JP2015192867A - 骨細胞増殖用足場材料およびその製造方法 - Google Patents

骨細胞増殖用足場材料およびその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】細胞親和性および骨伝導性を有し、また強度ももった骨細胞増殖用足場材料として、基材膜の片面にリン酸カルシウムを析出させたキチン・キトサン膜を効率よく製造する方法が嘱望されている。【解決手段】キチン・キトサン膜同士を重ね合わせて密着させ密着膜を得る工程と、前記密着膜の両面にリン酸カルシウムを生成する工程と、前記密着膜を前記キチン・キトサン膜同士に分ける工程を含むことを特徴とする骨細胞増殖用足場材料の製造方法によって、リン酸カルシウムを片面だけに析出させたキチン・キトサン膜が容易に作製することができる。【選択図】図2

Description

この発明は、関節部に用いる骨細胞増殖用足場材料に関するものであり、より詳しくは片面のみにリン酸カルシウムを生成させた骨細胞増殖用足場材料を効率よく製造する製造方法および骨細胞増殖用足場材料に係る発明である。
けがや病気などによって骨に大きな欠損ができた場合、生体の本来もつ再生・修復能力には限界があるが、細胞が増殖するための土台である「足場」材料があると再生・修復が促進されることが知られている。そのため、足場材料を用いた骨の修復に関する研究開発が行われ、注目を集めている。
足場材料の原料として用いられる高分子には、コラーゲンなどの天然高分子やポリ乳酸、ポリグリコール酸、およびそれらの共重合体などの生体吸収性合成高分子が用いられ、これらが無数の互いにつながった小さい孔を持つスポンジ(多孔質)状だと細胞の分布が均一になり、再生能力が大きく向上することがわかっている。
コラーゲンはすぐれた細胞親和性をもつが、スポンジに加工したものの力学強度は低く、容易に変形してしまうという問題があった。一方、乳酸とグリコール酸の共重合体(PLGA)のような合成高分子はコラーゲンスポンジよりも高い力学強度をもつ多孔質材料が得られる上、体内で吸収される性質をもつため、再生材料として用いられている。しかし、合成高分子は、細胞との親和性はコラーゲンよりも低い。
そこで、天然高分子、生体吸収性合成高分子の欠点をたがいに補い、長所をいかすために、両者を複合化した多孔質足場材料が提案されている。また、足場材料のみでは骨欠損の再生を刺激する能力に限界があるため、骨形成の誘導能力を高める因子を導入することで、さらに高い再生を実現できる足場材料の開発が進められている。
例えば、水酸アパタイトに代表されるリン酸カルシウム化合物は、生体適合性や表面に骨の形成が促進されるとの骨伝導性に優れるが、固くてもろく成形性の悪いセラミックスである。一方、キチン・キトサンは、骨伝導性はないが生分解性の高分子であり、生体適合性に優れた靱性のある材料である。そこで、これらを組合わせた複合材料が、GBR(Guided Bone Regeneration)などとして検討されている(特許文献1)。
また、これらの材料の作製方法としては、リン酸カルシウム粉末とキチン・キトサンとを混合成形したり、キチン・キトサン膜表面にリン酸基を導入し、次いで擬似体液に浸漬するなどでその複合膜を作製する方法が知られている。
人工関節などの固定や椎体(背骨を構成する骨)の形成術には、生体活性セメントが用いられる。この生体活性セメントがリン酸カルシウム粉末を基材として用いるものである。その後の研究で、リン酸水素カルシウム二水和物(DCPD:CaHPO・2HO)とリン酸四カルシウム(TTCP:Ca(POO)の混合粉に硬化液として水とリンゴ酸とキトサンを用いることで、生理温度で短時間に硬化し、高靭性を有する生体活性セメントが得られるという知見が知られている。
特開平10−101823号公報
特許文献1は、キチン・キトサン材料の表面全面(両面)にリン酸カルシウムを生成させるものである。しかし、例えば、軟骨欠損部など骨との結合が必要なのは片面だけという場合もある。このような箇所に両面ともリン酸カルシウムを生成させたキチン・キトサン材料を用いると、軟骨同士が対向する部分にも骨が形成されてしまい、適当ではない。
また、関節の軟骨部においては、ある程度分厚い骨細胞増殖用足場を配置する必要がある。しかし、キチン・キトサン膜は、単層で分厚い膜を作製すると膜の厚み方向の中央部分の靱性が低下する。したがって、靱性を有する薄い骨細胞増殖用足場を複数枚重ねてある程度の厚みを稼ぐ必要がある。
したがって、キチン・キトサン膜の片面だけにリン酸カルシウムを生成させた骨細胞増殖用足場を効率よく作製する方法が嘱望される。
また、硬化した生体活性セメントは内部に適度な空隙がなく、骨細胞の侵入、骨との同化が困難であった。リン酸水素カルシウム二水和物とリン酸四カルシウムは、硬化させる際の硬化液中に中分子量キトサンを含有させることで、破骨細胞様環境下で多孔化することが見出されていた。しかし、骨細胞と同化するには十分な細孔を有しているとは言えなかった。
本発明は上記課題に鑑み、想到されたものであり、キチン・キトサン材料の片面だけに、リン酸カルシウムを生成させた骨細胞増殖用足場材料を効率よく作製する方法を提供するものである。
より具体的に、本発明の骨細胞増殖用足場材料の製造方法は、
キチン・キトサン膜同士を重ね合わせて密着させ密着膜を得る工程と、
前記密着膜の両面にリン酸カルシウムを生成する工程と、
前記密着膜を前記キチン・キトサン膜同士に分ける工程を含むことを特徴とする。
また、上記の骨細胞増殖用足場材料の製造方法において、
前記密着膜の両面にリン酸カルシウムを生成する工程は、
リン酸を含む溶液に前記密着膜を浸漬する工程と、
カルシウムを含む溶液に前記密着膜を浸漬する工程とを含むことを特徴とする。
また、上記の骨細胞増殖用足場材料の製造方法において、
前記密着膜の両面にリン酸カルシウムを生成する工程は、
前記密着膜の両面にカルシウムと結合しやすい官能基としてリン酸を導入する工程と、
前記密着膜をカルシウムを含む液に膜に浸漬する工程を含むことを特徴とする。
また、前記密着膜を得る工程は、
キチン・キトサン膜同士を重ね合わせて減圧下で保持する工程を含むことを特徴とする。
また、本発明に係る骨細胞増殖用足場材料は、片面にリン酸カルシウムを有するキチン・キトサン膜を複数枚積層したことを特徴とする。
また、本発明に係る生体活性セメントの製造方法は、
リン酸水素カルシウム二水和物とリン酸四カルシウムを混合しセメント粉を得る工程と、
水と中分子量キトサンとリンゴ酸と低分子量キトサンを混合して硬化液を得る工程と、
前記セメント粉と前記硬化液を混合して錬和物を得る工程を有することを特徴とする。
本発明に係る骨細胞増殖用足場材料の製造方法によれば、片面だけリン酸カルシウムを生成させた骨細胞増殖用足場材料を効率よく作製することができる。これによりリン酸カルシウムが生成していない側にキチン・キトサン膜を重ねることで、容易に分厚く、また靱性を有する膜を得ることができる。
また、この膜は片面だけにリン酸カルシウムが生成されているので、関節部で軟骨が対向する部分に好適に用いることができる。
基材膜を2つに折り、密着膜を得る工程を示す図である。 密着膜の両外面にリン酸カルシウムを析出させ、再び開く工程を示す図である。 内側面(未処理面)と外側面(処理面)のSEM写真である。 内側面(未処理面)と外側面(処理面)のEDS測定結果である。 基材膜の引っ張り試験の結果を示すグラフである。 リン酸エステル化処理をしていないものと、片面だけ、両面ともリン酸エステル化処理を行ったものとの強度の違いを示すグラフである。 生成物Aの回折図形とリン酸四カルシウム(TTCP:ICCD #25−1137)の回折線図を示すチャートである。 TTCPをメノウ乳鉢で粉砕し、ふるいを用いて分級した粒子と、市販品をボールミルで湿式粉砕したDCPDのレーザー回折/散乱式による粒度分布を示すグラフである。 粉砕時間を短縮し、ふるいパス回数を増やして得られたTTCP粉と粉砕時間を更に長くして得られたDCPDの粒度分布を示すグラフである。 TTCPとDCPDの粒径が異なるCPCの圧縮強度を示すグラフである。 低分子量キトサン、あるいは中分子量キトサンを添加したCPCについて、浸漬時間による圧縮強度の変化を示すグラフである。 セメント粉と硬化液の比(P/L比)による圧縮強度の変化を示すグラフである。 CPCについて、破骨細胞が作り出す環境下であるpH5.5に調製した酢酸−酢酸ナトリウム緩衝液中での吸収性試験の結果を示すグラフである。 吸収性in vitro試験前後での乾燥試験片表面のSEM像を示す写真である。
以下、本発明をさらに詳しく説明する。なお、以下は本発明の一例を示すものであり、本発明の趣旨を逸脱しない限り、以下の実施形態および実施例を変更しても本発明の技術的範囲に含まれるのは言うまでもない。
(実施の形態1)
本発明に係る骨細胞増殖用足場材料の製造方法では、基材となる膜(「基材膜」とも呼ぶ。)の一方の面を他の膜と密着させ密着膜を形成し、この密着膜の両面にリン酸カルシウムを析出させた後、密着膜を再び剥がし、片面だけリン酸カルシウムが析出した骨細胞増殖用足場材料を得る。
基材膜としては、キチン若しくはキトサンの少なくとも一方を含む膜が好適に利用できる。したがって、キチン膜、キトサン膜若しくはキチンとキトサンの混合膜が望ましい。これらの材料は骨と結びつく性質(骨伝導性)はないものの、靱性を有しており、関節軟骨の代用品として好適であるからである。キチン膜、キトサン膜若しくはキチンとキトサンの混合膜をキチン・キトサン膜と呼ぶ。
基材膜は厚さ数mm以下の膜状に形成する。10mm以上の厚さになると、厚み方向の中央付近が乾燥しにくくなり、膜強度が低下するからである。厚い1枚の基材膜よりも、薄い複数枚の基材膜を重ねた方が、膜強度は増加する。なお、基材膜は、平坦な基台上に溶解させた基材膜の溶液を流しっぱなしにする(キャストする)だけの方法で形成してもよいし、平坦な基台上に基材膜の溶液を塗布して均一な厚みの膜に形成してもよい。
密着膜を作製する際に、基材膜の一方の面に密着させる他の膜は、同様にして作製した他の基材膜で行うのが好適である。同じ基材膜を用いれば、密着膜の両面にリン酸カルシウムを析出させることで、一度に2枚の骨細胞増殖用足場材料を得ることができるからである。また、基材膜の一方の面に液密に密着し、再度剥離することができる膜であって、毒性等がないものであれば、特に限定されるものではなく、他の種類の膜を用いることもできる。
密着膜は、基材膜を折り曲げて対向面同士を液密に密着させてもよい。別々の2枚の基材膜を重ねて液密に密着させるより、大きめの1枚の基材膜を折り曲げて、密着膜を形成する方が、容易に形成できるからである。図1には、この様子を示す。基材膜1は、2つに折られ対向面を合わせて密着させる(図1(a))。対向面を内側面2と呼び、外側に露出している面を外側面4と呼ぶ。2つに折られ内側面2を密着させた状態が密着膜10となる(図1(b))。密着膜10の表面および裏面(「両外面」と呼ぶ。)は、どちらも基材膜1の外側面4である。
図2を参照する。出来上がった密着膜10の両外面にリン酸カルシウム15を析出させる(図2(a))。析出させる方法は特に限定されない。リン酸を含む溶液とカルシウムを含む溶液に交互に浸漬させる交互浸漬法、カルシウムと結合しやすい官能基を外側面に導入し、その後、カルシウムを含む溶液に浸漬するバイオミメティック法などが好適に利用できる。
その後密着膜10同士を剥がす(図2(b))。基材膜1自体を2つに折った場合は、内側面2を開く。このようにすることで、一方の面(外側面4)だけにリン酸カルシウムを析出させた骨細胞増殖用足場材を得ることができる。
薄い骨細胞増殖用足場材は膜強度が高く、複数枚重ねることで厚みのある骨細胞増殖用足場材とすることができる。また、一方の面4にリン酸カルシウム15を析出させた基材膜1を積層することで、基材膜1間に栄養成分が滲み込みやすくなり、骨伝導性により好適な環境を得ることができる。
(実施の形態2)
本発明に係る生体活性セメントは、リン酸水素カルシウム二水和物(DCPD:CaHPO・2HO)とリン酸四カルシウム(TTCP:Ca(POO)を原料に用いる。リン酸水素カルシウム二水和物とリン酸四カルシウムは、混合液中で溶解度以下の濃度にすると(1)、(2)式に従って、Ca2+とPO 3−等が溶出し、ハイドロキシアパタイト(以後「HAp」とも記す。)に対してCa2+とPO 3−などが過飽和になれば、(3)式に従いHApが析出する。HAp結晶は針状に成長し、相互に絡み合うことで固化・硬化する。
キチン・キトサンの分子量はそれらの由来および調理法によって大きく異なっている。分子量が1.0×10以上のものを高分子量キトサン、1.0×10以下のものを低分子量キトサン、それ以外の分子量のものを中分子量キトサンとよぶ。キトサンは分子量により粘度に差があり、キトサンの分子量測定で最も一般的なのが粘度法である。キトサンの分子量と粘度の関係を表1に示す。
低分子量キトサンおよび中分子量キトサンは、粘度による分級方法で選別したものであってもよい。例えば表1の分級にしたがって、選別してもよい。
リン酸四カルシウムおよびリン酸水素カルシウム二水和物は、公知の方法で得ることができる。これらを混合してセメント粉は調製される。調製の際にリン酸四カルシウムの平均粒径は、リン酸水素カルシウム二水和物の平均粒径より大きいことが望ましい。より具体的には、リン酸四カルシウムの平均粒径は、30〜50μmであり、リン酸水素カルシウム二水和物の平均粒径は2〜8μmが好ましい。したがって、リン酸四カルシウムの平均粒径は、リン酸水素カルシウム二水和物の平均粒径の3.5倍から25倍大きいことが望ましい。
硬化液は、水、低分子量キトサン((C11NO、low molecular weight、 viscosity 20−200mPa・s、 ARDRICH Chemistry)、あるいは、中分子量キトサン((C11NO、medium molecular weight、 viscosity 200−800mPa・s、 ARDRICH Chemistry)とリンゴ酸を溶解して作製される。特に本発明に係る生体活性セメントは低分子量キトサンを必ず含ませる。
水は、超純水を用いるのが望ましい。ここで超純水とは、比抵抗が18.2MΩ・cmのものだけでなく、15MΩ・cm以上の物であってもよい。
セメント粉と硬化液は、2〜4の比率(重量比)で混合するのが望ましい。これらを混合した錬和物は、水中で静置することで硬化し硬化体となる。錬和物は硬化させる前に型中に入れて形を形成しておけば、所望の形状の硬化体を得ることができる。本発明に係る生体活性セメントは、錬和物を体内に注入したり、直接必要な箇所に塗布することで体内に配置する。したがって、実用される場合は、硬化は体内で行われる。
以上のようにして得た生体活性セメントは、Caの溶出量が多い。また、圧縮強度も実用化レベルであり、表面にも10μm程度の空隙が多数観察される。よって、骨と同化しやすい性質を有する。
<実施例1:膜材料>
以下に実施例を示す。基材膜1はキチン・キトサン膜を用いた。市販のキトサン粉末(脱アセチル化度75%)を酢酸に溶解し、基台上にキャストし、70℃の環境で乾燥した。その後、水酸化ナトリウム水溶液に浸し、不溶化処理をおこない、厚みが約2mmのキチン・キトサン膜を得た。
このキチン・キトサン膜を基台と接触していた面を内側面2とするように折りたたみ、1Paの減圧下に2時間置くことで密着させ、密着膜10を得た。
次に密着膜10を、尿素を含むN、N−ジメチルホルムアミド溶液に浸し、窒素雰囲気下で、100℃まで昇温した。次いで、正リン酸とN、N−ジメチルホルムアミド溶液を加え、1時間還流した。1時間後、降温し、60℃程でNガスの導入を止めた。密着膜10から未反応物質を除去し十分に水洗した。
このように処理された密着膜10は、外側面4がリン酸エステル化された密着膜10となった。次にリン酸エステル化された密着膜10を、飽和水酸化カルシウム溶液に入れ、室温〜体温程度の環境で24時間から48時間の間保持した。この処理が密着膜10の両外面にリン酸カルシウムを生成する工程である。
その後、密着膜10の内側面2を開いて骨細胞増殖用足場材料(以後単に「足場材料」とも呼ぶ。)を得た。なお、密着膜10(基材膜1)の内側面2であった方の面を足場材料の未処理面と呼び、外側面4であった方の面を足場材料の処理面と呼ぶ。また、密着膜10は糊付けしてはいないので、ピンセットで容易に剥がすことができた。
図3に足場材料のSEM写真を示す。図3(a)は、足場材料の外側面4のSEM写真であり、図3(b)は足場材料の内側面2のSEM写真である。
基材膜1は半透明であり、外側面4がリン酸エステル化されてもほぼ同様にやや灰色に見える。しかし、飽和水酸化カルシウム処理すると、外側面4が白色を帯びた。足場材料の外側面4を、SEMで拡大して見ると、図3(a)に示すように繊維状の細長い析出物が観察された。
リン酸エステル化したキチン・キトサン膜を飽和水酸化カルシウム溶液に浸漬すれば、部分加水分解により、リン酸がキチン・キトサン膜近傍に生成し、飽和水酸化カルシウム溶液のCa2+と結合して、リン酸カルシウムが析出すると考えられる。
なお、飽和水酸化カルシウム溶液はpH12程度で強い塩基性であり、塩基性ではリン酸カルシウム化合物の中で最も溶解度積が小さいアパタイトあるいはその前駆体が析出する。よって、局所的にアパタイトあるいはその前駆体が析出し、それにより、その近傍のリン酸カルシウムの濃度が高まり、更に析出が促進されると思われる。つまり、上記の手順では、リン酸カルシウムは、粒子状の析出物として得られる可能性が高いと考えられた。
一方、足場材料の内側面2である図3(b)を見ると、析出物がほぼ見られず、視野内が全体的に平坦に見えた。
図4(a)、(b)に図3(a)、(b)に示したサンプルのEDS(エネルギー分散型X線分光法)プロファイルを示す。横軸はエネルギー(keV)であり、縦軸はカウント数である。図中でリンのピークは「P」と矢印で表し、カルシウムのピークは「Ca」と矢印で表した。また、ピークの頂点をバツ印「×」で表した。
飽和水酸化カルシウムに晒した外側面4(図4(a))は、内側面2(図4(b))と比較すると、リンとカルシウムのピークが多く観測された。また、未処理面側(図4(b))では、リンとカルシウムを含む析出物はごくわずかであった。本発明に係る製造方法によれば、外側面4だけにリン酸カルシウムを析出させたキチン・キトサン膜(骨細胞増殖用足場材料)を得ることができた。
次に作製したキチン・キトサン膜の力学的特性を引っ張り試験で調べた。測定試料は、幅5mm、長さ30mmの長方形にした。なお、長さ方向の両端にはそれぞれ10mmずつの引っ張り試験機のチャックの固定代を設けた。したがって、測定試料の長さは、固定代も合わせて50mm(チャック間距離が30mm)となった。測定試料の膜厚は、測定部分(30mmの部分)のうち、両端付近および中央部の3点の膜厚を測定し、平均したものをその測定試料の膜厚とした。
引っ張り試験は、チャックの離隔速度1mm/secとし、測定試料が破断するまで引張った。横軸に伸び(mm)、縦軸に力(N)として得たチャートより、破断応力(MPa)と、弾性率(MPa)を求めた。
図5に、膜厚と破断応力の関係を示す。横軸は膜厚(mm)であり、縦軸は破断応力(MPa)である。厚みが薄い試料の方が破断応力は高かった。これより、所定の厚みの骨細胞増殖用足場材料を得ようとした際には、厚い基材膜で構成するのではなく、薄い基材膜を複数枚重ねる方が強い足場材料を得ることができると結論できる。
図6には、基材膜1(キチン・キトサン膜)をリン酸エステル化処理した場合の応力の影響を示す。横軸は歪(無次元)であり、縦軸は応力(MPa)である。(a)は、リン酸エステル化処理をしていないもの(基材膜1のみ)であり、(b)は片面だけにリン酸エステル化処理を行ったものであり、(c)は両面をリン酸エステル化処理を行ったものである。
片面だけのリン酸エステル化処理(b)は、基材膜1だけの場合(a)と比較してほぼ同じ特性を示している。しかし、両面ともリン酸エステル化処理をしたもの(c)は、引っ張り試験の最中にチャックの部分で膜が破断した。このように片面だけのリン酸エステル化処理は、基材膜1の機械的な強度を損なうことがない。したがって、1つの膜を薄く作製し、複数枚を積層することで、強度を有する骨細胞増殖用足場材料を得ることができる。
<実施例2:セメント材料>
以下生体活性セメント(リン酸カルシウムセメント:CPC)の調製と、各評価方法および評価結果について説明する。
<生成物A(リン酸四カルシウム:TTCP)の調製>
市販品の水酸化カルシウム(Ca(OH)、特級、ナカライテスク株式会社)とリン酸(H(PO)、特級、和光純薬工業)を原料に用いた。Ca/P比が2となるようにCa(OH)を31.32g(0.41mol)、H(PO)を23.06g(0.20mol)、上皿電子分析天びん(sefi IBA−200、アズワン)で精秤し、それらを、400mL、50mLの超純水にそれぞれ加えた。超純水は超純水製造装置(DirectQ、Millipore製)からメスシリンダーで採取した。
得られたCa(OH)水溶液にH(PO)水溶液を攪拌しながら少量ずつ滴下した。攪拌は、ホットスターラー(RSH−10、アズワン)を用いて行った。滴下後、溶液を24時間室温で熟成させた。その後、遠心分離機(インバーター・コンパクト高速冷却遠心機6900、久保田製作所)を用い5000rpmで10分間遠心分離した。
上澄み液をデカンテーションで除き、さらに5000rpmで7分間遠心分離した。分離した沈殿物を、ろ別し、乾熱減菌機(DOV−450P、アズワン)で110℃、24時間乾燥させた。乾燥させた試料をアルミナ製ボート(SSA−H2B、日化陶)に入れ、電気炉(Super mill、MARUSHO ELECTRO−HEAT CO、 LTD)で、大気中、1500℃、5時間焼成した。昇降温速度は10℃/minとした。
焼成後、試料を電気炉から取り出し、超硬質鋼乳鉢(WD型、伊藤製作所)で粉砕し、さらにメノウ乳鉢で微粉砕し、生成物Aを得た。後述する組成確認で生成物Aはリン酸四カルシウムであることが確認される。
<リン酸水素カルシウム二水和物の調製>
リン酸水素カルシウム二水和物(DCPD:CaHPO・2HO、和光純薬工業、特級)を上皿天秤で15.00g精秤し、超純水180ml、ジルコニアボール500gと共にポットミルに加えた。超純水はメスシリンダーで、ジルコニアボールは上皿天秤で秤量した。室温、110rpmで48時間、一軸型ボールミル(A−3、ニッカトー)にて湿式粉砕した。
得られた湿式粉砕生成物を吸引ろ過し、シャーレに入れ、定温乾燥機(DVS402、アズワン)内、50℃で24時間乾燥した。得られた試料をメノウ乳鉢で解砕した。
<セメント粉末の調製>
セメント粉末は以下の方法で調製した。合成した生成物A(TTCP)6.80g(0.186mol)とリン酸水素カルシウム二水和物(DCPD)3.20g(0.186mol)を、それぞれを上皿天秤で精秤し、50mlネジ付試験管(アズワン)に入れ、振とう機(MALTI SHAKER MS−300、アズワン)に設置し1300rpm、100分間振とう混合した。混合物をメノウ乳鉢で5分間乾式混合し、セメント粉とした。
<硬化液の調製>
硬化液は超純水に、低分子量キトサン((C11NO、low molecular weight、 viscosity 20−200mPa・s、 ARDRICH Chemistry)、あるいは、中分子量キトサン((C11NO、medium molecular weight、 viscosity 200−800mPa・s、 ARDRICH Chemistry)と、リンゴ酸(C、HOOC−CH(OH)−CH−COOH、和光純薬工業、特級)を溶解したものを用いた。それぞれ上皿天秤で精秤した。キトサン、リンゴ酸の順に超純水に加え、液が完全に透明になるまで攪拌することで溶解し、硬化液を得た。
<生体活性セメントの調製(圧縮試験用)>
以下のように硬化体の試料を作製した。セメント粉1g、硬化液0.33gを上皿天秤で精秤した。硬化液は練和の際に使用するヘラの上にのせて上皿天秤を用い秤量した。セメントの練和はガラス板の上、大気中(25℃)で行った。セメント粉は1/3ずつに分けた。はじめに硬化液をガラス板に薄く伸ばし、セメント粉の1/3を硬化液に刷り込むよう10秒間練和した。次の1/3を加え同様に20秒間練和、残りの1/3を加えて20秒で練和した。その後、ヘラを用いてガラス板上に薄く伸びた練和ペーストを回収し、ステンレス製薬さじを用いて更に20秒間練和し錬和物を得た。合計70秒間で練和を終了した。
上記の要領で得た練和物を、直ちにテフロン(登録商標)製割型(内径φ6×12の円柱型)に注入した。注入には、ステンレスの薬さじとガラス棒(φ5.6)を用いた。なるべく気泡が入らないように、薬さじである程度注入し、適宜ガラス棒で上から押さえた。テフロン(登録商標)製割型は割型で、JIS規格(T6620−(1993))に準拠して作製した。したがって、分解することで型中に注入した試料を取り出せる。
練和物を注入したテフロン(登録商標)割型ごと、37℃に保持したクールインキュベータ(CN−40A、三菱電機エンジニアリング)中に置いたガラス容器中に入れた。湿度100%を維持するために、ガラス容器の底に、超純水に浸漬済みのスポンジを敷き詰めた。ガラス容器中で1時間保持後、テフロン(登録商標)製割型を慎重に分解して固化した練和物を取り出した。
固化した練和物を、50mlの超純水を入れたスクリュー管瓶中に浸漬し、クールインキュベータ中37℃で24時間静置し硬化体を得た。以上の様に得られた硬化体を、圧縮試験の直前に超純水から取り出し、表面の水分を拭って圧縮試験片とした。
圧縮強度測定は、万能試験機(AUTOGRAPH AG−10、SHIMADZU)で行った。引張方向を圧縮方向に転換する引張−圧縮変換器を用いた。5kNロードセル(87394、SHIMADZU)を選択し、測定条件は、ヘッドスピード0.500mm/sec、サンプリング間隔100msecとしソフトウェア(Trapezium、島津製作所)を用いて測定を行った。
圧縮強度の有意差検定は、カレイダグラフ(ヒューリンクス)の分散分析(ANNOVA)を用いて行った。結果は後述する。
<試料片の作成(吸収性in vitro試験用)>
破骨細胞が作り出す環境下であるpH5.5の溶液中にて.試料からのカルシウムイオン溶出量、質量減少量の測定をおこなった。試料は、練和後37℃湿度100%で固化、さらに37℃の超純水50ml中、7日浸漬して硬化させた後、表面の水分をぬぐい、定温乾燥機中、50℃、24時間乾燥して、試験片とした。つまり、in vitro試験用のサンプルは硬化の後乾燥させてある。
<0.08mol/L 酢酸−酢酸ナトリウム緩衝液(ph5.5)の調製>
in vitro試験を行うにあたり、酢酸−酢酸ナトリウム緩衝液と校正用のCa標準液を調製した。
酢酸4.804g(0.08 mol、CHCOOH、和光純薬工業、特級)を上皿天秤で精秤し、超純水を加えてメスシリンダーを用いて1Lに定容した。得られた溶液を0.08mol/L酢酸溶液と称する。一方、酢酸ナトリウム6.562g(0.08mol、CHCOONa、和光純薬工業、特級)を上皿天秤で精秤し、同様に1Lに定溶して、得られた溶液を0.08mol/L酢酸ナトリウム溶液と称する。
この作業を2回繰り返し、0.08mol/L酢酸ナトリウム溶液を2L作製した。酢酸溶液2.0mlと酢酸ナトリウム溶液Xmlを採取して「試し混合」し、pH5.50±0.02になるXを求めた.pH値はpHメーター(PCS Tester、OAKTON)を用いた。X=13.0、13.5、14.0、14.5で試し混合をおこない、X=14.0でpH5.49〜5.50となった。
よって、0.08mol/L酢酸溶液と0.08mol/L酢酸ナトリウム溶液を混合比2.0:14.0で混合することで0.08mol/L、pH5.50±0.02の酢酸−酢酸ナトリウム緩衝液を調製できる事がわかった。この結果に基づき、0.08mol/L酢酸溶液200mlと0.08mol/L酢酸ナトリウム溶液1400mlを200mlメスシリンダーを用いて秤量し、ホットスターラーと攪拌子を用いて均一に混合して0.08mol/L酢酸−酢酸ナトリウム緩衝液2000mlを調製した。調製した緩衝液は、2Lポリ瓶に保管して用いた。
<校正用1mg/L、10mg/L、100mg/LCa標準液の調製>
1000ppmCa2+標準液は以下の手順で調製した。硝酸9.132g(0.1mol、HNO、69−70mass/mass%、キシダ化学、特級)を上皿天秤で精秤し、超純水を加えてメスシリンダーで1000mlに定容し、0.1mol/L硝酸溶液とした。また、炭酸カルシウム2.502gを上皿天秤で秤量し、0.1mol/L硝酸溶液に溶解してメスシリンダーで1000mlに定容し、1000ppmCa2+標準溶液とした。調製した標準は、1Lポリ瓶に保管して用いた。
0.8mol/L酢酸−酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.5)を以下の手順で作製した。酢酸4.804g(0.08mol)を上皿天秤で精秤し、超純水を加えてメスフラスコを用いて100mlに定容し、0.8mol/L酢酸溶液とした。また、酢酸ナトリウム65.62g(0.8mol)を上皿天秤で精秤し、超純水を加えてメスシリンダーで1Lに定容し、0.8mol/L酢酸ナトリウム溶液とした。
上記の「試し混合」で得られたXの値に基づき、0.8mol/L酢酸溶液と0.8mol/L酢酸ナトリウム溶液を2.0:14.0の割合で混合した。
1000ppmCa2+標準液を、100mlメスフラスコ(アズワン)と10mlホールピペット(アズワン)を用いて段階希釈し、100ppm、10ppmのCa2+標準液を作製した。それぞれのCa2+標準液10mlと0.8mol/L酢酸−酢酸ナトリウム緩衝液10mlを混合し、超純水を加えてメスフラスコで100mlに定容、0.08mol/L酢酸−酢酸ナトリウム−100mg/L、10mg/L、1mg/LCa2+標準液を調製した。
(Caイオン溶出量測定)
in vitro試験では、硬化体からのCaイオン溶出量を測定した。測定は以下のようにして行った。測定日、予め超純水500ml中に2時間、0.08mol/L酢酸‐酢酸ナトリウム緩衝液500ml中に30分間、攪拌し、Caイオン電極(CH−9101、Metrohm)のコンディショニングをおこなった。
上記の要領で調製した校正用Ca標準液を用いて、測定をおこなうたびに検量線を作成した。攪拌下、1、10、100mg/LCa2+標準液の順にCaイオン電極を浸漬し、電位差の表示が安定するまで待ち、測定値を得た。
Caイオン濃度は以下のように測定した。樹脂製の攪拌子台を使用して、試料に攪拌子の回転による影響が及ばないよう、試料を容器底部に設置した。次にCaイオン電極を容器内にセットし、0.08mol/L酢酸−酢酸ナトリウム緩衝液100mlを容器に静かに注入し、ホットスターラー(RSH−1DN、アズワン)で攪拌子を回転(430rpm)させてから測定を開始した。
このとき、酢酸−酢酸ナトリウム緩衝液と試料が接触してから1分以内に測定を開始するように努めた。測定開始20分後までは2分おき、150分後までは15分おき、その後30分おきに測定し、開始300分後に終了した。3回測定し、その平均を実験結果とした。イオン濃度は、イオンメーター(デジタルpH/イオン計692型、Metrohm)及びCa電極を用いて測定した。結果は後述する。
(質量減少量測定)
吸収性in vitro試験用の要領と同様に作製した試料片(乾燥した硬化体)を、超純水に浸漬した。所定時間後、取り出し、表面をぬぐい、乾熱減菌機(DOV−450P、アズワン)中で50℃、24時間、乾燥した。浸漬前の試料と、浸漬後の乾燥試料の質量を上皿天秤にて繰り返し(N=5)精秤し、その差を質量減少量とした。結果は後述する。
(粉末X線回折による試料の同定)
錬和物の原料となるリン酸四カルシウムは、合成して得たものである。したがって、以下の要領で組成を同定した。生成物Aの同定は、X線回折装置(Rigaku、RINT 2200)、解析ソフト(Rigaku、JADE6)を用いた。X線源は封入管(ターゲットCo、2KW)である。測定条件は以下の通りである。測定角度10°〜50°、サンプリング角度0.01°、スキャン速度1.0°(min−1)、管電圧40kV、管電流20mA、スリット(DS:1°、SS:1°、RS:0.3mm)、Coフィルターを使用した。なお、Co−Kαの波長は、1.790Åである。
(FE−SEMによる試料の観察)
吸収性in vitro試験の前後の試料の表面状態を以下の方法で観察した。試料をデシケータ−に入れ、ダイヤフラム型真空ポンプ(DAU−20、ULVAC)で200Paに減圧して密閉し、24時間乾燥した。乾燥後、Osmium Plasma Coater(OPC60A、Filgen)を用い、Oを12nmコーティングしてSEM試料とした。電界放射型走査型電子顕微鏡(FE−SEM:JEOL、JSM−6500F)で各試料の観察を行った。観察時の加速電圧は15kV、真空度5.00×10−4Pa以下でおこなった。
(粒度分布測定)
リン酸四カルシウムとリン酸水素カルシウム二水和物の粒度分布は、レーザー回折/散乱式測定装置(HORIBA製、LA920)で行った。リン酸カルシウムの溶解を防ぐため、分散媒にエタノールを用いた。分散剤は使用せず、試料ごとに超音波洗浄機で十分に分散してから測定に供した。エタノールに対するリン酸カルシウムの屈折率は、1.16とした。
<評価結果>
(粉末X線回折による試料の同定)
生成物Aの回折図形とリン酸四カルシウム(TTCP:ICCD #25−1137)の回折線図を図7に示す。横軸は2θ(°)であり、縦軸は強度(任意)である。リン酸四カルシウムの回折線図とピーク位置、強度がほぼICCD#25−1135によるリン酸四カルシウムの回折線図と一致し、それ以外の回折ピークは確認されなかった。したがって生成物Aはリン酸四カルシウム単一相であると考えられる。
(粒度分布)
合成したリン酸四カルシウム(TTCP)粒子をメノウ乳鉢で粉砕し、ふるい振とう機(MVS−1、アズワン)とステンレスふるい(Φ75x20mmm、90〜75μm)を用いて分級した粒子と、市販品をボールミルで湿式粉砕したリン酸水素カルシウム二水和物(DCPD)試料のレーザー回折/散乱式による粒度分布をそれぞれ図8(a)、(b)に示す。図8では、(a)、(b)ともに、横軸は粒子径(μm)であり、左縦軸は頻度(%)であり、右縦軸は通過分積算(%)である。
リン酸四カルシウム(TTCP)は、0.5μm付近と8−9μm付近に頻度のピークがある。また、リン酸水素カルシウム二水和物(DCPD)は6−7μm付近に頻度のピークが見られる。平均粒径は、リン酸四カルシウム(TTCP)で7.68μm、リン酸水素カルシウム二水和物(DCPD)で6.33μmであった。
セメント粉原料の粒径は生体活性セメント(CPC)硬化後の強度に大きく影響を与える。リン酸四カルシウム(TTCP)とリン酸水素カルシウム二水和物(DCPD)の粒径は差がある方がCPC硬化後の強度が大きいことが知られていた。そこで、粉砕時間を短縮し、ふるいパス回数を増やして得られたリン酸四カルシウム(TTCP)粉と粉砕時間を更に長くして得られたリン酸水素カルシウム二水和物(DCPD)の粒度分布を図9(a)、(b)に示す。図9では、(a)、(b)ともに、横軸は粒子径(μm)であり、左縦軸は頻度(%)であり、右縦軸は通過分積算(%)である。
リン酸四カルシウム(TTCP)は、0.4μm付近と17−18μm付近、58−59μm付近に頻度のピークがある。また、リン酸水素カルシウム二水和物(DCPD)は、0.4μm付近と5−6μm付近に頻度のピークが見られる。
平均粒径は、リン酸四カルシウム(TTCP)で36.92μm、リン酸水素カルシウム二水和物(DCPD)で4.69μmであった。水和硬化の際、リン酸四カルシウム(TTCP)とリン酸水素カルシウム二水和物(DCPD)から溶出するCa及びリン酸がアパタイト組成でアパタイトへの転化及び硬化に好適なのは、リン酸四カルシウム(TTCP)の方が、溶解度が高いため、リン酸四カルシウム(TTCP)の粒径が75μm以下で、リン酸水素カルシウム二水和物(DCPD)がそれより相当小さい組み合わせと報告されている。上記のリン酸四カルシウム(TTCP)とリン酸水素カルシウム二水和物(DCPD)の粒度の組み合わせは、高強度の硬化体を得るのに好適であると考えられる。
(圧縮強度)
図10に、低分子量キトサン3wt%、リンゴ酸3wt%添加でリン酸四カルシウム(TTCP)とリン酸水素カルシウム二水和物(DCPD)の粒径が異なる生体活性セメント(CPC)の圧縮強度を示す。縦軸は圧縮強度(MPa)であり、横軸は水への浸漬時間(day)である。水中浸漬時間は1、3日とした。P/L(セメント粉/硬化液比率)比(重量比)は2.5である。
白棒グラフは、リン酸四カルシウム(TTCP)平均粒径:7.68μm、リン酸水素カルシウム二水和物(DCPD)平均粒径:6.33μmで調製したサンプルを表す。灰色棒グラフは、リン酸四カルシウム(TTCP)平均粒径:36.92μm,リン酸水素カルシウム二水和物(DCPD)平均粒径:4.69μmで調製したサンプルを表す。
いずれのサンプルもセメント粉71wt%と硬化液29wt%で作製したものである。なお、硬化液は低分子キトサン3wt%とリンゴ酸3wt%と超純水からなり、P/Lは2.5であった。
粒径差が大きい灰色棒グラフの方の圧縮強度が高く、粒度分布は生体活性セメント(CPC)硬化後の強度に大きく影響を与えることが明瞭である。
図11に低分子量キトサン、あるいは中分子量キトサンを3wt%、リンゴ酸を3wt%添加した生体活性セメント(CPC)について、浸漬時間による圧縮強度の変化を示す。縦軸は圧縮強度(MPa)であり、横軸は水への浸漬時間(day)である。水中浸漬時間は1、3、7日とした。P/L比は2.5である。灰色棒グラフは低分子量キトサンを含む硬化液を用いた場合であり、白棒グラフは中分子量キトサンを含む硬化液を用いた場合である。
いずれのサンプルもセメント粉71wt%と硬化液29wt%で作製したものである。なお、硬化液は低分子キトサン3wt%とリンゴ酸3wt%と超純水からなり、P/Lは2.5であった。
浸漬時間が長くなるにつれ、圧縮強度が低下する傾向が見られた。水中浸漬により、溶解・析出が生じるが、析出、硬化より溶解が優越したためと考えられる。また中分子量キトサンを用いた場合、練和が困難であり、圧縮強度に試料によるばらつきが大きかったが、低分子量キトサンを用いた場合と圧縮強度の差の統計的な有意差は認められるものの、その差は相対的に小さかった。
図12にセメント粉と硬化液の比(P/L比)による圧縮強度の変化を示す。縦軸は圧縮強度(MPa)を示す。横軸はサンプルの違いである。硬化液は、低分子量キトサン3wt%、リンゴ酸を3wt%添加したものであり、水中浸漬時間は1日とした。白棒グラフはP/L比が2.5の場合であり、灰色棒グラフはP/L比が3の場合を示す。P/L比が大きい方の圧縮強度が大きい。一方、P/L比が大きいと、セメント粉が多いので練和が困難となり、試料によるばらつきが大きかった。
なお、いずれのサンプルもセメント粉71wt%と硬化液29wt%で作製したものである。なお、硬化液は低分子キトサン3wt%とリンゴ酸3wt%と超純水からなる。
(カルシウムイオン溶出量・質量減少量)
低分子量キトサン3wt%、リンゴ酸3wt%添加した硬化液を用いた生体活性セメント(CPC)(P/L=2.5)について、破骨細胞が作り出す環境下であるpH5.5に調製した酢酸−酢酸ナトリウム緩衝液中での吸収性試験の結果を示す。図13(a)にカルシウムイオン溶出量の経時変化、図13(b)に吸収性試験後の溶液100mlあたりのカルシウムイオン溶出量とCPC質量減量とその差を示す。図13(b)では、棒グラフAは、CPC質量減量を示し、Bはカルシウムイオン溶出量を示し、Cは両者の差を表す。
いずれのサンプルもセメント粉71wt%と硬化液29wt%で作製したものである。なお、硬化液は低分子キトサン3wt%とリンゴ酸3wt%と超純水からなり、P/Lは2.5であった。
図13(a)では縦軸がCa2+濃度(mg/L)を表し、横軸は時間(分)を表す。また、図13(b)では、縦軸は質量減量およびCa2+溶出量(mg)を表し、横軸はサンプルを示す。
カルシウムイオン溶出量と質量減量の差(図13(b)のC)は、リン酸、キトサンなどカルシウム以外の溶出物の質量と考えられる。キトサンを添加したCPCはカルシウムやリン酸以外にキトサンを失っていると示唆される。
(表面の観察)
図14に吸収性in vitro試験前後での乾燥試験片表面のSEM像を示す。セメント粉71wt%、硬化液が29wt%のサンプルである。硬化液中に低分子量キトサンは3wt%、リンゴ酸は3wt%含まれる。またセメント粉と硬化液の割合であるP/Lは2.5である。また、図14(a)は70倍であり、図14(b)は500倍の倍率による写真である。図14(a)および(b)ともに、浸漬前(「before」と表示)および浸漬後(「after」と表示)の写真を並べて示した。
浸漬前の表面には目立った孔は見られないが、浸漬後の表面には10μm程度の孔が多数観察される。同じ含有量の中分子量キトサンの場合(図示せず)には、浸漬後の表面に目立った孔は見られなかった。
以上のことから以下の点が結論された。
(1)吸収性in vitro試験により、低分子量キトサンを硬化液に添加したCPCは破骨細胞が作り出すpH条件下(pH5.5)ではキトサンの溶解が盛んであることがわかり、浸漬後の表面に10μm程度の孔が多数観察されたことから、多孔化したと考えられた。同程度の添加量の中分子量キトサンより多孔化が進んだ。
(2)TTCP平均粒径が7.68μm、DCPD平均粒径が6.33μmのセメント粉とTTCP平均粒径が36.92μm、DCPD平均粒径が4.69μmのセメント粉について硬化液に低分子量キトサンを3wt%、リンゴ酸を3wt%添加したCPCについて圧縮強度測定を行った。粒径に差をつけたことにより圧縮強度が実用レベルにあがった。
(3)TTCPとDCPDの等モル混合物をセメント粉とし、硬化液に低分子量キトサンを3wt%、リンゴ酸を3wt%添加して得られた固化体を、超純水に1、3、7日浸漬し硬化させた。その圧縮強度は1日で16.6±1.7MPa、3日で13.9±1.0MPa、7日で11.4±1.9MPaとなった。浸漬時間1日で海綿骨以上の強度が得られ、実用的な強度が得られた。
(4)セメント粉と硬化液の比を2.5から3に変え作製したCPCの圧縮強度は水中浸漬時間1日で22.2±3.7MPaとなり、さらに高強度となった。
本発明は、骨細胞増殖用足場材として、関節部分およびその他の骨の部分に好適に利用することができる。
1 基材膜
2 内側面
4 外側面
10 密着膜
15 リン酸カルシウム

Claims (8)

  1. キチン・キトサン膜同士を重ね合わせて密着させ密着膜を得る工程と、
    前記密着膜の両面にリン酸カルシウムを生成する工程と、
    前記密着膜を前記キチン・キトサン膜同士に分ける工程を含むことを特徴とする骨細胞増殖用足場材料の製造方法。
  2. 前記密着膜の両面にリン酸カルシウムを生成する工程は、
    リン酸を含む溶液に前記密着膜を浸漬する工程と、
    カルシウムを含む溶液に前記密着膜を浸漬する工程を含むことを特徴とする請求項1に記載された骨細胞増殖用足場材料の製造方法。
  3. 前記密着膜の両面にリン酸カルシウムを生成する工程は、
    前記密着膜の両面にカルシウムと結合しやすい官能基としてリン酸を導入する工程と、
    前記密着膜をカルシウムを含む液に膜に浸漬する工程を含むことを特徴とする請求項1に記載された骨細胞増殖用足場材料の製造方法。
  4. 前記密着膜を得る工程は、
    キチン・キトサン膜同士を重ね合わせて減圧下で保持する工程を含むことを特徴とする請求項1乃至3の何れかの請求項に記載された骨細胞増殖用足場材料の製造方法。
  5. 一方の面にリン酸カルシウムを有するキチン・キトサン膜を複数枚積層した骨細胞増殖用足場材料。
  6. リン酸水素カルシウム二水和物とリン酸四カルシウムを混合しセメント粉を得る工程と、
    水と中分子量キトサンとリンゴ酸と低分子量キトサンを混合して硬化液を得る工程と、
    前記セメント粉と前記硬化液を混合して錬和物を得る工程を有することを特徴とする生体活性セメントの製造方法。
  7. 前記セメント粉を得る工程では、
    前記リン酸四カルシウムの平均粒径が前記リン酸水素カルシウム二水和物の平均粒子より大きいことを特徴とする請求項6に記載された生体活性セメントの製造方法。
  8. 前記セメント粉と前記硬化液の比率が2乃至4であることを特徴とする請求項6又は7の何れかの請求項に記載された生体活性セメントの製造方法。
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