JP2016046392A - 超電導線材の検査方法および検査装置ならびに超電導線材の製造方法 - Google Patents

超電導線材の検査方法および検査装置ならびに超電導線材の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】超電導線材における超電導膜の剥離の可能性を非破壊で検査する検査方法および検査装置、ならびに高い信頼性を有する超電導線材を高い歩留りで製造することができる製造方法を提供する。
【解決手段】基板上に超電導材料層が形成された超電導線材の検査方法は、超電導状態に冷却された超電導線材の表面に対して交差する方向に磁場を印加し、当該磁場と超電導材料層を流れる遮蔽電流との相互作用によって基板と超電導材料層との間に剥離応力を発生させる工程と、剥離応力が付加された後の超電導線材の超電導特性を測定する工程と、超電導線材の超電導特性の測定結果に基づいて、超電導材料層において超電導特性が劣化している不良箇所を検出する工程とを備える。
【選択図】図8

Description

この発明は、超電導線材の検査方法および検査装置ならびに超電導線材の製造方法に関するものであり、特に、超電導線材における超電導膜の剥離の可能性を非破壊で検査する技術に関するものである。
近年、基板上に超電導膜を形成した超電導線材の開発が進められている。中でも、転移温度が液体窒素温度以上の高温超電導体である酸化物超電導体からなる超電導膜が設けられた酸化物超電導線材が注目されている。
たとえば磁場共鳴診断装置(MRI:Magnetic Resonance Imaging)や核磁気共鳴分析装置(NMR:Nuclear Magnetic Resonance)などの超電導機器においては、酸化物超電導線材により構成されたコイルを使うか、または酸化物超電導線材により構成されたコイルを低温超電導線材により構成されたコイルの内周側に組み込んだ構造とすることにより、小型かつ低運転コストの装置で強力な磁場を生成する技術が提案されている。
しかしながら、上記のような強磁場を生成する場合には、内周側のコイルが外周側のコイルから強い磁場を受けるため、内周側のコイルにおいて超電導線材に局所的な剥離が発生するという問題があった。これは、内周側のコイルでは、コイルを流れる電流と外周側のコイルによる磁場との相互作用によって電磁力が発生するため、電磁力に起因した剥離応力が超電導膜にかかることによる。そのため、酸化物超電導線材において基板と超電導膜との密着性が低い部分では、この剥離応力によって超電導膜が基板から剥がれてしまう場合があった。
このような局所的な剥離が発生すると、超電導線材の破損や変形が生じ易くなり、超電導特性(たとえば臨界電流特性)の劣化を招くおそれがある。その結果、高い信頼性で超電導機器を運転することが困難となる。
ここで、超電導線材の信頼性を評価する手法として、たとえば非特許文献1には、酸化物超電導線材の剥離試験を実施することが開示されている。この剥離試験はスタッドプル法により実施される。スタッドプル法とは、サンプル固定用のバッキングプレート上にサンプルを載せ、サンプルの中央部にスタッドピンを取り付けた後、取り付けたスタッドピンを3軸グリップで固定し、垂直下向きに引っ張ることにより、サンプルに荷重をかけていき、剥離を起こしたときの荷重を測定する方法である。
鈴木他、「RE123系線材の剥離強度評価」、2011年度秋季低温工学・超電導学会. D X Ma et al., "Degradation of REBCO conductors caused by the screening current", Superconductor Science and Technology, 26 (2013), 105018.
上記の非特許文献1に記載される剥離試験は、サンプルに荷重をかけたときの剥離強度を測定するものであるため、超電導線材の破壊を伴なう破壊検査である。そのため、超電導線材の全長に亘って剥離試験を実施することができず、超電導線材の信頼性を高精度に評価することが難しいという課題がある。
一方、酸化物超電導線材においては、近年、長さが数kmに及ぶ長尺線材の製造が可能となっており、長尺線材の全長にわたって高い臨界電流などの優れた超電導特性が保証されていることが要求される。これには、長尺線材の全長にわたって非破壊で信頼性を評価する技術が必要となってくる。
本発明の一態様の目的は、超電導線材における超電導膜の剥離の可能性を非破壊で検査する検査方法および検査装置、ならびに高い信頼性を有する超電導線材を高い歩留りで製造することができる製造方法を提供することである。
本発明の一態様に係る超電導線材の検査方法は、基板上に超電導材料層が形成された超電導線材の検査方法であって、超電導状態に冷却された超電導線材の表面に対して交差する方向に磁場を印加し、当該磁場と超電導材料層を流れる遮蔽電流との相互作用によって基板と超電導材料層との間に剥離応力を発生させる工程と、剥離応力が付加された後の超電導線材の超電導特性を測定する工程と、超電導線材の超電導特性の測定結果に基づいて、超電導材料層において超電導特性が劣化している不良箇所を検出する工程とを備える。
本発明の一態様に係る超電導線材の検査装置は、基板上に超電導材料層が形成された超電導線材を検査する検査装置であって、超電導状態に冷却された超電導線材の表面に対して交差する方向に磁場を印加し、当該磁場と超電導材料層を流れる遮蔽電流との相互作用によって基板と超電導材料層との間に剥離応力を発生させる磁場印加部と、剥離応力が付加された後の超電導線材の超電導特性を測定する第1の測定部と、超電導線材の超電導特性の測定結果に基づいて、超電導材料層において超電導特性が劣化している不良箇所を検出する検出部とを備える。
本発明の一態様に係る超電導線材の製造方法は、基板上に超電導材料層が形成された超電導線材を製造する工程と、超電導線材を検査する工程とを備える。検査する工程は、超電導状態に冷却された超電導線材の表面に対して交差する方向に磁場を印加し、当該磁場と超電導材料層を流れる遮蔽電流との相互作用によって基板と超電導材料層との間に剥離応力を発生させる工程と、剥離応力が付加された後の超電導線材の超電導特性を測定する工程と、超電導線材の超電導特性の測定結果に基づいて、超電導材料層において超電導特性が劣化している不良箇所を検出する工程とを含む。超電導線材の製造方法は、超電導材料層の不良箇所を含む超電導線材の一部を切除する工程をさらに備える。
上記によれば、超電導線材における超電導膜の剥離の可能性を非破壊で検査することができる。これにより、高い信頼性を有する超電導線材を高い歩留りで製造することができる。
本発明の実施の形態に係る超電導線材の構成を示す断面模式図である。 図1に示した超電導線材を用いて構成される超電導機器の一例を示す概略断面図である。 本実施の形態に係る超電導線材の製造方法を示すフローチャートである。 本実施の形態に係る超電導線材の製造方法の第1工程を概略的に示す断面模式図である。 本実施の形態に係る超電導線材の製造方法の第2工程を概略的に示す断面模式図である。 本実施の形態に係る超電導線材の製造方法の第3工程を概略的に示す断面模式図である。 本実施の形態に係る超電導線材の製造方法の第4工程を概略的に示す断面模式図である。 本実施の形態に係る超電導線材の製造方法を示すフローチャートである。 積層体に磁場を印加するための機器の概略斜視図である。 図9の線分X−Xにおける断面模式図である。 積層体に働く剥離応力を説明するための図である。 非特許文献2に記載される剥離応力と傾斜角度との関係を示した図である。 積層体に磁場を印加するための磁場印加部の装置構成の一例を示す図である。 積層体に磁場を印加するための磁場印加部の装置構成の一例を示す図である。 積層体に磁場を印加するための磁場印加部の装置構成の一例を示す図である。 第三高調波電圧誘導法による臨界電流特性の測定方法の概要を説明する図である。 遮蔽電流の変化を説明するための波形図である。 磁場が印加された後の積層体の超電導特性を測定する測定部の装置構成の一例を示す図である。 臨界電流密度の測定結果の一例を示す図である。 超電導特性が劣化している不良箇所を検出する検出部の装置構成の一例を示す図である。 積層体を検査する工程の変更例を説明するためのフローチャートである。 臨界電流密度の測定結果の一例を示す図である。 超電導特性が劣化している不良箇所を検出する検出部の装置構成の変更例を示す図である。
[本発明の実施形態の説明]
最初に本発明の実施態様を列記して説明する。
(1)本発明の一態様に係る超電導線材の検査方法は、基板上に超電導材料層が形成された超電導線材の検査方法であって、超電導状態に冷却された超電導線材の表面に対して交差する方向に磁場を印加し、当該磁場と超電導材料層を流れる遮蔽電流との相互作用によって基板と超電導材料層との間に剥離応力を発生させる工程と、剥離応力が付加された後の超電導線材の超電導特性を測定する工程と、超電導線材の超電導特性の測定結果に基づいて、超電導材料層において超電導特性が劣化している不良箇所を検出する工程とを備える。
上記(1)に係る超電導線材の検査方法によれば、超電導材料層に意図的に剥離応力を発生させることにより、超電導線材を用いて製造された超電導機器の運転時に発生し得る潜在的な剥離を顕在化させることができる。当該検査方法は、非破壊検査であるため、数kmに及ぶ長尺化された超電導線材の全長にわたって超電導材料層の剥離の可能性を検査することができる。したがって、超電導線材の信頼性を高精度に評価することができる。
(2)上記(1)に係る超電導線材の検査方法において好ましくは、超電導特性を測定する工程では、超電導材料層の直上に設置したコイルに交流電流を流して交流磁場を超電導材料層に印加し、上記コイルに誘導される電圧の第三高調波成分を解析することにより、超電導材料層の局所的な臨界電流密度を測定する。これにより、長尺化された超電導線材における局所的な臨界電流密度を、非破壊かつ非接触で測定することができるため、超電導特性が劣化している不良箇所を精度良く検出することができる。
(3)上記(1)または(2)に係る超電導線材の検査方法において好ましくは、不良箇所を検出する工程では、検出された不良箇所にマーキングする。これにより、超電導機器に加工される前の段階で不良箇所を切除しておくことができる。したがって、超電導機器の運転時に超電導材料層が剥離することがなくなり、超電導機器の信頼性を向上させることができる。
(4)上記(1)〜(3)のいずれかに係る超電導線材の検査方法において好ましくは、剥離応力を発生させる工程では、超電導線材の表面に対する磁場の角度を30°以上60°以下に設定する。これにより、超電導材料層に対して剥離応力を効果的に発生させることができるため、超電導線材に発生し得る潜在的な剥離を顕在化させることができる。
(5)上記(1)〜(4)のいずれかに係る超電導線材の検査方法において好ましくは、剥離応力を発生させる工程では、超電導線材に印加する磁場の強度を、超電導線材を用いて製造された超電導機器において超電導線材に対して印加することが想定される磁場の強度以上とする。これにより、超電導機器の運転時において超電導材料層に作用し得る剥離応力と同等レベル以上の剥離応力を超電導材料層に発生させることができる。よって、超電導機器の運転時における超電導材料層の剥離の可能性を高精度に検査することができる。
(6)上記(1)〜(5)のいずれかに係る超電導線材の検査方法において好ましくは、剥離応力を発生させる工程では、超電導線材に対する磁場の印加を複数回実行する。これにより、超電導材料層に対して確実に剥離応力を発生させることができるため、超電導線材に発生し得る潜在的な剥離を顕在化させることができる。
(7)上記(1)〜(6)のいずれかに係る超電導線材の検査方法において好ましくは、剥離応力を発生させる工程では、電磁コイルを用いて、超電導線材の全長にわたって連続的に磁場を印加する。これにより、数kmに及ぶ長尺化された超電導線材の全長にわたって超電導材料層の剥離の可能性を検査することができる。
(8)上記(1)〜(7)のいずれかに係る超電導線材の検査方法において好ましくは、剥離応力が付加される前の超電導線材の超電導特性を測定する工程をさらに備える。不良箇所を検出する工程では、剥離応力が付加される前後の超電導線材の超電導特性を比較した結果に基づいて、超電導材料層の不良箇所を検出する。これにより、超電導材料層の剥離に起因して超電導特性が劣化している不良箇所を精度良く検出することができる。
(9)本発明の一態様に係る超電導線材の製造方法は、基板上に超電導材料層が形成された超電導線材を製造する工程と、超電導線材を検査する工程とを備える。検査する工程は、超電導状態に冷却された超電導線材の表面に対して交差する方向に磁場を印加し、当該磁場と超電導材料層を流れる遮蔽電流との相互作用によって基板と超電導材料層との間に剥離応力を発生させる工程と、剥離応力が付加された後の超電導線材の超電導特性を測定する工程と、超電導線材の超電導特性の測定結果に基づいて、超電導材料層において超電導特性が劣化している不良箇所を検出する工程とを含む。超電導線材の製造方法は、超電導材料層の不良箇所を含む超電導線材の一部を切除する工程をさらに備える。
上記(9)に係る超電導線材の製造方法によれば、超電導機器に加工される前の超電導線材を製造する段階で、数kmに及ぶ長尺化された超電導線材の全長にわたって超電導材料層の剥離の可能性を非破壊で検査することができる。さらに、超電導材料層の剥離に起因して超電導特性が劣化する可能性がある不良箇所を切除しておくことができる。これにより、高い信頼性を有する超電導線材を高い歩留りで製造することができる。
(10)本発明の一態様に係る超電導線材の検査装置は、基板上に超電導材料層が形成された超電導線材を検査する検査装置であって、超電導状態に冷却された超電導線材の表面に対して交差する方向に磁場を印加し、当該磁場と超電導材料層を流れる遮蔽電流との相互作用によって基板と超電導材料層との間に剥離応力を発生させる磁場印加部と、剥離応力が付加された後の超電導線材の超電導特性を測定する第1の測定部と、超電導線材の超電導特性の測定結果に基づいて、超電導材料層において超電導特性が劣化している不良箇所を検出する検出部とを備える。
上記(10)に係る超電導線材の検査装置によれば、超電導材料層に意図的に剥離応力を発生させることにより、超電導線材を用いて製造された超電導機器の運転時に発生し得る潜在的な剥離を顕在化させることができる。さらに、非破壊検査であるため、数kmに及ぶ長尺化された超電導線材の全長にわたって超電導材料層の剥離の可能性を検査することができる。したがって、超電導線材の信頼性を高精度に評価することができる。
(11)上記(10)に係る超電導線材の検査装置において好ましくは、剥離応力が付加される前の超電導線材の超電導特性を測定する第2の測定部をさらに備える。検出部は、剥離応力が付加される前後の超電導線材の超電導特性を比較した結果に基づいて超電導材料層の不良箇所を検出する。これにより、超電導材料層の剥離に起因して超電導特性が劣化している不良箇所を精度良く検出することができる。
(12)上記(11)に係る超電導線材の検査装置において好ましくは、第2の測定部、磁場印加部および第1の測定部は、超電導線材を供給する第1のリールと、第1のリールから供給される超電導線材が巻き取られる第2のリールとの間に、この順に直列に設けられる。これにより、簡易な装置構成で、超電導線材の検査を効率良く行なうことができる。
(13)上記(10)〜(12)のいずれかに係る超電導線材の検査装置において好ましくは、磁場印加部は、電磁コイルを用いて、超電導線材の全長にわたって連続的に磁場を印加する。これにより、数kmに及ぶ長尺化された超電導線材の全長にわたって超電導材料層の剥離の可能性を検査することができる。
[本発明の実施形態の詳細]
以下、本発明の実施の形態について図に基づいて説明する。なお、以下の図面において、同一または相当する部分には同一の参照符号を付し、その説明は繰り返さない。
<超電導線材の構成>
図1は、本発明の実施の形態に係る超電導線材の構成を示す断面模式図である。図1は、本実施の形態に係る超電導線材10の延在する方向に交差する方向に切断した断面を示している。このため、紙面に交差する方向が超電導線材10の長手方向であり、超電導材料層3の超電導電流は紙面に交差する方向に沿って流れるものとする。また、図1および以降の断面模式図においては、図を見やすくするために矩形状の断面における上下方向(以下、「厚み方向」とも称する)と左右方向(以下、「幅方向」とも称する)との長さの差を小さくしているが、実際は当該断面の厚み方向の長さは幅方向の長さに比べて十分に小さい。
図1を参照して、本実施の形態に係る超電導線材10は、断面が矩形をなす長尺形状(テープ状)であり、ここでは長尺形状の長手方向に延在する相対的に大きな表面を主面とする。超電導線材10は、基板1と、中間層2と、超電導材料層3と、保護層4と、安定化層6とを備える。
基板1は、たとえば金属からなり、断面が矩形をなす長尺形状(テープ状)とすることが好ましい。コイルに巻回するためには、基板1は2km程度に長尺化されていることが好ましい。
基板1は、配向金属基板を用いることがさらに好ましい。なお、配向金属基板とは、基板表面の面内の2軸方向に関して、結晶方位が揃っている基板を意味する。配向金属基板としては、たとえばニッケル(Ni)、銅(Cu)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、コバルト(Co)、鉄(Fe)、パラジウム(Pd)、銀(Ag)、および金(Au)のうちの2以上の金属からなる合金が好適に用いられる。これらの金属を他の金属または合金と積層することもでき、たとえば高強度材料であるSUSなどの合金を用いることもできる。なお、基板1の材料は特にこれに限定されず、たとえば金属以外の材料を用いてもよい。
超電導線材10の幅方向の長さは、たとえば4mm〜10mm程度である。超電導線材10に流れる電流密度を大きくするためには、基板1の断面積が小さい方が好ましい。ただし、基板1の厚み(図1における上下方向)を薄くしすぎると、基板1の強度が劣化する可能性がある。したがって、基板1の厚みはたとえば0.1mm程度にすることが好ましい。
中間層2は、基板1の一方の主面上に形成されている。超電導材料層3は、中間層2の、基板1と対向する主面と反対側の主面(図1における上側の主面)上に形成されている。中間層2を構成する材料は、たとえばイットリア安定化ジルコニア(YSZ)、酸化セリウム(CeO)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化イットリウム(Y)およびチタン酸ストロンチウム(SrTiO)などが好ましい。これらの材料は、超電導材料層3との反応性が極めて低く、超電導材料層3と接触している境界面においても超電導材料層3の超電導特性を低下させない。特に、基板1を構成する材料として金属を用いる場合には、表面に結晶配向性を有する基板1と超電導材料層3との配向性の差を緩和して、超電導材料層3を高温で形成する際に、基板1から超電導材料層3への金属原子の流出を防止する役割を果たすことができる。なお、中間層2を構成する材料は特にこれに限定されない。
また、中間層2は、複数の層により構成されていてもよい。中間層2が複数の層により構成される場合、中間層2を構成するそれぞれの層は互いに異なる材質または一部が同じ材質により構成されていてもよい。
超電導材料層3は、超電導線材10のうち、超電導電流が流れる薄膜層である。超電導材料は特に限定されないが、たとえばRE−123系の酸化物超電導体とすることが好ましい。なお、RE−123系の酸化物超電導体とは、REBaCu(yは6〜8、より好ましくは6.8〜7、REとはイットリウム、またはGd、Sm、Hoなどの希土類元素を意味する)として表される超電導体を意味する。また、超電導材料層3に流れる超電導電流の値を向上させるためには、超電導材料層3の厚みは0.5μm〜10μmであることが好ましい。
保護層4は、超電導材料層3の、中間層2と対向する主面と反対側の主面(図1における上側の主面)上に形成されている。保護層4は、たとえば銀(Ag)または銀合金からなり、その厚みは0.1μm以上50μm以下とすることが好ましい。
以上に述べた基板1、中間層2、超電導材料層3および保護層4により積層体5が形成されている。この積層体5の周囲を覆うように安定化層6が配置されている。本実施の形態では、積層体5の外周を覆うように、すなわち、積層体5の外側の最表面のほぼ全面を覆うように、安定化層6が配置されている。ただし、本発明の「積層体の周囲」とは、全周に限定されるものではなく、少なくとも積層体の上主面および側面を含んでいればよい。
安定化層6は、良導電性の金属材料の箔またはめっき層などからなる。安定化層6は、保護層4とともに、超電導材料層3が超電導状態から常電導状態に遷移する際に超電導材料層3の電流が転流するバイパスとして機能する。安定化層6はさらに、外力や水分などから積層体5を保護する機能を有する。安定化層6を構成する材料は、たとえば銅(Cu)または銅合金などが好ましい。安定化層6の厚みは特に限定されないが、保護層4および超電導材料層3を物理的に保護する観点から10μm〜500μmであることが好ましい。
<超電導機器の構成例>
図2は、図1に示した超電導線材10を用いて構成される超電導機器の一例を示す概略断面図である。
図2を参照して、超電導機器は、2つの超電導コイルC1,C2を含んで構成される。超電導コイルC1は、ニオブチタン合金などの低温超電導材料により構成された低温超電導線材を巻回することによって形成されている。一方、超電導コイルC2は、実施の形態1に係る超電導線材10(図1)を巻回することによって形成されている。超電導コイルC2は、超電導コイルC1の内周側に、超電導コイルC1と同心円上に配置されている。
低温超電導コイルを用いた従来の超電導機器においては、より強い磁場を発生させるためには超電導コイルが大型化し、冷却に必要とされる液体ヘリウムの使用量も増加するという問題が生じていた。図2に示すように低温超電導コイルの内周側に高温超電導コイルを組み込んだ構造を採用することで、超電導コイル全体のサイズを大型化することなく、強力な磁場を発生させることができる。また、液体ヘリウムの使用量の増加が抑制されるため、超電導機器の運転コストを低減することが可能となる。
一方、内周側の超電導コイルC2では、コイルを流れる電流と外周側の超電導コイルC1による磁場との相互作用に基づく電磁力が発生する。電磁力による応力が超電導材料層3にかかることによって、超電導材料層3と中間層2との密着性が低い箇所では超電導材料層3の剥離が生じる可能性がある。この結果、超電導機器の信頼性が低下し得る。
超電導機器の運転時に超電導材料層3の剥離が生じるか否かについては、非特許文献1に記載されるような剥離試験を行なうことによって判定することができる。しかしながら、この剥離試験は、超電導線材10の破壊を伴なう破壊検査であるため、超電導線材10の全長にわたって実施することは不可能である。
本実施の形態では、数kmに及ぶ長尺化された超電導線材10の全長にわたって超電導材料層3の剥離の可能性を非破壊で検査する。さらに、本実施の形態に係る検査を超電導線材10の製造工程に組み込むことで、高い信頼性を有する超電導線材10を高い歩留りで製造可能とする。
<超電導線材の製造方法>
次に、本実施の形態に係る超電導線材の検査方法を用いた超電導線材の製造方法について説明する。図3は、本実施の形態に係る超電導線材の製造方法を示すフローチャートである。
(1)積層体を形成する工程(S10:図3)
図3を参照して、まず積層体5を形成する工程(S10)が実施される。具体的には、図4を参照して、まず基板1を準備する工程が実施される。本工程では、配向金属基板からなり、所定の幅のテープ状を有する基板1が準備される。基板1の厚みは目的に応じて適宜調整すれば良く、通常は100μm〜500μmの範囲とすることができる。
次に、基板1上に中間層2を形成する工程が実施される。具体的には、図5を参照して、基板1の一方の主面上に中間層2が成膜される。中間層2の成膜方法としては、任意の成膜方法を用いることができるが、たとえばパルスレーザ蒸着(Pulsed Laser Deposition:PLD)法などの物理的蒸着法を用いることができる。
次に、中間層2上に超電導材料層3を形成する工程が実施される。具体的には、図6を参照して、中間層2の基板1と対向する主面と反対側の主面(図6における上側の主面)上に、RE−123系の酸化物超電導体からなる超電導材料層3を形成する。超電導材料層3の成膜方法としては、任意の成膜方法を用いることができるが、たとえば気相法および液相法、またはそれらの組合せにより形成する。気相法としては、たとえばレーザ蒸着法、スパッタリング法、および電子ビーム蒸着法などが挙げられる。レーザ蒸着法、スパッタリング法、電子ビーム法、および有機金属堆積法の少なくとも1つにより行なわれると、結晶配向性および表面平滑性に優れた表面を有する超電導材料層3を形成することができる。
次に、超電導材料層3上に保護層4を形成する工程が実施される。具体的には、図7を参照して、超電導材料層3の中間層2と対向する主面と反対側の主面(図7における上側の主面)上に、銀(Ag)または銀合金からなる保護層4を、たとえばスパッタなどの物理的蒸着法や電気めっき法などにより形成する。その後、酸素雰囲気下で加熱処理する酸素アニールを行ない(酸素導入工程)、超電導材料層3に酸素を導入する。以上の工程が実施されることにより、積層体5が形成される。
(2)積層体を検査する工程(S20:図3)
次に、積層体5を検査する工程(S20:図3)が実施される。本工程では、基板1上に超電導材料層3が形成された積層体5において、基板1と超電導材料層3との間に意図的に剥離応力を発生させることにより、超電導線材10を用いて製造された超電導機器の運転時に発生し得る潜在的な剥離を顕在化させる。
このようにすれば、超電導機器に加工される前の超電導線材10を製造する段階で、超電導機器として動作した際に超電導材料層3の剥離に起因して超電導特性が劣化する可能性がある不良箇所を切除しておくことができる。この結果、超電導機器の運転時に超電導特性が劣化するのを抑制できるため、超電導機器の信頼性を向上させることができる。
積層体5を検査する工程は、具体的には、図8のフローチャートに示すように、積層体5に磁場を印加する工程(S210)と、磁場が印加された後の積層体5の超電導特性(臨界電流特性)を測定する工程(S220)と、超電導材料層3において超電導特性が劣化している不良箇所を検出する工程(S230)とを含む。以下、各工程について詳細に説明する。
(2−1)積層体に磁場を印加する工程(S210:図8)
積層体に磁場を印加する工程(S210:図8)では、超電導状態に冷却された積層体5に磁場を印加することにより、外部磁場と超電導材料層3を流れる遮蔽電流との相互作用によって基板1と超電導材料層3との間に剥離応力を発生させる。剥離応力を発生させる手法としては、たとえば非特許文献2に記載されるような従来公知の手法を用いることができる。
まず図9から図11を用いて、積層体における剥離応力発生の原理を説明する。図9は、本実施の形態に係る積層体5に磁場を印加するための機器の概略斜視図である。図10は、図9の線分X−Xにおける断面模式図である。図11は、積層体5に働く剥離応力を説明するための図である。なお、説明の便宜のため、x軸方向、y軸方向、z軸方向が導入されている。
図9を参照して、試料ホルダ30はxy平面上に設置されている。試料ホルダ30の表面(設置面と反対側の面)には傾斜面が形成されている。この傾斜面は、設置面の法線方向(z軸方向)に対して所定角度で傾斜している。積層体5は傾斜面上に載置されている。積層体5のx軸方向の両端部7はそれぞれ、ソルダを介して試料ホルダ30の表面上に形成されたリード32と接続されている。
上記のように試料ホルダ30に積層体5が載置された状態で、積層体5を冷却する。積層体5の冷却温度は、超電導状態を得るために、液体窒素温度(77K)以下であることが好ましい。一般に、酸化物超電導体は低温になるほど、高い臨界電流密度が得られるようになる。したがって、より低い冷却温度とすれば、超電導材料層3を流れる遮蔽電流が大きくなるため、より大きな剥離応力を発生させることができる。積層体5の冷却温度は、より好ましくは20K以下である。そして、超電導状態に冷却された積層体5に対して外部磁場Bexを印加する。外部磁場Bexは、積層体5をz軸方向に沿って貫通する。すなわち、積層体5の表面に対して交差する方向に外部磁場Bexを印加する。
積層体5においては、内部への磁場の侵入を打ち消すように、超電導材料層3に遮蔽電流が発生する。図9に示すように、遮蔽電流は矩形の環状の電流経路を右回りに流れる。図10には、超電導材料層3の内部をx軸方向に沿って互いに逆向きに遮蔽電流が流れる様子が示されている。遮蔽電流と外部磁場Bexとによって超電導材料層3にはフレミング左手の法則に従う電磁力(ローレンツ力)Fが生じる。このローレンツ力Fは、遮蔽電流の流れる向きおよび外部磁場Bexの向きに対して垂直な方向(y軸方向)に作用する。超電導材料層3の一方側を流れる遮断電流と他方側を流れる遮蔽電流とは逆方向であるため、両遮蔽電流に作用するローレンツ力は逆向きとなっている。
なお、図示は省略するが、y軸方向に対して所定角度傾斜した方向に沿って流れる遮蔽電流と外部磁場Bexとによってもローレンツ力が発生する。ただし、超電導材料層3の一方側を流れる遮断電流と他方側を流れる遮蔽電流とは逆方向であるために、両遮蔽電流に作用するローレンツ力はx軸方向に沿って逆向きとなり、互いにキャンセルされる。
図11は、図10に示した超電導材料層3に作用するローレンツ力Fのベクトル図である。図11を参照して、外部磁場Bexの印加方向(z軸方向)と積層体5の主面とのなす角度(以下、傾斜角度とも称す)をθとする。ローレンツ力Fは、積層体5の主面に平行な成分Fhと、積層体5の主面に垂直な成分Fpとに分解することができる。Fh,Fpはそれぞれ傾斜角度θを用いて、Fcosθ,Fsinθで表される。
これら2つの成分Fh,Fpにおいて、積層体5の主面に平行な成分Fh同士は大きさが等しく内向きであるために互いにキャンセルされる。そのため、積層体5の主面に垂直な成分Fpのみが残る。図11に示すように、積層体5の主面の一方側には垂直方向上向きに力Fpが作用し、積層体5の主面の他方側には垂直方向下向きに力Fpが作用する。これら2つの力Fpは、超電導材料層3に剥離応力を発生させる。
剥離応力Fpの大きさは、傾斜角度θに応じて変化する。図12は、非特許文献2に記載される、剥離応力F(θ)と傾斜角度θとの関係を示した図である。図12において横軸は傾斜角度θを示し、縦軸は剥離応力F(θ)を示している。なお、剥離応力F(θ)は、傾斜角度ごとの剥離応力Fpを最大値を1として正規化したものである。図12を参照して、剥離応力F(θ)はθ=45°付近で最大となる。図12に示す関係によれば、剥離応力を効果的に発生させるためには、傾斜角度θは30°以上60°以下とすることが好ましい。
上記のように超電導材料層3に剥離応力が生じると、超電導材料層3と中間層2との密着性が低い箇所では超電導材料層3が剥離する可能性がある。超電導材料層3の剥離が発生した箇所は、超電導材料層3の破損や変形等が生じ易くなるため、超電導特性の劣化に繋がるおそれがある。
本実施の形態では、上記の方法を用いて積層体5に意図的に剥離応力を発生させることにより、超電導機器として動作した際に発生し得る潜在的な剥離を顕在化させる。実際には、積層体5は断面が矩形をなす長尺形状であるため、電磁コイルを用いて、積層体5の全長にわたって連続的に磁場を印加する。具体的には、電磁コイルからの漏洩磁束が印加される位置を積層体5の延在方向(長手方向)に所定間隔ずつずらしていく構成とする。
図13から図15は、積層体5に磁場を印加するための磁場印加部の装置構成の一例を示す図である。
図13は、積層体5の延在方向に交差する方向に切断した断面を示している。積層体5は、紙面に交差する方向に沿って所定速度で移動するものとする。冷却装置34は、積層体5を冷却する。積層体5の冷却温度は、液体ヘリウム温度(4.2K)から液体窒素温度(77K)までに及ぶ広い温度幅を有している。なお、剥離応力を大きくするためには積層体5に大きな遮蔽電流を生じさせる必要がある。これには、積層体5の冷却温度の低温化が有効である。
積層体5の延在方向の一部分には電磁コイル35からの漏洩磁束が印加される。積層体5の主面は、電磁コイル35を通電することによって生じる磁場Bexに対して所定角度θで傾斜している。図12で説明したように、所定角度θは30°以上60°以下とすることが好ましい。なお、電磁コイル35に超電導マグネットを用いることで、積層体5に強磁場を印加することができる。
このとき、磁場Bexを受けて積層体5の一部分に遮蔽電流が流れることにより、当該一部分に剥離応力が発生する。超電導材料層3と中間層2との密着性が低い部分である場合には、超電導材料層3の剥離が発生し得る。積層体5を延在方向に沿って所定速度で移動させることで、磁場Bexが印加される位置を積層体5の延在方向に所定間隔ずつずらしていく。このようにして積層体5に連続的に磁場を印加していくことにより、積層体5の全長にわたって剥離応力を発生させる。これにより、超電導機器として動作した際に剥離が起こる可能性がある不良箇所を顕在化させる。
あるいは図14に示すように、磁場印加部を、積層体5を供給するリール(第1のリール)36と、リール36から供給される積層体5が巻き取られるリール(第2のリール)38との間に電磁コイル35を設ける構成としてもよい。
図14を参照して、電磁コイル35は、コイルの内部を積層体5が貫通するように配置されている。電磁コイル35の内部において、積層体5の主面は、電磁コイル35からの漏洩磁場に対して所定角度θで傾斜している。所定角度θは好ましくは30°以上60°以下である。電磁コイル35の内部に位置する積層体5の一部分には、漏洩磁場と遮蔽電流との相互作用によって剥離応力が発生する。この剥離応力によって超電導材料層3の剥離が発生し得る。
リール36,38の各々を一定速度で回転させることにより、磁場が印加される位置を積層体5の延在方向に所定間隔ずつずらしていく。このようにして積層体5に連続的に磁場を印加していくことにより、積層体5の全長にわたって剥離応力を発生させる。これにより、超電導機器として動作した際に剥離が起こる可能性がある箇所を顕在化させる。
なお、図13および図14に示した構成において、超電導機器の運転時に発生し得る潜在的な剥離を顕在化させる観点から、積層体5に生じさせる剥離応力は、超電導機器の運転時に生じる剥離応力と同等レベルの大きさであることが好ましい。これには、例えば外部磁場Bexの強度を、超電導機器の運転時において超電導線材10に印加される磁場の強度と同等以上とすることができる。外部磁場Bexの強度は、たとえば、0.1T(T:テスラ)以上であり、より好ましくは、1T以上である。
あるいは超電導機器の運転時の磁場の強度よりも小さい強度の外部磁場Bexを複数回にわたって印加する構成としてもよい。具体的には、図15を参照して、リール36とリール38との間に複数の電磁コイル35を設ける。複数の電磁コイル35の各々は、コイルの内部を積層体5が貫通するように配置されている。積層体5は電磁コイル35の内部を通過するごとに磁場が印加される。なお、図14に示した電磁コイル35が1個の構成であっても、積層体5の巻き取りを複数回行なうことで、実質的に図14に示した構成と同様の効果を得ることができる。
(2−2)超電導特性(臨界電流特性)を測定する工程(S220:図8)
上述した積層体に磁場を印加する工程(S210)を実施することによって、積層体5には超電導材料層3の局所的な剥離が発生する場合がある。超電導材料層3が剥離している部分では超電導特性(たとえば臨界電流値)が劣化し得る。本実施の形態では、磁場が印加された後の積層体5の臨界電流特性を測定する。臨界電流特性の測定には第三高調波電圧誘導法を用いる。第三高調波電圧誘導法は、大面積を持つ超電導膜の局所的な臨界電流密度を、非破壊かつ非接触で測定することが可能な評価法として知られている。当該評価法を本実施の形態に適用することにより、長尺化された積層体5における局所的な臨界電流密度を測定することができる。図16および図17を用いて、第三高調波電圧誘導法による臨界電流特性の測定方法の概要を説明する。
図16を参照して、膜厚dの超電導膜の直上に電磁コイル40を設置し、この電磁コイル40に交流電流Icosωtを通電すると、超電導膜には交流磁界Hcosωtが印加される。これにより、超電導膜においては、内部への磁場φの侵入を打ち消すように遮蔽電流Isが発生する。図17は、遮蔽電流Isの変化を説明するための波形図である。
図17(a)を参照して、交流電流のIが閾値電流Icより小さいときには、交流磁界に比例した遮蔽電流Isが超電導膜に流れる。これにより、電磁コイル40に誘導される電圧もほぼ線形となる。しかしながら、図17(b)に示すように、交流電流のIが閾値電流Icを超えて遮蔽電流Isが臨界値Icに達すると、遮蔽電流Isはピーク領域が切れたような波形となる。これにより電磁コイル40に誘導される電圧も非線形な応答を示す。すなわち、電磁コイル40には第三高調波電圧が急激に誘導される。このとき、超電導膜内を流れる臨界電流密度をJcとすると、臨界電流密度Jc、交流磁界Hおよび超電導膜の膜厚dの間には2H=Jc×dの関係が成り立っている。これにより臨界電流密度はJc=2K/d・Icと表される。ただし、Kは電磁コイル40の形状、および電磁コイル40と超電導膜表面との間の距離で与えられる定数である。閾値電流Icは臨界電流密度Jcに比例することから、閾値電流Icを測定することにより、臨界電流密度Jcを評価することができる。
図18は、磁場が印加された後の積層体5の超電導特性(臨界電流密度)を測定する測定部(第1の測定部)の装置構成の一例を示す図である。
図18を参照して、測定部は、電磁コイル40と、積層体5を供給するリール(第1のリール)46と、リール46から供給される積層体5が巻き取られるリール(第2のリール)48と、冷却装置45とを含んで構成される。電磁コイル40は、リール46とリール48との間に設けられる。
冷却装置45は、積層体5を冷却する。積層体5の冷却温度は、超電導状態を得るために、液体窒素温度(77K)以下であることが好ましい。電磁コイル40は、積層体5の表面の直上に設置されており、積層体5に対して交流磁界を印加する。これにより、積層体5の一部分には遮蔽電流Is(図16)が流れる。遮蔽電流Isが臨界値に達するときの閾値電流Icを測定することによって当該部分の臨界電流密度Jcを評価することができる。
本実施の形態では、リール46,48の各々を一定速度で回転させることにより、電磁コイル40からの漏洩磁場が印加される位置を積層体5の延在方向に所定間隔ずつずらしていく。このようにして積層体5に連続的に磁場を印加していくことにより、積層体5の全長にわたって臨界電流密度Jcを評価することができる。
(2−3)不良箇所を検出する工程(S230:図8)
本工程では、上述した超電導特性を測定する工程で得られた臨界電流密度Jcの測定結果に基づいて、積層体5において超電導特性が劣化している不良箇所を検出する。
図19は、臨界電流密度Jcの測定結果の一例を示す図である。図19において横軸は積層体5の延在方向における位置を示し、縦軸は臨界電流密度Jcを示している。積層体5の延在方向における位置は、積層体5の延在方向の端部を基準点(ゼロ点)として、基準点から距離Lで表している。なお、本測定において、積層体5に印加される磁場の強度は、超電導機器の運転時において超電導線材10に印加される磁場の強度を考慮して、0.1T以上であり、より好ましくは、1T以上である。また、磁場印加部における積層体5の冷却温度は、液体窒素温度(77K)以下であり、より好ましくは20K以下である。
図19を参照して、臨界電流密度Jcは積層体5の延在方向に沿ってほぼ一定の値を維持しているが、局所的に低い値を示している。同図において、位置L1からL2までの区間Aおよび位置L3からL4までの区間Bは、臨界電流密度Jcが予め定められた閾値Jcthよりも低下している。これらの区間A,Bにおいては超電導材料層3の剥離が生じている可能性が高い。したがって、区間AおよびBの各々を不良箇所として検出する。
図20は、超電導特性が劣化している不良箇所を検出する検出部の装置構成の一例を示す図である。
図20を参照して、検出部42は、リール46,48の回転速度および積層体5にかかる張力などに基づいて電磁コイル40からの漏洩磁場が印加されている位置を検出する。この位置は、図19に示したように、積層体5の基準点からの距離Lで表わされる。
検出部42はさらに、検出された位置における電磁コイル40の閾値電流Icを測定し、その測定結果から臨界電流密度Jcを算出する。そして、検出部42は、算出された臨界電流密度Jcと閾値Jcth(図19参照)とを比較し、臨界電流密度Jcが閾値Jcthを下回っている位置を不良箇所として検出する。
検出部42は、検出された不良箇所に対してマーカー44を用いてマーキングを行なう。具体的には、検出部42は、リール46,48の回転速度などに基づいて不良箇所がマーカー44のインク塗布位置に一致するタイミングを求めると、求めたタイミングで積層体5にマーキングを行なう。
なお、図19および図20では、磁場が印加された後の積層体5の臨界電流密度Jcと閾値Jcthとを比較した結果に基づいて不良箇所を検出する構成について説明したが、磁場が印加される前後の臨界電流密度Jcを比較した結果に基づいて不良箇所を検出する構成とすることも可能である。これによれば、剥離応力を受けて超電導特性が劣化した不良箇所を精度良く検出することができる。
図21は、積層体を検査する工程の変更例を説明するためのフローチャートである。本変更例に係る積層体を検査する工程は、図8に基づいて説明した積層体を検査する工程と基本的に同様の構成を有している。しかし、図21を参照して、本変更例では、積層体に磁場を印加する工程(S210)の前に積層体の超電導特性(臨界電流特性)を測定する工程(S200)が実行される点で異なっている。具体的には、磁場が印加される前の積層体の超電導特性を測定する工程(S200)では、磁場が印加された後の積層体の超電導特性を測定する工程(S220)と同様に、第三高調波電圧誘導法を用いて積層体5の臨界電流密度Jcを測定する。すなわち、磁場が印加される前の積層体5の超電導特性(臨界電流密度)を測定する測定部(第2の測定部)は、図18に示した磁場が印加された後の積層体5の超電導特性を測定する測定部(第1の測定部)と基本的に同様の装置構成を有している。
図22は、臨界電流密度Jcの測定結果の一例を示す図である。図22において横軸は積層体5の延在方向における位置を示し、縦軸は臨界電流密度Jcを示している。積層体5の延在方向における位置は、積層体5の延在方向の端部を基準点(ゼロ点)として、基準点から距離Lで表している。図中のk1は磁場が印加される前の積層体5の臨界電流密度Jcを示し、k2は磁場が印加された後の積層体5の臨界電流密度Jcを示している。なお、本測定において、積層体5に印加される磁場の強度は、0.1T以上であり、より好ましくは、1T以上である。また、磁場印加部における積層体5の冷却温度は、液体窒素温度(77K)以下であり、より好ましくは20K以下である。
不良箇所を検出する工程(S230:図21)では、磁場が印加される前の積層体5の臨界電流密度Jcと、磁場が印加された後の積層体5の臨界電流密度Jcとを比較する。具体的には、積層体5上の測定位置ごとに、磁場が印加される前後での臨界電流密度Jcの偏差(図中のdJcに相当)を算出する。超電導材料層3の剥離が生じていない箇所では、磁場が印加される前後において臨界電流密度Jcはほとんど変化していない。一方、超電導材料層3の剥離が生じている可能性が高い箇所では、磁場が印加される前の臨界電流密度Jcに比べて磁場が印加された後の臨界電流密度Jcが低下している。すなわち、超電導材料層3の剥離の有無によって臨界電流密度の偏差dJcの大きさが異なってくる。したがって、本変更例では、臨界電流密度の偏差dJcと所定の閾値とを比較し、偏差dJcが当該閾値を超えている位置を不良箇所として検出する。
図23は、超電導特性が劣化している不良箇所を検出する検出部の装置構成の変更例を示す図である。
図23を参照して、積層体5を供給するリール(第1のリール)46と、リール46から供給される積層体5が巻き取られるリール(第2のリール)48との間に、電磁コイル40、電磁コイル35および電磁コイル40がこの順に直列に設けられる。
積層体5はリール46からリール48に向かって走行する。積層体5の走行方向の上流側に設けられた電磁コイル40は、磁場が印加される前の積層体5の超電導特性を測定する測定部(第2の測定部)を構成する。電磁コイル35は、積層体5に磁場を印加する磁場印加部を構成する。走行方向の下流側に設けられた電磁コイル40は、磁場が印加された後の積層体5の超電導特性を測定する測定部(第1の測定部)を構成する。リール46から一定速度で繰り出された積層体5は、電磁コイル40、電磁コイル35および電磁コイル40を順に通過する。これにより、図21に示す各工程が順に実行される。
なお、図23では、磁場印加部における冷却装置34と、第1および第2の測定部における冷却装置45とが別々の装置となっているため、たとえば液体ヘリウム温度(4K)程度の温度下で積層体5に磁場を印加しつつ、この前後において、液体窒素温度(77K)程度の温度下で積層体5の超電導特性を測定することが可能である。あるいは、磁場印加部と第1および第2の測定部とで積層体5の冷却温度が等しい場合(たとえば、ともに積層体5を液体窒素温度(77K)に冷却する場合)には、冷却装置34と冷却装置45とを一体化してもよい。
検出部42は、リール46,48の回転速度および積層体5にかかる張力などに基づいて、上流側の電磁コイル40からの漏洩磁場が印加されている位置、および下流側の電磁コイル40からの漏洩磁場が印加されている位置をそれぞれ検出する。この位置は、図22に示したように、積層体5の基準点からの距離Lで表わされる。
検出部42は、上流側の電磁コイル40の閾値電流Icを測定し、測定結果から磁場が印加される前の臨界電流密度Jcを算出する。検出部42はさらに、下流側の電磁コイル40の閾値電流Icを測定し、測定結果から磁場が印加された後の臨界電流密度Jcを算出する。そして、検出部42は、積層体5上の測定位置ごとに、磁場が印加される前後での臨界電流密度Jcの偏差dJcを算出する。検出部42は、算出された臨界電流密度の偏差dJcと閾値とを比較し、偏差dJcが閾値を超えている位置を不良箇所として検出する。
検出部42は、検出された不良箇所に対してマーカー44を用いてマーキングを行なう。具体的には、検出部42は、リール46,48の回転速度などに基づいて不良箇所がマーカー44のインク塗布位置に一致するタイミングを求めると、求めたタイミングで積層体5にマーキングを行なう。
(3)不良箇所を切除する工程(S30:図3)
再び図3を参照して、積層体を検査する工程(S20:図3)によって超電導材料層3の不良箇所が検出されると、続いて当該不良箇所を切除する工程(S30:図3)が実施される。本工程では、検出された不良箇所を含む積層体5の一部を切除する。
(4)安定化層を形成する工程(S40:図3)
最後に、不良箇所が切除された積層体5の周囲に安定化層6を形成する安定化層形成工程(S40:図3)が実施される。具体的には、積層体5の外周を覆うように、すなわち、積層体5の外側の最表面のほぼ全面を覆うように、銅(Cu)または銅合金からなる安定化層6を、公知のめっき法により形成する。安定化層6を形成する方法としては、めっき法以外に、銅箔を貼り合せる方法がある。以上の工程が実施されることにより、図1に示す本実施の形態に係る超電導線材10が製造される。
次に、本実施の形態に係る超電導線材の検査方法および検査装置ならびに超電導線材の製造方法の作用効果について説明する。
本実施の形態に係る超電導線材の検査方法および検査装置によれば、超電導材料層に意図的に剥離応力を発生させることにより、超電導線材を用いて製造された超電導機器の運転時に発生し得る潜在的な剥離を顕在化させることができる。本実施の形態に係る検査方法は、非破壊検査であるため、数kmに及ぶ長尺化された超電導線材の全長にわたって超電導材料層の剥離の可能性を検査することができる。したがって、超電導線材の信頼性を高精度に評価することができる。
本実施の形態に係る超電導線材の製造方法によれば、超電導機器に加工される前の超電導線材を製造する段階で、長尺化された超電導線材の全長にわたって、超電導機器の運転時に起こり得る超電導材料層の剥離の可能性を非破壊で検査することができる。さらに、超電導材料層の剥離に起因して超電導特性が劣化する可能性がある不良箇所を切除しておくことができる。この結果、高い信頼性を有する超電導線材を高い歩留りで製造することができる。
なお、上述した実施の形態においては、積層体を形成した段階で積層体を検査して不良箇所を切除し、不良箇所が切除された積層体に対して安定化層を形成することにより超電導線材を製造する方法について説明したが(図3参照)、超電導線材を製造した後(安定化層を形成した後)、超電導線材を検査して不良箇所を切除する構成としても同様の効果を奏することができる。
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
1 基板
2 中間層
3 超電導材料層
4 保護層
5 積層体
6 安定化層
10 超電導線材
30 試料ホルダ
32 リード
34,45 冷却装置
35,40 電磁コイル
36,38,46,48 リール
42 検出部
44 マーカー

Claims (13)

  1. 基板上に超電導材料層が形成された超電導線材の検査方法であって、
    超電導状態に冷却された前記超電導線材の表面に対して交差する方向に磁場を印加し、当該磁場と前記超電導材料層を流れる遮蔽電流との相互作用によって前記基板と前記超電導材料層との間に剥離応力を発生させる工程と、
    前記剥離応力が付加された後の前記超電導線材の超電導特性を測定する工程と、
    前記超電導線材の超電導特性の測定結果に基づいて、前記超電導材料層において前記超電導特性が劣化している不良箇所を検出する工程とを備える、超電導線材の検査方法。
  2. 前記超電導特性を測定する工程では、前記超電導材料層の直上に設置したコイルに交流電流を流して交流磁場を前記超電導材料層に印加し、前記コイルに誘導される電圧の第三高調波成分を解析することにより、前記超電導材料層の局所的な臨界電流密度を測定する、請求項1に記載の超電導線材の検査方法。
  3. 前記不良箇所を検出する工程では、検出された前記不良箇所にマーキングする、請求項1または請求項2に記載の超電導線材の検査方法。
  4. 前記剥離応力を発生させる工程では、前記超電導線材の表面に対する磁場の角度を30°以上60°以下に設定する、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の超電導線材の検査方法。
  5. 前記剥離応力を発生させる工程では、前記超電導線材に印加する磁場の強度を、前記超電導線材を用いて製造された超電導機器において前記超電導線材に対して印加することが想定される磁場の強度以上とする、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の超電導線材の検査方法。
  6. 前記剥離応力を発生させる工程では、前記超電導線材に対する磁場の印加を複数回実行する、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の超電導線材の検査方法。
  7. 前記剥離応力を発生させる工程では、電磁コイルを用いて、前記超電導線材の全長にわたって連続的に磁場を印加する、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の超電導線材の検査方法。
  8. 前記剥離応力が付加される前の前記超電導線材の超電導特性を測定する工程をさらに備え、
    前記不良箇所を検出する工程では、前記剥離応力が付加される前後の前記超電導線材の超電導特性を比較した結果に基づいて、前記超電導材料層の前記不良箇所を検出する、請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の超電導線材の検査方法。
  9. 基板上に超電導材料層が形成された超電導線材を製造する工程と、
    前記超電導線材を検査する工程とを備え、
    前記検査する工程は、
    超電導状態に冷却された前記超電導線材の表面に対して交差する方向に磁場を印加し、当該磁場と前記超電導材料層を流れる遮蔽電流との相互作用によって前記基板と前記超電導材料層との間に剥離応力を発生させる工程と、
    前記剥離応力が付加された後の前記超電導線材の超電導特性を測定する工程と、
    前記超電導線材の超電導特性の測定結果に基づいて、前記超電導材料層において前記超電導特性が劣化している不良箇所を検出する工程とを含み、
    前記超電導材料層の前記不良箇所を含む前記超電導線材の一部を切除する工程をさらに備える、超電導線材の製造方法。
  10. 基板上に超電導材料層が形成された超電導線材を検査する検査装置であって、
    超電導状態に冷却された前記超電導線材の表面に対して交差する方向に磁場を印加し、当該磁場と前記超電導材料層を流れる遮蔽電流との相互作用によって前記基板と前記超電導材料層との間に剥離応力を発生させる磁場印加部と、
    前記剥離応力が付加された後の前記超電導線材の超電導特性を測定する第1の測定部と、
    前記超電導線材の超電導特性の測定結果に基づいて、前記超電導材料層において前記超電導特性が劣化している不良箇所を検出する検出部とを備える、超電導線材の検査装置。
  11. 前記剥離応力が付加される前の前記超電導線材の超電導特性を測定する第2の測定部をさらに備え、
    前記検出部は、前記剥離応力が付加される前後の前記超電導線材の超電導特性を比較した結果に基づいて前記超電導材料層の前記不良箇所を検出する、請求項10に記載の超電導線材の検査装置。
  12. 前記第2の測定部、前記磁場印加部および前記第1の測定部は、前記超電導線材を供給する第1のリールと、前記第1のリールから供給される前記超電導線材が巻き取られる第2のリールとの間に、この順に直列に設けられる、請求項11に記載の超電導線材の検査装置。
  13. 前記磁場印加部は、電磁コイルを用いて、前記超電導線材の全長にわたって連続的に磁場を印加する、請求項10から請求項12のいずれか1項に記載の超電導線材の検査装置。
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