(1)エンジンの全体構成
図1は、本発明の制御装置が適用されるエンジンの一実施形態を示す図である。本図に示されるエンジンは、走行用の動力源として車両に搭載される4サイクルの多気筒ガソリンエンジンである。具体的に、このエンジンは、直線状に並ぶ4つの気筒2A〜2Dを有する直列4気筒型のエンジン本体1と、エンジン本体1に空気を導入するための吸気通路30と、エンジン本体1で生成された排気ガスを排出するための排気通路35とを備えている。
図2は、エンジン本体1の断面図である。本図に示すように、エンジン本体1は、上記4つの気筒2A〜2Dが内部に形成されたシリンダブロック3と、シリンダブロック3の上側に設けられたシリンダヘッド4と、シリンダヘッド4の上側に設けられたカムキャップ5と、各気筒2A〜2Dに往復摺動可能に挿入されたピストン11とを有している。
ピストン11の上方には燃焼室10が形成されており、この燃焼室10には、後述するインジェクタ12(図1)から噴射されるガソリンを主成分とする燃料が供給される。そして、供給された燃料が燃焼室10で燃焼し、その燃焼による膨張力で押し下げられたピストン11が上下方向に往復運動するようになっている。
ピストン11は、エンジン本体1の出力軸であるクランク軸15とコネクティングロッド14を介して連結されており、上記ピストン11の往復運動に応じてクランク軸15が中心軸回りに回転するようになっている。
図1に示すように、シリンダヘッド4には、各気筒2A〜2Dの燃焼室10に向けて燃料(ガソリン)を噴射するインジェクタ12と、インジェクタ12から噴射された燃料と空気との混合気に対し火花放電による点火エネルギーを供給する点火プラグ13とが設けられている。なお、当実施形態では、1気筒につき1つの割合で合計4個のインジェクタ12が設けられるとともに、同じく1気筒につき1つの割合で合計4個の点火プラグ13が設けられている。
当実施形態のような4サイクル4気筒のガソリンエンジンでは、各気筒2A〜2Dに設けられたピストン11がクランク角で180°(180°CA)の位相差をもって上下運動する。これに対応して、各気筒2A〜2Dでの点火のタイミングも、180°CAずつ位相をずらしたタイミングに設定される。具体的には、図1の左側から順に、気筒2Aを第1気筒、気筒2Bを第2気筒、気筒2Cを第3気筒、気筒2Dを第4気筒とすると、第1気筒2A→第3気筒2C→第4気筒2D→第2気筒2Bの順に点火が行われる。
なお、詳細は後述するが、当実施形態のエンジンは、4つの気筒2A〜2Dのうちの2つを休止させ、残りの2つの気筒を稼動させる運転、つまり減筒運転が可能な可変気筒エンジンである。このため、上記のような点火順序は、減筒運転ではない通常の運転時(4つの気筒2A〜2Dを全て稼動させる全筒運転時)のものである。一方、減筒運転時には、点火順序が連続しない2つの気筒(当実施形態では第1気筒2Aおよび第4気筒2D)において点火プラグ13の点火動作が禁止され、1つ飛ばしで点火が行われるようになる。
図1および図2に示すように、シリンダヘッド4には、吸気通路30から供給される空気(吸気)を各気筒2A〜2Dの燃焼室10に導入するための吸気ポート6と、各気筒2A〜2Dの燃焼室10で生成された排気ガスを排気通路35に導出するための排気ポート7と、吸気ポート6を通じた吸気の導入を制御するために吸気ポート6の燃焼室10側の開口を開閉する吸気弁8と、排気ポート7からのガス排出を制御するために排気ポート7の燃焼室10側の開口を開閉する排気弁9とが設けられている。なお、当実施形態では、1気筒につき2つの割合で合計8個の吸気弁8が設けられるとともに、同じく1気筒につき2つの割合で合計8個の排気弁9が設けられている。
図1に示すように、吸気通路30は、気筒2A〜2Dの各吸気ポート6と連通する4本の独立吸気通路31と、各独立吸気通路31の上流端部(吸気の流れ方向上流側の端部)に共通に接続されたサージタンク32と、サージタンク32から上流側に延びる1本の吸気管33とを有している。吸気管33の途中部には、エンジン本体1に導入される吸気の流量を調節する開閉可能なスロットル弁34が設けられている。
排気通路35は、気筒2A〜2Dの各排気ポート7と連通する4本の独立排気通路36と、各独立排気通路36の下流端部(排気ガスの流れ方向下流側の端部)が1箇所に集合した集合部37と、集合部37から下流側に延びる1本の排気管38とを有している。
(2)動弁機構
次に、吸気弁8および排気弁9を開閉させるための機構について、図2および図3を用いて詳しく説明する。吸気弁8および排気弁9は、それぞれ、シリンダヘッド4に配設された一対の動弁機構28,29(図2)により、クランク軸15の回転に連動して開閉駆動される。
吸気弁8用の動弁機構28は、吸気弁8を閉方向(図2の上方)に付勢するリターンスプリング16と、クランク軸15の回転に連動して回転するカム軸18と、カム軸18と一体に回転するように設けられたカム部18aと、カム部18aにより周期的に押圧されるスイングアーム20と、スイングアーム20の揺動支点となるピボット部22とを有している。
同様に、排気弁9用の動弁機構29は、排気弁9を閉方向(図2の上方)に付勢するリターンスプリング17と、クランク軸15の回転に連動して回転するカム軸19と、カム軸19と一体に回転するように設けられたカム部19aと、カム部19aにより周期的に押圧されるスイングアーム21と、スイングアーム20の揺動支点となるピボット部22とを有している。
上記のような動弁機構28,29により、吸気弁8および排気弁9は次のようにして開閉駆動される。すなわち、クランク軸15の回転に伴いカム軸18,19が回転すると、スイングアーム20,21の略中央部に回転自在に設けられたカムフォロア20a,21aがカム部18a,19aによって周期的に下方に押圧されるとともに、スイングアーム20,21がその一端部を支持するピボット部22を支点にして揺動変位する。これに伴い、当該スイングアーム20,21の他端部がリターンスプリング16,17の付勢力に抗して吸排気弁8,9を下方に押圧し、これによって吸排気弁8,9が開弁する。一度開弁された吸排気弁8,9は、リターンスプリング16,17の付勢力により再び閉弁位置まで戻される。
ピボット部22は、自動的にバルブクリアランスをゼロに調整する公知の油圧式ラッシュアジャスタ24,25(以降、Hydraulic Lash Adjusterの頭文字をとって「HLA」と略称する)により支持されている。このうち、HLA24は、気筒列方向の中央側にある第2気筒2Bおよび第3気筒2Cのバルブクリアランスを自動調整するものであり、HLA25は、気筒列方向の両端にある第1気筒2Aおよび第4気筒2Dのバルブクリアランスを自動調整するものである。
第1気筒2Aおよび第4気筒2D用のHLA25は、エンジンの減筒運転か全筒運転かに応じて吸排気弁8,9を開閉させるか停止させるかを切り替える機能を有している。すなわち、HLA25は、エンジンの全筒運転時には第1、第4気筒2A,2Dの吸排気弁8,9を開閉させる一方、エンジンの減筒運転時には、第1、第4気筒2A,2Dの吸排気弁8,9を閉弁状態のまま停止させる。このため、HLA25は、吸排気弁8,9の開閉動作を停止させるための機構として、図3に示される弁停止機構25aを有している。これに対し、第2気筒2Bおよび第3気筒2C用のHLA24は、弁停止機構25aを備えておらず、吸排気弁8,9の開閉動作を停止させる機能を有していない。以下では、これらHLA24,25を区別するために、弁停止機構25aを備えたHLA25のことを、特にS−HLA25(Switchable-Hydraulic Lash Adjusterの略)という。
S−HLA25の弁停止機構25aは、ピボット部22を軸方向に摺動自在に収納する有底の外筒251と、外筒251の周面に互いに対向するように設けられた2つの貫通孔251aを出入り可能でかつピボット部22をロック状態またはロック解除状態に切替可能な一対のロックピン252と、これらロックピン252を径方向外側へ付勢するロックスプリング253と、外筒251の内底部とピボット部22の底部との間に設けられ、ピボット部22を外筒251の上方に押圧して付勢するロストモーションスプリング254とを備えている。
図3(a)に示すように、ロックピン252が外筒251の貫通孔251aに嵌合しているときは、ピボット部22が上方に突出したまま固定されたロック状態にある。このロック状態では、図2に示すように、ピボット部22の頂部がスイングアーム20,21の揺動支点となるため、カム軸18,19の回転によりカム部18a,19aがカムフォロア20a,21aを下方に押圧したときに、吸排気弁8,9がリターンスプリング16,17の付勢力に抗して下方に変位し、吸排気弁8,9が開弁される。
4つの気筒2A〜2Dを全て稼働させる全筒運転時には、弁停止機構25aがロック状態とされることにより、第1、第4気筒2A,2Dの吸排気弁8,9が開閉駆動される。すなわち、全筒運転時には、第1、第4気筒を含む全ての気筒2A〜2Dにおいて、吸排気弁8,9が開閉駆動される。
上記のような弁停止機構25aのロック状態を解除するには、一対のロックピン252を作動油圧により径方向内側に押圧する。すると、図3(b)に示すように、ロックスプリング253の引張力に抗して、一対のロックピン252が互いに接近する方向(外筒251の径方向内側)に移動する。これにより、ロックピン252と外筒251の貫通孔251aとの嵌合が解除され、ピボット部22が軸方向に移動可能なロック解除状態となる。
このロック解除状態への変化に伴い、ピボット部22がロストモーションスプリング254の付勢力に抗して下方に押圧されることにより、図3(c)に示すような弁停止状態が実現される。すなわち、吸排気弁8,9を上方に付勢するリターンスプリング16,17の方が、ピボット部22を上方に付勢するロストモーションスプリング254よりも強い付勢力を有しているので、上記ロック解除状態では、カム軸18,19の回転に伴いカム部18a,19aがカムフォロア20a,21aを下方に押圧したときに、吸排気弁8,9の頂部がスイングアーム20,21の揺動支点となり、ピボット部22がロストモーションスプリング254の付勢力に抗して下方に変位する。つまり、吸排気弁8,9は閉弁された状態に維持される。
第1、第4気筒2A,2Dを休止させる減筒運転時には、弁停止機構25aがロック解除状態とされることにより、第1、第4気筒2A,2Dの吸排気弁8,9の開閉動作が停止される。すなわち、減筒運転時には、第2、第3気筒2B,2Cの吸排気弁8,9のみが開閉駆動され、第1、第4気筒2A,2Dの吸排気弁8,9は閉弁状態に維持される。
(3)制御系統
次に、エンジンの制御系統について説明する。当実施形態のエンジンは、その各部が図4に示されるECU(エンジン制御ユニット)50によって統括的に制御される。ECU50は、周知のとおり、CPU、ROM、RAM等から構成されるマイクロプロセッサである。
エンジンおよび車両には、その各部の状態量を検出するための複数のセンサが設けられており、各センサからの情報がECU50に入力されるようになっている。
例えば、シリンダブロック3には、クランク軸15の回転角度(クランク角)および回転速度を検出するクランク角センサSN1が設けられている。このクランク角センサSN1は、クランク軸15と一体に回転する図略のクランクプレートの回転に応じてパルス信号を出力するものであり、このパルス信号に基づいて、クランク軸15の回転角度および回転速度が特定されるようになっている。なお、以下では、クランク軸15の回転速度のことを「エンジン回転速度」、もしくは単に「回転速度」という。
シリンダヘッド4にはカム角センサSN2が設けられている。カム角センサSN2は、カム軸(18または19)と一体に回転するシグナルプレートの歯の通過に応じてパルス信号を出力するものであり、この信号と、クランク角センサSN1からのパルス信号とに基づいて、どの気筒が何行程にあるかという気筒判別情報が生成されるようになっている。
吸気通路30のサージタンク32には、エンジン本体1の各気筒2A〜2Dに導入される吸気の圧力を検出する吸気圧センサSN3が設けられている。
車両には、運転者により操作される図外のアクセルペダルの開度(アクセル開度)を検出するアクセル開度センサSN4が設けられている。
ECU50は、これらのセンサSN1〜SN4と電気的に接続されており、それぞれのセンサから入力される信号に基づいて、上述した各種情報(クランク角、エンジン回転速度、気筒判別情報、吸気圧力、アクセル開度など)を取得する。
また、ECU50は、上記各センサSN1〜SN4からの入力信号に基づいて種々の判定や演算等を実行しつつ、エンジンの各部を制御する。すなわち、ECU50は、インジェクタ12、点火プラグ13、スロットル弁34、弁停止機構25aと電気的に接続されており、上記演算の結果等に基づいて、これらの機器にそれぞれ駆動用の制御信号を出力する。なお、当実施形態では、1気筒につき1組の割合で合計4組のインジェクタ12および点火プラグ13が存在するが、図4では、インジェクタ12および点火プラグ13をそれぞれ1つのブロックで表記している。また、弁停止機構25aは、第1気筒2A用に設けられた吸気側および排気側の各S−HLA25と、第4気筒2D用に設けられた吸気側および排気側の各S−HLA25とにそれぞれ1つずつ備わっており、合計4つの弁停止機構25aが存在するが、図4ではこれを1つのブロックで表記している。
ECU50のより具体的な機能について説明する。ECU50は、いわゆる気筒数制御(全筒運転するか減筒運転するかの切り替え制御)に関する特有の機能的要素として、運転要求判定部51、バルブ制御部52、吸気弁復帰判定部53、排気弁復帰判定部54、および燃焼制御部55を有している。
運転要求判定部51は、アクセル開度センサSN4やクランク角センサSN1の検出値から特定されるエンジンの運転条件(負荷、回転速度等)に基づいて、エンジンの減筒運転および全筒運転のいずれを選択すべきかを判定するものである。例えば、運転要求判定部51は、エンジンの負荷および回転速度が比較的低い特定の運転条件にあるときに、第1、第4気筒2A,2Dを休止させる(第2、第3気筒2B,2Cのみを稼働させる)減筒運転の要求があると判定する。逆に、上記特定の運転条件を除く残余の運転条件にあるときには、第1〜第4気筒2A〜2Dを全て稼働させる全筒運転の要求があると判定する。
バルブ制御部52は、全筒運転から減筒運転への切り替え要求もしくは減筒運転から全筒運転への切り替え要求があることが上記運転要求判定部51により確認された場合に、第1、第4気筒2A,2Dの吸排気弁8,9の作動状態を切り替えるものである。例えば、全筒運転から減筒運転への切り替え要求があったとき、バルブ制御部52は、S−HLA25の弁停止機構25aがロック解除状態(図3(c)参照)となるように作動油圧を制御することにより、第1、第4気筒2A,2Dの吸排気弁8,9の開閉動作を停止させる。一方、減筒運転から全筒運転への切り替え要求があったとき、バルブ制御部52は、弁停止機構25aがロック状態(図3(a)参照)になるように作動油圧を制御することにより、第1、第4気筒2A,2Dの吸排気弁8,9を開閉可能な状態に復帰させる。
吸気弁復帰判定部53は、減筒運転から全筒運転への切り替え時に、第1、第4気筒2A,2Dの吸気弁8が開閉可能な状態に正常に復帰したか否か、つまり、当該吸気弁8の開閉動作が本当に再開されたか否かを判定するものである。
排気弁復帰判定部54は、第1、第4気筒2A,2Dの排気弁9が開閉可能な状態に正常に復帰したか否か、つまり、当該排気弁9の開閉動作が本当に再開されたか否かを判定するものである。
なお、詳細は後述するが、上記各判定部53,54による吸排気弁8,9の復帰判定は、吸気圧センサSN3により検出される吸気の圧力に基づいて行われる。
燃焼制御部55は、減筒運転か全筒運転かに応じて第1、第4気筒2A,2Dのインジェクタ12および点火プラグ13の制御を切り替えるものである。すなわち、エンジンが全筒運転されているとき、燃焼制御部55は、全ての気筒2A〜2Dのインジェクタ12および点火プラグ13を駆動して燃料噴射および点火を実行し、全ての気筒2A〜2Dで混合気を燃焼させる。一方、エンジンが減筒運転されているとき、燃焼制御部55は、休止気筒である第1、第4気筒2A,2Dでの燃焼を停止させるために、当該気筒のインジェクタ12および点火プラグ13の駆動を禁止する。特に、減筒運転から全筒運転への切り替え時、燃焼制御部55は、吸気弁、排気弁復帰判定部53,54により第1、第4気筒2A,2Dの吸排気弁8,9の正常復帰が確認された後に、当該気筒2A,2Dへの燃料噴射および点火を再開させる。
(4)バルブ復帰判定ロジック
次に、減筒運転から全筒運転への切り替え時に、第1、第4気筒2A,2Dの吸排気弁8,9の正常復帰が上述した各判定部53,54によりどのように判定されるのかについて具体的に説明する。なお、以下では、減筒運転時に休止状態にある第1気筒2Aまたは第4気筒2Dのことを指して、単に「休止気筒」ということがある。
図5は、減筒運転から全筒運転への切り替え時における特定の休止気筒(第1気筒2Aまたは第4気筒2D)の状態変化を時系列で示したタイムチャートである。この図5の例では、時点tsにおいて減筒運転から全筒運転への切り替え要求があったものとする。時点tsよりも以前は、弁停止機構25aが図3(c)に示したロック解除状態にあり、上記休止気筒の吸気弁8および排気弁9はともに閉弁状態のまま停止している(図5では、吸気弁8を「IN」、排気弁9を「EX」と表記)。一方、時点tsで全筒運転への切り替え要求があると、その時点で弁停止機構25aに対し、弁停止機構25aが図3(a)に示したロック状態に変位するように作動油圧を制御する制御信号(以下、これを復帰指令という)が出力される。これにより、上記休止気筒では、例えば時点tsの後にくる最初の排気行程から排気弁9の開閉動作が再開されるとともに、これに続く吸気行程から吸気弁8の開弁動作が再開される。
ここで、弁停止機構25aが実際にロック状態に変位するまでにはある程度の時間(作動遅れ時間)が必要である。このため、例えば全筒運転への切り替え要求が排気行程の直前に発生したような場合には、その時点で復帰指令を出力したとしても、その指令後の最初の排気行程から排気弁9を開閉させることはできない。そこで、このような場合には、図6に示すように、排気弁9からではなく吸気弁8から開閉動作が再開される。
すなわち、図6の例では、全筒運転への切り替え要求の時点tsが排気行程の直前にあたるため、当該時点tsで弁停止機構25aに復帰指令を出力しても、その直後の排気弁9の開弁開始時期においては、弁停止機構25aはまだロック状態に変位していない。このため、切り替え要求後の最初の排気行程では、排気弁9に駆動力は伝わらず、排気弁9は閉弁されたままとなる。一方、排気行程の途中でロック状態への変位が完了したとすると、吸気弁8には駆動力が伝わるので、吸気弁8は、切り替え要求後の最初の吸気行程から開閉動作を再開する。その後は、次のサイクルの排気行程を迎えた時点で、初めて排気弁9が開閉動作を再開することになる。このように、全筒運転への切り替え要求が出されるタイミングによっては、吸気弁8から先に開閉動作が再開されることもある。
以上のように、減筒運転から全筒運転への切り替え時には、その切り替え要求があった時点tsで弁停止機構25aに復帰指令が出力されて、排気弁9→吸気弁8の順に、あるいは吸気弁8→排気弁9の順に開閉動作が再開される。
ただし、弁停止機構25aが故障しているなどの何らかの理由で、吸排気弁8,9の開閉動作が再開されない(復帰に失敗する)こともあり得る。そこで、吸気弁、排気弁復帰判定部53,54は、復帰指令の出力時点tsの後、吸排気弁8,9が正常復帰したか否かを所定の判定ロジックを用いて判定する。以下、吸排気弁8,9用のそれぞれの判定ロジックについて詳しく説明する。
(i)排気弁の復帰判定ロジック
まず、排気弁9が正常復帰したか否かがどのような判定ロジックにより判定されるかについて説明する。当実施形態において、排気弁復帰判定部54は、休止気筒の吸気弁8が開弁を開始する時期の前後にわたる吸気の圧力変動に基づいて、休止気筒の排気弁9が正常復帰したか否かを判定する。
例えば、弁停止機構25aが故障するなどして休止気筒の排気弁9が閉弁状態のまま停止していたとすれば、休止気筒のピストン11が排気上死点まで上昇する過程で、当該ピストン11は燃焼室10内のガス(空気または排気ガスもしくはその混合物)を圧縮することになる。したがって、図7に示すように、排気上死点の近傍で吸気弁8が開弁を開始したとき(図7ではこの時期をIVOとして表している)、上記燃焼室10内の圧縮ガスが吸気ポート6を通じて吸気通路30へと逆流する吹き返しが起き、吸気圧力が一時的に上昇する。一方、休止気筒の排気弁9が正常復帰していれば、上述した排気行程中のガス圧縮は起きないので、吸気弁8が開弁しても吸気圧力はそれほど上昇しなくなる。
以上のような現象を利用すれば、吸気弁8の開弁開始時期における吸気の圧力変動が小さいときは排気弁9が正常復帰したと判定でき、当該圧力変動が大きいときは排気弁9が復帰に失敗したと判定することができる。そこで、当実施形態において、排気弁復帰判定部54は、吸気圧センサSN3により検出される吸気圧力を休止気筒の吸気弁8の開弁開始時期を挟んだ所定期間にわたって調べ、そこから特定される吸気の圧力変動に基づいて、排気弁9が正常復帰したか否かを判定する。
なお、この場合の吸気の圧力変動としては、吸気弁8の開弁に伴い吸気圧力がどの程度増大したかを示すものであればよく、図8に示すような種々の状態量を採用することができる。例えば、上記所定期間内に検出された吸気圧力の最大値とその直前に現れる圧力波形の谷の部分の圧力値との差分をとり(図8の(x))、これを圧力変動として採用することが考えられる。また、上記所定期間内に検出された吸気圧力の最大値と最小値との差分をとり(図8の(z))、これを圧力変動として採用してもよい。あるいは、吸気圧力が最大値に向かって上昇するときの上昇率(傾き)をとり(図8の(y))、これを圧力変動として採用してもよい。
図9は、上記吸気の圧力変動(増大方向の圧力変動)をパラメータとして、休止気筒の排気弁9が正常復帰したケースと復帰に失敗したケースとがどのような確率で現れるのかを示した図である。本図によれば、吸気の圧力変動がβよりも小さい場合は、排気弁9は必ず正常復帰しており、復帰に失敗した(閉弁状態のまま停止している)可能性はないと考えられる。逆に、吸気の圧力変動がβよりも大きい場合は、排気弁9は必ず復帰に失敗しており、正常復帰している可能性はないと考えられる。そこで、排気弁9が正常復帰したか否かの判定にあたっては、図9のβが閾値として利用される。すなわち、排気弁復帰判定部54は、吸気の圧力変動が閾値βよりも小さい場合には、排気弁9が正常復帰したと判定し、吸気の圧力変動が閾値β以上である場合には、排気弁9は復帰に失敗したと判定する。
(ii)吸気弁の復帰判定ロジック
次に、吸気弁8が正常復帰したか否かがどのような判定ロジックにより判定されるかについて説明する。当実施形態において、吸気弁復帰判定部53は、休止気筒の吸気行程を含む所定期間にわたり吸気圧力をスペクトル解析した結果に基づいて、休止気筒の吸気弁8が正常復帰したか否かを判定する。
図10(a)(b)は、クランク角に応じて変化する吸気圧力の波形を示している。具体的に、図10(a)は、全気筒の吸気弁8および排気弁9が開閉駆動される全筒運転時の吸気圧力の波形を示し、図10(b)は、休止気筒の吸気弁8および排気弁9が閉弁状態のまま停止している減筒運転時の吸気圧力の波形を示している。これらの図から理解されるように、全気筒の吸排気弁8,9が開閉駆動される全筒運転時の吸気圧力の波形(図10(a))は、概ね180°CAの周期性を有している。これに対し、休止気筒の吸排気弁8,9が停止される減筒運転時の吸気圧力の波形(図10(b))は、概ね360°CAの周期性を有している。これは、全筒運転時には各気筒2A〜2Dでの燃焼が180°CAずつ位相をずらして行われるのに対し、第1気筒2Aおよび第4気筒2Dが休止される減筒運転時には、燃焼間隔が2倍の360°CAになるからである。
図11(a)(b)は、上記のような全筒運転時および減筒運転時のそれぞれの吸気圧力を、360°CAを1周期とする周波数を基本周波数としてスペクトル解析した結果を示している。各図の横軸は基本周波数に対する次数(1次、2次、3次‥)を示し、縦軸はスペクトル強度を示している。全筒運転時の吸気圧力は180°CAの周期性を有しているため、これをスペクトル解析すると、スペクトル強度は2次のものが大きくなる(図11(a))。一方、減筒運転時の吸気圧力は360°CAの周期性を有しているため、これをスペクトル解析すると、スペクトル強度は1次のものが大きくなる(図11(b))。
図12は、種々の運転条件で吸気圧力をスペクトル解析して得られたデータを、1次のスペクトル強度(1次強度)SP1と2次のスペクトル強度(2次強度)SP2との相関関係を表すように加工したグラフである。このグラフに示される領域Aは、全気筒の吸気弁8および排気弁9が開閉駆動されている場合に得られるデータのプロット領域であり、領域Bは、第1、第4気筒2A,2Dの吸気弁8のみが開閉駆動されている場合(排気弁9は閉弁状態のまま停止している場合)に得られるデータのプロット領域である。また、領域Cは、第1、第4気筒2A,2Dの吸気弁8および排気弁9の双方が閉弁状態のまま停止している場合に得られるデータのプロット領域である。
図12に示すように、領域Aは、2次強度SP2の割合が大きい図12の左上寄りの領域に存在している。これは、領域Aでは全気筒の吸排気弁8,9が開閉駆動されるので、180°CAを1周期とする周波数成分の強度、つまり2次強度SP2の割合が大きくなるからである。これに対し、領域Cは、1次強度SP1の割合が大きい図12の右下寄りの領域に存在している。これは、領域Cでは4気筒のうちの2気筒(第2、第3気筒2B,2C)の吸排気弁8,9だけが開閉駆動されるので、360°CAを1周期とする周波数成分の強度、つまり1次強度SP1の割合が大きくなるからである。
一方で、領域Bは、上述した領域Aおよび領域Cの中間的な領域に存在している。これは、領域Bでは、第2、第3気筒2B,2Cの吸気弁8および排気弁9と、第1、第4気筒2A,2Dの吸気弁8とが開閉駆動され、第1、第4気筒2A,2Dの排気弁9は閉弁状態のまま停止しているので、1次強度SP1も2次強度SP2もそれなりに大きくなるからである。すなわち、第1、第4気筒2A,2Dにおいて排気弁9を閉弁したまま吸気弁8のみを開閉させると、既に説明したとおり、当該気筒2A,2Dの排気行程で圧縮されたガスが吸気弁8の開弁に伴い吸気通路30に逆流する吹き返しが起きるので、この吹き返しが2次強度SP2の増大に寄与し、1次強度SP1と2次強度SP2の双方が大きくなるからである。
なお、図12では、第1、第4気筒2A,2Dの排気弁9のみが開閉駆動されている場合(吸気弁8は閉弁状態のまま停止している場合)のデータは示さなかったが、その場合のプロット領域は、基本的に吸気弁8および排気弁9の双方が閉弁されている場合のプロット領域Cと同様になる。
図12によれば、領域Aと領域Bとはその一部分どうしが重複しているが、領域Cは領域A,Bから完全に分離(独立)している。このため、図12の直線Pのように、領域A,Bと領域Cとの間を通る直線を設定することができる。この直線Pの傾きをa、縦軸の切片をbとすると、直線P上では、1次強度SP1と2次強度SP2とが数式「SP2=a×SP1+b」を満たす関係になる。一方、直線Pよりも左上側に位置する上記領域Aおよび領域Bでは、1次強度SP1と2次強度SP2との関係を「SP2>a×SP1+b」の数式で表すことができ、直線Pよりも右下側に位置する上記領域Cでは、1次強度SP1と2次強度SP2との関係を「SP2<a×SP1+b」の数式で表すことができる。
上記直線Pを表す1次関数(SP2=a×SP1+b)によって規定される値を吸気弁判定閾値とすると、この吸気弁判定閾値を2次強度SP2と比較することにより、休止気筒(第1、第4気筒2A,2D)の吸気弁8が正常復帰したか否かを判定することができる。すなわち、2次強度SP2が上記吸気弁判定閾値(a×SP1+b)よりも大きい、つまり「SP2>a×SP1+b」の関係が成立するということは、休止気筒の吸気弁8および排気弁9がともに開閉駆動されている領域Aの状態か、休止気筒の吸気弁8のみが正常に開閉駆動されている(排気弁9は閉弁状態のまま停止している)領域Bの状態かのいずれかであるから、少なくとも休止気筒の吸気弁8は正常復帰したと判定することができる。逆に、2次強度SP2が上記吸気弁判定閾値(a×SP1+b)よりも小さい、つまり「SP2<a×SP1+b」の関係が成立する場合には、休止気筒の吸気弁8は復帰に失敗した(閉弁状態のまま停止している)と判定することができる。
そこで、当実施形態において、吸気弁復帰判定部53は、吸気圧センサSN3により検出される吸気圧力を休止気筒の吸気行程を含む所定期間にわたって取得し、取得した吸気圧力のデータをスペクトル解析することにより、1次強度SP1と2次強度SP2とをそれぞれ特定する。そして、2次強度SP2が上記吸気弁判定閾値(a×SP1+b)よりも大きい場合には、吸気弁8が正常復帰したと判定し、2次強度SP2が上記吸気弁判定閾値(a×SP1+b)以下である場合には、吸気弁8は復帰に失敗したと判定する。
(5)減筒運転から全筒運転に復帰する際の制御動作
次に、減筒運転から全筒運転への切り替え時に行われる制御動作について、図13〜図15のフローチャートを用いて詳しく説明する。なお、このフローチャートによる制御が開始される前提として、エンジンは減筒運転されているものとする。
図13に示すように、エンジンの減筒運転中、ECU50の運転要求判定部51は、アクセル開度センサSN4およびクランク角センサSN1等から特定されるエンジンの負荷および回転速度に基づいて、減筒運転から全筒運転に切り替える要求があるか否かを判定する(ステップS1)。例えば、運転要求判定部51は、減筒運転に適合する運転条件(負荷および回転速度が比較的低い運転条件)から負荷または回転速度が上昇して全筒運転を行うべき運転条件に移行した場合に、減筒運転から全筒運転への切り替え要求があったと判定する。
上記ステップS1でYESと判定されて全筒運転への切り替え要求が確認された場合、ECU50のバルブ制御部52は、休止気筒(第1気筒2Aおよび第4気筒2D)における吸排気弁8,9の開閉動作を再開させるべく、S−HLA25の弁停止機構25aに復帰指令を出力する(ステップS2)。すなわち、バルブ制御部52は、減筒運転中に閉弁状態のまま停止していた休止気筒の吸排気弁8,9を再び開閉させるべく、S−HLA25の弁停止機構25aに対し、これをロック解除状態からロック状態に切り替える制御信号を出力する(ステップS2)。
次いで、バルブ制御部52は、上記ステップS2での復帰指令によって排気弁9から先に復帰するか否かを判定する(ステップS3)。具体的に、このステップS3での判定は次のようにして行われる。
図5および図6においてTexで示す期間は、当該期間内に復帰指令が出されれば排気弁9から先に(排気弁9→吸気弁8の順に)開閉動作が再開されることを示しており、以下ではこれを第1期間Texという。また、Tinで示す期間は、当該期間内に復帰指令が出されれば吸気弁8から先に(吸気弁8→排気弁9の順に)開閉動作が再開されることを示しており、以下ではこれを第2期間Tinという。これら第1期間Texおよび第2期間Tinは、復帰指令から実際に弁停止機構25aがロック状態に切り替わるのに必要な作動遅れ時間Taを考慮して定められる。具体的には、吸気弁8の開弁開始時期q0から作動遅れ時間Taだけ遡った時点の直後から、排気弁9の開弁開始時期pから作動遅れ時間Taだけ遡った時点までの期間が、上記第1期間Texとされる。また、排気弁9の開弁開始時期pから作動遅れ時間Taだけ遡った時点の直後から、吸気弁8の開弁開始時期q1から作動遅れ時間Taだけ遡った時点までの期間が、上記第2期間Tinとされる。
そして、バルブ制御部52は、第1期間Tex内に復帰指令が出された場合に、排気弁9から先に開閉動作が再開されると判定し、第2期間Tin内に復帰指令が出された場合に、吸気弁8から先に開閉動作が再開されると判定する。例えば、図5のケースでは、復帰指令の出力時点tsが第1期間Texに含まれているので、排気弁9から先に開閉動作が再開されると判定され、図6のケースでは、復帰指令の出力時点tsが第2期間Tinに含まれているので、吸気弁8から先に開閉動作が再開されると判定される。
なお、上記のような判定は、休止気筒である第1気筒2Aおよび第2気筒2Dに対し個別に行われる。すなわち、360°CAの位相差がある第1気筒2Aと第2気筒2Dとでは、復帰指令の出力時点tsに対する上記各期間Tex,Tinの相対位置が360°CAだけずれることになるので、当然、気筒2A,2Dにおいて判定結果が異なることもある。そこで、バルブ制御部52は、第1気筒2Aにおいて先に開閉動作が再開される弁と、第4気筒2Dにおいて先に開閉動作が再開される弁とを、上記の位相差を考慮しつつそれぞれ個別に判定する。
また、図5および図6に示した第1、第2期間Tex,Tinは固定的なものではなく、実際には、エンジン回転速度やエンジンの暖機の進み具合(作動油の温度)に応じて種々変化する。エンジン回転速度が異なれば単位時間あたりに進行するクランク角が異なり、作動油の温度が異なれば作動遅れ時間Taが異なるからである。バルブ制御部52は、復帰指令の出力時点tsにおけるエンジン回転速度や作動油の温度等の諸条件に基づいて上記各期間Tex,Tinを特定し、これを用いて判定を行う。
以上のような手順により吸排気弁8,9の復帰順序が判定されると、その結果に応じて、ステップS4,S5に示す処理(第1および第2の判定処理)のいずれかが実行される。すなわち、上記ステップS3でYESと判定されて排気弁9から先に開閉動作が再開されると予測された場合には、ステップS4に示す第1の判定処理が実行され、上記ステップS3でNOと判定されて吸気弁8から先に開閉動作が再開されると予測された場合には、ステップS5に示す第2の判定処理が実行される。
図14は、上記第1の判定処理の具体的手順を示すサブルーチンであり、図15は、上記第2の判定処理の具体的手順を示すサブルーチンである。なお、上述したように、吸排気弁8,9の復帰順序を判定するステップS3の処理は休止気筒(第1、第4気筒2A,2D)ごとに個別に行われるから、これら第1、第2の判定処理も休止気筒ごとに個別に行われる。例えば、第1気筒2Aおよび第4気筒2Dの両方について排気弁9から先に開閉動作が再開されると予測された場合には、両気筒2A,2Dに対し第1の判定処理が実行される。また、例えば第1気筒2Aでは排気弁9から先に開閉動作が再開されると予測され、かつ第4気筒2Dでは吸気弁8から先に開閉動作が再開されると予測された場合には、第1気筒2Aに対しては第1の判定処理が、第4気筒2Dに対しては第2の判定処理がそれぞれ実行されることになる。ただし以下の説明では、制御の対象が第1気筒2Aおよび第4気筒2Dのどちらであるのかは特に限定しない。このため、第1気筒2Aおよび第4気筒2Dのいずれかであるという意味で、単に休止気筒という場合がある。
まず、排気弁9から先に開閉動作が再開される場合に実行される第1の判定処理について、図14を用いて説明する。この第1の判定処理がスタートすると、ECU50の排気弁復帰判定部54は、休止気筒の吸気弁8の1回目の開弁に伴う吸気の圧力変動を、吸気圧センサSN3の検出値に基づき特定する処理を実行する(ステップS10)。すなわち、図5に示すように、復帰指令の出力時点tsの後で休止気筒が1回目に迎える吸気弁8の開弁開始時期q1を挟んだ所定期間w1の間、吸気圧センサSN3により検出される吸気圧力を調べ、その吸気圧力の波形に基づいて、例えば図8に示したような吸気圧力の上昇幅あるいは上昇率等を演算し、これを吸気の圧力変動として特定する。
次いで、排気弁復帰判定部54は、上記ステップS10で特定された圧力変動(1回目の吸気の圧力変動)が、所定の閾値β(図9)よりも小さいか否かを判定する(ステップS11)。
上記ステップS11でYESと判定されて1回目の吸気の圧力変動が閾値βよりも小さいことが確認された場合、排気弁復帰判定部54は、休止気筒の吸気弁8の2回目の開弁に伴う吸気の圧力変動を、吸気圧センサSN3の検出値に基づき特定する処理を実行する(ステップS12)。すなわち、図5に示すように、復帰指令の出力時点tsの後に休止気筒が迎える2回目の吸気弁8の開弁開始時期q2を挟んだ所定期間w2の間、吸気圧センサSN3により検出される吸気圧力を調べ、その吸気圧力の波形に基づいて吸気の圧力変動を特定する。
次いで、排気弁復帰判定部54は、上記ステップS12で特定された圧力変動(2回目の吸気の圧力変動)が閾値βよりも小さいか否かを判定する(ステップS13)。
上記ステップS13でYESと判定された場合、つまり、上記ステップS10,S12でそれぞれ特定された1回目および2回目の吸気の圧力変動がともに閾値βよりも小さいことが確認された場合、排気弁復帰判定部54は、排気弁9の復帰の成否を表すための排気弁状態フラグF1i(iは1または4)に、排気弁9が正常復帰したことを意味する「1」を入力する(ステップS14)。なお、排気弁状態フラグF1iの添え字iが1または4であることから、F1iとしてはF11およびF14の2種類がある。F11は第1気筒2A用のフラグであり、F14は第4気筒2D用のフラグである。よって、第1気筒2Aについて圧力変動<βが確認された場合には、第1気筒2A用の排気弁状態フラグF11に「1」が入力され、第4気筒2Dについて圧力変動<βが確認された場合には、第4気筒2D用の排気弁状態フラグF14に「1」が入力される。
一方、上記ステップS11またはステップS13でNOと判定された場合、つまり、1回目および2回目の吸気の圧力変動のいずれかが閾値β以上であることが確認された場合、排気弁復帰判定部54は、上記排気弁状態フラグF1iに、排気弁9が復帰に失敗したことを意味する「0」を入力する(ステップS15)。
ここで、図14に示す第1の判定処理では、上述したステップS10〜S15の処理と並行して、次のステップS16〜S19の処理が実行される。すなわち、第1の判定処理がスタートすると、ECU50の吸気弁復帰判定部53は、休止気筒の吸気行程を含む所定期間にわたり吸気圧センサSN3で検出された吸気圧力をスペクトル解析する処理を実行する(ステップS16)。すなわち、図5に示すように、復帰指令の出力時点tsの後で休止気筒が最初に迎える吸気行程とこれに続く圧縮行程とを含む合計360°CAの期間w3の間、吸気圧センサSN3により検出される吸気圧力を調べ、その吸気圧力の波形をスペクトル解析することにより、360°CAを1周期とする周波数成分の強度(1次強度)SP1と、180°CAを1周期とする周波数成分の強度(2次強度)SP2とを特定する。
次いで、吸気弁復帰判定部53は、上記ステップS16で特定された1次強度SP1と2次強度SP2とを用いて、「SP2>a×SP1+b」の関係が満たされるか否か、つまり、1次強度SP1の1次関数で規定される吸気弁判定閾値(a×SP1+b)よりも2次強度SP2が大きいか否かを判定する(ステップS17)。
上記ステップS17でYESと判定されて2次強度SP2が吸気弁判定閾値(a×SP1+b)よりも大きいことが確認された場合、吸気弁復帰判定部53は、吸気弁8の復帰の成否を表すための吸気弁状態フラグF2i(iは1または4)に、吸気弁8が正常復帰したことを意味する「1」を入力する(ステップS18)。なお、吸気弁状態フラグF2i(iは1または4)の使い分けは、上述した排気弁状態フラグF1iと同様である。すなわち、第1気筒2Aについて「SP2>a×SP1+b」の関係が確認された場合には、第1気筒2A用の吸気弁状態フラグF21に「1」が入力され、第4気筒2Dについて「SP2>a×SP1+b」の関係が確認された場合には、第4気筒2D用の排気弁状態フラグF24に「1」が入力される。
一方、上記ステップS16でNOと判定されて2次強度SP2が吸気弁判定閾値(a×SP1+b)以下であることが確認された場合、吸気弁復帰判定部53は、上記吸気弁状態フラグF2iに、吸気弁8が復帰に失敗したことを意味する「0」を入力する(ステップS19)。
次に、吸気弁8から先に開閉動作が再開される場合に実行される第2の判定処理について、図15を用いて説明する。この第2の判定処理がスタートすると、ECU50の排気弁復帰判定部54は、休止気筒の吸気弁8の2回目の開弁に伴う吸気の圧力変動を、吸気圧センサSN3の検出値に基づき特定する処理を実行する(ステップS20)。すなわち、図6に示すように、復帰指令の出力時点tsの後に休止気筒が迎える2回目の吸気弁8の開弁開始時期q2を挟んだ所定期間w2の間、吸気圧センサSN3により検出される吸気圧力を調べ、その吸気圧力の波形に基づいて吸気の圧力変動を特定する。
次いで、排気弁復帰判定部54は、上記ステップS20で特定された圧力変動(2回目の吸気の圧力変動)が閾値βよりも小さいか否かを判定する(ステップS21)。
上記ステップS21でYESと判定されて2回目の吸気の圧力変動が閾値βよりも小さいことが確認された場合、排気弁復帰判定部54は、上述した排気弁状態フラグF1i(iは1または4)に、排気弁9が正常復帰したことを意味する「1」を入力する(ステップS22)。具体的には、第1気筒2Aについて圧力変動<βが確認された場合に、第1気筒2A用の排気弁状態フラグF11に「1」が入力され、第4気筒2Dについて圧力変動<βが確認された場合に、第4気筒2D用の排気弁状態フラグF14に「1」が入力される。
一方、上記ステップS21でNOと判定されて2回目の吸気の圧力変動が閾値βよりも小さいことが確認された場合、排気弁復帰判定部54は、上記排気弁状態フラグF1iに、排気弁9が復帰に失敗したことを意味する「0」を入力する(ステップS23)。
ここで、図15に示す第2の判定処理では、上述したステップS20〜S23の処理と並行して、次のステップS24〜S27の処理が実行される。すなわち、第2の判定処理がスタートすると、ECU50の吸気弁復帰判定部53は、休止気筒の吸気行程を含む所定期間にわたり吸気圧センサSN3で検出された吸気圧力をスペクトル解析する処理を実行する(ステップS24)。すなわち、図6に示すように、復帰指令の出力時点tsの後で休止気筒が最初に迎える吸気行程とこれに続く圧縮行程とを含む合計360°CAの期間w3の間、吸気圧センサSN3により検出される吸気圧力を調べ、その吸気圧力の波形をスペクトル解析することにより、360°CAを1周期とする周波数成分の強度(1次強度)SP1と、180°CAを1周期とする周波数成分の強度(2次強度)SP2とを特定する。
次いで、吸気弁復帰判定部53は、上記ステップS24で特定された1次強度SP1と2次強度SP2とを用いて、「SP2>a×SP1+b」の関係が満たされるか否か、つまり、1次強度SP1の1次関数で規定される吸気弁判定閾値(a×SP1+b)よりも2次強度SP2が大きいか否かを判定する(ステップS25)。
上記ステップS25でYESと判定されて2次強度SP2が吸気弁判定閾値(a×SP1+b)よりも大きいことが確認された場合、吸気弁復帰判定部53は、上述した吸気弁状態フラグF2i(iは1または4)に、吸気弁8が正常復帰したことを意味する「1」を入力する(ステップS26)。具体的には、第1気筒2Aについて「SP2>a×SP1+b」の関係が確認された場合に、第1気筒2A用の吸気弁状態フラグF21に「1」が入力され、第4気筒2Dについて「SP2>a×SP1+b」の関係が確認された場合に、第4気筒2D用の排気弁状態フラグF24に「1」が入力される。
一方、上記ステップS16でNOと判定されて2次強度SP2が吸気弁判定閾値(a×SP1+b)以下であることが確認された場合、吸気弁復帰判定部53は、上記吸気弁状態フラグF2iに、吸気弁8が復帰に失敗したことを意味する「0」を入力する(ステップS27)。
以上のような第1および第2の判定処理により休止気筒に対する吸気弁8および排気弁9の復帰判定が終了すると、フローは図13のステップS6へと移行する。このステップS6において、ECU50の燃焼制御部55は、排気弁状態フラグF11,F14の各値と吸気弁状態フラグF21,F24の各値とを掛け合わせて「1」が得られるか否かを判定する。なお、このステップS6の判定でYES(F11×F14×F21×F24=1)ということは、第1気筒2A用の排気弁状態フラグF11と、第4気筒2D用の排気弁状態フラグF14と、第1気筒2A用の吸気弁状態フラグF21と、第4気筒2D用の吸気弁状態フラグF24とが、いずれも「1」であることを意味するから、休止気筒(第1、第4気筒2A,2D)の吸気弁8および排気弁9は全て正常復帰していることになる。一方、ステップS6の判定でNO(F11×F14×F21×F24=0)ということは、上記各フラグF11,F14,F21,F24の少なくとも1つが「0」であることを意味するから、休止気筒(第1、第4気筒2A,2D)の吸気弁8および排気弁9の中に復帰に失敗したものが存在することになる。
上記ステップS6でYESと判定されて休止気筒の吸気弁8および排気弁9が全て正常復帰したことが確認された場合、燃焼制御部55は、エンジンを減筒運転から全筒運転に移行させる(ステップS7)。すなわち、休止気筒のインジェクタ12および点火プラグ13を作動させて燃料噴射および点火を再開させることにより、全ての気筒2A〜2Dで燃焼が行われる状態に移行させる。なお、図5および図6では、燃料噴射の再開を「INJ」と付記した▼で表し、点火の再開を「IG」と付記した▼で表している。
一方、上記ステップS6でNOと判定されて休止気筒の吸気弁8および排気弁9の中に復帰に失敗したものが存在することが確認された場合、燃焼制御部55は、エンジンの減筒運転を維持する(ステップS8)。すなわち、休止気筒のインジェクタ12および点火プラグ13の作動を停止させて燃焼噴射および点火を禁止し、休止気筒(第1、第4気筒2A,2D)で燃焼が行われない状態を維持する。
(6)作用等
以上説明したとおり、当実施形態では、減筒運転から全筒運転への切り替え要求に伴い弁停止機構25aに復帰指令が出力されると、その後、休止気筒(第1、第4気筒2A,2D)の吸気行程を含む所定期間にわたり検出された吸気圧力をスペクトル解析した結果に基づいて、休止気筒の吸気弁8が開閉可能な状態に正常復帰したか否かが判定されるとともに、休止気筒の吸気弁8が開弁を開始する時期の前後にわたる吸気の圧力変動に基づいて、休止気筒の排気弁9が開閉可能な状態に正常復帰したか否かが判定される。そして、吸気弁8の正常復帰が確認されかつ排気弁9の正常復帰が確認された場合に、休止気筒への燃料供給等が再開されて、エンジンの運転が減筒運転から全筒運転へと切り替えられる。このような構成によれば、吸気弁8および排気弁9の双方の状態を正確に判定することにより、減筒運転から全筒運転への切り替えを安全かつ適正に行うことができるという利点がある。
すなわち、上記実施形態では、休止気筒の吸気弁8が開弁を開始する時期の前後にわたる吸気の圧力変動に基づいて排気弁9の復帰の成否が判定されるので、仮に休止気筒の排気弁9が復帰に失敗した場合に、当該休止気筒内のガスが排気行程中に圧縮された後に吸気弁8の開弁に伴って吸気通路30へと吹き返される(それによって吸気圧力が変動する)ことを利用して、排気弁9が復帰に失敗したことを確実に認識することができる。また、休止気筒の吸気行程を含む所定期間にわたって吸気圧力をスペクトル解析することにより吸気弁8の復帰の成否が判定されるので、仮に休止気筒の吸気弁8が復帰に失敗した場合に、当該吸気弁8の正常時とは異なる周期性が吸気圧力の波形に現れることを利用して、吸気弁8が復帰に失敗したことを確実に認識することができる。
そして、上記のような精度の高い判定により吸気弁8および排気弁9の双方が正常復帰していることが確認された場合に限り、休止気筒への燃料供給等が再開されるので、減筒運転から全筒運転への切り替えを安全かつ適正に行うことができる。例えば、排気弁9が復帰に失敗したにもかかわらず休止気筒への燃料供給等が再開された場合には、休止気筒での燃焼により生じた高温の排気ガスが吸気通路30を逆流する、いわゆるバックファイアが起き、エンジンに重大な影響を及ぼすことが想定される。また、吸気弁8が復帰に失敗したにもかかわらず休止気筒への燃料供給等が再開された場合には、休止気筒内の吸気の不足に起因した失火が起き、供給した燃料が無駄になることが想定される。これに対し、上記実施形態によれば、吸気弁8および排気弁9の双方が正常復帰していなければ燃料供給等が再開されないので、バックファイアや失火等を招くことなく、安全かつ適正に減筒運転から全筒運転へと切り替えることができる。
ここで、上記実施形態のエンジンにおいて、吸気弁8および排気弁9の双方が復帰に失敗した場合(閉弁状態のまま停止している場合)には、そもそも、休止気筒内のガスが吸気通路30に吹き返す現象が生じ得ないので、吸気弁8の開弁に伴って吸気圧力が大きく増大することはなくなる。このため、吸気弁8および排気弁9の双方が復帰に失敗したとしても、圧力変動が大きくなることはなく、排気弁9が復帰に失敗したとは認識されなくなる。しかしながら、このような場合でも、吸気圧力のスペクトル解析により少なくとも吸気弁8は復帰に失敗したと判定されるので、やはり休止気筒への燃料供給等が再開されることはなく、不適切な状況で全筒運転への切り替えが行われるのを確実に防止することができる。
また、上記実施形態では、排気弁9の正常復帰を確認するために、休止気筒の吸気弁8が開弁を開始する時期の前後にわたる吸気の圧力変動が所定の閾値β(図9)と比較され、当該圧力変動が閾値βよりも小さい場合に排気弁9が正常復帰したと判定されるので、圧力変動を閾値βと比較するだけの簡単な手順で、排気弁9の復帰の成否を判定することができる。
特に、上記実施形態において、復帰指令により排気弁9、吸気弁8の順に開閉動作が再開される場合には、図14に第1の判定処理として示したように、復帰指令後1回目に吸気弁8が開弁を開始する時期(図5のq1)の前後にわたる吸気の圧力変動を閾値βと比較する判定が行われる(ステップS10,S11)。ただし、ここでの判定で圧力変動が閾値βよりも小さいことが確認された場合(ステップS11の判定がYESの場合)でも、その時点では排気弁9が正常復帰したとは判定されず、さらに復帰指令後2回目に吸気弁が開弁を開始する時期(図5のq2)の前後にわたる吸気の圧力変動を閾値βと比較する判定が行われる(ステップS12,S13)。そして、ここでの判定で圧力変動が閾値βよりも小さいことが確認された場合(ステップS13の判定がYESの場合)に、はじめて排気弁9が正常復帰したと判定される(ステップS14)。このような構成によれば、例えば減筒運転の継続時間が比較的長かったために復帰指令前の休止気筒の内部圧力が低下していたとしても、そのことが原因で排気弁9が正常復帰したと誤って判定されることが回避され、復帰判定の精度をより高めることができる。
すなわち、エンジンが減筒運転されている間、休止気筒では、吸気弁8および排気弁9の双方が閉弁したままピストン11が往復運動することになるので、その往復運動を通じて、ピストン11と燃焼室10の内壁との隙間からガスが外部に漏れることにより、休止気筒の内部圧力は徐々に低下する。このため、減筒運転の継続時間が比較的長かった場合には、減筒運転中に休止気筒の内部圧力がかなり低下するので、仮に排気弁9が復帰に失敗した(それによって休止気筒内のガスが排気行程中に圧縮された)としても、復帰指令後1回目に吸気弁8が開弁を開始したときに生じる吸気の圧力変動は十分に大きくならない。このため、1回目の吸気弁8の開弁開始時期(図5のq1)の前後にわたる吸気の圧力変動だけに基づいて排気弁9の復帰判定を行った場合には、上記のような減筒運転中のガス漏れにより休止気筒の内部圧力が低下することに起因して、排気弁9の復帰判定の精度が低下すると予想される。そこで、当実施形態では、たとえ1回目の吸気弁8の開弁に伴う吸気の圧力変動が閾値βより小さかった場合でも、その時点では排気弁9が正常復帰したとは判定せず、さらに2回目の吸気弁8の開弁に伴う吸気の圧力変動を調べて閾値βと比較することにより、再び排気弁9の復帰判定を行うようにしている。このように、1回目の吸気弁8の開弁により休止気筒内に十分な吸気を導入した状態で、2回目の吸気弁8の開弁に伴う吸気の圧力変動に基づき排気弁9の復帰判定を行うようにした場合には、圧力変動が起きる前の休止気筒の内部圧力の条件を揃えることができるので、復帰判定の精度をより高めることが可能になる。
一方、復帰指令により吸気弁8、排気弁9の順に開閉動作が再開される場合には、図15に第2の判定処理として示したように、復帰指令後2回目に吸気弁8が開弁を開始する時期(図6のq2)の前後にわたる吸気の圧力変動を閾値βと比較する判定が行われ(ステップS20,S21)、ここでの判定で圧力変動が閾値βよりも小さいことが確認された場合(ステップS21の判定がYESの場合)に、排気弁9が正常復帰したと判定される。このような構成によれば、排気弁9よりも先に吸気弁8が開閉動作を再開したことが原因で生じる吸気の圧力変動により、排気弁9が復帰に失敗したと誤って判定されることが回避されるので、排気弁9の復帰判定の精度を良好に確保することができる。
すなわち、吸気弁8、排気弁9の順に開閉動作が再開されると、復帰指令後1回目に吸気弁8が開弁を開始したときに、その直前まで排気弁9が閉じていたために圧縮された休止気筒内のガスが吸気通路30へと吹き返されることになる。このため、仮に1回目の吸気弁8の開弁に伴う吸気の圧力変動に基づいて排気弁9の復帰判定を行った場合には、排気弁9よりも先に吸気弁8が復帰したことが原因で生じた圧力変動であるにもかかわらず、その圧力変動に基づいて排気弁9が復帰に失敗したと誤って判定される可能性がある。これに対し、上記実施形態では、1回目の吸気弁8の開弁を見過ごして、2回目の吸気弁8の開弁時に排気弁9の復帰判定を行うようにしているので、上記のような誤判定を回避でき、排気弁9の復帰判定の精度を良好に確保することができる。
また、上記実施形態では、吸気弁8の正常復帰を確認するために、休止気筒の吸気行程を含む所定期間中の吸気圧力がスペクトル解析されて、360°CAを周期とする1次周波数成分の強度(1次強度)SP1と、180°CAを周期とする2次周波数成分の強度(2次強度)SP2とが特定され、2次強度SP2が、1次強度SP1の1次関数により規定される吸気弁判定閾値(a×SP1+b)よりも大きい場合に、吸気弁8が正常復帰したと判定される。このような構成によれば、吸気弁8が正常復帰した場合に現れる吸気圧力の変化の周期(180°CA)が復帰に失敗した場合の変化の周期(360°CA)よりも短くなることを利用して、吸気弁8の復帰の成否を精度よく判定することができる。
しかも、1次強度SP1と2次強度SP2とのそれぞれの値を閾値と比較するのでなく、1次強度の1次関数で規定される閾値(吸気弁判定閾値)を2次強度と比較とするようにしたので、エンジンの運転条件等の相違にかかわらず、吸気弁8の復帰判定の精度を良好に確保することができる。すなわち、吸気弁8の状態(正常復帰したか失敗したか)が同じであっても、例えばエンジンの運転条件(回転速度や負荷等)が異なれば、1次強度SP1および2次強度SP2の値は種々変化し得る。このため、1次強度SP1および2次強度SP2の値を直接特定の閾値と比較したのでは、上記のような運転条件等の相違による影響を除去できず、判定精度が低下するものと考えられる。これに対し、上記実施形態では、1次強度SP1と2次強度SP2との相関関係を規定する1次関数(SP2=a×SP1+b)を閾値として用いているので、運転条件等の相違による影響を除外して、より精度よく吸気弁8の復帰の成否を判定することができる。
なお、上記実施形態では、図12に示したスペクトル解析のグラフにおいて、休止気筒の吸気弁8が復帰に失敗した場合に得られるプロット領域Cと、少なくとも吸気弁8が正常に復帰した場合に得られるプロット領域A,Bとの間に、吸気弁判定閾値として用いる直線P(SP2=a×SP1+b)を設定したが、例えば図16に直線P’(SP2=c×SP1+d)として示すように、排気弁9のみが復帰に失敗して吸気弁8は正常に復帰した場合に得られるプロット領域Bの内部を通過するように吸気弁判定閾値を設定してもよい。このようにすれば、例えば領域B内の点Xのようなデータが得られたときに、本来吸気弁8は正常に復帰しているにもかかわらず、2次強度SP2が吸気弁判定閾値以下である(SP2<c×SP1+d)という関係が満たされることにより、吸気弁8が復帰に失敗したと判定され、燃料噴射等の再開が禁止されることになる。しかしながら、上記領域Bは排気弁9が復帰に失敗した場合に得られるプロット領域なので、燃料噴射等の再開が禁止されても問題はない。むしろ、上記のように吸気弁判定閾値を設定することで、排気弁9の復帰の成否が、吸気の吹き返しの有無(吸気の圧力変動)に基づく判定と、吸気圧力のスペクトル解析を用いた判定とにより2重に調べられることになるので、排気弁9の復帰失敗を見逃してしまう可能性をよりゼロに近づけることができる。
また、上記実施形態では、吸気弁8の正常復帰を確認するために、復帰指令後の最初の吸気行程を含む360°CAの期間にわたって検出された吸気圧力をスペクトル解析したが、場合によっては、この360°CAの検出期間中にエンジンの運転条件が大きく変化することもあり得る。このような運転条件の変化が起きると、その影響で吸気圧力が変化して、スペクトル解析の結果に影響を及ぼすおそれがある。そこで、吸気弁8の復帰判定の精度をより高めるには、上記のような運転条件の変化によって生じる吸気圧力の変化傾向を捉え、実際に検出された吸気圧力から当該変化傾向を除いた値をスペクトル解析することが望ましい。ここで、吸気圧力の変化傾向は、例えば、吸気圧センサSN3で検出された吸気圧力の複数の検出値を最小二乗法により直線近似したものを採用することができる。
また、上記実施形態では、4気筒ガソリンエンジンに本発明の制御装置を適用した例について説明したが、本発明の制御装置が適用可能なエンジンの形式はこれに限られない。例えば、6気筒や8気筒など、4気筒以外の多気筒エンジンを対象としてもよく、また、ディーゼルエンジン、エタノール燃料エンジンやLPGエンジン等、他種の内燃機関を対象としてもよい。
さらに、減筒運転時における休止気筒の数を、エンジンの運転条件に応じて変化させるようにしてもよい。例えば、6気筒エンジンの場合、3気筒を休止させる減筒運転と、2気筒を休止させる減筒運転とを、エンジンの運転状態に応じて切り替えることが考えられる。このような2種類の減筒運転のいずれかから6気筒全てが稼働する全筒運転に切り替えられる際に、休止気筒の吸気弁が正常復帰したか否かを判定する場合にも、やはり吸気圧力のスペクトル解析を用いることができる。
例えば、上記のような6気筒エンジンでは、6気筒全てが稼働する全筒運転時には120°CAを1周期とする周波数成分が強くなり、3気筒を休止させる減筒運転時には240°CAを1周期とする周波数成分が強くなり、2気筒を休止させる減筒運転時(この場合はいわゆる2爆1休の燃焼モードになる)には360°CAを1周期とする周波数成分が強くなる。そこで、360°CAを1周期とする周波数成分の強度を1次強度、240°CAまたは120°CAを1周期とする周波数成分を高次強度として、1次強度の1次関数で表される吸気弁判定閾値を高次強度と比較するようにすれば、その比較に基づいて、吸気弁が正常復帰したか否かを判定することができる。