本発明のより完全な理解及びその付随する多くの利点を説明し提示するために、新規な方法及び組成物に関して以下の詳細な説明及び実施例を与える。
一態様では、本発明は、治療を必要とするヒト患者におけるアルツハイマー病の発生を遅延させるか又は他の方法でアルツハイマー病を治療するために、治療を必要とするヒト患者等の被験体に投与される、低用量ピオグリタゾン又はその薬学的に許容可能な塩と薬学的に許容可能なビヒクルとを含む医薬組成物、すなわち医薬品に関する。本発明は多くの様々な形態で具体化され得るが、幾つかの具体的な実施形態が本明細書中で述べられており、本開示は本発明の原理を例示するものとみなされるにすぎず、本発明を記載又は説明される実施形態に限定する意図はないことが理解される。
I. 定義
本明細書及び添付の特許請求の範囲に使用される場合、数量を特定していないもの(英文で単数形"a", "an", 及び"the"となっているもの)は、文脈上他に明確に示されていない限り互換的に用いられ、複数の対象も含み、それぞれの意味範囲内にあることが意図される。さらに、本明細書で使用される場合、「及び/又は」は列挙される項目のうちの1つ又は複数のあらゆる可能な組合せ、及び代替的(「又は(若しくは)(or)」)と解釈される場合には組合せがないことを表すとともに包含する。
本明細書で使用される場合、「少なくとも1つ」は、列挙される要素のうちの「1つ又は複数」を意味するものとして意図される。
単数形は複数形を包含するものとして意図され、他にはっきりと述べられていない限り、本明細書において必要に応じて同様に区別なく用いられ、それぞれの意味範囲内にある。
他で言及されている場合を除き、大文字で記載されている用語及び大文字で記載されていない用語は全て(capitalized and non-capitalized forms of all terms)それぞれの意味範囲内にある。
他に示されていない限り、本明細書及び特許請求の範囲に用いられる量、比率、成分の数値特性、反応条件等を表す数値は全て、どのような場合であっても「約」という用語によって修飾することができることが企図されることが理解される。
本明細書中の部、百分率、比率等は全て、他に示されていない限り重量基準である。
本明細書で使用される場合、「生物学的同等性(bioequivalence)」又は「生物学的に同等な(bioequivalent)」は、薬学的に同等な低用量ピオグリタゾン製剤又は医薬品を指し、同じモル投与量又は量での投与後のそれらのバイオアベイラビリティ(吸収速度及び吸収の程度)は、安全性及び有効性に関するそれらの治療効果が本質的に同じになるような程度に似ている。換言すると、「生物学的同等性」又は「生物学的に同等な」は、ピオグリタゾンを類似の条件下で同じモル用量で投与した際に、ピオグリタゾンがピオグリタゾン作用部位においてこのような製剤から利用可能となる速度及び程度、例えばピオグリタゾンをこのような製剤から放出することができる速度、並びにピオグリタゾンがアルツハイマー病に影響を与える作用部位で吸収される及び/又は利用可能となることができる速度において顕著な相違がないことを意味する。換言すると、同じモル用量での(同じ調剤形態の)2つのピオグリタゾン医薬品のバイオアベイラビリティの類似度が高く、これらの2つのピオグリタゾン医薬品は、治療効果、若しくは有害反応、又はその両方において臨床的に関連する相違を生じる可能性は低い。「生物学的同等性」、並びに「薬学的同等性(pharmaceutical equivalence)」及び「治療的同等性(therapeutic equivalence)」という用語は更に、(a)米国食品医薬品局(FDA)、(b)連邦規則集(「C.F.R.」)、タイトル21、(c)カナダ保健省、(d)欧州医薬品庁(EMEA)、及び/又は(e)日本国厚生省によって規定される及び/又は用いられるように本明細書で用いられる。このため本発明は、本発明の他の低用量ピオグリタゾン製剤又は医薬品に対して生物学的に同等であり得る低用量ピオグリタゾン製剤又は医薬品を企図することが理解される。例として、第1の低用量ピオグリタゾン製剤又は医薬品の少なくとも1つの薬物動態パラメータ、例えばCmax、Tmax、AUC等の測定結果が、第2の低用量ピオグリタゾン製剤又は医薬品に関する同じ薬物動態パラメータの測定結果と比較して、約±25%以下しか変動しない場合、本発明に従えば、第1の低用量ピオグリタゾン製剤又は医薬品は第2の低用量ピオグリタゾン製剤又は医薬品と生物学的に同等である。別の例として、第1の低用量ピオグリタゾン製剤又は医薬品のAUC及びCmaxの幾何平均比の90%信頼区間が、第2の低用量ピオグリタゾン製剤又は医薬品のAUC及びCmaxと比較して80%〜125%の範囲内である場合、本発明に従えば、第1の低用量ピオグリタゾン製剤又は医薬品は第2の低用量ピオグリタゾン製剤又は医薬品と生物学的に同等である。
本明細書で使用される場合、「バイオアベイラビリティ」又は「生物学的に利用可能な(bioavailable)」は概して、体循環へのピオグリタゾンの吸収の速度及び程度、より具体的にはピオグリタゾンが作用部位で利用可能となる、又は医薬品から吸収され作用部位で利用可能となる速度及び程度を反映することを意図した速度又は測定結果を意味する。換言すると、一例として、これは体循環におけるピオグリタゾンの時間−濃度曲線に反映されるような本発明の有効性成分含量がより低い製剤からのピオグリタゾンの吸収の程度及び速度である。
更なる例として、バイオアベイラビリティは、体循環に到達し、作用部位で利用可能となる治療的に活性のある薬物の程度の測定結果である。バイオアベイラビリティは文字Fとして表される。
絶対バイオアベイラビリティに関して、絶対バイオアベイラビリティは、非静脈内投与後の(すなわち経口投与、直腸投与、経皮投与、皮下投与後の)体循環における活性薬物のバイオアベイラビリティ(曲線下面積、すなわちAUCとして推定される)を、静脈内投与後の同じ薬物のバイオアベイラビリティと比較したものである。絶対バイオアベイラビリティは、非静脈内投与によって吸収された薬物を同じ薬物の対応する静脈内投与と比較した分数値である。この比較は、異なる用量が用いられる場合、用量で正規化しなければならず、結果としてAUCはそれぞれ、対応する投与用量を除算することにより補正される。
薬物の絶対バイオアベイラビリティを決定するためには、薬物動態学的研究を行い、静脈内投与(IV)及び非静脈内投与の両方の後での薬物に関する血漿薬物濃度対時間プロットを作成する必要がある。絶対バイオアベイラビリティは、用量(dose)で補正した非静脈内投与の曲線下面積(AUC)を静脈内投与のAUCで除算したものである。例えば、経口経路(po)で投与した薬物に関するFを計算するための式を以下に与える。
したがって、静脈内経路により与えられる薬物の絶対バイオアベイラビリティは1である(F=1)が、他の経路により与えられる薬物の絶対バイオアベイラビリティは通常、1未満である。
相対バイオアベイラビリティに関して、相対バイオアベイラビリティは、或る特定の薬物のバイオアベイラビリティ(曲線下面積、すなわちAUCとして推定される)を、同じ薬物の別の製剤、通常確立された標準と比較して、又は別の経路を介した投与により測定したものである。標準が静脈内投与した薬物からなる場合、これは絶対バイオアベイラビリティとして知られる。
本明細書で使用される場合、「薬学的同等性」又は「薬学的に同等な」という用語は、同じ剤形において同量のピオグリタゾンを含有するが、同じ投与経路に対して同じ不活性成分を含有している必要はなく、同一性、強度、品質、及び薬効を含む純度、並びに、必要に応じて、含量均一性及び/又は安定性の同じ又は同程度の公定(compendial)標準又は他の適用可能な標準を満たす、本発明の低用量ピオグリタゾン製剤又は医薬品を指す。このため本発明は、本発明に従って使用される他の低用量ピオグリタゾン製剤又は医薬品と薬学的に同等であり得る低用量ピオグリタゾン製剤又は医薬品を企図することが理解される。
本明細書で使用される場合、「治療的同等性」又は「治療的に同等な」という用語は、(a)本発明に従ってアルツハイマー病の発生を遅延させるためにピオグリタゾン医薬品を利用した場合に同じ臨床効果及び安全性プロファイルを生じるとともに、(b)薬学的同等物である、例えば同じ剤形でピオグリタゾンを含有し、同じ投与経路を有し、かつ同じピオグリタゾン強度を有する、それらの低用量ピオグリタゾン製剤又は医薬品を意味する。換言すると、治療的同等性は、本発明の有効性成分含量がより低いピオグリタゾン製剤の化学的同等物(すなわち同じ個体に同じ投与計画で投与した場合に同じ剤形において同量のピオグリタゾンを含有するもの)が本質的に同じ有効性及び毒性を与えることを意味する。
本明細書で使用される「アルツハイマー病("Alzheimer's disease", "Alzheimer disease")」すなわち「AD」は、認知機能が経時的に徐々に損なわれる疾患であり、軽度の認知機能障害(MCI)を示す症候性の前認知症期と、社会的機能又は職業機能が著しく損なわれる認知症期とを含む。Albert et al. 2011 Alzheimer's & Dementia 7: 270-279、非特許文献11を参照されたい。
多くのバイオマーカーがアルツハイマー病と一致することが報告されているが、米国食品医薬品局によってアルツハイマー病の診断又は予後診断に有用な又は適格なバイオマーカーとして認識されているものはない。臨床的観点から、常に存在し、アルツハイマー病の診断に必要とされる顕著な特徴(hallmark feature)は認知機能障害である。
認知機能障害の兆候としては、言語、記憶(例えばエピソード記憶)、知覚、情動行動又は人格、認知技能(例えば計算、抽象的思考、判断)等の精神機能が困難になることが挙げられ得るが、これらに限定されない。確定は患者により、患者をよく知る情報提供者により、患者を観察している専門医により、又はそれらの組合せにより得ることができる。
「軽度の認知機能障害」すなわち「MCI」は、1つ又は複数の認知領域において人の年齢又は知識を考慮して予期されるものよりも大きな認知能の低下を指す。認知領域としては、記憶、実行機能(例えば問題の解決、計画又は論理的思考)、注意力(例えば単純な分割的注意力)、視空間能力、及び言語(例えば呼称、流暢性、表現豊かな発話(expressive speech)、理解力)が挙げられる。MCIの症状は正しい単語又は名称を特定することが困難になること、新たな人を紹介された場合に名前を記憶することが困難になること、社会環境又は労働環境において作業を行うことが著しく困難になること、直前に読んだ内容を忘れること、重要な対象物を見失う又は置き間違えること、計画又は組織化によるトラブルの増大、新たな技能を習得するのが困難になること、集中力の欠如、及び不安の増大を含み得る。軽度の認知機能障害は、症状がMCIの現在許容されている基準を満たすのに十分であるが、症状が認知症診断基準を満たさない疾患期である。しかしながら、MCIの人は機能的に無傷で独立したままであり得る。正式な標準化された認知検査を実施すると、MCIの人は概して、それらの同等者に対する年齢及び知識で調整した平均未満の1〜1.5という標準偏差スコアである。全てのMCIが認知症に、またアルツハイマー病に至るわけではないことを留意されたい。
本明細書で使用される「アルツハイマー型の認知機能障害」すなわち「CIAT」は、アルツハイマーが原因であると考えられる特徴と一致する認知機能障害を指し、このためMCIのサブセットであるとみなすことができる。「アルツハイマー型の認知機能障害」、「アルツハイマー病に起因する軽度の認知機能障害(ADに起因するMCI)」又は「軽度の健忘性認知機能障害(aMCI)」という呼称は、アルツハイマー病の症候性の前認知症期を指す。CIAT、又はADに起因するMCIは、神経心理検査の使用及び個体の認知機能の臨床医による評価に従って確定される。通常、エピソード記憶はADヘと進行するMCI(aMCI)の人において損なわれる。しかしながら、同様にアルツハイマー病ヘと進行する、不定型のMCI、すなわち非健忘性の(with nonamnestic presentation)MCIが存在する。認知機能の進行的低下は、人がADに起因するMCIを患っているという更なる証拠を与える。
多くの神経心理学的評価、特にADに起因するMCI又は数年以内にADヘと進行する可能性があるMCIの患者を診断するのに有用である、エピソード記憶(すなわち新たな情報を学習し保持する能力)を検査する神経心理学的評価が存在する。単語リスト学習検査等のエピソード記憶の検査は、即時想起及び/又は遅延想起を評価することができる。さらに、神経変性疾患(例えばパーキンソニズム)、微細梗塞を含む血管事象、うつ病、外傷性疾患、精神共存症等の認知機能障害に対する代替的な病因は除外されるべきである。多くのバイオマーカーが研究における使用に提案されており、更にADと一致する病変の存在を確認することによりADに起因するMCIの臨床診断を支持する上で、又は所望に応じて疾患の進行をモニタリングするのに有用であり得る。例えば、Albert et al. 2011 Alzheimer's & Dementia 7: 270-279を参照されたい。
本発明に従うと、認知機能障害は、全体的な認知(例えば改良型ミニメンタルステート検査(3MS−E))、並びに視覚的記憶及び言語的記憶(例えばそれぞれ、簡易視空間記憶検査(改訂版)(BVMT−R)及びホプキンス言語学習検査(改訂版)(HVLT−R))、言語(例えば生成発話流暢性検査(GVFT))並びに実行機能及び注意力(例えばデジットスパン検査(DST))等の特定領域の評価を含むが、これらに限定されない認知評価の任意の当該技術分野で許容される方法によって確定することができる。
生理学的変化は検出されても又は検出されなくてもよい。「生理学的変化」は、例えば機能的連結性の変化、脳萎縮、脳におけるシナプス活動の低減、脳におけるアミロイド蓄積の増大、脳におけるミトコンドリア機能の低減又はミトコンドリア機能不全の増大、脳における神経原線維濃縮体のニューロン形成、及びアルツハイマー病の任意の他の症状に対応する変化のうちの少なくとも1つの出現を意味する。アルツハイマー病の指標となり得る生理学的変化としては、脳における代謝低下、機能的連結性の変化、脳及び/又はCSFにおけるβアミロイドの増大、並びにCSFにおけるタウタンパク質及びリン酸化タウタンパク質が挙げられるが、これらに限定されない。
「神経活動」は、ニューロンのシナプスシグナル伝達を含む電気的及び化学的プロセスを広く説明し、その機能の指標である。電気的及び化学的プロセスは通常ATPの形態でエネルギーを必要とし、その大半がミトコンドリアにおける酸化的代謝から生じる。神経活動の「増大」はこれらのプロセスの量又は速度の増大を表し、当該技術分野で既知の手段、例えば適切な装置又は技術、例えばfMRI、脳波検査(EEG)等を用いて記録される神経活動の測定結果のベースラインからの正の変化によって測定することができる。同様に、神経活動の「減少」はこれらのプロセスの減少又は減速を表し、同様に測定することができる。
本明細書で使用される場合、「発生」は、本明細書で規定されるように、アルツハイマー病又はCIATのようなアルツハイマー認知症ヘと進行する疾患期の診断と関連する、又はそれと一致する臨床症状が被験体に現れることを意味する。
本明細書で使用される場合、アルツハイマー病と一致する疾患期の発生又は進行の「遅延」は、第1の時点からアルツハイマー型の認知機能障害のようなアルツハイマー病と一致する疾患期の発生又は悪化までの時間の増大を意味する。例えば、アルツハイマー病の発生の遅延は、アルツハイマー病を発症するリスクがある被験体における本明細書で規定されるアルツハイマー病の発生が、認知力が正常な被験体がアルツハイマー病を発症するリスクが高いと確定された後にその自然状態の時間枠で起こるものから、少なくとも6ヶ月、1年、1.5年、2年、2.5年、3年、3.5年、4年、4.5年、5年、5.5年、6年、6.5年、7年、7.5年若しくは8年、又はそれ以上、好ましくは3年〜8年、より好ましくは5年遅延されることを意味する。更なる例としては、アルツハイマー病ヘと進行し得る認知機能障害の進行の遅延又は認知症の進行の遅延は、認知低下速度がその自然状態の時間枠に比べて遅くなることを意味する。これらの確定は適切な統計分析を用いることによって行われる。
「第1の時点」は、例えば本明細書で教示される低用量ピオグリタゾン治療の開始を含む。
幾つかの実施形態では、アルツハイマー病と一致する認知機能障害の発生の遅延は、例えば本明細書に記載される認知評価のいずれかを行うことによって、又はアルツハイマー型の認知機能障害に許容される診断基準を満たすことによって確定することができる。認知能力の評価に加えて、所望に応じて、例えば磁気共鳴画像診断(MRI)又は脳領域間の機能的連結性の変化の測定によって測定される脳萎縮の速度、脳代謝若しくはニューロン活動の評価、脳におけるアミロイド蓄積、BOLD−fMRIシグナルによって測定される脳生理機能、脳におけるミトコンドリア機能、脳におけるミトコンドリア増殖、病的ニューロン、脳における神経原線維濃縮体、CSFにおけるアミロイド、並びにCSFにおけるタウタンパク質及びリン酸化タウタンパク質等を含む、アルツハイマー病の病変と一致する他のバイオマーカーの変化を測定することもできる。
本明細書で使用される「診断」又は「予後診断」は、共通のヌクレオチド配列、症状、兆候、家族歴若しくは患者の健康状態の検討と関連する他のデータを共有する複数の個体の比較、又は被験体、例えば軽度の認知機能障害(MCI)(例えばアルツハイマー型の認知機能障害)の被験体の病気(affliction)の確認に基づき、所与の疾患、障害、又は病態に関する最も可能性のある転帰、時間枠、及び/又は特定の治療に対する応答を予見するための情報(例えば遺伝情報又は他の分子検査によるデータ、生体サンプル、兆候及び症状、身体的検査所見、認知能力の結果による生物学的又は化学的な情報等)の使用を指す。
本明細書で使用される「生体サンプル」は、例えば核酸、タンパク質を含有する材料、又は対象となる他の生物学的な若しくは化学的な材料を指す。DNA等の核酸を含有する生体サンプルとしては、毛髪、皮膚、綿棒で採取した口腔粘液(cheek swab)、及び血液、血清、血漿、唾液、リンパ液、精液、膣粘液、糞便、尿、髄液のような生体液等が挙げられる。このようなサンプルからのDNAの単離は当業者にとって既知のものである。
幾つかの実施形態による「被験体」は、遺伝子型(複数の場合もある)又はハプロタイプ(複数の場合もある)が決定され、個体の病態(すなわち疾患状態又は障害状態)及び/又は候補薬物若しくは治療に対する応答とともに記録される個体である。
本明細書で使用される「被験体」は、ヒト被験体であるのが好ましいが、必ずしもそれには限定されない。被験体は男性であっても又は女性であってもよく、コーカサス人、アフリカ系アメリカ人、アフリカ人、アジア人、ヒスパニック、インディアン等を含むが、それらに限定されないいずれの人種又は民族性であってもよい。被験体は生まれたばかりの新生児(newborn)、生後28日未満の新生児(neonate)、幼児、小児、青年、成人、及び高齢者を含むいずれの年齢であってもよい。本明細書で使用される被験体は、本発明の方法に従って治療することができる、又は獣医薬若しくは医薬品の開発目的でスクリーニングすることができる、動物、特にイヌ、ネコ、ウシ、ヤギ、ウマ、ヒツジ、ブタ、齧歯動物(例えばラット及びマウス)、ウサギ、霊長類(非ヒト霊長類を含む)等の哺乳動物も含み得る。被験体は、本発明の一部の実施形態によれば、ヒト患者、すなわち他の方法でアルツハイマー病の発生を遅延させるために治療的治療を必要とする患者を含む。
本明細書で使用される「遺伝子」は、プロモータ、エキソン、イントロン、及び発現を制御する他の非翻訳領域を含む、RNA産物の生合成の調節のための情報を含有するDNA断片を意味する。
本明細書で使用される「遺伝的危険因子」は、病態、疾患、又は障害に対する感受性の増大と関連する遺伝子マーカーを意味する。遺伝的危険因子は、対象となる選択される薬物又は治療に対する特定の応答と関連する遺伝子マーカーでもあり得る。本明細書で使用される「と関連する」は、偶然(chance alone)により予測されるものよりも高頻度で2つ以上の特性が同時に生じることを意味する。「と関連する」は例えば、HLAと呼ばれる白血球の表面上の特徴を伴う(HLAはヒト白血球抗原を表す)。特定のHLA型、HLA型B−27は、剛直性脊椎炎を含む多くの疾患のリスクの増大と関連する。剛直性脊椎炎は、一般集団よりもHLA B−27を有する人で87倍起こりやすい。
「予後」マーカーは、病態又は疾患の発生の推定年齢、病態又は疾患の進行の経路及び/又は速度の予測等が挙げられるが、それらに限定されない病態又は疾患の推定される経路の予測に使用することができる。予後マーカーは、遺伝子型及び/又は被験体の年齢を含む他の変項を含み得る。
遺伝的危険因子に起因する「病態を発症するリスクが増大した」被験体は、病態に罹りやすい、病態に対する遺伝的感受性を有する、及び/又は遺伝的危険因子が存在しない被験体よりも病態を発症する可能性が高い被験体である。「リスクが増大した」被験体は、より低い年齢で疾患を発症しやすい被験体でもあり得る。
本明細書で使用される場合、「アルツハイマー病を発症するリスクがある」被験体は、年齢、rs10524523遺伝子型、APOE遺伝子型等のうちの1つ又は複数に基づき、アルツハイマー病を発症する可能性が高い個体を含む。
本明細書で使用される「多型」は、ゲノムのDNAにおいて特定の遺伝子座に2つ以上の異なるヌクレオチド配列が存在することを指す。多型は遺伝的マーカーとして働くことができ、遺伝的変異体と称することもできる。多型はヌクレオチドの置換、挿入、欠失及びマイクロサテライトを含み、遺伝子発現又はタンパク質機能において検出可能な相違をもたらすものとされるが、そうである必要はない。多型部位は、ヌクレオチド配列が集団における少なくとも1つの個体で参照配列と異なる、遺伝子座内のヌクレオチド位置である。
本明細書で使用される「欠失/挿入多型(deletion/insertion polymorphism)」すなわち「DIP」は、1つのバージョンの配列におけるもう1つのバージョンに対する1つ又は複数のヌクレオチドの挿入である。どちらの対立遺伝子がマイナー対立遺伝子であるかが既知である場合、「欠失」という用語は、マイナー対立遺伝子が1つ又は複数のヌクレオチドの欠失を有する場合に用いられ、「挿入」という用語は、マイナー対立遺伝子が更なる1つ又は複数のヌクレオチドを有する場合に用いられる。「欠失/挿入多型」という用語は、複数の形態又は長さが存在し、どれがマイナー対立遺伝子か明らかでない場合にも用いられる。例えば、本明細書で記載されるポリT多型に関して、複数の長さの多型が観察される。
本明細書で使用される「ハプロタイプ」は、個体において少なくとも1本の染色体で生じる遺伝的変異体又は変異体の組合せを指す。ハプロタイプは多くの場合、複数の隣接した多型遺伝子座を含む。本明細書で使用されるハプロタイプの全ての部分が、染色体又は半数体DNA分子の同じコピーで生じる。反対の証拠がなければ、ハプロタイプは減数分裂中に同時に伝達される可能性がある複数の遺伝子座の組合せを指すものと推定される。ヒトはそれぞれ、2人の親由来の相同染色体において遺伝によって受け継がれる配列からなる、任意の所与の遺伝子座に対して一対のハプロタイプを保有する。これらのハプロタイプは、所与の遺伝子座に対して同一の遺伝的変異体であっても又は2つの異なる遺伝的変異体であってもよい。ハプロタイピングは、個体において1つ又は複数のハプロタイプを決定するプロセスである。ハプロタイピングは、家系図、分子技法及び/又は統計的推論の使用を含み得る。
本明細書で使用される「変異体」又は「遺伝的変異体」は、集団に見られるハプロタイプの特異的なアイソフォームを指し、この特異的な形態は、遺伝子における対象となる領域内の少なくとも1つ、多くの場合2つ以上の変異体部位又はヌクレオチドが同じハプロタイプの他の形態のものとは異なる。遺伝子の異なる対立遺伝子間で異なるこれらの変異体部位での配列は、「遺伝子配列変異体」、「対立遺伝子」又は「変異体」と呼ばれる。「代替形態」という用語は、遺伝子配列内に少なくとも1つ、多くの場合2つ以上の変異体部位を有することで他の対立遺伝子と識別することができる対立遺伝子を指す。「変異体」は、単一ヌクレオチド多型(SNP)と欠失/挿入多型(DIP)とを有するアイソフォームを含む。変異体の存在について言及することは、遺伝子において任意の変異が存在することではなく、特定の変異体、すなわち特定の多型部位における特定のヌクレオチドを意味するものである。
本明細書で使用される「アイソフォーム」は、その特定の配列及び/又は構造で他の形態と識別される、遺伝子、mRNA、cDNA又はそれによってコードされるタンパク質の特定の形態を意味する。例えば、アポリポタンパク質EのApoE 4アイソフォームは、ApoE 2アイソフォーム又はApoE 3アイソフォームとは対照的なものである。
「遺伝子型」という用語は本発明に関しては、特定の部位(複数の場合もある)で核酸配列に存在する特定のヌクレオチド(複数の場合もある)によって規定することができる、遺伝子の特定の対立遺伝子形態を指す。遺伝子型は更に、1つ又は複数の多型遺伝子座に存在する一対の対立遺伝子を示し得る。ヒト等の二倍体生物に関しては、2つのハプロタイプが遺伝子型を構成する。ジェノタイピングは、例えば核酸増幅、DNAシークエンシング、抗体結合、又は他の化学分析(例えば長さを決定するためのもの)によって個体の遺伝子型を決定する任意のプロセスである。得られる遺伝子型が位相分け不能(unphased)であることもあり、これは見出された配列が一方の親の染色体又はもう一方の親の染色体に由来するものであるかが分からないことを意味する。
本明細書で使用される「治療する(Treat)」、「治療すること(treating)」又は「治療(treatment)」は、疾患に罹患したか又は疾患を発症するリスクがある患者に利益を与える任意のタイプの手段を指し、これには患者の病態(例えば1つ又は複数の症状)の改善、疾患の発生又は進行の遅延等が含まれる。治療は、任意の薬物、医薬品、方法、手順、生活様式の変化、又は被験体の特定の健康面の変化に影響を与えるために導入される(すなわち特定の疾患、障害、又は病態を対象とする)他の調整を含み得る。
本明細書で使用される「薬物」又は「薬物物質」は、(a)アルツハイマー病の発生又は進行を遅延させるために被験体に投与するのに適した、化学物質若しくは生体物質、又は化学物質及び/又は生体物質の組合せ等の活性成分を指す。本発明によれば、薬物又は薬物物質は、ピオグリタゾン又はその薬学的に許容可能な塩である。
本明細書で使用される「医薬品」という用語は、「薬(medicine)」、「薬剤(medicament)」、「治療的介入(therapeutic intervention)」又は「医薬品」という用語と同義である。医薬品は本発明の方法に従って使用するのに政府機関から承認を受けているのが最も好ましい。医薬品は、本発明に従えば低用量ピオグリタゾンを含有する。
「疾患」、「障害」及び「病態」は、当該技術分野で一般的に認識されるものであり、異常及び/又は望ましくないと一般的に認識された個体又は患者における兆候及び/又は症状の存在を指す。疾患又は病態は、病理変化に基づき診断するとともに、分類することができる。疾患又は病態は、Harrison's Principles of Internal Medicine, 1997、又はRobbins Pathologic Basis of Disease, 1998のような標準的なテキストに挙げられた疾患タイプから選択され得る。
本明細書で使用される「ミトコンドリア機能不全」は、細胞(単数又は複数)内のミトコンドリアの任意の有害な異常状態を意味する。AD及びADへと進行する段階がミトコンドリア機能不全と関連することが現在当該技術分野において知られている。このミトコンドリア機能不全は、ATP産生を損なうこと、カルシウムの恒常性を破壊すること、及び酸化ストレスを増大させることによって細胞損傷及び細胞死を引き起こす。さらに、ミトコンドリア損傷は、シトクロムc及び他のアポトーシス促進因子の細胞質への放出をもたらすことによって、アポトーシス細胞死を引き起こし得る(概要に関して、Wallace 1999 Science 283: 1482-1488、Schapira 2006 The Lancet 368: 70-82を参照されたい)。本明細書に見られる具体例に関するものであり、理論に束縛されることを望むものではないが、ApoE 3アイソフォーム及びApoE 4アイソフォームは、TOMM40との相互作用によりミトコンドリア機能不全をもたらすと仮定される。一部のTOMM40変異体は、ミトコンドリア低下を促進するためにApoE 3アイソフォームと相乗的に作用し得る。加えて幾つかの実施形態では、ApoE 2アイソフォームは、ミトコンドリア機能不全を防ぐものであると考えられる。
本明細書で使用される場合、「短鎖」TOMM40 rs10524523対立遺伝子は、19個未満のチミジン(T)残基を有し、「長鎖」TOMM40 rs10524523対立遺伝子は、19個以上のT残基を有する。幾つかの実施形態では、長鎖対立遺伝子は、一定期間内での(例えば5年〜7年の期間にわたる)遅発性アルツハイマー病の発生リスクがより高いことを示唆し得る。
TOMM40遺伝子におけるイントロンのポリT帯(tract)であるrs10524523(「523」)対立遺伝子は、長さ(すなわちT残基の数)に関して多様性が高く、サイズの変動は遅発性ADの発生年齢分布と関連する。各個体で行われる、523ポリTの2つのコピー(それぞれの染色体で1つ)のそれぞれでのT残基の数の測定は、523遺伝子型を含むものであり、サンガーシークエンシング又は電気泳動分析等の標準的な手順によって評価することができる。
各523ポリTの分類指定は、ホモポリマーの長さに従って割り当てられる:短鎖(S、ホモポリマーの長さが19個未満のT残基)、長鎖(L、長さが19個以上であるが、30個未満のT残基)、及び超長鎖(VL、長さが30個以上のT残基)。このため、分類指定を用いると、6つの異なる523遺伝子型の可能性がある:(S、S)、(VL、VL)、(S、L)、(VL、L)、(S、VL)、(L、L)。Rosesに対する米国特許出願公開第2011/0166185号も参照されたい。この出願は引用することにより本明細書の一部をなすものとする。
APOE遺伝子型は、ADの発生年齢に関して既に確立された危険因子である。APOEε4対立遺伝子は、523長鎖(L)対立遺伝子と強く連結し、したがって523 L、L遺伝子型を有する個体は通常(例えばコーカサス人の98%)、APOE ε4/ε4遺伝子型を保有する。しかしながら、523短鎖(S)及び523超長鎖(VL)対立遺伝子は、APOE ε2対立遺伝子又はAPOE ε3対立遺伝子のいずれかに連結することができる。APOE ε2対立遺伝子は、APOE ε3対立遺伝子を保有する人に比べてより遅いAD発生年齢(APOE ε2/ε3個体はAPOE ε3/ε3個体と比較すると5〜8年遅い)と関連する。したがって幾つかの実施形態では、APOEは、APOE ε2対立遺伝子を保有する全ての人を適切な年齢範囲で低リスク群に割り当てるための確定に含まれ得る。523遺伝子型は、APOE (ε/3/ε3)遺伝子型及びAPOE (ε3/ε4)遺伝子型においてAPOE ε3対立遺伝子を保有する個体に対して認知機能障害の発生年齢に関するより高い分解能を与える。
幾つかの実施形態では、長鎖TOMM40 rs10524523対立遺伝子の2つのコピーを有する被験体は、長鎖TOMM40 rs10524523対立遺伝子の1つのコピー、又は短鎖TOMM40 rs10524523対立遺伝子の2つのコピーを有する被験体と比較して、ADを発症するリスクが大きい。幾つかの実施形態では、長鎖TOMM40 rs10524523対立遺伝子の1つのコピーを有する被験体は、短鎖TOMM40 rs10524523対立遺伝子の2つのコピーを有する被験体と比較して、ADを発症するリスクが大きい。TOMM40遺伝子型に基づくADを発症するリスク又はその段階若しくは症状の発生の確定は、年齢等の他の危険因子に従って行うべきであり、更に幾つかの実施形態ではAPOE状況を含んでいてもよい。幾つかの実施形態では、超長鎖TOMM40 rs10524523対立遺伝子の2つのコピーを有する、62歳を超える認知力が正常な被験体は、長鎖rs10524523対立遺伝子の1つ又は2つのコピーを有する被験体に比べて、ADを発症するリスクが低減している。
TOMM40の遺伝的変異体の検出は、国際公開第2010/019550号又は米国特許出願公開第2011/0166185号に記載されるとおりに行うことができる。これらはそれぞれ引用することによりその全体が本明細書の一部をなすものとする。
本明細書で使用される場合、「アルツハイマー病を発症するリスクがある被験体」は、アルツハイマー病に罹りやすい、アルツハイマー病に対する遺伝的感受性を有する、及び/又は遺伝的危険因子が存在しない被験体よりも所定の年齢でアルツハイマー病を発症する可能性が高い被験体を意味する。
本明細書で使用される場合、「リスクの増大(increased risk)」は、(例えば脳萎縮、脳におけるシナプス活動の低減、脳におけるアミロイド蓄積の増大、脳におけるミトコンドリア機能の低減、脳におけるミトコンドリア増殖の低減、病的ニューロン、脳における神経原線維濃縮体の形成、CSFにおけるアミロイド、並びにCSFにおけるタウタンパク質及び/又はリン酸化タウタンパク質のうちのいずれか1つの分析によって)、或る時点、例えば本明細書に記載の幾つかの実施形態によれば治療の開始、又はアルツハイマー病に対する素因若しくはアルツハイマー病の症状の確定時点から短期間、例えば5年〜7年以内にADを発症する可能性が高いことを意味する。
「リスクの増大」は、個体が対照被験体よりも若い年齢でADを発症する可能性が高いこと、すなわち幾つかの実施形態によれば、長鎖rs10524523対立遺伝子の少なくとも1つのコピーを有する個体が長鎖rs10524523対立遺伝子のコピーを有しない個体よりも若い年齢でADを発症するリスクが大きいことも意味し得る。
被験体がADを発症するリスクが増大しているとみなされる年齢は、1つ又は複数の因子(例えばTOMM40 523遺伝子型)を年齢に対してグラフで示し、リスク変化が年齢の変化に最も大きく関係する時点を求めることによって、確定することができる(図2を参照されたい)。この時点は「おおよその(about)」特定の年齢とすることができ、おおよそは、年齢がその時点から0.5年、1年、2年、3年、4年又は5年変動し得ることを意味し、この変動は、例えば更なるデータ受信の際のグラフの更なる最適化又はより高度なデータ分解に起因するものであり得る。
本発明による有用な「投与」方法は、例えば経口経路、鼻腔内経路、直腸経路、吸入経路、局所経路での摂取、又は静脈内注射、皮下注射、筋肉内注射、腹腔内注射、頭蓋内注射及び脊髄注射等の注射による投与を含むが、それらに限定されない。更なる投与方法は、本明細書中の以下の「投与量及び投与(Dosage and Administration)」という表題の項で与えられる。
本明細書で使用される場合、「アルツハイマー病の患者又は被験体を診断すること(diagnosing)又は特定すること(identifying)」は、本明細書で規定されるように、個体がアルツハイマー病又はアルツハイマー病ヘと進行する段階に罹患しているか否かを確定するプロセスを指す。アルツハイマー病の診断は、例えば、国立神経疾患・伝達障害・脳卒中研究所−アルツハイマー疾患・関連疾病協会(National Institute of Neurological and Communicative Disorders and Stroke-Alzheimer's Disease and Related Disorders Association)の基準に基づくものであり得る。
「低用量ピオグリタゾン」は、0.5mg、0.75mg、1mg、1.25mg、1.5mg、1.75mg、2mg、2.25mg、2.5mg、2.75mg、3mg、3.25mg、3.5mg、3.75mg、4mg、4.25mg、4.5mg、4.75mg、5mg、5.25mg、5.5mg、5.75mg、6mg、6.25mg、6.5mg、6.75mg、7mg、7.25mg、7.5mg、7.75mg、8mg、8.25mg、8.5mg、8.75mg、9mg、9.25mg、9.5mg、9.75mg、10mg、10.25mg、10.5mg、10.75mg、11mg、11.25mg、11.5mg、11.75mg又は12mg等の0.5mg〜12mgの範囲の量のピオグリタゾン又はその薬学的に許容可能な塩を指す。代替的には、本発明の幾つかの実施形態では、低用量ピオグリタゾンは、被験体において約0.15μg・時間/mL〜約3.6μg・時間/mLの範囲(±25%)のピオグリタゾンAUCをもたらす低用量のピオグリタゾン又はその薬学的に許容可能な塩を意味する。例えば、低用量ピオグリタゾンAUCは、0.12μg・時間/mL、0.37μg・時間/mL又は1.12μg・時間/mL〜3.4μg・時間/mL又は4.5μg・時間/mLの範囲内であり得る。
本明細書で使用される場合、「対照被験体」は、アルツハイマー病の診断を受けていない、及び/又はアルツハイマー病と関連する任意の検出可能な症状を示さない被験体を意味する。「対照被験体」は、本明細書で規定されるように、アルツハイマー病を発症するリスクのない被験体も意味する。
本明細書で使用される場合、「アルツハイマー病を発症するリスクのない被験体」は、例えば、年齢及びAPOE状況等の可能性のある他の因子とともに、被験体が一般集団又はその層別部分よりもAD又はその段階若しくは症状を発症する可能性が高くないことを示す、TOMM40 rs10524523遺伝子型を有さない被験体を意味する。
本明細書で使用される場合、「薬学的に許容可能な塩」という用語は、正しい医学的判断の範囲内において、被験体、例えば哺乳動物、ヒト及び下等動物を含む動物の組織と接触させる場合に、過度の毒性、炎症(irritation)、アレルギー応答等もなくピオグリタゾンとともに使用するのに適しており、妥当なベネフィットリスク比に相応する、それらの塩を指す。薬学的に許容可能な塩は当該技術分野で既知である。例えば、S. M. Berge, et al.は、J. Pharmaceutical Sciences, 66: 1-19 (1977)において薬学的に許容可能な塩を詳細に説明している。塩は本発明の化合物の最終的な単離及び精製中にin situで、又は遊離塩基の官能基(function)を好適な有機酸と反応させることによって別々に準備することができる。薬学的に許容可能な塩の例としては、塩酸、臭化水素酸、リン酸、硫酸及び過塩素酸等の無機酸を用いて、又は酢酸、マレイン酸、酒石酸、クエン酸、コハク酸若しくはマロン酸等の有機酸を用いて、又はイオン交換等の当該技術分野で用いられる他の方法を使用することによって形成されるアミノ基の塩である非毒性の酸付加塩が挙げられるが、それらに限定されない。他の薬学的に許容可能な塩としては、アジピン酸塩、アルギン酸塩、アスコルビン酸塩、アスパラギン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、安息香酸塩、重硫酸塩、ホウ酸塩、酪酸塩、ショウノウ酸塩、カンファースルホン酸塩、クエン酸塩、シクロペンタンプロピオン酸塩、ジグルコン酸塩、ドデシル硫酸塩、エタンスルホン酸塩、ギ酸塩、フマル酸塩、グルコへプトン酸塩、グリセロリン酸塩、グルコン酸塩、ヘミ硫酸塩、ヘプタン酸塩、ヘキサン酸塩、ヨウ化水素酸塩、2−ヒドロキシ−エタンスルホン酸塩、ラクトビオン酸塩、乳酸塩、ラウリン酸塩、ラウリル硫酸塩、リンゴ酸塩、マレイン酸塩、マロン酸塩、メタンスルホン酸塩、2−ナフタレンスルホン酸塩、ニコチン酸塩、硝酸塩、オレイン酸塩、シュウ酸塩、パルミチン酸塩、パモ酸塩、ペクチン酸塩、過硫酸塩、3−フェニルプロピオン酸塩、リン酸塩、ピクリン酸塩、ピバル酸塩、プロピオン酸塩、ステアリン酸塩、コハク酸塩、硫酸塩、酒石酸塩、チオシアン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩、ウンデカン酸塩、吉草酸塩等が挙げられるが、それらに限定されない。代表的なアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩としては、ナトリウム、リチウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム等が挙げられる。更なる薬学的に許容可能な塩としては、適切な場合、非毒性アンモニウム、第四級アンモニウム、並びにハライド、ヒドロキシド、カルボキシレート、スルフェート、ホスフェート、ニトレート、1個〜6個の炭素原子を有するアルキル、スルホネート及びアリールスルホネート等の対イオンを用いて形成されるアミンカチオンが挙げられる。
II. アルツハイマー病
アルツハイマー病の症状
アルツハイマー病の一般症状としては、記憶喪失、やり慣れた作業を実行することが困難になること、言語上の問題、時間及び場所の失見当、判断力の不足又は低下、抽象的思考上の問題、物の置き間違い、気分又は行動の変化、人格の変化、並びに自発性喪失が挙げられるが、それらに限定されない。これらの症状は経時的に徐々に現れ、通常(ただし必ずというわけではない)エピソード記憶の問題から始まり、それから人の正常機能(すなわち日常生活活動)に悪影響を与える他の認知障害が続く。行動/人格の変化は通常、冒された人がより中度及び重度になるにつれて疾患過程のより後期で起こる。これらの特徴的な症状の幾つかの例を以下で説明する。
記憶喪失
これは、最近学習した情報を忘れることを含むものであり、認知症の最も一般的な初期兆候の1つである。認知症の人はより頻繁に忘れるようになり、より最近の情報を想起することができなくなる。これには、時折、名前又は約束を忘れることが含まれる。
やり慣れた作業を実行することが困難になること
認知症の人は、日常的な作業を計画する又は完了させることが難しくなることが多い。個人によっては、食事を準備すること、電話をかけること又はゲームをすることにかかわる工程を見失うことがある。これには、時折、部屋に入った理由又は言おうとしていたことを忘れることが含まれる。
言語上の問題
アルツハイマー病の人は、単純な単語を忘れる、又は独特な単語に置き換えることが多く、そのためアルツハイマー病の人の発話又は文書を理解するのが難しくなる。アルツハイマー病の人は、例えば歯ブラシを見つけること、それどころか「自分の口に入れるもの(the thing for my mouth)」を捜索することができなくなることがある。これには、時折、名前又は約束を忘れることが含まれる。
時間及び場所の失見当
アルツハイマー病の人は、近所で道に迷い、自分のいる場所及び目的地への行き方を忘れ、自宅への帰り方が分からなくなることがある。これには、曜日又は行った場所(where you were going)を忘れることが含まれる。一部の患者では、精神錯乱、場合によってはそれに付随する動揺及び行動上の問題が、昼遅く又は夕方早くに「日暮れ時兆候(sundowning)」と称される症状としてより顕在化する。
判断力の不足又は低下
アルツハイマー病の人は、不適切な服装をするか、温かい日に何枚も着込むか、又は寒い日にほとんど服を着ないことがある。アルツハイマー病の人は、電話を使った販売活動をする人(telemarketers)に大量のお金を渡すというように判断力不足を示すことがある。これには、時折、問題のある又は疑わしい決断を下すことが含まれる。
抽象的思考上の問題
アルツハイマー病の人によっては、数字が何のためのものであるか(what numbers are for)及びその使用方法(how they should be used)を忘れるといったように、複雑な精神的作業を実行することが異常に難しくなることがある。これには、小切手帳の帳尻を合わせるのが困難になることが含まれる。
物の置き間違い
アルツハイマー病の人は、物を普通ではない(unusual)場所に、すなわちアイロンを冷蔵庫の中に、腕時計を砂糖瓶に入れることがある。これには、一時的に鍵又は財布を置き間違えることが含まれる。
気分及び行動の変化
アルツハイマー病の人によっては、明らかな理由もなく平穏時から悲嘆、怒りへの急激な気分変動を示すことがある。これには、時折、悲しくなったり又は塞ぎこんだりすることが含まれる。
人格の変化
認知症の人の人格が劇的に変化することがある。認知症の人は、極度に混乱し、疑い深くなり、怯え、又は家族に依存するようになることがある。人の人格は年齢とともに幾らかは変化するものである。
自発性喪失
アルツハイマー病の人は、TVの前で何時間も座るか、普段より多く寝るか、又は日常活動をしたくなくなるというように、非常に消極的になることがある。これには、仕事又は社会的義務に辟易することが含まれる。
アルツハイマー病の診断及び病期分類
アルツハイマー病の臨床診断は、通常多様な工程(病歴、身体状況及び精神状況の検査、並びに実験室での試験を含む)及びツールを伴うプロセスである。後者に関しては、1984年以降、国立神経疾患・脳卒中研究所(National Institute of Neurological Disorders and Stroke)(NINDS)/アルツハイマー疾患・関連疾病協会(ADRDA)によって確立された診断基準が、DSM−IV基準とともに、臨床診察及び臨床研究に用いられる一次標準となっている。両方とも記憶機能不全及び認知機能障害の存在が必要とされるが、DSM基準は正常機能に悪影響を与えることが明記されている一方で、NINCDS/ADRDA基準は悪影響を与えない。両セットの基準の特徴は、患者が死亡するまで特徴的なAD特徴に関する脳病変を評価する方法論が最近まで存在しなかったことから、決定的なADの生前診断とはみなされないことである。そのため、NINCDS/ADRDA基準は、生前診断を、複数の異なる診断による除外を含む臨床的証拠の強さに応じて、「疑診的(possible)」又は「確診的」のいずれかであると考えた。
最近まで、被験体のアルツハイマー病への悪化は、複数の臨床段階を特徴とするものとしてきた。「段階」という用語は、被験体の能力が正常機能、例えば正常認知状態からアルツハイマー病へとどのように変化するかを説明するために本明細書で一般的に用いられる。段階は一般的指針であり、症状は段階内で及び/又は段階間で大きく変わり得ること、並びに全ての被験体が所定の段階において同じ症状を受ける、又はアルツハイマー病へと同じ速度で進行するわけではないことに留意されたい。例えば、7段階のフレームワークが、Barry Reisberg, M.D., clinical director of the New York University School of Medicine's Silberstein Aging and Dementia Research Centerによって開発され、これには第1段階:機能障害なし;第2段階:非常に軽度の低下;第3段階:軽度の低下;第4段階:中度の低下;第5段階:中重度の低下;第6段階:重度の低下;及び第7段階:非常に重度の低下が含まれる。臨床研究分野では、ADはミニメンタルステート検査等の心理測定機器によるスコアに基づき、幾らかおおまかに「軽度」、「中度」、又は「重度」と規定されることが多く、ここでは例えば軽度のADは18〜26、中度のADは11〜17、及び重度のADは10以下とみなすことができる(30点評価で、より高いスコアがより大きい認知機能を示す)。
2007年には、Dubois et alは、AD診断に関するNINCDS/ADRDA基準を、疾患過程の分野理解の発展による知識と、脳画像診断を含むADの生前バイオマーカーを評価する新たな方法の開発とを組み合わせるように改訂することを提案している(Dubois et al. 2007 Lancet Neurol 6: 734-746)。この提案では、対症的な特徴が存在していたとしても、生前診断は依然として「確診的」ADとみなされる一方で、「決定的」AD診断は、病理組織学的確認又は遺伝学的証拠(第1染色体、第14染色体、又は第21染色体上の突然変異)がある場合にのみ確保される。
2011年には、国立老化研究所/アルツハイマー病協会の研究会議(National Institute on Aging/Alzheimer's Association Research Roundtable)を代表するワークグループが、NINCDS/ADRDA基準に対して同様の改訂を提案し、MCI及びADに起因するMCIの診断を確立する基準を提案した(Albert et al. 2011 Alzheimers Dement 7: 270-279、非特許文献11)。このワークグループは、認知症及びADに起因する認知症の全ての原因に関する基準を更新した。このワークグループは、確診的AD認知症と疑診的AD認知症とAD病態生理学的過程の形跡がある確診的又は疑診的AD認知症との指定は保持した。初めの2つの指定は、全ての臨床状況における使用を意図するものであるが、最後の指定は、研究目的に適したものであることが決定された。ワークグループによって、アルツハイマー病の進行が連続したものであり、MCIと認知症との識別は日常活動に多大な支障をきたすか否かの臨床評価であることが確認された。
「前臨床AD」は、症状が、現在許容されている前臨床AD基準を満たすのに十分である段階を指す(Dubois et al.,(同上)を参照されたい)。一般的に言えば、前臨床ADは長期の前症候期であり、その間にADの病態生理学的過程が始まる。被験体がMCIの臨床基準を満たす何年も前から、非常に僅かな認知症状が存在し得る(Sperling et al. 2011 Alzheimers Dement 7: 280-292)。
「前駆AD」は、症状が、現在許容されている前駆AD基準を満たす段階を指す(Dubois et al.(同上)を参照されたい)。本発明によれば、前駆ADは、概してMCIを含むが、認知症は含まない症候性の前認知症段階であり、全てのアルツハイマー病診断基準を満たすほどに重度ではない症状を特徴とする。前駆AD段階は、本明細書で進行性MCI段階とも称される。
III. ピオグリタゾン
ピオグリタゾンは、以下の化学構造を有するチアゾリジンジオン剤である:
ピオグリタゾンHClは、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体γ(PPARγ)に対する強力なアゴニストである。PPAR受容体は、脂肪組織、骨格筋及び肝臓等の組織に見られる。
理論に束縛されることを望むものではないが、PPARγアゴニストであるピオグリタゾンは、前臨床段階で見られる代謝活性の低減のようなアルツハイマー病(AD)にかかわる病理学的機構の少なくとも一部を防ぐか、又は改善すると考えられる。
ADの臨床症状に対応する病態生理的変化は、最初の認知症状が現れる数年前又は更に数十年前から始まる場合があり、前臨床期にわたってゆっくりと進行する。幾つかの実施形態では、本明細書で教示される低用量ピオグリタゾンの投与が、これらの変化を防ぐか、又は改善することができ、アルツハイマー型の認知機能障害の発生を遅延させる。
幾つかの実施形態では、低用量ピオグリタゾンは、ヒト被検体に、例えばエピソード記憶課題中の該被験体の脳の左海馬領域における神経活動を増大させるのに効果的な量で与えられる/投与される。
幾つかの実施形態では、ピオグリタゾンは、認知機能障害(例えばアルツハイマー型の認知機能障害)を治療、例えば遅延又は予防するために、ニューロンのミトコンドリア機能を保護若しくは増大させるのに、又はミトコンドリア貯蔵を拡大するのに効果的な量で投与される。幾つかの実施形態では、治療は、重大な病理的損傷が起こる、及び/又は認知機能障害が検出されるか若しくは認知機能障害の診断を受ける前に開始する。
ミトコンドリア機能不全は、ADで観察される脳の代謝低下に多大な影響を及ぼすと考えられる。脳の代謝活性は、主としてミトコンドリア活性に起因して低減し、健康な老化とともに非病理的な脳萎縮が起こるが(Curiati et al. 2011 Am J Neuroradiol 32: 560-565)、前駆及び症候性の早発性(家族性)AD、軽度の認知機能障害(MCI)、及び遅発性アルツハイマー病では顕著に高い速度で代謝低下及び萎縮が起こる(Reiman et al. 1996 N Engl J Med 334: 752-758、Mosconi et al. 2004 Psychiatry Research: Neuroimaging 130: 141-151、Mosconi et al. 2005 J Neurol Neurosurg Psychiatry 76: 15-23、Mosconi et al. 2006 J Nucl Med 47: 1778-1786、Chetelat et al. 2008 Brain 131: 60-71、Mosconi et al. 2008 Annals of the New York Academy of Sciences 1147: 180-195、Mosconi et al. 2009 Neurology 72: 513-520、Mosconi et al. 2009 Eur J Nucl Med Mol Imaging 36: 811-822、Villain et al. 2010 Brain 133: 3301-3314)。ミトコンドリア酵素活性は、認知力が正常な被験体に比べて、AD患者の剖検海馬、並びに血小板及び線維芽細胞においても低減している(Mancuso et al. 2010 Adv Exp Med Biol 685: 34-44)。
ミトコンドリア機能の摂動が、場合によっては臨床症状の数十年前に起こるAD病因の極めて初期の事象であるという仮説が十分に裏付けられている(Castellani et al. 2002 Journal of Neuroscience Research 70: 357-360、Bubber et al. 2005 Annals of Neurology 57: 695-703、Beal 2007 Mitochondrial Biology: New Perspectives 287: 183-192; discussion 192-186、Liang et al. 2008 Physiological Genomics 33: 240-256、Liang et al. 2008 PNAS 105: 4441-4446、Jack et al. 2009 Brain 132: 1355-1365、Moreira et al. 2010 Biochimica et Biophysica Acta (BBA) - Molecular Basis of Disease 1802: 2-10、Swerdlow et al. 2010 J Alzheimers Dis 20 Suppl 2: S265-279、Cunnane et al. 2011 Nutrition 27: 3-20)。APOEε4の保有に起因してADを発症するリスクが増大した若齢個体の複数の脳領域においてミトコンドリア機能にかかわる遺伝子の発現の変化があり(Conejero-Goldberg et al. 2011 Molecular Psychiatry 16: 836-847)、代謝活性の相対的低減は、疾患の家族歴又は少なくとも1つのAPOEε4対立遺伝子の保有により遅発性ADを発症するリスクが増大していると確定された認知力が正常の人の脳において死後生化学的に及び生存中画像診断技法を用いて測定されている(Small et al. 1995 JAMA 273: 942-947、Reiman et al. 2005 PNAS 102: 8299-8302、Mosconi et al. 2008 Annals of the New York Academy of Sciences 1147: 180-195、Langbaum et al. 2010 Arch Neurol 67: 462-468、Mosconi et al. 2011 Journal of Alzheimer's Disease)。
ヒトの脳は、任意の他の器官よりも組織1g当たりより多くのエネルギーを消費し、その消費量は身体の総エネルギー消費量のおよそ5分の1を占める。グルコースは脳代謝のための主要燃料であり、細胞のエネルギー生産の大部分がミトコンドリアで起こる。ニューロンのミトコンドリアは、シナプスでの神経伝達物質の放出及び取込みを作動させるために、イオン勾配を維持するために、並びにミトコンドリア輸送及び軸索輸送を作動させるために、アデノシン三リン酸(ATP)を生成する。ミトコンドリアは更に、カルシウムの恒常性及びアポトーシスを調節するが、機能不全に陥ったミトコンドリアは、毒性の活性酸素種のレベルの増大をもたらす(Mattson et al. 2008 Neuron 60: 748-766)。一部の研究によって、ニューロンが、隣接する星状膠細胞においてグルコースの酸化によって生じるラクテートを利用することも示唆されている(Pancani et al. 2011 Cell Calcium 50: 548-558)。ラクテートは最終的に、ニューロンにおいてピルベートへと還元され、ATPを生産するためにミトコンドリアでの酸化的リン酸化経路に送られる。
幾つかの実施形態では、投与時の脳の代謝活性の変化を測定し、ピオグリタゾンに関する最適な投与量及び/又は投与形態を決定することができる。脳の代謝活性は、機能的磁気共鳴画像診断(fMRI)(最も一般的な実施方法は血中酸素濃度依存的(BOLD)fMRIである)、及び[18F]−フルオロデオキシグルコース−ポジトロン放出断層撮影診断(FDG−PET)を含む、当該技術分野で既知の特別な技法を用いて測定することができる(Jack et al. 2000 Neurology 55: 484-490、Whitwell et al. 2007 Brain 130: 1777-1786)。BOLD fMRIは、デオキシヘモグロビンとオキシヘモグロビンとの比率を測定するものである。局部の神経活動の僅かな増大によって、脳血管系が送達する酸素に対する局部的な要求が高まり、この領域からのfMRIシグナルの増大が生じる。このため、BOLDは神経活動の間接的であるが、感度の高い評価基準をもたらす。グルコース取込みの定量的評価基準であるグルコースの脳代謝率(CMRglu)は、FDG−PETを用いて計算することができる。
Cunnane et al.は、MCI及びADのFDG−PET研究に関する文献の実質部分(substantial body)を再検討することで、全体的なグルコースの脳代謝率(CMRg)が脳萎縮に関する補正後のAD患者においておよそ20%〜25%低減すると結論付けた(Cunnane et al.(同上))。ADにおける最も一致したFDG−PET所見は、ADに最も早くに冒される2つの領域、内嗅皮質及び海馬におけるCMRgluの低減であり、この低減は疾患が進行するにつれて、後帯状皮質、側頭頭頂野、楔前部及び前頭前皮質ヘと進行する(During et al. 2011 Neurological Sciences 32: 559-569、Filippi and Agosta 2011 Journal of Alzheimers Disease 24: 455-474)。さらに脳グルコース代謝の低減は、ADの診断前の認知低下の極めて初期の段階で、またMCIにおけるAD感受性脳領域において明らかな場合があり、認知力が低下するにつれて代謝低下の程度(magnitude and extent)が悪化する(Caselli et al. 2008 Arch Neurol 65: 1231-1236、Nishi et al. 2010 J Neuroimaging 20: 29-36、Chetelat et al. 2008(同上))。
長期にわたる研究によって、正常な認知力から健忘性MCIの臨床的診断へと進行した人に関して、認知力の低下とADに選択的に冒されることが分かっている脳領域での代謝の低減との間に相関関係が存在することが実証された。脳のAD感受性領域での代謝の低下は、この研究の間、安定した認知力を維持した類似群の人では明らかではなかった(Caselli et al. 2008(同上)、Chetelat et al. 2008(同上))。さらに、認知力は正常であるが、ADのリスクがある若齢の成人及び中高年の個体(例えばADの家族歴がある個体、APOEε4の保因者、又は前症候性の早発性(家族性)ADの個体)は、これらの危険因子のない個体に比べてAD病変に対して感受性の脳領域においてグルコース代謝が低減している(Small, et al. 1995(同上)、Reiman et al. 1996(同上)、Reiman et al. 2005(同上)、Mosconi et al. 2006(同上)、Langbaum et al. 2010(同上)、Small et al. 2000 PNAS 97: 6037-6042、Reiman et al. 2004 PNAS 101: 284-289)。このため、ADに冒された脳領域での代謝の低減は、疾患を発症するリスクがある人における最も初期の病態生理的変化及び/又は将来の疾患の指標の1つとすることができ、代謝の変化は疾患の進行とも相関があり得る。
当該技術分野で知られているように、fMRI、BOLDコントラストを用いて、作業、例えば認知的作業中のニューロンの活動を可視化し測定するとともに、脳の安静状態の活動を可視化することができ、これには覚醒安静状態では活動するが、作業中に活動を停止する脳領域のネットワークであるデフォルトモードネットワーク(DMN)が含まれる(Pihlajamaeki and Sperling 2008 Future Neurology 3: 409-421、Huettel and Larry 2009 Encyclopedia of Neuroscience 273-281)。ニューロンの活動が代謝、並びにグルコース及び酸素に対する局部的な要求を増大させ、これによって脳の活動領域への血流が刺激される。これは、BOLD fMRIによって可視化される血流動態応答(局部的な脳血流と酸素の脳代謝率と脳血液量との積)であるとともに、ニューロンの活動及びエネルギー消費の広く許容される指標である(Pihlajamaeki and Sperling 2008(同上)、Wise and Preston 2010 Drug Discovery Today 15: 973-980、非特許文献1)。
BOLD fMRIによって、作業誘発性の脳活動は、ADのリスクのある人において損なわれ、ADが進行するにつれて更に減退することが示されている(Filippi and Agosta 2011(同上))。ADの研究における対照の作業には、エピソード記憶及び作業記憶を含む、疾患過程の初期に損なわれるより高次の認知機能に関わるものもある。ADへの進行において、BOLD fMRIシグナルは、海馬を含む内側側頭葉(MTL)、及び記憶の符号化又は想起に必要とされる連結した神経回路網で最も早く変化する(Pihlajamaeki and Sperling 2008(同上))。さらに神経活動の低減は、ADを発症するリスクが増大した様々な年代の認知力が正常な個体のMTL、特に海馬領域において明らかである(Pihlajamaeki and Sperling 2008(同上)、Filippi and Agosta 2011(同上)、Wu et al. 2009 J Cell Physiol 220: 58-71、Jones et al. 2011 Neurology 77: 1524-1531)。後内側皮質領域でのBOLD fMRIシグナルの程度は、認知力が正常なより老齢の被験体での言語エピソード記憶能力と正に相関し、被験体が認知機能障害からAD認知症ヘと進行するにつれて低減する(Pihlajamaeki et al. 2010 Alzheimer Disease & Associated Disorders 24: 28-36)。前臨床AD認知症、前駆AD認知症及びAD認知症での作業誘発性の脳活動の変化に加えて、安静状態の脳のfMRI研究及びFDG−PET研究によって、脳の特定の領域間での機能的連結性が、MCI及びADが進行するにつれて徐々に変性することが示されている(Reiman et al. 1996(同上)、Filippi and Agosta 2011 (同上)、Jin et al. 2012 Magnetic Resonance Imaging 30: 48-61)。BOLD−fMRIは、ヒトの脳及び他の種、例えばラットの脳での機能的連結性を測定するのに特に有用な方法であることが分かっている。1995年と早い段階で、Biswal et al.は、機能的に関係する脳領域において、fMRIによって測定される血流及び酸素供給の低周波変動に時間的相関関係があることを認識していた(Biswal et al. 1995 Magn Reson Med 34: 537-541)。これらの時空的に協調された(spatio-temporally coordinated)変動は、脳が作業に従事していない場合、すなわち脳が安静状態である場合であっても起こり、自然状態のニューロン活動又はバックグラウンド脳過程を反映していると考えられる(Damoiseaux et al. 2011 Neurobiology of Aging、Yamasaki et al. 2012 Neurology Research International 2012)。ADでは、機能的連結性の変性は、DMN及び注意力に関わる系を含む、より高次の認知過程に要求される脳領域又は系の間で認められている(Yamasaki et al. 2012(同上))。特定の脳領域における、例えば後帯状皮質と側頭皮質又は海馬との間での、及び皮質下部領域と視床と多くの皮質領域との間でのDMNでの安静時の連結性の低減が、AD患者及びMCI患者で報告されている(Wang et al. 2011 European Journal of Radiology)。これに対して、AD及びMCIにおいて前頭領域における、またDMNの領域と脳の前頭部との間で、安静状態の機能的連結性の増大が存在する(Wang et al. 2006 NeuroImage 31: 496-504、Zhang et al. 2009 Behav Brain Res 197: 103-108)。
これまでは、誰が、認知機能障害及び最終的にアルツハイマー認知症へと至ることがある、上記の病態生理的変化を生じる可能性が高いかを予測することは実現不可能であった。TOMM40 rs10524523遺伝子型は、年齢及び場合によっては他の因子とともに、どの被験体がアルツハイマー型の認知機能障害を発症するリスクがあるかを確定する予後バイオマーカーとして有用であり、この進行性でかつ破壊的な疾患の初期において治療介入する機会を与える。
PPARγは、ADの病因にかかわる多くの経路に影響する、リガンドによって活性化される核転写因子である(Landreth et al. 2008 Neurotherapeutics 5: 481-489)。その生物学的作用には、炎症性遺伝子発現の変調とグルコース及び脂質代謝の調節とが含まれ、ADでは両方とも異常となる。PPARγには、ミトコンドリア発生の刺激を含む、ミトコンドリア機能及びATP生産に対する直接的な効果もある。AD研究の思想的リーダー(thought leaders)は、ミトコンドリア機能不全がADで見られる脳の代謝低下において重大な役割を果たすと考えている。
PPARγ受容体は、内因性リガンドによって、及びチアゾリジンジオン(TZD)群の薬物を含む多くの薬理作用物質によって活性化される。
ピオグリタゾンは、2型糖尿病の治療のために15gm錠、30gm錠及び45gm錠として販売されており(Actos(米国商標))、組織、特に肝臓、筋肉及び脂肪組織のインスリンの作用に対する感度を増大させることによって、2型糖尿病の特徴であるインスリン抵抗性を治療するものである(Olefsky 2000 The Journal of Clinical Investigation 106: 467-472)。T2DM及びインスリン抵抗性は、ADを発症する危険因子であり、APOEε4を保有する糖尿病患者は特にリスクが高い(Irie et al. 2008 Arch Neurol 65: 89-93、Roennemaa et al. 2008 Neurology 71: 1065-1071、Bruehl et al. 2009 Journal of Clinical and Experimental Neuropsychology 32: 487-493)。解剖したAD患者の脳は、インスリン抵抗性又は糖尿病表現型と一致して、対照脳よりもインスリン、インスリン受容体及びIRS−1 mRNAのレベルが著しく低く、ADを3型糖尿病とみなすものもいる(Steen et al. 2005 J Alzheimers Dis 7: 63-80)。インスリン受容体はヒト脳全体に見られ、海馬、小脳、及び皮質で特に高い濃度であり、PPARγ及びそのコアクチベーターであるレチノイドX受容体(RXR)も、海馬及び皮質を含む脳で発現される(Inestrosa et al. 2005 Experimental Cell Research 304: 91-104、Gofflot et al. 2007 Cell 131: 405-418、Morales-Garcia et al. 2011 GLIA 59: 293-307)。PPARγ受容体は、星状膠細胞及びニューロンで発現され、このタンパク質のレベルは、AD患者の死後脳溶解液中で約40%低減する。
ピオグリタゾンは、ニューロンのインスリン抵抗性を改善し(Liu et al. 2010 European Journal of Pharmacology 629: 153-158)、1nMと低い濃度でグルコース枯渇による細胞死を大幅に低減することがin vitro研究から明らかとなっている。これは、おそらくはピオグリタゾンがミトコンドリア含有量の増大及び/又はミトコンドリア構造の変調によって低血糖からの保護を与えるためである。更にこの薬物は、NRF1、TFAM1(ミトコンドリア発生に必要とされる転写因子)、及びUCP−2(ミトコンドリア再構築に必要とされる)の発現を増大する(Miglio et al. 2009 Neurochemistry International 55: 496-504)。ピオグリタゾンは多数の非ヒト種において血液脳関門を通過するが、比較的少ない割合の用量が脳内で回収される(Maeshiba et al. (1997) Arzneimittelforschung, 47: 29-35)。
ピオグリタゾンの有益な効果は、ADのトランスジェニックマウスモデル、並びに神経変性又は脳損傷のマウスモデル及びラットモデルにおいて報告されている。2型糖尿病の治療に使用されるよりもはるかに高いとみなされ得る薬物レベルで試験した場合、ピオグリタゾンはADのトランスジェニックマウスモデルでの脳アミロイドプラーク付着量(burden)を低減し、成体動物において脳グルコース利用及び脳血管機能を改善し、脳炎症を低減し、酸化ストレスを低減し、病変関連の記憶及び学習機能障害を改善し、神経発生を増大させる(Heneka et al. 2000 Journal of Neuroscience 20: 6862-6867、Yan et al. 2003 Journal of Neuroscience 23: 7504-7509、Heneka et al. 2005 Brain 128: 1442-1453、Pathan et al. 2006 Life Sci 79: 2209-2216、Nicolakakis et al. 2008 Journal of Neuroscience 28: 9287-9296、Kaur et al. 2009 Fundamental & Clinical Pharmacology 23: 557-566、Roberts et al. 2009 Experimental Neurology 216: 459-470、Glatz et al. 2010 Journal of Hypertension 28: 1488-1497、Nicolakakis and Hamel 2011 J Cereb Blood Flow Metab 31: 1354-1370、Morales-Garcia et al. 2011(同上)、Zhang, Xu et al. 2011(同上))。
販売されている15mg、30mg及び45mg投与量のピオグリタゾンは、2型糖尿病のために投与するのに適したものであり、この疾患の治療に対して安全でかつ有効である。糖尿病レベルの用量のピオグリタゾンは、アルツハイマー病の小規模臨床研究に用いられており、この薬物は、AD及び軽度の認知機能障害の糖尿病患者において認知及び高インスリン血症を改善するとともに、局部脳血流を改善した(Hanyu et al. 2009 Journal of the American Geriatrics Society 57: 177-179、Hanyu et al. 2010 J Am Geriatr Soc 58: 1000-1001、Sato et al. 2010 Neurobiology of Aging 32: 1626-1633)。加えて、異なるチアゾリジンジオン、すなわちロシグリタゾンを用いたアルツハイマー治療に関する最近の臨床試験において、2型糖尿病の投与量の薬物を使用した(Risner et al. 2006 Pharmacogenomics Journal 6: 246-254、Gold et al. 2010 Dementia and Geriatric Cognitive Disorders 30: 131-146)。
しかしながら、要求される薬力学的効果及び有効性を、対象の患者集団においてより低い用量で十分に達成することができる場合、薬物への曝露を制限するのが好ましい。このようにして、珍しい又は稀な有害事象の頻度を更に低減し、それにより安全性を改善することができる。
本明細書で教示されるように、また以下の実施例で提示されるBOLD研究結果により実証されるように、II型糖尿病の治療に用いられるものよりも大幅に低い投与量(すなわち低用量ピオグリタゾン)が脳代謝の変化をもたらし、このため認知低下(例えばアルツハイマー型の認知機能障害)の発生の遅延を含む、アルツハイマー病の治療に効果的であり得ることが見出されたのは驚くべきことであった。
V. 製剤及び投与方式
本発明は、低強度(LS)製剤、口腔内崩壊錠(ODT)製剤、液体製剤、懸濁液製剤、鼻腔製剤、経口即時放出製剤、放出調節製剤、制御放出製剤若しくは徐放製剤、経皮製剤、直腸製剤、局所製剤、又は注射用製剤を含むが、それらに限定されない、本発明の方法に有用な低用量ピオグリタゾンの医薬品製剤を数多く提供する。
(a)低強度(LS)製剤
本発明は、例えば米国特許出願第12/452,587号及び米国特許出願公開第2010/0166853号(引用することによりその全体が本明細書の一部をなすものとする)に記載されるような低用量ピオグリタゾンのLS製剤を提供する。本発明のコーティング医薬品は、20℃での水への溶解度が10mg/mL以上であり、かつ25℃でのpKa1(第1の酸解離定数Ka1の負の常用対数)が5以下である薬学的に許容可能な有機酸を含むコアと、ピオグリタゾン又はその塩を含むコーティング層とを含む。
本発明のコーティング医薬品は、コアとコーティング層とを有する単一医薬品、又はそれぞれがコアとコーティング層とを有する医薬品の集合体とすることができる。加えて、本発明のコーティング医薬品は、それぞれがコアとコーティング層とを有する医薬品の集合体を必要に応じて添加剤と混合し、その混合物をカプセルに充填することによってカプセルとすることができる。
さらに、本発明のコーティング医薬品は、それぞれがコアとコーティング層とを有する医薬品の集合体を添加剤と混合し、その混合物を圧縮成形することによって錠剤又はカプレットとすることができる。
本発明のコーティング医薬品のコアは、20℃での水への溶解度が10mg/mL以上であり、かつ25℃でのpKa1が5以下である薬学的に許容可能な有機酸のみからなり得る。代替的に、本発明のコーティング医薬品のコアは、20℃での水への溶解度が10mg/mL以上であり、かつ25℃でのpKa1が5以下である薬学的に許容可能な有機酸と、例えば下記で言及される添加剤等との組成物からなり得る。
本発明のコーティング医薬品のコアに含有される有機酸は、20℃での水への溶解度が10mg/mL以上であり、かつ25℃でのpKa1が5以下である薬学的に許容可能な有機酸である。20℃での水への溶解度は、好ましくは50mg/mL以上、より好ましくは100mg/mL以上である。20℃での水への溶解度は、2000mg/mL以下であるのが好ましい。25℃でのpKa1は、好ましくは5以下、より好ましくは4以下である。pKa1は1以上であるのが好ましい。20℃での水への溶解度が300mg/mL以上であり、かつ25℃でのpKa1が4以下である有機酸が好ましい。
有機酸の具体例としては、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸及びアスコルビン酸等のうちの1つ又は複数が挙げられる。有機酸は水和物及び酸性塩のいずれかであってもよい。加えて、有機酸は、結晶性有機酸を含有するコアの機械的強度及び化学安定性が本発明の医薬品の生産工程中に低下しないことから、また酸性度を考慮して結晶の形態であるのが好ましい。
本明細書では、クエン酸にはクエン酸一水和物及び無水クエン酸が含まれる。
有機酸としては、クエン酸、酒石酸及びリンゴ酸が好ましく、医薬添加剤としては、クエン酸(特に無水クエン酸)がより好ましい。
有機酸の平均粒径は、一般的には100μm〜1500μm、好ましくは300μm〜800μmである。平均粒径は、例えばレーザー回折粒子分布測定機器(例えばSYNPATEC HELOS−RODOS粒子分布測定機器)を用いて測定される。
コアの平均粒径は本発明のコーティング医薬品の種類に応じて異なるが、コアの平均粒径は一般的に100μm〜1500μm、好ましくは300μm〜800μmである。
本発明のコーティング医薬品のコアをピオグリタゾン又はその塩を含むコーティング層で覆うことができる。
本発明のコーティング医薬品のコアにおける有機酸の含有量は、有機酸の種類等に応じて異なるが、その含有量は、コーティング医薬品100重量部当たり一般的に20重量部〜95重量部、好ましくは40重量部〜80重量部である。
本発明のコーティング医薬品に用いられるピオグリタゾン又はその塩に関して、ピオグリタゾンの塩の例としては、無機酸との塩、有機酸との塩、酸性アミノ酸との塩等のような薬理学的に許容可能な塩が挙げられる。
無機酸との塩の好ましい例としては、塩酸、臭化水素酸、硝酸、硫酸、リン酸等との塩が挙げられる。
有機酸との塩の好ましい例としては、ギ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、フマル酸、シュウ酸、酒石酸、マレイン酸、クエン酸、コハク酸、リンゴ酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸等との塩が挙げられる。
酸性アミノ酸との塩の好ましい例としては、アスパラギン酸、グルタミン酸等との塩が挙げられる。
加えて、ピオグリタゾンは無水物又は水和物のいずれかであってもよく、ピオグリタゾンは同位体(例えば、3H、14C、35S、125I)等で更に標識されていてもよい。
ピオグリタゾン又はその薬学的に許容可能な塩は、ピオグリタゾン塩酸塩であるのが好ましい。
ピオグリタゾン又はその薬学的に許容可能な塩は、当該技術分野で一般的に知られている希釈剤等によって希釈されていてもよい。
本発明のコーティング医薬品では、出発材料として用いられるピオグリタゾン及びその塩のメジアン粒径は0.5μm〜50μmであるのが好ましい。
このようなメジアン径を採用することによって、優れた溶解性を有するピオグリタゾン又はその薬学的に許容可能な塩のコーティング医薬品を得ることができる。
上記の好ましいメジアン径は、出発材料として用いられるピオグリタゾン又はその薬学的に許容可能な塩に適用される。出発材料は、コーティング医薬品を生産するプロセス中に微粉化によって得られる微粉化生成物、又は賦形剤(例えば結晶性セルロース)とともに微粉化によって得られる混合微粉化生成物等を含み得る。ピオグリタゾン又はその薬学的に許容可能な塩のメジアン径は、本発明のコーティング医薬品の生産過程又は生産後のコーティング医薬品の保存過程中に、ピオグリタゾン又はその塩の凝集によって上記の範囲を超えて変化してもよい。微粉化は、乳鉢、ジェットミル、ハンマーミル、スクリーンミル(P−3、株式会社昭和化学機械工作所)等のような医薬品形成機を用いて行われる。
本明細書で使用される場合、メジアン径は、重量分布又は数分布に基づき粗粒子と微細粒子とに50%で分ける粒径を意味する。メジアン径は、例えばレーザー回折粒径分布測定機器(例えば、SYNPATEC HELOS−RODOS粒子分布測定機器)によって測定することができる。
上記の所望のメジアン径を有するピオグリタゾン又はその薬学的に許容可能な塩の分散性は、総量の10%以下で含まれる0.1μm以下の粒子と、総量の10%以下で含まれる1000μm以上の粒子とによって規定されるようなものであるのが好ましい。その下限は概して、総量の0.1%以上で含まれる0.1μm以下の粒子と、総量の0.1%以上で含まれる1000μm以上の粒子とによって規定されるようなものである。
本発明のコーティング医薬品におけるピオグリタゾン又はその薬学的に許容可能な塩の含有量は、コーティング医薬品の剤形、用量等に応じて異なるが、その含有量は、コーティング医薬品100重量部当たり一般的に0.01重量部〜30重量部、好ましくは0.5重量部〜25重量部、更に好ましくは0.5重量部〜20重量部である。
本発明のコーティング医薬品では、ピオグリタゾンと上述の薬学的に許容可能な有機酸との重量比は、好ましくは1:4〜1:100、より好ましくは1:4〜1:20、より好ましくは1:5〜1:10である。ピオグリタゾンの重量は、ピオグリタゾンの薬学的に許容可能な塩における当量のピオグリタゾンを意味する。
本発明のコーティング医薬品では、用いられるピオグリタゾン又はその塩を含むコーティング層の量は、コア100重量部当たり一般的に5重量部〜205重量部、好ましくは10重量部〜100重量部、より好ましくは20重量部〜90重量部である。
本発明のコーティング医薬品は、コーティング層にセルロース又はセルロース誘導体を含有するのが好ましい。これらの中でも、セルロース誘導体が好ましい。
セルロース誘導体は、セルロース分子の一部が他の原子又は官能基に置換されているセルロースである。セルロース誘導体の例としては、低置換ヒドロキシプロピルセルロース(L−HPC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート等が挙げられる。これらの中でも、低置換ヒドロキシプロピルセルロースが好ましい。ヒドロキシプロポキシル基含有量が5wt%〜16wt%である低置換ヒドロキシプロピルセルロース等(例えばLH−11、LH−21、LH−31、LH−22、LH−32、LH−20、LH−30、LH−33(商標、信越化学工業株式会社製)等)がより好ましい。
本発明のコーティング医薬品のコーティング層におけるセルロース又はセルロース誘導体の含有量は、コーティング層100重量部当たり概して0.5重量部〜70重量部、好ましくは約2重量部〜約50重量部、より好ましくは約2重量部〜約30重量部である。
セルロース又はセルロース誘導体(好ましくはセルロース誘導体)がコーティング層に含まれることから、本発明のコーティング医薬品は、骨格としてセルロース又はセルロース誘導体を含むとともに、水性溶媒中で維持されるコーティング層を構成する構築物を有し、その中でピオグリタゾン又はその薬学的に許容可能な塩が、構築物中の有機酸(溶液)に溶解し、水溶液が与えられる。結果として、本発明のコーティング医薬品は、従来の医薬品と比較して、投与後にピオグリタゾンの最大血中濃度及びAUCを顕著に増大させ、AUCにおける個体間の相対標準偏差(RSD)を顕著に低減させることができる。
加えて、本発明のコーティング医薬品が、骨格としてセルロース又はセルロース誘導体を含むとともに、水性溶媒中で維持されるコーティング層を構成する構築物を有し、その中でピオグリタゾン又はその薬学的に許容可能な塩が、構築物中の有機酸(溶液)に溶解し、水溶液が与えられることから、本発明のコーティング医薬品は、従来の医薬品と比較してバイオアベイラビリティを向上させることができる。具体的には、本発明のコーティング医薬品のバイオアベイラビリティは、医薬品をイヌに投与する場合には75%を超える。
本明細書では、バイオアベイラビリティは、例えば所与の量のピオグリタゾンの非静脈内投与時のAUCを、同量のピオグリタゾンの静脈内投与時のAUCで除算することによって決定することができる。例えば、経口投与する本発明の低用量ピオグリタゾン即時放出医薬品のバイオアベイラビリティを計算する場合、式は以下のようなものとすることができる:
バイオアベイラビリティ(%)=(経口投与のAUC/静脈内投与のAUC)×100
ピオグリタゾンが構築物中に溶解し、水溶液が与えられる場合、溶液の投与によって達成されるのと同様の効果を得ることができ、最大血中濃度、AUC及びバイオアベイラビリティの増大が期待される。
本明細書中において、本明細書での水性溶媒としては、水、KCl−HClバッファー(例えばpH2.0のKCl−HClバッファー)、マッキルヴェインバッファー(例えばpH2.2、pH2.5又はpH3.0のマッキルヴェインバッファー)等が挙げられる。骨格としてセルロース誘導体を含むとともに、水性溶媒中で維持されるコーティング層を構成する構築物は具体的には、例えば構築物が、好ましくはパドル法(50rpm)の条件下でKCl−HClバッファー(pH2.0、900mL)中に、より好ましくはパドル法(50rpm)の条件下でマッキルヴェインバッファー(pH2.2、900ml)中に、更に好ましくはパドル法(50rpm)の条件下でマッキルヴェインバッファー(pH2.5、900ml)中に、特に好ましくはパドル法(50rpm)の条件下でマッキルヴェインバッファー(pH3.0、900mL)中に10分以上存在することを意味する。
本明細書でのパドル法は、特に記載がなければ、第十四改正日本薬局方、一般試験法、溶出試験法 第2法に準拠する測定を意味する。
本発明のコーティング医薬品は、医薬品の配合技術分野で従来用いられている添加剤を含有していてもよい。添加剤の例としては、賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤、着色剤、pH調節剤、界面活性剤、安定剤、矯味薬、甘味料、香味料、流動促進剤、帯電防止剤、遮光剤、抗酸化剤、還元剤、キレート剤等が挙げられる。これらの添加剤は、医薬品の配合技術分野で従来用いられている量で使用される。加えて、これらの添加剤を適切な比率のそれらの2種類以上の混合物で使用してもよい。
賦形剤の例としては、糖;結晶性セルロース;トウモロコシデンプン、ジャガイモデンプン、小麦デンプン、米デンプン、部分アルファ化(partly pregelatinized)デンプン、アルファ化デンプン、多孔質デンプン、デキストリン、カルボキシメチルデンプン等のデンプン;無水リン酸カルシウム、沈降炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、粉末セルロース、ゼラチン、軽質無水ケイ酸、合成ケイ酸アルミニウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、酸化マグネシウム、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム、硫酸カルシウムが挙げられる。
糖の例としては、糖、デンプン糖、ラクトース、ハチミツ及び糖アルコールが挙げられる。2種類以上のこれらの糖を適切な比率の混合物で使用してもよい。
糖の例としては、スクロース、上白糖、グリコシルスクロース(カップリングシュガー(米国商標))、フラクトオリゴ糖及びパラチノースが挙げられる。
デンプン糖の例としては、グルコース、マルトース、粉末デンプンシロップ、デンプンシロップ、フルクトース及びトレハロースが挙げられる。
ラクトースの例としては、ラクトース、異性化ラクトース(ラクツロース)及び水素化ラクトース(ラクチトール)が挙げられる。
ハチミツの例としては、食用に一般的に用いられる様々な種類のハチミツが挙げられる。
糖アルコールの例としては、ソルビトール、マンニトール(特にD−マンニトール)、マルチトール、水素化グルコースシロップ、キシリトール、還元型パラチノース及びエリスリトールが挙げられる。
糖は、好ましくは糖アルコール、デンプン糖及びスクロース、より好ましくはマンニトール、トレハロース及びスクロースである。これらの中でも、マンニトール及びトレハロースが好ましい。本発明のコーティング医薬品での医薬品の色の変化(特に保存条件下での色の変化)を抑える点から、コーティング層はマンニトール又はトレハロースを含有するのが好ましい。
糖がコーティング医薬品に使用される場合、その含有量は、例えばコーティング医薬品100重量部当たり5重量部〜90重量部、好ましくは5重量部〜40重量部である。
特に、本発明のコーティング医薬品がマンニトール又はトレハロースを含有する場合、マンニトール又はトレハロースの含有量は、コーティング医薬品100重量部当たり好ましくは5重量部〜40重量部、より好ましくは5重量部〜30重量部である。
結晶性セルロースの例としては、微結晶性セルロースと呼ばれるものを含む、CEOLUS KG801、KG802、PH101、PH102、PH301、PH302、PH−F20、RC−A591NF(商標、旭化成ケミカルズ株式会社製)が挙げられる。
崩壊剤の例としては、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム(カルメロースカルシウム)、カルボキシメチルデンプンナトリウム、カルメロースナトリウム、クロスカルメロースナトリウム、クロスポビドン(好ましくはKollidon CL、CL−M、CL−F、CL−SF(商標、BASFジャパン株式会社);Polyplasdone XL、XL−10、INF−10(商標、ISPジャパン株式会社))、低置換ヒドロキシプロピルセルロース(好ましくはLH−11、LH−21、LH−31、LH−22、LH−32、LH−20、LH−30、LH−33(商標、信越化学工業株式会社製)等のヒドロキシプロポキシル基含有量が5wt%〜16wt%である低置換ヒドロキシプロピルセルロース等)、ヒドロキシプロピルデンプン、トウモロコシデンプン及び部分アルファ化デンプンが挙げられる。
崩壊剤が本発明のコーティング医薬品に使用される場合、崩壊剤の含有量は、例えばコーティング医薬品100重量部当たり0.5重量部〜50重量部、好ましくは1重量部〜25重量部である。
結合剤の例としては、ヒドロキシプロピルセルロース(好ましくはHPC−SSL、SL、L(商標、日本曹達株式会社))、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポビドン(ポリビニルピロリドン)、アラビアゴム粉末、スクロース、ゼラチン、プルラン、メチルセルロース、結晶性セルロース、低置換ヒドロキシプロピルセルロース(好ましくはLH−11、LH−21、LH−31、LH−22、LH−32、LH−20、LH−30、LH−33(商標、信越化学工業株式会社製)等のヒドロキシプロポキシル基含有量が5wt%〜16wt%である低置換ヒドロキシプロピルセルロース等)、マクロゴール、デキストラン、ポリビニルアルコール及びデンプン糊が挙げられる。これらの中でも、ヒドロキシプロピルセルロースが好ましい。
結合剤が本発明のコーティング医薬品に使用される場合、結合剤の含有量は、例えばコーティング医薬品100重量部当たり0.01重量部〜50重量部、好ましくは0.1重量部〜10重量部である。
滑沢剤の例としては、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、タルク、脂肪酸のスクロースエステル、フマル酸ステアリルナトリウム、ワックス、DL−ロイシン、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸マグネシウム、マクロゴール及び軽質無水ケイ酸(例えばAEROSIL)が挙げられる。これらの中でも、ステアリン酸マグネシウムが好ましい。
着色剤の例としては、食用黄色5号(サンセットイエロー、米国では食用黄色6号と同じものである)、食用赤色2号、食用青色2号等のような食品顔料、食品レーキ顔料、黄色酸化第二鉄(黄色酸化鉄)、三酸化二鉄(赤色酸化鉄)、リボフラビン、リボフラビン有機酸エステル(例えば酪酸リボフラビン)、リン酸リボフラビン、又はそのアルカリ金属塩若しくはそのアルカリ土類金属塩、フェノールフタレイン、酸化チタン、リコペン、β−カロテンが挙げられる。
pH調節剤の例としては、クエン酸塩、リン酸塩、炭酸塩、酒石酸塩、フマル酸塩、酢酸塩及びアミノ酸塩が挙げられる。
界面活性剤の例としては、ラウリル硫酸ナトリウム、ポリソルベート80、ポリオキシエチレン(160)ポリオキシプロピレン(30)グリコール、ポリオキシエチレン(196)ポリオキシプロピレン(67)グリコール、及びポリオキシエチレン水素化ヒマシ油60が挙げられる。
安定剤の例としては、アスコルビン酸ナトリウム、トコフェロール、エデト酸五ナトリウム、ニコチンアミド、シクロデキストリン;アルカリ土類金属塩(例えば炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、ケイ酸マグネシウム、アルミン酸マグネシウム)、及びブチルヒドロキシアニソールが挙げられる。
矯味薬の例としては、アスコルビン酸、(無水)クエン酸、酒石酸及びリンゴ酸が挙げられる。
甘味料の例としては、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、タウマチン、サッカリンナトリウム及びグリチルリチン酸二カリウムが挙げられる。これらの中でも、アスパルテームが好ましい。
香味料の例としては、メントール、ハッカ油、レモン油及びバニリンが挙げられる。
流動促進剤の例としては、軽質無水ケイ酸及び水和二酸化ケイ素が挙げられる。本明細書中において、軽質無水ケイ酸は、主成分として水和二酸化ケイ素(SiO2 nH2O)(nは整数である)を含有する任意のものであってもよく、その具体例としては、Sylysia 320(商標、富士シリシア化学株式会社)、AEROSIL 200(商標、日本アエロジル株式会社)等を使用することができる。
帯電防止剤の例としては、タルク及び軽質無水ケイ酸が挙げられる。
遮光剤の例としては酸化チタンが挙げられる。
抗酸化剤の例としては、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)、トコフェロール、トコフェロールエステル(例えば酢酸トコフェロール)、アスコルビン酸又はそのアルカリ金属塩若しくはそのアルカリ土類金属塩、リコペン、β−カロテンが挙げられる。
還元剤の例としては、シスチン及びシステインが挙げられる。
キレート剤の例としては、EDTA又はそのアルカリ金属塩若しくはそのアルカリ土類金属塩が挙げられる。
本発明のコーティング医薬品は、コアとピオグリタゾン又はその塩を含むコーティング層との間に形成される中間層を備え得る。このような中間層を用いて、コーティング層中のピオグリタゾン又はその塩に対するコア中の有機酸の悪影響(例えばピオグリタゾンの分解)を防ぐことができ、コーティング医薬品の持続性を延ばすことができる。
本発明のコーティング医薬品の剤形は、一般的に固体医薬品である。固体医薬品の例としては、錠剤、カプレット、カプセル、粉末、顆粒及びトローチが挙げられる。これらの中でも、顆粒、カプセル及び錠剤が好ましい。更にコーティング医薬品を含有するゲル等の半固体剤形、及び適切な投与量のピオグリタゾンの溶液を含む液体医薬品が本発明に従って使用可能である。
固体医薬品の形状は特に限定されず、円形、カプレット形、ドーナッツ形、楕円形等のいずれであってもよい。
固体医薬品は、コーティング剤でコーティングされていてもよく、識別のためのマーク及び文字、並びに更に分割のための分割線を備えていてもよい。
コーティング基剤の例としては、糖衣基剤、水性膜コーティング基剤、腸溶性膜コーティング基剤、持続放出性膜コーティング基剤等が挙げられる。
糖衣基剤としては、スクロースが使用され、タルク、沈降炭酸カルシウム、ゼラチン、アラビアゴム、プルラン、カルナウバワックス等から選択される1種類又は複数種類を組み合わせて使用してもよい。
水性膜コーティング基剤の例としては、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルヒドロキシエチルセルロース等のようなセルロースポリマー;ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、アミノアルキルメタクリレートコポリマーE(Eudragit E(米国商標))、ポリビニルピロリドン等のような合成ポリマー;プルラン等のようなポリ糖等が挙げられる。
腸溶性膜コーティング基剤の例としては、フタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、カルボキシメチルエチルセルロース、酢酸フタル酸セルロース等のようなセルロースポリマー;メタクリル酸コポリマーL(Eudragit L(米国商標))、メタクリル酸コポリマーLD(Eudragit L−30D55(米国商標))、メタクリル酸コポリマーS(Eudragit S(米国商標))等のようなアクリル酸ポリマー;セラック等のような自然発生物質等が挙げられる。
持続放出性膜コーティング基剤の例としては、エチルセルロース、酢酸セルロース等のようなセルロースポリマー;アミノアルキルメタクリレートコポリマーRS(Eudragit RS(米国商標))、エチルアクリレート−メチルメタクリレートコポリマー懸濁液(Eudragit NE(米国商標))等のようなアクリル酸ポリマー等が挙げられる。
2種類以上の上記のコーティング基剤を適切な比率の混合物で使用してもよい。加えて、更にコーティング添加剤をコーティング中に使用してもよい。
コーティング添加剤の例としては、酸化チタン、タルク、酸化第二鉄等のような遮光剤及び/又は着色剤;ポリエチレングリコール、クエン酸トリエチル、ヒマシ油、ポリソルベート等のような可塑剤等が挙げられる。
本発明のコーティング医薬品は、医薬品の配合技術分野における従来方法に従って上記の様々な添加剤を使用することによって生産することができる。
例えば、本発明のコーティング医薬品は、
(1)有機酸を必要に応じて添加剤と混合し、有機酸を含有するコアを得ることと、
(2)有機酸を含有するコアをピオグリタゾン又はその塩及び必要に応じて添加剤でコーティングすることによって、コアの表面上にピオグリタゾン又はその塩を含むコーティング層を形成することと、
(3)必要に応じて得られたコーティング生成物を乾燥するとともに、篩別することと、
によって生産することができる。
加えて、本発明のコーティング医薬品は、必要に応じて、乾燥及び篩別後のコーティング生成物を添加剤と混合し、圧縮成形するか又は混合物をカプセル内に充填することによっても生産することができる。
本明細書中において、混合(造粒、乾燥、製粉等を含む)は、例えばV形ミキサ、タンブラーミキサ、高速撹拌式グラニュレータ(FM−VG−10;POWREX CORPORATION)、オールラウンドニーダ(株式会社秦鉄工所)、流動床乾燥機/グラニュレータ(LAB−1、FD−3S、FD−3SN;POWREX CORPORATION)、箱型真空乾燥機(株式会社楠木機械製作所)、スクリーンミル(P−3;株式会社昭和化学機械工作所)、遠心分離式流動床グラニュレータ(CF−mini、CF−260、CF−360;Freund Corporation)、乾式グラニュレータ、噴霧乾式グラニュレータ、回転式流動床グラニュレータ(MP10;POWREX CORPORATION)等のような医薬品形成機を使用して行われる。
コーティングには、例えば遠心分離式流動床グラニュレータ(CF−mini、CF−260、CF−360;Freund Corporation)、ローリンググラニュレータ(MP10;POWREX CORPORATION)、汎用流動床コーティング機器、ウルスター型コーティング機器等のような医薬品生産機が使用され、遠心分離式流動床グラニュレータを使用するのが好ましい。
圧縮成形は、例えば単発式打錠機(株式会社菊水製作所)、回転式錠剤機(株式会社菊水製作所)、Auto−graph(株式会社島津製作所)等を用いて一般的に0.3kN/cm2〜35kN/cm2の圧力で押し抜くことによって行われる。
カプセル充填に使用することができるカプセルの例としては、ゼラチンカプセル、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)カプセル、プルランカプセル等(好ましくはヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)カプセル)、Licaps(米国登録商標)カプセル、Vcaps(米国登録商標)カプセル、Coni−Snap(米国登録商標)カプセル、Press−fit(米国登録商標)カプセル及びXpress−fit(米国登録商標)カプセルが挙げられる。
上記の有機酸を含有するコアは、以下の方法又はそれに類似の方法によってコーティングされる:
1)結合剤(好ましくはヒドロキシプロピルセルロース)の溶媒溶液(例えば水、アルコール(例えばメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール)、アセトン及びアセトニトリルから選択される1種類又は複数種類;好ましくは水又はイソプロパノール)(溶液は分散液であってもよい)を噴霧しながら、ピオグリタゾン又はその塩を、必要に応じて添加剤(好ましくは賦形剤(好ましくは結晶性セルロース(除外することができる)、糖(好ましくはマンニトール、トレハロース、スクロース))、崩壊剤(好ましくはL−HPC))とともに、有機酸を含有するコア上に噴霧することを含む方法;
2)ピオグリタゾン又はその塩と、必要に応じて添加剤(好ましくは賦形剤(好ましくは結晶性セルロース(除外することができる)、糖(好ましくはマンニトール、トレハロース、スクロース))、崩壊剤(好ましくはL−HPC))とを含有する結合剤(好ましくはヒドロキシプロピルセルロース)の溶媒溶液(例えば水、アルコール(例えばメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール)、アセトン、アセトニトリルから選択される1種類又は複数種類;好ましくは水又はイソプロパノール)(溶液は分散液であってもよい)を、有機酸を含有するコア上に噴霧することを含む方法;
3)ピオグリタゾン又はその塩を、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール)、アセトン、アセトニトリル;好ましくは水又はイソプロパノール)を噴霧しながら、必要に応じて添加剤(好ましくは賦形剤(好ましくは結晶性セルロース(除外することができる)、糖(好ましくはマンニトール、トレハロース、スクロース))、崩壊剤(好ましくはL−HPC)、及び結合剤(好ましくはヒドロキシプロピルセルロース))とともに、有機酸を含有するコア上に噴霧することを含む方法;又は、
4)結合剤(好ましくはヒドロキシプロピルセルロース)の溶媒溶液(例えば水、アルコール(例えばメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール)、アセトン及びアセトニトリルから選択される1種類又は複数種類;好ましくは水又はイソプロパノール)(溶液は分散液であってもよい)を噴霧しながら、ピオグリタゾン又はその塩を、セルロース又はセルロース誘導体(好ましくはセルロース誘導体(より好ましくはL−HPC))、及び必要に応じて添加剤(好ましくは賦形剤(好ましくは結晶性セルロース(除外することができる)、糖(好ましくはマンニトール、トレハロース、スクロース)))とともに、有機酸を含有するコア上に噴霧することを含む方法。
本発明のコーティング医薬品のコアは、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸及びアスコルビン酸(好ましくはクエン酸(特に無水クエン酸))から選択される有機酸のうちの少なくとも1種類からなるのが好ましい。
加えて、本発明のコーティング医薬品におけるピオグリタゾン又はその塩を含むコーティング層は、ピオグリタゾン又はその塩(好ましくは塩酸ピオグリタゾン)と、賦形剤(好ましくは結晶性セルロース(除外することができる)、糖(好ましくはマンニトール、トレハロース、スクロース;より好ましくはマンニトール))と、崩壊剤(好ましくはL−HPC)と、結合剤(好ましくはヒドロキシプロピルセルロース)とからなるか、又は該コーティング層は、ピオグリタゾン又はその塩(好ましくは塩酸ピオグリタゾン)と、賦形剤(好ましくは結晶性セルロース(除外することができる)、糖(好ましくはマンニトール、トレハロース、スクロース;より好ましくはマンニトール))と、セルロース又はセルロース誘導体(好ましくはセルロース誘導体、より好ましくはL−HPC)と、結合剤(好ましくはヒドロキシプロピルセルロース)とからなるコーティング層であるのが好ましい。
(b)口腔内崩壊錠(ODT)製剤
本発明は、活性成分がピオグリタゾン又はその薬学的に許容可能な塩である口腔内崩壊錠を提供する(例えば米国特許出願公開第2010−0278390号に対応する米国特許出願第12/810,779号(引用することによりその全体が本明細書の一部をなすものとする)に記載されるようなものである)。
本発明の生産方法を用いると、口腔内で迅速に崩壊する口腔内崩壊錠は、包装せずに高温及び/又は多湿条件下であっても硬度の僅かな低減及び錠剤の厚さの僅かな増大しか示さないことから、所望の適切な硬度を有するとともに、貯蔵安定性に優れており、また単純な工程によって容易に生産することができる。加えて、本発明の生産方法を用いると、キャッピング及び押し抜き機の内壁への付着等のような錠剤化中の問題を抑えることができる。
本明細書で使用される場合、口腔内崩壊錠すなわちODTは、口腔内で唾液によって迅速に崩壊する錠剤を意味する。
本発明の口腔内崩壊錠は、(a)マンニトール(特にD−マンニトール)、ラクトース(特にラクトース水和物)、キシリトール、スクロース、エリスリトール及びグルコースからなる群から選択される1つ又は複数の糖又は糖アルコール(本明細書では成分(a)とも称される)と、(b)低置換ヒドロキシプロピルセルロース(本明細書では成分(b)とも称される)とを含み得る。
成分(a)としては、マンニトール及びラクトースが好ましい。
成分(a)の含有量は、医薬品の重量の好ましくは50wt%〜95wt%、より好ましくは70wt%〜90wt%である。更に成分(a)は、下記のように水等に任意で溶解することができ、撹拌造粒のための結合溶液として使用することができる。上記の成分(a)の含有量には、結合溶液として用いられる量も含まれる。結合溶液として使用する場合、その量は、上記の成分(a)の含有量の好ましくは10wt%未満、より好ましくは約2wt%〜5wt%である。
成分(a)の糖及び糖アルコールの平均粒径は、好ましくは50μm以下、より好ましくは10μm〜20μmである。平均粒径が50μmを超える場合、崩壊時間は延びる傾向にある。
上記の成分(a)の糖及び糖アルコールの平均粒径は、撹拌造粒に供する前の出発材料の初期平均粒径を意味するとともに、粒径が上記の範囲内にあることを意味する。平均粒径は、続く医薬品の生産プロセス及び貯蔵中に変化し得る。
平均粒径が上記の範囲内にある成分(a)の糖及び糖アルコールは市販されている。代替的に、市販製品を、従来の粒径を調整する方法を用いて粉砕し、その後で使用してもよい。
一実施形態では、本明細書での平均粒径は、気流式分散機を用いて乾式方法に基づき測定される粒径分布において50%累積粒径を示す。
本発明では、低置換ヒドロキシプロピルセルロースは、グレード等については特に制限する必要はなく、市販製品を使用することができる。例えば、ヒドロキシプロポキシル基の含有量が約7.0wt%〜12.9wt%である低置換ヒドロキシプロピルセルロースを使用することができる。
低置換ヒドロキシプロピルセルロースの含有量は、医薬品の重量の好ましくは3wt%〜20wt%、より好ましくは5wt%〜15wt%である。
本発明の口腔内崩壊錠は、(c)粉末水素化マルトースデンプンシロップ、マルトース、マルチトール、ソルビトール及びトレハロースからなる群から選択される1つ又は複数の糖又は糖アルコール(本明細書では成分(c)とも称される)を含有するのが好ましい。成分(c)の存在が錠剤の硬度を更に増大させる。
成分(c)としては、粉末水素化マルトースデンプンシロップ及びマルトースが好ましい。
成分(c)の含有量は、医薬品の重量の好ましくは0.1wt%〜5wt%、より好ましくは0.1wt%〜1wt%である。
本発明の口腔内崩壊錠は、デンプン系崩壊剤(例えばトウモロコシデンプン、ナトリウムカルボキシメチルデンプン、米デンプン、小麦デンプン、アルファ化デンプン、部分アルファ化デンプン等)を実質的に含有しない。
本明細書中において、本明細書では「実質的に含まない(substantially free of)」は、医薬品の貯蔵安定性に悪影響を与える量はないことを意味する。具体的には、デンプン系崩壊剤の含有量は、医薬品の重量の好ましくは5wt%以下、より好ましくは3wt%以下、更により好ましくは1wt%以下である。
本発明の口腔内崩壊錠は、タウマチンを含有するのが好ましい。タウマチンの含有量は、医薬品の重量の好ましくは0.1wt%〜5wt%、より好ましくは0.1wt%〜1wt%である。タウマチンは、活性成分の苦味をマスキングするのに一般的に添加される甘味料である。本発明では、タウマチンの存在が生産中の成形性の向上及び硬度の増大という効果をもたらす。
上記の成分に加えて、本発明の口腔内崩壊錠は、固体医薬品に一般的に用いられる添加剤を含有することができる。添加剤は、例えば賦形剤、デンプン系崩壊剤以外の崩壊剤、結合剤、滑沢剤、流動化剤、矯味薬、甘味剤、コーティング剤、着色剤、香味料等である。これらの添加剤の含有量に特に制限はなく、製薬分野で従来用いられている量から適切に選択することができる。成分(a)及び成分(b)を除く添加剤の合計(成分(c)が含有される場合は、成分(a)〜成分(c)を除く添加剤の合計)は、医薬品の重量の好ましくは50wt%以下、より好ましくは25wt%以下である。
本発明の口腔内崩壊錠は、活性成分としてピオグリタゾンを含有する。活性成分の含有量は、臨床用途で用いられる量に基づき適切に決定することができ、その含有量は、医薬品の重量の好ましくは50wt%以下、より好ましくは25wt%以下である。
本発明の口腔内崩壊錠は、上記の成分(a)及び成分(b)(好ましくは上記の成分(a)、成分(b)及び成分(c))を含有する組成物を撹拌造粒法によって造粒する工程と、得られた造粒生成物を圧縮成形する工程とを含む生産によるものであることを特徴とする。造粒生成物が撹拌造粒によって球形になることから、続く圧縮成形工程での錠剤化の問題(特に押し抜き機の内壁への付着)が本発明において防がれると考えられる。
本発明の口腔内崩壊錠の生産方法を以下で詳細に説明する。
1. 造粒工程
上記の成分(a)及び成分(b)(好ましくは上記の成分(a)、成分(b)及び成分(c))と任意選択的な活性成分及び/又は任意選択的な添加剤とを混合する。添加剤は、例えば賦形剤(例えばタルク)、デンプン系崩壊剤以外の崩壊剤(例えばクロスポビドン)、甘味剤、着色剤、香味料等である。活性成分を初めに賦形剤(例えばタルク)と混合し、次いで苦味をマスキングする目的等でコーティング剤(例えば水性エチルセルロース分散液、トリアセチン)でコーティングすることができる。
上記の混合物を撹拌造粒法によって造粒する。撹拌造粒法は、一般的には高速撹拌造粒法とも称される。本明細書中において、(高速)撹拌造粒法は、大きな粒子を形成するために、造粒機の底部に設置された主翼を回転させることによって、結合剤溶液を混合粉末上に滴加又は噴霧させることと、所望の粒径の顆粒を得るために、側壁上のチョッパーによって粒子を粉砕させることとを含む方法である(2002年に出版された、佐川良寿著、医薬品医薬品技術(Pharmaceutical Product Preparation Technique)、株式会社CMC出版、108頁)。
撹拌造粒法による造粒は、いわゆる撹拌グラニュレータ(高速撹拌グラニュレータとも称される)(例えば高速ミキサ、LFS−GS−2J(深江パウテック株式会社製);VERTICAL GRANULATOR(POWREX CORPORATION製);ニュースピードニーダ(岡田精工株式会社製)等)を使用することによって行うことができる。主翼及びチョッパーの回転速度に特に制限はなく、撹拌造粒で一般的に用いられている範囲から適切に選択することができる。特に、結合溶液(例えば水、又は必要に応じて他の添加剤をブレンドすることができる)を撹拌グラニュレータ内の上記の混合物に添加し、混合物を造粒させる。タウマチンを本発明で添加する場合、特に制限はなく、タウマチンを結合溶液に添加することができる。
2. 圧縮成形工程
造粒工程で得られた造粒生成物に、任意選択的な活性成分及び/又は任意選択的な添加剤(例えば流動化剤(例えば軽質無水ケイ酸)、滑沢剤(例えばステアリン酸マグネシウム、フマル酸ステアリルナトリウム、ステアリン酸カルシウム)、香味料)を添加し、混合物をブレンドし、医薬品機等によって圧縮成形する。圧縮成形圧(医薬品化圧)は、錠剤生産に一般的に用いられる範囲から適切に選択することができる。圧力に特に制限はないが、200kg以上であるのが好ましい。
上記のように生産された本発明の口腔内崩壊錠は、錠剤化の後の面倒な加湿工程及び乾燥工程、並びに外部の滑沢システムの特別な設備がなくても容易に生産することができるにもかかわらず、所望の適切な硬度を有し、口腔内で迅速に崩壊し、優れた貯蔵安定性を示す。
本発明の口腔内崩壊錠の硬度は、錠剤の直径が6mm〜7mm、及び厚さが約3mmである場合に概して約3kg〜6kgである。本明細書中において、本明細書での錠剤の硬度は、シュロニガー錠剤硬度テスター(Dr. Schleuniger Pharmatron AG)によって測定される値である。
口腔内での本発明の口腔内崩壊錠の崩壊時間は、医薬品の形態、用量等に応じて異なるが、その崩壊時間は、概して60秒以内、好ましくは30秒以内である。
本発明の口腔内崩壊錠は、サイズ及び形態に関しては特に制限はなく、割線を備える分割錠であってもよい。
本発明の口腔内崩壊錠は水なしで摂取することができる。
VI. 使用
本発明の方法は、アルツハイマー病を発症するリスクがある患者においてアルツハイマー病又はアルツハイマー病の発症の指標となる若しくはアルツハイマー病の発症と関連する疾患期若しくは段階の発生を遅延させるのに用いられる。本発明は、アルツハイマー病を発症するリスクがある患者においてアルツハイマー病、その症状、又はアルツハイマー病の発症の指標となる若しくはアルツハイマー病の発症と関連する疾患期若しくは段階の発生を遅延させるために使用することができる医薬品も提供する。
他に規定のない限り、本明細書で用いられる全ての技術用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。本明細書に記載されるものと同様の又は均等の方法及び材料を、本発明の実施又は試験に使用することができるが、好適な方法及び材料を以下に記載する。本明細書で言及される全ての刊行物、特許出願、特許、及び他の参考文献は引用することによりその全体が本明細書の一部をなすものとする。矛盾が生じる場合には、定義を含めて本明細書に従うものとする。さらに、材料、方法、及び実施例は一例にすぎず、限定を意図するものではない。
これより本発明を包括的に説明するが、特に指定されていない限り、以下の実施例に関しては、一例として与えられるものであり、本発明を限定する意図はないことが、より容易に理解されるであろう。
以下の実施例は例示目的のみで与えられるものであり、本発明者らが自身の発明と考えるものの範囲を限定する意図はない。
実施例1
低用量ピオグリタゾン顆粒1
ピオグリタゾンHCl(228.1g)、マンニトール(ROQUETTE、335.8g)及びL−HPC(LH−32、信越化学工業株式会社、115.0g)を混合して、粉剤を得る。ヒドロキシプロピルセルロース(HPC−SSL、日本曹達株式会社、9.2g)を精製水(194.6g)に溶解して、結合液を得る。無水クエン酸結晶(Jungbunzlauer、1380g)を遠心分離式流動床グラニュレータ(CF−360、Freund Corporation)に入れ、結合液を噴霧しながら粉剤でコーティングする。得られた顆粒を40℃で18時間、減圧下で乾燥させ、16メッシュ及び42メッシュの篩を使用して、16メッシュ〜42メッシュ(口径0.355mm〜1.00mm)の範囲で顆粒を得る。顆粒(7193.6g)をタンブラーミキサ(60L容、株式会社昭和化学機械工作所)内においてタルク(松村産業株式会社、3.2g)及び軽質無水ケイ酸(AEROSIL、日本アエロジル株式会社、3.2g)と混合して、450mg当たり以下の組成を有する塩酸ピオグリタゾン顆粒を得る。
得られた組成物を適切な賦形剤で希釈して、本明細書で挙げられる投与量、例えば0.5mg、1.5mg、4.5mg及び9.0mgのいずれかを含む、所望の投与量を得ることができる。次いで所望の投与量を、カプセル、錠剤又はカプレット等の経口剤形へと配合することができる。
実施例2
低用量ピオグリタゾン顆粒2
ピオグリタゾンHCl(9.90g)、マンニトール(ROQUETTE、186.2g)及びL−HPC(LH−32、信越化学工業株式会社、39.96g)を混合して、粉剤を得る。ヒドロキシプロピルセルロース(HPC−SSL、日本曹達株式会社、12.00g)を精製水(340.2g)に溶解して、結合液を得る。無水クエン酸結晶(Jungbunzlauer、400.0g)を遠心分離式流動床グラニュレータ(CF−260、Freund Corporation)に入れ、結合液を噴霧しながら粉剤でコーティングする。得られた顆粒を40℃で18時間、減圧下で乾燥させ、16メッシュ及び42メッシュの篩を使用して、16メッシュ〜42メッシュ(口径0.355mm〜1.00mm)の範囲で以下の組成を有する塩酸ピオグリタゾン顆粒を得る。
実施例3
低用量ピオグリタゾンカプセル
実施例2で配合した低用量ピオグリタゾン顆粒2(39.96g)を、ガラス瓶内においてタルク(松村産業株式会社、0.02g)及び軽質無水ケイ酸(AEROSIL、日本アエロジル株式会社、0.02g)と混合して、80mg当たり以下の組成を有する塩酸ピオグリタゾン顆粒を得る。塩酸ピオグリタゾン顆粒(80mg)を4号ヒプロメロースカプセル(クオリカプス株式会社)に充填して、以下の組成を有するカプセルを得る。
実施例3
ピオグリタゾン液体製剤1
ピオグリタゾンの液体製剤は、以下のような材料を用いて調製する。
材料:
クエン酸(Sigma、C1857、ロット089K0057)
蒸留水(Ice Mountain)
HPMC、USP(Sigma、H−3785、ロット122K0149)
ピオグリタゾンHCl(武田薬品工業株式会社、ロット345)
ポリエチレングリコール200(Sigma、P3015、ロット098K0056)
ポリソルベート80、NF(Spectrum、P0138、ロットXV0879)
プロピレングリコール、USP/FCC(Fisher、P355、ロット080676)
スクロース、USP(Sigma、S3929、ロット086K0022)
Syrup NF(Spectrum、SY105、ロットXP0703)
およそ0.01496gのピオグリタゾンHClを50mL容のメスシリンダーに移す。0.69gのポリエチレングリコール200を添加し、混合して、固体を湿らせる。1.51gのプロピレングリコールを添加し、得られた混合物をかき混ぜて(swirled)、超音波処理して、固体を混合するとともに溶解させる。1.48gのポリソルベート80を添加し、かき混ぜて混合する。0.50373gのクエン酸を添加し、かき混ぜて混合する。一部のクエン酸固体が溶解せずに残留する。およそ10mLの蒸留水を添加し、かき混ぜて、固体を混合/溶解する。混合物を蒸留水で50mLに希釈し、約15mg/50mLすなわち0.3mg/mLのピオグリタゾン濃度を有する液体を配合するために、全ての固体が溶解するように十分に混合する。
本発明の方法を実施する上で、選択された低用量ピオグリタゾンを、本実施例4のピオグリタゾン液体を用いて被験体に投与することができる。例えば、5mL又は小さじ一杯分が約1.5mg用量のピオグリタゾンHClを送達するものであり、15mL又は大さじ一杯分が約4.5mg用量のピオグリタゾンHClを送達するものである。大さじ二杯分又は約30mLの本実施例4のピオグリタゾン液体は、1用量当たり約9mgのピオグリタゾンHClを送達するものである。
実施例5
ピオグリタゾン液体製剤2
ピオグリタゾンの液体製剤は、以下のような材料を用いて調製する。
材料:
クエン酸(Sigma、C1857、ロット089K0057)
蒸留水(Ice Mountain)
HPMC、USP(Sigma、H−3785、ロット122K0149)
ピオグリタゾンHCl(武田薬品工業株式会社、ロット345)
ポリエチレングリコール200(Sigma、P3015、ロット098K0056)
ポリソルベート80、NF(Spectrum、P0138、ロットXV0879)
プロピレングリコール、USP/FCC(Fisher、P355、ロット080676)
スクロース、USP(Sigma、S3929、ロット086K0022)
Syrup NF(Spectrum、SY105、ロットXP0703)
およそ0.01613gのピオグリタゾンHClを50mL容のメスフラスコに添加する。1.0043gのクエン酸を添加する。およそ25mLの蒸留水を添加し、得られた混合物をかき混ぜて、超音波処理して、固体を湿らせる。混合物を或る容量、すなわち約50mLまで蒸留水で希釈し、十分に混合して、次いで全ての固体が溶解するように、1〜2分間超音波処理する。
本実施例5の液体ピオグリタゾン溶液は、約16.13mg/50mLすなわち0.326mg/mLのピオグリタゾン濃度を有する。
本実施例5の液体ピオグリタゾン溶液を用いて本発明の方法を実施する上で、選択された低用量ピオグリタゾンを、被験体に投与することができる。例えば、5mL又は小さじ一杯分が約1.63mg用量のピオグリタゾンHClを送達するものであり、15mL又は大さじ一杯分が約4.89mg用量のピオグリタゾンHClを送達するものである。大さじ二杯分又は約30mLの本実施例5のピオグリタゾン液体は、1用量当たり約9.78mgのピオグリタゾンHClを送達するものである。
実施例6
ピオグリタゾン懸濁液製剤1
ピオグリタゾンの懸濁液製剤を以下のとおりに調製する。
ピオグリタゾンHCl懸濁液Aの調製:懸濁ビヒクルはSyrup NFである(Syrup NFの濃度は1.30g/mLである)。
0.025gのピオグリタゾンHCl薬物物質をガラス製の乳鉢及び乳棒に移す。ピオグリタゾンHClを約4滴の懸濁ビヒクルで湿らせ、約1分間混合/粉砕して、平滑で均一なペーストを形成する。懸濁ビヒクルを、乳鉢及び乳棒内の総重量が約1gになるまで添加する。得られた混合物を1分間混合/粉砕する。更に多くの懸濁ビヒクルを、総重量が約8gになるまで添加する。得られた混合物を1分間混合する。更に多くの懸濁ビヒクルを、総重量が約48gになるまで添加し、次いで1分間混合する。懸濁ビヒクルを、懸濁液の総重量が130.04gになるまで添加し、1分間混合する。乳鉢から混合物を4オンスの試薬瓶に注ぐ。試薬瓶に蓋をし、懸濁液を手で約1分間振盪させる。
ピオグリタゾンHClの理論濃度を決定する;
25.60mg/130.04g=0.1969mg/g(遊離塩基ではなくHCl塩として)
25.60mg/100mL=0.2560mg/mL(遊離塩基ではなくHCl塩として)
本実施例6の液体ピオグリタゾン懸濁液1を用いて本発明の方法を実施する上で、選択された低用量ピオグリタゾンを被験体に投与することができる。例えば、5mL又は小さじ一杯分が約1.28mg用量のピオグリタゾンHClを送達するものであり、15mL又は大さじ一杯分が約3.84mg用量のピオグリタゾンHClを送達するものである。大さじ二杯分又は約30mLの本実施例6の液体ピオグリタゾン懸濁液1は、1用量当たり約7.68mgのピオグリタゾンHClを送達するものである。
実施例7
ピオグリタゾン懸濁液製剤2
懸濁ビヒクルBの調製:0.6% HPMC+10%スクロース
0.6% HPMC溶液:
1000mLの蒸留水を2L容の三角フラスコに移す。水を常に撹拌しながら60℃に加熱する。6gのHPMCを秤量し、加熱した水に均一に分散させる。混合物の加熱をちょうど沸点に達するまで継続する。混合物を熱から外し、常に撹拌しながら氷浴内に入れる。混合物を清澄化するまで撹拌し、室温へと冷却する。
懸濁ビヒクル:(10%スクロースを含む0.6% HPMC):
80gのスクロースを1000mL容のガラス瓶に添加する。50mLの蒸留水を添加し、混合物を固体全てが溶解するように振盪することによって混合する。0.6% HPMC溶液を、総重量が800gになるまで添加する。混合物を振盪させ、固体を溶解する。
溶液の濃度は103.86g/100mLである。
ピオグリタゾンHCl懸濁液Bの調製:懸濁ビヒクルは0.6% HPMC+10%スクロースである。
0.025gのピオグリタゾンHCl薬物物質を、ガラス製の乳鉢及び乳棒に移す。ピオグリタゾンHClを約4滴の懸濁ビヒクルで湿らせ、約1分間混合/粉砕して、平滑で均一なペーストを形成する。懸濁ビヒクルを、乳鉢及び乳棒内の総重量が約1gになるまで添加する。混合物を1分間混合/粉砕する。更なる懸濁ビヒクルを、総重量が約8gになるまで添加し、次いで1分間混合する。更なる懸濁ビヒクルを、総重量が約20gになるまで添加し、次いで1分間混合する。
更なる懸濁ビヒクルを、総重量が約40g〜50gになるまで添加し、次いで1分間混合する。懸濁ビヒクルを、懸濁液の総重量が103.31gになるまで添加し、1分間混合する。乳鉢から混合物を4オンスの試薬瓶に注ぐ。試薬瓶に蓋をし、懸濁液を手で約1分間振盪させる。
ピオグリタゾンHClの理論濃度を決定する;
26.44mg/103.31g=0.25593mg/g(遊離塩基ではなくHCl塩として)
26.44mg/100mL=0.2644mg/mL(遊離塩基ではなくHCl塩として)
本実施例7の液体ピオグリタゾン懸濁液2を用いて本発明の方法を実施する上で、選択された低用量ピオグリタゾンを被験体に投与することができる。例えば、5mL又は小さじ一杯分が約1.322mg用量のピオグリタゾンHClを送達するものであり、15mL又は大さじ一杯分が約3.966mg用量のピオグリタゾンHClを送達するものである。大さじ二杯分又は約30mLの本実施例7の液体ピオグリタゾン懸濁液2は、1用量当たり約7.932mgのピオグリタゾンHClを送達するものである。
実施例8
これまでは、誰が、認知機能障害及び最終的にアルツハイマー認知症へと至る、本明細書に記載の種類の病態生理的変化を生じる可能性が高いかを予測することはできなかった。TOMM40 rs10524523遺伝子型は、年齢及び場合によっては他の因子とともに、どの被験体が今後5年〜7年でアルツハイマー型の認知機能障害を発症するリスクがあるかを決定する予後バイオマーカーを構成し、これによりこの進行性でかつ破壊的な疾患の初期において医学的介入の機会を与える。この介入の臨床的便益は、下記の一般形態の臨床研究において確認することができる。加えて、この性質のプロスペクティブ臨床研究によって、予後バイオマーカーの陽性適中率及び陰性適中率を決定するのに十分なデータが得られる。予後バイオマーカーの陽性適中率及び陰性適中率の把握は、バイオマーカーを臨床診察に導入する前に必要とされる。
経口研究
rs10524523(523)は、APOE遺伝子型との連鎖不均衡(LD)で生じるポリT長多型であり、LD領域におけるそれぞれの鎖上のAPOE遺伝子型とともに遺伝する。本質的には、TOMM40の単一イントロン変異体はポリT長が異なり、より長い形態の変異体は、より短い形態と比較して発生年齢のおよそ7年の差と関連する。正常な被験体の提示年齢ベースで、今後5年〜7年にわたる認知機能障害及びADの発生の「高リスク」又は「低リスク」を決定する。
本研究は、アルツハイマー病発生及び臨床的発現に関係する特定の遺伝子型の存在に基づく臨床リスク評価を組み合わせることによって、多様性の大きなコミュニティベースの集団において5年〜7年以内のAD発生のリスクが高い被験体を特定するための新規の遺伝学ベースのモデルを提供する。本研究は、
・認知機能障害及びアルツハイマー病の発生年齢を予測するために、具体的には、個別のアルツハイマー病診断検査が、被験体をアルツハイマー病に対する「高リスク」群と「低リスク」群とに分離することができるか否かを確定するために、おそらくはAPOE遺伝子型と連動するTOMM40−APOE LD領域におけるTOMM40 rs10524523(523)ポリT長多型を使用するとともに、
・アルツハイマー病関連の認知症症状の発生を遅延させるために、アルツハイマー病のTOMM40−APOE遺伝子型により確定されるリスクが高い前症候性の被験体において、60ヶ月(5年)間毎日、プラセボと対比して低用量PPARγアゴニストを使用する。
62歳〜87歳の認知力が正常な被験体を、今後5年〜7年以内のADに対する感受性に関して評価し、ADの発生に対するピオグリタゾンの効果に関して試験する。「認知力が正常」の定義付けは、被験体の年齢及び以下に挙げられる評価に対する知識レベルを考慮して、集団平均の1.5標準偏差(SD)内にあるものとして計算される。このカットオフ値を下回るスコアは、認知力が損なわれているとみなされる。以下の認知評価を用いて、本研究への登録時に、及び本研究にわたって認知機能を評価する。
認知評価尺度は、アルツハイマー病における初期障害に感受性があるものが選ばれる。これらの評価尺度は、2004年に実施されたNSAID療法を用いるアルツハイマー病に関する予防研究であるADAPT研究(1)に使用される。ミニメンタルステート検査(2MS−E)は、女性の健康イニシアチブ(Women's Health Initiative)研究においてADの予防のためのホルモン補充療法(2)に使用される。このため、認知評価には以下のものが含まれる:
改良型ミニメンタルステート検査(3MS−E)
簡易視空間記憶検査(改訂版)(BVMT−R)
ホプキンス言語学習検査(改訂版)(HVLT−R)
リバーミード行動記憶検査(RBMT)
生成発話流暢性検査(GVFT)
デジットスパン検査(DST)
本研究への登録は、これらの評価によるスコアのみに基づくものである。本研究への無作為化のために、さらに個体に、今後5年〜7年にわたって認知機能障害又はADを発症する「リスクが高い」又は「リスクが低い」としてそれらのリスク状況を評価するために、APOEジェノタイピングと523ポリTリピート長の測定とからなるDNA検査を行う。以下の設計は研究手順を説明するものである。
研究設計仮定
エンドポイントは、1)神経心理学的評価によるスコアに基づくベースラインからの認知の評価基準の変化、及び2)NINCDS−ADRDA基準(国立神経疾患・伝達障害・脳卒中研究所(NINCDS)及びアルツハイマー疾患・関連疾病協会(ADRDA))に準拠するアルツハイマー病の診断である。これらは、2つの主要なエンドポイント又は複合事象エンドポイントとしてのいずれかで測定する。
サンプルサイズの計算
サンプルサイズの計算は、上記のエンドポイントに基づく事象データに対する時間の対数順位検定で求められる。「高リスク」群の転換率は、先の予防研究によるデータに基づき5年の経過観察の終了時で20%であると推定される(3、4)。5%有意水準で90%検出力によってこの転換率の50%(すなわち20%から10%への)改善を検出するのには、374/群というサンプルサイズが必要とされる。5年の期間にわたるプラセボ群及び治療群の両群での20%の脱落率(drop out rate)がこの計算に組み込まれる。このサンプルサイズは、多重比較に合わせて調整することはない。
一般集団におけるアルツハイマー病の罹患率に基づき、「低リスク」群の転換率が10%であるという更なる推定が為される(4)。この群を「高リスク」プラセボ群と比較するのに必要とされるサンプルサイズも、90%検出力及び5%有意水準で374/群である。
研究設計
診断検査によって、どの患者がアルツハイマー病又は認知機能障害への転換の「リスクが高く」(高リスク)、どの患者が転換の「リスクが低い」(低リスク)かが確定される。調査者らは、診断検査の結果に対して盲検化されており、この盲検を維持するために中央無作為化を用いる。いずれの設計の主な目的は、
診断検査が、「高リスク」被験体と「低リスク」被験体とを判別することができるかを確定することと、
「高リスク」患者の転換率に対する治療の効果を評価することと、
である。
これらの研究に採用した被験体は全て、先に定義付けされたように認知力が正常なものである。
本設計では、「高リスク」群のみを無作為化し、プラセボ又は治療に割り振る。これは、例えば被験体1122人という総サンプルサイズを用いる単純な設計である。本設計によって、2つの仮説を検証することができる。1つ目の仮説は、プラセボ処理被験体によるデータを比較することによって「高リスク」群と「低リスク」群とを確定する診断能に関するものである。2つ目の仮説は、「高リスク」群(arm)の治療群によるデータとプラセボ群によるデータとを比較することによって、治療が転換率を改善させることができるか否かに関するものである。
本設計では、第4の群を加え、「低リスク」群における治療効果を評価することを可能にする。本設計は、総サンプルサイズを1496人の患者まで増大させ得る。
本設計によって、「低リスク」群が、予測されるよりも高い転換率を有するか否かという有用な情報を得ることができる。しかしながら、「低リスク」群に対するリスク/ベネフィットに関して本設計には潜在的な懸念事項がある。「低リスク」群の被験体は、それらの転換率に対して予測される便益がなく、治療による副作用を被るリスクがある。
本設計は、「低リスク」群を非治療のままにし、観察群とすること以外は、好ましい設計と同じものである。本設計は、本研究の目的を達成することはできるが、多くの潜在的なピットフォール(pitfalls)がある:
・非治療群を盲検化することができず、そのため診断検査の結果が盲検化されない;
・観察されているが、「治療」を受けていないと感じる被験体が便益のない場合に、「低リスク」群において脱落率が高くなる可能性がある;
・類似のもの同士を比較することができず、これは「プラセボ」効果がある場合に問題となり得る(時間事象検査に対しては不可能であるが、認知検査に関しては可能である)。
サンプルサイズの計算は、5年の終了時での転換率間の10パーセント点の相違の検出に基づくものである。数を増大させることによって、シグナルをより小さな相違でより早期に検出することが可能になる。「高リスク」群での転換率が5%/年であると推定される場合、3年後にはおよそ15%の被験体がアルツハイマー病ヘと転換するか、又は認知機能障害を示すとされる。治療がこの率を50%改善させることができると推定される場合、治療群での予測される転換率は7.5%となる。5%有意水準での90%検出力での相違を検出するために、1群当たり559人の被験体が必要とされ、好ましい設計に対して1677人という総サンプルサイズがもたらされる。被験体数のこの増大は、それぞれのTOMM40−APOEハプロタイプと関連する発生年齢曲線の群(family)の研究を可能にする。探索的分析を用いて、Cox比例ハザードの時間事象分析における共変量として年齢を含めることによって年齢の影響を研究し、これによって共変量の研究が可能になる。或る特定の割合の被験体が、スクリーニング時の神経心理学的評価に基づき、軽度の認知機能障害(MCI)であるとして確定される。本研究は、神経心理学的評価に基づき、認知力が正常であると確定された被験体のみを採用する。
参考文献
1) ADAPT Research Group: Cognitive Function Over Time in the Alzheimer's Disease Anti-inflammatory Prevention Trial (ADAPT) Results of a Randomized, Controlled Trial of Naproxen and Celecoxib: Archives of Neurology, Vol 65 (No 7), July 2008
2) Stephen R. Rapp; Mark A. Espeland; Sally A. Shumaker et al: Effect of Estrogen Plus Progestin on Global Cognitive Function in Postmenopausal Women, The Women's Health Initiative Memory Study: 2003;289(20):2663-2672 JAMA
3) Curtis L. Meinert, John C. S. Breitner: Chronic disease long-term drug prevention trials: Lessons from the Alzheimer's Disease Anti-inflammatory Prevention Trial (ADAPT): Alzheimer's & Dementia 4 (2008) S7-S14
4) Stephen Salloway, Stephan Correia: Alzheimer disease: Time to improve its diagnosis and treatment: Cleveland Clinic Journal Of Medicine Volume 76, Number 1 January 2009
5) ADAPT Research Group: Cognitive Function Over Time in the Alzheimer's Disease Anti-inflammatory Prevention Trial (ADAPT) Results of a Randomized, Controlled Trial of Naproxen and Celecoxib: Archives of Neurology, Vol 65 (No 7), July 2008
6) Stephen R. Rapp; Mark A. Espeland; Sally A. Shumaker et al: Effect of Estrogen Plus Progestin on Global Cognitive Function in Postmenopausal Women, The Women's Health Initiative Memory Study: 2003;289(20):2663-2672 JAMA
7) Curtis L. Meinert, John C. S. Breitner: Chronic disease long-term drug prevention trials: Lessons from the Alzheimer's Disease Anti-inflammatory Prevention Trial (ADAPT): Alzheimer's & Dementia 4 (2008) S7-S14
8) Stephen Salloway, Stephan Correia: Alzheimer disease: Time to improve its diagnosis and treatment: Cleveland Clinic Journal Of Medicine Volume 76, Number 1 January 2009
実施例9
BOLD研究
本発明は、以下の例示的な用量設定分析を提供する。
本発明は、異なる低用量のピオグリタゾンに応じた薬力学的変化の測定を提供する。関連する薬力学的評価基準は、血中酸素濃度依存性機能的磁気共鳴画像診断(BOLD fMRI)によって測定される、ニューロン活動と結び付いた局部的な血中酸素供給の変化である。
神経保護及びミトコンドリア発生は、チアゾリジンジオンの生理学的効果の1つである。一実施形態では、被験体のピオグリタゾンによる治療が、脳の活動領域の代謝能を増大させることができる。代謝能のこの変化は、BOLD fMRIを用いて観察可能であり得る。
BOLD fMRIは、非侵襲性の全脳画像診断に広く用いられる技術である。この技法は、ニューロン活動と結び付いた局部的な血中酸素供給の変化を測定するものである。
BOLD fMRIは、ニューロン活動の結果として生じる、脳でのオキシヘモグロビンとデオキシヘモグロビンとの比率の相対変化を測定するものである。ニューロンが活動を始めると、それに伴い細胞代謝が増大し、これらの代謝要求を満たすように、ニューロン活動が増大した領域への血流が増大する。この血液動態反応の結果が、オキシヘモグロビンとデオキシヘモグロビンとの局部比率の測定可能な変化である。オキシヘモグロビンは反磁性であり、デオキシヘモグロビンは常磁性であり、この磁性の相違がBOLD fMRIによって検出される。
BOLDシグナルは、ニューロン活動後の脳血流(CBF)、脳血液量(CBV)及び酸素消費量の脳代謝率(CMRO2)の複雑でかつ理解が不完全な変化を反映している。様々な種類のBOLDシグナルを誘起する候補回路要素としては、興奮性ニューロン、混合ニューロン集団、星状膠細胞、及び軸索路又は通過軸索線維が挙げられる(Lee et al., 2010 Nature 465: 788-792、Logothetis 2008 Nature 453: 869-878、Logothetis et al. 2001 Nature 412: 150-157l、Raichle 2010 Cell 14: 180-190に詳細に記載され、それらのそれぞれが引用することによりその全体が本明細書の一部をなすものとする)。
本研究は、対象となる年齢、例えば62歳〜87歳の健常な認知力が正常な高齢の被験体を用いる。BOLD fMRIスキャニングを、高解像度の構造的でかつ機能的な脳画像診断に最適化されたスキャナ(例えば最新式のGE 3 Teslaスキャナ)を用いて行う。
一実施形態では、本研究は複数のコホートを用いる二重盲検研究であり、それぞれのコホートは異なるピオグリタゾン用量の投与を受ける。別の実施形態では、本研究は、同じコホートが複数の異なる薬物用量の投与を受ける連続設計である。ピオグリタゾンへの曝露の結果としてニューロン活動の変化を示すのに用いられる薬力学的マーカーは、BOLDシグナルの変化、特にアルツハイマー病において損なわれるより高次の認知機能と関連する背外側前頭前皮質及び海馬でのBOLDシグナルの変化である。
それぞれの参加者は、少なくとも3つの時点においてMRIスキャニングを受ける:
1. 投与前(それぞれの被験体に関するベースライン又は対照値を得るため);
2. 薬物の急性曝露の結果を測定するため、1回目の投与を受けた直後(2時間又はCmaxの概算時のいずれか);及び、
3. 薬物曝露の7日後(ピオグリタゾン血清濃度がそれぞれ定常状態にあり、ミトコンドリア機能に対する薬物の生理学的効果が生じている時点)。
ピオグリタゾンは7日間、毎日与える。
45mgのピオグリタゾン(2型糖尿病の治療用の市販の製剤)が、血清中でおよそ3mMのCmaxをもたらす(Ghosh et al. 2007 Mol. Pharmacol 71: 1695-1702を参照されたい)。
検査用量としては以下が挙げられる:
a)0.5mg用量−血清中でおよそ33.3nM及び脳内でおよそ6.7nM;
b)1.5mg用量−血清中でおよそ100nM及び脳内でおよそ20nM;
c)4.5mg用量−血清中でおよそ300nM及び脳内でおよそ50nM;
d)9mg用量−血清中でおよそ600nM及び脳内でおよそ120nM。
磁気共鳴画像診断プロトコルの概要
一般的な参加者スクリーニング手順
参加者に対して、選抜前にスキャニングを不可能にする鉄金属インプラントのスクリーニングを行う。参加者に対して、スキャンセッションの2時間前にはカフェイン、タバコ製品及び運動を控え、スキャンの20時間前には飲酒及び不必要な薬の服用を控えるように指示する。覚醒剤(stimulant medications)を服用している参加者には、医師の許可の元、少なくとも24時間はそれらを服用しないよう求める。2つの呼気サンプルは、アルコールレベルを測定するために入手する。尿サンプルは、5つの薬物代謝産物(精神刺激薬、大麻、アヘン剤及び鎮静剤)に関して検査するために入手する。女性の参加者は尿妊娠検査を行い、参加者がスキャニングを受けるには陰性でなければならない。
一般的なスキャニングプロトコル
被験体には、MRIセッションに参加する被験体の快適度を評価するためにMRIシミュレータに入る機会が与えられる。次いで参加者は、心拍数(フォトプレチスモグラフ)及び血圧をモニタリングする機器を装着し、スキャナに入れられる。頭の動きを、枕とテープとの組合せを用いて最小限に抑える。ローカライザスキャン取得後のプロトコルを以下の固定順序で提示する。総スキャン時間はおよそ60分間である。
構造的MRI. 全体の及び局部的な灰白質及び白質、並びにCSFの評価基準は、高解像度MRIを用いて回収する。
技術的詳細:等尺ボクセル(isometric voxels)が1mmのT1強調画像を、ファストスポイルドグラジエントリコール(fast spoiled gradient-recall)(FSPGR)によるアレイ空間感度符号化技法(Array Spatial Sensitivity Encoding Techniques)(ASSET)を用いて取得する。画像パラメータは、白質と灰白質とCSFとの間のコントラストに合わせて最適化する(TR/TE/フリップ角=7.484ms/2.984ms/12度、256mm FOV、1mmスライス、166のスライス、256×256マトリックス、1Nex)。
潅流MRI. 全体の及び局部的な安静時脳血流の評価基準は、パルス式動脈スピン標識化(Pulsed Arterial Spin Labeling:PASL)を用いて回収する。
技術的詳細:標識化を用いた及び標識化を用いないインターリーブ画像を、勾配エコープラナー画像診断(EPI)シークエンスを用いて取得する。取得パラメータは以下のものからなる:視野(FOV)=22cm、マトリックス=64×64、繰り返し時間(TR)=3秒、エコー時間(TE)=17ミリ秒、標識時間=1.6秒、遅延時間=.8秒、フリップ角=90度。安静時潅流スキャニングプロトコルにはおよそ6分間を要し、その間被験体に対して、横臥し、心を空っぽにし、眼を開けて、起きているように指示する。14のスライス(2mm間隔で8mm厚)に対応するデータを、下から上へと順々に連続して取得する。
機能的MRI(fMRI). アーカイバル作業/エピソード記憶刺激パラダイムを行い、血中酸素濃度依存性(BOLD)fMRIを用いて、神経活動のパターン、特にアルツハイマー病において損なわれるより高次の認知機能と関連する、背外側前頭前皮質及び海馬での神経活動のパターンを測定する。
技術的詳細:一連の34のインターリーブ軸機能的スライスは、磁化率アーチファクトを低減するのに逆らせんパルス(inverse-spiral pulse)シークエンスを用いて、全脳範囲(coverage)(TR/TE/フリップ=2000/31/60;FOV=240mm;3.75×3.75×3.8mmボクセル;スライス間スキップ=0)で取得する。高解像度三次元スピンエコーコプラナー構造の画像は、正規化及び被験体の平均化のために、68のアキシャルスライスで取得する(TR/TE/フリップ=12.2/5.3/20、ボクセルサイズ=1×1×1.9mm、FOV=240mm、スライス間スキップ=0)。
fMRI刺激パラダイム作業記憶;詳細に関しては、Mattay et al., PNAS 2003を参照されたい。エピソード記憶:詳細に関しては、Bookheimer et al. New England Journal of Medicine 2000を参照されたい。
実施例10
ラットBOLD研究
低用量ピオグリタゾンが血液脳関門を通過し、脳生理学的な変化を誘導する。
低用量のピオグリタゾンHClが、脳において機能的な又は分子的な変化を誘発するのに十分な濃度で血液脳関門を通過するか否かを決定した。BOLD fMRIを用いて、全脳にわたる安静状態の機能的連結性の薬物関連の変化を測定した。
成体の雄ウィスターラット(275±25g)を別々に収容し、12時間の明期、12時間の暗期のスケジュールで維持した。食餌及び水は自由に与えた。動物は、実験動物の管理及び使用の指針(Guide for the Care and Use of Laboratory Animals)(National Institutes of Health Publications No. 85-23, Revised 1985)に公開されたガイドラインに準拠して管理した。動物の体重を、−3日目のおよそ24時間前、並びに研究の3日目及び6日目に測定した。
ピオグリタゾンHCl(PIO)を0.5mol/Lのクエン酸(CA)に溶解し、0.32mg/10mL/kgの濃度でストック溶液を得た。他の投与量は、0.5mol/LのCAでストック溶液を適切に希釈し、10mL/kgの用量体積を得ることにより調製した。対照ラットは、10mL/kgのビヒクルの投与を受けた。用量濃度は、供給された状態で(すなわちHCl塩として)被験体(test article)の体重ベースであり、用量は動物の直近の体重に合わせて調整した。PIOの溶液による1日の投与は、毎日ほぼ同じ時間の経口強制飼養によるものとした。投与を容易にするために、動物を直前にイソフルランで軽度麻酔にかけた。
画像診断研究に用いられる全ての動物を、先に記載されるように、少なくとも7日間、15〜90分間、MRI保持装置に入れることによって、MRI保持装置に馴化させた(Zhang et al. 2010 J Neurosci Methods 189: 186-196、Liang et al. 2011 J Neurosci 31: 3776-3783)。
馴化期間の後、動物を平均体重に合わせて適合させた7つの治療群のうちの1群に割り当てた(表1を参照されたい)。投与は1日1回、毎日ほぼ同じ時間に行った。全ての動物を、ベースライン(研究−3日目)でビヒクル投与のおよそ2.5〜3時間後に画像診断した。投与は3日後に開始した(研究1日目)。この日に、全ての動物にそれらの群の割り当てに応じてビヒクル(CA)又はPIOを投与した。研究2日目に、1つのビヒクル群と0.08mg/kg/日のPIOで治療した1つの群(急性群)とを、投与のおよそ2.5〜3時間後に画像診断した。全ての群で、投与は全体で7日間継続した。研究7日目に、全てのラットを、最後の投与のおよそ2.5〜3時間後に画像診断した。
ヒトにおける対応する投与量に対する外挿は、それぞれに対する相対AUCに合わせて調整しながら行った。ヒトでは、7.5mg用量は、2.8μg・時間/mLのAUCと関連する。ラットでは、0.50mg/kg/日の用量のPIO HClは、7.11μg・時間/mLのAUCと関連する。これらの計算の結果を表2に与える。
画像診断自体を投与のおよそ2.5〜3時間後に行うように、画像診断に関係する動物準備行動を開始した。動物は、先に記載されるようにイソフルラン麻酔下において拘束具で位置決めの準備をした(Zhang et al. 2010(同上))。この手順はおよそ10〜15分間かけ、それまでに動物は通常完全に覚醒した。画像診断は覚醒動物において実施した。
全てのMR実験を、BiospecBrukerコンソール(Bruker, Germany)に適合させ、20G/cmの磁場勾配を備える4.7T/40cmの水平磁石(Oxford, UK)を用いて実施した。水プロトンスピンを励起するボリュームコイル(volume coil)とMRIシグナルを受け取る表面コイルとからなる二重1H無線周波数(RF)コイル構造(Insight NeuroImaging Systems, Worcester, MA)を使用した。ボリュームコイル及び表面コイルは、相互コイル結合を避けるために、能動的に同調及び非同調させた。この二重コイル構造は、より小さなレセプションコイルにより与えられるより高いシグナル対ノイズ比(SNR)の利益を保ちながら、ラット脳においてRF伝送に十分なRF磁場均一性を可能にした。
初めに解剖学的画像を、繰り返し時間(TR)=2125ms、RAREファクター=8、有効エコー時間(TE)=50ms、マトリックスサイズ=256×256、視野(FOV)=3.2×3.2cm2、スライス数=18、スライス厚=1mm、n=8というパラメータでマルチスライスファストスピンエコーシークエンス(RARE)を用いて取得した。解剖学的画像の形状に基づき、全脳をカバーするマルチスライス勾配エコー画像を、TR=1s、フリップ角=60、TE=30ms、マトリックスサイズ=64×64、FOV=3.2×3.2cm2、スライス数=18、スライス厚=1mmというパラメータでエコープラナー画像診断(EPI)を用いて取得した。ラットは、画像取得の間は安静時にした。それぞれのランに対して200ボリュームを取得し、それぞれのラットに対して9つのランを得た。
全fMRIデータの分析を、医用画像可視化/分析(Medical Image Visualization and Analysis)(MIVA)、統計的パラメトリックマッピング(SPM8)ソフトウェア(Wellcome Department of Cognitive Neurology, London, UK)及びMatlab(The Mathworks Inc., Natick, MA, USA)を用いて実施した。データを最初にモーション補正した(0.25mmの閾値)。データの更なる前処理は、(a)スライススキャン時間補正、(b)動き及び血管作用によるシグナルの僅かな変動を説明するための3Dガウシアンフィルタ(1mm FWHM)を用いた空間平滑化、並びに(c)ラン間のスキャナドリフトに合わせて調整するためのボクセルワイズの線形トレンド除去及び周波数の高域フィルタリング(時間的経過に対して3サイクル)を含むものであった。次いで、それぞれの動物の構造的データ及び機能的データを、機能的データの群分析を容易にするために、MIVAに組み込まれた標準的な定位空間に変換した。
相関的な機能的連結性分析を用いて、安静状態の機能的連結性を分析した。初めに、それぞれの動物をアラインし、解剖学的画像に基づき完全にセグメント化したラット脳アトラスへと重ね合わせた(co-registered)。重ね合わせ手順によって、画像空間におけるそれぞれのシード関心領域(ROI)の座標が得られる。重ね合わせ及びアラインメント後に、シードROIにおける個々のボクセルに関するfMRI時間的経過が、それらの対応する座標に従って得られた。それぞれのシード領域に関する時間的経過は、シードROI内の全てのピクセルからの時間的経過を局部的に平均化することにより作製した。全てのROI時間的経過は、0.002Hz〜0.08Hzバンドパスフィルタであった。フィルタリング後、ROI時間的経過間のピアソン相互相関(CC)係数を計算し、機能的連結性の強度を定量化するのに使用した。
全脳にわたる機能的連結性に対するPIOの効果を評価するために、全ラット脳を57個のROIに分割した。それぞれのROI対の間の機能的連結性の強度を、2つのROI時間的経過間の相互相関係数を用いて評価した。総計で57×56/2=1596の機能的連結をそれぞれのrsfMRIランで評価した。この手順をそれぞれのfMRIセッションの9つのラン全てで繰り返し、次いで対応する連結の連結性強度を、9つのランで平均化した。結果として、1596個の連結の連結性強度をそれぞれのrsfMRIスキャンセッションで得た。
次いで、それぞれの連結(すなわちそれぞれのROI対間の連結)に関して、画像診断日、投与量及び相互作用という因子による反復測定ANOVAを計算した。統計的有意水準は、P<0.005(非補正)に設定した。
個々の神経回路に対するPIOの効果を評価するために、シードベースの相関分析を用いた(Zhang et al. 2010(同上))。海馬のCA1をシードROIとして選択した。シードROIと機能的に結び付いた脳領域の空間パターンを、ボクセルごとに計算した。初めに、シードROIの局部的に平均化した時間的経過を参照として得た。次いで、それぞれのボクセルの時間的経過と参照時間的経過との相互相関係数を計算した。相関係数は、このボクセルとシードとの間の機能的連結性の強度を表すものであった。シードROIに関する連結性地図を、それぞれのfMRIランに関して作製し、次いで9つのランにわたる地図を平均化して、それぞれのスキャンセッションに関する連結性地図を作製した。最後に、合成連結性地図を、プロトコルの同じ日に画像診断した同じ群のラットにわたる連結性地図を平均化することによって作製した(Zhang et al. 2010(同上))。
図1はfMRIデータの例を示すものであり、最も低用量の経口投与した即時放出型のピオグリタゾンであっても脳の深部の皮質下構造の中心領域において代謝の変化を生じることを実証している。これは、細胞内ミトコンドリア効果と一致するものである。
結論
1. ビヒクル対照に比べて、0.04mg/kg/日という低い用量でのPIO治療がラットの複数の脳領域において変化を誘導するという形跡がある。この結果は、経口投与した低用量PIOが血液脳関門を通過することを示している。
2. 0.08mg/kg/日という低い用量のPIOは、治療開始後の最も早い検査時点である24時間という早い段階で機能的変化を誘導した。
図1から分かるように、これらのデータの外観に基づき、0.32mg/kg/日の投与量でシグナルが減衰すると考えられる。より低い投与量に比べてこの投与量で実際に効果の減衰が起こっているか否かを確認するために、更なる検査を行うが、これは動物被験体間の固有の生物学的変動性を単純に反映するものではない。
実施例11
例示的なリスク決定
TOMM40 rs1054523(523)遺伝子型、年齢、及び場合によってはAPOE遺伝子型に基づき、今後5年でアルツハイマー型(海馬型とも呼ばれる)の認知機能障害を発症するリスクが高い、認知力が正常な被験体を特定するために、Duke Bryan ADRC Memory Health and Aging研究による438人の予め経過観察した個体コホートの発生年齢データを研究した。
表3は、523遺伝子型及びAPOE遺伝子型及び年齢に基づく例示的なリスク分類を要約したものである。VL/VL、APOE ε3/ε3被験体のサブセットがアルツハイマー病の発生により51歳〜59歳で死亡すると考えられることに留意されたい。これらの被験体は、62歳を超える認知力が正常なVL/VL保因者の低リスクサブセットのみを表している表3では検討されていない。より若齢の「高リスク」VL/VL APOE ε3/ε3被験体を含む拡張型リスク分類も企図される。
これらの割り当ての使用例は単純なものである。表3を用いて、以下のように個体の高リスク群又は低リスク群への割り当てを行う(民族性に関係するものではない):
1)523遺伝子型が(L、L)又は(L、VL)である個体を高リスク群に割り当て、
2)523遺伝子型が(VL、VL)(62歳超)又はAPOE遺伝子型が(ε2/ε2)又は(ε2/ε3)の個体を低リスク群に割り当て、
3)523遺伝子型が(S、S)、(S、VL)又は(S、L)である個体に関しては、個体の現在の年齢を、リスク割り当てを行った表2の年齢と比較する。
それぞれの523遺伝子型に関して、認知機能障害に対応する発生年齢曲線を調べ、曲線の傾きが5年の枠内での認知機能障害を発症するリスクが高いことを示す年齢を特定する。急な曲線部分は、比較的平坦な漸近線の後に続くものであり、認知機能障害の個体の割合の急増が観察される特徴的な時点(年齢)を含む(図2及び図3を参照されたい)。
図3は、(S、L)の523遺伝子型に関して、高リスク分類と低リスク分類とを識別するのに用いられる年齢の決定を示すものである。急な曲線部分は、この遺伝子型を有する個体の90%レベルが認知機能障害を呈しないことに関連する年齢に相当する約74歳から開始すると特定することができる。そのため74歳以上の個体は、本研究では高リスク群に割り当ていることができ、74歳未満の個体は低リスク群に割り当てられる。残りの523遺伝子型に関する認知機能障害の例示的な発生年齢曲線は、図4〜図9で与えられ、これらは上記の表2での割り当てに反映される。
本明細書で提示されるグラフは、傾きの変化が起こる特定の年齢を表すものと解釈され、これらのグラフは、この方法の一般的教示から逸脱することなく、年齢指定を修正及び/又は最適化するために更なるデータが回収されれば、更新することができることが理解されたい。
実施例12
ヒトBOLD研究
特に海馬における神経活動は認知低下、とりわけ記憶力の低下を患う個体の脳において変化している(Cabeza & Nyberg (2000) J Cogn Neurosci, 12: 1-47、Sperling (2007) Annals of the New York Academy of Sciences, 1097: 146-155)。さらに、神経の代謝及び機能の異常が、ADを発症するリスクがある個体における認知低下の臨床症状の数十年も前に起こることが示されている(Reiman et al. (2004) Proc Natl Acad Sci USA, 101: 284-289、Small et al. (2000) Proc Natl Acad Sci USA, 97: 6037-6042)。海馬等の領域における神経活動及び代謝機能の異常は通常脳血液動態の変化を伴い、これは機能的磁気共鳴画像診断(fMRI)によって測定され得る。特に、血中酸素濃度依存的(BOLD)fMRIは、安静時及び刺激に関連したパラダイム時に(例えば認知課題に応じて)生じる局所的機能変化に関する情報を提供することができる(Bigos et al. (2008) Neuropsychopharmacology, 33: 3221-3225、Pihlajamaki & Sperling (2008) Future Neurology, 3: 409-421)。
現在の研究は、健常な精神医学的にかつ認知力が正常な高齢の被験体における記憶関連課題の処理中の特定の領域の脳機能に対する、2型糖尿病治療に使用されるよりも低い複数の強度でのピオグリタゾンの1日用量の効果の薬力学的(PD)評価基準としてBOLD fMRIを採用している。記憶課題に応じたベースラインからのBOLD fMRIシグナルの変化を、ADの低下の影響を受けやすい脳領域、特に左海馬において検証した。
BOLD fMRIによって測定される健常な高齢者被験体の脳血液動態に対する低用量のピオグリタゾンの14日間の連日投与の効果を評価するために第1相、反復投与、単純盲検、並列設計、単一施設、投与量決定研究を行った。
本研究は2工程で行った。工程1は、3.9mgのピオグリタゾンを1日1回14日間与えた12人の被験体の1つの群(群1)からなるものであった。ベースラインMRIスキャンを投与前1日目に行い(1日目スキャン)、更なるMRIスキャンを投与後の研究7日目及び14日目に行った。7日目及び14日目の両方で工程1のデータの分析により、エピソード(符号化期)記憶及び作業記憶を評価するように設計した課題に応じた局部的なBOLD fMRIシグナルのベースラインからの変化を評価した。それぞれの課題に対する対象の特定の領域は、左海馬(エピソード記憶、符号化期)並びに左及び右背外側前頭前皮質(DLPFC、作業記憶)であった。
工程2は投与量決定研究であった(群2〜群5)。工程2に参加する被験体を1:1:1:1の比率で3用量レベルのピオグリタゾン又はプラセボに無作為化した。工程1と同様に、工程2についてもベースラインMRIスキャンを投与前1日目に行い、更なるMRIスキャンを投与後の研究7日目及び研究14日目に行った。工程2では、エピソード(符号化期)記憶課題に応じた活性化の変化を左海馬で評価した。
ピオグリタゾンHCl(PIO、武田薬品工業株式会社(大阪、日本)製)をクエン酸溶液(滅菌水500ml当たり10gの無水クエン酸(USP))に配合した。プラセボは同じクエン酸溶液とした。正確な容量を充填済み経口投与用シリンジにより毎日経口送達することによって特定の用量を投与した。
主な組み入れ基準
55歳〜83歳(両端含む)の健常な男女を研究に採用した。全ての被験体は、スクリーニング時に行われる標準認知検査によって評価したところ正常な認知機能を有していた。神経心理学的評価は、一般認知状態を検証するモントリオール認知評価(Montreal Cognitive Assessment;MoCA)を含むものであった。Consortium to Establish a Registry for Alzheimer’s disease(CERAD)のWord List Memory Test及びTrail Making Part Bによって記憶を評価した。正常動作は年齢及び知識の基準値平均の1標準偏差(SD)内のスコアとして規定した。被験体はfMRIプロトコルの標準的基準に適合可能である必要があった。
主な除外基準
被験体は、スクリーニング前6ヶ月以内に任意の治験化合物を与えられていた場合、過去の臨床研究において若しくはスクリーニングの1年以内に治療剤としてピオグリタゾン若しくは任意のチアゾリジンジオンを与えられていた場合、又は被験体がピオグリタゾン若しくは関連化合物の製剤の任意の成分に対する既知の過敏性若しくはアレルギーを有していた場合に除外された。被験体は、認知症の原因と判断され得る任意の他の中枢神経系障害の病歴若しくは兆候を有していた場合、又はその時点で重大な精神病と診断されていた場合にも除外された。他の除外基準には、被験体がインスリン及び/又はPPARγアゴニストで治療される真性糖尿病;調査者の意見では、被験体が研究に参加する又はプロトコル要件に適合することができないとされる任意の病態;MRIの禁忌がある被験体も含まれていた。
研究手順
インフォームドコンセントを完了し、スクリーニング時に組み入れ/除外基準を満たした被験体に安全性評価を行い、臨床検査並びにTOMM40のrs10524523遺伝子座及びAPOE対立遺伝子のジェノタイピングのために採血した。調査者は被験体の遺伝子型及び与えられる薬物用量に対して盲検化されている。被験体の認知機能をスクリーニング来院時に認知検査を完了することにより決定し、エピソード記憶及び作業記憶の両方を評価した。正常な認知機能を有すると決定され、スクリーニング評価の結果に基づいて継続に適すると決定された被験体を、1日目に戻してベースライン投与前BOLD fMRI及び更なる安全性評価を完了させ、治験薬を与えた。
磁気共鳴画像診断プロトコル
全てのスキャニングに、高分解能構造的及び機能的脳画像診断に最適化したGE MR750 3Tスキャナを使用した。このスキャナは、200T/m/sのスルーレートで高出力高デューティサイクルの50mT/mの勾配を有し、1MHzまでの高帯域での並行画像診断用の8チャネル頭部コイルを備えるものであった。半自動高次シミングプログラムを用いて全体的な磁場均一性を確実にした。方法論は実施例9に記載のものと同様であった。
被験体を実施例9に概説するようにスキャナ内に導入し、位置付けた。一般スキャニングプロトコルも実施例9に記載してある。
(工程1及び工程2についての)スキャンを1日目、7日目及び14日目の同時刻(±2時間)に行うように計画した。
潅流MRI. 実施例9に記載のように、パルス式動脈スピン標識化(PASL)シークエンスを用いて局部的な安静時脳血流の推定値を得た。
BOLD fMRI. 前交連−後交連(AC−PC)面でアラインした一連の34のインターリーブ軸機能的スライスは、磁化率アーチファクトを低減するのに逆らせんパルス(inverse-spiral pulse)シークエンスを用いて、全脳範囲(coverage)で取得した(TR/TE/フリップ角=2000ms/30ms/60;FOV=240mm;3.75×3.75×4mmボクセル;スライス間スキップ=0)。4回の初期無線周波数(RF)励起を行い(切り捨てて)定常状態均衡を達成した。
スキャン中に、被験体に、海馬(又は作業記憶課題についてはDLPFC)におけるBOLD fMRIシグナル変化を誘発するよう設計したエピソード記憶課題及び工程1では作業記憶課題を行うよう求めた。
磁気共鳴画像診断刺激
高信頼性かつ有効なfMRIチャレンジプロトコルを用いて、エピソード記憶に関連する海馬及びDLPFCの機能をそれぞれ精査した。
エピソード記憶. 顔と名前との関連付けの課題を用いて海馬機能を詮索した(Zeineh et al. (2003) Science, 299: 577-580)。符号化中に、参加者に名前と組み合わせた一連の見知らぬ顔の画像を提示した。続いて、参加者に部分的に提示した名前(例えば、SarahについてはS_R__)を顔と正確に組み合わせられるかを特定するよう求めた。これらの符号化及び検索ブロックを妨害課題で区切り、ブロック間の暗記リハーサルを防止した。
作業記憶. nバックパラダイムを用いて作業記憶ネットワークを詮索した(Braver et al. (1997) NeuroImage, 5: 49-62)。画面に刺激上に表示される指示により、被験体に「n」回前に見た刺激、ひいては課題の名前を思い出すように指示した。nバックでは、受ける刺激からの干渉を最小限に抑えると同時に、被験体は常に心構えを新しくする必要がある。
分析
第1に、反復測定ANOVAを、符号化期中のエピソード記憶課題で強い活性化を示す左海馬における活動に焦点を合わせたBOLD fMRIデータに適用した。工程1では、作業記憶課題に関与するDLPFCにおける活動も分析した。第2に、記述統計値を反復測定ANOVAによって特定される符号化関連左海馬活性化(並びに工程1では左及び右DLPFC活性化)について算出した。工程1及び工程2について、統計値は、活性化クラスター及び活性化クラスターの最大活性のボクセルについてのベースラインから7日目及び14日目までの符号化及び妨害刺激(distractor)ブロックの間のBOLDシグナル変化(%)として表されるエピソード記憶課題の符号化期中の記憶関連左海馬活性化の変化に焦点を合わせたものであった。工程1では、ベースラインから7日目及び14日目までの記憶関連左及び右DLPFC活性化の変化についても記述統計値を生成した。
工程2では、反復測定ANCOVAモデルを用いて、BOLDシグナル(%)及びピオグリタゾン用量におけるベースラインからの変化の関係性を評価した。年齢、ベースラインBOLDシグナル、用量群、来院及び来院による用量群の相互作用がモデルに含まれていた。
ジェノタイピング
デオキシリボ核酸(DNA)を、1日目の来院時に採取した10mLの全血サンプルから抽出し、APOE単一ヌクレオチド多型rs429358及びrs7412並びにTOMM40ポリT変異体rs10524523の遺伝子型分析を行った。
結果
人口動態
遺伝子型
工程1及び工程2に含まれる被験体のTOMM40及びAPOE遺伝子型を表6に挙げる。本研究には、その年齢、TOMM40 rs10524523遺伝子型及びAPOE ε2状態に基づき、実施例11の上記表3に記載の割当てに従ってADに起因する認知機能障害又はADを発症するリスクが高いと考えられ得る被験体が含まれていた。同じ例示的なリスクの決定を用いて、本研究にはADに起因する認知機能障害又はADを発症するリスクが低いと考えられ得る被験体も含まれていた。
工程1の結果:3.9mg/日のピオグリタゾンHCl
A. エピソード記憶課題
参加した12人の被験体のうち、7日目の後に1人が離脱し、別の被験体の14日目のデータ収集時にスキャナが故障した。これらの被験体のいずれも工程1の14日目の分析に含まれなかった。
この課題の関心領域(ROI)は左海馬であった(Zeineh et al. (2003) Science, 299: 577-580)。仮説は、低用量ピオグリタゾンの投与期間中の新規の顔と名前との組合せの符号化の際にベースラインからの活性化の増大が生じ得るというものであった。図10は15ボクセルの活性化クラスターの位置を示す。
反復測定ANOVAを用いてデータを分析し、p<0.05(多重比較については非補正)閾値を適用した(図11及び図12)。結果により仮説が支持された。BOLDシグナルの有意な増大が、3.9mg/日の用量でのピオグリタゾンによる治療後に左海馬の15ボクセルのクラスター及びクラスターの最大活性のボクセルで明らかであった(図13及び図14)。
顔と名前との組合せの正確さも、ベースライン時並びに投与後7日目及び14日目に測定した。経時的に正確さの有意な変化は生じなかった(F(2,18)=0.25;p=0.76)。動脈スピン標識化によって決定される左海馬の潅流も経時的に有意に変化しなかった。
B. 作業記憶(nバック)課題
参加した12人の被験体のうち、7日目の後に1人が離脱し、14日目の分析に含まれなかった。
この課題の標的は背外側前頭前皮質(DLPFC)であった(Braver et al. (1997) NeuroImage, 5: 49-62)。仮説は、低用量ピオグリタゾンによる治療後に0バック作業記憶課題に対して2バック作業記憶課題中の活性化の減少(ベースラインからのBOLDシグナル変化(%))が生じ得るというものであった。右及び左DLPFCがROIであった。
反復測定ANOVAを用いてデータを分析し、p<0.05(非補正)閾値を適用した。ピオグリタゾンによる治療の結果として、左又は右DLPFCにおいてBOLDシグナルの有意な変化は生じなかった(図15及び図16、並びに表7)。2つの異常値を除外しても、作業記憶試験精度の有意な変化はなかった(n=9、F(2,16)=0.506;p=0.612)。3つのスキャン日でDLPFC潅流の有意差は存在しなかった。
工程2の結果:複数用量のピオグリタゾンHCl
工程2の分析はエピソード記憶課題の符号化期に限定したものであった。ROIは左海馬活性化クラスターであった。
反復測定ANCOVAモデルを用いて、BOLDシグナル(%)及びピオグリタゾン用量におけるベースラインからの変化の関係性を評価した。年齢、ベースラインBOLDシグナル、用量群、来院及び来院による用量群の相互作用がモデルに含まれていた。図17及び図18に、左海馬活性化クラスター及び最大活性のボクセルのそれぞれについての様々なピオグリタゾン用量のモデル及びプラセボによって得られるベースラインからの変化の最小二乗平均の差を示す。
結論
工程1から、3.9mgのピオグリタゾンによる経口治療に関連した左海馬における活性化(BOLDシグナル(%))の有意な増大が明らかとなった。事後t検定から、左海馬活性化クラスター及びクラスターの最大活性のボクセルにおいて14日目の活性化が1日目及び7日目のどちらよりも高い(有意差はない)ことが実証された。海馬は目新しいもの(novelty)に対して強い応答を示すため、ベースラインシグナルが初めてスキャナ内に入るという経験の目新しさにより人為的に増大する可能性があることに留意する。この結果から、ピオグリタゾンが血液脳関門を通過し、エピソード記憶課題中に左海馬で測定される変化をもたらすことが確認される。
工程2は、或る範囲のピオグリタゾン用量に対する応答の予備診査であった。エピソード記憶課題の符号化期中の左海馬における2つの投与後の時点での用量に対するBOLDシグナル(%)のベースラインからの変化が研究の焦点であった。各用量群の被験体数が少ないこと及びデータの固有可変性のために、用量とプラセボとを比較するANCOVA試験の結果は統計的に有意ではなかった。しかしながら、用量に対するプラセボとの差の傾向から、少なくとも0.6mg/日と低い用量で経口投与されるピオグリタゾンが血液脳関門を通過し、治療7日目にエピソード記憶課題中に左海馬で測定される変化をもたらすことが示唆された(図17及び図18)。分析から、一部の用量で薬物効果が少なくとも14日間持続することも示唆された。
工程2のプラセボ、0.6mg/日、2.1mg/日及び6.0mg/日の群の被験体の数は少なく、分析力が制限される。しかしながら、14日目の海馬クラスター用量応答曲線の形状の観察は興味深い(図17)。この予備用量応答曲線から、14日目にピオグリタゾン治療に対する最大応答がこの用量曲線の範囲内の投与量で生じ、より高い用量で減少したことが示唆される。活性化クラスター(図17)及び最大活性のボクセル(図18)における応答曲線の形状が異なっていたことに留意すべきである。より大きなサンプルサイズでは、これらの差が解消され得る。工程2の観察結果をより大きな個体サンプルで検証する必要がある。
本明細書で引用される特許、特許文献、論文、要旨及び他の刊行物の開示は、それぞれが個々に援用されるように、引用することによりその全体が本明細書の一部をなすものとする。矛盾が生じる場合には、定義を含めて本明細書に従うものとする。本発明に対する様々な修正及び変更は、本発明の範囲及び趣旨から逸脱することなく当業者にとって明らかになるであろう。説明的な実施形態及び実施例は、例示としてのみ与えられ、本発明の範囲を限定する意図はない。本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される。