JP2016013938A - 赤外線透過材料 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】Tl、S及びIを含む単結晶体又は多結晶体からなる赤外線透過材料、例えば式:Tl4+2xSxI4(式中、x=0.95〜1.10)で表すことができる単結晶体又は多結晶体からなる赤外線透過材料を提案する。
【選択図】なし
Description
カルコゲナイドガラスに関しては、例えば特許文献2において、赤外線透過性に優れたカルコゲナイドガラスとして、Geを2〜22%、Sb又はBiを6〜34%、Sn又はZnを1〜20%、S、Se又はTeを58〜70%含有するカルコゲナイドガラスが開示されている。
例えばGeは、原料コストが高い上、融点が938℃と高くモールド成形が困難であるという問題を抱えていた。
ZnSは、透過波長域が8μm〜13μmと狭いばかりか、融点が1700℃と高く、しかも1180℃で昇華してしまうため、モールド成形は困難であった。
カルコゲナイドガラスは、Geを含むため、原料コストが高くなるばかりか、透過波長域が8μm〜12μmと狭いという課題を抱えていた。
また、低融点の赤外透過材料として知られているKRS−5(TlIとTlBrの固溶体)は、極めて脆いばかりか、吸湿によって赤外線透過性が劣化してしまうという課題を抱えていた。
本発明の実施形態の一例に係る赤外線透過材料(以下「本赤外線透過材料」と称する)は、Tl、S及びIを含む単結晶体又は多結晶体からなるものである。
式:Tl4+2xSxI4(式中、x=0.95〜1.10)で表すことができる単結晶体又は多結晶体は、波長域:λ=0.78μm〜37μmにおける優れた赤外域透過特性と、波長域:λ=0.78μm〜14μmの屈折率が2.0〜4.0であるという優れた赤外域屈折性と、優れた硬度特性と、融点が440℃であってモールド成形可能である特性と、を有しているばかりか、吸湿によって赤外線透過性が劣化しない耐湿性をも備えており、赤外線透過材料として特に優れている。
本赤外線透過材料は、その純度が2N以上であるのが好ましく、中でも4N以上、その中でも6N以上であるのが特に好ましい。
本赤外線透過材料の純度を上記の如く高めて不純物濃度を下げるためには、例えば、後述するように、帯溶融精製において、アンプル内を不活性ガス雰囲気とすると共に、加熱温度をできるだけ低温、具体的には440〜450℃にすることで、ヨウ化タリウムの蒸発を抑制しつつ、精製回数を少なくとも50回以上行った後、純度の高い先端部のみ取り出し、再度別のアンプルに入れて、さらに50回以上の精製を行うようにするのが好ましい。但し、この方法に限定するものではない。
本赤外線透過材料は、λ=0.78μm〜37μmにおいて、優れた赤外域透過特性を有し、且つ、λ=0.78μm〜14μmでの屈折率を2.0〜4.0とすることができ、しかも、吸湿によって赤外線透過性が劣化しない耐湿性にも優れている。
よって、温度計測、火災検知、人体検知、サーモグラフィー、赤外線カメラ用レンズ、赤外線レーザーシステム、さらに光通信分野、暗視分野、組成イメージングシステム分野、高感度ガスセンシング分野などで用いられる赤外線透過材料として有用である。
モールド成形可能であるから、球面レンズ、非球面レンズ、レンズアレイ、マイクロレンズアレイ、回折格子などの光学素子を容易に作製することができる。
本赤外線透過材料の製造方法の一例として、所定量のTlI粉末と、所定量のTl2S粉末とを混合し、混合物をガラス管内に封入し、加熱して真空溶融させてTl−S−I化合物を合成し、得られた合成物に対して所定の精製を行い、得られた精製結晶体を再びガラス管内に封入してゾーンメルト精製(帯域精製)することで、多結晶体からなる本赤外線透過材料(「本赤外線透過多結晶体」)を得る方法を挙げることができる。
そして必要に応じてさらに、このようにして得られた本赤外線透過多結晶体を用いて結晶育成を行い、必要に応じて研磨して、単結晶体からなる本赤外線透過材料(「本赤外線透過単結晶体」)を得ることができる。
この際、TlI及びTl2Sのいずれかが異相を有するものであると、製造される単結晶体も異相を有するものとなる可能性が高くなり、好ましくない。
これにより、ヨウ化タリウムの蒸発を抑制することができ、しかも、蒸発したヨウ化タリウムが再混入することを抑制することができる。
本発明において、「赤外線」とは、波長では0.78μm〜1000μmの範囲に分布する、近赤外線(0.78〜2.0μm)、中赤外線(2.0〜4.0μm)及び遠赤外線(4.0〜1000μm)を包含する。
本発明において「X〜Y」(X,Yは任意の数字)と表現する場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意と共に、「好ましくはXより大きい」或いは「好ましくはYより小さい」の意も包含する。
また、「X以上」(Xは任意の数字)或いは「Y以下」(Yは任意の数字)と表現した場合、「Xより大きいことが好ましい」或いは「Y未満であることが好ましい」旨の意図も包含する。
<サンプルの作製>
1) TlI単相(4N)粉末37.5と、Tl2S単相(4N)粉末12.5gとの混合物を、ガラス管に入れた後、0.5atmのアルゴン雰囲気として、該ガラス管を密閉した。
2) 1)で密閉したガラス管を、600℃で6時間加熱して、ガラス管内でTl−S−I化合物を合成した。
3) 2)において合成したTl−S−I化合物に対して、移動型ヒーターを用いて440℃のゾーンメルト精製(帯域精製)を繰り返し50回行い、精製した部分を取り出して結晶体を得た。
4) 3)で得られた結晶体をメノウ乳鉢で粉砕し、得られた粉末の粉末X線回折測定(XRD測定)をRINT-TTR III(株式会社リガク製)により行った。測定にはCuKα線を用い、加速電圧は50kV、印加電流は300mAとした。図1(a)に評価結果を示した。測定結果より、当該粉末がTl6SI4構造のピークを示すことを確認した。
5) 4)で得られた粉末、すなわちTl6SI4粉末10.0gをガラス管に入れた後、0.5atmのアルゴン雰囲気として、該ガラス管を密閉した。
6) 5)で密閉したガラス管を、移動型ヒーターを用いて440℃のゾーンメルト精製(帯域精製)を繰り返し50回行い、純度の高い先端部のみ取り出して精製結晶体(サンプル)を得た。
上述の方法で得られた精製結晶体を、粒度0.3μmのラッピングフィルムで研磨した後、次のように単結晶X線回折、赤外域透過率、屈折率及びビッカース硬度を評価した。また、結晶体をメノウ乳鉢で粉砕し、粉末X線回折測定(XRD測定)を行った。得られた精製結晶体の純度は6Nであった。
単結晶X線回折は、Smart Lab X-RAY DIFFRACT METER(株式会社リガク製)を用いて行った。測定にはCuKα線を用い、加速電圧は40kV、印加電流は30mAとした。
X線回折パターンを図2に示した。測定結果からは、ストリークの見られるプロファイルが確認され、上記で得られた精製結晶体は多結晶体であることが分かった。
屈折率は、ESM-300(J.A.Woolam社製)を用いて、可視波長域で評価し、赤外波長域に外挿することで導出した。
導出の結果、波長10μmにおける屈折率外挿値は2.37であった。
赤外域外部透過率はVertex70v(Bruker社製)を用いて測定し、測定結果を図3に示した。この測定結果から、上記精製結晶体は、測定波長2.5μm〜25μmの範囲で優れた赤外域透過特性を有することが分かった。
先ず、結晶体表面における反射率Rを、フレネルの式(1)を用いて計算した。ここで、nは屈折率を示す。
ビッカース硬度は、MICRO HARDNESS TESTER MHT2(マツザワ社製)を用いて測定した。
測定した結果、上記精製結晶体の硬度はHv=61kg/mm2であることが分かった。
粉末XRD測定は、RINT-TTR III(株式会社リガク製)を用いた。測定にはCuKα線を用い、加速電圧は50kV、印加電流は300mAとした。X線プロファイルを図1(b)に示した。
XRD測定した結果、単相のTl6SI4であることが分かった。
<サンプルの作製>
1) 実施例1の4)で得られたTl6SI4粉末10.0gをガラス管に入れた後、0.5atmのアルゴン雰囲気として、該ガラス管を密閉した。
2) 1)で密閉したガラス管を、移動型ヒーターを用いて440℃のゾーンメルト精製(帯域精製)を繰り返し50回行い、精製した部分を取り出して精製結晶体を得た。
3) 2)で得られた精製結晶体を、トラベリングヒーター法(THM法)により、加熱温度440℃、育成速度5mm/時間で結晶育成して単結晶体(サンプル)を得た。
上述の方法で得られた単結晶体を、粒度0.3μmのラッピングフィルムで研磨した後に、実施例1と同様に、単結晶X線回折、赤外域透過率、屈折率及びビッカース硬度を評価した。また、前記単結晶体をメノウ乳鉢で粉砕し、粉末X線回折測定(XRD測定)を行った。
得られた単結晶体の純度は6Nであった。
実施例1と同様に屈折率を測定し、導出の結果、波長10μmにおける屈折率外挿値は2.37であった。
実施例1と同様に赤外域外部透過率を測定し、測定結果を図5に示した。この測定結果からは、当該結晶体が測定波長2.5μm〜25μmで優れた赤外域透過特性を有することが分かった。また、赤外域外部透過率の測定結果に関して、実施例1と同様に赤外域内部透過率に変換し、結晶体内部での透過損失の大きさを評価した結果、波長10μmにおける内部透過率は99.8%と計算され、結晶体内部での透過損失を抑制できていることが分かった。
実施例1と同様にビッカース硬度を測定した結果、硬度はHv=61kg/mm2であることが分かった。
実施例1と同様に粉末XRD測定をした結果、実施例2で得た単結晶体のX線プロファイルを図1(c)に示した。このようにXRD測定した結果、単相のTl6SI4であることが分かった。
<サンプルの作製>
実施例3では、原料の混合量を、TlI単相(4N)粉末37.9gと、Tl2S単相(4N)粉末12.1gとに変更した以外、実施例1と同様にして精製結晶体を得た。
実施例4では、原料の混合量を、TlI単相(4N)粉末36.8gと、Tl2S単相(4N)粉末13.2gとに変更した以外、実施例1と同様にして精製結晶体(サンプル)を得た。
上記実施例3・4で得られた精製結晶体(サンプル)を、粒度0.3μmのラッピングフィルムで研磨した後に、実施例1と同様に、赤外域透過率及び屈折率を評価した。また、前記精製結晶体をメノウ乳鉢で粉砕し、実施例1と同様に粉末X線回折測定(XRD測定)を行った。さらに、ICP発光分析法により粉末の組成分析を行った。
実施例3、4で得られた精製結晶体の純度はいずれも6Nであった。
赤外域外部透過率の評価結果からは、実施例3・4いずれのサンプルについても、測定波長2.5μm〜25μmで優れた赤外域透過特性を有することが確認された。
また、赤外域内部透過率を計算した結果、波長10μmにおける赤外線内部透過率は、実施例3では95.8%、実施例4では96.1%と計算された。このため、実施例3・4のいずれのサンプルも結晶体内部での透過損失を抑制できることが分かった。
粉末X線回折測定(XRD測定)結果からは、実施例3・4のいずれのサンプルも、単相のTl6SI4であることが分かった。
KRS−5(ピアーオプチクス社製 品番S5/13-2)と、実施例1で得られたTl6SI4多結晶体の耐湿性に関して、以下の工程1)と2)に示す加速劣化試験により評価した。
2)1)の加速劣化試験後のサンプルの赤外域外部透過率を評価し、試験前後での赤外透過特性の変化を評価した。
赤外域外部透過率の測定は、Vertex70v(Bruker社製)を用いて行った。
他方、図7には、実施例1で得られたTl6SI4多結晶体の測定結果を示した。この測定結果からは、透過率の低下が見られず、Tl6SI4多結晶体は、KRS−5に比べて耐湿性に優れていることが確認できた。
また、劣化率は、波長域8〜14μmにおいて、KRS−5では20%以上、Tl6SI4多結晶体では2%以下であることが確認された。
ここで、劣化率は以下の式を用いて計算した。
劣化率(%)=[1−(耐湿試験後の外部透過率/耐湿試験前の外部透過率)]×100
実施例1で得られた精製結晶体、すなわちTl6SI4多結晶体について、可視光域〜中赤外域での透過特性を、U-4100(日立ハイテクノロジーズ社製)を用いて評価した。
図8に可視光域〜中赤外域での透過特性の測定結果を示した。この測定結果から、当該材料が、波長0.6μm付近に吸収端を持つ一方で、波長0.78μmから2.5μmまでの近赤外域〜中赤外域では、図3に示す中赤外域から遠赤外域での透過率と同等の高い透過率を示すことが確認できた。
以上の評価結果から、Tl6SI4が、近赤外線透過材料としても有効であることが確認された。
Claims (3)
- Tl、S及びIを含む単結晶体又は多結晶体からなる赤外線透過材料。
- 式:Tl4+2xSxI4(式中、x=0.95〜1.10)で表すことができる単結晶体又は多結晶体からなる請求項1記載の赤外線透過材料。
- 単相のTlI及び単相のTl2Sを原料として製造される請求項1又は2に記載の赤外線透過材料。
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