以下、図面を参照しながら本実施形態に係わるフォトンカウンティング装置を説明する。
本実施形態に係るフォトンカウンティング装置は、X線CTタイプの装置(以下、フォトンカウンティングCT装置と呼ぶ)とX線撮影タイプの装置(以下、フォトンカウンティングXR装置と呼ぶ)とのいずれのタイプにも適用可能である。以下、本実施形態に係るフォトンカウンティング装置を、フォトンカウンティングCT装置を具体例に挙げて詳細に説明する。
フォトンカウンティングCT装置には、X線管とX線検出器とが1体となって被検体の周囲を回転する回転/回転型(ROTATE/ROTATE―TYPE)や、リング状に配列された多数のX線検出素子が固定され、X線管のみが被検体の周囲を回転する固定/回転型(STATIONARY/ROTATE―TYPE)等様々なタイプが考えられるが、いずれのタイプでも本実施形態は適用可能である。しかしながら、以下の説明においてフォトンカウンティングCT装置は、回転/回転型であるものとして説明する。
フォトンカウンティングCT装置におけるデータ収集方式としては、ビュー毎のX線フォトンのカウント数を計数するサイノグラムモードと、X線フォトン毎のエネルギー値を時系列で記録するリストモードとが知られている。本実施形態は、いずれのタイプでも適用可能である。以下、サイノグラムモードのフォトンカウンティングCT装置を例に挙げて説明する。
図1は、本実施形態に係るフォトンカウンティングCT装置の構成を示す図である。図1に示すように、本実施形態に係るフォトンカウンティングCT装置は、架台10とコンソール30とを備えている。架台10は、円筒形状を有する回転フレーム11を回転軸Z回りに回転可能に支持している。回転フレーム11には、回転軸Zを挟んで対向するようにX線発生システム13とX線検出システム15とが取り付けられている。回転フレーム11の開口部(bore)にはFOV(field of view)が設定される。回転フレーム11の開口部内には天板17が挿入される。天板17には被検体Sが載置される。天板17に載置された被検体Sの撮像部位がFOV内に含まれるように天板17が位置決めされる。回転フレーム11は、回転駆動装置19からの動力を受けて回転軸Z回りに一定の角速度で回転する。回転駆動装置19は、架台制御回路21からの制御信号に従って回転フレーム11を回転させるための動力を発生する。
X線発生システム13は、架台制御回路21からの制御信号に従ってX線を発生する。具体的には、X線発生システム13は、X線管131と高電圧発生器133とを有する。X線管131は、高電圧発生器133からの高電圧の印加とフィラメント電流の供給とを受けてX線を発生する。高電圧発生器133は、架台制御回路21からの制御信号に従う高電圧をX線管131に印加し、架台制御回路21からの制御信号に従うフィラメント電流をX線管131に供給する。
X線検出システム15は、X線発生システム13から発生され被検体Sを透過したX線を検出し、検出されたX線のカウント数を表現するカウントデータを複数のエネルギー帯域について収集する。具体的には、X線検出システム15は、X線検出器151とデータ収集回路153とを有する。
X線検出器151は、X線管131から発生され被検体Sを透過したX線を検出する。X線検出器151は、2次元状に配列された複数のX線検出素子を搭載する。具体的には、X線検出器151は、間接検出型の検出器であるとする。この場合、各X線検出素子は、X線を蛍光に変換する蛍光体(シンチレータ)と、蛍光を電気信号に変換する光検出器とを有する。本実施形態においてシンチレータは、X線管131からのX線フォトンを検出し、検出されたX線フォトンのエネルギーに応じた個数の蛍光光子を発生する。複数の蛍光光子は光検出器により検出される。光検出器は、検出された複数の蛍光光子を光電変換により電流信号に変換し増幅する。光検出器からの電流信号(電気信号)はデータ収集回路153に供給される。電気信号は、入射X線フォトンのエネルギーに応じた波高値を有する。本実施形態に係るシンチレータとしてはLaBr3等の既存のX線に感応して蛍光を発生する如何なる発光物質も材料に含んで良い。
なお、本実施形態に係るX線検出器151としては間接検出型の検出器に限定されず、直接検出型の検出器であっても良い。直接検出型のX線検出器151としては、例えば、半導体の両端に電極が取り付けられてなる半導体ダイオードを含むタイプが適用可能である。半導体に入射したX線フォトンは、電子・正孔対に変換される。1つのX線フォトンの入射により生成される電子・正孔対の数は、入射X線フォトンのエネルギーに依存する。電子と正孔とは、半導体の両端に形成された一対の電極に互いに引き寄せられる。一対の電極は、電子・正孔対の電荷に応じた波高値を有する電気パルスを発生する。一個の電気パルスは、入射X線フォトンのエネルギーに応じた波高値を有する。
データ収集回路153は、架台制御回路21からの制御信号に従って、X線検出器151により検出されたX線のカウント数を表現するカウントデータを複数のエネルギー帯域について収集する。複数のエネルギー帯域に関するカウントデータは、X線検出システム15の応答特性に応じて変形された、X線検出器151への入射X線に関するエネルギースペクトラムに対応する。以下、X線検出器とデータ収集回路とを含むシステム(標準検出系)の応答特性を検出器応答特性と呼ぶことにする。
X線管131にはウェッジフィルタ23が取り付けられている。ウェッジフィルタ23は、X線検出器151に入射するX線の空間線量分布を略均一にするためのX線フィルタである。ウェッジフィルタは、アルミ等の比較的小さい原子番号を有する物質により形成される。典型的には、ウェッジフィルタ23は、X線検出器151のチャンネル方向に関する中央部から端部に向けて厚くなるように形成される。なお、ウェッジフィルタ23は、必要なければ取り付けられなくても良い。
架台制御回路21は、架台10に搭載された各種機器の制御を統括する。例えば、架台制御回路21は、被検体Sを対象としたフォトンカウンティングCT撮像を実行するためにX線発生システム13、X線検出システム15、及び回転駆動装置19を制御する。回転駆動装置19は、架台制御回路21による制御に従う一定の角速度で回転する。X線発生システム13の高電圧発生器133は、架台制御回路21による制御に従って、設定管電圧値に対応する高電圧をX線管131に印加し、フィラメント電流をX線管131に供給する。X線検出システム15のデータ収集回路153は、架台制御回路21による制御に従って、ビューの切替に同期してカウントデータを複数のエネルギー帯域の各々についてビュー毎に収集する。
ハードウェア資源として、架台制御回路21は、CPU(Central Processing Unit)やMPU(Micro Processing Unit)等の処理装置(プロセッサ)とROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)等の記憶装置(メモリ)とを有する。架台制御回路21は、架台10に設けられても良いし、コンソール30に設けられても良いし、架台10及びコンソール30とは別体の装置に設けられても良い。また、架台制御回路21は、特定用途向け集積回路(Application Specific Integrated Circuit:ASIC)やフィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ(Field Programmable Logic Device:FPGA)、他の複合プログラマブル論理デバイス(Complex Programmable Logic Device:CPLD)、単純プログラマブル論理デバイス(Simple Programmable Logic Device:SPLD)により実現されても良い。処理装置は、記憶装置に保存されたプログラムを読み出して実行することで上記機能を実現する。なお、記憶装置にプログラムを保存する代わりに、処理装置の回路内にプログラムを直接組み込むように構成しても構わない。この場合、処理装置は、当該回路内に組み込まれたプログラムを読み出して実行することで上記機能を実現する。
コンソール30は、カウントデータ記憶回路31、再構成回路33、I/F回路35、表示回路37、入力回路39、主記憶回路41、及びシステム制御回路43を備える。カウントデータ記憶回路31、再構成回路33、I/F回路35、表示回路37、入力回路39、主記憶回路41、及びシステム制御回路43は、バスを介して接続されている。
カウントデータ記憶回路31は、HDD(hard disk drive)やSSD(solid state drive)、集積回路記憶装置等の記憶装置である。具体的には、カウントデータ記憶回路31は、架台10から伝送された複数のエネルギー帯域に関するカウントデータを記憶する。また、カウントデータ記憶回路31は、X線吸収量算出335により算出されたX線吸収量のデータを記憶しても良い。X線吸収量については後述する。
再構成回路33は、カウントデータに基づいて被検体Sに関するフォトンカウンティングCT画像を再構成する。具体的には、再構成回路33は、応答関数記憶回路331を有する。応答関数記憶回路331は、X線検出器151への入射X線と検出器応答特性とを対応付ける応答関数のデータを記憶する。応答関数は、入射X線毎の検出エネルギーとシステムの出力応答との関係を規定する。例えば、応答関数は、入射X線毎の検出エネルギーと検出強度との関係を規定する。検出エネルギーは、当該入射X線エネルギーを有するX線フォトンの検出に応答して標準検出系が計測する当該X線フォトンのエネルギーに対応する。具体的には、検出エネルギーは、後述の弁別回路に入力されるアナログ電気信号の波高値又はデジタル信号のデータ値に、所定の変換係数を乗算した値である。検出強度は、当該入射X線エネルギーを有するX線の強度、換言すれば、X線フォトンのカウント数に対応する。応答関数は、予め応答関数生成機能333や他の演算装置等により生成される。応答関数の詳細については後述する。
標準検出系は、応答関数生成のための実測値収集に用いられるX線検出器とデータ収集回路とにより構成されるシステムを指す。物質弁別能を高めるため、標準検出系と本実施形態に係るX線検出システム15とは同一の構造を有すると良い。例えば、標準検出系と本実施形態に係るX線検出システム15とのシンチレータ材料や回路構成、サンプリング速度等の検出器応答特性に影響する全ての因子が同一であることが望ましい。なお、検出器応答特性への影響が軽微であれば、これら因子の一部が異なっていても良い。応答関数生成のための実測値収集に、本実施形態に係るフォトンカウンティングCT装置に搭載されたX線検出システム15が用いられても良い。この場合、標準検出系はX線検出システム15を指す。
図1に示すように、再構成回路33は、ハードウェア資源として、応答関数記憶回路331の他に、CPUやMPU、GPU(Graphics Processing Unit)等の処理装置(プロセッサ)とROMやRAM等の記憶装置(メモリ)とを有しても良い。当該処理装置は、当該記憶装置に保存された再構成プログラムを読み出して実行することで応答関数生成機能333、X線吸収量算出機能335、及び再構成処理機能337を実現する。
応答関数生成機能333の実行により再構成回路33は、検出器応答特性を表現する応答関数のデータを生成する。例えば、再構成回路33は、複数の入射X線エネルギーを有する複数の単色X線に対する標準検出系の応答(すなわち、検出エネルギー及び検出強度)を予測計算、実験、及び予測計算と実験との組み合わせにより計測し、検出エネルギー及び検出強度の計測値に基づいて応答関数を生成する。また、再構成回路33は、キャリブレーション等において収集された実測の計測値に基づいて応答関数のデータを生成しても良い。生成された応答関数のデータは、応答関数記憶回路331に記憶される。なお、応答関数記憶回路331に記憶される応答関数のデータは、必ずしも再構成回路33により生成される必要はない。他の施設のコンピュータ装置により応答関数のデータが生成されても良い。この場合、当該コンピュータ装置からネットワークを介して本実施形態に係るフォトンカウンティングCT装置に伝送されても良いし、当該応答関数のデータが記憶された可搬記憶媒体から本実施形態に係るフォトンカウンティングCT装置に読み出されても良い。
X線吸収量算出機能335の実行により再構成回路33は、複数のエネルギー帯域に関するカウントデータ、被検体Sへの入射X線のエネルギースペクトラム、及び応答関数記憶回路331に記憶された応答関数に基づいて複数の基底物質各々に関するX線吸収量を算出する。再構成回路33は、応答関数を利用してカウントデータと被検体Sへの入射X線のエネルギースペクトラムとに基づいてX線吸収量を算出することにより、X線検出システム15の応答特性の影響がないX線吸収量を算出することができる。このように基底物質毎にX線吸収量を得る処理は物質弁別とも呼ばれている。基底物質としては、カルシウム、石灰化、骨、脂肪、筋肉、空気、臓器、病変部、硬部組織、軟部組織、造影物質等のあらゆる物質に設定可能である。算出対象の基底物質の種類は、予め入力回路39等を介してユーザ等により決定される。X線吸収量は、基底物質により吸収されるX線量を示す。具体的には、X線吸収量は、X線減弱係数とX線透過経路長との組み合わせにより規定される。
再構成処理機能337の実行により再構成回路33は、X線吸収量算出機能335により算出された複数の基底物質各々に関するX線吸収量に基づいて、当該複数の基底物質のうちの画像化対象の基底物質の空間分布を表現するフォトンカウンティングCT画像を再構成する。画像化対象の基底物質は、1種類でも良いし複数種類でも良い。画像化対象の基底物質は、入力回路39を介して又は自動的に任意に設定可能である。
なお、応答関数生成機能333、X線吸収量算出機能335、及び再構成処理機能337は、処理装置が再構成処理プログラムを実行することにより実現されるとした。しかしながら、本実施形態はこれに限定されない。例えば、再構成回路33は、応答関数生成機能333のための処理回路、X線吸収量算出機能335のための処理回路、及び再構成処理機能337のための処理回路を有しても良い。これら処理回路は、ASICやFPGA、CPLD、SPLDにより実現されても良い。
I/F回路35は、コンソール30と架台10との間の通信のためのインタフェースである。例えば、I/F回路35は、システム制御回路43から撮像開始信号や撮像停止信号等を供給する。
表示回路37は、フォトンカウンティングCT画像等を表示機器に表示する。表示機器としては、例えばCRTディスプレイや、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、プラズマディスプレイ等が適宜利用可能である。
入力回路39は、入力機器によるユーザからの各種指令や情報入力を受け付ける。入力機器としては、キーボードやマウス、各種スイッチ等が利用可能である。
主記憶回路41は、種々の情報を記憶する記憶装置である。例えば、主記憶回路41は、本実施形態に係るフォトンカウンティングCT画像の画像発生プログラム等を記憶する。
システム制御回路43は、本実施形態に係るフォトンカウンティングCT装置の中枢として機能する。システム制御回路43は、本実施形態に係る撮像プログラムを主記憶回路41から読み出し、当該撮像プログラムに従って各種構成要素を制御する。これにより、本実施形態に係るフォトンカウンティングCT画像の発生のためのフォトンカウンティングCT撮像が行われる。
次に、本実施形態に係る応答関数について説明する。
一般に、デュアルエナジーCT(Dual energy CT)では、以下の(1)式に従い物質弁別が行われる。
ここで、EはX線のエネルギーを示す。Idet(E)は、標準検出系が計測したX線のエネルギースペクトラムを示す。なお、エネルギースペクトラムとはX線強度のエネルギー分布を示す。I0(E)は、被検体Sに入射するX線のエネルギースペクトラムである。ウェッジフィルタを使う場合、I0(E)は、ウェッジフィルタ透過後に被検体に入射するX線のエネルギースペクトラムを示し、ウェッジフィルタを使用しない場合は、X線管から放出されるX線のエネルギースペクトラムを示す。また、μ0(E)は基底物質0のX線減弱係数を示し、L0は基底物質0を透過したX線の経路長(透過経路長)を示す。同様に、μ1(E)は基底物質1のX線減弱係数を示し、L1は基底物質1を透過したX線の経路長(透過経路長)を示す。μ0(E)L0は、基底物質0に関するX線吸収量を示し、μ1(E)L1は、基底物質1に関するX線吸収量を示す。(1)式中の未知数は、μ0(E)L0とμ1(E)L1との2つであり、理論的には方程式が2つあれば解くことができる。そこで、現行のCTでは、2つの異なる管電圧に関する2つの異なるデータセットを収集することにより、上記(1)式の解を得ている。なお、データセットとは、Idet(E)とI0(E)とを表す一揃いのデータを示す。
フォトンカウンティングCTにおいてもデュアルエナジーCTと同様の考え方により物質弁別が可能である。フォトンカウンティングCTにおいては1つの管電圧でデータ収集を行うためカウントデータのセットは1つである。しかし、エネルギー帯を2つに区切ることで、2つのエネルギー帯域に関する2つのカウントデータのセットに基づいて物質弁別をすることが可能となる。この考え方では、2つのカウントデータのセットが独立していることが前提条件となる。エネルギー分解能の優れた直接型検出器では、この条件を満たすことが可能だが、エネルギー分解能の低い間接型検出器では、独立性が低いため、当該前提条件を満たさないことが多い。
(1)式は実際には、理想的なX線検出系について成立する式である。現実には、物質弁別は、下記(2)式のように記述できる。
(2)式において右辺はモデル関数と呼ばれている。R(E)は検出器応答特性を示す応答関数を表す。{・}内は、X線検出システム15へ入射する直前のX線のエネルギースペクトラムを表す。(2)式は、X線検出システム15へ入射する直前のX線のエネルギースペクトラムをX線検出システム15の応答関数で畳み込むことで、X線検出システム15が測定したX線のエネルギースペクトラムが得られる。
ここで、応答関数は単色X線に対する標準検出系の検出器応答特性を記述する。理想的なX線検出器は、入射X線エネルギーに対応する検出エネルギーのみを有するデルタ関数的な出力信号を発生する。しかし、現実のX線検出器の出力信号は、エネルギー分解能のため、デルタ関数的にではなくガウス関数的に分布する。さらに、低エネルギー側に及ぶ成分に起因するガウス関数からのずれや連続成分などの複雑な構造を示すことが多い(G. F. Knoll 「放射線計測ハンドブック第3版」日刊工業新聞社 2001)。さらに、高線量下ではパイルアップやポラリゼーション等により応答関数がさらに変形する。
上記の通り、間接型検出器ではエネルギー分解能が低いため、(1)式において隣接するエネルギー帯域間での独立性が低いことが問題であったが、(2)式のように応答関数を正しく考慮することにより、μ0(E)L0とμ1(E)L1とを精度良く推定することが可能となる。
ここで問題となるのがエネルギー帯域の数である。(1)式の考え方では、未知数の数だけエネルギー帯域があれば良く、最低限2つのエネルギー帯域があれば良い。しかし、(2)式で応答関数を考慮するためには多くのエネルギー帯域が必要となる。
図2は、ウェッジフィルタが取り付けられていない場合のX線管から発生されるX線のエネルギースペクトラムI0(E)のグラフを示す。図2のグラフの縦軸はカウント数に規定され横軸はエネルギー[keV]に規定される。陽極ターゲット物質はタングステンであり、管電圧は120kVである。図2に示すように、X線管から発生されるX線のエネルギースペクトラムは、0keVから管電圧に対応する120keVまで続く連続X線成分の他、陽極ターゲット物質に起因する特性X線を含む。
実際のフォトンカウンティングCT撮像においては、X線管とX線検出器との間に被検体Sが存在する。そのため、図2に示すエネルギースペクトラムを有するX線は、被検体Sによる吸収で減衰した後にX線検出システム15で検出され、検出されたX線のエネルギースペクトラムはX線検出システム15の応答特性に応じた応答関数で畳み込まれる。
図3は、LaBr3をシンチレータとして使用した、単色X線に対する標準検出系の出力を示す。図3の縦軸は強度[A.U.]に規定され、横軸はエネルギー[keV]に規定される。LaBr3では、X線に主として反応するのがランタンLaであり、ランタンのK吸収端は38.9keVである。図3は、30keVの単色X線に対する標準検出系の出力を示す。この場合、標準検出系に入射した単色X線のエネルギー(30keV)がランタンのK吸収端のエネルギー(38.9keV)より下であるので、標準検出系の出力は、30keVに対応するエネルギーを中心に分布するピークを有する。入射単色X線のエネルギーに対応するピークをメインピークと呼ぶ。メインピークのエネルギー幅は、当該メインピークのエネルギーに関する標準検出系のエネルギー分解能を表す。
図4は、LaBr3をシンチレータとして使用した、他の単色X線に対する標準検出系の出力を示す。図4は、50keVの単色X線に対する標準検出系の出力を示す。この場合、標準検出系に入射した単色X線のエネルギー(50keV)がランタンのK吸収端のエネルギー(38.9keV)より上であるので、標準検出系の出力は、50keVに対応するエネルギーを中心に分布するメインピークの他に、17keV付近にもピークがある。当該ピークはエスケープピークと呼ばれている。標準検出系に入射した単色X線のエネルギーがランタンのK吸収端のエネルギーより上の場合、X線を吸収(光電吸収)して励起状態となったランタンが、励起状態から基底状態に遷移する際にランタンのK特性X線を放出することが多い。K特性X線が当該シンチレータで吸収されずに脱出(エスケープ)した場合、入射X線エネルギーからK特性X線のエネルギー(約33keV)だけ差し引いたエネルギー(約17keV)が当該シンチレータに吸収されることとなる。エスケープピークは、入射X線エネルギーとK特性X線のエネルギー(約33keV)との差分に相当するエネルギー(約17keV)に対応するピークである。
図5は、本実施形態に係る応答関数を図式的に示す図である。本実施形態に係る応答関数は、例えば、入射X線エネルギー[keV]と検出エネルギー[keV]と検出強度[A.U.]とを変数とする関数で規定される。図5のグラフは、縦軸(Y軸)が入射X線エネルギーに規定され横軸(X軸)が検出エネルギーに規定された直交座標系に、検出強度が割り当てられている。図5において検出強度は濃淡で表されている。
換言すれば、本実施形態に係る応答関数は、複数の入射X線エネルギーの各々に対する検出エネルギーと検出強度との関係を規定する。例えば、ある入射X線エネルギーに対する検出器応答特性を示す応答関数は、当該入射X線エネルギーでの図5のグラフの横断面により表現される。図5に示すように、Y=Xに対応する点にメインピークがみられる。点線はランタンのK吸収端のエネルギーに対応し、このランタンのK吸収端のエネルギーよりも高い入射X線エネルギーにおいてメインピークの低検出エネルギー側に一定間隔でエスケープピークがみられる。メインピークとエスケープピークとの検出エネルギーの差分が、ランタンのK特性X線のエネルギーに相当する検出エネルギーに対応する。さらに、他のシンチレータで発生したランタンのK特性X線を当該シンチレータで吸収したK特性X線のピークがみられる。K特性X線のエネルギーは、一定のため、入射X線エネルギーに依らず略同一の検出エネルギー、すなわち、Y軸に平行にみられる。このように本実施形態に係る応答関数は、入射X線エネルギーに対応するメインピーク、当該入射X線エネルギーからシンチレータ材料のK特性X線のエネルギーに対応するエスケープピーク、及びシンチレータ材料のK特性X線のエネルギーに対応するピークを反映する。
本実施形態に係る応答関数生成機能333において再構成回路33は、複数の入射X線エネルギーを有する複数の単色X線に対する標準検出系の応答を予測計算、実験、及び予測計算と実験との組み合わせにより計測し、計測されたデータに基づいて応答関数を生成する。具体的には、X線源からX線検出器に単色X線が照射され、当該単色X線がX線検出器により検出される。X線検出器の検出エネルギーと検出強度とは既存の測定装置により測定される。単色X線は、応答関数に必要なエネルギー範囲の下限エネルギーから上限エネルギーまで順番に照射される。応答関数生成機能333において再構成回路33は、測定された検出エネルギーと検出強度とを、照射した単色X線の入射X線エネルギー毎に記録する。なお、フォトンカウンティングCT撮像においてウェッジフィルタが使用される場合、当該ウェッジフィルタ透過後の単色X線が標準検出系により検出されると良い。この場合、応答関数生成機能333において再構成回路33は、ウェッジフィルタ透過後の単色X線に対するX線検出器の検出エネルギーと検出強度とを入射X線毎に記録する。入射X線毎の検出エネルギーと検出強度との記録が応答関数として生成される。なお、応答関数は、予測計算により応答関数の数学モデルが構築され、当該数学モデルを放射光など高強度の単色X線が得られる施設での実験値に基づいて修正しても良い。
X線検出器から出力されるX線のエネルギースペクトラムは、図2に示すエネルギースペクトラムを(2)式に従い被検体吸収で減衰し、被検体吸収を受けたX線のエネルギースペクトラムを図4に示す応答関数で畳み込んだ形状を有する。この被検体吸収を受けたX線のエネルギースペクトラムは、(2)式のモデル関数により表現される。
図6は、実測のカウントデータが示すエネルギースペクトラムとモデル関数が示すエネルギースペクトラムとを比較する図である。図6の上欄の縦軸は検出強度(カウント数)に規定され、横軸はエネルギーを示す。縦軸と横軸とは対数で表記されている。図6において0keVから200keVまでの範囲を128個のエネルギー帯域で区分されている。各エネルギー帯域の幅は同一に設定されている。上欄のグラフにおいて実測のカウントデータは十字印で示されており、モデル関数は実線で示されている。下欄は、実測のカウントデータが示すエネルギースペクトラムとモデル関数が示すエネルギースペクトラムとの差分(残差)を示すグラフである。データ収集は、管電圧120kV、ウェッジフィルタなし、被検体なし(エア)で行われた。図6に示すように、モデル関数は全体的に実測のカウントデータを再現することが出来ていることが判る。実際には、被検体が入ることで、さらに吸収構造が現れるが、同様に、被検体吸収を(2)式に従って、幾つかの基底物質を仮定することで、モデル関数として取り込むことが可能となる。
但し、図6からも明らかだが、応答関数を畳み込むことで基底物質を定量的に評価する場合、単純に未知数の数と同じ数のデータセット、すなわち、エネルギー帯域しか有しない場合、(2)式を満たす吸収物質の解が複数セット得られ、物質と吸収量とを同定することは出来ない。(2)式に従って解を得るには、図6のように最低16以上、できれば50以上のエネルギー帯域があるのが望ましい。
この解析のスキームであれば、(2)式から基底物質の数を3つに拡張した以下の(3)式のような形式でも対応することが可能となる。
さらに、従来のデュアルエナジーCTでは、基底物質のK吸収端を考慮することが出来なかったが、本実施形態に係る画像再構成方法であれば、モデル関数にK吸収端を取り入れることで、簡単にK吸収端構造を再現できる。よって、検出エネルギー範囲内にK吸収端を有する物質を積極的に使うことにより、本実施形態に係る画像再構成方法は、Kエッジイメージングの手法にも適用することができ、デュアルエナジーCTでは実現できなかった高コントラストイメージングを可能とする。
以下、多くのエネルギー帯を設定可能なデータ収集回路153の構造について説明する。
図7は、本実施形態に係るデータ収集回路153−1の一構成例を示す図である。なお、データ収集回路153−1は、X線検出素子の個数に応じたチャンネル数分の読出しチャンネルを装備している。これら複数の読出しチャンネルは、ASIC等の集積回路に並列的に実装されている。図7は、冗長を避けるため、1読出しチャンネル分のデータ収集回路153−1の構成のみを示している。
図7に示すデータ収集回路153−1は、前置増幅回路61、波形整形回路63、複数の波高弁別回路65、複数の計数回路67、及び出力回路69を有している。
前置増幅回路61は、接続先のX線検出素子からの電流信号を増幅する。具体的には、前置増幅回路61は、接続先のX線検出素子からの電流信号を、当該電流信号の電荷量に比例した電圧値(波高値)を有する電圧信号に変換する。前置増幅回路61には波形整形回路63が接続されている。波形整形回路63は、前置増幅回路61からの電圧信号の波形を成形する。具体的には、波形整形回路63は、前置増幅回路61からの電圧信号のパルス幅を縮小する。
波形整形回路63にはエネルギー帯域の数に対応する複数の計数チャネルが接続されている。n個のエネルギー帯域が設定されている場合、n個の計数チャネルが設けられる。具体的には、上記の通り、nは、16以上であることが望ましい。各計数チャネルは、波高弁別回路65−nと計数回路67−nとを有する。
各波高弁別回路65−nは、波形整形回路63からの電圧信号の波高値、すなわち、X線検出素子により検出されたX線フォトンのエネルギーを弁別する。具体的には、波高弁別回路65−nは、D/A変換回路(DAC)651−nと比較回路653−nとを有している。DAC651−nは、図示しない架台制御回路21からのエネルギー閾値に対応するデータ値を有するデジタル信号(以下、デジタル閾値信号と呼ぶ)を入力する。DAC651−nは、入力されたデジタル閾値信号を、当該デジタル閾値信号のデータ値(エネルギー閾値)に対応する波高値を有するアナログの電気信号(以下、アナログ閾値信号)に変換する。各DAC651−nには異なる閾値に対応するデジタル閾値信号が、例えば、架台制御回路21から供給される。比較回路653−nは、波形整形回路63からの電圧信号が、DAC651−nからのアナログ閾値信号の波高値(エネルギー閾値)に対応するエネルギー帯域に対応する波高値を有している場合、電気パルス信号を出力する。例えば、エネルギー帯域bin1のための比較回路653−1は、波形整形回路63からの電気パルスの波高値がエネルギー帯域bin1に対応する波高値である場合、電気パルス信号を出力する。一方、エネルギー帯域bin1のための比較回路653−1は、波形整形回路63からの電気パルスの波高値がエネルギー帯域bin1に対応する波高値でない場合、電気パルス信号を出力しない。
計数回路67−nは、ビューの切替周期に一致する読出し周期で、波高弁別回路65−nからの電気パルス信号を計数する。具体的には、計数回路67−nには、架台制御回路21から、各ビューの切替タイミングにトリガ信号が供給される。トリガ信号が供給されたことを契機として計数回路67−nは、波高弁別回路65−nから電気パルス信号が入力される毎に、内部メモリに記憶されているカウント数に1を加算する。次のトリガ信号が供給されたことを契機として計数回路67−nは、内部メモリに蓄積されたカウント数のデータ(すなわち、カウントデータ)を読み出し、出力回路69に供給する。また、計数回路67−nは、トリガ信号が供給される毎に内部メモリに蓄積されているカウント数を初期値に再設定する。このようにして計数回路67−nは、ビュー毎にカウント数を計数する。
出力回路69は、X線検出器151に搭載されている複数の読出しチャンネル分の計数回路67−nに接続されている。出力回路69は、複数のエネルギー帯域各々について、複数の読出しチャンネル分の計数回路67−nからのカウントデータを統合してビュー毎の複数の読出しチャンネル分のカウントデータを発生する。各エネルギー帯域のカウントデータは、チャンネルとセグメント(列)とエネルギー帯域とにより規定されるカウント数のデータの集合である。各エネルギー帯域のカウントデータは、ビュー単位でコンソール30に伝送される。ビュー単位のカウントデータをカウントデータセットと呼ぶ。
このように、図7に示すデータ収集回路153−1は、アナログの波高弁別回路65−nと計数回路67−nとを装備しており、従来のデータ収集回路のコンポーネントと同一である。図7に示すデータ収集回路153−1は、従来のデータ収集回路よりも計数チャンネル数が拡張されているが、個々のコンポーネントは実績がある。実装面積と電力とが計数チャンネル数に比例して増大するが実現は可能である。
図8は、本実施形態に係るデータ収集回路153−2の他の構成例を示す図である。なお、図8に示すデータ収集回路153−2も、図7に示すデータ収集回路153−1と同様に、X線検出素子の個数に応じたチャンネル数分の読出しチャンネルを装備している。これら複数の読出しチャンネルは、ASIC等の集積回路に並列的に実装されている。図8は、冗長を避けるため、1読出しチャンネル分のデータ収集回路153−2の構成のみを示している。
図8に示すデータ収集回路153−2は、前置増幅回路71、可変利得増幅回路73、緩衝増幅回路75、A/D変換回路(以下、ADC)77、デジタルフィルタ回路79、統合計数回路81、及び出力回路83を有している。
前置増幅回路71は、接続先のX線検出素子からの電流信号を増幅する。具体的には、前置増幅回路71は、接続先のX線検出素子からの電流信号の電荷量に比例した電圧値(波高値)を有する電圧信号に変換する。前置増幅回路71には可変利得増幅回路73が接続されている。可変利得増幅回路73は、前置増幅回路71からの電圧信号を可変の利得で増幅する。可変利得増幅回路73の利得は、例えば、入力回路39によりユーザにより任意の値に設定可能である。可変利得増幅回路73には緩衝増幅回路75が接続されている。緩衝増幅回路75は、可変利得増幅回路73からの電圧信号を、後段のADC77による周波数の変動を抑制するための利得で増幅する。緩衝増幅回路75にはADC77が接続されている。
ADC77は、緩衝増幅回路75からの電圧信号を所定のビット数でサンプリングして、緩衝増幅回路75からの電圧信号の波高値に対応するデータ値を有する時系列の離散的なデジタル信号に変換する。ADC77にはデジタルフィルタ回路79が接続されている。デジタルフィルタ回路79は、ADC77からのデジタル信号を解析してX線フォトンの到来時刻と当該X線フォトンのエネルギーとを特定する。X線フォトンの到来時刻はピークを記録した時刻に対応し、X線フォトンのエネルギーはピークのデータ値に対応する。以下、X線フォトンの到来時刻と当該X線フォトンのエネルギーとを示すデジタル信号をエネルギー信号と呼ぶことにする。デジタルフィルタ回路79には統合計数回路81が接続されている。
統合計数回路81は、エネルギー帯域の個数nに一致する個数の計数チャネルを有している。各計数チャネルは、弁別回路811−nと計数回路813−nとを有している。複数の弁別回路811−nは、デジタルフィルタ回路79から繰り返し供給されるエネルギー信号に基づいて、当該エネルギー信号に対応するX線フォトンが属するエネルギー帯域を弁別する。各弁別回路811−nには異なるエネルギー閾値が割り当てられ、各弁別回路811−nは、繰り返し供給されるエネルギー信号にエネルギー閾値を基準とする閾値処理を施し、当該エネルギー閾値に対応するエネルギー帯域に属するエネルギー信号を通過させ、当該エネルギー閾値に対応しないエネルギー帯域に属するエネルギー信号を遮断する。各計数回路813−nは、接続元の弁別回路811−nから供給されたエネルギー信号を計数する。複数の計数回路813−nは、ビューの切替周期に一致する読出し周期で、弁別回路811−nからのエネルギー信号を計数する。具体的には、計数回路813−nには、架台制御回路21から、各ビューの切替タイミングにトリガ信号が供給される。トリガ信号が供給されたことを契機として計数回路813−nは、弁別回路811−nからエネルギー信号が入力される毎に、内部メモリに記憶されているカウント数に1を加算する。次のトリガ信号が供給されたことを契機として計数回路813−nは、内部メモリに蓄積されたカウント数のデータ(すなわち、カウントデータ)を読み出し、出力回路83に供給する。また、計数回路813−nは、トリガ信号が供給される毎に内部メモリに蓄積されているカウント数を初期値に再設定する。このようにして計数回路813−nは、ビュー毎にカウント数を計数する。
出力回路83は、X線検出器151に搭載されている複数の読出しチャンネル分の統合計数回路81に接続されている。出力回路83は、複数のエネルギー帯域各々について、複数の読出しチャンネル分の統合計数回路81からのカウントデータを統合してビュー毎の複数の読出しチャンネル分のカウントデータを発生する。各エネルギー帯域のカウントデータは、チャンネルとセグメント(列)とエネルギー帯域とにより規定されるカウント数のデータの集合である。各エネルギー帯域のカウントデータは、ビュー単位でコンソール30に伝送される。ビュー単位のカウントデータをカウントデータセットと呼ぶ。
このように、図8に示すデータ収集回路153−2は、ASIC内にADC77を実装し、ADC77の出力をデジタルフィルタ回路79で信号処理し、デジタルフィルタ回路79の出力を、エネルギースペクトラムを表すカウントデータとして出力する。CTで要求されるX線強度は、ウェッジフィルタ透過後で3-600×106 ph/s/mm2と高い(“Enabling Photon Counting Clinical X-ray CT”, K. Taguchi, et al. 2009 IEEE Proc. Nucl. Sci. 3581-3585)。図8に示すデータ収集回路153−2の場合、ADC77のサンプリング速度としては、100MSPS(Sampling Per Second)以上が要求されるため、発熱や実装面積など、図7に示す構成と同様に懸念されるが、1GSPS以上のADCも市販されており、実現性は高い。
次に、本実施形態に係るフォトンカウンティングCT撮像の動作例を説明する。図9は、システム制御回路43の制御のもとに行われるフォトンカウンティングCT撮像の典型的な流れを示す図である。
図9に示すように、システム制御回路43は、被検体SにフォトンカウンティングCT撮像を施して複数のエネルギー帯域に関するカウントデータを収集するために架台制御回路21を制御する(ステップS1)。ステップS1において架台制御回路21は、被検体Sを対象としたフォトンカウンティングCT撮像を実行するためにX線発生システム13、X線検出システム15、及び回転駆動装置19を制御する。回転駆動装置19は、架台制御回路21による制御に従う一定の角速度で回転する。X線発生システム13の高電圧発生器133は、架台制御回路21による制御に従って、設定管電圧値に対応する高電圧をX線管131に印加し、フィラメント電流をX線管131に供給する。X線検出システム15のデータ収集回路153は、架台制御回路21による制御に従って、ビューの切替に同期してカウントデータセットをビュー毎に収集する。カウントデータセットは、図示しない伝送装置により架台からコンソールに伝送される。カウントデータセットは、複数のX線検出素子の各々について、エネルギー帯域のエネルギー値とセグメント番号とチャンネル番号とが割り当てられたデータの集合である。換言すれば、カウントデータセットは、各X線検出素子毎のカウント数のエネルギー分布を示す。
ステップS1が行われるとシステム制御回路43は、再構成回路33にX線吸収量算出機能335を実行させる(ステップS2)。ステップS2において再構成回路33は、ステップS1において収集されたカウントデータセット、被検体Sへの入射X線のエネルギースペクトラム、及び応答関数記憶回路331に記憶された応答関数に基づいて検出器応答特性の影響がない複数の基底物質各々に関するX線吸収量を算出する。各基底物質に関するX線吸収量の算出処理は物質弁別とも呼ばれている。
具体的には、再構成回路33は、まず、応答関数記憶回路331から応答関数のデータを読み出す。次に再構成回路33は、モデル関数に含まれる基底物質各々に関するX線吸収量を変えながらカウントデータセットとモデル関数との差分を算出し、算出された差分が閾値未満となるような基底物質各々に関する最終的なX線吸収量を決定する。この際、再構成回路33は、複数のエネルギー帯域の全てについて同時に当該差分が閾値未満となるような最終的なX線吸収量を決定する。上述のように、モデル関数は、被検体Sへの入射X線のエネルギースペクトラムとX線吸収量を冪指数とするネイピア数eの冪乗との積算値に対する応答関数での畳み込みにより規定される。被検体Sへの入射X線のエネルギースペクトラムは、例えば、キャリブレーション時においてX線検出システム15により測定されており、応答関数記憶回路331又は主記憶回路41等に記憶されている。閾値εは予め任意の値に決定されている。例えば、基底物質が基底物質0と基底物質1との2種類の場合、以下の手順により最終的なX線吸収量が再構成回路33によりビュー毎に決定される。
まず、ユーザによる入力回路39を介した指示に従って又は自動的に、基底物質0に関するX線減弱係数の初期値μ01及び透過経路長の初期値L01と基底物質1に関するX線減弱係数の初期値μ11及び透過経路長の初期値L11とが設定される。X線減弱係数の初期値μ01、透過経路長の初期値L01、X線減弱係数の初期値μ11、及び透過経路長の初期値L11は、実験的又は統計的知識に基づいて予め設定されている。そして以下の(4)式に示すように、再構成回路33は、カウントデータセットIdet(E)と初期のモデル関数M0(E)との差分((4)式の左辺)を算出し、当該差分と閾値εとの値を比較する。
(4)式に示すように、再構成回路33は、当該差分と閾値εとの比較を全てのエネルギー帯域iについて行う。複数のエネルギー帯域の全てについて差分が閾値εよりも小さいと判定された場合、基底物質0に関するX線減弱係数の初期値μ01及び透過経路長の初期値L01と基底物質1に関するX線減弱係数の初期値μ11及び透過経路長の初期値L11とが最終的な値に決定される。最終的なX線減弱係数と透過経路長とは、基底物質毎にカウントデータ記憶回路31に記憶される。
一方、複数のエネルギー帯域の少なくとも1つについて差分が閾値εよりも大きいと判定された場合、基底物質0に関するX線減弱係数及び透過経路長と基底物質1に関するX線減弱係数及び透過経路長とが変更される。X線減弱係数及び透過経路長の変更方法は既存の方法によって行われれば良い。そして、以下の(5)式に示すように、カウントデータセットとn回目の反復後のモデル関数Mn(E)との差分((5)式の左辺)を算出し、当該差分と閾値εとの値を比較する。なお、以下の(5)式においてnはn回目の反復数を示す。なお初回はn=0であるとする。
このようにして、複数のエネルギー帯域の全てについてカウントデータセットとモデル関数Mn(E)との差分((5)式の左辺)が閾値εを下回るまで、カウントデータセットとモデル関数Mn(E)との差分が反復して算出される。
そして、複数のエネルギー帯域の全てについてカウントデータセットとモデル関数Mn(E)との差分が閾値εを下回ると判定された場合、当該モデル関数Mn(E)に含まれる基底物質0に関するX線減弱係数μ0n及び透過経路長L0nと基底物質1に関するX線減弱係数μ1n及び透過経路長L1nとが最終的な値に決定される。最終的なX線減弱係数と透過経路長とは、基底物質毎にカウントデータ記憶回路31に記憶される。
なお、上記の基底物質に関するX線減弱係数と透過経路長との算出方法は、一例に過ぎず、基底物質に関するX線減弱係数と透過経路長とは、如何なる算術方法により算出されても良い。例えば、カウントデータの応答関数での逆畳み込みと、入射X線エネルギースペクトラムとX線吸収量を冪指数とするネイピア数の冪乗との積算値の差分を閾値と比較しても良い。
また、上記の方法においては、閾値εは予め設定され、カウントデータセットとモデル関数Mn(E)との差分が閾値εを下回るときのモデル関数Mn(E)が最終的なモデル関数に決定されるとした。しかしながら、本実施形態はこれに限定されない。例えば、カウントデータセットとモデル関数Mn(E)との差分が複数回数mだけ計算され、m個のモデル関数Mm(E)のうちの差分が局所的最小値(local minimum)のときのモデル関数M(E)が最終的なモデル関数に決定されると良い。
また、複数のエネルギー帯域の全てについて同時にカウントデータセットとモデル関数との差分が閾値ε未満となるようなX線吸収量が最終的なX線吸収量として決定されるとした。しかしながら、本実施形態はこれに限定されない。例えば、複数のエネルギー帯域のうちの所定数のエネルギー帯域について当該差分が閾値ε未満となるようなX線吸収量が最終的なX線吸収量として決定されても良い。
ステップS2が行われるとシステム制御回路43は、再構成回路33に再構成処理を行わせる(ステップS3)。ステップS3において再構成回路33は、ステップS2において算出された複数の基底物質各々のX線吸収量に基づいて、被検体Sに含まれる当該基底物質の空間分布を表現するフォトンカウンティングCT画像を再構成する。再構成に用いる基底物質の種類は、ステップS2においてX線吸収量が算出された複数の基底物質の中から任意に選択可能である。例えば、基底物質0に関するX線吸収量に基づいて再構成されたフォトンカウンティングCT画像は、基底物質0の空間分布を示し、基底物質1に関するX線吸収量に基づいて再構成されたフォトンカウンティングCT画像は、基底物質1の空間分布を示す。なお、画像再構成アルゴリズムとしては、FBP(filtered back projection)法やCBP(convolution back projection)法等に基づく解析学的画像再構成法や、ML−EM(maximum likelihood expectation maximization)法やOS−EM(ordered subset expectation maximization)法、OS−SART(ordered subset simultaneous algebraic reconstruction techniques)法等に基づく統計学的画像再構成法等の既存の画像再構成アルゴリズムが用いられれば良い。また、画像再構成アルゴリズムにKエッジイメージングの手法が組み込まれても良い。Kエッジイメージングは、端的には、画像化対象物質のK吸収端が属するエネルギー帯域を挟む両側のエネルギー帯域に関するカウントデータに基づいて、当該画像化対象物質の空間分布を表現するフォトンカウンティングCT画像を再構成する手法である。
ステップS3が行われるとシステム制御回路43は、表示回路37に表示処理を行わせる(ステップS4)。ステップS4において表示回路37は、ステップS3において再構成されたフォトンカウンティングCT画像を表示する。
以上により、本実施形態に係るフォトンカウンティングCT撮像の動作例の説明を終了する。
上記の説明の通り、本実施形態に係るフォトンカウンティングCT装置は、X線発生システム13、X線検出システム15、応答関数記憶回路331、及び再構成回路33を有する。X線発生システム13は、X線を発生する。X線検出システム15は、X線発生システム13から発生され被検体Sを透過したX線を検出するX線検出器151と、X線検出器151からの出力信号に基づいて検出されたX線のカウント数に関するカウントデータを複数のエネルギー帯域について収集するデータ収集回路153と、を有する。応答関数記憶回路331は、X線検出システム15への入射X線と検出器応答特性とを対応付ける応答関数のデータを記憶する。X線吸収量算出機能335の実行により再構成回路33は、複数のエネルギー帯域に関するカウントデータ、X線発生システム13により発生された入射X線のエネルギースペクトラム、及び応答関数記憶回路331から読み出された応答関数に基づいて複数の基底物質各々のX線吸収量を算出する。
このように、本実施形態においては、各基底物質のX線吸収量がX線検出システムの応答特性を示す応答関数を考慮して決定される。よって、決定されたX線吸収量は当該応答特性の影響を受けず、当該応答特性を考慮しないで算出されたX線吸収量に比して精度が向上する。また、本実施形態に関する応答関数は、メインピークだけでなくエスケープピークやシンチレータ材料のK特性X線のエネルギーをも反映している。これにより、基底物質のX線吸収量をより高精度に算出することができる。従って、当該X線吸収量に基づいて再構成されるフォトンカウンティングCT画像の精度も向上する。
かくして本実施形態によれば、エネルギー分解能が低い検出器であっても高精度に物質弁別することが可能となる。
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。