本発明を以下で詳細に説明する前に、本明細書中で説明する特定の方法論、プロトコル及び試薬は変動し得るので、本発明はこれらに限定されないと理解すべきである。本明細書中で使用される専門用語は、特定の実施形態を説明するためのものにすぎず、添付した特許請求の範囲のみによって限定される本発明の範囲を限定することは意図されないことも理解すべきである。他に規定のない限り、本明細書中で使用される全ての技術用語及び科学用語は、当業者により一般的に理解される意味と同じ意味を有する。
以下では、本発明の要素を記載する。これらの要素を特定の実施形態と共に列挙するが、任意の様式及び任意の数でこれらを組み合わせて、さらなる実施形態を作り出すことができることを理解すべきである。様々に記載される実施例及び好ましい実施形態を、明示的に記載される実施形態にのみ本発明を限定するものと解釈すべきではない。この記載を、明示的に記載される実施形態を任意の数の開示される及び/又は好ましい要素と組み合わせた実施形態を支持及び包含するものと理解すべきである。さらに、本出願において記載される全ての要素の任意の置換及び組合せが、文脈上他に示されぬ限り、本出願の記載により開示されるものと考えるべきである。例えば、好ましい一実施形態では本発明のポリペプチド断片が配列番号2に示すアミノ酸配列のアミノ酸1〜209に対応し、別の好ましい実施形態では本発明によるPAポリペプチド断片を、好ましくはTEVプロテアーゼを使用して、好ましくはPAポリペプチド断片から切断可能であるペプチドタグによりタグ付けすることができる場合、配列番号2に示すアミノ酸配列のアミノ酸1〜209に対応するポリペプチド断片をTEVプロテアーゼを使用してPAポリペプチドから切断可能であるペプチドタグによりタグ付けすることは、本発明の好ましい一実施形態である。
好ましくは、本明細書中で使用される用語は、"A multilingual glossary of biotechnological terms: (IUPACRecommendations)", H.G.W. Leuenberger, B. Nagel and H. Koelbl, Eds.,Helvetica Chimica Acta, CH-4010 Basel, Switzerland, (1995)に記載されているように規定される。
本発明を実施するために、特に明示のない限り、当該技術分野の文献(例えばMolecular Cloning: A Laboratory Manual, 2nd Edition, J.Sambrook et al. eds., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor1989を参照されたい)において説明される、従来の化学、生化学の方法及び組換えDNA法を利用する。
以下の本明細書及び添付の特許請求の範囲を通じて、文脈上他に必要な場合以外は、「を含む(comprise)」という単語、並びに「を含む(comprises)」及び「を含む(comprising)」等の変化形は、記載された整数若しくは工程又は整数若しくは工程の群を包含することを示唆するが、任意の他の整数若しくは工程又は整数若しくは工程の群を除外することを示唆しないと理解される。本明細書及び添付の特許請求の範囲において使用されるように、単数形「a」、「an」及び「the」は、その内容(content)が明らかに他の指示を与えるものでない限り、複数の指示対象を含む。
複数の文書が、本明細書の文章を通じて引用される。本明細書中で引用される文書(全ての特許、特許出願、科学的刊行物、製造業者の仕様書、取扱説明書等を含む)の各々が、上記のものであるか又は下記のものであるかに関わらず、その全体が参照により本明細書に援用される。本明細書のどの記載も、本発明が従来の発明に基づくこのような開示に先行する権利を有しないことを認めるものと解釈すべきではない。
定義
「ポリペプチド断片」という用語は、単一のアミノ酸鎖から構成されるタンパク質の一部分を表す。「タンパク質」という用語は、二次構造及び三次構造を回復するポリペプチド断片を含み、複数のアミノ酸鎖、すなわち複数のサブユニットから構成され、四次(quartenary)構造を形成するタンパク質をさらに表す。「ペプチド」という用語は、アミノ酸数が最大50であり二次構造又は三次構造を必ずしもとらない短いアミノ酸鎖を表す。「ペプトイド」は、N−置換グリシンのオリゴマー集合化から得られるペプチド模倣物質である。
2つ以上のポリペプチドにおける残基は、その残基がポリペプチド構造における類似の位置を占有する場合、互いに「対応する」と言う。当該技術分野では既知であるように、2つ以上のポリペプチドにおける類似の位置は、アミノ酸配列又は構造的類似性に基づきポリペプチド配列を整列させることにより確定することができる。このようなアライメントツールは当業者に既知であり、例えば、ワールドワイドウェブ、例えば標準的な設定(好ましくはAlignに関してはEMBOSS::needle、Matrix:Blosum62、Gap Open 10.0、Gap Extend 0.5)を使用するClustalW(www.ebi.ac.uk/clustalw)又はAlign(http://www.ebi.ac.uk/emboss/align/index.html)において、得ることができる。当業者は、満足なアライメントを生成するためにいずれかの配列にギャップを導入することが必要な場合があることを理解する。例えば、インフルエンザAウイルスPAサブユニットにおける残基1〜196は、インフルエンザBウイルスPAサブユニットにおける残基1〜195、及びインフルエンザCウイルスPAサブユニットにおける残基1〜178に、それぞれ対応する。2つ以上のPAサブユニットにおける残基が最良の配列アライメントにおいて整列する場合、それらの残基が「対応する」と言う。2つのポリペプチドの間の「最良の配列アライメント」は、整列する同一残基の数が最大となるアライメントと定義される。2つの整列させた配列の間の配列類似性、好ましくは配列同一性が、10個、20個又は30個のアミノ酸の長さにわたり30%未満、好ましくは20%未満、より好ましくは10%未満に低下した場合には、「最良の配列アライメントの領域」は途切れ、それにより類似性スコアの確定のための比較配列の長さの境界及び範囲(metes and bounds)が確定する。インフルエンザAウイルス(アミノ酸1〜209)、インフルエンザBウイルス(アミノ酸1〜206)及びインフルエンザCウイルス(アミノ酸1〜189)のPAサブユニットのアミノ酸配列に関する最良の配列アライメントの一部分を、図11に示す。
例えば、配列番号2に示すアミノ酸配列(インフルエンザAウイルスのPAサブユニット)のアミノ酸Tyr24、His41、Glu80、Arg84、Leu106、Asp108、Glu119、Ile120、Tyr130、Glu133、Lys134及びLys137は、配列番号4に示すアミノ酸配列(インフルエンザBウイルスのPAサブユニット)のアミノ酸Phe24、His41、Glu81、Arg85、Leu107、Asp109、Glu120、Val121、Tyr131、Lys134、Lys135及びLys138、並びに配列番号6に示すアミノ酸配列(インフルエンザCウイルスのPAサブユニット)のアミノ酸Ala24、His41、Glu65、Arg69、Leu91、Asp93、Glu104、Ile105、Tyr115、Ser118、Lys119及びLys122にそれぞれ対応する。
本発明は、エンドヌクレアーゼ活性を有する、インフルエンザウイルスRNA依存性RNAポリメラーゼPAサブユニット断片を含む。「RNA依存性RNAポリメラーゼサブユニットPA」という用語は、好ましくは配列番号2、配列番号4又は配列番号6に示されたアミノ酸配列を有する、インフルエンザAウイルス、インフルエンザBウイルス又はインフルエンザCウイルスのPAサブユニットを表すことが好ましい。「RNA依存性RNAポリメラーゼサブユニットPA変異体」は、配列番号2、配列番号4又は配列番号6に示すアミノ酸配列と、最良の配列アライメントを使用する断片の全長にわたり、及び/又は最良の配列アライメントの領域にわたり(ここで最良の配列アライメントは、例えば、標準的な設定、好ましくはEMBOSS::needle、Matrix:Blosum62、Gap Open 10.0、Gap Extend 0.5を使用するAlignのような当該技術分野で既知のツールを用いて取得可能である)、少なくとも60%、65%、70%、80%、81%、82%、83%、84%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%の配列類似性、好ましくは配列同一性を有する。天然のPA変異体を配列番号2、配列番号4又は配列番号6によるPAサブユニットと整列させる場合、そのアライメントが2つのタンパク質の全長にわたること、したがってアライメントスコアがこれに基づき確定されることが好ましい。しかし、天然の変異体が、例えばN末端又はC末端の融合を通じて、C末端/N末端の又は内部の欠失又は付加を含み得ることも考え得る。この場合には、類似性及び同一性のそれぞれの評価のために、最も良く整列した領域のみが使用される。好ましくは、また以下でより詳細に示すように、これらの変異体由来の断片は、好ましくはエンドヌクレアーゼ活性に必要とされる領域内において、それぞれ表示した類似性及び同一性を示す。したがって、配列番号2、配列番号4又は配列番号6とPA変異体との間の任意のアライメントが、好ましくはエンドヌクレアーゼ活性部位を含むはずである。したがって、配列番号2、配列番号4又は配列番号6との上記の配列類似性及び同一性のそれぞれが、好ましくはエンドヌクレアーゼ活性部位を含む、少なくとも100個、110個、120個、130個、140個、150個、160個、165個、170個、180個、190個、200個、210個、220個、230個、240個、250個、300個又はそれ以上のアミノ酸の長さにわたり生じる。配列番号2、配列番号4又は配列番号6による配列の多数の天然のPA変異体が既知であり、文献で説明されている。これらのPA変異体の全てが本発明のポリペプチド断片に含まれ、その基礎であり得る。配列番号2が参照配列として使用される場合には、インフルエンザAウイルスPAサブユニットに関する好ましい例は、位置Phe4、Ala20、Leu28、Glu31、Val44、Tyr48、Asn55、Gln57、Gly58、Val62、Leu65、Asp66、Thr85、Gly99、Ala100、Glu101、Ile118、Ile129、Asn142、Ile145、Glu154、Lys158、Asp164、Ile171、Lys172、Ile178、Asn184及び/又はArg204の1つ又は複数での突然変異を含む。好ましい一実施形態では、上記変異体は以下の突然変異:Phe4Leu、Ala20Thr、Leu28Pro、Glu31Lys、Val44Ala、Tyr48His、Asn55Asp、Gln57Arg、Gly58Ser、Val62Ile、Leu65Ser、Asp66Gly、Thr85Ala、Gly99Lys、Ala100Val、Glu101Asp、Ile118Thr、Ile129Thr、Asn142Lys、Ile145Leu、Glu154Gly、Lys158Gln、Asp164Val、Ile171Val、Lys172Arg、Ile178Val、Asn184Ser、Asn184Arg及び/又はArg204Lysの1つ又は複数を含む。配列番号4が参照配列として使用される場合には、インフルエンザBウイルスPAサブユニットの好ましい変異体は、以下のアミノ酸位置:Thr60、Asn86、Arg105、Asn158、His160及び/又はIle196の1つ又は複数での突然変異を含む。好ましい一実施形態では、インフルエンザBウイルスPAサブユニット変異体は以下の突然変異:Thr60Ala、Asn86Thr、Arg105Lys、Asn158Asp、His160Ser及び/又はIle196Valの1つ又は複数を含む。配列番号6が参照配列として使用される場合には、インフルエンザCウイルスPAサブユニットの好ましい変異体は、以下のアミノ酸位置:Thr11、Leu53、Ser58、Gly70及び/又はAla111の1つ又は複数での突然変異を含む。好ましい一実施形態では、上記突然変異は、以下の通りである:Thr11Ala、Leu53Met、Ser58Asn、Gly70Arg及び/又はAla111Thr。
したがって、本発明のポリペプチド断片は、上で規定されるようなRNA依存性RNAポリメラーゼサブユニットPA又はその変異体に基づく。したがって以下の説明においては、「ポリペプチド断片(複数可)」及び「PAポリペプチド断片」という用語は常に、エンドヌクレアーゼ活性を有する、配列番号2、配列番号4又は配列番号6に記載されるようなPAタンパク質由来のこのような断片、及び上で記載されるようなそのPAタンパク質変異体由来の断片の両方を含む。しかし、本明細書は、RNA依存性RNAポリメラーゼサブユニットPA変異体に由来する、エンドヌクレアーゼ活性を有するPA断片を具体的に表すために、「PAポリペプチド断片変異体」又は「PA断片変異体」という用語も使用する。したがって本発明のPAポリペプチド断片は、好ましくは、天然のウイルスPAサブユニット、好ましくはインフルエンザウイルスPAサブユニットの配列を含むか、これから本質的になるか、又はこれからなる。しかし、PA断片変異体が、1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個、15個又はそれ以上のアミノ酸位置でのアミノ酸置換をさらに含有し、かつ配列番号2、配列番号4又は配列番号6に示したアミノ酸配列と、最良の配列アライメントを使用する断片の全長にわたり、及び/又は最良の配列アライメントの領域にわたり(ここで最良の配列アライメントは、例えば、標準的な設定、好ましくはEMBOSS::needle、Matrix:Blosum62、Gap Open 10.0、Gap Extend 0.5を使用するAlignのような当該技術分野で既知のツールを用いて取得可能である)、少なくとも60%、65%、70%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%の配列類似性、好ましくは配列同一性を有することも想定される。本発明のPA断片が、PA由来でない付加的なアミノ酸(例えばタグ、酵素等)を含むことがあり、このような付加的なアミノ酸はこのようなアライメントにおいては考慮されない(すなわち、アライメントスコアの算出から除外される)ことが理解される。好ましい一実施形態では、上で示したアライメントスコアは、少なくとも70個、80個、90個、100個、110個、120個、130個、140個、150個、160個、165個、170個、180個又は190個のアミノ酸の長さにわたり、断片の配列を配列番号2、配列番号4又は配列番号6(ここで配列番号2、配列番号4又は配列番号6のそれぞれの配列は、エンドヌクレアーゼ活性部位を含むことが好ましい)と整列させると得られる。
好ましい一実施形態では、PAポリペプチド断片変異体は、インフルエンザAウイルスPAのアミノ酸残基1〜196に対応するアミノ酸残基を少なくとも含むか、又はアミノ酸残基1〜196(配列番号2由来)からなり、配列番号2に示した配列のアミノ酸残基1〜196と、最良の配列アライメントを使用する断片の全長にわたり、及び/又は最良の配列アライメントの領域にわたり(ここで最良の配列アライメントは、例えば、標準的な設定、好ましくはEMBOSS::needle、Matrix:Blosum62、Gap Open 10.0、Gap Extend 0.5を使用するAlignのような当該技術分野で既知のツールを用いて取得可能である)、少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%の配列類似性、好ましくは配列同一性を有し、より好ましくはPAポリペプチド断片変異体は、インフルエンザAウイルスPAのアミノ酸残基1〜209に対応するアミノ酸残基を少なくとも含むか、又はアミノ酸残基1〜209(配列番号2由来)からなり、かつ配列番号2に示したアミノ酸配列のアミノ酸残基1〜209と、最良の配列アライメントを使用する断片の全長にわたり、及び/又は最良の配列アライメントの領域にわたり(ここで最良の配列アライメントは、例えば、標準的な設定、好ましくはEMBOSS::needle、Matrix:Blosum62、Gap Open 10.0、Gap Extend 0.5を使用するAlignのような当該技術分野で既知のツールを用いて取得可能である)、少なくとも70%、より好ましくは75%、より好ましくは80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%の配列類似性、好ましくは配列同一性を有し、より好ましくはPAポリペプチド断片変異体は、インフルエンザAウイルスPAのアミノ酸残基1〜213に対応するアミノ酸残基を少なくとも含むか、又はアミノ酸残基1〜213(配列番号2由来)からなり、かつ配列番号2に示したアミノ酸配列のアミノ酸残基1〜213と、最良の配列アライメントを使用する断片の全長にわたり、及び/又は最良の配列アライメントの領域にわたり(ここで最良の配列アライメントは、例えば、標準的な設定、好ましくはEMBOSS::needle、Matrix:Blosum62、Gap Open 10.0、Gap Extend 0.5を使用するAlignのような当該技術分野で既知のツールを用いて取得可能である)、少なくとも60%、より好ましくは65%、より好ましくは70%、より好ましくは75%、より好ましくは80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%の配列類似性、好ましくは配列同一性を有する。好ましい実施形態では、本発明のインフルエンザAウイルスPAポリペプチド断片変異体は、配列番号2と比較して以下のアミノ酸残基:Phe4、Ala20、Leu28、Glu31、Val44、Tyr48、Asn55、Gln57、Gly58、Val62、Leu65、Asp66、Thr85、Gly99、Ala100、Glu101、Ile118、Ile129、Asn142、Ile145、Glu154、Lys158、Asp164、Ile171、Lys172、Ile178、Asn184及び/又はArg204の1つ又は複数での突然変異等の、突然変異、好ましくは天然の突然変異を含む。好ましい一実施形態では、上記変異体は、以下の突然変異:Phe4Leu、Ala20Thr、Leu28Pro、Glu31Lys、Val44Ala、Tyr48His、Asn55Asp、Gln57Arg、Gly58Ser、Val62Ile、Leu65Ser、Asp66Gly、Thr85Ala、Gly99Lys、Ala100Val、Glu101Asp、Ile118Thr、Ile129Thr、Asn142Lys、Ile145Leu、Glu154Gly、Lys158Gln、Asp164Val、Ile171Val、Lys172Arg、Ile178Val、Asn184Ser、Asn184Arg及び/又はArg204Lysの一つ又は複数を含む。
好ましい一実施形態では、PAポリペプチド断片変異体は、インフルエンザBウイルスPAのアミノ酸残基1〜195に対応するアミノ酸残基を少なくとも含むか、又はアミノ酸残基1〜195(配列番号4由来)からなり、かつ配列番号4に示したアミノ酸配列のアミノ酸残基1〜195と、最良の配列アライメントを使用する断片の全長にわたり、及び/又は最良の配列アライメントの領域にわたり(ここで最良の配列アライメントは、例えば、標準的な設定、好ましくはEMBOSS::needle、Matrix:Blosum62、Gap Open 10.0、Gap Extend 0.5を使用するAlignのような当該技術分野で既知のツールを用いて取得可能である)、少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%の配列類似性、好ましくは配列同一性を有し、より好ましくはPAポリペプチド断片変異体は、インフルエンザBウイルスPAのアミノ酸残基1〜206に対応するアミノ酸残基を少なくとも含むか、又はアミノ酸残基1〜206(配列番号4由来)からなり、かつ配列番号4に示した配列のアミノ酸残基1〜206と、最良の配列アライメントを使用する断片の全長にわたり、及び/又は最良の配列アライメントの領域にわたり(ここで最良の配列アライメントは、例えば、標準的な設定、好ましくはEMBOSS::needle、Matrix:Blosum62、Gap Open 10.0、Gap Extend 0.5を使用するAlignのような当該技術分野で既知のツールを用いて取得可能である)、少なくとも70%、より好ましくは75%、より好ましくは80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%の配列類似性、好ましくは配列同一性を有し、より好ましくはPAポリペプチド断片変異体は、インフルエンザBウイルスPAのアミノ酸残基1〜210に対応するアミノ酸残基を少なくとも含むか、又はアミノ酸残基1〜210(配列番号4由来)からなり、かつ配列番号4に示したアミノ酸配列のアミノ酸残基1〜210と、最良の配列アライメントを使用する断片の全長にわたり、及び/又は最良の配列アライメントの領域にわたり(ここで最良の配列アライメントは、例えば、標準的な設定、好ましくはEMBOSS::needle、Matrix:Blosum62、Gap Open 10.0、Gap Extend 0.5を使用するAlignのような当該技術分野で既知のツールを用いて取得可能である)、少なくとも60%、より好ましくは65%、より好ましくは70%、より好ましくは75%、より好ましくは80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%の配列類似性、好ましくは配列同一性を有する。好ましい実施形態では、本発明のインフルエンザBウイルスPAポリペプチド断片変異体は、配列番号4と比較して以下のアミノ酸位置:Thr60、Asn86、Arg105、Asn158、His160及び/又はIle196の1つ又は複数での、突然変異、好ましくは天然の突然変異を含む。好ましい一実施形態では、インフルエンザBウイルスPAサブユニット変異体は、以下の突然変異:Thr60Ala、Asn86Thr、Arg105Lys、Asn158Asp、His160Ser及び/又はIle196Valの1つ又は複数を含む。
好ましい一実施形態では、PAポリペプチド断片変異体は、インフルエンザCウイルスPAのアミノ酸残基1〜178に対応するアミノ酸残基を少なくとも含むか、又はアミノ酸残基1〜178(配列番号6由来)からなり、かつ配列番号6に示したアミノ酸配列のアミノ酸残基1〜178と、断片の全長にわたり、少なくとも80%、より好ましくは85%、より好ましくは90%、最も好ましくは95%の配列類似性を有し、より好ましくはPAポリペプチド断片変異体は、インフルエンザCウイルスPAのアミノ酸残基1〜189に対応するアミノ酸残基を少なくとも含むか、又はアミノ酸残基1〜189(配列番号6由来)からなり、かつ配列番号6に示したアミノ酸配列のアミノ酸残基1〜189と、断片の全長にわたり、少なくとも70%、より好ましくは75%、より好ましくは80%、より好ましくは85%、最も好ましくは90%の配列類似性を有し、より好ましくはPAポリペプチド断片変異体は、インフルエンザCウイルスPAのアミノ酸残基1〜193に対応するアミノ酸残基を少なくとも含むか、又はアミノ酸残基1〜193(配列番号6由来)からなり、かつ配列番号6に示したアミノ酸配列のアミノ酸残基1〜193と、断片の全長にわたり、少なくとも60%、より好ましくは65%、より好ましくは70%、より好ましくは75%、より好ましくは80%、より好ましくは85%、最も好ましくは90%の配列類似性を有する。好ましい実施形態では、本発明のインフルエンザCウイルスPAポリペプチド断片変異体は、配列番号6と比較して以下のアミノ酸残基:Thr11、Leu53、Ser58、Gly70及び/又はAla111の1つ又は複数における突然変異等の、突然変異、好ましくは天然の突然変異を含む。好ましい一実施形態では、上記突然変異は、以下の通りである:Thr11Ala、Leu53Met、Ser58Asn、Gly70Arg及び/又はAla111Thrの1つ又は複数を含む。
本発明との関連では、「PA−Nter」という用語は、さらなるアミノ末端リンカー、すなわちGMGSGMA(配列番号19)を有する配列番号2に示すようなアミノ酸配列のアミノ酸残基1〜209からなるポリペプチド断片を表す。
本発明のPAポリペプチド断片が上で概説したアミノ酸残基のうちの1つを含む場合、他のアミノ酸残基がインフルエンザAウイルス、インフルエンザBウイルス又はインフルエンザCウイルスのそれぞれのPAタンパク質由来のものでないことが好ましい。
「配列類似性」という用語は、最良の配列アライメントの同じ位置でのアミノ酸が同一又は類似である、好ましくは同一であることを意味する。「類似のアミノ酸」は、類似の特性、例えば極性、溶解性、親水性、疎水性、電荷又はサイズを有する。類似のアミノ酸は好ましくは、ロイシン、イソロイシン及びバリン;フェニルアラニン、トリプトファン及びチロシン;リジン、アルギニン及びヒスチジン;グルタミン酸及びアスパラギン酸;グリシン、アラニン及びセリン;トレオニン、アスパラギン、グルタミン及びメチオニンである。当業者は、例えばワールドワイドウェブ(例えばwww.ebi.ac.uk/Tools/similarity.html)上で利用可能な、配列類似性検索ツールを十分に認識している。
本明細書中で使用する場合の「可溶性の(soluble)」という用語は、有効濃度のグアニジン又は尿素等の変性剤の非存在下における、例えば0.14M塩化ナトリウム又はスクロースのような生理学的等張条件下、少なくとも200μg/ml、好ましくは少なくとも500μg/ml、好ましくは少なくとも1mg/ml、より好ましくは少なくとも2mg/ml、さらにより好ましくは少なくとも3mg/ml、さらにより好ましくは少なくとも4mg/ml、最も好ましくは少なくとも5mg/mlのタンパク質濃度の水性緩衝液中で100000×gでの30分間の遠心分離後にポリペプチド断片が上清中に残存する状態を表す。その溶解性に関して試験されるタンパク質断片は、以下で示される細胞発現系の1つにおいて発現されることが好ましい。
ポリペプチドに関して「精製(purified)」という用語は、均質調製物のように絶対的に純粋であることを要求せず、むしろそのポリペプチドが自然環境中の状態よりも相対的に純度が高いことを表す。概して、精製したポリペプチドは、好ましくは機能的に顕著なレベルで、例えば少なくとも85%の純度、より好ましくは少なくとも95%の純度、最も好ましくは少なくとも99%の純度で、該ポリペプチドが自然状態で会合する他のタンパク質、脂質、炭水化物又は他の材料を実質的に有しない。「結晶化に好適な程度まで精製されている」という表現は、純度が85%〜100%、好ましくは90%〜100%、より好ましくは95%〜100%であり、沈殿することなく3mg/ml超、好ましくは10mg/ml超、より好ましくは18mg/ml超まで濃縮され得るタンパク質を表す。当業者は、タンパク質精製のための標準的な技法を使用して、ポリペプチドを精製することができる。実質的に純粋なポリペプチドは、非還元ポリアクリルアミドゲル上に単一の主バンドを生じる。
本発明の方法で化合物を同定する文脈において使用されるところの「会合する(associate)」という用語は、或る分子部分(moiety)(すなわち、化学的物質若しくは化合物又はその一部分(portions)若しくはその断片)とPAサブユニットのエンドヌクレアーゼ活性部位との間の近接状態を表す。会合は、非共有的であり得る(すなわち、例えば水素結合性相互作用、ファンデルワールス相互作用、静電的相互作用又は疎水的相互作用により、近接位置(juxtaposition)がエネルギー的に有利である場合には)か、又は共有的であり得る。
「エンドヌクレアーゼ活性」又は「ヌクレオチド鎖切断活性」という用語は、ポリヌクレオチド鎖内におけるホスホジエステル結合の切断をもたらす酵素活性を表す。本発明との関連では、ポリペプチド断片は、(好ましくはポリヌクレオチドの種類に関して選択的でない)ヌクレオチド鎖切断活性を有し、すなわち本発明によるポリペプチド断片は、好ましくはDNA及びRNAに対する、好ましくは一本鎖DNA(ssDNA)又は一本鎖RNA(ssRNA)に対するヌクレオチド鎖切断活性を示す。この関連で、「一本鎖」は、ポリヌクレオチド鎖内における好ましくは少なくとも3ヌクレオチド、好ましくは少なくとも5ヌクレオチド、より好ましくは少なくとも10ヌクレオチドのストレッチが一本鎖である、すなわち別のヌクレオチドと塩基対を形成していないことを意味する。好ましくは、本発明によるポリペプチド断片のヌクレオチド鎖切断活性は、認識部位、すなわち特異的なヌクレオチド配列に依存せず、ポリヌクレオチド鎖の非特異的な切断をもたらす。例えば、当業者は、それぞれのポリペプチド断片の存在下又は非存在下で、例えば37℃で或る特定の期間、例えば5分間、10分間、20分間、40分間、60分間又は80分間、RNA基質又はDNA基質、例えばパンハンドルRNA又は線状若しくは環状一本鎖DNA、例えば環状M13mp18 DNA(MBI Fermentas)をインキュベートすることにより、本発明によるポリペプチド断片のヌクレオチド鎖切断活性に関して試験することができ、例えばゲル電気泳動により、ポリヌクレオチドの完全性(integrity)に関して試験することができる。
本明細書中で使用する場合の「ヌクレオチド」という用語は、例えばKornberg and Baker, DNA Replication, 2nd Ed.(Freeman, San Francisco, 1992)において説明されるように、1’位でペントースと連結した、例えばアデニン、グアニン、シトシン、ウラシル、チミン、デアザアデニン、デアザグアノシン等のプリン、デアザプリン又はピリミジンヌクレオシド塩基からなる化合物(2’−デオキシ型及び2’−ヒドロキシル型を含む)を表し、例えばScheit, Nucleotide Analogs (John Wiley, N.Y., 1980)により概説される修飾塩基分子部分及び/又は修飾糖分子部分を有する合成ヌクレオシドをさらに含むがこれらに限定されない。
「単離(isolated)ポリヌクレオチド」という用語は、(i)その自然環境から単離した、(ii)ポリメラーゼ連鎖反応により増幅した、又は(iii)全体的に若しくは部分的に合成したポリヌクレオチドを表し、デオキシリボヌクレオチド塩基又はリボヌクレオチド塩基の一本鎖又は二本鎖のポリマーを意味し、DNA分子及びRNA分子、センス鎖及びアンチセンス鎖の両方を含む。この用語は、cDNA、ゲノムDNA及び組換えDNAを含む。ポリヌクレオチドは、遺伝子全体又はその一部分からなり得る。
本明細書中で使用する場合の「組換えベクター」という用語は、プラスミドベクター、コスミドベクター、ラムダファージ等のファージベクター、アデノウイルスベクター若しくはバキュロウイルスベクター等のウイルスベクター、又は細菌人工染色体(BAC)、酵母人工染色体(YAC)若しくはP1人工染色体(PAC)等の人工染色体ベクターを含む当業者に既知の任意のベクターを含む。上記ベクターは、発現ベクター及びクローニングベクターを含む。発現ベクターは、プラスミド及びウイルスベクターを含み、概して、所望のコード配列と、特定の宿主生物(例えば細菌、酵母、植物、昆虫若しくは哺乳動物)又はin vitro発現系における操作可能に連結したコード配列の発現に必要な適当なDNA配列とを含有する。クローニングベクターは概して、或る特定の所望のDNA断片を操作及び増幅するために使用され、所望のDNA断片の発現に必要とされる機能的配列を欠くことがある。
本明細書中で使用する場合の「組換え宿主細胞」は、対象のポリペプチド断片、すなわち本発明によるPAポリペプチド断片又はその変異体をコードするポリヌクレオチドを含む宿主細胞を表す。このポリヌクレオチドは、(i)それ自体が自由に分散して、(ii)組換えベクター中に取り込まれて、又は(iii)宿主細胞ゲノム若しくはミトコンドリアDNA中に組み込まれて、宿主細胞内に見出され得る。組換え細胞は、対象のポリヌクレオチドの発現のために、又は本発明のポリヌクレオチド若しくは組換えベクターの増幅のために、使用することができる。「組換え宿主細胞」という用語は、本発明のポリヌクレオチド又は組換えベクターで形質転換するか、トランスフェクトするか、又は感染させた元の細胞の子孫を含む。組換え宿主細胞は、大腸菌細胞等の細菌細胞、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)若しくはピキア・パストリス(Pichiapastoris)等の酵母細胞、植物細胞、SF9細胞若しくはHi5細胞等の昆虫細胞、又は哺乳動物細胞であり得る。哺乳動物細胞の好ましい例は、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、アフリカミドリザル腎臓(COS)細胞、ヒト胚腎臓(HEK293)細胞、HELA細胞等である。
本明細書中で使用する場合の「結晶(crystal)」又は「結晶性(crystalline)」という用語は、平面が一定の角度で交差し(faces intersect)、構成要素である化学種の規則的な構造(内部構造等)が存在する、構造(三次元固体集合体(aggregate)等)を意味する。「結晶」という用語は、以下のいずれか1つを含み得る:実験的に調製した結晶等の固体の物理的結晶形態、結晶から誘導可能な結晶構造(二次構造要素及び/又は三次構造要素及び/又は四次構造要素を含む)、結晶構造に基づく2Dモデル及び/又は3Dモデル、その略式表示若しくはその図式表示等のその表示、又はコンピュータ用のそのデータセット。一態様では、結晶はX線結晶学技法において使用可能である。ここで、使用する結晶は、X線ビームへの曝露に耐えることができ、X線結晶学的構造を解明するのに必要な回折パターンデータを作製するために使用される。結晶は、T. L. Blundell and L. N. Johnson, "ProteinCrystallography", Academic Press, New York(1976)に示される結晶形態の1つにより規定されるパターンで、X線を回折することができることを特徴とし得る。
「単位格子」という用語は、基本的な平行六面体形状のブロックを表す。結晶の全体積は、このようなブロックの規則的な集合化により構築され得る。各単位格子は、その繰り返しが結晶を構築するパターンの単位の完全な表示を含む。
「空間群」という用語は、結晶の対称要素の配置を表す。空間群の指定においては、大文字は格子形を示し、他の記号は、その外観を変化させることなく非対称単位の内容(contents)に関して実施され得る対称操作を表す。
「構造座標」という用語は、軸の系との関連で1つ又は複数のアミノ酸残基の位置を規定する一組の値を表す。この用語は、分子(単数又は複数)の三次元構造を規定するデータセット(例えばデカルト座標、温度因子及び占有率)を表す。構造座標は、わずかに修正してもよいが、それでもほぼ同一の三次元構造をもたらす。構造座標の特有の一組の尺度は、得られた構造の二乗平均平方根偏差である。3Å、2Å、1.5Å、1.0Å又は0.5Å未満の二乗平均平方根偏差で互いに離れる三次元構造(特に酵素活性中心の三次元構造)をもたらす構造座標は、当業者により非常に類似のものとみなされ得る。
「二乗平均平方根偏差」という用語は、平均からの偏差の二乗の算術平均の平方根を意味する。これは、傾向又は目標(object)からの偏差又は変動を表現する方法である。本発明の目的のために、「二乗平均平方根偏差」は、表2によるPAポリペプチド断片PA−Nterの構造座標により規定されるような、PAポリペプチド断片又はその中の酵素活性中心の骨格からの、PAポリペプチド断片の変異体又はその中の酵素活性中心の骨格の変動を規定する。
本明細書中で使用する場合の「コンピュータモデルを構築すること」という用語は、原子構造情報及び相互作用モデルに基づく分子の構造及び/又は機能の定量的分析及び定性的分析を含む。「モデリング」という用語は、従来の数値基準の分子動的モデル及びエネルギー最小化モデル、相互作用的コンピュータグラフィックモデル、改変(modified)分子力学モデル、距離幾何学法、並びに他の構造基準制約モデルを含む。
「フィッティングプログラム操作」という用語は、化学的物質を酵素活性中心、結合ポケット、分子若しくは分子複合体又はその一部分と会合させるために、化学的物質、酵素活性中心、結合ポケット、分子若しくは分子複合体又はその一部分の構造座標を利用する操作を表す。これは、化学的物質を酵素活性中心中で位置決め、回転又は平行移動し、酵素活性中心の形状及び静電的相補性を適合させることにより、達成することができる。共有的相互作用と、水素結合相互作用、静電的相互作用、疎水的相互作用、ファンデルワールス相互作用等の非共有的相互作用と、反発的な電荷−電荷相互作用、双極子−双極子相互作用及び電荷−双極子相互作用等の非相補的な静電的相互作用とが、最適化され得る。代替的に、化学的物質と酵素活性中心との結合の変形エネルギーを最小化することができる。
本明細書中で使用する場合の「試験化合物」という用語は、対象のポリペプチド断片、すなわち本発明のPAポリペプチド断片、又はヌクレオチド鎖切断活性(acitvity)を有するその変異体のヌクレオチド鎖切断活性を阻害するその能力に関して試験される化合物、分子又は複合体を含む作用物質を表す。試験化合物は、ペプチド、ペプトイド、ポリペプチド、タンパク質(抗体を含む)、脂質、金属、ヌクレオチド、ヌクレオチド類似体、ヌクレオシド、核酸、有機小分子若しくは無機小分子、化学的化合物、元素、糖類、同位体、炭水化物、造影剤、リポタンパク質、糖タンパク質、酵素、分析プローブ、ポリアミン並びにその組合せ及び誘導体を含むがこれらに限定されない任意の作用物質であり得る。「小分子」という用語は、50ダルトン〜約2500ダルトンの分子量、好ましくは200ダルトン〜800ダルトンの範囲の分子量を有する分子を表す。加えて、本発明による試験化合物は、検出可能な標識を任意に含み得る。このような標識は、酵素標識、放射性同位体又は放射性化合物若しくは放射性元素、蛍光化合物又は蛍光金属、化学発光化合物及び生物発光化合物を含むがこれらに限定されない。このような検出可能な標識を試験化合物に結合するために、既知の方法が使用され得る。本発明の試験化合物は、天然生成物、又は混合コンビナトリアル合成の生成物を含有する抽出物等の、物質の複雑な混合物も含み得る。これらも試験することができ、標的ポリペプチド断片のヌクレオチド鎖切断活性を阻害する成分を、その後の工程で混合物から精製することができる。試験化合物は、合成又は天然の化合物のライブラリから誘導するか、又は選択することができる。例えば、合成化合物ライブラリは、Maybridge Chemical Co.(Trevillet, Cornwall,UK)、ChemBridge Corporation(SanDiego, CA)又はAldrich(Milwaukee,WI)から市販されている。天然化合物ライブラリは、例えば、TimTec LLC(Newark, DE)から入手可能である。代替的に、細菌細胞、真菌細胞、植物細胞及び動物細胞並びに組織抽出物の形態の天然化合物のライブラリを使用することができる。さらに、試験化合物を、個々の化合物として、又は混合物としてコンビナトリアルケミストリを使用して、合成的に製造することができる。コンビナトリアルケミストリを使用して作製した化合物のコレクションは、本明細書中でコンビナトリアルライブラリと称される。
本発明との関連では、「ヌクレオチド鎖切断活性を変調させる化合物」は、ウイルスRNA依存性RNAポリメラーゼの(or)PAサブユニット又はその変異体のヌクレオチド鎖切断活性を増大又は減少させることができ、好ましくは阻害することができる。好ましくは、このような化合物は、ウイルスPAサブユニット又はその変異体のヌクレオチド鎖切断活性に対して特異的であり、他のエンドヌクレアーゼ、特に哺乳動物のエンドヌクレアーゼのヌクレオチド鎖切断活性を変調させず、好ましくは減少させない。
「ヌクレオチド鎖切断活性を減少させる化合物」という用語は、オルトミクソウイルス科由来のウイルスRNA依存性RNAポリメラーゼのPAサブユニット又はその変異体のヌクレオチド鎖切断活性を、上記化合物の非存在下における、しかしそれ以外は同じ反応条件、すなわち緩衝剤条件、反応時間及び反応温度によるPAサブユニット又はその変異体のヌクレオチド鎖切断活性と比較して50%、より好ましくは60%、さらにより好ましくは70%、さらにより好ましくは80%、さらにより好ましくは90%、最も好ましくは100%減少させる化合物を意味する。PAサブユニット又はその変異体のヌクレオチド鎖切断活性を減少させる化合物が、上記活性を阻害する、すなわち上記活性を、化合物の非存在下における活性と比較して少なくとも95%、好ましくは100%減少させることが最も好ましい。PAサブユニット又はその変異体のヌクレオチド鎖切断活性を減少させる又は阻害する化合物が、PAサブユニット又はその変異体のヌクレオチド鎖切断活性を特異的に減少させる又は阻害するが、他のエンドヌクレアーゼ、例えばRNase H又は制限エンドヌクレアーゼのヌクレオチド鎖切断活性を同じ程度までは阻害せず、好ましくは全く阻害しないことが特に好ましい。例えば、当業者は、緩衝剤条件及び反応条件並びに基質濃度及びエンドヌクレアーゼ濃度を同じものとしながら、以下の試料を設定することができる:(1)基質、例えばパンハンドルRNA、ヌクレオチド鎖切断活性を有するPAポリペプチド断片又はその変異体、(2)基質、例えばパンハンドルRNA、ヌクレオチド鎖切断活性を有するPAポリペプチド断片又はその変異体、試験化合物、(3)基質、例えばパンハンドルRNA、参照エンドヌクレアーゼ、例えばRNAse H、(4)基質、例えばパンハンドルRNA、参照ヌクレオチド、例えばRNAse H、試験化合物。試料のインキュベーション後、当業者は、例えばゲル電気泳動により、基質を分析することができる。試料(2)において基質の切断、試料(4)において無傷の基質をもたらす試験化合物が好ましい。
「ハイスループット設定において」という用語は、対象のポリペプチド断片のエンドヌクレアーゼ活性を阻害するその能力に関して試験化合物のライブラリをスクリーニングするために使用される、ハイスループットスクリーニングアッセイ、及び様々な種類の技法を表す。典型的には、ハイスループットアッセイはマルチウェル形式で行われ、無細胞アッセイ及び細胞基準アッセイを含む。
「抗体」という用語は、モノクローナル抗体及びポリクローナル抗体の両方、すなわち、抗原又はハプテン、すなわちヌクレオチド鎖切断活性を有するPAポリペプチド断片又はそのペプチドを認識することができる任意の免疫グロブリンタンパク質又はその一部分を表す。好ましい一実施形態では、抗体はPAポリペプチド断片又はその変異体内における酵素(ヌクレオチド鎖切断)活性中心に結合することができる。抗体の抗原結合部分は、組換えDNA技法により、又は無傷抗体の酵素的切断若しくは化学的切断により作製され得る。幾つかの実施形態では、抗原結合部分は、Fab断片、Fab’断片、F(ab’)2断片、Fd断片、Fv断片、dAb断片及び相補性決定領域(CDR)断片、一本鎖抗体(scFv)、ヒト化抗体等のキメラ抗体、ダイアボディ(diabodies)、及びポリペプチドとの特異的抗原結合をもたらすのに十分な抗体を少なくとも一部分含有するポリペプチドを含む。
「薬学的に許容可能な塩」という用語は、本発明の方法により同定可能な化合物、又は本発明の化合物の塩を表す。好適な薬学的に許容可能な塩は、例えば、本発明の化合物の溶液を、薬学的に許容可能な酸(例えば塩酸、硫酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酢酸、安息香酸、クエン酸、酒石酸、炭酸又はリン酸)の溶液と混合することにより形成することができる酸付加塩を含む。さらに、化合物が酸性分子部分を保有する場合には、その好適な薬学的に許容可能な塩は、アルカリ金属塩(例えばナトリウム塩又はカリウム塩);アルカリ土類金属塩(例えばカルシウム塩又はマグネシウム塩);及び好適な有機リガンド(例えばハロゲン化物イオン、水酸化物イオン、カルボン酸イオン、硫酸イオン、リン酸イオン、硝酸イオン、アルキルスルホン酸イオン及びアリールスルホン酸イオン等の対陰イオンを使用して形成した、アンモニウム陽イオン、四級アンモニウム陽イオン及びアミン陽イオン)で形成される塩を含み得る。薬学的に許容可能な塩の例示的な例は、酢酸塩、アジピン酸塩、アルギン酸塩、アスコルビン酸塩、アスパラギン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、安息香酸塩、重炭酸塩、重硫酸塩、重酒石酸塩、ホウ酸塩、臭化物塩、酪酸塩、エデト酸カルシウム、カンファー酸塩(camphorate)、カンファースルホン酸塩(camphorsulfonate)、カンシル酸塩、炭酸塩、塩化物塩、クエン酸塩、クラブラン酸塩、シクロペンタンプロピオン酸塩、ジグルコン酸塩、二塩酸塩、ドデシル硫酸塩、エデト酸塩、エジシル酸塩、エストール酸塩(estolate)、エシル酸塩(esylate)、エタンスルホン酸塩、ギ酸塩、フマル酸塩、グルセプト酸塩、グルコヘプトン酸塩、グルコン酸塩、グルタミン酸塩、グリセロリン酸塩、グリコリルアルサニル酸塩(glycolylarsanilate)、ヘミ硫酸塩、ヘプタン酸塩、ヘキサン酸塩、ヘキシルレゾルシン酸塩(hexylresorcinate)、ヒドラバミン(hydrabamine)、臭化水素酸塩、塩酸塩、ヨウ化水素酸塩、2−ヒドロキシ−エタンスルホン酸塩、ヒドロキシナフトエ酸塩、ヨウ化物塩、イソチオン酸塩(isothionate)、乳酸塩、ラクトビオン酸塩、ラウリン酸塩、ラウリル硫酸塩、リンゴ酸塩、マレイン酸塩、マロン酸塩、マンデル酸塩、メシル酸塩、メタンスルホン酸塩、メチル硫酸塩、ムチン酸塩、2−ナフタレンスルホン酸塩、ナプシル酸塩、ニコチン酸塩、硝酸塩、N−メチルグルカミンアンモニウム塩、オレイン酸塩、シュウ酸塩、パモ酸塩(エンボン酸塩(embonate))、パルミチン酸塩、パントテン酸塩、ペクチン酸塩、過硫酸塩、3−フェニルプロピオン酸塩、リン酸塩/二リン酸塩、ピクリン酸塩、ピバル酸塩、ポリガラクツロン酸塩、プロピオン酸塩、サリチル酸塩、ステアリン酸塩、硫酸塩、塩基性酢酸塩、コハク酸塩、タンニン酸塩、酒石酸塩、テオクル酸塩、トシル酸塩、トリエチオジド(triethiodide)、ウンデカン酸塩、吉草酸塩等を含むがこれらに限定されない(例えば、S. M. Berge et al., "Pharmaceutical Salts", J. Pharm. Sci.66:1-19(1977)を参照されたい)。
本明細書中で使用される場合の「添加物」という用語は、例えば担体、結合剤、滑剤、増粘剤、界面活性剤、保存料、乳化剤、緩衝液、香料又は着色料等の、活性成分ではない、薬学的配合物中の全ての物質を示すことが意図される。
「薬学的に許容可能な担体」という用語は、例えば炭酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム、タルク、糖、ラクトース、ペクチン、デキストリン、デンプン、ゼラチン、トラガカント、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、低融点ワックス、ココアバター等を含む。
詳細な説明
本発明は、インフルエンザウイルスポリメラーゼのPAサブユニットに関して特有の役割を初めて確立し、エンドヌクレアーゼ活性部位がPB1サブユニット内に位置するという定説に反論するものである。この活性は三量体複合体においてのみ検出可能であると考えられていたが、本発明者らは驚くべきことに、PAサブユニットのN末端由来の独立的に折り畳まれた小ドメインが三量体複合体に関して報告されたエンドヌクレアーゼの機能的特性を示すことを見出した。さらに本発明者らは、このPAポリペプチド断片は組換え手段により容易に作製することができ、したがってヌクレオチド鎖切断活性及び(and and)その変調に関するin vitroの研究に、並びに特に活性部位における構造情報を得るための結晶化に好適であることを見出した。
エンドヌクレアーゼ活性を有するウイルスRNA依存性RNAポリメラーゼのPAサブユニットのアミノ末端断片を含むポリペプチド断片であって、上記PAサブユニットがオルトミクソウイルス科に属するウイルス由来のものである、ポリペプチド断片を提供することは、本発明の一態様である。好ましくは、ポリペプチド断片は水溶液中に可溶性である。本発明のポリペプチド断片の最小の長さは、ポリヌクレオチド鎖、例えばパンハンドルRNA又は一本鎖DNAを切断するその能力により確定される、すなわち該ポリペプチドの最小の長さは、そのヌクレオチド鎖切断活性により確定される。好ましくはエンドヌクレアーゼ活性はポリヌクレオチドの種類に依存せず、したがってDNA及びRNAに対して、好ましくは一本鎖DNA及び一本鎖RNAに対して発揮され得る。好ましくは、エンドヌクレアーゼ活性は、基質となるポリヌクレオチド内の特定の認識部位に依存しない。
好ましい一実施形態では、ポリペプチド断片は結晶化に好適である、すなわち好ましくはポリペプチド断片は結晶化可能である。好ましくは、本発明によるポリペプチド断片から取得可能な結晶は、X線結晶学を使用するポリペプチド断片の構造決定に好適である。好ましくは上記結晶は、25ミクロンの立方体よりも大きく、好ましくは単色X線に対する曝露により収集される好ましくは3.5Åの又はより良好な分解能における85%超の回折データ完全性(completeness)が得られるほどに放射線に対して十分に安定である。
一実施形態では、ポリペプチド断片は、(i)10mM〜3M、好ましくは10mM〜2M、より好ましくは20mM〜1Mの範囲の濃度のpH3〜pH9、好ましくはpH4〜pH9、より好ましくはpH7〜pH9の緩衝剤系、例えばTris−HClにおいて5mg/ml〜10mg/ml、例えば5mg/ml、5.5mg/ml、6mg/ml、6.5mg/ml、7mg/ml、7.5mg/ml、8mg/ml、8.5mg/ml、9mg/ml、9.5mg/ml又は10mg/ml、好ましくは8mg/ml〜10mg/mlのタンパク質濃度を有するタンパク質水溶液、すなわち結晶化溶液、及び(ii)1つ又は複数の化合物、例えばギ酸ナトリウム、硫酸アンモニウム、硫酸リチウム、酢酸マグネシウム、酢酸マンガン又はエチレングリコールを含む沈殿剤/リザーバ溶液を使用して結晶化可能である。任意に、タンパク質溶液は、1つ又は複数の塩、例えば一価の塩、例えばNaCl、KCl若しくはLiCl、好ましくはNaClを10mM〜1M、好ましくは20mM〜500mM、より好ましくは50mM〜200mMの範囲の濃度で、及び/又は二価の塩、例えばMnCl2、CaCl2、MgCl2、ZnCl2若しくはCoCl2、好ましくはMnCl2を0.1mM〜50mM、好ましくは0.5mM〜25mM、より好ましくは1mM〜10mMの範囲の濃度で、含有していてもよい。好ましくは、沈殿剤/リザーバ溶液は、Li2SO4を0.5M〜2M、好ましくは1M〜1.5Mの範囲の濃度で、好ましくはpH4〜8、より好ましくはpH5〜7の緩衝剤系、例えばMESを20mM〜1M、好ましくは50mM〜500mM、より好ましくは75mM〜150mMの範囲の濃度で、酢酸マグネシウム及び/若しくは酢酸マンガンを1mM〜100mM、好ましくは5mM〜20mMの範囲の濃度で、並びに/又はエチレングリコールを1%〜20%、好ましくは2%〜8%、より好ましくは2%〜4%の範囲の濃度で、含む。PAポリペプチド断片又はその変異体の純度は、結晶化溶液中において、好ましくは85%〜100%、より好ましくは90%〜100%、さらにより好ましくは95%〜100%である。結晶を作製するために、結晶化に好適なタンパク質溶液を、等体積の沈殿剤溶液と混合することができる。好ましい一実施形態では、結晶化媒体は、1.0M〜1.4M Li2SO4、80mM〜120mM MES(pH5.5〜pH6.5)、5mM〜15mM 酢酸マグネシウム及び/又は酢酸マンガン、並びに2%〜4% エチレングリコールを含む同様の体積、好ましくは等体積の沈殿剤溶液と混合した、0.05μl〜2μl、好ましくは0.8μl〜1.2μlの結晶化に好適なタンパク質溶液を含む。別の実施形態では、沈殿剤溶液は、1.2M Li2SO4、100mM MES(pH6.0)、10mM 酢酸マグネシウム及び/又は10mM 酢酸マンガン、好ましくは10mM 酢酸マグネシウム、及び3% エチレングリコールを含み、好ましくはこれらから本質的になり、又はこれらからなり、結晶化/タンパク質溶液は、5mg/ml〜10mg/ml タンパク質、20mM Tris(pH8.0)、100mM NaCl及び2.5mM MnCl2を含む、好ましくはこれらから本質的になる、又はこれらからなる。
結晶を、ハンギング−シッティングドロップ(hanging and sitting drop)法、サンドイッチドロップ法、透析法、及びマイクロバッチ又はマイクロチューブバッチデバイスを含むがこれらに限定されない当業者に既知の任意の方法により成長させることができる。単独での又は化合物との複合体としての本発明のPAポリペプチド断片又はその変異体の結晶を作製する他の結晶化条件を特定するために、上で開示された結晶化条件を変更することは、当業者には容易に分かることだろう。このような変更は、pH、タンパク質濃度及び/若しくは結晶化温度を調整すること、使用する塩及び/若しくは沈殿剤の特性若しくは濃度を変化させること、結晶化のための種々の方法を使用すること、又は結晶化を助ける添加剤、例えば洗浄剤(例えばTWEEN20(モノラウレート)、LDOA、Brij30(4ラウリルエーテル))、糖(例えばグルコース、マルトース)、有機化合物(例えばジオキサン、ジメチルホルムアミド)、ランタニドイオン若しくは多価イオン性(poly-ionic)化合物を導入することを含むがこれらに限定されない。ハイスループット結晶化アッセイを使用して結晶化条件の発見又は最適化を支援することもできる。
マイクロシーディング(Microseeding)を使用して、結晶のサイズ及び質を増大させることができる。簡潔に述べると、微結晶を粉砕して、ストック用種溶液を得る。ストック用種溶液を段階希釈する。ニードル、ガラスロッド又は一本の髪の毛(strand of hair)を使用して、各希釈溶液からの小量の試料を、種の非存在下で結晶を作り出すのに必要とされる濃度以下のタンパク質濃度を含有する一組の平衡化した液滴に添加する。目的は、液滴中において結晶成長の核となる働きをする単一の種結晶を最終的に得ることである。
本明細書で記載したような、表2に示すような構造座標を取得する方法、座標の解釈、及びタンパク質構造を理解する際のその有用性は、当業者により、標準的なテキスト、例えばJ. Drenth, "Principles of protein X-ray crystallography",2nd Ed., Springer Advanced Texts in Chemistry, New York (1999)、及びG. E. Schulz and R. H. Schirmer, "Principles of ProteinStructure", Springer Verlag, New York(1985)を参照して、一般的に理解されている。例えば、100Kまで凍結して凍結保護した(例えば、20%〜30%グリセロールを用いて)結晶を多くの場合使用して、例えばX線源としてシンクロトロン施設におけるビームライン又は回転陽極を使用して、X線回折データを初めに取得する。その後位相問題を一般的に既知の方法、例えば多波長異常回折(MAD)、重原子同形置換(multiple isomorphous replacement)(MIR)、単一波長異常回折(SAD)又は分子置換(MR)により解決する。部分構造(sub-structure)を、SHELXD(Schneider andSheldrick, 2002, Acta Crystallogr. D. Biol. Crystallogr. (Pt 10 Pt 2), 1772-1779)を使用して解明し、SHARP(Vonrhein et al., 2006, Methods Mol. Biol. 364:215-30)で位相を算出し、溶媒平滑化(solvent flattening)及び非結晶学的対称平均化により、例えばRESOLVE(Terwilliger, 2000, Acta Cryst. D. Biol. Crystallogr. 56:965-972)により改良することができる。モデル自動構築を例えばARP/wARP(Perrakis et al., 1999, Nat. Struct. Biol. 6:458-63)により、精密化を例えばREFMAC(Murshudov, 1997, Acta Crystallogr. D. Biol. Crystallogr. 53: 240-255)により、行うことができる。当業者は、所定の静電的ポテンシャルを有するPAの表面領域(好ましくは活性部位における)と相互作用する可能性がある試験化合物の側基の確定の際に役に立つ静電的表面ポテンシャル(図13を参照されたい)の確定を含む二次的な解析のために入力される構造座標(表2)を使用することができる。PAポリペプチド断片に関して生成した構造座標を使用するために、構造座標を三次元形状に変換することが必要である。これは、一組の構造座標から分子又はその一部分の三次元グラフ表示を生成することができる市販のソフトウェアの使用により達成される。このようなコンピュータプログラムの例は、MODELER(Sali and Blundell, 1993, J. Mol. Biol. 234:779-815、Insight IIホモロジーソフトウェアパッケージ(Insight II(97.0)、Molecular Simulations Incorporated(SanDiego, CA))中で実行される)である。このような三次元グラフ表示を、(i)Gaussian 92、revision C(Frisch, Gaussian, Incorporated(Pittsburgh,PA))、(ii)AMBER、4.0版(Kollman, カリフォルニア大学(San Francisco, CA))、(iii)QUANTA/CHARMM(MolecularSimulations Incorporated(San Diego, CA))、(iv)OPLS−AA(Jorgensen, 1998, Encyclopedia of Computational Chemistry, Schleyer,Ed., Wiley, New York, Vol. 3, pp. 1986-1989)、及び(v)Insight II/Discover(Biosysm Technologies Incorporated(San Diego,CA))を含む好適なプログラムにより使用して、グラフ表示(例えば静電的ポテンシャルの)を生成することができる。同様に、構造情報を、様々なアミノ酸の位置における図11に示すような残基の保存に関する情報と組み合わせて(図12を参照されたい)、異なるウイルス分離株間で特に保存されることによりこれらのウイルスの突然変異株又は他の分離株にも存在する可能性がある、PAの表面における及び/又は活性部位におけるこれらの残基を強調することができる。当業者に好適なこの情報は、残基に関連する情報を導くことができる。さらに、本発明により提供されるインフルエンザAウイルスのPA断片であるPA−Nterの構造座標(表2)は、分子置換法を使用する、オルトミクソウイルス科由来の他のウイルスのPAポリペプチド、又はアミノ酸の置換、欠失及び/又は挿入を有するPAポリペプチド変異体の構造決定に有用である。
本発明によるポリペプチド断片の好ましい一実施形態では、PAサブユニットは、インフルエンザAウイルス、インフルエンザBウイルス若しくはインフルエンザCウイルス由来のものである、又はその変異体である、好ましくはインフルエンザAウイルス由来のものである、又はその変異体である。好ましくは、本発明によるポリペプチド断片内に含まれるアミノ末端PA断片は、インフルエンザAウイルスのRNA依存性RNAポリメラーゼのPAサブユニット又はその変異体の少なくともアミノ酸1〜196、好ましくはアミノ酸1〜209、好ましくはアミノ酸1〜213、すなわち配列番号2に示すようなアミノ酸配列のアミノ酸残基1〜196、1〜209又は1〜213に対応する、好ましくはこれらから本質的になる、又はこれらからなる。
好ましい一実施形態では、本発明によるポリペプチド断片は、結晶化に好適な程度まで精製されており、好ましくはその純度は85%〜100%、より好ましくは90%〜100%、最も好ましくは95%〜100%である。
別の実施形態では、本発明によるポリペプチド断片は、二価の陽イオンと結合することができる。好ましくは、本発明によるポリペプチド断片は、1つ又は複数の二価の陽イオンと結合し、好ましくは2つの二価の陽イオンと結合する。この関連で、二価の陽イオンは好ましくは、マンガン、コバルト、カルシウム、マグネシウム及び亜鉛からなる群から(form)選択され、より好ましくはマンガン又はコバルト、最も好ましくはマンガンである。したがって、好ましい一実施形態では、本発明のポリペプチドは、2つのマンガン陽イオンとの複合体として存在する。好ましい一実施形態では、二価の陽イオンは、配列番号2に示すような、アミノ酸Glu80及びAsp108に対応するアミノ酸(第1の陽イオン)、並びにアミノ酸His41、Asp108及びGlu119に対応するアミノ酸(第2の陽イオン)に配位する。
本発明によるポリペプチド断片の好ましい一実施形態では、(i)N末端が配列番号2によるPAサブユニットのアミノ酸配列、及びエンドヌクレアーゼ活性を保持するその変異体の15位以下の、例えば15位、14位、13位、12位、11位、10位、9位、8位、7位、6位、5位、4位、3位、2位若しくは1位のアミノ酸と同一であり若しくはこれに対応し、C末端が配列番号2によるPAサブユニットのアミノ酸配列、及びエンドヌクレアーゼ活性を保持するその変異体の186位〜220位、例えば186位、187位、188位、189位、190位、191位、192位、193位、194位、195位、196位、197位、198位、199位、200位、201位、202位、203位、204位、205位、206位、207位、208位、209位、210位、211位、212位、213位、214位、215位、216位、217位、218位、219位若しくは220位から選択される位置のアミノ酸と同一であり若しくはこれに対応し;好ましくは、N末端が配列番号2によるPAサブユニットのアミノ酸配列、及びエンドヌクレアーゼ活性を保持するその変異体の15位以下の、例えば15位、14位、13位、12位、11位、10位、9位、8位、7位、6位、5位、4位、3位、2位若しくは1位のアミノ酸と同一であり若しくはこれに対応し、C末端が配列番号2によるPAサブユニットのアミノ酸配列、及びエンドヌクレアーゼ活性を保持するその変異体の196位〜220位から選択される位置のアミノ酸と同一であり若しくはこれに対応し;より好ましくは、N末端が配列番号2によるPAサブユニットのアミノ酸配列、及びエンドヌクレアーゼ活性を保持するその変異体の15位以下の、例えば15位、14位、13位、12位、11位、10位、9位、8位、7位、6位、5位、4位、3位、2位若しくは1位のアミノ酸と同一であり若しくはこれに対応し、C末端が配列番号2によるPAサブユニットのアミノ酸配列、及びエンドヌクレアーゼ活性を保持するその変異体の196位〜209位から選択される位置のアミノ酸と同一であり若しくはこれに対応し、(ii)N末端が配列番号4によるPAサブユニットのアミノ酸配列、及びエンドヌクレアーゼ活性を保持するその変異体の15位以下のアミノ酸、例えば15位、14位、13位、12位、11位、10位、9位、8位、7位、6位、5位、4位、3位、2位若しくは1位のアミノ酸と同一であり若しくはこれに対応し、C末端が配列番号4によるPAサブユニットのアミノ酸配列、及びエンドヌクレアーゼ活性を保持するその変異体の185位〜217位、例えば185位、186位、187位、188位、189位、190位、191位、192位、193位、194位、195位、196位、197位、198位、199位、200位、201位、202位、203位、204位、205位、206位、207位、208位、209位、210位、211位、212位、213位、214位、215位、216位若しくは217位から選択される位置のアミノ酸と同一であり若しくはこれに対応し;好ましくは、N末端が配列番号4によるPAサブユニットのアミノ酸配列、及びエンドヌクレアーゼ活性を保持するその変異体の15位以下のアミノ酸、例えば15位、14位、13位、12位、11位、10位、9位、8位、7位、6位、5位、4位、3位、2位若しくは1位のアミノ酸と同一であり若しくはこれに対応し、C末端が配列番号4によるPAサブユニットのアミノ酸配列、及びエンドヌクレアーゼ活性を保持するその変異体の195位〜217位から選択される位置のアミノ酸と同一であり若しくはこれに対応し;より好ましくは、N末端が配列番号4によるアミノ酸配列、及びエンドヌクレアーゼ活性を保持するその変異体の15位以下のアミノ酸、例えば15位、14位、13位、12位、11位、10位、9位、8位、7位、6位、5位、4位、3位、2位若しくは1位のアミノ酸と同一であり若しくはこれに対応し、C末端が配列番号4によるアミノ酸配列、及びエンドヌクレアーゼ活性を保持するその変異体の195位〜206位のアミノ酸と同一であり若しくはこれに対応し、又は(iii)N末端が配列番号6によるPAサブユニットのアミノ酸配列、及びエンドヌクレアーゼ活性を保持するその変異体の15位以下のアミノ酸、例えば15位、14位、13位、12位、11位、10位、9位、8位、7位、6位、5位、4位、3位、2位若しくは1位のアミノ酸と同一であり若しくはこれに対応し、C末端が配列番号6によるPAサブユニットのアミノ酸配列、及びエンドヌクレアーゼ活性を保持するその変異体の168位〜200位から選択される位置のアミノ酸、例えば168位、169位、170位、171位、172位、173位、174位、175位、176位、177位、178位、179位、180位、181位、182位、183位、184位、185位、186位、187位、188位、189位、190位、191位、192位、193位、194位、195位、196位、197位、198位、199位若しくは200位のアミノ酸と同一であり若しくはこれに対応し;好ましくは、N末端が配列番号6によるアミノ酸配列、及びエンドヌクレアーゼ活性を保持するその変異体の15位以下のアミノ酸、例えば15位、14位、13位、12位、11位、10位、9位、8位、7位、6位、5位、4位、3位、2位若しくは1位のアミノ酸と同一であり若しくはこれに対応し、C末端が配列番号6によるアミノ酸配列、及びエンドヌクレアーゼ活性を保持するその変異体の178位〜200位から選択される位置のアミノ酸と同一であり若しくはこれに対応し;より好ましくは、N末端が配列番号6によるアミノ酸配列、及びエンドヌクレアーゼ活性を保持するその変異体の15位以下のアミノ酸、例えば15位、14位、13位、12位、11位、10位、9位、8位、7位、6位、5位、4位、3位、2位若しくは1位のアミノ酸と同一であり若しくはこれに対応し、C末端が配列番号6によるアミノ酸配列、及びエンドヌクレアーゼ活性を保持するその変異体の178位〜189位から選択される位置のアミノ酸と同一である若しくはこれに対応する。
別の実施形態では、上記ポリペプチド断片は、配列番号2に示すアミノ酸配列、及びヌクレオチド鎖切断活性を保持するその変異体のアミノ酸5〜196、10〜196、15〜196、20〜196、5〜209、10〜209、15〜209、20〜209からなるアミノ酸配列の群から選択されるアミノ酸配列を有する又はこれに対応する。別の実施形態では、上記PAポリペプチド断片は、配列番号4に示すアミノ酸配列、及びヌクレオチド鎖切断活性を保持するその変異体のアミノ酸5〜195、10〜195、15〜195、20〜195、5〜206、10〜206、15〜206、20〜206からなるアミノ酸配列の群から選択されるアミノ酸を有する又はこれに対応する。別の実施形態では、上記PAポリペプチド断片は、配列番号6に示すアミノ酸配列、及びヌクレオチド鎖切断活性を保持するその変異体のアミノ酸5〜178、10〜178、15〜178、20〜178、5〜189、10〜189、15〜189、20〜189からなるアミノ酸配列の群から選択されるアミノ酸を有する又はこれに対応する。好ましい実施形態では、上記ポリペプチド断片は、アミノ酸の置換、挿入又は欠失、好ましくは上で示すような自然発生的な突然変異を含む。
別の好ましい実施形態では、本発明によるポリペプチド断片は、配列番号2に示すアミノ酸配列のアミノ酸1〜209からなり、表2に示すような構造座標により規定される構造を有する。
別の実施形態では、本発明によるポリペプチド断片は、好ましくは空間群P43212を有し、好ましくはa=b=6.71±0.2nm、c=30.29nm±0.4nmの単位格子寸法を有する、結晶形態を有する。別の実施形態では、本発明による結晶は、好ましくはa=b=6.79nm、c=49.4nm、α=β=90°、及びγ=120°の単位格子寸法を有し、好ましくは三方晶系又は六方晶系の空間群を有する、六方晶系のプレートである。好ましくは、ポリペプチド断片の結晶は、2.8Å以上、好ましくは2.6Å以上、より好ましくは2.5Å以上、さらにより好ましくは2.4Å以上、最も好ましくは2.1Å以上の分解能まで、X線を回折する。
上で言及したPAポリペプチド断片及びその変異体をコードする単離ポリヌクレオチドを提供することは、本発明の別の態様である。このような単離ヌクレオチド断片を取得するために適用される分子生物学的方法は、概して当業者に既知である(標準的な分子生物学的方法に関しては、Sambrook et al., Eds., "Molecular Cloning: A LaboratoryManual", Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New York(1989)(これは参照により本明細書に援用される)を参照されたい)。例えば、RNAを、インフルエンザウイルスに感染した細胞から単離することができ、ランダムプライマー(例えば、ランダムな六量体若しくは(of)十量体)、又は対象の断片の生成に特異的なプライマーを使用する逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)を適用して、cDNAを生成することができる。その後対象の断片を、断片特異的プライマーを使用する標準的なPCRにより増幅することができる。
好ましい一実施形態では、好ましい実施形態のPAポリペプチド断片をコードする単離ポリヌクレオチドは、配列番号1(インフルエンザA)、配列番号3(インフルエンザB)又は配列番号6(インフルエンザC)由来である。この文脈では、「由来(derived)」は、配列番号1、配列番号2及び配列番号3が全長PAポリペプチドをコードし、したがって、好ましいPAポリペプチド断片をコードするポリヌクレオチドが、それぞれコードされるPAポリペプチド断片による要求に応じて、ポリヌクレオチドの3’末端及び/又は5’末端に欠失を含み得ることを表す。
一実施形態では、本発明は、上記単離ポリヌクレオチドを含む組換えベクターに関する。当業者には、対象のポリヌクレオチド配列のベクター中への取り込みに使用される技法は、十分に明らかである(Sambrook et al., 1989(上記)も参照されたい)。このようなベクターは、プラスミドベクター、コスミドベクター、ラムダファージ等のファージベクター、アデノウイルスベクター若しくはバキュロウイルスベクター等のウイルスベクター、又は細菌人工染色体(BAC)、酵母人工染色体(YAC)若しくはP1人工染色体(PAC)等の人工染色体ベクターを含む、当業者に既知の任意のベクターを含む。上記ベクターは、原核生物発現又は真核生物発現に好適な発現ベクターであり得る。上記プラスミドは、複製開始点(ori)、多重クローニング部位、及びプロモーター(構成的な又は誘導性の)等の調節配列、転写開始部位、リボソーム結合部位、転写終結部位、ポリアデニル化シグナル、及び突然変異又は欠失の相補性に基づく抗生物質耐性マーカー又は栄養要求性マーカー等の選択マーカーを含み得る。一実施形態では、対象のポリヌクレオチド配列は、調節配列と操作可能に連結している。
別の実施形態では、上記ベクターは、対象のポリペプチド断片の精製を容易にするエピトープタグ、ペプチドタグ又はタンパク質タグをコードするヌクレオチド配列を含む。このようなエピトープタグ、ペプチドタグ又はタンパク質タグは、ヘマグルチニンタグ(HAタグ)、FLAGタグ、mycタグ、ポリHisタグ、グルタチオン−S−トランスフェラーゼタグ(GSTタグ)、マルトース結合タンパク質タグ(MBPタグ)、NusAタグ及びチオレドキシンタグ、又は(高感度)緑色蛍光タンパク質((E)GFP)、(高感度)黄色蛍光タンパク質((E)YFP)、赤色蛍光タンパク質(RFP)(イソギンチャクモドキ(Discosoma)の種由来の赤色蛍光タンパク質(DsRed)、若しくは単量体赤色蛍光タンパク質(mRFP))、シアン蛍光タンパク質(CFP)等の蛍光タンパク質タグ等を含むがこれらに限定されない。好ましい一実施形態では、エピトープタグ、ペプチドタグ又はタンパク質タグを、例えばトロンビン、第Xa因子、PreScission、TEVプロテアーゼ等のようなプロテアーゼを使用して、対象のポリペプチド断片から切断することができる。好ましくは、該タグは、TEVプロテアーゼを使用して切断する(cleaved of)ことができる。このようなプロテアーゼに関する認識部位は、当業者に既知である。例えば、TEVプロテアーゼ認識部位のアミノ酸数7のコンセンサス配列は、Glu−X−X−Tyr−X−Gln−Gly/Ser(ここで、Xはどのようなアミノ酸でもよい)であり、本発明との関連では、好ましくはGlu−Asn−Leu−Tyr−Phe−Gln−Gly(配列番号21)である。別の実施形態では、ベクターは、組換え宿主細胞の培養培地中への、又は細菌の細胞膜周辺腔中への、対象のポリペプチド断片の分泌をもたらす機能的配列を含む。シグナル配列断片は、通常、細胞からのタンパク質の分泌を指示する疎水性アミノ酸を含むシグナルペプチドをコードする。タンパク質は、増殖培地中に(グラム陽性細菌)、又は細胞の内膜と外膜との間に位置する細胞膜周辺腔中に(グラム陰性細菌)分泌される。好ましくは、in vivo又はin vitroで切断され、シグナルペプチド断片と外来遺伝子との間にコードされ得るプロセシング部位が存在する。
別の態様では、本発明は、上記単離ポリヌクレオチド又は上記組換えベクターを含む組換え宿主細胞を提供する。組換え宿主細胞は、古細菌細胞及び細菌細胞等の原核生物細胞、又は酵母細胞、植物細胞、昆虫細胞若しくは哺乳動物細胞等の真核生物細胞であり得る。好ましい一実施形態では、宿主細胞は、大腸菌細胞等の細菌細胞である。当業者には、上記単離ポリヌクレオチド又は上記組換えベクターを上記宿主細胞中に導入する方法は、十分に明らかである。例えば、細菌細胞は、例えば化学的形質転換(例えば塩化カルシウム法)又はエレクトロポレーションを使用して、容易に形質転換することができる。酵母細胞は、例えば、酢酸リチウム形質転換法又はエレクトロポレーションを使用して、形質転換することができる。他の真核生物細胞は、例えば、Lipofectamine(商標)(Invitrogen)等の市販のリポソーム系トランスフェクションキット、Fugene(RocheDiagnostics)等の市販の脂質系トランスフェクションキット、ポリエチレングリコール系トランスフェクション、リン酸カルシウム沈殿、遺伝子銃(微粒子銃)、エレクトロポレーション又はウイルス感染を使用して、トランスフェクトすることができる。本発明の好ましい一実施形態では、組換え宿主細胞は、対象のポリヌクレオチド断片を発現する。さらにより好ましい一実施形態では、上記発現は、本発明の可溶性ポリペプチド断片をもたらす。これらのポリペプチド断片は、上で言及したエピトープタグ、ペプチドタグ又はタンパク質タグを任意に利用して、当業者に既知のタンパク質精製法を使用して、精製することができる。
別の態様では、本発明は、オルトミクソウイルス科由来のウイルスRNA依存性RNAポリメラーゼのPAサブユニット又はその変異体のエンドヌクレアーゼ活性を変調させる化合物を同定する方法であって、
(a)表2に示される本発明によるポリペプチド断片の構造座標により規定される活性部位のコンピュータモデルを構築する工程、
(b)活性を変調させる有望な化合物を選択する工程であって、
(i)分子断片を集合化させて上記化合物とすること、
(ii)小分子データベースから化合物を選択すること、及び
(iii)上記化合物の新規リガンド設計
からなる群から選択される方法により、活性を変調させる有望な化合物を選択する工程、
(c)演算手段を利用する工程であって、該活性部位における上記化合物のエネルギーを最小化した立体配置を提供するために、上記化合物と上記活性部位とのコンピュータモデル間のフィッティングプログラム操作を行う、利用する工程、並びに
(d)上記フィッティング操作の結果を評価する工程であって、上記化合物と該活性部位モデルとの間の会合を定量化し、それにより上記活性部位と会合する上記化合物の能力を評価する、評価する工程
を含む、方法に関する。
好ましくは、変調させる化合物は、PAサブユニット又はその変異体内におけるヌクレオチド鎖切断活性部位と結合する。変調させる化合物は、上記ヌクレオチド鎖切断活性を増大又は減少させることができ、好ましくは減少させることができる。
本発明のこの態様の好ましい一実施形態では、PAサブユニット又はその変異体のエンドヌクレアーゼ活性を変調させる化合物は上記活性を減少させ、より好ましくは上記化合物は上記活性を阻害する。好ましくは、該化合物は、PAサブユニット又はその変異体のヌクレオチド鎖切断活性を、上記化合物の非存在下における、しかしそれ以外は同じ反応条件、すなわち緩衝剤条件、反応時間及び反応温度によるPAサブユニット又はその変異体のヌクレオチド鎖切断活性と比較して50%、より好ましくは60%、さらにより好ましくは70%、さらにより好ましくは80%、さらにより好ましくは90%、最も好ましくは100%減少させる。該化合物が、PAサブユニット又はその変異体のヌクレオチド鎖切断活性を特異的に減少させる又は阻害するが、他のエンドヌクレアーゼ、特に哺乳動物のエンドヌクレアーゼのヌクレオチド鎖切断活性を同じ程度までは減少させず又は阻害せず、好ましくは全く減少させない又は阻害しないことが特に好ましい。
初めて、本発明は、表2によるヌクレオチド鎖切断活性部位の構造座標に基づき、PAサブユニット又はその変異体のヌクレオチド鎖切断活性を変調させる可能性のある化合物を同定、選択又は設計する分子設計技法の使用を可能とする。このような予測モデルは、ヌクレオチド鎖切断活性を変調させる可能性を有する多数の多様な化合物の調製及び試験に関連する費用が高いという観点から貴重である。PAポリペプチド断片に関して生成した構造座標を使用するために、構造座標を三次元形状に変換することが必要である。これは、一組の構造座標から分子又はその一部分の三次元グラフ表示を生成することができる市販のソフトウェアの使用により達成される。このようなコンピュータプログラムの例は、MODELER(Sali and Blundell, 1993, J. Mol. Biol. 234:779-815、Insight IIホモロジーソフトウェアパッケージ(Insight II(97.0)、Molecular Simulations Incorporated(SanDiego, CA))中で実行される)である。
当業者は、PAサブユニット又はPAポリペプチド変異体のヌクレオチド鎖切断活性を変調させるその能力に関して、化学的物質又は断片をスクリーニングする複数の方法を使用することができる。このプロセスは、例えば、表2による構造座標に基づくPAのヌクレオチド鎖切断活性部位の三次元コンピュータモデルの目視検査により、開始し得る。選択した断片又は化学的化合物は、その後様々な方向で位置づけることができ、又は活性部位内にドッキングすることができる。Cerius、Quanta及びSybyl(Tripos Associates(St. Louis, MO))等のソフトウェアを使用してドッキングを達成することができ、その後OPLS−AA、CHARMM及びAMBER等の標準的な分子動力学力場を用いてエネルギー最小化及び分子動力学的検討を行う。好適な化合物又は断片を選択するプロセスにおいて当業者を支援することができるさらなる特定のコンピュータプログラムは、例えば、(i)AUTODOCK(Goodsell et al., 1990, Proteins: Struct., Funct., Genet. 8: 195-202;AUTODOCKはThe Scripps Research Institute(La Jolla, CA)から入手可能である)、及び(ii)DOCK(Kuntz et al., 1982, J. Mol. Biol., 161: 269-288;DOCKは、カリフォルニア大学(San Francisco, CA)から入手可能である)を含む。
好適な化合物又は断片が選択されると、それらを設計するか、又は集合化させ単一の化合物又は複合体とすることができる。この手動のモデル構築は、Quanta又はSybyl等のソフトウェアを使用して行われる。個々の化合物又は断片を連結する際に当業者を支援する有用なプログラムは、例えば、(i)CAVEAT(Bartlett et al., 1989, in Molecular Recognition in Chemical and BiologicalProblems, Special Publication, Royal Chem. Soc., 78:182-196、Lauri and Bartlett, 1994; J. Comp. Aid. Mol. Des. 8:51-66;CAVEATはカリフォルニア大学(Berkley, CA)から入手可能である)、(ii)ISIS(MDLInformation Systems(San Leandro, CA);Martin, 1992, J. Med. Chem. 35: 2145-2154中で概説されている)等の3Dデータベースシステム、及び(iii)HOOK(Eisen et al., 1994, Proteins: Struct., Funct., Genet. 19:199-221;HOOKはMolecular Simulations Incorporated(SanDiego, CA)から入手可能である)を含む。
本発明により可能となる別のアプローチは、PAサブユニットのヌクレオチド鎖切断活性部位、又はPAポリペプチド変異体の活性部位と全体的に又は部分的に結合することができる化合物に関する小分子データベースの演算によるスクリーニングである。このスクリーニングでは、このような化合物の活性部位への適合(fit)の質は、形状相補性により、又は推定相互作用エネルギーにより、判断することができる(Meng et al., 1992, J. Comp. Chem. 13:505-524)。
代替的に、PAサブユニット又はそのポリペプチド変異体のヌクレオチド鎖切断活性の有望な変調剤(modulator)、好ましくはヌクレオチド鎖切断活性の阻害剤は、表2によるPAポリペプチド断片の3D構造に基づいて新規に設計され得る。当業者が利用可能な、様々な新規のリガンド設計方法が存在する。このような方法は、(i)LUDI(Bohm, 1992, J. Comp. Aid. Mol. Des. 6:61-78;LUDIはMolecular Simulations Incorporated(SanDiego, CA)から入手可能である)、(ii)LEGEND(Nishibata and Itai,Tetrahedron 47:8985-8990;LEGENDはMolecular SimulationsIncorporated(San Diego, CA)から入手可能である)、(iii)LeapFrog(Tripos Associates(St. Louis, MO)から入手可能)、(iv)SPROUT(Gillet et al., 1993, J. Comp. Aid. Mol. Des. 7:127-153;SPROUTはリーズ大学(UK)から入手可能である)、(v)GROUPBUILD(Rotstein and Murcko,1993, J. Med. Chem. 36:1700-1710)、及び(vi)GROW(Moon and Howe,1991, Proteins 11:314-328)を含む。
加えて、ヌクレオチド鎖切断活性部位の有望な変調剤及び/又は阻害剤、好ましくはヌクレオチド鎖切断活性部位の結合パートナーの新規の設計及びモデリングの際に当業者を支援することができる複数の分子モデリング技法(参照により本明細書に援用される)が記載されており、例えば、Cohen et al., 1990, J. Med. Chem. 33:883-894、Navia and Murcko, 1992, Curr. Opin. Struct. Biol. 2:202-210、Balbes et al., 1994, Reviews in Computational Chemistry, Vol. 5,Lipkowitz and Boyd, Eds., VCH, New York, pp. 37-380、Guida,1994, Curr. Opin. Struct. Biol. 4:777-781を含む。
PAサブユニット又はその変異体のヌクレオチド鎖切断活性部位と結合するものとして設計又は選択された分子は、その結合状態において好ましくは標的領域との反発的な静電的相互作用を欠くように、さらに演算的に最適化することができる。このような非相補的な(例えば静電的な)相互作用は、反発的な電荷−電荷相互作用、双極子−双極子相互作用及び電荷−双極子相互作用を含む。具体的には、結合状態における結合化合物と結合ポケットとの間の全静電的相互作用の合計は、好ましくは結合のエンタルピーに対する中立的な(neutral)又は好ましい寄与をもたらす。化合物変形エネルギー及び静電的相互作用を評価することができる特定のコンピュータプログラムが、当該技術分野で利用可能である。好適なプログラムの例は、(i)Gaussian 92、revision C(Frisch, Gaussian, Incorporated(Pittsburgh,PA))、(ii)AMBER、4.0版(Kollman, カリフォルニア大学(San Francisco, CA))、(iii)QUANTA/CHARMM(MolecularSimulations Incorporated(San Diego, CA))、(iv)OPLS−AA(Jorgensen, 1998, Encyclopedia of Computational Chemistry, Schleyer,Ed., Wiley, New York, Vol. 3, pp. 1986-1989)、及び(v)Insight II/Discover(Biosysm Technologies Incorporated(San Diego,CA))を含む。これらのプログラムは、例えば、Silicon Graphicsワークステーション、IRIS 4D/35又はIBM RISC/6000ワークステーションモデル550を使用して、実行することができる。他のハードウェアシステム及びソフトウェアパッケージが、当業者に既知である。
上で説明したように、対象の分子が選択又は設計されると、その後、その結合特性を改善又は修正するために、その原子又は側基の幾つかにおいて置換が為され得る。概して、初期置換は保存的であり、すなわち、置換基は元の基とおよそ同じサイズ、形状、疎水性及び電荷を有する。勿論、立体構造を変化させることが当該技術分野において知られている成分は避けるべきであると理解すべきである。このような置換した化学的化合物は、その後、上で詳細に説明した同様の演算(computer)方法により、PAサブユニット又はその変異体のヌクレオチド鎖切断活性部位への適合の効率に関して分析することができる。
上で記載した本発明の方法の一実施形態では、PAサブユニット又はその変異体のヌクレオチド鎖切断活性部位は、配列番号2によるPAサブユニットのアミノ酸Asp108、Ile120及びLys134に対応するアミノ酸を含む。別の実施形態では、上記活性部位は、配列番号2によるアミノ酸Asp108、Ile120、Lys134及びHis41に対応するアミノ酸を含む。別の実施形態では、上記活性部位は、配列番号2によるアミノ酸Asp108、Ile120、Lys134及びGlu80に対応するアミノ酸を含む。別の実施形態では、上記活性部位は、配列番号2によるアミノ酸Asp108、Ile120、Lys134及びGlu119に対応するアミノ酸を含む。別の実施形態では、上記活性部位は、配列番号2によるアミノ酸Asp108、Ile120、Lys134、His41、Glu80及びGlu119に対応するアミノ酸を含む。さらに別の実施形態では、上記活性部位は、配列番号2によるアミノ酸Asp108、Ile120、Lys134、His41、Glu80、Glu119及びTyr24に対応するアミノ酸を含む。さらに別の実施形態では、上記活性部位は、配列番号2によるアミノ酸Asp108、Ile120、Lys134、His41、Glu80、Glu119及びArg84に対応するアミノ酸を含む。さらに別の実施形態では、上記活性部位は、配列番号2によるアミノ酸Asp108、Ile120、Lys134、His41、Glu80、Glu119及びLeu106に対応するアミノ酸を含む。さらに別の実施形態では、上記活性部位は、配列番号2によるアミノ酸Asp108、Ile120、Lys134、His41、Glu80、Glu119及びTyr130に対応するアミノ酸を含む。さらに別の実施形態では、上記活性部位は、配列番号2によるアミノ酸Asp108、Ile120、Lys134、His41、Glu80、Glu119及びGlu133に対応するアミノ酸を含む。さらに別の実施形態では、上記活性部位は、配列番号2によるアミノ酸Asp108、Ile120、Lys134、His41、Glu80、Glu119及びLys137に対応するアミノ酸を含む。別の実施形態では、上記活性部位は、配列番号2によるアミノ酸Asp108、Ile120、Lys134、His41、Glu80、Glu119、Tyr24、Arg84及びLeu106に対応するアミノ酸を含む。別の実施形態では、上記活性部位は、配列番号2によるアミノ酸Asp108、Ile120、Lys134、His41、Glu80、Glu119、Tyr130、Glu133及びLys137に対応するアミノ酸を含む。別の実施形態では、上記活性部位は、配列番号2によるアミノ酸Asp108、Ile120、Lys134、His41、Glu80、Glu119、Tyr24、Arg84、Leu106、Tyr130、Glu133及びLys137に対応するアミノ酸を含む。
上で説明される本発明の方法のさらなる一態様において、PAサブユニット又はその変異体のヌクレオチド鎖切断活性部位は、表2によるPA(配列番号2)のアミノ酸Asp108、Ile120及びLys134の構造座標により規定される。別の実施形態では、上記活性部位が、表2によるPA(配列番号2)のアミノ酸Asp108、Ile120、Lys134及びHis41の構造座標により規定される。別の実施形態では、上記活性部位が、表2によるPA(配列番号2)のアミノ酸Asp108、Ile120、Lys134及びGlu80の構造座標により規定される。別の実施形態では、上記活性部位が、表2によるPA(配列番号2)のアミノ酸Asp108、Ile120、Lys134及びGlu119の構造座標により規定される。別の実施形態では、上記活性部位が、表2によるPA(配列番号2)のアミノ酸Asp108、Ile120、Lys134、His41、Glu80及びGlu119の構造座標により規定される。別の実施形態では、上記活性部位が、表2によるPA(配列番号2)のアミノ酸Asp108、Ile120、Lys134、His41、Glu80、Glu119及びTyr24の構造座標により規定される。さらに別の実施形態では、上記活性部位が、表2によるPA(配列番号2)のアミノ酸Asp108、Ile120、Lys134、His41、Glu80、Glu119及びArg84の構造座標により規定される。別の実施形態では、上記活性部位が、表2によるPA(配列番号2)のアミノ酸Asp108、Ile120、Lys134、His41、Glu80、Glu119及びLeu106の構造座標により規定される。別の実施形態では、上記活性部位が、表2によるPA(配列番号2)のアミノ酸Asp108、Ile120、Lys134、His41、Glu80、Glu119及びTyr130の構造座標により規定される。別の実施形態では、上記活性部位が、表2によるPA(配列番号2)のアミノ酸Asp108、Ile120、Lys134、His41、Glu80、Glu119及びGlu133の構造座標により規定される。別の実施形態では、上記活性部位が、表2によるPA(配列番号2)のアミノ酸Asp108、Ile120、Lys134、His41、Glu80、Glu119及びLys137の構造座標により規定される。別の実施形態では、上記活性部位が、表2によるPA(配列番号2)のアミノ酸Asp108、Ile120、Lys134、His41、Glu80、Glu119、Tyr24、Arg84及びLeu106の構造座標により規定される。別の実施形態では、上記活性部位が、表2によるPA(配列番号2)のアミノ酸Asp108、Ile120、Lys134、His41、Glu80、Glu119、Tyr130、Glu133及びLys137の構造座標により規定される。別の実施形態では、上記活性部位が、表2によるPA(配列番号2)のアミノ酸Asp108、Ile120、Lys134、His41、Glu80、Glu119、Tyr24、Arg84、Leu106、Tyr130、Glu133及びLys137の構造座標により規定される。
一態様では、本発明は、表2によるPAサブユニットのヌクレオチド鎖切断活性部位に対する変異体であるヌクレオチド鎖切断活性部位を変調させることができる及び/又はこれと会合することができる化合物に関する、上記で説明される方法による演算によるスクリーニング方法を提供する。一実施形態では、上記活性部位の上記変異体は、表2によるアミノ酸Asp108、Ile120及びLys134の;アミノ酸Asp108、Ile120、Lys134及びHis41の;アミノ酸Asp108、Ile120、Lys134及びGlu80の;アミノ酸Asp108、Ile120、Lys134及びGlu119の;アミノ酸Asp108、Ile120、Lys134、His41、Glu80及びGlu119の;アミノ酸Asp108、Ile120、Lys134、His41、Glu80、Glu119及びTyr24の;アミノ酸Asp108、Ile120、Lys134、His41、Glu80、Glu119及びArg84の;アミノ酸Asp108、Ile120、Lys134、His41、Glu80、Glu119及びLeu106の;アミノ酸Asp108、Ile120、Lys134、His41、Glu80、Glu119及びTyr130の;アミノ酸Asp108、Ile120、Lys134、His41、Glu80、Glu119及びGlu133の;アミノ酸Asp108、Ile120、Lys134、His41、Glu80、Glu119及びLys137の;アミノ酸Asp108、Ile120、Lys134、His41、Glu80、Glu119、Tyr24、Arg84及びLeu106の;アミノ酸Asp108、Ile120、Lys134、His41、Glu80、Glu119、Tyr130、Glu133及びLys137の;アミノ酸Asp108、Ile120、Lys134、His41、Glu80、Glu119、Tyr24、Arg84、Leu106、Tyr130、Glu133及びLys137の骨格原子からの3Å以下の二乗平均平方根偏差を有する。別の実施形態では、上記二乗平均平方根偏差が2.5Å以下である。別の実施形態では、上記二乗平均平方根偏差が2Å以下である。別の実施形態では、上記二乗平均平方根偏差が1.5Å以下である。別の実施形態では、上記二乗平均平方根偏差が1Å以下である。別の実施形態では、上記二乗平均平方根偏差が0.5Å以下である。
本明細書において上で記載した本方法によるコンピュータモデリングによりPAサブユニット又はその変異体の活性部位に対する化合物の結合が示される場合、上記化合物を合成することができ、任意に、1つ又は複数の薬学的に許容可能な添加物及び/又は担体と共に上記化合物又はその薬学的に許容可能な塩を配合することができる。したがって、上で記載した方法は、(e)上記化合物を合成すると共に、任意に、1つ又は複数の薬学的に許容可能な添加物及び/又は担体と共に上記化合物又はその薬学的に許容可能な塩を配合するさらなる工程を含み得る。任意に、PAサブユニット又はその変異体のヌクレオチド鎖切断活性を変調させる、好ましくは減少させる、好ましくは阻害する上記化合物又はその薬学的に許容可能な塩又はその配合物の能力を、(f)上記化合物を本発明のPAポリペプチド断片若しくはその変異体又は組換え宿主細胞と接触させるさらなる工程であって、PAサブユニットポリペプチド断片若しくはその変異体の(i)活性部位と結合する、及び/又は(ii)ヌクレオチド鎖切断活性を変調させる、減少させる若しくは阻害する上記化合物の能力を確定する、接触させるさらなる工程を含めて、in vitro又はin vivoで試験することができる。活性部位に対するこのような化合物の適合の質を、形状相補性により、又は推定相互作用エネルギーにより判断することができる(Meng et al., 1992, J. Comp. Chem. 13:505-524)。上記化合物を合成する方法は当業者に既知であり、又はこのような化合物は市販されていることがある。
上で記載した方法により同定可能な化合物であって、上記化合物が、PAサブユニット又はその変異体のエンドヌクレアーゼ活性を変調させることができる、化合物を提供することは、本発明の別の態様である。別の態様では、本発明は、上で記載した方法により同定可能な化合物であって、上記化合物が、PAサブユニット又はその変異体、例えば本発明によるPAサブユニットポリペプチド又はその変異体のエンドヌクレアーゼ活性を減少させることができ、好ましくは阻害することができる、化合物を表す。本発明の化合物は、ペプチド、ペプトイド、ポリペプチド、タンパク質(抗体を含む)、脂質、金属、ヌクレオチド、ヌクレオシド、核酸、有機小分子若しくは無機小分子、化学的化合物、元素、糖類、同位体、炭水化物、造影剤、リポタンパク質、糖タンパク質、酵素、分析プローブ、ポリアミン、並びにその組合せ及び誘導体を含むがこれらに限定されない任意の作用物質であり得る。「小分子」という用語は、50ダルトン〜約2500ダルトン、好ましくは200ダルトン〜800ダルトンの範囲の分子量を有する分子を表す。加えて、本発明による試験化合物は、検出可能な標識を任意に含み得る。このような標識は、酵素標識、放射性同位体又は放射性化合物若しくは放射性元素、蛍光化合物又は蛍光金属、化学発光化合物、及び生物発光化合物を含むがこれらに限定されない。本発明による化合物の好ましい一実施形態では、化合物は、4−置換2−ジオキソブタン酸、4−置換4−ジオキソブタン酸、4−置換2,4−ジオキソブタン酸、ピラジン−2,6−ジオン若しくは置換ピラジン−2,6−ジオン、例えばフルチミド、N−ヒドロキサム酸、又はN−ヒドロキシミド(hydroxymide)ではない。特に、本発明による化合物は、式I:
R2=アシル、カルバモイル、スルホニル
による化合物ではない。
さらなる一態様では、本発明は、PAサブユニット又はそのポリペプチド変異体のヌクレオチド鎖切断活性部位と結合し、好ましくはエンドヌクレアーゼ活性を変調させ、より好ましくは減少させ、最も好ましくは阻害する化合物を同定する方法であって、(i)本発明によるPAポリペプチド断片又は本発明による組換え宿主細胞を試験化合物と接触させる工程、及び(ii)上記PAサブユニットポリペプチド断片のヌクレオチド鎖切断活性部位と結合する、エンドヌクレアーゼ活性を変調させる、減少させる、又は阻害する上記試験化合物の能力を分析する工程を含む、方法を提供する。
一実施形態において、PAポリペプチド断片又はその変異体と試験化合物との間の相互作用を、プルダウンアッセイの形態で分析することができる。例えば、PAポリペプチド断片を精製することができ、ビーズ上で固定化することができる。一実施形態では、ビーズ上で固定化されたPAポリペプチド断片は、例えば(i)別の精製タンパク質、ポリペプチド断片若しくはペプチド、(ii)タンパク質、ポリペプチド断片若しくはペプチドの混合物、又は(iii)細胞若しくは組織の抽出物と接触させることができ、タンパク質、ポリペプチド断片又はペプチドの結合を、クーマシー染色又はウェスタンブロッティングと組み合わせて、ポリアクリルアミドゲル電気泳動により検証することができる。未知の結合パートナーを、質量分光分析により同定することができる。
別の実施形態において、PAポリペプチド断片又はその変異体と試験化合物との間の相互作用を、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)に基づく実験形態で分析することができる。一実施形態では、本発明によるPAポリペプチド断片又はその変異体を、ELISAプレート表面上に固定化することができ、試験化合物と接触させることができる。例えばタンパク質、ポリペプチド、ペプチド及びエピトープタグ付き化合物に対する試験化合物の結合を、試験化合物又はエピトープタグに特異的な抗体により検証することができる。これらの抗体を酵素と直接的に結合することができるか、又は好適な基質と組み合わせて、化学発光反応(例えばホースラディッシュペルオキシダーゼ)若しくは比色反応(例えばアルカリホスファターゼ)を実施する上記酵素と結合した二次抗体によって検出することができる。別の実施形態では、抗体では検出することができない化合物の結合を、試験化合物と直接的に結合した標識により検証することができる。かかる標識には、酵素標識、放射性同位体又は放射性化合物若しくは放射性元素、蛍光化合物又は蛍光金属、化学発光化合物、及び生物発光化合物が含まれ得る。別の実施形態では、試験化合物をELISAプレート上に固定化することができ、本発明による可溶性のPAポリペプチド断片又はその変異体と接触させることができる。上記ポリペプチドの結合を、PAポリペプチド断片特異的抗体と、上で説明されるような化学発光反応又は比色反応とにより検証することができる。
さらなる一実施形態において、精製されたPAポリペプチド断片を、ペプチドアレイと共にインキュベートすることができ、PAポリペプチド断片と、特異的なペプチド配列に対応する特異的なペプチドスポットとの結合を、例えばPAポリペプチド特異的抗体、PAポリペプチド断片と融合したエピトープタグを対象とする抗体により、又はPAポリペプチド断片と結合した蛍光タグから放出された蛍光シグナルにより分析することができる。
別の実施形態において、本発明による組換え宿主細胞を試験化合物と接触させる。これは、試験タンパク質又はポリペプチドの共発現と、例えば蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)又は免疫共沈降による相互作用の検証とにより達成することができる。別の実施形態では、直接的に標識された試験化合物を、組換え宿主細胞の培地に添加することができる。試験化合物が膜に浸透し、PAポリペプチド断片と結合する可能性は、例えば上記ポリペプチドの免疫沈降と標識の存在の検証とにより検証することができる。
別の実施形態では、PAサブユニットポリペプチド断片又はその変異体のヌクレオチド鎖切断活性を変調させる、好ましくは減少させる、より好ましくは阻害する試験化合物の能力を評価する。例えば、精製したPAサブユニットポリペプチド断片と、その基質、例えばパンハンドルRNA又は一本鎖DNAとを、変動量の試験化合物の存在下又は非存在下で接触させ、或る特定の期間、例えば5分間、10分間、15分間、20分間、30分間、40分間、60分間又は90分間インキュベートする。試験化合物の非存在下でPAサブユニットポリペプチドがヌクレオチド鎖切断活性を有するように反応条件を選択する。その後基質を、分解/ヌクレオチド鎖切断に関して、例えばゲル電気泳動により分析する。代替的には、このような試験は、基質分子がエンドヌクレアーゼにより切断された場合にはシグナルをもたらすが基質分子が無傷である場合にはシグナルをもたらさない標識した基質分子を含み得る。例えば、基質ポリヌクレオチド鎖を、基質ポリヌクレオチド鎖が無傷である場合には蛍光レポーターが消光されるように、蛍光レポーター分子及び蛍光クエンチャーにより標識することができる。基質ポリヌクレオチド鎖が切断された場合には蛍光レポーター及びクエンチャーは分離し、したがって蛍光レポーターは、例えばELISAリーダーにより、検出することができるシグナルを放射する。この実験設定をマルチウェルプレート形式において適用することができ、この設定は、PAサブユニットポリペプチド断片又はその変異体のエンドヌクレアーゼ活性を変調させる、減少させる、又は阻害するその能力に関する化合物のハイスループットスクリーニングに好適である。
好ましい一実施形態では、PAサブユニットポリペプチド断片又はその変異体のヌクレオチド鎖切断活性部位と会合する、ヌクレオチド鎖切断活性を変調させる、減少させる、又は阻害する化合物を同定する上で記載した方法を、ハイスループット設定において行う。好ましい一実施形態では、上記方法を、本発明によるPAポリペプチド断片又はその変異体及び標識した試験化合物を使用して、上で記載したようなマルチウェルマイクロタイタープレートにおいて実施する。
好ましい一実施形態では試験化合物は、合成化合物又は天然化合物のライブラリに由来する。例えば、合成化合物ライブラリは、Maybridge Chemical Co.(Trevillet, Cornwall,UK)、ChemBridge Corporation(SanDiego, CA)又はAldrich(Milwaukee,WI)から市販されている。天然化合物ライブラリは例えば、TimTec LLC(Newark, DE)より入手可能である。代替的に、細菌、真菌、植物及び動物の抽出物の形態の天然化合物のライブラリを使用することができる。さらに、試験化合物を、個々の化合物として又は混合物のいずれかとして、コンビナトリアルケミストリを使用して合成的に作製することができる。
別の実施形態において、インフルエンザウイルスのライフサイクルに対する同定した化合物の阻害効果をin vivo設定で試験してもよい。293Tヒト胚腎臓細胞、Madin−Darbyイヌ腎臓細胞又はトリ胚線維芽細胞等のインフルエンザウイルスに感染しやすい細胞株を、同定した化合物の存在下又は非存在下でインフルエンザウイルスに感染させることができる。好ましい一実施形態では、同定した化合物を、様々な濃度で細胞の培養培地に添加することができる。ウイルスプラーク形成を、インフルエンザウイルスの感染能に関する読出し情報(read out)として使用することができ、同定した化合物で処理した細胞と処理していない細胞との間で比較することができる。
本発明のさらなる一実施形態において、上で説明される方法のいずれかで適用される試験化合物は小分子である。好ましい一実施形態では、上記小分子は、ライブラリ、例えば小分子阻害剤ライブラリに由来する。別の実施形態では、上記試験化合物はペプチド又はタンパク質である。好ましい一実施形態では、上記ペプチド又はタンパク質は、ペプチド又はタンパク質ライブラリに由来する。
上で説明される、本発明によるPAサブユニットポリペプチド断片又はその変異体のヌクレオチド鎖切断活性部位と会合し、ヌクレオチド鎖切断活性を変調させ、減少させ、又は阻害する化合物を演算及びin vitroで同定する方法の別の実施形態において、上記方法は、同定可能な化合物又はその薬学的に許容可能な塩を、1つ又は複数の薬学的に許容可能な添加物及び/又は担体と共に配合する工程をさらに含む。別の態様では、本発明は、上述の方法により製造可能な薬学的組成物を提供する。本発明による化合物を単独で投与することができるが、ヒト療法では概して、意図される投与経路及び標準的な薬務に関して選択される好適な薬学的な添加物、希釈剤又は担体と混合して投与する(以下を参照されたい)。
本発明によるPAサブユニットポリペプチド断片又はその変異体のヌクレオチド鎖切断活性部位に関する結合パートナー、ヌクレオチド鎖切断活性の変調剤及び/又は阻害剤の演算によるモデリング又はスクリーニングの態様において、調合薬として投与される分子に有益であり得る化学的分子部分を対象の分子に導入することが可能であり得る。例えば、分子と標的領域との結合には直接影響し得ないが、例えば薬学的に許容可能な担体における分子の溶解度全体、分子のバイオアベイラビリティ、及び/又は分子の毒性に寄与する化学的分子部分を対象の分子に導入する、又は化学的分子部分を対象の分子から除外することが可能であり得る。対象の分子の薬理を最適化するための検討事項及び方法は、例えば"Goodman and Gilman's The Pharmacological Basis of Therapeutics",8th Edition, Goodman, Gilman, Rall, Nies, & Taylor, Eds.,Pergamon Press(1985)、Jorgensen& Duffy, 2000, Bioorg. Med. Chem. Lett. 10:1155-1158に見出すことができる。さらに、対象の有機分子の物理的に重要となる記載及び薬学的に関連する特性に関する迅速な予測を提供するのに、コンピュータプログラム「Qik Prop」を使用することができる。新たに合成された化合物の経口吸収を推測するのに、「5の法則(Rule of Five)」見込み法を使用することができる(Lipinski etal., 1997, Adv. Drug Deliv. Rev. 23:3-25)。ファーマコフォアの選択及び設計に好適なプログラムとしては、(i)DISCO(Abbot Laboratories(Abbot Park, IL))、(ii)Catalyst(Bio-CAD Corp.(Mountain View, CA))及び(iii)Chem DBS−3D(Chemical Design Ltd.(Oxford, UK))が挙げられる。
本発明で考慮される薬学的組成物を、当業者にとって既知の様々な方法で構築することができる。例えば、本発明の薬学的組成物は、錠剤、ピル、カプセル(軟ゲルカプセルを含む)、カシェ剤、ロゼンジ、腔坐剤、粉末、顆粒若しくは坐剤の形態のような固体形態、又はエリキシル、溶液、エマルション若しくは懸濁液の形態のような液体形態であり得る。
固体投与形態は、微小結晶性セルロース、ラクトース、クエン酸ナトリウム、炭酸カルシウム、二塩基性リン酸カルシウム、グリシン及びデンプン(好ましくはトウモロコシ、ジャガイモ又はタピオカのデンプン)等の添加物、デンプングリコール酸ナトリウム、クロスカルメロースナトリウム及び或る特定のケイ酸錯体等の崩壊剤、並びにポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、スクロース、ゼラチン及びアカシア等の造粒結合剤を含有し得る。さらに、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、ベヘン酸グリセリル及びタルク等の平滑剤が含まれ得る。類似の種類の固体組成物をゼラチンカプセルにおける充填剤として利用してもよい。これに関する好ましい添加物としては、ラクトース、デンプン、セルロース、乳糖又は高分子量のポリエチレングリコールが挙げられる。
経口投与に適した水性の懸濁液、溶液、エリキシル及びエマルションに関して、化合物を、様々な甘味料又は香料、着色物質又は色素、乳化剤及び/又は懸濁化剤、及び水、エタノール、プロピレングリコール及びグリセリン等の希釈剤、並びにそれらの組合せと組み合わせることができる。
本発明の薬学的組成物は、例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、エチルセルロース、酢酸セルロース、ポリエチレンオキシド、キサンタンガム、カルボマー、アンモニオメタクリレートコポリマー、硬化ヒマシ油、カルナバワックス、パラフィンワックス、酢酸フタル酸セルロース、フタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メタクリル酸コポリマー、及びそれらの混合物を含む放出速度調整剤を含有し得る。
本発明の薬学的組成物は、即時分散性又は溶解性の剤形配合物(fast dispersing or dissolving dosage formulations)(FDDF)の形態であってもよく、以下の成分を含有し得る:アスパルテーム、アセスルファムカリウム、クエン酸、クロスカルメロースナトリウム、クロスポビドン、ジアスコルビン酸、アクリル酸エチル、エチルセルロース、ゼラチン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ステアリン酸マグネシウム、マンニトール、メタクリル酸メチル、ミント香料、ポリエチレングリコール、ヒュームドシリカ、二酸化ケイ素、デンプングリコール酸ナトリウム、ステアリルフマル酸ナトリウム、ソルビトール、キシリトール。
坐剤を調製するために、初めに脂肪酸グリセリド又はココアバターの混合物等の低融点ワックスを融解させ、撹拌等により、活性成分をこの中に均一に分散させる。それから融解した均一混合物を手頃な大きさの鋳型に入れ、冷却することにより、固体化させる。
非経口投与に好適な本発明の薬学的組成物は、滅菌水溶液の形態で使用することが最良とされ、これには他の物質、例えばこの溶液を血液と等張にするのに十分な塩又はグルコースが含有されていてもよい。必要に応じて、水溶液を好適に緩衝させる(好ましくは3〜9のpHに)必要がある。
鼻腔内投与及び吸入による投与に好適な薬学的組成物は、例えばジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、1,1,1,2−テトラフルオロエタン(HFA 134A.TM.)若しくは1,1,1,2,3,3,3−ヘプタフルオロプロパン(HFA 227EA.TM.)等のヒドロフルオロアルカン、二酸化炭素、又は別の好適なガス等の好適な推進剤を使用して、加圧容器、ポンプ、スプレー又はネブライザから、乾燥粉末吸入剤又はエアロゾル噴霧剤の形態で送達されることが最良とされる。加圧容器、ポンプ、スプレー又はネブライザは、例えば溶媒としてエタノールと推進剤との混合物を使用して、活性化合物の溶液又は懸濁液を含有していてもよく、平滑剤、例えばトリオレイン酸ソルビタンをさらに含有していてもよい。
上で記載した方法により同定可能な化合物であって、該化合物が、PAサブユニット又はその変異体のエンドヌクレアーゼ活性を変調させることができる、化合物を提供することは、本発明の別の態様である。別の態様では、本発明は、上で記載した方法により同定可能な化合物であって、該化合物が、PAサブユニット又はその変異体、例えば本発明によるPAサブユニットポリペプチド又はその変異体のエンドヌクレアーゼ活性を減少させることができる、好ましくは阻害することができる、化合物を表す。本発明の化合物は、in silicoのスクリーニング方法のための、上で記載したような任意の作用物質であり得る。本発明による化合物の好ましい一実施形態では、化合物は、4−置換2−ジオキソブタン酸、4−置換4−ジオキソブタン酸、4−置換2,4−ジオキソブタン酸、ピラジン−2,6−ジオン若しくは置換ピラジン−2,6−ジオン、例えばフルチミド、N−ヒドロキサム酸、又はN−ヒドロキシミドではない。特に、本発明による化合物は、式Iによる化合物ではない。
別の態様では、本発明は、PAサブユニットのエンドヌクレアーゼドメインを対象とする抗体を提供する。好ましい一実施形態では、上記抗体は、配列番号9〜配列番号17により規定されるポリペプチド、すなわち配列番号2に示すようなアミノ酸配列のアミノ酸20〜30(配列番号9)、35〜45(配列番号10)、75〜85(配列番号11)、80〜90(配列番号12)、100〜110(配列番号13)、107〜112(配列番号20)、115〜125(配列番号14)、125〜135(配列番号15)、130〜140(配列番号16)及び135〜145(配列番号17)の群から選択されるポリペプチド断片の認識によりエンドヌクレアーゼドメインを認識する。好ましくは、上記抗体は、アミノ酸配列PDLYDYK(配列番号20)を認識する。特に、上記抗体は、活性部位を規定する上で示されるアミノ酸の1つ又は複数を含むエピトープと特異的に結合する。この関連で、「エピトープ」という用語は、その技術分野で認識される意味を有し、好ましくは4個〜20個のアミノ酸、好ましくは5個〜18個、5個〜15個又は7個〜14個のアミノ酸のストレッチを表す。したがって、好ましいエピトープは、4個〜20個、5個〜18個、好ましくは5個〜15個又は7個〜14個のアミノ酸の長さを有し、配列番号2のAsp108、Ile120、Lys134、His41、Glu80、Glu119、Tyr24、Arg84、Leu106、Tyr130、Glu133及び/若しくはLys137の1つ若しくは複数、又は1つ若しくは複数の対応するアミノ酸を含む。
本発明の抗体は、モノクローナル抗体若しくはポリクローナル抗体又はその一部分であり得る。抗原結合部分は、組換えDNA技法により、又は無傷抗体の酵素的切断若しくは化学的切断により作製することができる。幾つかの実施形態では、抗原結合部分は、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fd、Fv、dAb、及び相補性決定領域(CDR)断片、一本鎖抗体(scFv)、キメラ抗体、例えばヒト化抗体、ダイアボディ、並びにポリペプチドとの特異的な抗原結合をもたらすのに十分な抗体の一部分を少なくとも含有するポリペプチドを含む。本発明の抗体は、標準的なプロトコルに従って生成される。例えば、ポリクローナル抗体を、当業者に既知の標準的な方法に従って、任意にアジュバント、例えばフロイント完全アジュバント若しくはフロイント不完全アジュバント、RIBI(ムラミルジペプチド)、又はISCOM(免疫刺激複合体)と組み合わせて、対象の抗原により動物、例えばマウス、ラット、ウサギ、ヤギ、ヒツジ、ブタ、ウシ又はウマを免疫付与することにより生成することができる。PA又はその断片のエンドヌクレアーゼドメインを対象とするポリクローナル抗血清を、免疫付与した動物を採血(bleeding)又は屠殺することにより動物から得る。(i)血清を動物から得たままの状態で使用することができ、(ii)免疫グロブリン画分を血清から得ることができ、又は(iii)PA若しくはその断片のエンドヌクレアーゼドメインに対して特異的な抗体を血清から精製することができる。モノクローナル抗体を、当業者に既知の方法により生成することができる。簡潔に述べると、免疫付与後に動物を屠殺し、当該技術分野で既知の任意の手段によりリンパ節及び/又は脾臓B細胞を不死化する。細胞を不死化する方法は、癌遺伝子で細胞をトランスフェクトすること、細胞を腫瘍ウイルスに感染させると共に不死化した細胞に関して選択する条件下で細胞を培養すること、細胞を発癌性化合物又は突然変異性化合物に曝露すること(subjecting)、細胞を不死化した細胞(例えば骨髄腫細胞)と融合させること、並びに腫瘍抑制遺伝子を不活性化させることを含むがこれらに限定されない。不死化した細胞を、PAエンドヌクレアーゼドメイン又はその断片を使用してスクリーニングする。PAエンドヌクレアーゼドメイン又はその断片を対象とする抗体を産生する細胞、例えばハイブリドーマを、選択し、クローニングし、堅固な成長、高い抗体産生及び所望の抗体特性を含む所望の特性に関してさらにスクリーニングする。ハイブリドーマを、(i)in vivoでは同系動物において、(ii)免疫系を欠く動物、例えばヌードマウスで、又は(iii)in vitroでは細胞培養液で増殖させることができる。ハイブリドーマを選択する、クローニングする、及び増殖させる方法は、当業者に既知である。当業者は、抗体の生成に関する支援のために、標準的なテキスト、例えば“Antibodies: ALaboratory Manual”,Harlow and Lane, Eds., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor,New York (1990)(参照により本明細書中に援用される)を参照することができる。
別の態様では、本発明は、オルトミクソウイルス科のマイナスセンス一本鎖RNAウイルスによるウイルス感染により引き起こされる疾患状態を治療、改善又は予防する薬物の製造のための、PAサブユニットポリペプチド断片若しくはその変異体のヌクレオチド鎖切断活性部位と結合することができ、及び/若しくはPAサブユニットポリペプチド断片若しくはその変異体のヌクレオチド鎖切断活性を変調させることができ、好ましくは減少させることができ、より好ましくは阻害することができる、上で記載した方法により同定可能な化合物、上で記載される薬学的組成物、又は本発明の抗体の使用に関する。好ましい一実施形態では、上記疾患状態は、インフルエンザAウイルス、インフルエンザBウイルス、インフルエンザCウイルス、イサウイルス又はトゴトウイルスによるウイルス感染により引き起こされる。さらにより好ましい一実施形態では、上記疾患状態は、インフルエンザAウイルス、インフルエンザBウイルス、インフルエンザCウイルス、最も好ましくはインフルエンザAウイルスからなる群から選択されるウイルス種による感染により引き起こされる。
上記疾患状態を治療、改善又は予防するために、本発明の薬物を、動物患者、好ましくは哺乳動物患者、好ましくはヒト患者に、経口的に、頬側に、舌下に、鼻腔内に、肺経路を介して、例えば吸入により、直腸経路を介して、又は非経口的に、例えば洞内に(intracavernosally)、静脈内に、動脈内に、腹腔内に、髄腔内に、心室内に、尿道内に(intraurethrally)、胸骨内に(intrasternally)、脳内に(intracranially)、筋肉内に、若しくは皮下に投与することができ、本発明の薬物を、点滴法又は無針注射法により投与することができる。
本発明の薬学的組成物を、当業者に既知の様々な方法で、また上で記載したように、構築することができる。
薬学的調製物は単位投薬形態であるのが好ましい。かかる形態では、調製物を適当な量の活性成分を含有する単位用量にさらに分割する。単位投薬形態は、パッケージングされた調製物、別々の量の調製物を含有するパッケージ、例えばバイアル又はアンプル中に入れられた錠剤、カプセル及び粉末であり得る。また、単位投薬形態自体がカプセル、錠剤、カシェ剤又はロゼンジであってもよく、又は単位投薬形態はパッケージングされた形態である適当な数のこれらのいずれかであってもよい。
本発明の使用において投与される単位投薬調製物における活性成分の量は、特定の用途及び活性成分の効力に応じて約1mg/m2〜約1000mg/m2、好ましくは約5mg/m2〜約150mg/m2に変更又は調整してもよい。
本発明の医学的使用に利用される化合物を、1日当たり約0.05mg/kg〜約20mg/kgの初期投薬量で投与する。約0.05mg/kg〜約2mg/kgの範囲の1日用量が好ましく、約0.05mg/kg〜約1mg/kgの範囲の1日用量が最も好ましい。しかしながら投与量は、患者の要求、治療される状態の重症度、及び利用される化合物に応じて変わり得る。特定の状況に対する好適な投与量の決定は実践者の技能の範囲内である。概して、治療は化合物の最適用量未満のより少ない投与量から始める。その後、或る環境下で最適な効果に到達するまで、投与量を少しずつ増大させる。必要に応じて、便宜的に、1日の総投与量を分割し、1日の間で何回かに分けて(in portions)投与してもよい。
実施例は、本発明をさらに説明するために設計され、より良い理解に役立つ。実施例は、本発明の範囲を限定するものと解釈されるものでは決してない。
実施例の要約
配列番号2に示すアミノ酸配列の残基1〜209(A/Victoria/3/1975(H3N2))であるPA−Nterを、大腸菌において発現させ、アフィニティ及びゲル濾過クロマトグラフィにより精製した。熱安定性に対する金属イオンの影響を、thermofluorアッセイにより試験した(Ericsson et al., 2006, Anal. Biochem. 357:289-298)。エンドヌクレアーゼ活性を、10μMの様々なRNA基質(Alu−RNA:ピロコッカス・ホリコシ(P. horikoshii)のSRP RNAのAluドメインの110ヌクレオチド、カンジダ・アルビカンス(C. albicans)のtRNA Asn、UリッチRNA(5’−GGCCAUCCUGU7CCCU11CU19−3’(配列番号18)、Saito et al., 2008, Nature 454:523-527)、81ヌクレオチドのパンハンドルRNA(ph−RNA)(Baudin et al., 1994, EMBO J. 13:3158-3165)、単に(just)保存3’末端及び5’末端を短鎖リンカーと共に含む36ヌクレオチドの短鎖ph−RNA、並びに環状一本鎖DNA(M13mp18)(Fermentas))と共に13μM PA−Nterを37℃でインキュベーションすることにより試験した。2Åの分解能まで回折する結晶を、20mM Tris(pH8.0)、100mM NaCl及び2.5mM MnCl2中における5mg/ml〜10mg/mlのタンパク質溶液、並びに1.2M Li2SO4、100mM MES(pH6.0)、10mM 酢酸マグネシウム及び3% エチレングリコールのリザーバ組成物を使用するハンギングドロップ法により20℃で得た。回折データを、欧州シンクロトロン放射線施設(ESRF)でビームラインID14−4及びID23−1で収集した。構造を、塩化ガドリニウム浸漬結晶を使用する単一波長異常分散(SAD)法により解明した。9つの部位をSHELXD(Schneider and Sheldrick, 2002, Acta Crastallogr. D. Biol.Crystallogr. 58:1772-1779)により見出し、SHARP(de La Fortelleet al., 1997, Methods in Enzymology 276:472-494)を用いて精密化した。RESOLVE(Terwilliger, 2002, Acta Crystallogr. D. Biol. Crystallogr.58:2213-2215)を用いる3倍(three-fold)NCS平均化の後、解釈可能なマップを得て、そのモデルの多くをARP/wARP(Perrakis et al., 1999, Nat. Struct. Biol. 6:458-463)を用いて構築することができた。さらに、未処理の(native)結晶に関してマンガンK端(X線波長1.89Å)でデータを測定して、異常差異フーリエ合成により、結合したマンガンイオンの位置及び同一性を明らかにした。非対称単位にA、B及びCと示す3つの分子が存在する。金属イオン構造は、分子Aにおいて最も良く規定される。結晶学的な統計量を表1に要約し、より詳細な情報は以下の実験実施例で得られる。
表1:PA−Nterに関するデータ収集及び精密化統計量
(表中英語は以下の意味)
native:未処理
Mn K-edge:Mn K端
Gd derivative:Gd誘導体
data collection:データ収集
Beamline:ビームライン
Wavelength:波長
Space group:空間群
Cell dimensions:格子寸法
Resolution:分解能
Completeness:完全性
Redundancy:冗長性
Refinement:精密化
Total No.reflections/free:総反射数/フリー
No. atoms:原子数
Protein:タンパク質
Water/sulphate/Mn ions:水/スルフェート/Mnイオン
Average B-factors:平均B因子
All atoms:全原子
Chains:鎖
R.ms.deviations:二乗平均平方根偏差
Bond lengths:結合長
Bond angles:結合角
Ramachandran Plot:ラマチャンドランプロット
Favoured:好ましい
Allowed:許容される
実施例1:クローニング、発現及び精製
配列番号2に示すアミノ酸配列のPAの残基1〜209(A/Victoria/3/1975(H3N2))をコードするDNAを、pET−M11発現ベクター(EMBL)のNcoI部位とXhoI部位との間にクローニングした。アミノ酸配列GMGSGMA(配列番号19)を有するポリペプチドリンカーを、TEVプロテアーゼによる100%の切断を得るように、タバコエッチウイルス(TEV)切断部位の後ろに操作した(engineered)。このベクターを使用して、BL21(DE3)−RIL−CodonPlus大腸菌株(Stratagene)を形質転換した。0.1mM イソプロピル−β−チオガラクトピラノシド(ITPG)による誘導後、LB培地中で15℃で終夜、タンパク質を発現した。固定化金属アフィニティカラム(IMAC)により、タンパク質を精製した。Hisタグ付きTEVプロテアーゼを使用する切断後に第2のIMAC工程を行い、その後Superdex200カラム(GE Healthcare)でゲル濾過を行った。最後にタンパク質を5mg/ml〜10mg/mlまで濃縮した。
実施例2:エンドヌクレアーゼアッセイ
エンドヌクレアーゼアッセイのための全てのリボ核酸基質を、過去に記載した(Price et al., 1995, J. Mol. Biol. 249:398-408)ようなin vitroでのT7転写により得た。2つの構造化RNAを使用した:Alu−RNA;ピロコッカス・ホリコシ(Pyrococcus horikoshii)のシグナル認識粒子(SRP)RNAのAlu−ドメインを含む110ヌクレオチド(未公開の(unpublished)構築物)、及び76ヌクレオチドから構成されるカンジダ・アルビカンス(Candida albicans)のtRNAAsn(未公開の構築物)。本発明者らは、51ヌクレオチドのウリジンリッチ非構造化RNA(UリッチRNA;5’−GGCCAUCCUGU7CCCU11CU19−3’;配列番号18)(Saito et al., 2008, Nature 454:523-527)、並びにインフルエンザAウイルスのゲノムRNAセグメント5由来の2つの部分的に折り畳まれたRNA:81ヌクレオチドのパンハンドルRNA(ph−RNA)(Baudin et al., 1994, EMBO J. 13:3158-3165)、及び単に保存3’末端及び5’末端を短鎖リンカーと共に含む36ヌクレオチドのより短いパンハンドルRNA(短鎖ph−RNA)(未公開の構築物)も使用した。環状一本鎖DNA(M13mp18)(Fermentas)も使用して、エンドヌクレアーゼ活性を試験した。
13μM PA−Nterを様々なRNA基質(全て10μM)と共に最終体積50μLで37℃でインキュベートすることによりRNAの切断を行った。反応緩衝剤は、20mM Tris−HCl(pH8)、100mM NaCl、10mM β−メルカプトエタノール及び1mM 金属塩であった。EGTAを最終濃度20mMで添加することによりインキュベーションを停止した。反応生成物を、8M 尿素/ポリアクリルアミドゲル(8%又は15%)上に装荷し、メチレンブルーで染色した。PA−NterのRNAse活性に対する二価の陽イオンの効果を、種々の金属塩(MnCl2、CaCl2、MgCl2、ZnCl2(又はpH7ではNiCl2)及びCoCl2)の存在下でph−RNAをPA−Nterと共にインキュベートすることにより、pH8(β−メルカプトエタノールの存在下で)及びpH7(β−メルカプトエタノールの非存在下で)で試験した。DNAの切断のために、環状一本鎖M13mp18 DNAを使用した。10μLの反応体積(RNAの場合と同じ緩衝剤)で、100ng/μLの精製プラスミドM13mp18を、PA−Nter及び1mM MnCl2の存在下で60分間インキュベートした。反応生成物を、0.8% アガロースゲル上に装荷し、エチジウムブロマイドで染色した。2,4−ジオキソ−4−フェニルブタン酸(DPBA)によるエンドヌクレアーゼ阻害のために、PA−Nter及びph−RNA又は一本鎖M13mp18 DNAを、1mM MnCl2及び漸増濃度のDPBAの存在下でインキュベートした。DPBAは水に難溶性であるため、65mM DPBAのストック溶液を50% エタノール中で調製し、所用の最終濃度を得るために各反応混合物に1μLのDPBA溶液のみを添加すればよいようにさらに希釈した。エタノール中における阻害剤の添加によっては反応混合物のpHは変化せず、同じ濃度のエタノール単独の添加はヌクレアーゼ活性に対する効果を有しなかった(データは示していない)。
部分的に構造化された81nt ph−RNAを使用して、PA−Nterが、二価陽イオン依存性である固有のRNase活性を有することを実証することができた(図5)。RNPにおける結果(Doan et al., 1999, Biochemistry 38:5612-5619)に矛盾せず、pH8ではマンガンで強い活性が観察され、マグネシウムイオンでより弱い活性が観察された。pH7では、PA−Nterのエンドヌクレアーゼ活性がコバルトでも観察された(図6)。40分のインキュベーションの後、高度に構造化されたRNA、例えばtRNA及びSRP Alu−RNAは分解に対して比較的耐性を有しており、部分的に構造化されたph−RNA及び短鎖−ph−RNAは部分的に分解され、非構造化UリッチRNAは完全に分解され、この酵素が一本鎖に特異的であることが示唆された(図7)。酵素は環状ssDNAも完全に分解し、これが非特異的なエンドヌクレアーゼであることが示された(図8)。RNA及びDNAの両方に対するエンドヌクレアーゼ活性は、化合物2,4−ジオキソ−4−フェニルブタン酸(既知のインフルエンザエンドヌクレアーゼの阻害剤)により用量依存的に阻害された(図9)。この化合物に関するKiは26μMと評価され、無傷のインフルエンザウイルスポリメラーゼによるキャップされたRNAの切断を阻害する同じ化合物に関して報告されたIC50と非常に良く一致している(非特許文献14)。
実施例3:熱シフトアッセイ
記載される(Ericsson et al., 2006, Anal. Biochem. 357:289-298)ように、20mM Tris−HCl(pH7.0又はpH8.0)、100mM NaCl中における10μMのPA−Nter、及びSYPRO橙色素(Invitrogen)の5×希釈液を用いて、熱シフトアッセイを行った。1分当たり1℃の増加幅で25℃から75℃まで温度を増大させながら、色素を490nmで励起させ、発光を575nmで記録した。対照アッセイをタンパク質又は色素の非存在下で実施して、蛍光シグナルが記録されないことを確認した。
熱シフトアッセイを行って、二価の陽イオンの存在下及び非存在下におけるPA−Nterの熱安定性を調査した。実験により、マンガンイオンの添加による熱安定性の顕著な増大(見かけの融解温度が44℃から57℃まで移動する)、並びにカルシウムイオン及びマグネシウムイオンの添加によるより低い程度の増大が明らかとなった(図1及び図2)。マンガンと結合したPA−Nterに対して化合物2,4−ジオキソ−4−フェニルブタン酸(既知のインフルエンザエンドヌクレアーゼの阻害剤)を滴定すると、熱安定性がさらに増大する(見かけの融解温度が59℃から(form)65℃まで移動する)(図4)が、阻害剤は金属を含まない酵素に対して効果を有しない(データは示していない)。
実施例4:遠紫外円二色性(CD)分光法
ペルチェサーモスタットを備えたJASCOのモデルJ−810 CD分光偏光計により、1mMの経路長で20℃において遠紫外CDスペクトルを記録した。PA−Nter濃度は、1mM MnCl2の存在下又は非存在下において、10mM Tris−HCl(pH8.0)、10mM NaCl中における10μMであった。残基数を使用して平均残基楕円率を算出した(PA−Nterは、開始メチオニンの前に7個のさらなる残基を加えた209残基長のものである)。200nmから260nmまでの波長スキャンを記録し、8つの連続スキャンに対して平均化した(増加幅0.5nm、応答1s、バンド幅1nm、及びスキャン速度50nm/分)。
CD分光法により調査したマンガンのPA−Nterとの結合の構造的効果により、1mM Mn2+の添加によるヘリックス含有量の顕著な増大(8〜9残基と推定される)が明らかとなった(図3)。
実施例5:結晶化及び結晶学
初回のシッティングドロップ・スクリーニングを、直角座標ロボットを使用して100nLのタンパク質溶液(6mg/ml)を100nLのウェル溶液と混合して、20℃で実施した。その後、ウェル溶液:タンパク質溶液の比率を1:1とするハンギングドロップ法により、より大きな結晶を20℃で得た。タンパク質溶液は、20mM Tris−HCl(pH8.0)、100mM NaCl、2.5mM MnCl2中における5mg/ml〜10mg/mlであった。リザーバ組成物は、結晶化条件の改良(refinement)後、100mM MES(pH6.0)、1.2M Li2SO4、10mM 酢酸マグネシウム、3% エチレングリコールであった。結晶は1週間〜2週間後に出現し、典型的には50×50×15μm3の体積を有していた。
凍結保護のために、22% エチレングリコールの存在下において液体窒素中で結晶を凍結した。回折データを、欧州シンクロトロン放射線施設(ESRF)のビームラインID14−4及びID23−1で100Kで収集し、全てのデータを、XDS suite(Kabsch, 1993, J. Appl. Cryst. 26:795-800)を使用して空間群P43212においてインテグレーション及びスケーリングした(integrated and scaled)。さらなる10mM MnCl2で2分間浸漬した後、最良のネイティブデータを、0.976Åの波長で2.05Åの分解能まで収集した。さらに、未処理の結晶に関して1.89Å(マンガンK端に近い)の波長でデータを測定して、いずれかの結合したマンガンイオンの位置及び同一性を明らかにした。構造を、5mM GdCl3を含有する母液に6時間浸漬した結晶から1.008Åの波長で収集した高い冗長性を有するデータセット(2.5Å分解能まで)により解明した。3つの初期Gd部位を、HKL2MAP(Pape and Schneider, 2004, J. Appl. Cryst. 37:843-844)において実行されるSHELXD(Schneider and Sheldrick, 2002, Acta Crystallogr. D. Biol.Crystallogr. 58:1772-1779)を使用して、その異常差異に基づいて位置づけた。SHARP(deLa Fortelle et al., 1997, Methods in Enzymology 276:472-494)における単一波長異常分散(SAD)法を使用して、これらの初期部位を精密化し、3.5Åまでの実験的位相を算出した。何回かの反復サイクルの後、残りのマップにおいてさらなる6つの部位を同定し、2.5Åまで位相を精密化した。これらの初期位相を、SHARPにおける密度修正パッケージSOLOMONを用いて改善した。最終的に、CCP4(共同計算プロジェクト(Collaborative Computational Project)、1994,Acta Crystallogr. D. Biol. Crystallogr. 50:760-763)において実行されるDM(Cowtan, 1994, Joint CCP4 and ESF-EACBM Newsletter on ProteinCrystallography 31:34-38)を用いて平均化するためのRESOLVE(Terwilliger,2002, Acta Crystallogr. D. Biol. Crystallogr. 58:2213-2215)により9つのGd部位から特定した3倍NCS演算子(operators)を使用することにより、明らかに解釈可能なマップを得た。この平均化マップは、RESOLVE(Terwilliger, 2003, Acta Crystallogr. D. Biol. Crystallogr. 59:45-49)で648個の考え得るアミノ酸(そのうち85個はアサインされた配列であり得た)のうち396個を構築するのに十分な質を有するものであった。手動で修正したモデル、及びその後の2.05Åまでの高分解能データセットを、その後ARP/wARP(Perrakis et al., 1999, Nat. Struct. Biol. 6:458-463)に入力して、より完全なモデルを得た。このモデルを、O(Joneset al., 1991, Acta Crystallogr. A 47:110-119)における手動の再構築サイクルで繰り返されるRefmac(Murshudov, 1997, Acta Crystallogr. D. Biol. Crystallogr. 53:240-255)を用いて精密化した。TLS精密化、及び構造の部分に関する緊密なNCS制約(restraints)を使用して、最終的なR因子(R−free)は0.233(0.291)である。MOLPROBITY(Lovell et al., 2003, Proteins 50:437-450)によれば、97.5%、99.8%がそれぞれラマチャンドランプロットの好ましい(favoured)領域及び許容される(allowed)領域に存在する。結晶学的な詳細を、表1に要約する。非対称単位にA、B及びDと示す3つの分子が存在する。金属イオン構造は分子Aにおいて最も良く規定される。種々の分子が、大体整列した領域69〜74及び134〜143を有する。N末端タグの6つの残基、及び残基204〜209は視認できない。分子Dは全体として整列の程度が最も低い(表1)。記載される構造において、分子の2つ(B及びD)の間の結晶接触により多数の立体構造が示され、これはおそらく分解(resolution)に関するネイティブデータの比較的高いR因子を説明するものである。PyMOL(DeLano, 2002、http://www.pymol.sourceforge.netでオンライン利用可能)を用いて構造図を描いた。図11における配列アライメントを、ESPript(http://espript.ibcp.fr/ESPript/cgi-bin/ESPript.cgi)(Gouet et al., 1999, Bioinformatics 15:305-308)を用いて描いた。静電的表面(図13)を、DelPhi(Rocchia et al., 2002, J. Comput. Chem. 23:128-137)を使用して算出した。MSDFOLD(http://www.ebi.ac.uk/msdsrv/ssm/cgi-bin/ssmserver)及びDalilite(http://www.ebi.ac.uk/Tools/dalilite/index.html)を用いて構造類似性検索を行った。
本発明者らは、約2Åの分解能まで回折し、3つの独立した分子を非対称単位中に有する、マンガン及びマグネシウムの両方の存在下におけるPA−Nterの小さい正方形板状結晶を成長させた。結晶構造により、7つのαヘリックス及び混合的な5本鎖βシートを含む、視認可能な残基1〜196を有する単一の折り畳まれたドメインが明らかとなる(図10)。表面図上に投影された、インフルエンザAウイルス、インフルエンザBウイルス及びインフルエンザCウイルスの間の構造に基づく配列アライメント(図11)により、活性部位を示唆する、酸性残基が多いことにより強く負に帯電した、非常に高度に保存された窪み(depression)が明らかとなる(図12及び図13)。構造類似性検索は高スコアのヒットをもたらさず、全体的な(global)折り畳みが新規であることが示された。見出された最も類似のタンパク質は、ピロコッカス・フリオスス(Pyrococcus furiosus)由来の古細菌ホリデイジャンクションリゾルバーゼHjcである(Nishino et al., 2001, Structure 9:197-204)。PA−NterのHjcとの構造アライメントは、リゾルバーゼ及びII型制限酵素を含む多くのヌクレアーゼに特徴的な構造モチーフを包含するヘリックスα3及びβ鎖1〜5を重ね合わせる(図14、左及び中央のパネル)。このモチーフは、触媒的に重要な二価の金属イオンと結合するHjcの酸性残基Asp33及びGlu46を含み、これにPA−NterのAsp108及びGlu119が正確に重ね合わせられる。PA−NterのII型制限エンドヌクレアーゼ(例えばBamHI又はEcoRV)との構造アライメントにより、活性部位元素の同様の重ね合わせが明らかとなる(図14、右のパネル)。リジンは一次配列においては異なる位置に存在するが、EcoRVの触媒的に重要なGlu45、Asp74、Asp90及びLys92が、それぞれPA−NterのHis41、Asp108、Glu119及びLys134と整列する(図16)。保存されるリジンは、触媒作用中における攻撃する水酸化物求核試薬の安定化に関与する。したがってPA−Nterは、DNA代謝の様々な態様に関与する多様な酵素を包含するPD−(D/E)XKヌクレアーゼスーパーファミリーの新たな成員である。PA−Nterにおいては、特徴的なモチーフが107−PDLYDYK(配列番号20)で生じるが、該スーパーファミリーの幾つかの他の成員と同様に、2つの酸性残基の間の距離間隔(separation)が異常に短く、推定の触媒的に重要なリジン(Lys134)が代替的な位置に「移動して(migrated)」いる。このファミリー内では、PA−Nterは、RNaseとしての生物学的機能性を有し、活性部位にヒスチジンを有する点において独特である。
PA−Nterの保存される酸性残基が金属結合残基であることを確認するために、本発明者らは、マンガンK吸収端で収集したデータを使用して異常差異マップを算出した。2つのマンガンイオンが、約3.8Åで分離される隣接異常ピークとして、各々の活性部位において同定された(図15、左のパネル)。より強いピーク(Mn1)はGlu80、Asp108、及び2つの水分子に配位し、より弱い部位(Mn2)はHis41、Asp108、Glu119、及びIle120のカルボニル酸素に配位する。言及した残基は、(保存的に置換されるIle120を除き)全てのインフルエンザウイルスPA配列において絶対的に保存される(図11)。2つの金属部位は、制限酵素、例えばEcoRVにおいて観察される金属部位と密に対応する(図15、右のパネル)。ヘリックスα3由来のHis41(EcoRVにおけるGlu45と同様の位置にある)は、マンガン特異性を付与するのに重要であり得るが、これはマグネシウム及びカルシウムがヒスチジンとあまり容易に結合しないためである。His41によるマンガンとの結合、及びその結果生じるヘリックスα3の安定化により、PA−Nterをマンガンと共にインキュベートすることにより検出される付加的なヘリックス含有量(8〜9残基と推定される)を説明することができた(図3)。結晶においては、Mn1は隣接分子のループ由来のGlu59にも配位する。PA−Nter上へのBamHI又はEcoRVのDNA複合体の重ね合わせにより、Glu59のカルボキシレート基が切断されやすいリン酸基の位置と密に対応することが示される(図17)。したがって本発明者らの構造は、基質複合体又は生成物複合体を模倣している。
三量体ポリメラーゼに関する過去の観察結果と組み合わせた、本発明者らの構造的及び生化学的な結果により、PA−Nterがキャップ・スナッチング時に宿主mRNAを切断するエンドヌクレアーゼであるという説得力のある証拠がもたらされる。第1に、このドメインが、ウイルスRNPに関して報告された観察結果に矛盾せず、マンガンにより選択的に活性化される固有のRNA及びDNAエンドヌクレアーゼ活性を有する(図6)。第2に、この活性は、インフルエンザエンドヌクレアーゼ活性を阻害することが知られている化合物により、ほぼ同一のKiで阻害される(図9)。第3に、このドメインは、広いファミリーのヌクレアーゼ(II型エンドヌクレアーゼを含む)の触媒コアに特徴的な構造モチーフを含有する。活性部位は、3つの酸性残基(Glu80、Asp108及びGlu119)及び推定触媒リジン(Lys134)のクラスターを特徴付ける(図14〜図16)。第4に、これらの酸性残基は、His41と共に、全てがインフルエンザウイルスにおいて絶対的に保存され、多くのヌクレアーゼに関して提唱されるような2金属依存性反応機構と立体配置的に矛盾せず、2つのマンガンイオンを配位させる(図15、左のパネル)。
以下表2は配列番号2に示すアミノ酸配列のアミノ酸1〜209によるPAポリペプチド断片のアミノ酸1〜209に関する精密な原子構造座標のリストである。非対称単位にA、B及びCと示す3つの分子が存在する。ファイルヘッダは、構造精密化に関する情報を与える。「Atom」は、座標が測定される元素を表す。そのカラム中の最初の文字は、元素を規定する。それぞれのアミノ酸の3文字コードが与えられ、アミノ酸配列位置が与えられる。「Atom」のラインにおける最初の3つの値は、測定された元素の原子位置を規定する。4つ目の値は占有率に相当し、5つ目(最後)の値は温度因子(B因子)である。占有因子は、各原子が座標により特定される位置を占有する分子の割合(fraction)を表す。値「1」は、各原子が結晶中の全ての分子において同じ立体構造、すなわち同じ位置を有することを示す。Bは、その原子中心の周りの原子の動きの尺度となる熱的因子である。異方性温度因子は、「ANISOU」と記したラインにおいて与えられる。この命名は、PDBファイル形式に対応する。
(表2)