本発明の実施形態の目的は、感度が高く、正確で安定性の高いイオンセンサを提供することである。
前記目的は、本発明に係る方法とデバイスにより達成される。
本発明の第1の態様は、バルク溶液の濃度を検出するためのイオンセンサを提供する。前記イオンセンサは、基準イオンを含む基準電解液(該基準電解液中での前記基準イオンの濃度に応じて、前記基準電極に電圧を誘起する)に埋め込まれた基準電極と、測定対象のイオンに対するイオン選択性を有する第1電極、および、前記基準イオンまたは前記測定対象のイオンと異なるイオンに対するイオン選択性を有する第2電極とを備える。前記第1電極と前記第2電極は、イオンセンサが前記バルク溶液に浸されたときに該バルク溶液に直接に接するように構成されている。前記イオンセンサは、前記第1電極と前記基準電極との第1電位差を、前記バルク溶液のイオン濃度を得るための測定値として決定し、かつ、前記第2電極と前記基準電極との第2電位差を用いて前記第1電極と前記基準電極との第1電位差を補正し、前記基準電極のドリフトを補償するためのコントローラをさらに備える。
本発明の実施形態には、感度が高く、正確で安定性の高いイオンセンサが得られるという利点がある。安定性とは、前記基準電極の安定性を指す。前記基準電極の基準電圧は、前記基準電解液中の基準イオンの濃度がドリフトしたときにドリフトする。本発明の実施形態には、基準電解液中の基準イオンの濃度変化に対して安定した基準電圧を得ることができるという利点がある。本発明の実施形態には、前記基準電解液の体積を増加させる必要を生じず、前記基準電極の基準電圧のドリフトを安定化させることができるという利点がある。本発明の実施形態には、基準電解液の体積をマイクロリットルのオーダにすることができるという利点がある。本発明の実施形態には、バルク溶液に接する第2電極での測定により、基準電極のドリフトを直接に測定でき、それを補償できるという利点がある。これにより、前記基準電解液の体積をさらに減少させることができる。本発明の実施形態で、前記第2電極は、前記基準イオンに対するイオン選択性を有する。この例では、前記第2電極と前記基準電極との電位差は、前記基準電解液中の基準イオンと、前記バルク溶液中の基準イオンとの濃度差を得るための測定値である。この濃度差は、前記ドリフトのための駆動力である。それゆえ、本発明の実施形態には、前記イオンセンサをバルク溶液に浸したときの、前記第2電極と前記基準電極との電圧差が、前記基準電極について生じるドリフトを得るための測定値であるという利点がある。電圧差が0Vに達すると、前記基準センサは、前記バルク溶液と同等になってドリフトは生じない。小型のイオンセンサは、大きく固い従来の基準電極が適さない用途に用いることができる。イオンセンサは、例えば汗パッチに用いることができるように小型化されてもよい。あるいは、イオンセンサは、スマートワウンドモニタリング(smart wound monitoring)のために傷付近に配置されるものであってもよく、おむつに組み込まれてもよい。本発明の実施形態には、前記第2電極と前記基準電極(前記第1電極との電位差を測定するために用いられるのと同じものである)との電位差を測定することにより、前記基準電極のドリフトを補償できるという利点がある。前記第2電極は、前記基準イオンに対するイオン選択性を有する。例えば、前記第2電極と前記基準電極の両方が同じ材料でできていてもよいが、本発明はこれに限定されない。前記イオンセンサがバルク溶液に浸されると、基準イオンがバルク溶液中に拡散することにより、前記基準電解液中の基準イオンの濃度が変化することがある。この濃度変化は、前記基準電極の電圧をドリフトさせる。このドリフトは、前記バルク溶液に直接に接した前記第2電極を用いて補償できる。
本発明の実施形態で、前記基準電解液は、ヒドロゲルを含んでもよい。これは、前記イオンセンサがバルク溶液に浸されているときに、前記基準電解液と前記バルク溶液との間にイオン伝導性がある状態で、前記基準電解液と前記バルク溶液との混合が防止されるという点で有利である。
本発明の実施形態に係るイオンセンサでは、前記基準電解液は、バリア層により覆われていてもよい。このとき、前記バリア層は、イオン伝導性を有し、かつ、前記イオンセンサが前記バルク溶液に浸されたときに前記基準電解液と前記バルク溶液との混合を妨げるように構成されている。バリア層を用いる場合、前記基準電解液中の基準イオンの安定性は、前記バリア層を用いない場合と比べて長時間維持される。
本発明の実施形態で、前記基準電極と前記第2電極は、塩化銀を含んでいてもよい。本発明の実施形態には、電解液に連続的に浸される塩化銀の基準電極に耐食性を与えることができる。さらに、製造が容易かつ安価になる。
本発明の実施形態で、前記コントローラは、前記第1電極と前記基準電極との第1電位差から、前記第2電極と前記基準電極との第2電位差を差し引くように構成されていてもよい。したがって、単純な計算(具体的には減算)により、前記基準電圧の電圧のドリフトを取り除くことができる。
前記コントローラは、フィルタ動作を行う、具体的には、前記基準電極のドリフトにより生じる変化と異なる挙動を示す前記第2電位差の変化を除去するためのフィルタを有していてもよい。前記基準電極のドリフトは、前記基準電解液からの基準イオンの拡散により生じる。このドリフトは、モデル化できる。本発明の実施形態には、前記モデル化されたドリフトの特徴に基づいて、このドリフトにより生じない前記第2電位差の変化を除去できるという利点がある。本発明の実施形態には、前記フィルタの出力が、前記基準電極のドリフトを示すものであるという利点がある。
前記フィルタは、前記基準電極の最大ドリフト速度よりも高速な第2電位差の変化を除去してもよい。このようにして、前記基準電極のドリフトを示すものでない(前記バルク溶液の実質的な濃度変化に起因するものである)、前記バルク溶液の高速な濃度変化を除去できる。
本発明の第2の態様は、本発明の第1の態様の実施形態に係るイオンセンサの使用を提供する。こうしたイオンセンサの特徴は、既に述べた通りである。前記使用は、イオン濃度を決定する対象のバルク溶液にイオンセンサを浸漬させることと、前記第1電極と前記基準電極との第1電位差、および、前記第2電極と前記基準電極との第2電位差を測定し、前記第2電位差を用いて前記第1電位差を補正することにより基準電極のドリフトを補償することとを含む。
本発明の実施形態には、前記基準電極のドリフトを補償することができるという利点がある。本発明の実施形態には、前記基準電極を、前記基準電解液中の基準イオンの所望の濃度に校正できるという利点がある。本発明の実施形態では、前記イオンセンサを前記調整溶液に浸漬させ、前記第2センサと前記基準センサとの電位差が零になったとき、前記基準イオンの所望の濃度に達する。
本発明の実施形態に係る使用は、イオン濃度を決定する対象のバルク溶液に前記イオンセンサを浸漬させる前に、所定の濃度の前記基準イオンを含む調整溶液に、前記基準電解液中の基準イオン(340)濃度が前記所定の濃度に等しくなるまで、前記イオンセンサを浸漬させることをさらに含んでもよい。
本発明の第3の態様は、基準イオンを含む基準電解液に埋め込まれた基準電極と、測定対象のイオンに対するイオン選択性を有する第1電極と、前記基準イオンまたは前記測定対象のイオンと異なるイオンに対するイオン選択性を有する第2電極と、を備えたイオンセンサにおいてドリフトを補償するための方法を提供する。前記方法は、前記第1電極と前記基準電極との第1電位差、および、前記第2電極と前記基準電極との第2電位差を測定するステップと、前記第2電位差を用いて前記第1電位差を補正することにより、基準電極のドリフトを補償するステップとを含む。
本発明の実施形態で、前記第2電位差を用いて前記第1電位差を補正することは、前記補償するステップから前記第2電位差の急速な変化を排除することを含む、
本発明の特定の態様と好ましい態様が、添付の特許請求の範囲における独立請求項と従属請求項に記載されている。従属請求項に記載された特徴は、独立請求項の特徴および他の従属請求項の特徴と、適切に、かつ、特許請求の範囲に明示的に記載されたものに限定ない形で組み合わせることができる。
本発明のこれらの態様と他の態様は、以下で説明する実施形態から明らかであり、当該実施形態を参照して明瞭にされる。
特定の実施形態に関して、特定の図面を参照しつつ本発明について説明するが、本発明はこれに限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。図面で、幾つかの要素の大きさは、説明のために誇張され、実際のスケールでは図示されていないことがある。寸法および相対寸法は、本発明が実際に実施化される態様とは対応していない。
明細書の説明と特許請求の範囲で用いられる、第1、第2などは、類似の要素を区別するために用いられているのであって、必ずしも時間的、空間的、序列、または他のいずれかの方法での順序を表すために用いられているのではない。こうして用いられた用語は、適切な状況下で交換可能であり、本明細書で説明している本発明の実施形態は、本明細書で説明または図示されているものとは別の順序で動作可能であると理解すべきである。
さらに、明細書の説明と特許請求の範囲で用いられる、上、下、上方、下方などは、説明のために用いられているのであって、必ずしも相対的な位置を説明するために用いられているのではない。こうして用いられた用語は、適切な状況下で交換可能であって、本明細書で説明した本発明の実施形態は、本明細書で説明または図示されているものとは別の向きで動作可能であると理解すべきである。
特許請求の範囲で用いられる、「備える、有する、含む」は、それ以降に列挙された手段に限定されるように解釈すべきでない。「備える、有する、含む」は、他の要素、ステップを除外しない。それゆえ、「備える、有する、含む」は、記載されている特徴、整数、ステップまたは構成要素の存在を明記するものであって、1つ以上の他の特徴、整数、ステップもしくは構成要素、またはこれらの組み合わせの存在または追加を除外するものではないと解釈すべきである。したがって、「手段AとBとを備えたデバイス」という表現の範囲は、構成要素A,Bのみからなるデバイスに限定すべきでない。この表現は、本発明に関して、構成要素A,Bが、関連性のあるデバイスのコンポーネントであることを意味するにすぎない。
この明細書を通じて「一実施形態、実施形態」は、当該実施形態と関連して説明される特定の特徴、構造または特性が、本発明の少なくとも1つの実施形態に含まれるということを意味する。したがって、本明細書を通じてさまざまな場所で現れるフレーズ「一実施形態で、実施形態で」は、必ずしもすべてが同じ実施形態を参照するわけではないが、参照してもよい。さらに、本開示から当業者に明らかなように、1つ以上の実施形態に記載された特定の特徴、構造または特性は、任意の適切な方法で組み合わせることができる。
同様に、本発明の例示的な実施形態の説明で、本発明のさまざまな特徴は、発明を簡素化し、さまざまな発明の態様の理解を容易にする目的で、1つの実施形態、図面、またはその説明にまとめられていることがあると認識すべきである。ただし、本開示の方法は、特許請求の範囲に記載の発明が、各請求項に明示的に記載された特徴よりも多くの特徴を必要とするという意図を反映していると解釈すべきではない。むしろ、以下の特許請求の範囲に反映されているように、発明の態様は、開示された1つの実施形態のすべての特徴よりも少なくなる。したがって、詳細な説明に続く特許請求の範囲は、この詳細な説明中に明確に包含され、各請求項は、この発明の別々の実施形態としてそれ自身で成立する。
さらに、当業者に理解されるように、本明細書で説明される幾つかの実施形態は、他の実施形態に含まれる幾つかの特徴は含むが他の特徴は含まず、異なる実施形態の特徴の組み合わせは、本発明の範囲内であって、さまざまな実施形態を構成する。例えば、以下の特許請求の範囲において、特許請求の範囲で請求された実施形態のいずれも、任意の組み合わせで用いることができる。
本明細書でなされている説明において、具体的な詳細が多く記載されている。しかし、本発明の実施形態は、これらの具体的な詳細がなくても実施できると理解すべきである。他の例では、周知の方法、構造および技術は、この説明の理解を不明瞭にしないために、詳細には示されていない。
本発明の実施形態で、電極の電圧とは、ドリフトのない大きい基準電極を基準とした電極の電圧を指す。
本明細書の実施形態で、「裸電極」は、バルク溶液に浸されたときにバルク溶液と直接に接する電極を指す。
第1の態様で、本発明は、バルク溶液のイオン濃度を検出するためのイオンセンサ300、例えば小型のイオンセンサに関する。本発明の実施形態に係るイオンセンサ300の例示的な実施形態の写真を図3に、概略断面図を図5に示している。図5に示すイオンセンサ300は、基板510の上に集積する形で示されている。
こうしたイオンセンサ300は、動作時、イオンセンサ300が感度を有するイオンのイオン濃度を得るためのバルク溶液に浸されている。本発明の実施形態で、イオンセンサ300は、少なくとも1つの基準電極310と、測定対象のイオンに対するイオン選択性を有する少なくとも1つの第1電極320と、基準電極310を包囲する基準溶液から浸出するイオンに対するイオン選択性を有する少なくとも1つの第2電極330とを備える。第2電極330は、第1電極のドリフト補償(相殺)を行うために追加されている。本発明で、少なくとも1つの第1電極320と、少なくとも1つの第2電極330は、少なくとも1つの基準電極310を共有する。図3に示す例示的な実施形態で、イオンセンサ300は、1つの基準電極310と、1つの第1電極320と、2つの第2電極330とを備える。
基準電極310は、基準電解液340に埋め込まれている(基準電解液340内に挿入されている)。基準電極と基準電解液の材料は、基準電極310に電圧を誘起(誘導)するように選択される。この電圧の大きさは、基準電解液中の基準イオンの濃度に応じた値である。基準電極310は、当業者に知られた任意の好適な基準電極であってよく、例えばAg/AgClであってもよい。基準電解液は、任意の好適な電解液であってよく、例えば、塩化物イオンを含むKCl溶液である。ただし、本発明は、挙げた材料に限定されない。基準電極310は、銅でできていて、一定の銅イオン濃度を有する基準電解液により覆われていてもよい。別の例は、バッファを含むヒドロゲルに覆われたIrOx電極である。バッファは、少量の酸や塩基に影響を受けにくくpHが一定である溶液である。
小型のセンサの実施例で、基準電解液の体積は、典型的に数マイクロリットルである。KCl基準溶液中の塩化物イオンの濃度により、基準電極310の基準ポテンシャルが決定する。本発明の実施形態で、基準電解液340は、アガロース(agar)またはポリヒドロキシエチルメタクリレート(pHEMA)などのヒドロゲルを含んでいてもよい。本発明の実施形態で、基準電解液340は、バリア層342に覆われた流体である。バリア層342は、例えばPVC層であってもよい。バリア層342が必要になるのは、基準電解液340が支持なしに形状および/または位置を維持できないときだけである。ただし、基準電解液がそれ自身で充分に安定している場合であっても、バリア層342が設けられてよい。
第1電極320は、測定対象のイオンに対するイオン選択性を有するイオン選択性電極である。イオン選択性電極は、例えばISFET(イオン選択性電界効果トランジスタ)であってもよい。イオン選択性電極は、pH測定に用いることが可能な酸化イリジウム(IrOx)でできていてもよい。イオン選択性電極320は、イオン選択性膜または自己組織化単分子膜(単原子膜)で覆われたAgCl電極であってもよい。イオン選択性電極は、電解液のリザーバに接し且つガラス膜により分離された(したがってpHセンサを構成する)AgCl電極であってもよい。イオン選択性電極は、電解液のリザーバに接し且つイオン選択性膜により分離された(したがってpHセンサを構成する)AgCl電極であってもよい。
イオンセンサ300がバルク溶液に浸されると、基準電解液340とバルク溶液との間にイオン伝導経路ができる。これは、使用される材料、特に、安価で且つ製造が容易な材料であって、イオン伝導度を常に幾らか有している材料に起因する。
或るイオン濃度(例えば、基準電解液340より大きい塩素濃度または塩化物濃度(イオン濃度とは異なる))を有するバルク溶液中にイオンセンサ300が配置されると、イオンが基準電解液340に、または基準電解液340から拡散する。イオンの拡散により、基準電解液340中のイオン濃度が変化し、基準電極310の電圧のドリフトにつながる。小型のイオンセンサの場合、基準電解液340の体積は、図1に示す基準電極のリザーバの体積と比較して充分に小さい(例えば3桁小さく、マイクロリットル対ミリリットルである)。それゆえ、小型の基準電極は、小型でない基準電極に比べて、基準電解液中におけるイオン(例えば塩化物イオン)の濃度の変化率が大きくなる。それゆえ、小型の基準電極は、小型でない基準電極に比べて、基準電極310の電圧の変化率も、電極のドリフトの問題も大きくなる。
基準電解液340の周りに選択的に存在するバリア層342は、バリア層342を通じたイオンの輸送を最小化することにより、基準電解液340の濃度の変化を最小化することができる。先行技術では、イオンの漏出が生じにくいバリア層342を見出そうとしたが、特殊で高価な材料が得られており、既存のプロセスに導入するのは難しいことが多い。
バルク溶液中にイオンセンサ300が浸されると、バルク溶液のイオン濃度を得るために、基準電極310と第1電極320との第1電位差が測定される。しかし、前記の通り、基準電解液340の基準イオンの濃度の変化により、基準電極310の電圧が変化し、これにより第1電極320と基準電極310との第1電位差が変化する。
小型の基準電極310のドリフトが、時間の関数のグラフとして図4に示されている。グラフの縦軸は、基準電極の電圧をボルト単位で表す。横軸は、基準電極310がバルク溶液に浸されている時間を表す。この例で、イオン濃度(グラフはバルク溶液の塩素濃度)は、基準電解液中のイオン濃度と異なる。この濃度差により、塩化物イオンが基準電解液340とバルク溶液との間で拡散し、これにより基準電極310の電圧のドリフトが生じる。図4では、電圧がほぼすぐに変化し始め、約1時間後から充分な時間経過後まで(グラフの例では約8時間後から約9時間後まで増加する。基準電解液340とバルク溶液のイオン濃度がほぼ等しくなると、基準電極310の電圧は一定になる。
バルク溶液のイオン濃度の測定値に誤差を生じさせる、基準電極でのこうした電圧変化を補償するために、本発明の実施形態に係るイオンセンサ300は、第2電極330を備えている。第2電極330は、イオンセンサ300がバルク溶液に浸されると、第1電極320と同様に、バルク溶液に直接に接する。それゆえ、第2電極は裸電極とも称される。本発明の実施形態に係るイオンセンサ300は、(1つ以上の)第2電極330、および/または、(1つ以上の)基準電極310、および/または、(1つ以上の)第1電極320、すなわちこれらを少なくとも1つずつ備えている。
第2電極330は、基準イオン(すなわち、基準電極から浸出してドリフトを生じさせるタイプのイオン)に対する感度を有するイオン選択性電極である。第2電極は、例えばAg/AgCl裸電極であってもよい。この第2電極330は、第1電極320に比べて感度が低くてもよい。好ましくは、第2電極は、濃度測定中のイオン(第1電極が感度を有するイオン)に対して感度を有しない。本発明の実施形態では、第2電極330と基準電極310との第2電位差が、基準電解液340中の基準イオンの濃度の対数に対して直線的に変化する。
基準電解液340中の基準イオンの濃度変化により、第2電極330と基準電極310との第2電位差の変化が生じる。第2電位差の変化は、基準電解液340中の基準イオンの濃度変化を得るための測定値として利用できる。本発明の実施形態では、第2電位差を用いて、基準センサ310のドリフトが補償される。第2電極330と基準電極310との第2電位差を用いて、決定したバルク溶液のイオン濃度が補正される。ここで、補正前のバルク溶液のイオン濃度は、第1電極320と基準電極310との第1電位差に基づいて決定する。これにより、体積の大きい基準電解液340に対する必要性が減り、または、基準電解液の体積を減らして、基準電極310を小さくすることができる。ここで、本発明の実施形態に係るイオンセンサ300は、バルク溶液のイオン濃度の測定値として第1電極320と基準電極310との第1電位差を決定するコントローラを備える。さらに、コントローラは、第2電極330と基準電極310との第2電位差を用いて第1電極320と基準電極310との第1電位差を補正し、基準電極310のドリフトを補償するように構成されている。
第2の態様で、本発明は、本発明の実施形態に係るイオンセンサを用いてバルク溶液のイオン濃度を得るための方法に関する。
この方法は、選択的に最初に実施される調整ステップを含んでもよい。調整ステップでは、イオンセンサ300は調整溶液に浸される。この調整溶液のイオン濃度は、基準電解液340の所望の基準イオン濃度である。このステップ中、基準電極は、基準電解液中の基準イオンの濃度が所望の濃度に達するまで、充分に長い時間、調整溶液に浸される。基準イオンの濃度が既に所望の濃度であった場合、このステップは必要でない。調整ステップは、製造ステップの一部として実施されてもよいし、ユーザがデバイスを再校正する際に実施されてもよい。この調整ステップの後、基準電解液340は既知のイオン濃度を有する。
実際に使用する際、本発明の実施形態に係るイオンセンサ300は、既知のイオン濃度の基準溶液に浸され、または当該基準溶液に埋め込まれた基準電極を有し、バルク溶液に浸される。これは、覆われた基準電極310、第1電極320および第2電極330は、すべてバルク溶液に浸されていることを意味する。
本発明の実施形態では、2つの電位差が測定される。一方は、第1電極と基準電極との第1電位差V1(決定する必要があるイオン濃度を示す)である。他方は、第2電極330と基準電極310との第2電位差V2(基準電解液340とバルク溶液とのイオン濃度の差に比例し、したがって基準電極310のドリフトを得るための測定値である)である。経時的に測定された第2電位差V2は、基準センサのドリフトを示す。次に、第2電極330と基準電極310との第2電位差V2を用いて第1電極320と基準電極310との第1電位差V1を補正することにより、基準電極310のドリフトが補償される。
本発明の実施形態では、例えば、測定した第2電位差を第1電位差から差し引く簡単な計算により、ドリフト補償が経時的になされる。ただし、予測されるドリフトの挙動を考慮した、より複雑な方法も実施可能である。例えば、ドリフトは、低速で発生すると予測されることがある。それゆえ、第1電位差および/または第2電極と基準電極との第2電位差の高速な変化は、低速のドリフトを補償するときには無視できる。高速な変化は、例えば、元のバルク溶液を、基準イオン濃度が異なる別のバルク溶液に交換したときに生じうる。
実施例.
図6では、第1のグラフ610に、AgCl裸電極330(第2電極)の電圧を時間に対して示し、第2のグラフ630に、pHEMAで覆われたAgCl裸電極310(基準電極)の電圧を時間に対して示している。最初の調整ステップでは、基準電極と第2電極が、3MのKClに浸されて調整されている。基準電極と第2電極は、pHEMA中の塩素濃度が3MのKCl溶液と等しくなるまで3MのKCl溶液に浸される。次に、基準電極と第2電極は、0.1MのKCl溶液に浸される。3MのKCl溶液中では、両溶液の塩素濃度に差がないので、予想される通り、電圧は0mVに近い値となる。AgCl裸電極(第2電極330)は、0.1MのKCl溶液に浸されると、電位がすぐに約70mVまで変化する。一方、pHEMAで覆われたAgCl裸電極(基準電極310)は、塩化物イオンがリザーバ(基準電解液340)から拡散し、ゆっくり同じ電位に近づく。
図7では、基準電極310と第2電極330を用いた図6のシステムについて、図4のV2を示す電位差730がプロットされている。電位差は、3MのKCL溶液中では約0mVであり、0.1MのKCL溶液中に浸されると急速に増加し、pHEMAのリザーバ(基準電解液)がバルク溶液と同程度となると、ゆっくり0mVに戻る。この信号を用いて、基準電極310のドリフトを補償できる。
図8の曲線は、第1電極320と基準電極310との電位差V1を時間の関数として示している。この例で、第1電極320はIrOx電極である。曲線820で見られる大きい電圧は、pH4のバルク溶液に対応する。曲線820で見られる小さい電圧は、pH7のバルク溶液に対応する。曲線830は、第2電極330と基準電極310との電位差V2に対応する。この例で、基準電極310はAgCl電極である。第2電極330は、第1電極320よりもバルク溶液のpHに対する感度が低い(64mV/pHに対して6mV/pHである)。したがって、第2電極330を用いて、基準電極310のドリフトを補償できる。第1電極のpH感度は、充分に大きい64mV/pHである。最初の調整ステップで、イオンセンサ300は3KClのバルク溶液に浸される。これは、図8の曲線で最初の70秒間に見られる。次に、それぞれ0.1MのKClを含むpH7のバッファとpH4のバッファにイオンセンサを浸すことにより、イオンセンサが校正される。基準電解液340中の塩素濃度とサンプル溶液中の塩素濃度が異なる(基準電解液では3M、サンプル溶液では0.1M)ので、曲線830の電位差は大きくなる。
図9は、2つの曲線を示している。第1の曲線920は、第1電極320と基準電極310との電位差V1を示す。第2の曲線930は、第2電極330と第1電極310との電位差V2を示す。第1の曲線920と第2の曲線930のピークは、小型のイオンセンサ300の校正により生じている。第1の曲線と第2の曲線は、同じドリフトを時間の関数で示している。このドリフトは、基準電極310のドリフトにより生じる。図9の例で、小型のイオンセンサは、pH7であって0.1MのKClバルク溶液に浸される。基準電解液340は、3MのKCl溶液中で調整された。それゆえ、塩化物イオンは、小型のイオンセンサ300がバルク溶液に浸されているときに、基準電解液340(本発明の例示的な実施形態ではpHEMAリザーバ)から浸出する。これにより生じた基準電極310のドリフトが、曲線920,930で見られる。本発明の例示的な実施形態において、図9の例で、このドリフトは、第1の曲線920から第2の曲線930のドリフトを差し引くことにより補償できる。
これは、第1の曲線920を含む図10に示されている。第1の曲線920は、第1電極320と基準電極310との電位差V1を時間の関数で表している。図10はまた、第2の曲線930を含んでいる。第2の曲線930は、第2電極330と基準電極310との電位差V2を表している。両曲線では、基準電解液340中の基準イオンからの浸出より、負の勾配が生じている。第1の曲線920にドリフト電圧を追加することにより、この傾斜を測定曲線920から除くことができる。これにより、曲線1020が得られる。ある瞬間のドリフト電圧は、曲線1030と第2の曲線930との電位差である。ここで、曲線1030は、一定の電圧である。この一定の電圧は、測定開始時点での第2の曲線1030の電圧である。曲線1020の傾斜の度合いは、曲線920の傾斜の度合いと比べて大きく低下していることがわかる。したがって、本発明の実施形態では、第2電極330と基準電極310の電位差V2を測定してこれを考慮することにより、基準イオンからの浸出により生じる基準電極310のドリフトを少なくとも部分的に補償できる。ここで、第2電極330は、基準電極310を包囲する基準電解液中に存在する基準イオンに対するイオン選択性を有する。また、第2電極330は、バルク溶液に直接に接している。
図11は、第1電極320と基準電極310との間で測定された電位差(図10の曲線920)から得られるpH値を示す。このpHは、既知のpH値を用いて、1つ以上のバルク溶液中のイオンセンサ300を校正することにより得ることができる。曲線1140が、得られるpH値の曲線である。基準電極310のドリフトの補償により、曲線1150が得られる。補償なしの場合、2時間後にpHが0.85オフセットする。一方、補償ありの場合、pHは0.15しかオフセットしない。
図12、図13、図14、図15は、本発明の実施形態に係る別の(図8から図11に示す実験で用いられるイオンセンサと異なる)イオンセンサを用いて行われた測定を示す。
図12の曲線820は、第1電極320と基準電極310との電位差を示す。この例で、第1電極320はIrOx電極である。曲線820で見られる大きい電圧は、pH4のバルク溶液に対応する。曲線820で見られる小さい電圧は、pH7のバルク溶液に対応する。曲線830は、第2電極330と基準電極310との電位差に対応する。この例で、基準電極310はAgCl電極である。イオンセンサの調整は、3MのKClバルク溶液中で行われる。校正は、pH7のバッファとpH4のバッファ中で行われる。両バッファは0.1MのKClを含む。IrOx電極の感度は65mV/pHである。AgCl裸電極は、pH変化に対して実質的に感度を有しない(2mV/pHにすぎない)。
図13は、第1電極320と基準電極310との電位差である第1の曲線920、および、第2電極330と基準電極310との電位差である第2の曲線930を示す。基準電極310のpHEMAリザーバは、3MのKClバッファ溶液中で調整した。図13の曲線は、pH7である0.1MのKClサンプル溶液中にイオンセンサを浸すことにより得られる。この濃度差により、最初の4時間の間に、基準電極310のドリフトが生じる。4時間後と24時間後に曲線に生じるピークは、pH4のバッファ溶液にイオンセンサを浸すことにより生じる。第1電極320(IrOx電極)のpH感度は、0時間で65mV/pH、4時間で64mV/pH、24時間で64mV/phである。第2電極330(AgCl裸電極)のpH感度は、0時間で2mV/pH、4時間で1mV/pH、24時間で1mV/phである。これらの測定からわかるように、このイオンセンサは、24時間後も感度の低下がない。
図14は、IrOx電極で測定した電圧(曲線920)、AgCl裸電極で測定した電圧(曲線930)、および、AgCl裸電極で測定した電圧を用いてIrOx電極で測定した電圧を補償した結果である曲線1020を示す。基準電極310を用いて、参考用の電圧が測定される。補償を行い、基準電極のドリフトが取り除かれる。
図15は、時間に対するpH値を示す。これは、図14に示す測定電圧から得られる。電圧からpH値への変化は、校正用測定に基づいて行うことができる。曲線1140は、曲線920の測定電圧に対応する測定pH値である。曲線1150は、基準電極のドリフトを補償して得られたpH値である。補償なしでは、測定pH値は、4時間後に1.5であり、24時間後に1.3である。補償ありでは、測定pH値は、4時間後に0.04であり、24時間後に0.2である。図15からわかるように、最初の4時間に基準電極のドリフト(曲線1140にて確認できる)は、補償することにより取り除くことができる(曲線1150)。4時間後と24時間後との間のドリフトは、校正溶液中の(例えば蒸発による)pH変化または温度変化により生じうる。
図16は、本発明の実施形態に係る小型のイオンセンサ300の写真を示す。写真は、基準電解液340(pHEMAリザーバ中のKCl)に埋め込まれた基準電極310を示す。基準電極310はAgCl電極である。図16の写真はまた、2つの第1電極310と2つの第2電極320とを示す。
本発明の例示的な実施形態で、第1電極310はIrOx電極であり、IrOx電極と第2電極はAgCl裸電極である。本発明の例示的な実施形態で、基準電極310のドリフトは、下記式を用いて補償できる。下記の式で、V1は第1電極320と基準電極310との電圧差であり、V2は第2電極330と基準電極310との電圧差である。
以下の例で、基準電極310は、pHEMAを含むKCl中のAgCl電極であり、第1電極320は、pH感度を有する電極(IrOx)であり、第2電極330はAgCl電極である。ただし、以下の例で適用される方法は、本発明の実施形態に係る他のイオンセンサ300にも適用されてよい。
以下の式で、時刻0は、3MのKCl溶液中でイオンセンサ300を校正した直後に相当する。校正後(t=0)、次の式が成り立つ。
ここで、3Mは、pHEMA溶液中の既知の濃度である。
t=t1での基準電解液340(pHEMAリザーバ)からのイオンの浸出後、次の式が成り立つ。
この例で、V1には未知のオフセットがあり、それゆえpHを得るための正確な測定値ではない。ただし、V2は類似のオフセットを示す。t=0で記録されたV2の値を用いて補償を行うことができる。次の式が成り立つ。
この差を用いて、V1のドリフトを補償し、pHを得るための測定値である(補償済みの)V1を得ることができる。この例では、時刻t=0でのCl−の濃度が時刻t=t1でのCl−の濃度に等しいと仮定している。これらの式は、図17のグラフに示されている。グラフで、V1とV2は時間の関数としてプロットされている。
本発明の実施形態で、ドリフトの補償は、以下の段落で説明するようにして行われる。電圧V1,V2は、pHと塩素濃度に応じて変化する。次の式が成り立つ。
ここで、pCl(pHEMA)は、pHEMA中の塩素濃度の負の対数(−log)で定義され、pCl(sample)は、サンプル中の塩素濃度の負の対数であり、a,b,dはそれぞれ、塩素とpHに対する感度であり、これらはネルンストの理論限界(59mV/decade)に近い。C1とC2は、生じる界面反応の標準電位により生じる定数である。
ただし、V1とV2は、経時的に変化する。次の式が成り立つ。
ここで、a dpCl(pHEMA)/dtはドリフトであり、d dpH/dtは信号である。次の式が成り立つ。
ここで、a dpCl(pHEMA)/dtは、pHEMAゲルの塩素から浸出するドリフト(低速効果)であり、b dpCl(sample)/dtは、バルク溶液の塩素濃度の変化である。
サンプル中の塩素濃度が経時的に変化する場合、または、pHEMAリザーバからイオンが浸出する(ドリフト項)ことにより、V2が経時的に変化する。サンプル中のpH変化(測定対象のパラメータ)により、または同じドリフト項により、V1が経時的に変化する。
サンプル中の塩素濃度(pCl(sample))が変化しない場合、上記の通りV2を直接に用いてV1を補償できる。
pHEMAリザーバは、塩化物イオンの拡散を低速化させるヒドロゲルである。それゆえ、ドリフト項dpCl(pHEMA)/dtは、(例えば10mV/min未満まで)小さくなる。それゆえ、V2の急速な変化は、サンプルの塩素濃度の変化に起因する可能性が最も高い。こうした変化は、補償する必要がない。それゆえ、図18に示しているように、V2に対してフィルタ1810を適用することにより、急速な変化を取り除くことができる。
フィルタ1810は、プロセッサまたはコントローラで動作するソフトウェアのフィルタとして実装されてもよい。あるいは、フィルタ1810は、ハードウェアのフィルタとして実装されてもよい。このフィルタ1810を用いて、測定用電子機器および/またはサンプルの塩素濃度の変化により生じるノイズを消去できる。図18に示すように、このフィルタはV2の信号に適用される。フィルタを通過したV2の信号を用いて、V2のドリフトが補償される(図18に示す減算機1820)。特に、フィルタ1810は、(拡張)カルマンフィルタ、(逐次モンテカルロ法または密度推定アルゴリズムに基づく)パーティクルフィルタ、ウィナーフィルタまたは「平坦(プレーン)」デジタルフィルタであってもよい。
本発明の実施形態で、フィルタ1810には、他の入力信号(例えば温度、信号V1または他のセンサからの信号)が入力されてもよい。フィルタ1810は、例えばカルマンフィルタであってもよい。これらの入力に基づいて、フィルタ1810は、後段でV1から差し引かれる可能性の最も高いドリフト信号を推定する。これらの追加の入力は、図18に破線矢印で示されている。
フィルタ1810(例えばカルマンフィルタまたはパーティクルフィルタ)は、ドリフトの物理的モデルに基づいて、基準電極310のドリフトであって最も可能性の高いものを推定し、測定用電子機器またはバルク溶液中の塩素濃度の変化により生じるノイズを除去することができる。本発明の実施形態で、フィルタ1810またはフィルタの組み合わせ1810は再帰的である。すなわち、フィルタ1810は、現在または過去の測定値を用いて最も可能性の高いドリフトを予測する。
本発明の実施形態で、フィルタを通過した信号を補償するための決定(図18の減算ステップ1820)は、同じようにして調整できる。V2またはその微分が所定の閾値を超えない場合、V1が補償される。これは、図19に示されている。図10は、V2を時間の関数で示している。領域Iと領域IIIでは、傾斜が所定の閾値より小さい。これらの領域では、V2を用いてV1が補償されてよい。領域IIでは、傾斜は所定の閾値より大きい。この領域では、V2を用いてV1が補償されない。