JP2015526471A - アントラサイクリン誘発性心毒性を治療または予防するための組成物および方法 - Google Patents

アントラサイクリン誘発性心毒性を治療または予防するための組成物および方法 Download PDF

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Abstract

本発明は、アントラサイクリン治療により誘発された心臓の病態を治療するための、またはそのような病態を予防するための、ラパチニブおよび/またはラパマイシンを特徴とする方法および組成物を提供する。

Description

関連出願の相互参照
本出願は、2012年8月21日に出願された米国仮特許出願第61/691,633号の優先権を主張し、その全体が、参照により本明細書に組み込まれる。
連邦政府支援による研究下でなされた発明に対する権利の明示
本発明は、国立衛生研究所からの助成金(助成番号NHLBI(1R21HL106098−01A1))による支援を受けた。米国政府は本発明に一定の権利を有する。
アントラサイクリン類は、がんの化学療法剤として一般に用いられている一群の抗生物質である。アントラサイクリン類は、広域スペクトルを有する薬剤であり、白血病、リンパ腫、乳がん、子宮がん、卵巣がん、および肺がんなど、多数のがんを治療するために用いられている。アントラサイクリン類は効果的ながん化学療法薬であるが、心毒性を誘発するため、その潜在的有用性を十分に活かせているとは言えない。心毒性は、患者の生涯累積投与量に関連するため、生涯累積投与量は注意深く監視され、上限に達すると治療が中止される。したがって、関連する心毒性を予防することまたは遅らせることができれば、アントラサイクリン類の有用性は拡大される。また、このような予防措置にもかかわらず、患者の多くは、アントラサイクリン類による治療を受けた後、心臓障害を発症する。それゆえに、アントラサイクリン誘発性心毒性を予防または治療する組成物および方法が必要とされている。
以下に説明するように、本発明は、化学療法薬(例えばアントラサイクリン類)の使用に関連する心毒性を治療または予防するための、ラパチニブまたはラパマイシンを含む組成物および心毒性を治療または予防するためにそのような組成物を使用する方法を提供する。
一態様において、本発明は、概して、有効量のラパチニブおよび/またはラパマイシンを、それを必要とする対象に投与し、それによってアントラサイクリン誘発性心毒性を治療することを含む、アントラサイクリン誘発性心毒性の治療方法を特徴とする。
別の一態様において、本発明は、アントラサイクリンによる治療を受けた対象の心機能または生存率を高める方法であって、対象に有効量のラパチニブを投与し、それによって対象の心機能を向上させることを含む方法を特徴とする。
また別の一態様において、本発明は、有効量のラパチニブおよび/またはラパマイシンを、それを必要とする対象に投与し、それによってドキソルビシンとPI3K阻害剤との併用によって誘発された心毒性を治療することまたはそのような心毒性を予防することを含む、アントラサイクリンとPI3K阻害剤との併用によって誘発された心毒性を治療する方法またはそのような心毒性を予防する方法を特徴とする。
さらにまた別の一態様において、本発明は、有効量のラパチニブおよび/またはラパマイシンを、それを必要とする対象に投与し、それによってドキソルビシンとPI3K阻害剤との併用によって誘発された心臓肥大を治療することまたはそのような心臓肥大を予防することを含む、アントラサイクリンとPI3K阻害剤との併用によって誘発された心臓肥大を治療する方法またはそのような心臓肥大を予防する方法を特徴とする。
別の一態様において、本発明は、有効量のラパチニブおよび/またはラパマイシンならびに使用説明を含む、アントラサイクリン誘発性心毒性を予防または治療するためのキットを特徴とする。
また別の一態様において、本発明は、有効量のドキソルビシンならびに有効量のラパチニブおよび/またはラパマイシンを含む医薬組成物、ならびにそれぞれを投与するための使用説明を特徴とする。
上記の態様の様々な実施形態において、本発明の方法は、対象における心臓肥大および有害な心臓リモデリングを抑制する。さらにまた別の実施形態において、本発明のアントラサイクリンは、ダウノルビシン、ドキソルビシン、エピルビシン、イダルビシン、バルルビシン、およびミトキサントロンのうちの1つまたは複数である。一実施形態において、アントラサイクリンは、ドキソルビシンである。上記態様の別の実施形態において、本発明のPI3K阻害剤は、ウォルトマンニン、デメトキシビリジン、LY294002、ペリホシン、CAL101、PX−866、BEZ235、SF1126、INK1117、IPI−145、GDC−0941、BKM120、XL147、XL765、Palomid 529、GSK1059615、ZSTK474、PWT33597、IC87114、TG100−115、CAL263、PI−103、GNE−477、CUDC−907、BYL719、GDC−0032、BGT226、GDC0980、PF4691502、PKI587、およびAEZS−136のうちのいずれか1つまたは複数である。一実施形態において、PI3K阻害剤は、BEZ235である。上記態様の一実施形態において、ラパチニブは、ドキソルビシンおよびPI3K阻害剤と同時に投与される。上記態様の実施形態において、ラパチニブの有効量は、1日当りの投与量として約25〜100mg/kg(例えば25、30、35、40、45、50、60、75、80、90、100mg/kg)である。一実施形態において、ラパチニブの有効量は、1日当りの投与量として約25mg/kgである。上記態様の別の実施形態において、本発明は、さらに、対象におけるアントラサイクリン生涯累積投与量を測定し、生涯累積投与量が基準値を上回る場合には有効量のラパチニブおよび/またはラパマイシンを投与することを含む。上記態様のさらなる一実施形態において、対象は、心エコー検査によって識別される。
本発明は、アントラサイクリン誘発性心毒性を治療するための組成物および方法を提供する。本発明によって定義される組成物および物品は、以下に示す実施例に関して単離または別の手段により製造されたものである。本発明の他の特徴および利点は、詳細な説明および請求項により明らかになるであろう。
定義
「アントラサイクリン」は、化学療法剤として一般に使用される医薬品の一群を意味する。アントラサイクリンの代表的な例として、ダウノルビシン、ドキソルビシン(アドリアマイシンとも呼ばれる)、エピルビシン、イダルビシン、バルルビシン、およびミトキサントロンが挙げられる。
「ラパチニブ」または「N−[3−クロロ−4−[(3−フルオロフェニル)メトキシ]フェニル]−6−[5−[(2−メチルスルホニルエチルアミノ)メチル]−2−フリル]キナゾリン−4−アミン」は、乳がんなどの様々な固形腫瘍の治療に使用される二重チロシンキナーゼ阻害剤である。ラパチニブは、以下の構造を有する。
「BEZ235」または「2−メチル−2(4−[3−メチル−2−オキソ−8−(キノリン−3−イル)−2,3−ジヒドロ−1H−イミダゾ[4,5−c]キノリン−1−イル]フェニル)プロパンニトリル」は、以下の構造を有するPI3K阻害剤である。
「PI3K阻害剤」は、ホスホイノシチド3キナーゼの活性を抑制する薬剤を意味する。PI3K阻害剤としては、ウォルトマンニン、デメトキシビリジン、LY294002、ペリホシン、CAL101、PX−866、BEZ235、SF1126、INK1117、IPI−145、GDC−0941、BKM120、XL147、XL765、Palomid 529、GSK1059615、ZSTK474、PWT33597、IC87114、TG100−115、CAL263、PI−103、GNE−477、CUDC−907、およびAEZS−136が挙げられるが、これらに限定されない。
「心臓肥大」は、心筋の望ましくない増大、体の大きさに対する心室の質量の増加、または通常の心室体積もしくは増加した心室体積における心室壁の肥厚を意味する。
「心機能を高める」は、心臓のポンプ性能および容量に有益な変化をもたらすことを意味する。一実施形態において、本発明の方法は、心機能を少なくとも約10%、25%、50%、75%、またはそれ以上高める。心機能を測定する方法は、当技術分野で周知されており、本明細書に記載される。
「心エコー検査」または「心臓超音波」は、心臓周期の任意の時点における血流速度を正確に評価するために用いられる心臓のソノグラム(音波検査)を意味する。
「収縮末期容積(ESV)」は、収縮末期における心室内の血液量を意味し、収縮末期の血液量は、心臓周期のどの時点と比べても最小となる。
「拡張末期容積(EDV)」は、限界負荷時における心室内の血液量または心室内に流入した血液量を意味する。
「生存率を高める」は、治療を受けている対象の生存期間を、治療を受けていない対応コントロールである対象と比べて延長することを意味する。例えば、少なくとも約2、3、4、または5週間の延長が挙げられる。生存期間は、少なくとも約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、または12か月延長されることが好ましい。他の実施形態において、生存期間は、少なくとも1、2、3、4、または5年延長される。
「薬剤」は、任意の小分子化合物、抗体、核酸分子、もしくはポリペプチドまたはその断片(フラグメント)を意味する。
「改善する」は、疾患の発現または進行を低減、抑制、軽減、減弱、阻止、または安定化することを意味する。
「変化」は、本明細書に記載するような、当技術分野で知られた標準的な方法によって検知される臨床的指標または生体指標(例えばポリペプチド、ポリヌクレオチドのレベル)における変動(増加または減少)を意味する。本明細書において、変化は、10%、25%、40%、50%、またはそれ以上の変動を含む。
本開示において、「包含する」、「包含している」、「含んでいる」、「有している」などは、米国特許法におけるものと同様の意味をそれぞれ有しており、「包括する」、「包括している」などを意味する。同様に、「本質的に成り立っている」または「本質的に成り立つ」も、米国特許法におけるものと同様の意味を有している。このような語はオープンエンドであり、記載されているものの根本的または新規な特徴が変更されない限り、記載以外のものの存在を許容するが、先行技術の実施形態は除外する。
「検知する」は、検知対象の被分析物の存在、非存在、または量を確認することを表す。
「疾患」は、細胞、組織、または器官の正常な機能を損なったり妨害したりする任意の病態または障害を意味する。
「有効量」は、疾患の症状を治療を受けていない患者の症状と比べて改善するために必要な量を意味する。疾患の治療的処置を目的として本発明を実施するために用いる活性化合物の有効量は、投与方法、対象の年齢、体重、および健康状態によって異なる。最終的に、担当医または担当獣医が適正量および投薬計画を決定する。このような量を「有効な」量と呼ぶ。
本発明は、本明細書に記載される方法によって特徴づけられる障害を治療するための、特異性の高い治療薬の開発に有用な多くの目的物を提供する。さらに、本発明の方法は、対象において安全に実施できる治療を確認するための容易な手段を提供する。また、本発明の方法は、実質的に数の制限なく多数の化合物を対象として、本明細書に記載する疾患に対する効果を分析するための、高処理能力、高感度、かつ低複雑な手段を提供する。
「調整」は、生物学的な機能または活性における任意の変更(例えば増加または減少)を意味する。
本明細書中、「薬剤を得る」などにおける「得る」は、該薬剤を合成、購入、または他の手段により入手することを包含する。
「増加させる」または「減少させる」は、それぞれ、プラスまたはマイナスに少なくとも約10%、25%、50%、75%、または100%変化させることを意味する。
「基準」は、標準状態またはコントロールの状態を意味する。
「特異的に結合する」は、本発明のポリペプチドを認識し、該ポリペプチドに結合するが、サンプル、例えば、本発明のポリペプチドを自然に含む生物学的サンプルにおいて、他の分子を実質的に認識したり、それらと結合したりはしない化合物または抗体を意味する。
「対象」は哺乳動物を意味し、ヒトまたはヒト以外の哺乳動物、例えばウシ、ウマ、イヌ、ヒツジ、もしくはネコなどを含むが、これらに限定されない。
本明細書で提示する範囲は、その範囲内のすべての値を簡潔に表したものと理解される。例えば、1〜50の範囲は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、または50からなる群に属する任意の数字、数字の組合せ、または部分的な範囲を含むものと理解される。
本明細書中、「治療する」、「治療している」、「治療」などは、障害および/またはそれに関連する症状を軽減または改善することを表す。障害や病態の治療とは、障害、病態、またはそれらに関連する症状を完全に取り除くことを除外するものではないが、必要とするものでもないことは、十分に理解されよう。
特に記載のある場合および文脈から明らかな場合を除き、本明細書中、「または」は包括的と理解される。特に記載のある場合および文脈から明らかな場合を除き、本明細書中、「1つの(a、an)」および「その(the)」は、単数または複数を意味するものと理解される。
特に記載のある場合および文脈から明らかな場合を除き、本明細書中、「約」は、当技術分野の通常の許容範囲内、例えば、平均値±標準偏差の範囲内と理解される。約は、記載された値から10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%、0.5%、0.1%、0.05%、または0.01%の範囲内を意味するものと理解される。文脈から明らかな場合を除き、本明細書で提示される数値はすべて約という用語で修飾される。
本明細書中、可変物の定義において複数の化学基が列挙されているいずれの場合においても、該可変物の定義は、列挙された基のうち任意の単独の基または任意の複数の基の組合せを包含する。本明細書の可変物または態様に関する一実施形態の記述は、該実施形態を、任意単独の一実施形態としてまたは別の任意の実施形態もしくはそれらの一部と組み合わされた実施形態として包含する。
本明細書で提供される組成物または方法はいずれも、本明細書で提供される別の組成物および方法のうち任意の1以上と組み合わせることができる。
ドキソルビシンによる処置を受け、その後に様々な投与量のラパチニブによる処置を受けたマウスの生存曲線を示す線グラフである。 ドキソルビシンによる処置を7週間受けたマウスにおける心エコー検査の結果を、処置を受けていないコントロールと比較して示す棒グラフである。 ドキソルビシンによる処置を7週間受けたマウスにおける心エコー検査の結果を、処置を受けていないコントロールと比較して示す棒グラフである。 ドキソルビシンによる処置を受け、その後に様々な投与量のラパチニブによる処置を受けたマウスにおける心エコー検査の結果を示す棒グラフである。 ドキソルビシンによる処置を受け、その後に様々な投与量のラパチニブによる処置を受けたマウスにおける心エコー検査の結果を示す棒グラフである。 ドキソルビシンによる処置を受け、その後に様々な投与量のラパチニブによる処置を受けたマウスにおける血行動態計測の結果を示すグラフ群である。 ドキソルビシン、PI3K/mTOR阻害剤BEZ235、および様々な投与量のラパチニブによる処置を受けたマウスの生存曲線を示すグラフである。 ドキソルビシン、BEZ235、および様々な投与量のラパチニブによる処置を受けたマウスにおける心エコー検査の結果を示す棒グラフである。 ドキソルビシン、BEZ235、および様々な投与量のラパチニブによる処置を受けたマウスにおける心エコー検査の結果を示す棒グラフである。 ドキソルビシン、BEZ235、および様々な投与量のラパチニブによる処置を受けたマウスにおける心エコー検査の結果を示す棒グラフである。 ドキソルビシン、BEZ235、および様々な投与量のラパチニブによる処置を受けたマウスにおける心エコー検査の結果を示す棒グラフである。
本発明は、アントラサイクリンおよびPI3/mTORキナーゼ阻害剤BEZ235に誘発される心毒性の予防に有用であるとともに、アントラサイクリン誘発性心毒性の治療に有用であるラパチニブまたはラパマイシンを含む組成物を特徴とする。本発明は、ラパチニブおよびラパマイシンが、ドキソルビシンによる処置またはドキソルビシンとBEZ235とによる併用処置を受けたマウスの生存率および心機能を高めるという発見に少なくとも部分的に基づく。
本明細書における方法は、心臓組織へ有益な効果をもたらすために、本明細書に記載の化合物または組成物の有効量を、対象(そのような治療を必要とすると識別された対象を含む)に投与することを含む。そのような治療を必要とする対象の識別は、対象または医療従事者の判断によるものであってもよく、主観的(例えば見解)であっても客観的(例えばテストまたは診断法による測定)であってもよい。
以下でより詳しく報告するように、ラパチニブおよびラパマイシンはそれぞれ、アントラサイクリン誘発性心毒性を治療することが分かった。アントラサイクリン類は、多数のがんの治療に一般に用いられている化学療法薬である。アントラサイクリンの使用を制限する主な副作用は、心毒性の誘発である。このため、患者の累積アントラサイクリン投与量は、心機能と同様に厳密に監視される。患者が閾値を越える量のアントラサイクリンを投与された時点で、または心機能の障害が見つかった時点で、アントラサイクリン治療は中止される。ラパチニブは、HER2陽性乳がん治療での使用が認可された二重チロシンキナーゼ阻害剤である。本明細書で示されるように、ラパチニブ処置は、アントラサイクリンであるドキソルビシンによる処置を受けた動物の生存率を高めた。さらに、ラパチニブ処置は、ドキソルビシンによる処置を受けた動物の心機能を向上させることが示された。また、ドキソルビシンとPI3K阻害剤であるBEZ235との併用は、心毒性をもたらすことが分かった。ラパチニブ処置は、ドキソルビシンとBEZ235との併用による心毒性を防ぐことが示された。
本発明は、疾患および/もしくは障害またはそれらの症状を治療または予防する方法であって、本明細書に記載の式で示される化合物を含む医薬組成物の治療上有効な量を、対象(例えば、ヒトなどの哺乳動物)に投与することを含む方法を提供する。したがって、一実施形態は、アントラサイクリンもしくはPI3K/mTOR阻害剤BEZ235が誘発する心毒性に罹患している対象または罹患しやすい対象を治療する方法またはそのような心毒性を予防する方法である。該方法は、疾患もしくは障害またはそれらの症状を治療するのに十分な治療量のラパチニブを、該疾患または障害が治療されるような条件下で、哺乳動物に投与する工程を含む。
心臓血管機能の評価には、多数の標準的な方法が利用できる。対象(例えばヒト)の心臓血管機能は、心エコー検査法、核心室造影法、X線コントラスト心室造影法、または核磁気共鳴画像法などの画像検査法による最終的な心室駆出期(駆出率、短縮率、および心室収縮末期容積)の測定ならびに組織ドプラ法によって測定される収縮期の組織速度の測定などの非侵襲的手段を用いて評価されることが好ましい。また、収縮期の収縮性は、心臓の血液流出量の評価(力の評価)または容積(筋肉のピーク硬度の評価)と血圧測定とを組み合わせて非侵襲的に測定することができる。心臓血管の拡張機能の測定は、圧力と容積、拡張早期の左心室の充満速度および弛緩速度(エコードプラ測定から評価できる)によって一般的に測定される心室コンプライアンスを含む。心機能の他の測定は、心筋収縮能、安静時の一回拍出量、安静時の心拍数、安静時の心係数(単位時間当りの心拍出量(L/分)、着席時に測定、体表面積(m)で除す)、有酸素容量の総量、運動中の心血管系機能、ピーク運動能力、ピーク酸素(O)消費量の測定、または当技術分野で既知もしくは本明細書に記載の任意の方法による測定を含む。血管機能の測定は、末梢血管抵抗、大動脈インピーダンス、動脈コンプライアンス、波反射、および大動脈脈波の速度を含む多数の要因に依存する心室後負荷の総計の確定を含む。
心臓血管機能を評価する方法は、ドプラ心エコー検査法、2次元エコードプラ法、脈波ドプラ法、連続波ドプラ法、オシロメトリック方式アームカフ、組織ドプラ法、心臓カテーテル法、核磁気共鳴画像法、ポジトロン放出断層撮影法、胸部X線検査法、X線コントラスト心室造影法、核イメージング心室造影法、高速スパイラルコンピューター断層撮影法、3次元心エコー検査法、侵襲的な心圧測定法、侵襲的な心血流測定法、侵襲的な心臓の圧容積ループ測定法、および非侵襲的な心臓の圧容積ループ測定法のうちのいずれか1つもしくは複数を含む。
本明細書中、「治療する」、「治療している」、「治療」などは、障害および/またはそれに関連する症状を軽減または改善することを表す。障害や病態の治療とは、障害、病態、またはそれらに関連する症状を完全に取り除くことを除外するものではないが、必要とするものでもないことは、十分に理解されよう。
本明細書で使用されるように、「予防する」、「予防している」、「予防」、「予防的治療」などは、障害や病態を有さないものの、その発症の危険性があったり発症の起こりやすい対象において、該障害または病態が発症する可能性を低減することを表す。
本発明の治療法(予防的治療を含む)は、概して、本明細書に記載の式で示される化合物など、本明細書の化合物の治療上有効な量を、それを必要とする哺乳動物を含む対象(例えば、動物、ヒト)、特にヒトに投与することを含む。そのような治療は、疾患、障害、またはその症状に苦しんでいる、罹患している、罹患しやすい、または罹患するおそれがある対象、特にヒトに好適に行われるであろう。「罹患のおそれがある」対象の識別は、対象または医療提供者による診断テストや意見などの、任意の客観的または主観的決定(例えば遺伝子検査、酵素標識またはタンパク質標識、本明細書において定義されるマーカー、家族歴など)によって行われてもよい。
医薬組成物
本発明は、薬学的に許容可能な担体とともにラパチニブを含む医薬品を特徴とし、本発明の化合物は、アントラサイクリン治療またはアントラサイクリンとPI3K阻害剤との併用治療によって誘発される、実質的にあらゆる心臓症状の治療を提供する。本発明の医薬品は、治療的用途および予防的用途を共に有する。一実施形態において、医薬組成物は、有効量のラパチニブを含む。組成物は、無菌であり、かつ治療有効量のラパチニブを、対象(例えばヒト患者)への投与に適した単位重量または単位容量で含むものであればよい。本発明の組成物および組合せは、製剤パックの一部であってもよく、その場合、ラパチニブは1回当たりの投与量に分けられている。
予防的または治療的投与に用いる本発明の医薬組成物は、無菌であればよい。無菌状態は、無菌濾過膜(例えば0.2μm薄膜)による濾過、γ線照射、または当業者に知られている他の任意好適な手段によって、容易に実現される。治療用組成物は、概して、例えば、皮下注射針を突き刺すことのできるストッパーを有する静脈用注射液バッグまたはバイアルといった無菌アクセスポートを備えた容器に入れる。これらの組成物は通常、水溶液または再構成する凍結乾燥製剤として、例えば密封されたアンプルまたはバイアルといった単位用量容器または複数用量容器で保管される。
ラパチニブまたはラパマイシンは、薬学的に許容可能な賦形剤と任意に組み合わせてもよい。本明細書で使用される「薬学的に許容可能な賦形剤」は、ヒトへの投与に適した、相容性のある固体または液体である、1以上の充填材、希釈剤、または封入用物質を意味する。「担体」は、天然または合成の有機成分または無機成分を示し、投与を容易にするために、活性成分はこのような担体と混ぜ合わされる。また、本発明の医薬組成物の成分は、所望の医薬的効能を実質的に害する相互作用が起こらない様態であればラパチニブおよび/またはラパマイシンと、また互いに混合してもよい。
本発明の化合物は、薬学的に許容可能な賦形剤中に含ませることができる。賦形剤は、等張性および化学的安定性を高める物質などの添加物を少量含むことが好ましい。そのような物質は、使用される投与量と濃度において被投与者に無害であり、リン酸塩、クエン酸塩、コハク酸塩、酢酸塩、乳酸塩、酒石酸塩、および他の有機酸もしくはそれらの塩などの緩衝剤;トリスヒドロキシメチルアミノメタン(TRIS)、重炭酸塩、炭酸塩、ならびに他の有機塩基およびそれらの塩;アスコルビン酸などの抗酸化物質;例えばポリアルギニン、ポリリシン、ポリグルタミン酸塩、およびポリアスパラギン酸塩といった低分子量(例えば、残基が約10未満)のポリペプチド;血清アルブミン、ゼラチン、もしくは免疫グロブリンなどのタンパク質;ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリプロピレングリコール(PPG)、およびポリエチレングリコール(PEG)などの親水性ポリマー;グリシン、グルタミン酸、アスパラギン酸、ヒスチジン、リジン、もしくはアルギニンなどのアミノ酸;単糖類、二糖類、および他の炭水化物(セルロースもしくはその誘導体、グルコース、マンノース、スクロース、デキストリン、もしくは硫酸化した炭水化物誘導体(ヘパリン、コンドロイチン硫酸、もしくは硫酸デキストランなど)など);カルシウムイオン、マグネシウムイオン、およびマンガンイオンを含む二価金属イオンなどの多価金属イオン;エチレンジアミン四酢酸(EDTA)などのキレート剤;マンニトールもしくはソルビトールなどの糖アルコール類;ナトリウムもしくはアンモニウムなどの対イオン;ならびに/またはポリソルベートもしくはポロキサマなどの非イオン界面活性剤を含む。安定剤、抗菌剤、不活性ガス、液体栄養補給剤(すなわち、リンゲルデキストロース)、電解質補充薬などの他の添加物が含まれてもよく、それらは従来の量でよい。
本発明の組成物は、上記のように、有効量を投与してよい。有効量は、投与方法、治療対象となっている特定の状態、および所望の効果に依存するものである。また、病期、対象の年齢および健康状態、併用療法の場合はその特性、ならびに医師に周知のその他の要因に依存する。治療応用にとって、有効量とは、医学的に望ましい結果を達成するのに十分な量である。
アントラサイクリンによって誘発された心臓病または心臓障害を有する対象に関して、有効量は、アントラサイクリン誘発性心毒性に関連する変化の予防、軽減、安定化、または改善に十分な量であり、また心臓の病態に関連する症状の安定化、進行遅延、または軽減に十分な量である。概して、本発明の化合物の投与量は、1日当り約0.01〜1000mg/kgであろう。一実施形態において、25、50、75、100、125、または200mg/kg体重のラパチニブが対象に投与される。好ましくは、25〜100mg/kgのラパチニブが投与される。望ましくは、血漿中のあるピーク濃度を達成するのに十分な量のラパチニブが投与される。投与量は、約5〜2000mg/kgの範囲が好適であると推測される。投与量は、静脈内投与や静脈内投与用薬剤、特定の投与形態の場合に、より低くなる。初回投与時における対象の反応が不十分な場合、より高い投与量(または別の、より局所的な送達経路による、事実上高い投与量)を、患者の許容範囲内で使用してもよい。1日複数回の投与は、本発明の組成物の全身濃度が適切なレベルとなることを期して検討される。
投与経路については、様々な経路を用いることができる。本発明の方法は、概して言えば、医学的に許容可能な任意の投与方法、すなわち、臨床的に許容できない副作用を引き起こすことなく活性化合物の有効レベルをもたらす任意の方法を用いて実施してよい。好ましい一実施形態において、本発明の組成物は、経口投与される。他の投与方法として、直腸、局所的、眼内、口腔、膣内、嚢内、脳室内、気管内、鼻腔内、経皮、インプラント内もしくはインプラント上、非経口的経路が挙げられる。「非経口的」は、皮下、髄腔内、静脈内、筋肉内、腹腔内、または点滴を含む。静脈内経路または筋肉内経路は、長期治療および予防に特に適しているわけではない。しかしながら、これらの投与方法は、緊急事態においては好ましい。本発明の組成物を含む組成物は、血液などの生理液に加えてもよい。経口投与は、患者にとっての便宜および服薬スケジュール上の理由により、予防的治療に好ましい。
本発明の医薬組成物は、製剤のpHを生理的pHを示す所定レベル(約5.0〜8.0の範囲など)で維持するために、1以上のpH緩衝化合物を含んでもよい。水性液体製剤で使用されるpH緩衝化合物は、ヒスチジンなどのアミノ酸またはヒスチジンやグリシンなどのアミノ酸の混合物でもよい。また、pH緩衝化合物が、製剤の所定レベル(約5.0〜8.0の範囲など)で維持し、かつ、カルシウムイオンをキレート化しない薬剤であることも好ましい。そのようなpH緩衝化合物の実例として、イミダゾールおよび酢酸イオンが挙げられるが、これらに限定されない。pH緩衝化合物は、製剤のpHを所定レベルで維持するのに適した任意の量であってよい。
また、本発明の医薬組成物は、1以上の浸透圧調整剤、すなわち、製剤の浸透圧特性(例えば張性、オスモル濃度および/または浸透圧)を被投与者である個体の血流および血球に受け入れられるレベルに調整する化合物を含んでもよい。浸透圧調整剤は、カルシウムイオンをキレート化しない薬剤であってよい。浸透圧調整剤は、当業者にとって既知または入手可能な、製剤の浸透圧特性を調整する任意の化合物であってよい。当業者は、既知の浸透圧調整剤の、本発明の製剤における使用に対する適合性を経験的に決定してもよい。適した種類の浸透圧調整剤の実例として、塩化ナトリウムおよび酢酸ナトリウムなどの塩;スクロース、デキストロース、およびマンニトールなどの糖類;グリシンなどのアミノ酸;ならびに1以上のこれらの薬剤および/もしくはこれらの薬剤の種類の混合物が挙げられるが、これらに限定されない。浸透圧調整剤は、製剤の浸透圧特性を調整するのに十分な任意の濃度であってよい。
本発明の化合物を含む組成物は、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、および/またはマンガンイオンなどの多価金属イオンを含んでもよい。組成物を安定させるのに役立ち、被投与者である個体に悪影響を与えない、いかなる多価金属イオンであってもよい。熟練した技術者は、この2つの基準に基づき、好適な金属イオンを経験的に決定することができる。そのような金属イオンの好適なイオン源は周知であり、無機塩および有機塩を含む。
また、本発明の医薬組成物は、非水性の液体製剤であってもよい。使用する非水性の液体は、該液体に含まれる活性薬剤を安定化する好適なものであれば、いかなる非水性の液体であってもよい。非水性の液体は、親水性液体であることが好ましい。好適な非水性の液体の実例として、グリセロール、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ポリジメチルシロキサン(PMS)、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール(PEG) 200、PEG 300、およびPEG 400などのエチレングリコール類、ならびにジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール(PPG) 425、PPG 725、PPG 1000、PPG 2000、PPG 3000、およびPPG 4000などのプロピレングリコール類が挙げられる。
また、本発明の医薬組成物は、水性液体製剤と非水性液体製剤とを混合した液体製剤であってもよい。水性と非水性の液体を混ぜ合わせた液体製剤が、該液体製剤に含まれる化合物を安定化する限り、上記のような任意の好適な非水性の液体製剤を、上記のような任意の水性の液体製剤とともに使用してもよい。そのような製剤における非水性の液体は、親水性液体であることが好ましい。好適な非水性の液体の実例として、グリセロール、DMSO、PMS、PEG 200、PEG 300、およびPEG 400などのエチレングリコール類、ならびにPPG 425、PPG 725、PPG 1000、PPG 2000、PPG 3000、およびPPG 4000などのプロピレングリコール類が挙げられる。
好適な安定した製剤であれば、活性薬剤を凍結状態または未凍結の液体状態で保管することが可能となる。安定した液体製剤は、少なくとも−70℃で保管してもよく、また、組成物の特性によっては、少なくとも0℃または約0.1〜42℃のより高い温度で保管してもよい。タンパク質およびポリペプチドが、pH、温度、および治療効果に影響を与え得るその他多数の因子の変化の影響を受けやすいことは、熟練した技術者に一般的に知られている。
他の送達システムは、徐放性、遅延放出性、または持続放出性の送達システムを含んでもよい。そのようなシステムによって、本発明の組成物の反復投与を回避することができ、対象および医師の便宜が高められる。多くの種類の放出送達システムが使用可能であり、当業者に知られている。それらは、ポリラクチド(米国特許第3,773,919号明細書、欧州特許第58,481号明細書)、ポリラクチドグリコリド、コポリオキサレート、ポリカプロラクトン、ポリエステルアミド、ポリオルトエステル、ポリD−(−)−3−ヒドロキシ酪酸(欧州特許第133,988号明細書)などのポリヒドロキシ酪酸、L−グルタミン酸とγ−エチル−L−グルタミン酸塩との共重合体(Sidman, K. R.ら, Biopolymers 22: 547-556)、ポリ(2−ヒドロキシエチルメタクリレート)またはエチレン酢酸ビニル(Langer, R.ら, J. Biomed. Mater. Res. 15: 267-277; Langer, R. Chem. Tech. 12: 98-105)、およびポリ無水物などのポリマーベースシステムを含む。
持続放出性組成物の他の例として、例えばフィルムやマイクロカプセルなど、造形品としての半透過性ポリマーマトリックスが挙げられる。また、送達システムは、コレステロール、コレステロールエステル、および脂肪酸などのステロールまたはモノグリセリド、ジグリセリド、およびトリグリセリドなどの中性脂肪を含む脂質、生物学的に誘導された生体吸収性ヒドロゲル(すなわち、キチンヒドロゲルまたはキトサンヒドロゲル)などのヒドロゲル放出性システム、sylasticシステム、ペプチドベースシステム、ワックスコーティング、従来の結合剤および賦形剤を用いた圧縮錠、部分的に融合したインプラントなどの非ポリマーシステムを含む。具体的な例として、(a)米国特許第4,452,775号明細書、第4,667,014号明細書、第4,748,034号明細書、および第5,239,660号明細書に記載されているような、マトリックス内に薬剤が含まれる侵食システムおよび(b)米国特許第3,832,253号明細書および第3,854,480号明細書に記載されているような、制御された速度で活性成分がポリマーから浸出する拡散システムが挙げられるが、これらに限定されない。
本発明の方法および組成物とともに用いることができる他の種類の送達システムとして、コロイド分散システムがある。コロイド分散システムは、水中油型エマルション、ミセル、混合ミセル、およびリポソームを含む脂質ベースシステムを含む。リポソームは、人工膜容器であり、インビボまたはインビトロでの送達媒体として有用である。大単層リポソーム(LUV)は、0.2〜4.0μmの大きさであり、水性である内部に大きな高分子を封入することができ、生物学的に活性な状態で細胞に送達できる(Fraley, R.およびPapahadjopoulos, D., Trends Biochem. Sci. 6: 77-80)。
リポソームをモノクローナル抗体、糖類、糖脂質、またはタンパク質などの特異的リガンドに結合することにより、特定の組織をリポソームの標的とすることができる。リポソームは、例えばLIPOFECTIN(登録商標)およびLIPOFECTACE(登録商標)としてGibco BRLから市販されており、これらはN−[1−(2,3−ジオレイルオキシ)プロピル]−N,N,N−トリメチルアンモニウムクロリド(DOTMA)およびジメチルジオクタデシルアンモニウムブロミド(DDAB)などの陽イオン性脂質から形成されている。リポソームの作製方法は、当技術分野において周知であり、例えば独国特許第3,218,121号明細書、Epsteinら, Proc. Natl. Acad. Sci. (USA) 82: 3688-3692(1985)、Hwangら, Proc. Natl. Acad. Sci. (USA) 77: 4030-4034(1980)、欧州特許第52,322号明細書、欧州特許第36,676号明細書、欧州特許第88,046号明細書、欧州特許第143,949号明細書、欧州特許第142,641号明細書、日本特願第83−118008号、米国特許第4,485,045号明細書、および第4,544,545号明細書、ならびに欧州特許第102,324号明細書など、多数の公開文献に記載されている。また、リポソームは、Gregoriadis, G., Trends Biotechnol., 3: 235-241において概説されている。
他の種類の媒体としては、哺乳類である投与対象への注入に適した生体適合性微粒子または生体適合性インプラントがある。この方法において有用である典型的な生分解性インプラントは、PCT国際出願PCT/US/03307(国際公開第95/24929号明細書、名称「ポリマー遺伝子送達システム」)に記載されている。PCT/US/0307では、適切な遺伝子プロモーターの制御の下、外来遺伝子を含ませるための生体適合性、好ましくは生分解性のポリマーマトリックスが記載されている。このポリマーマトリックスは、対象における外来遺伝子または遺伝子産物の持続放出を達成するために用いることができる。
ポリマーマトリックスは、ミクロスフェア(薬剤が固形ポリマーマトリックス全体に分散)またはマイクロカプセル(薬剤をポリマーシェルの中心部に格納)などの微粒子の形態であることが好ましい。医薬品を含む前記ポリマーのマイクロカプセルは、例えば米国特許第5,075,109号明細書に記載されている。薬剤を含むためのポリマーマトリックスの他の形態には、フィルム、コーティング、ゲル、インプラント、およびステントがある。ポリマーマトリックスデバイスの寸法および組成は、マトリックスが導入される組織内で好ましい放出速度が得られるよう選択される。さらに、ポリマーマトリックスの寸法は、用いられる送達手段によって選択される。エアロゾル経路で投与される場合、ポリマーマトリックスおよび組成物は、界面活性剤媒体に包含されることが好ましい。ポリマーマトリックス組成物は、ポリマーおよび組成物のいずれについても好ましい分解速度が得られるよう選択されてもよく、送達の有効性をさらに高めるために、生体接着材料である物質から形成されるよう選択されてもよい。また、マトリックス組成物は、分解せず、長期間にわたって拡散による放出を行うよう選択されてもよい。送達システムは、局所的かつ部位特異的な送達に適した生体適合性ミクロスフェアであってもよい。そのようなミクロスフェアは、Chickering, D. E.ら, Biotechnol. Bioeng., 52: 96-101、Mathiowitz, E.ら, Nature 386: 410-414に記載されている。
非生分解性ポリマーマトリックスおよび生分解性ポリマーマトリックスはいずれも、本発明の組成物を対象に送達するために用いることができる。そのようなポリマーは、天然高分子であっても合成高分子であってもよい。ポリマーは、所望の放出期間(一般的に約数時間から1年またはそれ以上)に基づき選択される。一般的に、数時間から3〜12ヶ月間の範囲にわたる放出が、最も望ましい。ポリマーは、自体の重量の約90%まで吸水することができるヒドロゲルの形態であってもよく、さらに、多価イオンまたは他のポリマーと架橋していてもよい。
生分解性送達システムを形成するために用いることができる合成高分子の典型的な例として、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリアルキレン、ポリアルキレングリコール、ポリアルキレンオキシド、ポリアルキルエンテレフタレート、ポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル、ポリビニルエステル、ハロゲン化ポリビニル、ポリビニルピロリドン、ポリグリコリド、ポリシロキサン、ポリウレタンおよびその共重合体、アルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、セルロースエーテル、セルロースエステル、ニトロセルロース、アクリル酸エステルとメタクリル酸エステルとの重合体、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシブチルメチルセルロース、酢酸セルロース、プロピオン酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、酢酸フタル酸セルロース、カルボキシルエチルセルロース、三酢酸セルロース、セルロース硫酸ナトリウム、ポリメチルメタクリレート、ポリエチルメタクリレート、ポリブチルメタクリレート、ポリイソブチルメタクリレート、ポリヘキシルメタクリレート、ポリイソデシルメタクリレート、ポリラウリルメタクリレート、ポリフェニルメタクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリイソプロピルアクリレート、ポリイソブチルアクリレート、ポリオクタデシルアクリレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリエチレンテレフタレート、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリビニルピロリドン、乳酸およびグリコール酸の重合体、ポリ無水物、ポリオルトエステル、ポリ酪酸、ポリ吉草酸、ポリラクチド−コカプロラクトン、ならびに天然高分子、例えばアルギン酸塩ならびにデキストランおよびセルロースを含む他の多糖類、コラーゲン、それらの化学的誘導体(置換、例えばアルキル基、アルキレン基などの化学基の付加、ヒドロキシル化、酸化、および当業者によって日常的に行われるその他の修飾)、アルブミンおよび他の親水性タンパク質、ゼインおよび他のプロラミン、ならびに疎水性タンパク質、それらの共重合体および混合物などが挙げられる。概して、これらの物質は、生体内における酵素加水分解または水中浸漬(表面浸食またはバルク侵食)によって分解する。
治療法
一実施形態において、本発明は、ドキソルビシンによる治療を受けた対象に有効量のラパチニブおよび/またはラパマイシンを、好ましくは薬学的に許容可能な担体をさらに含む組成物の一部として投与する工程を含む、対象の生存率または心機能を高める方法を提供する。本方法は、アントラサイクリン治療によって誘発された心臓の病態に罹患している対象またはそのような病態に罹患しやすい対象を治療するために用いられることが好ましい。他の実施形態は、対象が本明細書に示される治療を必要としていることを識別する、本明細書のあらゆる方法を含む。
本発明の他の一態様は、アントラサイクリンによる治療を受けた対象の心機能を高める薬剤の製造における、ラパチニブおよび/またはラパマイシンの使用である。該薬剤は、対象における上記の疾患、障害、または症状の治療または予防に用いられることが好ましい。
キット
本発明は、アントラサイクリン治療に関連する心臓の病態を治療または予防するためのキットを提供する。一実施形態において、キットは、有効量のラパチニブおよび/またはラパマイシンを包含する製剤パックを含む。組成物は、単回投与の形態にあることが好ましい。いくつかの実施形態において、キットは、治療用または予防用の組成物を収容する無菌容器を含み、そのような容器は、ボックス、アンプル、ボトル、バイアル、チューブ、バッグ、パウチ、ブリスターパック、または当技術分野において知られている他の好適な容器形態であってよい。そのような容器は、プラスチック、ガラス、ラミネート紙、金属箔、または薬剤を保管するのに好適な他の材料で作られていてよい。
本発明の組成物またはそれらの組合せは、必要に応じ、アントラサイクリン治療に関連する心臓の病態を有するまたは発症するおそれのある対象に投与するための使用説明とともに提供される。使用説明は、概して、アントラサイクリン治療に関連する心臓の病態を治療または予防するための、ラパチニブおよび/またはラパマイシンの使用に関する情報を含む。他の実施形態において、使用説明は、ラパチニブの説明、心臓の病態もしくはその症状の治療のための処方計画および投与、使用上の注意、警告、効能・効果、禁忌、過量投与に関する情報、副作用、動物実験における薬効薬理、臨床成績、ならびに/または参考文献のうち少なくとも1つを含む。使用説明は、容器がある場合は直接印刷してもよく、容器に貼られたラベルまたは容器中に入っているもしくは容器とともに提供される別紙、パンフレット、カード、もしくは折り畳み印刷物などとして印刷してもよい。
以下の実施例は、当業者に、本発明における評価、スクリーニング、および治療方法をどのように行い、どのように使用するかに関する完全な開示および完全な説明を提供するために提示するものであり、本発明者らが自身の発明と見なす範囲を限定するものではない。
実施例1
ラパチニブ処置による、ドキソルビシン処置を受けたマウスの生存率の増加
生後10〜12週の雌のFVB/nマウスに、週に2回、7週間にわたってドキソルビシン(2mg/kg)の腹腔内注射(i.p.)による処置を行った。その結果、累積投与量は、20mg/kgとなった。ドキソルビシン処置のサイクル終了後、同マウスに対し、異なる量のラパチニブ(25、50、および100mg/kg、経口チューブによる投与、毎日)の投与または溶媒による処置を行った。図1に示すように、ラパチニブにより、ドキソルビシンによる処置を受けたマウスの生存率が改善された。ドキソルビシン処置開始後64日において、ドキソルビシンによる処置を受けたマウスの生存率は68%、ドキソルビシンとラパチニブ(25mg/kg)とによる併用処置を受けたマウスの生存率は100%、ドキソルビシンとラパチニブ(50mg/kg)とによる併用処置を受けたマウスの生存率は83%、ドキソルビシンとラパチニブ(100mg/kg)とによる併用処置を受けたマウスの生存率は71%であった。ドキソルビシン処置開始後70日において、ドキソルビシンによる処置を受けたマウスの生存率が34%であったのに対し、ドキソルビシンとラパチニブ(100mg/kg)とによる併用処置を受けたマウスの生存率は55%であった。このように、ラパチニブによる処置により、ドキソルビシンによる処置を受けたマウスの生存率が向上した。
実施例2
ラパチニブ処置による、ドキソルビシン処置を受けたマウスの心機能の改善
心エコー検査により、ドキソルビシンによる処置およびドキソルビシンとラパチニブとによる併用処置を受けたマウスの心機能の評価を行った。図2Aおよび図2Bに示すように、ドキソルビシン処置終了7週間後、ドキソルビシンによる処置を受けたマウスにおいて収縮末期容積(ESV)が増加し、それにより駆出率(EF%)が低下した。これらは同マウスが拡張型心筋症および心不全を発症したことを示している。ラパチニブ処置開始3週間(ドキソルビシン処置開始9週間)後、ドキソルビシンによる処置を受けたマウスにおいて、心エコー検査および血行動態計測により測定される心機能が、コントロールマウスに比べて著しく低下した。しかしながら、ドキソルビシンとラパチニブとによる併用処置を受けたマウスにおける心機能は、ドキソルビシンによる処置を受けたマウスに比べて改善された。図3Aおよび図3Bに示すように、ドキソルビシンによる処置を受けたマウスにおけるESVは、コントロールマウスに比べて著しく増加し、それによりEF%は低下した。ドキソルビシンとラパチニブとによる併用処置により、ドキソルビシンによるこれらの影響は改善された。図4に示すように、ドキソルビシンによる処置を受けたマウスにおけるdP/dtmaxおよびdP/dtminは、コントロールマウスに比べて著しく低下したが、ドキソルビシンとラパチニブとによる併用処置を受けたマウスとコントロールマウスとの間では、これらの指数に差は見られなかった。これらの結果は、ドキソルビシン処置を受け、すでに心不全を有していたマウスにおける心機能が、ラパチニブ処置により改善されたことを示す。これらの結果は、ラパチニブが、ドキソルビシン誘発性心不全の治療に有用であることを示す。
実施例3
ラパチニブ処置による、ドキソルビシンとPI3K/mTOR阻害剤との併用処置を受けたマウスの生存率の改善
ドキソルビシンとキナーゼ阻害剤との併用治療は、特定の患者における有効ながん管理に不可欠なものである。この種の治療が心毒性を引き起こすかどうか、引き起こす場合はどのようにこの心リスクを軽減すべきかを知ることが重要である。雌のFVB/nマウスに、ドキソルビシン(2mg/kg、i.p.、週に2回)、PI3K/mTOR阻害剤BEZ235(35〜50mg/kg、経口、毎日)、およびラパチニブ(25、50、または100mg/kg、経口、毎日)による処置を行った。心エコー検査により、心機能の監視を行った。ドキソルビシンとBEZ235とによる併用処置により、マウスの生存率は低下したが、ラパチニブにより、ドキソルビシンとBEZ235とによる併用処置を受けたマウスの生存期間が延長した。図5に示すように、ドキソルビシンとBEZ235とによる併用処置を受けたマウスの生存率は、ドキソルビシンによる処置を受けたマウスに比べて著しく低下した。ドキソルビシンとBEZ235とラパチニブとによる併用処置を受けたマウスの生存率は、ドキソルビシンとBEZ235とによる併用処置を受けたマウスに比べて著しく改善された。
実施例4
ラパチニブ処置による、ドキソルビシンとPI3K/mTOR阻害剤との併用処置を受けたマウスの心不全の改善
ドキソルビシンとBEZ235とによる併用処置により、マウスにおいて心臓肥大が誘発された。しかしながら、ラパチニブ処置により、この影響は改善された。図6A、図6B、図6C、および図6Dに示すように、ドキソルビシンとBEZ235との併用処置により、拡張末期容積(EDV)および収縮末期容積(ESV)が減少し、それにより相対的壁厚(RWth)、EF%、心臓重量と体重の比率(HW/BW)、および肺と体重の比率が増加した。これらの結果は、ドキソルビシンとBEZ235とによる併用処置を受けたマウスが、心臓肥大および拡張期心不全を発症したことを示す。ラパチニブとの併用処置により、これらの影響は改善された。これらの結果は、ラパチニブが、ドキソルビシンとBEZ235との併用に誘発される心臓肥大および心不全の予防に有用であることを示す。
実施例5
ラパマイシンによる、ドキソルビシン処置を受けたマウスの心機能および生存率の向上
マウスに、蓄積投与量が20mg/kgとなるように、週に2回、7週間にわたってドキソルビシン(2mg/kg)の腹腔内注射による処置行った。ドキソルビシン処置終了後、同マウスに対し、ラパチニブ単独(100mg/kg、経口チューブ、毎日)またはラパマイシン単独(6mg/kg、i.p.、毎日)のいずれかを用いた処置を行い、生存率の監視を行った。血行動態計測により、心機能の評価を行った。
ドキソルビシン処置開始10週間後、ドキソルビシンによる障害に罹患した上でラパチニブによる処置を受けたマウスの生存率は、ドキソルビシンによる障害に罹患した上で溶媒による処置を受けたマウスに比べて著しく改善された(71%対43%)。ドキソルビシンによる障害に罹患した上で溶媒による処置を受けたマウスにおける、心拍出量により測定される心機能は、処置を受けていないコントロールマウスに比べて著しく低下した。ドキソルビシンによる障害に罹患した上でラパチニブによる処置を受けたマウスと、処置を受けていないコントロールマウス間では、心機能に差は観察されなかった。
ドキソルビシン処置開始10週間後、ドキソルビシンによる障害に罹患した上でラパマイシンによる処置を受けたマウスの生存率は、ドキソルビシンによる障害に罹患した上で溶媒による処置を受けたマウスに比べて著しく改善された(63%対43%)。ドキソルビシンによる障害に罹患した上で溶媒による処置を受けたマウスにおける、心拍出量により測定される心機能は、処置を受けていないコントロールマウスに比べて著しく低下した。心機能のこのような低下は、ドキソルビシンによる障害に罹患した上でラパマイシンによる処置を受けたマウスにおいては観測されなかった。
他の実施形態
前述の説明から、本明細書に記載の本発明を様々な使用法および条件に適用させるために、本発明に変形および変更を加えてもよいことは明らかであろう。そのような実施形態も、以下の請求項の範囲内にある。
本明細書中、可変物の定義において複数の要素が列挙されているいずれの場合においても、該可変物の定義は、列挙された要素のうち任意の単独の要素または任意の複数の要素の組合せ(もしくは部分的組合せ)を包含する。本明細書における一実施形態の記述は、該実施形態を、任意単独の一実施形態としてまたは別の任意の実施形態もしくはそれらの一部と組み合わされた実施形態として包含する。
本明細書において言及した特許および公開文献はいずれも、それぞれ独立した特許および公開文献が参照により組み込まれるよう個々にかつ具体的に記載されている場合と同程度に、参照により本明細書に組み込まれる。

Claims (21)

  1. アントラサイクリン誘発性心毒性の治療方法であって、有効量のラパチニブおよび/またはラパマイシンを、それを必要とする対象に投与し、それによってアントラサイクリン誘発性心毒性を治療することを含む方法。
  2. アントラサイクリンによる治療を受けた対象の心機能または生存率を高める方法であって、対象に有効量のラパチニブを投与し、それによって対象の心機能を向上させることを含む方法。
  3. 対象において心臓肥大および有害な心臓リモデリングを抑制する、請求項1または2に記載の方法。
  4. アントラサイクリンが、ダウノルビシン、ドキソルビシン、エピルビシン、イダルビシン、バルルビシン、およびミトキサントロンからなる群から選択される、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
  5. アントラサイクリンが、ドキソルビシンである、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
  6. 対象におけるアントラサイクリンの生涯累積投与量を測定し、生涯累積投与量が基準値を上回る場合は有効量のラパチニブおよび/またはラパマイシンを投与することをさらに含む、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
  7. ラパチニブの有効量が、1日当りの投与量として25〜100mg/kgである、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
  8. ラパチニブの有効量が、1日当りの投与量として約25mg/kgである、請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
  9. 対象が心エコー検査によって識別される、請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
  10. アントラサイクリンとPI3K阻害剤との併用によって誘発された心毒性を治療する方法またはそのような心毒性を予防する方法であって、有効量のラパチニブおよび/またはラパマイシンを、それを必要とする対象に投与し、それによってドキソルビシンとPI3K阻害剤との併用によって誘発された心毒性を治療することまたはそのような心毒性を予防することを含む方法。
  11. アントラサイクリンとPI3K阻害剤との併用によって誘発された心臓肥大を治療する方法またはそのような心臓肥大を予防する方法であって、有効量のラパチニブおよび/またはラパマイシンを、それを必要とする対象に投与し、それによってドキソルビシンとPI3K阻害剤との併用によって誘発された心臓肥大を治療することまたはそのような心臓肥大を予防することを含む方法。
  12. 対象において心臓肥大および有害な心臓リモデリングを抑制する、請求項11に記載の方法。
  13. アントラサイクリンが、ダウノルビシン、ドキソルビシン、エピルビシン、イダルビシン、バルルビシン、およびミトキサントロンからなる群から選択される、請求項11または12に記載の方法。
  14. アントラサイクリンが、ドキソルビシンである、請求項11〜13のいずれかに記載の方法。
  15. PI3K阻害剤が、ウォルトマンニン、デメトキシビリジン、LY294002、ペリホシン、CAL101、PX−866、BEZ235、SF1126、INK1117、IPI−145、GDC−0941、BKM120、XL147、XL765、Palomid 529、GSK1059615、ZSTK474、PWT33597、IC87114、TG100−115、CAL263、PI−103、GNE−477、CUDC−907、BYL719、GDC−0032、BGT226、GDC0980、PF4691502、PKI587、およびAEZS−136からなる群から選択される、請求項11〜16のいずれかに記載の方法。
  16. PI3K阻害剤が、BEZ235である、請求項11〜16のいずれかに記載の方法。
  17. ラパチニブをドキソルビシンおよびPI3K阻害剤と同時に投与する、請求項11〜16のいずれかに記載の方法。
  18. ラパチニブの有効量が、1日当りの投与量として約25〜100mg/kgである、請求項11〜16のいずれかに記載の方法。
  19. ラパチニブの有効量が、1日当りの投与量として約25mg/kgである、請求項11〜16のいずれかに記載の方法。
  20. 有効量のラパチニブおよび/またはラパマイシンならびに使用説明を含む、アントラサイクリン誘発性心毒性を予防または治療するためのキット。
  21. 有効量のドキソルビシンならびに有効量のラパチニブおよび/またはラパマイシンを含む医薬組成物、ならびにそれぞれを投与するための使用説明。
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