以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
ここでは、印刷機の版締め装置にかかる第1〜第5の5つの実施形態を説明する。
なお、以下に示す各実施形態はあくまでも例示に過ぎず、以下の実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。以下の実施形態の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができるとともに、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせることが可能である。
各実施形態にかかる印刷機は、例えば新聞用オフセット輪転機のような、版胴に装着する刷版を適宜交換しながら印刷を行なうオフセット輪転印刷機である。また、版胴には、有効周長が印刷物の1頁の縦の長さに設定された、いわゆる1頁周長の単胴と、有効周長が印刷物の2頁の縦の長さに設定された、いわゆる2頁周長の倍胴とがあり、本発明の印刷機の版締め装置は何れの版胴にも適用できるが、各実施形態では、版胴が単胴であるものとして説明する。
〔第1実施形態〕
まず、第1実施形態を説明する。
(版胴の構成)
本実施形態にかかる版胴1は、図2に示すように、回転可能な円筒状の外周面を有しており、この外周面上には軸方向に向かって延びる胴溝(取付け溝)3が形成されている。なお、版胴1は、1頁周長の単胴であり、胴溝3は、軸方向の各刷版装着エリアにおいて周方向には1本ずつ形成されている。版胴1が2頁周長の倍胴の場合は、胴溝3は、軸方向の各刷版装着エリアにおいて周方向に位相をずらして2本形成される。ここでは、版胴1は、軸方向に所定の幅Wの刷版2を取付け可能な4つの刷版装着エリア1A,1B,1C,1Dを有している(図2参照)。なお、各刷版装着エリア1A〜1Dの胴溝3が周方向の位相をずらした位置に形成される場合もある。
(版締め装置の構成)
したがって、胴溝3内には、各刷版装着エリア1A,1B,1C,1D毎に、図4に示すように、個別に回転可能なテンションバー5A,5B,5C,5D(個々に区別しない場合は符号5で示す)がそれぞれ装備される。そして、各テンションバー5A,5B,5C,5Dをそれぞれ個別に操作するために、図3に示すように、各テンションバー5毎に版締め装置10A,10B,10C,10D(個々に区別しない場合は符号10で示す)が備えられる。
詳細は図示しないが、軸方向端部寄りの刷版装着エリア1A,1Dに装備されるテンションバー5A,5Dは中空軸で構成され、軸方向中央寄りの刷版装着エリア1B,1Cのテンションバー5B,5Cの軸方向端部寄りには、テンションバー5A,5Dの中空内部を貫通して、テンションバー5A,5Dの外端部よりも外方へ突出している。
このため、テンションバー5Aの版締め装置10Aは、刷版装着エリア1Aの軸端側に隣接して設けられ、テンションバー5Bの版締め装置10Bは、版締め装置10Aの外方に隣接して設けられる。また、テンションバー5Dの版締め装置10Dは、刷版装着エリア1Dの軸端側に隣接して設けられ、テンションバー5Cの版締め装置10Cは、版締め装置10Dの外方に隣接して設けられる。
図5に示すように、背景技術のものと同様に、胴溝3の開口部の周方向の一縁及び他縁には、何れもエッジ部分が鋭角に尖った咥え部1a及び咥え尻部1bが軸方向に沿って延びるように形成される。版胴1の咥え部1aの内側(軸心寄り)には、これに隣接して軸方向に延びる係止面1cが形成され、刷版2の前端側に屈曲して形成された咥え側端部2aは、屈曲箇所を咥え部1aに当接され、屈屈曲箇所よりも先の部分を係止面1cに係止される。また、刷版2の後端側に屈曲して形成された咥え尻側端部2bは、屈曲箇所を咥え尻部1bに当接され、屈曲箇所よりも先のカギ型部分を胴溝3の内部のテンションバー5に係止される。なお、係止面1cについては、刷版2の咥え側端部2aを係止できる構造であればよく、本構造には限定されない。
各テンションバー5は、胴溝3の内部に形成され軸方向に向かって延びる軸装着用穴部4内に回転可能に装備されている。テンションバー5の外周には、版押さえ爪(係止手段としての係止爪)5aが突出するように固設され、この版押さえ爪5aにより刷版2の咥え尻側端部2bのカギ型部分が係止される。テンションバー5は、後述のバネ機構20Aによって、図5中に矢印で示す所定の回転方向、つまり、版押さえ爪5aが咥え尻側端部2bを引っ張って版胴1の外周面に刷版2を締め付ける回転方向に付勢されている。なお、版押さえ爪(係止爪)5aは刷版2の咥え尻側端部2bを係止できるもの(係止手段)であればよく、爪状のものに限らない。
以下、版締め装置10について説明するが、版締め装置10A,10Bは互いに左右対称に構成され、版締め装置10D,10Cは版締め装置10A,10Bに対して左右対称に構成され、各版締め装置10A〜10Dは実質的に同様に構成されるので、図3において最も左寄りの版締め装置10Bに着目して説明する。
図1に示すように、版締め装置10は、背景技術のものと同様に、胴溝3,テンションバー5及びバネ機構20Aと、バネ機構20Aの弾性力によって咥え尻側端部2bに引張力を作用させ版胴1の外周面に刷版2を巻き締めする(巻き付けて締め付ける)版締め状態と、バネ機構20Aの弾性力を解除して刷版2の巻き締めを解放する解放状態とに切り替える切替機構30Aとを備える。
切替機構30Aにより、版締め装置10を版締め状態に設定すれば、テンションバー5が所定の回転方向に付勢され、テンションバー5の版押さえ爪5aが刷版2の咥え尻側端部2bを引っ張って刷版2を版胴1の外周面に締め付ける。一方、版締め装置10を解放状態に設定すれば、咥え尻側端部2bが版押さえ爪5aから離脱可能になって刷版2を版胴1から取り外すことが可能になる。
版胴1の端部には外周を切り欠かれて取付面部6が形成され、この取付面部6に隣接するテンションバー5の一端には、テンションバー5と一体回転するレバー(レバー部材)7が固設されている。取付面部6にはバネ支持部材22が固設され、レバー7の一端にもバネ支持部材23が装備される。バネ機構20Aは、このレバー7の一端のバネ支持部材23と取付面部6のバネ支持部材22との間に圧縮状態で介装されたコイルバネ(主バネ)21を備えている。なお、図1(b),(c)に示すように、レバー7は、具体的には、軸端側の版締め装置10Bのレバー7Bとこれに隣接する版締め装置10Aのレバー7Aとがありこれらは形状が異なるが、これらを区別しない場合にはレバー7と称して説明する。
レバー7のバネ支持部材23にはガイド軸21aが枢着されており、取付面部6のバネ支持部材22にはガイド穴22aが穿設されており、ガイド軸21aはその下部をガイド穴22a挿入されて備えられる。コイルバネ21は、ガイド軸21aの外周に装備され、テンションバー5の回転に伴ってガイド穴22a内を進退するガイド軸21aに沿って伸縮する。このコイルバネ21の伸長方向に働く弾性力によって、テンションバー5が図5に矢印で示すように所定の回転方向(刷版2を版締めする方向)に付勢される。
取付面部6上には、操作レバー33を支持する支持部材38が固設され、切替機構30Aは、テンションバー5のレバー7と、レバー7に固設されたアーム部材31と、支持部材38に支持軸32により揺動可能に支持された操作レバー33とを備えている。操作レバー33は、先端部に操作用の取っ手部34を有し、中間部にアーム部材31が貫入する溝部35を有する。溝部35の支持軸32側の内壁には、操作レバー33の長手方向軸心に対して互いに異なる方向に傾斜した第一当接面35a及び第二当接面35bが設けられる。さらに、溝部35の取っ手部34側の内壁には、第三当接面35cが設けられる。
アーム部材31はレバー7と共にコイルバネ21によって所定の回転方向に付勢されているため、アーム部材31の一面(版締めする回転方向側の面)が第一当接面35a又は第二当接面35bに当接するとコイルバネ21による付勢力を第一当接面35a又は第二当接面35bに付与する。このときのアーム部材31の操作レバー33(即ち、第一当接面35a又は第二当接面35b)との接触点における接触面の方向(操作レバー33に付勢力を付与する方向)と、操作レバー33の回転中心(支持軸32の軸心)との位置関係から、操作レバー33が版締め側に傾斜してアーム部材31が第一当接面35aに当接すると、アーム部材31の作用力により操作レバー33に傾斜方向(刷版2を版締めする方向)への回転モーメントが発生する。一方、操作レバー33が版解放側へ起立してアーム部材31が第二当接面35bに当接すると、アーム部材31の作用力により操作レバー33に起立方向(刷版2を解放する方向)への回転モーメントが発生する。
なお、操作レバー33を起立状態から図1に示す倒伏状態へと旋回操作していくと、アーム部材31が操作レバー33の第三当接面35cに当接するようになり、支持軸32と第三当接面35cとの位置関係から、アーム部材31を介して加えられるバネ機構20Aの弾性力が、操作レバー33を倒伏側に旋回するように押圧する。この操作レバー33の旋回は操作レバー33が支持部材38のストッパ面38aに当接することで規制される。ただし、刷版2を版胴1に締め付けている場合には、版締め装置10による締め付け力に対する刷版2の反力が働くため、通常は、操作レバー33がストッパ面38aに当接する前に操作レバー33の旋回は停止する。
そして、本版締め装置10に特徴的な構成であるが、図6に示すように、版胴1の回転に伴ってテンションバー5及びテンションバー5と一体回転する部材であるレバー7からなるテンションバー回転系5Sに生じる遠心力Fcがテンションバー5に対して版締め方向に向けて作用するように、テンションバー回転系5Sの重心(横断面上における重心)C4がテンションバー5の回転中心C1に対して所定の偏心位置に設定されている。
具体的には、テンションバー5が刷版2を版胴1に巻き締めするテンションバー5の版締め状態において、テンションバー5と一体回転するレバー7の重心(横断面上における重心)C3と、テンションバー5自体の重心(横断面上における重心)C2とが、テンションバー回転系5Sの重心C4を所定の偏心位置に操作するように各位置は設定されている。
テンションバー回転系5Sに生じる遠心力Fcをテンションバー5に対して版締め方向に向けて作用させるためには、図6に示すように、テンションバー回転系5Sの重心C4が、版胴1の回転中心C0とテンションバー5の回転中心C1とを結ぶ面(基準面)L1に対して版締め方向a1と逆方向(即ち、版を解放する解放方向)a2の側に位置していればよい。なお基準面L1は、図6に示す直線が紙面と直交する方向に延びた平面である。
つまり、テンションバー回転系5Sには、版胴1の回転に伴って遠心力Fcが発生するが、この遠心力Fcの位置によって、テンションバー5を図6中の時計回り(即ち、版締め方向)に回転させる力になったり、図6中の反時計回り(解放方向)に回転させる力になったりする。テンションバー5を版締め方向(図6中の時計回り)に作用させるには、テンションバー回転系5Sの重心C4が基準面L1に対して解放方向a2の側に位置していればよい。
また、テンションバー回転系5Sの重心C4が基準面L1に対して離隔しているほど、版胴1の回転中心C0に対するテンションバー回転系5Sの質点(重心C4)の半径成分が大きくなるので、遠心力Fcも大きくなり、テンションバー5を版締め方向に回転させる力も大きくなる。
本実施形態では、テンションバー5及びレバー7からなるテンションバー回転系5Sの重心C4を基準面L1に対して解放方向の側に離隔させるために、テンションバー5自体の重心C2を基準面L1に対して解放方向の側に離隔させると共に、レバー7の重心C3を基準面L1に対して解放方向の側に離隔させているのである。
テンションバー5については、一般的なテンションバー205(図18,図19参照)に対して、図4,図5に示すように、テンションバー5が刷版2を版胴1に巻き締めするテンションバー5の版締め状態において、テンションバー5の基準面L1に対して版締め方向a1の側の部分に、切欠き5bが形成されたものになっている。本実施形態では、テンションバー5の軸方向中央部を除いて、軸方向に延びる切欠部5bが2本形成されている。
これらの切欠部5bの形成によって、テンションバー5の重心C2はテンションバー5の回転中心C1に対して基準面L1よりも解放方向の側に偏心した位置に偏移されている。切欠部5bを大きく形成すればテンションバー5の重心C2は基準面L1に対して解放方向の側に大きく離隔し、遠心力Fcも大きくなるが、テンションバー5に必要な剛性を確保できる範囲で切欠部5bの大きさを確保している。なお、切欠き5bの形成箇所は、その主部が基準面L1に対して版締め方向a1の側に位置していればよく、その全てが基準面L1に対して版締め方向a1の側に位置する必要はない。
レバー7については、図1(a)〜(c)に示すように、一般的なレバー207(図19参照)に相当する基本構造部71に肉盛部72aが付加された構造になっている。なお、一般的なレバー207、即ち、基本構造部71は、テンションバー5の外径に沿うように略円環状に形成されテンションバー5に結合される環状基部7aと、この環状基部7aから外方へ突出して形成されたレバー部7b,7cとから構成される。
レバー部7bはバネ支持部材23を取り付けるためのもので、レバー部7cはアーム部材31を取り付けるためのものである。レバー部7b,7c以外は環状基部7aから外方への突出が抑えられ、基本構造部71の重心はテンションバー5の回転中心C1と略同位置に設定されている。
これに対して、肉盛部72aは、図1(c)に斜線を付して示すように、バネ支持部材23を取り付けるレバー部7bから膨出するように形成されている。この肉盛部72aは、テンションバー5の基準面L1に対して解放方向a2の側に形成されている。ここでは、膨出可能な空間形状の相違から、軸端側の版締め装置10Bのレバー7Bとこれに隣接する版締め装置10Aのレバー7Aとで肉盛部72aが異なる形状に形成されている。
レバー7A,7Bの各肉盛部72aは何れも、基準面L1に対して解放方向a2の側において、テンションバー5の回転中心C1から離隔する方向に膨出形成されている。また、各肉盛部72aは何れも基本構造部71に対してテンションバー5の軸方向にも膨出形成される。レバー7A,7Bは互いに近接しているため、各肉盛部72aのテンションバー5の軸方向への膨出は互いに離隔する側に形成され、軸端側のレバー7Bは、レバー7Aに比べて軸方向へ膨出可能な空間が大きいため、レバー7Bの肉盛部72aは、レバー7Aの肉盛部72aよりも軸方向へ大きく膨出形成されている。
この肉盛部72aの形成によって、レバー7の重心C3はテンションバー5の回転中心C1に対して基準面L1よりも解放方向の側に偏心した位置に偏移されている。肉盛部72aを大きく形成すればレバー7の重心C3は基準面L1に対して解放方向の側に大きく離隔し、遠心力Fcも大きくなるが、上述のように肉盛部72aを膨出可能な空間が限られるので、他部材との干渉のおそれがない範囲で肉盛部72aを大きく形成している。
このように、本実施形態では、テンションバー5と一体回転するレバー7の重心C3と、テンションバー5自体の重心C2とを、何れもテンションバー5の回転中心C1に対して基準面L1よりも解放方向の側に偏心した位置に偏移させることにより、テンションバー回転系5Sの重心C4をテンションバー5の回転中心C1に対して所定の偏心位置に偏移させている。
(版締め装置の作用及び効果)
本実施形態にかかる版締め装置は、上述のように構成されるので、版胴1の外周の胴溝3に、刷版2の咥え側端部2a及び咥え尻側端部2bを挿入し、咥え尻側端部2bをテンションバー5の係止爪5aに係止させてテンションバー5を版締め状態として、刷版2を版胴1に取り付けて、印刷機を作動させて版胴2を回転作動させると、図6に示すように版胴2の回転に伴ってテンションバー回転系5Sに生じる遠心力Fcがテンションバー5に対して版締め方向に向けて作用する。
つまり、テンションバー回転系5Sの重心C4はテンションバー5の回転中心C1に対して所定の偏心位置、即ち、テンションバー5の回転中心C1に対して基準面L1よりも解放方向の側に偏心した位置に偏移されているので、テンションバー回転系5Sに生じる遠心力Fcはテンションバー5に対して版締め方向a1に向けて作用する。
この遠心力Fcにより版胴1の回転作動時の刷版2の版締め力が増強されるため、版胴1の停止時における刷版2の版締め力を増強することなく、要求される刷版2の版締め力を確保することが可能になる。したがって、版胴1の停止時における刷版2の版締め力を低く抑えることが可能になるため、版締め装置10の版締め状態と開放状態との切替操作を、工具を用いることなく且つ操作者に大きな操作負担を強いることなく行なうことができるようになる。
図7は計算により得られた遠心力Fcによる版締め力の増強状態を示すグラフであり、横軸は印刷機の運転速度(即ち、版胴1の回転速度)を示し、縦軸は遠心力Fcにより係止爪5aの先端に作用する力(版締め力)を示す。ここでは、比較的膨出部の大きい肉盛部72aを有するレバー7Bを想定して計算を実施している。
また、図7において、曲線Laはバネ機構20Aのバネ力を基準状態とし、切欠部5bを備えない一般的なテンションバー205(図18,図19参照)と、肉盛部72aを備えない一般的なレバー207(図19参照)とを用いた場合を示す。曲線Lbはバネ機構20Aのバネ力を基準状態の2倍とし、一般的なテンションバー205と一般的なレバー207とを用いた場合を示す。
曲線La,Lbに示すように、一般的なテンションバー205と一般的なレバー207とを用いた場合、即ち、テンションバー回転系5Sの重心C4がテンションバー5の回転中心C1とほぼ一致する場合、運転速度の増大に応じて版締め力は微小に減少している。これは、テンションバー回転系5Sの遠心力は版締め力の増加には寄与せずに、むしろ、この遠心力がテンションバー5の外周の摩擦抵抗を増大し、テンションバー5の版締め側への回転の妨げになるものと考えられる。したがって、要求される版締め力が大きくなれば、バネ機構20Aのバネ力自体を大きくしなければならず、版締め装置の版締め状態と開放状態との切替操作を、工具を用いないで行なうには、操作者に大きな操作負担を強いることになる。
一方、図7において、曲線Lcはバネ機構20Aのバネ力を基準状態とし、切欠部5bを備えたテンションバー5と一般的なレバー207とを用いた場合を示す。曲線Ldはバネ機構20Aのバネ力を基準状態とし、一般的なテンションバー205と肉盛部72aを備えたレバー7とを用いた場合を示す。曲線Leはバネ機構20Aのバネ力を基準状態とし、切欠部5bを備えたテンションバー5と肉盛部72aを備えたレバー7とを用いた場合を示す。
曲線Lc,Ld,Leに示すように、切欠部5bを備えたテンションバー5と肉盛部72aを備えたレバー7との何れか又は両方を用いた場合、即ち、テンションバー回転系5Sの重心C4がテンションバー5の回転中心C1に対して所定の偏心位置(テンションバー5の回転中心C1に対して基準面L1よりも解放方向の側に偏心した位置)に偏移されていると、テンションバー回転系5Sに生じる遠心力Fcはテンションバー5に対して版締め方向a1に向けて作用するため、運転速度の増大に応じて遠心力Fcが増大すると、版締め力も運転速度の二乗のかたちで次第に増大する。したがって、特に高速運転時ほど大きく要求される版締め力を、バネ機構20Aのバネ力自体を大きくすることなく得ることができ、版締め装置の版締め状態と開放状態との切替操作を、工具を用いることなく且つ操作者に大きな操作負担を強いることもない。
テンションバー回転系5Sの重心C4がテンションバー5の回転中心C1に対して基準面L1よりも解放方向の側に大きく偏心するほど遠心力Fcは大きくなり、曲線Leに示すように、切欠部5bを備えたテンションバー5と肉盛部72aを備えたレバー7とを何れも用いれば、運転速度の増大に応じて版締め力も大幅に増大する。こうして、印刷機の運転時における版締め力を大幅に増大することができれば、バネ機構20Aのバネ力自体を小さくして、工具を用いずに前記切替操作を行なう際の操作者の操作負担をより軽減することもできる。
なお、本実施形態では、図1(c)に示すように、相対的に膨出部の大きい肉盛部72aを有するレバー7Bと、相対的に膨出部の小さい肉盛部72aを有するレバー7Aとを備えている。レバー7Bの方がレバー7Aよりも肉盛部72aの重量が大きく、しかも、レバー7の重心C3を基準面L1に対して解放方向の側に大きく離隔させることができる。
このため、レバー7Bを備えたテンションバー回転系5Sの重心C4も基準面L1に対して解放方向の側に大きく離隔させることができ、テンションバー回転系5Sに生じる遠心力Fcを強めて、テンションバー5に対して版締め方向a1に向けて作用する力を強めることができる。
一方、レバー7Aを備えたテンションバー回転系5Sの重心C4はこれに比べて、テンションバー回転系5Sに生じる遠心力Fcは相対的に弱く、テンションバー5に対して版締め方向a1に向けて作用する力も弱い。しかし、各テンションバー5に要求される版締め力は、基本的には一様であり、この観点からは、テンションバー回転系5Sに生じる遠心力Fcを各テンションバー5で均一にして、遠心力Fcが、版締め方向に所定の大きさの力で作用するように、テンションバー回転系5Sの重心C4の偏心位置を設定することが好ましい。
本実施形態では、テンションバー回転系5Sの重心C4を、レバー7の肉盛部72aと、テンションバー5の切欠部5bとによって、基準面L1に対して解放方向の側に離隔させているので、レバー7Aを備えたテンションバー回転系5Sについては、レバー7Bを備えたテンションバー回転系5Sよりも切欠部5bを大きく形成するなど形状を変えたり、配置を変えたりすることにより、テンションバー回転系5Sに生じる遠心力Fcを各テンションバー5で均一にすることができる。
〔第2実施形態〕
次に、第2実施形態を説明する。
本実施形態も、版胴1の構成は第1実施形態と同様である。また、本実施形態も、版締め装置11が各テンションバー5毎に備えられる。
(版締め装置の構成)
第1実施形態の版締め装置10が切欠部5bを備えたテンションバー5と肉盛部72aを備えたレバー7とを何れも用いているのに対して、本実施形態の版締め装置11は、図8(a),(b)に示すように、第1実施形態と同様に切欠部5bを備えたテンションバー5を用いているが、レバー部材については、肉盛部72aを備えない一般的なレバー207(図19参照)に相当する基本構造部71のみからなるレバー7Cが用いられている。このレバー7Cは隣接する2つの版締め装置11A,11Bで、対称の同形に形成されている。なお、本実施形態ではバネ支持部材22の形状が第1実施形態のものと異なっているがこれは実質的な差異ではない。
(版締め装置の作用及び効果)
本実施形態の版締め装置11は、テンションバー5に切欠部5bが形成され、テンションバー5の重心C2がテンションバー5の回転中心C1に対して基準面L1よりも解放方向の側に偏心した位置に偏移されているので、テンションバー回転系5Sの重心C4はテンションバー5の回転中心C1に対して所定の偏心位置、即ち、テンションバー5の回転中心C1に対して基準面L1よりも解放方向の側に偏心した位置に偏移されている。
これにより、テンションバー回転系5Sに生じる遠心力Fcはテンションバー5に対して版締め方向a1に向けて作用する。この遠心力Fcにより版胴1の回転作動時の刷版2の版締め力が増強されるため、版胴1の停止時における刷版2の版締め力を増強することなく、要求される刷版2の版締め力を確保することが可能になる。このため、第1実施形態と同様に、版胴1の停止時における刷版2の版締め力を低く抑えることが可能になるため、版締め装置11の版締め状態と開放状態との切替操作を、工具を用いることなく且つ操作者に大きな操作負担を強いることなく行なうことができるようになる。なお、図7においては、曲線Lcが本実施形態に相当する。
〔第3実施形態〕
次に、第3実施形態を説明する。
本実施形態も、版胴1の構成は第1,2実施形態と同様である。また、本実施形態も、版締め装置12が各テンションバー5毎に備えられる。
(版締め装置の構成)
本実施形態の版締め装置12は、第2実施形態のものに、操作レバー133を、バネ機構20Bの付勢力に抗して版締め位置から解放位置へ操作する際に2つの操作(即ち、ツーアクション)により段階的に操作するための構成が切替機構30Bに付加されている。
つまり、図9(a),(b)に示すように、版締め装置12は、第2実施形態と同様に、切欠部5bを備えたテンションバー5を用いると共に、肉盛部72aを備えない一般的なレバー207(図19参照)に相当する基本構造部71のみからなるレバー7Cを用いている。これに加えて、本実施形態の版締め装置12は、アーム部材131及び操作レバー133に、上記ツーアクションにより段階的に操作するための特有の構成が備えられている。
本実施形態の操作レバー133は、支持軸132が貫入する長穴136を備えており、通常は、支持軸132が長穴136内の一端側に位置した状態で揺動する。操作レバー133は、図9(a)に示す倒伏状態においてテンションバー5を版締め状態とするが、操作レバー133をこの倒伏状態から矢印A1で示す方向(解放方向)に揺動させ起立させていくと、テンションバー5の版押さえ爪5aが刷版2の咥え尻側端部2bのカギ型部分から離脱させることが可能な解放状態となる。
操作レバー133及び支持部材138には、ロック爪137a及び係合面137bからなるロック機構137が設けられる。つまり、操作レバー133の倒伏方向の側部にはロック爪137aが形成され、支持部材138にはロック爪137aが係合可能な係合面137bが形成されている。図9(a)に示すように、操作レバー133を、テンションバー5を版締め状態とする版締め位置に応じた揺動角度の倒伏状態にして、操作レバー133を、支持軸132が長穴136内の他端側に位置するようにスライドさせることにより、ロック爪137aが係合面137bと係合するように、ロック爪137a及び係合面137bが配置されている。
なお、操作レバー133を旋回操作する際には、取っ手部134に力を加えて行なうので、取っ手部134は旋回操作部として機能する。また、ロック機構137の作動(ロック爪137aの係合面137bへの係合)及び解除(ロック爪137aの係合面137bからの離脱)にかかるスライド操作も、取っ手部134に力を加えて行なうので、取っ手部134はロック作動操作部及びロック解除操作部としても機能する。より狭義に規定すれば、取っ手部134の4面のうち旋回方向の2面は旋回操作部として機能し、支持軸132側の面はロック作動操作部として機能し、支持軸132側の面(後述の、第三当接面135cと同一面)と反対側の面はロック解除操作部として機能する。
また、本実施形態アーム部材131は板バネによって構成されている。この板バネの弾性力は、バネ機構20Bのコイルバネ21の弾性力をアシストするように作用し、本実施形態では、コイルバネ21と板バネ製のアーム部材131とからバネ機構20Bが構成されている。
このように、バネ機構20Bをコイルバネ21と板バネ製のアーム部材131とから構成することにより、操作レバー133を版締め位置から解放位置へ操作する際に、アーム部材131の弾性力を解放してその復元力によって操作レバー133を版締め位置から解放位置の側(中間位置)に僅かに移動させる操作と、コイルバネ21の弾性力に抗して操作レバー133を中間位置から解放位置まで移動させる操作との2つの操作(ツーアクション)により段階的に操作するように構成されている。
板バネ製のアーム部材131は、基端部をボルト131aの締結によりレバー7Cに固定され、先端部を操作レバー133の溝部135内に挿入されている。板バネ131は、先端部が溝部135の内壁(板バネ131の揺動方向の内壁)に当接すると弾性変形する。特に、操作レバー133が版締め位置の手前から図9(a)に矢印A2で示す方向(版締め方向)に揺動させていくと、溝部135の取っ手部134側の第三当接面135cが板バネ131を押圧し、図9(a)に二点鎖線で示す直線状態から実線で示す湾曲状態へと弾性変形する。
操作レバー133によってアーム部材131をこのように弾性変形させた状態でスライドさせ、ロック爪137aを係合面137bと係合させることで、操作レバー133は版締め位置に固定される。この状態では、アーム部材131が弾性変形することにより、アーム部材131の基部が、コイルバネ21の付勢力をアシストするように働く。したがって、コイルバネ21自体の剛性を向上させなくても、板バネ製のアーム部材131の弾性変形による付勢力の分だけ、版締め装置12による刷版2の締め付け力(クランプ力)が増強する。
特に、本実施形態の板バネ製のアーム部材131は、比較的薄く剛性の低い板バネ材を複数枚重合した構成になっている。これらの板バネ材で構成されるアーム部材131はボルト131aの締結によりレバー7Cに固定されるので着脱可能であり、板バネ材の枚数の増減により板バネ131の剛性をきめ細かく調整できる。このため、刷版2の締め付け力の増強要求に応じた枚数の板バネ材を用いることでアーム部材131の剛性を適正に設定することができる。また、アーム部材131が弾性変形する際には複数の板バネ材が互いにズレを伴いなが個々に変形できるのでアーム部材131を適切に弾性変形させることができる。
(版締め装置の作用及び効果)
本実施形態の版締め装置12は、上述のように、第2実施形態と同様に、テンションバー5に切欠部5bが形成され、テンションバー5の重心C2がテンションバー5の回転中心C1に対して基準面L1よりも解放方向の側に偏心した位置に偏移されているので、テンションバー回転系5Sの重心C4はテンションバー5の回転中心C1に対して所定の偏心位置に偏移され、テンションバー回転系5Sに生じる遠心力Fcにより版胴1の回転作動時の刷版2の版締め力が増強される効果が得られる。
本実施形態の版締め装置12は、遠心力Fcによる版締め力増強効果に加えて、上述のように切替機構30Bが操作レバー133をツーアクションにより操作するように構成されるので、図10(a)〜(d)に示すようにして、刷版2の装着及び締め付け操作を行なうことができ、図11(a)〜(d)に示すようにして、刷版2の締め付け解除及び解放操作を行なうことができ、更なる効果が得られる。
まず、刷版2の装着及び締め付け操作を説明すると、図10(a)に示すように、操作レバー133を起立状態とする。この状態では、アーム部材131が操作レバー133の第一当接面135aに当接し、支持軸132と第一当接面135aとの位置関係から、アーム部材131を介して加えられるバネ機構20Bの弾性力が、操作レバー133を起立側に旋回するように押圧するため、操作レバー133は起立状態に保持される。この状態で、刷版2の咥え側端部2aの屈曲箇所を咥え部1aに当接させ、屈曲箇所よりも先の部分を係止面1cに係止させる。また、刷版2の咥え尻側端部2bの屈曲箇所を咥え尻部1bに当接させ、屈曲箇所よりも先のカギ型部分を胴溝3の内部のテンションバー5の版押さえ爪5aに係止可能な位置に配置する。
そして、図10(b)に示すように、操作レバー133を倒伏させていくと、操作レバー133の第三当接面135cを通じてアーム部材131が揺動し、刷版2の咥え尻側端部2bの屈曲箇所よりも先のカギ型部分がテンションバー5の版押さえ爪5aに係止される。図10(c)に示すように、さらに、操作レバー133を倒伏させていくと、版押さえ爪5aから咥え尻側端部2bに引張力が加えられ、刷版2が版胴1に締め付けられ始める。
なお、図10(b)に示すように、アーム部材131が操作レバー133の第一当接面135aから離脱すると、アーム部材131を介して加えられるバネ機構20Bの弾性力は、操作レバー133を倒伏側に旋回するように作用するので、このときの操作レバー133の操作負担は僅かなものであり、操作レバー133の操作力を加えなくても、バネ機構20Bの弾性力により、図10(c)に示す倒伏状態が達成される。
そして、操作レバー133を図10(d)に示す状態までさらに倒伏側に旋回操作してアーム部材131を弾性変形させる。この旋回操作は、アーム部材131を弾性変形させるだけの操作力が必要になるが、アーム部材131の弾性力は、コイルバネ21の弾性量をアシストするものであり、過剰に設定する必要はないので、アーム部材131の弾性力を操作負担が大きくならないように設定することができ、操作性を確保することができる。
このようにして、操作レバー133は、テンションバー5を版締め状態とする版締め位置に応じた揺動角度の倒伏状態となる。この後、操作レバー133を、支持軸132が長穴136内の他端側に位置するようにスライドさせることにより、ロック爪137aが係合面137bと係合して、操作レバー133が版締め位置に保持される。
次に、刷版2の締め付け解除及び解放操作を説明すると、図11(a)に示すように、版締め位置にある操作レバー133を、支持軸132が長穴136内の一端側に位置するようにスライドさせることにより、ロック爪137aが係合面137bから離脱して、図11(b)に示すように、弾性変形していたアーム部材131が復元しながら、操作レバー133を微小量だけ起立側に旋回させる。
そして、操作レバー133を、図11(c)に示すように起立側に旋回操作して、図11(d)に示すように起立状態とする。この起立状態では、アーム部材131が操作レバー133の第一当接面135aに当接するので、支持軸132と第一当接面135aとの位置関係から、アーム部材131を介して加えられるバネ機構20Bの弾性力が、操作レバー133を起立側に保持する付勢力として機能する。これにより、操作レバー133は起立状態に保持される。
このように、本版締め装置12は、バネ機構20Bをコイルバネ(主バネ)21と板バネ製のアーム部材131とから構成しているので、板バネ製のアーム部材131の弾性力のアシストによって、コイルバネ21の剛性を上げることなく版締め装置12による刷版2の締め付け力(クランプ力)を高めることができる。
しかも、操作レバー133の版締め位置から解放位置への解除操作にあたっては、図11(a)〜図11(b)に示すように、版締め位置にある操作レバー133を支持軸132が長穴136内の他端側から一端側に移動するようにスライドさせる操作と、図11(b)〜図11(d)に示すように、操作レバー133を起立させる操作との2つの操作(ツーアクション)により段階的に操作する構造(操作負担軽減構造)を有することにより、作業者の操作負担が軽減される。
つまり、締め付け力(クランプ力)を上昇させた板バネ製のアーム部材131の弾性力は、スライド操作の抵抗にはなるものの操作負担は僅かであり、操作レバー133を起立させる操作はコイルバネ21に抗して行なうので操作負担となるものの、コイルバネ21自体は過剰な操作負担にならない程度に抑えられるので、作業者の操作負担が軽減される。
したがって、版締め装置12による刷版2の締め付け力を高めながらも、版締め装置12の版締め状態と開放状態との切替操作を、工具を用いることなく且つ操作者に大きな操作負担を強いることなく行なうことができるようになる。
また、締め付け力の向上について操作レバー133を解放位置から版締め位置へ版締め操作する場合を例にさらに説明すると、本版締め装置12では、操作レバー133を版締め位置に操作する際に、まず第1アクションで、図10(a)に示す解放位置から、テンションバー5が版尻を保持する図10(c)に示す位置(中間位置)まで操作する。続く第2アクションで、操作レバー133を図10(c)に示す中間位置から図10(d)に示す版締め位置までスライド操作する。これにより加わる板バネ製のアーム部材131の弾性力の分だけ、刷版2の締め付け力(クランプ力)が高められる。
操作レバー133が中間位置にある状態では、前述のように、版締め装置12による締め付け力(バネ機構20Bのコイルバネ21による付勢力)とこれに対する刷版2の反力とがバランスする状態となり、刷版2に伸び等の変形があればこの分だけテンションバー5が版締め方向に回転した状態でバランスする。しかし、刷版2の伸び等の変形が大きくなると、コイルバネ21の付勢力が十分に発揮されなくなり、版締め装置12による締め付け力が低下するが、板バネ製のアーム部材131の弾性力が加わる分だけ、刷版2の締め付け力が高められるので、刷版2の締め付け力の不足が回避される。
しかも、本版締め装置12では、板バネの板厚や枚数を増やすことで任意の(最適な)締め付け力を付与できるので、継時的な刷版2の伸び等の変形に長期にわたって対応することが可能になる。また、刷版2やその他の構成部品の形状精度に起因した版締め力の低下や、使用状態の違い(版胴1とテンションバー5との間へのインキミストや溶剤、紙粉などの異物混入等の有無)による版締め力の低下や、再利用の刷版2を装着する場合の版締め力の低下に対しても、適正な締付け力となるように調整することが可能となる。
また、操作レバー133をスライド操作し旋回操作することによりテンションバー5を版締め状態の回転角度から開放状態の回転角度へと操作することができ、操作レバー133を旋回操作しスライド操作することによりテンションバー5を開放状態の回転角度から版締め状態の回転角度へと操作することができ、1つの操作レバー133のみを操作するだけで切替操作を実施することができる。また、1つの操作レバー133のみを操作するため、例えば、スライド操作と旋回操作とを連動させることで、ツーアクションでありながら速やかに操作することができ、操作性の面でも優れている。
〔第4実施形態〕
次に、第4実施形態を説明する。
本実施形態も、版胴の構成は第1〜3実施形態と同様であり、また、本実施形態の版締め装置13は、操作レバー43等の切替機構30Cの一部及びロック機構の構成が第1実施形態と異なるが、他の部分は第3実施形態と同様であるため、第3実施形態との相違点を中心に説明する。なお、図12に版胴1の一端部を示すように、本実施形態も、版締め装置13が各テンションバー5毎に備えられる。
(版締め装置の構成)
図12は本実施形態の版締め装置13を示すもので、図12において図1と同符号は同様のものを示し、その説明を省略する。図12(a),(b)に示すように、この版締め装置13では、ロック爪37a及び係合面37bに替えて、ロック機構としての板バネ製のロック部材47を有している。また、操作レバー43は第1実施形態の長穴36ではなく丸穴(図示略)が設けられ、丸穴内に支持軸32が貫入し、操作レバー43はスライドすることなくシンプルに揺動する。なお、第3実施形態と同様に、操作レバー43は、取っ手部44,アーム部材41が貫入する溝部45,第一当接面45a,第二当接面45b,第三当接面45cが備えられる。
なお、操作レバー43の取っ手部44,溝部45,第一当接面45a,第二当接面45b,第三当接面45cについて、第1実施形態のものと符号を変えて記載しているが、操作レバー43は、支持軸32が貫入する丸穴(図示略)のみが相違し、これらの各部44,45,45a,45b,45cは、第1実施形態のものと全く同様に構成され同様に機能する。
板バネ製のロック部材47は、基端部を支持部材38に係止され、先端部を版締め状態近傍のアーム部材41に対して離接する方向に弾性変形し、その先端部には、アーム部材41に係合する係合面47aがアーム部材41の側に突出するように屈曲形成され、係合面47aよりもさらに先端側には、先端がアーム部材41から離隔するように傾斜したガイド面47bが形成されている。なお、ロック部材47は、ガイド面47bは、版締め位置にある時の操作レバー43の取っ手44に隣接するように配置され、ロック部材47のロックを解除操作する際には、このガイド面47bを押圧操作する。
操作レバー43と共にアーム部材41が版締め状態に旋回しようとすると、アーム部材41がガイド面47bに当接し、ロック部材47を排除するように移動させながら版締め状態に達する。版締め状態では、アーム部材41がガイド面47bを乗り越えて係合面47aと係合し、ロック状態が達成される。逆に、ロック状態を解除するには、ロック部材47の先端部がアーム部材41から離隔する方向にガイド面47bを押圧操作してロック部材47を弾性変形させて、アーム部材41を係合面47aから離脱させればよい。
また、本実施形態では、アーム部材41は一枚の板バネで形成され、板バネ製のアーム部材41に沿って変形規制部材42が装備されている。もちろん、アーム部材41を第1実施形態と同様に複数の板バネ材を重合して構成してもよい。変形規制部材42は板バネ製のアーム部材41よりも十分に剛性が高い板状であり、アーム部材41の版締め側への弾性変形は許容するが、これと逆側への弾性変形は許容しないようになっている。
(版締め装置の作用及び効果)
本実施形態の版締め装置は、上述のように構成されるので、図13(a)〜(d)に示すようにして、刷版2の装着及び締め付け操作を行なうことができ、図14(a)〜(d)に示すようにして、刷版2の締め付け解除及び解放操作を行なうことができる。
まず、刷版2の装着及び締め付け操作を説明すると、図13(a)に示すように、操作レバー43を起立状態とする。この状態では、アーム部材41が操作レバー43の第一当接面45aに当接し、支持軸32と第一当接面45aとの位置関係から、アーム部材41を介して加えられるバネ機構20Cの弾性力が、操作レバー43を起立側に旋回するように押圧するため、操作レバー43は起立状態に保持される。この状態で、刷版2の咥え側端部2aの屈曲箇所を咥え部1aに当接させ、屈曲箇所よりも先の部分を係止面1cに係止させる。また、刷版2の咥え尻側端部2bの屈曲箇所を咥え尻部1bに当接させ、屈曲箇所よりも先のカギ型部分を胴溝3の内部のテンションバー5の版押さえ爪5aに係止可能な位置に配置する。
そして、図13(b)に示すように、操作レバー43を倒伏させていくと、操作レバー43の第三当接面45cを通じてアーム部材41が揺動し、刷版2の咥え尻側端部2bの屈曲箇所よりも先のカギ型部分がテンションバー5の版押さえ爪5aに係止される。図13(c)に示すように、さらに、操作レバー43を倒伏させていくと、版押さえ爪5aから咥え尻側端部2bに引き張り力が加えられ、刷版2が版胴1に締め付けられ始める。
なお、図13(b)に示すように、アーム部材41が操作レバー43の第一当接面45aにから離脱すると、アーム部材41を介して加えられるバネ機構20Cの弾性力は、操作レバー43を倒伏側に旋回させる付勢力として作用するので、このときの操作レバー43の操作負担は僅かなものであり、操作レバー43の操作力を加えなくても、バネ機構20Cの弾性力により、図13(c)に示す倒伏状態が達成される。
そして、操作レバー43を図13(d)に示す状態までさらに倒伏側に旋回操作してアーム部材41を弾性変形させる。この旋回操作は、アーム部材41を弾性変形させるだけの操作力が必要になるが、アーム部材41の弾性力は、コイルバネ21の弾性量をアシストするものであり、過剰に設定する必要はないので、アーム部材41の弾性力を操作負担が大きくならないように設定すれば、操作性を確保することができる。
このようにして、操作レバー43は、テンションバー5を版締め状態とする版締め位置の倒伏状態となるが、この途上で、アーム部材41がロック部材47の係合面47bを乗り越えて係合面47aと係合し、ロック状態が達成される。これにより、操作レバー43が版締め位置に保持される。
次に、刷版2の締め付け解除及び解放操作を説明すると、図14(a)に示すように、ロック部材47のロック状態から、図14(b)に示すように、ロック部材47の先端部がアーム部材41から離隔する方向にガイド面47bを通じてロック部材47を弾性変形させて、アーム部材41を係合面47aから離脱させてロック状態を解除する。これにより、弾性変形していたアーム部材41が復元しながら、操作レバー43を微小量だけ起立側に旋回させる。
そして、操作レバー43を、図14(c)に示すように起立側に旋回操作して、図14(d)に示すように起立状態とする。この起立状態では、アーム部材41が操作レバー43の第一当接面45aに当接するので、支持軸32と第一当接面45aとの位置関係から、アーム部材41を介して加えられるバネ機構20Cの弾性力が、操作レバー43を起立側に旋回するように押圧する。これにより、操作レバー43は起立状態に保持される。
このように、本実施形態でも、第1実施形態と同様に、バネ機構20Cをコイルバネ(主バネ)21と板バネ製のアーム部材41とから構成しているので、板バネ製のアーム部材41の弾性力のアシストによってコイルバネ21の剛性を上げることなく版締め装置13による刷版2の締め付け力(クランプ力)を高めることができる。
操作レバー43の版締め位置から解放位置への解除操作にあたっては、図14(a)〜図14(b)に示すように、アーム部材41を係合面47aから離脱させてロック状態を解除する操作と、図14(c)〜図14(d)に示すように、操作レバー43を起立させる操作との2つの操作(ツーアクション)により段階的に操作する構造(操作負担軽減構造)により、作業者の操作負担が軽減される。
つまり、締め付け力(クランプ力)を上昇させた板バネ製のアーム部材41の弾性力は、スライド操作の抵抗にはなるものの操作負担は僅かであり、操作レバー43を起立させる操作はコイルバネ21に抗して行なうので操作負担となるものの、コイルバネ21自体は過剰な操作負担にならない程度に抑えられるので、作業者の操作負担が軽減される。
したがって、版締め装置13による刷版2の締め付け力を高めながらも、版締め装置13の版締め状態と開放状態との切替操作を、工具を用いることなく且つ操作者に大きな操作負担を強いることなく行なうことができるようになる。
〔第5実施形態〕
次に、第5実施形態を説明する。
本実施形態も、版胴の構成は第1〜4実施形態と同様であり、また、本実施形態の版締め装置14は、操作レバー53等の切替機構30Dの構成が第3実施形態と異なり、他の部分は第3実施形態と同様であるため、第3実施形態との相違点を中心に説明する。なお、図15に版胴1の一端部を示すように、本実施形態も、版締め装置14が各テンションバー5毎に備えられる。
(版締め装置の構成)
図15は本実施形態の版締め装置14を示すもので、図15において図1と同符号は同様のものを示し、その説明を省略する。図15(a),(b)に示すように、この版締め装置14では、アーム部材51は板バネでなく剛性の高い部材が適用されている。したがって、バネ機構20Dはコイルバネ21のみから構成される。
切替機構30Dは、テンションバー5のレバー7と、レバー7に固設されたアーム部材51とを備え、操作レバー53として、取付面部6上に固設された支持部材38に支持軸52により揺動可能に支持された第1操作レバー53A及び第2操作レバー53Bの2つを備えている。第1操作レバー53A及び第2操作レバー53Bは互いに隣接して並列に設置されている。両操作レバー53A,53Bは、それぞれ版締め位置に応じた第1揺動角度と解放位置に応じた第2揺動角度との間で揺動可能となっている。
各操作レバー53A,53Bは、いずれも先端部に操作用の取っ手部54A,54Bを有し、中間部にアーム部材51が貫入する溝部55A,55Bを有している。溝部55A,55Bの支持軸52側の内壁には、操作レバー53の長手方向軸心に対して互いに異なる方向に傾斜した第一当接面56A,56B及び第二当接面57A,57Bが設けられる。また、支持部材38には、操作レバー53の揺動を規制するストッパ部38C,39Cが設けられる。
第一当接面56A,56B及び第二当接面57A,57Bについては第1実施形態の第一当接面35a及び第二当接面35bと形状は違うが同様に機能する。
そして、第1操作レバー53Aの第一当接面56A及び第二当接面57Aは低く(つまり、支持軸52に近い位置)に形成され、第2操作レバー53Bの第一当接面56B及び第二当接面57Bは高く(つまり、支持軸52から遠い位置)に形成されている。
したがって、第1操作レバー53Aを倒伏状態(版締め位置に応じた第1揺動角度)から起立させていくと、第二当接面57Aがアーム部材51を解放側に押圧してレバー7を旋回させてテンションバー5を回転させるが、第1操作レバー53Aの第二当接面57Aは低いので、第1操作レバー53Aを解放位置に応じた第2揺動角度まで起立させても、テンションバー5は版締め状態と解放状態との中間の状態までしか回転しない。かかる配置構成が、操作レバー53を版締め位置と解放位置との間の中間位置に保持する保持構造となっている。
第1操作レバー53Aを第2揺動角度まで起立させると、アーム部材51が第1操作レバー53Aの第一当接面56Aに当接するようになり、支持軸52と第一当接面56Aとの位置関係から、アーム部材51を介して加えられるバネ機構20Dの弾性力が、第1操作レバー53Aをストッパ部39Cに当接させるように押圧する。第1操作レバー53Aはこの起立状態に保持される。
この状態では、第2操作レバー53Bは倒伏状態(版締め位置に応じた第1揺動角度)であり、第2操作レバー53Bを倒伏状態から起立させていくと、第二当接面57Bがアーム部材51を解放側に押圧してレバー7を旋回させてテンションバー5を回転させる。第2操作レバー53Bの第二当接面57Bは高いので、第2操作レバー53Bを解放位置に応じた第2揺動角度まで起立させると、テンションバー5は解放状態まで回転する。
その後、アーム部材51が第2操作レバー53Bの第一当接面56Bに当接するようになり、支持軸52と第一当接面56Bとの位置関係から、アーム部材51を介して加えられるバネ機構20Dの弾性力が、第2操作レバー53Bをストッパ部39Cに当接させるように押圧する。第2操作レバー53Bはこの起立状態に保持される。
このように、本実施形態では、各操作レバー53A,53Bを何れもの第1揺動角度とする操作レバー53の版締め位置から、各操作レバー53A,53Bを何れもの第2揺動角度とする操作レバー53の解放位置への解除操作にあたっては、第1操作レバー53Aの旋回操作と、第2操作レバー53Bの旋回操作との2つの操作(ツーアクション)により段階的に操作するので、作業者の操作負担が軽減されるようになっている。
(版締め装置の作用)
本実施形態の版締め装置は、上述のように構成されるので、図16(a)〜(d)に示すようにして、刷版2の締め付け解除及び解放操作を行なうことができる。
図16(a)に示すように、まず、第1操作レバー53Aを倒伏状態から起立させていき、図16(b)に示す起立状態とする。これにより、テンションバー5は版締め状態と解放状態との中間の状態まで回転する。
次に、図16(c)に示すように、第2操作レバー53Bを倒伏状態から起立させていき、図16(d)に示す起立状態とする。これにより、テンションバー5は中間状態から解放状態まで回転する。これにより、刷版2を版胴1から取り外すことが可能になる。
このようにして、本実施形態では、テンションバー5を版締め状態から解放状態へと操作するにあたっては、第1操作レバー53Aの旋回操作と、第2操作レバー53Bの旋回操作との2つの操作(ツーアクション)により段階的に操作する操作負担軽減構造により、作業者の操作負担が軽減されるので、コイルスプリング21の弾性力を強めて版締め装置14による刷版2の締め付け力(クランプ力)を高めても、かかる操作負担が過剰にならないようにすることができる。
なお、本実施形態の版締め装置において、刷版2の装着及び締め付け操作を行なう場合には、上述の締め付け解除及び解放操作を行なう場合と逆の操作を行なうえばよい。
つまり、図16(d)に示すように、第1操作レバー53A及び第2操作レバー53Bが何れも起立した状態から、図16(c)及び図16(b)に示すように、第2操作レバー53Bを起立状態から倒伏状態へと操作し、次に、図16(a)に示すように、第1操作レバー53Aを起立状態から倒伏状態へと操作していく。
第1操作レバー53A及び第2操作レバー53Bが何れも倒伏した状態になると、アーム部材51は第1操作レバー53A及び第2操作レバー53Bによる規制から解除され、版締め装置14による締め付け力(バネ機構20Dのコイルバネ21による付勢力)がとこれに対する刷版2の反力とがバランスする状態となる。コイルスプリング21の弾性力(バネ乗数)を強めて版締め装置14による刷版2の締め付け力(クランプ力)を高めておくことにより、刷版2に伸び等の変形があっても刷版2の締め付け力を確保することができる。
図17は、テンションバー5を版締め状態から開放状態へと操作レバーを旋回操作する際の、テンションバー5の回転角度と必要な操作力(コマ押上げ力)との関係を示す図である。コマ押上げ力とは第1操作レバー53A,第2操作レバー53Bを動かすための手に加わる力である。図17において、実線は本実施形態のものを示し、破線は従来技術(図19)のものを示す。もちろん、両者のバネ機構の弾性力(バネ乗数)は等しく設定されている。
図17に示すように、本実施形態の場合、版締め操作によるコマ押上げ量を2段階に分けることで、第1操作レバー53Aのコマ押上げ力と第2操作レバー53Bのコマ押上げ力は4〜6割程度に小さくなり、従来技術(図18,図19)のものに比べてコマ押上げ力が軽減されていることがわかる。
つまり、図16(a)に示すように、第1操作レバー53Aの第二当接面57Aは第2操作レバー53Bの第二当接面57Bに比べて支持軸52(支点)に近く、コマ押上げ量が少なく、コイルバネ21の収縮変化量が少ない為、コマ押上げ力を小さくすることができる。また、図16(c)に示すように、第2操作レバー53Bの第二当接面57Bは第1操作レバー53Aの第一当接面56Aよりも大きい半径を有しており、その分だけ第2操作レバー53Bがアーム部材51の回転中心、即ち、テンションバーの回転中心5より離れた位置で大きなレバー長でアーム部材51に力を加えて押上げ、しかも、押上げ量に対する第2操作レバー53Bの揺動角度が大きいので、コマを押上げるための必要操作力が抑えられて、コマを効率良く押上げることができる。
したがって、コイルスプリング21の弾性力を強めて版締め装置14による刷版2の締め付け力(クランプ力)を高めても、操作負担が過剰にならないようにすることができる。
〔その他〕
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は上述の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
つまり、本発明は、テンションバーが刷版を版胴に巻き締めする版締め状態において、版胴の回転に伴ってテンションバー及びテンションバーと一体回転する部材からなるテンションバー回転系に生じる遠心力が、テンションバーに対して版締め方向に向けて作用するように、テンションバー回転系の重心がテンションバーの回転中心に対して所定の偏心位置に設定されていることが肝要であり、所定の偏心位置に設定するための具体的構成は限定されない。
例えば、第1実施形態の肉盛部72aを有するレバー7のみを適用し、切欠部5bを備えたテンションバー5を用いずに、切欠部5bを備えない一般的なテンションバー205(図18参照)を用いたものとしても、テンションバー回転系5Sに生じる遠心力を版締め方向に向けて作用させることができる。また、レバー7以外にテンションバーと一体回転する部材があれば、この部材の重心を利用してテンションバー回転系の重心を調整することもできる。
さらに、第1実施形態の肉盛部72aを有するレバー7と切欠部5bを備えたテンションバー5とを用いたものや、或いは、第1実施形態の肉盛部72aを有するレバー7のみを適用しテンションバーには切欠部5bは備えない一般的なものを用いたものに、第3〜5実施形態の、操作レバー133,43,53をバネ機構20B〜20Dの付勢力に抗して版締め位置から解放位置へ操作する際に2つの操作(即ち、ツーアクション)により段階的に操作するように構成された切替機構30B〜30Dを装備しても良い。
また、例えば、第3実施形態のアーム部材131に第4実施形態の変形規制部材42を適用しても良い。
また、第5実施形態の2つの操作レバー53A,53Bを有するものにおいて、各操作レバー53A,53Bに、第3,4実施形態の板バネ製のアーム部材131,41やロック機構を適用しても良い。
また、本発明の版締め装置は、新聞用オフセット輪転機に好適であるが、他のオフセット輪転印刷機など、刷版を版胴に締付固定する印刷機に広く適用しうるものである。