JP2015208295A - 遺伝性疾患の検出方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】本発明は遺伝的疾患の検出方法に関し、具体的には、常染色体劣性遺伝型のシャルコー・マリー・トゥース病(Charcot-Marie-Tooth disease:CMT)の疾患原因遺伝子の検出に関する。【解決手段】本発明の方法は、生物学的サンプルにおけるMME(膜結合性金属エンドプロテイナーゼ:membrane metallo-endopeptidase)遺伝子、FAT3(FAT腫瘍抑制ホモログ:FAT tumor suppressor homolog 3)遺伝子、および/またはSELRC1(Sel1 repeat containing 1)遺伝子の変異を検出することを特徴とする。【選択図】なし

Description

本発明は遺伝性疾患の検出方法に関し、具体的には、常染色体劣性遺伝型のシャルコー・マリー・トゥース病(Charcot-Marie-Tooth disease:CMT)の疾患原因遺伝子の検出に関する。
なお、本発明に関わる研究は鹿児島大学医学部倫理委員会の審査による承認を経て行われており、遺伝子検査を実施したすべての患者およびそれらの家族に対し、本研究に参加するためにインフォームドコンセントを行い、書面にて同意を得ている。
シャルコー・マリー・トゥース病(CMT)は遺伝性運動感覚性ニューロパチー(Hereditary Motor Sensory Neuropathy:HMSN)とも表現され、遺伝性ニューロパチーの中でもっとも代表的な遺伝性疾患である。臨床的には、四肢遠位筋優位の進行性筋力低下、足変形、感覚障害、深部腱反射の低下もしくは消失などを特徴とする。
臨床遺伝学的には、常染色体優性遺伝形式でミエリンの障害が原因の脱髄型のものはCMT1、軸索の障害が原因のものはCMT2と分類され、常染色体劣性遺伝形式でミエリンの障害が原因の脱髄型のものはCMT4 (AR-CMT1)、軸索の障害が原因のものはAR-CMT2、そしてX染色体性のものはCMTXと分類される。脱髄型か軸索型かは、正中神経運動神経伝導速度(MCV)38m/secを境に決定することができる。
また、脱髄型は臨床的に発症年齢や重症度でも分類され、先天性でフロッピーインファント(floppy infant)を呈する最重症型は先天性低髄鞘形成型ニューロパチー(Congenital hypomyelinating neuropathy:CHN)、生後から幼少時期(通常2歳以下)に発症するものはデジェリン・ソッタス病(Dejerine-Sottas syndrome:DSS)に分類される。更に、脱髄型と軸索型の中間的なMCVを呈する症例については中間型と呼ばれている。すなわち、CMTは遺伝的にも臨床的にも多様性のある疾患である。
1991年にLupskiらがPMP22遺伝子の重複をCMT1Aの原因として報告して以来、これまでに少なくとも40以上のCMT原因遺伝子が報告され、例えばCMT4の原因遺伝子の1つとして、FIG4遺伝子が報告されている(特許文献1)。CMT近縁疾患である遺伝性運動性ニューロパチー(hereditary motor neuropathy:HMN)や遺伝性感覚性ニューロパチー(hereditary sensory neuropathy:HSN)、遺伝性感覚性自律神経性ニューロパチー(hereditary sensory and autonomic neuropathy:HSAN)を合わせると、その原因遺伝子の数は65以上にのぼっている。そして、現在報告されているCMT原因遺伝子がコードするタンパク質は、(i)ミエリン構成タンパク質、(ii)ミエリン関連タンパク質転写因子、(iii)ミエリン関連タンパク質の輸送・代謝・処理、(iv)細胞分化・維持、(v)ニューロフィラメント・タンパク質輸送関連、(vi)ミトコンドリア関連、(vii)DNA修復・転写・核酸合成、(viii)イオンチャネル、(iv)アミノアシルtRNA合成酵素など、機能においても多岐にわたることが知られている。
現在、CMT1Aの指標となるPMP22遺伝子の重複検査は、日本においては保険適応によって行われている。その他の既知原因遺伝子の一部についても、米国のAthena diagnostics社で商業的に遺伝子検査が提供されており、日本においても鹿児島大学で検査が行われている。
一方、2005年以降、次世代ゲノムシークエンス(Next-Generation Sequencing:NGS)技術によるゲノム解析技術の進歩とともに、より高速で低コストに遺伝子解析が可能となった。2010年にエクソーム解析により初めてメンデル遺伝性疾患の原因遺伝子が同定されて以来、数多くのヒト遺伝性疾患の病的変異が同定されるようになり、CMTに関しても新しい原因遺伝子が発見されてきている(非特許文献1〜4)。
公表特許公報第2010-525819
Montenegro, G. et al., Ann. Neurol. 69, 464-70 (2011) Soong, B.W. et al., Am. J. Hum. Genet. 92, 422-30 (2013) Ylikallio, E. et al., Hum. Mol. Genet., 22, 2975-83 (2013) Kennerson, M.L. et al., Hum. Mol. Genet. 22, 1404-16 (2013)
CMTの発症頻度はおおよそ2,500人に1人といわれ、病型別の発症頻度についてもいくつかの報告があるが、原因遺伝子が全て同定されていないため、もっとも頻度の高いCMT1A症例(PMP22重複等)を除き、現在の遺伝子診断で原因を同定できる症例は70%以下である。更に、欧米とは異なり、日本では脱髄型のCMT1Aの頻度が低く、軸索型および中間型のCMTでは検査による陽性率はかなり低いものとなっている。
また、これまでに報告されている原因遺伝子の機能が多岐にわたり、疾患のメカニズムは未解明であり、適切な治療方法も未だ見出されていない。
一方、CMTの臨床的診断は、神経内科医もしくは小児科医による診察・検査によって行われ、臨床経過や神経学的所見、血液検査や神経伝導検査、神経画像検査を含む検査所見、家族歴等を考慮して総合的に行われているが、患者によって症状の出方が一様ではないこと等から、確定的な診断は容易ではない。
CMTと類似する症状・経過を有する疾患は多く、緩徐進行性の多発末梢神経障害を呈する症例はすべて鑑別の対象となる。たとえば、慢性炎症性多発神経根炎や多巣性運動ニューロパチー、糖尿病多発ニューロパチー、アルコール性ニューロパチーなどがある。慢性炎症性多発神経根炎や多巣性運動ニューロパチーは免疫療法により治療可能な疾患である。糖尿病多発ニューロパチーやアルコール性ニューロパチーは適切な基礎疾患の治療や生活指導などにより症状の改善や進行抑制などの期待できる。CMT患者はこのような疾患と誤診されることも少なくなく、間違った治療選択をしてしまう危険性がある。正確な診断に基づかずに投薬治療等を行うことで、症状を悪化させる場合も想定される。したがって、CMT患者は遺伝子診断により確定診断されることが望ましい。
従って、原因不明のCMT症例、特に軸索型および中間型のCMTについて新たな原因遺伝子を発見することが、この疾患の診断、予防および治療のために望まれている。原因遺伝子を更に特定することによって、疾患の原因不明がもたらす患者・家族への不安を軽減し、予後を予測し、正しい診療・治療を選択することにつなげることが可能となる。また、疾患の病態解明、創薬研究や遺伝子治療など新しい治療法の開発へとつなげることもできる。
臨床的にCMTと診断された患者について遺伝子検査を行うことの意義としては、
1.診断を確定できる(誤診を減少させる)こと、
2.疾患の予後、合併症などを予測できること、例えば、GJB1変異によるCMTXは、難聴や中枢神経症状を来す症例も報告(Takashima H, et al: Acta Neurol Scand 2003)されており、登山(高地環境)や感染症が中枢神経症状の発現誘発因子であるなどの報告(Henry L, et al: Annals of Neurology 2002)があることから、患者へ具体的な日常生活指導を行うことができること、
3.神経生検などの侵襲的な検査を回避できること、および
4.適切な治療法の選択、治験参加機会を提供することができること
等が挙げられる。PMP22重複によるCMT1A患者に対しては、すでにアスコルビン酸などの治験が行われている。
本発明者等は、大規模な数のCMT症例から原因未同定の症例を抽出し、これまでにない膨大な症例数のエクソーム解析の変異データから、独自に開発した「疾患候補遺伝子絞り込みシステム(Disease candidate gene narrowing-down system)」を用い、常染色体劣性遺伝型CMTの新規原因遺伝子の探索を試みた。
エクソーム解析で1症例あたりに検出される変異数は非同義変異だけでも10,000〜12,000個にのぼるため、その中から疾患原因遺伝子を同定することは決して安易ではない。そのような中、原因遺伝子を同定するために最も頻繁に用いられるのが変異のフィルタリングである。擬陽性の変異コールを除くため、クオリティ値や最低限の読み深度(read depth)などの条件設定でフィルタリングし、さらにその変異の中から、頻度の高いcommon SNPやデータベースに登録されているrare SNP、アミノ酸置換が起こらない同義変異などを除外し、非同義変異、スプライス部位変異、挿入欠失変異だけを抽出すると500〜700個程度まで変異数を絞り込むことができるとされている。しかし、それだけでは不十分であり、その中から疾患関連変異を見つけるためにさらなる戦略が必要である。
フィルタリング後に残された変異の中で、健常者には見出されず、複数の同一疾患者間のみで共有している変異が存在すれば、その変異が病的変異である可能性が非常に高いと推測できる。本発明者等は、この理論に基づき、原因遺伝子を同定する「重ね合わせ戦略(overlap strategy)」を用いた。また、原因遺伝子の同定には、疾患の遺伝形式を十分に考慮して解析を行った。
常染色体優性遺伝形式を想定した場合、罹患者間のみで共通してもつヘテロ接合性変異を探し出す必要があるが、一家系だけの場合は、家系内罹患者同士で同一ハプロタイプブロックを共有していることが多いため、病的変異を絞り込むには限界がある。また、複数家系から原因遺伝子を同定する場合、単一遺伝性で均一な表現型を呈する(homogeneous)疾患であれば、家系間で変異を共有する遺伝子を検索することで、原因遺伝子の同定に成功することも多いが、CMTのように、遺伝的にも臨床的にも不均一な表現型を呈する(heterogeneous)疾患の場合は、原因遺伝子の同定は困難な場合が多い。人種固有のrare SNPが数多く存在することも、それを困難にする一因である。また、以前は連鎖解析などにより候補領域を絞り込み、少数の家系であっても家系内に多くの罹患者を有する大家系であれば原因遺伝子を見出すことができたが、近年日本においては核家族化が進んでおり、家系が小規模であることや、同居していない家族メンバーの遺伝子の協力が得られる機会が少ないなどのリソースの問題もあり、少数の家系では原因遺伝子の特定は困難になってきている。
一方、常染色体劣性遺伝形式を想定した場合、ホモ接合性変異や複合へテロ接合性変異により発症に至るので、これらの変異のみに注目すれば、比較的少数の候補変異の中から共有する変異を絞り込むことができる。また、その中でも特に家系内に血族婚が認められる場合にはホモ接合性変異のみに焦点を当て検索することはきわめて効率的な戦略であると考えられる。
本発明者等は、常染色体劣性遺伝形式に焦点をあて、304例という大規模な数のCMT(もしくは遺伝性ニューロパチー)症例の中から、常染色体優性遺伝形式の家族歴を有する症例を除外した原因未同定179例を選別した。そして、これらの大規模なエクソーム解析変異データから重ね合わせ戦略に基づき独自に開発した上記「疾患候補遺伝子絞り込みシステム」を用いて、同時に少なくとも3つのCMTの新規潜在的原因遺伝子を同定することに成功した。
すなわち、本発明は以下を提供するものである。
1. 生物学的サンプルにおけるMME(膜結合性金属エンドプロテイナーゼ:membrane metallo-endopeptidase)遺伝子、FAT3(FAT腫瘍抑制ホモログ:FAT tumor suppressor homolog 3)遺伝子、および/またはSELRC1(Sel1 repeat containing 1)遺伝子の変異を検出することを特徴とする、常染色体劣性遺伝型シャルコー・マリー・トゥース病の診断のためのデータを取得する方法。
2. 生物学的サンプル中のDNAにおける変異を検出することを特徴とする、シャルコー・マリー・トゥース病の診断のためのデータを取得する方法であって、変異が配列番号1、3または5で示されるヌクレオチド配列における1以上の変異である、上記方法。
3. 変異がミスセンス変異、ナンセンス変異、およびフレームシフト変異のいずれかの非同義変異である、上記1または2記載の方法。
4. サンプル中のMME遺伝子のヌクレオチド配列を決定し、
該配列を配列番号1で示されるヌクレオチド配列と比較し、
変異の存在の有無を決定することを含む、
シャルコー・マリー・トゥース病の診断のためのデータを取得する方法。
5. 変異がMME遺伝子のエクソン7-8間のスプライス供与部位の変異(c.654+1G>A)(配列番号1における37341位のグアニンからアデニンへの変異)、エクソン8上のナンセンス変異(c.661C>T, p.Q221X)(配列番号1における39106位のシトシンからチミンへの変異、配列番号2における221位のグルタミン残基から終止コドンへの変異)、エクソン19上のミスセンス変異(c.1861T>C, p.C621R)(配列番号1における88926位のチミンからシトシンへの変異、配列番号2における621位のシステイン残基からアルギニン残基への変異)の1以上である、上記4記載の方法。
6. サンプル中のFAT3遺伝子のヌクレオチド配列を決定し、
該配列を配列番号3で示されるヌクレオチド配列と比較し、
変異の存在の有無を決定することを含む、
シャルコー・マリー・トゥース病の診断のためのデータを取得する方法。
7. 変異がFAT3遺伝子のエクソン9上のミスセンス変異(c.6122C>A, p.P2041H)(配列番号3における484856位のシトシンからアデニンへの変異、配列番号4における2041位のプロリン残基からヒスチジン残基への変異)、エクソン18上のミスセンス変異(c.11327G>A, p.C3776Y)(配列番号3における530415位のグアニンからアデニンへの変異、配列番号4における3776位のシステイン残基からチロシン残基への変異)の1以上である、上記6記載の方法。
8. サンプル中のSELRC1遺伝子のヌクレオチド配列を決定し、
該配列を配列番号5で示されるヌクレオチド配列と比較し、
変異の存在の有無を決定することを含む、
シャルコー・マリー・トゥース病の診断のためのデータを取得する方法。
9. 変異がSELRC1遺伝子のエクソン2上のミスセンス変異(c.115C>T, p.R39W)(配列番号5における5508位のシトシンからチミンへの変異、配列番号6の39位のアルギニン残基からトリプトファン残基への変異)、エクソン1上のミスセンス変異(c.17A>G, p.D6G)(配列番号5の57位のアデニンからグアニンへの変異、配列番号6における6位のアスパラギン酸残基からグリシン残基への変異)の1以上である、上記8記載の方法。
10. 配列番号1、3および5のいずれかに示すヌクレオチド配列からなる核酸またはその部分核酸である、常染色体劣性遺伝型CMT病の検出のためのプライマーまたはプローブ。
11. 上記10記載のプローブを含む、常染色体劣性遺伝型CMT病の検出のためのDNAチップ。
12. 上記1〜9のいずれか記載の方法において使用するための、生物学的サンプル中のMME、FAT3および/またはSELRC1遺伝子の変異を検出するためのキット。
本発明により、従来はCMTであるとの遺伝子診断が不可能であった症例について、原因遺伝子を特定することが可能となると共に、発症前の個体における将来の発症の可能性を予測すること、また変異がヘテロ接合性であるために発症することはない個体においても、変異遺伝子を保有するとの情報に基づいて後の世代における発症の可能性を予測することを可能とする。更に、変異を有さない遺伝子を用いた遺伝子治療を利用すれば、発症を予防、症状を軽減することが期待される。
原因遺伝子として新たな遺伝子を追加することによって、原因不明がもたらす患者・家族への不安を軽減し、予後を予測し、正しい診療・治療を選択することが可能となり、また、疾患の病態解明、創薬研究や遺伝子治療など新しい治療法の開発にも寄与することができる。
尚、発症前または初期段階での疾患の検出をすることは可能であるが、発症前診断については、遺伝医学関連学会が制定した『遺伝学的検査に関するガイドライン』のV.3.A.発症前診断に記載事項に準じて実施すべきである。
マイクロアレイおよびエクソーム解析を用いた症例の選別の流れを示す。 「疾患候補絞り込みシステム」による常染色体劣性遺伝型変異の絞り込みを説明する。 MME遺伝子変異を有する5家系(患者ID:4590、4229、4309、3676、4185)の家族歴を示す。 MME遺伝子がコードするネプリライシンの模式図と変異部位を示す。 MME遺伝子変異を有する患者(患者ID:3676)の家族歴および家族間でのMME遺伝子のスプライス供給部位におけるヌクレオチド配列の違いを示す。 FAT3遺伝子変異を有する患者(患者ID:3743)の家族歴および家族間でのFAT3遺伝子のヌクレオチド配列およびコードされたアミノ酸の違いを示す。 FAT3遺伝子変異を有する患者(患者ID:3887)の家族歴および家族間でのFAT3遺伝子のヌクレオチド配列およびコードされたアミノ酸の違いを示す。 SELRC1遺伝子変異を有する患者(患者ID:4040)の家族歴および家族間でのSELRC1遺伝子のヌクレオチド配列およびコードされたアミノ酸の違いを示す。 SELRC1遺伝子がコードするアミノ酸配列中のAsp6を含む部分配列の種間比較を示す。 SELRC1遺伝子変異を有する患者(患者ID:4040)の脳MRI像を示す。 SELRC1遺伝子変異を有する患者(患者ID:4348)の家族歴および家族間でのSELRC1遺伝子のヌクレオチド配列およびコードされたアミノ酸の違いを示す。 SELRC1遺伝子がコードするアミノ酸配列中のArg39を含む部分配列の種間比較を示す。 SELRC1遺伝子変異を有する患者(患者ID:4348)の脳MRI像を示す。
本発明は、特に、生物学的サンプルにおけるMME(膜結合性金属エンドプロテイナーゼ:membrane metallo-endopeptidase)遺伝子、FAT3(FAT腫瘍抑制ホモログ:FAT tumor suppressor homolog 3)遺伝子、および/またはSELRC1(Sel1 repeat containing 1)遺伝子の変異を検出することを特徴とする。
本発明において、「生物学的サンプル」とは、被験者に由来するサンプルであって、DNA、mRNAまたはタンパク質を含むものであればいずれでも良い。被験者由来の組織、体液、体毛などの各種の微小サンプルからDNA情報が得られることは当分野で公知である。従って、特に限定するものではないが、サンプル採取における被験者の負担が軽いことを考慮すると、サンプルは唾液、血液等が好適である。被験者は、特に限定するものではないが、特にヒトである。DNAの採取は、当業者であれば容易に行うことができ、例えば被験者の末梢血からGentra Puregene Blood Kit (Qiagen, Tokyo, Japan)を用いてゲノムDNAを抽出することができる。
本発明者等は、被験者において上記の3つの遺伝子のいずれかが変異している場合にCMTが発症し得ることを見出した。これら3つの遺伝子の遺伝形式は、いずれも常染色体劣性遺伝であることが明らかであり、従って、これらの遺伝子の変異によってCMTの症状が現れるのは、ホモ接合性変異、または複合ヘテロ接合性変異が生じている場合である。発症は、これら遺伝子がコードするタンパク質が正常に発現されない、または正常に機能しないために生じるものであり、従って各患者に見出される具体的な変異の内容が特に意義を有するものではない。従って、本発明において検出する遺伝子の変異は、機能的タンパク質の発現ができないものであれば特に限定されないが、例えばエクソン内での塩基の置換、欠失、挿入、重複、スプライス部位における変異等のミスセンス変異、ナンセンス変異、フレームシフト変異等の非同義変異であって、イントロンにおける変異や、アミノ酸の変化が生じない同義変異は含まない。
本発明による検出の対照となる変異は、ホモ接合性変異であっても、複合ヘテロ接合性変異であっても、更に一方の対立遺伝子が正常であるヘテロ接合性変異であっても良い。既に発症した患者においては遺伝子にホモ接合性または複合ヘテロ接合性変異が生じていると考えられる。発症が予想される個体、または保因者の場合には、一方または双方の対立遺伝子に変異がある場合が想定される。変異がホモであるかヘテロであるかは、例えばサンガー法によるDNA配列比較によって決定することができる。
遺伝子の変異は、上記の通り、DNA、mRNA(cDNA)、またはタンパク質の配列を調べることによって検出することができる。
本発明の一態様では、本発明は、生物学的サンプル中のDNAにおける変異を検出することを特徴とする、シャルコー・マリー・トゥース病の診断のためのデータを取得する方法であって、変異が配列番号1、3および5で示されるヌクレオチド配列における1以上の変異である、上記方法を提供する。
本明細書において、「シャルコー・マリー・トゥース病の診断のためのデータを取得」とは、当該疾患であるか否かについて医師による診断の補助となるべきデータであって、サンプル中の遺伝子における変異の存在または不存在について検出し、検出結果を含むデータを得ることを意味する。
MME遺伝子の変異
MME遺伝子は、ヒトの3番染色体長腕(3q25.2)に位置し、コードするタンパク質ネプリライシン(neprilysin:NEP)は疎水性アミノ酸残基のアミノ末端側でタンパク質のペプチド結合を切断する細胞膜結合型のタンパク質分解酵素で、別名エンケファリナーゼ(Enkephalinase)、中性エンドペプチダーゼ24.11とも呼ばれている(Turner, A.J., Isaac, R.E. & Coates, D., Bioessays 23, 261-9 (2001))。NEPは腎臓や骨格筋、中枢神経系、末梢神経系、皮膚など様々な正常組織にも発現しており、特に中枢神経系においては、大脳新皮質内の錐体細胞や脳血管の血管平滑筋にも発現していることが知られている。さらに、NEPはアミロイドβペプチド(ミスフォールディングを起こした異常タンパク質の凝集体)を分解する主要酵素でもあり、その活性低下がアルツハイマー病の発症に関与していることが分かっており、アルツハイマー病への病態解明や創薬研究のキー分子として注目されている酵素の一つである。
機能的MMEタンパク質をコードする遺伝子のヌクレオチド配列を配列番号1に、MMEタンパク質のアミノ酸配列を配列番号2に示す。また、配列番号1に示すMME遺伝子配列中におけるエクソンの位置を以下の表1に示す。
Figure 2015208295
MME遺伝子の変異によって機能的MMEタンパク質が発現されなければCMTを発症することが予測される。従って、本発明の一態様は、
サンプル中のMME遺伝子のヌクレオチド配列を決定し、
該配列を配列番号1で示されるヌクレオチド配列と比較し、
変異の存在の有無を決定することを含む、
シャルコー・マリー・トゥース病の診断のためのデータを取得する方法である。
上記の通り、MME遺伝子における変異は、機能的MMEタンパク質の発現が阻害されるような任意のエクソン上の変異またはスプライス部位の変異を含み、特に限定するものではない。従って、限定するものではないが、本発明者等が確認したMME遺伝子の変異の例は、エクソン7-8間のスプライス供与部位の変異(c.654+1G>A)(配列番号1における37341位のグアニンからアデニンへの変異)、エクソン8上のナンセンス変異(c.661C>T, p.Q221X)(配列番号1における39106位のシトシンからチミンへの変異、配列番号2における221位のグルタミン残基から終止コドンへの変異)、エクソン19上のミスセンス変異(c.1861T>C, p.C621R)(配列番号1における88926位のチミンからシトシンへの変異、配列番号2における621位のシステイン残基からアルギニン残基への変異)である。
今回本発明者等が同定したMME変異を有する症例は、全例とも認知機能低下は確認されていないが、発症年齢が晩期であり、軸索型の運動感覚性ニューロパチーであるという点で、非常に類似する表現型を呈している。NEPの末梢神経系における役割はまだはっきりしていないが、末梢神経系においても異常タンパク質の処理機構の異常が起こり、末梢神経の軸索変性に寄与しているのではないかと推測される。
FAT3遺伝子の変異
FAT3遺伝子は、11番染色体長腕(11q14.3)に位置し、ヒトFAT遺伝子ファミリーの一つであり、FAT1およびFAT2と高いホモロジーを示す遺伝子である。FAT3遺伝子がコードするタンパク質は、EGF様モチーフやカドヘリンモチーフを持ち、細胞接着分子であるカドヘリンスーパーファミリーに属する巨大な分子である(Tanoue, T. & Takeichi, M., J Cell Sci 118, 2347-53 (2005))。Fat3タンパク質やmRNAの発現は、胚性幹細胞や原始神経外胚葉、胎児脳、幼児脳、成人神経組織、前立腺などに確認されていることから、Fat3タンパク質は胚発生期において、軸索を取り巻く細胞外マトリックスの軸索束形成と調整に重要な役割を果たしていると推測されており、FAT3ノックアウトマウスでは、網膜細胞の樹状突起の形態に異常をもたらすことが分かっている。
機能的FAT3タンパク質をコードする遺伝子のヌクレオチド配列を配列番号3に、FAT3タンパク質のアミノ酸配列を配列番号4に示す。また、配列番号3に示すFAT3遺伝子配列中におけるエクソンの位置を以下の表2に示す。
Figure 2015208295
FAT3遺伝子の変異によって機能的FAT3タンパク質が発現されなければCMTを発症することが予測される。従って、本発明の一態様は、
サンプル中のFAT3遺伝子のヌクレオチド配列を決定し、
該配列を配列番号3で示されるヌクレオチド配列と比較し、
変異の存在の有無を決定することを含む、
シャルコー・マリー・トゥース病の診断のためのデータを取得する方法である。
上記の通り、FAT3遺伝子における変異は、機能的FAT3タンパク質の発現が阻害されるような任意のエクソン上の変異またはスプライス部位の変異を含み、特に限定するものではない。従って、限定するものではないが、本発明者等が確認した変異の例はFAT3遺伝子のエクソン9上のミスセンス変異(c.6122C>A, p.P2041H)(配列番号3における484856位のシトシンからアデニンへの変異、配列番号4における2041位のプロリン残基からヒスチジン残基への変異)、エクソン18上のミスセンス変異(c.11327G>A, p.C3776Y)(配列番号3における530415位のグアニンからアデニンへの変異、配列番号4における3776位のシステイン残基からチロシン残基への変異)である。
FAT3変異を有する2症例は、発症年齢は異なるが、2例とも下肢遠位筋は重度に低下しており、共通の特有の中枢神経症状(嚥下障害、舌萎縮)を有している。FAT3タンパク質の末梢神経系での発現の有無は不明であるが、末梢神経細胞分化・維持に関与する可能性もあり、FAT3の変異により末梢神経系における軸索形成や神経突起の伸長などになんらかの障害を来たしていることが考えられる。
SELRC1遺伝子の変異
SELRC1は1番染色体短腕(1p32.3)に位置し、sel1 repeat-containing proteinというタンパク質をコードするが、その機能については全く分かっていない。SELRC1変異を有する2症例は若年発症の軸索型運動感覚ニューロパチーであり、共通の中枢神経症状(小脳失調)とMRI所見(小脳萎縮)を有し、軸索ニューロパチーを伴う脊髄小脳失調(Spinocerebellar ataxia with axonal neuropathy:SCAN1)に類似する表現型であることが特徴的であった。
機能的SELRC1タンパク質をコードする遺伝子のヌクレオチド配列を配列番号5に、SELRC1タンパク質のアミノ酸配列を配列番号6に示す。また、配列番号5に示すSELRC1遺伝子配列中におけるエクソンの位置を以下の表3に示す。
Figure 2015208295
SELRC1遺伝子の変異によって機能的SELRC1タンパク質が発現されなければCMTを発症することが予測される。従って、本発明の一態様は、
サンプル中のSELRC1遺伝子のヌクレオチド配列を決定し、
該配列を配列番号5で示されるヌクレオチド配列と比較し、
変異の存在の有無を決定することを含む、
シャルコー・マリー・トゥース病の診断のためのデータを取得する方法である。
上記の通り、SELRC1遺伝子における変異は、機能的SELRC1タンパク質の発現が阻害されるような任意のエクソン上の変異またはスプライス部位の変異を含み、特に限定するものではない。従って、限定するものではないが、本発明者等が確認した変異の例はSELRC1遺伝子のエクソン2上のミスセンス変異(c.115C>T, p.R39W)(配列番号5における5508位のシトシンからチミンへの変異、配列番号6の39位のアルギニン残基からトリプトファン残基への変異)、エクソン1上のミスセンス変異(c.17A>G, p.D6G)(配列番号5の57位のアデニンからグアニンへの変異、配列番号6における6位のアスパラギン酸残基からグリシン残基への変異)である。
変異の検出は、例えば上記3種の遺伝子それぞれの配列(配列番号1、3、5)に基づいて20〜25塩基の範囲の長さのプライマーを作製し、サンプル中の核酸をPCR法によって増幅した後に増幅した核酸の塩基配列を決定する方法や、変異の可能性のある塩基箇所を含む25塩基長程度のプローブを作製し、プローブを固定化したDNAチップに対してハイブリダイゼーションを行う方法、PCR-SSCP法等があり、当業者であれば本願明細書の記載に基づいて遺伝子の変異を検出することが可能である。変異の検出のために部分核酸を使用する場合、選択すべき配列は、配列番号1、3または5で示される配列中の任意の部分配列であって良く、特に限定するものではない。
また、変異の検出は、上記の当分野で従来使用されているSanger法やマイクロアレイ法に加え、次世代シークエンサー(DNA解析装置)を活用した大量並列塩基配列決定法によって行うことができる。次世代シークエンサー(NGS)を用いた変異検出には、ターゲットリシークエンス(Target Sequencing)やエクソーム解析、全ゲノム解析(whole genome sequence)等が含まれる。ターゲットリシークエンスは、標的となる遺伝子のコーディング領域を含む特定配列を、特殊プローブやプライマーを利用し、キャプチャー・濃縮後にシーケンス解析をする手法であり、MME、FAT3、SELRC1等の遺伝子を標的とした変異の検出が可能である。また、エクソーム解析や全ゲノム解析では、標的となる遺伝子のほぼすべての塩基配列を決定でき、容易に変異の検出ができる。
例えば下記の実施例において実際に確認された変異を検出するためには、MME遺伝子の場合には、654+1G>A、661C>T、または1861T>Cの変異(配列番号1における37341位のグアニンからアデニンへの変異、39106位のシトシンからチミンへの変異、88926位のチミンからシトシンへの変異)を検出可能なように、これらの塩基部位を含むようなプライマーやプローブを作製すれば良い。
FAT3遺伝子の場合には、6122C>A、または11327G>Aの変異(配列番号3における484856位のシトシンからアデニンへの変異、530415位のグアニンからアデニンへの変異)を検出可能なように、プライマーやプローブを作製すれば良い。
SELRC1遺伝子の場合には、115C>T、または17A>Gの変異(配列番号5における5508位のシトシンからチミンへの変異、57位のアデニンからグアニンへの変異)を検出可能なように、プライマーやプローブを作製すれば良い。
より具体的には、例えば配列番号17〜20で示される配列を含む塩基配列を有するプライマーおよびプローブの作製が挙げられる。
mRNAにおいて変異の検出を行う場合には、例えばin situハイブリダイゼーション法等を利用することができる。
タンパク質における変異の検出を行う場合には、例えば変異のないタンパク質に対して特異的な抗体を用い、該抗体との結合親和性の違いを利用して変異の有無を調べるイムノアッセイ法等を利用することができる。
例えば、下記の実施例において実際に確認された変異を検出するためには、例えばMME遺伝子の場合には、Q221XまたはC621Rの変異(配列番号2における221位のグルタミン残基から終止コドンへの変異、621位のシステイン残基からアルギニン残基への変異)を検出可能なようにアッセイ系を設計すれば良い。
FAT3遺伝子の場合には、P2041HまたはC3776Yの変異(配列番号4における2041位のプロリン残基からヒスチジン残基への変異、3776位のシステイン残基からチロシン残基への変異)を検出可能なようにアッセイ系を設計すれば良い。
SELRC1遺伝子の場合には、R39WまたはD6Gの変異(配列番号6における39位のアルギニン残基からトリプトファン残基への変異、6位のアスパラギン酸残基からグリシン残基への変異)を検出可能なようにアッセイ系を設計すれば良い。
本発明はまた、配列番号1、3および5のいずれかに示すヌクレオチド配列からなる核酸またはその部分核酸である、常染色体劣性遺伝型CMT病の検出のためのプライマーおよびプローブを提供する。部分核酸とは、20〜25個の連続ヌクレオチド配列を有する核酸である。本発明のプライマーまたはプローブを用いることにより、被験者由来の生物学的サンプルにおけるDNAに変異が存在するか否かを決定することができる。
本発明はまた、上記のプローブを含む、常染色体劣性遺伝型CMT病の検出のためのDNAチップを提供する。DNAチップは、限定するものではないが、例えばAffymetrix社製GeneChip(登録商標) CustomSeq(登録商標) Resequencing Arrayを用い、それぞれ単独で、または既知の遺伝子と共に搭載することができる。当業者であれば、上記プローブまたはDNAチップを用いた、DNAにおける変異の検出のための手順を容易に理解し、実施することができる。
本発明はまた、上記本発明の方法において使用するための、生物学的サンプル中のMME、FAT3、および/またはSELRC1遺伝子の変異を検出するためのキットを提供する。本発明のキットは、上記のプライマーもしくはプローブ、または上記のDNAチップと、被験者由来のDNAとのハイブリダイゼーションのための試薬、緩衝剤等が含まれる。
ホモ接合性ナンセンス変異を有する4遺伝子
本発明者等は更に、ホモ接合性ナンセンス変異を有する4つの遺伝子ABCC3 (ATP-結合カセット、サブファミリーC (CFTR/MRP)、メンバー3)、ANKRD7 (アンキリンリピートドメイン7)、CNGA4 (環状ヌクレオチド感受性チャネルα4)、COL6A6 (コラーゲン、タイプVI、α6)を、AR-CMTの候補遺伝子として見出した。ABCC3、ANKRD7、CNGA4、COL6A6の遺伝子配列およびアミノ酸配列をそれぞれ配列番号7および8、9および10、11および12、13および14に示す。また、これらの遺伝子配列中におけるエクソンの位置を表4〜7に示す。
Figure 2015208295
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Figure 2015208295
Figure 2015208295
Figure 2015208295
17番染色体上のABCC3遺伝子がコードするタンパク質は、ABC (ATP結合カセット)トランスポーターのスーパーファミリーに属し、ATP加水分解と共役して、細胞内からの排出輸送に関与している。特に、肝臓や腸管においては、グルクロン酸抱合体や有機アニオン系化合物、胆汁酸の輸送・排泄に重要な役割を果たしていることが分かっている。
7番染色体上のANKRD7遺伝子に関しては、アルコール常飲者集団を対象にしたゲノムワイド関連解析(GWAS)で、ANKRD7遺伝子がアルコール依存症のリスク関連遺伝子であることが近年報告されていているが、その機能はまだ解明されていない。
11番染色体上のCNGA4遺伝子は、環状ヌクレオチド依存性チャネルの調節サブユニットをコードしており、嗅覚ニューロンにおいて嗅覚シグナルの伝達や順応に重要な役割をもつことが分かっている。
3番染色体上のCOL6A6遺伝子は、細胞外基質タンパクであるVI型コラーゲンのα6鎖をコードする遺伝子である。COL6A1、COL6A2、COL6A3の変異がUllrich型先天性筋ジストロフィー(OMIM #254090)およびBethlem型ミオパチー(OMIM#158810)の原因になることが分かっているが、COL6A6変異によるヒト表現型へ影響についてはこれまでに報告はない。またVI型コラーゲンは、アルツハイマー病の原因であるアミロイドβタンパク質の凝集を抑え、神経保護作用を有することも報告されている。
ABCC3遺伝子で見られた変異は、エクソン30上のホモ接合型ナンセンス変異(48764928 C>T R1438X)(配列番号7における52711位のシトシンのチミンへの変異、配列番号8における1438位のアルギニン残基の終止コドンへの変異)である。
ANKRD7遺伝子で見られた変異は、ホモ接合型ナンセンス変異(117874773 G>T E105X)(配列番号9の10281位のグアニンのチミンへの変異、配列番号10における105位のグルタミン酸残基の終止コドンへの変異)である。
CNGA4遺伝子で見られた変異は、ホモ接合型ナンセンス変異(6261928 C>T R302X)(配列番号11における5205位のシトシンのチミンへの変異、配列番号12における302位のアルギニン残基の終止コドンへの変異)である。
COL6A6遺伝子で見られた変異は、ホモ接合型ナンセンス変異(130282181 C>T Q112X)(配列番号13における3004位のシトシンのチミンへの変異、配列番号14における112位のグルタミン残基の終止コドンへの変異)である。
従って、上記ABCC3、ANKRD7、CNGA4、および/またはCOL6A6遺伝子の変異を検出することによって、AR-CMTの診断のためのデータを取得することができる。
変異の検出は、特に限定するものではないが、例えばABCC3遺伝子における変異の検出は、17番染色体の遺伝子の変異、例えば48764928 C>T R1438Xを検出することを含む。
ANKRD7遺伝子における変異の検出は、7番染色体上の遺伝子の変異、例えば117874773 G>T E105Xを検出することを含む。
CNGA4遺伝子における変異の検出は、11番染色体上の遺伝子の変異、例えば6261928 C>T R302Xを検出することを含む。
COL6A6遺伝子における変異の検出は、3番染色体上の遺伝子の検出、例えば130282181 C>T Q112Xを検出することを含む。
本発明は更に、配列番号7、9、11および13で示される、上記の4つの遺伝子のいずれかのヌクレオチド配列からなる核酸またはその部分核酸を有するプローブ、これらを含むDNAチップ、これらを含むキットも提供することができる。
CAD遺伝子の変異
本発明者等は更に、CAD(カルバミルリン酸合成酵素(carbamoyl-phosphate synthetase) 2, アスパラギン酸トランスカルバミラーゼ(aspartate transcarbamylase),およびジヒドロオロターゼ(dihydroorotase))遺伝子の翻訳領域にそれぞれ2つのヘテロ接合性ミスセンス変異を有する症例を見出している。CADがコードする蛋白質は、ピリミジンヌクレオチドのde novo生合成経路の最初の3つの酵素機能(C: カルバミルリン酸合成酵素(CPS II) , A: アスパラギン酸カルバモイルトランスフェラーゼ, D: ジヒドロオロターゼ)を有する多酵素複合体である。CADは、末梢神経系における機能は不明であるが、細胞質内に存在し、細胞増殖能と密接な関係があり、胸腺、精巣、脾臓など分裂・増殖の盛んな正常細胞や各種腫瘍細胞において活性が高いことが分かっている。
機能的CADタンパク質をコードする遺伝子のヌクレオチド配列を配列番号15に、CADタンパク質のアミノ酸配列を配列番号16に示す。また、配列番号15に示すCAD遺伝子配列中におけるエクソンの位置を以下の表8に示す。
Figure 2015208295
Figure 2015208295
上記の通り、CAD遺伝子における変異は、機能的CADタンパク質の発現が阻害されるような任意のエクソン上の変異またはスプライス部位の変異を含み、特に限定するものではない。従って、限定するものではないが、本発明者等が確認したCAD遺伝子の変異の例は、c.497C>T, p.T166I(配列番号15における5131位のシトシンのチミンへの変異、配列番号16における166位のトレオニン残基のイソロイシン残基への変異)とc.503G>A, p.R168Q(配列番号15における5137位のグアニンのアデニンへの変異、配列番号16における168位のアルギニン残基のグルタミン残基への変異)のヘテロ接合性変異、c.2501G>A, p.R834H(配列番号15における14691位のグアニンのアデニンへの変異、配列番号16における834位のアルギニン残基のヒスチジン残基への変異)とc.4958T>G, p.L1653R(配列番号15における21139位のチミンのグアニンへの変異、配列番号16における1653位のロイシン残基のアルギニン残基への変異)のヘテロ接合性変異である。
従って、CAD遺伝子の変異を検出することによって、CMTの診断のためのデータを取得することができる。変異の検出は、特に限定するものではないが、例えば上記のc.497C>T, p.T166I、c.503G>A, p.R168Q、c.2501G>A, p.R834H、c.4958T>G, p.L1653Rの1以上の変異を検出することを含む。
本発明は更に、配列番号15で示される、CAD遺伝子のヌクレオチド配列からなる核酸またはその部分核酸を有するプローブ、これらを含むDNAチップ、これらを含むキットも提供することができる。
本発明は更に、上記本発明の方法を用いることによってMME(膜結合性金属エンドプロテイナーゼ:membrane metallo-endopeptidase)遺伝子、FAT3(FAT腫瘍抑制ホモログ:FAT tumor suppressor homolog 3)遺伝子、および/またはSELRC1(Sel1 repeat containing 1)遺伝子に変異があることが判明したCMT患者に対して、これらの遺伝子を導入する遺伝子治療を行うか、あるいはこれらの遺伝子がコードするタンパク質を投与してCMTの症状の軽減等の治療を行う方法も提供することができる。
本発明者等は、血縁関係にない5家系がMME遺伝子に変異を有し、さらに同様の表現型を呈していることから、この遺伝子の変異がCMT疾患の原因であることを見出した。MME変異の種類は1例のホモ接合性ナンセンス変異と3例のスプライス部位変異を含んでいるため、この遺伝子の機能喪失が病態機序に強く関与していると考えられる。また、ホモ接合性ミスセンス変異によってCMTの症状が発現しているFAT3、SELRC遺伝子、ホモ接合性ナンセンス変異によってCMTの症状が発現していると推測されるABCC3、ANKRD7、CNGA4、COL6A6遺伝子も、それらの機能喪失が病態に関与している可能性がある。発症していない個体においても、これらの遺伝子におけるホモまたは複合ヘテロの変異が存在すれば、該当遺伝子の機能が喪失しているため、きわめて高い確率で発症することが考えられる。
MME遺伝子変異を有する1家系、FAT3遺伝子変異を有する2家系、SELRC1遺伝子変異を有する2家系の分離解析(segregation analysis)により、該当遺伝子の変異がその家系内で矛盾なく伝わっていること、つまり家系内罹患者のみが該当部位にホモ接合性変異を有しており、家系内健常者は該当部位に変異を有していないまたは該当部位にヘテロ接合性変異を有していることが実証された(図5〜8)。
上記の遺伝子の変異は、疾患の多様性により、全ての患者において全てが見出されるものではない。しかしながら、CMT疾患は遺伝的に極めて多様な疾患であり、まだ数多くの未知の原因遺伝子があると考えられる。原因遺伝子を多く見つければ見つけるほど遺伝子診断率の更なる向上が期待される。
また、本発明者等は、複数のCMT症例のエクソーム解析の膨大な変異データから、「疾患候補遺伝子絞り込みシステム」によりCMTの多くの潜在的新規原因遺伝子と候補遺伝子を同定した。この手法はCMTに限らず、その他の多くの原因未同定のメンデル遺伝性疾患の原因同定にも応用することができ、今後もさらに多くの疾患の原因遺伝子が同定できると思われる。また、CMTの新規の原因遺伝子が同定されることで、その分子病態機序の理解が深まり、最終的には効果的な治療方法の開発や関連する疾患の解明につながることが期待される。
エクソーム解析による新規原因遺伝子の発見には、これまでいくつかの手法が用いられている。最も多い手法は、連鎖解析情報によってある程度まで原因遺伝子座が絞り込まれている家系で、その候補領域に存在する変異をエクソーム解析で発見するという手法である。ただし、この手法は殆どの場合、単一の原因遺伝子しか発見することが出来ず、連鎖解析により原因遺伝子座が十分に絞り込まれていなければ、エクソーム解析を行っても原因の同定は困難である。連鎖解析には、発端者だけでなく、家系内発症者、家系内健常者を含めできるだけ多くの家系内構成員の遺伝子解析が必要となる。特に近年、少子化や核家族化進んでいることが大きな要因と思われるが、家族構成員が少ない家系、家族に遺伝子検査の協力が得られない家系、孤発例の家系など増えてきており、連鎖解析では候補領域を十分に絞り込むことが出来ず、その状況でエクソーム解析を行っても原因の同定に至らない家系が多く存在している。
本発明は、エクソーム解析の対象が発端者のみで良い点、同時に複数の原因遺伝子を同定・発見できる点に特徴がある。しかしながら、エクソーム解析を対象とする検体数は重要であり、検体数が多いほど原因遺伝子を多数抽出する確率が上がると考えられる。
以下に本発明を実施例によってより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されることを意図するものではない。
対象患者および臨床情報の収集
2007年4月から2012年4月の間、CMT(CMT近縁疾患を含む)と臨床診断された症例、もしくはCMTが疑われた累計で544症例のDNAを収集した。脱髄型CMTの症例については、事前に蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)法によりPMP22遺伝子の重複・欠失がないことを確認した症例のみを収集した。患者の臨床情報は、神経内科医もしくは小児科医が診察・検査を行うことで取得した。得られた情報には、臨床経過や神経学的所見、血液検査や神経伝導検査、神経画像検査を含む検査所見などが含まれる。
原因未同定の非常染色体優性遺伝型CMT症例の選出
544症例の中から以下の4つの手順により、原因未同定でかつ常染色体優性遺伝形式の家族歴を有する症例を除外した症例179例を対象として選出した(図1)。
(1) 544例全例を対象に診断用マイクロアレイDNAチップによる変異スクリーニングを実施し、CMTの既知原因遺伝子(表9)に病的変異を有する症例68例を除外した(N=476)(他の遺伝子が原因のものを除外)。
(2) 476例から、臨床情報が乏しい症例や慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチー(CIDP)が強く疑われる症例、ニューロパチーが軽微で他の神経症候(痙性や固縮、上位運動ニューロン徴候など)が主症状である症例など計172例を除外し、304例を対象にエクソーム解析を行った(他の疾患の可能性のあるものを除外)。
(3) エクソーム解析による変異スクリーニングを実施し、CMTおよびその近縁疾患であるHMN、HSAN、SMA、その他CMTと鑑別を要する遺伝性神経筋疾患の既知原因遺伝子の病的もしくは病的と疑われる変異を有する症例83例は除外した(N=221)(他の遺伝子が原因のものを除外)。
(4) 臨床情報から常染色体優性遺伝型の家族歴を有する症例41例を除外した(N=179)。
Figure 2015208295
Figure 2015208295
診断用マイクロアレイDNAチップ
28種類のCMTおよびCMT近縁疾患の既知原因遺伝子(表9)を搭載した診断用DNAチップ (Affymetrix社製GeneChip(登録商標) CustomSeq(登録商標) Resequencing Array)を独自でデザインし、変異解析を行った。
各遺伝子の配列を入手できるデータベースとして、例えばNCBI(National Center for Biotechnology Information; http://www.ncbi.nlm.nih.gov/gene)から入手できるRefSeq (Reference Sequence database)、UCSC genome databaseから入手できるhg19(GRCh37またはGRCh38)が挙げられる。
表9中の「Gene ID」は、NCBIのデータベース中の各遺伝子のIDを示す。このデータベースからの遺伝子配列情報の入手は以下のようにして行うことができる。
NCBI(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/gene)にアクセス → 検索ボックスにGene symbol(またはGene ID)を入力してsearch → 「NCBI Reference Sequences (RefSeq)」という項目の「Genomic」のなかの「FASTA」をクリック → 全配列が表示される。
各症例について、120ngのDNAを使用した。搭載した遺伝子の全翻訳領域およびスプライス部位をターゲット領域としてプライマーセットを作製し、ゲノムDNAをmultiplex PCRで増幅させ、プロトコール(Affymetrix CustomSeq Resequencing protocol instructions)に従って、プーリング、断片化、ラベリングを行い、チップにハイブリダイゼーション(49℃、60RPM、16時間)を行った後、洗浄後ビオチンで染色してスキャンした。マイクロアレイデータはGeneChip sequence Analysis Software version 4.0 (Affymetrix)を用いて解析した。
エクソーム解析
Gentra Puregene Blood Kit (Qiagen, Tokyo, Japan)を用いて患者の末梢血からゲノムDNAを抽出した。
3μgのゲノムDNAから、イルミナ社のエクソン濃縮キットSureSelect v4+UTR kitを用いてエクソンキャプチャを行い、Hiseq2000 (Illumina, San Diego, California)を用いて、エクソーム解析を行った。配列データ取得後は、生のリード配列をBurrows-Wheeler Alingner (BWA)(Li, H. & Durbin, R. Fast and accurate short read alignment with Burrows-Wheeler transform. Bioinformatics 25, 1754-60 (2009)参照)を用いてヒトリファレンス配列 (National Center for Biotechnology Information reference genome build 37/ UCSC human genome 19) へアライメントを行い、SAMtools(Li, H. et al. The Sequence Alignment/Map format and SAMtools. Bioinformatics 25, 2078-9 (2009)参照)を用いて変異コールを行い、アノテーションはインハウスのスクリプトで行った。
疾患候補遺伝子絞り込みシステム
エクソーム解析から得られた膨大な変異の中から、単一遺伝病の原因変異または原因遺伝子の候補を効率よく同定するために、我々は「疾患候補遺伝子絞り込みシステム」を開発した。このシステムは「フィルタリングシステム」と「共有変異ピックアップシステム(shared variants pickup system)」で構成されている。「フィルタリングシステム」は、症例毎にエクソーム解析でコールされた変異を、変異の種類(SNV(一塩基変異)またはINDEL(微小挿入欠失))、変異タイプ(同義(synonymous)、非同義(non-synonymous)、ナンセンス変異、フレームシフト、スプライス部位変異(splicing site mutation)、イントロン変異、5’/3’-UTR 変異)、遺伝子型(ヘテロ接合型またはホモ接合型)、クオリティ値(quality)、読み深度(read depth)、MAF(マイナーアレル頻度)、そして公共データベースへの登録の有無、などの条件でフィルターをかけることができる。また「共有変異ピックアップシステム」では、複数の罹患者間で共通する変異または変異遺伝子を効率よく抽出するためのシステムである。
変異フィルタリングと重合わせ戦略
前述の原因未同定の非常染色体優性遺伝型(Non-AD)CMT症例179例のエクソーム解析から膨大な数の変異リストを得た。我々は、これらの変異リストから、常染色体劣性遺伝型の新規原因遺伝子を同定する目的で、「疾患候補遺伝子絞り込みシステム」を用い、以下の8つの条件でフィルタリングを行った(図2):
(1) 変異種類:SNV
(2) 変異タイプ:非同義変異(non-synonymous SNV)、フレームシフト/インフレーム変異(framshift/in-frame InDel)、スプライス部位変異 (splicing site mutation)
(3) 遺伝型:ホモ接合性変異もしくは複合ヘテロ接合性変異
(4) 品質(Quality):Phred scaled base quality>20かつPhred scaled mapping quality>20
(5) 被覆度 (Read depth)>10x
(6) 1000 Genomes Project36 のMAF (minor allele frequency)<1%
(7) 1000 genomes database (http://brower.1000genomes.org)かつdbSNP database build 137 (http://www.ncbi.nlm.nih.gov/snp/) に登録のない新規変異
(8) 染色体:常染色体(chrom1〜22)
フィルタリングを行った後、「共有変異ピックアップシステム(shared variants pickup system)」により、2症例以上で共通する変異または変異遺伝子を抽出し、リストアップした。
日本人コントロールデータベースとの照会
1000 Genomes(http://www.1000genomes.org/)やdbSNP (build 137)(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/projects/SNP/)に登録のない変異のなかには、日本人特有の変異が数多く存在する可能性がある。そこで、日本人コントロール約1000検体のエクソーム解析の変異データを蓄積し限定公開しているWEBサイトHuman Genetic Variation Browser(http://www.genome.med.kyoto-u.ac.jp/SnpDB/)を参照し、「疾患候補遺伝子絞り込みシステム」で抽出した変異の頻度情報を参照・確認した。
直接シークエンス法による変異確認
マイクロアレイDNAチップおよびエクソーム解析で検出された既知原因遺伝子の変異はすべてサンガー法で変異を再確認した。また、「疾患候補遺伝子絞り込みシステム」で抽出した変異についてもサンガー法で変異を再確認し、可能な限り分離解析(segregation analysis)を行った。
新規候補遺伝子の抽出
既知のCMT(およびCMT近縁疾患)の原因遺伝子に病的変異を確認できなかった原因未同定の非常染色体優性遺伝型(Non-AD)CMT症例179例のエクソーム解析の変異データから「疾患候補遺伝子絞り込みシステム」を用いてフィルタリングを行った後、2症例以上でホモ接合性変異もしくは複合へテロ接合性変異を共有してもつ19の遺伝子(41個の変異)を見いだした。
これら41個の変異から、日本人コントロールデータベースで登録されている変異を除外し、CMTの新規の潜在的原因遺伝子となる4つの遺伝子、すなわちMME (membrane metallo-endopeptidase)、FAT3 (FAT atypical cadherin 3)、SELRC1 (Sel1 repeat containing 1)、CAD(carbamoyl-phosphate synthetase 2, aspartate transcarbamylase, and dihydroorotase)遺伝子を新たに見いだした(表10)。これらの遺伝子変異を有する症例のそれぞれの臨床的特徴を表11〜14にまとめた。
Figure 2015208295
MME、FAT3、SELRC1の3つの遺伝子は、2家系以上でホモ接合性変異を共有しており、MMEの変異を有する症例は5例存在し、ホモ接合性ナンセンス変異が1例、ミスセンス変異が1例、スプライス部位変異が3例存在した。FAT3、SELRC1遺伝子の変異を有する症例は各々2症例ずつ存在し、すべてホモ接合性ミスセンス変異であった。
表中に示すPolyphen2およびSIFTはいずれも各変異が病原性変異であるか否かを調べ得る予測ツールを意味し、Polyphen2では変異が0.000(良性の可能性が最大)〜0.999(有害の可能性が最大)でスコア付けされる。SIFTでは0.05未満の変異が有害であると予測される。
MME変異を有する5家系
今回得られた症例におけるMME遺伝子の変異は、患者ID:4229, 患者ID:4309, 患者ID:3676の3例がMMEのエクソン7-8間のスプライス供与部位の変異(c.654+1G>A)(配列番号1における37341位のグアニンからアデニンへの変異)であり、患者ID:4590がエクソン8上のナンセンス変異(c.661C>T, p.Q221X)(配列番号1における39106位のシトシンからチミンへの変異、配列番号2における221位のグルタミン残基から終止コドンへの変異)、患者ID:4185がエクソン19上のミスセンス変異(c.1861T>C, p.C621R)(配列番号1における88926位のチミンからシトシンへの変異、配列番号2における621位のシステイン残基からアルギニン残基への変異)であった(表11)。MME遺伝子変異を有する5家系の家族歴を図3に、またこれらの変異部位をMME遺伝子がコードするネプリライシンの模式図と変異部位を図4に示す。
Figure 2015208295
一例として、患者ID:3676(IV-3)のサンガー法による分離解析(配列GTAATTCATgtaagtt(配列番号17、アミノ酸配列はVIHを含む)中の変異の有無の検出)では罹患者である従姉妹(IV-9)にMMEのc.654+1G>Aのホモ接合性変異が確認され、健常である長男(V-1)、(V-5)にMMEのc.654+1G>Aのヘテロ接合性変異(保因者であること)が確認され、家系内で共分離することができた(図5)。
MME変異を有する5症例の臨床情報を検討すると、5例全例が35歳以上の発症であり、3例の両親が血族結婚であった。また、神経伝導検査を施行された4例中3例では正中神経の運動伝導速度が38 m/s以上であり、軸索型と判定された。残りの1例(患者ID:4590)は37.4m/sと中間型を呈していたが、下肢では脛骨神経CMAP (複合筋活動電位:compound muscle action potential)と腓腹神経SNAP (感覚神経活動電位:sensory nerve action potential)はともに導出不能であることから、軸索型の運動感覚性ニューロパチーと臨床診断された。4例全例で、ニューロパチー以外の神経症状は認められなかった。
FAT3変異を有する2家系
今回得られた症例におけるFAT3遺伝子の変異は、患者ID:3743では、FAT3のエクソン9上のミスセンス変異(c.6122C>A, p.P2041H)(配列番号3における484856位のシトシンからアデニンへの変異、配列番号4における2041位のプロリン残基からヒスチジン残基への変異)を、患者ID:3887ではエクソン18上のミスセンス変異(c.11327G>A, p.C3776Y)(配列番号3における530415位のグアニンからアデニンへの変異、配列番号4における3776位のシステイン残基からチロシン残基への変異)が認められた(表12)。
Figure 2015208295
2例とも両親が血族結婚であり、下肢遠位部の筋力は高度に障害され、感覚障害も有していた。患者ID:3743の神経伝導検査では四肢の運動感覚神経はすべて導出されなかった。患者ID:3887の腓腹神経組織像では、有髄・無髄神経線維の高度の減少を認め、再生像の乏しい慢性軸索変性像を認めた。また驚くことに、2例とも嚥下障害、舌萎縮を呈し、共通する脳神経症状を有していた。患者ID:3743のサンガー法による分離解析(配列AGTCCCCTTTG(配列番号18、アミノ酸配列はVPFを含む)中の変異の有無の検出)では健常である父親(IV-1)、母親(IV-2)、妹(V-3)にFAT3のc.6122C>A, p.P2041Hのヘテロ接合性変異(保因者であること)が確認され、家系内で共分離することができた(図6A)。また患者ID:3887のサンガー法による分離解析(配列TGTGTGTCCGC(配列番号19、アミノ酸配列はVCPを含む)中の変異の有無の検出)では健常である父親(I-1)、妹(II-2)にFAT3のc.11327G>A, p.C3776Yのヘテロ接合性変異(保因者であること)が確認され、家系内で共分離することができた(図6B)。
SELRC1変異を有する2例
今回得られた症例におけるSELRC1遺伝子の変異は、患者ID:4348では、SELRC1のエクソン2上のミスセンス変異(c.115C>T, p.R39W)(配列番号5における5508位のシトシンからチミンへの変異、配列番号6の39位のアルギニン残基からトリプトファン残基への変異)を、患者ID:4040ではエクソン1上のミスセンス変異(c.17A>G, p.D6G)(配列番号5の57位のアデニンからグアニンへの変異、配列番号6における6位のアスパラギン酸残基からグリシン残基への変異)が認められた(表13)。
Figure 2015208295
患者ID:4040は両親が血族結婚であった。遺伝子検査前の臨床診断は2例とも軸索型のCMT2で、発症が幼少期である点が共通していた。神経伝導検査では、2例とも正中運動神経伝導速度は50m/sを超えており、軸索型に分類できるものであった。腓腹神経組織像では、2例とも大径有髄線維の著明な減少を認め、患者ID:4348ではオニオンバルブ(onion bulb)形成、軸索変性所見を認め、患者ID:4040では、大径有髄線維が1神経束あたり0-2本と著減していた。また驚くべきことに、2例とも軽度の小脳失調とMRI上軽度の小脳萎縮(図7Cおよび図8C)を呈し、共通する中枢神経症状を有していた。患者ID:4040の脳血流シンチでは小脳の軽度の集積低下を認めた。
患者ID:4040のサンガー法による分離解析(塩基配列ATGGTGGACTTCCAG(配列番号20)、アミノ酸配列MVDFQ(配列番号21)中の変異の有無の検出)では、健常である母親(I-2)、兄(II-1)、姉(II-2)はSELRC1のc.17A>G, p.D6Gのヘテロ接合性変異が確認され、弟(II-4)は同変異を認めず、家系内で共分離することができた(図7A)。
図7Bには、SELRC1遺伝子がコードするアミノ酸配列(配列番号6)中のAsp6を含む部分配列の種間比較を示す。SELRC1遺伝子がコードするタンパク質の6番目のアミノ酸であるAspを含む前後の配列は異種間で比較的保存されており、この配列の保存性が蛋白の機能に重要である可能性が高いことを示唆している。
また、患者ID:4348のサンガー法による分離解析(配列TGCTATCGGCTG(配列番号29)、アミノ酸配列CYRL(配列番号30)中の変異の有無の検出)では、健常である父親(I-1)にSELRC1のc.115C>T, p.R39Wのヘテロ接合性変異(保因者であること)が確認され、母親(I-2)は同変異を認めず、家系内で共分離することができた(図8A)。
図8Bには、SELRC1遺伝子がコードするアミノ酸配列(配列番号6)中のArg39を含む部分配列の種間比較を示す。SELRC1遺伝子がコードするタンパク質の39番目のアミノ酸であるArgを含む前後の配列は異種間で比較的保存されており、この配列の保存性が蛋白の機能に重要である可能性が高いことを示唆している。
CAD変異を有する2例
今回得られた患者ID:4539と患者ID:3353の2症例は、CAD(carbamoyl-phosphate synthetase 2, aspartate transcarbamylase, and dihydroorotase)遺伝子の翻訳領域にそれぞれ2つのヘテロ接合性ミスセンス変異を認め、複合へテロ接合性変異が疑われた(表14)。
Figure 2015208295
患者ID:4539はCAD遺伝子のc.497C>T, p.T166I(配列番号15における5131位のシトシンのチミンへの変異、配列番号16における166位のトレオニン残基のイソロイシン残基への変異)とc.503G>A, p.R168Q(配列番号15における5137位のグアニンのアデニンへの変異、配列番号16における168位のアルギニン残基のグルタミン残基への変異)のヘテロ接合性変異を有していた。また、患者ID:3353はc.2501G>A, p.R834H(配列番号15における14691位のグアニンからアデニンへの変異、配列番号16における834位のアルギニン残基からヒスチジン残基への変異)とc.4958T>G, p.L1653R(配列番号15における21139位のチミンからグアニンへの変異、配列番号16における1653位のロイシン残基からアルギニン残基への変異)のヘテロ接合性変異を有していた。
患者ID:4539の家族歴では両親は罹患しておらず、弟がCMTと診断されていることから常染色体劣性遺伝が考えられた。患者ID:3353の家族歴では、両親が血族結婚であり常染色体劣性遺伝が考えられた。2例とも成人期以降の発症であり神経伝導検査所見から軸索型の運動感覚性ニューロパチーと臨床診断された。2症例とも分離解析は未実施である。CADがコードする蛋白質は、ピリミジンヌクレオチドのde novo生合成経路の最初の3つの酵素機能(C: カルバミルリン酸合成酵素(CPS II), A: アスパラギン酸カルバモイルトランスフェラーゼ, D: ジヒドロオロターゼ)を有する多酵素複合体である。CADは、末梢神経系における機能は不明であるが、細胞質内に存在し、細胞増殖能と密接な関係があり、胸腺、精巣、脾臓など分裂・増殖の盛んな正常細胞や各種腫瘍細胞において活性が高いことが分かっている。
ホモ接合性ナンセンス変異を有する4遺伝子
本発明者等は更に、4つの遺伝子ABCC3 (ATP-結合カセット、サブファミリーC (CFTR/MRP)、メンバー3)、ANKRD7 (アンキリンリピートドメイン7)、CNGA4 (環状ヌクレオチド感受性チャネルα4)、COL6A6 (コラーゲン、タイプVI、α6)を、ホモ接合性ナンセンス変異を有するAR-CMTの候補遺伝子として見出した(表15)。
Figure 2015208295
今回得られた症例においてABCC3遺伝子で見られた変異は、17番染色体上のホモ接合型ナンセンス変異(48764928 C>T R1438X)(配列番号7における52711位のシトシンからチミンへの変異、配列番号8における1438位のアルギニン残基から終止コドンへの変異)であった。
今回得られた症例においてANKRD7遺伝子で見られた変異は、7番染色体上のホモ接合型ナンセンス変異(117874773 G>T E105X)(配列番号9の10281位のグアニンからチミンへの変異、配列番号10における105位のグルタミン酸残基から終止コドンへの変異)であった。
今回得られた症例においてCNGA4遺伝子で見られた変異は、11番染色体上のホモ接合型ナンセンス変異(6261928 C>T R302X)(配列番号11における5205位のシトシンからチミンへの変異、配列番号12における302位のアルギニン残基から終止コドンへの変異)であった。
今回得られた症例においてCOL6A6遺伝子で見られた変異は、3番染色体上のホモ接合型ナンセンス変異(130282181 C>T Q112X)(配列番号13における3004位のシトシンからチミンへの変異、配列番号14における112位のグルタミン残基から終止コドンへの変異)であった。
これらの変異はいずれも既知データベース上への登録はなく、CMT発症との関連が示唆された。

Claims (12)

  1. 生物学的サンプルにおけるMME(膜結合性金属エンドプロテイナーゼ:membrane metallo-endopeptidase)遺伝子、SELRC1(Sel1 repeat containing 1)遺伝子、および/またはFAT3(FAT腫瘍抑制ホモログ:FAT tumor suppressor homolog 3)遺伝子の変異を検出することを特徴とする、常染色体劣性遺伝型シャルコー・マリー・トゥース病の診断のためのデータを取得する方法。
  2. 生物学的サンプル中のDNAにおける変異を検出することを特徴とする、シャルコー・マリー・トゥース病の診断のためのデータを取得する方法であって、変異が配列番号1、3または5で示されるヌクレオチド配列における1以上の変異である、上記方法。
  3. 変異がミスセンス変異、ナンセンス変異、およびフレームシフト変異のいずれかの非同義変異である、請求項1または2記載の方法。
  4. サンプル中のMME遺伝子のヌクレオチド配列を決定し、
    該配列を配列番号1で示されるヌクレオチド配列と比較し、
    変異の存在の有無を決定することを含む、
    シャルコー・マリー・トゥース病の診断のためのデータを取得する方法。
  5. 変異がMME遺伝子のエクソン7-8間のスプライス供与部位の変異(c.654+1G>A)(配列番号1における37341位のグアニンからアデニンへの変異)、エクソン8上のナンセンス変異(c.661C>T, p.Q221X)(配列番号1における39106位のシトシンからチミンへの変異、配列番号2における221位のグルタミン残基から終止コドンへの変異)、エクソン19上のミスセンス変異(c.1861T>C, p.C621R)(配列番号1における88926位のチミンからシトシンへの変異、配列番号2における621位のシステイン残基からアルギニン残基への変異)の1以上である、請求項4記載の方法。
  6. サンプル中のFAT3遺伝子のヌクレオチド配列を決定し、
    該配列を配列番号3で示されるヌクレオチド配列と比較し、
    変異の存在の有無を決定することを含む、
    シャルコー・マリー・トゥース病の診断のためのデータを取得する方法。
  7. 変異がFAT3遺伝子のエクソン9上のミスセンス変異(c.6122C>A, p.P2041H)(配列番号3における484856位のシトシンからアデニンへの変異、配列番号4における2041位のプロリン残基からヒスチジン残基への変異)、エクソン18上のミスセンス変異(c.11327G>A, p.C3776Y)(配列番号3における530415位のグアニンからアデニンへの変異、配列番号4における3776位のシステイン残基からチロシン残基への変異)の1以上である、請求項6記載の方法。
  8. サンプル中のSELRC1遺伝子のヌクレオチド配列を決定し、
    該配列を配列番号5で示されるヌクレオチド配列と比較し、
    変異の存在の有無を決定することを含む、
    シャルコー・マリー・トゥース病の診断のためのデータを取得する方法。
  9. 変異がSELRC1遺伝子のエクソン2上のミスセンス変異(c.115C>T, p.R39W)(配列番号5における5508位のシトシンのチミンへの変異、配列番号6の39位のアルギニン残基のトリプトファン残基への変異)、エクソン1上のミスセンス変異(c.17A>G, p.D6G)(配列番号5の57位のアデニンのグアニンへの変異、配列番号6における6位のアスパラギン酸残基のグリシン残基への変異)の1以上である、請求項8記載の方法。
  10. 配列番号1、3および5のいずれかに示すヌクレオチド配列からなる核酸またはその部分核酸である、常染色体劣性遺伝型CMT病の検出のためのプライマーまたはプローブ。
  11. 請求項10記載のプローブを含む、常染色体劣性遺伝型CMT病の検出のためのDNAチップ。
  12. 請求項1〜9のいずれか1項記載の方法において使用するための、生物学的サンプル中のMME、FAT3、および/またはSELRC1遺伝子の変異を検出するためのキット。
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