以下、本発明の好ましい実施形態について図面を参照しながら説明する。本明細書において、「左側」および「右側」は、車両に乗車した運転者から見た左右側をいう。
図1は本発明の第1実施形態に係るエンジンの過給機を搭載した自動二輪車の側面図である。この自動二輪車の車体フレームFRは、前半部を形成するメインフレーム1と、後半部を形成するリヤフレーム2とを有している。メインフレーム1の前端にヘッドパイプ4が設けられ、このヘッドパイプ4にステアリングシャフト(図示せず)を介してフロントフォーク8が回動自在に軸支されている。フロントフォーク8の下端部に前輪10が取り付けられ、フロントフォーク8の上端部に操向用のハンドル6が固定されている。
一方、車体フレームFRの中央下部であるメインフレーム1の後端部に、スイングアームブラケット9が設けられている。このスイングアームブラケット9に取り付けたピボット軸16の回りに、スイングアーム12が上下揺動自在に軸支されている。このスイングアーム12の後端部に、後輪14が回転自在に支持されている。車体フレームFRの中央下部でスイングアームブラケット9の前側に、エンジンEが取り付けられている。エンジンEがドライブチェーン11を介して後輪14を駆動する。
エンジンEは、左右方向(車幅方向)に延びる回転軸を有するクランク軸26と、クランク軸26を支持するクランクケース28と、クランクケース28の前部上面から上方に突出したシリンダブロック30と、その上方のシリンダヘッド32と、クランクケース28の下方に設けられたオイルパン34とを有している。本実施形態では、クランクケース28とシリンダブロック30とが型成形により一体に形成され、クランクケース28の後部が変速機ケースを兼ねている。エンジンEは4気筒4サイクルエンジンであるが、これに限定されない。
シリンダヘッド32の前面に、4本の排気管36が接続されている。これら4本の排気管36が、エンジンEの下方で集合され、後輪14の右側に配置された排気マフラー38に接続されている。
メインフレーム1の上部に燃料タンク15が配置され、リヤフレーム2に操縦者用シート18および同乗車用シート20が支持されている。また、車体前部に、樹脂製のカウリング22が装着されている。カウリング22は、前記ヘッドパイプ4の前方を覆っている。カウリング22には、空気取入口24が形成されている。空気取入口24は、カウリング22の前端に位置し、外部からエンジンEへの吸気を取り入れる。カウリング22の上部には、透明のウィンドシールド23が装着されている。
車体フレームFRの左側に、吸気ダクト50が配置されている。吸気ダクト50は、前端開口50aをカウリング22の空気取入口24に臨ませた配置でヘッドパイプ4に支持されている。吸気ダクト50の前端開口50aから導入された空気は、ラム効果により昇圧される。吸気ダクト50は、エンジンEの前方からシリンダブロック30およびシリンダヘッド32の左外側方を通過して、エンジンEに走行風Aを吸気Iとして導いている。
シリンダブロック30の後方でクランクケース28の上面に、外気を浄化するエアクリーナ40および過給機42が車幅方向に並んで配置されている。吸気ダクト50の下流端50bがエアクリーナ40を介して過給機42の吸込口46に接続されている。過給機42は、エンジンEに対して着脱自在に設けられ、エアクリーナ40からの清浄空気を加圧してエンジンEに供給する。
過給機42の吐出口48とエンジンEの吸気ポート54との間に、吸気チャンバ52が配置され、過給機42の吐出口48と吸気チャンバ52とが直接接続されている。吸気チャンバ52は、過給機42の吐出口48から供給された高圧の吸気Iを貯留する。吸気チャンバ52と吸気ポート54との間には、スロットルボディ44が配置されている。吸気チャンバ52は、過給機42およびスロットルボディ44の上方に位置している。吸気チャンバ52およびスロットルボディ44の上方に、前記燃料タンク15が配置されている。
過給機42は、クランクケース28の後部の上方で、クランクケース28の左右方向の幅の中に収まっている。つまり、過給機42は、シリンダブロック30およびシリンダヘッド32の後方で、クランクケース28の後部の上方に位置し、かつ吸気チャンバ54の下方で、クランクケース28の幅の両外側端よりも車幅方向内側の限られたスペースに配置されている。
図2に示すように、過給機42は遠心式であり、車幅方向(左右方向)の延びる過給機回転軸44の一端部(左側端部)44aに固定されたインペラ60と、インペラ60を覆うインペラハウジング63と、過給機回転軸44を回転自在に支持する過給機ケース66と、エンジンEのクランク軸26の回転を増速して過給機回転軸44に伝達する遊星歯車装置64とを有している。つまり、過給機回転軸44の一端部44aにインペラ60が固定され、他端部44bに遊星歯車装置64が連結されている。
増速により過給機回転軸44の最大回転数は、毎分10万回転以上、本実施形態では約14万回転になる。本実施形態では、吸気は過給機により高温圧縮され、過給機出口での吸気温度は約100℃に達する。さらに、自動二輪車は急加速、急減速する可能性がある。また、エンジン無負荷状態でアイドリング運転から0.5秒で最大許容回転数に達することがあるから、インペラにかかる遠心力が非常に大きい。インペラ60の詳細は後述する。
過給機42はエンジンEの動力によって駆動される。具体的には、クランク軸26(図1)の回転力が、動力伝達部材の一種であるチェーン74を介して、過給機回転軸44に連結された遊星歯車装置64の入力軸65に伝達されている。より詳細には、入力軸65の右側端部にスプロケット62が設けられ、このスプロケット62の歯車62aにチェーン74が掛け渡されている。つまり、過給機回転軸44の軸方向一方側(左側)に吸込口46が設けられ、他方側(右側)にチェーン(動力伝達機構)74が設けられている。
過給機ケース66は、入力軸65およびスプロケット62を収納する右側の入力ケース部56と、遊星歯車装置64を収納する左側のギヤケース部58とからなり、これら入力ケース部56とギヤケース部58とが、ボルト(図示せず)を用いて連結されている。さらに、インペラハウジング63が、ボルト(図示せず)を用いてギヤケース部58に連結されている。
入力軸65は中空軸からなり、一対の軸受72を介して入力ケース部56に回転自在に支持されている。入力軸65の右側端部65bの外周面にスプライン歯67が形成されている。このスプライン歯67にスプロケット62がスプライン嵌合されて、入力軸65に連結されている。入力軸65の右側端部65bの内周面に雌ねじ部が形成されており、スプロケット62が、この雌ねじ部に螺合されたボルト68の頭部により、ワッシャ70を介して、入力軸65の右側端部65bに固定されている。
過給機回転軸44の基端部である右側端部44bが、入力軸65の左側端部65aに、遊星歯車装置64を介して連結されている。入力軸65の左側端部65aは、鍔状のフランジ部65aからなる。過給機回転軸44は、軸受69を介してギヤケース部58に回転自在に支持されている。軸受69は軸方向に並んで2つ配置されており、これら2つの軸受69,69が、軸受ハウジング76に収納されている。過給機回転軸44の右側端部44bに外歯78が形成されている。
遊星歯車装置64は入力軸65と過給機回転軸44との間に配置され、ギヤケース部58に支持されている。過給機回転軸44の右側端部44bの外歯78に、複数の遊星歯車80が周方向に並んでギヤ連結されている。すなわち、過給機回転軸44の外歯78は遊星歯車装置64の太陽歯車として機能する。遊星歯車80には、太陽歯車(外歯)78に噛み合う外歯81が形成されている。遊星歯車80は、周方向に離間して、例えば、3つ配置されている。
遊星歯車80は径方向外側で大径の内歯車(リング歯車)82にギヤ連結している。各遊星歯車80は、ギヤケース部58に装着された軸受84によりキャリア軸86に回転自在に支持されている。つまり、キャリア軸86は、遊星歯車80の支持軸を構成する。この実施形態では、軸受84として、針状ころが用いられている。
キャリア軸86は円板状の固定部材88に固定され、この固定部材88がギヤケース部58にボルト90により固定されている。つまり、キャリア軸86は固定されており、遊星歯車80は公転しない。内歯車82には、入力軸65の左側端部に設けられた入力ギヤ92がギヤ連結されている。入力ギヤ92は、円板の外周に外歯が形成された外歯車である。
このように、内歯車82が入力軸65と同じ回転方向に一体的に回転するようにギヤ接続され、キャリア軸86が固定されて、遊星歯車80は内歯車82と同じ回転方向に回転する。太陽歯車(外歯車)78は、遊星歯車80と反対の回転方向に回転する。
過給機ケース66の内部に、過給機42の外部から潤滑液OLを導入して、軸受ハウジング76に潤滑液OLを導く過給機潤滑液通路94が形成されている。過給機潤滑液通路94は、型成形により過給機ケース66と同時に形成される。本実施形態では、潤滑液OLとしてオイルが用いられている。
過給機ケース66と軸受ハウジング76との間にオイル層96が形成され、このオイル層96に過給機潤滑液通路94が接続されている。これにより、軸受ハウジング76は、オイル層96を介して過給機ケース66に径方向に移動可能に支持されている。オイル層96は、過給機回転軸44の揺動を緩和する機能を持つ。オイル層96の潤滑液OLの一部が、被潤滑部分である軸受69に供給される。右側の軸受69を通過したオイルは、外歯78に供給されて、外歯78と遊星歯車80の外歯81との噛み合い部分を潤滑する。
過給機回転軸44における軸受69とインペラ60との間に、オイルシールアセンブリSAが配置されている。オイルシールアセンブリSAは、過給機回転軸44に嵌合されてインペラ60と左側の軸受69の内輪との間で挟圧される筒状のカラー75と、オイル層96からのオイル漏れを防ぐためのシール部材77と、これを保持するシール保持体79とを有している。
カラー75は、羽根車50と軸受アセンブリBAの内輪69aとに狭持されて過給機回転軸44に固定されている。カラー75が過給機回転軸44のフランジ部を構成する。カラー75に代えて、過給機回転軸44にフランジ部を一体形成してもよい。オイルシール77は、カラー75とシール保持体79との径方向隙間をふさいで、インペラ60側にオイルが流れるのを防いでいる。シール保持体79は、オイルシール77を保持し、ボルト(図示せず)により過給機ケース66に支持されている。
過給機回転軸44の左側端部(先端部)の外周面に雄ねじ部95が形成されており、この雄ねじ部95にナットのような締結部材からなる固定具85が螺合により取り付けられている。固定具85は、インペラ60を過給機回転軸44の軸方向他方側(自動二輪車の右側)に押圧して過給機回転軸44のカラー75に当接させることで、過給機回転軸44に取り付ける。
インペラ60は、高温下での応力低下が低い材料、例えばアルミ合金により形成されており、ハブ73とその外周に配置された翼とからなる。このインペラ60は、図3に示すように、翼が形成されるインペラ本体100と、インペラ本体100から軸方向一方側(左側)に突出して固定具85(図2)に当接する前端部102と、インペラ本体100から軸方向他方側(右側)に突出して過給機回転軸44のフランジ部であるカラー75(図2)に当接する後端部104とを備えている。後端部104の端面104aは、インペラ60の回転軸心AXに直交している。
ここで、インペラ60の前端および後端は、インペラ60の回転軸心AX方向の一方側の端部と他方側の端部とを意味している。つまり、本実施形態では、インペラ60の前後方向と自動二輪車の前後方向とは異なっている。
インペラ本体100は、周方向に離間して配置された複数のメイン翼(長羽根)106と、複数のメイン翼106の周方向の間に配置された複数のスプリッタ翼(半羽根)108とを備えている。メイン翼106は、インペラ60の前端部102から後方に延び、スプリッタ翼108は、メイン翼106の前端よりも後方の位置から後方に延びている。本実施形態では、メイン翼106およびスプリッタ翼106はそれぞれ6枚設けられている。
インペラ60の入口側先端部、つまりメイン翼106の前縁における先端112で定義される円の外径をインペラ60の入口径Iiと称し、インペラ60の後縁の外径を出口径をIoと称する。
インペラ60の入口径Iiおよび出口径Ioは以下のように設定される。インペラ60の入口径Iiは、インペラ60の回転数により決定される。つまり、経験的に、メイン翼106における入口側先端部112での周速が音速付近のときに最も効率がよくなることが知られているので、通常用いられる回転数の領域において、インペラ60の入口側先端部112での周速が音速となるように入口径Iiを設定するのが好ましい。
また、本願発明者は、入口側先端部112での周速が音速を大きく超えていない場合には、エンジン出力の低下が少ないことを見い出した。つまり、許容最大エンジン回転数で過給機42が駆動する際の入口側先端部112での周速を、音速をやや超えるあたりとなるように入口径Iiを設定すれば、許容最大エンジン回転数時の過給効率を低下させることなく、通常用いられる回転数の領域で入口側先端部112での周速を音速付近とすることができる。ここで、「許容最大エンジン回転数」とは、負荷の異常な低下によるエンジンのオーバーラン状態を除き、設計上設定されている最大回転数をいう。
詳細には、許容最大エンジン回転数で過給機42が駆動される際に、インペラ60の入口側先端部112での周速が音速を超え、且つ音速の1.3倍以下であるように、インペラ60の入口径Iiを設定するのがよい。例えば、入口側先端部112での周速を音速付近とした従来の過給機では、入口面積が小さくなるために十分な流量が得られなかったのに対し、本願発明の入口側先端部112は外径が大きくなっており、流量を十分稼いで、過給機42の出力および効率を向上させることができる。
すなわち、エンジンの最大回転数をNm(rev/min)、増速比をα、音速をVs(mm/s)とすると、下記の(1)式が成立する。
[(Nm×α)/60]×π×Ii>Vs ・・・(1)
本実施形態では音速の1.3倍に設定されるので、入口径Ii(mm)は、つぎの範囲に設定される。
1.3×Vs>[(Nm×α)/60]×π×Ii>Vs
[(1.3Vs×60)/(Nm×π)>Ii]>[(Vs×60)/(Nm×π)]
つまり、本実施形態のように増速後の過給機の最大回転数が毎分14万回転の場合、入口径Iiは45mmを超えて59mm未満が好ましい範囲となる。本実施形態では、入口径Ii(mm)は、52mmに設定される。
一方、インペラ60の出口径Ioは、図2のインペラハウジング63の大きさにより決まる。換言すれば、インペラ60の大きさ、つまり、インペラ60の軸方向に直交する方向の寸法(高さ寸法、前後方向寸法)は出口径Ioにより決まり、インペラハウジング63の大きさはインペラ60の大きさに比例する。本実施形態の場合、上述のように、図1の過給機42は、シリンダブロック30、シリンダヘッド32、クランクケース28および吸気チャンバ54に囲まれた限られたスペースに配置されるので、図3のインペラ60の出口径Ioは制限されている。具体的には、インペラ60の出口径Ioは100mm以下とすることが要求される。
このように、インペラ60の出口径Ioは、自動二輪車に搭載するのに適したサイズとする必要があるため、大きさが制限される。しかしながら、出口径Ioを小さくし過ぎると、偏向が急になって効率が落ちるから好ましくない。本実施形態では、出口径Ioを約69mmとした。
これらの条件から、インペラ60の最適のトリム値TRを設定する。「トリム値TR」とは、インペラ60の出口径Ioに対する入口径Iiの比で、(Ii)2/(Io)2(%)で表される。本願発明者は、試行錯誤の結果、インペラ60のトリム値TRを50%以上に設定するのが好ましいことを見い出した。トリム値TRは、55%以上で65%以下がより好ましく、本実施形態では約57%である。このとき、入口径Iiは約52mmであり、入口側先端部112の周速は約380m/s(1.15×Vs程度)となる。
インペラ60の軸方向寸法である高さhは出口径Ioの0.3〜0.4倍程度が好ましいことが知られている。本実施形態では、設置スペースの関係で出口径Ioの大きさが制限されているので、インペラ60の高さhも小さくなる。その結果、翼106,108の流れ方向の長さが短くなることが懸念される。そこで、図4に示すメイン翼106のバックワード角θ1およびスプリッタ翼108のバックワード角θ2を正の値に設定している。これにより、翼106,108の長さが確保され、高効率化が実現される。
ここで、「バックワード角」とは、インペラ出口角度のことをいい、詳細には、インペラ60を入口側(前端側)から軸方向に見た際の、翼の出口端(後縁)の径方向に対する傾斜角度をいう。また、「バックワード角が正の値」とは、バックワード角がインペラ60の回転方向Rに対して後側に傾斜していることをいう。各バックワード角θ1,θ2は、好ましくは30〜50°で、より好ましくは35〜45°で、本実施形態では約40°である。
後端部104の端面104aの外径Doは、前端部102の端面102aの外径Diよりも大きく設定されている(Do>Di)。また、後端部104の端面104aの外径Doは、インペラ本体100の入口径Iiよりも小さい(Do<Ii)。インペラ60の前端面102は、固定具85が当接する座面を構成しており、前端部の端面102の外径Diは、固定具85の直径とほぼ同じである。このように、外径Diを固定具85の直径とほぼ同じにすることで、入口開口を大きくして出力向上を図るとともに、後端部104の端面104aの外径Doを端部の端面102の外径Diよりも大きくして強度を向上させることで、高温条件下での高速回転を可能として、さらなる出力向上を図っている。
後端部104は、カラー75に当接する端面104aと、端面104aからインペラ本体100に向かって外径寸法が徐々に大きくなる補強部分104bとを有している。詳細には、補強部分104bの外径寸法は、インペラ本体100に向かって徐々に大きくなる複数の曲率半径が組み合わされる形状で形成され、インペラ本体100側の曲率半径が後端側の曲率半径よりも大きい。これにより、インペラ本体100と後端部104との境界部分、つまり後端部104の根元部分における応力集中が回避される。また、後端部104におけるインペラ本体100との境界部分の外径寸法D1は、インペラ60の出口径Ioの1/2よりも大きく、インペラ60の入口径Iiよりも小さい(Ii>D1>Io/2)。
また、端面104aの外径Doは、出口径Ioの0.28倍以上0.36倍以下が好ましく、より好ましくは、0.30倍以上0.34倍以下であり、本実施形態では0.32倍である。さらに、端面102aの外径Diは、入口径Iiの0.24倍以上0.28倍以下が好ましく、より好ましくは、0.25倍以上0.27倍以下であり、本実施形態では0.26倍である。
さらに、スプリッタ翼108の前端116におけるハブ73と連結する根元部116aは、軸心方向AXからみて後端部104の端面104aの円形の内側に位置している。これにより、スプリッタ翼108を設けたことによるインペラ60の質量増加に対応して、後端部104の径方向寸法を大きくして、後端部104の強度を向上させることができる。
後端部104のインペラ本体100からの突出寸法tは、図2の過給機回転軸44が挿通される貫通孔110の半径rと、図3の前端部102の端面102aの半径Di/2との差以上に設定されている(t≧((Di/2)−r))。図2に示すように、後端部104の端面104aは、シール部材77に軸方向に対向している。また、インペラ60の出口径Io(図3)、つまりインペラ60の最大径は、遊星歯車装置64の外径Pよりも小さく設定されている。
図5に示すように、メイン翼106は、吸気の流れ方向FDの中間部に最も厚みが大きくなる最大厚部分114を有しており、スプリッタ翼108の前端116とメイン翼106の最大厚部分114とが、流れ方向FDにずれて配置されている。詳細には、スプリッタ翼108の前端116が、メイン翼106の最大厚部分114よりも上流側に位置している。
より詳細には、図6に示すメイン翼106の横断面の中心線C1に沿った長さLに対し、最大厚部分114とスプリッタ翼108との流れ方向FDの偏位寸法Ldが、Ld=(1/10〜1/4)Lである(0.1L≦Ld≦0.25L)。ここで、「メイン翼106の横断面」とは、メイン翼106における流れ方向FDに沿った断面をいう。
つぎに、インペラ60の製造方法について説明する。まず、鍛造により円錐台形状のインペラ原型を成形する。つぎに、旋盤加工によりインペラ60の概略形状を成形する。この時点で、インペラ本体100、前端部102および後端部104は区画されるが、インペラ本体100には翼106,108は形成されていない。つづいて、粗加工により翼106,108の概略形状を形成する。粗加工は、例えば、大きなボールミルを用いて行われる。
最後に精密加工により翼106,108の最終形状を形成する。精密加工は、小さなエンドミルを用いた切削加工により行われる。この際、図7に示すように、各翼106,108の表面は、吸気の流れ方向FDに沿って切削される。また、精密加工は、共通のエンドミルを用いて表面と裏面の両方が同時に加工される。
つぎに、過給機42の動作について説明する。図1のエンジンEが始動すると、クランク軸26に連動して過給機42が駆動される。上述のように、図2の過給機回転軸44は最大毎分14万回転の高速で回転する。このような高速で回転するので、インペラ60における外径が最も大きなインペラ本体100の後端側部分118に大きな遠心力が働く。その結果、インペラ60の後端側の領域ARに外側に向かう大きな引張力が発生する。上述にように、過給機42の出口で吸気温度が約100℃に達するので、常温条件下に比べて素材の強度が低下することがあり、高速回転時の遠心力に起因するインペラ60の変形を防ぐ必要がある。
インペラ60の小形化を図りつつ性能を維持するためには、高速化が必要であるが、高速化すると、上述のように大きな遠心力が生じる。上記実施形態では、後端部104の端面104aの外径Doが前端部102の端面102aの外径Diよりも大きく設定されているので、後端部104の径方向外側への引張力に対する強度が向上する。したがって、過給機回転軸44が高速回転してインペラ本体100の後端側に径方向外側に向かう大きな引張力が発生しても、このような引張力によりインペラ本体100の後端側が影響を受けるのを抑制できる。これにより、インペラ60の高速回転が可能になる。
ただし、図3に示す後端部104の端面104aの外径Doは、インペラ60の入口径Iiよりも小さい。これにより、後端部104が大形化するのを防いで、遠心力の増加を抑制するとともに、インペラ60の軽量化を図ることができる。
また、後端部104の外径寸法は、インペラ本体100に向かって徐々に大きくなっているので、後端部104におけるインペラ本体100との境界部分における応力集中が抑制される。また、この境界部分の外径寸法は、インペラ本体100の出口径Ioの1/2よりも大きく、インペラ本体の入口径Iiよりも小さい。これにより、後端部104の剛性を大きくしつつ、インペラ本体100の後端側部分118の外形が大きくなるのを抑制して遠心力を低減できる。
後端部104のインペラ本体100からの突出寸法tは、貫通孔110の半径rと、前端部102の端面102aの半径Di/2との差以上に設定されている(t>(Di/2)−r)。これにより、後端部104の突出量が大きくなり、インペラ本体100の後端側の領域AR(図2)の剛性が低下するのを抑制できる。
図2に示すように、後端部104の端面104aはシール部材77に軸方向に対向している。これにより、シール部材77とインペラ60の軸方向隙間が小さくなるので、潤滑液が漏れるのを防ぐことができる。
上記構成では、許容最大エンジン回転数で過給機42が駆動する際に、インペラ60の入口側先端部112での周速が音速を超えるように設定されているので、最大エンジン回転数未満の通常動作領域での周速を音速に近づけることができる。その結果、通常動作領域での過給効率が高くなるので、エンジン出力が向上する。また、インペラ60の入口側先端部112の径方向寸法を、その周速度が音速を超える程度に大きくして流量を稼いでおり、インペラ60の出口径Io、すなわち過給機42の径方向寸法が大きくなるのを抑制できる。したがって、過給機42が大形化しないので、自動二輪車の限られた設置スペースに過給機42を配置できる。
また、インペラ60の入口径Iiは、許容最大エンジン回転数時の入口側先端部112での周速が音速の1.3倍以下であるように設定されている。これにより、許容最大エンジン回転数時も音速に近い周速で回転するので、許容最大エンジン回転数時での出力低下を抑制できる。その結果、広範囲にわたって良好なエンジン出力を得ることができる。
さらに、トリム値が50%以上に設定されており、出口径Ioが小さくなるので、スペースに制限がある自動二輪車においても過給機42を搭載しやすい。また、インペラ60の高さh(車幅方向寸法)は出口径Ioにより決まるので(h=0.3〜0.4×Io程度)、出口径Ioが小さくなると高さhも小さくなる。本実施形態では、図1の過給機42はクランクケース28の幅内に収まっており、さらに、車体左側に吸込口46が設けられ、右側に動力伝達機構74(図2)が設けられており、車幅方向のスペースも限られている。しかしながら、インペラ60の高さhが小さくなっているので、過給機42が一層コンパクトになる。したがって、車幅方向の限られたスペースにも、過給機42を搭載できる。
また、図4のメイン翼106およびスプリッタ翼108のバックワード角θ1、θ2が正の値に設定されている。自動二輪車に搭載するためにインペラ60を小形化すると、翼長が短くなりやすいが、バックワード角θ1、θ2を正の値とすることで、翼長を稼ぐことができる。その結果、インペラ60を小形化しつつ、過給機42の効率が低下するのを抑制できる。
インペラ60の出口径Ioは、図2の遊星歯車装置64の外径よりも小さく設定されている。このようなインペラの出口径Ioおよび高さhが制限される場合でも、バックワード角θ1、θ2を正の値とすることで、インペラ60を小形化しつつ、過給機42の効率が低下するのを抑制できる。
図6に示すように、スプリッタ翼108の前端116とメイン翼106の最大厚部分114とが、吸気の流れ方向FDにずれて配置されている。これにより、スプリッタ翼108の存在によって流路が急激に狭くなるのを防いで、過給効率を向上させることができる。
図7に示すように、各翼106,108の表面が吸気の流れ方向FDに沿って切削加工により形成されている。これにより、切削加工により形成された加工溝に沿って吸気が流れるので、流路抵抗が低減され、その結果、効率が向上する。
上記実施形態では、遊星歯車装置64を介してエンジンEの回転が増速されてインペラ60に伝達される。これにより、入口径Iiを大きくすることなく、流量を稼ぐことができる。さらに、遊星歯車装置64に加えて、動力伝達経路での歯車連結により増速することでさらなる入口径Iiの小形化を実現できる。換言すれば、入口径Iiおよび出口径Ioが遊星歯車装置64の外径Pよりも小さくなるように増速比を設定することで、過給機42の大形化を抑制するとともに、増速比が過剰になるのを防ぐことができる。
また、トリム値が比較的小さく、翼の径方向寸法が小さくなってしまう場合でも、バックワード角を正とすることで、翼の径方向寸法を延長して、翼による空気の案内面を増やすことができる。これにより、トリム値が小さくなることによる過給効率の低下を抑制できる。また、インペラ60の高さhが小さく、翼の軸方向寸法が小さくなってしまう場合でも、バックワード角を正とすることで、翼の横断面の中心線に沿った翼長さを延長して、翼による空気の案内面を増やすことができる。これにより、インペラ60の高さhが小さくなることによる過給効率の低下を抑制できる。
上記実施形態の過給機42を小形化するには、インペラ60の高さh(車幅方向寸法)を小さくするのが好ましい。つまり、上記実施形態の過給機42は、インペラハウジング63の右側に過給機ケース66が配置され、左側にエアクリーナ40が配置され、これらインペラハウジング63、過給機ケース66およびエアクリーナ40が、クランクケース28の幅内に収められている。さらに、前後方向に延びる吸気ダクト50が車幅方向に湾曲してエアクリーナ40に接続されるので、車幅方向スペースが一層圧迫される。このように、インペラ60の高さhを小形化することが要求される場合でも、上述のようにバックワード角を正とすることで、過給効率の低下を抑制できる。
換言すれば、出口径Ioが遊星歯車装置64の外径Pよりも小さくなるように設定され、入口径Iiは周速が音速以上となるように設定され、これらを満たすように増速比を設定することで、過給機42の大形化を防ぎつつエンジン出力の向上を図り、自動二輪車への搭載性も向上させることができる。
入口側先端部112の周速が音速を超える場合、音速を超えた所定範囲内であれば、エンジン出力の低下幅は小さく、この所定範囲を超えると、エンジン出力の低下幅が大きくなる。本発明では、許容最大回転数において、入口側先端部112の周速が音速を超え、且つ所定範囲内となるように設定される。この所定範囲は、実験またはシミュレーションによって求めることができる。
本発明は、以上の実施形態に限定されるものでなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で、種々の追加、変更または削除が可能である。例えば、上記実施形態のインペラ60はメイン翼106とスプリッタ翼108とを有していたが、スプリッタ翼108はなくてもよい。したがって、そのようなものも本発明の範囲内に含まれる。