本発明に係る液体クロマトグラフィー用カラム(以下、適宜「本LCカラム」という。)、及び、本LCカラムに使用される粒状多孔体(以下、単に「粒状多孔体」という。)の実施の形態につき、図面に基づいて説明する。
先ず、本LCカラムに使用される粒状多孔体1の構造的特徴について説明する。粒状多孔体1の各粒子は、図1に模式的且つ平面的に示すように、3次元連続網目構造の無機化合物からなる骨格体2を有し、更に、骨格体2の間隙に形成された貫通孔3と、骨格体2の表面から内部に向けて延伸する該表面に分散して形成された細孔4からなる2段階階層的多孔構造を有する。ところで、本明細書では、「骨格体の表面」は、貫通孔に向けて露出した骨格体の面を指し示し、骨格体に形成された細孔の内壁面は含まない。また、「骨格体の表面」と細孔の内壁面を合わせた骨格体の総表面は、「粒状多孔体の表面」と呼ぶ。尚、貫通孔と細孔は、夫々、マクロポア、メソポアと呼ばれることもある。
本実施形態では、骨格体2を形成する無機化合物として、シリカゲルまたはシリカガラス(SiO2)を想定する。粒状多孔体1の各粒子は、細孔4の孔径分布の最頻孔径φ0mが、2nm以上80nm以下の範囲内にあり、貫通孔3の孔径分布の最頻孔径φ1mが、細孔4の最頻孔径φ0mの5倍以上で、且つ、0.1μm以上10μm以下の範囲内にあり、粒子径Dpが、貫通孔3の最頻孔径φ1mの5倍以上で、且つ、20μm以上250μm以下の範囲内にある。
貫通孔3及び細孔4の各最頻孔径は、周知の水銀圧入法で測定した孔径分布の最頻値(モード値)である。尚、細孔4の孔径分布は、周知の窒素吸着測定によるBJH法により導出されたものを使用しても良い。また、貫通孔3の最頻孔径は、骨格体2の電子顕微鏡写真から任意の20乃至30程度の分散した箇所の貫通孔径の計測し、その平均値として導出される平均孔径と大差はない。図2に、水銀圧入法で測定した貫通孔3及び細孔4の孔径分布を示す。横軸が貫通孔3及び細孔4の孔径(単位:μm)で、縦軸が微分細孔容積(単位:cm3/g)である。但し、微分細孔容積は微分貫通孔容積も含む。左側のピークが細孔4の最頻孔径を示し、右側のピークが貫通孔3の最頻孔径を示している。図2の例では、貫通孔3及び細孔4の各最頻孔径は、約1.76μmと約71nmで、各半値幅は、約0.29μmと約22nmとなっている。尚、貫通孔3及び細孔4の孔径分布は、粒子状の粒状多孔体1に対して測定した結果と、後述する粒状化前の同じ2段階階層的多孔構造を有するモノリス多孔体に対して測定した結果は、実質的に同じである。従って、貫通孔3及び細孔4の孔径分布は、モノリス多孔体の状態で測定しても良い。
本実施形態では、粒状多孔体1は、以下で詳細に説明するスピノーダル分解ゾルゲル法で合成された塊状の3次元連続網目状構造のシリカゲルまたはシリカガラスからなるシリカモノリス多孔体を、焼結前または焼結後に粉砕して粒状化することで作製される。図3に、尚、シリカモノリス多孔体の3次元連続網目状構造を示すSEM(走査型電子顕微鏡)写真の一例を示す。粉砕直後の粒状多孔体1の各粒子の粒子径は大小混在しているため、篩掛けして分級することで、所望の粒径範囲の粒状多孔体1が得られる。従って、上述の粒子径の範囲の上限値と下限値は、分級処理に使用する2種類の篩の目開きの値である。
次に、粒状多孔体1の作製方法について説明する。粒状多孔体1の作製方法は、粒状多孔体1の原料となる2段階階層的多孔構造を有するモノリス多孔体の合成工程と、その後の粒状化工程に、大きく分類される。
先ず、3次元連続網目状構造のシリカゲルまたはシリカガラスからなるモノリス多孔体のスピノーダル分解ゾルゲル法による合成工程について説明する。当該合成工程は、更に、ゾル調製工程、ゲル化工程、及び、除去工程に区分される。
ゾル調製工程では、酸またはアルカリ性水溶液中に、シリカゲルまたはシリカガラスの原料となるシリカ前駆体と、ゾルゲル転移と相分離を並行して誘起する働きを有する共存物質を添加して、例えば5℃以下のゾルゲル転移が進行し難い低温下で攪拌し、加水分解反応を起こさせて、均一な前駆体ゾルを調製する。
シリカ前駆体の主成分として、水ガラス(ケイ酸ナトリウム水溶液)、或いは、無機または有機シラン化合物が使用できる。無機シラン化合物の一例として、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ−イソプロポキシシラン、テトラ−n−ブトキシシラン、テトラ−t−ブトキシシラン等のテトラアルコキシシラン類が挙げられる。また、有機シラン化合物の一例として、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ヘキシル、オクチル、デシル、ヘキサデシル、オクタデシル、ドデシル、フェニル、ビニル、ヒドロキシル、エーテル、エポキシ、アルデヒド、カルボキシル、エステル、チオニル、チオ、アミノ等の置換基を有するトリメトキシシラン、トリエトキシシラン、トリイソプロポキシシラン、トリフェノキシシラン等のトリアルコキシシラン類、メチルジエトキシシラン、メチルジメトキシシラン、エチルジエトキシシラン、エチルジメトキシシラン等のジアルコキシシラン類、ジメチルエトキシシラン、ジメチルメトキシシラン等のモノアルコキシシラン類等が挙げられる。また、モノアルキル、ジアルキル、フェニルトリエトキシ等の架橋反応速度制御基置換体を含むアルコキシシリケートやその二量体であるジシラン、三量体であるトリシランといったオリゴマー等もシリカ前駆体として想定される。上述の加水分解性シランは、種々の化合物が市販されており、容易且つ安価に入手可能であり、ケイ素−酸素結合からなる3次元架橋体を形成するゾルゲル反応を制御することも容易である。
酸またはアルカリ性水溶液は、溶媒である水にシリカ前駆体の加水分解反応を促進する触媒として機能する酸または塩基が溶解した水溶液である。上記酸の具体例として、酢酸、塩酸、硫酸、硝酸、ギ酸、シュウ酸、及び、クエン酸等が、また、上記塩基の具体例として、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア水、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、トリメチルアンモニウム等のアミン類、tert−ブチルアンモニウムヒドロキシド等のアンモニウムヒドロキシド類、及び、ソディウムメトキシド等のアルカリ金属アルコキシド類等が想定される。また、上記共存物質の具体例として、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリアクリル酸、ポリエチレンオキシドポリプロピレンオキシドブロック共重合体等のブロック共重合体、セチルトリメチルアンモニウムクロリド等の陽イオン性界面活性剤、ドデシル硫酸ナトリウム等の陰イオン性界面活性剤、及び、ポリオキシエチレンアルキルエーテル等のノニオン系界面活性剤等が想定される。尚、溶媒として水を使用するが、メタノールやエタノール等のアルコール類としても良い。
ゲル化工程では、ゾル調製工程で調製された前駆体ゾルを、ゲル化容器内に注入し、例えば40℃程度のゾルゲル転移が進行し易い温度下でゲル化させる。ここで、前駆体ゾル内には、ゾルゲル転移と相分離を並行して誘起する働きを有する共存物質が添加されているため、スピノーダル分解が誘起され、3次元連続網目状構造を有するシリカヒドロゲル(湿潤ゲル)相と溶媒相の共連続構造体が徐々に形成される。
ゲル化工程において、シリカヒドロゲル層が形成された後も、当該湿潤ゲルの重縮合反応が緩やかに進行して、ゲルの収縮が起こるため、ゲル化工程の後工程(ゲル化後工程)として、ゲル化工程でゾル収容体の空孔内に形成されたシリカヒドロゲル相と溶媒相の共連続構造体を、アンモニア水等の塩基性水溶液に浸漬し、加圧容器内で加熱処理することにより、シリカヒドロゲル相の加水分解反応、重縮合反応、及び、溶解再析出反応を更に進行させ、シリカヒドロゲル相の骨格構造をより強固なものにすることが可能となる。尚、当該ゲル化後工程は、必要に応じて行えば良い。尚、当該加熱処理は、必ずしも加圧容器や密閉容器内で行わなくても差し支えないが、加熱によりアンモニア成分等が生成または揮発する場合があるので、密閉容器内、或いは、耐圧性を有する加圧容器内で処理するのが好ましい。
シリカヒドロゲル相の骨格体を形成するシリカ微粒子の溶解再析出反応の進行により、当該骨格体に形成される細孔径が拡大される。更に、水熱処理により、当該溶解再析出反応を繰り返すことにより、細孔径を更に拡大する制御が可能となる。尚、細孔径の制御は、前駆体ゾル内に上記触媒及び共存物質以外に尿素を添加することによっても実現できる。尿素は60℃以上の温度下で加水分解してアンモニアを生成し、当該アンモニアにより、ゲル化工程で合成された湿潤ゲルの骨格体に形成される細孔の孔径が拡張されるため、尿素の添加により当該細孔径の制御が可能となる。一方、貫通孔の構造及び孔径の制御は、ゾル調製工程で前駆体ゾルに添加する水やシリカ前駆体の量、或いは、共存物質の組成及び添加量等の調整により可能となる。
引き続き、除去工程において、湿潤ゲルの洗浄と乾燥或いは乾燥のみを行い、添加剤や未反応物等を含む溶媒相を除去する。溶媒相除去後の空間が貫通孔となる。洗浄により、溶媒相内に残留した添加剤や未反応物等によって生ずる乾燥時の表面張力を解消し、乾燥時にゲルに歪みや割れが生じるのを抑制できる。洗浄液は、有機溶剤や水溶液等の液体が望ましい。また、有機化合物や無機化合物を溶解させた液体を用いることもできる。更に、洗浄液として酸やアルカリ等のゲルの等電点と異なるpHの溶液を用いても、ゲル内に残留した添加材等を容易に除去することができる。具体的には、塩酸、硫酸、硝酸、フッ酸、酢酸、ギ酸、炭酸、クエン酸、リン酸を始めとする各種の酸、及び、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、水溶性アミン、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムを始めとする各種の塩基を用いることができる。湿潤ゲルの乾燥は、自然乾燥を採用しても良く、更に湿潤ゲルを乾燥させる際に生ずる歪みや割れを解消するために、湿潤ゲル内の溶媒を、イソプロパノール、アセトン、ヘキサン、ハイドロフルオロカーボン等の水より表面張力が低い低表面張力溶媒に置換してから行う乾燥、凍結昇華による乾燥、更に、湿潤ゲル内の溶媒を超臨界状態の二酸化炭素に交換してから無表面張力状態で行う超臨界乾燥等を採用するのも好ましい。
引き続き、得られた乾燥ゲルは焼成により焼結させシリカガラスとすることが可能である。尚、焼成温度が、シリカのガラス転移温度(約1000℃)より低温の場合は、シリカガラスには成らない。
以上のゾル調製工程、ゲル化工程、及び、除去工程を経て、2段階の階層的多孔構造を有する3次元連続網目状構造の乾燥シリカゲルまたはシリカガラスのモノリス多孔体が得られる。
粒状化工程は、上述のゾル調製工程、ゲル化工程、及び、除去工程を経て得られた塊状のモノリス多孔体を破砕して粒状化する工程である。粒状化工程の粉砕処理は、人手によって行っても良く、乳鉢等を用いても良く、また、ボールミル等の破砕装置を使用しても良い。また、粒状化工程は、上記除去工程で得られた乾燥ゲルを焼結させる場合、当該焼結前及び後の何れで行っても良い。
粒状化工程後の粒状化されたモノリス多孔体は、目開きがXμmとYμm(但し、D0≦X<Y≦250)の篩で篩掛けして分級することで、粒子径Dpが所望の粒径範囲内(D0μm以上250μm以下)にある粒状多孔体1として回収される。但し、所望の粒径範囲の下限値D0(μm)は、20(μm)または貫通孔の最頻孔径φ1m(μm)の5倍の何れか大きい方の値である。
本実施形態において、細孔径、貫通孔径、及び、粒子径は、上述のように、夫々独立して制御可能ではあるが、貫通孔3の孔径分布の最頻孔径φ1mが、細孔4の最頻孔径φ0mの5倍以上、粒子径Dpが、貫通孔3の最頻孔径φ1mの5倍以上として規定されているのは、粒状多孔体1の各粒子の骨格体2が、粒状化後も2段階階層的多孔構造の3次元連続網目構造を保持するために、細孔径と貫通孔径の間、貫通孔径と粒子径の間で、夫々、少なくとも5倍程度の寸法比が必要であることが、経験的に把握されていることに基づいている。
本LCカラムは、上記要領で作製された粒状多孔体1を、所定の形状(例えば、円筒状)のガラス製またはステンレス製等のカラム容器内に密に充填して構成される。カラム容器は、従来の細孔のみの単層多孔構造の多孔質シリカ粒子、或いは、有機ポリマー粒子を充填剤として使用する既存の液体クロマトグラフィー用カラムのカラム容器を使用することができる。また、粒状多孔体1のカラム容器内への充填は、従来の多孔質シリカ粒子と同様に行えば良い。尚、カラム容器の形状及び材質は、特定の形状及び材質に限定されるものではない。
本実施形態では、本LCカラムによる分離対象として、ペプチド、タンパク質、または、核酸を想定している。このため、上記要領で作製された粒状多孔体1の表面に、これらの生体分子と親和性を有する官能基を化学修飾して、分離性能の向上を図っている。具体的には、当該官能基として、逆相液体クロマトグラフィーで一般的に使用される疎水性のオクタデシル基を採用した。
次に、本LCカラムの液体クロマトグラフィー用カラムとしての分離性能を評価した測定結果について説明する。先ず、当該分離性能の評価用に作製した本LCカラムの実施例1〜11,1a〜6aと、比較例1〜4,1a,2aの各カラムについて説明する。
実施例1〜11,1a〜6aの本LCカラムに使用される粒状多孔体は、何れも、上述の作製方法、つまり、モノリス多孔体のスピノーダル分解ゾルゲル法による合成工程と粒状化工程を経て作製されたシリカ粒状多孔体である。実施例1〜11では、更に、粒状多孔体の表面にオクタデシル基が化学修飾されており、実施例1a〜6aでは、当該官能基の化学修飾が行われていない。実施例1〜11の相互間、及び、実施例1a〜6aの相互間では、夫々、粒子径の粒径範囲、貫通孔の最頻孔径、細孔の最頻孔径の組み合わせが異なっている。
各実施例に使用される粒状多孔体は、より具体的には、以下の要領で作製した。0.01mol/Lの酢酸水溶液10mL(ミリリットル、cm3)中に、共存物質であるポリエチレングリコール(分子量10000)0.9gを溶解させ、テトラメトキシシラン(TMOS、シリカ前駆体)5mLを加え、攪拌して均一溶液とした後、40℃でゲル化させた。その後、当該ゲルを0.1Mアンモニア水に浸して密閉容器内で100℃にて24時間加熱した後、600℃で5時間焼結した。得られたシリカモノリス多孔体を乳鉢で粉砕し、JIS標準篩を用いて、実施例毎の所定の粒径範囲となるよう分級し、シリカ粒状多孔体を得た。尚、各実施例において、貫通孔径は、添加するポリエチレングリコールの量を増減させて制御し、細孔径は、0.1Mアンモニア水で加熱する温度と時間を調整して制御した。
更に、実施例1〜11のシリカ粒状多孔体は、10%ジメチルオクタデシルクロロシランを含有するピリジン/トルエン(体積比1:4)溶液で一晩加熱還流し、更にその後、50%の1,1,1,3,3,3−ヘキサメチルジシラザンのトルエン溶液で一晩加熱還流して、表面をオクタデシルシリル化した。
上記要領で作製された実施例1〜11,1a〜6aの粒状多孔体は、夫々、エタノールに分散させ、ステンレス製の円筒状のカラム容器(内径4.0mm×長さ250mm)内に、片方の端部から注射器を使い注入して充填し、各実施例の本LCカラムを作製した。
比較例1〜3,1a,2aで使用される充填剤は、従来の細孔のみの単層多孔構造の多孔質シリカ粒子であり、株式会社ワイエムシィ製のシリカ充填剤を使用している。比較例1〜3の充填剤は、実施例1〜11と同様に、オクタデシル基が化学修飾されており、比較例1a,2aでは、実施例1a〜6aと同様に、当該官能基の化学修飾が行われていない。比較例1〜3の相互間、及び、比較例1a,2aの相互間では、夫々、粒子径の粒径範囲が異なっている。
比較例4で使用される充填剤は、従来の2段階階層的多孔構造を有する有機ポリマー粒子であり、アプライドバイオシステムズ社製のポリスチレン−ジビニルベンゼン系の有機ポリマー粒子である。粒子径、貫通孔径、細孔径の各分布範囲(カタログ値)は、夫々、40〜60μm、0.6〜0.8μm、80〜150nmである。比較例4の有機ポリマー粒子の官能基はスチレン基で、オクタデシル基と同様に疎水性を呈する。
比較例1〜3,1a,2aの多孔質シリカ粒子、及び、比較例4の有機ポリマー粒子も、実施例1〜11,1a〜6aと同様に、夫々、エタノールに分散させ、ステンレス製の円筒状のカラム容器(内径4.0mm×長さ250mm)内に、片方の端部から注射器を使い注入して充填し、各比較例のカラムを作製した。
図4に、実施例1〜11と比較例1〜3の各カラムで使用する充填剤の粒子径Dpの粒径範囲、貫通孔の最頻孔径φ1m、細孔の最頻孔径φ0m、及び、比較例4のカラムで使用する充填剤の粒子径Dpの粒径範囲、貫通孔径φ1の範囲、細孔径φ0の範囲を、一覧表示する。図5に、実施例1a〜6aと比較例1a,2aの各カラムで使用する充填剤の粒子径Dpの粒径範囲、貫通孔の最頻孔径φ1m、細孔の最頻孔径φ0m、及び、後述する基本性能の評価結果である理論段数を、夫々、一覧表示する。
次に、実施例1〜11と比較例1〜4に対して行ったペプチドの分離性能の評価結果について説明する。ペプチドの分離性能の評価は、シグマアルドリッチ社製のHPLCペプチド標準混合物の5成分(Gly−Tyr(グリシン−チロシン:分子量238.2)、Val−Tyr−Val(バリン−チロシン−バリン:分子量379.5)、Met−enkephalin(メチオニン−エンケファリン:分子量573.7)、Leu-enkephalin(ロイシン−エンケファリン:分子量555.6)、Angiotensin II Acetate(アンジオテンシンIIアセテート:分子量1046.2))が夫々、0.5mg/mLとなるよう蒸留水に溶解し、アセトニトリル:蒸留水=5:95の移動相Aと、アセトニトリル:蒸留水=75:25の移動相B(何れも0.1%トリフルオロ酢酸含有)を準備し、移動相比が0分時点でA:B=95:5(体積比)から60分時点でA:B=70:30(体積比)となるリニアグラジエント条件にて、総流量を1.0mL/分、検出波長220nm、カラム温度40℃、サンプルインジェクション量10μLの条件で行った。
図6〜図20に、実施例1〜11と比較例1〜4の各カラムを用いたペプチド分離のクロマトグラムを示す。各図の縦軸は検出信号強度(任意単位)で、横軸は時間(分)である。各図中の数字1〜5は、1の近傍のピークがグリシン−チロシン、2の近傍のピークがバリン−チロシン−バリン、3の近傍のピークがメチオニン−エンケファリン、4の近傍のピークがロイシン−エンケファリン、5の近傍のピークがアンジオテンシンIIアセテートであることを、夫々示している。
図4に示すように、実施例1〜7は、粒子径Dpの粒径範囲が100〜150μmで、貫通孔の最頻孔径φ1mと細孔の最頻孔径φ0mの組み合わせ(φ1m,φ0m)が、順番に、(1.5μm,12nm)、(1.5μm,2nm)、(1.5μm,80nm)、(0.1μm,12nm)、(10μm,12nm)、(1.0μm,30nm)、(2.0μm,30nm)となっている。また、実施例8〜10は、粒子径Dpの粒径範囲が64〜212μmで、貫通孔の最頻孔径φ1mと細孔の最頻孔径φ0mの組み合わせ(φ1m,φ0m)が、順番に、(1.5μm,12nm)、(1.5μm,20nm)、(1.5μm,30nm)となっている。実施例11は、粒子径Dpの粒径範囲が20〜250μmで、貫通孔の最頻孔径φ1mが1.5μmで、細孔の最頻孔径φ0mが12nmである。
図6〜図16に示す実施例1〜11のクロマトグラムでは、上記ペプチド標準混合物の5成分のピークが分離しており、本実施形態で設定した粒子径Dpの範囲内(20μm以上250μm以下)、貫通孔の最頻孔径φ1mの範囲内(0.1μm以上10μm以下)、及び、細孔の最頻孔径φ0mの範囲内(2nm以上80nm以下)では、本LCカラムがペプチドに対して良好な分離性能を有していることが分かる。
但し、実施例1〜3のクロマトグラムを比較すると、細孔の最頻孔径φ0mが12nm(下限値2nmの6倍、上限値80nmの約6.7分の1)の実施例1では、上記5成分の各ピークが、裾野が重ならずに明確に分離しているのに対して、細孔の最頻孔径φ0mが2nm(下限値)の実施例2では、上記5成分の内、分子量の大きいロイシン−エンケファリンとアンジオテンシンIIアセテートの各ピーク(4番目と5番目)が近接して裾野が一部重なっており、分離性能の低下が見られ、細孔の最頻孔径φ0mが80nm(上限値)の実施例3では、上記5成分の内、分子量の小さいグリシン−チロシンとバリン−チロシン−バリンの各ピーク(1番目と2番目)が近接して裾野が一部重なっており、分離性能の低下が見られる。実施例3の場合、細孔径が大きくなって細孔比表面積が、実施例1と比較して約8分の1程度に減少するため、分子量の小さい成分ほど早く溶出して、ピーク間の分離が低下して、分離性能の低下として現れる。これらの結果より、細孔の最頻孔径φ0mが2nm程度から細孔径が小さくなるほど分子量の大きなペプチドの分離性能が低下し、細孔の最頻孔径φ0mが80nm程度から細孔径が大きくなるほど分子量の小さなペプチドの分離性能が低下することが分かる。更に、当該評価結果より、ペプチドの吸脱着現象が専ら細孔内で起きていることが明らかであり、分離対象がペプチドである場合は、細孔の最頻孔径φ0mが、2nm以上80nm以下であることが好ましいことが分かる。
実施例1,4及び5のクロマトグラムを比較すると、貫通孔の最頻孔径φ1mが、1.5μm(下限値0.1μmの15倍、上限値10μmの約6.7分の1)の実施例1では、上記5成分の各ピークが明確に分離しているのに対して、貫通孔の最頻孔径φ1mが0.1μm(下限値)の実施例4と、貫通孔の最頻孔径φ1mが10μm(上限値)の実施例5では、上述の実施例2ほどではないが、上記5成分の内、分子量の大きいロイシン−エンケファリンとアンジオテンシンIIアセテートの各ピーク(4番目と5番目)が近接して裾野が一部重なっており、分離性能の低下が若干見られる。この結果より、貫通孔径もペプチドの分離性能に影響していることが明らかであり、最頻孔径φ1mが0.1μm以上10μm以下の範囲内にあることが好ましいと分かる。
実施例1,6及び7のクロマトグラムを比較する。実施例6は、実施例1より貫通孔の最頻孔径φ1mが1.0μmと小さくなり、実施例7は、実施例1より貫通孔の最頻孔径φ1mが2.0μmと大きくなり、何れも、実施例1より細孔の最頻孔径φ0mが30nmと大きくなっている。実施例6及び7では、貫通孔の最頻孔径φ1mが実施例1より変化しているが、設定した下限値及び上限値には余裕があるため、上記5成分の各ピークが明確に分離しており、実施例4及び5のような分離性能の低下は見られない。一方、実施例6及び7では、実施例1より細孔の最頻孔径φ0mが30nmと大きくなっているため、上記5成分の内、分子量の小さいグリシン−チロシンとバリン−チロシン−バリンの各ピーク(1番目と2番目)が、実施例1と比較して近接しているが、まだ十分に分離しており、実施例3のような分離性能の低下は見られない。
実施例1,8及び11のクロマトグラムを比較する。実施例1,8及び11では、何れも、貫通孔の最頻孔径φ1mが1.5μmで、細孔の最頻孔径φ0mが12nmと共通しているが、粒子径Dpの粒径範囲は、100〜150μm、64〜212μm、及び、20〜250μmと広がっている。何れの実施例においても、上記5成分の各ピークが明確に分離しており、良好な分離性能を呈している。粒子径Dpの粒径範囲が広がるに従い、各ピークの間隔が徐々にではあるが近接する傾向は見られるが、粒子径Dpの粒径範囲が20〜250μmと広範であっても、十分な分離性能が得られることが明らかとなった。
実施例8〜10のクロマトグラムを比較すると、何れも、上記5成分の各ピークが明確に分離しており、良好な分離性能を呈しているが、細孔の最頻孔径φ0mが、12nm、20nm、30nmと大きくなるにつれ、上記5成分の内、分子量の小さいグリシン−チロシンとバリン−チロシン−バリンの各ピーク(1番目と2番目)間が近接する傾向が見られるが、細孔の最頻孔径φ0mが80nmの実施例3のような分離性能の低下は表れていない。従って、分離対象がペプチドである場合は、細孔の最頻孔径φ0mが、約10nm以上約30nm以下の範囲では、より安定した分離性能が得られることが明らかである。
比較例1〜3の単層多孔構造の多孔質シリカ粒子は、図4に示すように、細孔の最頻孔径φ0mが、実施例1と同じ12nmであり、粒子径Dpの粒径範囲が、20〜30μm、50〜100μm、100〜200μmと互いに重複せずに異なっている。
図17〜図19に示す比較例1〜3のクロマトグラムでは、上記ペプチド標準混合物の5成分の内、分子量の大きいロイシン−エンケファリンとアンジオテンシンIIアセテートの各ピーク(4番目と5番目)が重なっており、4番目と5番目の成分が完全に分離できておらず、カラムの分離性能が明らかに低下している。比較例1〜3のクロマトグラムを比較すると、相対的に粒子径Dpの小さい比較例1では、辛うじて4番目と5番目の成分が分離し始めているが、十分な分離を得るには、更に、粒子径Dpの小径化を図る必要があり、上述したように、高負荷圧の問題が別途生じる。更に、上述のように、ペプチドの分離には、分離性能の点では、細孔の最頻孔径φ0mは12nmより20nm以上が好ましいと考えられるが、細孔径を大きくし過ぎると、上述した比表面積の減少による保持機能の低下、粒子強度の低下等の問題が生じ得るとともに、分子量の小さいペプチドに対する分離性能が不十分となる可能性もある。よって、単層多孔構造の多孔質シリカ粒子において十分なペプチドの分離性能を得るには、粒子径Dpの粒径範囲、細孔径の分布を、精細に制御する必要があると言える。
比較例4の有機ポリマー粒子は、図4に示すように、粒子径、貫通孔径、細孔径の各分布範囲(カタログ値)は、夫々、40〜60μm、0.6〜0.8μm、80〜150nmである。図20に示す比較例4のクロマトグラムでは、上記ペプチド標準混合物の5成分は、一応明確に分離されているが、分子量の大きい3番目から5番目の成分のピークが近接している。当該傾向は、細孔径の範囲が近い実施例3(細孔の最頻孔径φ0mが80nm)において、分子量の小さいグリシン−チロシンとバリン−チロシン−バリンの各ピーク(1番目と2番目)が近接する傾向とは異なり、貫通孔径の範囲が近い実施例4(貫通孔の最頻孔径φ1mが0.1μm)において、分子量の大きいロイシン−エンケファリンとアンジオテンシンIIアセテートの各ピーク(4番目と5番目)が近接する傾向と類似している。上述のように、有機ポリマー粒子は、変形し易く、粒子径、貫通孔径、及び、細孔径が変化し易いので、カタログ値から大幅に変化している可能性が高いと推察される。
これらに対して、本LCカラムでは、実施例1〜11のように、粒子径Dpの粒径範囲が20μm以上250μm以下、貫通孔の最頻孔径φ1mが0.1μm以上10μm以下、細孔の最頻孔径φ0mが2nm以上80nm以下と、夫々、上記各比較例に対して比較的広範な範囲内で設定しても、十分なペプチドの分離性能が得られ、しかも、上述の高負荷圧の問題も生じず、低いカラム圧で十分な分離性能が得られ、更に、粒子径、貫通孔径、及び、細孔径が変化しないので、安定したペプチドの分離性能が発揮され得る。
次に、実施例1〜11と比較例1〜4に対して行ったタンパク質の分離性能の評価結果について説明する。実施例1〜11と比較例1〜4は、ペプチドの分離性能の評価に使用したものと同じであり、重複する説明は省略する。タンパク質の分離性能の評価は、シグマアルドリッチ社製のHPLCタンパク質標準混合物の4成分(Ribonuclease A(リボヌクレアーゼA:分子量13700)、Cytochrome c、(シトクロムc:分子量12000)、Holo−transferrin(ホロ−トランスフェリン:分子量80000)、Apomyoglobin(アポミオグロビン:分子量16950))が夫々、1.0mg/mLとなるよう蒸留水に溶解し、アセトニトリル:蒸留水=5:95の移動相Aと、アセトニトリル:蒸留水=75:25の移動相B(何れも0.1%トリフルオロ酢酸含有)を準備し、移動相比が0分時点でA:B=70:30(体積比)から50分時点でA:B=20:80(体積比)となるリニアグラジエント条件にて、総流量を1.0mL/分、検出波長210nm、カラム温度40℃、サンプルインジェクション量10μLの条件で行った。
図21〜図35に、実施例1〜11と比較例1〜4の各カラムを用いたタンパク質分離のクロマトグラムを示す。各図の縦軸は検出信号強度(任意単位)で、横軸は時間(分)である。各図中の数字6〜9は、6の近傍のピークがリボヌクレアーゼA、7の近傍のピークがシトクロムc、8の近傍のピークがホロ−トランスフェリン、9の近傍のピークがアポミオグロビンであることを、夫々示している。
図21〜図31に示す実施例1〜11のクロマトグラムでは、上記タンパク質標準混合物の4成分の各ピークが、裾野が重ならずに明確に分離しており、本実施形態で設定した粒子径Dpの範囲内(20μm以上250μm以下)、貫通孔の最頻孔径φ1mの範囲内(0.1μm以上10μm以下)、及び、細孔の最頻孔径φ0mの範囲内(2nm以上80nm以下)では、本LCカラムが、ペプチドのみならずタンパク質に対しても良好な分離性能を有していることが分かる。但し、実施例4及び5では、1番目の成分(リボヌクレアーゼA)のピークより前に別の小さなピークが存在するが、移動相の溶媒或いは不純物が検出されたものと考えられ、タンパク質の分離性能の上記評価結果を左右するものではない。
尚、タンパク質の分離では、ペプチドの分離の場合と異なり、細孔の最頻孔径φ0mが2nm(下限値)の実施例2、及び、細孔の最頻孔径φ0mが80nm(上限値)の実施例3においても、上記4成分の各ピークは、裾野が重ならずに明確に分離しており、分離性能の低下は生じていない。上記タンパク質標準混合物の4成分の分子量(12000〜80000)は、上記ペプチド標準混合物の5成分の分子量(238〜1046)の約50〜100程度大きい。よって、細孔の最頻孔径φ0mが2nm(下限値)及び80nm(上限値)の実施例2及び3において、分離性能の低下が見られないのは、分子量の大きなタンパク質においては、細孔径の小さい実施例2では、専ら貫通孔の表面において分離対象分子の吸脱着現象が起こり、貫通孔の表面に沿ってタンパク質分子が分離されていくと考えられ、貫通孔が、ペプチドに対する細孔のように機能し、細孔径の大きい実施例3では、細孔及び貫通孔の両方の表面において分離対象分子の吸脱着現象が複合して起こり、複雑な分離機構になっているものと考えられる。
ところで、本実施形態で設定した粒子径Dpの範囲(20μm以上250μm以下)、貫通孔の最頻孔径φ1mの範囲(0.1μm以上10μm以下)、及び、細孔の最頻孔径φ0mの範囲(2nm以上80nm以下)は、ペプチドに対する分離性能を基準に設定されているが、タンパク質の分離においても、十分に有効であることが、上記評価結果より明らかとなった。
一方、図32〜図34に示す比較例1〜3のクロマトグラムでは、上記4成分の各ピークは、夫々の裾野が広がり分離が不十分となっている。特に、分子量の大きい3番目の成分(ホロ−トランスフェリン)と4番目の成分(アポミオグロビン)の裾野の広がりが顕著である。また、図35に示す比較例4のクロマトグラムでは、上記タンパク質標準混合物の4成分は、明確に分離されているが、上記4成分の内、2番目の成分(シトクロムc)において裾野の広がりが確認できる。これらに対して、実施例1〜11では、何れの実施例も、4成分の夫々において鋭いピークを示している。
図21〜図31に示す実施例1〜11のクロマトグラムから、本LCカラムが、ペプチドのみならずタンパク質に対しても良好な分離性能を有していることが分ったが、粒状多孔体1の表面に化学修飾されたオクタデシル基は、ペプチド及びタンパク質と同様に、核酸に対しても相互作用するので、本LCカラムは、タンパク質と同程度の分子量の核酸、その他の生体分子に対しても分離性能を有する。
次に、本LCカラムの基本性能(化学修飾を行っていないシリカ表面の分離性能)の評価について説明する。当該基本性能の評価は、高速液体クロマトグラフィーにて、実施例1a〜6aと比較例1a,2aを用いて行った。具体的には、当該基本性能の評価は、シリカ表面と相互作用するo−ニトロアニソール(100ppm)を分離対象の試料とし、移動相をヘキサン:2−プロパノール=98:2(体積比)とし、流量1.0mL/分、検出波長254nm、カラム温度30℃、サンプルインジェクション量1μLの条件で分離分析を行い、o−ニトロアニソールの理論段数を導出し、実施例1a〜6aと比較例1a,2aの各カラム性能を比較した。図5に、実施例1a〜6aと比較例1a,2aの各理論段数を示す。
一般的に、理論段数が高いと分離性能が良いとされているが、理論段数は、シリカ表面の表面積に比例する値であるので、粒子径が小さいほど、細孔径が小さいほど高くなる。図5より、粒子径Dpの粒径範囲が近似する実施例1a〜5aと比較例2aでは、平均するとほぼ同等の性能が示されている。
図5に示す理論段数による評価は、分子量153のo−ニトロアニソールに対する化学修飾を行っていないシリカ表面での分離性能を確認したもので、上述した本LCカラムのペプチド及びタンパク質の分離性能との直接の相関性はない。
しかしながら、図5に示す評価結果より、本LCカラムのシリカ表面が、本実施形態で設定した粒子径Dpの範囲(20μm以上250μm以下)、貫通孔の最頻孔径φ1mの範囲(0.1μm以上10μm以下)、及び、細孔の最頻孔径φ0mの範囲(2nm以上80nm以下)で、分子量153のo−ニトロアニソールの分離性能を有することが確認された。これより、上述した本LCカラムのペプチドの分離性能の評価では、分子量が概ね200〜1100の範囲に分布するペプチドに対する分離性能が確認されたが、分子量が200以下のペプチドに対する分離性能も十分に期待できる。更に、ペプチドは、分子量が6000を超えるものも存在するので、上述の本LCカラムのタンパク質の分離性能の評価結果より、分子量が1000を超えるペプチドに対する分離性能も十分に期待できる。
上記実施例1〜11は、図4に示すように、本LCカラムで使用する粒状多孔体の粒子径Dpの粒径範囲の広狭に応じて、実施例1〜7(Dp=100〜150μm)、実施例8〜10(Dp=64〜212μm)、実施例11(Dp=20〜250μm)の3通りに分類されていた。以下において、粒子径Dpの粒径範囲を相互に重複しないように排他的に細分化した3つの実施例12〜14に対して、実施例1〜11に対して行ったペプチド及びタンパク質の分離性能の評価と全く同じ条件及び要領で、ペプチド及びタンパク質の分離性能の評価を行った結果について説明する。図36に示すように、粒子径Dpの粒径範囲は、実施例12が20〜63μm、実施例13が64〜150μm、実施例14が150〜250μmであり、貫通孔の最頻孔径φ1mと細孔の最頻孔径φ0mは、実施例12〜14間で共通で、1.5μmと12nmである。以下、適宜、実施例1〜11に対して行ったペプチドの分離性能の評価の条件を「分離条件1」、タンパク質の分離性能の評価の条件を「分離条件2」と称す。
図37〜図39に、実施例12〜14の本LCカラムを用いた分離条件1によるペプチド分離のクロマトグラムを示す。各図の縦軸及び横軸、並びに、各図中の数字1〜5は、図6〜図20に示すクロマトグラムと同様であり、重複する説明は割愛する。図40〜図42に、実施例12〜14の本LCカラムを用いた分離条件2によるタンパク質分離のクロマトグラムを示す。各図の縦軸及び横軸、並びに、各図中の数字6〜9は、図21〜図35に示すクロマトグラムと同様であり、重複する説明は割愛する。
粒子径Dpの粒径範囲が20〜63μmの実施例12の場合、図37及び図40に示すように、ペプチド及びタンパク質の何れの分離性能評価においても、実施例1,8及び11の評価結果(図6、図13、図16、図21、図28、図31参照)と比較して、ピークがよりシャープとなり分離性能が高くなっている。何れのピークも明確に分離している。これは、粒子径Dpの粒径範囲が小さくなるとカラムの理論段数が向上して分離性能が上がることによるものである。
実施例13の場合、粒子径Dpの粒径範囲が、実施例1の100〜150μmから64〜150μmに拡張しているが、図6と図38、図21と図41を対比して分かるように、ペプチド及びタンパク質の何れの分離性能評価においても、実施例1と同様に各成分が分離している。特に、粒子径Dpの小さい方へ粒径範囲を拡張すると、粒子の充填効率が実施例1の場合と比べて変化するため、本LCカラムの分離性能の変化が想定され得るが、明確な分離性能の低下は見られない。
実施例14の場合、粒子径Dpの粒径範囲が、実施例1の100〜150μmから150〜250μmへと重複せずに大きくなっているが、図6と図39、図21と図42を対比して分かるように、ペプチド及びタンパク質の何れの分離性能評価においても、実施例1と同様に各成分が分離している。
以上の実施例12〜14に対するペプチド及びタンパク質の分離性能の評価結果より、粒子径Dpの粒径範囲が20〜250μmの範囲内であれば、当該範囲内で細分化された粒径範囲でも、当該細分化された粒径範囲の位置に拘わらず、ペプチド及びタンパク質の何れの分離性能も十分に発揮し得ることが明らかとなった。
尚、粒子径Dpの粒径範囲が、上記20〜250μmの範囲外の10μm以上20μm未満で、貫通孔の最頻孔径φ1mと細孔の最頻孔径φ0mが、実施例12〜14と同じ、1.5μmと12nmの充填剤を使用した比較例5のカラムの場合、当該充填剤をカラムに充填する際に、充填時の圧力で粒子が崩壊して使用不能となった。また、圧力を掛けずに充填した場合は、分離のためにアセトニトリルを1mL/分の流量でカラムに通流させたところ、カラムの圧力が15Mpaを超えるまで上昇して使用不能となった。アセトニトリルを通流後に充填した粒子を取り出して観察すると、粒子が圧縮されて粉砕していた。即ち、粒子径Dpが20μm未満になると充填剤として使用できないため、粒子径Dpの粒径範囲は20μm以上である必要がある。
次に、粒子径Dpの粒径範囲が20〜212μmであり、貫通孔の最頻孔径φ1mが10μmを超えて10〜20μmであり、細孔の最頻孔径φ0mが12nmの充填剤を使用した比較例6のカラムを使用して、上記分離条件1及び2により、ペプチド及びタンパク質の分離性能の評価を行った結果について説明する。図43に、比較例6のカラムを用いたペプチド分離のクロマトグラムを示す。各図の縦軸及び横軸、並びに、各図中の数字1〜5は、図6〜図20等に示すクロマトグラムと同様であり、重複する説明は割愛する。図44に、比較例6のカラムを用いたタンパク質分離のクロマトグラムを示す。各図の縦軸及び横軸、並びに、各図中の数字6〜9は、図21〜図35等に示すクロマトグラムと同様であり、重複する説明は割愛する。
図43及び図44に示すように、貫通孔の最頻孔径φ1mが10μmを超えると、ペプチド及びタンパク質の何れの分離性能の評価結果においても、各成分のピークが極端に広がり分離性能が極端に低下することが分かる。特に、ペプチドの分離性能の評価において顕著である。
また、貫通孔の最頻孔径φ1mが0.1μm未満の粒状多孔体を作製した場合、その貫通孔径を維持することができず、細孔径の分布と重なってしまい、結果的に、細孔のみの1段階の多孔構造となる。つまり、貫通孔の最頻孔径φ1mが0.1μm未満の2段階階層的多孔構造の粒状多孔体の製造ができず、制御可能な貫通孔の最頻孔径φ1mは0.1μm以上である。
一方、上述のように、実施例1,4及び5のクロマトグラムを比較することで、ペプチド及びタンパク質の各分離性能に対して、貫通孔の最頻孔径φ1mの好適範囲は0.1μm以上10μm以下の範囲内であることが分かる。このことは、上記比較例6に対するペプチド及びタンパク質の各分離性能の評価結果、及び、制御可能な貫通孔の最頻孔径φ1mは0.1μm以上である点と符合する。
上記実施例1〜14に対するペプチド及びタンパク質の各分離性能の評価では、分子量が概ね200〜1100の範囲内の5成分を含むシグマアルドリッチ社製のHPLCペプチド標準混合物と、分子量が12000〜80000の範囲内の4成分を含むシグマアルドリッチ社製のHPLCタンパク質標準混合物を使用した。従って、本LCカラムのペプチド及びタンパク質の各分離性能の評価結果より、当該評価に使用したHPLCペプチド標準混合物とHPLCタンパク質標準混合物の各分子量範囲(概ね200〜1100と12000〜80000)の間の分子量(1100〜12000)のペプチドまたはタンパク質に対しても、本LCカラムが分離性能を有することは、上述の如く十分に期待でき、十分に推測可能である。
次に、本LCカラムが、分子量が1100〜12000の範囲内のペプチドまたはタンパク質についても分離性能を有する点を、実施例12及び14の本LCカラムを使用して、以下の分離条件3〜7により評価した結果について説明する。
分離条件3は、分離条件1で使用したシグマアルドリッチ社製のHPLCペプチド標準混合物の5成分に、ペプチドの一種である分子量5807のインスリンを加えて6成分とし、HPLCペプチド標準混合物の5成分が夫々、0.5mg/mLとなり、インスリンが1.0mg/mLとなるよう蒸留水に溶解し、アセトニトリル:蒸留水=5:95の移動相Aと、アセトニトリル:蒸留水=75:25の移動相B(何れも0.1%トリフルオロ酢酸含有)を準備し、移動相比が0分時点でA:B=95:5(体積比)から120分時点でA:B=45:55(体積比)となるリニアグラジエント条件にて、総流量を1.0mL/分、検出波長220nm、カラム温度40℃、サンプルインジェクション量10μLとするものである。分離条件3のリニアグラジエント条件の濃度勾配は、分離条件1のリニアグラジエント条件の濃度勾配と同じである。
分離条件4は、分離条件1で使用したシグマアルドリッチ社製のHPLCペプチド標準混合物の5成分に、分離条件2で使用したシグマアルドリッチ社製のHPLCタンパク質標準混合物の4成分を加えて9成分とし、HPLCペプチド標準混合物の5成分が夫々、0.5mg/mLとなり、HPLCタンパク質標準混合物の4成分が夫々、1.0mg/mLとなるよう蒸留水に溶解し、アセトニトリル:蒸留水=5:95の移動相Aと、アセトニトリル:蒸留水=75:25の移動相B(何れも0.1%トリフルオロ酢酸含有)を準備し、移動相比が0分時点でA:B=100:0(体積比)から70分時点でA:B=30:70(体積比)となるリニアグラジエント条件にて、総流量を1.0mL/分、検出波長210nm、カラム温度40℃、サンプルインジェクション量10μLとするものである。
分離条件5は、上記分離条件4の総流量を1.0mL/分から3.0mL/分に増加させたものである。
分離条件6は、上記分離条件4のリニアグラジエント条件を、移動相比が0分時点でA:B=100:0(体積比)から140分時点でA:B=30:70(体積比)となるように変更したものである。
分離条件7は、分離条件1で使用したシグマアルドリッチ社製のHPLCペプチド標準混合物の5成分に、ペプチドの一種である分子量5807のインスリンと、分離条件2で使用したシグマアルドリッチ社製のHPLCタンパク質標準混合物の4成分を加えて10成分とし、HPLCペプチド標準混合物の5成分が夫々、0.5mg/mLとなり、インスリンとHPLCタンパク質標準混合物の4成分が夫々、1.0mg/mLとなるよう蒸留水に溶解し、アセトニトリル:蒸留水=5:95の移動相Aと、アセトニトリル:蒸留水=75:25の移動相B(何れも0.1%トリフルオロ酢酸含有)を準備し、移動相比が0分時点でA:B=100:0(体積比)から70分時点でA:B=30:70(体積比)となるリニアグラジエント条件にて、総流量を1.0mL/分、検出波長210nm、カラム温度40℃、サンプルインジェクション量10μLとするものである。分離条件7のリニアグラジエント条件は、分離条件4のリニアグラジエント条件と同じである。
図45及び図46に、実施例12及び14の本LCカラムを用いた、分離条件3によるペプチド分離のクロマトグラムを示す。各図の縦軸及び横軸、並びに、各図中の数字1〜5は、図6〜図20等に示すクロマトグラムと同様であり、重複する説明は割愛する。また、各図中の文字Mは、Mの近傍のピークがインスリンであることを示している。
図45及び図46に示すクロマトグラムより、粒子径Dpの粒径範囲が、20〜63μm(実施例12)と150〜250μm(実施例14)の何れの場合も、HPLCペプチド標準混合物の5成分とインスリンの計6成分が分離していることが分かる。分子量が1100〜12000の範囲の略中間のインスリンのピークは85分前後に検出されている。また、実施例12の場合、各ピークがシャープになって分離性能が向上していることが確認できる。分離条件3のグラジエント時間を120分まで延長しているのは、分離条件1のグラジエント時間(60分)では、インスリンが本LCカラムから溶出せずにピークが検出されないためである。図45及び図46に示す分離条件3のクロマトグラムより、分子量が200〜6000の範囲のペプチド、更に、分子量が1100〜12000の範囲のペプチドまたはタンパク質に対しても、本LCカラムが分離性能を有することが、より確実に示されている。
図47及び図48に、実施例12及び14の本LCカラムを用いた、分離条件4によるペプチド及びタンパク質の一斉分離のクロマトグラムを示す。図49に、実施例14の本LCカラムを用いた、分離条件5によるペプチド及びタンパク質の一斉分離のクロマトグラムを示す。図50に、実施例14の本LCカラムを用いた、分離条件6によるペプチド及びタンパク質の一斉分離のクロマトグラムを示す。各図の縦軸及び横軸、並びに、各図中の数字1〜5及び6〜9は、図6〜図20、及び、図21〜図35等に示すクロマトグラムと同様であり、重複する説明は割愛する。
図47に示すクロマトグラムより、粒子径Dpの粒径範囲が20〜63μm(実施例12)の場合、HPLCペプチド標準混合物の5成分とHPLCタンパク質標準混合物の4成分が、同一のクロマトグラムで9個のピークとして分離している。70分のグラジエント時間内で、分子量が200〜80000の範囲内のペプチドとタンパク質を含む混合物の分子を一斉に分離できることが分かる。
一方、図48に示すクロマトグラムより、粒子径Dpの粒径範囲が150〜250μm(実施例14)の場合、ペプチドの4番目のピークを除き、各ピークの検出時間は、図47に示すクロマトグラムと同じであるが、粒子径が大きくなったことで本LCカラムの分離性能が低下し、ペプチドの4番目のピークと5番目のピークの裾野が重なり合っているのが確認できる。しかし、同じ実施例14の本LCカラムにおいて、分離条件を変えることで、分離性能を改善することが可能である。
図49に示すクロマトグラムより、粒子径Dpの粒径範囲が150〜250μmの実施例14において、分離条件4の総流量を1.0mL/分から3.0mL/分に増加させたことで、ペプチドの4番目と5番目のピークが分離し、その結果、HPLCペプチド標準混合物の5成分とHPLCタンパク質標準混合物の4成分が、同一のクロマトグラムで9個のピークとして分離しており、分離性能の向上が確認できる。
また、図50に示すクロマトグラムより、粒子径Dpの粒径範囲が150〜250μmの実施例14において、分離条件4のリニアグラジエント条件を、移動相比が0分時点でA:B=100:0(体積比)から140分時点でA:B=30:70(体積比)となるように変更したことで、ペプチドの4番目と5番目のピークが分離し、その結果、HPLCペプチド標準混合物の5成分とHPLCタンパク質標準混合物の4成分が、同一のクロマトグラムで9個のピークとして分離しており、分離性能の向上が確認できる。
図51及び図52に、実施例12及び14の本LCカラムを用いた、分離条件7によるペプチド、インスリン及びタンパク質の一斉分離のクロマトグラムを示す。各図の縦軸及び横軸、並びに、各図中の数字1〜5,6〜9及び文字Mは、図6〜図20、図21〜図35、及び、図45〜図46等に示すクロマトグラムと同様であり、重複する説明は割愛する。
図51に示すクロマトグラムより、粒子径Dpの粒径範囲が20〜63μm(実施例12)の場合、HPLCペプチド標準混合物の5成分とインスリンとHPLCタンパク質標準混合物の4成分の計10成分が、同一のクロマトグラムで10個のピークとして分離している。70分のグラジエント時間内で、分子量が200〜80000の範囲内のペプチドとインスリンとタンパク質を含む混合物の分子を一斉に分離できることが分かる。尚、図51に示すクロマトグラムと図47に示すクロマトグラムを対比すると、インスリンは約45分の時点で検出されている。インスリンの分子量は5807で、HPLCタンパク質標準混合物の4成分の分子量より小さいが、インスリンの疎水性がHPLCタンパク質標準混合物のシトクロムc(ピーク7)に近いため、逆相クロマトグラフィーにおける分離条件7では、インスリンのピーク(M)が、シトクロムcのピーク(7)と近接する時間に検出されている。
一方、図52に示すクロマトグラムより、粒子径Dpの粒径範囲が150〜250μm(実施例14)の場合、各ピークの検出時間は、図51に示すクロマトグラムと同じであるが、各ピークの幅が広がっており、粒子径が大きくなったことで本LCカラムの分離性能が低下し、ペプチドの4番目と5番目のピークの裾野が相互に重なり、インスリンのピークとタンパク質の2番目のピークの裾野が相互に重なっているのが確認できる。分離条件7は分離条件4と同じであるので、図48に示すクロマトグラムと同様の現象が起きている。従って、分離条件4と同様に、上記分離条件7に対して、総流量を増加させる、リニアグラジエント条件の濃度勾配を低下させてグラジエント時間を延長する等の分離条件の変更によって、ペプチドの4番目と5番目のピークの重なりが改善されることは容易に推測される。
上述したペプチド及びタンパク質の分離性能の評価で用いた分離条件1〜7では、移動相にアセトニトリルを使用しているが、アセトニトリル以外の移動相を用いてペプチド及びタンパク質の分離は可能である。
図53及び図54に、実施例12及び14の本LCカラムを用いた、移動相にメタノールを用いた下記の分離条件8によるペプチド分離のクロマトグラムを示す。各図の縦軸及び横軸、並びに、各図中の数字1〜5は、図6〜図20、及び、図37〜図39等に示すクロマトグラムと同様であり、重複する説明は割愛する。
分離条件8は、分離条件1で使用したシグマアルドリッチ社製のHPLCペプチド標準混合物の5成分が夫々、0.5mg/mLとなるよう蒸留水に溶解し、メタノール:蒸留水=5:95の移動相Aと、メタノール:蒸留水=75:25の移動相B(何れも0.1%トリフルオロ酢酸含有)を準備し、移動相比が0分時点でA:B=95:5(体積比)から120分時点でA:B=45:55(体積比)となるリニアグラジエント条件にて、総流量を1.0mL/分、検出波長220nm、カラム温度40℃、サンプルインジェクション量10μLとするものである。分離条件8のリニアグラジエント条件の濃度勾配は、分離条件1のリニアグラジエント条件の濃度勾配と同じであるが、グラジエント時間を120分まで延長している。
図53及び図54に示すクロマトグラムより、図37及び図39に示すクロマトグラムと対比することで、移動相にアセトニトリルを使用した場合と同様に、HPLCペプチド標準混合物の5成分が分離していることが確認できる。逆相クロマトグラフィーの原理上、インジェクション時に疎水性の高いペプチドがカラム入口に吸着されて、移動相中の有機溶剤濃度をリニアグラジエントで上げていることでカラム入口に吸着されたペプチドが疎水性の強さに応じて溶出してくる。アセトニトリルとメタノールで極性が異なるために溶出力が異なるが、何れもペプチド分離には移動相として使用できる。また、ペプチドより高分子であるタンパク質も、ペプチドと同様のアミノ酸から構成されており、ペプチドと同様の原理で分離するため、ペプチドと同様に移動相にメタノールを使用できることが、図53及び図54に示すペプチドの分離性能の評価結果より、容易に推測されるとともに、後述する移動相にメタノールを使用した図57に示すタンパク質分離のクロマトグラムによって、より確実に裏付けられる。
上述したペプチド及びタンパク質の分離性能の評価で用いた分離条件1〜8では、サンプルインジェクション量は10μLで固定であるが、サンプルインジェクション量を増大させた場合でも同一条件での分離が可能である。
図55に、実施例12の本LCカラムを用いた、分離条件1を基準にして、サンプルインジェクション量を10μLから50μLまで、10μL刻みで5段階に変化させた分離条件によるペプチド分離のクロマトグラムを示す。また、図56に、実施例12の本LCカラムを用いた、分離条件2を基準にして、サンプルインジェクション量を10μLから50μLまで、10μL刻みで5段階に変化させた分離条件によるタンパク質分離のクロマトグラムを示す。各図の縦軸及び横軸、並びに、各図中の数字1〜5及び6〜9は、図6〜図20、及び、図21〜図35等に示すクロマトグラムと同様であり、重複する説明は割愛する。
図55及び図56に示すクロマトグラムより、インジェクション量を増加させることでピーク強度が増大しているが、各ピークは重なることなく分離している。この傾向はペプチドとタンパク質で共通である。インジェクション量の増大に伴い、カラム体積当たりのサンプル負荷量が増減する場合においても、各成分は分離することが可能である。
上述したペプチド及びタンパク質の分離性能の各評価は、何れも1回の測定による分析結果であった。測定を複数回繰り返すことによってカラムの劣化等が想定されるため、下記の分離条件9による測定を100回繰り返した場合について、タンパク質の分離性能の評価を行った。
図57に、実施例12の本LCカラムを用いた、移動相にメタノールを用いた下記の分離条件9による測定を100回繰り返した場合の1回目、50回目、100回目のタンパク質分離のクロマトグラムを示す。各図の縦軸及び横軸、並びに、各図中の数字6〜9は、図21〜図35、及び、図40〜図42等に示すクロマトグラムと同様であり、重複する説明は割愛する。
分離条件9は、分離条件2で使用したシグマアルドリッチ社製のHPLCタンパク質標準混合物の4成分が夫々、1.0mg/mLとなるよう蒸留水に溶解し、メタノール:蒸留水=5:95の移動相Aと、メタノール:蒸留水=75:25の移動相B(何れも0.1%トリフルオロ酢酸含有)を準備し、移動相比が0分時点でA:B=70:30(体積比)から20分時点でA:B=30:70(体積比)、更に、25分時点でA:B=30:70(体積比)となるリニアグラジエント条件にて、総流量を1.0mL/分、検出波長210nm、カラム温度40℃、サンプルインジェクション量10μLとするものである。
尚、本繰り返し測定では、各成分のピークをシャープにして、カラムの劣化によりピーク幅が広がることを確認し易くするために、粒子径Dpの粒径範囲が20〜63μmの実施例12の本LCカラムを用いた。また、本繰り返し測定では、ペプチドではなく、タンパク質の分離性能を評価した。これは、繰り返し測定が100回で2500分と長時間に及ぶことを考慮すると、タンパク質が、長時間の測定でペプチドよりも変性し易く、またカラムの劣化等の変化に対してピーク位置の変化等として反応することによる。図57に示す1回目、50回目、100回目の各測定時のタンパク質分離のクロマトグラムより、ピーク幅及びピーク位置の変化は見られず、再現性の良い分離が確認できた。
以下に、本LCカラム及び粒状多孔体の別実施形態につき説明する。
〈1〉 上記実施形態では、粒状多孔体1の骨格体2を構成する無機化合物として、シリカ(シリカゲルまたはシリカガラス)を想定したが、当該無機化合物は、シリカに限定されるものではなく、アルミニウム、リン、ゲルマニウム、スズ等の典型金属元素や、チタン、ジルコニウム、バナジウム、クロム、鉄、コバルト、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀、金、亜鉛等を始めとする遷移金属元素を含む酸化物多孔体も、利用可能である。更に、これらに、リチウム、ナトリウム等のアルカリ金属元素や、マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属元素、ランタン、セリウム等のランタン系元素を含む複合体からなる無機酸化物多孔体も、利用可能である。
一例として、粒状多孔体1の骨格体2がチタニア(TiO2)の場合における、粒状化前のチタニアモノリス多孔体の合成法の一例を簡単に説明する。
ポリエチレングリコール(平均分子量10000)0.4gを含有する1−プロパノール2.5mLとアセト酢酸エチル2.5mLの混合溶液にチタン酸テトラn−プロピル5.0mLを加えた後、1mol/Lの硝酸アンモニウム水溶液1.0mLを攪拌しながら加えて均一溶液とし、密閉容器内に移して40℃で1日間静置してゲル化させる。得られたゲルを、水・エタノールの混合溶媒に1日浸して洗浄した後、自然乾燥させ500℃で5時間焼結すると、チタニアモノリス多孔体が得られる。
骨格体2を構成する無機化合物がチタニアの場合、シリカと比べて、耐酸性・耐アルカリ性に優れており、シリカはpH2以下またはpH11以上の水溶液中で溶解するのに対し、チタニアは溶解することなく使用できる。
〈2〉 上記実施形態では、モノリス多孔体の合成方法に関して、具体的な数値(分量、温度、時間等)を明示した実施例を説明したが、当該合成方法は、当該実施例で例示された数値条件に限定されるものではない。
〈3〉 上記実施形態では、本LCカラムに使用される粒状多孔体1が、貫通孔3と細孔4からなる2段階階層的多孔構造を有するため、粒状多孔体1の作製過程のモノリス多孔体も、同様の2段階階層的多孔構造を有する場合を想定した。しかし、粒状化前のモノリス多孔体が、貫通孔3と細孔4以外に、貫通孔3より大きな孔径の空孔を有する3段階階層的多孔構造を有していても良い。この場合、モノリス多孔体を粉砕して粒状化し、粒状多孔体1を作製する際に、当該空孔に沿って骨格体2が粉砕されるため、空孔の形成過程において、当該空孔に囲まれた骨格体2の径をある程度均一化することで、粉砕後の粒状多孔体1の粒子径Dpを、一定範囲内に効率良く揃えることが可能となる。
〈4〉 上記実施形態では、粒状多孔体1の表面に化学修飾する官能基として、オクタデシル基を採用したが、当該官能基は、オクタデシル基に限定されるものではない。ペプチド、タンパク質、または、核酸の分離用の官能基として、炭化水素系化合物、ハロゲンを含むハロゲン化合物、アルコール・ジオール・フェノール等のヒドロキシル基、ケトン・アルデヒド・カルボン酸・エステル・アミド・エノン・酸塩化物・酸無水物等のカルボニル基やシアノ基を含むカルボン酸誘導体、芳香環や複素環を含む官能基、及び、これらの複合体が使用できる。例えば、メチル基、エチル基、ブチル基、オクチル基、ドデシル基、トリアコンチル基、及び、フェニル基等の炭化水素系リガンド、アルキルアンモニウム等の4級アミン基、アミノプロピルやジエチルアミノエチル等の1〜3級アミン基、スルホン酸基、リン酸基、及び、カルボキシメチル基等からなるイオン交換系リガンド、更に、ニトロ基、チオール、糖鎖、糖タンパク、アミノ酸、ペプチド、タンパク質等を含むリガンドが、利用可能である。