JP2015188926A - マグネシウム系金属の薄板の製造方法 - Google Patents

マグネシウム系金属の薄板の製造方法 Download PDF

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敏治 松本
Toshiharu Matsumoto
敏治 松本
満 坂本
Mitsuru Sakamoto
満 坂本
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Masashi Inoue
正士 井上
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木村康宏
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Abstract

【課題】様々な機器に適用可能なマグネシウム系金属の薄板の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明のマグネシウム系金属の薄板の製造方法は、溶融炉に収容されるカルシウムが添加されたマグネシウムの溶融金属を、傾斜部材に、流下する流下工程と、
傾斜部材において、溶融金属を傾斜面で冷却してマグネシウム合金の結晶を生成させることにより、溶融金属を半凝固スラリーとする結晶生成工程と、
傾斜部材の傾斜面の下方端部から落下する半凝固スラリーを、蓄積容器に蓄積して、結晶を成長させる結晶成長工程と、
蓄積容器から吐出される半凝固スラリーに、圧力を付与して所定厚みの薄板に成型する成型工程と、を備える。
【選択図】図1

Description

本発明は、マグネシウム系金属の薄板を製造する製造方法に関する。
電気製品、自動車や航空機などの輸送機器、精密機器、製造機械など、様々なアプリケーションにおいて筐体などを構成するために種々の金属素材が用いられる。このような様々なアプリケーションの筐体などは、鉄やアルミなどの単一金属素材で形成されるだけでなく、様々な合金素材が用いられることが多くなってきている。
例えば、電気製品や輸送機器などにおいては、軽量化を目的として、合金素材が用いられることがある。精密機器や製造機械などにおいては、耐久性や強度の向上を目的として合金素材が用いられることがある。このように、従来の単一金属素材が使用されていたアプリケーションやそのアプリケーションの構成部分においても、種々の合金素材が用いられるようになってきている。特に、電気製品の分野では使い勝手の良さが求められることから、輸送機器の分野では低燃費が求められることから、軽量でありながら耐久性や強度に優れた合金素材が、これらのアプリケーションの構成部分に使用されることが多くなってきている。
特に、低燃費や低公害を目的として、輸送機器の軽量化が求められている。輸送機器は、多くの金属製の部品を備えており、これら多くの各種部品のそれぞれが、軽量の金属や合金で製造されることが、輸送機器の軽量化の基本となる。
このような状況で、構造材料として実用可能な金属においては、最も低密度のマグネシウムが注目されている。マグネシウムの室温における密度は、1.7g/cm3であり、この密度は鉄の密度の約1/4であり、アルミニウムの密度の約2/3である。また、マグネシウムは、比強度、比剛性、切削性、耐くぼみ性、振動吸収等の性質が優れていることも知られている。
これらの特性により、マグネシウムは、これまでノートパソコンや携帯端末の筐体などの小型の電子機器に用いられてきた。更なる展開として、上述のように、大型製品である輸送機器の各種部品に使用されることが望まれている。
しかしながら、マグネシウムには次のような問題点がある。
(問題1)低温で発火しやすく、高温環境下での強度特性が低い。
(問題2)形状等を加工する塑性加工性が低い。
(問題3)各種部品に適用するための基礎部材となるマグネシウム薄板を製造するコストが高い。
例えば、問題1では、マグネシウムは低温で発火しやすく、高温環境下での耐久性や強度特性が低下する。多くの輸送機器は、エンジン機構によって駆動されることが多い。輸送機器に用いられる各種部品は、このエンジン機構からの熱や駆動による熱を受けやすく、高温環境となりやすい。小型の電子機器と異なり、輸送機器の各種部品には、この耐熱性の問題で、マグネシウムが適用されにくい状態であった。
また、ノートパソコンや携帯端末の筐体は、簡単な成型加工でその形状を作ることが出来る。これに対して、輸送機器に用いられる各種部品は、平面的にも立体的にも様々なかつ複雑な形状を有することが必要であり、複雑な加工を必要とする。このため、問題2にある塑性加工性の低さは、輸送機器へのマグネシウムの適用を阻んでいる。
更に、輸送機器は、厳しいコストダウン要求に常にさらされている。自動車や建設用機械などは、グローバルな世界市場における企業間競争が厳しく、性能向上とコストダウンの両立が常に求められている。このため、問題3も、マグネシウムの輸送機器への適用を阻んでいる。特に、マグネシウムは、アルミニウムなどと異なり、薄板にするために、多数の回数での圧延などを必要とする。圧延回数が増加することは、薄板を製造する工程でのコストを増加させる問題を有している。この薄板を製造する工程を、単純化したり簡略化したりするために溶湯から直接薄板を鋳造すると、マグネシウム薄板の耐久性、機械的特性が低下すると共に、表面傷の発生や面粗度の低下により、その後に様々な形状への加工を行うことが困難となる問題に繋がる。
このような問題1〜問題3によって、ノートパソコンや携帯端末の筐体のような小型の機器への適用から、輸送機器のような大型の機器への適用へと、なかなか進まない現状がある。しかしながら、近年の環境問題への関心の高まり、輸送機器メーカーのコストダウン要求などが相まって、輸送機器などの大型の機器の軽量化の要求も年々高まっている。
このような状況で、マグネシウムの薄板を製造する技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
特開2008−307542号公報
特許文献1は、マグネシウム系金属を溶融した溶湯m0を溶湯槽13に供給し、溶湯m0を引き出して少なくとも1対の鋳造上ロール21及び鋳造下ロール22からなる鋳造用双ロールの間隙に供給して圧力を加え、所定の温度に凝固した所定の厚さの板に鋳造する鋳造工程と、鋳造された板を少なくとも一対の圧延ロール41、42によって圧力を加え、圧延してマグネシウム系金属薄板を製造する圧延工程とを少なくとも含む、マグネシウム系金属の薄板製造方法を開示する。
特許文献1の技術は、マグネシウム系金属を溶融させた溶融金属を、最初のロールに投下して冷却し、その後に次のロールで圧延する工程で、マグネシウム系金属の薄板を製造する。単純かつ簡易な工程により、マグネシウム薄板の製造コストを低下させることを目的としている。
しかしながら、特許文献1の技術は、マグネシウム系金属の溶融金属を、最初のロールで急速に冷却して薄板を鋳造し、その後圧延するので、製造されるマグネシウム薄板の耐久性、機械的性質が非常に低くなってしまう問題を有している。従来技術で説明したように、マグネシウム薄板を製造するにおいては、複数回に渡って圧延を必要とする。このため、特許文献1に開示される、急速冷却と単数圧延のみの工程では、マグネシウム薄板の耐久性、機械的特性が低下する。もちろん、表面傷の発生や面粗度の低下が避けられない。
このような耐久性や機械的性質が低下することで、マグネシウム薄板を、様々な部品にあわせた加工をすることが難しい状態が残る。あるいは加工されて得られた部品の耐久性や強度信頼性が不十分との問題を残している。
このように、特許文献1の技術は、従来技術で説明した問題3のコスト低減を考慮しているが、問題2を残したままである。もちろん、問題1への考慮がないので、製造されるマグネシウム薄板を、輸送機器などの幅広い機器の各種部品へ適用することも困難なままである。
また、マグネシウム系金属の溶融金属を一度固化してビレットを製造し、ビレットに押出加工や圧延加工を繰り返すことで、マグネシウム薄板を製造する技術も提案されている。この場合には、複数回の塑性加工により薄型化が図られるので、耐久性や強度は維持されて、問題2は生じにくい。しかしながら、製造コストが上昇し、問題3が残ったままである。
また、問題1の考慮もされないままのマグネシウム薄板の場合には、問題2、問題3が解決されていても、上述の通り高温環境下での耐久性や強度特性が損なわれ、高温環境となりやすい輸送機器などへの適用が困難なままである。
軽量であるマグネシウムを小型電子機器だけでなく、輸送機器などの大型機器にも適用することが求められている。しかしながら、ここで述べたように、この適用に当たっては、上述した問題1〜問題3のいずれかのみを解決しても、輸送機器などへのマグネシウムの適用は困難である。すなわち、問題1〜3の全てを同時に解決して初めて、マグネシウムが、輸送機器等へ適用可能となる。
従来技術は、問題1〜3の全てもしくはいずれかを解決できないままであり、マグネシウムを、輸送機器などへ適用することが困難である問題を有していた。もちろん、輸送機器のみでなく、複雑な加工を必要とする機器や、高温環境となる電子機器などへの適用、低コストが要求される機器への適用も、困難である問題を残していた。
本発明は、問題1〜3を同時に解決し、この同時解決によって様々な機器に適用可能なマグネシウム系金属の薄板の製造方法を提供することを目的とする。
上記課題に鑑み、本発明のマグネシウム系金属の薄板の製造方法は、溶融炉に収容されるカルシウムが添加されたマグネシウムの溶融金属を、傾斜部材に、流下する流下工程と、
傾斜部材において、溶融金属を傾斜面で冷却してマグネシウム合金の結晶を生成させることにより、溶融金属を半凝固スラリーとする結晶生成工程と、
傾斜部材の傾斜面の下方端部から落下する半凝固スラリーを、蓄積容器に蓄積して、結晶を成長させる結晶成長工程と、
蓄積容器から吐出される半凝固スラリーに、圧力を付与して所定厚みの薄板に成型する成型工程と、を備える。
本発明のマグネシウム系金属の薄板の製造方法は、マグネシウムにカルシウムが添加された溶融金属を用いることで、発火抑制特性を高め、問題1を解消している。更に、傾斜部材で結晶を生成させてその後に結晶を成長させることで、結晶の微細化および均一化を実現し、耐久性や強度を残して加工性を高めることを実現している。更に、溶融金属に、最初のステップでの傾斜部材での半凝固スラリーの生成と、次のステップで薄板への成型という2段階工程により、製造コストを低減している。
このように、本発明のマグネシウム系金属の薄板の製造方法は、従来技術の問題1〜3を全て同時解決できる。この結果、得られる薄板は、加工性、耐久性・強度、コストのいずれの面でも、輸送機器を始めとする様々な機器に適用できる。
更には、輸送機器を始めとした機器の軽量化を実現し、環境負荷低減との社会的目的も実現できる。
本発明の実施の形態1におけるマグネシウム系金属の薄板の製造方法を実行する製造装置の模式図である。 本発明の実施の形態2における実施例での製造された薄板の写真である。 本発明の実施の形態2における実施例で製造された薄板内部の光学顕微鏡観察によって得られた写真である。 本発明の実施の形態2における実施例の圧延試験結果のグラフである。 本発明の実施の形態2におけるビッカース硬さ試験の結果を示すグラフである。 本発明の実施の形態2におけるエリクセン試験の結果を示すグラフである。
本発明の第1の発明に係るマグネシウム系金属の薄板の製造方法は、溶融炉に収容されるカルシウムが添加されたマグネシウムの溶融金属を、傾斜部材に、流下する流下工程と、
傾斜部材において、溶融金属を傾斜面で冷却してマグネシウム合金の結晶を生成させることにより、溶融金属を半凝固スラリーとする結晶生成工程と、
傾斜部材の傾斜面の下方端部から落下する半凝固スラリーを、蓄積容器に蓄積して、結晶を成長させる結晶成長工程と、
蓄積容器から吐出される半凝固スラリーに、圧力を付与して所定厚みの薄板に成型する成型工程と、を備える。
この構成により、薄板の製造方法は、発火温度が高く、結晶粒度が微細化されて均一化されるマグネシウム系金属の薄板を製造できる。
本発明の第2の発明に係るマグネシウム系金属の薄板の製造方法では、第1の発明に加えて、溶融金属は、マグネシウムに、溶融金属全体に対して0.1〜10mass%のカルシウムが添加されている。
この構成により、薄板の製造方法は、発火温度の高いマグネシウム系金属の薄板を製造できる。
本発明の第3の発明に係るマグネシウム系金属の薄板の製造方法では、第2の発明に加えて、溶融金属は、マグネシウムに、溶融金属全体に対して0.1〜20mass%のアルミニウム添加されている。
この構成により、薄板の製造方法は、発火温度の高いマグネシウム系金属の薄板を製造できる。
本発明の第4の発明に係るマグネシウム系金属の薄板の製造方法では、第1から第3のいずれかの発明に加えて、傾斜部材は、表面である傾斜面で流下された溶融金属を移動させ、傾斜部材はその内部および裏面の少なくとも一方に、冷却部材を備える。
この構成により、傾斜部材は、溶融金属を適切に半凝固スラリーとできる。
本発明の第5の発明に係るマグネシウム系金属の薄板の製造方法では、第4の発明に加えて、冷却部材は、傾斜面を移動する溶融金属を冷却して、結晶を生成させることにより半凝固スラリーにする。
この構成により、結晶が生成した状態から、薄板の成形につなげることが出来る。
本発明の第6の発明に係るマグネシウム系金属の薄板の製造方法では、第1から第5のいずれかの発明に加えて、傾斜部材は、流下する溶融金属の流下量および温度の少なくとも一つに応じて、その傾斜角度および長さの少なくとも一方を変更可能である。
この構成により、傾斜部材は、溶融金属の様々な状態に応じて半凝固スラリーを生成できる。
本発明の第7の発明に係るマグネシウム系金属の薄板の製造方法では、第4から第6のいずれかの発明に加えて、冷却部材は、流下する溶融金属の流下量および温度の少なくとも一つに応じて、冷却能力を変更可能である。
この構成により、傾斜部材は、溶融金属の様々な状態に応じて、半凝固スラリーを生成できる。
本発明の第8の発明に係るマグネシウム系金属の薄板の製造方法では、第1から第7のいずれかの発明に加えて、蓄積容器は、傾斜部材で生成された結晶の大きさおよび形状の少なくとも一つを成長させる。
この構成により、薄板の製造方法は、結晶粒度が微細化されるとともに均一化されたマグネシウム系金属の薄板を製造できる。
本発明の第9の発明に係るマグネシウム系金属の薄板の製造方法では、第8の発明に加えて、蓄積容器は、半凝固スラリーの温度および粘度の少なくとも一つに基づいて、吐出までの蓄積時間を変更可能である。
この構成により、蓄積容器は、半凝固スラリーの様々な状態に応じて、最適な結晶成長を実現できる。
本発明の第10の発明に係るマグネシウム系金属の薄板の製造方法では、第1から第9のいずれかの発明に加えて、蓄積容器は、傾斜部材で得られる半凝固スラリーを、成型冶具に、単位時間において略均一量を吐出できる。
この構成により、蓄積容器は、半凝固スラリーにおいて傾斜部材と成型冶具との間の最適なバッファの役割を果すことができる。特に、結晶の肥大化を防止できる短時間での蓄積と、均一量を吐出する必要な時間の蓄積との、最適なバランスでの蓄積時間でのバッファを実現できる。
本発明の第11の発明に係るマグネシウム系金属の薄板の製造方法では、第1から第10のいずれかの発明に加えて、成型工程では、蓄積容器から吐出される半凝固スラリーに上下から圧力を加える一対の圧力ローラーが使用される。
この構成により、成型冶具は、結晶成長した半凝固スラリーから、薄板を成型できる。成型される薄板は、結晶粒度の微細化および均一化が図られている。
本発明の第12の発明に係るマグネシウム系金属の薄板の製造方法では、第11の発明に加えて、一対の圧力ローラーの相互間距離は、所定厚みに基づく。
この構成により、成型冶具は、所望の厚みの薄板を成型できる。
本発明の第13の発明に係るマグネシウム系金属の薄板の製造方法では、第1から第12のいずれかの発明に加えて、薄板の平均結晶粒径は、約35μmである。
この構成により、製造される薄板は、塑性加工性が高いとともに機械的強度も高い。
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態を説明する。
(実施の形態1)
(全体概要)
まず、実施の形態1におけるマグネシウム系金属の薄板の製造方法(以下、「薄板製造方法」という)の概要を説明する。図1は、本発明の実施の形態1におけるマグネシウム系金属の薄板の製造方法を実行する製造装置(以下、「薄板製造装置」という)の模式図である。
薄板製造装置1は、溶融炉2と、傾斜部材3と、蓄積容器4と、成型冶具5と、を備える。溶融炉2は、カルシウムが添加されたマグネシウムの溶融金属100を収容する。溶融炉2は、その下方に設置された傾斜部材3に、溶融金属100を流下できる。この溶融炉2から傾斜部材3への溶融金属100の流下は、薄板製造方法における流下工程である。
傾斜部材3は、傾斜面32を有し、水平方向を基準に傾いた角度を有して傾斜している。この傾斜は、溶融炉2からの溶融金属100の流下方向に対して傾いている。また、図1に示されるとおり、溶融炉2から蓄積容器4につながるような傾きを、傾斜部材3は、有している。
傾斜部材3の傾斜面32には、流下工程によって、溶融炉2から溶融金属100が流下される。この傾斜面32は、溶融金属100の有する温度よりも低い温度を有している。また、傾斜面32は、一定の傾斜角度を有しているので、流下工程で流下した溶融金属100は、冷却されながら傾斜面32を滑り落ちる。この冷却されながら滑り落ちる過程で、溶融金属100において、マグネシウム合金の結晶が生成される。このマグネシウム合金の結晶が生成されることにより、溶融金属100は、半凝固スラリー101となる。この傾斜面32での半凝固スラリー101となる工程が、結晶生成工程である。
傾斜面32で生成された半凝固スラリー101は、傾斜面32をそのまま滑り落ちて、蓄積容器4に落下する。半凝固スラリー101が次々と落下することで、蓄積容器4には、半凝固スラリー101が蓄積される。この蓄積容器4に蓄積されることによって、マグネシウム合金の結晶が成長する。この結晶が成長する工程が、結晶成長工程である。このため、蓄積容器4には、結晶が成長した半凝固スラリー102(以下、「結晶成長スラリー」という)が蓄積される。
蓄積容器4は、この結晶成長スラリー102を吐出する。吐出方向の先には、成型冶具5が備わっている。成型冶具5は、一対の圧力ローラー51、52を有している。結晶成長スラリー102は、この一対の圧力ローラー51、52の間を通って圧力が付与される。この圧力ローラー51、52による圧力の付与により、結晶成長スラリー102の厚みが所定厚みに成型される。この成型が、成型工程である。成型工程によって、マグネシウム系金属の溶融金属100は、薄板103に成型される。すなわち、薄板103が得られる。
このように、薄板製造装置1を用いた薄板製造方法は、流下工程、結晶生成工程、結晶成長工程、成型工程と、を備える。これらの工程を備える薄板製造方法は、マグネシウム系金属の溶融金属100から、薄板103を製造できる。
実施の形態1における薄板製造方法は、次のようなメリットを有する。
(1)溶融金属100を収容する溶融炉2から一連の工程で薄板103を得ることが出来る。このため、押出加工や中間処理加工などが不要となり、製造コストを低減できる。
(2)後述するように、得られる薄板103において、結晶の微細化および均一化が実現される。
次に各部の詳細について説明する。
(溶融炉)
溶融炉2は、カルシウムが添加されたマグネシウムの溶融金属を収容する。ここで、マグネシウムにカルシウムが添加されることで、マグネシウム系金属の発火温度を高めることが出来る。発火温度が高まると、高温環境下での薄板103の様々な加工が可能となる。当然ながら、薄板103が加工された様々な部品も、高温環境下での使用が可能となる。例えば、自動車、製造設備、輸送機器など高温となりやすいアプリケーションへの、薄板103を基にした部品の適用が容易となる。
ここで、溶融金属100は、マグネシウムに溶融金属100全体に対して、0.1mass%〜10mass%のカルシウムが添加されていることが好適である。この範囲のカルシウムが添加されることで、マグネシウム系金属の溶融金属100が成型された薄板103は、発火温度を高く、強度特性を向上することができる。発火温度が高くなれば、難燃性が向上し、薄板103を基に製造された種々の部品の機械的強度を上げることができる。
酸素との親和性が高いカルシウムが添加されることによって、マグネシウム溶融金属の表面に酸化カルシウムの被膜を形成し、溶融金属の酸化を防止する。また、この酸化皮膜は緻密かつ強靭であり、湯面の振動程度では破壊されない。このようなメカニズムで、薄板103は、発火温度が高くなる。
また、溶融金属100は、マグネシウムに、溶融金属100全体に対して0.1mass%〜20mass%のアルミニウムが添加されていることも好適である。アルミニウムが添加されることでも、カルシウムが添加されるのと同様に、溶融金属100が成型された薄板103の発火温度や強度特性が上昇するからである。当然に、薄板103やこれを基に製造された種々の部品等の難燃性が向上する。結果として、高温環境下での機械的強度が高まるメリットもある。
ここで、アルミニウムは、カルシウムと併せてマグネシウムに添加されてもよいし、アルミニウムのみがマグネシウムに添加されてもよい。また、カルシウムやアルミニウムの添加量は、上述した範囲内で、適宜定められれば良い。
溶融炉2には、マグネシウムを始めとして、添加されるカルシウムやアルミニウムが投入される。投入されるマグネシウムやカルシウムはビレットなどの状態で溶融炉2に投入される。溶融炉2は、加熱器11を備えている。この加熱器11は、溶融炉2内の坩堝を加熱する。この加熱によって、投入されたマグネシウムなどの原料が溶融される。
あるいは、溶融炉2には、予め溶融された原料が投入される。加熱器11は、この溶融された原料を溶融状態に維持するために加熱する。加熱器11は、いずれの場合でも、溶融炉2が収容する溶融金属100を溶融状態に維持できる。溶融金属100は、流下工程で、傾斜部材3に溶融金属100を流下させるので、溶融炉2が、溶融金属100の溶融状態を維持する必要があるからである。
溶融炉2は、排出路13を有していることも好ましい。排出路13は、上方の開口孔と底面の流下孔とを有している。また、溶融炉2は、溶融金属100内部に押し込まれる制御棒12を備える。この制御棒12が溶融金属100内部に押し込まれることで、溶融金属100の表面位置が上昇する。この上昇に伴い、溶融金属100は、開口孔から排出路13に入り込む。この排出路13に入り込んだ溶融金属100は、流下孔から流下する。流下孔からの流下によって、傾斜部材3に溶融金属100が流下される。
溶融炉2は、排出路13と制御棒12とによって、流下量(流下速度)を調整しながら、溶融金属100を傾斜部材3に流下させることができる。あるいは、溶融炉から溶融金属100が、ポンプなどの送出機構によって、傾斜部材3に流下されてもよい。流下工程を実現するために、溶融炉2から溶融金属100を傾斜部材3に流下させるには、種々の手段が用いられればよい。
なお、溶融炉2の大きさや形状は、適宜定められれば良い。例えば、薄板製造装置1が、最終的に製造する薄板103の量によって、溶融炉2の大きさは定まる。あるいは、他の目的に用いられていた溶融炉2が薄板製造装置1に適用されてもよい。後者の場合には、薄板製造装置1のコストが低減できる。このように、他の目的での溶融炉2が適用できる点でも、薄板製造装置1(薄板製造方法)のコストが低減できる。
(傾斜部材)
傾斜部材3は、溶融炉2の下方に配置される。加えて、その表面である傾斜面32に流下工程で流下される溶融金属100を受ける。
傾斜面32は、平面に対して傾斜角度を有しているので、流下工程で流下した溶融金属100は、傾斜面32を移動する(下り落ちる)。ここで、傾斜部材3は、その内部および裏面の少なくとも一方に冷却部材31を備える。冷却部材31は、傾斜面32を冷却する。冷却部材31は、例えば気体や液体の冷媒を循環させることで、冷却機能を発揮できる。あるいは、冷却部材31は、熱伝導性の高い金属や合金を備えることで、冷却機能を発揮できる。
冷却部材31は、これらの冷却機能に基づいて、傾斜面32を移動する溶融金属100を冷却する。この冷却により、傾斜部材3は、傾斜面32において、溶融金属100の結晶を生成させることにより半凝固スラリー101を生成する。
このとき、溶融金属100は、傾斜面32をゆっくりと下り落ちるように移動する(結晶生成工程)。早すぎず、かつ遅すぎない移動に加えて、冷却部材31による冷却とが相まって、溶融金属100は、凝固して固化するのではなく、内部で結晶を生成させる。この結晶の生成によって、溶融金属100は、半凝固スラリー101となる。
傾斜部材3における結晶生成工程がなく、流下工程だけである場合には、結晶が生成されず最終的に製造される薄板の結晶粒度がばらついてしまう。あるいは、平面の冷却部材でそのまま冷却する場合でもそのまま固化してしまう。いずれの場合にも、結晶の生成が不十分となり、得られる薄板の結晶粒度のばらつきが生じる。
これに対して傾斜部材3による半凝固スラリー101の生成では、バランス良く移動と冷却の効果を与えることができる。この結果、溶融金属100内部で結晶が生成される。この結晶の生成が、最終的に製造される薄板103の結晶粒度を微細化かつ均一化させることに繋がる。
このように傾斜部材3は、傾斜面32と冷却部材31とを利用して、結晶生成工程を実行できる。このため、傾斜部材3は、流下する溶融金属100の流下量および温度の少なくとも一つに応じて、傾斜角度および傾斜面32の長さ(面積)の少なくとも一つを変更可能であることも好適である。例えば、流下量が多い場合には、傾斜角度を緩やかにしたり傾斜面32の長さを長くしたりする。流下量が多い場合でも、傾斜面32において、十分に結晶を生成させるためである。
あるいは、流下量が少ない場合には、傾斜角度を大きくしたり傾斜面32の長さを短くしたりしてもよい。結晶生成工程で、半凝固スラリーで留めるためである。
また、溶融金属の温度が高い場合には、傾斜角度を緩やかにしたり傾斜面32の長さを長くしたりすることも好適である。結晶生成に必要となる冷却を十分に付与するためである。溶融金属の温度が低い場合には、傾斜部材3は、傾斜角度や傾斜面32の長さを、逆にすればよい。
冷却部材31は、流下工程で流下される溶融金属100の流下量および温度の少なくとも一つに応じて、冷却能力を変更可能であることも好適である。上述のように、流下量が多い場合や温度が高い場合には、結晶生成工程での結晶の生成を十分に行うには、冷却能力が高いことが必要となるからである。逆に、流下量が少ない場合や温度が低い場合には、結晶生成工程での結晶の生成を十分に行うのに、冷却能力が高すぎることが好ましくないからである。
冷却部材31が、流下する溶融金属100の流下量や温度に基づいて、その冷却能力を変更可能であることは、結晶生成工程での確実な結晶生成を実現できる。
以上のように、傾斜部材3は、最終的に製造される薄板103の結晶粒度を微細化かつ均一化できる結晶生成を実現できる。加えて、傾斜角度や冷却能力などの変更により、種々の場合に対応して、確実に結晶を生成できる。
(蓄積容器)
蓄積容器4は、傾斜部材3で生成される半凝固スラリー101を蓄積する。蓄積容器4は、傾斜部材3の傾斜下部の下方に備えられ、傾斜部材3を滑り落ちる半凝固スラリー101を受けて蓄積する。蓄積容器4は、傾斜部材3より供給される半凝固スラリー101の量と、成型工程で製造される薄板103の製造速度との関係から、その蓄積可能容量が定められれば良い。
蓄積容器4は、傾斜部材3から供給される半凝固スラリー101を一定時間において蓄積する。この蓄積容器4での蓄積によって、半凝固スラリー101は、生成した結晶を成長させる。このとき、結晶の大きさおよび形状の少なくとも一つが成長する。
ここで、蓄積容器4は、傾斜部材3を移動して結晶が生成された半凝固スラリー101を、実際の薄板に加工する成型冶具5に送るまでのバッファの役割を果す。半凝固スラリー101を薄板に加工する成型冶具5は、その加える圧力によって、結晶の微細化および均一化を実現する。このため、傾斜部材3から成型冶具5に直接的に、半凝固スラリー101が送出されてもよい。
しかしながら、溶融炉2から流下される溶融金属100によって、傾斜部材3は、半凝固スラリー101を生成する。このため、傾斜部材3で生成される半凝固スラリー101の生成量は、時間辺りでばらつく可能性もある。このばらついた状態で成型冶具5に半凝固スラリー101が送出されることは、結晶の微細化、均一化を成型冶具5が実現するのには好ましくない。
このため、蓄積容器4が、バッファとなって半凝固スラリー101を蓄積した状態で、成型冶具5に送出することは、単位時間において均一量の半凝固スラリー101を成型冶具5に送ることができる点で好ましい。このため、蓄積容器4は、半凝固スラリー101の蓄積時間を調整できる。あるいは、蓄積される時間と吐出までの時間との最適相関に基づいて、吐出までの時間を調整できる。
このようなバッファとしての蓄積の中で、蓄積容器4内部では、半凝固スラリー101に含まれる結晶の大きさおよび形状の少なくとも一つが成長できる。
結晶の大きさおよび形状の少なくとも一つが成長することで、最終的に製造される薄板103の結晶粒度が一定になる。結晶粒度が一定になることで、製造される薄板103の安定した品質が保証される。このため、薄板103を用いて製造される種々の部品等の機械的強度も安定する。もちろん、上述の通り、結晶成長スラリー102が成型冶具5に送られるまでの吐出時間(蓄積時間)が、最適に調整されることで、単位時間当たりに均一量の結晶成長スラリー102が送られる。
この均一量が送り込まれる成型冶具5は、圧力付与による薄板103の成型工程で、結晶の微細化と均一化を合わせて実現できる。この結果、薄板製造装置1(薄板製造方法)は、全体の要素の組み合わせを最適化して、結晶の微細化と均一化をさせた薄板103を製造できる。
蓄積容器4は、蓄積する結晶成長スラリー102を、成型冶具5に吐出する。吐出によって結晶成長スラリー102が、成型冶具5で成型されて薄板103が製造される。このとき、吐出までの蓄積時間によって、結晶成長スラリー102における結晶成長の度合いが定まる。
製造される薄板103の結晶粒度の均一化においては、結晶成長の度合いがその基準となる。このため、吐出までの蓄積時間が適切に制御されることが好適である。蓄積容器4は、結晶成長スラリー102の温度および粒度の少なくとも一つに基づいて、吐出までの蓄積時間を変更可能である。結果として、蓄積容器4は、結晶成長スラリー102の均一化を実現できる。
傾斜部材3で半凝固スラリー101を製造するだけでなく、蓄積容器4が結晶を成長させた結晶成長スラリー102を生成することで、最終的に製造される薄板103の結晶粒度の均一性をより高めることが出来る。すなわち、薄板製造方法は、傾斜部材3による結晶生成工程と蓄積容器4による結晶成長工程とを組み合わせることで、結晶粒度が均一であって機械的強度の高い薄板103を製造することができる。
また、最初の流下工程を実行する溶融炉2から蓄積容器4までの薄板製造装置1の要素のそれぞれは簡便であり組み合わせも簡便である。加えて、余分な要素や組み合わせを必要としない。これらの結果、薄板製造方法そのもののコストはもちろん、薄板103を製造するコストも低減できる。
ここで、蓄積容器4は、成型冶具5に結晶成長スラリー102を吐出する際に、吐出角度を変更できることも好適である。変更できることで、成型冶具5は、ある角度で送り込まれる結晶成長スラリー102に適切な圧力を付与することができる。この適切な圧力によって、成型冶具5は、結晶の微細化および均一化を図った薄板103を成型できる。
このように、蓄積容器4は、傾斜部材3と成型冶具5との間のバッファの役割を果す。このバッファにおいては、成型冶具5に結晶成長スラリー102、を均一かつ連続的に送ることも実現できる。更に、蓄積時間においては、半凝固スラリー101の結晶も一定の成長を図ることができ、薄板103に含まれる結晶の均一化に貢献できる。
もちろん、蓄積時間は、結晶の肥大化を抑制できる時間(短時間が好ましい)でありつつ、均一量を連続的に吐出できる時間との最適なバランス点で定められる。このように、蓄積容器4は、薄板製造装置1全体での一つの役割を果すことができる。
(成型冶具)
成型冶具5は、成型工程を実行して、結晶成長スラリー102から薄板103を得る。成型冶具5は、一対の圧力ローラー51、52を有している。圧力ローラー51および圧力ローラー52とは、互いに対向して蓄積容器4から吐出される結晶成長スラリー102に両方向から圧力を付与する。すなわち、対向する圧力ローラー51と圧力ローラー52とは、結晶成長スラリー102を挟み込むようにして、上下から圧力を加える。
この上下から加えられる圧力によって、結晶成長スラリー102は、所定の厚みに成型されて薄板103が得られる。もちろん、圧力ローラー51と圧力ローラー52とは、上下ではなく吐出方向と成型方向にあわせて圧力を付与すればよい(例えば、左右から圧力を付与する)。
圧力ローラー51、52との相互間距離は、成型される薄板103の厚みに対応する。圧力ローラー51、52との相互間距離は、変更可能であることが好ましい。成型冶具5が成型する薄板103の厚みを、変更可能に出来るからである。圧力ローラー51、52は、調整された相互間距離での圧力付与により、所定厚みの薄板103を成型できる。
また、上述の通り、成型冶具5は、送り込まれる結晶成長スラリー102に圧力を加えることで、結晶の均一化を図ることができる。この均一化を実現する中で、蓄積容器4での蓄積時間と相まって、結晶の微細化も実現できる。このようにして、最終的に、成型冶具5は、結晶の微細化と均一化を両立した薄板103を成型できる。
このようにして得られた薄板103は、次の特徴を有する。
(1)カルシウムの添加により、発火温度が高くなり難燃性を有する。
(2)結晶生成工程と結晶成長工程との最適な組み合わせにより、結晶粒度の微細化および均一化が実現される。
(3)(2)によって、高い機械的強度を有する。
(4)溶融炉2の溶融金属100から一連の要素での工程を経るだけであるので、製造工程が簡易となり、製造コストが低い。
このようにして、実施の形態1における薄板製造方法は、従来技術の問題を全て一度に解決でき、低コストでありながら様々なアプリケーションに使用可能なマグネシウム系合金の薄板を製造できる。
(実施の形態2)
実施の形態2について説明する。実施の形態2では、実際に発明者が実施の形態1で説明した薄板製造方法で薄板を製造した実験結果を説明する。
(実施例)
(1)溶融金属
溶融金属として、マグネシウムに約3mass%のアルミニウム、約1mass%の亜鉛、約1mass%のカルシウムを添加したマグネシウム合金が用いられた。
溶融金属は、溶融炉2に相当する炉内に設置した坩堝で溶解されて得られた。坩堝は、ニッケルフリーのSUS430ステンレス鋼で製造されたものであり、この表面に純アルミニウムめっきが施されて973Kで24時間の拡散処理がなされて、マグネシウム系金属の溶融金属と反応しにくい層が形成されている。
実施例のマグネシウム系金属の溶融金属の液相線温度は、896Kであり、固相線温度は786Kであることが確認された。坩堝においては、943Kの温度に加熱することで、実施例のマグネシウム合金が溶融金属とされる。
(2)流下工程
坩堝には、坩堝と同様の素材や表面処理を施された制御棒が押し込まれて、溶融金属の表面位置が上昇することで、坩堝から傾斜部材に実施例の溶融金属が流下する。
(3)結晶生成工程
傾斜部材の材質は、熱伝導性の良好な純銅であり、表面には離型材としてのBN(窒化ホウ素)が塗布されている。流下工程において坩堝から流下した実施例の溶融金属は、この傾斜部材に流下する。傾斜部材は、上述の通り熱伝導性の良好な純銅であるので傾斜部材に流下された実施例の溶融金属は、冷却されつつ滑り落ちる。この滑り落ちる際に、結晶が生成される。結果として、半凝固スラリーが、傾斜部材で生成される。
(4)結晶成長工程
半凝固スラリーは、蓄積容器に蓄積される。ここで、蓄積容器の例としてタンディッシュが用いられた。タンディッシュは、断熱性素材である珪酸カルシウムボードが用いられて、半凝固スラリーを蓄積する蓄積部と成型冶具に吐出するノズル部を有している。ノズル通過時には、結晶成長スラリーは、大気との接触が遮断されるように、タンディッシュは構成されている。
このタンディッシュにおいて、半凝固スラリーの結晶が成長して、結晶成長スラリーが得られる。ノズル部を通じて結晶成長スラリーを吐出して、成型冶具で薄板を成型した。
(5)成型工程
成型冶具として、一対の上下ロールが用いられた。上下ロールは純銅で作製されている。上下ロールのそれぞれは、φ300x250mmであり、内部を冷却水が通る。ノズル部から吐出される結晶成長スラリーが、この上下ロールの間に送り込まれて圧力が付与されて薄板が作製された。
この薄板の作製を行う成型工程は、次の条件で行われた。
鋳造温度 : 911K
傾斜部材長さ : 150mm
傾斜部材角度 : 60度
結晶成長スラリー吐出量 : 10.2(10−3/min)
上下ロール回転速度 : 23.0m/min
タンディッシュ角度 : 5度
ここでタンディッシュ角度とは、蓄積容器であるタンディッシュを、上下ロールに対しての吐出角度を意味する。
この条件での成型工程により、図2に示されるような板厚2mm、板幅150mmの薄板が、連続的に成型(製造)できた。図2は、本発明の実施の形態2における実施例での製造された薄板の写真である。図2の写真より明らかな通り、マグネシウム系金属の薄板が、図1の薄板製造装置1で製造されることが、実験により確認された。
(実験結果)
(結晶の粒径)
図2に示される薄板の凝固組織観察が行われた。平均結晶粒径は、35μmであった。平均結晶粒径が35μmであることは、薄板の結晶粒度が、微細化されていることを示している。また、図2の凝固組織観察での拡大写真を、図3に示す。図3は、本発明の実施の形態2における実施例で製造された薄板内部の光学顕微鏡観察によって得られた写真である。
図3の写真から明らかな通り、薄板の結晶は、微細化されているだけでなく、均一化されている。この微細化および均一化されていることで、薄板の機械的強度や塑性加工性が高いことが確認された。金属や合金においては、結晶が微細であると共に均一であることが、外部からの圧力や衝撃に対して強い機械的強度を有するからである。同時に、塑性加工性が高いことの要件である。
このことから、実施例の薄板は、高い塑性加工性および機械的強度を有し、様々な形状に加工しやすいことを示している。
(特性評価試験)
発明者は、図2に示される製造された薄板の特性評価を行った。特性評価の一つとして、まず圧延実験を行った。薄板を200x50x2mmの寸法の試験片に切り出して、0.05mm/passの圧下量で圧延を行う。この圧延において目視で試験片にわれが確認できなければ同条件で加熱および圧延を繰り返した。
ここで、試験片は、所定の温度で加熱された直後に、0.05mm/passの圧下量で圧延された。加熱は、圧延前の予熱での加熱であり、この加熱温度である所定温度は、室温、373K、473K,573Kの4つの温度である。
この加熱と圧延の繰り返しにおいて、目視で割れが確認できたときの板厚を測定し、2mmからの板厚変化量によって限界累積圧延率を算出した。
更に、薄板のビッカース硬さ試験を行った。ビッカース硬さ試験の手順は、上述の試験片表面を、耐水エメリー紙#1200仕上げとして、室温において試験力9.8N、試験力保持時間25秒で行った。
加えて、薄板のエリクセン試験を行った。薄板から60x60x2mmの試験片を切り出し、この試験片を基に、エリクセン試験が行われた。試験の条件は、パンチ径20mm、ダイス外径55mmの試験機を用いて、室温においてパンチ押し込み速度5mm/minである。
(圧延試験結果)
圧延試験の結果を図4に示す。図4は、本発明の実施の形態2における実施例の圧延試験結果のグラフである。図4の横軸は予熱温度であり、縦軸は上述した限界累積圧延率である。ここで、図4のグラフにおけるAZX311は、実施例のマグネシウム合金の薄板である。AZ31は、カルシウムを含有せず、アルミニウムを3mass%、亜鉛を1mass%のマグネシウム合金(AZ31合金)であり、実施例と同じ方法で作製した薄板である。比較例1として示している。Chill cast sheetは、傾斜部材を用いずに製造されたAZ31合金の薄板(通常薄板)である。比較例2として示している。
ここで、予熱温度とは、上述した圧延前の加熱時の所定温度であり、室温、373K、473K,573Kの4つの温度である。
図4のグラフから明らかな通り、実施例のマグネシウム合金の常温での限界累積圧下率は20%を越えている。これは、カルシウムを添加していないAZ31合金薄板と同等の値である。しかしながら、予熱温度373K以上では通常薄板と同程度の値となっている。
これは、実施例のマグネシウム合金の薄板が、結晶微細化の効果によって室温での塑性加工性が向上しているのに加えて、カルシウム添加により実施例の薄板の硬度が高まったことを示している。この結果より、実施例のマグネシウム合金の薄板は、高い塑性加工性と高い機械的強度を両立させていることが分かる。
(ビッカース硬さ試験結果)
ビッカース硬さ試験の結果を、図5に示す。図5は、本発明の実施の形態2におけるビッカース硬さ試験の結果を示すグラフである。図5のグラフから明らかな通り、実施例のマグネシウム合金の薄板は、比較例1のAZ31合金より、ビッカース硬さが、20%向上している。これは、カルシウムが添加されることで、結晶粒界に硬くて脆い特徴を有するAlCa金属間化合物が分布したためであると考えられる。
図5の結果より明らかな通り、実施例のマグネシウム合金の薄板は、硬さが高まり、高い機械的強度を有している。この結果、実施例の薄板は、様々な用途に適用可能となる。
(エリクセン試験結果)
エリクセン試験では、図6に示される結果が得られた。図6は、本発明の実施の形態2におけるエリクセン試験の結果を示すグラフである。
一般的には、マグネシウムにカルシウムが添加されると、塑性加工性が悪くなる。このため、カルシウムが添加された合金である通常のAZX311のエリクセン値は、カルシウムの添加されていないAZ31に比べて、極めて低くなる。エリクセン値が低いことは、塑性加工性の悪さを示す。
しかしながら、図6の結果に示されるように、カルシウムの添加されたAZX311であっても、本発明の薄板製造方法で得られる場合(実施例)には、エリクセン値の低下が抑えられている。AZ31に比較しても、図6の結果は遜色が無いレベルである。
加えて、ビッカース硬さは、比較例であるAZ31よりも20%も増加している。この結果と合わせると、エリクセン値の結果も、本発明の薄板製造方法が、強度、硬さ、耐久性、塑性加工性のそれぞれでバランスのよいマグネシウム系金属の薄板を製造できることが分かる。
以上の試験結果からわかる通り、実際に作製された実施例のマグネシウム系金属の薄板は、次の特性を有している。
(1)カルシウムの添加により、発火温度が高くなり難燃性を有する。
(2)結晶生成工程と結晶成長工程との組み合わせにより、結晶粒度の微細化および均一化が実現される。
(3)(2)によって、高い機械的強度を有する。
(4)溶融釜2の溶融金属100から一連の要素での工程を経るだけであるので、製造工程が簡易となり、製造コストが低い。
実験から明らかな通り、本発明の薄板製造方法は、様々な用途に利用可能なマグネシウム系金属の薄板を製造することが出来る。
なお、実施の形態1〜2で説明されたマグネシウム系金属の薄板の製造方法は、本発明の趣旨を説明する一例であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲での変形や改造を含む。
1 薄板製造装置
11 加熱器
12 制御棒
13 排出路
2 溶融炉
3 傾斜部材
31 冷却部材
32 傾斜面
4 蓄積容器
5 成型冶具
51 圧力ローラー
100 溶融金属
101 半凝固スラリー
102 結晶成長スラリー
103 薄板

Claims (13)

  1. 溶融炉に収容されるカルシウムが添加されたマグネシウムの溶融金属を、傾斜部材に、流下する流下工程と、
    前記傾斜部材において、前記溶融金属を傾斜面で冷却してマグネシウム合金の結晶を生成させることにより、前記溶融金属を半凝固スラリーとする結晶生成工程と、
    前記傾斜部材の傾斜面の下方端部から落下する前記半凝固スラリーを、蓄積容器に蓄積して、前記結晶を成長させる結晶成長工程と、
    前記蓄積容器から吐出される前記半凝固スラリーに、圧力を付与して所定厚みの薄板に成型する成型工程と、を備える、マグネシウム系金属の薄板の製造方法。
  2. 前記溶融金属は、マグネシウムに、溶融金属全体に対して0.1〜10mass%のカルシウムが添加されている、請求項1記載のマグネシウム系金属の薄板の製造方法。
  3. 前記溶融金属は、マグネシウムに、溶融金属全体に対して0.1〜20mass%のアルミニウム添加されている、請求項2記載のマグネシウム系金属の薄板の製造方法。
  4. 前記傾斜部材は、表面である前記傾斜面で流下された前記溶融金属を移動させ、
    前記傾斜部材はその内部および裏面の少なくとも一方に、冷却部材を備える、請求項1から3のいずれか記載のマグネシウム系金属の薄板の製造方法。
  5. 前記冷却部材は、前記傾斜面を移動する前記溶融金属を冷却して、結晶を生成させることにより半凝固スラリーにする、請求項4記載のマグネシウム系金属の薄板の製造方法。
  6. 前記傾斜部材は、流下する前記溶融金属の流下量および温度の少なくとも一つに応じて、その傾斜角度および長さの少なくとも一方を変更可能である、請求項1から5のいずれか記載のマグネシウム系金属の薄板の製造方法。
  7. 前記冷却部材は、流下する前記溶融金属の流下量および温度の少なくとも一つに応じて、冷却能力を変更可能である、請求項4から6のいずれか記載のマグネシウム系金属の薄板の製造方法。
  8. 前記蓄積容器は、前記傾斜部材で生成された結晶の大きさおよび形状の少なくとも一つを成長させる、請求項1から7のいずれか記載のマグネシウム系金属の薄板の製造方法。
  9. 前記蓄積容器は、前記半凝固スラリーの温度および粘度の少なくとも一つに基づいて、吐出までの蓄積時間を変更可能である、請求項8記載のマグネシウム系金属の薄板の製造方法。
  10. 前記蓄積容器は、前記傾斜部材で得られる半凝固スラリーを、前記成型冶具に、単位時間において略均一量を吐出できる、請求項1から9のいずれか記載のマグネシウム系金属の薄板の製造方法。
  11. 前記成型工程では、前記蓄積容器から吐出される前記半凝固スラリーに上下から圧力を加える一対の圧力ローラーが使用される、請求項1から10のいずれか記載のマグネシウム系金属の薄板の製造方法。
  12. 前記一対の圧力ローラーの相互間距離は、前記所定厚みに基づく、請求項11記載のマグネシウム系金属の薄板の製造方法。
  13. 前記薄板の平均結晶粒径は、約35μmである、請求項1から12のいずれか記載のマグネシウム系金属の薄板の製造方法。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
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