯正、研磨を施したものでもよい)を複数用意し、これら展伸材を摩擦撹拌接合により接合することで、摩擦撹拌接合による接合領域を有する本発明接合材が得られる。
接合にあたり、接合する素材の端面にそれぞれにエッジ加工を施して、当該素材の表面と端面とがなす角が直角となるようにする。このようなエッジ加工を施すことで、接合する素材の端面同士を精度良く接触でき、良好に接合することができる。摩擦撹拌接合には、工具鋼や超硬合金といった硬質材から構成され、撹拌に利用される小径部と装置本体に取り付けられる大径部とを具える接合用プローブを利用する。特に、厚さ3mm以下、更に1mm以下といった薄い板状材同士を接合する場合、接合用プローブの小径部の先端径:3mm〜6mm、小径部の高さ:接合する板状材の厚さの60%〜100%、大径部における小径部側の径:8mm〜15mm、小径部及び大径部において先端面と側面とがなす角:90°〜150°といったプローブが好適に利用できる。接合条件は、プローブの回転数:500r.p.m〜5000r.p.m、送り速度:0.1m/min〜1.0m/min、押込量:接合する板状材の厚さの60%〜100%、プローブの角度:プローブ送り方向とプローブ中心軸とのなす角が90°〜96°、隣り合う一対の板状材の並列方向(板状材同士を接触することで形成される境界線に対して直交方向)とプローブの中心軸とがなす角が90°が挙げられる。
複数の素材を接合する場合、上記接合用プローブを複数用意して、同時に複数箇所の接合を行うと接合時間が短く接合作業性に優れ、一つの接合用プローブで行う場合、設備を簡素化できる。
(塑性加工)
素材として上記本発明展伸材や上記本発明接合材を用意し、これら素材にプレス加工、曲げ加工、鍛造などといった塑性加工を施すことで、塑性加工材が得られる。プレス加工を施した場合、本発明マグネシウム合金部材が得られる。塑性加工を施す場合も、素材を加熱すると塑性加工性を高められるが、高過ぎると焼付きなどの問題があるため、素材の加熱温度は500℃以下が好ましい。加工度によっては室温としてもよい。特に、素材の加熱温度を200℃〜300℃とすると、素材の塑性加工性を十分に高められる上に、焼き付などを防止し易い。上記塑性加工後に更に熱処理を施して、塑性加工により導入された歪みや残留応力の除去、機械的特性の向上を図ることができる。この熱処理条件は、加熱温度:100℃〜300℃、加熱時間:5分〜60分程度が挙げられる。
(その他の加工・処理)
その他、上記展伸材や塑性加工材に防食処理(陽極酸化処理、化成処理)、塗装などを施すことで、耐食性の向上、美観・商品価値の向上などを図ることができる。防食処理を施した展伸材に塑性加工を施すこともできる。
以下、本発明のより具体的な実施の形態を説明する。
[試験例1]
種々の組成のマグネシウム合金からなる鋳造材を作製し、その金属組織を調べた。
AZ91合金相当のAlを含有する組成(Mg-9.0%Al-1.0%Zn-0.23%Mn(全て質量%))のマグネシウム合金をベース合金とし、表1に示す量のCaを含有する鋳造材を作製した。Caを含有する鋳造材は、ベース合金のインゴットの溶解時、表1に示す量の一部のCaも同時に溶解してCa含有溶湯を作製し、得られたCa含有溶湯に残部のCaを添加して、所望の組成の溶湯を用意した。Caを含有していない鋳造材は、ベース合金のインゴットを溶解した溶湯を用意した。
用意した各溶湯を双ロール連続鋳造機により連続鋳造して厚さ:4.1mm〜4.2mm、幅:290mm鋳造材(鋳造板)を作製し、この鋳造材を巻き取って、鋳造コイル材を作製した。鋳造時の冷却速度を表1に示す。冷却速度は、ロール周速や鋳造ロールの温度を調整することで変化させた。ロール周速が遅いほど、又は鋳造ロールの温度が低いほど、冷却速度を大きく(速く)することができる。また、この試験ではいずれの試料についても、鋳造ロール間のギャップをgr、ノズルの開口部の間隔をgnとするとき、ノズルの間隔gnがギャップgrよりも小さくなるようにノズルの間隔gnを調整した(ここではgn≒0.9gr)。
得られた各鋳造コイル材を巻き戻して、適宜な長さに切断した試験片を作製した。各試験片の横断面(上記コイル材の長手方向と直交方向の断面)をSEM-EDX(走査型電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分光法)を用いて観察及び分析した。SEM観察像(5000倍)を図1(A),図3(A)に示す。図3(A)に示すようにCaを含有していないAZ91合金相当の鋳造材:試料No.100は、組織全体に亘って微細な金属間化合物が分散して存在することが分かる。一方、図1(A)に示すようにCaを含有する鋳造材:試料No.1-22は、網目状に繋がって金属間化合物が存在していることが分かる。また、この網目は、図1(A)に示すように色が異なる金属間化合物、具体的には白みがかったものと灰色がかったものという、異種の金属間化合物同士が隣接して形成されていることが分かる。この断面をX線回折したところ、Al2CaといったAlとCaとを含む金属間化合物と、Al12Mg17といったAlとMgとを含む金属間化合物とを含有すること、即ち、異種の金属間化合物が存在することを確認した。また、これらの金属間化合物は、デンドライト組織のアーム間に実質的に晶出していることを確認した。
上述のように断面(横断面)をとり、この断面を光学顕微鏡(400倍)により観察し、この観察像を用いてDASを測定した。ここでは、3個の断面をとって、断面ごとに一つの観察像をとり、3個の観察像においてDASを求め、その平均を表1に示す。
上述のように断面(横断面)をとり、この断面のSEM観察像(5000倍)のFE-EPMA(電界放出型電子線マイクロアナライザ)による組成マッピングを行い、Caの濃度分布及びAlの濃度分布を調べた。図2(A)にCaの濃度分布、図2(B)にAlの濃度分布を示す。市販のEPMA装置によりカラーマッピングを行うと、CaやAlといった元素の含有量の大小を色別表示できる。なお、顕微鏡の観察倍率は適宜選択することができる。
図2に示すように、CaやAlは、デンドライト組織のアーム間に高濃度に存在すること、また、Caの高濃度部分とAlの高濃度部分とが概ね一致していることが分かる。上述したX線回折の結果を考慮しても、このCaの高濃度部分とAlの高濃度部分とは、Al2CaといったAlとCaとを含む金属間化合物の結晶相である、と考えられる。
各試験片(鋳造材)について、AlとCaとを含む金属間化合物の最大径、AlとCaとを含む金属間化合物の最大径とDASとの差(絶対値)、AlとCaとを含む金属間化合物の最大径とDASとの和、AlとCaとを含む金属間化合物の平均粒径を調べた。その結果を表1に示す。上記金属間化合物の抽出は、走査型電子顕微鏡:SEMの反射電子像、エネルギー分散型X線分光法:EDXを利用することができる。抽出した各金属間化合物の輪郭内の面積から、この面積と等しい面積を有する当該金属間化合物の円相当径を求め、この円相当径を金属間化合物の粒径とする。ここでは、各試験片について、3個の断面(横断面)をとり、断面ごとに一つの観察像をとり、3個の観察像中に存在する全てのAlとCaとを含む金属間化合物の粒径を求め、3個の観察像中の粒径の最大値を最大径とした。平均粒径は、上述のように3個の観察像中に存在する全てのAlとCaとを含む金属間化合物の粒径を求め、その平均とした。但し、粒径が0.05μm以下の金属間化合物は、粒径の測定が困難であり、除外した(この点は、後述する試験例も同様である)。そのため、実質的な平均粒径は、表1に示す値よりも小さい。
また、上記試験片の断面(横断面)において、表層領域及び中央領域の両領域から観察像をとり、各領域におけるAlとCaとを含む金属間化合物の最大径、平均粒径、両領域の平均粒径の差を求めた。表層領域は、上記試験片の表面からその厚さ方向に当該試験片の厚さ(4.1mm〜4.2mm)の20%までの領域、つまり表面から厚さ方向に0.82mm〜0.84mmまでの領域とし、中央領域は、当該試験片の厚さ方向の中心から表面に向かって当該試験片の厚さの±10%までの領域、つまり厚さ方向の中心を含む0.82mm〜0.84mmの領域とする。最大径及び平均粒径は、上述と同様にして求めた。但し、中央領域の観察像は、中心線偏析部を除く領域からとった。
更に、AlとMgとを含む金属間化合物の平均粒径を測定した。この金属間化合物の平均粒径は、上述したAlとCaとを含む金属間化合物の平均粒径と同様にして測定した。その結果を表1に示す。
その他、上記鋳造コイル材を巻き戻して適宜切断して、JIS 13B号の板状試験片(JIS Z 2201(1998)))を作製し、JIS Z 2241(1998)の金属材料引張試験方法に基づいて、室温(20℃〜25℃程度)で鋳造方向に沿って引張試験(標点距離GL=50mm、引張速度:5mm/min)を行い、引張強さ(MPa)及び伸び(%)を測定した。その結果を表1に示す(n=5の最小値)。
表1に示すように、Caを特定の範囲で含有する鋳造材を製造するに当たり、鋳造時の冷却速度を十分に大きくすることで、DASが小さい鋳造材が得られることが分かる。また、得られた鋳造材は、AlとCaとを含む金属間化合物が微細で、そのサイズのばらつきも小さいことが分かる。更に、得られた鋳造材の厚さ方向に亘ってAlとCaとを含む金属間化合物のサイズのばらつきが小さいこと、AlとCaとを含む金属間化合物とDASとの差や和が小さいこと、AlとCaとを含む金属間化合物だけでなくその他の金属間化合物(AlとMgとを含む金属間化合物など)も微細でばらつきが小さいこと、が分かる。従って、得られた鋳造材は、微細な鋳造組織中に微細で均一的な大きさの金属間化合物が分散した組織を有することが分かる。なお、得られた鋳造材を調べたところ、AlとMnとを含む金属間化合物も存在しており、いずれも微細な粒子であった。上述と同様にしてAlとMnとを含む金属間化合物の最大径を調べたところ、0.3μm程度であり、当該金属間化合物の平均粒径は、0.3μm以下であることを確認した。
[試験例2]
上記鋳造材の発火温度を調べた。
発火試験は、以下のように行った。上述した鋳造コイル材を巻き戻して、適宜な長さに切断して試験片(質量:3g、n=3)を作製し、小型の溶解炉中にステンレス製のボードを配置し、このボード内に試験片を配置した。溶解炉内の雰囲気温度を段階的に上昇し、各温度を10分ずつ保持して、試験片の状態を確認する。雰囲気温度は、溶解炉内に配置した熱電対により確認し、溶解炉に内蔵するヒータを調整することで、当該温度を変化させた。各温度で確認したとき、燃焼していなかった場合を○、燃焼した場合は「燃焼」と評価した。その結果を表2に示す。
表2に示すようにCaの含有量が多くなるほど燃焼し難くなり、発火温度が600℃以上、更に650℃以上であることが分かる。また、Caを含有する試料は、Caを含有していない試料と比較して、発火温度を100℃以上、更には150℃以上高められ、難燃性を向上できることが分かる。
[試験例3]
試験例1で作製した鋳造材に圧延を施して展伸材(圧延材)を作製し、その金属組織を調べた。
ここでは、各鋳造コイル材に溶体化処理:405℃×17時間(窒素雰囲気、酸素濃度:50質量ppm以下、水冷により冷却)を施して溶体化コイル材を作製した。この溶体化コイル材を巻き戻して温間圧延を施し、厚さ0.62mmの圧延板を作製した。ここでは、上記圧延板を巻き取って圧延コイル材とした。温間圧延は、加工度(圧下率):5%/パス〜40%/パス、素材板の加熱温度:200℃〜350℃、ロール温度:100℃〜250℃とし、複数パス行った。得られた圧延コイル材を巻き戻して温間矯正、研磨処理を順に施し、研磨板(厚さ:0.6mm)を作製した。温間矯正は、上述したロールレベラ装置を用いて行った(温度:300℃)。上記研磨処理は、#600の研磨ベルトを用いて湿式ベルト式研磨を施した(研磨量:各面0.01mm)。これら温間矯正や研磨処理は省略してもよい。
得られた研磨板は、適宜な長さに切断して試験片を作製し、この試験片において圧延方向と直交方向の横断面をSEM-EDXを用いて観察、分析した。SEM観察像(5000倍)を図1(B),図3(B)に示す。図1(B),図3(B)に示すようにいずれの試験片も、組織全体に亘って、微細で、かつ丸みを帯びた金属間化合物が均一的に分散していることが分かる。特に、Caを含有した鋳造材を素材として得られた展伸材:試料No.1-22は、図1(B)に示すように色が異なる金属間化合物、具体的には灰色が濃い粒子と灰色が薄い粒子という、異種の金属間化合物の粒子同士が隣接して粒子群となって分散していることが分かる。この断面をX線回折したところ、粒子群をつくる各金属間化合物のは、Al2CaといったAlとCaとを含む金属間化合物と、Al12Mg17といったAlとMgとを含む金属間化合物とであることを確認した。このことから、図1(A)に示す鋳造材において網目状に繋がっていた金属間化合物がそのまま繋がった状態で分断されて上記粒子群が形成された、と考えられる。
各試験片(研磨板)について、AlとCaとを含む金属間化合物の最大径及び平均粒径、AlとMgとを含む金属間化合物の平均粒径、両金属間化合物の最大径の差(絶対値)、表層領域及び中央領域におけるAlとCaとを含む金属間化合物の最大径及び平均粒径、両領域における平均粒径の差を調べた。その結果を表3に示す。AlとCaとを含む金属間化合物と、AlとMgとを含む金属間化合物との抽出は、上記SEM観察像を画像処理して行い、試験例1と同様に観察像中に存在する各金属間化合物の円相当径を求め、この円相当径を粒径とする。そして、3個の観察像中の各金属間化合物の粒径のうち、最も大きい粒径をAlとCaとを含む金属間化合物の最大径、AlとMgとを含む金属間化合物の最大径とした。また、3個の観察像中に存在する各組成の金属間化合物の粒径の平均をAlとCaとを含む金属間化合物の平均粒径、AlとMgとを含む金属間化合物の平均粒径とした。表層領域は、上記各試験片の表面からその厚さ方向に当該試験片の厚さ(0.6mm)の20%までの領域、つまり表面から厚さ方向に0.12mmまでの領域とし、中央領域は、当該試験片の厚さ方向の中心から表面に向かって当該試験片の厚さの±10%までの領域、つまり厚さ方向の中心を含む0.12mmの領域とする。表層領域及び中央領域の最大径及び平均粒径は、上記断面のうち、表層領域、中央領域からそれぞれ上述のようにSEM観察像(5000倍)をとり、画像処理を施して上述のように円相当径を求めて粒径を算出し、各領域における3個の観察像の最大値及び平均値を用いた。また、試験例2と同様に燃焼試験を行い、燃焼した温度を発火温度として、発火温度を調べた。その結果も表3に示す(n=3のうちの最低温度)。
その他、上記研磨板を適宜切断して、試験例1と同様に板状試験片を作製し、試験例1と同様に、室温(20℃〜25℃程度)で引張試験(標点距離GL=50mm、引張速度:5mm/min)を行い、引張強さ(MPa)及び伸び(%)を測定した(評価数:いずれもn=5)。その結果を表3に示す(n=5の最小値)。
表3に示すように、DASが小さい鋳造材を素材とすることで、Caを特定の範囲で含有したマグネシウム合金であっても、割れなどが生じることなく、展伸加工を良好に施すことができることが分かる。また、得られた展伸材は、引張強さが300MPa以上で発火温度が600℃以上といった、高強度で難燃性に優れることが分かる。従って、試験例1〜3から、Caを特定の範囲で含有したマグネシウム合金から構成され、DASが小さい連続鋳造材は、圧延といった展伸加工性に優れる上に、難燃性にも優れることが分かる。
また、得られた展伸材は、AlとCaとを含む金属間化合物やAlとMgとを含む金属間化合物が隣接して存在する他、これら両金属間化合物が微細でばらつきが小さいこと、展伸材の厚さ方向に亘ってAlとCaとを含む金属間化合物のばらつきが小さいこと、上記両金属間化合物の大きさの差も小さいことも分かる。なお、得られた展伸材を調べたところ、AlとMnとを含む金属間化合物も存在しており、鋳造材と同様に最大径が0.3μm程度であった。従って、展伸材についても、当該金属間化合物の平均粒径が0.3μm以下であるといえる。
[試験例4]
試験例3で作製した展伸材(研磨板)に温間プレス加工を施して、マグネシウム合金部材を作製した。
ここでは、所定の長さに切断した研磨板を用意し、各研磨板を250℃に加熱した状態で円筒深絞り加工(パンチ肩R=2.0mm)を行い、割れの発生度合いを調べた。具体的には、ブランク径:φ100mm、絞り比2.0、n=10の試験を行ったところ、いずれの試料も割れなどが生じることなく、深絞り加工を行うことができた。従って、試験例1〜4から、Caを特定の範囲で含有したマグネシウム合金から構成され、DASが小さい連続鋳造材を素材として得られた展伸材は、プレス加工といった塑性加工性に優れることが分かる。
[試験例5]
試験例3で作製した展伸材(研磨板)を複数用意して、摩擦撹拌接合により接合して接合材を作製し、この接合材に温間プレス加工を施してマグネシウム合金部材を作製した。
各研磨板の周縁部を切断し、この切断した面の精度が中心線平均粗さRaの標準数列(JIS B 0601(2001年)):6.3μm以下(三角表示による仕上げ記号:▽2つ以上)となるようにエッジを形成し、このエッジを形成した素材(幅:210mm、厚さ:0.6mm)を摩擦撹拌接合により接合した(プローブの先端径:6mm)。得られた接合材に温間プレス加工(素材の加熱温度:250℃)を施し、底面と、底面に立設する側壁とを具える断面]状の筐体(マグネシウム合金部材)を作製した(300mm×300mm×50mm)。
その結果、接合領域の一部にも曲げを加えたが、割れなどが生じることなく、また、接合領域で破断することなく、プレス加工を施すことができた。従って、試験例5から、上記展伸材を素材とした接合材も、プレス加工といった塑性加工性に優れることが分かる。
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。例えば、マグネシウム合金の組成(含有される元素の種類、含有量)、鋳造条件(冷却速度、鋳造ロール間のギャップとノズルの開口部の間隔との関係など)、圧延条件(素材温度、ロール温度など)を適宜変更することができる。
本発明マグネシウム合金展伸材や本発明マグネシウム合金接合材は、高強度・高硬度、軽量、耐衝撃性などの特性が望まれる種々の分野の部材、例えば、自動車などの車両、電車、航空機などの飛行機といった輸送機器の構成部材(例えば、ボディー、骨組み、バンパー部品など)、その他、各種の電気・電子機器類の構成部材(筐体など)、カバンや収納ケースなどの各種の収納部材の素材に好適に利用することができる。本発明マグネシウム合金鋳造材や本発明マグネシウム合金鋳造コイル材は、当該鋳造材に圧延、押出、鍛造などの展伸加工が施されてなる上記本発明マグネシウム合金展伸材の素材に好適に利用することができる。本発明マグネシウム合金部材は、上記種々の分野の部材に好適に利用することができる。本発明マグネシウム合金鋳造材の製造方法は、上記マグネシウム合金鋳造材の製造に好適に利用することができる。
100 鋳造ロール 200 ノズル 210 ノズル本体 220 開口部

Claims (20)

  1. Alを含有するマグネシウム合金からなるマグネシウム合金鋳造材であって、
    前記マグネシウム合金は、
    ASTM規格におけるAZ91合金をベース合金とし、更にCaを0.5質量%以上3質量%以下含有し、残部がMg及び不可避不純物であり、
    DASが4.5μm未満であり、
    AlとCaとを含む第一の金属間化合物と、AlとMgとを含む第二の金属間化合物とを含有し、
    前記第一の金属間化合物と前記第二の金属間化合物との両金属間化合物が隣り合って存在する箇所を具え、
    前記第一の金属間化合物の平均粒径が2μm以下であるマグネシウム合金鋳造材。
  2. 前記第一の金属間化合物の最大径が5μm以下である請求項1に記載のマグネシウム合金鋳造材。
  3. 前記DASと前記第一の金属間化合物の最大径との差の絶対値が2.5μm以下である請求項1又は請求項2に記載のマグネシウム合金鋳造材。
  4. 前記DASと前記第一の金属間化合物の最大径との和が5μm以下である請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のマグネシウム合金鋳造材。
  5. 前記第二の金属間化合物の平均粒径が2μm以下である請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載のマグネシウム合金鋳造材。
  6. 前記マグネシウム合金鋳造材において、その表面から厚さ方向に当該鋳造材の厚さの20%までの領域を表層領域とし、当該鋳造材の厚さ方向の中心から表面側に向かって当該鋳造材の厚さの10%までの領域を中央領域とするとき、前記表層領域及び前記中央領域の各領域における前記第一の金属間化合物の最大径がいずれも5μm以下、かつ平均粒径がいずれも2μm以下であり、更に、前記表層領域における前記平均粒径と、前記中央領域における前記平均粒径との差が20%以内である請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載のマグネシウム合金鋳造材。
  7. 前記マグネシウム合金は、AlとMnとを含む第三の金属間化合物を含有し、
    前記第三の金属間化合物の平均粒径が2μm以下である請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載のマグネシウム合金鋳造材。
  8. 請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載のマグネシウム合金鋳造材であり、長さ100m以上の板状材が巻き取られてなるマグネシウム合金鋳造コイル材。
  9. Alを含有するマグネシウム合金からなる鋳造材を製造するマグネシウム合金鋳造材の製造方法であって、
    ASTM規格におけるAZ91合金をベース合金とし、更にCaを0.5質量%以上3質量%以下含有し、残部がMg及び不可避不純物であるマグネシウム合金の溶湯を準備する準備工程と、
    一対の鋳造ロールを具える双ロール連続鋳造機により前記溶湯を連続鋳造して鋳造材を製造する鋳造工程とを具え、
    前記準備工程では、所定量のうちの一部のCaを含有するCa含有溶湯を作製してから、残部のCaを添加して前記溶湯を作製し、
    前記鋳造工程では、前記鋳造時の冷却速度を1000℃/秒以上5000℃/秒以下とするマグネシウム合金鋳造材の製造方法。
  10. 前記一対の鋳造ロール間のギャップをgr、前記鋳造ロールに向かって前記溶湯を排出するノズルの開口部の間隔をgnとするとき、gn<grとなるように、前記鋳造ロール間のギャップ及び前記ノズルの開口部の間隔の少なくとも一方を調整する請求項9に記載のマグネシウム合金鋳造材の製造方法。
  11. Alを含有するマグネシウム合金からなるマグネシウム合金展伸材であって、
    前記マグネシウム合金は、
    ASTM規格におけるAZ91合金をベース合金とし、更にCaを0.5質量%以上3質量%以下含有し、残部がMg及び不可避不純物であり、
    更に、AlとCaとを含む第一の金属間化合物と、AlとMgとを含む第二の金属間化合物とを含有し、
    前記第一の金属間化合物と前記第二の金属間化合物との両金属間化合物の粒子が隣り合った粒子群が存在し、
    前記第一の金属間化合物の平均粒径が2μm以下であるマグネシウム合金展伸材。
  12. 前記第一の金属間化合物の最大径と前記第二の金属間化合物の最大径との差の絶対値が2μm以下である請求項11に記載のマグネシウム合金展伸材。
  13. 前記第一の金属間化合物の最大径が5μm以下である請求項11又は請求項12に記載のマグネシウム合金展伸材。
  14. 前記第二の金属間化合物の平均粒径が2μm以下である請求項11〜請求項13のいずれか1項に記載のマグネシウム合金展伸材。
  15. 前記マグネシウム合金展伸材において、その表面から厚さ方向に当該展伸材の厚さの20%までの領域を表層領域とし、当該展伸材の厚さ方向の中心から表面側に向かって当該展伸材の厚さの10%までの領域を中央領域とするとき、前記表層領域及び前記中央領域の各領域における前記第一の金属間化合物の最大径がいずれも5μm以下、かつ平均粒径がいずれも2μm以下であり、更に、前記表層領域における前記平均粒径と、前記中央領域における前記平均粒径との差が20%以内である請求項11〜請求項14のいずれか1項に記載のマグネシウム合金展伸材。
  16. 前記マグネシウム合金は、AlとMnとを含む第三の金属間化合物を含有し、
    前記第三の金属間化合物の平均粒径が2μm以下である請求項11〜請求項15のいずれか1項に記載のマグネシウム合金展伸材。
  17. 前記マグネシウム合金展伸材の発火温度が600℃以上、引張強さが300MPa以上である請求項11〜請求項16のいずれか1項に記載のマグネシウム合金展伸材。
  18. 請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載のマグネシウム合金鋳造材に展伸加工を施すマグネシウム合金展伸材の製造方法。
  19. 請求項11〜請求項17のいずれか1項に記載のマグネシウム合金展伸材に、室温以上500℃以下の加熱温度でプレス加工を施してなるマグネシウム合金部材の製造方法。
  20. 請求項11〜請求項17のいずれか1項に記載の複数のマグネシウム合金展伸材と、
    前記マグネシウム合金展伸材同士が摩擦撹拌接合により接合された接合領域とを具えるマグネシウム合金接合材。
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