JP2015515610A - タンパク質修飾酵素の活性を定量化する方法 - Google Patents

タンパク質修飾酵素の活性を定量化する方法 Download PDF

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Abstract

以下を含む、サンプル内のタンパク質修飾酵素の活性を定量化する方法;(i)第1のサンプルからの修飾ペプチドと第2のサンプルからの修飾ペプチドを以下のパラメータ類の1つにより、一つのグループに分類すること:(a)同じタンパク質修飾酵素によって修飾される修飾部位を持っている修飾ペプチド;または(b)同じ修飾モチーフの一部である修飾部位を持っている修飾ペプチド;(ii)グループにおける第2のサンプルからの修飾ペプチドと比較して、第1のサンプルからの修飾ペプチドの富化を計算すること;および(iii)前記富化の統計的有意性について計算すること;ここで、統計的に有意な富化は、第2のサンプルと比べて、第1のサンプルでタンパク質修飾酵素が活性化されていることを示している。いくつかの実施態様では、本発明の方法は工程(i)の前に、質量分析法(MS)を使用して第1のサンプルおよび第2のサンプル中の修飾ペプチドを同定する工程を含む。

Description

本発明は、タンパク質修飾酵素の活性を定量化する方法に関し、プロテインキナーゼの活性の定量化に特に使用される。
本発明の背景
脂質および蛋白質キナーゼ類は、正常および疾病生物学に重要な、細胞シグナリングプロセスを仲介する。現在多くの質量分析(MS)研究所で日常的である大規模なホスホプロテオミクス(phosphoproteomics)は、活性であるかもしれないネットワークの中のルートの先入観なしでのシグナリングの定量化を許容するべきである。数千のリン酸化部位が現在、高精度でMSに基づく定量的技術(Thingholm他、Proteomics9、1451(2009年3月))の使用で測定されている。
それぞれのリン酸化部位は定義上キナーゼ活性(ホスファターゼ活性化と反対)の結果であるので、調査されるシステムで発現されたそれぞれのキナーゼの活性の見積りを得るためにホスホプロテオミクスデータを使用することは、理論上可能であるべきである(Cutillas & Jorgensen, Biochem J 434 (Mar, 2011))。既知のキナーゼ基質(kinase substrate)(すなわち、特異的燐酸化部位)を測定することにより、ついでこれはそのようなキナーゼの活性のマーカーとして使用できることになる。しかしながら、キナーゼの活性を推論するのにホスホプロテオミクスデータを使用するのは簡単でない。基質−キナーゼ相関のデータベースは公的に利用可能である。ただし包括的でなく、大規模なホスホプロテオミクスにより定量化可能な部位の亜集団がこれらのデータベースに示されている。この情報を使用することにおける問題は、いくつかの異なったキナーゼが同じ基質をりん酸化し、1つの細胞タイプにおいてタンパク質リン酸化が発現されないか、または他のものでは基質が乏しいことである。
蛋白質リン酸化の動的な本質は、この修飾が実験の経過の間急速に変化し、体内時計、細胞コンフルエンスおよびせん断ストレスなどのような変数を制御することが困難であり、細胞培養の取り扱いの結果がプロテインキナーゼ活性に影響することを意味し、その結果、ホスホプロテオミクスデータにノイズを与える。
したがって、確率的影響のため、ホスホプロテオミクス実験は、与えられたキナーゼ活性の知られている既知の基質マーカーのリン酸化の一貫していないレベルを示すことがある。したがって、MSベースのホスホプロテオミクスに基づくプロテインキナーゼ活性を信頼性良く推論する方法の必要性が当技術分野で存在する。
発明の要約
本発明者は、初めて、タンパク質修飾酵素の活性(例えば、プロテインキナーゼの活性)を推論するために、MSベースのホスホプロテオミクス実験から得られたデータを分析する方法を同定した。
従って、本発明の第1の態様は、以下を含む、サンプル内のタンパク質修飾酵素(protein modifying enzyme)の活性を定量化する方法を提供する;
(i)第1のサンプルからの修飾ペプチドと第2のサンプルからの修飾ペプチドを以下のパラメータ類の1つにより、一つのグループに分類すること:
(a)同じタンパク質修飾酵素によって修飾される修飾部位を持っている修飾ペプチド;
または
(b)同じ修飾モチーフの一部である修飾部位を持っている修飾ペプチド;
(ii)グループにおける第2のサンプルからの修飾ペプチドと比較して、第1のサンプルからの修飾ペプチドの富化を計算すること;および
(iii)前記富化の統計的有意性について計算すること;
ここで、統計的に有意な富化は、第2のサンプルと比べて、第1のサンプルでタンパク質修飾酵素が活性化されていることを示している。
本発明はサンプルの蛋白質キナーゼ類などのタンパク質修飾酵素の活性を定量化するための方法に関する。本発明の方法はりん酸化ペプチドのような修飾ペプチドの、MSベースのテクニックを使用することで同定される分析に基づいている。本明細書に記載されるように、本発明の方法は、サンプル内のタンパク質修飾酵素の活性を定量化する方法である。ほとんどのタンパク質は官能基の添加によるいくつかの方法で修飾され、そのような修飾はタンパク質修飾酵素により影響される。質量分析法で検出される蛋白質修飾は、リン酸化、グリコシル化、アセチル化、メチル化、および脂質化を含んでいる。これらの蛋白質修飾は細胞内で様々な生物学的役割を持っている。「タンパク質修飾酵素」の用語は、タンパク質またはペプチドへの官能基の添加を含む反応を触媒する酵素を意味する。
本発明の方法は、活性がMSベースの方法を使用することにより検出されるすべてのタンパク質修飾酵素の活性の定量化に適用される。そのような酵素としては、プロテインキナーゼ、プロテイングリコシルトランスフェラーゼ、プロテインアセチルトランスフェラーゼ、プロテインメチルトランスフェラーゼ、およびプロテインパルミトイルトランスフェラーゼがあげられる。これらの酵素の活性はそれぞれ、タンパク質またはペプチド基質のリン酸化、アセチル化、グリコシル化、メチル化および脂質化をもたらす。これらの蛋白質修飾のすべてが質量分析法で検出される。
1つの実施態様では、本発明の方法はプロテインキナーゼの活性を定量化する方法である。この実施態様では、方法はりん酸化ペプチドの分析に基づいている。りん酸化ペプチドはリン酸化される1以上のアミノ酸を含んでいる(すなわち、リン酸(PO)基がそのアミノ酸に加えられている)。そのようなリン酸化アミノ酸は本明細書では「リン酸化部位」と呼ばれる。本発明のこの実施態様と関連して、「リン酸化タンパク質」という用語は、りん酸化された蛋白質について言及するのに使用され、「りん酸化ペプチド」という用語は、りん酸化されたペプチドについて言及するのに使用される。
ヒトプロテインキナーゼは以下を含む多くのグループに分けることかできる:AGCキナーゼ、たとえばプロテインキナーゼA(PKA)、プロテインキナーゼB(PKB)(Aktとしても知られている)、プロテインキナーゼC(PKC)およびプロテインキナーゼG(PKG);チロシンキナーゼ;チロシンキナーゼ様キナーゼ;カルシウム/カルモデュリン依存性プロテインキナーゼ;カゼインキナーゼ1グループ;CMGCグループ、たとえばCDK、MAPK、GSK3、およびCLKキナーゼ;STE、酵母Sterile7、Sterile11、およびSterile20キナーゼの相同体。
本発明の方法は、サンプル内のタンパク質修飾酵素の活性を定量化する方法であり、第1のサンプルからの修飾ペプチドと第2のサンプルからの修飾ペプチドの間で比較することを含む。本発明の方法で使用される第1および第2のサンプルは、ペプチド類を含む任意のサンプルであることができる。サンプルは、典型的には生物学的サンプルであり、生物源から入手された任意のタイプのサンプルであることができ、例えば人間、動物、植物またはバクテリアから入手されたサンプルである。したがって、本発明は人間および非人間のソースから入手されたサンプルの使用を包含する。
本発明の方法で使用されるサンプルは、対象となるどんな種からも得ることができる。典型的に、サンプルは人間または動物から得られる。動物は、典型的には哺乳動物、例えば、マウス、ネズミまたはモルモットなどの齧歯動物、または牛、羊またはヤギなどの有てい類である。あるいはまた、動物は鳥、たとえば鶏であり、魚、たとえばゼブラ・フィッシュであり、ネマトーダ、たとえば虫線虫(Caenorhabditis elegans)、または昆虫、たとえばミバエキイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)などである。また、本発明の方法で使用されるサンプルは、バクテリアや酵母などの他の生物形から得られる。本発明の方法で使用されるサンプルは、典型的にはエシュリキア属大腸菌(Escherichia coli)、サルモネラ・エンテリカ(Salmonella enterica)、肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)または黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus,)などのバクテリア、またはパン酵母 サッカロマイシスセレビジエ(Saccharomyces cerevisiae)、または分裂酵母シゾサッカロマイセスポンベ(Schizosaccharomyces pombe)などの酵母の実験的に重要な種からのサンプルである。あるいはまた、本発明の方法で使用されるサンプルは、植物、かび類またはウイルスから得られる。
典型的に、生物試料は人間から得られ、例えば、尿、血液などの体液、または別の組織のサンプルであることができる。典型的には、生物試料は、細胞ラインまたは組織、典型的には第1次組織である。たとえば、サンプルは人間または動物からの組織であることができる。人間または動物が、健康体であるか、または病体であることができる。別法として、サンプルは、健康であるか病気である人間または動物細胞から得られた細胞ラインであることができる。
本発明の方法は、in vitro法であり、したがって、動物などの生体からサンプルを入手する工程を含まない。
第1の工程(i)において、本発明の方法は以下のパラメータ類の1つにしたがって、第1のサンプルからの修飾ペプチドと第2のサンプルからの修飾ペプチドをただ一つのグループに分類する:
(a)同じタンパク質修飾酵素によって修飾される修飾部位を持っている修飾ペプチド、
または
(b)同じ修飾モチーフの一部である修飾部位を持っている修飾ペプチド。
「分類(grouping)」の用語は、りん酸化ペプチドなどの修飾ペプチド類がグループまたはセット内に置かれることを意味する。本発明の方法では、第1のサンプルからの修飾ペプチドと第2のサンプルからの修飾ペプチドは、上記のパラメータ類(a)と(b)の1つに基づいてただ一つのグループに配置される。また、本明細書記載の実施例では、グループは「基質グループ(substrate group)」と呼ばれる。また、同様に、修飾ペプチドは本明細書では「基質(substrate)」とも呼ばれる。
1つの実施態様では、修飾ペプチドは、同じタンパク質修飾酵素によって修飾される修飾部位を持っていることに基づいてグループに置かれる。したがって、グループにおけるそれぞれの修飾ペプチドは、同じタンパク質酵素によって修飾される少なくとも1つの修飾部位を有する。例えば、りん酸化ペプチドは、同じキナーゼでリン酸化されるリン酸化部位を持っているということに基づきグループに置かれる。この実施態様では、グループ内の、それぞれのりん酸化ペプチド中のリン酸化部位は同じ特異的キナーゼによってリン酸化されることが知られている。同様に、タンパク質修飾酵素がアセチラーゼである場合、修飾ペプチドは同じアセチラーゼによってアセチル化されたアセチル化部位があるということに基づいてグループに置かれる。この実施態様では、グループ内の、それぞれのアセチル化ペプチドの中のアセチル化部位は、同じ特異的アセチラーゼによってアセチル化されることが知られている。
公的に利用可能なデータベースから、キナーゼと基質の相関、したがって、特定のキナーゼによりリン酸化されるリン酸化部位に関する情報が得られる。例えば、PhosphoSite(Hornbeck他、Proteomics4、1551(2004年6月))とPhosphoElm(Dinkel 他、Nucleic Acids Res39、D261(2011年1月))が利用できる。同様に、公的に利用可能なデータベースと、そして、文献から入手される個々の研究論文から他の修飾部位の情報が得られる。
別の実施態様では、修飾ペプチドは同じ修飾モチーフの一部である修飾部位を持っているということに基づきグループに置かれる。例えば、りん酸化ペプチドは同じリン酸化モチーフの一部であるリン酸化部位を持っているということに基づきグループに置かれる。「修飾モチーフ(modification motif)」は、同じ酵素により同じ位置が修飾されるアミノ酸類の特定配列を意味する。例えば、「リン酸化モチーフ」は同じプロテインキナーゼまたは機能上関連するキナーゼにより同じ位置がリン酸化されるアミノ酸類の特定配列である。この実施態様では、グループにおける、それぞれのりん酸化ペプチド中のリン酸化部位は、事前に定義されたリン酸化モチーフの一部である。
リン酸化モチーフのような修飾モチーフに関する情報は、文献から、またはMotif−Xなどのコンピュータプログラムを使用したデータセットの分析から得られることでできる(Schwartz and Gygi, Nat Biotechnol 23、1391(2005年11月))。
タンパク質修飾酵素がプロテインキナーゼであるときに、本発明の方法の工程(i)は、第1のサンプルからのりん酸化ペプチドと第2のサンプルからのりん酸化ペプチドを以下のパラメータ類の1つに基づき一つのグループに分類することを含む:
(a) 同じプロテインキナーゼでリン酸化されるリン酸化部位を持っているりん酸化ペプチド;または
(b) 同じリン酸化モチーフの一部であるリン酸化部位を持っているりん酸化ペプチド。
修飾ペプチドをグループ化する前に、修飾ペプチドは修飾の発生の統計的有意性にしたがい、本発明の方法における使用のために選択されることができる。
本発明の方法は、第1のサンプルと第2のサンプルからの修飾ペプチドをただ一つのグループに分類することを含む。したがって、本発明は少なくとも2個のサンプルの間のタンパク質修飾酵素、たとえばプロテインキナーゼの活性の比較に使用される。例えば、異なるソースから得られた2つのサンプル、または異なるテスト物質で処理された2個のサンプルの比較に使われる。あるいはまた、本発明の方法は、測定用試料と対照試料を比較するのに使用される。この実施態様では、2個のサンプルの1つは対照試料である。この実施態様では、第1と第2のサンプルは同じソースからのもので有ることができるが、第1または第2のサンプルのどちらかがテスト物質で処理され、もう片方のサンプルはこのようには処理されていないものであることができる。
1つの実施態様では、本発明の方法は、2個以上のサンプルの間のタンパク質修飾酵素、たとえばプロテインキナーゼの活性を比較するのに使用され、たとえば3、4、5、6、7、8、9、10またはさらに多くのサンプルであることができる。この実施態様では、本発明の方法の工程(i)は、上記パラメータ類(a)および(b)の1つにしたがって、すべてのサンプルからの修飾ペプチドをただ一つのグループに分類することを含む。そして、本発明の方法の工程(ii)と(iii)が行われ、グループ内の1つからの修飾ペプチドと、別のサンプルからの修飾ペプチドの富化を比較する。例えば、3個のサンプルがあるとき、第1のサンプルと第2のサンプル、第2のサンプルと第3のサンプル、および第1のサンプルと第3のサンプルにおける、修飾ペプチドの富化が比較できる。
本発明のいくつかの実施態様では、サンプル自体またはサンプルが入手される生体が、本発明の方法を行う前にテスト物質で処理される。したがって、この実施態様では、組織が得られる細胞ラインまたは生体が、本発明の方法を行う前に、テスト物質で処理される。テスト物質は、典型的には外来化学物質または薬物であり、たとえば低分子阻害剤、RNAi、治療用ペプチド、および抗体であることができる。本発明のこの実施態様は、
テスト物質のタンパク質修飾酵素の活性への効果、および異なるサンプルでのそのような効果の比較の調査を許容する。
たとえば1つの実施態様では、本発明の方法を行う前に、系路のアゴニスト(agonists of pathways)、および/またはキナーゼ阻害薬で細胞ラインを処理できる。典型的なキナーゼ阻害薬としては、srcおよび、PP2およびPI−103などのホスホイノシチド3−キナーゼ(PI3K)があげられる。PI3kの他の阻害薬としてはワートマニンがあげられる。少なくとも80のキナーゼ阻害薬が異なったステージで臨床開発中である(Zhang, J.;et al Nat Rev Cancer 2009, 9,(1),28-39)。このテクニックは、キナーゼ経路に影響を与えると疑われた他のタイプの阻害剤、たとえばHSP90阻害剤、ホスファターゼ阻害剤および抗体医薬を調査するためにも有用である。
本明細書において「ペプチド」は、短いアミノ酸配列と定義され、オリゴペプチド類およびポリペプチド類を含む。典型的には、そのようなペプチドは約5から30のアミノ酸長さであり、例えば6または7から25、26または27のアミノ酸長さであり、8、9または10から20のアミノ酸長さであり、11または12から18のアミノ酸長さであり、または14から16のアミノ酸長さであり、たとえば15のアミノ酸長さである。しかしながら、より短いかまたはより長いペプチド類、たとえば約2から約50、約3から約35または約40、または約4から約45のアミノ酸類なども使用できる。典型的には、ペプチドは質量分析に適している。すなわち、ペプチドの長さが、ペプチドを質量分析に適するようにしている。分析できるペプチドの長さは、質量分析計のそのような長いペプチド類を配列する能力によって制限される。ある場合には、最大300のアミノ酸類のポリペプチドを分析でき、たとえば50から250のアミノ酸、100から200のアミノ酸、150から175のアミノ酸が分析できる。
本明細書に記載されるように、本発明の方法はMSベースのテクニックを使用することで同定された修飾ペプチドの分析に基づいている。従って、本発明の方法の第1工程でグループに分類された第1のサンプルと第2のサンプルからの修飾ペプチドは、典型的にはMSベースのテクニックを使用して同定され、および/または定量化される。いくつかの実施態様では、本発明の方法は、第1のサンプルと第2のサンプルから修飾ペプチドを分類する工程(i)の前に、質量分析法(MS)を使用して第1のサンプル、そして/または、第2のサンプル中の修飾ペプチドを同定する工程を含んでいる。
この実施態様では、本発明はサンプル中のタンパク質修飾酵素の活性を定量化する方法であって、以下を含む方法を提供する:
質量分析法(MS)を使用することで第1のサンプルと第2のサンプル中の修飾ペプチドを同定すること、
(i)第1のサンプルからの修飾ペプチドと第2のサンプルからの修飾ペプチドを以下のパラメータ類の1つにより、一つのグループに分類すること:
(a)同じタンパク質修飾酵素によって修飾される修飾部位を持っている修飾ペプチド;
または
(b)同じ修飾モチーフの一部である修飾部位を持っている修飾ペプチド;
(ii)グループにおける第2のサンプルからの修飾ペプチドと比較して、第1のサンプルからの修飾ペプチドの富化を計算すること;および
(iii)前記富化の統計的有意性について計算すること;
ここで、統計的に有意な富化は、第2のサンプルと比べて、第1のサンプルでタンパク質修飾酵素が活性化されていることを示している。
修飾ペプチドの同定と定量は、任意の適切な方法を使用して行われることができる。典型的には、定量は質量分析法(MS)、たとえば液体クロマトグラフィー−質量分析法(LC−MS)をはじめとする任意の方法により行うことができる。LC−MSまたはLC−MS/MSは典型的には無標識のMSであるが、定量のための基準としてアイソトープラベルをする技法も分析の基礎として使用できる。
本発明の方法では、リン酸化のようなタンパク質修飾の定量は、典型的にはWO2010/119261(国際特許出願No.PCT/GB2010/000770)に記載されているTIQUAS(標的のシグナルリングの徹底的な定量化:targeted and in-depth quantification of signalling)のテクニックを使用することで行われる。この特許出願は本明細書に参考としてその全体が援用される。このテクニックは、シグナルリング系路活性(signalling pathway activity)の感受性の、迅速かつ包括的な定量化を許容する。この方法は、1つの分析で、同時に、蛋白質上の何千ものリン酸化部位の量を測定できる。WO2010/119261に示されるように、TIQUASのテクニックは、りん酸化ペプチド以外の修飾ペプチドを定量化するために使用できる。実際、TIQUASのテクニックは、質量分析法で検出されるすべての修飾を含むペプチド類を定量化するのに使用できる。
本発明の方法のこの実施態様では、工程(i)の前の質量分析法(MS)を使用することで修飾ペプチドを同定する工程は、以下の工程を含む方法を使用することで行われる:
(a) サンプルからペプチド類を得る工程;
(b) 参照修飾ペプチドを工程(a)で得られたペプチドに加え、ペプチド類と参照修飾ペプチドの混合物を得る工程;
(c) 前記ペプチド類と参照修飾ペプチドの混合物について質量分析(MS)を行い、サンプル内のペプチド類に関するデータを得る工程;および
(d) サンプル内のペプチド類に関するデータと、修飾ペプチドに関するデータベース中のデータとを、コンピュータプログラムを使用して比較する工程;
ここで、修飾ペプチドに関するデータベースが、以下を含む方法によってコンパイルされる;
i) サンプルからペプチド類を得ること;
ii) 工程iで得られたペプチド類からの修飾ペプチドを富化すること;
iii) 工程iiで得られた富化された修飾ペプチドについて、液体クロマトグラフィー−タンデム質量分析(LC−MS/MS)を行うこと;
iv)修飾ペプチドを同定するために、工程iiiで検出された修飾ペプチドを、公知のリファレンスデータベースと比較すること:および
v) 工程ivで同定された修飾ペプチドに関連するデータを、データベースにコンパイルすること。
修飾がリン酸化であり、タンパク質修飾酵素がプロテインキナーゼである本発明の方法の1つの実施態様では、工程(i)の前に質量分析法(MS)を使用することで修飾ペプチド類を同定する工程が、以下の工程を含む方法を使用することで行われる:
(a) サンプルからリン酸化ペプチド類を得ること;
(b) 参照リン酸化ペプチドを工程(a)で得られたペプチドに加え、ペプチド類と参照リン酸化ペプチドの混合物を得る工程;
(c) 前記ペプチド類と参照リン酸化ペプチドの混合物について質量分析(MS)を行い、サンプル内のペプチド類に関するデータを得る工程;および
(d) サンプル内のペプチド類に関するデータと、リン酸化ペプチドに関するデータベース中のデータとを、コンピュータプログラムを使用して比較する工程;
ここで、リン酸化リン酸化ペプチドに関するデータベースが、以下を含む方法によってコンパイルされる;
i) サンプルからペプチド類を得ること;
ii) 工程iで得られたペプチド類からリン酸化ペプチドを富化すること;
iii) 工程iiで得られた富化されたリン酸化ペプチドについて、液体クロマトグラフィー−タンデム質量分析(LC−MS/MS)を行うこと;
iv) リン酸化ペプチドを同定するために、工程iiiで検出されたリン酸化ペプチドを、公知のリファレンスデータベースと比較すること:および
v) 工程ivで同定されたリン酸化ペプチドに関連するデータを、データベースにコンパイルすること。
本発明のこの実施態様と関連して、用語「ペプチド」は「ポリペプチド」という用語と互換性を持って使用される。
本発明のこの実施態様の工程(a)は、サンプルからペプチド類を得ることを含む。
当技術分野で知られている任意の適切な方法を使用することでサンプルからペプチド類を得る。1つの実施態様では、本発明の方法の工程(a)は以下を含む:
(1)サンプルの細胞を溶解し;
(2)工程(1)で得られた溶解細胞からタンパク質を抽出し;および
(3)前記タンパク質をペプチド類まで分解する。
本発明のこの実施態様の工程(1)では、サンプル中の細胞は、溶解されるか、またはスプリットオープン(split open)される。細胞は、当技術分野で知られている任意の適当な手段を使用することで溶解される。例えば機械的な溶菌(例えば、ワーリングブレンダを使用する)、液体均質化、超音波処理または手動の溶菌(例えば、乳棒と乳鉢を使用する)などの物理的方法またはCHAPSまたはトリトン−Xなどの洗浄剤ベースの方法が使用できる。典型的に、細胞は、尿素ベースのバッファなどの変性バッファを使用することで溶解される。
本発明のこの実施態様の工程(2)では、タンパク質は工程(1)で得られた溶解細胞から抽出される。言い換えれば、タンパク質は溶解細胞の他の構成要素から分離される。
本発明の実施態様の工程(3)において、溶解細胞からのタンパク質はペプチド類に分解される。言い換えれば、蛋白質はより短いペプチド類に分解される。タンパク質の分解は一般的に消化とも呼ばれる。 蛋白質分解は、本発明では当技術分野で知られている任意の適当な薬剤を使用して行われる。
蛋白質分解または消化は、プロテアーゼを使用することで典型的に行われる。本発明では任意の適当なプロテアーゼが使用できる。本発明では、プロテアーゼは、典型的にはトリプシン、キモトリプシン、Arg−C、ペプシン、V8、Lys−C、Asp−C、および/またはAspNである。あるいはまた、化学的に蛋白質を分解することができる。例えばヒドロキシルアミン、ギ酸、臭化シアン、BNPS−スカトール、2−ニトロ−5−チオシアノ安息香酸(NTCB)または他の適当な薬剤が使用できる。
この実施態様の工程(b)では、対照の修飾ペプチド(典型的には対照のりん酸化ペプチド)が工程(a)で得られたペプチド類に追加され、ペプチド類と対照修飾ペプチド(典型的には対照りん酸化ペプチド)の混合物を生成する。その結果、工程(b)は1サンプルあたり1つのペプチド類(変性したもの、典型的にはリン酸化したものを含んでいる)の混合物をもたらす。また、対照修飾ペプチド(典型的に対照りん酸化ペプチド)は本明細書では「内部標準」(ISs)と呼ばれる。典型的に、5〜10、例えば、6〜9,または7から8の、対照修飾ペプチド(典型的に対照りん酸化ペプチド)が加えられる。
本発明では、参照修飾ペプチドは典型的には、参照りん酸化ペプチドである。そのような参照りん酸化ペプチドは、しばしば内部標準(IS)蛋白質と呼ばれる、定義された特性と濃度の参照蛋白質から典型的に得る。ISsは市販の蛋白質、例えば、カゼインである場合がある。あるいはまた、ISsは特に本発明における使用のために合成される。本発明のこの実施態様では、参照りん酸化ペプチドはそれが定量化するのが望ましいりん酸化ペプチドのいくつかと同じ配列で典型的に合成されるが、炭素と窒素の安定した重同位元素が富化される。ペプチド類は、1回に1つのアミノ酸が加えられ、アミノ酸鎖またはポリペプチドを形成する固相化学を使用することで典型的に合成される。典型的には、そのようなペプチド類は一般的な12Cと14Nを置換する、13Cと15Nで富化される。この富化作用は、同じ配列を有する内因のりん酸化ペプチドより約6から10ダルトン重い参照りん酸化ペプチドをもたらし、質量分析計を使用することでそれらを区別できるようにする。
本発明の別の実施態様では、タンパク質修飾酵素がタンパク質アセチルトランスフェラーゼであり、アセチル化ペプチドが定量化されるとき、参照修飾ペプチドは、参照アセチル化ペプチド類である。そのような参照アセチル化ペプチドは、典型的にはアセチル化アミノ酸類を含む合成ペプチドである。
参照修飾ペプチド(典型的には参照りん酸化ペプチド)は、比較されるサンプルのそれぞれに既知量で追加される。内因の修飾ペプチド(典型的にはりん酸化ペプチド)の信号は、川下の分析で参照修飾ペプチド(典型的には参照りん酸化ペプチド)に関する信号に対して規格化される。
1つの実施態様では、この実施態様の工程(b)は、工程(b)で得たペプチド類と参照修飾ペプチド(典型的には参照りん酸化ペプチド)の混合物から修飾ペプチド(典型的にはりん酸化ペプチド)を富化し、富化された修飾ペプチド(典型的にはりん酸化ペプチド)の混合物を製造する。その結果、この付加段階は1サンプルあたり1つの富化された修飾ペプチド(典型的にはりん酸化ペプチド)の混合物をもたらす。本発明のこの実施態様では、工程(c)は、富化された修飾ペプチド(典型的にはりん酸化ペプチド)の混合物に質量分析法(MS)を行い、サンプル中のペプチド類に関連したデータを得ることを含む。本発明のこの実施態様では、工程(b)は典型的には富化されたりん酸化ペプチド(典型的にはりん酸化ペプチド)の混合物をもたらす。
修飾ペプチド(典型的にはりん酸化ペプチド)の富化工程は、クロマトグラフィーを使用することで典型的に行われる。1つの実施態様では、クロマトグラフィーは固定された金属イオンアフィニティークロマトグラフィー(IMAC)、二酸化チタン(TiO)クロマトグラフィー、および/または二酸化ジルコニウム(ZrO)クロマトグラフィーである。典型的には、クロマトグラフィーは、IMACおよびTiOクロマトグラフィーである。
あるいはまた、修飾ペプチド(典型的にはりん酸化ペプチド)を富化する工程は、抗体に基づく方法を使用することで行われる。
本発明の1つの実施態様では、タンパク質修飾酵素がプロテインキナーゼであり、定量化されるペプチド類がりん酸化ペプチドである場合、チロシン、トレオニン、セリンまたはヒスチジンなどのりん酸化アミノ酸への親和性を有する抗体が、固体マトリックスに結合される(固定される)。りん酸化ペプチドはこれらの抗体が特異的にりん酸化ペプチドに結合する能力によって富化される。そして、りん酸化ペプチドが抗体被覆基質上に保持されるのに対して、非リン酸化ペプチド類は洗浄除去される。固定された抗体からのりん酸化ペプチドの溶離は、低pH溶媒の使用、または抗体とりん酸化ペプチドの間の相互作用をなくす他の適切な方法により行われる。
本発明の別の実施態様では、タンパク質修飾酵素がタンパク質アセチルトランスフェラーゼであり、定量化されるペプチド類が、アセチル化ペプチド類である場合、アセチル化ペプチド類はアセチル化アミノ酸残基に対する特異的抗体の使用により富化される。そのような抗体は、固体マトリックスに結合されて、次に、アセチル化アミノ酸残基に特異的に結合する抗体の能力によって富化される。そして、アセチル化ペプチドが固定された抗体の上に保持されるのに対して、非アセチル化ペプチドは洗浄除去される。
本発明の方法の工程(c)では、質量分析法(MS)が工程(b)で得たペプチド類と参照修飾ペプチド(典型的には参照りん酸化ペプチド)の混合物について行われ、サンプル中のペプチド類に関連したデータを得る。典型的に、このデータはサンプルのためのMSデータファイルの形である。本発明のひとつの実施態様では、本発明方法の工程(b)が、工程(b)で得たペプチド類と参照修飾ペプチド(典型的には参照りん酸化ペプチド)の混合物から修飾ペプチド(典型的にはりん酸化ペプチド)を富化し、富化された修飾ペプチド(典型的にはりん酸化ペプチド)の混合物を生成することをさらに含む場合に、工程(c)は富化された修飾ペプチド(典型的にはりん酸化ペプチド)の混合物に質量分析法(MS)を行い、典型的にはサンプルのMSデータファイルである、サンプル内のペプチド類に関するデータを得る。典型的に、質量分析法は液体クロマトグラフィー−質量分析法(LC−MS)である。その結果、工程(c)は典型的に、LC−MSデータファイル(それぞれのサンプルから1つ)をもたらす。
典型的には、サンプル内のペプチド類に関するデータは、ペプチド類の質量/電荷(m/z)比、電荷(z)、および/または相対保持時間を含む。
本発明方法の工程(d)では、サンプル中のペプチド類に関連するデータ(典型的にはMSデータファイル形式であり、より典型的にはLC−MSデータファイルの形式である)は、修飾ペプチド(典型的にはりん酸化ペプチド)に関するデータベースのデータと、コンピュータプログラムを使用して比較される。たとえば、サンプル中のペプチド類の(質量/電荷:m/z)比、電荷(z)、および相対保持時間が、データベースの修飾ペプチドの(質量/電荷:m/z)比、電荷(z)、および相対保持時間と比較される。これは、修飾ペプチド(典型的にはりん酸化ペプチド)に関するデータベースを使用することで、サンプルのそれぞれの修飾ペプチド(典型的にはりん酸化ペプチド)の同定と定量化を可能にする。
典型的には、コンピュータプログラムは、PESCAL(Vanhaesebroeck、B.MoI Cell Proteomics 6(9)、1560-73、Cutillas、P.R.;2007)と呼ばれるプログラムである。PESCALは、比較されるべきすべてのサンプルから、データベースに存在するそれぞれの修飾ペプチド(典型的にはりん酸化ペプチド)のために抽出されたイオンクロマトグラム(XIC、すなわち溶出プロファイル)を構成する。これは修飾(典型的にはりん酸化)されるべき、先に同定されたペプチドの質量/電荷と保持時間(すなわち、手順の第1で構成されたデータベース中に存在するもの)にXICをセンタリングすることによって行われる。また、PESCALは、ペプチドの電荷が同一性の正しい指摘の助けになると考えている。また、プログラムはそれぞれのXICのピーク高さとカーブの下の面積について計算する。データは、分析されたそれぞれの修飾ペプチド(典型的にはりん酸化ペプチド)の強度読み(ピーク面積または高さ)を、参照修飾ペプチド(典型的には参照りん酸化ペプチド)の強度読みで割ることによって規格化される。
この実施態様では、修飾ペプチドに関するデータベースは、以下の工程を含む方法によってコンパイルされる:
i)サンプルからペプチド類を得る;
ii)工程iで得られたペプチド類から修飾ペプチドを富化する;
iii)工程iiで得られた富化された修飾ペプチドに液体クロマトグラフィータンデム質量分析法(LC−MS/MS)を行う;
iv)修飾ペプチドを同定するために、工程iiiで得られた修飾ペプチドと既知のリファレンスデータベースを比較する;および
v)工程ivで同定された修飾ペプチドに関連するデータをデータベースにコンパイルする。
この実施態様の工程iは、サンプルからペプチド類を得ることを含む。当技術分野で知られている任意の適切な方法および本明細書に記載される方法を使用して、サンプルからペプチド類を得ることができる。
サンプルは典型的に生物試料であり、上記のように生物源から入手されたすべてのタイプのサンプルであることができる。典型的に、サンプルは、細胞ラインまたは組織である。
本発明のいくつかの実施態様では、工程(i)に使用されるサンプルは細胞ラインであり、サンプルは工程(i)を行う前に阻害剤で処理される。阻害剤は任意の適当なタイプの阻害剤であることができる。典型的には、本発明の方法がりん酸化ペプチドを定量化するのに使用されるときには、阻害剤はホスファターゼ阻害剤である。ホスファターゼ阻害剤による処理はリン酸化の化学量論量を増加させ、データベースに含むことができるより大きい数のりん酸化ペプチドに帰結する。さらに、目的がアセチル化されたペプチド類およびメチル化されたペプチド類である場合には、それぞれメチル基転移酵素またはアセチル加水分解酵素の阻害剤を使用できる。
1つの実施態様では、本発明の方法のこの実施態様の工程iは以下を含む:
(1)サンプルの細胞を溶解する;
(2)工程(1)で得られた溶解細胞から蛋白質を抽出する;および
(3)前記蛋白質をペプチド類まで切断する。
本発明のこれらの態様は上で説明したとおりのものである。しかしながら、工程(3)が、上記の工程(a)と同じ方法を使用することで典型的に行われる。
この実施態様の工程iiでは、修飾ペプチド(典型的にはりん酸化ペプチド)は工程iで得られたペプチド類から富化される。その結果、工程iiは修飾ペプチド(典型的にりん酸化ペプチド)の中で富化されたいくつかの画分をもたらす。
工程iiにおける、修飾ペプチド(典型的にはりん酸化ペプチド)の富化は、多次元クロマトグラフィーを使用することで典型的に行われる。1つの実施態様では、多次元クロマトグラフィーは、強カチオン交換高速液クロマトグラフ(SCX−HPLC)、固定された金属イオンアフィニティークロマトグラフィー(IMAC)、および二酸化チタン(TiO)クロマトグラフィーで行われる。他の実施態様では、多次元クロマトグラフィーは、陰イオン交換高速液クロマトグラフ(SAX−HPLC)、固定された金属イオンアフィニティークロマトグラフィー(IMAC)および二酸化チタン(TiO)クロマトグラフィーを使用して行われる。本発明のこれらの実施態様では、クロマトグラフィー技術は逐次的に行われる。
別法として、工程(ii)の修飾ペプチド(典型的にはりん酸化ペプチド)の富化工程は、上記のように抗体に基づく方法で行われる。
この実施態様の工程iiiでは、液体クロマトグラフィータンデム質量分析法(LC−MS/MS)が工程iiで得られた富化された修飾ペプチド(典型的にりん酸化ペプチド)について行われる。
本発明の工程iv)では、修飾ペプチド(典型的にはりん酸化ペプチド)を同定するために、工程(iii)で検出された修飾ペプチド(典型的にはりん酸化ペプチド)を、既知のリファレンスデータベースと比較する。この工程は、典型的には市販のサーチエンジン、たとえばMASCOT、ProteinProspector、またはSequestサーチエンジンを使用することで行われる。
この実施態様の工程vでは、工程ivで同定された修飾ペプチド(典型的にりん酸化ペプチド)に関連するデータが、データベースにコンパイルされる。このデータベースは次の生物学的実験における、りん酸化ペプチドの定量化に必要であるすべてのパラメータ類を記載する。典型的に、修飾ペプチド(典型的にりん酸化ペプチド)に関連するデータは、修飾ペプチド(典型的にりん酸化ペプチド)のアイデンティティ、質量/電荷(m/z)比、電荷(z)および/または相対保持時間を含む。これは、サンプル中のペプチドに関連するデータ、典型的にはサンプル中のペプチド類の(質量/電荷数)比、電荷(z)、および相対保持時間がデータベース内の修飾ペプチド(典型的にりん酸化ペプチド)の値と比較されることを許容して、その結果、サンプルの修飾ペプチド(典型的にりん酸化ペプチド)の識別と定量化を許す。
この実施態様では、データベースのコンパイルは本発明の方法と当時に行われる必要はない。データベースのコンパイルは、サンプル中のペプチドを同定する、本発明の方法で使用されるTIQUASテクニックの前に別途行うことができる。
TIQUAS技術の基礎はLC−MSで検出して定量化できる、修飾ペプチド(典型的にりん酸化ペプチド)に関するデータベースの構築である。このデータベースは、次の生物学的実験における修飾ペプチド(典型的にりん酸化ペプチド)の定量化に必要であるすべてのパラメータ類を記載し、これは修飾ペプチド(典型的にりん酸化ペプチド)のアイデンティティ、質量/電荷比(m/z)、電荷および相対保持時間を含む。データベースは、多次元クロマトグラフィー(たとえば強カチオン交換、IMACまたはTiO)を使用して修飾ペプチド(典型的にりん酸化ペプチド)を富化することによって、構成される。そして、富化された修飾ペプチド(典型的にりん酸化ペプチド)の断片は修飾ペプチド(典型的にりん酸化ペプチド)の同定のためにLC−MS/MSによって分析される。
生物学的実験から取られた修飾ペプチド(典型的にりん酸化ペプチド)についてのLC−MSにおいて、データベースに記載されたそれぞれの修飾ペプチド(典型的にりん酸化ペプチド)の定量化を自動化するPESCAL(Cutillas and Vanhaesebroeck, Molecular & Cellular Proteomics 6, 1560-1573 (2007))というコンピュータプログラムを作成した。これらの生物学的実験において、細胞溶解物中の蛋白質は、トリプシンまたは他の適当なプロテアーゼを使用することで消化される。参照修飾ペプチド(典型的に参照りん酸化ペプチド)であるペプチド(たとえばりん酸化ペプチド)内部標準は、比較されるすべてのサンプルに既知量でスパイクされる(spiked)。得られたペプチド混合物の中の修飾ペプチド(典型的にりん酸化ペプチド)は、実行が簡単な(simple-to-perform)IMACまたはTiO抽出段階を使用して富化される。富化された修飾ペプチド(典型的にりん酸化ペプチド)は約120分(総サイクル)の1回のLC−MS測定(典型的にはそうであるが限定はされない)で分析される。PESCALは次いで、比較されるすべてのサンプルにわたり、データベースに存在するそれぞれの修飾ペプチド(典型的にりん酸化ペプチド)のために、抽出されたイオンクロマトグラム(XIC、溶出プロファイル)を作成する。プログラムはそれぞれのXICのピーク高さと曲線下の面積を計算する。データは、それぞれの修飾ペプチド(典型的にりん酸化ペプチド)分析物質の強度読み値(ピーク面積または高さ)を、修飾ペプチド(典型的にりん酸化ペプチド)内部標準のもので割ることによって、規格化される。
本発明の方法でTIQUASのテクニックを使用することに代わる手段は、リン酸化などの修飾の定量化が、代謝標識などのように、定量化に同位体標識を使用するMSのテクニックを使用することで行われる(例えば、培地内の安定なアイソトープラベルされたアミノ酸(stable isotope labeled amino acids in culture), (SILAC); Olsen, J.V. et al. Cell 127, 635-648 (2006))。また化学誘導体化テクニック(たとえばiTRAQ (Ross, P. L.; et al. Mol Cell Proteomics 2004, 3, (12), 1154-69), ICAT (Gygi, S.P. et al. Nat Biotechnol 17, 994-999 (1999)), TMT (Dayon L et al, Anal Chem. 2008 Apr 15;80(8):2921-31)も使用できる。本発明の方法では、非断片化しているイオン類の強度を測定するLC−MSのテクニックまたはフラグメントイオンの強度を測定するLC−MS/MSのテクニック(たとえばセレクティド 反応モニタリング(SRM)、マルチプル反応モニタリング(MRM)とも呼ばれる)でタンパク質の修飾が定量化できる。
本明細書に記載されたパラメータ類(a)と(b)の1つに従って修飾ペプチドがいったん分類されると、本発明の方法による次の工程(ii)は、グループにおける第2のサンプルからの修飾ペプチドと比べて、第1のサンプルからの修飾ペプチドの富化を計算する工程である。
修飾ペプチドの「富化」は、量または頻度の(frequency)増大を意味する。従って、本発明の方法のこの工程では、1個のサンプル(第1のサンプル)からの修飾ペプチドの存在量および頻度の増大が、別のサンプル(第2のサンプル)からの存在量の増大(または減少)または修飾ペプチドの頻度と比較される。上記のように、2個以上のサンプルが本発明の方法で使用されているとき、この工程が、一度に任意の2個のサンプルの間の修飾ペプチドの富化を比較するために行われる。富化の計算には任意の適切な方法が使用できる。
1つの実施態様では、富化は、第1のサンプルにおいて第2のサンプルにおけるよりも存在量の多いグループで、修飾ペプチドの数を数え、第1のサンプルにおいて第2のサンプルにおけるよりも存在量の少ないグループで、修飾ペプチドの数を数え、第1のサンプルにおいて第2のサンプルにおけるよりも存在量の多いグループでの修飾ペプチドの数から、第1のサンプルにおいて第2のサンプルにおけるよりも存在量の少ないグループでの修飾ペプチドの数を引くことにより計算される。言い方を変えれば、第1のサンプルにおいて第2のサンプルにおけるよりも存在量の多いグループでの修飾ペプチドの数から、第2のサンプルにおいて第1のサンプルにおけるよりも存在量の多いグループでの修飾ペプチドの数を引くことにより計算されるとも記述できる。
したがって、この方法は、第2のサンプルに対して強度が増加するか、または減少する第1のサンプルからのグループ内での修飾ペプチドの数を数えることを伴う。いくつかの実施態様では、第2のサンプルに対して統計的に有意に強度が増加しているか、または減少した第1のサンプルからのグループにおける修飾ペプチドだけが考慮される。修飾ペプチドの富化は、本明細書において「デルタカウント」と呼ばれるパラメータによって計算される。「デルタカウント」は第2のサンプルに対してその強度を増加させた基質グループ内の修飾ペプチドの数から、第2のサンプルに対してその強度を減少させた基質グループ内の修飾ペプチドの数を引いた数と定義される。このアプローチの利点は割り算を含まないことであり、したがって、比較されるサンプルのいくつかにおいて、特定のグループにおける修飾ペプチドの数がゼロであるという状況にも適用可能である。このアプローチの例は図6Bに示されている。
別の実施態様では、富化は、第1のサンプルからのグループ内の修飾ペプチドのすべての平均の存在量と、第2のサンプルからのグループ内の修飾ペプチドのすべての平均の存在量とを比較することによって計算される。これは、典型的には第1のサンプルからのグループ内の修飾ペプチドのすべての平均(算術平均)存在量と、第2のサンプルからのグループ内の修飾ペプチドのすべての平均存在量を計算し、第1のサンプルからのグループ内の修飾ペプチドのすべての平均存在量を、第2のサンプルからのグループ内の修飾ペプチドのすべての平均存在量で割ることにより得られる。結果の図は、任意にlog2変換されることができる。したがって、この方法は、第1のサンプルからのグループ内の修飾ペプチドのすべての強度の平均(算術平均)と、第2のサンプルからのグループ内の修飾ペプチドのすべての強度の平均とを比較することを含む。このアプローチの例は図6Aに示されている。これは本明細書では「フォールド(fold)」法と呼ばれる。別の実施態様では、富化は、あるグループにおける修飾ペプチドのすべてのフォールド変化の平均と、全体の実験における修飾ペプチドのすべてのフォールド変化の平均を計算し、次にあるグループにおける修飾ペプチドのすべてのフォールド変化の平均を、全体の実験における修飾ペプチドのすべてのフォールド変化の平均で割ることにより計算される。
結果の図は、任意にlog2変換されることができる。このアプローチの例は図6Cに示される。これは本明細書では「富化」法と呼ばれる。
本発明の方法の最終段階(iii)は、富化の統計的有意性について計算することを含む。本発明の方法は、グループにおける第2のサンプルからの修飾ペプチドと比べた、第1のサンプルからの修飾ペプチドの富化を計算することを伴う。従って、この方法における統計的に有意な富化は、タンパク質修飾酵素が第2のサンプルと比べて、第1のサンプルで活性化されていることを示している。富化が統計的に有意でないなら、これはタンパク質修飾酵素が第1のサンプルで活性化されていないことを示す。逆もまた真であることが理解される。すなわち、グループにおける第1のサンプルからの修飾ペプチドと比べて、第2のサンプルからの修飾ペプチドが富化されていれば、タンパク質修飾酵素は第1のサンプルに比べて第2のサンプル中で活性化されている。
統計的有意性は、当業者の知る任意の適当な統計法を使用して計算することができる。適当な統計法としては、ハイパージオメトリックテスト(hypergeometric test)、ペアードt−テスト(対応のあるt検定、paired t-test)、Z−テスト、コルモゴロフ-スミルノフ検定( Kolmogorov-Smirnov test)、カイ二乗検定(Chi-squared test)、フィッシャーの正確確率検定(Fisher's extract test)、またはウィルコクソンの符号順位検定(Wilcoxon's signed-rank test)があげられる。ベンジャミニ ホッホバーグ フォールス ディスカバリー レイト(Benjamini Hochberg False Discovery Rate (FDR))法などの多重検定法(multiple testing correction method)は、必要に応じてこれらのテストの後に行うことができる。
例えば、富化の有意性はハイパージオメトリック法で計算されることができる。ベンジャミニ ホッホバーグFDR 法などの多重検定法は必要に応じてこれらのテストの後に行うことができる。有意性について計算するこの方法は、本明細書に記載した「デルタカウント」法と組み合わせて典型的に使用される。あるいはまた、富化の有意性は、ペアードt−テストを使用して計算することができる。ベンジャミニ ホッホバーグ FDR 法などの多重検定法は必要に応じてこれらのテストの後に行うことができる。有意性について計算する方法は、本明細書に記載された「フォールド」法と組み合わせて典型的に使用される。本明細書に記載された「富化」方法では、富化の統計的有意性は、1つの実施態様ではZスコア=(mS−mP)*m1/2/δを使用することで計算される(式中、mS:Log2平均強度基質グループ;mP:Log2平均強度全体のデータセット;m:基質グループのサイズ;δ:全体データセットの平均強度の標準偏差)。そして、zスコアはp値に変換される。統計的に有意な富化は適当なp−値、例えば、p<0.05、p<0.01またはp<0.001に基づいて決定されることができる。いくつかの実施態様では、統計的有意性は、適切なコンピュータプログラムを使用して計算される。
本発明の方法で、統計的に有意な富化は第2のサンプルと比べて、第1のサンプル中のタンパク質修飾酵素が活性化されていることを示している。これはサンプルの間の修飾ペプチドの特異的な富化として記述されることができる。したがって本発明の方法は、第2のサンプルと比べて、第1のサンプル中のキナーゼなどのタンパク質修飾酵素の活性の差を決定する方法であるとみなされることもできる。しかしながら、結果の定量化を得ることがきる。例えば、テスト基質の異なる濃度を使用して、濃度依存効果を観測し結果を得ることができる。
本発明者は、MSベースのホスホプロテオミクスデータから蛋白質キナーゼ経路活性化を系統的に推論するためにテクニックについて工夫した。テクニックはキナーゼ基質富化分析(Kinase Substrate Enrichment Analysis(KSEA))と呼ばれる。
1つの実施態様では、方法は以下を含む、サンプル中のプロテインキナーゼ活性を定量化する方法である:
(i)第1のサンプルからのりん酸化ペプチドと、第2のサンプルからのりん酸化ペプチドを以下のパラメータ類の1つにより一つのグループに分類する:
(a)同じプロテインキナーゼでリン酸化されたリン酸化部位を持つりん酸化ペプチド;または
(b)同じりん酸化モチーフの一部であるリン酸化部位を持つりん酸化ペプチド;
(ii)グループ中の第2のサンプルからのりん酸化ペプチドと比較された、第1のサンプルからのりん酸化ペプチドの富化を計算する;および
(iii)前記富化の統計的有意性を計算する:
ここで、統計的に有意の富化は、第2のサンプルと比べて、第1のサンプルでプロテインキナーゼが活性化することを示している。
1つの実施態様では、富化は、第2のサンプル中よりも第1のサンプル中でより存在量の多いグループにおけるリン酸化ペプチドの数と、第2のサンプル中よりも第1のサンプル中で存在量の少ないグループにおけるリン酸化ペプチドの数を数え、第2のサンプル中よりも第1のサンプル中でより存在量の多いグループにおけるリン酸化ペプチドの数から、第2のサンプル中よりも第1のサンプル中で存在量の少ないグループにおけるリン酸化ペプチドの数を引くことにより計算される。
他の実施態様では、富化は、第1のサンプルからのグループにおける、すべてのリン酸化ペプチドの平均(算術平均)存在量と、第2のサンプルからのグループにおけるすべてのリン酸化ペプチドの平均存在量を計算し、第1のサンプルからのグループにおける、すべてのリン酸化ペプチドの平均存在量を、第2のサンプルからのグループにおけるすべてのリン酸化ペプチドの平均存在量で割ることにより計算される。
別の実施態様では、富化は、グループ内のリン酸化ペプチドの全てのフォールド変化の平均と、全体の実験のリン酸化ペプチドの全てのフォールド変化の平均を計算し、次にグループのリン酸化ペプチドの全てのフォールド変化の平均を、全体の実験のリン酸化ペプチドの全てのフォールド変化の平均で割ることにより計算される。
本発明がさらに以下の実施例を参照して詳細に説明される。実施例は例示の目的のためのみに示される。実施例では、以下の図が参照される。
図1は、ホスホペプチドがP31/FujとKasumi−1細胞中で特異的に規制されることを示している。収穫の24時間前に、P31/FujとKasumi−1細胞をシードし、本明細書の実験の物質と方法の項に記載されたようにラベルフリーなMS分析のために処理される。(A)Kasumi−1細胞に対するP31/Fuj細胞内のホスホペプチドレベルを示すそれぞれのりん酸化部位についてのフォールドとp−値のボルカーノプロットとを示す。平均はLog2フォールドデータの算術平均をいう。(B)P31/FujとKasumi−1細胞の間で特異的に規制されたホスホペプチドの概要。(C)細胞ラインの間のりん酸化におけるフォールド変化の度数分布。(D)全体的なりん酸化データに基づくP31/FujとKasumi−1細胞の主成分分析。 (E)2個の細胞ライン中の基質グループ発現の例。それぞれのデータポイントは、指定されたキナーゼの基質であることが知られているりん酸化部位を含むホスホペプチドのLog2フォールドの差である。(F)基質グループにおける3つ以上のエントリーで表されたキナーゼの基質グループ富化データ。
図2は、キナーゼ基質関係に関するデータベースとしてphosphoSiteを使用し、キナーゼ基質富化分析(KSEA)を使用してP31/FujとKasumi−1細胞の間の特異的に活性なキナーゼの決定を示している。P31/FujとKasumi−1細胞の間で特異的に規制されたホスホペプチドは、両方の細胞ラインの間の特有のキナーゼ活性を推論するのに使用された。キナーゼ活性は、ホスホペプチド(A)を数えることに基づくアルゴリズムを使用するか、または基質グループ(B)へのホスホペプチド強度の平均を比較することによって推論された。
図3は、キナーゼ基質関係に関するデータベースとしてphosphoElmを使用して、キナーゼ−基質富化分析(KSEA)を使用して、P31/FujとKasumi−1細胞の間の特異的活性のキナーゼの決定を示す。P31/FujとKasumi−1細胞の間で特異的に規制されたホスホペプチドは、両方の細胞ラインの間の特有のキナーゼ活性を推論するのに使用された。キナーゼ活性は、ホスホペプチドを数えることに基づいたアルゴリズム(A)、または基質グループに対するホスホペプチドの強度の平均を比較すること(B)によって推論された。
図4は、KSEAによって得られた結果を確認するウエスタン・ブロットであり、図1Fの矢印で示されたキナーゼの活性と互いに関連することが知られている部位におけるタンパク質のりん酸化を示している。
図5は、りん酸化モチーフに基づいた、P31/FujおよびKasumi−1細胞ラインKSEAの比較を示す。(A)一般的なりん酸化モチーフに基づく基質グループ富化の概観。(B)どちらかの細胞ラインで富化された基質グループの例。
図6は富化戦略の比較を示している。基質グループの富化をホスホプロテオミクスデータに推論する3つの異なった数学的方法がテストされた。異なる価が以下の通り計算された。(A) フォールド=log2(P31−Fujにおける基質グループ強度の平均/Kasumi−1における基質グループ強度の平均)。富化の有効係数(significance of enrichment)はExcelでペアードt−テストで計算された。(B) デルタカウント=P31−Fujにおいて有意に増加した基質グループにおける基質の数から、Kasumi−1で増加したものを引いた数。富化の有効係数はExcelで「ハイパージオメトリック」テストで計算された。(C) 富化=基質グループのLog2平均を、すべてのデータのLog2平均で割った数値。富化の有効係数は、Zスコア=(mS−mP)1/2/δ(式中、mS:基質グループのLog2平均強度;mP:全体のデータセットのLog2平均強度;m:基質グループのサイズ;δ:全体データセットの平均強度の標準偏差)。zスコアはExcelでp−値に変換された。富化の有効係数は*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001で示される。
図7は原発性AMLブラストにおける、基質グループ富化の異種性を示している。(a)基質富化値の階層的なクラスタリング(スピアマン相関、完全なリンケージ)は12個の主なクラスタを同定した。(b、c)共同規制(co-regulate)された基質グループ(m、指定された基質グループで定量化されたホスホペプチドの数)の例。(d) CK2a, PKB/PKC, PAK/MAPKAPK2, および Lyn/Syk/Tyrのそれぞれのための基質を含む、クラスタ5aとクラスタ9、6、および7の活性間のネガティブな相関関係。(e)原発性AMLにより頻繁に富化されたキナーゼ基質グループ。
実施例1
P31/FujおよびKasumi−1細胞内のキナーゼ基質富化分析(KSEA)
物質および方法
細胞培養
P31/FujとKasumi−1細胞は、10%のFBS、100ユニット/mLのペニシリン/ストレプトマイシンおよび50μmのb−メルカプトエタノールが加えられたRPMI−1640中で、37℃、5%CO2の湿気のある環境中で育てられた。
細胞は0.5−2×10細胞/mLの培養密度で維持された。
細胞融解とタンパク消化
0.5×10細胞/mLの培養密度で細胞を分割した。そして、それぞれの条件に関して3つの実験単位で独立した生物学的複製を実行した。1条件あたり少なくとも2度実験を行ったので、合計少なくとも6つの生物学的複製について実験をした。1条件当たり10×10のすべての細胞が、遠心分離法で収穫されて、1mMのNaVOおよび1mMのNaFが追加された冷PBSで2回洗浄され、1mLの尿素緩衝器(1 mM のNaVO、1mMのNaF,1mMのβ−グリセロホスフェート、および1mMのオカダ酸が補われた20mMのHepesペーハー8.0中の8M尿素)で溶解された。超音波処理(15秒の3パルス)で細胞溶解物をさらに均質化し、遠心分離法で不溶性物質を取り除いた。タンパク質は、ブラッドフォードアッセイを使用することで定量化された。1サンプルあたり0.5mgのタンパク質は、15分間、暗所中の室温で4.1mMのDTTおよび8.3mMのヨードアセトアミドを使用したシーケンシャルインキュベーションで還元およびアルキル化がされた。タンパク質消化のために、尿素濃度は20mMのHepesペーハー8.0を加えることによって、2Mまで減少された。固定されたTLCK−トリプシン(20 TAMEユニット/mg)が加えられ、サンプルは一夜、37℃でインキュベートされた。1%のTFAの最終的濃度を加えることにより消化が停止された。遠心分離法でトリプシンビードを取り除いた。結果として得られたペプチド液は、メーカーにより示されたわずかな変成を行い、C18−オアシスカートリッジを使用して脱塩した。簡潔には、オアシスカートリッジは、1mLのACNでコンディショニングされて、1mLの洗浄溶液(0.1%のTFA/2%のACN)で平衡にされた。ペプチドは、カートリッジに投入され、1.5mLの洗浄溶液で洗浄した。最終的に、ペプチドは0.5mLのグリコール酸緩衝液(1Mのグリコール酸/5%のTFA/80%ACN)で溶出した。
ホスホペプチド富化
ホスホペプチド富化は、先に説明したようにTiOを使用することで実行された(Montoya et al, Methods 54, 370, 2011)。簡潔には、ペプチド溶出剤は1mLのグリコール酸緩衝液で基準化され(normalized)、5分間、室温でTiO緩衝液(%TFA中の50%スラリー)の25マイクロLでインキュベートされた。TiOビードは先にグリコール酸緩衝液で平衡にされたC18スピンカラム中の遠心分離によりパックされた。カラムはついでグリコール酸の300マイクロL、50%のACNおよびアンモニウム重炭酸塩緩衝液(50%ACN中の20mMのNHHCO、ペーハー6.8)で洗浄した。ホスホペプチド溶離法において、ビードは、1分間、50%ACN中の5%のNHOHの50マイクロLで室温でインキュベートされ、遠心分離された。この工程は3回繰り返された。同じサンプルからの溶出液は集められ、蟻酸で酸性化され、10%の最終的な濃度にされた。最終的に、サンプルはSpeed-Vacを使用して乾燥され、ペレットは−80℃で貯蔵された。
LC−MS/MS分析
乾燥ペプチドはイーストエノラーゼ消化物の20fmol/マイクロLを含む1%のTFA中で再構成された。LC−MS/MSが、先に説明したように行なわれた、(Casado and Cutillas, Mol Cell Proteomics 10, M110 003079 (Jan, 2011))。簡潔には、ホスホペプチドペレットは、0.1%のTFAの20マイクロL中に再分散され、4mLがLC−MS/MSシステムに投入された。このシステムはナノフロー超高圧液体クロマトグラフィー(UPLC, nanoAccuity, Waters)と、オービトラップ−XL(Orbitrap-XL)質量スペクトロメーター(Thermo Fisher Scientific, Hemel Hempstead, UK)とのオンラインでの組み合わせである。強い多重荷電イオンの上から5つが、多段活性化モードにおけるCID断片化のために選択された。MS1の解像度は60,000に設定された。
データ処理と統計解析
マスコット(Mascot)サーチエンジン(Perkins et al, Electrophoresis 20, 3551 (Dec, 1999))を使用することで人間のエントリー(22,000のタンパク質エントリー)に制限されたSwissProtデータベース(2011年3月にダウンロードされた)と、MS/MSデータのマッチングによりペプチドを同定した。ペアレントおよびフラグメントイオンについて、質量の許容度はそれぞれ5ppmおよび600millimassユニットに設定された。許容された可変修飾は、Ser、Thr、およびTyr上のりん酸化、N−末端グルタミン上のPyroGlu、およびメチオニンの酸化であった。マスコット予測値<0.05(約2%のFDR)を有するホスホペプチドが、MS.Pescalソフトウェアで定量化可能なサイトのデータベースに含まれており(Casado and Cutillas, Mol Cell Proteomics 10, M110 003079 (Jan, 2011) および Cutillas and Vanhaesebroeck, Mol Cell Proteomics 6, 1560 (Sep, 2007))、比較されるすべてのサンプルのデータベース内のホスホペプチドの抽出されたイオンクロマトグラム(XICs)のピークの高さと面積を得た。Pescalは、クロマトグラムに沿った参照点としてサンプル中に先にスパイクされたエノラーゼから得られたペプチドのものを使用することで、ガス滞留時間を並べた。
XICウインドーは、7ppmと2分であった。
XIC強度値はサンプル内でのすべての値の合計、およびサンプル全体のホスホペプチド強度の平均に対して正規化された。log2に変換されたデータの平均がサンプル全体のものと異なることの重要性が、スチューデントt−検定と、続くベンジャミニ ホッホバーグ多重検定法によって評価された。
キナーゼ基質富化分析
0.05未満のp−値(log2のt−テストにより変換されたデータ)を有するホスホペプチドが、基質セットに分類された。これらの基質グループ内のホスホペプチドの共通点は、これらが特異的キナーゼによってりん酸化される部位が存在することが知られていたか、またはりん酸化された残基が事前に定義されたりん酸化モチーフの文脈において存在していたということであった。公的に利用可能なデータベース、すなわち、PhosphoSite(Hornbeck et al, Proteomics 4, 1551 (Jun, 2004))とPhosphoElm(Dinkel et al, Nucleic Acids Res 39, D261 (Jan, 2011))を使用することでキナーゼ基質関係の情報を得られる。またモチーフのリストは文献およびMotif-X (Schwartz and Gygi, Nat Biotechnol 23, 1391 (Nov, 2005))を使用した我々のデータセットから得られる。3つのアプローチが、サンプル全体にわたる基質グループの存在量の差を推論するのに使用された。第1は、コントロールに対して強度が増加または減少した基質中のホスホペプチドの数を数えることを含む。
キナーゼ基質の富化は次いで、「デルタカウント」と名付けたパラメータによって計算される。この用語はコントロールに対して自分達の強度を有意に増加させた基質グループにおけるホスホペプチドの数から、自分達の強度を減少させものにおけるホスホペプチドの数を引いたものと定義された。このアプローチの利点は割り算を含まないので、したがって、比較されるサンプルのいくつかにおいて特定の基質グループに対する基質の数がゼロである状況においても適用可能であるということである。そして、富化の有効係数は、ハイパージオメトリック試験と引き続くベンジャミニ ホッホバーグ多重検定法により計算された。
ここで探求された第2のアプローチは、含まれる基質グループの富化を評価することであり、サンプル中の与えられた基質グループ内の全てのホスホペプチドの強度の平均(算術平均)を対照と比較することを含む。これに関しては、ホスホペプチドの強度は、最初にコントロールに対して正規化され、そしてlog2変換され、これらの強度がすべてコントロールに対する相関値として表現される。コントロールと試験サンプルの所定の基質グループの倍数の差の値を導くことに加えて、ペアードt−テストと引き続くベンジャミニ ホッホバーグ多重検定法を使用してp−値を計算した。第3のアプローチは、データセット全体でのホスホペプチドの平均強度に対する、基質グループ内のホスホペプチドの強度の平均の比率を計算することを含む。すなわち、富化=mS/mP(式中、mS:基質グループのLog2平均強度;mP:全体のデータセットのLog2平均強度)。富化の有効係数は、Zスコア=(mS−mP)1/2/δを使用することで計算される(式中、m:基質グループのサイズ;δ:全体データセットの強度の標準偏差)。そして、zスコアはマイクロソフトエクセル2007でp値に変換された。統計的に有意な富化は適当なp−値、例えば、p<0.05、p<0.01またはp<0.001に基づいて決定されることができる。スクリプトは、KSEAアルゴリズムのアプリケーションを自動化するためにビジュアル・ベーシック・フォー・アプリケーションで書かれた。
結果
キナーゼ基質富化分析(KSEA)の原理
ホスホプロテオミクスデータからキナーゼ活性を推論するために、私たちは大規模なホスホプロテオミクスで同定されたホスホペプチドを基質グループに分類した;これらは、特異的キナーゼの基質であることが知られているりん酸化部位を含んでいるか、または特異的リン酸化モチーフを共有する。基質グループを定義するために、私たちはりん酸化サイトの公的に利用可能なデータベース、すなわちPhosphoSite(Hornbeck et al, Proteomics 4, 1551 (Jun, 2004))およびPhosphoElm(Dinkel et al, Nucleic Acids Res 39, D261 (Jan, 2011))からキナーゼ基質関係の情報を得た。りん酸化モチーフは文献およびMotif-X (Schwartz and Gygi, Nat Biotechnol 23, 1391 (Nov, 2005))から得た。合計293と298のキナーゼ類はそれぞれ、PhosphoSiteとPhosphoElmデータベースに表されていた。それぞれの基質グループは、平均約17の基質を含み、1キナーゼあたり平均5つの基質を有していた。分析されたモチーフの数は109であった。そして、キナーゼ活性の富化の程度は、ホスホペプチドの強度が実験サンプル全体にわたりの統計的に有意な差異を示すことを考慮して計算された。次に、キナーゼ活性の富化の有効係数はハイパージオメトリックテストで見積もられ、平均ホスホペプチド強度の差の統計的な有意性がペアードt−テストで評価された。
2つの異なった急性骨髄白血病(AML)細胞ラインからのホスホプロテオミクス(phosphoproteomics)データの比較のためのKSEAの適用
2つのAML細胞ライン、すなわちP31/FujとKasumi−1のホスホプロテオメスが比較される実験への使用について説明することによって、KSEAがよりよく説明されるであろう。PI3K活性化の観点からの遺伝的背景(P31/FujとKasumi−1は、それぞれPTEN陰性および陽性である)のため、私たちはこれらの細胞ラインを比較することに興味を引かれた。また、シグナル伝達阻害剤による増殖抑制へのそれらの感受性も非常に異なっている。Kasumi−1に対してP31/Fujは耐マルチ−ドラッグ(multidrug resistant)である(Casado and Cutillas, Mol Cell Proteomics 10, M110 003079 (Jan, 2011)。両方のAML細胞ラインのホスホプロテオムが先に説明したLC−MS/MS方法論を使用することで分析された(Casado and Cutillas, Mol Cell Proteomics 10, M110 003079 (Jan, 2011))。1細胞ラインあたり3つの生物学的複製がそれぞれの実験で分析された。そして、それぞれの実験は3回行われ、1細胞ラインあたり合計9つの生物学的複製について実験が繰り返された。合計4300のホスホペプチドが細胞ラインにわたり定量化された。P31/FujまたはKasumi−1細胞中の431および306は優先的にリン酸化され、それぞれのカットオフp−値は<0.05で、204と134ホスホペプチドはp−値<0.01を持っていた(図1AおよびB)。ほとんどのホスホペプチドの強度は細胞ラインの間でほとんど異なっていなかった(図1B)。そして、log2フォールド変化はほぼゼロだった(変化がない、図1C)。それにもかかわらず、観測された差は、主成分分析に基づくP31/FujとKasumi−1のサンプルを分離するために十分であった(PCA、図1D)。
私たちは、先に概説された2つの異なった戦略を使用することで定量化されたりん酸化部位をキナーゼと関連づけることにより、ホスホプロテオミクスデータへKSEAを適用した。
i) 基質データベースへのりん酸化部位のマッチング、および
ii) りん酸化サイトを次に異なったキナーゼグループに配属させるモチーフに分類する。
図2は、キナーゼ基質関係のソースとしてphosphoSiteデータベースを使用して、富化を定量化する2つの異なった方法が使用されたときに得られた結果を示している。基質グループ富化の尺度として、私たちは、Kasumi−1で有意に増加する基質を数えて、それぞれのキナーゼにおいてP31/Fujで有意に増加したものの数を引いた。我々がデルタカウントと呼ぶこれらの値が、少なくとも3つのりん酸化サイト基質に一致したキナーゼのすべてについて、図2Aに示される。ハイパージオメトリックテストが、特定のキナーゼについて、サイトの総数に対して有意に増加または減少するりん酸化サイトの富化の有効係数を評価するのに使用された(図2A)。基質グループの富化を評価する追加テストとして、それぞれのキナーゼについて2個の細胞ラインの間の基質強度の平均を比較した(図2B)。平均の間の差の有効係数はペアードt−テストで評価された。両方のタイプの分析は、P31/Fuj細胞中で、CDKs、PKA、PKB/AKT、PKC、P90RSK、DYRK2、PAK、およびROCKについて基質のリン酸化が顕著に富化し(図2)、Kasumi−1細胞でCK2、MEK1、およびERK1について基質のリン酸化が有意に富化した(図2)。同じ分析は、キナーゼ基質関係のソースとしてphosphoElmデータベースを使用することで実行された(図3)。これらの分析は、KSEAの基礎として使用されたデータベースまたは統計テストにかかわらず、結果は驚くほど一致した。りん酸化が富化されたキナーゼの基質としては、P31/Fuj中のPKC、PKB/AKT、RSK、およびPAKがあげられ、Kasumi−1細胞におけるCK2の富化と、MEKとERK活性の増加は、それぞれの細胞ラインにおいてこれらのキナーゼが、より活性であることを示唆する。
KSEAの結果が正常であると確認するために、ウエスタン・ブロットが使用され、特異的に規制されることが同定された選択されたキナーゼの活性と互いに関連するりん酸化サイト、または、これらのいくつかのキナーゼによってリン酸化されることが知られているタンパク質について測定された(図4)。すなわち、Kasumi−1に対してSer−473 AKT、Ser−380 P90RSK、Thr−505PKCδ、およびThr−538PKCθ(それのすべてがそれらの活性状態と互いに関連する)のりん酸化はP31/Fuj細胞中でKasumi−1細胞中よりも増加し、Thr202/Tyr204のERKのりん酸化は、Kasumi−1細胞中でより顕著であった(図4)。
また、それぞれAKTとRSKによって触媒される、Ser−9でのGSK3βとSer−236/237でのGSK3βのりん酸化は、P31/Fuj中でも増加した(図4)。これらの結果は一貫しており、図2と3に示された大規模MSベースのりん酸化データのKSEAによって得られた結果は正常であると確認するものである。
また、KSEAアルゴリズムは、りん酸化モチーフがP31/FujとKasumi−1細胞で特異的にリン酸化されることを見いだすために適用された。デルタカウントと平均の比較の両方に基づいた分析は、酸性のモチーフはKasumi−1細胞中でよりリン酸化される傾向であり、好塩基性のモチーフはP31/Fuj細胞中でよりリン酸化される傾向であることを示した。(図5A)。どちらの場合でも、PKB/AKTとRSKアイソフォームに関連しているRxRxxSとKxRxxSモチーフのリン酸化について、Kasumi−1に対してよりもP31/Fuj細胞中でよりリン酸化され、CK2に関連しているSDxExEモチーフでは、Kasumi−1細胞中で支配的にリン酸化される(図5B)。これらの結果は、キナーゼ基質に関するデータベースに基づいたKSEAから得られた結果と一致している(図2および3)。
したがって、本発明の発明者は、事前に定義されたグループに属する基質(あらかじめ大規模なホスホプロテオミクスによって特異的に規制されることが知られたもの)の富化の定量化は、良い精度でキナーゼ経路活性化を予測できることを見いだした。
実施例2 原発性AMLの基質グループりん酸化の異種性
原発性AMLにおいてキナーゼシグナル伝達の異種性を特徴付けるために、基質グループ富化が、図7に示された28のAMLケースについて測定された。富化データは、キナーゼ基質関係の4つの異なるソース、すなわちphosphoElm, phosphoPoint, phosphoSite、および本発明者のりん酸化モチーフの収集物に基づいてプールされた。監督されない(unsupervised)富化データの階層的なクラスタリングは12個の主なクラスタを示した。
データベースのphosphoElm、phosphoSite、およびphosphoPointは、タンパク質キナーゼを命名するのに一貫した専門用語を使用していない。そして、これらはキナーゼ当たり異なったセットの基質を列記する(部分的にのみオーバラップする)。それにもかかわらず、基質富化クラスタの厳重な検査は、一般に、富化データは原発性AMLについて、KSEAに使用される基質グループのソースの如何にかかわらず一貫していることを示した、たとえば、それぞれphosphoElm、phosphoPoint、およびphosphoSite内のMAPK_グループ、MAPK3、およびERK1と名付けられた基質グループのすべては、クラスタ1で一緒に分類される、有糸分裂促進因子活性タンパク質キナーゼからなる。同様に、クラスタ1はCDK_グループ(phosphoElm)、CDC2(phosphoPoint)、およびCDK1(phosphoSite)のための基質を含み、そのすべてがサイクリン依存性タンパク質キナーゼ1の異なった名前である。これらのデータは、モチーフ基質の類似スペクトルを持っているMAPKsとCDKsとそれらのコレギュレーション(coregulation)と一致していて、これらの2つのキナーゼ活性が検査されたAMLパネルで共同発現(co-expressed)されることを示唆する。また、DNA−PK(PRKDC、phosphoPointの遺伝子名として、命名される)とATM基質グループとが、xSQxモチーフによって定義されるグループとクラスターにされた。これらの基質グループはクラスタ11に示されている。これらのデータはDNA−PKおよびATMの知られている基質特異性と一致している。他の代表的な関連としては、クラスタ7内の蛋白質チロシンキナーゼ基質の富化を含む。そこでは、Btk、Syk、およびLyn基質が分析に使用された基質グループデータベースの如何にかかわらず、富化の類似したパターンを示した(図7)。ホスホチロシンモチーフはこれらの基質グループとクラスターされたが、他のチロシン・キナーゼは他のクラスタで分類された。カゼインキナーゼ2α基質(phosphoPointではCSNK2A1、CSNK2A2、phosphoElmとphosphoSiteではCK2と命名される)はクラスタ5に分類され、これは、C−temで酸性残基が豊かないくつかのりん酸化モチーフも含むことも興味深い。同様に、プロテインキナーゼAおよびプロテインキナーゼCによって定義されるものとクラスターにされた塩基性のモチーフによって、ほとんどの基質グループの富化は定義される(クラスター2)。これらのデータは、PKA、PKC、およびカゼインキナーゼの知られている基質特異性と一致していて、CK2αと好塩基性のキナーゼ活性が原発性AMLのパネルと特異的に発現されることをさらに示す。
また、キナーゼとモチーフによって定義された基質グループの正相関に加えて、我々はある特定のキナーゼ−基質グループの発現における負の相関関係を観測した。例えば酸性のモチーフとCK2α基質を含むクラスタ5a内の富化された基質グループは、PKB/PKC、PAK/MAPAPK2、およびLyn/Syk/Tryを含むクラスタ9、6および7に含まれるものと負の相関関係を示した(図7)。これらの結果は、CK2αキナーゼ活性が、原発性AMLにおける好塩基性のチロシンキナーゼ活性と互いに排他的である傾向があることを示す。
図7は、基質グループが、チロシンキナーゼ類Syk、Btk、およびLynについて基質を含む原発性AML内で、より頻繁に富化することを示している。セリン/スレオニンキナーゼに関して、カゼインキナーゼとMAPKAPK2基質は一貫して富化されることがわかった。より頻繁な増加を示すモチーフには、酸性の配列(CK2モチーフ、11ケース)、RxRxxSモチーフ(10ケース)、SQモチーフ(8ケース)、およびチロシンモチーフ(6ケース)を含む。

Claims (24)

  1. 以下を含む、サンプル内のタンパク質修飾酵素の活性を定量化する方法;
    (i)第1のサンプルからの修飾ペプチドと第2のサンプルからの修飾ペプチドを以下のパラメータ類の1つにより、一つのグループに分類すること:
    (a)同じタンパク質修飾酵素によって修飾される修飾部位を持っている修飾ペプチド;
    または
    (b)同じ修飾モチーフの一部である修飾部位を持っている修飾ペプチド;
    (ii)グループにおける第2のサンプルからの修飾ペプチドと比較して、第1のサンプルからの修飾ペプチドの富化を計算すること;および
    (iii)前記富化の統計的有意性について計算すること;
    ここで、統計的に有意な富化は、第2のサンプルと比べて、第1のサンプルでタンパク質修飾酵素が活性化されていることを示している。
  2. 富化は、第1のサンプルにおいて第2のサンプルにおけるよりも存在量の多いグループ内の、修飾ペプチドの数を数え、
    第1のサンプルにおいて第2のサンプルにおけるよりも存在量の少ないグループ内の、修飾ペプチドの数を数え、
    第1のサンプルにおいて第2のサンプルにおけるよりも存在量の多いグループ内の修飾ペプチドの数から、第1のサンプルにおいて第2のサンプルにおけるよりも存在量の少ないグループ内の修飾ペプチドの数を引くことにより計算される、請求項1記載の方法。
  3. 富化は、第1のサンプルからのグループ内の修飾ペプチドのすべての平均(算術平均)存在量と、第2のサンプルからのグループ内の修飾ペプチドのすべての平均存在量を計算し、
    第1のサンプルからのグループ内の修飾ペプチドのすべての平均存在量を、第2のサンプルからのグループ内の修飾ペプチドのすべての平均存在量で割ることにより計算される、請求項1記載の方法。
  4. 富化は、グループにおける修飾ペプチドのすべてのフォールド変化の平均と、全体の実験における修飾ペプチドのすべてのフォールド変化の平均を計算し、
    次に前記のグループにおける修飾ペプチドのすべてのフォールド変化の平均を、全体の実験における修飾ペプチドのすべてのフォールド変化の平均で割ることにより計算される、請求項1記載の方法。
  5. ハイパージオメトリックテスト、ペアードt−テスト、Z−テスト、 コルモゴロフ-スミルノフ検定、カイ二乗検定、フィッシャーの正確確率検定、またはウィルコクソンの符号順位検定により統計的有意性が計算される、請求項1から4のいずれか1項記載の方法。
  6. 多重検定法をさらに行うことを含む、請求項5記載の方法。
  7. 多重検定法が、ベンジャミニ ホッホバーグ フォールス ディスカバリー レイト(FDR)法である、請求項6記載の方法。
  8. タンパク質修飾酵素が、プロテインキナーゼである、請求項1から7のいずれか1項記載の方法。
  9. 工程(i)の前に、質量分析法(MS)を使用して第1のサンプルおよび第2のサンプル中の修飾ペプチドを同定する工程を含む、請求項1から8のいずれか1項記載の方法。
  10. 第1のサンプルおよび第2のサンプル中の修飾ペプチドの同定が、以下の工程を含む方法を使用して行われる、請求項9記載の方法:
    (a) サンプルからペプチド類を得る工程;
    (b) 参照修飾ペプチドを工程(a)で得られたペプチドに加え、ペプチド類と参照修飾ペプチドの混合物を得る工程;
    (c) 前記ペプチド類と参照修飾ペプチドの混合物について質量分析(MS)を行い、サンプル内のペプチド類に関するデータを得る工程;および
    (d) サンプル内のペプチド類に関するデータと、修飾ペプチドに関するデータベース中のデータとを、コンピュータプログラムを使用して比較する工程;
    ここで、修飾ペプチドに関するデータベースが、以下を含む方法によってコンパイルされる;
    i) サンプルからペプチド類を得ること;
    ii) 工程iで得られたペプチド類からの修飾ペプチドを富化すること;
    iii) 工程iiで得られた富化された修飾ペプチドについて、液体クロマトグラフィー−タンデム質量分析(LC−MS/MS)を行うこと;
    iv)修飾ペプチドを同定するために、工程iiiで検出された修飾ペプチドを、公知のリファレンスデータベースと比較すること:および
    v) 工程ivで同定された修飾ペプチドに関連するデータを、データベースにコンパイルすること。
  11. 工程(b)は、ペプチド類と参照修飾ペプチドの混合物から修飾ペプチドを富化し、富化された修飾ペプチドの混合物を製造することを含み、工程(c)は、富化された修飾ペプチドの混合物に質量分析法(MS)を行い、サンプル中の修飾ペプチド類に関連したデータを得ることを含む、請求項10記載の方法。
  12. 修飾ペプチドの富化工程が、クロマトグラフィーを使用して行われる、請求項11記載の方法。
  13. クロマトグラフィーが、固定された金属イオンアフィニティークロマトグラフィー(IMAC)、二酸化チタン(TiO)クロマトグラフィー、および/または二酸化ジルコニウム(ZrO)クロマトグラフィーから成る群から選択される、請求項12記載の方法。
  14. 修飾ペプチドを富化する工程は、抗体に基づく方法を使用することで行われる、請求項11記載の方法。
  15. サンプル中の修飾ペプチド類に関連したデータが、ペプチド類の質量/電荷(m/z)比、電荷(z)、および相対保持時間を含む、請求項10から14のいずれか1項記載の方法。
  16. 工程(c)における質量分析法(MS)は液体クロマトグラフィー−質量分析法(LC−MS)である、請求項10から15のいずれか1項記載の方法。
  17. 工程(ii)が、多次元クロマトグラフィーを使用することで行われる、請求項10から16いずれか1項記載の方法。
  18. 多次元クロマトグラフィーは、強カチオン交換高速液クロマトグラフ(SCX−HPLC)、固定された金属イオンアフィニティークロマトグラフィー(IMAC)、および二酸化チタン(TiO)クロマトグラフィーで行われる、請求項17記載の方法。
  19. 多次元クロマトグラフィーは、陰イオン交換高速液クロマトグラフ(SAX−HPLC)、固定された金属イオンアフィニティークロマトグラフィー(IMAC)および二酸化チタン(TiO)クロマトグラフィーを使用して行われる、請求項17記載の方法。
  20. 工程(ii)は、抗体に基づく方法を使用することで行われる、請求項10から16いずれか1項記載の方法。
  21. 工程(iv)は、マスコットサーチエンジンを使用することで行われる、請求項10から20のいずれか1項記載の方法。
  22. 修飾ペプチドに関連するデータは、修飾ペプチドのアイデンティティ、質量/電荷(m/z)比、電荷(z)および相対保持時間から成る群から選択される、10から21いずれか1項記載の方法。
  23. MSテクニックが、定量のためにアイソトープラベルを使用する、請求項9記載の方法。
  24. MSテクニックが、代謝標識(例えば、培地内の安定なアイソトープラベルされたアミノ酸(SILAC))または化学誘導体(たとえばiTRAQ、ICAT TMT)を使用する、請求項23記載の方法。
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