JP2016018122A - 光スキャナ及び画像形成装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】高温高湿環境下での耐久性に優れた光スキャナ及び画像形成装置を提供すること。
【解決手段】本発明のMEMS光スキャナ10は、ミラー12と、ミラー12を支持するトーションバー13a〜13dと、を備え、トーションバー13a〜13d及びミラー12の少なくとも一部は、Siを有する基材と、基材の表面に形成された第1下地層と、第1下地層に重ねて形成された第2下地層と、第2下地層に重ねて形成された表面層と、を有し、表面層は、第1下地層及び第2下地層に比べて、透湿性が小さく、弾性率が大きい。本発明の画像形成装置は、MEMS光スキャナ10と、MEMS光スキャナ10のミラー12に光を入射させる光源と、画像データに応じてMEMS光スキャナ10及び光源を制御する制御部と、を備える。
【選択図】図1
【解決手段】本発明のMEMS光スキャナ10は、ミラー12と、ミラー12を支持するトーションバー13a〜13dと、を備え、トーションバー13a〜13d及びミラー12の少なくとも一部は、Siを有する基材と、基材の表面に形成された第1下地層と、第1下地層に重ねて形成された第2下地層と、第2下地層に重ねて形成された表面層と、を有し、表面層は、第1下地層及び第2下地層に比べて、透湿性が小さく、弾性率が大きい。本発明の画像形成装置は、MEMS光スキャナ10と、MEMS光スキャナ10のミラー12に光を入射させる光源と、画像データに応じてMEMS光スキャナ10及び光源を制御する制御部と、を備える。
【選択図】図1
Description
本発明は、光スキャナ及び画像形成装置に関する。
MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術を用いた小型の光スキャナ(マイクロスキャナ)が種々開発されている。光スキャナは、光を2次元的にスキャンすることでスクリーン上に描画を行う画像形成装置に用いられる。光スキャナは、ミラーと、ミラー部を支持するトーションバー(ビーム)と、を有する。光スキャナは、トーションバーによりミラー部を揺動させ、レーザ光を揺動するミラー部に照射して反射光をスクリーン上にスキャンすることにより画像を描画する。
MEMS光スキャナはSiウェハを用いて作製されることが多い。ミラーに回転運動等の駆動をさせると、ねじれや反りといった変形運動する部位付近、例えば、ミラーとトーションバーとの接続部には応力が発生する。Si単結晶は、金属のような疲労現象は起こりにくい材料なので、多数回振動するデバイスには適している。しかしながら、数十kHzで振動し、数百時間という長時間破壊限界付近での稼働では、応力の集中する付近での僅かな欠陥から破断に繋がることもあった。そのため、トーションバーの芯材として破損しにくい金属材料(例えばTi)を用いて、その周りの被覆材として機械的性質が異なる材料(例えばSi)を用いたりすることで、耐久性を向上させる技術が提案されている(特許文献1、2)。
特許文献1に記載の光スキャナは、ねじれ等の機械的ストレスに対しての耐久性を向上させるものであって、高温高湿環境下での耐久性には必ずしも十分ではなかった。また、Si以外の金属をトーションバーとして用いるので、RIE(Reactive Ion Etching:反応性イオンエッチング)法を用いた加工ができない。そのため、加工精度は不十分であり、加工工程も複雑になるので、コスト及び加工時間ともに増加を余儀なくされる。
Siは比較的安定性の高い材料であり、疲労による劣化が少ないので、破壊限界からある程度余裕を持った範囲内でのねじれ、反りを伴う運動では十分な耐久性を得られる。しかし一方では、高温高湿下での酸化作用による劣化が加速され、最終的には破壊に至り、デバイスに要求される稼働耐久時間を満たすことができなかった。
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、高温高湿環境下での耐久性に優れた光スキャナ及び画像形成装置を提供することを目的とする。
本発明の光スキャナは、
ミラー部と、
前記ミラー部を支持するトーションバーと、を備え、
前記トーションバー及び前記ミラー部の少なくとも一部は、
Siを有する基材と、
前記基材の表面に形成された第1下地層と、
前記第1下地層に重ねて形成された第2下地層と、
前記第2下地層に重ねて形成された表面層と、を有し、
前記表面層は、前記第1下地層及び前記第2下地層に比べて、透湿性が小さく、弾性率が大きい。
ミラー部と、
前記ミラー部を支持するトーションバーと、を備え、
前記トーションバー及び前記ミラー部の少なくとも一部は、
Siを有する基材と、
前記基材の表面に形成された第1下地層と、
前記第1下地層に重ねて形成された第2下地層と、
前記第2下地層に重ねて形成された表面層と、を有し、
前記表面層は、前記第1下地層及び前記第2下地層に比べて、透湿性が小さく、弾性率が大きい。
本発明の画像形成装置は、
上述の光スキャナと、
前記光スキャナの前記ミラー部に光を入射させる光源と、
画像データに応じて前記光スキャナ及び前記光源を制御する制御部と、を備える。
上述の光スキャナと、
前記光スキャナの前記ミラー部に光を入射させる光源と、
画像データに応じて前記光スキャナ及び前記光源を制御する制御部と、を備える。
本発明によれば、高温高湿環境下での耐久性に優れた光スキャナ及び画像形成装置を提供できる。
[実施の形態1]
以下、図1〜図4を参照しつつ、本発明の実施の形態1について説明する。
以下、図1〜図4を参照しつつ、本発明の実施の形態1について説明する。
図1は、本実施の形態に係るヘッドアップディスプレイ100を示す図である。図1は、MEMS光スキャナ10とその駆動回路(制御部)を示す。ここでMEMS光スキャナ10は非線形動作をする。ヘッドアップディスプレイ100は、MEMS光スキャナ10と、自励発振回路20と、動作測定部30と、切替部40と、ドットクロック発生部41と、を有する。MEMS光スキャナ10の非線形動作については後述する。
図2は、MEMS光スキャナ10の詳細な構成を示す平面図である。図2は、MEMS光スキャナ10をZ軸方向プラス側から見た、XY平面を示している。MEMS光スキャナ10はシリコン材料を半導体加工装置で加工したものであり、例えばSOI基板で作られる。図2に示すように、MEMS光スキャナ10は、フレーム11と、ミラー12と、トーションバー13a〜13dと、アーム14a〜14dと、を有する。フレーム11、ミラー12、トーションバー13a〜13d、及びアーム14a〜14dは、厚さ数10μmの薄いシリコン層、例えば厚さ50μmのシリコン層で形成されている。
フレーム11は、MEMS光スキャナ10を構成する部品全体を支えるフレームである。フレーム11は、例えば400μmの厚さのベース(不図示)に埋め込み酸化膜(不図示)を介して固定されており、変形が生じないようになっている。ミラー12は、光を反射する反射鏡であり、揺動軸に対して揺動動作を行う。揺動しているミラー12にレーザ光(不図示)を当てることにより、レーザ光がスキャンされる。
ミラー12は、アーム14a〜14dとトーションバー13a〜13dを用いてフレーム11と接続されている。トーションバー13a〜13dは揺動軸から所定の距離はなれたところでミラー12に接続しており、揺動軸AYに対して対称に配置されている。アーム14a〜14dは揺動軸AYに対して垂直方向に延びており、トーションバー13a〜13dは揺動軸AYに対して平行に延びている。
アーム14a〜14dには、PZT(ジルコン酸チタン酸鉛)やZnOで作られた圧電膜15a〜15dが形成されていている。圧電膜15a〜15dの上下には金属の電極が形成されていて、圧電膜15a〜15dに電界をかけたり、圧電膜15a〜15dに生じた電界を検出したりできる。例えば、圧電膜15a,15bの電極に交流電圧を入力信号として入力すると、圧電膜15a,15bが伸縮し、その伸縮がアーム14a,14bに上下に反る運動を発生させる。そして、アーム14a,14bの運動がトーションバー13a,13bからミラー12に伝わり、ミラー12が揺動する。ミラー12の動きはトーションバー13c,13dを通してアーム14c,14dを上下に反らせ、圧電膜15c,15dに電界が発生し、圧電膜15c,15dの電極に電圧信号が発生する。この電圧信号を検出信号と呼ぶことにする。
なお、MEMS光スキャナ10は、ミラー12が揺動動作をすればよく、上述の構成に限られるものではない。例えば、トーションバーは、4個ではなく2個であってもよく、また揺動軸AYから離れた位置にあっても揺動軸AY上に配置されてもよい。また、MEMS光スキャナ10の駆動方法としては、圧電膜15a〜15dではなくコイルや磁石を使った電磁駆動、又はベースを機械的に振動させる方法、静電駆動なども含まれる。また、本実施形態においては、揺動軸AYに対して揺動動作を行う構成として説明したが、ミラー12が揺動軸AYおよび揺動軸AXに対して揺動動作を行う構成であってもよい。
また、圧電膜15a〜15dを使う場合も、圧電膜15a,15bの2つを使う方法のほか、圧電膜15a〜15dのうちひとつだけ使う方法、又は圧電膜15a〜15dのうち3つもしくは4つを使う方法を用いてもよい。この場合、圧電膜15a,15bと、圧電膜15c,15dとは交流信号の位相を反転させることが好ましい。また、圧電膜により検出する構成だけではなく、ピエゾ抵抗素子をトーションバー13a〜13dのいずれかに組み込む構成、又はミラー12にレーザ光を照射しその反射角度から検出する構成を用いてもよい。
次に、図1を用いて、ヘッドアップディスプレイ100の構成を詳細に説明する。MEMS光スキャナ10の駆動は、動作測定部30による動作測定と、自励発振回路20による自励発振の2つの方法を切り替えて行う。切り替えは切替部40により行う。
図1に示すように、動作測定部30は、位相比較器31と、動作点決定部32と、振れ角検出器33と、発振器34と、を有する。動作測定部30は、発振器34により周波数を振って、MEMS光スキャナ10の特性を確認し、動作点を決定するものである。
動作点決定部32は、発振器34を通してMEMS光スキャナ10を駆動する。振れ角検出器33は、圧電膜15c,15dの検出信号のうち、検出信号の振幅の大きさを数値として取り出すものである。必要であれば、振幅の大きさを角度に変換して出力する。この場合、検出信号の大きさと振れ角の対応関係をあらかじめ知っておく必要がある。検出信号の大きさと振れ角の対応関係が一度分かれば、いちいち振れ角に変換せずに、振幅の大きさだけで、処理してもよい。
位相比較器31は、圧電膜15a,15bに入力される駆動信号の位相と圧電膜15c,15dで検出される検出信号の位相とを比較する。位相比較器31は、例えば、駆動信号及び検出信号を方形波に変形し、既知のPLL回路で比較するなどの方法を使うことができる。位相比較器31と振れ角検出器33の結果から、動作点決定部32が位相と信号の大きさを決定する。動作点決定部32は、決定された位相と信号の大きさを自励発振回路20に送る。
自励発振回路20は、アンプ21,25と、バンドパスフィルタ22と、位相調整器23と、AGC(Auto Gain Control)24と、を有する。自励発振回路20は、動作測定部30で決定された位相と信号の大きさの値を使う。圧電膜15c,15dの検出信号をアンプ21で増幅し、それをバンドパスフィルタ22に通す。ここで、バンドパスフィルタ22は、使用する共振周波数の上下で別の共振モードがある場合、その共振モードで共振するのを防ぐために用いられる。
バンドパスフィルタ22のあとに位相調整器23がある。線形で共振している場合、圧電膜15a,15bにかけられる入力側の駆動信号と圧電膜15c,15dの検出信号との位相差を−90度の倍数にするように位相調整器23を設定する。非線形動作の場合は、動作測定部30で決定された動作点における位相差を保つように設定される。
位相調整器23の信号はAGC(Auto Gain Control)24に送られる。AGC24は、信号の大きさが一定になるように調整する。ここでAGC24による信号の大きさの調整は、動作測定部30で決定された信号の大きさを実現するように行う。AGC24により調整された信号はアンプ25に送られた後、増幅されて駆動信号になる。
ドットクロック発生部41は映像信号と同期を取るためのクロックを発生させる回路であり、MEMS光スキャナ10をプロジェクタなどに使う場合に必要になる回路である。クロックは、駆動回路の交流信号を画素数の分だけPLL回路で分割して作られる。
次に、MEMS光スキャナ10の動作について説明する。位相比較器31は、入力信号と検出信号の位相差を見ている。MEMS光スキャナ10は、ミラー12が大きく振れる場合には非線形動作をし、入力信号の周波数を上げていく場合と下げていく場合で異なる振れ角になる。ここでは、周波数を上げていく場合と下げていく場合の振れ角がほぼ同じになる周波数領域を線形領域といい、周波数を上げていく場合と下げていく場合で異なった振れ角の値をとる周波数領域を非線形領域ということにする。
なお、周波数を上げていった場合のミラー12の振れ角が大きくなる場合や、逆に小さくなる場合もある。ここでは周波数を上げていったときの振れ角が大きくなる場合について述べる。
入力信号の周波数が低い場合、ミラー12の動作は線形であり、周波数を上げていくと共振周波数に近づくにつれて、ミラー12の振れ角は大きくなっていく。それに伴い、入力信号の位相と出力信号の位相も徐々にずれていく。入力信号の周波数をさらに上げると、ミラー12の振れ角のピークに達する。しかしながら、振れ角のピークの状態は非常に不安定であり、何らかのショック、例えば電気的な又は機械的なノイズで簡単に振れ角が小さくなってしまい、高周波側の線形領域になってしまう。また、形状が非対称にできた場合などもピークが不安定になる。
MEMS光スキャナ10の位相特性を見ると、振れ角のピーク付近でも、線形解析で予想されるピークの位相差(例えば、−90度。検出方法によっては−180度)に達することなく、振れ角が小さくなってしまう。逆に高周波側から周波数を下げていくと振れ角が徐々に上がり、あるところで小さなピークを迎えて線形領域になる。MEMS光スキャナ10は、このようなヒステリシス特性を持っていてもよい。
ここで、動作点をどこに設定するかを考える。振れ角のピーク付近は不安定であり、持続的な動作を見込めないので、ピーク付近よりも安定な少し低い周波数を動作点に設定する。ここで重要なのは周波数そのものの設定ではなく、動作位相を設定することである。例えば温度が上がると、共振周波数は低くなる。ここで動作周波数を固定にしておくと動作点の周波数がピークを越えてしまい、線形領域に入ってMEMS光スキャナ10の動作が止まってしまう。一方、動作位相を固定にしておくと、共振周波数の変動に追随して周波数がずれていき、常に安定して動作し続ける。
次に、MEMS光スキャナ10の製法について説明する。MEMS光スキャナ10は、Siウェハをエッチング加工することにより作製される。MEMSデバイスをSiウェハから作製できるようになったのは、RIE技術の一種であるボッシュプロセスとよばれる深堀可能なRIE法が用いられるようになったことが大きい。ボッシュプロセスは、エッチングガスとしてSF6、C4F8を使用して、エッチング側壁面を保護しながら深さ方向にエッチングする。このため、選択比が高く数百ミクロンオーダーの深さのエッチングが精度良く可能になる。この際、側壁は保護されながらエッチングされるので、側壁等の表面状態は平滑な荒れの少ない状態(通常の条件でRMS=1〜2μm程度になる)で形成される。
ボッシュプロセスで形成された構造体において、エッチング終了時の底面とエッチングにより形成された側壁との交点には略直角をなす鋭角な面が形成され、レジストのパターンにほぼ忠実な形状が形成される。その加工精度はサブμmオーダーになり、精巧なデバイスを形成できる。そのため、光学デバイスなどの、より精度の要求されるMEMSは、RIEを用いてSiを加工したものが主流になっている。このようなドライエッチングプロセスによって作製されたMEMS光スキャナ10は、トーションバー13a〜13dを備えている。
図3は、MEMS光スキャナ10のミラー12及びトーションバー13a〜13dを示す斜視図である。図3中においてZ軸方向は、MEMS光スキャナ10の厚さ方向になっている。図4は、トーションバー13dの断面の形状を示す断面図である。トーションバー13a〜13cの断面の形状は、トーションバー13dの断面形状と同様である。
図4に示すように、トーションバー13a〜13dの断面の形状は、正方形になっている。トーションバー13a〜13dの断面は、基材50と、第1下地層51と、第2下地層52と、表面層53と、からなる。トーションバー13a〜13dの断面の形状は、正方形に限定されるものではなく、長方形であってもよい。このトーションバー13a〜13dの一方の先端には、ミラー12がトーションバー13a〜13dと連続して一体的に形成されている。
MEMS光スキャナ10は、アーム14a〜14dによりトーションバー13a〜13dを上下方向(Z軸方向)に振動させて、揺動軸を中心にしてミラー12を揺動運動させることにより、情報信号の変調された光を走査して画像を表示する。アーム14a〜14dやトーションバー13a〜13dの振動運動により、運動を支える支点付近には応力が発生する。特にミラー12とトーションバー13a〜13dとの境界部付近は、変形量も大きく非常に高い応力がかかる部位になる。この応力がSi結晶の破壊限界応力を超えると、トーションバー13a〜13dの破断等の破壊が発生する。
基材50は、結晶Siにより形成されている。従来技術の一例では、Siの代わりに、より降伏力の強い材料と破損しにくい材料を層状に組み合わせることにより、振動運動によって生じるねじれや反りに対する耐久性を向上させていた。それに対して、MEMS光スキャナ10に用いる基材50(芯材)は、加工精度の高さからも結晶Siを用いることが最適である。結晶Siは破壊限界応力以内での運動であれば、金属のような繰り返し反り運動によっても疲労破壊は発生しにくい。しかしながら、結晶Siは、高温多湿下では劣化促進されやすい。これは、水分子によるSiへの酸化作用により応力腐食が引き起こされ、最終的にはSiの破断に至らせるものである。この現象が引き起こされると、MEMS光スキャナとして求められる稼働耐久時間には遠く及ばず、数時間から数十時間で破断にいたることが多い。
MEMS光スキャナ10の稼働耐久性を高めるには、基材50のSi表面への水分子の攻撃を防御する必要がある。しかしながら、Si基材50表面を薄膜の単層で被覆するのでは、十分に水分を防御できず、耐久性を向上させるのは困難である。例えば、水分を殆ど浸透させない低透湿性薄膜の単層でミラー12及びトーションバー13a〜13dを被覆することが考えられる。しかし、このような低透湿性薄膜の多くは、延伸性が低いため、応力に対して脆く、クラックなどが発生しやすい。トーションバー13a〜13dは振動による運動変位が大きく、応力も高くなる部位である。従って、低透湿性薄膜で被覆しても、稼働後早期にクラックが発生し、Si表面への水分の侵入を許してしまう。
また一方で、延伸性が高く、大きな運動変位に追従して壊れにくい材料を被覆膜として用いた場合、クラック等による水分の浸漬は発生しにくくなるが、多くの材料は結晶構造等に起因する理由から透湿性が大きく、高温高湿下では容易に多量の水分の浸入を許してしまう。そうして、この場合も同じように結果的には、トーションバー13a〜13dの破断を招くことになる。
本実施の形態のMEMS光スキャナ10は、上述した課題に対して解決する手段を提供するものである。即ち、基材50上に下地層を設け、下地層には、基材50よりも延伸性の大きい、弾性率の小さい材料を用いる。図4では、下地層として第1下地層51及び第2下地層52が形成されている。図4に示すように、基材50の上に重ねて第1下地層51が形成されており、第1下地層51の上に重ねて第2下地層52が形成されている。更にその上層には、第2下地層52に重ねて表面層53が形成されている。表面層53は、水分の浸漬を殆ど防御できる透湿度の低い材料を用いて第2下地層52を覆うものである。このような構成により、MEMS光スキャナ10は、高温多湿の環境下での稼動耐久性を飛躍的に向上させることができるようになる。
第1下地層51は、基材50の外周表面を被覆するように、純Ti金属又はTiを主成分とする合金材料を積層することにより形成されている。ところで、基材50である結晶Si材料には、金属と接することによりアロイスパイクという現象が引き起こされることがある。この現象は、結晶Siと接する界面層材料と間に原子の拡散が発生し、互いの層が混合してしまうものである。この現象が発生すると基材50の結晶Siが劣化するばかりでなく、接している界面層も劣化してしまう。基材50と接する下地層に基材50よりも弾性率が小さい金属等の材料を用い、その上層の表面層53に緻密な酸化物や窒化物から成る層を形成するだけでは、MEMS光スキャナ10は十分な耐久性を得ることが難しい。
即ち、下地層が基材50の結晶Siと接して形成されていることにより、長時間の接触と高温環境下でアロイスパイク現象が引き起こされてしまうことがある。この問題を解決するために、基材50と第2下地層52との間に、第1下地層51を設けるということに至った。第1下地層51は、バリア層として用いられる。第1下地層51には、基材50の結晶Siとの間で原子の拡散現象が発生しにくい特性を有することが必要である。そのような特性を有し、かつ、薄膜形成も比較的容易なTi、Tiを主成分とする合金材料を第1下地層51として用いることが好ましい。TiやTi合金の延伸性を示す指標となるヤング率(弾性率)は107Gpa程度である。Tiの透湿度は0.05〜0.1g/m2・24h程度である。
第2下地層52は、第1下地層51の外周表面を被覆するように形成されている。第2下地層52は、延伸性が高く、運動に対して追従性が高くクラック等が発生しない特性を有するとともに、ある程度高い透湿防御性を有する材料により形成されるのが好ましい。
第2下地層52に適しているのは、Al,Au,Ag、Cu等の金属である。中でも、純Al(純粋アルミ)やAlを主成分とする合金を用いるのが好ましい。これらは、水分に対する耐酸化性、光スキャナとして使用する場合の光学特性から、最も適している。また、Alの透湿度は0.5g/m2・24h程度であり、第2下地層52はAlと同程度の透湿度を有する材料であるのが良い。また、AlやAl合金の延伸性を示す指標となるヤング率(弾性率)は70Gpa程度であり、第2下地層52の延伸性はAlと同程度以上であることが好ましい。
第1下地層51及び第2下地層52は、トーションバー13a〜13dの運動に伴う大きな変位に追従してクラック等の欠陥を発生しないような延伸性を有する材料により形成されている。そのため、クラックなどの欠陥部が生じた場合に発生する多量の水分の浸漬を抑制することができる。しかし、延伸性の高い材料は、多くの場合、透湿度はある程度の数値で留まっており、幾分かの水分を膜面全体から透過させてしまうので、完全な防湿効果を得るのは難しい。
そこで、第2下地層52の表面を、第2下地層52よりも透湿度の非常に低く、防湿性の非常に高い材料を用いた表面層53で被覆する。この表面層53は、緻密な分子構造のため水分をほとんど透過させない。しかし一方では、透湿度の低い材料は、その分子構造故に弾性率の大きい材料、即ち脆い、折れやすい材料であることが殆どである。そのため、トーションバー13a〜13dの運動部位に表面層53を単独で被覆してもクラック等の欠陥が発生しやすい。表面層53を単独で用いても、クラック発生部分から水分の浸漬を許してしまうので、Siを保護する性能は高くならない。
しかし、表面層53に生じるクラック等は微細な欠陥である。このような微細な欠陥から浸入する水分はそれほど多量にはならない。ある程度の水分であれば、透湿度が小さくない下地層でも、Si基材50への水分の浸漬を防御することができる。第1下地層51及び第2下地層52は延伸性が高いので、クラックは殆ど生じない。したがって、表面層53の何処でクラックが生じても、その下の第1下地層51及び第2下地層52には欠陥の発生が少なく、それより下層に水分の浸入を許すことは少ない。
Si基材50を保護するのに要求される被覆層の特性は、単層では実現することが難しい。本実施形態に係るMEMS光スキャナ10は、互いに特性の異なる第1下地層51及び第2下地層52を用いることにより、互いに補完し合い、これまでにない保護効果を得ることができる。
第2下地層52は、トーションバー13a〜13dの運動に伴う大きな変位に追従してクラック等の欠陥を発生しないような弾性率の高い材料により形成されている。ミラー12の振動運動を妨害しないためにも、第2下地層52は水分防御特性が低下しない範囲で可能な限り薄い方が良い。そのため、第2下地層52は、薄膜として均一に成膜できる材料を用いるのがよい。均一かつ緻密な膜を得るためにも、成膜方法としては、スパッタリング、CVD、蒸着等が適しているが、MEMS光スキャナ10への成膜に最適なのはスパッタリング法である。
表面層53としては、最大限に透湿防御効果の高い材料がよい。薄膜状で透湿度が小さい材料は、例えば、シリコンの窒化物又は酸化物である。SiNの透湿度は0.01g/m2・24h以下と、殆ど水分を透過させないので最適である。しかし、一方でSiNはヤング率(弾性率)が294GPaと硬く脆い材料であり、クラック等を発生しやすい欠点がある。このため、振動運動する部位においては、SiN単層で水分の浸入を防御するのは困難である。
第1下地層51、第2下地層52、及び表面層53のそれぞれに異なる特性を有する材料を用い、上述したように第1下地層51、第2下地層52、そして表面層53の積層順で成膜することにより、高温高湿環境下での耐久性に優れたMEMS光スキャナ10を提供することができる。
ヘッドアップディスプレイ100は、MEMS光スキャナ10と、レーザ光源(不図示)と、マイクロレンズアレイからなるスクリーン(不図示)を有する。ヘッドアップディスプレイ100においては、スキャナのミラー部分に変調したレーザ光を照射して、ミラーを駆動・振動(スキャン)させることによりスクリーン上に画像を表示する仕組みになっている。このようなシステムにおいて高品位な画像を得るためには、ミラー12で反射されたレーザ光のスポット形状を歪みのないものにする必要がある。
歪みのないスポット形状を得るためには、ミラー12の平坦度が非常に重要である。レーザ光源から出射されたレーザ光がミラー12に照射され、ミラー12の表面で反射してスクリーン上に結像する。ミラー12の表面での反りや凹凸がレーザ光の波面の位相を乱し、その位相の乱れが一定値以上になると、画像劣化が感知されるようになる。
レーザ光の波長をλとすると、レーザ光の位相差が1/8λ以上になると画像劣化が感知される。従って、ミラー表面の反りや凹凸欠陥によるP−V(Peak to Valley)値が1/8λ以下になることが好ましい。ヘッドアップディスプレイ100に用いられるレーザ光源の波長は、最短の青色レーザ光で400〜450nm程度なので、P−V値は50〜60nm程度以下にすることが好ましい。
ヘッドアップディスプレイ100は、高周波でミラー12を振動させることにより光をスキャンして画像を表示する。このため、ミラー12、トーションバー13a〜13d、及びアーム14a〜14dを軽量化することが好ましい。そのためには、ミラー12、トーションバー13a〜13d、及びアーム14a〜14dの厚さをできるだけ薄くすることが好ましい。
ミラー12の振動周波数は、要求される再生画質によって最適値が変わる。MEMS光スキャナ10を、高画質映像を得られる振動周波数で設計するには、ミラー12、トーションバー13a〜13d、及びアーム14a〜14dの厚さは、約30〜100μmであることが好ましく、より好ましくは50μm程度が良い。
ミラー12、トーションバー13a〜13d、及びアーム14a〜14dのような薄い構造物に薄膜を積層成膜すると膜応力により変形が生じる。構造物の変形量は、膜応力の大きさに比例する。MEMS光スキャナ10では、P−V値で1/8λ以下に制御するためには、3層構造の保護層を合わせた合計の膜応力が100MPa以下であることが好ましい。
また、これまでの基材50の表面を被覆して耐久性を向上させる技術において、被覆層の応力は考慮されていなかった。MEMS光スキャナ10では、Siウェハにエッチング等を施すことにより、振動させる部位の厚さを薄くしている。この薄い部位に薄膜を形成した場合、薄膜の応力により変形、例えば反りが生じる。
ヘッドアップディスプレイ100では、画像信号はレーザ光を用いて再生されており、MEMS光スキャナ10のミラー12でレーザ光が反射及びスキャンされる。レーザ光を反射するミラー12が膜応力により変形していると、スクリーン上の結像部におけるレーザスポット形状が変形することになる。このため、ヘッドアップディスプレイ100の画像の品質が低下してしまうことがあった。
[実施例1]
本実施の形態に係るMEMS光スキャナ10の実施例1を示す。MEMS光スキャナ10の実施例1を下記の方法により製造した。
本実施の形態に係るMEMS光スキャナ10の実施例1を示す。MEMS光スキャナ10の実施例1を下記の方法により製造した。
まず、基材50に用いられるSOI(Silicon on Insulator)ウェハを準備した。SOIウェハは、基材である裏面側シリコン層の上に埋め込み酸化膜層が配置され、さらに埋め込み酸化膜層の上に表面側シリコン層が配置されている。SOIウェハの表面側シリコン層は、ミラー12やトーションバー13a〜13d、アーム14a〜14dの膜厚になっていることが好ましい。埋め込み酸化膜層の厚みは、SOIウェハ裏面からのウェットエッチングまたはドライエッチングのストッパ層となるので、1μm程度あることが好ましい。
SOIウェハ下地の裏面側シリコン層の膜厚は、一般的には500μm程度である。シリコン層の膜厚は、フレーム11としてMEMS光スキャナ10表面のミラー12やトーションバー13a〜13d、アーム14a〜14dなどの構造物を支えるのに必要な厚さであればよい。このSOIウェハの表裏両面に酸化膜層を形成する。酸化膜の形成方法としては熱酸化法やCVD(Chemical vapor deposition)法又は塗布型の有機絶縁膜を利用することができる。
次に、SOIウェハの表面側に下部電極、配向膜、圧電膜15a〜15d、上層電極を形成した。まず、SOIウェハの表面側絶縁膜上に下部電極を形成した。そして、下部電極を覆うように配向膜を形成した。配向膜は、圧電膜15a〜15dをシリコン面に垂直な方向に変位するように優先的に配向するものであり、例えばPtが用いられる。下部電極には、配向膜の配向性を助長する電極材料、例えばTiが用いられる。一般的な膜厚としては、Ti下部電極の膜厚が0.02μm、Pt配向膜の膜厚が0.1μm程度である。
下層電極、配向膜に続いて圧電膜15a〜15dを形成した。所定の駆動信号がこの圧電膜15a〜15dに印加されるとき、圧電膜15a〜15dの結晶格子は、表面側(Z軸方向プラス側)と裏面側(Z軸方向マイナス側)とで異なる方向に歪む。この歪みにより生じる応力によって、圧電膜15a〜15dが表面側に撓む。例えば、表面側ではX軸に沿って縮む方向に歪み、裏面側ではX軸に沿って伸びる方向に歪む。このとき生じる応力によって、圧電膜15a〜15dが上方(Z軸プラス方向)に撓む。
圧電膜15a〜15dの材料としては、高い圧電特性を示すジルコン酸チタン酸鉛(PZT)系やLaNiO3等のペロブスカイト構造を有する複合酸化物を用いることができる。PZTを用いる場合、圧電膜15a〜15dの膜厚は一般的に3μm程度にするのが好ましい。
さらに圧電膜15a〜15d上に上層電極を形成した。上層電極の材料としては密着層としてTi、電極層としてPt、Ir、Au、Ag、Cu、Alなどを用いることができる。密着層にTi、電極層にAuを用いた場合、例えば、Tiの密着層の膜厚は0.02μmであり、Auの電極層の膜厚は0.3μmである。
次に、SOIウェハに電極層をパターンエッチングした。そして、アーム14a〜14dの形成される領域に、駆動用電極層と揺動検出用電極層を形成した。エッチング方法としては、イオンミリング法などが用いられる。
次に、SOIウェハの表面側シリコン層を貫通エッチングした。貫通エッチングにより、トーションバー13a〜13dやアーム14a〜14dの側壁を形成した。貫通エッチングは、ドライエッチングにより行い、ボッシュプロセスを用いたエッチングを用いることが好ましい。SOIウェハの表面側では、中間の埋め込み酸化膜層でエッチングが停止する。
次に、SOIウェハ裏面側にフォトレジストパターンを形成した。フォトレジストパターンを形成した後、裏面側酸化膜をエッチングし、酸化膜パターンを形成した。その後、フォトレジストをマスクとして裏面シリコン層をエッチングした。このエッチングによりアーム14a〜14d裏面とフレーム部側壁の交点面が形成されるので、その交点が鋭角にならないよう表面に微小凹凸構造が形成されるようにした。エッチング法は、高密度誘導結合型プラズマ(ICP)エッチングを用いることが好ましい。SF6ガスを用いて3μm/min前後のレートでエッチングする。例えば、500μm前後エッチングすると裏面から中間の埋め込み酸化膜層に達するので、エッチングを停止する。
エッチングの際にはシリコン貫通後、エッチング装置のウェハステージが直接プラズマにさらされてウェハステージ表面にダメージが入ることがある。これを防ぐために、被エッチングウェハを別の支持ウェハに貼り合わせてからエッチングし、エッチング終了後に支持ウェハを取り除いてもよい。
次に、埋め込み酸化膜層の露出部分及びマスクとして使用した裏面酸化膜層を除去した。酸化膜の除去方法としてはドライエッチングを用いるのが好ましい。露出したSOI埋め込み酸化膜層のエッチングの際に、フッ酸等によるウェットエッチングを行うと、表面側シリコン層と裏面側シリコン層との間に位置する埋め込み酸化膜層の等方性エッチングが進み、アーム14a〜14dの長さが設計寸法と異なったものになることがある。
貫通エッチングを行った後、SOIウェハ上の光スキャナ用MEMSチップをフレーム11の外周に合わせて切り出した。この切り出した光スキャナ用MEMSチップを基材50とする。
光スキャナ用MEMSチップを切り出した後に、基材50上に第1下地層51を成膜した。第1下地層51は、特に振動運動により高い応力の発生するトーションバー13a〜13dとミラー12周辺部に形成される。第1下地層51は、Ti薄膜をマグネトロンスパッタリング法で基材50上に蒸着することにより形成される。MEMSチップを真空チャンバーにセットするときには、MEMSチップは成膜部以外をマスキングできるマスキングホルダーに取り付けられる。
次に、MEMSチップのセットされたマスキングホルダーを真空チャンバーに取り付けた。この際、マスキングホルダーは、真空チャンバー内にセットされたスパッタリング用ターゲット材に対して、垂直対向させるのではなく、45度傾けてセットされるのが好ましい。これにより、トーションバー13a〜13dの表面だけでなく側面にも均一に成膜することができる。
真空チャンバー内を1.0×10−6Torr(1.3×10−4Pa)以下まで排気した後、Arガスを4.0mTorr(5.3×10−1Pa)になるように真空チャンバー内に導入した。その後、DC電源で1.0kWの電力を投入して、Ti薄膜を100nm厚になるように成膜した。その後、マスキングホルダーの取り付けを表裏逆にし、傾きも逆に変更してからTi薄膜を成膜した。これにより、トーションバー13a〜13dの周囲全方位にTi薄膜を均一に被覆させることができた。
続けて、第1下地層51と同条件で、第2下地層52であるAl−Ti合金を、第1下地層51の上に厚さ100nmで成膜した。
次に、マスキングホルダーを変更して、トーションバー13a〜13dとミラー12周辺にのみ成膜でき、ミラー12はマスクするような形状のものにした。これも同様にターゲット材に対して45度傾けて真空チャンバー内にセットした。
表面層53として、窒化シリコン(SiN)が最適であるので、Siターゲットを用い、ArとN2との混合ガスでリアクティブスパッタリングを行った。ガス圧は3.0mTorrにし、ArとN2の流量比を3:2となるように調整し、DC電源で1.0kWの電力を投入して膜厚が100nmになるように、SiNを第2下地層52上に成膜した。第2下地層52の成膜と同様に、ホルダーの取り付けを変更しながら成膜し、トーションバー13a〜13dの周囲全方位にSiNを成膜した。
こうして、トーションバー13a〜13dの高応力発生部位に、第1下地層51のTi薄膜、第2下地層52のAl−Ti合金薄膜、その上に表面層53のSiN薄膜という順で成膜して、実施例1に係るMEMS光スキャナ10のサンプルを作製した。
[比較例1]
実施例1との比較例として、比較例1に係る比較サンプル1〜5を作製した。MEMSチップの基材50は、実施例1と同様にSOIウェハを用いて作製された。第1下地層51のTi薄膜、第2下地層52のAl−Ti合金薄膜、表面層53のSiN薄膜は、それぞれ実施例1と同様の方法で作製した。
実施例1との比較例として、比較例1に係る比較サンプル1〜5を作製した。MEMSチップの基材50は、実施例1と同様にSOIウェハを用いて作製された。第1下地層51のTi薄膜、第2下地層52のAl−Ti合金薄膜、表面層53のSiN薄膜は、それぞれ実施例1と同様の方法で作製した。
比較サンプル1は、被覆保護層を何もつけないSi基材(基材50)のままのサンプルである。
比較サンプル2は、基材50の上に第1下地層51のTi薄膜のみを成膜したサンプルである。ただし、実施例1のサンプルよりもTi薄膜の膜厚を厚くして、Ti薄膜の膜厚は、300nmであり、実施例1のTi(第1下地層51)とAl−Ti合金(第2下地層52)とSiN(表面層53)を合わせた膜厚300nmと同じ厚さにした。
比較サンプル2は、基材50の上に第1下地層51のTi薄膜のみを成膜したサンプルである。ただし、実施例1のサンプルよりもTi薄膜の膜厚を厚くして、Ti薄膜の膜厚は、300nmであり、実施例1のTi(第1下地層51)とAl−Ti合金(第2下地層52)とSiN(表面層53)を合わせた膜厚300nmと同じ厚さにした。
比較サンプル3は、Al−Ti合金薄膜のみを基材50の上に成膜したサンプルである。Al−Ti合金薄膜の膜厚は、300nmである。
比較サンプル4は、SiN薄膜のみを基材50の上に成膜したサンプルである。SiN薄膜の膜厚は、300nmである。
比較サンプル5は、第1下地層51にTi、第2下地層52にSiN、表面層53にAl合金を用い、実施例1のサンプルと積層順を入れ替えたサンプルである。Ti薄膜、SiN薄膜、及びAl−Ti合金薄膜の膜厚はそれぞれ100nmであり、実施例1と同じである。
比較サンプル4は、SiN薄膜のみを基材50の上に成膜したサンプルである。SiN薄膜の膜厚は、300nmである。
比較サンプル5は、第1下地層51にTi、第2下地層52にSiN、表面層53にAl合金を用い、実施例1のサンプルと積層順を入れ替えたサンプルである。Ti薄膜、SiN薄膜、及びAl−Ti合金薄膜の膜厚はそれぞれ100nmであり、実施例1と同じである。
〈耐久性試験結果〉
実施例1及び比較例1に示したサンプルを用いて、高温高湿環境下での耐久性試験を行った。耐久性試験は、恒温槽内を65℃、相対湿度60%に調整した環境下で行った。MEMS光スキャナ10を図1に示したようなシステムにセットして、所定の光学角でレーザ光をスキャンするようにミラー12を振動させた。今回の試験では、ミラー12の光学角の振幅を±25degとなるように駆動電圧を調整して振動させた。ミラー12の振動の周波数は27kHzとし、振動状態を電気信号で観察しながら振動運動の継続時間を測定した。
実施例1及び比較例1に示したサンプルを用いて、高温高湿環境下での耐久性試験を行った。耐久性試験は、恒温槽内を65℃、相対湿度60%に調整した環境下で行った。MEMS光スキャナ10を図1に示したようなシステムにセットして、所定の光学角でレーザ光をスキャンするようにミラー12を振動させた。今回の試験では、ミラー12の光学角の振幅を±25degとなるように駆動電圧を調整して振動させた。ミラー12の振動の周波数は27kHzとし、振動状態を電気信号で観察しながら振動運動の継続時間を測定した。
トーションバー13a〜13dが破断してミラー12の振動が停止するまでのMEMS光スキャナ10の連続運転時間を計測した結果は、以下の通りであった。
実施例1のサンプル 700時間
比較サンプル1 9時間
比較サンプル2 42時間
比較サンプル3 32時間
比較サンプル4 200時間
比較サンプル5 330時間
比較サンプル1 9時間
比較サンプル2 42時間
比較サンプル3 32時間
比較サンプル4 200時間
比較サンプル5 330時間
MEMS光スキャナ10は、第1下地層51、第2下地層52、及び表面層53のそれぞれに異なる特性を有する材料を用いている。表面層53は、透湿性が最も小さく、弾性率が最も小さい。第1下地層51は、基材50と反応しにくく劣化しにくい。第1下地層51及び第2下地層52は、表面層53よりも弾性率が大きい。上述の耐久試験結果より、第1下地層51、第2下地層52、そして表面層53の積層順で成膜することにより、高温高湿環境下での耐久性に優れたMEMS光スキャナ10を提供できることがわかる。
〈膜応力を変えてミラー12の反り量を測定した結果〉
実施例1と同様な方法で同様の構成のサンプルA〜Gを作製した。ただし、サンプルA〜Gの作製において、各層のスパッタリング法による成膜時の条件、特にガス圧力、投入電力条件を変化させて膜応力を段階的に変えた。すなわち、サンプルA〜Gは全て同じ構成であるが、それぞれ膜応力が異なるサンプルである。
実施例1と同様な方法で同様の構成のサンプルA〜Gを作製した。ただし、サンプルA〜Gの作製において、各層のスパッタリング法による成膜時の条件、特にガス圧力、投入電力条件を変化させて膜応力を段階的に変えた。すなわち、サンプルA〜Gは全て同じ構成であるが、それぞれ膜応力が異なるサンプルである。
このように作製したMEMS光スキャナ10のサンプルA〜Gのトーションバー13a〜13d及びミラー12付近の反り量及び凹凸量(P−V値)をZaygo社製のレーザ干渉計を用いて計測した。サンプルA〜Gの応力値、反り量計測結果およびレーザスポット形状評価は表1のようになった。
表1に示すように、サンプルA〜Eのレーザスポット形状評価は良好であった。幾何光学に基づく光学計算から、反り量がλ/8以上に増加すると、波面の乱れが大きくなり、スポット形状が変形することが分かる。そのため、最短波長の青色レーザ波長(450nm)の1/8以下の反り量、すなわち56nm以下が適正と考えられる。薄膜層の応力が100Mpa以下の場合、反り量は56nm以下になっているので、レーザスポット形状も良好なものになった。これにより、第1下地層51、第2下地層52、及び表面層53の膜応力を100MPa以下にすることにより、MEMS光スキャナ10は良好な集光特性を達成できる。
なお、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。例えば、本発明に係るMEMS光スキャナの用途は、ヘッドアップディスプレイに限定されるものではなく、プロジェクタやプリンタ等の他の画像形成装置にも用いることができる。本発明に係るMEMS光スキャナは、高温高湿環境下での透湿性に優れるため、車載用のヘッドアップディスプレイに好適である。
10…光スキャナ 11…フレーム 12…ミラー 13a-13d…トーションバー 14a-14d…アーム 15a-15d…圧電膜 16…ベース 20…自励発振回路 21,25…アンプ 22…バンドパスフィルタ 23…位相調整器 30…動作測定部 31…位相比較器 32…動作点決定部 33…振れ角検出器 34…発振器 40…切替部 41…ドットクロック発生部 50…基材 51…第1下地層 52…第2下地層 53…表面層 100…ヘッドアップディスプレイ
Claims (5)
- ミラー部と、
前記ミラー部を支持するトーションバーと、を備え、
前記トーションバー及び前記ミラー部の少なくとも一部は、
Siを有する基材と、
前記基材の表面に形成された第1下地層と、
前記第1下地層に重ねて形成された第2下地層と、
前記第2下地層に重ねて形成された表面層と、を有し、
前記表面層は、前記第1下地層及び前記第2下地層に比べて、透湿性が小さく、弾性率が大きい
光スキャナ。 - 前記第1下地層、前記第2下地層、及び前記表面層の合計の膜応力が100MPa以下である
ことを特徴とする請求項1に記載の光スキャナ。 - 前記表面層の材料は、Si酸化物又はSi窒化物である
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の光スキャナ。 - 前記第1下地層の材料は、Ti又はTi合金である
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の光スキャナ。 - 請求項1〜4のいずれか1項に記載の光スキャナと、
前記光スキャナの前記ミラー部に光を入射させる光源と、
画像データに応じて前記光スキャナ及び前記光源を制御する制御部と、を備える
画像形成装置。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2014141636A JP2016018122A (ja) | 2014-07-09 | 2014-07-09 | 光スキャナ及び画像形成装置 |
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