JP2016041075A - 改変型ビオチン結合タンパク質 - Google Patents

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Abstract

【課題】アビジンまたはストレプトアビジン等はビオチンとの結合は極めて強いため、その結合を解離させることが出来ない。アフィニティクロマトグラフィー等によるビオチン化生体分子の精製のためには可逆的結合を必要とする。可逆的結合を可能とする改変型ビオチン結合タンパク質の提供。【解決手段】食用キノコである担子菌タモギタケ由来のビオチン結合活性の野生型タマビジン2に突然変異を導入し、特定のアミノ酸の配列を改変することにより、水素結合等の調節を行い、ビオチンを結合し、解離することのできる程度のビオチン結合能を有し、プロテアーゼ耐性を有する、目的とする改変型ビオチン結合タンパク質を取得した。【選択図】なし

Description

本発明は改変型ビオチン結合タンパク質に関する。
アビジンは卵白由来の塩基性糖タンパク質で、ビオチン(ビタミンH)と強く結合する。一方、ストレプトアビジンは放線菌(Streptomyces avidinii)由来のアビジン様タンパク質で、等電点は中性付近で糖鎖を含まない。両タンパク質とも、四量体を形成し、1つのサブユニット当たり1分子のビオチンと結合する。分子量は60kDa程度である。アビジンとビオチン、あるいはストレプトアビジンとビオチンの親和性は非常に高く(Kd=10−15−14M)、生体二分子間の相互作用としては最も強い。そのため、アビジン/ストレプトアビジン−ビオチン相互作用は、生化学、分子生物学、あるいは医学の分野で広く応用されている。アビジンは、等電点が10を越え、その高い塩基性、あるいは糖鎖の存在により、DNAやタンパク質等の生体分子に対する非特異的な結合が問題となる場合がある。
ビオチンの分子量は244と小さく、pH変化や熱にも安定であるため、物質の標識によく用いられている。ビオチン化の方法としては、化学的な修飾を施したビオチンを、タンパク質のアミノ基、カルボキシル基、アルデヒド基等の各種の官能基に結合させる方法がある。このようなビオチン化試薬は市販されており、これらを利用してタンパク質や核酸等をビオチン化することができる。またタンパク質のビオチン化の方法の一つとして、生体内のビオチンリガーゼによってビオチン化される配列と、目的のタンパク質との融合タンパク質を、組換えタンパク質として発現させ、宿主細胞内の同酵素によって、融合タンパク質をビオチン化させる方法がある。このようなビオチン化配列として、例えばBioEase Tag(登録商標)があり、大腸菌やショウジョウバエ細胞、あるいは哺乳類細胞において、タンパク質をin vivoでビオチン化させた状態で発現させるシス
テムとして、市販されている。
アビジンまたはストレプトアビジンと、ビオチンとの結合は極めて強いため、その結合は不可逆的であり、一度結合すると殆ど解離させることが出来ない。この強い結合のため、従来のアビジン、ストレプトアビジンは、そのままでは、ビオチン化生体分子の精製のために必要な、例えばアフィニティクロマトグラフィー等の可逆的な結合を必要とする技術分野へ応用することが出来ない。
この問題への対策として、これまでにビオチン結合性を低下させたアビジンやストレプトアビジンが報告されている。例えば、ビオチンとの結合に寄与するチロシン残基をニトロ化したニトロ化アビジンやニトロ化ストレプトアビジンが開発された。これらは酸性〜中性(pHが4〜7.5)の時にビオチンと強く結合し、アルカリ性(pHが10)の時に解離する。ニトロ化アビジン−アガロースはCaptAvidin−アガロースとして市販されている。しかしニトロ化には手間がかかり、またその効率も一定ではない。
一方これまでに、遺伝子工学的にアビジンやストレプトアビジンに、部位特異的アミノ酸変異を導入することによって、ビオチンに対する親和性を下げた例が報告されている。ビオチンとの親和性を低下させる方法として、ビオチン結合ポケットを形成するアミノ酸のうち、ビオチンと直接相互作用するアミノ酸に変異導入する方法と、タンパク質のサブユニット同士の接点に関与するアミノ酸に変異導入する方法の2つがある。
アビジンの場合、ビオチンと水素結合するアミノ酸に変異を入れることで(Martt
ila et al.(2003)Biochem J. 369:249−254;
Laitinen et al.(2003)J. Biol. Chem. 278:4010−4014 ; Laitinen et al.(2001)J. Biol. Chem. 276:8219−8224)、あるいはビオチンと疎水結合するアミノ酸に変異を入れることで(Laitinen et al.(1999)FEBS Lett. 461:52−58; Laitinen et al.(2003)J.Bio
l. Chem. 278:4010−4014)、ビオチンへの親和性を下げた組換えタンパク質が報告されている。
同様にストレプトアビジンの場合も、ビオチンと水素結合するアミノ酸に変異を入れた例(Qureshi et al.(2001)J.Biol.Chem 276:46422−46428; Gabriel et al.(1998)Proc.Natl. Acad.Sci. 95:13525−13530; Qureshi and
Wong (2002)Protein Expr. Purif.25:409−415; Wu and Wong(2006)Protein Expr.Purif.46:268−273; Wu and Wong(2005)J.Biol.Chem. 280:23225−23231)や、ビオチンと疎水結合するアミノ酸に変異を入れた例(Chilkoti et al.(1995)Proc.Natl.Acad.Sci.92:1754−1758 ; Laitinen et al.(1999)FEBS Lett. 461,52−58; Sano et al.(1995)P
roc.Natl.Acad.Sci. 92:3180−3184,; Sano et al.(1997)Proc.Natl.Acad.Sci. 94:6153−6158)が知られている。
さらに、アビジンとストレプトアビジンにおいて、それらのタンパク質のサブユニット同士の接点に関与するアミノ酸に変異導入する方法で、単量体の変異タンパク質を作成し、ビオチンへの親和性を下げた例が報告されている(Laitinen et al.(2001)J.Biol.Chem. 276:8219−8224、Wu and Wong(2005)J.Biol.Chem. 280: 23225−23231)。アビジンやストレプトアビジンは、四量体を形成し、各サブユニットそれぞれに1つずつビオチン結合サイトを持つ。完全なビオチン結合ポケットを形成するには、隣接するサブユニットのアミノ酸残基(例えばタマビジン2の場合、108番目のトリプトファン(W108))の存在が重要である。従って、サブユニット間の結合は、ビオチンとの親和性にも大きな影響を与えるものと考えられている。
Wuら(J.Biol.Chem.(2005),280:23225−23231)によれば、ストレプトアビジンの場合、各サブユニットをA、B、C、Dと名付けると、サブユニットAにある55番目のバリンは、サブユニットBの59番目のアルギニンに近い位置に存在する。サブユニットAにある76番目のスレオニンは、サブユニットB上の76番目のスレオニンと59番目のアラニンと非常に近い位置に配置している。サブユニットBにある109番目のロイシンは、サブユニットA上の125番目のバリンと相互作用している。サブユニットAにある125番目のバリンは、サブユニットD上の109番目のロイシン、120番目のトリプトファン、123番目のスレオニン、125番目のバリン、サブユニットB上の109番目のロイシン、サブユニットC上の107番目のグルタミンと広範囲に渡って相互作用をしている。従って、これらのアミノ酸を極性の高いアミノ酸、例えばアルギニン、リジン、ヒスチジン、アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、グルタミン、スレオニン等に置換することによって、サブユニット間に電荷的反発を発生させることや立体障害を生じさせることが期待できる。極性アミノ酸の中でもHydrophaty indexが最も低いアルギニンはその効果が大きいと考えられ
る。
アビジンやストレプトアビジンなどのビオチン結合性タンパク質を、アフィニティクロマトグラフィー等の可逆的な結合を必要とする技術分野へ応用するためには、解離定数(KD)を10−7 (M) 程度まで上昇させることが一つの目安となると考えられている。場合にもよるが一般に解離定数がこれ以上小さい場合、ビオチン結合能が強すぎて、所望のビオチン化物質を効率よく解離させることができず、また、解離定数がこれより大きい場合は、ビオチン結合能が弱すぎて所望のビオチン化物質を十分に結合させることができないからである(Wu and Wong(2006)Protein Expr.
Purif. 46:268−27)。
この点を考慮すると、上記のストレプトアビジン変異体において、水素結合部位一アミノ酸変異体は、いずれも解離定数が10−11 (M)程度と小さく、ビオチン結合能が強すぎるものであった。但し、このような変異体には、アミノ酸改変の結果、サブユニット相互作用にまで影響を及ぼすものが多くあり、これらはしばしば単量体となるが、単量体になった場合には10−9 (M)程度の解離定数であった。また、上記のストレプトアビジン変異体において、水素結合部位を2箇所以上追加して改変させた場合、そのほとんどは単量体となり、その中にはビオチン結合能(解離定数)が10−8 ないし10−6 (M)程度になるものがあった(Qureshi et al.(2001)J.Biol.Chem.276:46422−46428)。
解離定数が、10−8 ないし10−7 (M)の変異体は、アフィニティクロマトグラフィーなどの用途に適度なビオチン結合能を有している(Qureshi and Wong (2002)Protein Expr. Purif.25:409−415; Wu and Wong(2006)Protein Expr.Purif.46:268−273)。しかし反面、このような単量体はプロテアーゼに非常に分解されやすいことが知られている(Laitinen et al.(2001)J.Biol.Chem. 276:8219−8224、Wu and Wong(2005)J.Biol.Chem. 280: 23225−23231)。アフィニティクロマトグラフィーでは様々な物質が混合した細胞粗抽出液を利用する場合が多いが、細胞粗抽出液中にはしばしばプロテアーゼが含まれており、単量体はこのような用途で使用するには問題があった。
また、単量体にすることによって、サブユニット間の結合で隠されていた疎水性領域が露出するため、タンパク質全体の可溶性が低下する可能性があり、また再凝集の原因にもなりうる。これまでアビジンをモデルに設計された単量体では(例えばプロメガ社のSoftLink Soft Release Avidin Resin)、これを担体に固定化させた際、単量体同士が会合して四量体を形成するため、結果としてビオチンとの親和性が高くなってしまう。このためビオチン標識物質を添加する前に、四量体がビオチンと強く結合する領域をビオチンで埋める処理が必要となる。この処理は手間がかかる上、前処理の程度によってビオチン標識物質の収量が大きく変わってくる虞がある。
上記のストレプトアビジン変異体において、水素結合部位のアミノ酸を2箇所以上改変しても四量体が維持されたものがまれにあった。しかし、例えこのような四量体であっても、改変によりサブユニット相互作用が弱まっており、担体に結合させた後に、ビオチン化物質と結合させ、その後、過剰ビオチンを加えてビオチン化物質を溶出させる場合、四量体を構成する単量体の多くが溶出してしまうという現象が見られた。
さらに、アビジンやストレプトアビジンのアミノ酸改変タンパク質はその多くが、大腸菌で可溶性発現させることができず、昆虫細胞や枯草菌(Bacillus subtilis)で発現させなければならないため(Laitinen et al.(1999
)FEBS Lett., 461, 52−58、Qureshi and Won
g (2002)Protein Expr. Purif.25:409−415)、
手間とコストが非常に問題となっていた。大腸菌で可溶性発現ができるのは一部の単量体ストレプトアビジンのみである(Wu and Wong(2006)Protein Expr. Purif. 46:268−273)。
以上述べたように、所望のビオチン化物質を十分に結合することができ、かつ、解離することができる程度のビオチン結合能を有し、大腸菌で可溶性高発現し、さらにプロテアーゼ耐性を有する、ビオチン結合性タンパク質はこれまで知られていなかった。
なお本発明者らは、食用キノコタモギタケ(Pueurotus conucopiae)から、新規なアビジン様ビオチン結合性タンパク質である、タマビジン1とタマビジン2を発見している(WO02/072817)。タマビジン1及びタマビジン2は、大腸菌で大量に発現させることができ、特にタマビジン2はイミノビオチンカラムを用いた精製により容易に調製できた(WO02/072817)。タマビジン1及びタマビジン2はビオチンと極めて強く結合し、特にタマビジン2に関しては、アビジンやストレプトアビジンとほぼ同レベルのビオチン結合活性を示した。またタマビジン2はアビジンやストレプトアビジンと比べて高い耐熱性を有し、さらにアビジンよりも非特異的な結合が少ないといった点で優れたビオチン結合性タンパク質であった。
WO02/072817 特開平10−28589号公報 Marttila et al. (2003)Biochem J. 369:249−254 Laitinen et al.(2003)J. Biol. Chem. 278:4010−4014 Laitinen et al.(2001)J. Biol. Chem. 276:8219−8224) Laitinen et al.(1999)FEBS Lett. 461:52−58 Qureshi et al.(2001)J. Biol. Chem. 276:46422−46428 Gabriel et al.(1998)Proc. Natl. Acad. Sci. 95:13525−13530 Qureshi and Wong (2002)Protein Expr. Purif. 25:409−415 Wu and Wong(2006)Protein Expr. Purif. 46:268−273 Wu and Wong(2005)J.Biol.Chem. 280: 23225−23231 Chilkoti et al.(1995)Proc. Natl. Acad.Sci. 92:1754−1758 Sano et al.(1995)Proc. Natl. Acad. Sci. 92:3180−3184 Sano et al.(1997)Proc. Natl. Acad. Sci. 94:6153−6158
本発明の解決すべき課題は、大腸菌で可溶性高発現が可能で、かつ、ビオチン固定化担体による精製が容易である、ビオチン結合性タンパク質を提供することである。
本発明者らは上記課題の解決のために、鋭意研究に努めた結果、所望のビオチン化物質と十分に結合することができ、かつ、解離することができる程度のビオチン結合能を有し、さらにプロテアーゼ耐性を有する、安定な改変型のビオチン結合性タンパク質を得ることに成功し、本発明を想到した。
具体的には、本発明は天然のタマビジン2(以下、本明細書において「TM2」と記載する場合がある)のアミノ酸配列(配列番号2)を改変することにより、上記性質を有する改変型のビオチン結合性タンパク質を得たものである。
本発明の好ましい態様
本発明は好ましくは以下の態様を含む。
[態様1]
配列番号2に記載のアミノ酸配列、あるいはこの配列中に1から複数個のアミノ酸変異を有するアミノ酸配列、又はこの配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、ビオチン結合活性を示すタンパク質において、
以下のグループ:
1)配列番号2の36番目のセリン残基の水素結合を形成しないアミノ酸残基への置換;
2)配列番号2の80番目のトリプトファン残基の親水性アミノ酸残基への置換;
3)配列番号2の116番目のアスパラギン酸残基の水素結合を形成しないアミノ酸残基への置換;
4)配列番号2の46番目のプロリン残基のスレオニン、セリン若しくはチロシン残基への置換、及び、78番目のスレオニン残基の水素結合を形成しないアミノ酸残基への置換;
5)配列番号2の46番目のプロリン残基のスレオニン、セリン若しくはチロシン残基への置換、及び、116番目のアスパラギン酸残基の水素結合を形成しないアミノ酸残基への置換:並びに
6)配列番号2の46番目のプロリン残基のスレオニン、セリン若しくはチロシン残基への置換、78番目のスレオニン残基の水素結合を形成しないアミノ酸残基への置換、及び、116番目のアスパラギン酸残基の水素結合を形成しないアミノ酸残基への置換
から選択される置換を有することを特徴とする、改変型ビオチン結合タンパク質。
[態様2]
1−a)配列番号2の36番目のセリン残基がアラニンに置換されている、改変型ビオチン結合タンパク質(TM2 S36A);
2−a)配列番号2の80番目のトリプトファン残基がリジンに置換されている、改変型ビオチン結合タンパク質(TM2 W80K);
3−a)配列番号2の116番目のアスパラギン酸残基がアラニンに置換されている、改変型ビオチン結合タンパク質(TM2 D116A);
4−a)配列番号2の46番目のプロリン残基がスレオニンに置換されており、そして、78番目のスレオニン残基がアラニンに置換されている、改変型ビオチン結合タンパク質(TM2 P46T−T78A);
5−a)配列番号2の46番目のプロリン残基がスレオニンに置換されており、そして、116番目のアスパラギン酸残基がアラニンに置換されている、改変型ビオチン結合タンパク質(TM2 P46T−D116A);並びに
6−a)配列番号2の46番目のプロリン残基がスレオニンに置換されており、78番目のスレオニン残基がアラニンに置換されており、そして、116番目のアスパラギン酸残基がアラニンに置換されている、改変型ビオチン結合タンパク質(TM2 P46T−T78A―D116A)
からなるグループから選択される、態様1に記載の改変型ビオチン結合タンパク質。
[態様3]
以下の性質:
i)ビオチンを用いた精製が可能である;
ii)配列番号2の記載のアミノ酸配列からなるタンパク質の四量体構造を維持している;
iii)プロテアーゼに対し耐性を有する;及び
iv)大腸菌の可溶性画分において高い発現を示す
の1ないし全部を満たす、態様1又は2に記載の改変型ビオチン結合タンパク質。
[態様4]
配列番号2に記載のアミノ酸配列、あるいはこの配列中に1から複数個のアミノ酸変異を有するアミノ酸配列、又はこの配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、ビオチン結合活性を示すタンパク質において、
6)配列番号2の78番目のスレオニン残基の水素結合を形成しないアミノ酸残基への置換を有することを特徴とする改変型ビオチン結合タンパク質。
[態様5]
6−a)配列番号2の78番目のスレオニン残基がアラニン残基へ置換されている、態様4に記載の改変型ビオチン結合タンパク質(TM2 T78A)。
[態様6]
以下の性質:
i)ビオチンを用いた精製が可能である;
ii)配列番号2の記載のアミノ酸配列からなるタンパク質の四量体構造を維持している;
iii)プロテアーゼに対し耐性を有する;及び
v)配列番号2の記載のアミノ酸配列からなるタンパク質よりも、高い耐熱性を有するの1ないし全部を満たす、態様4又は5に記載の改変型ビオチン結合タンパク質。
[態様7]
配列番号2に記載のアミノ酸配列、あるいはこの配列中に1から複数個のアミノ酸変異を有するアミノ酸配列、又はこの配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、ビオチン結合活性を示すタンパク質において、
以下のグループ:
7)配列番号2の36番目のセリン残基の水素結合を形成しないアミノ酸残基への置換、及び、116番目のアスパラギン酸残基の水素結合を形成しないアミノ酸残基への置換;並びに
8)配列番号2の36番目のセリン残基の水素結合を形成しないアミノ酸残基への置換、78番目のスレオニン残基の水素結合を形成しないアミノ酸残基への置換、及び、116番目のアスパラギン酸残基の水素結合を形成しないアミノ酸残基への置換
から選択される置換を有することを特徴とする、改変型ビオチン結合タンパク質。
[態様8]
7−a)配列番号2の36番目のセリン残基がアラニンに置換されており、そして、116番目のアスパラギン酸残基がアラニンに置換されている、改変型ビオチン結合タンパク質(TM2 S36A―D116A);並びに
8−a)配列番号2の36番目のセリン残基がアラニンに置換されており、78番目のスレオニン残基がアラニンに置換されており、そして、116番目のアスパラギン酸残基がアラニンに置換されている、改変型ビオチン結合タンパク質(TM2 S36A−T78A―D116A)
からなるグループから選択される、態様7に記載の改変型ビオチン結合タンパク質。
[態様9]
以下の性質:
i)ビオチンを用いた精製が可能である;
iii)プロテアーゼに対し耐性を有する;及び
vi)弱酸性条件下でビオチンと結合し、そして、中性条件下でビオチンと結合しないの1ないし全部を満たす、態様7又は8に記載の改変型ビオチン結合タンパク質。
[態様10]
配列番号2に記載のアミノ酸配列、あるいはこの配列中に1から複数個のアミノ酸変異を有するアミノ酸配列、又はこの配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、ビオチン結合活性を示すタンパク質において、
9)配列番号2の78番目のスレオニン残基の水素結合を形成しないアミノ酸残基への置換、及び、116番目のアスパラギン酸残基の水素結合を形成しないアミノ酸残基への置換
を有することを特徴とする、改変型ビオチン結合タンパク質。
[態様11]
9−a)配列番号2の78番目のスレオニン残基がアラニンに置換されており、そして、116番目のアスパラギン酸残基がアラニンに置換されている、態様10に記載の改変型ビオチン結合タンパク質(TM2 T78A―D116A)。
[態様12]
以下の性質:
i)ビオチンを用いた精製が可能である;
ii)配列番号2の記載のアミノ酸配列からなるタンパク質の四量体構造を維持している;
iii)プロテアーゼに対し耐性を有する;
iv)大腸菌の可溶性画分において高い発現を示す;及び
vii)イミノビオチンで精製できない
の1ないし全部を満たす、態様10又は11のいずれか1項に記載の改変型ビオチン結合タンパク質。
[態様13]
配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質よりも、低いビオチン結合性を示す、態様1ないし12のいずれか1項に記載の改変型ビオチン結合タンパク質。
[態様14]
以下のa)−l)
a)配列番号2の14番目のアスパラギン残基は改変されていない、あるいはグルタミン又はアスパラギン酸に置換されている;
b)配列番号2の18番目のセリン残基は改変されていない、あるいはスレオニン又はチロシンに置換されている;
c)配列番号2の34番目のチロシン残基は改変されていない、あるいはセリン又はスレオニンに置換されている;
d)配列番号2の36番目のセリン残基は改変されていない、あるいはスレオニン又はチロシンに置換されている;
e)配列番号2の40番目のアスパラギン酸残基は改変されていない、あるいはアスパラギン以外の残基に置換されている;
f)配列番号2の69番目のトリプトファン残基は改変されていない;
g)配列番号2の76番目のセリン残基は改変されていない、あるいはスレオニン又はチロシンに置換されている;
h)配列番号2の78番目のスレオニン残基は改変されていない、あるいはセリン又はチロシンに置換されている;
i)配列番号2の80番目のトリプトファン残基は改変されていない;
j)配列番号2の96番目のトリプトファン残基は改変されていない;
k)配列番号2の108番目のトリプトファン残基は改変されていない;
l)配列番号2の116番目のアスパラギン酸残基は改変されていない、あるいはグルタミン酸又はアスパラギンに置換されている
m)配列番号2の46番目のプロリン残基は改変されていない;
n)配列番号2の66番目のアラニン残基は改変されていない;
o)配列番号2の97番目のロイシン残基は改変されていないか、イソロイシンに改変されている;及び
p)配列番号2の113番目のバリン残基は改変されていない
の1ないし全ての条件を満たす、ただし、このうち、1)ないし9)で特定したアミノ酸残基は、1)ないし9)の各々で特定したように置換されている、
態様1ないし13のいずれか1項に記載の改変型ビオチン結合タンパク質。
[態様15]
配列番号2に記載のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む、態様1ないし14のいずれか1項に記載の改変型ビオチン結合タンパク質。
[態様16]
態様1ないし15のいずれか1項に記載のタンパク質を固定化した担体。
[態様17]
態様1ないし15のいずれか1項に記載のタンパク質をコードする核酸。
[態様18]
態様17に記載の核酸を含むベクター。
[態様19]
態様7の改変型ビオチン結合タンパク質を含む、生物学的試料中の物質を検出する系における非特異結合抑制剤。
本発明によって、大腸菌で可溶性高発現が可能であり、かつ、ビオチンとの結合及び解離を可能とする、適切な強度のビオチン結合活性を有する、改変型TM2が提供された。本発明の改変型TM2を例えば担体に固定化し、ビオチン化物質を精製するためのアフィニティクロマトグラフィー等に供することができる。
図1Aは、野生型タマビジン2(WT−TM2:左側)とTM2 S36A(右側)の、図1BはTM2 T78Aの、ならびに図1CはTM2 D116Aの、ビオチン−アガロースによる精製を示す写真である。各タンパク質をビオチン−アガロースに結合後、10mMのビオチンを含むPBS(pH7.4)を添加することにより、溶出を行った。各画分溶液に等量の2xSDS Sample Bufferを添加後、95℃で10分処理しSDS−PAGEに供与したのちクマシーブリリアントブルー(CBB)染色を行った。Supはカラムにかける前の可溶性画分であり、FTはカラム通過(フロースルー)画分であり、Wは洗浄画分であり、Eluは溶出画分である。 図2AはTM2 P46TD116Aの、図2BはTM2 P46TT78AD116Aの、ならびに図2CはT78AD116Aの、ビオチン−アガロースによる精製を示す写真である。10mMのビオチンを含むPBS(pH7.4)を添加することにより、溶出を行った。さらに図2DはTM2 P46TT78Aの、イミノビオチン−アガロース、ならびにビオチン−アガロースによる精製を示す写真である。各画分溶液に等量の2xSDS Sample Bufferを添加後、95℃で10分処理しSDS−PAGEに供与したのちCBB染色を行った。Supはカラムにかける前の可溶性画分であり、FTはカラム通過(フロースルー)画分であり、Wは洗浄画分であり、Eluは溶出画分である。Mは分子量マーカーである。 図3Aは、TM2 S36A−D116Aの、図3Bは、TM2 S36A−T78A−D116Aの、ビオチン−アガロースによる精製を示す写真である。pH5、またはpH6、あるいはpH7で、TM2 S36A−D116Aをビオチン−アガロースとを結合させ、pH5およびpH6で結合させた時には500mMのNaClを含むpH4のリン酸カリウム緩衝液で、pH7で結合させた時は500mMのNaClを含むpH7のリン酸カリウム緩衝液で、それぞれ洗浄した。その後、pH5またはpH6で結合させた時にはpH7のリン酸カリウム緩衝液を1mL添加して、pH7で結合させた時には10mMのビオチンを含むpH7.4のPBSを1mL添加して、それぞれ溶出した。また、pH4またはpH7のリン酸カリウム緩衝液、あるいはpH12の50mM CAPS緩衝液中で、TM2 S36A−T78A−D116Aをビオチン−アガロースと結合させた後、洗浄し、pH7の100mMリン酸カリウム緩衝液を1mL添加して溶出した。各画分溶液に等量の2xSDS Sample Bufferを添加した後、95℃で10分処理し、SDS−PAGEに供与したのちCBB染色を行った。 図4は、種々の改変型タマビジン2(TM2 S36A(図4A)、TM2 T78A、TM2 D116A、TM2 T78A−D116A(以上図4C))、野生型のタマビジン2(WT−TM2、図4A)、並びに対照としてBSA(Bovine Serum Albumin、図4B)のProtease耐性を示す写真である。これらの改変型タマビジン2をProteinaseKと30℃、15分間反応させた後、各反応溶液に5xSDS Sample Bufferを添加した後、95℃で10分処理して反応を停止させた。サンプルをSDS−PAGEに供与し、CBB染色を行った。 図5は、種々の改変型タマビジン2(TM2 S36A−D116A(図5A、C)、TM2 T78A、TM2 P46T−T78A(以上図5A)、TM2 P46T−D116A(図5B)、TM2 S36A−T78A−D116A(図5C)、TM2 W80K、TM2 P46T−T78A−D116A(以上図5D))のProtease耐性を示す写真である。これらの改変型タマビジン2をProteinaseKと30℃、15分間反応させた後、各反応溶液に5xSDS Sample Bufferを添加した後、95℃で10分処理して反応を停止させた。なお、星印を付したTM2 T78Aについては、100℃で10分処理して反応を停止させた。サンプルをSDS−PAGEに供与し、CBB染色を行った。 図6は、TM2 T78Aの熱安定性を示す写真である。TM2 T78Aを、ビオチンの存在下、非存在下において所定の温度で、1xSDS Sample Buffer中で20分間熱処理をした後、SDS−PAGEに供与し、CBB染色を行った。 図7は、TM2 S36A−Sepharoseによる、ビオチン化BSAの精製を示す写真である。大腸菌(TB1)の菌体抽出液とビオチン化BSA、あるいはビオチン化BSAのみのサンプルを、TM2 S36A−Sepharoseで精製した際の、精製前(total)、カラム通過(フロースルー)画分(FT)、洗浄画分(W)、溶出画分(Elu)の各溶液に、等量の2xSDS Sample Bufferを添加した後、95℃で10分処理しSDS−PAGEに供与した。ビオチン化BSAの存在は銀染色IIキット(和光純薬社製)によって確認した。なお、溶出液には5mMのビオチンを添加した。 図8AはTM2 D116A−Sepharoseによる、図8BはTM2 P46TT78A−Sepharoseによる、図8Cは、TM2 P46TD116A−Sepharoseによる、ビオチン化BSAの精製を示す写真である。ビオチン化BSA、あるいは大腸菌抽出液とビオチン化BSAを、各担体でそれぞれ精製した際の、精製前(total)、カラム通過(フロースルー)画分(FT)、洗浄画分(W)、溶出画分(Elu)の各溶液に、等量の2xSDS Sample Bufferを添加した後、95℃で10分処理しSDS−PAGEに供与した。ビオチン化BSAの存在は銀染色IIキット(和光純薬社製)によって確認した。なお、溶出液には5mMのビオチンを添加した。 図9は、ビオチン化BSAのTM2 S36A−D116A−sepharoseへの結合の、pH依存性を示す写真である。pH5、pH6あるいはpH7の100mMリン酸カリウム緩衝液中でビオチン化BSAと結合させ、500mMのNaClを含むpH4(上記pH5またはpH6で結合させた場合)またはpH7(上記pH7で結合させた場合)のリン酸カリウム緩衝液で洗浄した後、pH7のリン酸カリウム緩衝液を加えてビオチン化BSAを溶出した。精製前(total)、カラム通過(フロースルー)画分(FT)、洗浄画分(W)、溶出画分(Elu)の各溶液に、等量の2xSDS Sample Bufferを添加し、95℃で10分処理した後、SDS−PAGEに供与した。さらに銀染色IIキット(和光純薬社製)を用いてタンパク質を銀で染色した。
以下、本発明を実施するための好ましい形態について説明する。
タマビジン
タマビジンは、食用キノコである担子菌タモギタケ(Pleurotus conucopiae)から発見された新規ビオチン結合タンパク質である(WO02/072817)。当該文献には、
−タマビジン1とタマビジン2の相互のアミノ酸相同性は65.5%で、ビオチンと強く結合する;
−タマビジン2は、大腸菌で可溶性画分に高発現する;そして
−タマビジン2を大腸菌で発現させた場合、4.5時間の培養で、50mlの培養当たり約1mgの純度の高い精製組換えタンパク質が得られた。これはビオチン結合性タンパク質として知られているアビジンやストレプトアビジンと比較しても、非常に高い値である;
ことが記載されている。
本明細書における「タマビジン2」は、タマビジン2(TM2)又はそれらの変異体を意味する。本発明は、TM2又はその変異体の特定のアミノ酸残基を改変させることにより、ビオチンとの可逆的な反応を可能とする、改変型TM2を提供するものである。本明細書において「タマビジン2」、「TM2」と記載した場合には、特に言及しない限り野生型のTM2及びその変異体を意味する。ただし、文意により、本発明の改変型TM2も含めてTM2の野生型、変異型、本発明の改変型の総称として使用する場合もある。また、TM2はビオチン結合性を示すことから、本明細書においてTM2を「ビオチン結合タンパク質」と呼称することがある。
具体的には、TM2(野生型)は典型的には、配列番号2のアミノ酸配列を含んでなるタンパク質、又は、配列番号1の塩基配列を含んでなる核酸によってコードされるタンパク質、であってよい。あるいは、TM2は、配列番号2のアミノ酸配列を含んでなるタンパク質、又は、配列番号1の塩基配列を含んでなる核酸によってコードされるタンパク質、の変異体であって、タマビジン2と同様のビオチン結合活性を有するタンパク質であってよい。TM2の変異体は、配列番号2のアミノ酸配列において、1または複数のアミノ酸の欠失、置換、挿入および/または付加を含むアミノ酸配列を含んでなるタンパク質であってもよい。置換は、保存的置換であってもよく、これは、特定のアミノ酸残基を類似の物理化学的特徴を有する残基で置き換えることである。保存的置換の非限定的な例には、Ile、Val、LeuまたはAla相互の置換のような脂肪族基含有アミノ酸残基の間の置換、Lys及びArg、Glu及びAsp、Gln及びAsn相互の置換のような極性残基の間での置換などが含まれる。
アミノ酸の欠失、置換、挿入および/または付加による変異体は、野生型タンパク質をコードするDNAに、例えば周知技術である部位特異的変異誘発(例えば、Nucleic Acid Research, Vol.10, No. 20, p.6487−6500, 1982参照、引用によりその全体を本明細書に援用する)を施すことにより作成することができる。本明細書において、「1又は複数のアミノ酸」とは、部位特異的変異誘発法により欠失、置換、挿入及び/又は付加できる程度のアミノ酸を意味する。
また、本明細書において「1又は複数のアミノ酸」とは、場合により、1又は数個のアミノ酸を意味してもよい。
部位特異的変異誘発法は、例えば、所望の変異である特定の不一致の他は、変異を受けるべき一本鎖ファージDNAに相補的な合成オリゴヌクレオチドプライマーを用いて次のように行うことができる。即ち、プライマーとして上記合成オリゴヌクレオチドを用いてファージに相補的な鎖を合成させ、得られた二重鎖DNAで宿主細胞を形質転換する。形質転換された細菌の培養物を寒天にプレーティングし、ファージを含有する単一細胞からプラークを形成させる。そうすると、理論的には50%の新コロニーが一本鎖として変異を有するファージを含有し、残りの50%が元の配列を有する。上記所望の変異を有するDNAと完全に一致するものとはハイブリダイズするが、元の鎖を有するものとはハイブリダイズしない温度において、得られたプラークをキナーゼ処理により標識した合成プローブとハイブリダイズさせる。次に該プローブとハイブリダイズするプラークを拾い、培養してDNAを回収する。
なお、生物活性ペプチドのアミノ酸配列にその活性を保持しつつ1または複数のアミノ酸の欠失、置換、挿入及び/又は付加を施す方法としては、上記の部位特異的変異誘発の他にも、遺伝子を変異源で処理する方法、及び遺伝子を選択的に開裂し、次に選択されたヌクレオチドを除去、置換、挿入又は付加し、次いで連結する方法もある。限定されるものではないが、本発明におけるTM2は、配列番号2において1ないしは10個、好ましくは9個以下、7個以下、5個以下、3個以下、2個以下、より好ましくは1個以下のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、ビオチン結合活性を有するタンパク質である。
TM2の変異体はさらに、配列番号2のアミノ酸配列と少なくとも80%以上、好ましくは85%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、又は99%以上、より好ましくは99.3%以上のアミノ酸同一性を有するアミノ酸配列を含んでなるタンパク質であって、TM2と同様のビオチン結合活性を有するタンパク質であってもよい。
2つのアミノ酸配列の同一性%は、視覚的検査および数学的計算によって決定してもよい。あるいは、2つのタンパク質配列の同一性パーセントは、Needleman, S. B. 及びWunsch, C. D. (J. Mol. Biol., 48:
443−453, 1970)のアルゴリズムに基づき、そしてウィスコンシン大学遺伝学コンピューターグループ(UWGCG)より入手可能なGAPコンピュータープログラムを用い配列情報を比較することにより、決定してもよい。GAPプログラムの好ましいデフォルトパラメーターには:(1)Henikoff, S. 及びHenikoff, J. G. (Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 89: 10915−10919, 1992)に記載されるような、スコアリング・マトリックス、blosum62;(2)12のギャップ加重;(3)4のギャップ長加重;及び(4)末端ギャップに対するペナルティなし、が含まれる。
当業者に用いられる、配列比較の他のプログラムもまた、用いてもよい。同一性のパーセントは、例えばAltschulら(Nucl. Acids. Res., 25,
p.3389−3402, 1997)に記載されているBLASTプログラムを用いて配列情報と比較し決定することが可能である。当該プログラムは、インターネット上でNational Center for Biotechnology Information(NCBI)、あるいはDNA Data Bank of Japan(DDBJ)のウェブサイトから利用することが可能である。BLASTプログラムによる同一性検索の各種条件(パラメーター)は同サイトに詳しく記載されており、一部の設定を
適宜変更することが可能であるが、検索は通常デフォルト値を用いて行う。又は、2つのアミノ酸配列の同一性%は、遺伝情報処理ソフトウエアGENETYX Ver.7(ゼネティックス製)などのプログラム、又は、FASTAアルゴリズムなどを用いて決定してもよい。その際、検索はデフォルト値を用いてよい。
2つの核酸配列の同一性%は、視覚的検査と数学的計算により決定可能であるか、またはより好ましくは、この比較はコンピュータ・プログラムを使用して配列情報を比較することによってなされる。代表的な、好ましいコンピュータ・プログラムは、遺伝学コンピュータ・グループ(GCG;ウィスコンシン州マディソン)のウィスコンシン・パッケージ、バージョン10.0プログラム「GAP」である(Devereux, et al., 1984, Nucl. Acids Res., 12: 387)。この「GAP」プログラムの使用により、2つの核酸配列の比較の他に、2つのアミノ酸配列の比較、核酸配列とアミノ酸配列との比較を行うことができる。ここで、「GAP」プログラムの好ましいデフォルトパラメーターには:(1)ヌクレオチドについての(同一物について1、及び非同一物について0の値を含む)一元(unary)比較マトリックスのGCG実行と、Schwartz及びDayhoff監修「ポリペプチドの配列および構造のアトラス(Atlas of Polypeptide Sequence and Structure)」国立バイオ医学研究財団、353−358頁、1979により記載されるような、GribskovおよびBurgess, Nucl. Acids Res., 14: 6745, 1986の加重アミノ酸比較マトリックス;又は他の比較可能な比較マトリックス;(2)アミノ酸の各ギャップについて30のペナルティと各ギャップ中の各記号について追加の1のペナルティ;又はヌクレオチド配列の各ギャップについて50のペナルティと各ギャップ中の各記号について追加の3のペナルティ;(3)エンドギャップへのノーペナルティ:及び(4)長いギャップへは最大ペナルティなし、が含まれる。当業者により使用される他の配列比較プログラムでは、例えば、米国国立医学ライブラリーのウェブサイト:http://www.ncbi.nlm.nih.gov/blast/bl2seq/bls.htmlにより使用が利用可能なBLASTNプログラム、バージョン2.2.7、またはU
W−BLAST2.0アルゴリズムが使用可能である。UW−BLAST2.0についての標準的なデフォルトパラメーターの設定は、以下のインターネットサイト:http://blast.wustl.eduに記載されている。さらに、BLASTアルゴリズムは、BLOSUM62アミノ酸スコア付けマトリックスを使用し、使用可能である選択パラメーターは以下の通りである:(A)低い組成複雑性を有するクエリー配列のセグメント(WoottonおよびFederhenのSEGプログラム(Computers and Chemistry, 1993)により決定される;WoottonおよびFederhen, 1996「配列データベースにおける組成編重領域の解析(Analysis of compositionally biased regions in sequence
databases)」Methods Enzymol., 266: 544−71も参照されたい)、又は、短周期性の内部リピートからなるセグメント(ClaverieおよびStates(Computers and Chemistry, 1993)のXNUプログラムにより決定される)をマスクするためのフィルターを含むこと、及び(B)データベース配列に対する適合を報告するための統計学的有意性の閾値、またはE−スコア(KarlinおよびAltschul, 1990)の統計学的モデルにしたがって、単に偶然により見出される適合の期待確率;ある適合に起因する統計学的有意差がE−スコア閾値より大きい場合、この適合は報告されない);好ましいE−スコア閾値の数値は0.5であるか、または好ましさが増える順に、0.25、0.1、0.05、0.01、0.001、0.0001、1e−5、1e−10、1e−15、1e−20、1e−25、1e−30、1e−40、1e−50、1e−75、または1e−100である。
TM2の変異体はまた、配列番号1の塩基配列の相補鎖にストリンジェントな条件でハ
イブリダイズする塩基配列を含んでなる核酸によってコードされるタンパク質であって、TM2と同様の結合活性を有するタンパク質であってもよい。
ここで、「ストリンジェントな条件下」とは、中程度または高程度にストリンジェントな条件においてハイブリダイズすることを意味する。具体的には、中程度にストリンジェントな条件は、例えば、DNAの長さに基づき、一般の技術を有する当業者によって、容易に決定することが可能である。基本的な条件は、Sambrookら,Molecular Cloning: A Laboratory Manual,第3版,第6章,Cold Spring Harbor Laboratory Press, 2001に示され、例えば5×SSC、0.5% SDS、1.0mM EDTA(pH8.0)の前洗浄溶液、約42℃での、約50%ホルムアミド、2×ないし6×SSC、好ましくは5×ないし6×SSC、0.5% SDS(または約42℃での約50%ホルムアミド中の、スターク溶液などの他の同様のハイブリダイゼーション溶液)のハイブリダイゼーション条件、及び例えば、約50℃ないし68℃、0.1×、ないし、6×SSC、0.1% SDSの洗浄条件の使用が含まれる。好ましくは中程度にストリンジェントな条件は、約50℃、6×SSC、0.5% SDSのハイブリダイゼーション条件(及び洗浄条件)を含む。高ストリンジェントな条件もまた、例えばDNAの長さに基づき、当業者によって、容易に決定することが可能である。
一般に、こうした条件は、中程度にストリンジェントな条件よりも高い温度及び/又は低い塩濃度でのハイブリダイゼーション(例えば、0.5%程度のSDSを含み、約65℃、6×SSCないし0.2×SSC、好ましくは6×SSC、より好ましくは2×SSC、より好ましくは0.2×SSC、あるいは0.1×SSCのハイブリダイゼーション)及び/又は洗浄を含み、例えば上記のようなハイブリダイゼーション条件、及びおよそ65℃、ないし68℃、0.2×ないし0.1×SSC、0.1% SDSの洗浄を伴うと定義される。ハイブリダイゼーションおよび洗浄の緩衝液では、SSC(1×SSCは、0.15M NaClおよび15mM クエン酸ナトリウムである)にSSPE(1×SSPEは、0.15M NaCl、10mM NaHPO、および1.25mM EDTA、pH7.4である)を代用することが可能であり、洗浄はハイブリダイゼーションが完了した後で15分間ないし1時間程度行う。
また、プローブに放射性物質を使用しない市販のハイブリダイゼーションキットを使用することもできる。具体的には、ECL direct labeling & detection system(Amersham社製)を使用したハイブリダイゼーション等が挙げられる。ストリンジェントなハイブリダイゼーションとしては、例えば、キット中のhybridization bufferにBlocking試薬を5%(w/v)、NaClを0.5Mになるように加え、42℃で4時間行い、洗浄は、0.4% SDS、0.5xSSC中で、55℃で20分を2回、2xSSC中で室温、5分を一回行う、という条件が挙げられる。
TM2の変異体のビオチン結合活性は、公知の手法のいずれかにより測定することが可能である。例えば、Kadaら(Biochim. Biophys. Acta., 1427: 33−43 (1999))に記載されるように蛍光ビオチンを用いる方法により測定してもよい。この方法は、ビオチン結合タンパク質のビオチン結合サイトに蛍光ビオチンが結合すると、蛍光ビオチンの蛍光強度が消失する性質を利用したアッセイ系である。あるいは、表面プラズモン共鳴を原理としたバイオセンサーなど、タンパク質とビオチンの結合を測定することが可能なセンサーを用いて、変異体タンパク質のビオチン結合活性を評価することもできる。
本発明の改変タマビジンにおいて、改変しないことが望ましいアミノ酸残基については
後述する。
本発明の改変タマビジン(I型)
本発明の改変型TM2は1態様として、
配列番号2に記載のアミノ酸配列、あるいはこの配列中に1から複数個のアミノ酸変異を有するアミノ酸配列、又はこの配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、ビオチン結合活性を示すタンパク質(TM2あるいはTM2(変異体))において、
以下のグループ:
1)配列番号2の36番目のセリン残基の水素結合を形成しないアミノ酸残基への置換;
2)配列番号2の80番目のトリプトファン残基の親水性アミノ酸残基への置換;
3)配列番号2の116番目のアスパラギン酸残基の水素結合を形成しないアミノ酸残基への置換;
4)配列番号2の46番目のプロリン残基のスレオニン、セリン若しくはチロシン残基への置換、及び、78番目のスレオニン残基の水素結合を形成しないアミノ酸残基への置換
5)配列番号2の46番目のプロリン残基のスレオニン、セリン若しくはチロシン残基への置換、及び、116番目のアスパラギン酸残基の水素結合を形成しないアミノ酸残基への置換;
:並びに
6)配列番号2の46番目のプロリン残基のスレオニン、セリン若しくはチロシン残基への置換、78番目のスレオニン残基の水素結合を形成しないアミノ酸残基への置換、及び、116番目のアスパラギン酸残基の水素結合を形成しないアミノ酸残基への置換
から選択される置換を有することを特徴とする。
本明細書において「タマビジン2(TM2)」とは、上記で既に定義した通りである。
本明細書において「水素結合を形成しないアミノ酸残基への置換」とは、ビオチンと水素結合を形成しないと考えられるアミノ酸残基へ置換することを意味する。限定されるわけではないが、具体的な例としては、非極性すなわち疎水性のR基をもつアミノ酸である
アラニン(A)、バリン(V)、ロイシン(L)、イソロイシン(I)、メチオニン(M)、トリプトファン(W)、フェニルアラニン(F)、及びプロリン(P)などへの、これら以外のアミノ酸残基からの置換を挙げることができる。本明細書中の実施例では、下記の改変型TM2においてセリン、スレオニン又はアスパラギン酸から、アラニン(A)へ置換した改変体が記載されている。
本明細書において「親水性アミノ酸残基への置換」とは、本技術分野で一般的に親水性であると考えられているアミノ酸残基への置換を意味する。限定されるわけではないが、具体的な例としては、極性アミノ酸が挙げられ、その中でも生理的pHで正の電荷をもつR
基を有するリジン(K)、アルギニン(R)、及びヒスチジン(H)、生理的pHで負の電荷をもつR基を有するアスパラギン酸(D)やグルタミン酸(E)などへの置換を挙げる
ことができ、下記の改変型TM2においてはトリプトファンをリジン(K)へ置換したものを述べる。
このような改変型TM2は好ましくは、
1−a)配列番号2の36番目のセリン残基がアラニンに置換されている改変型ビオチン結合タンパク質(TM2 S36A)、
2−a)配列番号2の80番目のトリプトファン残基がリジンに置換されている改変型ビオチン結合タンパク質(TM2 W80K)、
3−a)配列番号2の116番目のアスパラギン酸残基がアラニンに置換されている改変型ビオチン結合タンパク質(TM2 D116A)、
4−a)配列番号2の46番目のプロリン残基がスレオニンに置換されており、そして
、78番目のスレオニン残基がアラニンに置換されている改変型ビオチン結合タンパク質(TM2 P46T−T78A)、
5−a)配列番号2の46番目のプロリン残基がスレオニンに置換されており、そして、116番目のアスパラギン酸残基がアラニンに置換されている改変型ビオチン結合タンパク質(TM2 P46T−D116A)、並びに、
6−a)配列番号2の46番目のプロリン残基がスレオニンに置換されており、78番目のスレオニン残基がアラニンに置換されており、そして、116番目のアスパラギン酸残基がアラニンに置換されている改変型ビオチン結合タンパク質(TM2 P46T−T78A―D116A)、である。
そのような改変型TM2は、好ましくは、以下の性質;
i)ビオチンを用いた精製が可能である、
ii)配列番号2の記載のアミノ酸配列からなるタンパク質の四量体構造を維持している、
iii)プロテアーゼに対し耐性を有する、
iv)大腸菌の可溶性画分において高い発現を示す、
の1ないし全部を示す。
本明細書において「ビオチンを用いた精製が可能」とは、対象とするタンパク質が適度なビオチン結合能を有することによりビオチンとの結合及び解離が可能であるために、ビオチンとのアフィニティを利用して、対象タンパク質自体、および/または、対象タンパク質を結合した担体(カラム等)を用いた、ビオチン化物質(例えばビオチン化タンパク質等)の精製が可能であることを意味する。従って、改変型TM2は、野生型TM2に比べて、ビオチン結合能が小さい低親和性タマビジンである。
本明細書において「四量体構造を維持している」とは、天然のTM2が有する四量体のサブユニット構造を実質的に維持していることを意味する。具体的には、野生型のTM2と同程度の分子量を有する状態を意味する。例えば、高速タンパク質液体クロマトグラフィー(Fast protein liquid chromatography(FPLC))によって、改変型TM2の分子量を測定し、TM2の分子量と比較することによって確認できる。
本明細書において「プロテアーゼに対し耐性を有する」とは、プロテアーゼ処理によってタンパク質が酵素分解されない、又は実質的に分解されないことを意味する。プロテアーゼ処理は、例えば、30℃で15分間、プロテアーゼKによる処理を施す。「酵素分解されない」とは、野生型のTM2と同様に、酵素処理後にSDS−PAGEを行っても当該タンパク質の四量体、二量体および/または単量体のバンドが明瞭に検出できることを意味する。すなわち、プロテアーゼに対し耐性を持たないタンパク質は、プロテアーゼ処理により小分子にまで分解されてしまい、プロテアーゼ処理後のSDS−PAGEにおいて、四量体、二量体、および単量体のバンドは検出できないが、プロテアーゼに対し耐性を有するタンパク質の場合はプロテアーゼ処理によっても完全に分解されてしまうことなく、四量体構造を維持する。そしてSDS-PAGEにおいて、四量体および/または四
量体が解離した二量体や単量体のバンドとして検出される。
本明細書において「大腸菌の可溶性画分において高い発現を示す」とは、所望の遺伝子を発現ベクターに組み込み、大腸菌に導入後、適当な培地中で適当な温度ならびに発現誘導条件下でタンパク質を発現させた場合に、その組換えタンパク質が大腸菌中において、菌体破砕後の可溶性画分に、確認可能な程度十分に、好ましくは野生型のTM2とほぼ同程度、またはそれ以上に産生されることを意味する。限定されるわけではないが、培養液1L当たり、1mg以上、好ましくは5mg以上、10mg以上、15mg以上、特に好
ましくは20mg以上発現することを意味する。
「TM2 S36A」及び「TM2 D116A」はTM2においてビオチンと水素結合すると考えられる部位を改変したものであり、大腸菌の可溶性画分において高発現するものである。また、これらの改変体TM2は四量体の構造を維持しており、プロテアーゼに対し高い耐性を有している。さらにこれらの改変型TM2のビオチン結合能は、1アミノ酸改変体であるにもかかわらず、それとビオチンとの結合能は、ビオチンと可逆的反応を起こさせるのに十分な程度に低下しており、ビオチン化タンパク質を非常に効率的に精製することができる。その上、イミノビオチンカラムを利用した場合であっても、これらの改変体TM2を非常に効率的に精製することができる。従って、「TM2 S36A」及び「TM2 D116A」は、これまでの低結合能ビオチン結合性タンパク質の問題点を解決することができる、非常に優れたビオチン可逆的結合性タンパク質である。
「TM2 W80K」は、TM2においてビオチンと疎水結合すると考えられる部位を改変したものであり、野生型TM2(配列番号2)の80番目のトリプトファンをリジンに改変したものである。TM2 W80Kは、大腸菌の可溶性画分において高発現するものである。また、四量体の構造を維持しており、プロテアーゼに対し高い耐性を有している。さらにこれらの変異体のビオチン結合能は、1アミノ酸改変体であるにもかかわらず、ビオチンと可逆的反応を起こさせるのに十分な程度に低下しており、酢酸を用いると、ビオチン化タンパク質を非常に効率的に精製することができる。その上、イミノビオチンカラムを利用した場合であっても、非常に効率的に精製することができる。従ってW80Kは、これまでの低結合能ビオチン結合性タンパク質の問題点を解決した、非常に優れた、ビオチン可逆的に結合する性質を有するタンパク質である。
「TM2 P46T−T78A」と「TM2 P46T−D116A」は、タマビジンのサブユニット間の結合に関与すると考えられる部位、かつ、ビオチンと水素結合すると考えられる部位を改変したものである。TM2とストレプトアビジンとのアミノ酸の相同性(両者のアミノ酸相同性は全体で48%である)を利用して検討したところ、ストレプトアビジンにおける55番目のバリン(Val)、76番目のスレオニン(Thr)、109番目のロイシン(Leu)、ならびに125番目のバリン(Val)が、それぞれTM2における、46番目のプロリン(Pro)、66番目のアラニン(Ala)、97番目のロイシン(Leu)、113番目のバリン(Val)であると考えられた。すなわち、TM2においてそれらのアミノ酸は、サブユニット結合部位に存在すると考えられた。そしてそれらのアミノ酸に実際に変異を入れ、ビオチン結合活性を測定すると、ビオチンと可逆的に結合するが、およそ半数の改変体は二量体や単量体の混合物となる。
ところで、TM2のサブユニット間結合に関与すると考えられる46番目のプロリンをスレオニンに改変した「TM2 P46T」は、サブユニット間結合を弱めることを意図した変異体であるが、四量体を維持している。そして、ビオチン結合能は予想に反して非常に高く、過剰量のビオチンを加えてもビオチン化物質を溶出させることができない。しかし、このTM2 P46Tの、ビオチンと水素結合すると考えられる部位である、78番目のスレオニン又は116番目のアスパラギン酸をアラニンに改変した変異体は、ビオチン結合能が適度な水準に変化し、ビオチン化物質を十分に精製することができる。
さらに、これらの変異をすべて組み合わせた「TM2 P46T−T78A−D116A」も、ビオチン化物質を十分に精製することができる。
また、これらの変異体は四量体を維持しており、プロテアーゼ耐性を有している。なお、このように水素結合の変異とサブユニット間結合の変異を組み合わせることにより、適切なビオチン結合能を持たせることに成功したビオチン結合性タンパク質は、これまでに例がない。
本発明の改変タマビジン(II型)
また本発明の改変型TM2は1態様として、
配列番号2に記載のアミノ酸配列、あるいはこの配列中に1から複数個のアミノ酸変異を有するアミノ酸配列、又はこの配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、ビオチン結合活性を示すタンパク質(TM2あるいはTM2(変異体))において、
6)配列番号2の78番目のスレオニン残基の水素結合を形成しないアミノ酸残基への置換
を有することを特徴とする。
このような改変型TM2は好ましくは、
6−a)配列番号2の78番目のスレオニン残基がアラニン残基へ置換されている改変型ビオチン結合タンパク質(TM2 T78A)である。
本明細書において「タマビジン2(TM2)」とは、上記で既に定義した通りである。
本明細書において「水素結合を形成しないアミノ酸残基への置換」とは、上記で既に定義した通りである。
このような改変型TM2は、好ましくは、以下の性質;
i)ビオチンを用いた精製が可能である、
ii)配列番号2の記載のアミノ酸配列からなるタンパク質の四量体構造を維持している、
iii)プロテアーゼに対し耐性を有する、
v)配列番号2の記載のアミノ酸配列からなるタンパク質よりも、高い耐熱性を有する、
の1ないし全部を示す。
本明細書において「ビオチンを用いた精製が可能」、「四量体構造を維持している」及び「プロテアーゼに対し耐性を有する」は、上記で既に定義した通りである。
本明細書において「高い耐熱性を有する」とは、野生型と同程度あるいはそれ以上の耐熱性を有することを意味する。非限定的に、例えば、SDS存在下で20分間加熱処理を行った際のTr値(単量体と四量体の量比が1:1となる温度)が天然のTM2と比較して、ビオチン非存在下で、好ましくは同程度、より好ましくは5℃以上、さらに好ましくは10℃以上高いことを意味する。
「TM2 T78A」は、大腸菌可溶性画分からのイミノビオチン−アガロースによる回収率は低いが、ビオチン−アガロースによる回収率は高く(95%程度)、四量体を維持しプロテアーゼ耐性を有している。加えてTM2 T78Aは、TM2 S36AやTM2 D116Aと同様に1アミノ酸変異体であるにもかかわらず、ビオチン結合能が適度に低下しており、ビオチン化タンパク質を精製することができる(回収率は40%〜50%程度)。さらにTM2 T78Aは、ビオチン非存在下でのTr値が88℃であり、TM2のTr値(78℃)より10℃も高く、またビオチン結合時のTr値も100℃以上であり、熱安定性が非常に高いタンパク質である。
本発明の改変タマビジン(III型)
また本発明の改変型TM2は1態様として、
配列番号2に記載のアミノ酸配列、あるいはこの配列中に1から複数個のアミノ酸変異を有するアミノ酸配列、又はこの配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、ビオチン結合活性を示すタンパク質(TM2あるいはTM2(変異体))において、
以下のグループ:
7)配列番号2の36番目のセリン残基の水素結合を形成しないアミノ酸残基への置換、及び、116番目のアスパラギン酸残基の水素結合を形成しないアミノ酸残基への置換;並びに
8)配列番号2の36番目のセリン残基の水素結合を形成しないアミノ酸残基への置換、78番目のスレオニン残基の水素結合を形成しないアミノ酸残基への置換、及び、116番目のアスパラギン酸残基の水素結合を形成しないアミノ酸残基への置換
から選択される置換を有することを特徴とする。
本明細書において「タマビジン2(TM2)」とは、上記で既に定義した通りである。
本明細書において「水素結合を形成しないアミノ酸残基への置換」とは、上記で既に定義した通りである。
このような改変型TM2は好ましくは、
7−a)配列番号2の36番目のセリン残基がアラニンに置換されており、そして、116番目のアスパラギン酸残基がアラニンに置換されている、改変型ビオチン結合タンパク質(TM2 S36A―D116A);並びに
8−a)配列番号2の36番目のセリン残基がアラニンに置換されており、78番目のスレオニン残基がアラニンに置換されており、そして、116番目のアスパラギン酸残基がアラニンに置換されている、改変型ビオチン結合タンパク質(TM2 S36A−T78A―D116A)
からなるグループから選択される。
このような改変型TM2は、以下の性質;
i)ビオチンを用いた精製が可能である;
iii)プロテアーゼに対し耐性を有する、
vi)弱酸性条件下でビオチンと結合し、そして、中性条件下でビオチンと結合しない、
の1ないし全部を示す。
本明細書において「ビオチンを用いた精製が可能である」及び「プロテアーゼに対し耐性を有する」とは、上記で既に定義した通りである。
本態様の改変型タマビジンは、特殊なpH依存性を示す。本明細書において「弱酸性」とは、pH4からpH6の範囲内の水素イオン指数を意味する。「中性」とは、pH7からpH8の範囲内の水素イオン指数を意味する。
「TM2 S36A−D116A」は、大腸菌可溶性画分からの回収率は95%、精製度95%(pH4で結合、pH7で解離させた場合)、四量体を維持しプロテアーゼ耐性を有している。そして、ビオチン結合に関して極めて特異的なpH依存性を有する。これまで、中性付近(pH7付近)でビオチンと結合しないビオチン結合タンパク質は知られていない。この「TM2 S36A−D116A」は、弱酸性条件(pH4〜6程度)においてビオチンと非常に効率よく結合するのに対し、中性条件及びアルカリ条件(pH7、pH12)ではビオチンと全く結合しないという、これまでのビオチン結合性タンパク質とは全く異なる特徴を有している。従ってこの改変体を用いれば、対象物質を強アルカリ性条件に曝して変性させてしまうことなく、穏和な条件で精製することができる。
本明細書において「アルカリ条件」とは、pH9からpH13の範囲内の水素イオン指数を意味する。
「TM2 S36A−T78A−D116A」は、大腸菌の可溶性画分において高発現するものである。また二量体の構造を維持しており、プロテアーゼに対し高い耐性を有している。「TM2 S36A−T78A−D116A」は、「TM2 S36A−D11
6A」と同様に、弱酸性条件(pH4〜6程度)においてビオチンと効率よく結合するのに対し、中性条件(pH7)ではビオチンと全く結合しないという、これまでのビオチン結合性タンパク質とは全く異なる特徴を有している。ただし、アルカリ条件下では、「TM2 S36A−D116A」と異なり、弱酸性条件と同様にビオチンと効率良く結合した。
「TM2 S36A−T78A−D116A」はまた、イミノビオチンに全く結合せず、イミノビオチンで精製できないという特徴も有する。この点は、後述するIV型と性質vii)が共通する。「イミノビオチンで精製できない」の意義はIV型の説明において詳述する。
当該改変体は、例えば系のpHを変化させることにより、当該改変体とビオチンとの結合を制御することを特徴とした分子スイッチなどの用途に用いることができる。
また本発明は、当該改変体を含む、生物学的試料中の物質を検出する系における非特異結合抑制剤を提供する。また本発明は、当該改変体を、生物学的試料中の物質を検出する系において、非特異的結合抑制剤として使用する方法も提供する。
当該改変体は生物学的試料、例えばヒトや動物の血清等を被験試料としたイムノアッセイや核酸ハイブリダイゼーションにおける、非特異結合の抑制剤として用いることができる。これまでに非特異結合を除去するために、ビオチン結合能を低下させたアビジン、ストレプトアビジンが提案されているが(特開平10−28589号公報)、これらは完全
に不活性化されていないため、(ストレプト)アビジン固相化担体に結合したビオチン化物質が脱離する可能性があった。
なお本発明における生物学的試料としては、検出対象となる物質が含まれうるものであれば特段限定されない。生物から採取された細胞、組織又はその破片等を含む試料、例えば体液、さらに好ましくは、血液、血清、脳脊髄液、唾液、咽頭拭い液、汗、尿、涙、リンパ液、精液、腹水及び母乳などである。
これらの体液は、必要に応じ希釈して用いる。希釈率は通常2倍ないし10000倍程度、好ましくは100倍ないし1000倍程度であるが、これに限定されない。希釈するための溶液は任意の緩衝液が使用されうるが、適当なブロッキング剤を含んでも良い。
本発明の被検物質としては、生物学的試料中の検出又は測定が望まれる物質であれば特段の制限はないが、抗体や抗原などのタンパク質やその断片、ペプチド、核酸、ホルモン、糖質、糖脂質、あるいは生物学的試料中に含まれる細菌やウイルスなどを好ましく挙げることができる。
ここで当該改変体を用いれば、例えばタマビジンを固相化した担体に、ビオチン化抗原またはビオチン化抗体を結合させ、血清中の抗体や抗原を検出する系において、当該改変体を含む溶液で血清を希釈する、または当該改変体を含む溶液で担体のブロッキング操作を行うことにより、血清中成分との非特異結合を低減させることができる。当該改変体は中性付近でビオチンと結合しないので、イムノアッセイの反応を中性付近で行うことで、ビオチン化抗原またはビオチン化抗体を固相面から脱離させることなく、非特異結合を低減させることができる。
本発明の改変タマビジン(IV型)
また本発明の改変型TM2は1態様として、
配列番号2に記載のアミノ酸配列、あるいはこの配列中に1から複数個のアミノ酸変異を有するアミノ酸配列、又はこの配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、
ビオチン結合活性を示すタンパク質(TM2あるいはTM2(変異体))において、
9)配列番号2の78番目のスレオニン残基の水素結合を形成しないアミノ酸残基への置換、及び、116番目のアスパラギン酸残基の水素結合を形成しないアミノ酸残基への置換
を有することを特徴とする。
本明細書において「タマビジン2(TM2)」とは、上記で既に定義した通りである。
本明細書において「水素結合を形成しないアミノ酸残基への置換」とは、上記で既に定義した通りである。
このような改変型TM2は好ましくは、
9−a)配列番号2の78番目のスレオニン残基がアラニンに置換されており、そして、116番目のアスパラギン酸残基がアラニンに置換されている、改変型ビオチン結合タンパク質(TM2 T78A―D116A)である。
このような改変型TM2は、以下の性質;
i)ビオチンを用いた精製が可能である、
ii)配列番号2の記載のアミノ酸配列からなるタンパク質の四量体構造を維持している、
iii)プロテアーゼに対し耐性を有する、
iv)大腸菌の可溶性画分において高い発現を示す、
vii)イミノビオチンで精製できない
の1ないし全部を示す。
本明細書において「ビオチンを用いた精製が可能である」、「四量体構造を維持している」、「プロテアーゼ耐性を有する」及び「大腸菌の可溶性画分において高い発現を示す」とは、上記で既に定義した通りである。
本明細書において「イミノビオチンで精製できない」とは、目的タンパク質がイミノビオチンと結合しないか、あるいはイミノビオチンと結合した目的タンパク質を溶出することができないために、イミノビオチンを用いた精製が不可能であることを意味する。
「TM2 T78A−D116A」は、大腸菌の可溶性画分において高発現するものである。また四量体の構造を維持しており、プロテアーゼに対し高い耐性を有している。この改変体は、イミノビオチンでは全く精製できないが、ビオチンでは極めてよく精製できる、というこれまでに全く知られていない特異な性質を有している。
当該改変体は、例えば以下のような用途に用いることが出来る。例えばある細胞を、その細胞の表層に存在する抗原を目印に特異的に標識したい場合、まず、これらの改変体を検体に注射し、検体の血液中の内生ビオチンと結合させる。続いて、その抗原に対する特異的抗体をイミノビオチン化し、検体に導入し、当該細胞をイミノビオチンでラベルする。最後に、放射性同位元素ラベルあるいは蛍光ラベルしたアビジンやストレプトアビジン、あるいはタマビジンのようなビオチンと強く結合するタンパク質を検体に注入することで、細胞を特異的に標識することが出来る。この系では予めこれらの改変体で内生のビオチンレベルを低下させているので、バックグラウンドが低く、かつこれらの改変体は、ビオチンには結合するがイミノビオチンには結合しないので、当該細胞には結合しない。通常、ビオチン結合タンパク質はイミノビオチンとビオチンの両方に結合するので、これらの改変体を使用しなければ上記の系は成立しない。
本発明の不活性型の改変タマビジン
本発明は、以下のタンパク質を含む。すなわち、
配列番号2に記載のアミノ酸配列、あるいはこの配列中に1から複数個のアミノ酸変異を有するアミノ酸配列、又はこの配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、ビオチン結合活性を示さないタンパク質(TM2あるいはTM2(変異体))において、
10−a)配列番号2の66番目のアラニン残基がアルギニンに置換されており、そして、113番目のバリン残基がアルギニンに置換されている、タマビジン改変タンパク質(TM2 A66R―V113R);並びに
11−a)配列番号2の46番目のプロリン残基がスレオニンに置換されており、66番目のアラニン残基がアルギニンに置換されており、97番目のロイシン残基がスレオニンに置換されており、そして、113番目のバリン残基がアルギニンに置換されている、タマビジン改変タンパク質(TM2 P46T―A66R―L97T―V113R)
であることを特徴とする。
本明細書において「タマビジン2(TM2)」とは、上記で既に定義した通りである。
このようなタマビジン改変タンパク質は、以下の性質;
i)ビオチンへの結合活性が失われている、
ii)大腸菌の可溶性画分において高い発現を示す、
の全てを示す。
本明細書において、「ビオチンへの結合活性が失われている」とは、元のタンパク質のビオチン結合活性が変異により失われ、改変されたタンパク質がビオチン結合活性を実質的に有しないことを意味する。
本明細書において、「大腸菌の可溶性画分において高い発現を示す」とは、上記で既に定義した通りである。
「TM2 A66R―V113R」と「TM2 P46T―A66R―L97T―V113R」は、タマビジンのサブユニット間の結合に関与すると考えられる部位を改変したものである。TM2とストレプトアビジンとのアミノ酸の相同性(両者のアミノ酸相同性は全体で48%である)を利用して検討したところ、ストレプトアビジンにおける55番目のバリン(Val)、76番目のスレオニン(Thr)、109番目のロイシン(Leu)、ならびに125番目のバリン(Val)が、それぞれTM2における、46番目のプロリン(Pro)、66番目のアラニン(Ala)、97番目のロイシン(Leu)、113番目のバリン(Val)であると考えられた。すなわち、TM2においてそれらのアミノ酸は、サブユニット結合部位に存在すると考えられた。そしてそれらのアミノ酸に実際に変異を入れ、ビオチン結合活性を測定すると、ビオチン結合活性はほぼ完全に失われていた(表2)。
当該不活性型の改変タンパク質は、生物学的試料中の物質を検出する系における、非特異結合抑制剤として使用することができる。よって本発明は、当該不活性型の改変タンパク質を含む、生物学的試料中の物質を検出する系における非特異結合抑制剤を提供する。また本発明は、当該不活性型の改変タンパク質を、生物学的試料中の物質を検出する系において、非特異的結合抑制剤として使用する方法も提供する。
これまでに非特異結合を除去するために、ビオチン結合能を低下させたアビジン、ストレプトアビジンが提案されているが(特開平10−28589号公報)、これらは完全に
不活性化されていないため、(ストレプト)アビジン固相化担体に結合したビオチン化物質が脱離する可能性があった。
ここで当該不活性型の改変タンパク質を用いれば、例えばタマビジンを固相化した担体
に、ビオチン化抗原またはビオチン化抗体を結合させ、血清中の抗体や抗原を検出する系において、当該不活性型の改変タンパク質を含む溶液で血清を希釈する、または当該不活性型の改変タンパク質を含む溶液でブロッキング操作を行うことで非特異結合を低減することができる。当該不活性型の改変タンパク質はビオチンへの結合活性が失われているので、ビオチン化抗原またはビオチン化抗体を固相面から脱離させることなく、非特異結合を低減させることができる。また当該不活性型の改変タンパク質は、大腸菌の可溶性画分において高い発現を示すので、容易に製造することが可能である。
アミノ酸の改変方法
TM2のアミノ酸を改変して、本発明の改変型TM2を得るための方法は、公知のアミノ酸配列に変異を施す方法を使用でき、特に限定されない。好ましくは本発明の改変タンパク質をコードする核酸の塩基配列に修飾を施し改変する。
例えば、アミノ酸配列の特定の位置のアミノ酸を改変するには、例えばPCRを利用した方法が挙げられる(Higuchi et al (1988) Nucleic Acid Res 16:7351−7367, Ho et al.(1989) Gene 77:51−59)。すなわち、標的変異のミスマッチコドンを含むプライマーを利用してPCRを行ない、目的の改変体をコードするDNAを作成しこれを発現させることにより、目的の改変体を得ることができる。
また、アミノ酸の欠失、置換、挿入及び/又は付加による改変体は、野生型タンパク質をコードするDNAに、前述の周知技術である部位特異的変異誘発を施すなどの方法により作成することができる。
本発明の改変型TM2において改変されないことが望ましいアミノ酸残基
本発明の改変型TM2におけるアミノ酸残基の改変は、改変型TM2が適切なビオチン親和性を有することにより精製が可能となるような改変である。ところで、ビオチン結合タンパク質の一つであるストレプトアビジンのビオチンポケットについては既に解明が進んでいる。このストレプトアビジンとTM2のアミノ酸配列のホモロジーは50%程度に過ぎないが、発明者らは、TM2のビオチンポケットについての知見を得るべく、TM2とストレプトアビジンのアミノ酸配列を並列させて比較した。
すると、ストレプトアビジンのビオチンポケットを形成するアミノ酸の中で、ビオチンと直接相互作用する残基N23、S27、Y43、S45、N49、W79、S88、T90、W92、W108、W120、D128(Weber et al. (1989)Science 243: 85−88)は、TM2では各々、N14、S18、Y34、S36、D40、W69、S76、T78、W80、W96、W108、D116に該当し、非常によく保存されていることが見出された。TM2とストレプトアビジンのビオチン結合ポケットは非常に似た構造を有し、これらのアミノ酸残基はビオチン結合に大きく関与していると考えられる。
唯一、ストレプトアビジンの49番目のN(アスパラギン)は、TM2においては40番目のD(アスパラギン酸)になっており、例外であった。なお49番目のアスパラギンに関しては、これをストレプトアビジンと同様にアスパラギンに改変したTM2 D40N TM2において、ビオチン結合能が高くなるという知見を本発明者らは得ている。よって40番目のアスパラギン酸をアスパラギンに置換した改変体はビオチン結合能が強すぎるので、上記のTM2 D40N TM2を本発明に使用することは好ましくない。
特に4つのトリプトファン残基(W69、W80、W96、W108)はビオチンポケットの構造に重要な役割を果たしていると考えられるため、これまでの改変体に関する記
載で特定された置換を行う場合を除き、改変されないことが望ましい。あるいは、これらを改変する場合にはビオチンとの結合を維持できるよう、性質あるいは構造が類似したアミノ酸に改変することが望ましく、例えばフェニルアラニン(F)へ改変することが望ましい。
一方、ビオチンとの結合に関与すると考えられるその他のアミノ酸、すなわち、TM2においては、ビオチンと直接相互作用すると考えられるアミノ酸残基(N14、S18、Y34、S36、S76、T78、D116)についても、これまでの記載で特定された置換を行う場合を除き、改変されないことが望ましい。あるいは、これらを改変する場合にはビオチンとの結合を維持できるよう、性質あるいは構造が類似したアミノ酸に改変することが望ましく、例えばアスパラギン(N14)の場合は、グルタミン(Q)やアスパラギン酸(D)へ、好ましくはグルタミンへ、アスパラギン酸(D40)の場合は、アスパラギン(N)以外へ、セリン(S18、S36、S76)の場合は、スレオニン(T)あるいはチロシン(Y)へ、好ましくはスレオニンへ、チロシン(Y34)の場合は、セリン(S)あるいはスレオニン(T)へ、好ましくはスレオニンへ、スレオニン(T78)の場合は、セリン(S)やチロシン(Y)へ、好ましくはセリンへ、アスパラギン酸(D116)の場合は、グルタミン酸(E)やアスパラギン(N)へ、好ましくはグルタミン酸へ、それぞれ改変することが望ましい。
加えてP46、A66、L97、V113もサブユニット結合部位であるために、これらの残基についても、これまでの記載で特定された置換を行う場合を除き、改変されないことが望ましい。これらを改変する場合にはビオチンとの結合を維持できるよう、性質あるいは構造が類似したアミノ酸に改変することが望ましく、例えばロイシン(L97)の場合は、イソロイシンへ改変することが望ましい。
ただし、いずれも、上記1)−9)で特定したアミノ酸残基は、1)ないし9)の各々で特定したように置換されている。
改変型TM2タンパク質をコードする核酸
本発明は、本発明の改変型TM2タンパク質をコードする核酸を提供する。このような核酸の塩基配列は、TM2の塩基配列(配列番号1)を、改変型TM2タンパク質の改変アミノ酸をコードする塩基配列に改変したものである。改変される塩基配列は、改変後のアミノ酸をコードする塩基配列であれば限定されない。例えば、配列番号1の塩基配列からなる核酸(以下、「TM2遺伝子」)、またはそれらの相補鎖にストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、ビオチンとの結合及び解離を可能とする、適切なビオチン結合活性を有するタンパク質をコードする核酸であって、本発明の改変を施すために塩基配列を改変させたものを含む。
本発明の核酸は、好ましくは、配列番号4、6、8、10、12、14、16、18及び20のいずれかのアミノ酸配列をコードする。本発明の核酸は、より好ましくは配列番号3、5、7、9、11、13、15、17及び19のいずれかの核酸配列からなる。
本発明の核酸を含むベクター
また、本発明は、改変型TM2タンパク質をコードする核酸を含むベクターを提供する。好ましくは、改変型TM2タンパク質を発現するための発現ベクターである。
本発明の改変型TM2のタンパク質をコードする核酸は、上記「改変型TM2タンパク質をコードする核酸」に記載された通りであり、特に限定されない。改変型TM2タンパク質をコードする核酸の上流には所望の宿主で機能するプロモーターが、またその下流にはターミネーターが配置されていることが望ましい。
本発明のベクターは、好ましくは発現ベクターである。発現ベクターは、上記のような発現ユニット(プロモーター+改変型TM2コード領域+ターミネーター)の他に、所望の宿主で複製できるためのユニット、例えば複製開始点を有し、また所望の宿主細胞を選抜するための、薬剤抵抗性マーカー遺伝子を有してもよい。宿主は特に限定されないが、好ましくは大腸菌である。また、本発現ベクターに、例えば、大腸菌におけるラクトースリプレッサー系のような適当な発現制御系を組み込んでもよい。
改変型TM2を固定化した担体
本発明は、本発明の改変型TM2タンパク質を固定化した担体を提供する。
担体を構成する材料は公知のものを使用可能である。例えば、セルロース、テフロン、ニトロセルロース、アガロース、高架橋アガロース、デキストラン、キトサン、ポリスチレン、ポリアクリルアミド、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリプロピレン、ナイロン、ポリジビニリデンジフルオライド、ラテックス、シリカ、ガラス、ガラス繊維、金、白金、銀、銅、鉄、ステンレススチール、フェライト、シリコンウエハ、ポリエチレン、ポリエチレンイミン、ポリ乳酸、樹脂、多糖類、タンパク(アルブミン等)、炭素又はそれらの組合せ、などを含むがこれらに限定されない。また、一定の強度を有し、組成が安定し、かつ非特異結合が少ないものが好ましい。
固体担体の形状は、ビーズ、磁性ビーズ、薄膜、微細管、フィルター、プレート、マイクロプレート、カーボンナノチューブ、センサーチップなどを含むがこれらに限定されない。薄膜やプレートなどの平坦な固体担体は、当該技術分野で知られているように、ピット、溝、フィルター底部などを設けてもよい。
発明の一態様において、ビーズは、約25nm〜約1mmの範囲の球体直径を有しうる。好ましい態様では、ビーズは約50nm〜約10μmの範囲の直径を有する。ビーズのサイズは特定の適用に応じて選択されうる。
タンパク質の担体への結合は特に限定されず、タンパク質を担体に結合させるための公知の方法を使用することが可能である。具体的な結合方法は、担体の種類等によって、当業者が適宜選択可能である。
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の技術的範囲を限定するためのものではない。当業者は本明細書の記載に基づいて容易に本発明に修飾・変更を加えることができ、それらは本発明の技術的範囲に含まれる。
実施例1 低親和性(Low Affinity)タマビジン2(LATM2)の構築と分析
1−1.低親和性タマビジン2(以下LATM2)の設計
本発明者らは、ストレプトアビジンの結晶構造の知見を踏まえ、ストレプトアビジンとTM2のアミノ酸配列との比較検討を行い、TM2においてビオチンと相互作用するアミノ酸残基を推定し、それらのアミノ酸の配置はストレプトアビジンがビオチンと相互作用するアミノ酸のそれと似ているという知見を得た。これにより、TM2のアミノ酸配列の69番目、80番目、96番目、108番目のトリプトファンが、ビオチンと疎水結合するアミノ酸であると推定し、さらにTM2のアミノ酸配列の14番目のアスパラギン、18番目のセリン、34番目のチロシン、36番目のセリン、76番目のセリン、78番目のスレオニン、および、116番目のアスパラギン酸が、ビオチンと水素結合するアミノ酸であると推定した。また、検討の結果、46番目のプロリン、66番目のアラニン、97番目のロイシン、113番目のバリンがTM2においてサブユニット間の結合に重要であると考えられた。
以上の知見を踏まえ、TM2とビオチンとの親和性を低下させることを目的に、TM2中にアミノ酸変異を導入した。まず、ビオチンとの疎水結合に重要な役割を果たしていると考えられるトリプトファン(69番目、80番目、96番目、108番目のトリプトファン)、水素結合に関与すると考えられるアミノ酸(14番目のアスパラギン、18番目のセリン、34番目のチロシン、36番目のセリン、116番目のアスパラギン酸、76番目のセリン、78番目のスレオニン)に変異導入を行った。さらには、サブユニット間の結合に重要であると考えられるアミノ酸残基(46番目のプロリン、66番目のアラニン、97番目のロイシン、113番目のバリン)についても変異導入を行った。
即ち、LATM2を構築するために以下の30個のTM2改変体を構築した。
(1)108番目のトリプトファンをリジンに置換したTM2(以下、「TM2 W108K」);
(2)69番目のトリプトファンをリジンに置換したTM2(以下、「TM2 W69K」);
(3)80番目のトリプトファンをリジンに置換したTM2(以下、「TM2 W80K」、塩基配列は配列番号3に記載、アミノ酸配列は配列番号4に記載);
(4)36番目のセリンをアラニンに変異したTM2(以下、「TM2 S36A」、塩基配列は配列番号5に記載、アミノ酸配列は配列番号6に記載);
(5)36番目のセリンからアラニンへの置換と78番目のスレオニンからアラニンへの置換と116番目のアスパラギン酸からアラニンへの置換を持つTM2(以下、「TM2 S36A−T78A−D116A」、塩基配列は配列番号7に記載、アミノ酸配列は配列番号8に記載);
(6)14番目のアスパラギンをアラニンに変異したTM2(以下、「TM2 N14A」);
(7)78番目のスレオニンをアラニンに変異したTM2(以下、「TM2 T78A」、塩基配列は配列番号9に記載、アミノ酸配列は配列番号10に記載);
(8)116番目のアスパラギン酸をアラニンに変異したTM2(以下、「TM2 D116A」、塩基配列は配列番号11に記載、アミノ酸配列は配列番号12に記載);
(9)66番目のアラニンをアルギニンに変異したTM2(以下、「TM2 A66R」);
(10)46番目のプロリンからスレオニンへの置換と66番目のアラニンからアルギニンへの置換をもつTM2(以下、「TM2 P46T−A66R」);
(11)113番目のバリンをアルギニンに変異したTM2(以下、「TM2 V113R」);
(12)46番目のプロリンからスレオニンへの置換と113番目のバリンからアルギニンへの置換を持つTM2(以下、「TM2 P46T−V113R」)。
(13)46番目のプロリンからスレオニンへの置換と78番目のスレオニンからアラニンへの置換を持つTM2(以下、「TM2 P46T−T78A」、塩基配列は配列番号13に記載、アミノ酸配列は配列番号14に記載)。
(14)46番目のプロリンからスレオニンへの置換と116番目のアスパラギン酸からアラニンへの置換を持つTM2(以下、「TM2 P46T−D116A」、塩基配列は配列番号15に記載、アミノ酸配列は配列番号16に記載)。
(15)46番目のプロリンからスレオニンへの置換と78番目のスレオニンからアラニンへの置換と116番目のアスパラギン酸からアラニンへの変異を持つTM2(以下、「TM2 P46T−T78A−D116A」、塩基配列は配列番号17に記載、アミノ酸配列は配列番号18に記載)。
(16)46番目のプロリンからスレオニンへの置換と66番目のアラニンからアルギニンへの置換と97番目のロイシンからスレオニンへの変異を持つTM2(以下、「TM2 P46T−A66R−L97T」)。
(17)108番目のトリプトファンからグルタミン酸への変異を持つTM2(以下、「TM2 W108E」)。
(18)108番目のトリプトファンからアルギニンへの変異を持つTM2(以下、「TM2 W108R」)。
(19)96番目のトリプトファンからリジンへの変異を持つTM2(以下、「TM2
W96K」)。
(20)36番目のセリンからアラニンへの置換と116番目のアスパラギン酸からアラニンへの置換を持つTM2(以下、「TM2 S36A−D116A」、塩基配列は配列番号19に記載、アミノ酸配列は配列番号20に記載)。
(21)18番目のセリンからアラニンへの変異を持つTM2(以下、「TM2 S18A」)。
(22)78番目のスレオニンからアラニンへの置換と116番目のアスパラギン酸からアラニンへの置換を持つTM2(以下、「TM2 T78A−D116A」、塩基配列は配列番号21に記載、アミノ酸配列は配列番号22に記載)。
(23)34番目のチロシンからアラニンへの変異を持つTM2(以下、「TM2 Y34A」)。
(24)46番目のプロリンからスレオニンへの変異を持つTM2(以下、「TM2 P46T」)。
(25)46番目のプロリンからスレオニンへの置換と97番目のロイシンからスレオニンへの置換を持つTM2(以下、「TM2 P46T−L97T」)。
(26)46番目のプロリンからスレオニンへの置換と66番目のアラニンからアルギニンへの置換と97番目のロイシンからスレオニンへの変異と113番目のバリンからアルギニンへの置換を持つTM2(以下、「TM2 P46T−A66R−L97T−V113R」)。(塩基配列は配列番号23に記載、アミノ酸配列は配列番号24に記載)
(27)66番目のアラニンからアルギニンへの置換と113番目のバリンからアルギニンへの置換を持つTM2(以下、「TM2 A66R−V113R」)。(塩基配列は配列番号25に記載、アミノ酸配列は配列番号26に記載)
(28)66番目のアラニンからアルギニンへの置換と97番目のロイシンからスレオニンへの置換と113番目のバリンからアラギニンへの置換を持つTM2(以下、「TM2 A66R−L97T−V113R」)。
(29)97番目のロイシンからスレオニンへの変異を持つTM2(以下、「TM2 L97T」)。
(30)97番目のロイシンからスレオニンへの変異と113番目のバリンからアルギニンへの置換を持つTM2(以下、「TM2 L97T−V113R」)。
まず、LATM2を構築するための変異導入を行うのに使用するPCR用プライマーを設計した。TM2遺伝子の5’部分の領域の配列と、その上流に制限酵素PciI切断部位(ACATGT)を配置した配列からなるプライマーTm2 5’ Pci、TM2遺
伝子の3’部分の領域と、その下流に制限酵素BamHI切断部位(GGATCC)を配置した配列からなるプライマーTm2 3’Bamを設計した。各改変タマビジン2につ
いてのミスマッチコドンを含む一連のセンスプライマー、およびアンチセンスプライマーを、それぞれ表1に示す。なお表1において制限酵素認識部位を下線で示し、変異導入部位を点線で示した。
[表1] 低親和性タマビジン構築用プライマー
1−2 PCRによる遺伝子増幅
LATM2遺伝子を構築するために、2段階のPCRを行った。1段階目のPCRは、TM2遺伝子がベクターpTrc99Aに組み込まれたプラスミドを鋳型にして、プライマーTm2NtermPciと各改変体のミスマッチコドンを含むアンチセンスプライマー(TM2−S36A−Rv、TM2−N14A−Rv、TM2−T78A−Rv、TM2−D116A−Rv、TM2−W108K−Rv、TM2−W108E−Rv、TM2−W108R−Rv、TM2−W96K−Rv、TM2−S18A−Rv、TM2−Y34A−Rv、TM2−W69K−Rv、TM2−W80K−Rv、TM2−P46T−Rv、TM2−V113R−Rv、TM2−L97T−Rv)のそれぞれを用いて変異遺伝子の5’部分の増幅を行った。更にミスマッチコドンを含むセンスプライマー(TM2−
S36A−Fw、TM2−N14A−Fw、TM2−T78A−Fw、TM2−D116A−Fw、TM2−W108K−Fw、TM2−W108E−Fw、TM2−W108R−Fw、TM2−W96K−Fw、TM2−S18A−Fw、TM2−Y34A−Fw、TM2−W69K−Fw、TM2−W80K−Fw、TM2−P46T−Fw、TM2−V113R−Fw、TM2−L97T−Fw)のそれぞれとTm2CtermBamを用
いて変異遺伝子の3’部分の増幅を行った。
PCR反応条件は以下のとおりである。50μLの反応液中に鋳型DNAを500ng、10×Pyrobest buffer(Takara社)を5μL、2.5mM dNTPを4μL、プライマーを各25pmoles、5U/μL Pyrobest DNA polymerase(Takara社製)を0.5μL添加し、プログラムテンプコントロールシステムPC−700(ASTEK)を用いて、96℃3分を1回、96℃1分、55℃1分、72℃2分を10回、72℃6分を1回のサイクルで加熱を行った。その結果、遺伝子の5’部分、および3’部分において、いずれも設計通りのサイズのPCR産物が得られた。
これらのPCR産物を、低融点アガロース(SeaPlaqueGTG、CAMBREX社)を用いてTAE緩衝液中でアガロース電気泳動を行った。各DNA断片をゲルごと切り出し、ゲルと等量の200 mM NaClを加え、70℃で10分間処理し、ゲルを融解した。このサンプルについて、フェノール抽出、フェノール・クロロホルム抽出、クロロホルム抽出を各1回行い、エタノール沈殿によって遺伝子の5’部分と3’部分のDNA断片を回収した。それぞれの各変異遺伝子の5’部分と3’部分の両DNA断片を鋳型にして、プライマーTm2NtermPciとTm2CtermBamを用いて、2段階目のPCRを行った。反応条件は1段階目と同様とした。その結果、いずれのクローンにおいても約430bpのPCR産物が得られた。
1−3) 遺伝子クローニング
PCRによって得られたLATM2遺伝子断片をベクターpCR4 Blunt TOPO(Invitrogen社製)にクローニングした。ライゲーション反応はベクターキット添付の説明書きに従った。大腸菌TB1にエレクトロポレーション法を用いてDNAを導入し、常法(Sambrook et al. 1989, Molecular
Cloning, A laboratory manual, 2nd edition)に従ってプラスミドDNAを抽出した。インサートが確認されたクローンに関して、M13プライマー(Takara社)を用いて、ABI PRISM蛍光シークエンサー(Model 310 Genetic Analyzer, Perkin Elmer社)で、PCR産物の塩基配列をその両端から決定し、対象塩基に目的とする変異が導入されていることを確認した。
塩基配列を確認した後、上記プラスミドを制限酵素PciIとBamHIで二重消化し
、前述の方法でゲル精製を行い、DNA断片を回収した。この断片を、あらかじめNcoIとBamHIで消化しておいた大腸菌発現用ベクターpTrc99Aに、Ligation kit(Takara社製)を用いてライゲーションした。ライゲーション産物を大腸菌TB1に形質転換し、常法に従いプラスミドDNAを抽出し、制限酵素分析を行い、挿入遺伝子の有無を確認した。こうして、LATM2タンパク発現用のベクターである、TM2 W108K/pTrc99A、TM2 W108E/pTrc99A、TM2
W108R/pTrc99A、TM2 W69K/pTrc99A、TM2 W80K/pTrc99A、TM2 W96K/pTrc99A、TM2 S18A/pTrc99A、TM2 Y34A/pTrc99A、TM2 S36A/pTrc99A、TM2
N14A/pTrc99A、TM2 T78A/pTrc99A、TM2 D116A/pTrc99A、TM2 A66R/pTrc99A、TM2 P46T/pTrc99A、TM2 L97T/pTrc99A、TM2 V113R/pTrc99Aを完成させた。
さらに、2箇所のアミノ酸変異を有するLATM2、および3箇所のアミノ酸変異を有するLATM2については、点変異を有するLATM2をコードする遺伝子を組み込んだ発現ベクターを鋳型とし、各改変体についてのミスマッチコドンを含むプライマーを用いて上記に記載した方法で構築した。これにより、TM2 S36AD116A/pTrc99A、TM2 S36ADT78AD116A/pTrc99A、TM2 T78AD116A/pTrc99A、TM2 P46TL97T/pTrc99A、TM2 P46TA66RL97T/pTrc99A、TM2 P46TA66RL97TV113R/pTrc99A、TM2 A66RL97T/pTrc99A、TM2 P46TA66R/pTrc99A、TM2 L97TV113R/pTrc99A、TM2 A66RV113R/pTrc99A、TM2 A66RL97TV113R/pTrc99A、TM2 P46TV113R/pTrc99A、TM2 P46TT78A/pTrc99A、TM2 P46TD116A/pTrc99A、P46TT78AD116A/pTrc99Aを完成させた。
1−4) LATM2の大腸菌発現
各LATM2/pTrc99Aにより形質転換した大腸菌BL21を、抗生物質アンピシリン(最終濃度100μg/mL)を含むLB培地6mLに接種し、OD600における吸光度が0.5に達するまで25℃で振とう培養した。その後、1mM IPTGを添加し、さらに25℃で一晩振とう培養した。培養液1mLから遠心にて大腸菌を集菌し、100mM リン酸緩衝液(pH7)1500μL中に懸濁後、菌体を超音波により破砕した。破砕液を遠心(15000rpm)し、その上清を可溶性画分とした。
この可溶性画分についてウエスタンブロッティング解析を行った。可溶性画分と2×SDS sample buffer(125mM Tris−HCl pH 6.8, 10% 2−メルカプトエタノール、 4% SDS、 10% スクロース、0.01%BPB)を等量ずつ混和し、95℃で10分間加熱したものをSDS−PAGE電気泳動で展開し、ウエスタンブロッティング解析に用いた。1次抗体としてウサギ抗TM2抗体(PCT/JP2006/326260)を用いた。さらに、2次抗体としてアルカリフォスファターゼ標識抗ウサギ IgG抗体(BIO−RAD社製)を用いた。ウエスタンブロッティング解析の結果、LATM2/pTrc99Aで形質転換した大腸菌いずれにおいても、LATM2遺伝子を挿入していないベクターpTrc99Aで形質転換した大腸菌にはない、15.5kDa付近のバンドが検出された。これらのバンドのサイズは、TM2のアミノ酸配列から予測される単量体の分子量15.5kDaと一致した。
また、培養液1L当たりの可溶性LATM2タンパクの発現量は、いずれもWT−TM2と同程度で約20mgであった。ただし、TM2 W108R、TM2 W96K、T
M2 S18A、TM2 Y34Aについては発現がほとんど見られなかったため、以後の検討は行っていない。
1−5) LATM2の精製
LATM2の精製は、Hofmann et al.(1980)の方法に従い、2−イミノビオチン−アガロース(Sigma社製)を充填したカラムを用いて行った。各LATM2で形質転換した大腸菌について、大腸菌培養液25mLに、最終濃度1mMとなるようにIPTGを添加して発現誘導した。菌体を遠心分離により集菌し、50mM NaClを含む50mM CAPS(pH12)1.5mLで懸濁し、超音波破砕後の遠心上清に、2−イミノビオチン−アガロース 500μLを添加した後、カラムに充填した。500mM NaClを含む50mM CAPS(pH12)でカラムをよく洗浄した後、50mM NHOAC(pH4)で溶出した。
また、ビオチン−アガロース(Sigma社製)による精製は以下の方法で行った。LATM2の各々の大腸菌培養液25mLに発現誘導をかけ、100mM リン酸カリウム緩衝液(pH7.0)1.5mLで菌体を懸濁し、超音波破砕後の上清にビオチン−アガロース 400μLを添加した後1時間転倒混和した。その後アガロースをカラムに充填し、500mM NaClを含むPBS(pH7.4)でカラムをよく洗浄した後、10mM ビオチンを含むPBS1mLで溶出した。
ただし、TM2 S36A−T78A−D116Aについては50mM NaClを含む50mM CAPS(pH12) 1.5mLで懸濁し、超音波破砕後の上清にビオチン−アガロース 400μLを添加した。1時間転倒混和後、500mM NaClを含む50mM CAPS(pH12)でカラムをよく洗浄し、10mM ビオチンを含むPBS1mL(pH7.4)で溶出した。
また、TM2 S36A−D116Aにおいては100mM リン酸カリウム緩衝液(pH4.0)1.5mLで懸濁し、超音波破砕後の上清にビオチン−アガロース 400μLを添加した。洗浄は500mM NaClを含む100mM リン酸カリウム緩衝液(pH4)を用い、10mM ビオチンを含むPBS1ml(pH7)で溶出した。過剰量のビオチンで溶出したLATM2に結合しているビオチンは、20mMリン酸カリウム緩衝液で一晩透析することで除去した。
2−イミノビオチン−アガロースとビオチン−アガロースにおける回収率と精製度の結果を表2に示す。なお、表2において回収率は、精製後のLATM2タンパク質の量を精製前のLATM2タンパク質の量で割ったものに100を乗じて%で表した。また、精製度は、精製画分中の総タンパク質の量に占めるLATM2タンパク質の量の割合に100を乗じて%で表した。ビオチン−アガロースによる精製における回収率および精製度については、pH7で結合し過剰ビオチンで溶出させたときの結果として示した。
[表2] LATM2の回収率及び精製度
2―イミノビオチン−アガロースを用いた精製において、各種LATM2のうち、TM2 P46T、TM2 S36A、TM2 D116A、TM2 P46T−T78A、TM2 P46T−D116A、TM2 P46T−T78A−D116A、TM2 W80K、及びTM2 P46T−L97Tについては、回収率についても、精製度についても、野生型TM2(WT−TM2:回収率95%、精製度95%)と同程度に精製することが可能であった。
また、TM2 W108K、TM2 N14A、TM2 T78A、TM2 W108E、及びTM2 W69Kについては、2−イミノビオチン−アガロースを用いた精製において、回収率はWTより劣るものの、精製は可能であった。
一方、TM2 S36A−T78A−D116A、TM2 S36A−D116A、TM2 A66R、TM2 P46T−A66R、TM2 T78A−D116A、TM2
P46T−A66R−L97T、TM2 A66R−L97T、TM2 A66R−L97T−V113R、TM2 L97T−V113R、TM2 V113R、及びTM2
P46T−V113Rについては、2−イミノビオチン−アガロース(Sigma社製)に結合せず、それを用いて精製することはできなかった。しかしこれらのLATM2は全て、ビオチン−アガロース(Sigma社製)には結合し、精製することができた。
一方、TM2 P46T−A66R−L97T−V113R及びTM2 A66R−V113Rは、2−イミノビオチン−アガロースにも、ビオチン−アガロースにも結合しなかった。また、TM2 P46T及びTM2 L97Tについてはビオチン−アガロースには結合したが、WT−TM2と同様に、過剰ビオチンによる溶出はできなかった。これはビオチンとの結合が極めて強いためと考えられた。
WT−TM2とTM2 S36Aをビオチン−アガロースで精製し、SDS−PAGEで解析した結果を図1Aに示す。WT−TM2は、図1Aにおいてフロースルー(FT)にそのバンドが見られないことから判るように、ビオチン−アガロースに効率よく吸着される。しかしビオチンとのアフィニティが非常に高いため過剰ビオチンによる溶出は不可能であり、溶出液(Elu)にはWT−TM2は認められなかった。
一方、同じくFTにTM2 S36Aのバンドが見られないことから判るように、TM2 S36Aは同様にビオチン−アガロースに効率よく吸着されるものの、過剰のビオチンを添加することで溶出され、EluにTM2 S36Aのバンドが検出される。このビオチン結合の可逆性はTM2に変異を組み込むことによって、ビオチンとのアフィニティが低下したことによりもたらされたものであると考えられた。他のLATM2、すなわち、TM2 W108K、TM2 W108E、TM2 T78A(図1B)、TM2 D116A(図1C)、TM2 P46T−D116A(図2A)、TM2 P46T−T78A−D116A(図2B)、TM2 T78A−D116(図2C)、TM2 P46T−T78A(図2D)についても、同様の実験結果が得られた。
1−6) TM2 S36A−D116A、TM2 S36A−T78A−D116Aのビオチン−アガロース結合における特異的pH依存性
TM2 S36A−D116AおよびTM2 S36A−T78A−D116Aは、ビオチン−アガロース(Sigma社製)への結合において他のLATM2に見られないpH依存性を示した。
TM2 S36A−D116Aの大腸菌培養液25mLを、1mM IPTGで発現誘導した菌体を、100mMのリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)1.5mLあるいは50mMのCAPS(pH12.0) 1.5mLで懸濁し、超音波破砕を行った。その後遠心分離を行い、遠心後の上清にビオチン−アガロース 400μLを加えたところ、ビオチン−アガロースに全く結合しなかった。しかしながら、pH4.0、pH5.0、ま
たはpH6.0の100mM リン酸カリウム緩衝液でタンパク質を抽出すると、効率よくビオチン−アガロースへ結合した。さらに、反応液のpHをpH7.0あるいはpH12.0に上げるとTM2 S36A−D116Aは担体から解離し、95%の効率で回収できた。すなわち、図3Aにおいて、pH5とpH6のリン酸カリウム緩衝液で結合させ、pH7のリン酸カリウム緩衝液で溶出させた実験系ではTM2 S36A−D116Aのバンドが溶出画分に単一バンドとして認められた。一方pH7のリン酸カリウム緩衝液中では、TM2 S36A−D116Aは、ビオチン−アガロースには結合せず、フロースルー画分に認められた。
TM2 S36A−T78A−D116AについてもpH依存性について実験を行った。pH4.0あるいはpH12.0の緩衝液を用いて懸濁し、超音波破砕し、遠心後の上清にビオチン−アガロースを添加したところ、ビオチン−アガロースへの結合を示した。一方、TM2 S36A−D116Aと同様に、pH7.0ではビオチン−アガロースには全く結合しなかった。この性質を利用して、pH4.0でビオチン−アガロースに結合させ、pH7.0で溶出させることで、高純度のTM2 S36A−T78A−D116Aを得ることが出来た(図3B)。
1−7) LATM2のサブユニット会合状態
LATM2のサブユニット会合状態を分析するために、各種LATM2の分子量をFPLCにより測定した。カラムはSephacryl S−100HR(GEヘルスケア社
製)を用いた。分子量測定マーカーとしてGel Filtration Calibr
ation Kit LMW(GEヘルスケア社製)を用いた。緩衝液は、500mMN
aClを含む50mMリン酸カリウムを用いた。
対照のWT−TM2をインジェクションすることにより、四量体が溶出するピークの位置は44〜47mlであると規定された。さらに分子量測定マーカーをロードした結果より、単量体が溶出するピークの位置は63〜66ml付近であり、二量体が溶出するピークの位置は51〜54ml付近であると規定された。
各種LATM2を分析した結果を表3に示す。
[表3] Sephacryl S−100HRにおけるサブユニットの会合度の分析
ほとんどのLATM2がWT−TM2と同様に四量体にあたるピークを示し、四量体を維持していることが明らかとなった。しかし、TM2 A66Rは一部が単量体となっており(全体の約30%が単量体)、これにさらに46番目のプロリンからスレオニンへの変異を加えたTM2 P46T−A66Rは、そのほとんどが単量体化していた(全体の約75%)。また、TM2 P46T−A66R−L97T、TM2 A66R−L97Tはそれぞれ72.8%、90%が単量体化していた。
一方、TM2 S36A、TM2 T78A,TM2 D116Aは四量体を維持していたが、TM2 S36A−T78A−D116Aは二量体として存在していた。さらにTM2 W108Kは100%四量体で存在するが、TM2 W108Eは四量体と二量体が混在しており、その存在比はそれぞれ33%と67%であった。
1−8)LATM2のプロテアーゼ耐性
ビオチン−アガロースにより精製した10μMのLATM2(TM2 S36A、TM2 D116A、TM2 T78A、TM2 W80K、TM2 T78A−D116A、TM2 P46T−T78A、TM2 P46T−D116A、TM2 S36A−D116A、TM2 S36A−T78A−D116A、TM2 P46T−T78A−D116A)を、5μM ProteinaseKと5mM CaClを含む50mM Tris−HCl(pH8.0)中で30℃、15分間反応させた。この際、一部のサンプルには最終濃度1mMになるようにビオチンを添加した。その後、SDSサンプルバッファーを添加し、95℃で10分間熱処理することで反応を停止させた。得られたサンプルをSDS−PAGEに供与しCBB染色を行った。対照として、10μMの野生型TM2と、16μMのBSAを同条件で反応させた。結果を図4、図5に示す。
その結果、BSAはビオチンの有無に関らずProteinaseK存在下では完全に分解された(図4B)。しかしながら、野生型(WT)TM2(図4A)とTM2−S36A(図4A)、TM2 D116A(図4C)、TM2 T78A(図4C、図5A)、TM2 T78A−D116A(図4C)、TM2 P46T−T78A(図5A)、TM2 P46T−D116A(図5B)、TM2 S36A−T78A−D116A(図5C)、TM2 P46T−T78A−D116A(図5D)、TM2 W80K(図5D)はビオチンの有無に関らずProteinaseKが存在しても殆ど分解されず、モノマー以上の分子量を維持していた。このことからLATM2はタンパク質分解酵素に対して安定であることが示された。
なお、TM2 S36A−D116Aは、ProteinaseKの存在下でおよそ半分程度が分解して低分子量化したものの、モノマーのバンドが明瞭に見られ、当該酵素に対して耐性を有していることが示された。(図5A、C)。
1−9)LATM2の耐熱性
LA−TM2の耐熱性を、SDS−PAGEによって調査した。各タンパク質をSDSサンプルバッファー中で、ビオチンの存在下及び非存在下で所定の温度で20分間熱処理した後、SDS−PAGEに供し、CBB染色を行った。採用した加熱温度はビオチン無しの実験系では80℃、82℃、84℃、86℃、88℃、90℃、92℃、及び94℃であり、ビオチンを添加した実験系では86℃、88℃、90℃、92℃、94℃、96℃、98℃、及び100℃であった。
その結果を図6に示す。図6において左側がビオチン無しの実験系であり、右側がビオチン有りの実験系である。図6に示すようにTM2 T78Aにおいて、ビオチン非存在下でのTr値(単量体と四量体の量比が1:1になる温度)は88℃であり、野生型TM2のTr値(78℃)を10℃も上回った。またビオチン存在下ではサブユニット会合力が増すためにWT−TM2およびTM2 T78Aの四量体構造が安定し耐熱性が向上すると考えられる。実際、図6に示すように、TM2 T78Aのビオチン存在下でのTr値は100℃以上であった。以上のことからTM2 T78Aにおいて、熱安定性が明らかに向上していることが判った。
実施例2 LATM2によるビオチン化タンパク質の精製
上記の様にして調製したLATM2を用いてビオチン化タンパク質を効率よく精製でき
るか否かを、LATM2を固定化した担体を作製することにより確認した。
2−1)LATM2−Sepharoseの作製
LATM2によってビオチン化タンパク質を効率よく精製することが可能であるか否かを調べるために、TM2 S36AをSheparoseに固定化したTM2−S36A−Sepharoseを作製した。
まず、HiTrapNHS−activated HP(GEヘルスケア社製)に詰められた樹脂を取り出し、イソプロパノールに再懸濁した。遠心(3000rpm)によってイソプロパノールを除去し、冷やしておいた1mM HCl 10mLを添加して活性化した。つぎに、遠心(3000rpm)後、上清を除去することで、HClを除去した後、冷やしておいたMilli−Q水10mlを添加した。
遠心(3000rpm)によってMilli−Q水を除去したのち、1.3mg/mLのTM2 S36Aを0.9ml添加し、室温で3時間転倒混和した。遠心(3000rpm)によって上清を除去後、50mMTris/PBS(pH8.0)を5ml添加し、さらに室温で2時間転倒混和した。転倒混和後のSepharoseから遠心(3000rpm)によって上清を除去した後、ブロッキング剤として5mlの0.5%BSA/0.05%Tween20を添加し、さらに30分転倒混和した。最後にPBS(pH7.4)5mLで洗浄し、PBS(pH7.4)に再懸濁した。なお担体へのTM2 S36Aの結合量は、上清に残存するTM2 S36Aの量を測定し、その値を担体に添加前のタンパク質の量から差し引くことで算出した。その結果、添加したタンパク質の86%に相当する1.01mgのTM2 S36Aが担体に結合していた。
同様のビオチン可逆結合性を示す他のLATM2(TM2 P46T−T78A、TM2 P46T−D116A、TM2 D116A)についても担体への結合量を検討したところ、TM2 P46T−T78Aは0.853mg添加し25%の0.21mgが、
TM2 P46T−D116Aは0.761mg添加し93%の0.709mgが、TM2 D116Aは1.16mg添加し87%の1.01mgが結合していた。
2−2)ビオチン化BSAの精製
作製したTM2−S36A−Sepharoseを用いてビオチン化タンパク質の精製を試みた。精製するビオチン化タンパク質としてEZ−Link(登録商標)NHS−ビオチン(リンカー長13.5オングストローム、PIERCE社製)でビオチン化したウシ血清アルブミン(BSA)(以下ビオチン化BSA)を用いた。
本発明の改変型低親和性タマビジンを用いたビオチン化BSAの精製実験を行った。0.1Mリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)で平衡化したTM2−S36A−Sepharose75μLに、1.66μg ビオチン化BSA、ならびに大腸菌TB1菌体抽出液を300μL添加した。菌体抽出液は、大腸菌TB1の菌体を0.1Mリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)で懸濁後、超音波により破砕し遠心により上清を回収したものを用いた。1.5時間転倒混和を行った後、0.1Mリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)で三回洗浄し、5mMのビオチンを含む0.1Mリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)300μLによって溶出した。なお対照として菌体抽出液の代わりに1.66μgのビオチン−BSAを含む0.1Mリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)300μLを用いた。その結果を図7に示す。図7において、左側がビオチン化BSAと菌体抽出液をTM2−S36A−Sepharoseに添加した実験系、右側がビオチン化BSAのみをTM2−S36A−Sepharoseに添加した実験系である。
図7に示すように、精製前(total)のサンプルに存在したビオチン化BSAは、
フロースルー(FT)の画分と洗浄液(W)においては殆ど検出されなかったが、溶出液(Elu)においては検出された。すなわち、TM2−S36A−Sepharoseを用いると、菌体抽出液中の様々なタンパク質から、ビオチン化BSAを特異的に結合し、精製できることが明らかとなった。ビオチン化BSAの回収率は80%、精製度は95%であった。なお、溶出画分にTM2−S36Aと思われるバンドは殆ど検出されなかった。
同様の結果がTM2 D116A、TM2 P46T−T78A、TM2 P46T−D116AをSepharoseに固定化したTM2−D116A−Sepaharose(図8A)、TM2−P46T−T78A−Sepaharose(図8B)、TM2−P46T−D116A−Sepaharose(図8C)、においても得られた。即ち、これらの担体にビオチン化BSAを上記と同様に、効率よく結合させ、効率よく回収することが出来た。図8A、Bにビオチン化BSAを、TM2−D116A−SepaharoseもしくはTM2−P46T−T78A−Sepaharoseに結合させ、60%の回収率、精製度95%でビオチン化BSAを回収する例を記載した。さらに図8Cにはビオチン化BSA、もしくはビオチン化BSAに大腸菌の菌体抽出液を混和したものから、TM2−P46T−D116A−Sepaharoseを用いて80%の回収率、95%の精製度でビオチン化BSAを精製する例を記載した。
また、TM2 S36Aよりもビオチン親和性が低下していると思われるLATM2(TM2 W80K、TM2 T78A−D116A、TM2 P46T−T78A−D116A)をSepharoseに固定化したものについても、大腸菌粗抽出液からのビオチン化タンパク質(BSA)の精製を検討した。その結果、TM2−S36A−Sepharoseに比べ、精製効率が若干低下していたが、ビオチン化タンパク質を精製することができた。その回収率および精製度は、TM2−W80K−Sepharoseが回収率25%、精製度80%、TM2−T78A−D116A−Sepharoseが回収率60%、精製度85%、TM2 P46T−T78A−D116A−Sepharoseが回収率60%、精製度80%であった。
2−3) TM2 S36A−D116Aのビオチンへの結合におけるpH依存性
TM2 S36A−D116Aは、先の1−6)で述べたように、ビオチン−アガロー
ス(Sigma社製)への結合において、特異的なpH依存性を示した。そこでTM2 S36A−D116Aを共有結合でsepharoseに結合させたS36A−D116A−sepharoseを作製し、ビオチン化タンパク質を精製する際のpH依存性を検討した。
上記の2−1)と同様にしてS36A−D116A−sepharoseを作製した。作製したS36A−D116A−sepharoseに、pH5、pH6、あるいはpH7の100mMリン酸カリウム緩衝液中で、ビオチン化BSAを結合させた。500mM
NaClを含むpH4またはpH7のリン酸カリウム緩衝液でよく洗浄した後、pH7のリン酸カリウム緩衝液を加えてビオチン化BSAを溶出した。各フラクション溶液に等量の2xSDS Sample Bufferを添加し、95℃で10分処理した後、SDS−PAGEに供与し、さらに銀染色IIキット(和光純薬社製)を用いてタンパク質を銀染色した。
pH5、pH6、あるいはpH7で結合させた場合の、精製前(total)、フロースルー画分(FT)、洗浄液(W)、溶出液(Elu)の各サンプルにおける、SDS−PAGEの結果を図9に示す。図9に示されるようにpH5とpH6においては、溶出液中にビオチン化BSAのバンドが認められた。従ってS36A−D116A−sepharoseは、pH5あるいはpH6においてはビオチン化タンパク質を結合し、pH7に
おいてこれを解離させるという特徴的なpH依存性を示した。一方pH7では、ビオチン化BSAはS36A−D116A−sepharoseに結合しなかった。
この結果から、TM2 S36A−D116A−sepharoseを用いると、極めて穏和なpH条件下(例えばpH5で結合、pH7で溶出)でビオチン化タンパク質の精製が可能であることが明らかとなった。

Claims (19)

  1. 配列番号2に記載のアミノ酸配列、あるいはこの配列中に1から複数個のアミノ酸変異を有するアミノ酸配列、又はこの配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、ビオチン結合活性を示すタンパク質において、
    以下のグループ:
    1)配列番号2の36番目のセリン残基の水素結合を形成しないアミノ酸残基への置換;
    2)配列番号2の80番目のトリプトファン残基の親水性アミノ酸残基への置換;
    3)配列番号2の116番目のアスパラギン酸残基の水素結合を形成しないアミノ酸残基への置換;
    4)配列番号2の46番目のプロリン残基のスレオニン、セリン若しくはチロシン残基への置換、及び、78番目のスレオニン残基の水素結合を形成しないアミノ酸残基への置換;
    5)配列番号2の46番目のプロリン残基のスレオニン、セリン若しくはチロシン残基への置換、及び、116番目のアスパラギン酸残基の水素結合を形成しないアミノ酸残基への置換:並びに
    6)配列番号2の46番目のプロリン残基のスレオニン、セリン若しくはチロシン残基への置換、78番目のスレオニン残基の水素結合を形成しないアミノ酸残基への置換、及び、116番目のアスパラギン酸残基の水素結合を形成しないアミノ酸残基への置換
    から選択される置換を有することを特徴とする、改変型ビオチン結合タンパク質。
  2. 1−a)配列番号2の36番目のセリン残基がアラニンに置換されている、改変型ビオチン結合タンパク質(TM2 S36A);
    2−a)配列番号2の80番目のトリプトファン残基がリジンに置換されている、改変型ビオチン結合タンパク質(TM2 W80K);
    3−a)配列番号2の116番目のアスパラギン酸残基がアラニンに置換されている、改変型ビオチン結合タンパク質(TM2 D116A);
    4−a)配列番号2の46番目のプロリン残基がスレオニンに置換されており、そして、78番目のスレオニン残基がアラニンに置換されている、改変型ビオチン結合タンパク質(TM2 P46T−T78A);
    5−a)配列番号2の46番目のプロリン残基がスレオニンに置換されており、そして、116番目のアスパラギン酸残基がアラニンに置換されている、改変型ビオチン結合タンパク質(TM2 P46T−D116A);並びに
    6−a)配列番号2の46番目のプロリン残基がスレオニンに置換されており、78番目のスレオニン残基がアラニンに置換されており、そして、116番目のアスパラギン酸残基がアラニンに置換されている、改変型ビオチン結合タンパク質(TM2 P46T−T78A―D116A)
    からなるグループから選択される、請求項1に記載の改変型ビオチン結合タンパク質。
  3. 以下の性質:
    i)ビオチンを用いた精製が可能である;
    ii)配列番号2の記載のアミノ酸配列からなるタンパク質の四量体構造を維持している;
    iii)プロテアーゼに対し耐性を有する;及び
    iv)大腸菌の可溶性画分において高い発現を示す
    の1ないし全部を満たす、請求項1又は2に記載の改変型ビオチン結合タンパク質。
  4. 配列番号2に記載のアミノ酸配列、あるいはこの配列中に1から複数個のアミノ酸変異を有するアミノ酸配列、又はこの配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み
    、ビオチン結合活性を示すタンパク質において、
    6)配列番号2の78番目のスレオニン残基の水素結合を形成しないアミノ酸残基への置換
    を有することを特徴とする改変型ビオチン結合タンパク質。
  5. 6−a)配列番号2の78番目のスレオニン残基がアラニン残基へ置換されている、請求項4に記載の改変型ビオチン結合タンパク質(TM2 T78A)。
  6. 以下の性質:
    i)ビオチンを用いた精製が可能である;
    ii)配列番号2の記載のアミノ酸配列からなるタンパク質の四量体構造を維持している;
    iii)プロテアーゼに対し耐性を有する;及び
    v)配列番号2の記載のアミノ酸配列からなるタンパク質よりも、高い耐熱性を有するの1ないし全部を満たす、請求項4又は5に記載の改変型ビオチン結合タンパク質。
  7. 配列番号2に記載のアミノ酸配列、あるいはこの配列中に1から複数個のアミノ酸変異を有するアミノ酸配列、又はこの配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、ビオチン結合活性を示すタンパク質において、
    以下のグループ:
    7)配列番号2の36番目のセリン残基の水素結合を形成しないアミノ酸残基への置換、及び、116番目のアスパラギン酸残基の水素結合を形成しないアミノ酸残基への置換;並びに
    8)配列番号2の36番目のセリン残基の水素結合を形成しないアミノ酸残基への置換、78番目のスレオニン残基の水素結合を形成しないアミノ酸残基への置換、及び、116番目のアスパラギン酸残基の水素結合を形成しないアミノ酸残基への置換
    から選択される置換を有することを特徴とする、改変型ビオチン結合タンパク質。
  8. 7−a)配列番号2の36番目のセリン残基がアラニンに置換されており、そして、116番目のアスパラギン酸残基がアラニンに置換されている、改変型ビオチン結合タンパク質(TM2 S36A―D116A);並びに
    8−a)配列番号2の36番目のセリン残基がアラニンに置換されており、78番目のスレオニン残基がアラニンに置換されており、そして、116番目のアスパラギン酸残基がアラニンに置換されている、改変型ビオチン結合タンパク質(TM2 S36A−T78A―D116A)
    からなるグループから選択される、請求項7に記載の改変型ビオチン結合タンパク質。
  9. 以下の性質:
    i)ビオチンを用いた精製が可能である;
    iii)プロテアーゼに対し耐性を有する;及び
    vi)弱酸性条件下でビオチンと結合し、そして、中性条件下でビオチンと結合しないの1ないし全部を満たす、請求項7又は8に記載の改変型ビオチン結合タンパク質。
  10. 配列番号2に記載のアミノ酸配列、あるいはこの配列中に1から複数個のアミノ酸変異を有するアミノ酸配列、又はこの配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、ビオチン結合活性を示すタンパク質において、
    9)配列番号2の78番目のスレオニン残基の水素結合を形成しないアミノ酸残基への置換、及び、116番目のアスパラギン酸残基の水素結合を形成しないアミノ酸残基への置換
    を有することを特徴とする、改変型ビオチン結合タンパク質。
  11. 9−a)配列番号2の78番目のスレオニン残基がアラニンに置換されており、そして、116番目のアスパラギン酸残基がアラニンに置換されている、請求項10に記載の改変型ビオチン結合タンパク質(TM2 T78A―D116A)。
  12. 以下の性質:
    i)ビオチンを用いた精製が可能である;
    ii)配列番号2の記載のアミノ酸配列からなるタンパク質の四量体構造を維持している;
    iii)プロテアーゼに対し耐性を有する;
    iv)大腸菌の可溶性画分において高い発現を示す;及び
    vii)イミノビオチンで精製できない
    の1ないし全部を満たす、請求項10又は11のいずれか1項に記載の改変型ビオチン結合タンパク質。
  13. 配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質よりも、低いビオチン結合性を示す、請求項1ないし12のいずれか1項に記載の改変型ビオチン結合タンパク質。
  14. 以下のa)−l)
    a)配列番号2の14番目のアスパラギン残基は改変されていない、あるいはグルタミン又はアスパラギン酸に置換されている;
    b)配列番号2の18番目のセリン残基は改変されていない、あるいはスレオニン又はチロシンに置換されている;
    c)配列番号2の34番目のチロシン残基は改変されていない、あるいはセリン又はスレオニンに置換されている;
    d)配列番号2の36番目のセリン残基は改変されていない、あるいはスレオニン又はチロシンに置換されている;
    e)配列番号2の40番目のアスパラギン酸残基は改変されていない、あるいはアスパラギン以外の残基に置換されている;
    f)配列番号2の69番目のトリプトファン残基は改変されていない;
    g)配列番号2の76番目のセリン残基は改変されていない、あるいはスレオニン又はチロシンに置換されている;
    h)配列番号2の78番目のスレオニン残基は改変されていない、あるいはセリン又はチロシンに置換されている;
    i)配列番号2の80番目のトリプトファン残基は改変されていない;
    j)配列番号2の96番目のトリプトファン残基は改変されていない;
    k)配列番号2の108番目のトリプトファン残基は改変されていない;
    l)配列番号2の116番目のアスパラギン酸残基は改変されていない、あるいはグルタミン酸又はアスパラギンに置換されている
    m)配列番号2の46番目のプロリン残基は改変されていない;
    n)配列番号2の66番目のアラニン残基は改変されていない;
    o)配列番号2の97番目のロイシン残基は改変されていないか、イソロイシンに改変されている;及び
    p)配列番号2の113番目のバリン残基は改変されていない
    の1ないし全ての条件を満たす、ただし、このうち、1)ないし9)で特定したアミノ酸残基は、1)ないし9)の各々で特定したように置換されている、
    請求項1ないし13のいずれか1項に記載の改変型ビオチン結合タンパク質。
  15. 配列番号2に記載のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項1ないし14のいずれか1項に記載の改変型ビオチン結合タンパク質。
  16. 請求項1ないし15のいずれか1項に記載のタンパク質を固定化した担体。
  17. 請求項1ないし15のいずれか1項に記載のタンパク質をコードする核酸。
  18. 請求項17に記載の核酸を含むベクター。
  19. 請求項7の改変型ビオチン結合タンパク質を含む、生物学的試料中の物質を検出する系における非特異結合抑制剤。
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