JP2015193894A - 成形性および耐水素脆性に優れた高強度薄鋼板およびその製造方法 - Google Patents

成形性および耐水素脆性に優れた高強度薄鋼板およびその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】引張強さTS:1180MPa以上の高強度を有し、成形性、耐水素脆性に優れた高強度薄鋼板およびその製造方法を提供する。
【解決手段】質量%で、C:0.10%以上を含み、ビッカース硬さで350HV以上の硬さを有する薄鋼板を基板とし、基板の少なくとも一方の表面に、コールドスプレー法で堆積層を形成する。これにより、基板表面に質量%で、C:0.10%未満、あるいはさらに他の合金元素をMneq:2.5未満を満足し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有し、気孔率が10%以下で、片面当たり厚さ10〜500μmの軟質の堆積層が形成され、薄板全体として、延性が著しく向上し、TS:1180MPa以上の高強度と、TS×Elが16000MPa%以上となる、成形性に優れ、耐水素脆性に優れた高強度薄鋼板。
【選択図】なし

Description

本発明は、自動車等、輸送機器の構造部材用として好適な薄鋼板に係り、とくに引張強さTS:1180MPa以上の高強度を有しながら、成形性および耐水素脆性に優れた高強度薄鋼板およびその製造方法に関する。
近年、地球環境の保全という観点から、自動車の燃費向上が要望され、自動車車体の軽量化が指向されて、自動車部材への高強度鋼板の適用が進められている。さらに最近では、衝突時の乗員の安全性確保という観点から、引張強さTS:980MPa以上と特に高い強度領域で、かつ板厚の薄い高強度鋼板の自動車構造部材への適用が積極的に進められている。
しかしながら、一般的に、鋼板を高強度化すると、延性や曲げ性などの加工性(成形性)が低下する。そのため、高強度と優れた成形性とを兼備する高強度鋼板が強く要望されている。さらに、引張強さ:1180MPa以上とさらに高い強度領域では、使用環境から鋼板中に侵入する水素により鋼板が脆化する、いわゆる水素脆性や遅れ破壊と呼ばれる現象が生じるため、水素脆性や遅れ破壊を回避できる、耐水素脆性、あるいは耐遅れ破壊性に優れた高強度鋼板が要望されている。
このような要望に対して、例えば特許文献1には、高延性および耐遅れ破壊特性に優れた高強度冷延鋼板の製造方法が記載されている。特許文献1に記載された技術では、重量%で、C:0.05〜0.3%、Si:0.3〜1.6%、Mn:4.0〜7.0%、Al:0.5〜2.0%、Cr:0.01〜0.1%、Ni:0.02〜0.1%、Ti:0.005〜0.03%、B:5〜30ppm、Sb:0.01〜0.03%、およびS:0.008%以下を含む組成の鋼スラブを、1150〜1250℃での温度範囲で加熱後、880〜920℃の温度範囲で熱間仕上圧延を行ない、550〜650℃の温度で巻取り、酸洗したのち、30〜60%の冷間圧下率で冷間圧延し、670〜750℃の温度範囲で60s以上保持して連続焼鈍し、あるいは620〜720℃の温度範囲で1〜25h箱焼鈍し、冷却して、高強度冷延鋼板とするとしている。特許文献1に記載された技術では、4.0〜7.0%とMn含有量を高め、残留オーステナイト(γ)量を増加させ、さらに0.5〜2.0%とAl含有量を高めることにより、オーステナイトの安定性と遅れ破壊の抵抗性を高めることができるとしている。特許文献1に記載された鋼板は、耐遅れ破壊特性に優れ、自動車用補強材及び衝撃吸収材などの曲げ加工を施される部材用として好適であるうえ、一般的な水準のドローイング加工が可能であるとしている。
また、特許文献2には、質量%で、C:0.10〜0.40%、Si:0.6〜3.0%、Mn:1.0〜3.5%、Al:3%以下を含む組成で、面積率でマルテンサイトが95%以上で、鋼板表面から板厚方向に深さ10μmの位置から板厚の1/4深さの位置までの組織が、旧γ粒径、転位密度、マルテンサイト中の固溶C濃度、旧γ粒界の長さに対する旧γ粒界に析出した炭化物の長さの割合、から成る関係式を満足する組織を有し、引張強さが1180MPa以上である耐遅れ破壊性に優れた高強度鋼板が記載されている。特許文献2に記載された技術によれば、引張強さが1180MPa以上と高強度であっても、十分に優れた耐遅れ破壊性を発揮できる鋼板とすることができるとしている。
また、特許文献3には、質量比で、C:0.15〜0.25%、Si:1.0〜3.0%、Mn:1.5〜2.5%、Al:0.01〜0.05%、N:0.005%未満を含む組成の鋼スラブに、1200℃以上に加熱したのち、仕上げ圧延出側温度800℃以上の条件で熱間圧延し、酸洗、冷間圧延し、ついで連続焼鈍に際し、Ac1変態点〜Ac3変態点の温度範囲で30〜1200s保持し、100℃/s以下の平均冷却速度で800〜600℃まで冷却し、引続き100〜1000℃/sの平均冷却速度で100℃以下まで冷却し、ついで、再加熱して100〜300℃の温度範囲で120〜1800s保持する焼戻処理を施す、耐遅れ破壊性に優れた超高強度冷延鋼板の製造方法が記載されている。特許文献3に記載された技術によれば、体積率で40〜85%の焼戻マルテンサイト相、体積率で15〜60%のフェライト相を含む組織を有し、引張強さ1320MPa以上の高強度冷延鋼板が得られるとしている。特許文献3に記載された技術では、VやMo等の合金コストを著しく上昇させる遷移金属元素や、鋳造欠陥を誘引する可能性があるAlを過剰に含まない組成とし、転位密度の高い焼戻しマルテンサイト相を母相とした組織中に転位密度の低いフェライト相を分散させた組織とすることで、耐遅れ破壊特性が改善されるとしている。
また、特許文献4には、質量%で、C:0.10〜0.25%、Si:1.0〜3.0%、Mn:1.0〜3.0%、Al:1.5%以下、Cr:0.003〜2.0%を含み、P:0.010%以下、S:0.002%以下あるいはS:0.004〜0.01%で、[Mn]×1000[S]が2.2以下、または12.5〜25を満足する組成と、残留γを1%以上含み、残留γの平均軸比が5以上、平均短軸長さが1μm以下で、残留γ粒間の再隣接距離が1μm以下である組織を有する、耐水素脆性に優れた引張強さ:1180MPa以上である超高強度薄鋼板が記載されている。特許文献4に記載された技術では、P、Sを著しく低減し、MnとSが適切に制御されているため、耐水素脆性が著しく向上するとしている。
また、特許文献5には、質量%で、C:0.07〜0.25%、Si:0.3〜2.5%、Mn:1.5〜3.0%、Ti:0.005〜0.09%、B:0.0001〜0.01%、Al:2.5%以下、N:0.0005〜0.0100%を含む組成と、フェライトを主とし、1μm以下のブロックサイズより構成されるマルテンサイトを含み、フェライトの体積率が60%以上で、マルテンサイト中のC濃度が0.3〜0.9%である組織を有し、降伏比を0.75以下で、延性及び耐遅れ破壊特性の良好な、引張最大強度900MPa以上を有する高強度鋼板が記載されている。
また、特許文献6には、質量%で、C:0.15〜0.20%、Si:1.0〜2.0%、Mn:1.5〜2.5%、Al:0.01〜0.05%、N:0.005%以下、Ti:0.1%以下、Nb:0.1%以下、B:5〜30ppmを含む組成と、焼戻マルテンサイト相を体積率で97%以上、残留γ相を体積率で3%未満である組織とを有し、引張強さ:1470MPa以上、降伏比:0.80以上である、曲げ加工性および耐遅れ破壊性に優れる高強度冷延鋼板が記載されている。特許文献6に記載された技術では、Siを添加して、マルテンサイト相の加工硬化能を上昇させ、さらには、焼戻中の炭化物の粗大化を抑制し、組織中に炭化物を微細、均一に分散させて、曲げ加工時のき裂の発生、進展を抑制し、曲げ加工性を向上するとしている。
また、特許文献7には、質量%で、C:0.12〜0.25%、Si:1.0〜3.0%、Mn:1.5〜3.0%、Al:0.4%以下を、(Si+Mn)/Mn:0.74〜1.26を満足するように含み、ベイニティックフェライト:50%以上、ポリゴナルフェライト:5〜35%、ポリゴナルフェライトの平均粒径:10μm以下、残留γ:5%以上を含む組織を有する、成形性、耐遅れ破壊性に優れた高強度複合組織鋼板が記載されている。特許文献7に記載された技術では、ベイニティックフェライト中にポリゴナルフェライトを微細に分散することにより、引張強さ:980MPaレベル以上を確保しつつ、なお成形性(伸び−伸びフランジ性)が良好で、スポット溶接性や耐遅れ破壊性にも優れる鋼板とすることができるとしている。
特表2011-523442号公報 特開2013-104081号公報 特開2012-12642号公報 特開2011-190474号公報 特開2011-111671号公報 特開2010-215958号公報 特開2007-321237号公報
特許文献1〜7に記載された技術では、鋼板の化学組成の調整、構成相の分率や形態の調整、あるいは介在物の制御などを介して、耐遅れ破壊特性を向上させるとしている。しかし、特許文献1〜7に記載された技術では、材料の成分設計や組織設計の自由度に大きな制限を設けることになり、しかも得られる特性もある限定された範囲に制限される。
本発明は、かかる従来技術の問題を解決し、引張強さTS:1180MPa以上の高強度を有し、成形性および耐水素脆性に優れた高強度薄鋼板およびその製造方法を提供することを目的とする。ここで「成形性に優れる」とは、強度−伸びバランスTS×Elが16000MPa%以上、好ましくは18000MPa%以上である場合をいう。
本発明者らは、上記した目的を達成するため、引張強さTS:1180MPa以上を有する高強度鋼板の成形性、耐水素脆性に及ぼす各種要因について鋭意検討した。その結果、高強度鋼板を基板にして、該基板の表面に軟質層を形成することにより、すなわち、板厚方向に特性が変化する材料とすることにより、相反する特性である強度と成形性、さらに耐水素脆性の両立が可能となることに見出した。
本発明者らは、高強度を有する基板部とその表面に形成された軟質層を有する材料(鋼板)では、塑性変形に際し、基板部が軟質層により拘束されながら、変形するため、基板部(鋼板)が単体で塑性変形するのに比較して、格段に延性が改善するものと考えた。さらには、軟質層をフェライト相を主相として、低温変態相や粒界を減少することにより、水素の侵入が抑制され、耐水素脆性の向上をも図ることができることに思い至った。また、塑性変形時に大きな歪が付加される表層に成形性に優れる軟質層を形成すれば、塑性変形による亀裂、空孔などの欠陥の生成を抑制でき、水素脆性による破壊を軽減できることに思い至った。
そこで、上記したような板厚方向に特性が変化する材料を製造するに際し、本発明者らは、界面の密着性や生産性の問題から、従来とは異なる製造プロセスを適用することに思い至った。
従来とは異なる製造プロセスとして、本発明者らは、コールドスプレー法に着目した。コールドスプレー法は、表面改質技術の一つであり、低温の高速作動ガスによって粒子を加速させて、基材表面に皮膜を形成するために利用されている(例えば、榊和彦:表面技術、vol.59、N0.8、2008、p.490〜494)。
本発明者らは、コールドスプレー法の製造条件や、使用する基板やスプレーする粒子の性質を厳密に制御して、より厚みのある層構造を形成する手段として利用し、基板表面に堆積層を形成することを思い付いた。そして、本発明者らは、低温の高速作動ガスによって粒子を加速させて、基材表面に衝突させ、堆積させるというコールドスプレー法の技術的特徴から、得られる層(堆積層)が、空隙が少なく所望の厚さに制御でき、かつ優れた界面密着性をも実現できることを見出した。
また、本発明者らは、更なる検討により、引張強さTS:1180MPa以上の高強度を有しながら、TS×Elが16000MPa%以上を有し、成形性、さらには耐水素脆性に優れた薄鋼板とするためには、基板を質量%でC:0.10%以上で、かつビッカース硬さで350HV以上の硬さを有する薄鋼板とすること、および、表面に形成される堆積層が、鉄基粒子を用いてコールドスプレー法により形成された層とし、該堆積層が、片面当たり厚さ:10μm以上500μm以下で、かつ、質量%で、C:0.10%未満、他の合金元素をMneqが2.5未満を満足するように含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成と、気孔率が10面積%以下で、50面積%以上のフェライト相を主相とする組織とを有する、軟質な層であることが必要となることを知見した。
本発明は、かかる知見に基づき、さらに検討を加えて完成されたものである。すなわち、本発明の要旨は、つぎの通りである。
(1)基板部と、該基板部の少なくとも一方の側に堆積層を有してなる薄鋼板であって、前記基板部が、質量%で、C:0.10%以上を含み、ビッカース硬さで350HV以上の硬さを有し、前記堆積層が、鉄基粒子を用いてコールドスプレー法により形成された層で、厚さが片面当たり10μm以上500μm以下であり、質量%で、C:0.10%未満、あるいはさらに他の合金元素を次(1)式
Mneq=Mn+0.26×Si+1.3×Cr+3.5×P+2.68×Mo+180×B+0.37×Ni+0.46×Cu ‥‥(1)
(ここで、Mn、Si、Cr、P、Mo、B、Ni、Cu:各元素の含有量(質量%))
で定義されるMneqが2.5未満を満足するように含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成と、気孔率が10面積%以下でかつ、組織全量に対する比率で50面積%以上のフェライト相を主相とする組織とを有する層であることを特徴とする、引張強さ:1180MPa以上で、成形性および耐水素脆性に優れた高強度薄鋼板。
(2)(1)において、前記堆積層におけるフェライトの平均粒径が、5μm以上であることを特徴とする高強度薄鋼板。
(3)(1)または(2)において、前記基板部と前記堆積層との間に拡散層を有することを特徴とする高強度薄鋼板。
(4)基板の少なくとも一方の表面に堆積層を有する薄鋼板の製造方法であって、前記基板を、質量%で、C:0.10%以上を含み、ビッカース硬さで350HV以上の硬さを有する薄鋼板とし、該基板の少なくとも一方の表面に、質量%でC:0.10%未満、あるいはさらに他の合金元素が次(1)式
Mneq=Mn+0.26×Si+1.3×Cr+3.5×P+2.68×Mo+180×B+0.37×Ni+0.46×Cu ‥‥(1)
(ここで、Mn、Si、Cr、P、Mo、B、Ni、Cu:各元素の含有量(質量%))
で定義されるMneqが2.5未満を満足するように含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成の鉄基粒子を、加熱した作動ガスと混合したのち、スプレーノズルを用いて、スプレーするコールドスプレー法で、片面当たり厚さ:10μm以上500μm以下の堆積層を形成することを特徴とする、引張強さ:1180MPa以上で、成形性、耐水素脆性に優れた高強度薄鋼板の製造方法。
(5)(4)において、前記加熱した作動ガスの温度が、500〜1000℃の範囲の温度であることを特徴とすることを特徴とする高強度薄鋼板の製造方法。
(6)(4)または(5)において、前記鉄基粒子が、粒子径:1〜100μmであることを特徴とする高強度薄鋼板の製造方法。
(7)(4)ないし(6)のいずれかにおいて、前記堆積層を形成したのち、前記薄鋼板に、さらに、焼鈍温度:700℃〜900℃の範囲の温度で焼鈍を行う焼鈍処理を施すことを特徴とする高強度薄鋼板の製造方法。
本発明によれば、引張強さTS:1180MPa以上の高強度と、強度−伸びバランスTS×Elが16000MPa%以上を有し、成形性に優れ、さらに耐水素脆性にも優れた高強度薄鋼板を容易に製造でき、産業上格段の効果を奏する。また、本発明になる高強度薄鋼板を自動車構造部材に適用すれば、自動車構造部材の大幅な軽量化が可能であり、燃費改善が期待できるとともに、より一層の乗員の安全性確保が可能となるという効果もある。
本発明高強度薄鋼板は、基板部と、該基板部の少なくとも一方の側に軟質層を有し、引張強さTS:1180MPa以上を有する薄鋼板である。本発明高強度薄鋼板は、強度−伸びバランスTS×Elが16000MPa%以上となる成形性に優れた薄鋼板である。
上記した強度を確保するために、本発明では、基板部は、質量%で、C:0.10%以上を含み、ビッカース硬さで350HV以上の硬さを有する基板を使用して形成することとする。
なお、以下、組成における質量%は単に%で記す。また、ビッカース硬さは、JIS Z 2244の規定に準拠して測定した値を用いるものとする。また、基板部の硬さは、板厚中央位置で測定した値とする。
基板部は、最終製品(薄鋼板)の強度に大きく影響するため、基板部が十分な強度を保有する必要がある。そのため、基板部は、0.10%以上のCを含有することが好ましい。
Cは、固溶強化により、さらには焼入れ性の向上を介して、鋼を強化する作用を有する重要な元素で、所望の高強度を確保するために0.10%以上の含有を必要とする。Cが0.10%未満では、最終製品(薄鋼板)で引張強さTS:1180MPa以上を確保することが困難になる。このため、基板部のCを0.10%以上に限定した。なお、好ましくは0.15%以上である。基板部のCの上限はとくに限定しないが、所望の溶接性、靭性を確保する観点から、0.7%をその上限とすることが好ましい。
なお、基板部は、上記したC以外の成分はとくに限定する必要はないが、所望の高強度を確保するため、また必要な延性、靭性を確保するために必要な、C以外の合金元素を含有してもよいことはいうまでもない。C以外の合金元素としては、Si、Mn、P、S、Al、N、Ti、Nb、V、Cr、Mo、Ni、Cu、B、Caなどが例示できる。
さらに、基板部は、上記したCを含み、さらにビッカース硬さで350HV以上の硬さを有する。基板部が、ビッカース硬さで350HV未満では、最終製品(薄鋼板)で引張強さTS:1180MPa以上を確保することが困難になる。基板部のビッカース硬さが350HV未満である場合に、最終製品の所望の高強度(TS:1180MPa以上)を確保するためには、軟質である堆積層の厚さを低減する必要があり、その場合、充分な成形性向上の効果を得ることができなくなる。このため、基板部は、ビッカース硬さで350HV以上の硬さを有することとした。
なお、基板部の組織は、とくに限定する必要はないが、所望の強度、延性に応じて適宜決定すればよいが、最終製品(薄鋼板)で引張強さTS:1180MPa以上を確保するためには、マルテンサイト相またはベイナイト相を主相とすることが好ましい。ここでいう「主相」とは、組織全体に対する面積率で50%以上を占める相をいう。ここでいう「マルテンサイト」は、焼戻マルテンサイト、焼戻しをされていないフレッシュマルテンサイトのいずれをも含むものとする。また、主相以外の第二相としては、残留γ相、あるいはさらに、フェライト相、パーライトなどが例示できるが、第二相のフェライト相、パーライトは0%であってもよい。
なお、最終製品(薄鋼板)で引張強さTS:1180MPa以上を安定して確保するためには、基板部が質量%で、C:0.10〜0.70%、Si:0.001〜2.0%、Mn:1.5〜5.0%、P:0.001〜0.1%、S:0.0001〜0.005%、Al:0.001〜1.0%、N:0.001〜0.02%、を含み、あるいはさらにCu:0.01〜1.0%、Ni:0.01〜1.0%、Cr:0.01〜1.0%、Mo:0.01〜1.0%、Ti:0.001〜0.2%、Nb:0.001〜0.2%、V:0.001〜0.2%、B:0.0001〜0.005%のうちから選ばれた1種または2種以上、および/または、Ca:0.0001〜0.01%、REM:0.0001〜0.01%のうちから選ばれた1種または2種、を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有することが好ましい。
さらに、上記した強度−伸びバランスTS×Elを確保するために、本発明では、基板部の少なくとも一方の側(表面)に、堆積層を有する。
本発明では、堆積層は、鉄基粒子を用いてコールドスプレー法により形成された層とする。
基板の表面(基板部の一方の側)に形成される堆積層は、最終製品の成形性に大きく影響するため、高い塑性変形能を有する必要がある。そのため、本発明では、堆積層のC含有量を、C:0.10%未満に限定する。
Cは、固溶強化により鋼を強化する作用を有する元素であるが、焼入れ性を向上させる作用も有する。そのため、Cを0.10%以上と過剰に含有すると、コールドスプレー法による堆積の過程で、過度な硬化や部分的な焼入れによる硬質化が生じ、成形性が低下する場合があり、最終製品で所望の成形性を確保することが困難となる。このため、堆積部のCは0.10%未満に限定した。なお、好ましくは0.08%未満である。成形性の向上という観点からは、Cはできるだけ低減することが好ましいが、溶製技術の観点からその範囲を、0.0005%以上とすることが好ましい。
なお、堆積部は、上記したC以外に、所望の強度−伸びバランスを確保するために、必要に応じてさらに、他の合金元素を次(1)式
Mneq=Mn+0.26×Si+1.3×Cr+3.5×P+2.68×Mo+180×B+0.37×Ni+0.46×Cu ‥‥(1)
(ここで、Mn、Si、Cr、P、Mo、B、Ni、Cu:各元素の含有量(質量%))
で定義されるMneqが2.5未満を満足するように含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有することが好ましい。なお、(1)式でMneqを算出する場合には、(1)式に示された元素が含有されない場合には、零として算出するものとする。
Mneqは、焼入れ性の程度を示す指標であり、Mneq値が大きいほど焼入れ性が高く、低温変態相を生成しやすく、高強度が得やすくなる。Mneqが2.5以上では、硬質な低温変態相が生成され、堆積層の成形性が低下する。
C以外の合金元素は、例えば、Si、Mn、P、S、Al、N、Ti、Nb、V、Cr、Mo、Ni、Cu、B、Ca等、上記したMneqを満足する範囲内で、所望の特性(成形性)に応じて、適宜含有できる。
好ましい堆積層組成としては、具体的に、C:0.10%未満、Si:0.001〜1.0%、Mn:0.01〜2.0%、P:0.001〜0.03%、S:0.0001〜0.003%、Al:0.001〜0.1%、N:0.001〜0.005%を含み、あるいはさらにCu:0.01〜1.0%、Ni:0.01〜1.0%、Cr:0.01〜1.0%、Mo:0.01〜1.0%、Ti:0.001〜0.05%、Nb:0.001〜0.05%、V:0.001〜0.2%、B:0.0001〜0.002%のうちから選ばれた1種または2種以上、および/または、Ca:0.0001〜0.01%、REM:0.0001〜0.01%のうちから選ばれた1種または2種、を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有することが好ましい。
堆積層における上記した成分以外の残部は、Feおよび不可避的不純物からなる。
さらに、堆積層は、上記した組成と、組織全量に対する面積%で50%以上のフェライト相を主相とする組織を有する。ここでいう「主相」は、当該相が組織全量に対する面積%で50%以上を占有する場合をいう。
水素脆性は、材料が使用される環境で、腐食反応などで鋼中に侵入した水素が、格子欠陥、不純物、析出物や介在物、ボイドなどのトラップサイトに捕捉され、内部応力の高い場所などで亀裂を発生し、材料が脆化し破壊に至る現象である。したがって、外部から侵入する水素量を低減させることができれば、水素脆化を大きく改善することが可能となる。
水素の侵入を抑制するためには、水素のトラップサイトを低減し、かつ拡散パスとなる粒界や転位などを減少させることが有効である。このためには、堆積層(軟質層)の組織を、転位密度が少なく、格子欠陥が少なく、塑性変形能に富むフェライト相を主体とすること、すなわち、面積%で50%以上のフェライト相を含む組織に限定した。フェライト相が面積%で50%未満では、低温変態相が多くなり、水素の侵入を抑制することが難しくなり、水素脆化が生じやすくなる。このようなことから、堆積層の組織は、面積%で50%以上のフェライト相を主相とする組織に限定した。
さらに、堆積層におけるフェライト相は、平均粒径を5μm以上と粗大化することが好ましい。これにより、水素の拡散パス、トラップサイトとなる粒界を減少させることができ、耐水素脆性が向上する。
なお、堆積層における主相以外の第二相は、面積率で20%以下のパーライト、ベイナイト相、マルテンサイト相等が例示できる。
また、堆積層は、気孔率が面積%で10%以下の層とする。気孔率が10%超では、水素の侵入を抑制する効果が損なわれるとともに、堆積層の密着性が低下し、塑性加工時に剥離し易くなる。このため、堆積層(軟質層)による、塑性拘束効果、水素脆性を抑制する効果を充分に確保できなくなる。このようなことから、堆積層の気孔率を10%以下に限定し、緻密な構造とした。
また、堆積層の厚さは、片面当たり10μm以上500μm以下とする。堆積層の厚さが10μm未満では、薄すぎて、上記した堆積層(軟質層)の塑性拘束効果や、水素の侵入抑制効果を十分に発揮することが困難となる。一方、500μmを超えて厚くなると、所望の高強度を確保することが難しくなる。このため、堆積層の厚さは10μm以上500μm以下に限定した。なお、好ましくは10〜200μm、さらに好ましくは10〜100μmである。
さらに、本発明高強度薄鋼板では、基板部と堆積層との界面近傍に、界面の密着性を向上させるために、拡散層を有することが好ましい。拡散層は、堆積層を形成した後に、焼鈍処理を施すことにより形成できる。拡散層は、基板部と堆積層の界面付近で熱処理などにより原子の拡散が生じることにより形成され、この領域内では化学成分や硬さが滑らかに変化している。このため、拡散層を有することにより、軟質な堆積層による塑性拘束作用が高められ、成形性をより向上させることができる。
拡散層(相互拡散層)の判定は、例えばグロー放電発光表面分析装置(GDS)や電子線マイクロアナライザ(EPMA)などの解析装置を用いて板厚方向の成分組成の分布を調査し、板厚方向に傾斜状に変化している領域が10μm以上であるものを言う。拡散層を有することで軟質な堆積層による塑性拘束作用がより高められ、より高い成形性を有することができる。
次に、本発明高強度薄鋼板の製造方法について、説明する。
まず、上記した組成の基板部となるような組成の基板を用意する。
基板は、最終製品の強度に大きく影響するため、最終製品の所望強度に対し十分な強度を保持する熱延薄鋼板、または冷延薄鋼板とする必要がある。なお、基板の板厚は、目的や用途に応じて適宜設定できる。基板とする薄鋼板の製造方法としては、公知の薄鋼板の製造方法がいずれも適用でき、とくに限定する必要はないが、例えば、熱延鋼板では、連続鋳造法、造塊法、薄スラブ鋳造法などにより製造されたスラブを、再加熱して粗圧延および仕上圧延を行う熱間圧延を施し、引続き、ランアウトテーブル上で所定の冷却を施し、巻き取る方法が、また、冷延鋼板では、熱延鋼板にさらに、酸洗によりスケールを除去したのち、冷間圧延を施す方法が、例示できる。
使用する基板の組成は、さらに詳しくは、質量%で、C:0.10〜0.70%、Si:0.001〜2.0%、Mn:1.5〜5.0%、P:0.001〜0.1%、S:0.0001〜0.005%、Al:0.001〜1.0%、N:0.001〜0.02%、を含み、あるいはさらにCu:0.01〜1.0%、Ni:0.01〜1.0%、Cr:0.01〜1.0%、Mo:0.01〜1.0%、Ti:0.001〜0.2%、Nb:0.001〜0.2%、V:0.001〜0.2%、B:0.0001〜0.005%のうちから選ばれた1種または2種以上、および/または、Ca:0.0001〜0.01%、REM:0.0001〜0.01%のうちから選ばれた1種または2種、を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成と、TS:1180MPa以上の強度を有する高強度薄鋼板とすることが好ましい。なお、基板とする高強度薄鋼板は、マルテンサイト相、ベイナイト相を主体とする組織を有する鋼板とすることが好ましい。
このような組成、組織、強度を有する薄鋼板を基板とし、該基板の少なくとも一方の表面に、鉄基粒子を用いたコールドスプレー法で所定厚さの堆積層を形成する。
本発明で使用するコールドスプレー法は、鉄基粒子を、所定の温度に加熱した作動ガスと混合して、スプレーノズルから、基板に高速で衝突させて、堆積層を得る方法である。本発明で使用する装置はとくに限定する必要はなく、常用のコールドスプレー装置がいずれも適用できる。
コールドスプレー装置は、例えば、作動ガス供給装置、作動ガス加熱装置(ヒータ)、粒子供給装置、作動ガスと粒子を混合させるスプレーガンおよび粒子を基板に吹き付けるノズル等から構成される。ノズルには、堆積厚さを調整可能なように、走査速度を制御可能な構成が付設されていることはいうまでもない。なお、作動ガスは、通常、ヘリウム、窒素、大気、あるいはそれらの混合ガスを用いる。
本発明では、使用する粒子は鉄基粒子とする。使用する鉄基粒子は、質量%でC:0.10%未満で、あるいはさらに他の合金元素を、次(1)式
Mneq=Mn+0.26×Si+1.3×Cr+3.5×P+2.68×Mo+180×B+0.37×Ni+0.46×Cu ‥‥(1)
(ここで、Mn、Si、Cr、P、Mo、B、Ni、Cu:各元素の含有量(質量%))
で定義されるMneqが2.5未満を満足するように含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成の鉄基粒子とする。なお、(1)式を計算するに際しては、表示された元素のうち、含有しない元素については零として計算するものとする。
本発明高強度薄鋼板では、優れた成形性を確保するため、形成される堆積層には、基板部に対して充分に高い塑性変形能を有することが要求される。このため、コールドスプレー時に鉄基粒子を基板に衝突させて、高温状態で堆積する際に、あるいはコールドスプレー後の熱処理時に、低温変態相などの硬質な組織が発現することを回避する必要がある。このようなことから、本発明では、使用する鉄基粉末を、C:0.10%未満で、あるいはさらに他の合金元素をMneqが2.5未満を満足するように含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有する鉄基粉末とした。ここでいう「Mneq」は、鋼の焼入れ性を示す指標で、この値が大きいほど焼入れ性が高く、コールドスプレー処理あるいは引続く熱処理を施され、冷却された後に、高い硬さを示しやすくなる。
鉄基粉末のC含有量が、0.10%以上では、堆積層が硬質化するとともに、塑性変形能が著しく低下し、堆積層による成形性向上効果が充分に発揮できない。また、鉄基粉末のMneqが2.5以上となると、C:0.10%未満であっても、硬化する部分が生じ、延性が著しく低下し、堆積層による成形性向上効果が充分に発揮できない。このようなことから、使用する鉄基粒子は、C:0.10%未満で、あるいはさらに他の合金元素をMneqが2.5未満を満足するような鉄基粉末とした。なお、鉄基粒子の組成は、粒子全体の平均的な値を用いるものとする。
なお、使用する鉄基粒子は、コールドスプレー法で形成された堆積層が上記した堆積層組成が得られるような組成を有する粒子とする。具体的には、C:0.10%未満、Si:0.001〜1.0%、Mn:0.01〜2.0%、P:0.001〜0.03%、S:0.0001〜0.003%、Al:0.001〜0.1%、N:0.001〜0.005%を含み、あるいはさらにCu:0.01〜1.0%、Ni:0.01〜1.0%、Cr:0.01〜1.0%、Mo:0.01〜1.0%、Ti:0.001〜0.05%、Nb:0.001〜0.05%、V:0.001〜0.2%、B:0.0001〜0.002%のうちから選ばれた1種または2種以上、および/または、Ca:0.0001〜0.01%、REM:0.0001〜0.01%のうちから選ばれた1種または2種、を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有する粒子とすることが好ましい。
また、使用する鉄基粒子は、粒子径:1〜100μmであるものとする。
使用する粒子の径が100μmを超えて大きい場合には、コールドスプレー法により形成される堆積層中に比較的に大きな空隙を有するようになり、基板部との密着性が低下する。このため、堆積層による塑性拘束作用が充分に得られない。粒子径が1μm未満と小さい場合には、スプレーによる直進性が損なわれたり、短時間あたりの堆積量が低下するなど、所望の堆積層が充分に形成されない。
このため、使用する鉄基粒子の粒子径を1〜100μmの範囲に限定した。なお、好ましくは10〜80μmである。ここで、「粒子径」とは、例えばレーザ回折・散乱法などを用いて粒度分布測定を行ない、粒径と累積(積算)個数分布の関係で、累積個数が50%となる粒子径(メジアン径:d50)をいう。
つぎに、本発明で適用するコールドスプレー条件について説明する。
本発明で適用するコールドスプレー法は、鉄基粒子を、加熱した作動ガスと混合したのち、スプレーノズルを用いて、基板表面にスプレーして、堆積層を形成する。
使用する作動ガスの温度は、500〜1000℃の範囲の温度とする。
作動ガスの温度が、500℃未満と低いと、粒子に充分な運動エネルギーが付与されず、充分な厚さの堆積層を形成できない。一方、作動ガスの温度が1000℃超と高い場合には、鉄基粒子が過度に軟質化したり、あるいは溶融するため、所望厚さの堆積層が形成できない。このため、作動ガスの温度は500〜1000℃の範囲の温度とする。なお、ここで言う「作動ガス温度」とは、スプレーノズル入口での温度である。
また、作動ガスの圧力は、緻密な堆積層を形成するという観点から、1MPa以上、好ましくは3MPa以上とすることが好ましい。なお、ここでいう「作動ガスの圧力」とは、スプレーノズル入口での圧力である。なお、作動ガスの圧力は、粒子の衝突速度が、200〜1000m/s、もしくはそれ以上となるように選定することが好ましい。
コールドスプレー法で形成する堆積層は、片面当たり10μm以上500μm以下の厚さとすることが好ましい。堆積層の厚さが10μm未満では、上記した水素の鋼中への侵入抑制効果や、水素脆性によるき裂の発生抑制効果が十分に得られない。一方、500μm超えでは、軟質な層が多くなりすぎて、所望の最終製品の強度を確保することが困難となる。
上記したように、堆積層を形成したのち、本発明では、さらに、焼鈍温度:700〜900℃の範囲の温度で焼鈍処理を施すことが好ましい。
堆積層と基板部との密着性を向上するため、薄鋼板に焼鈍処理を施すことが好ましい。焼鈍処理を施すことにより、堆積層と基板部の界面近傍で、原子の相互拡散が行われ、拡散層を形成し、界面の密着性を効果的に高めることができる。焼鈍温度が700℃未満と低い場合には、十分に原子の拡散が行われず、さらに基板部が焼戻により強度が低下する場合がある。一方、焼鈍温度が900℃を超えて高い場合には、原子の拡散量が大き過ぎて、基板部と堆積層の間の組成差が認められなくなり、所望の塑性拘束効果を得ることができなくなる。このようなことから、焼鈍処理の温度は700〜900℃の範囲の温度に限定することが好ましい。なお、焼鈍処理では、基板の強度、延性を調整する目的で、温度、冷却条件を適宜選択することができる。
また、堆積層を形成した後に、表面の平滑化や形状矯正などを目的として、圧下率:10%未満の冷間圧延を施してもよい。
上記した構成の高強度薄鋼板は、引張強さTS:1180MPa以上で、強度−伸びバランスTS×Elが16000MPa%以上となる薄鋼板である。自動車構造部品などへの適用を考えた場合には、高い延性が必要であり、強度−延性バランスTS×Elで16000MPa%以上を有する必要がある。
以下、実施例に基づき、さらに本発明について説明する。
基板用として、表1に示す組成の薄鋼板を準備した。これら鋼板は、真空溶解炉で溶製し、鋳造して鋼塊とし、熱間圧延と、その後の冷却により、あるいは熱間圧延により得られた熱延板にさらに熱処理を施し、あるいは熱延板に酸洗と、冷間圧延とさらに焼鈍を施して、製造された薄鋼板である。
なお、基板として用いる薄鋼板について、組織、引張特性、硬さを調査した。
基板として用いる薄鋼板から、組織観察用試験片を採取し、圧延方向に平行な板厚断面を観察面として、研磨、腐食(腐食液:3vol.%ナイタール)し、走査型電子顕微鏡(SEM)(倍率:3000倍)で10視野観察し、組織を同定し、画像処理して組織分率(面積%)を算出した。
なお、基板として用いる薄鋼板について、板厚方向中央部が観察面となるように、X線回折用試験片を採取し、バフ研磨後に化学研磨を行って、X線回折を行ない、残留オーステナイト(γ)相の含有量を測定した。得られた回析結果から、γ相の(200)面、(220)面、(311)面とα鉄の(220)面、(211)面のピークの積分強度を用いて、すべての組合せについて強度比を算出し、これらの平均値を残留γ量とした。
また、基板として用いる薄鋼板から、圧延方向と直角方向にJIS5号引張試験片を採取し、JIS Z 2241の規定に準拠して、クロスヘッド速度:20mm/minで引張試験を実施し、引張特性(引張強さTS、全伸びEl)を測定した。
また、基板として用いる薄鋼板から、硬さ測定用試験片を採取し、ビッカース硬度計(試験力:10N)を用いて、JIS Z 2241に準拠して板厚1/4位置でビッカース硬さHVを、5点測定し、算術平均して当該鋼板の硬さとした。
得られた結果を表1に併記した。
Figure 2015193894
さらに、コールドスプレー法で、堆積層形成用として用いる鉄基粒子として、表2に示す組成を有する鉄基粒子(ガスアトマイズ製粒子)を準備した。なお、使用する鉄基粒子は、粉砕、篩いによる分級を繰返して、0.2〜200μm範囲の所定の粒子径となるように調整したものを使用した。なお、粒子径は、レーザ回折・散乱法を用いて粒度分布測定を行なって求めた。
表1に示す基板の表面に、表2に示す鉄基粒子を用いたコールドスプレー法で堆積層を形成した。作動ガスを窒素ガスとし、該作動ガスをコールドスプレー装置のヒータで表3に示す温度に加熱し、加熱した作動ガスに、コールドスプレー装置の粒子供給装置から鉄基粒子を供給して混合し、スプレーノズルで、基板に吹き付けた。なお、作動ガス圧は3MPa一定とした。また、所定の堆積層厚となるように、機械制御でノズルの走査速度を調整した。なお、一部の鋼板については表3に示す熱処理(加熱後空冷)を施した。
得られた鋼板(薄鋼板)について、組織観察、引張試験、硬さ試験、遅れ破壊試験を実施した。なお、堆積層形成後の鋼板板厚、堆積層厚さ、気孔率についても測定した。なお、基板部、堆積層の組成は、粒子組成とほとんど変化なかったので省略した。
試験方法はつぎのとおりとした。
(1)組織観察
得られた鋼板(薄鋼板)から、組織観察用試験片を採取し、圧延方向断面を研磨、腐食(腐食液:ナイタール液)して、光学顕微鏡(倍率:1000倍)または走査型電子顕微鏡(倍率:3000倍)を用いて、主として堆積層の組織を観察し、組織の同定および、画像処理を用いてフェライト相の組織分率を算出した。なお、基板部の組織は、高温での熱処理を施されたもの以外は、ほぼ堆積層形成前と同じであった。
なお、堆積層の気孔率は、組織写真から、気孔部を同定し、画像処理で、面積率を求めた。
また、堆積層形成後の板厚は、得られた鋼板の10箇所で代表し、マイクロメータで測定し、その算術平均を当該鋼板の板厚(総厚さ)とした。
また、得られた鋼板の堆積層の厚さは、得られた鋼板の10箇所で代表し、その断面を板厚方向に電子線マイクロアナライザーで元素分析し、堆積層の成分組成から基板部の成分組成に変化する遷移領域の中央位置を堆積層と基板部との境界と定義し、堆積層の厚さをそれぞれ測定し、その算術平均を当該鋼板の堆積層厚とした。
(2)引張試験
得られた鋼板(薄鋼板)から、圧延方向と直角方向にJIS5号引張試験片を採取し、JIS Z 2241の規定に準拠して、クロスヘッド速度:20mm/minで引張試験を実施し、引張特性(引張強さTS、全伸びEl)を測定した。
(3)硬さ試験
得られた鋼板(薄鋼板)から、硬さ測定用試験片を採取し、ビッカース硬度計(試験力:10N)を用いて、JIS Z 2241に準拠して測定した。なお、測定位置は、基板部では基板(堆積層形成前の状態)の板厚方向1/4位置相当箇所で、堆積部では堆積による板厚増加分の1/2に相当する箇所とした。各箇所でそれぞれ5点、ビッカース硬さHVを測定し、算術平均して当該箇所の硬さとした。
(4)遅れ破壊試験
得られた鋼板(薄鋼板)から、遅れ破壊試験片(大きさ:15mm×120mm)を採取し、4点曲げにより鋼板の降伏強さの0.9倍に相当する外力を付与した状態で、浸漬液(チオシアン酸アンモニウムをマッキルベイン緩衝液に混合した溶液)に浸漬した。なお、浸漬液は、pH:4、pH:6の2種類とし、負荷応力条件は、表面応力で材料の降伏強さの1.1倍(A条件)、0.9倍(B条件)の2条件とした。浸漬時間は120hまで行い、12h毎に破壊の有無を確認した。
得られた結果を表4に示す。
Figure 2015193894
Figure 2015193894
Figure 2015193894
Figure 2015193894
本発明例はいずれも、引張強さTS:1180MPa以上を満足し、しかも強度−伸びバランスTS×Elが16000MPa%を超えて高く、成形性に優れるとともに、遅れ破壊時間が120hを超え、優れた耐水素脆性を示す薄鋼板となっている。一方、本発明の範囲を外れる比較例は、引張強さ、強度−伸びバランス、が所望の値を満足していないか、耐水素脆性が低下している。
コールドスプレーにおける作動ガスの温度が本発明の好適範囲より低い比較例(鋼板No.4)は、形成される堆積層の厚さが少なく、耐水素脆性が低下している。また、焼鈍処理が好適範囲を高く外れた比較例(鋼板No.6)は、軟質層の組織が所望のフェライト相50%以上を満足しておらず、所望の強度−伸びバランスを確保できていないうえ、耐水素脆性が低下している。また、使用する鉄基粒子の粒径が粗大である比較例(鋼板No.12)は、気孔率が高く、所望の強度−伸びバランスを確保できていないうえ、耐水素脆性が低下している。
また、コールドスプレーにおける使用する鉄基粒子の粒径が小さすぎた比較例(鋼板No.15)は、形成される堆積層の厚さが少なく、所望の強度−伸びバランスを確保できていないうえ、耐水素脆性が低下している。
また、焼鈍処理が好適範囲を低く外れた比較例(鋼板No.21)は、所望の高強度を確保できていない。コールドスプレーにおける作動ガスの温度が本発明の好適範囲より高い比較例(鋼板No.22)は、形成される堆積層の厚さが少なく、所望の強度−伸びバランスを確保できていないうえ、耐水素脆性が低下している。
また、基板の組成が本発明の好適範囲を外れた比較例(鋼板No.24)は、所望の高強度を確保できていない。また、コールドスプレーにおける使用する鉄基粒子の組成が本発明の好適範囲を高く外れる比較例(鋼板No.25,No.26)は、所望の強度−伸びバランスを確保できていないうえ、耐水素脆性が低下している。

Claims (7)

  1. 基板部と、該基板部の少なくとも一方の側に堆積層を有してなる薄鋼板であって、
    前記基板部が、質量%で、C:0.10%以上を含み、ビッカース硬さで350HV以上の硬さを有し、
    前記堆積層が、鉄基粒子を用いてコールドスプレー法により形成された層で、厚さが片面あたり10μm以上500μm以下であり、質量%で、C:0.10%未満、あるいはさらに他の合金元素を下記(1)式で定義されるMneqが2.5未満を満足するように含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成と、気孔率が10面積%以下でかつ、組織全量に対する比率で50面積%以上のフェライト相を主相とする組織とを有する層であることを特徴とする、
    引張強さ:1180MPa以上で、成形性および耐水素脆性に優れた高強度薄鋼板。

    Mneq=Mn+0.26×Si+1.3×Cr+3.5×P+2.68×Mo+180×B+0.37×Ni+0.46×Cu ‥‥(1)
    ここで、Mn、Si、Cr、P、Mo、B、Ni、Cu:各元素の含有量(質量%)
  2. 前記堆積層におけるフェライトの平均粒径が、5μm以上であることを特徴とする請求項1に記載の高強度薄鋼板。
  3. 前記基板部と前記堆積層との間に拡散層を有することを特徴とする請求項1または2に記載の高強度薄鋼板。
  4. 基板の少なくとも一方の表面に堆積層を有する薄鋼板の製造方法であって、
    前記基板を、質量%で、C:0.10%以上を含み、ビッカース硬さで350HV以上の硬さを有する薄鋼板とし、
    該基板の少なくとも一方の表面に、質量%でC:0.10%未満、あるいはさらに他の合金元素が下記(1)式で定義されるMneqが2.5未満を満足するように含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成の鉄基粒子を、加熱した作動ガスと混合したのち、スプレーノズルを用いて、スプレーするコールドスプレー法で、片面当たり厚さ:10μm以上500μm以下の堆積層を形成することを特徴とする、引張強さ:1180MPa以上で、成形性、耐水素脆性に優れた高強度薄鋼板の製造方法。

    Mneq=Mn+0.26×Si+1.3×Cr+3.5×P+2.68×Mo+180×B+0.37×Ni+0.46×Cu ‥‥(1)
    ここで、Mn、Si、Cr、P、Mo、B、Ni、Cu:各元素の含有量(質量%)
  5. 前記加熱した作動ガスの温度が、500〜1000℃の範囲の温度であることを特徴とすることを特徴とする請求項4に記載の高強度薄鋼板の製造方法。
  6. 前記鉄基粒子が、粒子径:1〜100μmであることを特徴とする請求項4または5に記載の高強度薄鋼板の製造方法。
  7. 前記堆積層を形成したのち、前記薄鋼板に、さらに、焼鈍温度:700℃〜900℃の範囲の温度で焼鈍を行う焼鈍処理を施すことを特徴とする請求項4ないし6のいずれかに記載の高強度薄鋼板の製造方法。
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