<多孔質炭素材料>
〔連続多孔構造〕
本発明の多孔質炭素材料(以下、単に「材料」ということがある。)は、連続多孔構造を有する。
本発明の多孔質炭素材料における連続多孔構造とは、例えば液体窒素中で充分に冷却した試料をピンセット等により割断した断面を走査型電子顕微鏡(SEM)などによって表面観察した際に、図1の走査型電子顕微鏡写真に例示される通り、奥行き方向に枝部(炭素部)と孔部(空隙部)がそれぞれ連続した構造が観察されることを言う。
本発明の多孔質炭素材料は、連続多孔構造を構成する孔部へ流体を充填及び/又は流すことで、物質の分離、吸着、脱離などの分画特性を発揮させることや、例えば電解液を充填することで電池材料としての機能を付与することも可能となる。また枝部が連続することで電気伝導性が高くなることによって、電池材料として抵抗の低い、損失の少ない材料を提供することができるほか、熱伝導性が高くなることによって、連続多孔構造内部で発生した熱を速やかに系外と授受することが可能であり、高い温度均一性を保つことも可能となる。加えて枝部がそれぞれお互いに構造体を支えあう効果により、引張、圧縮などの変形に対しても、大きな耐性を有する材料となる。
本発明の多孔質炭素材料における連続多孔構造を有する部分の構造周期は0.002μm〜10μmであることが好ましい。本発明の多孔質炭素材料における連続多孔構造を有する部分の構造周期とは、本発明の多孔質炭素材料試料に対して、X線を入射し、散乱強度がピーク値を持つ位置の散乱角度θより、下記の式で算出されるものである。また構造周期が1μmを超え、X線の散乱ピークが観測できない場合には、X線CT法によって多孔質炭素材料の共連続構造部分を三次元撮影し、フーリエ変換を行ってスペクトルを得て、同様に構造周期を算出する。つまり本発明でいうスペクトルとは、X線散乱法、またはX線CT法からのフーリエ変換によって得られる1次元の散乱角度と散乱強度の関係を示すデータである。
構造周期:L、λ:入射X線の波長、π:円周率
0.002μm以上の構造周期を持つ材料であれば、容易に他素材との複合化が可能であるほか、例えば分離用カラム材料として用いる際にも優れた分離特性を発揮できるため、好ましい。また10μm以下の構造周期を持つ材料であれば、構造体として欠陥が非常に少なく、力学的に優れた材料とすることが可能になるほか、十分に高い表面積を確保することができるため、表面での反応が重要な用途について、特に好適である。構造周期の値は、上記範囲の中で用途に合わせて任意に選択することができる。
また構造周期の値は、連続多孔構造が配向した材料である場合には、X線の入射方向やX線CTの撮影方向によって構造周期の値が変化する場合がある。本発明の多孔質炭素材料は、いずれかの方向から測定した際に、構造周期が上記範囲に入ることが好ましい。連続多孔構造は、いずれかの方向から観測された際に均一な多孔構造を形成していることで、連続多孔構造内に流体を充填及び/又は流すことができるほか、枝部を通じて電気伝導性、熱伝導性を確保することができる。
構造周期は小さいほど構造が細かく、単位体積あるいは単位重量当りの表面積が大きく、例えば触媒を担持する場合などには触媒と流体との接触効率が飛躍的に高まる。また構造周期は大きいほど圧力損失を低減し、流体を充填及び/又は流すことが可能となる。これらのことから、上記構造周期は、使用する用途に応じて任意に設定することが好ましい。
連続多孔構造の平均空隙率は、10〜80%であることが好ましい。平均空隙率とは、包埋した試料をクロスセクションポリッシャー法(CP法)により精密に形成させた断面を、1±0.1(nm/画素)となるよう調整された拡大率で、70万画素以上の解像度で観察した画像から、計算に必要な着目領域を512画素四方で設定し、着目領域全体の面積をA、孔部分の面積をBとして、下記の式で算出されたものを言う。
平均空隙率(%)=B/A×100
平均空隙率は、高いほど他素材との複合の際に充填効率を高められるほか、ガスや液体の流路として圧力損失が小さく、流速を高めることができる一方、低いほど圧縮や曲げといった断面方向にかかる力に強くなるため、取り扱い性や加圧条件での使用に際して有利となる。これらのことを考慮し、連続多孔構造の平均空隙率は15〜75%の範囲であることが好ましく、18〜70%の範囲がさらに好ましい。
前記連続多孔構造は、細孔直径分布曲線において、5nm〜4μmの範囲に少なくとも1つのピーク直径を有することが好ましい。細孔直径分布は、水銀圧入法またはガス吸着法により測定される。水銀圧入法では、5nm〜500μmまでの広範な細孔直径分布曲線を取得可能であることから構造周期の大きな材料における細孔直径分布の取得に好適である。対してガス吸着法は100nm程度までの水銀圧入法と比較して小さな領域の細孔直径分布の取得に好適である。細孔直径分布は、本発明の多孔質炭素材料の構造周期に応じて、水銀圧入法またはガス吸着法のいずれかを適宜選択することができる。細孔直径分布曲線におけるピーク直径の値は、小さいほど多孔質炭素材料と複合する他素材との距離が近く、特に数10nm以下の領域では量子トンネル効果により他素材と本発明の多孔質炭素材料の間において電流が流れやすい状態を形成しやすくなる一方、大きいほど直径の大きな粒子等との複合が容易になる。これらのことを考慮し、本発明の多孔質炭素材料における細孔直径分布曲線のピーク直径は、5nm〜3μmの範囲にあることがより好ましく、5nm〜1μmの範囲にあることがさらに好ましい。
なお、連続多孔構造を実質的に有しない部分を一部に有する場合であっても、連続多孔構造の細孔直径分布は材料全体の細孔直径分布を測定することで測定することができ、連続多孔構造の細孔直径分布曲線は材料全体の細孔直径分布曲線で近似することができる。
〔X線回折プロファイル〕
本発明の多孔質炭素材料は、X線回折プロファイルにおいて15〜29°の範囲に少なくとも一つのピークを有する。X線回折プロファイルのうち、15〜29°は、黒鉛結晶の(002)面及びこれらに近い非晶構造に相当する回折ピークである。本発明の多孔質炭素材料は、黒鉛結晶構造が発達していないが、(002)面に相当する構造サイズに近い非晶質と黒鉛結晶との間の性質を持ち、炭素原子を主体とするいわゆる炭素ネットワークを形成するため、当該構造に対応した15〜29°の範囲に少なくとも一つのピークを有する。当該ピークを持つ多孔質炭素材料は、均質な炭素ネットワークを持ち、電気伝導性、熱伝導性を適度に維持しつつ、力学的な強度やじん性といった機械的な耐久性に優れる。
また前記ピークは、その半値幅(FWHM)が1°以上であることが好ましい。半値幅は規則性の高さを示すパラメータであり、小さいほど規則性が高いことを示す。半値幅が1°以上であれば、黒鉛結晶に対して十分に構造が乱れており、結晶構造特有の劈開や脆性といった性質を示すことなく、力学的な強度やじん性といった機械的な耐久性に、より優れた材料となる。特に他の材料と複合化した場合に、その材料が膨張、収縮などを起こす、例えば電池材料などの充放電に伴う活物質の体積変化などに際して、非常に高い耐久性を示すことから好ましい。この観点から半値幅は2°以上であるとより好ましく、4°以上であると更に好ましい。また半値幅の上限は特に制限されないが、炭素材料として一般的には、30°以下であることが多い。
本発明の多孔質炭素材料は、後述する連続多孔構造を実質的に有しない部分を有する場合、連続多孔構造を有する部分のみのX線回折プロファイルの半値幅が1°以上であることが好ましい。連続多孔構造を有する部分のみのX線回折プロファイルは、例えば粉砕した多孔質炭素材料のうち、電子顕微鏡等で観察して連続多孔構造を有する部分のみをピックアップして、X線回折を測定することで取得可能である。サンプルが小さく、十分なデータが得られない場合には、必要に応じてX線の輝度を大幅に高めることが可能な放射光施設を利用することで測定が可能である。また別の方法としては、連続多孔構造を有する部分のみを残すように化学的や物理的にエッチングや研磨を行ってサンプリングを行うこともできる。
〔連続多孔構造を実質的に有しない部分〕
本発明の多孔質炭素材料は、連続多孔構造を実質的に有しない部分を一部に有していても良い。連続多孔構造を実質的に有しない部分とは、クロスセクションポリッシャー法(CP法)により形成させた断面を、1±0.1(nm/画素)の拡大率で観察した際に、孔径が解像度以下であることにより明確な孔が観察されない部分が、一辺が前述のX線から算出される構造周期Lの3倍に対応する正方形の領域以上の面積で存在する部分を意味する。
連続多孔構造を実質的に有しない部分は炭素が緻密に充填されていることによって電子伝導性が高まることから、電気伝導性、熱伝導性を一定レベル以上に保つことができる。そのため、連続多孔構造を実質的に有しない部分を有する多孔質炭素材料は、例えば電池材料として使用した場合に、反応熱を系外へ速やかに排出することや、電子の授受に際しての抵抗を低くすることが可能であり、高効率電池の製造に寄与する。加えて、連続多孔構造を有しない部分が存在することで、特に圧縮破壊に対する耐性を飛躍的に高めることが可能であるという利点もある。
また本発明の多孔質炭素材料は、HPLC用カラム材料としても高度な分画特性を有するカラムとして好適である。更には連続多孔構造を有する部分の表面に触媒を担持することで、連続多孔構造を有しない部分で規制されたマイクロリアクター、排気ガス浄化触媒などの応用へも寄与することが可能となる。
連続多孔構造を有しない部分の割合は特に限定されず、各用途によって任意に制御可能であるが、分画材料として連続多孔構造を有しない部分を壁面として使用する場合、電池材料として使用する場合には、いずれも5体積%以上が連続多孔構造を有しない部分であると、それぞれ分画特性を維持したまま、流体が本発明の連続多孔構造から漏出することを防止したり、電気伝導性、熱伝導性を高いレベルで維持したりすることが可能であるため好ましい。
連続多孔構造を有しない部分は、前述の連続多孔構造を有する部分と同様、X線回折プロファイルに記載のように、15〜29°に少なくとも一つのピークを持つことが好ましい。連続多孔構造は、炭素原子が緻密であることから、結晶ではなく非晶に近い構造を持つほうが、連続多孔構造を有する部分と比較して、より均質な炭素ネットワークを持ち、電気伝導性、熱伝導性を適度に維持しつつ、力学的な強度やじん性といった機械的な耐久性の向上効果に優れる。
また連続多孔構造を有しない部分は、前述のX線回折プロファイルにおける半値幅(FWHM)が1°以上であることが好ましい。半値幅が1°以上であれば、黒鉛構造に対して十分に構造が乱れており、炭素原子が緻密な連続多孔構造を有しない部分の力学特性を改善し、圧縮や引張に対する耐性を高められるため好ましい。
また、本発明の多孔質炭素材料が、連続多孔構造を有しない部分が連続多孔構造を有する部分を覆うように周囲に形成された形態である場合には、より効率的に連続多孔構造を構成する孔部へ流体を充填及び/又は流すことが可能となることや、強度に優れることから好ましい。以下、本明細書においてこの形態の多孔質炭素材料を説明するが、その際、連続多孔構造を有する部分を「コア層」、当該コア層を覆う連続多孔構造を有しない部分を「スキン層」と呼ぶことにする。
〔コア層〕
コア層は、上記の連続多孔構造を有する層であり、このような構造を持つことで、例えば繊維やフィルムといった形態の材料の断面から連続多孔構造の内部へ他素材を含浸することが容易であるほか、物質透過のためのパスとして利用することも可能となるため、例えば分離用カラムの流路や、気体分離膜のガス流路として活用することが可能である。
また、本発明の連続多孔構造は、均一な構造を形成しているため圧縮や曲げ、引っ張りなどの力学的特性に優れており、炭化材料特有の脆さの改善にも寄与する。
コア層の連続多孔構造は、中心部における構造周期が0.002μm〜10μmとなるように形成されていることが好ましい。ここで中心部とは、多孔質炭素材料中において、材料の断面における質量分布が均一であると仮定した際の重心を指し、例えば粉体の場合は、そのまま重心であり、材料の形態が丸断面を持つ繊維の場合は、繊維軸と直交する断面において繊維表面からの距離が同一となる点を指す。ただし明確に重心を定義することが困難なフィルム形状の場合は、TD又はMD方向と直交する断面においてフィルム表面から垂線を引き、その垂線上におけるフィルム厚みの二分の一の寸法である点の集合を中心部とする。また同様に重心が材料中に存在しない中空繊維の場合には、中空繊維外表面の接線から垂線を引き、垂線上において材料厚みの二分の一の寸法にある点の集合を中心部とする。
〔スキン層〕
スキン層は、コア層の周囲に形成された、連続多孔構造を実質的に有しない層のことを示す。
スキン層の厚みは特に限定されるものではなく、材料の用途に応じて適宜選択することができるが、厚すぎると多孔質炭素材料として空隙率が低下する傾向が見られることから、100μm以下であることが好ましく、50μm以下であることがより好ましく、20μm以下であることが最も好ましい。ここで下限についても特に限定されるものではないが、材料の形態を保ち、コア層と区別された機能を発揮させる観点から1nm以上であることが好ましい。
このような本発明の多孔質炭素材料は、コア層とスキン層からなる非対称構造を有することができる。このような非対称構造を有することで、他材料と複合化させて複合材料とする場合に、スキン層部分には他材料が充填されておらず、コア層の連続多孔構造のみに他材料が充填されている複合材料を作製することが可能となる。このような複合材料は、スキン層部分で炭素材料そのものの持つ化学的安定性、熱・電気伝導性などの特性を発揮しつつ、コア層に様々な機能性材料を担持することができ、電池材料や触媒担体、繊維強化複合材料など幅広い用途への応用が考えられる。また、スキン層とコア層からなる非対称構造を有することで、例えば分離膜用途に用いた場合には、スキン層を分離機能層、コア層を流体の流路として効率的な濾過、分離が可能になる。
〔多孔質炭素材料の形状〕
本発明の多孔質炭素材料の形状は特に限定されず、例えばバルク状、棒状、平板状、円盤状、球状、粉末状などが挙げられるが、中でも繊維状、フィルム状あるいは粉末状の形態であることが好ましい態様である。
繊維状の形態とは、平均直径に対して平均長さが100倍以上のものを指し、フィラメント、長繊維であっても、ステープル、短繊維、チョップドファイバーであっても良い。また断面の形状は、何ら制限されるものではなく、丸断面、三角断面等の多葉断面、扁平断面や中空断面など任意の形状とすることが可能である。
繊維状の形態を持つ場合には、連続多孔構造を有する部分に流体を充填したり流したりすることができ、特に電解液を流した場合には、連続多孔構造内で効率的な電気化学反応を誘発することができる。また高圧で流体を充填したり流したりする際には、連続多孔構造を有する部分を構成する枝部がお互いに支えあう構造を持つため、高い圧縮耐性を示すことから、特に高圧が必要な分離材料として好ましい。
また、繊維状の多孔質炭素材料は、連続多孔構造を構成する枝部の表面で吸着、脱着が起こり、分画カラム材料として分画特性に優れる。また連続多孔構造を実質的に有しない部分が存在すると、電気伝導性、熱伝導性を併せ持つ材料とすることができ、上記した例のように電気化学反応に伴う反応熱を除去することが容易になるほか、分画カラム材料としても、流体の圧力損失による加圧に伴う変形を最小限に抑制することができ、性能の安定した分画カラム材料とすることができる。
特に、繊維状の多孔質炭素材料が、連続多孔構造を有するコア層と、その周囲を覆うように形成された連続多孔構造を実質的に有しないスキン層により形成されている場合には、例えば流体の分離膜として用いる際に、繊維そのものをモジュール化することで、コア層の空隙に流体を通過させてスキン層との間で分離機能を持たせることが容易になるほか、平膜と比較して単位体積当りの膜面積を大きく取ることができるなどの利点がある。また、断面方向にかかる力に対する耐性が高くなることから、高圧での運転も可能となり、高効率での膜分離が可能となるほか、特に高圧の流体を分離するための材料としての適性に優れるため好ましい。またモジュール化して高速液体クロマトグラムなどの分離用カラムとしても好適に使用できる。さらに、コア層に均一な連続多孔構造が形成されているため、構造の均一性が高く、比表面積が大きいため、運転時の負荷となる圧力損失を増大させることなく、分離性能を飛躍的に高めることが可能となる。
また短繊維の形態として用いる場合には、マトリックスとなる樹脂と溶融混練することで、連続多孔構造を有する部分の孔部にマトリックスとなる樹脂を浸透させて複合させやすい。このような形態で用いた場合、本発明の多孔質炭素材料は、マトリックスと接触する面積が連続多孔構造を持たない一般の炭素短繊維と比較して大きいことに加え、連続した空隙部にも樹脂が充填されて、これを引き出すことが困難になることから大きなアンカー効果を発揮できるため、容易に複合材料としての力学特性を高強度、高弾性率に改善することが可能になる。
また繊維の断面形状を中空断面とする場合には、中空部に他素材を充填できるため、例えば電解液、活物質を充填することで電池材料等への応用が可能になるほか、物質分離用の中空糸膜としての応用も可能となる。中空部の形状は特に限定されるものではなく、丸断面、三角断面等の多葉断面、扁平断面や、複数の中空部を有する形状など、任意の形状とすることができる。
繊維の平均直径は特に限定されるものではなく、用途に応じて任意に決定することができるが、取り扱い性や多孔質を維持する観点から10nm以上であることが好ましい。また曲げ剛性を確保して、取り扱い性を向上させる観点から、5000μm以下であることが好ましい。
本発明の多孔質炭素材料がフィルム状の形態を持つ場合には、連続多孔構造を有する部分に他の素材を複合してそのままシートとして使用が可能になるため、電池材料の電極や電磁波遮蔽材などの用途に好適に用いることができる。特に、連続多孔構造を有するコア層と、その片面または両面に連続多孔構造を実質的に有しないスキン層を有するフィルムである場合には、スキン層が電気伝導性や熱伝導性を高いレベルで維持できることや、他素材との接着などに好適な界面として機能するため好ましい態様である。また、スキン層がフィルムの一面のみに形成された形態であると、連続多孔構造を有する部分としてのコア層と他の素材との複合が容易になる。特に、X線回折プロファイルにおいて15〜29°の範囲に少なくとも一つのピークを有することで、炭素材料としては非常に柔軟であるため、単独でも、他の素材と複合しても、剥離による脱落を最小限に抑えて連続した巻取が可能であるため好ましい。
フィルムの厚みは特に限定されるものではなく、用途に応じて任意に決定することができるが、取り扱い性を考慮した場合、10nm以上であることが好ましく、曲げによる破損を防止する観点から5000μm以下であることが好ましい。
粉末状の形態を持つ場合には、例えば電池材料等への応用が可能であり、連続多孔構造を有しない部分は、粉体を構成する個々の粒子、すなわち粒子1個のうちの一部を占めることで、粒子内における電気伝導性、熱伝導性を飛躍的に高めることが可能になるほか、粒子自体の圧縮強度を高めることが可能になるため高圧下での性能劣化が少なくなる。また、電気伝導性、熱伝導性を高めることが可能になるほか、連続多孔構造を有しない部分が、それぞれの粒子間で接触することで、更に電気伝導性、熱伝導性を高めることが可能になる。また、流体が粉体中を流れる際に、連続多孔構造を有しない部分を通ることで、流路が複雑に入り乱れ、流体を効率よく混合することができることから特に分離用カラム充填材料として好適な特性を付与できるため、好ましい態様である。
粉末状の多孔質炭素材料において、連続多孔構造を有しない部分が占める割合は、上記特性を発揮する上で5体積%以上であることが好ましい。連続多孔構造を有しない部分が占める割合については、従来公知の分析手法で求めることができるが、電子線トモグラフィー法やX線マイクロCT法などによって三次元形状を測定し、連続多孔構造を有する部分と有しない部分との体積から算出することが好ましい。
また、粉体を構成する粒子が、連続多孔構造を有するコア層と、その周囲を覆うように形成された、連続多孔構造を実質的に有しないスキン層からなる粒子である場合には、中空状の粒子として軽量なフィラーとして用いることが可能になる。
また粉末の粒度は特に限定されるものではなく、用途に応じて適宜選択することが可能であるが、10nm〜10mmの範囲であると、粉体として取り扱うことが可能になるため好ましい。特に10μm以下の粒度を持つ粉末は、例えばペーストを形成する固形分として非常に滑らかなものが得られるため、塗布などの工程におけるペーストはがれや割れなどの欠点を防止することが可能である。一方0.1μm以上の粒度を持つ粉末は、樹脂との複合材料とした場合には、フィラーとしての強度向上効果を充分に発揮させられるため好ましい態様である。
<多孔質炭素材料の製造方法>
本発明の多孔質炭素材料は、一例として、炭化可能樹脂と消失樹脂とを相溶させて樹脂混合物とする工程(工程1)と、相溶した状態の樹脂混合物を相分離させ、固定化する工程(工程2)と、加熱焼成により炭化する工程(工程3)とを有する製造方法により製造することができる。
〔工程1〕
工程1は、炭化可能樹脂10〜90重量%と、消失樹脂90〜10重量%と相溶させ、樹脂混合物とする工程である。
ここで炭化可能樹脂とは、焼成により炭化し、炭素材料として残存する樹脂であり、熱可塑性樹脂および熱硬化性樹脂の双方を用いることができる。熱可塑性樹脂の場合、加熱や高エネルギー線照射などの簡便なプロセスで不融化処理を実施可能な樹脂を選択することが好ましい。また、熱硬化性樹脂の場合、不融化処理が不要の場合が多く、こちらも好適な材料として挙げられる。熱可塑性樹脂の例としては、ポリフェニレンオキシド、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル、フェノール樹脂、全芳香族ポリエステルが挙げられ、熱硬化性樹脂の例としては、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、ポリイミド樹脂、ジアリルフタレート樹脂、リグニン樹脂、ウレタン樹脂などを列挙することができる。これらは単独で用いても、混合された状態で用いても構わないが、熱可塑性樹脂あるいは熱硬化性樹脂それぞれのうちで混合することも成形加工の容易さから好ましい態様である。
中でも炭化収率と成形性、経済性の観点から熱可塑性樹脂を用いることが好ましい態様であり、中でもポリフェニレンオキシド、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル、全芳香族ポリエステルが好適に用いられる。
また消失樹脂とは、後述する工程2に引き続いて消失する樹脂であり、不融化処理と同時もしくは不融化処理後、または焼成と同時のいずれかの段階で除去することのできる樹脂である。消失樹脂を除去する方法については特に限定されるものではなく、薬品を用いて解重合するなどして化学的に除去する方法、消失樹脂を溶解する溶媒を添加して溶解除去する方法、加熱して熱分解によって消失樹脂を低分子量化して除去する方法などが好適に用いられる。これらの手法は単独で、もしくは組み合わせて使用してすることができ、組み合わせて実施する場合にはそれぞれを同時に実施しても別々に実施しても良い。
化学的に除去する方法としては、酸またはアルカリを用いて加水分解する方法が経済性や取り扱い性の観点から好ましい。酸またはアルカリによる加水分解を受けやすい樹脂としては、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアミドなどが挙げられる。
消失樹脂を溶解する溶媒を添加して除去する方法としては、混合された炭化可能樹脂と消失樹脂に対して、連続して溶媒を供給して消失樹脂を溶解、除去する方法や、バッチ式で混合して消失樹脂を溶解、除去する方法などが好適な例として挙げられる。
溶媒を添加して除去する方法に適した消失樹脂の具体的な例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレンなどのポリオレフィン、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリビニルピロリドン、脂肪族ポリエステル、ポリカーボネート、ポリビニルアルコールなどが挙げられる。中でも溶媒への溶解性から非晶性の樹脂であることがより好ましく、その例としてはポリスチレン、メタクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコールが挙げられる。
熱分解によって消失樹脂を低分子量化して除去する方法としては、混合された炭化可能樹脂と消失樹脂をバッチ式で加熱して熱分解する方法や、連続して混合された炭化可能樹脂と消失樹脂を加熱源中へ連続的に供給しつつ加熱して熱分解する方法が挙げられる。
消失樹脂は、これらのなかでも、後述する工程3において、炭化可能樹脂を焼成により炭化する際に熱分解により消失する樹脂であることが好ましく、後述する炭化可能樹脂の不融化処理の際に大きな化学変化を起さず、かつ焼成後の炭化収率が10%未満となる熱可塑性樹脂であることが好ましい。このような消失樹脂の具体的な例としてはポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレンなどのポリオレフィン、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリアセタール、ポリビニルピロリドン、脂肪族ポリエステル、芳香族ポリエステル、脂肪族ポリアミド、ポリカーボネートなどを列挙することができ、これらは、単独で用いても、混合された状態で用いても構わない。
工程1においては、炭化可能樹脂と消失樹脂を相溶させ、樹脂混合物(ポリマーアロイ)とする。ここでいう「相溶させ」とは、温度および/または溶媒の条件を適切に選択することにより、光学顕微鏡で炭化可能樹脂と消失樹脂の相分離構造が観察されない状態を作り出すことを言う。
炭化可能樹脂と消失樹脂は、樹脂同士のみの混合により相溶させてもよいし、さらに溶媒を加えることにより相溶させてもよい。
複数の樹脂が相溶する系としては、低温では相分離状態にあるが高温では1相となる上限臨界共溶温度(UCST)型の相図を示す系や、逆に、高温では相分離状態にあるが低温では1相となる下限臨界共溶温度(LCST)型の相図を示す系などが挙げられる。また特に炭化可能樹脂と消失樹脂の少なくとも一方が溶媒に溶解した系である場合には、非溶媒の浸透によって後述する相分離が誘発されるものも好適な例として挙げられる。
加えられる溶媒については特に限定されるものではないが、溶解性の指標となる炭化可能樹脂と消失樹脂の溶解度パラメーター(SP値)の平均値からの差の絶対値が、5.0以内であることが好ましい。SP値の平均値からの差の絶対値は、小さいほど溶解性が高いことが知られているため、差がないことが好ましい。またSP値の平均値からの差の絶対値は、大きいほど溶解性が低くなり、炭化可能樹脂と消失樹脂との相溶状態を取ることが難しくなる。このことからSP値の平均値からの差の絶対値は、3.0以下であることが好ましく、2.0以下が最も好ましい。
相溶する系の具体的な炭化可能樹脂と消失樹脂の組み合わせ例としては、溶媒を含まない系であれば、ポリフェニレンオキシド/ポリスチレン、ポリフェニレンオキシド/スチレン−アクリロニトリル共重合体、全芳香族ポリエステル/ポリエチレンテレフタレート、全芳香族ポリエステル/ポリエチレンナフタレート、全芳香族ポリエステル/ポリカーボネートなどが挙げられる。溶媒を含む系の具体的な組合せ例としては、ポリアクリロニトリル/ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル/ポリビニルフェノール、ポリアクリロニトリル/ポリビニルピロリドン、ポリアクリロニトリル/ポリ乳酸、ポリビニルアルコール/酢酸ビニル−ビニルアルコール共重合体、ポリビニルアルコール/ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール/ポリプロピレングリコール、ポリビニルアルコール/デンプンなどを挙げることができる。
炭化可能樹脂と消失樹脂を混合する方法については限定されるものではなく、均一に混合できる限りにおいて公知の種々の混合方式を採用できる。具体例としては、攪拌翼を持つロータリー式のミキサーや、スクリューによる混練押出機などが挙げられる。
また炭化可能樹脂と消失樹脂を混合する際の温度(混合温度)を、炭化可能樹脂と消失樹脂が共に軟化する温度以上とすることも好ましい態様である。ここで軟化する温度とは、炭化可能樹脂または消失樹脂が結晶性高分子であれば融点、非晶性樹脂であればガラス転移点温度を適宜選択すればよい。混合温度を炭化可能樹脂と消失樹脂が共に軟化する温度以上とすることで、両者の粘性を下げられるため、より効率の良い攪拌、混合が可能になる。混合温度の上限についても特に限定されるものではないが、熱分解による樹脂の劣化を防止し、品質に優れた多孔質炭素材料の前駆体を得る観点から、400℃以下であることが好ましい。
また、工程1においては、炭化可能樹脂10〜90重量%に対し消失樹脂90〜10重量%を混合する。炭化可能樹脂と消失樹脂が前記範囲内であると、最適な孔サイズや空隙率を任意に設計できるため好ましい。炭化可能樹脂が10重量%以上であれば、炭化後の材料における力学的な強度を保つことが可能になるほか、収率が向上するため好ましい。また炭化可能な材料が90重量%以下であれば、消失樹脂が効率よく空隙を形成できるため好ましい。
炭化可能樹脂と消失樹脂の混合比については、それぞれの材料の相溶性を考慮して、上記の範囲内で任意に選択することができる。具体的には、一般に樹脂同士の相溶性はその組成比が1対1に近づくにつれて悪化するため、相溶性のあまり高くない系を原料に選択した場合には、炭化可能樹脂の量を増やす、減らすなどして、いわゆる偏組成に近づけることで相溶性を改善することも好ましい態様として挙げられる。
また炭化可能樹脂と消失樹脂を混合する際に、溶媒を添加することも好ましい態様である。溶媒を添加することで炭化可能樹脂と消失樹脂の粘性を下げ、成形を容易にするほか、炭化可能樹脂と消失樹脂を相溶化させやすくなる。ここでいう溶媒も特に限定されるものではなく、炭化可能樹脂、消失樹脂のうち少なくともいずれか一方を溶解、膨潤させることが可能な常温で液体であるものであれば良く、炭化可能樹脂及び消失樹脂をいずれも溶解するものであれば、両者の相溶性を向上させることが可能となるためより好ましい態様である。
溶媒の添加量は、炭化可能樹脂と消失樹脂の相溶性を向上させ、粘性を下げて流動性を改善する観点から炭化可能樹脂と消失樹脂の合計重量に対して20重量%以上であることが好ましい。また一方で溶媒の回収、再利用に伴うコストの観点から、炭化可能樹脂と消失樹脂の合計重量に対して90重量%以下であることが好ましい。
〔工程2〕
工程2は、工程1において相溶させた状態の樹脂混合物を相分離させて微細構造を形成し、当該微細構造を固定化する工程である。
混合された炭化可能樹脂と消失樹脂を相分離させる方法は特に限定されるものではなく、例えば温度変化によって相分離を誘発する熱誘起相分離法、非溶媒を添加することによって相分離を誘発する非溶媒誘起相分離法、化学反応を用いて相分離を誘発する反応誘起相分離法や、光、圧力、剪断、電場、磁場の変化を利用して相分離を起こす方法等が挙げられる。なかでも熱誘起相分離法と非溶媒誘起相分離法が、相分離を誘発する条件を制御しやすく、このため相分離構造やサイズを制御することが比較的容易であるため好ましい。
これら相分離法は、単独で、もしくは組み合わせて使用することができる。組み合わせて使用する場合の具体的な方法は、例えば凝固浴を通して非溶媒誘起相分離を起こした後、加熱して熱誘起相分離を起こす方法や、凝固浴の温度を制御して非溶媒誘起相分離と熱誘起相分離を同時に起こす方法、口金から吐出された材料を冷却して熱誘起相分離を起こした後に非溶媒と接触させる方法などが挙げられる。
また上記相分離の際に、化学反応を伴わないことも好ましい態様である。ここで化学反応を伴わないとは、混合された炭化可能樹脂もしくは消失樹脂が、混合前後においてその一次構造を変化させないことを言う。一次構造とは、炭化可能樹脂もしくは消失樹脂を構成する化学構造のことを指す。相分離の際に化学反応を伴わないことで、炭化可能樹脂及び/又は消失樹脂の力学的、化学的特性が損なわれないことから、繊維状やフィルム状など任意の構造体を大きく成形条件を変更することなく成形することが可能であるため、好ましい態様である。特に架橋反応などを起こさずに相分離させて微細構造を形成し、固定化させた場合には、架橋反応に伴う大幅な弾性率向上と伸度の低下が認められず、成形の際に柔軟な構造を保つことができるため、糸切れやフィルム破断に至ることなく、繊維やフィルムの製造工程通過性に優れる。
〔消失樹脂の除去〕
工程2において相分離後の微細構造が固定化された樹脂混合物は、炭化工程(工程3)に供される前に消失樹脂の除去を行うことが好ましい。消失樹脂の除去の方法は特に限定されるものではなく、消失樹脂を分解、除去することが可能であれば良い。具体的には、酸、アルカリや酵素を用いて消失樹脂を化学的に分解、低分子量化して除去する方法や、消失樹脂を溶解する溶媒を添加して溶解除去する方法、電子線、ガンマ線や紫外線、赤外線などの放射線を用いて解重合することで消失樹脂を除去する方法などが好適である。
また特に消失樹脂が熱分解することができる場合には、予め消失樹脂の80重量%以上が消失する温度で熱処理を行うこともできるし、炭化工程(工程3)もしくは後述の不融化処理において熱処理と同時に消失樹脂を熱分解、ガス化して除去することもできる。工程数を減じて生産性を高める観点から、炭化工程(工程3)もしくは後述の不融化処理において熱処理と同時に消失樹脂を熱分解、ガス化して除去する方法を選択することが、より好適な態様である。中でも特に、炭化工程(工程3)において炭化と同時に消失樹脂の除去を行うことは、工程数減少による低コスト化と共に収率向上も見込まれるため、好ましい態様である。
〔不融化処理〕
工程2において相分離後の微細構造が固定化された樹脂混合物、あるいは当該樹脂混合物に必要に応じてさらに上記の分解処理を行ったものは、炭化工程(工程3)に供される前に不融化処理が行われることが好ましい。不融化処理の方法は特に限定されるものではなく、公知の方法を用いることができる。具体的な方法としては、酸素存在下で加熱することで酸化架橋を起こす方法、電子線、ガンマ線などの高エネルギー線を照射して架橋構造を形成する方法、反応性基を持つ物質を含浸、混合して架橋構造を形成する方法などが挙げられ、中でも酸素存在下で加熱することで酸化架橋を起こす方法が、プロセスが簡便であり製造コストを低く抑えることが可能である点から好ましい。これらの手法は単独もしくは組み合わせて使用しても、それぞれを同時に使用しても別々に使用しても良い。
酸素存在下で加熱することで酸化架橋を起こす方法における加熱温度は、架橋反応を効率よく進める観点から150℃以上の温度であることが好ましく、炭化可能樹脂の熱分解、燃焼等による重量ロスからの収率悪化を防ぐ観点から、350℃以下の温度であることが好ましい。
また処理中の酸素濃度については特に限定されないが、18%以上の酸素濃度を持つ気体を、特に空気をそのまま供給することが製造コストを低く抑えることが可能となるため好ましい態様である。気体の供給方法については特に限定されないが、空気をそのまま加熱装置内に供給する方法や、ボンベ等を用いて純酸素を加熱装置内に供給する方法などが挙げられる。
電子線、ガンマ線などの高エネルギー線を照射して架橋構造を形成する方法としては、市販の電子線発生装置やガンマ線発生装置などを用いて、炭化可能樹脂へ電子線やガンマ線などを照射することで、架橋を誘発する方法が挙げられる。照射による架橋構造の効率的な導入から照射強度の下限は1kGy以上であると好ましく、主鎖の切断による分子量低下から材料強度が低下するのを防止する観点から1000kGy以下であることが好ましい。
このとき炭素同士の二重結合を構造内に有する架橋性化合物を併用することも好ましい。架橋性化合物についても公知の任意のものを使用することができるが、エチレン、プロペン、イソプレン、ブタジエン、スチレン、α−メチルスチレン、ジビニルベンゼン、アクリル酸、メタクリル酸、モノアリルイソシアヌレート、ジアリルイソシアヌレート、トリアリルイソシアヌレートなどが挙げられるが、分子内に炭素同士の二重結合を2以上持つ架橋性化合物であると、架橋反応を効率よく進めることが可能になるため好ましい。
反応性基を持つ物質を含浸、混合して架橋構造を形成する方法は、反応性基を持つ低分子量化合物を樹脂混合物に含浸して、加熱または高エネルギー線を照射して架橋反応を進める方法、予め反応性基を持つ低分子量化合物を混合しておき、加熱または高エネルギー線を照射して架橋反応を進める方法などが挙げられる。
また不融化処理の際に、分解処理を同時に行うことも工程数減少による低コスト化の恩恵が期待できるため好適である。
なお、工程2において相分離後の微細構造が固定化された樹脂混合物そのもの、あるいは必要に応じてさらに上記の分解処理および/または不融化処理に供された前駆体材料であって、焼成することによって多孔質炭素材料に変換可能な状態にある前駆体材料を、以降多孔質炭素材料プリカーサーと呼ぶ。
〔工程3〕
工程3は、多孔質炭素材料プリカーサーを焼成し、炭化して多孔質炭素材料を得る工程である。
多孔質炭素材料プリカーサーを充分に炭化させるために、焼成は不活性ガス雰囲気において500℃以上に加熱することにより行うことが好ましい。ここで不活性ガスとは、加熱時に化学的に不活性であるものを言い、具体的な例としては、ヘリウム、ネオン、窒素、アルゴン、クリプトン、キセノン、二酸化炭素などである。中でも窒素、アルゴンを用いることが、経済的な観点から好ましい態様である。特に炭化温度を1500℃以上とする場合には、窒化物形成を抑制する観点からアルゴンを用いることが好ましい。
炭化温度が500℃以上であると、連続多孔構造を構成する枝部を含む多孔質炭素材料全体に、効率よく炭素のネットワークが形成されるため好ましい。炭化温度は低いほど炭素ネットワークの乱れが大きくなり、また高いほど小さくなるため、目的とする炭素ネットワークの秩序性に応じて適宜選択することが好ましい。ここで本発明でいう炭化温度とは、工程3における炭化処理における最高温度のことを示し、これよりも低温での処理を制限するものでは無い。
また不活性ガスの流量は、加熱装置内の酸素濃度を充分に低下させられる量であれば良く、加熱装置の大きさ、原料の供給量、加熱温度などによって適宜最適な値を選択することが好ましい。流量の上限についても特に限定されるものではないが、経済性や加熱装置内の温度変化を少なくする観点から、温度分布や加熱装置の設計に合わせて適宜設定することが好ましい。また炭化時に発生するガスを系外へ充分に排出できると、品質に優れた多孔質炭素材料を得ることができるため、より好ましい態様であり、このことから系内の発生ガス濃度が3,000ppm以下となるように不活性ガスの流量を決定することが好ましい。
炭化温度の上限は限定されないが、1500℃以下であれば、充分に炭化を進められ、また黒鉛化を進ませず、先述の炭素ネットワークを十分に発達させることが可能であり、かつ設備に特殊な加工が必要ないため経済的な観点からも好ましい。
連続的に炭化処理を行う場合の加熱方法については、一定温度に保たれた加熱装置内に、材料をローラーやコンベヤ、ロータリーキルン等を用いて連続的に供給しつつ取り出す方法であることが、生産性を高くすることが可能であるため好ましい。更に炭化処理を行う加熱の際に、材料を混合しながら加熱することも熱処理を均一に行い、材料の品質を高めるうえで好適である。繊維やフィルムなどの材料そのものを混合することが難しい場合には、不活性ガス気流を材料全体に均一にあたるように工夫することが、均一な熱処理と高品質化に有効であるため好ましい。
一方加熱装置内にてバッチ式処理を行う場合の昇温速度、降温速度の下限は特に限定されないが、昇温、降温にかかる時間を短縮することで生産性を高めることができるため、1℃/分以上の速度であると好ましい。また昇温速度、降温速度の上限は特に限定されないが、加熱装置を構成する材料の耐熱衝撃特性よりも遅くすることが好ましい。
また炭化温度で保持する時間については、任意に設定することが可能であるが、保持する時間が長いほど炭素ネットワークの乱れを小さくすることが可能であり、短いほど炭素ネットワークの乱れを大きくすることが可能であるため、目的とする用途に応じて適宜設定することが好ましいが、5分以上の保持時間とすることで、効率よく炭素ネットワークの乱れを小さくすることが可能であるため好ましく、また保持時間は長くとも1200分以内とすることがエネルギー消費を抑えて効率よく本発明の多孔質炭素材料が得られることから好ましい。
また、多孔質炭素材料プリカーサーを粉砕処理したものを前記工程3に供する、あるいは工程3を経て得られた多孔質炭素材料をさらに粉砕処理することで、粉末状の多孔質炭素材料を製造することができる。粉砕処理は、従来公知の方法を選択することが可能であり、粉砕処理を施した後の粒度、処理量に応じて適宜選択されることが好ましい。粉砕処理方法の例としては、ボールミル、ビーズミル、ジェットミルなどを例示することができる。粉砕処理は、連続式でもバッチ式でも良いが、生産効率の観点から連続式であることが好ましい。ボールミルに充填する充填材は適宜選択されるが、金属材料の混入が好ましくない用途に対しては、アルミナ、ジルコニア、チタニアなどの金属酸化物によるもの、もしくはステンレス、鉄などを芯としてナイロン、ポリオレフィン、フッ化ポリオレフィンなどをコーティングしたものを用いることが好ましく、それ以外の用途であればステンレス、ニッケル、鉄などの金属が好適に用いられる。
また粉砕の際に、粉砕効率を高める点で、粉砕助剤を用いることも好ましい態様である。粉砕助剤は、水、アルコールまたはグリコール、ケトンなどから任意に選ばれる。アルコールは、エタノール、メタノールが入手の容易さやコストの観点から好ましく、グリコールである場合には、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコールなどが好ましい。ケトンである場合には、アセトン、エチルメチルケトン、ジエチルケトンなどが好ましい。粉砕助剤は、粉砕後に洗浄や乾燥を行うことによって除去されることが好ましい。
粉砕処理を施された多孔質炭素材料は、分級されて粒度が揃った材料となる。粒度が揃った多孔質炭素材料は、例えば充填材料やペーストへの添加剤などで均一な構造体を形成でき、このため充填効率やペーストの塗工工程を安定化することが可能になり、生産効率を高めて低コスト化が期待できる。粒度については、粉砕処理後の多孔質炭素材料の用途に応じて適宜選択することが好ましい。
以下に本発明の好ましい実施の例を記載するが、これら記載は何ら本発明を制限するものではない。
評価手法
〔連続多孔構造の構造周期〕
多孔質炭素材料を試料プレートに挟み込み、CuKα線光源から得られたX線源から散乱角度10度未満の情報が得られるように、光源、試料及び二次元検出器の位置を調整した。二次元検出器から得られた画像データ(輝度情報)から、ビームストッパーの影響を受けている中心部分を除外して、ビーム中心から動径を設け、角度1°毎に360°の輝度値を合算して散乱強度分布曲線を得た。得られた曲線においてピークを持つ位置の散乱角度θより、連続多孔構造の構造周期を下記の式によって得た。
構造周期:L、λ:入射X線の波長、π:円周率
〔X線回折ピーク〕
多孔質炭素材料をボールミルを用いて粉砕し試料プレートにセットした後に粉末法にて、理学電機製X線回折装置RINT2500を用いてX線回折プロファイルを得た。得られたX線回折プロファイルをガウス分布によるフィッティングを実施して、回折角度15〜29°の範囲にあるピークに対しての半値幅(FWHM)を求めた。
〔平均空隙率〕
多孔質炭素材料を樹脂中に包埋し、その後カミソリ等で断面を露出させ、日本電子製SM−09010を用いて加速電圧5.5kVにて試料表面にアルゴンイオンビームを照射、エッチングを施す。得られた多孔質炭素材料の断面を走査型二次電子顕微鏡にて材料中心部を1±0.1(nm/画素)となるよう調整された拡大率で、70万画素以上の解像度で観察した画像から、計算に必要な着目領域を512画素四方で設定し、着目領域の面積A、孔部分または消失樹脂部分の面積をBとして、下記の式で算出されたものを言う。
平均空隙率(%)=B/A×100
このとき炭化可能樹脂と消失樹脂の電子線コントラストが弱く、観察が難しい場合には、使用した樹脂に応じて適宜重金属などを用いて電子染色を行った後に、観察を行った。
〔細孔直径分布曲線の取得〕
多孔質炭素材料を300℃、5時間の条件で真空乾燥を行うことで吸着したガス成分を除去した。その後、島津製作所製オートポアIV9500を用いて細孔直径分布曲線を取得した。
[実施例1]
70gのポリサイエンス社製ポリアクリロニトリル(MW15万)と70gのシグマ・アルドリッチ社製ポリビニルピロリドン(MW4万)、及び、溶媒として400gの和研薬製ジメチルスルホキシド(DMSO)をセパラブルフラスコに投入し、3時間攪拌および還流を行いながら150℃で均一かつ透明な溶液を調整した。このときポリアクリロニトリルの濃度、ポリビニルピロリドンの濃度はそれぞれ13重量%であった。
得られたDMSO溶液を25℃まで冷却した後、0.6mmφの1穴口金から3ml/分で溶液を吐出して、25℃に保たれた純水の凝固浴へ導き、その後6m/分の速度で引き取り、バット上に堆積させることで原糸を得た。このときエアギャップは3mmとし、また凝固浴中の浸漬長は15cmとした。得られた原糸は半透明であり、相分離を起こしていた。
得られた原糸を25℃に保った循環式乾燥機にて1時間乾燥して原糸表面の水分を乾燥させた後、25℃にて5時間の真空乾燥を行い、乾燥後の前駆体材料である原糸を得た。
その後230℃に保った電気炉中へ前駆体材料である原糸を投入し、酸素雰囲気下で1時間加熱することで不融化処理を行った。不融化処理を行った原糸は、黒色に変化した。
得られた不融化原糸を電子線トモグラフィー法で観察したところ、炭化可能樹脂であるポリアクリロニトリル由来の構造が連続相を形成していた。また連続多孔構造を有する部分の構造周期は0.17μmであった。なお、後述の多孔質炭素材料の構造と比較すると、ポリアクリロニトリル樹脂は炭化処理時に収縮することから、多孔質炭素材料の連続多孔構造を有する部分の構造周期は、多孔質炭素材料プリカーサーのそれより小さくなることが大半であるが、連続多孔構造を有する部分と、連続多孔構造を実質的に有しない部分とのパターンは変わらなかった。
得られた不融化原糸を窒素流量1リットル/分、昇温速度10℃/分、到達温度900℃、保持時間10分の条件で炭化処理を行うことで、多孔質炭素繊維とした。
得られた多孔質炭素繊維すなわち多孔質炭素材料の中心部には連続多孔構造を有するコア層が形成されており、その構造周期は0.085μm、平均空隙率は40%であった。また細孔直径分布曲線から、50nmに細孔直径分布のピークを有するものであり、またその断面を解析すると、繊維直径は150μmであり、コア層の周囲に形成された連続多孔構造を有しない部分であるスキン層の厚みは5μmであった。また繊維中心部には均一な連続多孔構造が形成されていた。
また、X線回折プロファイルを測定したところ、25.4°をピークトップとするピークが観測され、その半値幅(FWHM)は5.9°であった。