JP2016074965A - 高強度冷延鋼板、高強度めっき鋼板、及びそれらの製造方法 - Google Patents

高強度冷延鋼板、高強度めっき鋼板、及びそれらの製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】高い延性と低い降伏比を備え、降伏点伸びの発生を抑制し、製造コストや合金コストを抑制した高強度冷延鋼板、高強度めっき鋼板及びそれらの製造方法を提供する。【解決手段】質量%で、C:0.060〜0.250%、Si:0.50%未満、Mn:0.80%以上2.00%未満、P:0.001〜0.050%、S:0.020%以下、Al:0.50〜2.00%、N:0.0050%未満を含有し、残部Fe及びその他不可避的不純物からなり、フェライト:50〜97体積%と、第二相:3〜50体積%と、からなり、第二相は、残留オーステナイト:2〜49体積%と、マルテンサイト:1〜15体積%とを有し、残留オーステナイトと、マルテンサイトとは、第二相中85体積%以上占めており、L断面における第二相の長軸方向が圧延方向に対して為す角度の平均が45°未満とする。【選択図】図2

Description

本発明は、高強度冷延鋼板、高強度めっき鋼板、及びそれらの製造方法に関する。
自動車の車体や家電製品の筐体に用いられる薄鋼板は、美麗さが求められると共に、複雑な形状を有する場合には高い加工精度も要求される。それらの要求は、その薄鋼板が任意の複雑形状に成形可能な優れた変形特性を有することで実現可能となる。
変形特性の中でも特に重要となるのは引張試験によって評価される全伸び(以下、Elとも記す。)、均一伸び(以下、U.Elとも記す。)である。全伸びは、鋼板が破断に至るまでの成形特性を示し、均一伸びは、鋼板表面に概観を損ねるネッキングが発生するまでの成形特性を示す。一方で、引張強度(以下、TSとも記す。)に対する降伏強度(以下、YSとも記す)が低いほど、すなわち降伏比(YR=YS/TS)が低いほど、降伏強度の高い鋼板に比べて任意の形状への変形が容易となるため、低YS、低YRであることも重要な特性となる。
ところで、近年、自動車や家電製品といった薄鋼板においては、高強度化による鋼板の使用量の低減や耐久強度の向上が強く求められている。しかしながら、鋼を高強度化すると、一般に延性は低下し、降伏強度は増加するため、諸変形特性は低下することが知られている。
このような背景があるため、自動車の車体や家電製品の筐体等のプレス部品に適用する鋼板については、高強度鋼板の適用が進んでいない。例えば、自動車のフードやドアといった外板パネル部品でいえば、従来は引張強度(以下、TSとも記す)が270〜340MPa級で成形性に優れたフェライト単相鋼が使用されている。このようなフェライト単相鋼を、Mn、Si、P等で固溶強化したり、あるいはTi、Nbの炭化物等で析出強化したりすることで、TS:440MPa級まで高強度化すると延性が著しく低下する(特許文献1参照)。このため、部品のプレス成形時に、意匠面内にネッキングが生じて表面外観が損なわれたり、割れが生じてプレス成形そのものが困難になったりする場合がある。また、フェライト相中にパーライト相を形成し高強度化した鋼板は、降伏強度が高く加工精度が劣化し、さらに降伏点伸びがあるため、ストレッチャーストレインが発生し外観品質を著しく損ねる。
また、より高強度で均一伸びに優れた鋼板としてDP鋼が提案されているが、伸びの絶対値としては、複雑な変形を実施できる十分な変形特性を有しているとは言いがたい。
そこで、近年、鋼板を高強度化しつつ、延性を向上させるアプローチの一つとしてTRIP鋼板が提案されている。TRIP鋼板では、フェライト相中に残留オーステナイトを生成し、変形時に残留オーステナイトがマルテンサイトへ変態することで高い加工硬化性を発揮し優れた延性を示す変態誘起塑性(TRansformation−Induced Plasticity:TRIP)効果を利用している。ただし、一般にTRIP鋼板としてよく利用されているものは、残留オーステナイトを室温まで残すために、Siを多量に添加し、残留オーステナイトを活用したSi添加型のTRIP鋼板である(特許文献2参照)。このようなTRIP鋼板は、フェライト単相鋼やDP鋼板よりも高いTSとElのバランス(引張強度と全伸びとのバランス、TS×El)を示し、同一強度レベルで比べれば非常に優れた延性を示す。しかしながら、Siが非常に強力な固溶強化元素であるため、残留オーステナイト生成量を増加するために多量のSi添加を行うと、引張強度とともに降伏強度が増加しYRが上昇する。実際、従来の590MPa級のSi添加TRIP鋼板では、降伏比は0.6超であり、十分に低いとは言いがたい。さらに、Siは、スラブ加熱や熱延又は焼鈍過程において鋼板表面に強固な複合酸化皮膜を形成しやすいため、スケール残りやめっきむら、不めっき等の表面欠陥をまねく。
そこで、Siと同様にオーステナイトへのCの濃化を促進し、Siより強度上昇の影響が少なく、またミクロ組織を粗大化することで組織を低強度化しやすいAlを添加したTRIP鋼板が提案されている。
例えば特許文献3には、Si量を低減してAl量を1.5〜2.5質量%とし、残留オーステナイトを一定量生成した鋼板において、引張強度(TS):440〜539MPa、伸び(El):30.7〜39.1%を有する延性とめっき密着性とに優れた鋼板の製造方法が開示されている。
また、特許文献4にも、Si量を低減してAlを添加することによって残留オーステナイトを活用した高延性溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法が記載されている。
また、特許文献5には、Siを含有する高Mn、高Al成分鋼において引張強度(TS):440〜640MPaで延性に優れた冷延鋼板を下地とした溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法が提案されている。
また、特許文献6には、高Al成分鋼において前熱処理を実施後にCGL(連続溶融亜鉛めっきライン)でめっきする製造方法以外に、前熱処理を実施せずに熱延処理において350〜500℃の低温巻取りを行うことにより体積率で10%以上の低温変態相を含み低温変態相として80%以上のベイナイトを有する熱延組織を形成した後、CGLにてめっきを行う、TSとElのバランスに優れた鋼板の製造方法が提案されている。
また、特許文献7には、高Al成分鋼において高いElを示す鋼板の製造方法が開示されている。更に、特許文献8にはMn量を低減しAlを添加することで、引張強度390〜500MPaで、降伏強度が低く強度延性バランスに優れた鋼板の製造方法が提案されている。
特許第4207738号公報 特開平5−255799号公報 特開2001−355041号公報 特許第4333352号公報 特開2000−256789号公報 特開2004−256836号公報 特許第3569307号公報 登録4860782
しかしながら、特許文献3記載の鋼板を製造するためには、最終焼鈍前に800℃で1時間程度の二相域焼鈍を施し、Mnを予め分配させておくことが不可欠であり、製造コストが非常に高い。さらに焼鈍+めっき工程においても800℃×60秒の均熱焼鈍後に冷却し、440℃でめっき浴浸漬後に長時間の焼鈍が必要である。このため、特許文献3記載の製造方法では、めっき浸漬後に焼鈍設備を持たない通常のCGLラインに適用することは困難であるという点からも製造コストが高い。また、特性の点でも、YP−Elが発生し降伏比が高く、一方でTSとElのバランスやTSとU.Elのバランスは低いため、成形性も十分とは言えない。
また、特許文献4記載の製造方法も同様に、CGLによる最終焼鈍前に750℃以上での焼鈍及び250〜550℃での焼戻しが必要で製造コストが増大する。
特許文献5記載の鋼板は、合金化温度が700℃近傍で従来と比べて著しく高く、既存のCAL(連続焼鈍ライン)やCGL設備にはない加熱装置が必要である。また、降伏比が高く、高延性と低降伏比を兼備した特性は得られているとは言いがたい。
特許文献6記載の技術では、Siを一定量含有していることで、降伏比が高く高延性と低降伏比を兼備した特性は得られているとは言いがたい。
特許文献7記載の製造方法では、実質的に二次冷却速度で平均80℃/s以上という一般のCAL、CGL装置にはない高い冷却能力が不可欠であるため、製造コストが高い。なお、本発明者らが遅い冷速域まで調査を行ったところ、実施例に記載された成分を有する鋼板の幾つかは、第二相がパーライトへと分解し、降伏点伸びが発生したり均一伸びがが大きく劣化したりする場合があることが明らかになった。
また、上記特許文献3〜7に記載の鋼はいずれもTRIP効果による高い延性を得ることを目的にしており、本発明者らが特許文献に従って製造した鋼板の材質を調査したところ、降伏比(YR)が高く、降伏点伸びが発生する鋼もあり、高延性と低降伏強度(低YS)を両立した鋼板は製造されていなかった。
特許文献8記載の鋼は、Mn添加量が少ない場合、CALやCGLの中間温度帯で第二相がパーライトやベイナイトへと分解し、降伏点伸びが発生して降伏強度が大きく増加したり、降伏点伸びを除いた均一伸び(U.El)が低下したりすることがある。
このように、高い延性を有しつつ、低い降伏強度や降伏比を兼備し、降伏点伸びの発生を抑制可能で、さらに製造コストや合金コストの著しい増大なしに製造可能な高強度冷延鋼板及び高強度めっき鋼板とその製造方法とは十分に提供されていない。
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、390MPa以上780MPa未満の引張強度レベルにおいて高い延性と低い降伏比を有し、かつ降伏点伸びの発生を抑制し、さらに製造コストや合金コストを抑制して製造可能な高強度冷延鋼板、高強度めっき鋼板、及びそれらの鋼板の製造方法を提供することにある。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、冷延後のミクロ組織における第二相の構成と配向方向を制御することで、優れた延性と低降伏比を兼備し、降伏点伸びの発生を抑制した鋼板を製造できることを発見した。
本発明の高強度冷延鋼板は、鋼成分として、質量%で、C:0.060%以上0.250%以下、Si:0.50%未満、Mn:0.80%以上2.00%未満、P:0.001%以上0.050%以下、S:0.020%以下、Al:0.50%以上2.00%以下、N:0.0050%未満を含有し、残部Fe及びその他不可避的不純物からなり、そのミクロ組織はフェライト:50〜97体積%と、第二相:3〜50体積%と、からなり、第二相は、残留オーステナイト:2〜49体積%と、マルテンサイト:1〜15体積%とを有し、残留オーステナイトと、マルテンサイトとは、第二相中、85体積%以上占めており、L断面における第二相の長軸方向が圧延方向に対して為す角度の平均が45°未満であることを特徴とする。
また、上記の高強度冷延鋼板は、質量%で、さらにB:0.00050%以下、Cr:1.00%以下、Ni:0.50%以下、Cu:0.10%以下、Mo:0.10%以下から選ばれる1種又は2種以上を含有しても良い。
また、上記の高強度冷延鋼板は、質量%で、さらにTi:0.100%以下、Nb:0.10%以下、V:0.10%以下から選ばれる1種又は2種以上を含有しても良い。
また、上記の高強度冷延鋼板は、質量%で、さらにSb0.02%以下、Sn:0.02%以下から選ばれる1種又は2種を含有することもできる。
また、上記の高強度冷延鋼板は、質量%で、さらにCa:0.01%以下、REM:0.01%以下から選ばれる1種又は2種を含有することもできる。
また、本発明の高強度めっき鋼板は、上記の高強度冷延鋼板にめっき処理を施したものである。
上記課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る高強度冷延鋼板及び高強度めっき鋼板を製造するに際しては、熱延鋼板のL断面における第二相の長軸方向が圧延方向に対して為す角度の平均が30°未満である熱延鋼板又はフェライトのアスペクト比が1.2以上4以下である熱延鋼板を冷間圧延し、焼鈍して使用することが好ましい。また、熱間圧延における仕上げ圧延温度を以下の式(1)で示されるFTx℃以下とすることが好ましい。
FTx=850−200C−5Mn+40(Al+Si)・・・(式(1))
(式(1)中、C、Mn、Al、Siは、各組成の含有量(質量%)を示す。)
なお、本発明において、高強度冷延鋼板とは、引張強度;390MPa以上780MPa未満の鋼板のことを指す。また、高強度めっき鋼板とは、高強度冷延鋼板にめっき処理を施したものであり、主に溶融亜鉛めっき鋼板(GI)、合金化溶融亜鉛めっき鋼板(GA)、電気亜鉛めっき鋼板(EG)のことを指す。
本発明によれば、高い延性と低い降伏比を兼備し、降伏点伸びの発生を抑制し、さらに製造コストや合金コストを抑制して製造可能な高強度冷延鋼板、高強度めっき鋼板、及びそれらの製造方法を提供することができる。
熱延仕上げ温度と焼鈍板の第二相の圧延方向に対する角度との関係を示すグラフである。 降伏比(YR)と焼鈍板の第二相の圧延方向に対する角度との関係を示すグラフである。 TSおよびElのバランスと焼鈍板の第二相の圧延方向に対する角度との関係を示すグラフである。 第二相の圧延方向に対する角度の測定方法の概要を示す図である。
以下、本発明に係る高強度冷延鋼板について、その成分組成、組織、製造方法及びめっき処理を施した高強度めっき鋼板に分けて詳細に説明する。
〔成分組成〕
まず、本発明に係る高強度冷延鋼板の成分組成について説明する。なお、以下において成分量の%表示は、特にことわらない限り質量%を意味する。
(Cの含有量:0.060%以上0.250%以下)
C(炭素)は、廉価、且つ、非常に強力なオーステナイト安定化元素であり、第二相の体積分率を所定量生成させ、さらに室温までオーステナイトを残留させる上で極めて重要な元素である。Cは、後述する熱処理過程において、フェライト(ベイニティックフェライトを含む。)からオーステナイトへと分配し、オーステナイトを安定化させる。Cが0.060%未満では、Cが高濃度に濃化した残留オーステナイトは十分に生成できない。C量が多いほど残留オーステナイトの生成量及び安定度は増加するが、C量が0.250%を超えると第二相分率が増えすぎて延性が低下するとともにYSが増大する。さらに溶接性が劣化する。従って、Cの含有量は0.060%以上0.250%以下とする。より高い延性を備えた鋼板を得るためには、Cの含有量を0.070%以上とすることが好ましく、0.080%以上とすることがより好ましい。また、引張強度(TS)を抑制し、全伸び(El)の絶対値を上げる観点からは、0.180%未満とすることが好ましく、0.150%未満とすることがより好ましい。
(Siの含有量:0.50%未満)
Si(ケイ素)は、オーステナイトからの炭化物析出を抑制するため、オーステナイトのC濃化を促進するには非常に有効な元素である。しかしながら、Siは非常に高い固溶強化能を有するため、多量に含有すれば低降伏比(低YR)を維持することが困難になる。また、Siは、酸素との親和性が高いために鋼板表面に酸化皮膜を形成しやすく、微量でも熱延時のスケール残りや連続溶融亜鉛めっき時の酸化皮膜形成による不めっき、あるいは化成処理時の化成不良を生じさせる。従って、Siの含有量は、できるだけ少なくすることが望ましく、0.50%未満とする。めっき品質や化成処理性を向上する観点から、Siの含有量は、0.20%未満が好ましく、0.10%未満がより好ましい。特に優れためっき品質を得るには、Siの含有量は0.03%未満とすることが好ましい。
(Mnの含有量:0.80%以上2.00%未満)
Mn(マンガン)は、オーステナイトがパーライトやベイナイトへ変態するのを抑制するために非常に重要な元素である。Mnの含有量が0.80%未満では、焼鈍後の冷却時に、オーステナイトからパーライトやベイナイトへ変態するため、Cが濃化した安定な残留オーステナイトが確保できない。一方、Mnの含有量が2.00%以上になると、焼鈍後の冷却過程におけるオーステナイトのフェライト変態やベイナイト変態が過剰に抑制された結果、マルテンサイト分率が著しく増大し、降伏強度(YS)の上昇と全伸び(El)の低下をまねく。従って、Mnの含有量は、0.80%以上2.00%未満とする。好ましくは1.70%未満、より好ましくは1.60%未満とする。
(Pの含有量:0.001%以上0.050%以下)
P(リン)は、Bと同様に微量の添加でもフェライト変態やパーライト変態を抑制する効果がある。Pの含有量を0.001%以上とすることで、この効果が得られる。ただし、Pは非常に強い固溶強化元素であり、過剰に含有すると必要以上に強度が上昇する。また、Pは、合金化の遅延によるめっきムラや偏析による表面欠陥の発生を招く。従って、Pの含有量は、0.050%以下とし、0.030%以下とすることが好ましい。
(Sの含有量:0.020%以下)
S(硫黄)は一次スケールの剥離性を向上し、鋼板の最終的なめっき外観品質を向上させる効果がある。このような効果を得るためには、Sを0.001%以上含有させることが好ましい。しかしながら、Sを多量に含有すると、鋼の熱間延性を低下し、熱間圧延時に鋼板表面に割れが発生することで表面品質を劣化する。さらには、Sは、粗大なMnSを形成して破壊の基点となるため、鋼板の延性を低下させる欠点がある。このため、Sの含有量は0.020%以下とする。
(Alの含有量:0.50%以上2.00%以下)
Al(アルミニウム)は、オーステナイト中の炭化物析出を抑制する効果を有し、Siより固溶強化能が小さいことから、オーステナイトのC濃度を増加させるために非常に有効な元素である。また、Alは、強力なフェライト安定化元素であるため、Ae3線を高C側へ遷移し、フェライトと共存するオーステナイトのC濃度を高濃度化できるので焼鈍中のオーステナイトの安定度がさらに増加する効果に加えて、後述するフェライト温度域での圧延を実施する際の上限温度FTx℃をより高温化でき、熱間圧延負荷を低減する効果がある。上述のAlの効果を有効に発揮するためには、Alの含有量は0.50%以上とする。また、Alの含有量は0.60%以上とすることが好ましく、0.80%以上とすることがより好ましい。一方、Alは積極的に含有させることが好ましいが、含有量が2.00%を超えると、鋼板表面に酸化層を形成し、めっき性や化成処理性を著しく劣化する。さらに、Alはスラブ鋳造時にNと結合してAlN介在物を形成し鋳造性が低下する。また、高温まで二相域が拡大するためフェライトバンド組織が形成されやすくなり、不均一な組織を形成して延性が劣化する。従って、Alの含有量は2.00%以下とする。また、めっき性や化成処理性の劣化、鋳造性の低下および延性の劣化をより確実に回避する観点で、Alの含有量は1.80%以下とすることが好ましい。
(Nの含有量:0.0050%未満)
N(窒素)は鋼中のAlと微細なAlNを形成しフェライト組織の粒成長性を低下させるため、組織が高強度化する。また、多量のAlNが析出すると熱間延性が急激に低下するため連続鋳造での製造安定性を著しく損なう。従って、Nはできる限り低く抑えられるべき元素であり、そのような観点からNの含有量は、0.0050%未満とすることが好ましく、0.0040%未満とすることがより好ましく、0.0035%未満とすることがさらに好ましい。
以上の成分以外の残部は、Fe及び不可避的不純物である。
また、本発明においては、B、Cr、Ti、Nb、V、Ni、Cu、Mo、Sb、Sn、Ca、REMは必須成分ではないが、必要に応じて以下の範囲で含有することができる。
(Bの含有量:0.00050%以下)
B(ホウ素)は、任意成分である。Bは極微量含有していても、昇温後の冷却時に生じるパーライト変態を抑制する効果があるため、MnやPその他の元素の含有量を上述した範囲内で抑制しつつ、Bを含有して良い。しかしながら、Bを過剰に含有していても、Bの炭化物析出を促進しオーステナイトの安定性を低下させる場合があるだけでなく、熱間変形抵抗を増大させ熱間圧延が困難になる場合もある。このため、Bの含有量は0.00050%以下(0%を含む)とする。
(Crの含有量:1.00%以下)
Cr(クロム)は、任意成分である。しかし、Crは固溶強化が小さく、冷却時のパーライト変態を抑制する効果は大きい。この効果を得るためには、Crは0.1%以上含有することが好ましい。一方、過剰にCrを含有することはコストを増大させるだけでなく、フェライト/ベイナイト変態を著しく遅延し、残留オーステナイトが得にくくなる。また、鋼板同士が接触する部位においては耐食性を劣化させる。従って、Crの含有量は1.00%以下(0%を含む)とする。
(Niの含有量:0.50%以下)
Ni(ニッケル)は、任意成分であるが、オーステナイト安定化元素であるためパーライト変態を抑制することができる。この効果を得るために、0.05%以上含有することが好ましい。但し、Niを多量に含有すると合金コストが増大する。従って、Niを含有する場合には、その含有量は0.50%以下とすることが好ましい。合金コストの抑制の観点では、Niの含有量は0.20%以下であることがより好ましい。
(Cuの含有量:0.10%以下、Moの含有量:0.10%以下)
Cu(銅)及びMo(モリブデン)は、任意成分であるが、オーステナイト安定化元素なのでパーライト変態を抑制することができる。この効果を得るために、Cu及びMoのそれぞれを0.02%以上含有することができる。また、SiやAlほどではないが、Cu及びMoはセメンタイトの生成を抑制する効果も期待される。しかしながら、いずれも高価な元素であるため合金コストを著しく増大させる。さらに、固溶強化や鋼の組織を微細化することによって鋼板の強度を上昇させるため、多量に含有させることは好ましくない。従って、Cu、Moを含有する場合には、これらの含有量はそれぞれ0.10%以下とし、0.05%未満とすることが好ましい。
(Tiの含有量:0.100%以下、Nbの含有量:0.10%以下、Vの含有量:0.10%以下)
Ti(チタン)、Nb(ニオブ)、V(バナジウム)はいずれも任意成分であるが、Nとの親和性が強く、鋼中のNを金属窒化物として固定する効果があり、AlNの析出量を低減することができる。従って、これらの元素は、微細なAlN析出に伴うフェライト組織の粒成長の抑制や熱間延性の低下を抑制する効果がある。Ti、Nb、VによるN固定の効果を得るには、これらの元素を0.002%以上含有することが好ましい。但し、いずれも高価な元素であるため多量に含有すれば大幅なコスト増加となり、また、焼鈍時に微細な炭化物を析出しやすいため鋼板の強度を増加させる。そのため、Ti、Nb、Vの含有量は、それぞれ順に、0.100%以下、0.10%以下、0.10%以下とすることが好ましい。特に延性を向上する目的に対しては、それぞれ0.02%以下とすることが好ましい。
(Sbの含有量:0.02%以下、Snの含有量:0.02%以下)
Sb(アンチモン)及びSn(スズ)は、任意成分であるが、微量含有することで鋼板表面における酸化や窒化を抑制できるため、それらに起因する表面欠陥を低減する効果がある。そのため、必要に応じてそれぞれ0.004%以上含有することができる。但し、多量に含有させると強度の上昇と靭性の劣化、及びコストの増大を招く。そのため、Sb、Snを含有する場合には、これらの含有量はそれぞれ0.02%以下とする。
(Ca含有量:0.01%以下、REMの含有量:0.01%以下)
Ca(カルシウム)及びREM(希土類金属)は、任意成分であるが、Sとの親和性が強いため、鋼中Sを固定し、また熱延及び冷延によって鋼中で進展して破壊の起点となるS介在物の形態を制御することができる。この効果を得るために、Ca、REMのそれぞれを0.002%以上含有することができる。しかしながら、これらは0.01%を超えて含有しても効果は飽和する。このため、Ca、REMを含有する場合には、これらの含有量はそれぞれ0.01%以下とする。
〔組織〕
本発明に係る高強度冷延鋼板は、上記成分組成を有した上で、さらに、フェライトを主相として、第二相体積分率が3体積%以上50体積%以下であり、第二相としては体積分率1体積%以上15体積%以下のマルテンサイト、体積分率2体積%以上49体積%以下の残留オーステナイト、L断面における第二相の長軸方向の圧延方向に対する角度の平均が45°未満であることを特徴とする。これにより、優れた延性と低い降伏比を両立し、降伏点伸びの無い鋼板が得られる。以下、本発明に係る高強度冷延鋼板の組織について説明する。
ここで、フェライトについて、ポリゴナルフェライトとベイニティックフェライトは、組織形態がやや異なるものの、光学顕微鏡や走査型電子顕微鏡を用いての組織判別が容易でないこと、及び特性が比較的近いことから、両者を区別せずにフェライトと呼称して扱う。第二相は、残留オーステナイトと、マルテンサイトとを有し、主に、フェライト以外の組織中に存在する相である。
第二相は、パーライトやベイナイトを有していてもよく、パーライトはフェライト及びセメンタイトからなる層状組織を指す。ベイナイトは、本発明中ではマルテンサイト変態温度以上でオーステナイトから生成する、針状又は板状フェライトの中に微細な炭化物が分散した比較的硬質な組織を指す。炭化物が生成せずに針状又は板状フェライトのみが生成した組織、一般にベイニティックフェライトと呼ばれる組織は、特に断りの無い限りは、ポリゴナルフェライトと合わせてフェライトの範疇に含める。マルテンサイトはオーステナイトがマルテンサイト変態温度以下で無拡散変態することで生成する。マルテンサイトを生成した後の冷却過程における自己焼戻しや意図的な過時効処理が施されて炭化物を形成するに至ったものは、焼戻しマルテンサイトと呼称するが、特に断りの無い限りはマルテンサイトの範疇に含める。マルテンサイトと残留オーステナイトとは、共に腐食されにくく顕微鏡による判別が困難であるが、残留オーステナイトの体積分率はX線回折法により求めることができる。マルテンサイトの体積分率は、第二相体積分率から他の全ての相の体積分率を除いて求める。なお、以下の各組織の割合を表す%は、体積分率を表すための単位であり、特にことわらない限り体積%を意味する。
(第二相の体積分率:3〜50%)
第二相の体積分率が合計で50%を超えると、引張強度(TS)と降伏強度(YS)が著しく増加し延性が大きく低下する。そのため、第二相の体積分率は、50%以下とし、30%以下とすることが好ましい。引張強度(TS)を十分低減し延性の絶対値を向上する観点から、第二相の体積分率は、20%以下とすることがより好ましい。また、第二相の体積分率は、15%以下とすることが更に好ましい。一方、第二相の体積分率が3%未満であると、TRIP効果による延性向上効果や第二相による低降伏比化の効果が得られないため、第二相の体積分率は3%以上とする。なお、本発明に係る鋼板は、体積分率:100%−(第二相の体積分率)%以上のフェライトを有する。
(マルテンサイトの体積分率:1〜15%)
本発明に係る鋼板では、降伏強度(YS)を低減し降伏点伸び(YP−El)の発生を抑制するため、適切にCを濃化させた硬質なマルテンサイトをフェライト中に適切に分散させることが重要である。降伏強度(YS)を低減し降伏点伸び(YP−El)の発生を抑制するためには少なくとも1%以上のマルテンサイトが必要で、2%以上のマルテンサイトを含有することが好ましい。しかしながら、マルテンサイトが過剰に存在すると鋼板の高強度化を招くため、マルテンサイトの体積分率は15%以下に抑える必要がある。
(残留オーステナイトの体積分率:2〜49%)
本発明に係る鋼板においては、残留オーステナイトは降伏強度(YS)の上昇を抑えつつ延性を向上させるために効果的に作用していると考えられる。すなわち、第二相の多くが残留オーステナイトとなることで第二相中のマルテンサイトの比率が低減するため、初期の降伏強度上昇に寄与しない第二相が増加し、降伏比(YR)を低減する効果がある。一方で、TRIP効果によって降伏以降の加工硬化は著しく増大するため、高い均一伸び(U.El)、全伸び(El)、及び低い降伏比(低YR)を得ることができる。これらの効果を得るためには、残留オーステナイトを少なくとも2%以上含有する必要がある。さらに優れた均一伸び(U.El)を得るためには、残留オーステナイトの体積分率は3%以上であることが好ましく、4%以上であることがより好ましく、特に延性を向上する観点では5%以上であることがさらに好ましい。
一方で、49%を超えた過剰な残留オーステナイトが存在すると、局部延性が悪化するため、残留オーステナイトの体積分率は49%以下とする。引張強度(TS)を低減し延性の絶対値を向上させる観点からは、30%未満が好ましく、15%未満がより好ましい。
(ベイナイトの体積分率:5%以下)
本発明に係る鋼板では、第二相中に微量のベイナイトが生成しても延性に著しい劣化は生じない。しかし、過剰なベイナイトはオーステナイト中のC濃化量を低減させ延性の向上を阻害する場合がある。さらに、ベイナイトは硬質なため、生成量が増加すると降伏比(YR)を増加させるため少ないほうが好ましい。従って、ベイナイトの体積分率は5%以下に抑えることが好ましい。
(パーライトの体積分率:10%未満)
パーライトは、Cが濃化した第二相から生成することでCを消費してしまうので、残留オーステナイトの安定性を低下して延性を低減させるため、極力生成しないことが好ましい。パーライトを生成する場合には、第二相中の10%未満であることが好ましい。パーライトの体積分率は5%未満、より好ましくは2%未満、さらに好ましくは1%未満に抑える。
(第二相に対する残留オーステナイトとマルテンサイトとの合計体積分率の比率:85%以上)
パーライト及びベイナイトといった炭化物の析出を伴った第二相が生成すると、マルテンサイトや残留オーステナイトのC濃化量が低減する。そのため、硬質なマルテンサイトが減少し降伏比(YR)の増加や降伏点伸び(YP−El)の発生、均一伸び(U.El)の低下を招く。加えて、残留オーステナイトの安定性も低下するため、均一伸び(U.El)や全伸び(El)の低下を招く。従って、炭化物の析出を伴った相の体積分率は、第二相体積分率中の15%未満とすることが重要であり、第二相に対するマルテンサイトと残留オーステナイトの合計体積分率の比率は85%以上とする。
(L断面における第二相の長軸方向が圧延方向に対して為す角度の平均が45°未満)
上記のような第二相の効果をより向上させるための組織制御として、L断面における第二相の長軸方向の圧延方向に対して為す角度の平均を45°未満とすること、より好ましくは、第二相の長手方向の角度(測定方法の詳細は後述する)を板厚方向に対して垂直方向に向けることが効果的であることが分かった。この原因は明確ではないが、プレス成形時の変形方向(鋼板の板面方向)に伸張した第二相が増加することで、フェライトの降伏促進の効果が顕著に得られるためであると考えられる。また、残留オーステナイトにおいては、伸長方向が流動方向に沿うことで鋼板変形による歪が残留オーステナイトに集中しにくくなるため、相対的に歪に対するTRIP変態の安定性が向上し、より変形後期に加工硬化することで、延性を向上させる効果があると考えられる。
そこで、第二相の角度に及ぼす熱延仕上げ温度の影響、および降伏比(YR)とTSとElのバランス(引張強度と全伸びとのバランス、TS×El)に及ぼす第二相の角度の影響を調査した。図1、図2、図3は、成分組成をC:0.136%、Si:0.04%、Mn:1.24%、P:0.005%、S:0.009%、Al:1.63%、Cr:0.22%、N:0.0022%、B:0.0021%とした鋼の熱延仕上げ温度を変化させたときの第二相の長軸方向の角度変化を示す図、第二相の長軸方向の角度を変化させたときの降伏比(YR)の変化を示す図、第二相の長軸方向の角度を変化させたときのTSとElのバランスの変化を示す図である。ここで、●は鋼板の成分および組織が本発明の範囲内の鋼であり、□は●と鋼の成分は同成分であるが、13%の第二相中に残留オーステナイトとマルテンサイトとが46質量%含まれる鋼である。なお、●は後述の実施例の処理番号18、20〜23の鋼板についてのデータを示し、□は後述の実施例の処理番号19の鋼板についてのデータを示す。また、●の中でも図中、斜線部領域から外れているものは、処理番号20の鋼板についてのデータを示す。また、L断面とは、圧延方向に平行で鋼板の板厚方向の断面のことを指す。
試験片の作製方法は以下の通りである。すなわち、上記の成分組成を有する27mm厚のスラブを1200℃に加熱後、仕上げ圧延温度650〜910℃で3mm厚まで熱間圧延し、直ちに水スプレー冷却を行い650℃の温度範囲で1時間の巻取り相当処理を実施した後に炉冷した。この熱延板を0.70mm厚まで圧延率77%で冷間圧延し冷延板とした。これを、800℃で120秒の焼鈍を行った後に、平均冷却速度10℃/sで700℃まで一次冷却し、続いて450℃までを平均冷却速度40℃/sで冷却し30sの等温保持を行った後、200℃まで平均冷却速度20℃/s、さらにそこから室温までを平均冷却速度:10℃/sで冷却し、伸張率:0.2%の調質圧延を施した。一部の鋼板は、一次冷却を3℃/sで600℃までとし、二次冷却以降は同様の処理を行った。
このようにして得られた鋼板からJIS5号引張試験片を採取し、JISZ2241(1998年)に記載の方法に従って引張試験を実施した。また、鋼板のミクロ組織の圧延方向に対する角度を求めるために以下の測定を行った。すなわち、鋼板のL断面を研磨後ナイタール(硝酸を含有するアルコール液)で腐食させ、走査型電子顕微鏡にて倍率3000倍の組織写真を10視野撮影し、得られた組織写真データにおいて第二相に相当する領域を画像解析により抽出し、画像解析ソフト(日本ローパー社製、Image−Pro ver.7)を用いて第二相の長手方向が圧延方向に対して為す角度を測定した。図4にイメージ図を示す。第二相の長軸方向が圧延方向と等しい場合を0°とし、板厚方向と等しい場合を90°として、0〜90°の範囲で測定した。
組織写真において、フェライトは暗色のコントラストを持つ領域であり、フェライト中に白色のコントラストの炭化物がラメラー状に観察された領域をパーライト、フェライト中に白色の炭化物が点列状に観察された領域をベイナイトとし、それ以外のフェライトよりも明るいコントラストの付いている領域をマルテンサイトおよび残留オーステナイトとした。パーライト、ベイナイト、マルテンサイト、及び残留オーステナイトと認められる領域の体積分率を測定し、これらを合計した体積分率を第二相の体積分率とした。
残留オーステナイトの体積分率は、次の方法により求めた。研削及び化学研磨により、鋼板の板厚1/4部を露出し、Mo−Kα線を線源とし加速電圧50keVにて、X線回折装置(装置:Rigaku社製RINT2200)によって鉄のフェライト相の{200}面、{211}面、{220}面と、オーステナイト相の{200}面、{220}面、{311}面のX線回折線の積分強度を測定し、これらの測定値を用いて非特許文献(理学電機株式会社:X線回折ハンドブック(2000),p26、62−64)に記載の計算式を用いて残留オーステナイトの体積分率を求めた。マルテンサイトの体積分率は、上記のミクロ組織から測定したマルテンサイトと残留オーステナイトとの合計体積分率からX線回折法で測定した残留オーステナイトの体積分率を差し引いて求めた。
図1から、熱延仕上げ温度を低下することで、焼鈍後のミクロ組織のL断面における第二相が圧延方向に対して為す角度θが低下し、圧延方向に揃ってくる様子がわかる。そして、図2から、第二相の長軸方向の圧延方向に為す角度が減少して、第二相の長軸方向が圧延方向に揃うほど、降伏比(YR)は顕著に低下することが分かった。とくに45°未満の角度に揃った場合、YRが0.60(60%)未満の良好な低YRが得られた。一方で、図3から、同角度が45°未満の角度では、TSとElのバランスは20500MPa・%超えの高い値を示すことがわかる。この鋼はTSとElのバランスも14000MPa%以上と優れた均一伸び(U.El)を示す。ただし、図中(□)に示した第二相中に多量のパーライトを含有する鋼では優れた低YRや高いTSとU.Elのバランス(引張強度と均一伸びとのバランス、TS×U.El)は得らないことから、第二相がマルテンサイトや残留オーステナイトを主体とするミクロ組織とした場合にのみこの効果が顕著に得られることが分かる。以上の結果から、主としてマルテンサイト及び残留オーステナイトを有する複合組織鋼板において、第二相が圧延方向に対して為す角度を45°未満にそろえることで、YRを低減し高い均一伸び(U.El)を得られることが明らかとなった。このような理由から、第二相の角度を圧延方向に対して45°未満にする必要がある。さらに、優れた効果を得る観点からは、40°以下が好ましく、35°以下であることがより好ましい。
(熱延鋼板のL断面における第二相の長軸方向が圧延方向に対して為す角度の平均が30°未満あるいは熱延板のフェライトのアスペクト比1.2以上4以下)
焼鈍された冷延鋼板のミクロ組織は熱延鋼板の組織影響を強く受ける。焼鈍板の第二相の長軸方向を圧延方向に対して45°未満とするには、熱延鋼板組織をさらに顕著に圧延方向に伸張させる必要がある。このような理由から、熱延板の第二相の長軸方向が圧延方向と為す角度の平均は30°未満とすることが好ましい。より好ましくは20°未満である。また、熱延板組織については、フェライト粒の伸張によっても表せ、フェライト粒のアスペクト比を(圧延方向の長さ)/(厚み方向の長さ)とすると、その平均は1.2以上とすることが好ましい。より好ましくは1.4以上である。これらの組織は、先述の適切なAl量を含む鋼において後述のFTx℃以下で仕上げ圧延することで得られる。一方で、フェライト粒のアスペクト比が4を超える顕著な繊維状組織を呈する場合、冷圧後の焼鈍再結晶においても未再結晶組織が残存し降伏応力(YP)を著しく増大させ、延性は極端に劣化するため4以下とすることが好ましい。
本発明においては、以上のような成分組成及びミクロ組織とすることで、降伏比(YR)が低く、降伏点伸び(YP−El)の発生が抑制され、優れた延性と均一伸び(U.El)を有する高強度冷延鋼板及び高強度めっき鋼板を得ることができる。本発明鋼において、TSを390MPa以上780MPa未満に制御すると特に全伸び(El)と均一伸び(U.El)の絶対値が優れて高く、降伏応力(YP)の絶対値が低い鋼板が得られる。
〔製造方法〕
本発明においては、所定の成分鋼を上記の組織に制御することによって低い降伏比(低YR)と高い均一伸び(U.El)を有する高強度鋼板が得られるが、以下にこのような高強度鋼板を得るための製造方法について説明する。
熱間圧延前のスラブ加熱温度は1000〜1300℃とすることが好ましい。加熱温度が1000℃未満では熱間圧延時の圧延負荷が増大する場合がある。また、鋼中の合金元素が適切に均質化されない場合がある。一方、加熱温度が高ければ、合金成分及び組織の均一化と圧延負荷の低減とが図れるが、1300℃を超えるとスラブ表面に生成される酸化スケールが不均一に増加し表面品質が低下する場合がある。従って、スラブ加熱温度は1300℃以下とすることが好ましい。
次に、熱間圧延は常法に従って行えば良いが、仕上げ圧延終了温度は本発明において適切に制御することで得られる。仕上げ圧延終了温度が焼鈍組織の第二相の角度に及ぼす影響を調査した結果はすでに図1に示した。仕上げ圧延温度としては650〜910℃を採用した。その結果、仕上げ温度が以下の式(1)で求められるFTx℃以下で、焼鈍後の第二相が圧延方向に為す角度が45°未満になることが分かる。ここから、仕上げ温度はFTx℃以下とすることが好ましい。より安定的に鋼板全体をフェライト域圧延するには仕上げ圧延温度をFTx−50℃未満とすることが好ましい。
FTx=850−200C−5Mn+40(Al+Si)・・・(1)
なお、式(1)中、C、Mn、Al、Siは、各組成の含有量(質量%)を示す。
仕上げ温度がFTx℃以下になるとフェライト域圧延になって、フェライトおよび第二相が進展された熱延組織となる。この第二相が進展された形態が冷圧及び焼鈍後も残存するので、第二相の長軸方向が圧延方向を向くことを促進する効果があると考えられる。さらに、フェライト変態が促進されることでフェライトと第二相の粒径は粗大化し、冷圧負荷が軽減する効果、そして巻取り時に第二相への合金元素の分配が促進されるため焼鈍時の第二相の安定性が向上する効果が期待される。また、バッチ焼鈍によって圧延方向に伸長した再結晶組織を作製することも有効であり、このような熱延組織を伸長化する手法は組み合わせて使っても良い。
また、仕上げ圧延温度が650℃未満では熱延鋼板の組織が硬質化して熱延負荷を著しく増加させる場合があるため、650℃以上とすることが好ましい。また、より好ましくは、700℃以上である。
熱延鋼板のミクロ組織も上記の熱延条件により、フェライト粒径が粗大で第二相の角度が圧延方向に揃ったミクロ組織を形成する。そこで、熱延板のミクロ組織は、第二相が圧延方向に為す角度の平均が30°未満であることが好ましい。
熱延鋼板は、巻取温度500℃超で巻き取ることが好ましい。これは、熱延鋼板組織をフェライト+第二相の複合組織として、第二相へCやMnといった合金元素を分配しやすくするとともに、熱延鋼板強度を低強度化し、次工程の冷延負荷の増大を抑制するためである。上記に加えて、巻取ったコイル中で易酸化元素であるAl、Siの内部酸化が進みやすいため、その後の焼鈍時に合金元素が鋼板表面で酸化物を形成させずに、めっき性や化成処理性の劣化を抑制する効果がある。これに対して、巻取温度が500℃以下では、低温変態相の生成量が増大するので、冷延負荷が増大し、合金元素の分配も低減すると共に、熱延巻取り時の内部酸化量が低減し、めっき性および化成処理性が低下する場合もある。更に、焼鈍後のミクロ組織における第二相の方向がランダム化する場合があり、延性向上と降伏比(YR)の低減に好ましくない場合もある。
熱延鋼板を巻き取った後、酸洗処理を施したコイルに冷間圧延を行う。冷間圧延の条件は常法に従って行えばよいが、目標の特性を得るためには、冷間圧延率は40〜90%とすることが好ましい。
このようにして得られた冷延鋼板を、焼鈍温度750℃以上950℃以下まで昇温し、同温度域にて20秒以上保持することが好ましい。これにより、組織中の炭化物を全て溶解してオーステナイトを生成するとともに、オーステナイトへのC、Mnといったオーステナイト安定化元素の分配を促す。焼鈍温度が750℃未満であったり保持時間が20秒未満であったりすると、未固溶の炭化物が残存し延性が低下したり降伏比(YR)が上昇したりする場合がある。炭化物を十分に溶解する観点から、焼鈍温度は770℃以上とすることがより好ましい。しかしながら、950℃を超える均熱温度での操業は焼鈍設備の負荷が大きいので焼鈍温度は950℃以下とすることが好ましい。また均熱保持時間が200秒を超えると、焼鈍設備の長大化又は生産速度の大幅な低下を招く場合もあるため、200秒以下とすることが好ましい。
焼鈍後は直ちに冷却を施す。特性を向上させる観点では、冷却時の冷却速度を温度帯によって一次冷却と二次冷却に分割制御することが好ましい。一次冷却工程は、本発明鋼板のフェライト分率を決めるために非常に重要な工程である。一次冷却速度が遅く一次冷却停止温度が低いほどフェライト体積分率が増加して、未変態オーステナイトのC濃化量が増加し延性は向上する。ただし、冷却速度が遅すぎたり、停止温度が低すぎたりするとパーライト変態が起こるため、延性の著しい低下とYRの上昇を招く場合もある。本発明に係る鋼板は、一次冷却平均速度を3℃/s未満とした場合、パーライト変態が高温で起こりやすくなる。従って、一次冷却平均速度は3℃/s以上とすることが好ましい。パーライト変態を十分に回避するには、一次冷却平均速度は5℃/s超であることが好ましい。一方、50℃/s超では冷却速度が速すぎて、フェライト変態が十分に進行せずに硬質なベイナイトが増加し降伏比(YR)の上昇を招く。従って、一次冷却平均速度は50℃/s以下とすることが好ましい。より好ましくは20℃/s以下である。一次冷却停止温度は下記式(2)で表される温度T以上とすることが好ましい。
T=890−160{Mn+1.3Cr+5P+150B}−3CR・・・(2)
ここで元素記号は各合金元素含有量(質量%)を示し、CRは平均の一次冷却速度を示す。
引き続いて、上記の一次冷却停止温度から300〜500℃の温度範囲まで、平均冷却速度20℃/s以上で二次冷却することが好ましい。20℃/s未満ではオーステナイトの一部がパーライト変態して、延性が低下する場合もある。従って、優れた延性を確保する観点で20℃/s以上とすることが好ましい。より好ましくは30℃/s以上である。
二次冷却に引き続いて、鋼板を300℃以上500℃以下の温度域で10秒以上保持することが好ましい。これにより、ベイニティックフェライトを生成させることで、オーステナイトへのC濃化をさらに促進すると共に、圧延方向に進展したベイニティックフェライトを生成させることで圧延方向に対する残留オーステナイトの平均角度を45°未満とすることに寄与することができる。ここで、中間保持において保持温度は300℃から500℃の範囲であれば保持途中で変化させてもよい。保持時間が10秒未満では、ベイニティックフェライト生成が十分に進行せず、残留オーステナイト分率及びその安定度が不足し、また、第二相の角度がランダム化し、延性が低下する。一方、この温度域で300秒を超えて保持を行うと、オーステナイトがパーライトやベイナイトへと分解してしまうので、延性が著しく低下する場合もある。このため、中間保持温度域での保持時間は300秒以内とすることが好ましい。より炭化物相の生成を抑制し、優れた延性と低い降伏比(YR)を得る観点からは、保持時間tを下記式(3)の範囲にすることがより好ましい。
t=1.5(500−T)・・・(3)
ここで、Tは平均の中間保持温度である。
500℃を超える温度域で中間保持を開始すると、パーライトが短時間で多量に生成して、残留オーステナイトの体積分率が減少し延性が著しく低下すると共に、降伏点伸び(YP−El)が発生しYRが顕著に増大する場合もある。また、300℃未満では、マルテンサイトやベイナイトが多量に生成して、やはり延性が低下するとともにYP−Elが発生してYRが増大する場合もある。従って、二次冷却後の温度域は300℃以上500℃以下とする。低温でのベイナイトの生成を抑制する観点で、平均の中間保持温度を400℃以上とするのが好ましい。
このような冷却過程を経た鋼板を、10℃/s以上の平均冷却速度で100℃以下まで冷却することが好ましい。以上により、本発明の高強度冷延鋼板が得られる。
〔高強度めっき鋼板〕
上記の本発明の高強度冷延鋼板に対してめっき処理を施し、高強度めっき鋼板が得られる。具体的には、中間保持された高強度冷延鋼板を溶融亜鉛めっき浴に浸漬し亜鉛めっきを形成した後に、10℃/s以上の平均冷却速度で冷却して、高強度めっき鋼板を得ることができる。また、必要に応じて、490〜600℃の温度域に昇温し3〜100秒保持することで合金化処理を施すこともできる。合金化処理に際しては、合金化温度が490℃未満では合金化が十分に進まない。合金化温度が600℃超では、合金化が著しく促進され、亜鉛めっきが硬質化し剥離しやすくなると共に、オーステナイトがパーライトへと変態し、延性の低下やYP−Elの発生をまねく場合もある。
これらの高強度冷延鋼板および高強度めっき鋼板には、表面粗度の調整や鋼板形状の平坦化の目的から、調質圧延を施してもよい。但し、過剰な調圧は均一伸びを低減させることから、調圧における伸張率は0.1%以上1.5%以下とすることが好ましい。
以上述べたような製造方法を用いることで、複雑な工程を用いることなく、高い延性と低い降伏比を有する高強度冷延鋼板及び高強度めっき鋼板を製造することができる。
〔機械的特性〕
以上のような成分と製造方法から所定のミクロ組織を有する鋼が製造される。それらの鋼は、引張強度(TS)が390MPa以上780MPa未満でありながら、降伏比(YR)は0.60(60%)未満であり、降伏点伸びは0.2%以下でストレッチャーストレインを生じない。さらにTSとElのバランス(引張強度と全伸びとのバランス、TS×El)は20000MPa%以上、TSとU.Elのバランス(引張強度と均一伸びとのバランス、TS×U.El)は14000以上と優れた延性も併せ持つ。
さらに高延性化および低降伏比とする観点では、引張強度(TS)を590MPa未満とすることが好ましく、降伏比(YR)は0.55以下となり、TSとElのバランスは20500MPa%以上、TSとU.Elのバランスは14500MPa%以上となる。
以下、本発明の実施例について説明する。
表1に供試鋼の化学成分組成(残部:鉄及び不可避的不純物、Nは不可避的不純物相当)を示す。また、表2に製造条件を示す。表1に示す化学成分組成の鋼を真空溶解炉にて溶製し、鋳造してスラブとした。これを1200℃まで再加熱した後に、粗圧延を施し、厚さ約27mmの粗バーとした。これを更に、仕上げ温度650〜910℃で厚さ3mmまで熱間仕上げ圧延を行った後、450〜650℃の加熱炉で1時間保持後に炉冷を施して巻取相当処理を行い熱延板とした。この熱延板のスケールを酸洗により除去後、圧延率77%で冷間圧延し厚さ0.7mmの冷延板とした。このようにして得られた冷延板を、表2に示す温度条件に従って焼鈍加熱、一次冷却、二次冷却、及び中間保持を行った後、200℃まで平均冷却速度20℃/s、さらにそこから室温までを平均冷却速度10℃/sで冷却し冷延鋼板とした。一部の鋼板は、中間保持を行った後、460℃の溶融亜鉛めっき浴に浸漬し、520℃で20秒の合金化処理を施し、合金化溶融亜鉛めっき鋼板とした。これらの鋼板に伸張率0.2%の調質圧延を施した。
Figure 2016074965
Figure 2016074965
このようにして得られた鋼板から板幅方向を長手方向とするJIS5号引張試験片を採取し、JISZ2241(1998年)に準拠した引張試験を実施し、各種の機械的特性(引張強度(TS)、降伏強度(YS)、降伏点伸び(YP−El)、均一伸び(U.El)、全伸び(El))を測定した。また、以下の方法でミクロ組織の体積分率を評価した。すなわち、鋼板のL断面を研磨後ナイタールで腐食させ、走査型電子顕微鏡にて倍率3000倍の組織写真を10視野撮影し、得られた組織写真データにおいて、第二相に相当する領域の画素数を画像解析ソフト(Image Pro Plus ver.4.0)の機能を用いて計数し、写真全体の画素数に対する割合を算出することで面積率を測定した。また、第二相の角度は、第二相の各粒子領域を同解析ソフトで検出し、各第二相粒子の形状における長軸方向を決定し、それが圧延方向に対して為す角度を算出した。イメージ図を図3に示す。
なお、組織写真において、フェライトは黒色のコントラストの領域であり、黒色と白色が緻密な層状組織を為している領域をパーライト、フェライト中に点列状に白色の炭化物のコントラストが観察された領域をベイナイトとし、フェライトよりも明るいコントラストの付いている広い領域をマルテンサイト又は残留オーステナイトとした。パーライト、ベイナイト、マルテンサイト、及び残留オーステナイトと認められる領域の体積分率を測定し、これらを合計した体積分率を第二相体積分率とした。よって、フェライトの体積分率(%)は、100から第二相体積分率(%)を引くことで求められる。
残留オーステナイトの体積分率は、次の方法により求めた。研削及び化学研磨により、鋼板の板厚1/4部を露出し、Mo−Kα線を線源とし加速電圧50keVにて、X線回折装置(装置:Rigaku社製RINT2200)によって鉄のフェライト相の{200}面、{211}面、{220}面と、オーステナイト相の{200}面、{220}面、{311}面とのX線回折線の積分強度を測定し、これらの測定値を用いて文献(理学電機株式会社:X線回折ハンドブック(2000),p26、62−64)に記載の計算式から残留オーステナイトの体積分率を求めた。マルテンサイトの体積分率は、先述の組織写真から測定したマルテンサイトと残留オーステナイトとの合計体積分率からX線回折法で測定した残留オーステナイト(残留γ)の体積分率を差し引いて求めた。これらの結果を表3に示す。
Figure 2016074965
引張強度(TS)については、390MPa以上780MPa未満である場合を良好であるとした。降伏比(YR)については、60%未満である場合を良好であるとした。降伏点伸びについては、0.2%以下である場合を良好であるとした。TSとElのバランス(引張強度と全伸びとのバランス、TS×El)については、20000MPa%以上である場合を良好であるとした。TSとU.Elのバランス(引張強度と均一伸びとのバランス、TS×U.El)については、14000MPa%以上である場合を良好であるとした。
めっき外観については、合金化めっき鋼板の表面に不めっきおよび鋼板表層のスケールを起因とするめっき模様がない場合を良好であるとした。
さらに高延性化および低降伏比する観点では、引張強度(TS)を590MPa未満とすることが好ましく、降伏比(YR)は55%以下とすることが好ましく、TSとElのバランスは20500MPa%以上とすることが好ましく、TSとU.Elのバランスは14500MPa%以上とすることが好ましい。
表3からわかるように、本発明の範囲内の成分組成及び製造条件を満たした本発明例の鋼板はいずれも優れた延性と低い降伏比(YR)を発揮し、降伏点伸び(YP−El)は発生しなかった。また、本発明例の鋼板では、高価な成分を必要とせず、合金コストを抑制できると共に、鋼板の一般的な製造用の設備に追加の装置は必要とはせず、製造コストを抑制することもできた。これに対し、C、Alが下限以下の鋼A、およびMnが下限以下の鋼Eを用いて製造した処理番号1〜3、24の鋼板は、パーライト及びベイナイト体積分率が高く残留オーステナイトが少ないため、TSとElのバランスは20000MPa%未満、TS−U.ELも14000MPa%未満で、YP−Elも発生するためYRは0.60(60%)超となる。また、処理番号1、2の比較から、α域圧延は第二相の角度を低減する効果は認められるが、第二相の85%以上がマルテンサイトおよび残留オーステナイトから構成される本発明鋼の組織要件を満たさなければ0.60以下の低YRと20000MPa%以上のTSとElのバランスを兼備した鋼板を得ることができないことがわかった。また、Mnが2.0を超える鋼Hを用いて製造した処理番号27は、焼鈍時のオーステナイトの変態が過剰に抑制されるため適切なミクロ組織構成を得ることが難しくなり、YRが上昇し、TSとElのバランス(引張強度と全伸びとのバランス、TS×El)は低下してしまう。また、Siが高い鋼Iを用いた処理番号28は、機械的特性は優れた特性が得られたものの、めっき表面に不めっきとめっき厚みムラが発生し表面品質の点で劣った。また、巻取り温度が500℃未満の処理番号24は、第二相の角度が45°超であり、内部酸化量が不足するため、めっき表面品質が劣化することが分かる。
成分が本発明の範囲内の供試鋼でも、製造条件を外れる鋼板は、以下のようにいずれかの特性が劣っていた。熱延の仕上げ圧延終了温度がFTx以上の処理番号4または16、20は、同成分かつFTx以下で仕上げ圧延を終了した処理番号5または13、18と比較して、第二相の角度が45°超のため、YRが0.60超であったり、TSとElのバランスやTSとU.Elのバランス(引張強度と均一伸びとのバランス、TS×U.El)が劣っていたりした。焼鈍温度が低い処理番号15は、冷延板中のパーライトが炭化物として残存し残留オーステナイト分率が2%未満となり延性が低下した。一次冷却速度および二次冷却速度が遅い処理番号8は、第二相がほぼパーライトへと分解してしまったため、延性が低下しYP−Elが発生してYRが著しく増大した。また、二次冷却停止温度が500℃超の処理番号9はパーライトが増加し延性が低下した。
以上、本発明者によってなされた発明を適用した実施の形態について説明したが、本実施形態による本発明の開示の一部をなす記述及び図面により本発明は限定されることはない。すなわち、本実施形態に基づいて当業者などによりなされる他の実施の形態、実施例及び運用技術などは全て本発明の範疇に含まれる。

Claims (9)

  1. 質量%で、C:0.060%以上0.250%以下、Si:0.50%未満、Mn:0.80%以上2.00%未満、P:0.001%以上0.050%以下、S:0.020%以下、Al:0.50%以上2.00%以下、N:0.0050%未満を含有し、残部Fe及びその他不可避的不純物からなり、
    フェライト:50〜97体積%と、第二相:3〜50体積%と、からなり、
    前記第二相は、残留オーステナイト:2〜49体積%と、マルテンサイト:1〜15体積%とを有し、
    前記残留オーステナイトと、前記マルテンサイトとは、前記第二相中、85体積%以上占めており、
    L断面における前記第二相の長軸方向が圧延方向に対して為す角度の平均が45°未満であることを特徴とする高強度冷延鋼板。
  2. 質量%で、さらにB:0.00050%以下、Cr:1.00%以下、Ni:0.50%以下、Cu:0.10%以下、Mo:0.10%以下から選ばれる1種又は2種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載の高強度冷延鋼板。
  3. 質量%で、さらにTi:0.100%以下、Nb:0.10%以下、V:0.10%以下から選ばれる1種又は2種以上を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の高強度冷延鋼板。
  4. 質量%で、さらにSb:0.02%以下、Sn:0.02%以下から選ばれる1種又は2種を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の高強度冷延鋼板。
  5. 質量%で、さらにCa:0.01%以下、REM:0.01%以下から選ばれる1種又は2種を含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の高強度冷延鋼板。
  6. 請求項1〜5のいずれか1項に記載の高強度冷延鋼板にめっき処理を施した高強度めっき鋼板。
  7. 請求項1〜5のいずれか1項に記載の高強度冷延鋼板の製造方法であって、L断面における第二相の長軸方向が圧延方向に対して為す角度の平均が30°未満である熱延鋼板又は前記フェライトのアスペクト比が1.2以上4以下である熱延鋼板を冷間圧延し、焼鈍することを特徴とする高強度冷延鋼板の製造方法。
  8. 前記熱延鋼板の熱間圧延における仕上げ圧延温度が、以下の式(1)で示されるFTx℃以下であることを特徴とする請求項7に記載の高強度冷延鋼板の製造方法。
    FTx=850−200C−5Mn+40(Al+Si)・・・(式(1))
    (式(1)中、C、Mn、Al、Siは、各組成の含有量(質量%)を示す。)
  9. 請求項7又は8に記載の高強度冷延鋼板にめっき処理を施すことを特徴とする高強度めっき鋼板の製造方法。
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