従来装置では、スカイフック制御を実行して車体を制振する場合、上下力を発生させるために必要なエンジン及びブレーキに加えて、減衰力可変ショックアブソーバも必要である。減衰力可変ショックアブソーバによる減衰力の大きさを変更するためには、別途、制御装置等も必要となる。このように、減衰力可変ショックアブソーバ及び制御装置等を設ける場合、車両の重量が増加し且つコストが増大するという問題がある。
この場合、減衰力を変更することができない(即ち、減衰力一定の)ショックアブソーバを用いることができれば、車両の重量増加及びコスト増大を抑制することができる。しかし、減衰力一定のショックアブソーバでは減衰力を低下させることができないので、高周波数域の振動が生じた場合には乗り心地が悪化してしまう。従って、高周波数域の振動が入力された際の制振性能の低下が改善されることが望まれる。
ところで、各車輪をそれぞれ独立して駆動する複数のモータを備えた車両が知られている。この車両においては、各モータを個別に力行制御又は回生制御することにより、車輪に制駆動力(駆動力及び制動力)を発生させることができる。このような車両の典型例はインホイールモータ形式の車両である。インホイールモータ形式の車両では、車輪が発生する制駆動力は、車両に対して前後方向の力として作用するのみでなく、サスペンション装置によって車体の上下方向の力にも効率良く変換される。従って、インホイールモータ形式の車両では、車輪が発生する制駆動力を制御することにより車体に作用する上下方向の力を制御することができるので、車両を走行させるとともに車体を制振することができる。
本発明は、このような「ショックアブソーバを含むサスペンション装置により車体に支持された、前2輪、後2輪及び全4輪のうちの何れかの組の複数の車輪、にそれぞれ独立した駆動力及び回生制動力を発生させることができる車両の特性を有効に活用することにより、上記課題を解決する。即ち、本発明の目的の一つは、車輪にて発生させる制駆動力を制御することにより車体に作用する上下方向の力を利用して、高周波数域における制振性能を向上させる車両の制御装置を提供することにある。
上記目的を達成するための本発明の車両の制御装置(以下、「本発明装置」と称呼する。)は、
ショックアブソーバ(31)を含むサスペンション装置(30)により車体(Bo)に支持された、前2輪、後2輪及び全4輪のうちの何れかの組の複数の車輪(10)にそれぞれ独立した駆動力及び回生制動力を発生させるための回転トルクを発生する複数のモータ(20)を備えた車両(1)に適用される。
本発明装置は、制御部(40)を備える。
制御部(40)は、
前記車両(1)の走行のために前記複数の車輪(10)のそれぞれに要求される目標各輪駆動力及び目標各輪回生制動力(Fd)の何れかに基づいて、前記複数のモータ(20)がそれぞれ発生すべき目標走行トルク(Td)を決定し、
前記車体(Bo)を制振するために前記車両(1)の上下方向に沿って前記車体(Bo)に作用させる上下力(Fz)の目標値である目標上下力(Fzd)に基づいて前記モータ(20)が発生するべき制振用目標トルク(Tc)を決定し、
前記複数のモータ(20)のそれぞれに前記目標走行トルク(Td)と前記制振用目標トルク(Tc)の合算値である目標合算トルク(Tt)を発生させる。
更に、前記制御部(40)は、
前記車両(1)の上下方向に沿って前記車体(Bo)に発生した上下絶対速度(Vh)に対し前記車体(Bo)の振動を減衰させるために予め定められた第1制御定数(Csk1)を乗じることにより(式4)前記上下絶対速度(Vh)に比例する第1上下力(Fzs1)を決定する(ステップS13)とともに、
前記ショックアブソーバ(31)が発生する力であって同ショックアブソーバのストローク速度(Vs)に比例する力である実減衰力(Fa)と反対の向きを有するように負の値に予め定められた第2制御定数(Csk2)を同ストローク速度(Vs)に乗じることにより(式5)同ストローク速度(Vs)に比例する第2上下力(Fzs2)を決定(ステップS13)し、
前記第1上下力(Fzs1)及び前記第2上下力(Fzs2)を合算することにより前記目標上下力(Fzd)を決定する(ステップS13)。
本発明装置は、複数のモータが、それぞれ、例えば、車輪の内部に組み込まれるインホイールモータであって、回転トルクをそれぞれ独立して発生する。制御部は、車両の走行のために複数の車輪(10)のそれぞれに要求される目標各輪駆動力及び目標各輪回生制動力に基づいて、各モータが発生すべき目標走行トルクを決定する。更に、制御部は、車体の振動を制振するために車両の上下方向に沿って車体に作用させる目標上下力に基づいて各モータが発生すべき制振用目標トルクを決定する。更に、制御部は、各モータに目標走行トルクと制振用目標トルクとの合算値である目標合算トルクを発生させる。
更に、本発明装置では、制御部は、車両の上下方向に沿って車体に発生した上下絶対速度に対して、車体の振動を減衰させるために設定された第1制御定数を乗じて、上下絶対速度に比例する第1上下力を決定する。その結果、決定された第1上下力が車体に作用することにより、車体に発生した振動が減衰されて良好な乗り心地が得られる。
前述したように、車体を制振する場合であって、特に、高周波数域で制振する場合には、サスペンション装置のショックアブソーバによって発生されて車体に作用する減衰力を低下(減少)させる必要がある。しかし、サスペンション装置には、減衰力一定のショックアブソーバが用いられる場合がある。この場合には、減衰力一定のショックアブソーバは発生する実減衰力を低下(減少)させることができないから、高周波数域での制振性能が悪化する。
そこで、制御部は、サスペンション装置を構成するショックアブソーバのストローク速度に対して第2制御定数を乗じて、ストローク速度に比例する第2上下力を決定する。第2制御定数は、ショックアブソーバがストローク速度に応じて発生する実減衰力と反対の向きを有するように設定される。
これにより、ショックアブソーバがストローク速度に所定の減衰係数を乗じた大きさで実減衰力を発生している場合に、実減衰力と反対の向きを有するように決定された第2上下力を車体に作用させることができる。第2上下力が車体に作用すると、ショックアブソーバの所定の減衰係数は、見かけ上、(所定の減衰係数−第2制御定数)となる。その結果、ショックアブソーバは、ストローク速度に(所定の減衰係数−第2制御定数)を乗じた減衰力を発生させることに等しくなるので、ストローク速度に所定の減衰係数を乗じた実減衰力よりも小さな減衰力を車体に作用させることができる。従って、減衰力一定のショックアブソーバを有するサスペンション装置が車両に搭載される場合であっても、高周波数域での制振性能を改善することができる。その結果、広い周波数域で車体に振動が発生した場合でも、車体に発生した振動が減衰されて良好な乗り心地が得られる。加えて、減衰力一定のショックアブソーバを用いることにより、車両の重量増加及びコスト増大を抑制することができる。
尚、上記説明においては、発明の理解を助けるために、実施形態に対応する発明の構成に対して、実施形態で用いた符号を括弧書きで添えているが、発明の各構成要件は上記符号によって規定される実施形態に限定されるものではない。
以下、本発明の実施形態に係る車両の制御装置について図面を参照しながら説明する。図1に示したように、車両1は、左前輪10fl、右前輪10fr、左後輪10rl及び右後輪10rrを備えている。左前輪10fl、右前輪10fr、左後輪10rl及び右後輪10rrの内部には、モータ20fl、モータ20fr、モータ20rl及びモータ20rrがそれぞれ組み込まれている。
モータ20fl、20fr、20rl及び20rrは、所謂インホイールモータであって、車輪10fl、10fr、10rl及び10rrのそれぞれとともに車両1のばね下に配置される。モータ20fl、20fr、20rl及び20rrのトルク(モータの回転、モータの発生トルク)は、車輪10fl、10fr、10rl及び10rrにそれぞれ伝達される。これにより、車両1においては、各モータ20fl、20fr、20rl及び20rrのトルクをそれぞれ独立して(互いに独立して)制御することにより、車輪10fl、10fr、10rl及び10rrに発生させる駆動力及び制動力をそれぞれ独立して制御できる。
車輪10fl、10fr、10rl及び10rrは、モータ20fl、20fr、20rl及び20rrのケーシングをそれぞれ介して、独立したサスペンション装置30fl、30fr、30rl及び30rrにより車体Boにそれぞれ懸架されている。サスペンション装置30fl、30fr、30rl及び30rrは、車体Boと、車輪10fl、10fr、10rl及び10rr(従って、モータ20fl、20fr、20rl及び20rr)と、をそれぞれ連結する連結機構である。このため、サスペンション装置30fl、30fr、30rl及び30rrのそれぞれは、サスペンションリンク機構を備えるとともに、ばね上(車体Bo)の振動を減衰させる減衰力を発生するショックアブソーバ31及び上下方向の荷重を支え衝撃を吸収するサスペンションばね32を備えている。ショックアブソーバ31は、減衰力の大きさを決定する減衰係数Cが一定とされている。即ち、ショックアブソーバ31は、減衰力一定のショックアブソーバである。サスペンションばね32は、弾発力を決定する弾性係数Kが一定とされている。サスペンション装置30fl、30fr、30rl及び30rrは、ストラット型サスペンション及びウィッシュボーン型サスペンション等、周知の4輪独立懸架方式のサスペンション装置(所謂、パッシブサスペンション装置)である。
車輪10fl、10fr、10rl及び10rrは、これらのうちのどの車輪であるかを特定する必要がない場合、以下、単に「車輪10」と称呼される。
モータ20fl、20fr、20rl及び20rrは、これらのうちのどのモータであるかを特定する必要がない場合、以下、単に「モータ20」と称呼される。
サスペンション装置30fl、30fr、30rl及び30rrは、これらのうちのどのサスペンション装置であるかを特定する必要がない場合、以下、単に「サスペンション装置30」と称呼される。
更に、前輪(10fl、10fr)側に設けられる部品を特定する場合には、末尾に「f」、後輪(10rl、10rr)側に設けられる部品を特定する場合には、末尾に「r」を付す。
各モータ20は、例えば、ブラシレスモータであり、モータドライバ25に接続される。モータドライバ25は、例えば、インバータであって、各モータ20に対応するように4組設けられる。モータドライバ25は、バッテリ60から供給される直流電力を交流電力に変換して、その交流電力を各モータ20に独立して供給する。これにより、各モータ20は、力行制御されてモータトルク(駆動トルク)を発生し、各車輪10に駆動力を発生させる。
一方で、各モータ20は、発電機としても機能し、各車輪10の回転エネルギーにより発電して、発電電力を、モータドライバ25を介してバッテリ60に回生する。これにより、各モータ20は、回生制御されてモータトルク(回生制動トルク)を発生し、各車輪10に回生制動力を発生させる。尚、各車輪10には摩擦ブレーキ装置が設けられる。摩擦ブレーキ装置は、例えば、ディスクブレーキ装置及びドラムブレーキ装置等の周知のブレーキ装置であるので、図示及び説明を省略する。
モータドライバ25は、モータ制御用電子制御ユニット40(以下、単に「モータECU40」と称呼する。)に接続されている。モータECU40は、CPU、ROM、RAM等からなるマイクロコンピュータを主要部として備え、後述するプログラムを含む各種プログラムを実行して個々のモータ20の作動を独立して制御する。モータECU40は、運転者が車両1を走行させるために操作した操作状態を検出する操作状態検出装置50及び車両1の運動状態を検出する運動状態検出装置55と接続され、それらの検出装置50及び55から出力される検出信号を入力するように構成されている。
操作状態検出装置50は、アクセルセンサ及びブレーキセンサ等を含んでいる。アクセルセンサは、アクセルペダルの踏み込み量(或いは、角度、圧力等)から運転者のアクセル操作量を検出する。ブレーキセンサは、ブレーキペダルの踏み込み量(或いは、角度、圧力等)から運転者のブレーキ操作量を検出する。
運動状態検出装置55は、車速センサ、ばね上加速度センサ、ばね下加速度センサ、前後加速度センサ、横加速度センサ、ストロークセンサ、ピッチレートセンサ及びロールレートセンサ等を含んでいる。車速センサは、車体Bo(車両1)の走行速度を車速として検出する。ばね上加速度センサは、各車輪10の位置において発生する車体Bo(ばね上)の上下方向の加速度をそれぞれ検出する。ばね下加速度センサは、各車輪10の位置において発生する車輪10及びモータ20(ばね下)の上下方向の加速度をそれぞれ検出する。前後加速度センサは、車体Bo(車両1)の前後方向における前後加速度を検出する。横加速度センサは、車体Bo(車両1)の左右方向における横加速度を検出する。ストロークセンサは、各サスペンション装置30のサスペンションストローク量をそれぞれ検出する。ピッチレートセンサは、車体Boの重心を通るピッチ軸周りのピッチ角速度を検出する。ロールレートセンサは、車体Boの重心を通るロール軸周りのロール角速度を検出する。
尚、操作状態検出装置50及び運動状態検出装置55によって検出される検出値について、方向要素が含まれる検出値はその符号によって方向が識別される。加えて、検出値の大きさを論じる場合にはその絶対値が用いられる。
<制御の概要>
次に、モータECU40が行う制御の概要について説明する。モータECU40は、操作状態検出装置50により検出されたアクセル操作量、及び、ブレーキ操作量に基づいて、運転者が要求する加速度(減速度を含む)にて車両1を走行させるために車両に要求される目標走行力Ftotalを決定する。より具体的に述べると、モータECU40は、アクセル操作量が「0」でなくブレーキ操作量が「0」であるとき、予め設定された駆動力マップと実際のアクセル操作量とに基づいて、アクセル操作量が大きいほど大きくなるトータル走行用駆動力を目標走行力Ftotalとして決定する。更に、モータECU40は、ブレーキ操作量が「0」でなくアクセル操作量が「0」であるとき、予め設定された制動力マップと実際のブレーキ操作量とに基づいて、ブレーキ操作量が大きいほど大きくなるトータル走行用回生制動力を目標走行力Ftotalとして決定する。モータECU40は、決定した目標走行力Ftotalを所定の配分比で4輪に配分することにより、各車輪10の目標各輪制駆動力Fd(目標各輪駆動力Fd又は目標各輪回生制動力Fd)を決定する。
モータECU40は、目標各輪制駆動力Fdに対して、例えば、各車輪10に設けられる減速機(図示省略)のトルク変換比(比例定数)を乗算する。これにより、モータECU40は、目標各輪制駆動力Fdに対応する目標走行トルクTd(目標走行駆動トルクTd又は目標走行回生制動トルクTd)を各車輪10について演算する。モータECU40は、各モータ20がそのモータについての目標走行トルクTdを発生するように(目標走行トルクTdに対応する目標電流が各モータ20に流れるように)モータドライバ25を制御する。これにより、各車輪10においては、目標各輪制駆動力Fdに一致する制駆動力が発生する。
尚、以下において、車輪10毎に目標各輪制駆動力Fdを特定する場合には、左前輪については目標各輪制駆動力Fd1、右前輪については目標各輪制駆動力Fd2、左後輪については目標各輪制駆動力Fd3、右後輪については目標各輪制駆動力Fd4と称呼する。加えて、車輪10毎に目標走行トルクTdを特定する場合には、左前輪については目標走行トルクTd1、右前輪については目標走行トルクTd2、左後輪については目標走行トルクTd3、右後輪については目標走行トルクTd4と称呼する。
図2(a)及び(b)に示したように、車両1の側面視において、前輪側のサスペンション装置30fは、車体Boに対する前輪10fの回転中心(即ち、瞬間回転中心)Cfが、前輪10fよりも後方且つ上方に位置するように構成される。車両1の側面視において、後輪側のサスペンション装置30rは、車体Boに対する後輪10rの回転中心(即ち、瞬間回転中心)Crが、後輪10rよりも前方且つ上方に位置するように構成される。
この場合、前輪10fの接地点と瞬間回転中心Cfとを結ぶ線と接地水平面とのなす角度(小さい方の角度)をθf、後輪10rの接地点と瞬間回転中心Crとを結ぶ線と接地水平面とのなす角度(小さい方の角度)をθrとする。尚、以下においては、θfを瞬間回転角θfと称呼し、θrを瞬間回転角θrと称呼する。車両1においては、瞬間回転角θfに比べて瞬間回転角θrの方が大きくなる関係(θf<θr)を有するが、その逆(θr<θf)の関係を有していても良い。
このようなサスペンション装置30の構成(ジオメトリ)においては、各車輪10の駆動力及び制動力により車体Bo(車両1)の上下方向の力が発生する。具体的に、車両1においては、各車輪10にて発生する制駆動力によりサスペンション装置30が車体Boに上下力を作用させる。尚、以下において、車体Boに作用させる上下力を発生させるための制駆動力は、「制振用目標制駆動力」と称呼される場合がある。
以下、説明を簡略化するために、左前輪10fl及び右前輪10frを一つの前輪10fと見做し、左後輪10rl及び右後輪10rrを一つの後輪10rと見做す。この場合、図2(a)に示したように、前輪10fの接地点に車両1の進行方向と同方向(車両前方)の制振用目標制駆動力Fcf(駆動力)が作用すると、同制駆動力Fcfによって車体Boを下向きに付勢する上下力Fzfが前輪10fの接地点を通る鉛直線上に発生する。前輪10f及び車体Boはサスペンション装置30fにより連結されているので、発生した上下力Fzfはサスペンション装置30fを介して車体Boに作用する。一方、後輪10rの接地点に車両1の進行方向と逆方向(車両後方)の制振用目標制駆動力Fcr(制動力)が作用すると、同制駆動力Fcrによって車体Boを下向きに付勢する上下力Fzrが後輪10rの接地点を通る鉛直線上に発生する。後輪10r及び車体Boはサスペンション装置30rにより連結されているので、発生した上下力Fzrはサスペンション装置30rを介して車体Boに作用する。
加えて、図2(b)に示すように、前輪10fの接地点に車両1の進行方向と逆方向の制振用目標制駆動力Fcf(制動力)が作用すると、同制駆動力Fcfによって車体Boを上向きに付勢する上下力Fzfが前輪10fの接地点を通る鉛直線上に発生する。前輪10f及び車体Boはサスペンション装置30fにより連結されているので、発生した上下力Fzfはサスペンション装置30fを介して車体Boに作用する。一方、後輪10rの接地点に車両1の進行方向と同方向の制振用目標制駆動力Fcr(駆動力)が作用すると、同制駆動力Fcrによって車体Boを上向きに付勢する上下力Fzrが後輪10rの接地点を通る鉛直線上に発生する。後輪10r及び車体Boはサスペンション装置30rにより連結されているので、発生した上下力Fzrはサスペンション装置30rを介して車体Boに作用する。
これらの場合、サスペンション装置30fの構成(ジオメトリ)により、前輪10f側において車体Boに働く上下力Fzfは、前輪10fにて発生させる制振用目標制駆動力Fcfにtan(θf)を乗算した値となる。加えて、後輪10r側において車体Boに働く上下力Fzrは、サスペンション装置30rの構成(ジオメトリ)により、後輪10rにて発生させる制振用目標制駆動力Fcrにtan(θr)を乗算した値となる。
これらの「上下力Fzf及び上下力Fzr」を、例えば、周知のスカイフック理論及び非線形H∞制御等に基づいて制御することにより、車両1の走行に伴って車体Boに発生する振動を抑制(制振)することができる。モータECU40は、通常、図2(a)及び(b)に示したように、制振用目標制駆動力Fcfと制振用目標制駆動力Fcrとをそれらの作用方向が逆向きとなるようにする。従って、制振用目標制駆動力Fcf及び制振用目標制駆動力Fcrは互いに相殺し合うので、車両前後方向の力は変化し難くなる。尚、制振用目標制駆動力Fcfと制振用目標制駆動力Fcrとが同一の大きさで且つそれらの作用方向が逆向きとなる場合、それらの合計値は「0」となるので、車両前後方向の力は変化しない。更に、モータECU40は、目標走行力Ftotalが発生するように、前輪10fに目標各輪制駆動力Fdfを発生させ、後輪10rに目標各輪制駆動力Fdrを発生させる。尚、目標各輪制駆動力Fdfと目標各輪制駆動力Fdrとの和は目標走行力Ftotalと等しい。この結果、モータECU40は、目標走行力Ftotalを作用させながら、車体Boを制振することができる。
尚、制振用目標制駆動力Fc(制振用目標駆動力Fc又は制振用目標回生制動力Fc)は、4輪のそれぞれに対する制振用目標制駆動力の総称である。このため、車輪10毎に制振用目標制駆動力を特定する場合には、左前輪については制振用目標制駆動力Fc1、右前輪については制振用目標制駆動力Fc2、左後輪については制振用目標制駆動力Fc3、右後輪については制振用目標制駆動力Fc4と称呼する。モータECU40は、制振用目標制駆動力Fc1、Fc2、Fc3及びFc4に各車輪10毎に予め定められるトルク変換比(比例定数)をそれぞれ乗じることにより、制振用目標制駆動力Fc1、Fc2、Fc3及びFc4を制振用目標トルクTc1、Tc2、Tc3及びTc4のそれぞれに変換する。尚、制振用目標トルクTc1、Tc2、Tc3及びTc4は、左前輪、右前輪、左後輪及び右後輪のそれぞれの制振用目標トルクである。加えて、制振用目標トルクTcは、制振用目標トルクTc1、Tc2、Tc3及びTc4として用いられる。更に、上下力Fzは、4輪のそれぞれに対する上下力の総称である。このため、車輪10毎に上下力を特定する場合には、左前輪については上下力Fz1、右前輪については上下力Fz2、左後輪については上下力Fz3、右後輪については上下力Fz4と称呼する。
更に、目標各輪制駆動力Fdと制振用目標制駆動力Fcとを合算した目標合力Ftは、4輪のそれぞれに対する目標合力の総称である。このため、車輪10毎に目標合力を特定する場合には、左前輪については目標合力Ft1、右前輪については目標合力Ft2、左後輪については目標合力Ft3、右後輪については目標合力Ft4と称呼する。更に、目標合力Ftに対応する目標合算トルクTtは、目標走行トルクTd及び制振用目標トルクTcの合算値である。この場合、目標合算トルクTtは、4輪のそれぞれに対する目標合算トルクの総称である。このため、車輪10毎に目標合算トルクを特定する場合には、左前輪については目標合算トルクTt1、右前輪については目標合算トルクTt2、左後輪については目標合算トルクTt3、右後輪については目標合算トルクTt4と称呼する。
本実施形態において、モータECU40はスカイフック制御に基づいて上下力Fzを制御することにより車体Boを制振する。以下、スカイフック制御に基づく上下力Fzの制御を説明する。
図3に示したような1自由度単輪モデルにおいて、スカイフック制御が実行されない場合、ばね下上下変位z1に対するばね上上下変位z2の比は下記式1で表される。尚、以下、図3に示した1自由度単輪モデルは「基本形」と称呼される場合がある。
ただし、前記式1中の「M」はばね上の質量を表し、前記式1中の「C」はサスペンション装置のショックアブソーバの減衰係数(正の値)を表し、前記式1中の「K」はサスペンション装置のサスペンションばねの弾性係数(正の値)を表す。尚、前記式1及び以下に示す各式における「s」はラプラス演算子を表す。
これに対し、図4に示したように、仮想的なスカイフックダンパを設けた単輪モデルにおいては、スカイフック制御が実行されるので、ばね下上下変位z1に対するばね上上下変位z2の比が下記式2で表される。
尚、前記式2中の「Csk」はスカイフックダンパに設定された減衰係数(正の値)を表す。前記式1及び前記式2を比較すると、スカイフックダンパを設けた場合、右辺分子は基本形の場合と同一であるが、右辺分母における減衰項(C+Csk)は基本形の減衰項(C)よりも大きくなる。このため、スカイフック制御は、分子におけるラプラス演算子の1次係数の大きさに対して分母におけるラプラス演算子の1次係数の大きさを大きくすることと言える。
ところで、実際のスカイフック制御においては、アクチュエータの応答遅れ及び通信遅れ等に起因する制御遅れが必ず存在する。従って、下記式3で表されるように、実際のスカイフック制御においては、スカイフックダンパに設定された減衰係数Cskに対して、例えば、1次遅れが乗算される。尚、以下、図4に示した1自由度単輪モデルにおいて1次遅れを乗算してスカイフック制御を行う場合は「従来制御」と称呼される。
尚、前記式3中の「tc」は遅れ時定数を表す。
図5に示したように、従来制御を実行してばね上(車体)の制振が行われた場合、基本形においてばね上共振が発生するばね上共振周波数付近では、ばね上上下加速度が低減されており、その結果、制振性能が向上している。しかし、ばね上共振周波数よりも高周波数域では、制御遅れの影響が大きくなる。その結果、ばね上上下加速度が低減されないので、図5にて破線により囲んで示したように、制振性能が基本形の場合よりも逆に悪化してしまうことが理解できる。
一般に、ばね上を制振する場合、サスペンション装置のショックアブソーバの減衰係数(減衰力)を低下させると、低周波の振動は増大するが高周波の振動は減少すると言われている。従って、前述した従来装置でも実施しているように、スカイフック制御を実行して、特に、ばね上共振周波数よりも高周波数域におけるばね上(車体)の制振を行う場合には、ショックアブソーバの減衰係数(減衰力)を低下させることが有効である。
ところで、前述したように、車両1に設けられたサスペンション装置30のショックアブソーバ31は、減衰係数Cが一定とされておりその変更が不可になっている。従って、モータECU40が、ショックアブソーバ31に予め設定されている減衰係数Cを直接的に変更すること、換言すれば、ショックアブソーバ31がストローク速度に応じて発生する実減衰力Faの大きさを直接的に低下させるように制御することは不可能である。
そこで、モータECU40は、前述したように制振用目標制駆動力Fcを制御することで発生する上下力Fzを用いて、等価的に(見かけ上)ショックアブソーバ31の実減衰力Faを低下させる。これにより、ばね上共振周波数付近の制振性能を悪化させることなく、且つ、ばね上共振周波数よりも高周波数域の制振性能を向上させることができる。
この場合、スカイフックダンパに設定される減衰係数Cskは、車体Boのばね上絶対速度に比例する第1上下力を発生させるための減衰係数Csk1と、サスペンション装置30のストローク速度に比例する第2上下力を発生させるための減衰係数Csk2と、の和である。減衰係数Csk2の大きさは、例えば、サスペンション装置30のショックアブソーバ31に設定された減衰係数Cの大きさよりも小さくなるように設定される。尚、減衰係数Csk1は第1制御定数であり、減衰係数Csk2は第2制御定数である。
ばね上絶対速度に比例する第1上下力(所謂スカイフック減衰力)は、ばね上である車体Boを制振するための力である。減衰係数Csk1を大きな値に設定すると、スカイフック減衰力は増加する。加えて、ストローク速度に比例する第2上下力(所謂アブソーバ減衰力)は、路面(ばね下(車輪10))からの入力に対して車体Boを制振するための減衰力である。減衰係数Csk2を大きな値に設定すると、アブソーバ減衰力は増加する。
モータECU40は、減衰係数Csk1を用いた下記式4に従い、図4に示したばね上上下変位z2を時間微分して算出されるばね上絶対速度(z2・s=Vh)に比例する第1上下力としてばね上制振上下力Fzs1を算出する。
モータECU40は、減衰係数Csk2を用いた下記式5に従い、ばね下上下変位z1とばね上上下変位z2との差を時間微分して算出されるサスペンション装置30のストローク速度((z1-z2)・s=Vs)に比例する第2上下力として減衰力低減上下力Fzs2を算出する。ばね下上下変位z1とばね上上下変位z2との差は、サスペンション装置30(ショックアブソーバ31)が伸縮する際のストローク量に相当する。
更に、モータECU40は、下記式6に従い、ばね上制振上下力Fzs1と減衰力低減上下力Fzs2と、を合算した目標上下力Fzdを算出する。
これにより、モータECU40は、前記式6により表される目標上下力Fzdを発生させるように、車輪10の制振用目標制駆動力Fcを決定する。この場合、モータECU40は、モータ20を力行制御又は回生制御する。尚、モータECU40が前記式6に従って制振用目標制駆動力Fcを制御すると、モータ20の作動応答遅れ及び通信遅れ等が発生する。この場合、実際にモータ20が発生する回転トルクを検討する場合には1次遅れ(1/(1+tc・s))を考慮する。
スカイフックダンパの減衰係数Cskが減衰係数Csk1及び減衰係数Csk2の和で表されるので、ばね下上下変位z1に対するばね上上下変位z2の比は、前記式3に基づく下記式7により表される。
前記式7において、スカイフック減衰力を決定する減衰係数Csk1が正の値であれば、分子のラプラス演算子の1次係数の大きさに対して分母のラプラス演算子の1次係数の大きさが大きくなるので、スカイフック制御により車体Boが制振される。しかし、正の値とした減衰係数Csk1には1次遅れ(1/(1+tc・s))が乗算されるので、高周波入力に対しては位相遅れが生じる。その結果、制振性能が悪化する可能性があるので、ショックアブソーバ31の実減衰力を低減させる必要がある。
ところで、サスペンション装置30のショックアブソーバ31が発生し車体Boに作用させる実減衰力Faを見かけ上低減させるためには、実減衰力Faに抗するように(実減衰力Faと反対の向きの力となるように)減衰力低減上下力Fzs2を発生させる必要がある。このため、減衰係数Csk2は、負の値(或いは、正の値に対して「−1」を乗算)に設定される。
これにより、ショックアブソーバ31がストローク速度Vsに減衰係数Cを乗じた実減衰力Faを発生している場合、ストローク速度Vsに負の値とされた減衰係数Csk2を乗じた上下力Fzs2、即ち、実減衰力Faに抗する力を作用させることができる。その結果、ショックアブソーバ31は、見かけ上、ストローク速度Vsに減衰係数(C−Csk2)を乗じた減衰力を発生させることになるので、ストローク速度Vsに減衰係数Cを乗じた実減衰力Faよりも小さな減衰力を車体Boに作用させることができる。従って、図6に示したように、減衰力一定のショックアブソーバ31であっても、破線により囲んで示したように、ばね上共振周波数よりも高周波数域における制振性能を改善して向上させることができる。
加えて、減衰係数Csk2を負の値とすることにより、前記式7の分母における1次遅れ(1/(1+tc・s))の係数が小さくなるので、制御遅れの影響を小さくすることができる。更に、減衰係数Csk2を負の値とすることにより、前記式7の分母におけるラプラス演算子の1次係数の大きさに対して前記式7の分子におけるラプラス演算子の1次係数の大きさが小さくなるので、スカイフック制御により車体Boが制振される。従って、実減衰力Faが一定のショックアブソーバ31でも、スカイフックダンパの減衰係数Csk2を、大きさがショックアブソーバ31の減衰係数Cの大きさよりも小さく且つ負の値とすることで、制御遅れが小さく且つ広い周波数域で制振性能を発揮することができる。
<具体的作動>
次に、モータECU40の具体的作動について説明する。モータECU40は、車体Boの振動をスカイフック制御に基づいて制振するために、図7に示すばね上制振制御プログラムを所定の短い時間間隔にて繰り返し実行する。モータECU40は、ステップS10にてばね上制振制御プログラムに実行を開始する。モータECU40は、続くステップS11にて、スカイフック制御に用いる速度であって、車体Bo側に発生するばね上関連速度を取得する。
モータECU40は、ばね上関連速度として、ばね上ヒーブ速度(ばね上上下絶対速度)、ばね上ロール角速度、ばね上ピッチ角速度、及び、ばね上ワープ速度(ばね上の前後の捩れ速度)を取得する。モータECU40は、運動状態検出装置55から左前輪10fl、右前輪10fr、左後輪10rl及び右後輪10rrの位置にて検出されたばね上の上下方向の加速度Gufl、Gufr、Gurl及びGurrを表す信号を入力する。モータECU40は、入力した信号により表される加速度Gufl、Gufr、Gurl及びGurrを時間積分し、左前輪10fl、右前輪10fr、左後輪10rl及び右後輪10rrの位置における車体Boのばね上上下絶対速度Vufl、Vufr、Vurl及びVurrを算出する。モータECU40は、車体Boの重心位置Cb(図2を参照)におけるばね上ヒーブ速度Vuhを、算出したばね上上下絶対速度Vufl、Vufr、Vurl及びVurrを用いた下記式8に従って算出する。
尚、以下において、車体Boの重心位置Cbは、車体Boの左端部と右端部との中心線と車体Boの前端部と後端部との中心線の交点である。
モータECU40は、運動状態検出装置55から車体Boに発生したばね上ロール角速度ωur及びばね上ピッチ角速度ωupを表す信号を入力する。これにより、モータECU40は、ばね上関連速度として、車体Boに発生したばね上ロール角速度ωur及びばね上ピッチ角速度ωupを取得する。
モータECU40は、前記算出したばね上上下絶対速度Vufl、Vufr、Vurl及びVurrを用いた下記式9に従い、車体Boの重心位置Cbにおけるばね上ワープ速度Vuwを算出する。これにより、モータECU40は、ばね上関連速度として、車体Boに発生したワープ速度Vuwを取得する。
モータECU40は、ばね上ヒーブ速度Vh、ばね上ロール角速度ωur、ばね上ピッチ角速度ωup及びばね上ワープ速度Vuwを取得すると、ステップS12を実行する。
ステップS12において、モータECU40は、スカイフック制御に用いる速度であって、車輪10及びモータ20側に発生するばね下関連速度を取得する。モータECU40は、ばね下関連速度として、ばね下ヒーブ速度(ばね下上下絶対速度)、ばね下ロール角速度、ばね下ピッチ角速度、及び、ばね下ワープ速度(ばね下の前後の捩れ速度)を取得する。モータECU40は、運動状態検出装置55から左前輪10fl、右前輪10fr、左後輪10rl及び右後輪10rrの位置にて検出されたばね下の上下方向の加速度Gdfl、Gdfr、Gdrl及びGdrrを表す信号を入力する。モータECU40は、入力した信号により表される加速度Gdfl、Gdfr、Gdrl及びGdrrを時間積分し、左前輪10fl、右前輪10fr、左後輪10rl及び右後輪10rrの位置におけるばね下上下絶対速度Vdfl、Vdfr、Vdrl及びVdrrを算出する。
モータECU40は、ばね下の重心位置Cd(図2を参照)におけるばね下ヒーブ速度Vdhを、算出したばね下上下絶対速度Vdfl、Vdfr、Vdrl及びVdrrを用いた下記式10に従って算出する。
尚、以下において、ばね下の重心位置Cdは、左前輪10flと右前輪10frとの中心線と前輪10fと後輪10rとの中心線の交点である。
モータECU40は、ばね下の重心位置Cdにおけるばね下ロール角速度ωdrを、算出したばね下上下絶対速度Vdfl、Vdfr、Vdrl及びVdrrを用いた下記式11に従って算出する。
但し、前記式11中の「tf」は図1に示したように左前輪10fl及び右前輪10fr間のトレッドを表し、「tr」は左後輪10rl及び右後輪10rr間のトレッドを表す。
モータECU40は、ばね下の重心位置Cdにおけるばね下ピッチ角速度ωdpを、算出したばね下上下絶対速度Vdfl、Vdfr、Vdrl及びVdrrを用いた下記式12に従って算出する。
但し、前記式12中の「L」は、図2(a)に示したように前輪10fの車軸と後輪10rの車軸との間のホイールベースを表す。
更に、モータECU40は、ばね下の重心位置Cdにおけるばね下ワープ速度Vdwを、算出したばね下上下絶対速度Vdfl、Vdfr、Vdrl及びVdrrを用いた下記式13に従って算出する。
モータECU40は、ばね下の重心位置Cdにおけるばね下ヒーブ速度Vdh、ばね下ロール角速度ωdr、ばね下ピッチ角速度ωdp及びばね下ワープ速度Vdwを取得すると、ステップS13を実行する。
ステップS13において、モータECU40は、前述したように、ばね上を制振するための減衰係数Cks1及びショックアブソーバ31の実減衰力Faを見かけ上低減するための減衰係数Csk2を用いて、各車輪10の位置にて発生させる目標上下力Fzdを算出する。この場合、減衰係数Csk2は、負の値(或いは、正の値に「−1」を乗算した負の値)に設定される。以下、目標上下力Fzdの算出を詳細に説明する。
モータECU40は、下記式14に従い、ばね上上下絶対速度Vhである、前述したばね上ヒーブ速度Vuh、ばね上ロール角速度ωur、ばね上ピッチ角速度ωup及びばね上ワープ速度Vuwに減衰係数Cks1を乗ずる。これにより、モータECU40は、車体Boの各運動(ヒーブ、ロール、ピッチ及びワープ)による振動を減衰するための目標ばね上制振上下力Fzs1_h、Fzs1_r、Fzs1_p及びFzs1_wを算出する。
モータECU40は、算出した目標ばね上制振上下力Fzs1_h、Fzs1_r、Fzs1_p及びFzs1_wをそれぞれ実現するように、即ち、下記式15に示した連立方程式を成立させるように、各車輪10の位置にて発生させる各輪目標上下力Fzd1_c、Fzd2_c、Fzd3_c及びFzd4_cを決定する。
更に、モータECU40は、サスペンション装置30のストローク速度Vsを算出する。具体的に、モータECU40は、下記式16に従い、ばね下ヒーブ速度Vdhからばね上ヒーブ速度Vuhを減じてヒーブストローク速度Vshを算出し、ばね下ロール角速度ωdrからばね上ロール角速度ωurを減じてロールストローク速度Vsrを算出する。加えて、モータECU40は、下記式16に従い、ばね下ピッチ角速度ωdpからばね上ピッチ角速度ωupを減じてピッチストローク速度Vspを算出し、ばね下ワープ速度Vdwからばね上ワープ速度Vuwを減じてワープストローク速度Vswを算出する。
続いて、モータECU40は、下記式17に従い、算出したヒーブストローク速度Vsh、ロールストローク速度Vsr、ピッチストローク速度Vsp及びワープストローク速度Vswに負の値とされた減衰係数Cks2を乗ずる。これにより、モータECU40は、サスペンション装置30のショックアブソーバ31による実減衰力Faを見かけ上低減するための目標減衰力低減上下力Fzs2_h、Fzs2_r、Fzs2_p及びFzs2_wを算出する。
モータECU40は、算出した目標減衰力低減上下力Fzs2_h、Fzs2_r、Fzs2_p及びFzs2_wをそれぞれ実現するように、即ち、下記式18に示した連立方程式を成立させるように、各車輪10位置にて発生させる各輪目標上下力Fzd1_a、Fzd2_a、Fzd3_a及びFzd4_aを決定する。
モータECU40は、前記式15を成立させる各輪目標上下力Fzd1_c、Fzd_c、Fzd3_c及びFzd4_cと、前記式18を成立させる各輪目標上下力Fzd1_a、Fzd2_a、Fzd3_a及びFzd4_aと、を下記式19に従ってそれぞれ加算する。これにより、モータECU40は、各車輪10の目標上下力Fzd1、Fzd2、Fzd3及びFzd4を算出する。
モータECU40は、各車輪10の目標上下力Fzd1、Fzd2、Fzd3及びFzd4を算出すると、ステップS14を実行する。
ステップS14において、モータECU40は、前記ステップS13にて算出した目標上下力Fzd1、Fzd2、Fzd3及びFzd4を発生させるために、下記式20に従い、各車輪10にて発生すべき制振用目標制駆動力Fc1、Fc2、Fc3及びFc4を算出する。
但し、前記式20におけるθfは前輪10f側の瞬間回転角θfであり、前記式20におけるθrは後輪10r側の瞬間回転角θrである。
モータECU40は、制振用目標制駆動力Fc1、Fc2、Fc3及びFc4を算出すると、制振用目標制駆動力Fc1、Fc2、Fc3及びFc4に各車輪10毎に予め定められるトルク変換比(比例定数)をそれぞれ乗じる。これにより、制振用目標制駆動力Fc1、Fc2、Fc3及びFc4を制振用目標トルクTc1、Tc2、Tc3及びTc4に変換する。
モータECU40は、制振用目標トルクTc1、Tc2、Tc3及びTc4を算出すると、ステップS15に進み、ばね上制振制御プログラムの実行を一旦終了する。モータECU40は、所定の短い時間の経過後、再び、ステップS10にて同プログラムの実行を開始する。
モータECU40は、図示しないルーチンを実行して、制振用目標トルクTc1、Tc2、Tc3及びTc4を発生するように(制振用目標トルクTc1、Tc2、Tc3及びTc4に対応する目標電流がモータ20に流れるように)モータドライバ25を制御する。尚、モータECU40は、左前輪10flに目標各輪制駆動力Fd1を発生させ、右前輪10frに目標各輪制駆動力Fd2を発生させ、左後輪10rlに目標各輪制駆動力Fd3を発生させ、右後輪10rrに目標各輪制駆動力Fd4を発生させる。これにより、モータECU40は、目標走行力Ftotalを発生させながら、スカイフック制御により車体Boの制振も制御することができる。
以上の説明からも理解できるように、上記実施形態によれば、モータECU40は、目標ばね上制振上下力Fzs1及び目標減衰力低減上下力Fzs2の和に一致する目標上下力Fzdを発生させることができる。この場合、目標減衰力低減上下力Fzs2は、負の値に設定される減衰係数Csk2を用いて決定される。これにより、減衰力一定のショックアブソーバ31を用いた場合であっても、モータECU40が目標減衰力低減上下力Fzs2を発生させることにより、ショックアブソーバ31の実減衰力Faを見かけ上低減させることができる。その結果、スカイフック制御により車体Boの振動をばね上共振周波数よりも高周波数域まで制振することができる。加えて、1次遅れの影響を小さくすることができ、その結果、良好な応答性により車体Boの振動を制振することができる。
本発明は、上記実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変更例を採用することができる。
例えば、上記実施形態では、ヒーブ、ロール、ピッチ及びワープの各運動に対応して、重心位置(Cb、Cd)におけるヒーブ速度(Vuh、Vdh)、ロール角速度(ωur、ωdr)、ピッチ角速度(ωur、ωdr)及びワープ速度(Vuw、Vdw)を算出するようにした。ところで、モータECU40は、各車輪10の位置における、ばね上上下絶対速度Vufl、Vufr、Vurl及びVurrと、ばね下上下絶対速度Vdfl、Vdfr、Vdrl及びVdrrと、をそれぞれ算出することができる。従って、モータECU40は、ばね上上下速度Vufl、Vufr、Vurl及びVurrを用いて車輪10毎に目標ばね上制振上下力Fzs1を決定することができる。加えて、モータECU40は、ばね下上下速度Vdfl、Vdfr、Vdrl及びVdrr及びばね上上下速度Vufl、Vufr、Vurl及びVurrの差分を用いて車輪10毎に目標減衰力低減上下力Fzs2を決定することができる。
上記実施形態では、ストローク速度Vsをばね下上下絶対速度(z1・s)とばね上上下絶対速度(z1・s)の差分((z1-z2)・s)として算出した。この場合、運動状態検出装置55がサスペンション装置30のストローク量を検出することができるので、ストローク量を時間微分してストローク速度を算出するようにすることも可能である。更には、算出したストローク速度からばね上上下絶対速度を算出することも可能である。
上記実施形態では、左前輪10fl、右前輪10fr、左後輪10rl及び右後輪10rrの全4輪のそれぞれにモータ20fl、20fr、20rl及び20rrが備えられた。これに対して、左前輪10fl及び右前輪10frの前2輪のそれぞれにモータ20fl及び20frを備える、或いは、左後輪10rl及び右後輪10rrの後2輪にモータ20rl及び20rrを備えることも可能である。
更に、上記実施形態では、モータECU40が各モータ20を力行制御又は回生制御することにより、目標上下力Fzdを発生するようにした。この場合、サスペンション装置30が、上下方向に力を発生させることができるアクティブサスペンション装置であっても良い。前述したように、スカイフックダンパにおける減衰係数Csk2を負の値とすることにより1次遅れの影響を小さくすることができ、その結果、応答性を改善してばね上の振動を制振することができる。従って、サスペンション装置30がアクティブサスペンション装置である場合には、応答遅れの影響を小さくしてばね上の振動を制振することができる。