高コヒーレンス光源(例えば、108Hz未満または1011Hz未満の線幅のレーザ光源)を使用した、光ファイバジャイロスコープ(FOG)等の光ジャイロスコープにおける散乱の新しいモデルの洞察に基づき、本明細書に記載された特定の実施形態は、広帯域光源(例えば、1011Hzより大きい帯域幅の光源)で駆動される同じ光ジャイロスコープの性能に匹敵するか超えさえする短期および長期の性能を有利に与える、好適な線幅のレーザで駆動された光ジャイロスコープを提供する。特定の実施形態において、光ジャイロスコープは、現行の水準を超える新しい光ジャイロスコープを生成すべく、センサコイル内に中空コアファイバを使用することと組み合わされてもよい。
レーザは広帯域光源に対して二つの主な利点を有する。約1.5μmの半導体レーザは優れた波長安定性を有するので(典型的には<1ppm(百万分率))、スケールファクタ安定性の問題は解消されるであろう。レーザは広帯域光源に比較して無視できる過剰雑音をも有し、このことは角度ランダムウォーク(ARW)のノイズの寄与を大きく下げることにつながりえる。広帯域光源の初期の採用以来、光源の選択に影響する光ジャイロスコープに関する技術の向上も続いている。光ジャイロスコープ内で用いられる様々な光学要素およびシングルモードファイバの設計および製造の向上は、システムの損失を大きく下げることにつながっている。これらのより低い損失は、コイルでの循環電力を低減し、非線形性を著しく低減する。加えて、集積された光学系および高消光比ポラライザの開発は、改良された偏光保持ファイバと同様に、偏光の非相反性を減少させる。これら二つの誤差源は完全には軽減されないながら、これら関連する技術の向上は、レーザで光ジャイロスコープを動作させる可能性を改めて提起する。
本明細書で記載されるように、光ジャイロスコープにレーザ光源を使用することの利点を再評価することが、レーザの再導入の問題、すなわちコヒーレント後方散乱ノイズおよびドリフト並びにカー誘起ドリフト、に取り組んだ、ここに記載された特定の実施形態をもたらした。そのような特定の実施形態は、0.35μrad/√HzのARWの記録を有するレーザ駆動光ジャイロスコープおよびSFS駆動光ジャイロスコープと同じアラン分散(AV)曲線を有するレーザ駆動光ジャイロスコープを含む、いくつかの重要なブレイクスルーを達成している。
レーザ駆動の中実コア光ジャイロスコープのモデル化
以下の説明は、サニャックファイバループ内のコヒーレント後方散乱の物理に取組んだものであり、それに起因するノイズおよび長期間ドリフトのモデル化を提示する。初期のモデルは残念ながら、このノイズを非常に過剰に見積もっているか(例えば、Cutler, C. C. et al., "Limitation of rotation sensing by scattering," Optics Letters 5 (11), 488-490 (1980)を参照)、非常に短いコヒーレンス長の光源を考慮しただけであるかのいずれかであった(例えば、Mackintosh, J. M. and Culshaw, B., "Analysis and observation of coupling ratio dependence of Rayleigh backscattering noise in a fiber optic gyroscope," J. of Lightwave Technol. 7(9), 1323-1328 (1989)を参照)。これらの予測は、光ジャイロスコープの光源としてレーザが断念されていた時に行われ、広帯域光源がそれらの問題の多くを解決したので、最近まで大きくは取り組まれないままであった。
ファイバジャイロスコープの性能は、典型的には三つの基礎的な物理量、バイアス安定性(°/hで)、角度ランダムウォーク(°/√hで)およびスケールファクタ安定性(ppmで)を使用して測定される。 ジャイロスコープは速度センサであって、その出力が時間にわたって積分されているので、バイアス安定性は、ジャイロスコープの性能の長期的な限界を定量化するのに重要な物理量である。バイアス安定性は、アラン分散法を使用して測定できる。方法は最初はクロック安定性を定量化するために開発された。慣性航法の用途では、概して10−3°/hかそれより良いバイアス安定性が用いられる。
角度ランダムウォーク(ARW)は、センサ出力のホワイトノイズ要素の尺度であり、短期間のセンサ性能に影響する。広帯域光源駆動光ジャイロスコープに対しては、その発生源自体の周波数成分に固有のビートノイズがARWに対して支配的であり、それは過剰雑音として知られている。 過剰雑音が低減できれば、ARWは、システムの電気的および光学的ショットノイズによって制限されるであろう。過剰雑音が制限されたARWを有する典型的な広帯域光源駆動ジャイロスコープは、10−4°/√hのARWを達成できる。
光ジャイロスコープのスケールファクタは、ジャイロスコープに適用される回転率をサニャック干渉計内での誘起された位相シフトに関連付ける比例の定数であり、次式で与えられる、
ここで、S
Fはスケールファクタであり、Δφはサニャックループ内の対向伝搬場間の回転誘発位相シフトであり、Ω
Rは回転率であり、Lは全ループ長であり、λは光の波長であり、Dはループ直径である。L, Dおよびλへの誘起された位相シフトの依存性は、これらのパラメータのいずれもの時的な変化による、回転率測定における誤差につながる。これらのパラメータのいくつかは温度揺らぎによる変化に敏感であり、熱的な不安定性は、これらの温度依存性パラメータのいずれもにおけるスケールファクタ誤差の主な発生源となりえる。良好な熱設計はLおよびDの不安定性を1ppmレベルに低減することができるものでありながらも、最新の光ジャイロスコープに用いられる広帯域光源の平均波長をこの精度で安定させることは、よりチャレンジングであることを証明している。その結果として、最良の光ジャイロスコープは概して10―100ppmのオーダーのスケールファクタ安定性を達成しているが、それは、慣性航法の用途では概して不十分であり、かつ、リングレーザジャイロスコープの1ppmというスケールファクタ安定性よりも桁が少なくとも1つ高い。典型的な電気通信のレーザについて、平均波長の揺らぎは、1ppm以下に安定され得る。
スケールファクタ不安定性をさらに低減するための一つの可能な方法は、光ジャイロスコープに用いられる標準的な広帯域光源をシングルモード半導体レーザに置き換えることである。大いなる努力が、高密度波長分割多重システムにおけるそれらの用途に対するそれらのレーザの波長安定性の改良のためになされてきた。その結果として、1ppmレベルかそれより良いレーザ波長安定性が容易に商業的に利用可能である。したがって、そのような光源で駆動される光ジャイロスコープは、最新の広帯域光源駆動光ジャイロスコープのスケールファクタ非安定性の主要な発生源を取り除くであろう。
加えて、レーザ駆動光ジャイロスコープは、低ノイズシステムにつながるであろう。広く知られている通り、広帯域、インコヒーレントな光は、基本ショットノイズ限界を超えたノイズを受ける。この過剰雑音は、全ての最新の光ファイバジャイロスコープの性能を限定する。したがって、広帯域光源は前述の有害な効果を減らすことに成功してきていながら、全ての最新の光ファイバジャイロスコープが上記基本限界よりずっと大きいノイズフロアを受け続けるというトレードオフがある。シングルモードレーザはこの過剰雑音を与えないので、したがって、レーザを使用することは、最新の光ファイバジャイロスコープの性能の他の限界を取り除くであろう。
最終的に、レーザで駆動される光ジャイロスコープは、広帯域光源駆動の光ファイバジャイロスコープと比較して、電力の消費がより少なくて、システムの複雑性が低減され、システムのコストが低減される、というさらなる利点を有するであろう。その試みは、何年も前に光ファイバジャイロスコープでレーザを使うことを断念するとともに代わりに広帯域光源を採用した大きな理由だったところの、光ジャイロスコープにコヒーレント光源を使用したことで導入される公知の寄生誤差を、むろん克服しつつある。
ループ長より長いコヒーレンス長を有するレーザによりインテロゲートされた光ジャイロスコープからの測定は、レーザ駆動光ジャイロスコープが低ノイズシステムをもたらし得ることを裏付ける(例えば、その全体が参照によりここに取り込まれる米国特許番号7,911,619を参照)。これらの測定は、この光ファイバジャイロスコープが、広帯域光源でインテロゲートされた同じジャイロスコープよりも低いレベルの、角度ランダムウォーク(ARW)ノイズ性能を表したことを示している。 この結果は、初期における、光ジャイロスコープのコヒーレント光による大きな誤差の観測および予測と対照的であった。
以下の説明は、任意の線幅の光源でインテロゲートされた光ジャイロスコープのノイズおよびドリフトの理論上のモデルを提供し、コヒーレント光でインテロゲートされた光ジャイロスコープの誤差の最大の発生源であると期待される、コヒーレント後方散乱の効果に焦点を当てている。理論的な予測は、我々が以前に報告した結果を支持しており、最初に、広帯域光源よりむしろシングルモードレーザで動作された航法グレードの光ジャイロスコープの可能性を示している。
図1は、本明細書に記載された特定の実施形態に従う開ループレーザ駆動光ジャイロスコープ10の図である。その全体が参照によりそれぞれここに取り込まれる米国特許番号7,911,619および米国特許番号8,223,340は、本明細書に記載された特定の実施形態に従うそのような光ジャイロスコープの特定の態様に関する付加的な情報を提供する。図1のレーザ駆動光ジャイロスコープ10は、最小の開ループ構成を有しているが、従来の広帯域光源がシングルモードレーザに置換されている。本明細書には他の変形例が記載されているが、図1の光ジャイロスコープ10がそのような光ジャイロスコープの誤差の分析を記載するのに用いられ得る。光ジャイロスコープは、レーザ光源30と、フォトディテクタ40と、少なくとも1つの入出力結合器70(例えば、2×2 50%結合器またはファイバサーキュレータ)と、直列のポラライザ60(例えば、偏光導波路)と、ループ結合器56と、一組のバイアス用の位相変調器52、54と、複数のループを備えてループ結合器とともにサニャックループを形成する構成のコイル20とを備える。これらの様々な構成要素は、全ファイバアプローチまたは、単一のユニット内でポラライザ60、ループ結合器56および位相変調器52、54の機能を結合した集積学系を使用することのいずれかを通じて実現され得る。コイル20は、偏光保持ファイバ等の光ファイバ、または光導波構造の他の形式から作られ得る。閉ループ信号処理技術も加え得るが、広帯域光源よりむしろレーザでの動作は閉ループ動作の恩恵を変化させると期待できないので、一般性を損なうことなく、ここでは開ループ動作だけが考慮された。
光がサニャックループ内で後方散乱するときに、コイル20内で後方散乱された光子は一次光子と相互作用する。光がスペクトル的に広ければ(非常に短いコヒーレンス長Lc)、ループの中点の近くで散乱した光子のみがコヒーレントに相互作用して、コヒーレントノイズを導く。他の全てはインコヒーレントに相互作用して、強度ノイズを導入するが、典型的には無視できる。光源がループ長Lと等しいかそれより長いコヒーレンス長を有するときは、ループに沿って後方散乱した全ての光子はコヒーレントに相互作用して、コヒーレントノイズは高い。レーザ線幅は、この相互作用で制御されるキーパラメータである。このノイズは散乱体の位相または振幅の揺らぎに主に由来するものではなく、レーザ自体の位相ノイズに由来する。レーザの位相ノイズがゼロであるならば、コヒーレント後方散乱は問題にならないであろう。なぜなら、後方散乱した光子はすべて安定した位相を有するだろうし、したがって出力信号に一定の、ノイズのないオフセットを引き起こし、それが測定されて抽出され得るであろう。レーザの位相ノイズがゼロにできなかったとしても、位相ノイズは、レーザ線幅を減らすことにより、数桁の大きさで低減され得る。コヒーレント後方散乱は、ドリフトをも引き起こす。例えば、センシングコイルの一部が歪みまたは温度の変化に曝されたときに、そこを通って伝わって来た後方散乱光子は、位相シフトを起こす。時計方向(CW)に後方散乱した光子と反時計方向(CCW)に後方散乱した光子とは、コイルのこの部分を通って概して異なる時間で進み、それ故、異なる位相シフトを起こす。この非対称性は、オフセット信号の一時的な変化をもたらし、それ故、ドリフトをもたらす。
我々により以前に示されたモデル(Digonnet, M. J. F., Lloyd, S. W., and Fan, S., "Coherent backscattering noise in a photonic-bandgap fiber optic gyroscope," Proc. SPIE 7503, 750302-1−75032-4 (2009)を参照) は、以前の研究の形式を、任意の線幅の光源を使用した位相変調光ジャイロスコープへと一般化した (Krakenes, K. and Blotekjaer, K., "Effect of laser phase noise in Sagnac interferometers," J. of Lightwave Technol. 11(4), 643-653 (1993); K. Takada, "Calculation of Rayleigh backscattering noise in fiber-optic gyroscopes," J. Opt. Soc. Am. A 2(6), 872-877 (1985)を参照)。このモデルは、コイル(このコンセプトのこの特定の実例において、コイルはファイバである)に沿って等分配されたM散乱体の分布によって、一次波からの後方散乱場を、位相および振幅のランダム分布と共に計算し、コイルを通ってループ結合器までそれらを伝搬させ、後方散乱によるオフセットを含む出力の時間的な痕跡を得るべく、全ての場(2Mの後方散乱場および二つの初期場)の和をとる。この計算は、M散乱体の多数の分布に対して、位相および振幅の同じランダム分布であるがこの統計の異なる具現化で、繰り返される。言い換えると、同じ平均後方散乱係数を達成するが、散乱体の位相および振幅の異なる分布となる散乱体の分布をモデル化している。このオフセットは、全てのファイバにわたってのオフセットの平均として算出される。この平均オフセットは、コヒーレント後方散乱により誘発されるドリフトの上限値を提供する。オフセットの時間的な揺らぎの標準偏差は、コヒーレント後方散乱により誘発されるノイズを提供する。
後方散乱誘起誤差(すなわち、ノイズおよびドリフト)は、レーザ駆動光ジャイロスコープにおいて誤差の主たる発生源として残る。最新の構成要素を用いて、ファイバ内のレイリー散乱がより強くなるという結果となる元々の光ジャイロスコープで使用されていたより短い波長よりむしろ、1.55μm付近の波長で主に動作させることによって、後方散乱誘起誤差が低減されえる。しかしながら、このより長い波長で散乱が減るという恩恵があるにもかかわらず、初期の予測は、後方散乱誘起誤差は依然として極めて大きいであろうことを示していた(上記で引用したCutlerを参照)。これらの初期の予測は、後方散乱誘起誤差に対して上限を設定しているが、この上限は、非現実的に高すぎて有用でないということが分かっている。これら初期の予測がより長いコヒーレンス長(例えば、数mmより長いコヒーレンス長)にも適用されるであろうと多くの者により想定されてきた。
(上記で引用した)Cutlerにより元々示されていたように、後方散乱誘起誤差は次式により制限を受け得る。
ここで、φ
eはレイリー散乱により期待される位相誤差であり、α
Bはセンシングファイバのレイリー後方散乱係数であり、Lはファイバ長さおよび光源のコヒーレンス長の最小値である。約10
−7m
−1の典型的なシングルモードファイバに対して、10mの光源のコヒーレンス長かつ1.55μmでの後方散乱係数を改めて使用すると、この関係は1mradのオーダーの期待誤差導くであろうし、これは典型的な慣性航法の用途に対して必要とされる0.1μradのレベルよりかなり高い。
Cutlerの分析は、光ジャイロスコープの性能に与える散乱の、ポテンシャルな限定的な効果を認識することに対しては洞察力に優れているにもかかわらず、この分析は、ループ内の位相変調の効果、光源の位相ノイズの効果、および、時計回りおよび反時計回り方向における光散乱の対称の効果を説明していない。MackintoshおよびCulshaw(上記で引用)が示したように、特定の条件下で、変調および対称結合器の使用は、後方散乱の効果を著しく低減し得る。しかしながら、この分析は、典型的なループ長(100mから数km)よりもっと短い、1mmかそれより短いオーダーのより非常に短いコヒーレンス長の限定された事例しか扱っていなかった。そのような事例において、全てのコヒーレント散乱は、ループ中点に集中したファイバの小さな部分によるものであるという正しい想定がされうるであろう。シングルモードレーザでの光ジャイロスコープの動作の事例を取り扱うために分析する限りでは、以下に十分に説明しているように、位相変調光ジャイロスコープにおける後方散乱のより緻密な理論が発展した。
光ファイバジャイロスコープ(FOG)等の干渉法光ジャイロスコープは、公知のサニャック効果に基づいている。光の二つのビームが反対方向の閉じた経路を同時に行き来するときには、その経路の面に垂直な軸まわりの角回転は、回転率に比例した差分位相シフトを誘発する。図2は、そのような干渉法光ジャイロスコープを概略的に図示しており、そこにおいて、入力ビームはファイバ結合器で分岐され、そのファイバ結合器は、各ビームをループ内に反対方向に載せ、その後それらを結合器の出口で再結合する。ゼロ回転下でかつ他の非相反性および非対称性の時間依存効果が存在しなければ、二つの反対方向の伝搬ビームにより経られた光学経路は同一であり、実体的に(光のいくらかはコイルを通る伝搬によって損失するので、実体的に)全ての光パワーはポート1から出て、パワーはポート2から出てこない。回転はこの相反性を破り、各ビームが、二つの経路間で回転率に比例する差を有する異なる光学経路を経るという結果をもたらす。干渉を通じて、ポート1での出力パワーの対応した減少とともに、パワーのいくらかがそれによりポート2から出る。このパワーの変化は測定し得、そこから回転率が推定される。
ファイバコイル内の後方散乱の効果は十分に裏付けされている。反転方向(図2のE- bおよびE+ b)に伝搬する光のある一部を連結するファイバ内に異常性が存在するときは、それぞれの入射方向からの後方散乱場は、初期場(図2のE+およびE-)と干渉する。後方散乱された信号と初期信号との間のこの干渉は、有害な二つの効果を導き得る。第1に、時計回りおよび反時計回り方向の散乱場により行き来される光学経路は、内在的に異なっているので、この干渉は、一般的な非ゼロ信号すなわちバイアス誤差を導く。コイルの非定常環境の摂動は、このバイアス誤差に時間に対する揺らぎを生じせしめるであろう。これら環境の摂動は、概して温度過度または音響ノイズのいずれかによる。これら摂動から発生するバイアス誤差揺らぎは、ループ遅延に比較して概してゆっくりであり、かつ、radまたはdeg/hで測定される、バイアスドリフトまたは単にドリフトを起こさせる。このドリフトは回転誘発変化から区別できず、したがって、誤差の発生源を構成する。
初期場と散乱場の間の内在的な光路差によって第2の効果も起きる。しかしながら、それはファイバコイルの摂動から生じるのではなく、光源の固有のランダム位相揺らぎから生じる。あらゆるアンバランスな干渉計と同様に、これら位相揺らぎは経路の不均衡によって、出力のランダム揺らぎに変換され、ショットノイズ限界を超えた追加的なノイズを生じさせる。ジャイロスコープにおいて、このノイズは概して、ランダムウォークノイズ(rad/√Hz)、角度ランダムウォークノイズ(deg/√h)または単にノイズと呼ばれる。散乱体位相分布のランダム変化とは違い、これがまさに光ジャイロスコープにおいてこの後方散乱誘起ノイズを生じさせる光源の位相ノイズである。
中実コアファイバおよび他の導光路内の後方散乱体の二つの主な発生源は、レイリーおよび表面散乱、および、接合およびファイバ端部による散乱である。散乱光の角度がファイバの許容角度内にあるときは、この光はファイバの前方または後方の基本モードに結合される。レイリー散乱に対して、非一様な不均一性はファイバに沿ってランダムに分配され、後方散乱場の位置および振幅はランダムなプロセスである。同じことが、ファイバまたは導波路長さに沿った、ファイバまたは導波路の屈折率プロファイルのランダム揺らぎから生じる散乱に対しても当てはまる。ループ遅延のオーダーの時間スケールに対して、これらのプロセスは時間的に静的と考え得る。加えて、レイリー後方散乱光は、入射場に対してπ/2の位相シフトを受ける。接合およびファイバ端部による後方散乱は、理論上は最小化し得るにもかかわらず、レイリー散乱および表面欠陥による後方散乱は中実コアファイバおよび他の導波路に内在する特性であり、完全には避けることができない。
広帯域、高インコヒーレント光源は、光ジャイロスコープにおける後方散乱により生じるノイズおよびドリフトを解消するために用いられ得る。インコヒーレント光は散乱自体を低減するものではないながらも、光源のこのタイプの非常に短いコヒーレンス長は、散乱場および初期場の間の干渉がほとんど完全にインコヒーレントであることを意味する。これは、典型的に大きい干渉性ノイズよりもむしろ、より弱い強度ノイズを導き、それは、無視できるバイアス誤差、および、実質的にない、バイアスドリフトまたは後方散乱による追加的なノイズ、に変換される。上記議論のとおり、後方散乱誘起ノイズのこの減少は、広帯域光源の過剰雑音によるシステム内のノイズ増加とともに、光源の波長の不安定性の増大というコストを強いられる。
光源のコヒーレンス長がファイバループの長さのオーダーか、それを超えさえするときに、光ジャイロスコープの稠密な後方散乱理論は後方散乱の効果を定量化するのに用いられ得る。これまでのいくつかのレポートは、光ジャイロスコープにおけるレイリー後方散乱の効果を予測する解析的な方法およびモデルを発展させた。Cutler(上記引用)は、後方散乱による誤差の上限をもたらす初期の研究を実行し、この研究を確立し、Takadaは、短いコヒーレンス長Lcの極限で(Lc<<L、ここでLはループ長である)および時間依存位相変調がないときの光ジャイロスコープのノイズにおける後方散乱の効果をモデル化した(上記に引用したTakadaを参照)。続いて、Mackintosh(上記引用)は、再びLc<<L,の極限で、後方散乱誘起誤差における位相変調およびループ結合比の効果の理論的な計算をし、かつ、実験的な測定を示した。異なるアプローチ、および、音響検出のために設計された新規なループ構成を使用し、Krakenesらは、一般的なサニャック干渉計における後方散乱誘起ノイズへのレーザの位相ノイズの効果の、よりロバストなモデルを開発した(上記引用のKrakens and Blotekjaerを参照)。以前のモデルのように、Krakenesモデルでも、コヒーレンス長がループ長より非常に短い光源が想定されていた。Krakenesモデルおよびマッキントッシュの研究のいずれも、後方散乱誘起誤差を低減するためには、ループ結合比が重要であることを示した。同様に、KrakenesおよびTakadaのいずれも、少なくともLc<<Lの型において、コヒーレンス長の増加に伴ってセンサーノイズが増加することを予測していた。これらすべてのモデルは、シングルモードファイバからのレイリー後方散乱の一般的な統計を検討した後々のモデルと一緒に、光ジャイロスコープにおける、コヒーレント光とレイリー後方散乱の相互作用を記述するフレームワークを提供している。
しかしながら、閉形式の解を得るべく、光ジャイロスコープモデルはそれぞれ、光源のコヒーレンス長がループ長より非常に小さいという仮定に依存していた。この近似が失敗したときに干渉法光ジャイロスコープの動作を再考するために、本明細書で説明されるように、光源のコヒーレンス長についての仮定に依存しないモデルが開発された。加えて、Mackintoshによりなされた基礎的な計算の他には、これらの以前のモデルは、最新の光ファイバジャイロスコープに用いられるような、ファイバコイルに位相変調を適用した効果を考慮していなかった。以前の研究のそれらの仮定なしに予測をするために、以下に説明するモデルは、光ジャイロスコープにおけるコヒーレント後方散乱の新しいモデルを提供する。
このモデルは、KrakenesおよびTakadaの両方で用いられたのと同じ基礎場方程式から始まるが、図1に示された光ジャイロスコープの設定を考える。ファイバにわたって、偏光の単一状態でのシングルモード動作が仮定され、したがって、スカラー場が用いられる。 図2に図示されるように、ポート1でのファイバループからの出力場は4つの要素を持つ、すなわち、それぞれ、時計回りおよび反時計回り方向に伝搬する二つの一次波E
+および E
-と、二つの散乱波E
+ b および E
− bである。 ポート1での複素入力場がE
0e
j[ω 0 ・t+φ(t)]と表されるとすると、ただしここで、ω
0は光源の中心角周波数であり、φ(t)は光源の位相ノイズであり、その場合に二つの初期場は以下のようになる。
ここで、係数a
ijは、2×2結合器のポートnおよびmの間の複素結合係数を示し(結合器は相反的なので、a
ji=a
ij)、νはファイバの基本モードの実効的な位相速度であり、φ
sは回転誘起サニャック位相シフトであり、αはファイバの強度減衰係数であり、Φ
1(t)およびΦ
2(t)はバイアスのための、システム構成に依存する、ループに入れられた一つ又は二つの位相変調器により与えられる位相変調を示す(二つが図1に示されている)。
同様に、二つの全後方散乱場は以下のように表し得る。
ここで、A(z)は、位置zにおける散乱係数を表すランダム変化量である。式10および11はサニャック位相シフトを含んでおらず、回転率のわずかな変化の限りで有効な近似である。
式10および11は、以前に他の者により用いられていた式に対して、わずかではあるが重要な差も含んでいる。 各々の後方散乱係数は以前、散乱体に対し、実数のランダム振幅および入射光に対する固定された位相π/2、したがってファクタjが仮定されていた。さらに、散乱振幅および位相は以前、ランダムであると想定されており、散乱係数は円状複素ガウシアンランダム変数として表されていた。散乱光の位相の取り扱いのこの差は、考察しているスケールに帰せられるように見える。
図3は、ファイバまたは導波路の断面をスケールの効果を理解するために概略的に示す。描かれているように、散乱をマイクロスコピックで、単一の散乱レベルで考えるならば、レイリー散乱光に対しては、入射光の方向にかかわらず、散乱光の位相は、入射位相に対して固定のπ/2シフトとなることが以前から示されている。しかしながら、代わりに、長さLsの全てのセグメントからの散乱が領域内の全ての散乱体の和からなる、メゾスコピックスケールで散乱を考えるならば、π/2の固定位相はもはや有効であり続けない。代わりに、多くの散乱体の極限では、セグメント内の散乱体のランダム位置は、散乱体の複素和がランダム位相および振幅の複素散乱係数をもたらすことを意味する。独立した散乱体の各々に対する固定のπ/2の位相シフトのため、ランダム位相は平均π/2の辺りにクラスタリングされる。図3の右から入射する光に対して、これは複素散乱係数により表し得るA+=jA。
反対方向から(図3の左から)の入射光を考えるときには、散乱体は逆の順序に直面する。レイリー散乱による固定のπ/2位相シフトは存在せず、それにより、その領域の全散乱位相は、元の方向のものと等しくかつ反対符号となる。しかしながら、独立した散乱体の各々から散乱した光はそれでも同じπ/2位相シフトを受けるので、正味の効果は、反転方向の散乱係数であるA_=jA*。この式はあらゆるスケールで有効であり、スケールの変化は複素散乱係数Aの分布に反映される。ミクロスケールにおいて、Krakenesを用いると、当該係数は純実数である一方で、メゾスコピックスケールにおいて当該係数は複素数である。柔軟性を最大にするために、当該モデルは、散乱係数は複素数であってよいという可能性を許容する。それは、以下に述べるように数値モデル化するための重要な許容であることが示される。
対称に位置している二つの位相変調器および以下に詳細に説明するプッシュプル変調スキームを使用したとき(Φ
1(t) = -Φ
2(t) = Φ(t))、光ジャイロスコープからの出力強度は、以下のように表し得る。
ここで、ccは先行する項の複素共役を示す。光ジャイロスコープの戻り信号は、式12の和のうちの最初の項にある一次波E
+およびE_の干渉に含まれている。後方散乱によるバイアス誤差は、初期場および後方散乱場の干渉により支配され、式12の第2項から第5項、または単純化して、以下のように表される。
ここで、I
n(t)は、出力強度の支配的な誤差項を示す。式12の第6項は、時計回り方向(CW)と反時計回り方向(CCW)との間の後方散乱場の干渉であり、一方、最終項は、各々の後方散乱場の強度である。後方散乱場は、初期場のいずれかより非常に小さいと期待されるので、これら二つの残余項は無視するであろう。
式13は、二つの異なる独立したランダムプロセスに依存している。φ(t)で表される、光源の位相の時間的な揺らぎ、および、A(z)で表される、ファイバに沿った距離の関数である散乱場の変動振幅である。時間依存位相変調Φ(t)の存在が、In(t)を非静的ランダムプロセスにする。
式13は、後方散乱により誘起される全誤差を示している。しかしながら、光ジャイロスコープは同期検出システムを用いているので、実際に測定されるノイズは、このバイアス誤差のうちの、変調周波数に集中した、検出システムの有限の帯域幅の範囲内に入る部分のみである。したがって、変調周波数で式13に期待される値はバイアス誤差を表す。一方、変調周波数の近傍の範囲内での式13の帯域制限バージョンの標準偏差は、コヒーレント後方散乱に誘起される追加的なノイズを表す。In(t)のパワースペクトル密度を算出することで、式13からこれらの値を得ることを達成することができる。
既に説明されているように、コイルの時間変動する外部摂動によって、このバイアス誤差は静的でない。異なる点からの散乱場が異なる時間での摂動を受けるので、これら時間的な摂動は、散乱された場の各々の相対的な位相を変化させる。これは、全散乱場を示す結果の複素和の大きさおよび位相を変化させる。後方散乱誘起誤差の一時的な摂動の効果についての強引な計算を、もちろん、実行することもできる。しかしながら、摂動の時間変動性という性質があるので、問題はもはや線形の時間普遍系としては扱えず、後方散乱の効果を予測する複雑性が著しく増加する。代わりに、散乱体の全ての可能な分布にわたる期待バイアス誤差の標準偏差は、期待ドリフトの上限として働き得る。これがそうなるのは、散乱体の大きさおよび位置が変化すると、標準偏差が、バイアス誤差に期待される変化の尺度を与える一方、時間変動する摂動には、位置のみの変化と等価な、散乱体の位相のみの変化が期待されるからである。散乱体の全ての可能な分布にわたった期待バイアス誤差の標準偏差は、上述したIn(t)のパワースペクトル密度の計算から容易に得られ、かつ、以下の議論において、後方散乱による期待ドリフトの上限として用いられる。対称的な巻回−初期場のそのような摂動の効果を最小限するのにしばしば用いられる−は、散乱が対称には起きないので、散乱が存在する場合において同じ改善を示さないであろう。
式13のパワースペクトル密度を算出するには、後方散乱係数A(z)および光源の位相ノイズφ(t)の統計情報の知識を利用する。光ファイバ内のガラス等の統計的に均一な媒質に対して、および、ここで考慮している長さのスケール(z−z´>>λ
0)に対して、レイリー散乱プロセスの自己相関が知られており、以下で与えらえる。
ここで、α
Bはファイバの後方散乱係数であり、材料の散乱係数およびファイバの再補足因子に依存する。このプロセスのデルタ相関の性質によって、強度ノイズ自己相関の計算は著しく単純化される。
光源の位相ノイズφ(t)は、静的に独立した増分でWiener-Levyプロセスに従うことが仮定されている。そのように、レーザ信号に沿った時間的な任意の二点間の位相差の統計的な分布は、それら二点間の時間的な遅れのみに依存する。この位相差Δφ(t,τ) =φ(t + τ) -φ(t)は確率密度関数で記述される。
および
ここで、Δfは、光源スペクトルの周波数半値幅における全幅である。さらに、二つの重複しないタイムインターバルにわたる位相変化Δφ
1(t
1,τ
1)およびΔφ
2(t
2,τ
2)は、統計的に独立している。
式13のパワースペクトル密度の計算は、数値シミュレーションによっても強引に実行し得る。この計算を単純化するために、τ=2z/νという置換を使用して式10よび式11を下記のように書き換えることが有用である。
ファイバは、点zで散乱体の振幅により、および、ループへの入力と散乱体との間の周遊伝搬時間および損失により、決定づけられるインパルス応答をする線形システムとして働く。システムへの入力は位相変調光源であり、それゆえ、出力は入力とインパルス応答との畳み込みであり、光がループを出るのに伴って起きる付加的な位相変調を伴う。後方散乱場を畳み込みとして表現することで、数値計算が簡単になり、高速フーリエ変換アルゴリズムをより効率的に使用して場を算出できる。
光ジャイロスコープにおける後方散乱場の計算は、以下の反復処理を使用して実行することができる。ランダム数生成器を使用することにより、および、公知のガウシアン分布統計および独立した増分の特性を適用することにより、光源の位相ノイズの単一のサンプル関数がサンプル点nにおいて最初に生成される。同様に、A(z)の公知の統計的な特性を使用してサンプル点mで、散乱体の単一のサンプル関数A(z)が生成される。式17および式18で実行された畳み込みは、用いられる空間的なサンプリングに制約を加えている、すなわちΔz=vΔt/2であることに留意する。
一度A(z)およびφ(t)のサンプル関数が生成されると、式4、式5、式17及び式18の離散化バージョンを使用して初期場および後方散乱場を簡単に算出することができる。そして、場の構成要素4つのすべての和の絶対値の二乗を取ることにより出力強度が算出される(式12の最初の行)。一の反復からのパワースペクトル密度は、この出力強度のフーリエ変換の絶対値の二乗として算出される。そして全プロセスが、散乱および位相ノイズの異なるサンプル関数に対して繰り返される。そして何百または何千のそのような反復の結果が平均されて最終結果を与えうる。
三つの異なるパラメータに沿って、結果の収束がヒューリスティックに確立されうる。第1に、予期されたバイアス誤差における変化がシミュレーションの持続時間の増加により1%未満にさらになるまで、時間サンプルの総数Nが繰り返し増加される。次に、さらに小さくした空間サンプリングサイズに対して予期されたバイアス誤差の同様な収束が観察されるまで、空間サンプリングサイズが小さくされる(または空間サンプルの総数Mが増加される)。これに続いて、Nが再び変えられ、Mの調整がNの収束を変更しなかったことが確実となることが試験される。最後に、NおよびMが一旦決まると、NおよびMのそれぞれの長さの、光源の位相およびファイバ散乱分布のユニークなサンプル関数に対して、期待バイアス誤差が繰り返して算出される。光源の位相およびファイバ散乱のユニークな分布の全てにわたって予期されたバイアス誤差の平均が算出され、さらに、追加の反復で平均についての変化が再び1%より小さくなるまで、このプロセスが再び繰り返される。これにより後方散乱によるバイアス誤差の推定値がもたらされる。さらに、後方散乱による予期されたノイズはバイアス誤差よりも非常に急速に収束し、したがって、同じプロセスは後方散乱誘起ノイズの信頼できる推定値をも得る。
上述した数値シミュレーションの方法は、直接的な方法で適用し得るとともに、システムについて最小の数の仮定を用いて最大の柔軟性をもたらす。しかしながら、A(z)およびφ(t)の多くの異なるサンプル関数にわたる反復は、迅速にコンピュータ集約的になる。当然に、出力値の妥当な収束を得るには時折、相当な時間がかかり得る。この計算時間を減らすべく、以下に説明する直接的な解析解が、上記モデルから引き出されることができ、特定の制約下で出力ノイズの自己相関を算出するのに用いられる。すなわち、位相変調が正弦関数形Φ(t)=φmcos(2πfmt)を有すること、および、周波数としてサニャックループのいわゆる好適な周波数fm=ν/2Lが用いられることである。ここで、φmは変調深度であり、νは基本モードの実効的な位相速度である(式7を参照)。これらの制約は、位相変調光ジャイロスコープに対する典型的な動作条件を表す。得られる解析解はそれゆえ、開ループ光ジャイロスコープの標準的な動作に対して重要な洞察を与える。
式13から式16から始めて、二つの項の和としてI
n(t)の自己相関を算出することができる。二つの項のそれぞれ一つは、ベッセル関数および様々な正弦関数の積の有限な列である。
ここで、κ=|a
13|
2+|a
14|
2およびτ
c=1/(πΔf)である。式23の積分は、所与の光ジャイロスコープパラメータに対して数値的に評価することができる。式23は既に、時間依存位相変調のおかげで非定常的である、I
n(t)自己相関の時間平均を示している。したがって、R
n(τ)のフーリエ変換を数値的に算出することで、所望のパワースペクトル密度を得る。当該所望のパワースペクトル密度から、変調周波数における期待バイアス誤差および変調周波数近傍の期待ノイズを抽出することができる。多くの事例で計算時間の大きさが2桁以上低減される数値シミュレーションとは異なり、これらの数値計算はいかなる平均化も必要とせずに直接的な結果を得る。数値的および解析的な手法の両方は、光ジャイロスコープの後方散乱の効果を十分するために用いることができる強力なツールである。
数値シミュレーションの方法と解析解の両方は、光ジャイロスコープの後方散乱のいくつかの重要な効果をモデル化するのに用いることができる。二つのモデルが互いを検証するのに用いられ、結果の精度に信頼を加えていた。さらに、数値モデルで、後方散乱の全パラメータ空間の広範囲な探究ができる。例えば、Φ2(t)=0を設定し、かつ、プッシュプル位相変調器より単一位相変調器を有する構成が光ジャイロスコープの性能にいかに影響するかを考えることに直結する。そしてこのモデルは、様々な用途に対する様々な性能基準を達成するために、後方散乱の存在下で光ジャイロスコープの性能を最適化する強力なツールになる。例えば、プッシュプル変調が用いられているジャイロスコープ構成と、単一の位相変調器だけが用いられているジャイロスコープ構成との比較は、プッシュプル変調を使用したことで実現された、コヒーレント後方散乱によるバイアス誤差の減少を示すことができる。
主たる影響の4つのパラメータは、光源のコヒーレンス、ファイバの後方散乱係数、ファイバループ長、および、入力結合係数である。 それらの各々の影響は以下に別々に論じる。これらの計算に対し、偏光保持ファイバの150メートルコイルの特性を有する光ジャイロスコープを考える。このコイルは、航法のグレードの用途に典型的に用いられるものより短い。しかしながら、このコイル長は試験目的のために実験的なジャイロスコープに用いられるものと一致するように選択されたものであり、コイル長を増加することの影響については以下に述べる。表1に、計算に用いたパラメータ値をまとめた。表1の値は試験がなされた光ジャイロスコープの特性を反映するように選択された。ジャイロスコープのパラメータは、L=150 m、コイル直径D=3.5cm、推定後方散乱係数αB=1.6x10-7 m-1およびλ=1.55 μmである。プッシュプル位相変調が想定され、それはシステムをより対称的にしかつオフセットを低減する。加えて、光ジャイロスコープ信号を最大とするように変調指数が選択された。
図4Aは、表1に詳述されたパラメータに対する光源のコヒーレンス長の関数としての、光ファイバジャイロスコープの予期された角度ランダムウォークノイズを示す。この依存性はいくつかの重要な特性を示す。最初は光源のコヒーレンスが増加するほど、ノイズもまた増加する。光源のコヒーレンス長に等しい長さのコイルの中点に集中する、ファイバの長さからコヒーレント散乱が起きることが理解できるので、これは直感に合っている。したがって、コヒーレンス長が増加すれば、コヒーレント散乱体の数が増加し、大きなノイズをもたらす。しかしながら、光源のコヒーレンス長がループ長を一旦超えると、ランダムウォークノイズは減る。線幅が高い値(Lc<<L)から減ると、Lc≒L(図4Aおよび4BのLc=Lは光源帯域幅の約200kHzに対応する)まで最初はノイズが増加し、それから減少する。この減少は二つの理由で起る。第1に、ループ内の利用可能な散乱体はすべて既にコヒーレント干渉に貢献しており、さらにコヒーレンス長が増加することがもはや散乱体をより増やすことにならない。第2に、光源のコヒーレンス長が増加すると、光源の位相ノイズが減少し(レーザの線幅が減ると、位相ノイズが減る)、後方散乱信号の揺らぎの減少をもたらす。ループの長さを超えて光源のコヒーレンス長が増加することで(Lc>L)、後方散乱により生じるノイズが低減し得る。
図4Bは、図4Aと同じのジャイロスコープに対する光源のコヒーレンス長への光ファイバジャイロスコープバイアス誤差の予期された依存性を示す。ノイズと同じ理由により、バイアス誤差も光源のコヒーレンスの増加(または光源帯域幅の減少)とともに、最初は増加を示す。しかしながら、コヒーレンス長がループ長に達し(Lc=L)、ループ長を一旦超えると、バイアスドリフトは横ばいになり、光源のコヒーレンス長から実質的に独立する。これも直感的に理解しえる。なぜなら、既に説明されたように、コヒーレンス長がループ長を一旦超えると、すべての散乱体は初期信号と実質的にコヒーレントに干渉するからである。したがって、コヒーレンス長がループ長を超えて増加しても、平均誤差は変化しないはずである。
ランダムウォークノイズの予期された絶対値は、実際に極めて低く、コヒーレンス長がループ長に等しいときに最大値としてたかだか約4μrad/√Hzに届くほどである。より長いコヒーレンス長(約30μrad)に対してさえバイアス誤差値も低い。より長いコヒーレンス長においてさえ、以下に述べるであろうように、より要求度の高い用途に対して高すぎる可能性がある。
これらの結果は、いくつかの可能性のある利点とともに、レーザ駆動光ジャイロスコープの動作について可能な二つの領域を示唆する。その第1は、コヒーレントが高く、線幅が非常に狭いレーザを使用している、図4Aおよび4Bの左側部分に示される領域である。この領域の線幅を有するレーザは、極めて低いARWノイズを与え、典型的な広帯域光源(約1μrad/√Hzにおいて)のそれより非常に小さい。この領域のレーザで駆動される光ジャイロスコープは、大きな期待ドリフトによる長期性能の低減とトレードオフになる、優れた短期間性能を有するであろう。
代替的に、図4Aおよび4Bの右側領域の線幅を有するレーザを使用することにより、当該レーザ線幅は、低ノイズおよび低ドリフトの両方を達成するのにおあつらえむきとなりえる。線幅が10−100MHzの標準的な既成の通信用レーザを使用し、低ドリフトを達成しつつ同時に広帯域光源で得たのよりも下にノイズを落すことができる。この領域におけるドリフトレベルは、慣性航法の典型的な要件を満たすことができる。それは通常、約0.1μrad以下でなければならない(光ジャイロスコープのスケールファクタに依存する)。この低ノイズおよびドリフトは、これらのレーザの中心波長を1ppmレベル以下に安定することができるという重要な利点を伴っている。
図4Aおよび4Bのモデル化には光源のシングルモード動作が仮定されていることに留意せよ。100MHzより大きな光源線幅は、概してもはや真のシングルモードではなく、ここで示した分析はもはや当てはまらないであろう。さらに、光源が一旦、もはやシングルモードでなくなると、平均波長安定性は低下することが期待される。したがって、光源線幅が10−100MHzの範囲は、おそらくこの分析が当てはまる比較的広い線幅のレーザの上限を示している。
図4Cは、二つのレーザ線幅に対する後方散乱係数αBへの、算出されたバイアス誤差の依存性を示す。このプロットは、後方散乱係数(ファイバ損失係数はαBに比例するスケールであり、異なるタイプのファイバを比較するときには有効でないであろう)が損失に支配的であることを仮定している。しかしながら、そのような事例において、解析解は、後方散乱および損失係数の両方で与えられるドリフトを直接的に予測させる。
図4Cは、5MHzのレーザにおける、後方散乱係数の約√αBでの増加に対するドリフトの増加を示す。線幅が1kHzまで減少したとき、αBへの依存性はより急激となる。言い換えると、後方散乱係数の増加は、高コヒーレンスレーザに対して観察されるドリフトに大きな効果を有するが、低コヒーレンスレーザに対してはより小さな効果を有する。その理由は、αBが増加すると損失もまたそうなり、より長いコヒーレンスレーザの損失の増加とともに、より急速にドリフトが増加するからである。
しかしながら、コヒーレンス長が、10MHzの線幅の光源および100mを超すループ長のような、ループ長より非常に短いときに、後方散乱によるすべての誤差は、コイルの長さにかかわらず、ループ中点に集中したファイバの短い同じ部分から起きることが期待される。これは、コイル長の増加が後方散乱による誤差の増加をさらにはもたらさないであろうことを示唆する。むしろ、伝搬損失の増加によってノイズおよびドリフトの両方が減り、一方で、当然に信号は以前のように増加するであろう。これは、より長いコイル長が信号対ノイズ比の改良をもたらすであろうことを示唆する。この仮定は変調周波数の変化によっていくらか複雑化し、これは上記したように複雑な方法で後方散乱誤差に影響を与えるにもかかわらず、それでもなお有効性は維持される。そして、大きなスケールファクタが要求され、レーザで駆動される、慣性航法グレード光ジャイロスコープを構築することは概して、コイル長の増加で実現されうる。
光ジャイロスコープのコヒーレント後方散乱の初期の研究は、ループ結合係数への後方散乱ノイズの強い依存性を予測していた。後方散乱光は初期信号に対してπ/2の位相シフトを受けるので、結合係数が正確に0.5のときには、バイアスされていない光ジャイロスコープに対して、後方散乱信号は初期信号とほとんど直交位相であり(光源のコヒーレンスのみにより制限され)、それゆえ、それらは干渉しない。その結果としてループ結合係数が0.5に近いと後方散乱ノイズは強くキャンセルする。
正弦関数的にバイアスされた光ジャイロスコープに対して、各々の場が変調器を通るときのそれらの間の時間遅延によって、位相変調器の存在は散乱場と初期場との間の相関性を破壊する可能性を有する。しかしながら、Culshaw(上記引用)は、好適なループ周波数(fm = ν/2L)で変調器を動作させかつ短いコヒーレンス長(<1mm)の光源を使用することによって、単一位相変調器を有する光ジャイロスコープにおいて相関性が維持されうるであろうことを示していた。光源のコヒーレンス長が短いときには、全てのコヒーレント散乱はループ中点で起き、そこにおいて、好適なループ周波数における位相変調は、散乱場が初期場に対して直交位相を維持することを確実化する。より長いコヒーレンス長に対して、この相関性は再び破壊され、潜在的に後方散乱誘起誤差の増加をもたらす。
プッシュプル構成で二重位相変調器を動作して光ジャイロスコープをバイアスすることによって、もっとより長いコヒーレンス長に対して散乱場と初期場との間の必要な相互関係を回復させることができる。プッシュプル変調の有利な効果は、一貫して短いコヒーレンス長を扱っているCulshaw(上記引用)の以前の業績からは明らかでなかった。二つの変調器間の位相差を180°として、それら変調器を好適なループ周波数(fm = ν/2L)で動作させることによって、理想的な結合器は再び後方散乱信号のキャンセルをもたらす。しかしながら、初期場と散乱場はむしろ直接的に直交しており、初期場と散乱場との干渉に起因する信号は、初期信号に直交するように変調される。従って、光ジャイロスコープに一般的に用いられるような、位相感度検出プロセスにおいて、後方散乱誘起誤差は初期信号から分離され得る。実際に、完全なコヒーレント光源について、対称結合器に対する誤差は期待されないであろう。
図5は、10MHz線幅の光源に対する、ループ結合係数への、後方散乱誘起ドリフトの依存性を示す。図5は、10MHz線幅の光源に対する、理想的な結合器からのずれが期待バイアスドリフトの増加をもたらすことと、結合係数が0.5から0.45までにあるときに期待バイアスが二倍以上であることを示している。したがって、より長いコヒーレンス長に対してさえ、対称的な結合および好適なループ周波数での動作は、期待後方散乱誤差を低下させる。図6は、異なる線幅を有する二つの光源に対する、後方散乱誘起ドリフトのファイバ損失への依存性を示す。下方の曲線は5MHz線幅の光源を示し、一方で、上方の曲線は1kHz線幅の光源を示す。
これら予測は図1に概略的に示された光ファイバジャイロスコープの例からの測定により検証された。それぞれ°/hおよび°/√hの単位の、バイアス安定性および角度ランダムウォークの測定は、スケールファクタの選択に暗に依存する。しかしながら、ループ長Lおよびループ直径Dはしばしば、バイアス安定性またはARWのどちらかに著しく影響しないように(制限の範囲で)独立に選択され得る。例えば、より良いバイアス安定性またはARWが実際のシステムの向上によって実現されるのか、単にループ直径の増加によって実現されるのかが不明確であり得るので、それらは、センサ性能についてのあいまいさをもたらすであろう。このあいまいさを回避すべく、ここでの説明はバイアス安定性に対してrad単位を用い、ランダムウォークに対してrad/√Hzの単位を用いている。光ジャイロスコープ航法ユニットへの変換は、ラジアンを度に変換し、スケールファクタ(時間)で割ることで簡単に達成される。慣性航法は一般的に、典型的なスケールファクタに対して約10―7radのバイアス安定性、および、広帯域光源で駆動される典型的な光ジャイロスコープに対して、10−6rad/√Hzオーダーの過剰雑音を要求する。
上述したように、レーザ光源を利用した光ジャイロスコープにはノイズおよびドリフトの大きな発生源が三つある。カー誘起ドリフト、偏光誘起ドリフトおよび後方散乱である。これらの効果のそれぞれを以下に述べる。
カー誘起ドリフト
光ファイバジャイロスコープ(FOG)等の干渉法光ジャイロスコープは、公知のサニャック効果を使用して回転を測定する。図2を参照すると、結合器は入射光を分離するのに用いることができ、同じファイバコイルを反対方向に伝搬する二つのビーム光を形成する。ループを出ると、二つの光ビームは同じ結合器で再結合され、干渉する。理想的に、回転がなければ、両方のビームは同一の光学経路を行き来して、共通入出力ポートで建設的に干渉する。しかしながら、回転がこの対称性を破り、式1および式2で示される、回転率に比例した二つのビーム間の差分位相シフトを生じさせる。
仮に結合器が完全には対称ではないとすれば、それぞれの方向に伝搬する場は、大きさがもはや等しくなく、非相反的な位相シフトの追加的な発生源をもたらすであろう。この位相シフトは、伝搬係数の非線形性により生じており、以下のように表すことができる。
ここで、n
2はファイバの非線形係数を示し、kは伝搬係数であり、Lはファイバ長さであり、I
±は時計回り方向(+)および反時計回り方向(−)のどちらかを伝搬する光学的な強度をそれぞれ示す。ファイバにわたって、単一の直線偏光状態が仮定されている。いわゆる自己位相変調項、または信号それ自体への非線形効果による追加的な位相は(式24の右側の第1項)、交差位相変調項(第2項)の半分である。したがって、例えば結合器が不完全であることによって時計回りおよび反時計回り方向の強度が正確には一致しないときは、各々の信号にカー誘起された位相シフトは異なり、以下で与えられる、対向伝搬信号間の差分位相シフトを得る。
ここで、最後の等価性は、分離係数Kおよび入力強度I
0で結合器が損失しないと仮定して得た。
5kmコイルに対して典型的な値(λ = 1.55 μm、シリカに対してn2 = 3・10-14 μm2/μW、I0 = 1 μW/μm2)を使用すると、対向伝搬信号間の1%の強度差は、約6μradの位相誤差をもたらす。この誤差は、慣性航法デバイスに対して必要とされるものよりもおおむね2桁高い。
この最悪の事例の誤差は、非相反なカー誘起位相がループ長の全体にわたって伝搬する間に累積すると仮定しているが、それは常に正しいというわけではないであろう。二つの信号が非線形な媒質中を対向して伝搬するとき、非相反的な位相の累積は、対向伝搬場間の継続波干渉により生じる非線形屈折率グレーティングの形成からの結果である。これは、この継続波のコヒーレンスを破壊するあらゆるメカニズムが、累積される非相反的な位相の量を低減することを示唆している。
カー誘起ドリフトを低減するための方法は、それゆえ、短いコヒーレンス長の光源をもちいることである。光源のコヒーレンス長がループ長より非常に短いときには、非相反的カー位相シフトが累積するところのファイバの長さは、ループ長にかかわらず、実質的に光源のコヒーレンス長の二倍まで減る。干渉による非線形屈折率グレーティングはループ中点の近くでのみ高いコントラストを有する、一方で、このコントラストは中点から一コヒーレンス長よりも長い距離の位置では急激にかき消される。したがって、10MHz帯域幅の光源または中実コアファイバの約6.5mコヒーレンス長に対して、期待カー誘起誤差は、13mより長いいかなるコイル長に対しても約0.2・10−7radとなろう。この値は、慣性航法の要求よりも確実に低い。
カー誘起誤差も、非線形係数の低いファイバを選択することによって軽減することができる。例えば、中空コアファイバを用いることができ、それにより、ファイバの設計に依存して、中実コアファイバのそれと比較して、カー誘起誤差を約3桁まで低減することができる。したがって、コヒーレント光源がカー誘起誤差のリスクを増加するものであったとしても、これらの誤差は、(例えば、慣性航法に対して)所望の安定性レベルを満たすように低減または最小化することができる。スペクトル的により広い線幅を使用することによって、カー誘起誤差を無視できるレベルに減らすことができる。狭線幅光源に対しては、振幅変調またはファイバの好適な選択でそのような誤差をさらに減らすことができる。
偏光誘起ドリフト
光ファイバの潜在的な複屈折性は、光ジャイロスコープの相反性を破壊する可能性を持つものであって、対向伝搬信号間の大きな位相差をもたらす。典型的なシングルモードファイバは二つの準縮退固有状態を有し、それらは互いに直交する直線偏光の状態である。対向伝搬信号は、同じ偏光状態で進まないときは、回転誘発位相シフトと区別できない差分位相シフトを蓄積する。さらに、ファイバ内の欠陥は外部摂動と同様に一方の偏光状態にある光を他方の偏光状態へ連結させえる。この結合は時間に対して変化しえて、ドリフトを導きえる。
この交差偏光結合のもっとも明確な効果は、ファイバの偏光軸に対して不完全に位置合わせされた入力ファイバに光が放たれるときに生じえる。初期場から最初に交差偏光したいくらかの光は、初期場と同じ偏光に結合されるであろう。この結合がファイバの点z0で起きるとすれば、ループのまわりを一方向に進む光は、φ1=βyz0+βx(L-z0)という位相を累積するであろうし、一方で、反対方向に進む光は、φ2=βy(L-z0)+βxz0という位相を累積するであろう。ここで、βxおよびβy は、それぞれx および y 偏光の伝搬係数である。これは、対向伝搬信号間の、Δφe=βx(L-2z0)-βy(L-2z0)の位相差をもたらす。
ヒューリスティック的に、この誤差の大きさは、入力光偏光消光比(PER)およびファイバ保持パラメータhを使用して定量化することができる。PERは、一般的にdBで指定される、xおよびy偏光モードのパワー比P
x/P
yである。ファイバ保持パラメータhは、m
−1を単位とする、一方の偏光モードから他方へ結合される期待パワーの尺度である。偏光保持(PM)ファイバ(例えば一方の偏光から他方への交差結合のパワーを最小化すべく高い複屈折性に設計されているファイバ)に対して、hの典型的な値は10
−5m
−1または20dB/kmである。偏光性の高い光源および入出力共通ファイバの偏光軸の精密な位置合わせを仮定すると、入力PERは30dBとなるかもしれない。そのような位置合わせであっても依然として、交差偏光モード結合による位相誤差の最大値は以下のように高い。
上記の値を使用して 約10
―2radの誤差を得る。
ループを出た光が真に相反的な経路(少なくとも偏光に関して)を進むように、光源と入力ファイバとの間の位置ずれを補正することで、共通入出力ポートの位置に配された「完全な」ポラライザが誤差を低減または最小化することができる。依然として、有限のPERε
2を有するポラライザに対しては、いくらかの誤差がまだ存在する。 ヒューリスティックモデルを使用すると、残存誤差は、ポラライザを用いてさえ、以下のように高いものであり得る。
初期のファイバポラライザは60dBのオーダーの消光比を有していて、残存誤差を3桁減らしたが、慣性航法の用途で所望されるものより少なくとも1桁高い。ポラライザの最新の開発(例えばプロトン励起LiNbO3の使用)は80dBを超す消光比のポラライザをもたらしていて、それにより期待誤差を少なくともさらに1桁減らすことができ、当該誤差を慣性航法の用途に所望される値に達する範囲内まで持っていくことができる。
偏光誤差を減らす他の方法が存在する。一つの方法は、交差結合によるあらゆる干渉を低減または最小化するように、交差偏光場間のコヒーレンスを低減する非偏光光源またはLyotデポーラライザーを用いることである。加えて、広帯域光源の短いコヒーレンスと組み合わされた、PMファイバの高い複屈折性は、本質的にデポーラライザーとして働き、ファイバ端部またはループ中点のどちらかの非偏光長さLγ内に由来しない交差偏光からの直接的な干渉を効果的に低減または最小化する。広帯域光源に対する非偏光長さは典型的には、10cmのオーダーであり、偏光誤差をさらに2桁の大きさで減らす。したがって、より短いループ長(例えば、数百メートルのオーダー)に対して、最新のポラライザの高い消光比によって、光ジャイロスコープの偏光誘起誤差を慣性航法の用途に対して所望されるレベルにまで減らすことができる。より長いコイル長に対しては、デポーラライザーの使用により、さらに誤差を減らせるだろう。
後方散乱
慣性航法の用途に対して所望されるレベルまで後方散乱による期待誤差を減らすために、いくつかの要因を用いることができる。前に指摘しておいたように、コヒーレント後方散乱のみが大きな誤差を引き起こすので、光源のコヒーレンス長を減らすことで、コヒーレント後方散乱誘起誤差に寄与するループの長さを減らすことができる。他の例のように、ここで述べたモデル化は、相変調スキームの好適な選択が、位相感度検出処理と一緒に、後方散乱誤差の残りをさらに著しく減らすことができることを示している。最新のすべての光ジャイロスコープは、適切なバイアスを提供しかつジャイロスコープ感度を向上させるために、位相変調技術を用いている。ループ結合器の近くのサニャックループのアームのうちの一つの中に位相変調器が置かれることで、この変調を提供することができる。ループ遅延の二倍に等しい位相変調周期を選択することで、適切なバイアス(回転に対する最大の感度を与える)を達成するための位相変調が最小化される。
レーザ駆動光ジャイロスコープにおいて後方散乱誘起ノイズおよびドリフトを減らすもっとさらに有益な位相変調は、一つに代えて、二つの位相変調器を用いたプッシュプル変調である(例えばループの第1端部の近くに第1位相変調器、および、ループの第2端部の近くに第2位相変調器)。二つの位相変調器は、サニャックループの好適な周波数(fm = ν/2L)で、かつ、第1時間依存位相変調は第1位相変調器により適用され、かつ、第2時間依存位相変調は第2位相変調により適用されるプッシュプルモードで動作される。第2時間依存位相変調は、第1位相変調器により適用される第1時間依存位相変調に対して実質的に等しい振幅かつ反対の位相(例えば位相の180°ずれ)である。
この技術は、光ジャイロスコープに関して、いくつかの利点を有する。第1に、それぞれの位相変調に適用される電圧は、単一の変調器を用いているジャイロスコープの変調器に適用されるであろう電圧の半分である。というのも、それぞれの信号はそれぞれの変調器で半分の変調で取り上げられ、これら二つの半分が一緒に加えられるからである。結果として、パワーは電圧の二乗に比例するから、二つの位相変調器で消費される電力は、単一の位相変調器で消費される電力よりも小さなものになる。第2に、位相変調器の応答が線形でないとすれば、すなわち、波に適用される位相が印加電圧に比例するものに、電圧の二乗に比例するより弱い2次の非線形項がプラスされたものであるとすれば、この非線形性は、回転に対するジャイロスコープの応答の望ましくない非線形性へと移行する。プッシュプル構成において、公称同一応答(およびそれゆえの非線形性)を有する二つの位相変調器を使用したときは線形項は加えられる(それは半分の電圧しか用いていないからである)が、2次の非線形項は打ち消し合う。第三の恩恵として、ループ長より非常に短いコヒーレンス長の制限の中で、プッシュプル変調はコヒーレント後方散乱による弱い残存誤差も低減する。
本出願の文脈において、さらなる利点は、光ジャイロスコープをインテロゲートするレーザを使用したときに、プッシュプル変調の使用は、時計回りおよび反時計回り方向に後方散乱された信号が両方とも二回変調されるという結果を有する。対して、(図2のポート4に一つの位相変調器があると仮定して)単一の変調器によると時計回り方向に後方散乱されたそれらの場は、ループに入ったときおよび後方散乱光として戻ったときに一度変調されるのに対して、反時計回り方向の後方散乱場は、それらがループに入ったときに変調されず(なぜなら図2の入力ポート3には変調器がない)、かつ、反時計回りの後方散乱光として戻ったときに変調されない(なぜならそれらは入ってきたときと同じポート3を通って出る)。我々のシミュレーションは、後方散乱信号の干渉の変調に対するこの非対称性が大きな後方散乱誤差をもたらすことを示している。対して、プッシュプル変調が好適な周波数(fm = ν/2L)で用いられたときは、上記で説明されたように、後方散乱場は対称な変調を受ける:中点に対して対称に位置する点から後方散乱された場は、同一の位相変調を受ける。特に、適用された位相変調と同相の出力信号部分のみを抽出するよう復調スキームが調節されている場合に、この対称性は、後方散乱誘起誤差を大いにキャンセルすることになる。
光源のコヒーレンス長がループ長と比較して無視できないときに、後方散乱誘起誤差のこのキャンセルは極めて重要である。例えば、好適な周波数でプッシュプル変調を使用したとき、コヒーレント後方散乱によるノイズおよびドリフトの少なくとも1つは、単一の変調器を利用した同じジャイロスコープ(例えば、第1位相変調器および第2位相変調器が単一の位相変調器に置換された構成で、そしてコイルを通って対向伝搬する第1レーザ信号および第2レーザ信号に単一の時間依存位相変調のみが適用される)と比較して、少なくとも1.5、2、5、10、20、50、60、100、200、500、1000の倍数で、または、1桁または複数桁の大きさ(例えば数桁のきさまで)で減らすことができる。ここで報告された実験的なジャイロスコープにおいて、例えばプッシュプル変調スキームを用いることが、単一の変調器である他は同じ構成要素を使用している以前の光ジャイロスコープ(例えば、第1位相変調器および第2位相変調器が単一の位相変調器に置換された構成で、そして単一の時間依存位相変調のみがコイルを通って対向伝搬する第1レーザ信号および第2レーザ信号に適用される)のものと比較して、観察されたドリフトのおよそ60の倍数までの減少の、ほとんど全くの原因だった。この結果は、慣性航法の用途に対するサブμradレベルまでドリフトを低減するために特に重要である。
測定
上記議論の通り、(レーザ光源の波長安定性にもかかわらず)光ジャイロスコープのための光源としてレーザが使用させられないと以前に予期されたところの非線形カー効果、偏光効果およびコイル後方散乱に起因する誤差を、最新の構成要素およびこれらの効果を低減するために意図された特定の工学的技術を用いて、減少することができる。以下の説明は、典型的な広帯域光源およびいくつかの異なるレーザ光源を有する光ファイバジャイロスコープを使用して、この結果を検証するためになされた測定を記述する。
図1はここに記載されている特定の実施形態に従う光ジャイロスコープ10の図であり、そのあるバージョンが以下に議論される測定を行うのに用いられた。光ジャイロスコープ10は、導波路コイル20と、レーザ光の光源30と、光検出器40と、上記光源30、光検出器40およびコイル20と光学的に通信する光学システム50とを備える。光学システム50は、コイルの第1部分22と光学的に通信する第1位相変調器52を備える。光学システム50はさらに、コイル20の第2部分24と光学的に通信する第2位相変調器54を備える。光学システム50はさらに、第1位相変調器52および第2位相変調器54と光学的に通信する少なくとも1つのポラライザ60を備える。レーザ光の第1部分32は、光源30から、光学システム50を通って、コイル20を第1方向に通って、そして光学システム50を通って、検出器40まで伝搬する。レーザ光の第2部分34は、光源30から、光学システム50を通って、コイル20を第1方向とは反対の第2方向に通って、そして光学システム50を通って、検出器40まで伝搬する。
導波路コイル20は、高い複屈折性の偏光保持(PM)ファイバを例として含むがそれに限定されない光ファイバ等の導光路を備えることができる。そのようなファイバは、Corning, Inc.、FiberCore、 Newport等を含む、多くの製造業者から利用可能である。コイル20は、互いに実質的に同心の複数のループを備えることができる。例えば、以下に説明される測定は、長さ150mを有する、高い複屈折性のPM中実コアファイバを備え、かつ、直径3.5cmを有する、実質的に同心の複数のループに巻かれた4極のコイル20を使用して得た。コイル20の第1部分22は、光学システム50に結合(例えば接合)されたコイル20の端部からなってよく、コイル20の第2部分24は、光学システム50に結合(例えば接合)されたコイル20の端部からなってよい。環境の熱的および音響的摂動を低減すべく、コイル20はコンテナに包囲されていてもよい。
光源30は、所望の波長でレーザ光を提供するように構成されていてよい。例えば、以下に説明する測定に対して、各々の光源30は、公称中心波長が1.55μmの連続放射を出力する。光源は、組み立てを容易にすべくピグテイルされたファイバであってよい。検出器40は、光源30の波長を有する光に反応する1または複数のフォトディテクタを備えてもよい。
光学システム50は、コイル20と光学的に通信する、マルチ機能のLiNbO3光学集積回路(MIOC)51を備えてもよい。図1に概略的に図示されるように、MIOC51は、第1位相変調器52、第2位相変調器54、ループ結合器56(例えばそれ自体でコイル20を閉じるべく構成された結合器)、および、少なくとも1つのポラライザ60を備えてもよい。特定の実施形態において、光学システム50は、少なくとも1つの入出力結合器70(例えば、2×2結合器または50%ファイバ結合器)を備える。これら様々な構成要素のいくつかまたは全ては、全ファイバアプローチを通じて、または、これら様々な構成要素のいくつかまたは全ての機能を単一のユニット内に結合した集積光学系(例えばMIOC51)を使用することのいずれかによって実現され得る。
レーザ光源を結合器に接続するファイバの線分および結合器をMIOCに接続する線分はすべて偏光保持ファイバであってよく、センシングコイルのPMファイバの主たる固有偏光に結合されたパワーを最大化するべく、それらの主軸はレーザ光源およびMIOCの軸と注意深く配列される。この構成は、主たる固有偏光に直交する望まない固有偏光に結合される残余パワーを最小化することができ、それゆえ、上述したセンシングコイル内の偏光結合によるノイズおよびドリフトを最小化することができる。
第1位相変調器52および第2位相変調器54は、プッシュプル構成で動作してもよい。第1および第2位相変調器52、54は、好適なループ周波数で(例えば150mコイルに対して666kHz)、最大の感度に対して概して0.46radの変調深度で、(例えば正弦波形で)駆動されてよい。
以下に説明する測定において、光ジャイロスコープ10を異なる三つのレーザ光源30で試験した。(A)カリフォルニア、サンタクララのRedfern Integrated Optics, Incからの狭2.2kHz線幅レーザ、(B)日本、愛知のSantecからの200kHz線幅レーザ、および(C)日本、東京の三菱電機からの10MHz分布フィードバック(DFB)通信レーザである。
各光源30に対して、ジャイロスコープの性能を測定するのにしばしば用いられる統計的な方法であるアラン分散法を使用して、ランダムウォークおよびドリフトが算出された。性能の単一のポイントの測定というよりむしろ、アラン分散は典型的には、短期間ノイズ、長期バイアス不安定性および動的な誤差の他の発生源を捉える両対数プロットを表す。アラン分散(AV)とは呼ばれるものの、AV曲線は一般的に、縦軸にアラン偏差をとり、横軸に時定数または積分時間をとることで特徴付けられる。このようにプロットするときには、異なるノイズ発生源が簡単に同定できる。より短い時定数に対して、AVプロットは一般的に、−1/2の傾きを有し、これはセンサの性能にホワイトノイズまたはランダムウォークノイズが支配的であることを現す。より長い時定数に対して、AVプロットは一般的に、変曲点に達して、傾きゼロの横ばいとなるであろう。これはバイアス不安定性を表しており、最小のアラン偏差はバイアス安定性の尺度ととらえることができる。さらにより長い時定数に対して、アラン分散は、実際に、+1/2の傾きで増加するであろう。これは比ランダムウォーク(RRW)を表しており、センサ出力における大きな不安定性のしるしである。
用いられた三つのレーザの各々に対して、合成アラン分散プロットを生成すべく、二つの測定を行った。第1の測定は典型的には、15分周期にわってより高いサンプリングレート(約100Hz)で記録された。光ジャイロスコープ10はループの好適な周波数(fm = ν/2L)で駆動された。以前に記載したように、当該好適な周波数は、典型的な位相感度検出処理が用いされるときのコヒーレント後方散乱誤差の減少を含む、いくつかの利点を有する。出力は、変調周波数に同期したロックイン増幅器を使用して復調もされた。これらの測定を行うにあたり、ロックイン増幅器の参照位相は、適用した位相変調と同相の出力信号の部分のみを抽出するべく、注意深く調節された。ロックイン積分時間は、選択されたレートでサンプリングされた信号の一部が折り返し雑音とならないことを確実にすべく選択された。
第2の測定は、より長い周期、概して12時間、にわたって、より遅いサンプリングレート(約2Hz)で行われた。このより長い測定に対して、サンプリングレートが低減されて(例えば約1Hz)、集められたデータ量も減らしながら、折り返し雑音を回避すべくロックイン増幅器の帯域幅が同様に調節された。両方の測定に対して、熱的および音響的ないくらかの隔離を提供するコンテナの内側にコイル20が位置されたにもかかわらず、光ジャイロスコープ10は大いに制御できない環境の中にあった。コイル20は実験環境内で静止状態が保持され、かつ、これらの測定のため、その主軸が地球の回転の軸に対して直交するように配置された。さらに、直線偏光入力光は、ファイバコイルの偏光軸に整列された。
両方の測定からのデータが一旦集められると、そのデータは標準的なアラン分散アルゴリズムを使用して処理された。そして、10−5hから10hまでの範囲の積分時間をカバーする単一のプロットを形成すべく、二つの分離したアラン分散プロットが組み合わせられた。図7は、10MHz帯域幅DFBレーザに対するそのようなプロットの一例を、従来のエルビウムドープ広帯域超放射光源(SFS)からのものとともに示す。
レーザと広帯域光源の両方に同等な条件下で測定を実行したにもかかわらず、レーザ光源を用いた光ジャイロスコープ10に対する測定は、インターフェース(例えば、ファイバコイルとMIOCとの間の接合)でのすべての離散的な反射を最小化することを含んでいた。さらに入力光の偏光性はファイバコイル20の複屈折率の光軸に正確に整列されていた。そのような手当てがされているとき、ジャイロスコープは光源にかかわらず非常に似た特性を与えることをこの結果(図7)は示している。より短い時定数に対して(< 3x10-3 h)、アラン偏差は−1/2の傾きを有し、これはこの範囲でARWによって性能が制限されていることを示している。より長い時定数に対して、アラン偏差は実質的に傾きゼロまで横ばいになり、これはバイアス不安定性を示している。図7に示すように、レーザ駆動およびSFS駆動光ジャイロスコープはほとんど同一のドリフト性能を与える。この類似性は、この段階では性能限定因子は光源それ自体ではなく、特に、性能を限定しているのは、コヒーレント後方散乱でもなければ、重要なことにカー効果(レーザが用いられていたとしても)でもないようにみえることを強く示唆する。この測定は後方散乱でない誤差の発生源を反映しているので、これは、図4Bにおける測定されたドリフトの最低値がなぜ予測された上限に最も近いかということも説明する。閉ループ技術は、いずれかの光源について性能をさらに向上するはずである。
図7に示されているように、レーザ駆動光ジャイロスコープおよび広帯域駆動光ジャイロスコープの両方は、図7に示す積分時間の範囲にわたって、ほとんど同一の性能を現す。この結果は、この光ジャイロスコープ10に対して、バイアス安定性はコヒーレント効果により制限されている可能性はほとんどなく、光源の光学的な特性から独立したしたある効果によって制限されている可能性が高いことを示している。測定は開ループ信号処理に対してのみ行われたので、バイアス不安定性の最も可能性のある発生源は、位相変調器で光学信号を変調および復調するのに用いた電子的な構成要素の中にある。閉ループ信号処理システムは、この電子的なドリフトを低減し、かつ、観察される全体のセンサードリフトを下げるように構成することができる。
上で議論したように、より短い積分時間における曲線の傾きは、光ジャイロスコープ10のランダムウォークノイズを表しており、この事例で約1μrad/√Hzである。さらに、より長い時定数に対して、曲線の傾きの大きさは急落し、最終的に横ばいとなる。10MHz帯域幅DFBレーザに対して、アラン分散プロットの最小が起きるのは、約0.4μradのときであり、これはこの光源30を有するレーザ駆動光ジャイロスコープ10のバイアス安定性を表している。同様のプロットは、他の二つのレーザ(それぞれ2.2kHzおよび200kHz線幅)に対しても生成された。
アラン分散プロットの各々から、ランダムウォークノイズおよびドリフトが抽出され、図4Aおよび図4Bにそれぞれ示された(黒丸により示されている)。これらの図中の実線は、上記した理論上のモデルから算出されたノイズおよびドリフトである。異なる線幅のレーザで測定されたノイズ(図4A)およびドリフト(図4B)の両方は、理論的な計算に沿っている。最大のノイズ7μrad/√Hzは、200kHz線幅レーザで観察された。上記の理論的な説明で予期されていたとおり、この線幅はループ長に近いコヒーレンス長(ファイバの内側で330m)に対応するからである。ループ長より非常に短いかより非常に長いかのどちらかのコヒーレンス長を有するレーザに対して、ノイズは著しく下がった。最小のノイズは、2.2kHz線幅レーザ(ファイバの内側でLc ≒30.1 km)で観察され、0.35μrad/√Hzと同じ低さか、SFSで動作された同じ光ジャイロスコープ10よりも約3.5倍小さい。この結果は、過剰雑音限界をはるかに下回ってショットノイズ限界に近いノイズフロアを有する光ジャイロスコープの最初のデモンストレイションであった。図4Bは、測定されたドリフト値もまた理論的に算出された上限またはそれ以下であることを示している。観察されたドリフトはコヒーレンス長の増加とともに増加し、最高のドリフト(10μrad)を2.2kHz線幅レーザで得た。ドリフトは、10MHz線幅レーザで0.4μradまで減少した。
上記されたように、算出されたドリフトは後方散乱のみによるドリフトに対する上限を示しており、一方で、算出されたノイズは後方散乱によるものとして算出されるノイズである。測定値は計算値とよく一致しており、光ジャイロスコープにおける後方散乱の効果の予測を裏付けている。
1μrad/√Hzにおいて、レーザ駆動光ジャイロスコープ10で観察されたノイズは、広帯域光源駆動光ジャイロスコープに対する典型的なノイズレベルに匹敵する。さらに、測定されたドリフト0.4μradは、慣性航法の用途に対して所望されているレベルのドリフト(約0.1μrad)を有するレーザ駆動光ジャイロスコープ10の最初の実験的な観察の報告となった。この測定されたドリフトは、後方散乱により生じるドリフトだけではなく、上記した偏光および非線形カー効果により生じるドリフトのいくつかの付加的な要素も含んでいる。従って、この測定は、これらの効果による誤差が、最新の構成要素の組合せを通じて、レーザ線幅の好適な選択によって、およびここに記載された特定の実施形態に従って、著しく減らすことができることを検証した。
レーザ駆動中空コア光ファイバジャイロスコープ
特定の実施形態において、導波路コイル20は中空コアファイバ(HCF)を備えてもよい。HCFは中実コアファイバに対して二つの恩恵を導入することができる。すなわち、カー誘起ドリフトと熱ドリフト(シュンペ効果として知られる)との両方の減少である。両方の向上は、HCFにおいて基本コアモードのエネルギーの大部分が空気内に制限されるという事実に起因し、当該空気は非常に弱い非線形カー定数および屈折率のより低い温度依存性を有する。好都合に、HCFは偏光を維持することができる。
数値シミュレーションは、カー定数が7セルHCF(NKTのHC−1550−02ファイバ)の約250倍低く、19セルHCFにおいては少なくとも1000の分の1が期待できることを確立した。中空コア光ファイバジャイロスコープにおいて、カー誘起ドリフトの減少結果は、これらの数字とつりあっている。この点は、200kHz DFBレーザでインテロゲートされる、235mの7セルHCFで作られたセンシングコイルの光ジャイロスコープで検証された。レーザパワーを50mWに高くして、結合比を故意に10%アンバランスさせたときでさえ、測定されたカー誘起オフセットはノイズを十分に下回った(約90μrad)。典型的な条件下で(入力パワーを200μWかつ結合比を50%±2%)、この光ジャイロスコープは、9.7nrad/s未満の非線形ドリフトの計算値を有し、これは慣性航法の10時間飛行に対するRNP−10基準を容易に満たしている。これらの測定は、もし必要であれば、レーザ駆動光ジャイロスコープの残存カー誘起ドリフトを実質的に除くために、HCFを用いることができることを確認した。
熱誘起位相変化のシミュレーションおよび測定は、HC−1550−02ファイバのシュンペ定数がSMF−28ファイバよりも約7.5倍下回るという一致をみた。この大きな減少は、中空コア光ファイバジャイロスコープの四極子巻回コイルに温度勾配を適用して、中実コア光ファイバジャイロスコープと比較してシュンペ誘起ドリフトが6.5倍減少したことが測定されたことにより、確認された。シュンペ効果は慎重なパッケージングを通じて大いに減少することができる一方、この効果自体の減少によって、HCFはこれらの工学的な解のいくつかに対する制約を緩和することで価値が上がる。
光ジャイロスコープにおける少なくともいくつかのHCFの欠点は、NKTの7セルHCFの事例のように、SMF−28ファイバに比べ散乱係数が増大するということである。よって、√αBのようなスケールのコヒーレント後方散乱によるノイズおよびオフセットは、より高くなることが期待される。既に検討した中空コア光ファイバジャイロスコープにおいて、ノイズが中実コア光ファイバジャイロスコープよりも実に約10倍高いことが分かった。しかしながら、HCFの後方散乱は、ファイバコアの表面のランダムな欠陥が支配的である。そのような欠陥の統計値はレイリー散乱とは異なることが期待されるので、このタイプの散乱の検討は、光ジャイロスコープにおいて二つのメカニズムが同じレベルの誤差を得ると結論する前に役に立つであろう。ノイズおよびドリフトの可能性のある減少は、(1)非常に小さい損失を有しそれによって非常に小さい後方散乱を有するであろう19セルファイバ、(2)改良されたファイバ設計、および(3)減少されたファイバ損失で検討されうる。
第2の困難性は、スプリアスなフレネル反射である。HCF結合器はいまだ存在しないので、光ジャイロスコープの光学的な回路を形成するべく、HCFは従来のファイバ結合器またはMIOCのピグテイルに接合されうる。接合は、弱いとはいえ反射信号を生成する。この問題は中実コア光ファイバジャイロスコープではあまり深刻でなくなる。反射がかなり弱く、異種のファイバ間の接合を避けることができるからである。HFC光ジャイロスコープにおいて、ファイバをある角度で接合することにより、この問題を容易に最小化できる。また、接合はループ結合器の近くに位置しているので、十分に短いコヒーレンス長のレーザを選択することにより(Lc ≦L)、上述したコヒーレント後方散乱ノイズおよびドリフトも減少させる解決手段で、反射は強度ノイズのみをもたらし、結果として非常に小さいノイズおよびドリフトとなる。
測定に関する考察
安定したAV曲線は、偏光の入力状態(SOP)を調整すること、矩形波変調を使用した位相変調周波数を調整すること、正弦関数の変調にスイッチバックすること、および、回転の存在で不一致した位相の要素へ変化することを無効にするよう位相を調整すること、を備える方法によって、好適に得ることができる。
矩形波変調は閉ループシステムの製造時に好適に用いることができる。矩形波変調は、回転が存在しない変調周波数で検出されるパワーの平均を低減することによって、システムのノイズを低減するのにも好適に用いることができる。
光ジャイロスコープのセンシングコイル内にPMファイバを用いることは、図7に示した性能を達するのに有利である(コーニングのSMF−28ファイバ等の非PMシングルモードファイバを用いると、より高いノイズおよびドリフトを生成した)。ありうる説明は以下の通りである。MIOC51のコイル側のMIOC51の二つのファイバピグテイルはPMファイバからなっていたので、コイル20がSMF−28ファイバからなっていたときは、このファイバは二つのPMファイバピグテイルに接合され、かつ、異種ファイバ間のこれら二つの接合は、より強い後方反射を生じ、その結果コヒーレント誤差が増大した。光ジャイロスコープがコイル20としてPMファイバを用いているときは、PMファイバコイルはMIOC51に光学的に直接結合することができ、例えば、接合がなく、追加的な後方反射がなかった。
以前の研究(例えば、その全体参照によりここに取り込まれる米国特許出願公開2010/0302548A1)との差は、プッシュプル変調のモデル化、SMF−28ファイバまたは中空コアファイバに代えてPMファイバを使うこと、および、より短いコイル(例えば、SMF−28ファイバに対する230mとは反対に、PMファイバに対して150m)を用いることを含む。ノイズの観点では、コイル長およびファイバ特性は、プッシュプル変調が有するよりも高い効果を有する。以前に言及したように、プッシュプル変調スキームはほとんど単独で、観察されるドリフトを約60の倍数に減少する原動力の要因となる。コイル長およびファイバ特性はいくらかの効果を有するが、変調によるものと比較して小さい。
ここに記載した解析モデルおよび数値的な手法に示されるように、後方散乱によるランダムウォークノイズは、ループ長に対して短いコヒーレンス長か長いコヒーレンス長かのどちらか、コヒーレンス長の好適な選択でコヒーレント光源(レーザ)を使用することによって劇的に減らすことができる。ループ長より非常に長いコヒーレンス長を使用することによってノイズを減らすことができるというデモンストレイションが、以前に示されたことはなかった。 これは、高いスケールファクタ安定性の、高精度でエネルギー効率のいい光ジャイロスコープを構築するために、重要な意味合いを有する。
提示された解析的および数値的なツールは、干渉法光ジャイロスコープにおいてコヒーレント後方散乱による長期間ドリフトの効果を予測するために有用でもある。高コヒーレンス光源に対して、ループ結合器および位相変調周波数を注意深く制御することで、バイアスを減らすことができる。しかしながら、結合係数と変調周波数のどちらかの誤差は、急激に、比較的大きいバイアス誤差をもたらす。慣性航法システムの用途に対しては、所望の性能を保証すべく、光学経路が安定化された、高コヒーレンス光源で駆動される光ジャイロスコープを用いることができる。安定化の可能な方法の一つは、センシングコイルとして中空コアファイバを使うことであろう。これにより温度勾配および磁場のような環境の刺激に対しての感度の低下がもたらされる。ランダムウォークがより大きく重要ないくつかの用途に対して、高コヒーレンス光源を有する干渉法光ジャイロスコープは実行可能なオプションでありえる。
コヒーレンス長がループ長より短いがまだ伝統的な広帯域光源より著しく長い型において、高いスケールファクタ安定性を保ちながら、後方散乱ノイズを広帯域光源の過剰雑音より低く減らすように、光源のコヒーレンス長が選択されてよい。重要なことに、この型で予測される長期間ドリフトは、戦術的グレードデバイスに所望されるレベルに近づいており、広帯域光源で駆動される光ファイバジャイロスコープの伝統的なアプローチに対する強力な競合相手を示唆している。
光ジャイロスコープにレーザを用いることに関連するコヒーレント後方散乱の悪影響は、以前に予測されていたよりも数桁小さい。最新の構成要素、対称的な変調スキーム、好適なレーザ線幅、および、ジャイロスコープの設定の注意深い調節を使用して、レーザ駆動光ジャイロスコープの短期および長期(例えば約1時間)の性能は、広帯域光源で駆動される光ジャイロスコープのものと匹敵する。これらの成果はレーザ光の多くの恩恵を伴う。もっとも著しくは、高い波長安定性であって、それは最初に高精度光ジャイロスコープのための可能な光源としてレーザが位置していたところのものである。中空コアファイバの追加的な使用は、現行は後方散乱の増大を代償にしているにもかかわらず、カー誘起および熱ドリフトを減らすことを含むさらなる恩恵を導入した。
本発明の様々な実施形態が上述された。本発明は、これらの特定の実施形態を参照して記載されているが、これらの説明は本発明の実例を意図したものであって、限定されることを意図したものではない。当業者にとって添付された特許請求の範囲で定義された本発明の真の主旨および範囲から逸脱することなしに、様々な変更および用途が生じえる。