現在、スマートフォンの爆発的な普及に伴って、利便性の高いマイクロ波帯の周波数資源が枯渇している。対策として、第3世代の携帯電話から第4世代の携帯電話への移行や、新しい周波数帯の割り当てが行われている。しかし、サービスの提供を望む事業者が多いことから、各事業者に割り当てられる周波数資源は限られている。
携帯電話のサービスにおいては、複数のアンテナ素子を利用したマルチアンテナ・システムによる周波数利用効率の向上を目指す検討が進められている。既に普及している無線標準規格IEEE(The Institute of Electrical and Electronics Engineers, Inc.)802.11nでは、送信と受信との双方に複数のアンテナ素子を用いるMIMO(Multiple Input Multiple Output)伝送技術を用いて空間多重伝送を行う。これにより、IEEE802.11nでは、伝送容量を高めて周波数利用効率を向上させている。なお、MIMOという用語は、一般には送信局及び受信局共に複数アンテナ素子を備えることを想定して使われる。受信側が単数アンテナ素子の場合には、MIMOではなく、MISO(Multiple Input Single Output)という用語が使われる。ただし、本明細書では、これらを全て包含する意味でMIMOという用語を用いる。
また、最近の通信技術としては、OFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing)変調方式やSC−FDE(Single Carrier Frequency Domain Equalization)方式の様に、複数の周波数成分(サブキャリア)に分割して周波数軸上で信号処理を行う方式が一般的である。以下の説明では、特にOFDMやSC−FDEの区別をせず、それらに共通する一般的な方式を前提として「サブキャリア」という用語を用いて説明する。
MIMO伝送技術においては、送信局と受信局との間の伝送路情報を知ることで、より効率的な伝送を行うことが可能となる。最も単純な例としては、送信側にN本のアンテナ素子を備え、受信側に1本のアンテナ素子のみを備える場合、N本のアンテナ素子から送信される信号が受信側のアンテナ素子において同位相合成される様に送信側で指向性制御を行う。これにより、回線利得を高めることができる。具体的には、第kサブキャリアにおける送信局の第jアンテナ素子から受信局のアンテナ素子までの間のチャネル情報をhj (k)としたときに、そのアンテナ素子に対して下記の数式(1)の送信ウエイトwj (k)を算出し、これを送信信号に乗算したものを各アンテナ素子から送信する。なお、上記チャネル情報とは、厳密には、送信系及び受信系のRF(Radio Frequency)回路内のアンプ、フィルタ等の複素位相の回転、及び振幅の変動情報を含むものとする。
送信側の第1アンテナ素子から第Nアンテナ素子に対応するチャネル情報を成分とするベクトル(h1 (k),…,hj (k),…,hN (k))をチャネルベクトルh(k)と称する。また、送信側の第1アンテナ素子から第Nアンテナ素子に対応する送信ウエイトを成分とするベクトル(w1 (k),…,wj (k),…,wN (k))T(Tは転置を表す。)を送信ウエイトベクトルw(k)と称する。チャネルベクトルh(k)と送信ウエイトベクトルw(k)とを用いると、受信信号ベクトルRxは、送信信号ベクトルTx及びノイズnに対して下記の数式(2)で与えられる。
数式(1)を数式(2)に代入すると、チャネルベクトルh(k)の各成分hj (k)の絶対値を全成分にわたって加算した値がチャネル利得として得られる。N本アンテナ素子であれば、受信信号の振幅は1本アンテナ素子で送信した場合のN倍になるものと期待される。受信信号強度は、振幅の2乗に比例するからN2倍にまで改善される。この値が複数のアンテナ素子をアレーアンテナとして利用した場合の利得である。
一般的には、シャノンの定理により、SNR(Signal-Noise Ratio)の改善量に対する伝送容量の増加は、低SNR領域ほど大きく、高SNR領域ほど小さいことが知られている。そのため、回線利得の改善によって伝送容量の向上を目指すより、受信側にも複数のアンテナ素子を備え、空間多重によって伝送容量の向上を目指すことが多い。空間多重によって伝送容量のアップを目指すのがMIMO伝送技術である。複数の送信側のアンテナ素子と複数の受信側のアンテナ素子との間のチャネル情報が既知の場合には、そのチャネル行列HをSVD(Singular Value Decomposition)分解し、固有モードでの伝送を行うことで伝送容量を最大化する。
具体的には、下記の数式(3)の様に、チャネル行列Hをユニタリー行列UとV及び特異値λを対角成分にもつ対角行列Dに分解する。
この際、送信ウエイト行列としてユニタリー行列Vを用いれば、受信信号ベクトルRxは、送信信号ベクトルTx、ノイズベクトルnに対して、下記の数式(4)で与えられる。
受信側では、ユニタリー行列Uのエルミート共役の行列UHを乗算することで、下記の数式(5)を得る。
数式(5)において、対角行列Dの非対角成分はゼロであるから、送信信号のクロスタームは既にキャンセルされ、信号分離された状態となる。各特異値λの絶対値の2乗値が個別の信号系列の回線利得に相当する。各特異値λは、信号系統ごとに異なる値となる。この固有モードの特異値に合わせた伝送モードを最適化することによって、伝送容量を最大化することができる。伝送モードは、変調多値数と誤り訂正の符号化率などの組み合わせで定まる信号伝送の具体的なモードである。
上記は、1台の基地局と1台の端末局を想定したシングルユーザMIMO伝送技術に関する説明である。同様の説明は、1台の基地局と複数台の端末局との間において同時に同一周波数軸上で通信を行うマルチユーザMIMOにも拡張可能である。マルチユーザMIMOにおいては、一般に、各端末は空間多重する合計の信号系統数よりも少ない本数のアンテナ素子で通信を行う。そのため、ダウンリンクにおいては、送信側で事前にユーザ間干渉を抑圧するための指向性制御を行う。具体的な式は若干異なるが、基本的には上記の固有モード伝送と同様に、チャネル行列を把握した上でそれに合わせた送信ウエイトを用いる。
また、上記の説明では、ダウンリンクを中心に説明を行ったが、アップリンクにおいても同様に事前にチャネル情報を把握した上で、そのチャネル情報を利用した通信を行うことができる。例えば、最初に説明したアレーアンテナとしての処理においては、数式(1)にて与えられる同位相合成のウエイトを受信ウエイトとして用いる他、最大比合成のウエイトとして、下記の数式(6)で与えられるものを用いることも可能である。
数式(6)の定数Cは適宜定められる係数である。ベクトルの各成分の内でhj (k)の絶対値が大きいものは大きな重みで足し合わさる様に、また小さな信号は小さな重みで足し合わされる様にCは決定される。これにより、SNRの大きな信号を重視し、SNRの小さな信号の雑音が過度に影響を与えない様に調整が図られる。
以上のマルチユーザMIMO及びアレーアンテナの技術を更に発展させた新しい空間多重伝送技術として、大規模アンテナシステムの提案がなされている(例えば、非特許文献1及び非特許文献2参照)。
図9は、大規模アンテナシステムの概要を示す図である。図9においては、基地局1、無線局2、見通し波3、構造物による安定反射波4、地上付近の多重反射波5〜6、構造物7が示されている。図9の大規模アンテナシステムにおいては、基地局1は、多数(例えば100本以上)のアンテナ素子を備え、ビルの屋上や高い鉄塔の上など高所に設置される。無線局2も同様に、ビルの屋上、家屋の屋根の上、電信柱や鉄塔の上など高所に設置される。そのため、基地局1と無線局2との間は概ね見通し環境にあり、その間には見通し波3のパスや、大型の安定的な構造物7の安定反射波4のパスなどに加え、地上付近での車や人などの移動体などによる多重反射波5、6のパスが混在する。なお、指向性アンテナを用いる場合などは特に、地上付近の多重反射波5、6は、見通し波3及び安定反射波4などに比べて受信レベルが低くなる。
図10は、見通し環境及び見通し外環境におけるインパルス応答を表す図である。図10(a)は見通し外環境でのインパルス応答を、図10(b)は見通し環境でのインパルス応答をそれぞれ示している。図10(a)及び(b)において、横軸は遅延時間を表し、縦軸は各遅延波の受信レベルを表す。図10(a)に示した見通し外環境の場合、見通し区間の直接波成分は存在せず、様々な経路の多重反射波が数多く成分として存在し、各振幅及び複素位相は時間と共にランダムに激しく変動する。
これに対し、図9に示した大規模アンテナシステムの様な見通し環境を想定する場合、見通し波3、構造物7による安定反射波4の安定パスはレベルが高い。見通し波3、構造物7による安定反射波4よりも一般的に遅延量が大きい時変動パスの多重反射波は、多重反射と経路長に伴う減衰により、図10(b)に示す様に相対的にレベルが小さくなる。この様なチャネル情報を複数回取得して平均化すると、安定パスの成分は振幅及び複素位相ともに毎回安定して同様の値が得られるが、時変動パスの成分は複素空間上でランダムに合成され平均化されて平均値0に近づく。そのため、平均化により安定成分のみを効果的に抽出することが可能になる。
この様にして得られる時変動のない安定パスのチャネル情報を基に、基地局1(図9参照)は送受信ウエイトを算出する。基地局1は、算出した送受信ウエイトを用いて多数のアンテナ素子で同位相合成を行うための指向性制御を行う。上記の送受信ウエイトを用いることで、基地局1は、指向性制御のターゲットとする通信相手の無線局への指向性利得をアンテナ素子の本数Nの2乗倍に比例して高めることができる。
また、ターゲット以外の無線局への与干渉の指向性利得はN倍に留まるため、相対的に希望信号と干渉信号との間には単純計算でN倍のギャップが生じる。結果的にSIR(Signal to Interference Ratio)の期待値は10Log10(N)dBとなる。この期待値は、Nが100の場合には20dBとなる。更に相関の小さな無線局を選択的に空間多重する場合には、更なるSIR特性の改善が期待され、より高い空間多重が実現できる。
非特許文献2には、上記の送受信ウエイトでは抑圧しきれない干渉を更に抑圧するための技術や、チャネル情報の相関(チャネル相関)のより低い無線局の組み合わせを選択する技術が紹介されている。超高次の空間多重を実現するためには、チャネル相関の小さな無線局を組み合わせることが重要である。基地局の多数のアンテナ素子と第j無線局との間の第kサブキャリアに関するチャネル情報を成分とするチャネル情報ベクトル→hj (k)(「hj (k)」の前の記号「→」は、hの上に付されてベクトルを表すための記号である)と、別の第i無線局におけるチャネル情報ベクトルhi (k)との間のチャネル相関は以下の数式(7)で与えられる。
見通し波のみで構成される仮想的なチャネルモデルを想定すると、上記のチャネル相関は、基地局を基準としたときの二つの異なる無線局の方位の角度差θに強く依存した振る舞いを示すと考えられる。図11は、基地局から角度θの方位差をもって存在する二つの無線局を示す図である。二つの無線局のチャネル情報ベクトルを→h1 (k)及び→h2 (k)とすると、チャネル相関の方位差角度θに対する依存性を計算することができる。
図12は、方位差角度θの二つの無線局におけるチャネル相関の方位差角度θに対する依存性を示す図である。ここでのシミュレーション条件としては、基地局のアンテナ素子の数を128本とし、5.2GHzの周波数帯において、2波長間隔で128本のアンテナ素子を円形に配置することを想定した。基地局と無線局との間は3kmで固定し、基地局を中心とした円上で無線局を移動させながらチャネル相関を算出している。図12に示されるシミュレーション結果を読み取ると、方位差角度θが例えば5度程度以下であるとチャネル相関が大きな値になる場合があるが、所定の角度α度を越えるとチャネル相関は概ね0.2以下となる。非特許文献2に示されるスケジューリング法は、この角度差5度以上のチャネル相関の低さを積極的に利用したものである。
[本発明に関する技術]
本発明の実施形態の説明をする前に、本発明に関する技術について説明する。図2は、本発明に関連する技術における複数のアンテナ素子20の2次元配置の一例を示す図である。図2において、黒で塗りつぶされている四角で表される100個のアンテナ素子20が示されている。図2に示す配置例では、水平方向及び垂直方向に各アンテナ素子20が行列状に整列しており、正方格子上の格子点にアンテナ素子20が一つずつ配置されている。ここでいう水平方向は水平面に対して平行となる方向を表し、垂直方向は水平面に対して直交する方向を表す。
図2に示す配置例において、水平方向の軸に100個のアンテナ素子20を投影(射影)すると、垂直方向に並ぶ10個のアンテナ素子が重なって一つの投影点に投影される。このとき、物理的な位置として各アンテナ素子20が十分に離れて配置され、マルチパス環境を前提とするなら相互にチャネル相関が低いことが期待される。しかし、見通し環境を前提とする場合には、水平方向には各アンテナ素子20が10個ずつ縮退した状態にあるため、チャネルの分解能が十分に得られないという問題がある。
そこで、複数のアンテナ素子20を平面又は準平面上に図3に示す様に2次元配置することでチャネルの分解能を高め、積極的にチャネル相関を低い値に押さえ込むことが考えられる。図3は、複数のアンテナ素子の2次元配置の異なる例を示す図である。例えば、垂直平面上又は垂直平面に近似可能な曲面上に、最大指向性が等しい複数のアンテナ素子を2次元配置する。アンテナ素子を配置する面(以下、アンテナ平面という。)と水平面とが交差する軸上に各アンテナ素子を投影した際に、軸上において各投影点が等間隔かつ重複しない様にアンテナ素子を配置する。これにより、基地局と無線局との間のチャネルの分解能を向上させ、各々のチャネル相関を低減させることが可能となる。
図3に示した様にアンテナ素子を配置した場合、複数の無線局が水平面上に存在する場合には、チャネルの分解能はその同一平面上に投影したアンテナ素子の位置関係に依存するため、投影点が重複しない状態であれば良好な特性となる。図3に示したアンテナ素子の配置において、同じ列のアンテナ素子14−1a、14−1f、14−1k、14−1p、14−1uは、直線状の軸上に配置されており、当該軸が水平面に対して傾斜している。同様に、アンテナ素子14−1b、14−1g、14−1l、14−1q、14−1vも、アンテナ素子14−1c、14−1h、14−1m、14−1r、14−1wも、アンテナ素子14−1d、14−1i、14−1n、14−1s、14−1xも、アンテナ素子14−1e、14−1j、14−1o、14−1t、14−1yも、それぞれアンテナ素子群が直線状の軸上に配置されており、当該軸が水平面に対して傾斜している。
各アンテナ素子群が配置されている軸に直交する平面を想定し、同一列上の複数のアンテナ素子を結ぶ方向に直交する平面内の所定の投影軸に対して各アンテナ素子を投影した場合、傾斜した軸上の同一列のアンテナ素子の投影点が互いに重複し、投影軸を基準とした面上においてチャネルの分解能が低くなる状況が発生する。投影軸を基準とした面上に位置する無線局同士のチャネル相関は、基地局のアンテナ素子を正方格子に配置した場合における水平面上の無線局同士のチャネル相関と等しくなり、アンテナ素子の間隔に依存して高相関となる無線局同士の位置関係が複数存在し得る状況となる。
したがって、多数の無線局が地形的に起伏のない水平面上に存在する場合は別であるが、現実には地形的な起伏などに起因して、先ほどの同一列のアンテナ素子を結ぶ軸と直交する平面上に複数の無線局が存在し得る場合には、図3に示したアンテナ素子の配置では無線局の取り得る範囲の大部分において超低相関となる一方で、局所的に非常に高相関となる無線局同士の位置関係が表れる可能性が高まる。また、図3に示したアンテナ素子の配置において、高相関となる無線局同士の位置関係は、基地局を中心とする無線局の方位差の様に、無線局の位置座標から簡易に予測することが困難である。
この様に、図3に示すアンテナ素子の配置は、起伏のない水平面上に無線局が配置される場合には有効な配置であるが、地形に起伏がある場合には条件次第でチャネル相関が高くなってしまう無線局が存在する可能性を高めてしまうリスクを伴う。そこで、より安定的にチャネル相関を小さく抑えることが可能なアンテナ素子の配置について説明する。
図3に示したアンテナ素子の配置では、水平面10上に投影された各アンテナ素子の投影点位置(15−1a〜15−1y)が互いに重複せず、等間隔になる。したがって、各アンテナ素子がチャネル相関の低減に資する分解能の向上に寄与できるため、基地局を中心とした同心円上における無線局同士は所定の角度差以上において、チャネル相関値が0.1を下回る超低相関を実現できる。
しかしながら、以下に示す様に、図3に示したアンテナ素子の配置であっても、チャネルの分解能が得られない場合がある。図4は、図3に示したアンテナ素子の配置においても十分なチャネルの分解能が得られない一例を示す図である。図4に示す様に、アンテナ平面11上において配置されているアンテナ素子のうち同一列に含まれるアンテナ素子(14−2a、14−2f、14−2k、14−2p、14−2u)の軸17−1と直交する平面12−1とアンテナ平面11とが交差する軸18−1に各アンテナ素子を投影したときの投影点は、投影点位置(15−2a〜15−2e)になる。軸18−1上においてアンテナ素子の投影点は、列ごとに重複することになる。
ゆえに、平面12−1上においては、各アンテナ素子がチャネル相関の低減に資する分解能に寄与できないため、チャネル相関が高相関となる無線局同士の位置関係が出現する。ただし、チャネル相関の分解能が低くなる影響は、特に、同一列上のアンテナ素子を結ぶ傾斜した軸17−1に直交する平面12−1内に無線局が多数存在し得る場合において顕著に表れるものと考えられる。現実的な環境条件として、基地局と無線局との間が概ね見通し環境となる状況を想定すれば、地形的な起伏が激しい環境よりも、起伏はあっても比較的なだらかで無線局の絶対座標の高度差が比較的小さな範囲に収まっていることが想定される。
ここで、無線局間の高度差が10m程度の範囲内であることが一般的だと仮定すると、上述の同一列上のアンテナ素子を結ぶ傾斜した軸17−1に直交する平面12−1上において、想定される高度差10m程度の空間領域が含まれる平面12−1上の面積が大きいほどチャネル相関が高相関となる無線局の存在確率が高まる。逆にこの面積を低減することができれば高相関となる無線局組み合わせの存在確率を低く抑えることが可能になる。
想定される高度差10m程度の空間領域に含まれる平面12−1上の面積を小さくするためには、アンテナ平面11と水平面10とが交差する軸16(以下、水平軸16という。)と、アンテナ平面11上の同一列のアンテナ素子を結ぶ傾斜した軸17−1とが直交する平面12−1とアンテナ平面11が交差する軸18−1(以下、投影軸18−1という。)とがなす角13−1(以下、傾斜角13−1という。)を大きくする様にアンテナ素子の配置を設定すればよい。
したがって、図3に示したアンテナ素子の配置における動作原理を活用しながらも、水平軸16と投影軸18−1とがなす傾斜角13−1を大きくとることが可能なアンテナ素子の配置を利用することにより、チャネル相関が高相関となる無線局同士の組み合わせの割合を低減して、SIR特性を改善することが可能となる。
[本発明の動作原理]
図4を用いて説明した様に、アンテナ平面11と水平面10とが交差する水平軸16と、アンテナ平面11と平面12−1とが交差する投影軸18−1とがなす傾斜角13−1を大きくするほど、無線局が現実的に取り得る位置の空間領域と平面12−1とが交わる範囲が縮小し、チャネル相関の更なる低減が期待できる。
図1は、本発明に係る実施形態における基本原理を示す図である。図1には、水平面10、アンテナ平面11、アンテナ平面11上に配置された複数のアンテナ素子14(14a〜14y)、複数のアンテナ素子14のうち同一列のアンテナ素子14を結ぶ傾斜した軸17、軸17に直交する平面12、平面12とアンテナ平面11とが交差する軸18、軸18と水平面10とがなす傾斜角13、各アンテナ素子14を軸18上に投影した際の投影点15a〜15fが示されている。
投影点15a〜15fは、アンテナ平面11と平面12とが交差する軸18上に、アンテナ素子14a〜14yを投影したときの投影点である。アンテナ平面11上に配置されているアンテナ素子14a〜14yは、指向性アンテナである。アンテナ素子14a〜14yは、アンテナ平面11の法線に沿ったいずれか一方向(例えば、図1においては手前方向)に対して高い指向性利得を示し、その逆方向(例えば、図1においては奥方向)に対して低い指向性利得を示すものである。
アンテナ14a〜14yの指向性利得パターンは本実施形態において限定されない。しかし、アンテナ平面11の一面でカバーすべきエリアが120度(アンテナ平面11の正面に対して左右60度の範囲)であれば、正面から±60度の範囲において一様に高い指向性利得を示し、±60度を超える範囲において急速に指向性利得が下がる特性を有することが好ましい。つまり、複数のアンテナ素子14は、指向性アンテナであり、指向性アンテナの最大利得を示す方向が揃えられて共通の方向に高い指向性を向け、最大利得を示す方向がアンテナ平面11に対して概ね垂直な方向である。なお、アンテナ平面11は必ずしも垂直面である必要はなく、例えば僅かな下向きのチルト角をもって設置されていても構わない。
アンテナ素子14a〜14yは、各々が独立したRF回路に接続されており、送信すべき信号に対してアンテナ素子14間において独立した送受信ウエイトが各RF回路にて乗算される。アンテナ素子14a〜14yは、各アンテナ素子が結合した特性を示さない構成とするために十分な間隔を設けて配置される。例えば、アンテナ素子間の距離が少なくとも1波長以上離れる様に、行方向に並ぶアンテナ素子14a〜14e、アンテナ素子14f〜14j、アンテナ素子14k〜14o、アンテナ素子14p〜14t、アンテナ素子14u〜14yにおいて1波長以上の間隔を設けて配置される。同様に列方向に並ぶ各アンテナ素子14a〜14yにおいても1波長以上の間隔を設けて配置される。
更に、水平面10とアンテナ平面11とが交差する水平軸に対して、各アンテナ素子14を投影した場合に、各投影点が重複せず、高いチャネル分解能が得られるアンテナ素子の配置(例えば、図4に示した配置)において、複数のアンテナ素子14を結ぶ直線は多数存在する。図5は、アンテナ平面11に配置された複数のアンテナ素子14−3を結ぶ直線の一例を示す図である。図5に示す様に、図1に示した方向と異なる方向にアンテナ素子14−3の直線的な並びを見出すこともできる。これらの多数のアンテナ素子の直線的な並びの内で、所定の軸方向(例えば図4における軸17−1)と直交する平面(例えば図4における平面12−1)と、アンテナ平面11とが交差する軸(例えば図4における軸18−1)の内で、重複により投影点数が最小となる軸18−1に着目し、軸18−1と水平軸16とがなす傾斜角13−1を更に拡大する様に、各アンテナ素子の水平方向の位置座標を維持しつつ、垂直方向の位置座標を行方向の並べ替えで変更する。
具体的には、図4に示したアンテナ素子14−2の配置において上段から下段まで同一のシフト量ずつ規則的にシフトして整列している各行を適宜入れ替えて、上下で隣接する行間のシフト量を増加させる様に変更する。図1に示したアンテナ素子14の配置では、図4に示したアンテナ素子14−2の配置における偶数行(上から2行目のアンテナ素子14−2p〜14−2tの行、上から4行目のアンテナ素子14−2f〜142−jの行)と、奇数行(上から1行目の14−u〜14−yの行、上から3行目のアンテナ素子14−2k〜14−2oの行、上から5行目のアンテナ素子14−2a〜14−2eの行)とをまとめ、奇数行が全体の上段側になり、偶数行が全体の下段側になる様に並び替える。
すなわち、並び替えた後の配置は、上から順に、アンテナ素子14−2u〜14−2yの行、アンテナ素子14−2k〜14−2oの行、アンテナ素子14−2a〜14−eの行、アンテナ素子14−2p〜14−2tの行、アンテナ素子14−2f〜14−2jの行となる。図1においては、並び替えた後の配置において、左下のアンテナ素子から行方向右に向かって順に符号を14aから振り直している。図1に示すアンテナ素子14の配置では、図4に示したアンテナ素子14−2の配置において一行おきに並んでいた行が上下に隣接する行となるため、隣接する行におけるアンテナ素子14のシフト量が2倍になっている。
この様な行の入れ替えを施すことにより、水平面10上の投影点の間隔を変えずに高いチャネル分解能を維持しつつ、水平軸16と投影軸18とがなす傾斜角13を拡大し、その結果として平面12上に存在する比較的相関が大きくなる傾向になる無線局の組み合わせの存在確率を低く抑えることを実現する。
複数のアンテナ素子14同士を結ぶ所定の軸と直交する平面上にアンテナ素子14を投影した際の投影点の数は、軸方向によって変化する。例えば図4に示す軸17−1と直交する平面12−1上への投影点(軸18−1上の白抜きの四角)の数は、重複により5となる。しかし、図5に示した様に、アンテナ素子14−3u、14−3q、14−3m、14−3i、14−3eが並ぶ軸と直交する平面上(又は軸18−3)への投影点15−3a〜15−3iの数は9となる。この様に軸方向によって変化する当該軸方向に直交する平面のうち、投影点の数が最も少なくなる平面上においてチャネル分解能の低下が大きくなるとともに、当該面上の無線局同士のチャネル相関が高くなる傾向にあると想定される。
したがって、図4に示す様な直線上に並ぶ複数のアンテナ素子14−2同士を結ぶ所定の軸と直交する平面のうち、投影点の重複により投影点数が最小となる平面上に存在する無線局を減少させれば、チャネル相関が低減する確率を高くすることができる。なお、無線局は、自由な位置に設置されることが想定されるが、起伏の少ない地形(例えば無線局間の高度差が10m程度に収まる状況)を想定すれば、投影軸18−1と水平軸16とがなす傾斜角13−1を拡大すれば、平面上に存在し得る無線局の範囲が限定され、現実的に平面12−1上に存在する無線局を減少させることができる。
図1に示したアンテナ素子14の配置例は、本発明に係る実施形態におけるアンテナ素子の配置例である。また、図1に示したアンテナ素子14の配置例は、図4のアンテナ素子14−2の配置例における水平面10上でのチャネル分解能を維持しつつ、複数のアンテナ素子14−2を結ぶ軸と直交する平面のうちで、投影点の重複により投影点数が最小となる投影軸18−1と水平軸16とがなす傾斜角13−1を拡大する配置である。
全体のSIR特性において、水平面10上でのチャネル分解能の寄与が最も大きいと考えられるため、アンテナ素子14a〜14yの水平面10上への投影点が重畳しない様に、アンテナ素子14a〜14yの水平方向の位置座標は、図4におけるアンテナ素子14−2a〜14−2yそれぞれの水平方向位置座標を維持したものとする。したがって、水平方向に並ぶ同じ行のアンテナ素子14同士を一つのアンテナ素子群とし、各行のアンテナ素子群の入れ替えにより、投影軸18−1と水平軸16とがなす傾斜角13−1の拡大を図るものとする。
上記の考えに基づき、図1に示したアンテナ素子14の配置例は、図4に示したアンテナ素子14−2の配置における奇数行のアンテナ素子群(アンテナ素子14−2a〜14−2eの行、アンテナ素子14−2k〜14−2oの行、アンテナ素子14−2u〜14−2vの行)と偶数行のアンテナ素子群(アンテナ素子14−2f〜14−2jの行、アンテナ素子14−2p〜14−2tの行)とのグループに分けるべく、アンテナ素子群の並びを入れ替えたものである。
図1のアンテナ素子14の配置における上半分(1〜3行目)には、図4のアンテナ素子14−2の配置における奇数行(1行目、3行目、5行目)のアンテナ素子群が並ぶ。図1のアンテナ素子14の配置における下半分(4〜5行目)には、図4のアンテナ素子14−2の配置における偶数行(2行目、4行目)のアンテナ素子群が並ぶ。図1のアンテナ素子14の配置における垂直方向の位置座標は、図4のアンテナ素子14−2a〜14−2yの配置における各行の垂直方向の位置座標を維持する。
以上の入れ替え操作を行うことにより、アンテナ素子14の配置において、複数のアンテナ素子14同士を結ぶ軸と直交する平面のうちで、投影点の重複により投影点の数が最小となる投影軸18と水平軸16とがなす傾斜角13を、図4の傾斜角13−1よりも拡大して、現実的に平面12上に無線局が存在する確率を低減でき、より高いSIR特性を実現できる。
比較のため、図2を参照して、本発明以外のアンテナ素子の配置例との関係について説明する。図2に示すアンテナ素子20の配置例は、図1に示した動作原理を考慮した配置になっていない。具体的には、図2に示すアンテナ素子20の配置では、水平方向及び垂直方向に各アンテナ素子20が整列しており、正方形の格子上の各格子点にアンテナ素子20が配置されている。この場合、水平方向の軸に100個のアンテナ素子20を投影すると、各列の10個ずつのアンテナ素子20の投影点が重複するために水平方向の分解能が十分に得られていないという問題がある。
図6は、別のアンテナにおけるアンテナ素子20の配置例を示す図である。図6において、黒で塗りつぶされている四角はアンテナ素子20を配置する位置を示す。図6には、100個のアンテナ素子20を配置する位置が示されている。図6に示すアンテナ素子20の配置では、水平方向及び垂直方向に隣接するアンテナ素子20同士の間隔は等間隔であり、例えばアンテナ素子20を配置する位置を示すマーカ21−1a〜21−1jは、行が1段上がるごとに、アンテナ素子20同士の間隔に対して1/10の距離ずつ右側に寄せて配置されている。すなわち、図6に示すマーカの配置では、垂直方向に上下に隣接するマーカにおいて、水平方向の位置がマーカの配置間隔に対して1/10の距離ずつシフトして配置されている。
図6には、比較のためにシフトして配置する前の図2に示した正方格子と同じ正方格子が合わせて示されている。図6におけるマーカの配置は、図2に示した正方格子の軸を時計回り又は反時計回りに回転させて、全体的に歪ませた格子を形成してその格子(以下、平行四辺形格子という。)の格子点上にアンテナ素子20を配置した構成である。
なお、平行四辺形格子を生成する元の格子は必ずしも正方格子である必要はなく、垂直方向と水平方向との格子の長さが異なる長方形格子を歪めて生成した平行四辺形格子を利用することも可能である。長方形格子を歪めた平行四辺形格子の格子点上にアンテナ素子を配置した場合においても、水平方向の投影軸に対してアンテナ素子を投影した際に投影点が重複せず、投影点の間隔が概ね等間隔になる様にアンテナ素子20が配置される。
つまり、各格子点を水平軸に投影した際の投影点が全て異なり且つ等間隔になる様に元々の正方格子ないしは長方形格子を歪めるため、図6ではマーカ21−1aとマーカ21−1kとの水平方向の距離を10等分した距離をシフト量とし、マーカ21−1jの水平方向の位置が、マーカ21−1kよりも1シフト量分だけ左側に位置する様に正方格子を変形することで本発明の実施形態のベースとなるアンテナ素子の配置を形成することが可能である。また、垂直方向においても同様に各行において水平方向に隣り合うアンテナ素子20を配置する位置を1シフト量ずつ増加させている。例えば、マーカ21−1kは、マーカ21−1aに対して1シフト量分だけ上側に位置している。
図6に示すアンテナ素子20の配置では前述の様に、マーカ21−1a〜マーカ21−1jを通る様な直線と直交する軸に対して100個のアンテナ素子20を射影すると、同じ列のアンテナ素子20同士が重なり、分解能が十分に得られないという問題がある。この問題は該射影軸と水平方向の軸とがなす傾斜角度が小さいほど、高チャネル相関となる無線局が存在する確率が高まり、SIR特性を劣化させる要因となる。これに対して後述する図7の配置パターンでは、図6の配置パターンと比較して、傾斜角度が約2倍に拡大されており、結果としてチャネル相関が高相関となる無線局が存在する確率が低く抑えられる。この効果により、SIRのCDF(Cumulative Distribution Function:累積分布関数)特性を改善することが可能になる。
以下に、より現実に即した形で本発明の実施形態について図を用いて説明する。説明においては、上述の図6に示した平行四辺形格子におけるアンテナ素子の配置をベースとし、この格子点に位置するアンテナ素子を行単位で入れ替えることで、新たな配置を形成する。
[第1の実施形態]
図7は、本発明に係る第1の実施形態におけるアンテナの構成例を示す図である。以下の説明では、説明を簡単にするために、図2アンテナ平面11は水平面10に直交するものとする(図1参照)。アンテナ平面11における水平方向の軸と垂直方向の軸とを示し、これらの軸に対するアンテナ素子の配置を説明する。なお、先にも述べた様に、アンテナ平面11は、水平面に直交していなくてもよく、水平面に対して多少の傾斜がある場合でも同様に実施可能である。
図7には、黒で塗りつぶされている四角で表されるアンテナ素子20と、着目すべき場所を示すための丸印のマーカ21a〜21kとが示されている。図7に示されているアンテナの構成例には、アンテナ素子20が平面上に2次元配置されている。アンテナ素子20は、水平方向に10個並べられ、垂直方向に10段重ねられている。すなわち、図7に示されるアンテナは、合計100個のアンテナ素子20を配置した構成になっている。アンテナ素子20は、各々が指向性アンテナであり、正面方向に高い指向性利得を示す。
例えば、垂直方向のアンテナ素子20の間隔を1波長間隔に設定したとする。図7においては、最左側のアンテナ素子20の列において、1波長間隔のアンテナ素子20の間隔を10等分した補助線(点線)が記載されている。10等分とした理由は、アンテナ素子20が垂直方向に10段重ねられていることによる。
マーカ21a及びマーカ21kの箇所の2つのアンテナ素子20の間隔を10等分した各補助線上に、アンテナ素子20を配置していく。このとき、一つの補助線上に配置されるアンテナ素子20が一つになる様にアンテナ素子20を配置し、アンテナ素子20が重複して配置される補助線がない様にする。また、各アンテナ素子20の間隔(厳密には、例えばマーカ21a及びマーカ21kで示したアンテナ素子20の間隔)は当初設定した、例えば1波長以上が保たれるものとする。
アンテナ配置の例として、マーカ21b〜マーカ21jの箇所に配置されたアンテナ素子20については、マーカ21b〜マーカ21eのアンテナ素子20はマーカ21aのアンテナ素子から間隔の2/10ずつ右側に寄せて配置する。マーカ21fの箇所に配置されたアンテナ素子20は、マーカ21aのアンテナ素子から間隔の1/10の距離だけ右側に寄せて配置される。マーカ21g〜マーカ21jの箇所に配置されたアンテナ素子20は、マーカ21fのアンテナ素子20から間隔の2/10の距離ずつ右側に寄せてられている。
この様な配置を最右列まで繰り返すと、100個全てのアンテナ素子20を水平方向の軸(射影軸)に投影(射影)したとき、図4に示したアンテナ素子の配置と同様に軸に投影されたアンテナ素子の投影点が互いに重複しない様にアンテナが構成される。この水平方向の軸は、水平方向と垂直方向との各軸を含むアンテナ平面11と、水平面10とが交差する軸(水平軸16)に平行であり、基地局のアンテナの最大利得方向(アンテナ平面11の法線に相当する正面方向)に直交している。
以上の操作により配置された100個のアンテナ素子20の配置は、全てのアンテナ素子20を2つのグループに分けた配置と考えることもできる。2つのグループのうち、1つのグループは下側半分のアンテナ素子20のグループ22aであり、他のグループは上側半分のアンテナ素子20のグループ22bである。上記の様に配置したマーカ21aとマーカ21bとの水平方向における間隔は、基準とする矩形状の格子の水平方向の長さに対してa/bの距離となる。ここで、分子aはアンテナ素子20をグループに分けた際のグループ数である。分母bはアンテナ素子20を配置する際の行数である。
図7に示す様にアンテナ素子20を配置することにより、アンテナ平面11と水平面とが交差する直線で表される射影軸にアンテナ素子20を射影した場合に、当該射影軸上におけるアンテナ素子20の各射影点が互いに重ならずに略等間隔に位置する。また、アンテナ平面11に対して直交する水平面と、各列のアンテナ素子20を結ぶ直線と直交する平面とがなす傾斜角13を大きくすることができ、高低差のある無線局が存在する場合においてもアンテナ素子20の射影が重複することでチャネル相関が高相関となる無線局の組み合わせが存在する可能性を低減することができる。その結果として統計的なチャネル相関を低減して高いSIR特性を実現することができ、伝送モードに要求されるSIR値を実現する範囲で可能な空間多重数を増大させることができる。
[第2の実施形態]
図8は、第2の実施形態におけるアンテナの構成例を示す図である。図8には、黒で塗りつぶされている四角で表されるアンテナ素子20と、着目すべき場所を示すための丸印のマーカ21−2a〜21−2iとが示されている。図8に示されているアンテナの構成例には、アンテナ素子20が平面上に2次元配置されている。アンテナ素子20は、水平方向に9個並べられ、垂直方向に9段重ねられている。すなわち、図8に示されるアンテナは、合計81個のアンテナ素子20を配置した構成になっている。アンテナ素子20は、各々が指向性アンテナであり、正面方向に高い指向性利得を示す。
例えば、垂直方向のアンテナ間隔を1波長間隔に設定したとする。図8においては、最左側のアンテナ素子20の列において、1波長間隔のアンテナ素子20の間隔を9等分した補助線(点線)が記載されている。9等分とした理由は、アンテナ素子20が垂直方向に9段重ねられていることによる。
図8に示されるアンテナ素子20の配置例は、全てのアンテナ素子20を3つのグループ22−1a、グループ22−1b及びグループ22−1cに分けた配置と考えられる。各グループにおける同一列の垂直方向に隣接するアンテナ素子20同士の水平方向の間隔は、1波長の3/9の距離になっている。これは、図8におけるアンテナ素子20の配置では、アンテナ素子20の行数が9行であり、3グループにグループ化して考えられるためである。
換言すると、図8に示されるアンテナ素子20の配置例は、3つのグループ22−1a〜22−1cそれぞれにおいて、同一列の垂直方向に隣接するアンテナ素子20を下の行のアンテナ素子20に対して1波長(基準となる格子の水平方向の長さ)の3/9の距離だけ右方向にずらして各行のアンテナ素子20を配置している。更に、グループ22−1bの最下段のアンテナ素子20を配置する位置を、グループ22−1aの最下段のアンテナ素子20に対して1波長の1/9の距離だけ右方向にずらして配置している。また、グループ22−1cの最下段のアンテナ素子20を配置する位置を、グループ22−1bの最下段のアンテナ素子20に対して1波長の1/9の距離だけ右方向にずらして配置している。
また、図8に示されるアンテナ素子20の配列においては、各行のアンテナ素子20における、最左側のアンテナ素子20の垂直方向の位置を基準として、水平方向の右側に隣接するアンテナ素子20の位置を1波長の1/9の距離ずつ上方向にずらして配置している。すなわち、同じ行に含まれるアンテナ素子20において、最左側のアンテナ素子20と最右側のアンテナ素子20とは垂直方向において1波長の8/9の距離ずれて配置されている。
上述の様に、アンテナ素子20を配置することにより、各アンテナ素子20を水平方向に平行な投影軸に投影した際に、各アンテナ素子20の投影点が互いに重ならずに1波長の1/9の距離を隔てて等間隔に投影されることになる。また、同一列の垂直方向に隣接するアンテナ素子20の水平方向の距離(間隔)を広げることにより、アンテナ平面11に対して直交する水平面と、各列のアンテナ素子20を結ぶ直線と直交する平面とがなす傾斜角13を大きくすることができ、高低差のある無線局が存在する場合においてもアンテナ素子20の射影が重複することでチャネル相関が高相関となる無線局の組み合わせが存在する可能性を低減することができる。その結果として統計的なチャネル相関を低減して高いSIR特性を実現することができ、伝送モードに要求されるSIR値を実現する範囲で可能な空間多重数を増大させることができる。
図7及び図8に示されるアンテナ素子20の配置例では、行方向(水平方向)及び列方向(垂直方向)に二次元配置した全てのアンテナ素子20を複数のグループに分けるグループ化が行われている。図7においては、全てのアンテナ素子20を2分割して、行の入れ替えを行うことによりグループ化している。図8においては、全てのアンテナ素子20を3分割して、行の入れ替えを行うことによりグループ化している。ここで、任意の複数のアンテナ素子20同士を結ぶ直線は、図1に示される軸17に加えて図5に示される直線など、様々な方向の直線を想定することが可能である。
この中で、この直線で表される軸方向と直交する平面へ各アンテナ素子20を投影し、重複により投影点数が最小となる平面(例えば、図1においては平面12)に着目する。図1において着目した平面12と水平面10とがなす角度が、図4に示される行入れ替え前のアンテナ素子20の配置に対する平面12−1と水平面10とがなす角度と比較して拡大していることが分かる。全てのアンテナ素子20の分割数(グループ数)は、ここに示したものに限定されず、アンテナ平面にアンテナ素子20を二次元配置する際の行数に応じて適切に設定できるもので構わない。また、各グループにおける行数は必ずしも同一である必要はなく、例えば図7に示されるアンテナ素子20の配置と同様に10行10列の合計100個のアンテナ素子20を、3行と3行と4行との3つのグループに分け、同様のルールでアンテナ素子20を配置することも可能である。ここで、行数をグループ数で除算した際の剰余が1になる場合、グループ間で重複する直線群を共有するため、望ましい。
なお、第1及び第2の実施形態のアンテナにおけるアンテナ素子20の配置は、アンテナ平面11又はアンテナ平面11に近似可能な曲面である準平面上に複数のアンテナ素子20を行方向及び列方向に二次元配置したものである。また、アンテナ素子20の配置は、矩形格子の格子点にアンテナ素子20を等間隔に配置した状態に対して、矩形格子の行に含まれるアンテナ素子20同士の間隔を二次元配置の行数で等分割した距離を第1のシフト量として列方向に隣り合う行ごとに行に含まれるアンテナ素子20の位置を行方向右向きに第1のシフト量ずつずらし、更に、矩形格子の列に含まれるアンテナ素子20同士の間隔を二次元配置の列数で等分割した距離を第2のシフト量として行方向に隣り合う列ごとに列に含まれるアンテナ素子20の位置を列方向上向きに第2のシフト量ずつずらした状態において、行単位でアンテナ素子20を入れ替える操作をした配置になっている。
例えば、第1の実施形態におけるアンテナ(図7)のアンテナ素子20の配置は、下端の行を1行目とし上端の行を10行目とした場合、図6に示したアンテナのアンテナ素子20の配置における3行目、5行目、7行目及び9行目を2行目から5行目にし、図6の2行目、4行目、6行目、8行目及び10行目を6行目から10行目にする行単位でのアンテナ素子20の入れ替えを行った配置になっている。
また、第2の実施形態におけるアンテナ(図8)のアンテナ素子の配列は、正方格子の格子点に配置された9行9列のアンテナ素子20の位置を上述の様に行方向に第1のシフト量ずつずらし、列方向に第2のシフト量ずつずらした状態の各行を、下から1行目、4行目、7行目、2行目、5行目、8行目、3行目、6行目、9行目の順にする行単位でのアンテナ素子の入れ替えを行った配置になっている。このとき、グループ22−1aには行番号を「3」で除算した際の剰余が1となる行が含まれ、グループ22−1bには行番号を「3」で除算した際の剰余が2となる行が含まれ、グループ22−1cには行番号を「3」で除算した際の剰余が0となる行が含まれている。
また、本発明に係る基地局装置は、第1及び第2の実施形態において説明したアンテナ素子20の二次元配置を有するアンテナを備え、当該アンテナを用いて無線チャネルを介した端末局との無線通信を行うものである。また、本発明に係るアンテナ素子の配置方法は、第1及び第2の実施形態において説明した様にアンテナ素子20を配置するものである。また、第1及び第2の実施形態において説明した様にアンテナ素子20を配置することにより、アンテナを製造してもよい。
[全ての実施形態に関連する補足事項]
ここまで、本発明に係る実施形態におけるアンテナの例として、全てのアンテナ素子20をグループ化して分割する様な行の入れ替え操作を説明したが、必ずしもグループ化する必要はない。
また、アンテナ平面11は、基本的に水平面10に直交する平面として説明したが、厳密には完全に平面である必要もなく、若干の曲面を伴うものであっても構わない。また、アンテナ平面11は、厳密に水平面10に直交する必要もなく、例えばアンテナ素子20が配置されている面を垂直よりも若干下向きにするチルト角が設定されていてもよい。すなわち、厳密な直交性は必要ではない。
また、全てのアンテナの指向性が必ずしも同一方向で利得最大となる必要もなく、例えば上述の様に若干の曲面上に配置される場合などは必然的に利得最大となる方向は微妙にばらついたものとなる。重要なことは、各アンテナ素子20は概ね近似的に平面状の上に設置され、概ね垂直平面と直交関係にあるものであれば適用可能である。したがって、上述の説明は、準平面状のものであれば近似的な平面と読み替え、若干のチルト角が伴うものであればそれを近似的な直交と読み替えれば良い。
以上、本発明の実施形態について図面を参照して記述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計も含まれる。なお、当然ながら、上述した実施形態及び複数の変形例は、その内容が相反しない範囲で組み合わせることができる。また、上述した実施形態では、各部の構造などを具体的に説明したが、その構造などは本発明を満足する範囲で各種に変更することができる。