本発明は、円筒状のグラフェンシートの2層以上からなる多層カーボンナノチューブ(以下、多層CNTと称する)が集合した多層CNT集合構造に関するものである。
多層CNTは、2層以上の円筒状グラフェンシートが同軸管状になって構成されるものである。グラフェンシートは、炭素によって作られる六員環ネットワーク(六角網目状ネットワーク)であり、このような構造を有する多層CNTは、周知されるように、電子発生能と耐久性に優れ、大画面フィールドエミッションディスプレイ用の電子発生材料等に有用視され、また、多層CNTは耐食性が高いため、燃料電池の触媒電極層等の耐食性が要求される用途にも適するなど、各種用途が期待される物質である。
そして、多層CNTを基板上に成長させる製造方法としてCVD法における基板法がある。この基板法では、基板上に触媒膜を成膜し、熱処理して触媒膜を複数の触媒微粒子からなる触媒構造とすると共に、この触媒構造上の触媒微粒子にカーボンを含むガスを作用させて触媒微粒子を成長起点として多層CNTを成長させるようになっている。
上記触媒構造を用いて多層CNTを製造した場合には、その断面構造は、個々の多層CNTが複雑に絡み合い、ランダム配向の構造や、螺旋や波状を描いたような曲線状の多層CNTの集合構造からなっている。
このような集合構造となるのは、個々の多層CNTがチューブ直径の不均一性、全体が曲線形状をなしていることにその原因が存在すると考えられる。
近年では、そうした螺旋や波状を描いたような曲線状の多層CNTの集合体ではなく、直径の均一性、全体的な直線性を有し、その配向、密集した構造をそのまま応用したり、あるいは多層CNTをほぐして容易に使用できるような、絡み合いが少ない集合構造が要求されてきている。
本発明者らは、チューブ直径が全体的に均一でかつ直線性を有して個々の多層CNTが絡み合うことが少ない多層CNT集合構造を開発するべく鋭意研究を重ねた。
本発明は、直径の均一性、全体的な直線性を有し、その配向、密集した構造をそのまま応用したり、あるいは多層CNTをほぐして容易に使用できるような、絡み合いが少ない、直線性に優れた状態で多層CNTが集合してなる構造を提供することを課題とする。
本発明にかかる多層CNT集合構造は、基板上に触媒微粒子の作用で成長した複数の多層CNTが集合した構造であって、上記構造を構成する多層CNTのc面間隔[nm]をx軸、下記に定義されるピーク面積内のX線強度ピーク値からの半値幅[nm]をy軸として、次式(1)(2)で示す2つの直線で挟まれるy軸方向半値幅y[nm]の範囲と、x軸方向c面間隔をx[nm]として、0.338nm≦x≦0.355nmの範囲、とで囲む領域内に規定される構造であることを特徴とする。
y=2.1x+0.71…(1)
y=3.5x+1.15…(2)
ただし、上記ピーク面積は上記構造に入射したX線が該構造内を回折して別側複数位置から出射する際、各位置の変化に伴い形成される出射X線強度のピーク波形の面積である。
好ましくは、上記2つの直線は、次式(3)(4)で示す2つの直線であり、かつ、上記xは0.34nm≦x≦0.35nmの範囲である。
y=2.1429x+0.7179…(3)
y=3.4286x+1.1486…(4)
ただし、本発明に係る多層CNT集合構造はそれを構成する多層CNT個々が当該集合構造を離れての直線性を指すものではなく、集合構造内で直径の均一性、全体的な直線性を有し、その配向、密集した構造をそのまま応用したり、あるいは容易にほぐして使用できるような、絡み合いが少ない状態で集合構造を構成している多層CNTである。
本発明の多層CNT集合構造は、直径の均一性、全体的な直線性を有し、その配向、密集した構造をそのまま応用したり、あるいは多層CNTをほぐして容易に使用できるような、絡み合いが少ない多層CNTの集合構造である。
図1Aは本発明の実施形態にかかる基板上の多層CNT集合構造を示す図、図1Bは図1Aの一部を拡大して示す図である。
図2は同多層CNTの製造方法の説明に起用する図である。
図3Aの(a)(b)(c)はサンプル1の多層CNT集合構造の高さ方向上部の倍率が順次に異なるSEM写真を示す図である。
図3Bの(a)(b)(c)はサンプル1の多層CNT集合構造の高さ方向中部の倍率が順次に異なるSEM写真を示す図である。
図3Cの(a)(b)(c)はサンプル1の多層CNT集合構造の高さ方向下部の倍率が順次に異なるSEM写真を示す図である。
図4Aの(a)(b)(c)はサンプル2の多層CNT集合構造の高さ方向上部の倍率が順次に異なるSEM写真を示す図である。
図4Bの(a)(b)(c)はサンプル2の多層CNT集合構造の高さ方向中部の倍率が順次に異なるSEM写真を示す図である。
図4Cの(a)(b)(c)はサンプル2の多層CNT集合構造の高さ方向下部の倍率が順次に異なるSEM写真を示す図である。
図5Aの(a)(b)(c)はサンプル3の多層CNT集合構造の高さ方向上部の倍率が順次に異なるSEM写真を示す図である。
図5Bの(a)(b)(c)はサンプル3の多層CNT集合構造の高さ方向中部の倍率が順次に異なるSEM写真を示す図である。
図5Cの(a)(b)(c)はサンプル3の多層CNT集合構造の高さ方向下部の倍率が順次に異なるSEM写真を示す図である。
図6はX線の回折現象を説明するための図である。
図7は多層CNTに対するX線の回折現象を説明するための図である。
図8は本発明の実施形態にかかる多層CNT集合構造の評価方法の実施に用いる評価装置の平面構成を示す図である。
図9は図8の側面構成を示す図である。
図10は多層CNTのc面においてブラッグ条件を説明するための図である。
図11は多層CNT集合構造を回転させつつ入射X線を照射した場合の透過X線と回折X線とを示す図である。
図12は多層CNT集合構造からの出射X線の検出位置に対して該出射X線の強度波形を示す図である。
図13は多層CNT集合構造に対して高さ方向に入射X線を走査する状態を示す図である。
図14は図13の入射X線の入射高さに対する出射X線の強度波形を示す図である。
図15は各サンプル1,2,3の高さ方向中央部に対して各X線検出位置における回折X線強度を示す図である。
図16は各サンプル1,2,3の高さ方向中央部のc面間隔に対応した半値幅を示す図である。
図17は各サンプル1,2,3の高さ方向各部に対して各X線検出位置における回折X線強度を示す図である。
図18は各サンプル1,2,3の高さ方向各部のc面間隔に対応した半値幅を示す図である。
図19はそれぞれ直径が異なる多層CNTが集合した多層CNT集合構造のc面間隔と半値幅とを示す図である。
以下、添付した図面を参照して、本発明の実施の形態に係る多層CNTを説明する。図1(A)に、本実施の形態にかかる多層CNTの集合構造、図1(B)に図1(A)の一部を拡大して示す。これらの図を参照して、1は触媒基板、2は多層CNT集合構造を示す。触媒基板1は、Siからなる基板3上に、バリア膜4と、酸素5を含む非磁性金属膜であるAl膜6と、Siからなり下部にAl7が析出しているバッファ膜8と、磁性金属であるFeからなる直径均一の複数の触媒微粒子9とを、この順序で形成したものである。触媒微粒子9上には多層CNT2aが直径均一で高直線性で成長しその多層CNT2aが集合して多層CNT集合構造2を構成している。基板3の素材は、特に限定されないが、Si、Cr、Cu、W、Al等を例示することができる。上記非金属元素は、好ましくは酸素、硫黄等である。上記非磁性金属としては、Al、Cu、Zn等が好ましい。上記磁性金属は、Fe、Ni、Co等が好ましい。
上記触媒基板1の構造は、触媒微粒子9の活性度が均一であり、これにより触媒微粒子9上に成長する多層CNT2aの成長速度が一定化することで、直線性に優れた多層CNT集合構造2を形成することができる。また、上記触媒基板1の構造は、多層CNT2a形成時のグラフェンシートの層数を増加させることができる結果、多層CNT2aの剛直性を向上させ、直線性に優れた多層CNT2aを製造することができる。
図2には、上記触媒基板1により生成した触媒微粒子9上に多層CNT2aを成長させる工程を示す。図2において横軸は時間(分)、縦軸は温度(℃)を示す。上記触媒微粒子9を備えた触媒基板1を30分間かけて700℃に昇温し、その温度をさらに30分間維持することで熱アニール(この熱アニールは破線で囲む領域)した後、アセチレン、エチレン、メタン、プロパン、プロピレン等の炭素含有ガス雰囲気中、30分間、200Paの減圧下で加熱することで、触媒微粒子9上に多層CNT2aが成長し、それらが集合した多層CNT集合構造2を製造することができる。
図3(A)(B)(C)に直線性低の多層CNT集合構造(サンプル1)の高さ方向上部、中部、下部それぞれのSEM写真、図4(A)(B)(C)に直線性中の多層CNT集合構造(サンプル2)の高さ方向上部、中部、下部それぞれのSEM写真、図5(A)(B)(C)に本実施形態の多層CNT集合構造2に対応するもので、直線性高の多層CNT集合構造(サンプル3)の高さ方向上部、中部、下部それぞれのSEM写真を示す。図3(A)(B)(C)、図4(A)(B)(C)、図5(A)(B)(C)それぞれに撮影スケールが(a)2μm、(b)200nm、(c)100nmのSEM写真を示す。
他の多層CNT集合構造にかかるサンプル1,2のSEM写真と、実施形態の多層CNT集合構造にかかるサンプル3のSEM写真とを比較説明すると、まず、サンプル1の図3(A)の(a)2μm、(b)200nmで示す高さ方向上部の多層CNTの直線性と、サンプル2の図4(A)の(a)2μm、(b)200nmで示す高さ方向上部の多層CNTの直線性は低いのに対して、サンプル3の図5(A)の(a)2μm、(b)200nmで示す高さ方向上部の多層CNTの直線性はきわめて高いことが判る。
サンプル1の図3(B)の(a)2μm、(b)200nmで示す高さ方向中部の多層CNTの直線性と、サンプル2の図4(B)の(a)2μm、(b)200nmで示す高さ方向中部の多層CNTの直線性は上部よりもさらに低くなっているのに対して、サンプル3の図5(B)の(a)2μm、(b)200nmで示す高さ方向中部の多層CNTの直線性はきわめて依然として高いことが判る。
サンプル1の図3(C)の(a)2μm、(b)200nmで示す高さ方向下部の多層CNTの直線性と、サンプル2の図4(C)の(a)2μm、(b)200nmで示す高さ方向下部の多層CNTの直線性は中部よりもさらに低くなっているのに対して、サンプル3の図5(C)の(a)2μm、(b)200nmで示す高さ方向下部の多層CNTの直線性はきわめて依然として高いことが判る。
以上のSEM写真からの目視判定だけでも本実施形態の多層CNT集合構造2を構成する多層CNT2aの直線性は、他の多層CNT集合構造を構成する多層CNTのそれと比較して、上部、中部、下部の全体にわたって直線性が極めて高いことが明らかである。
このような本実施形態の多層CNT集合構造2を特定するための評価方法を図6ないし図18を参照して説明し、この評価方法で特定した多層CNT集合構造2を図19を参照して説明する。
本実施形態での多層CNT集合構造2の評価はX線の回折現象を利用して行う。
図6を参照してX線の回折現象を説明する。X線は波長0.001nmから数10nmの電磁波である。X線は一般にX線管内でフィラメントから出る熱電子を高電圧で加速し、金属ターゲットに衝突させることで発生する。実施形態では金属ターゲットとして例えばCuを用いる。この場合のX線波長は1.5418Åである。図6において、11a,11b,11cは、Cuを構成する原子12の配列線を示す。各線11a,11b,11cの間隔をdとし、かつ、入射X線13の入射角度をθとすると、入射X線13に対して回折X線14の光路差(A−O−A´)は2d×sinθとなる。上記光路差が、X線波長λの整数倍nであればブラッグ条件を満たし、原子12で散乱されたX線は互いに強め合って回折X線14となる。これを式で表すと、2d×sinθ=nλである。
以上から入射したX線は出射するとき、入射X線と出射X線との間の光路差が上記ブラッグ条件を満たすと、回折X線14の強度が強くなる。
そして、このようなブラッグ条件に関して、図7を参照して多層CNT17(図1(a)の多層CNT2a)に対するX線の回折現象を説明する。図7で示す多層CNT17は、その断面構成で模式的に示されている。この多層CNT17は、複数のグラフェンシート17a,17b,…が同軸管状となっていて、そのグラフェンシート面がc面となり、グラフェンシートのc(002)面間隔が上記ブラッグ条件における間隔dに相当する。なお、グラフェンシートの詳細は周知なので説明を略する。
上記グラフェンシート面の接線19に対して所定の入射角度(θ±δφ)でX線15が入射すると共に、その入射したX線15はグラフェンシート面の接線19に対して所定の出射角度(θ±δφ)で回折して、回折X線18として出射する。このような回折においてブラッグ条件を満たしてX線回折を起こすことができる体積要素はわずかな角度(±δφ)内の結晶により与えられる。
図8ないし図10を参照して本発明の実施形態にかかる多層CNT集合構造の評価方法の実施に用いる評価装置の構成を説明する。図8に評価装置におけるX線発生装置と多層CNT集合構造の平面構成を示し、図9に同X線発生装置と多層CNT集合構造の側面構成を示す。また、図10に多層CNT集合構造内の多層CNTに対する入射X線と回折X線とを示す。X線発生装置は金属ターゲットが例えばCuのX線発生装置である。
多層CNT29の集合構造24に対してX線入射側にスリット20−22が配置され、X線出射側にスリット23が配置される。入射側スリット20−22のうち、スリット20,21は所定間隔を隔てて対向配置されたX線幅制限スリットであり、スリット22は、両スリット20,21間に配置された散乱制限スリットである。これらスリット20−22は、入射X線25を半径方向線幅L1に、高さ方向線幅をL2以下に制限する。線幅L1は、集合構造24の直径D以下であり、線幅L2は、集合構造24の基板27上からの高さH以下である。ただし、上記線幅L1,L2は多層CNTの構造評価に関して本発明を限定するものではない。
多層CNT集合構造24は、複数の多層CNT29が密集集合してなるものであり、その平面視における側面の外形形状は円形形状となっている。ただし、多層CNT集合構造24は、平面視円形形状に限定されるものではない。すなわち、多層CNT集合構造24は、入射X線が入射し、回折X線として出射するまでの集合構造内の平面視方向のX線通過面積が略一定であればその平面視形状は特に限定されない。
多層CNT29は基板27上に触媒微粒子の作用で成長したものである。多層CNT集合構造24を配置した基板27は、回転台28上で図中の矢印A方向に自転駆動されるようになっている。なお、多層CNT集合構造24を回転させることは多層CNTの評価の平均化を図るものであり、必ずしも、回転させることが多層CNT集合構造の評価を行ううえで必須とはならない。
以上において、入射X線25はスリット20−22により線幅L1,L2に制御されてから多層CNT集合構造24に一方側面24aから入射し、回折角度2θxで回折X線26として他方側面24bから出射する。
多層CNT集合構造24に入射したX線25は当該集合構造24を透過X線30として透過したり、回折X線26として回折したりして出射するX線の強度を測定できるようにX線検出器31が配置されている。X線検出器31は、多層CNT集合構造24の中心回りを図中矢印B方向に走査することができると共に各走査位置を検出位置としている。入射X線25が回折せず透過X線30(図11参照)として出射する際に、その出射方向におけるX線検出器31の検出位置はP0で、また、入射X線25が回折し、回折X線26(図8−図11参照)として出射する際に、その出射方向におけるX線検出器31の検出位置はP1で表している。
多数の多層CNT29が集合してなる多層CNT集合構造24全体に入射したX線25の挙動と、単一の多層CNT29に入射したX線25の挙動は同等と考えられ、図8では入射X線25は回折して回折X線26として集合構造24全体から出射された状態で示され、図10では入射X線25は回折して回折X線26として単一の多層CNT29から出射された状態で示される。この場合、図10で示す多層CNT29は、集合構造24を構成する個々の多層CNTであり、入射X線25は、例えば、その最表層29aのグラフェンシート面と、最表層内側の内層29bのグラフェンシート面とに入射する。そして、これら両グラフェンシート面での光路差により回折して回折X線26として出射される。そして、これら個々の多層CNT29が集合構造24として全体的に回折X線26として出射する。
図11ないし図14を参照して実施形態の多層CNT集合構造24の評価方法を説明する。図13は、図8に対応するものであり、多層CNT29の集合構造24は、基板27上で多層CNT29が多数集合したものであり、その集合構造24の外側面24aは平面視円形形状の一部分である円弧形状になっている。この多層CNT集合構造24の側面24aに入射X線25が入射すると共に多層CNT集合構造24の上記円形形状の別部分の円弧形状をなす側面24b,24cから出射する。この出射されたX線のうち、側面24bから出射したX線は回折X線26として、また、側面24cから出射したX線は透過X線30としてX線検出器31の各検出位置で検出される。
図12に、回折X線26の強度を縦軸に、また、X線検出器31の検出位置2θxを横軸にとって、検出位置ごとの回折X線強度をラインL1,L2,L3で示す。これらラインL1,L2,L3のうちL1は検出位置0−P1間でのX線強度を示し、X線強度がほぼ一定に変化するベースラインを構成する。L2は検出位置P1−P3間においてX線強度がピーク状に変化するピークラインを構成する。L3は、検出位置P3以降でX線強度がほぼ一定に変化するベースラインを構成する。
ピークラインL2領域では、検出位置P1ではピーク最小とし該検出位置P1からX線強度がピークへ向けて強くなる方向に変化し、検出位置P2でX線強度がピーク最大となり、検出位置P2から検出位置P3へ向けてX線強度が弱くなる方向に変化し、検出位置P3でピーク最小となる。そして検出位置P1−P3間でピークラインL2に対してピークがない場合には、X線強度はベースラインL1、L3と共にベースラインL4(破線ライン)を構成する。そして、検出位置P1−P3間においてベースラインL4とピークラインL2とで囲む面積をピーク面積と定義することができる。ここでベースラインL4は、ベースラインL1の検出位置方向終端とベースラインL3の検出位置方向始端とを略直線で結ぶラインである。このピーク面積からは、集合構造24における多層CNT19の配向性と集合密度とが判る。
図13で示すように、入射X線25を多層CNT集合構造24の高さ方向ZにおいてZ1−Z2の範囲で走査し、この走査において入射X線25に対する、透過X線30の強度を測定すると、図14における横軸が集合構造24の高さ位置Z、縦軸が透過X線30の強度とする波形図から各高さ位置での透過X線30の強度が判る。この場合、ΔQで示す部分が透過X線30の強度の減衰量となる。図13でZ1、図14で−Z1は、集合構造24の最高位置、図13でZ2、図14で−Z2は集合構造24の最低位置を示す。図14では多層CNT集合構造24の高さ位置−Z1と−Z2それぞれでの透過X線強度の差、すなわち、図14のΔQで示す領域が入射X線が集合構造24に入射してから出射X線として出射するまでの当該X線強度に対して、入射X線の入射高さでのX線強度減衰量を表している。このX線強度減衰量は多層CNT集合構造24の多層CNT29の高さ方向における集合密度を示す。
具体的には、入射X線の入射高さが−Z1より高いときの透過X線強度を示すラインをベースラインL5とし、入射X線の入射高さが−Z1ないし−Z2の範囲のときの透過X線強度を示すラインを減衰量ラインL6とし、入射X線の入射高さが−Z2より低いときの透過X線強度を示すラインをベースラインL7とした場合、X線強度減衰量は、ベースラインL5のX線強度と減衰量ラインL6のX線強度との差である。
したがって、これら図12のピーク面積と図14のX線強度減衰量とからピーク面積/減衰量の式を演算することで、多層CNT集合構造24を構成する多層CNT29の配向性が判る。これはピーク面積は多層CNT29の配向性と密度、減衰量は密度の情報を示すので、上記式から配向性が判る。
次に、図3(B)、図4(B)、図5(B)それぞれの多層CNT集合構造(サンプル1,2,3)高さ方向中部における多層CNTの直線性を、図15、図16を参照して説明する。
図15には各サンプル1,2,3それぞれに対して各検出位置における回折X線強度の波形(図12に対応する波形)を示す。ただし、図解のため、図15で縦軸方向は回折X線強度を示すが、各サンプル1,2,3の回折X線強度を示すのではないから、縦軸の表記を省略している。図15で示すように、各サンプル1,2,3それぞれの回折X線のピーク位置およびピーク高さ、ピーク波形形状、等が相違している。直線性が低いサンプルよりも直線性が最も高いサンプルでその回折X線強度のピークが明瞭に現れていることが判り、このことから、サンプル1,2,3それぞれの多層CNT集合構造の構造評価を行うことができる。
すなわち、サンプル1では回折X線強度の振幅が検出位置変化に対して大きく変化し、ピークが不明瞭である。また、サンプル2では回折X線強度の振幅が各検出位置に対してサンプル1よりも小さく変化し、ピークが比較的明瞭に現れている。そして、サンプル3では回折X線強度の振幅が各検出位置変化に対して最も小さく変化し、かつ、特定の検出位置でのピーク高さがきわめて明瞭に現れている。このことから、上記回折X線強度波形からでも相対的にサンプル内の多層CNTの直線性を評価することができる。
図16に、図15で示す回折X線強度波形において、ピーク面積を構成するピーク波形において、c面間隔(d002)に対する各サンプル1,2,3それぞれのピーク面積内のX線強度ピーク値からの半値幅(d002FWHM)を示す。図16で示すように、サンプル1,2,3のうち、直線性が低いサンプル1では四角形(□)で示すようにc面間隔と半値幅とが共に大きく、直線性が中のサンプル2では三角形(△)で示すようにc面間隔と半値幅とが共に中であり、直線性が高い本実施形態のサンプル1では円形(○)で示すようにc面間隔と半値幅とが共に小さい。このことから、多層CNT集合構造における多層CNTの直線性を判定評価することができる。
図15、図16はサンプル1,2,3の多層CNT集合構造それぞれの高さ方向中部でのX線強度波形から、c面間隔と半値幅の関係を求め、多層CNT集合構造高さ方向中央部分での直線性の評価をしたものであり、多層CNT集合構造高さ方向全体ではない。そこで、図17、図18を参照して多層CNT集合構造高さ方向全体での直線性評価を説明する。
サンプル1,2,3それぞれの高さ方向全体に関しては、上記したように、サンプル1では図3(A)(B)(C)に直線性低の多層CNT集合構造(サンプル1)の高さ方向上部、中部、下部それぞれのSEM写真、サンプル2では図4(A)(B)(C)に直線性中の多層CNT集合構造(サンプル2)の高さ方向上部、中部、下部それぞれのSEM写真、サンプル3では図5(A)(B)(C)に本実施形態の多層CNT集合構造2に対応するもので、直線性高の多層CNT集合構造(サンプル3)の高さ方向上部、中部、下部それぞれのSEM写真を示す。
図17に、サンプル1,2,3の多層CNT集合構造それぞれの高さ方向複数検出位置でのX線強度波形を示す。サンプル1,2,3それぞれの各検出位置でのX線強度波形は図解のため高さ方向に離して示している。
サンプル1の場合、その高さ方向複数位置でのX線強度におけるピーク高さが低い。このことから高さ方向複数位置でのX線強度におけるピーク高さが低い多層CNT集合構造は直線性が低い多層CNTが集合した構造であることが判る。
サンプル2の場合、高さ方向複数位置でのX線強度におけるピーク高さはサンプル1より高い。このことから高さ方向複数位置でのX線強度におけるピーク高さが中程度の多層CNT集合構造は、直線性が中程度の多層CNTが集合した構造であることが判る。
サンプル3の場合、高さ方向複数位置でのX線強度におけるピーク高さは最も高い。このことから高さ方向複数位置でのX線強度におけるピーク高さが高い多層CNT集合構造は、直線性が高い多層CNTが集合した構造であることが判る。
図18に、図17で示すサンプル1,2,3それぞれのX線強度波形において、c面間隔(d002)に対するサンプル1,2,3それぞれの半値幅を示す。各サンプル1,2,3それぞれでは高さ方向複数の検出に対応して四角形(□)、三角形(△)、円形(○)で示す。図18で示すように直線性が低いサンプル1ではc面間隔(d002)と半値幅それぞれの値が共に大きい領域に四角形(□)が集中し、直線性が中程度のサンプル2ではc面間隔と半値幅それぞれの値が共に中の領域に三角形(△)が集中し、直線性が高いサンプル3ではc面間隔と半値幅とが共に小さい領域に円形(○)が集中している。
このことからX線強度波形において、c面間隔(d002)に対する半値幅(d002FWHM)の関係から多層CNT集合構造内での多層CNTの直線性を判定評価することができる。
図19を参照してサンプル1,2,3それぞれの多層CNT集合構造2の構造を特定する。図19は図18に対応するもので、横軸xにc面間隔(d002)、縦軸yに半値幅(d002FWHM)をとっている。
本実施形態のサンプル3に係る直線性が高く、CNTの層形成状態が完全な多層CNTからなる多層CNT集合構造は次式(1)(2)で示す2つの直線、好ましくは、次式(3)(4)で示す2つの直線で挟まれるy軸方向半値幅y[nm]の範囲と、x軸方向c面間隔をx[nm]として、0.338nm≦x≦0.355nmの範囲、好ましくは0.34nm≦x≦0.35nmの範囲と囲む領域内に規定される構造である。
y=2.1x+0.71…(1)
y=3.5x+1.15…(2)
y=2.1429x+0.7179…(3)
y=3.4286x+1.1486…(4)
ただし、上記ピーク面積は上記構造に入射したX線が該構造内を回折して別側複数位置から出射する際、各位置の変化に伴い形成される出射X線強度のピーク波形の面積である。
また、サンプル1,2に係る直線性およびCNTの層が不完全な多層CNTからなる多層CNT集合構造は、上記領域外にある。ここで、CNTの層形成が不完全な多層CNTとは、例えば、CNTを形成する筒構造が完全円筒ではなく、部分的にコーン形状になっているものを多く含んでいるもののことである。
以上説明したように、本実施形態では、基板上に触媒微粒子の作用で成長した複数の多層CNTの集合構造を評価する方法であって、上記集合構造の任意側面にX線を入射するステップと、上記集合構造の別側面回りにX線検出器を走査し、各走査位置でのX線検出器出力から上記集合構造側面回りに出射される回折X線の強度を測定すると共に、上記測定した回折X線の強度からピーク面積を演算するステップとを含み、この演算したピーク面積から、多層CNTの配向性および集合密度に関する情報を得ることができる。
また、上記入射X線を集合構造の高さ方向に走査し、各走査位置でのX線検出器出力から上記集合構造を透過する透過X線の強度を測定すると共に、上記測定した透過X線の強度から減衰量を演算するステップを含む場合は、上記演算したピーク面積と減衰量とから上記集合構造の配向性を解析することができる。
さらに、ピーク面積を構成する回折X線強度波形ラインにおけるグラフェンシートのc面間隔と、ピーク面積半値幅とを演算するステップを含む場合は、そのc面間隔と、ピーク面積半値幅とから多層CNT集合構造内の多層CNTの直線性を評価することができる。
1 触媒基板
2 多層CNT集合構造
2a 多層CNT
17 多層CNT
20−23 スリット
24 多層CNT集合構造
25 入射X線
26 回折X線
27 基板
28 回転台
29 多層CNT
30 透過X線
31 X線検出器
本発明は、円筒状のグラフェンシートの2層以上からなる多層カーボンナノチューブ(以下、多層CNTと称する)が集合した多層CNT集合構造に関するものである。
多層CNTは、2層以上の円筒状グラフェンシートが同軸管状になって構成されるものである。グラフェンシートは、炭素によって作られる六員環ネットワーク(六角網目状ネットワーク)であり、このような構造を有する多層CNTは、周知されるように、電子発生能と耐久性に優れ、大画面フィールドエミッションディスプレイ用の電子発生材料等に有用視され、また、多層CNTは耐食性が高いため、燃料電池の触媒電極層等の耐食性が要求される用途にも適するなど、各種用途が期待される物質である。
そして、多層CNTを基板上に成長させる製造方法としてCVD法における基板法がある。この基板法では、基板上に触媒膜を成膜し、熱処理して触媒膜を複数の触媒微粒子からなる触媒構造とすると共に、この触媒構造上の触媒微粒子にカーボンを含むガスを作用させて触媒微粒子を成長起点として多層CNTを成長させるようになっている。
上記触媒構造を用いて多層CNTを製造した場合には、その断面構造は、個々の多層CNTが複雑に絡み合い、ランダム配向の構造や、螺旋や波状を描いたような曲線状の多層CNTの集合構造からなっている。
このような集合構造となるのは、個々の多層CNTがチューブ直径の不均一性、全体が曲線形状をなしていることにその原因が存在すると考えられる。
近年では、そうした螺旋や波状を描いたような曲線状の多層CNTの集合体ではなく、直径の均一性、全体的な直線性を有し、その配向、密集した構造をそのまま応用したり、あるいは多層CNTをほぐして容易に使用できるような、絡み合いが少ない集合構造が要求されてきている。
本発明者らは、チューブ直径が全体的に均一でかつ直線性を有して個々の多層CNTが絡み合うことが少ない多層CNT集合構造を開発するべく鋭意研究を重ねた。
本発明は、直径の均一性、全体的な直線性を有し、その配向、密集した構造をそのまま応用したり、あるいは多層CNTをほぐして容易に使用できるような、絡み合いが少ない、直線性に優れた状態で多層CNTが集合してなる構造を提供することを課題とする。
本発明にかかる多層CNT集合構造は、基板上に触媒微粒子の作用で成長した複数の多層CNTが集合した構造であって、上記構造を構成する多層CNTのc面間隔[nm]をx軸、下記に定義されるピーク面積内のX線強度ピーク値からの半値幅[nm]をy軸として、次式(1)(2)で示す2つの直線で挟まれるy軸方向半値幅y[nm]の範囲と、x軸方向c面間隔をx[nm]として、0.338nm≦x≦0.355nmの範囲、とで囲む領域内に規定される構造であることを特徴とする。
y=2.00x−0.668…(1)
y=3.25x−1.084…(2)
ただし、上記ピーク面積は上記構造に入射したX線が該構造内を回折して別側複数位置から出射する際、各位置の変化に伴い形成される出射X線強度のピーク波形の面積である。
好ましくは、上記2つの直線は、次式(3)(4)で示す2つの直線であり、かつ、上記xは0.34nm≦x≦0.35nmの範囲である。
y=2.30x−0.769…(3)
y=2.95x−0.983…(4)
ただし、本発明に係る多層CNT集合構造はそれを構成する多層CNT個々が当該集合構造を離れての直線性を指すものではなく、集合構造内で直径の均一性、全体的な直線性を有し、その配向、密集した構造をそのまま応用したり、あるいは容易にほぐして使用できるような、絡み合いが少ない状態で集合構造を構成している多層CNTである。
本発明の多層CNT集合構造は、直径の均一性、全体的な直線性を有し、その配向、密集した構造をそのまま応用したり、あるいは多層CNTをほぐして容易に使用できるような、絡み合いが少ない多層CNTの集合構造である。
図1Aは本発明の実施形態にかかる基板上の多層CNT集合構造を示す図、図1Bは図1Aの一部を拡大して示す図である。
図2は同多層CNTの製造方法の説明に起用する図である。
図3Aの(a)(b)(c)はサンプル1の多層CNT集合構造の高さ方向上部の倍率が順次に異なるSEM写真を示す図である。
図3Bの(a)(b)(c)はサンプル1の多層CNT集合構造の高さ方向中部の倍率が順次に異なるSEM写真を示す図である。
図3Cの(a)(b)(c)はサンプル1の多層CNT集合構造の高さ方向下部の倍率が順次に異なるSEM写真を示す図である。
図4Aの(a)(b)(c)はサンプル2の多層CNT集合構造の高さ方向上部の倍率が順次に異なるSEM写真を示す図である。
図4Bの(a)(b)(c)はサンプル2の多層CNT集合構造の高さ方向中部の倍率が順次に異なるSEM写真を示す図である。
図4Cの(a)(b)(c)はサンプル2の多層CNT集合構造の高さ方向下部の倍率が順次に異なるSEM写真を示す図である。
図5Aの(a)(b)(c)はサンプル3の多層CNT集合構造の高さ方向上部の倍率が順次に異なるSEM写真を示す図である。
図5Bの(a)(b)(c)はサンプル3の多層CNT集合構造の高さ方向中部の倍率が順次に異なるSEM写真を示す図である。
図5Cの(a)(b)(c)はサンプル3の多層CNT集合構造の高さ方向下部の倍率が順次に異なるSEM写真を示す図である。
図6はX線の回折現象を説明するための図である。
図7は多層CNTに対するX線の回折現象を説明するための図である。
図8は本発明の実施形態にかかる多層CNT集合構造の評価方法の実施に用いる評価装置の平面構成を示す図である。
図9は図8の側面構成を示す図である。
図10は多層CNTのc面においてブラッグ条件を説明するための図である。
図11は多層CNT集合構造を回転させつつ入射X線を照射した場合の透過X線と回折X線とを示す図である。
図12は多層CNT集合構造からの出射X線の検出位置に対して該出射X線の強度波形を示す図である。
図13は多層CNT集合構造に対して高さ方向に入射X線を走査する状態を示す図である。
図14は図13の入射X線の入射高さに対する出射X線の強度波形を示す図である。
図15は各サンプル1,2,3の高さ方向中央部に対して各X線検出位置における回折X線強度を示す図である。
図16は各サンプル1,2,3の高さ方向中央部のc面間隔に対応した半値幅を示す図である。
図17は各サンプル1,2,3の高さ方向各部に対して各X線検出位置における回折X線強度を示す図である。
図18は各サンプル1,2,3の高さ方向各部のc面間隔に対応した半値幅を示す図である。
図19はそれぞれ直径が異なる多層CNTが集合した多層CNT集合構造のc面間隔と半値幅とを示す図である。
以下、添付した図面を参照して、本発明の実施の形態に係る多層CNTを説明する。図1(A)に、本実施の形態にかかる多層CNTの集合構造、図1(B)に図1(A)の一部を拡大して示す。これらの図を参照して、1は触媒基板、2は多層CNT集合構造を示す。触媒基板1は、Siからなる基板3上に、バリア膜4と、酸素5を含む非磁性金属膜であるAl膜6と、Siからなり下部にAl7が析出しているバッファ膜8と、磁性金属であるFeからなる直径均一の複数の触媒微粒子9とを、この順序で形成したものである。触媒微粒子9上には多層CNT2aが直径均一で高直線性で成長しその多層CNT2aが集合して多層CNT集合構造2を構成している。基板3の素材は、特に限定されないが、Si、Cr、Cu、W、Al等を例示することができる。上記非金属元素は、好ましくは酸素、硫黄等である。上記非磁性金属としては、Al、Cu、Zn等が好ましい。上記磁性金属は、Fe、Ni、Co等が好ましい。
上記触媒基板1の構造は、触媒微粒子9の活性度が均一であり、これにより触媒微粒子9上に成長する多層CNT2aの成長速度が一定化することで、直線性に優れた多層CNT集合構造2を形成することができる。また、上記触媒基板1の構造は、多層CNT2a形成時のグラフェンシートの層数を増加させることができる結果、多層CNT2aの剛直性を向上させ、直線性に優れた多層CNT2aを製造することができる。
図2には、上記触媒基板1により生成した触媒微粒子9上に多層CNT2aを成長させる工程を示す。図2において横軸は時間(分)、縦軸は温度(℃)を示す。上記触媒微粒子9を備えた触媒基板1を30分間かけて700℃に昇温し、その温度をさらに30分間維持することで熱アニール(この熱アニールは破線で囲む領域)した後、アセチレン、エチレン、メタン、プロパン、プロピレン等の炭素含有ガス雰囲気中、30分間、200Paの減圧下で加熱することで、触媒微粒子9上に多層CNT2aが成長し、それらが集合した多層CNT集合構造2を製造することができる。
図3(A)(B)(C)に直線性低の多層CNT集合構造(サンプル1)の高さ方向上部、中部、下部それぞれのSEM写真、図4(A)(B)(C)に直線性中の多層CNT集合構造(サンプル2)の高さ方向上部、中部、下部それぞれのSEM写真、図5(A)(B)(C)に本実施形態の多層CNT集合構造2に対応するもので、直線性高の多層CNT集合構造(サンプル3)の高さ方向上部、中部、下部それぞれのSEM写真を示す。図3(A)(B)(C)、図4(A)(B)(C)、図5(A)(B)(C)それぞれに撮影スケールが(a)2μm、(b)200nm、(c)100nmのSEM写真を示す。
他の多層CNT集合構造にかかるサンプル1,2のSEM写真と、実施形態の多層CNT集合構造にかかるサンプル3のSEM写真とを比較説明すると、まず、サンプル1の図3(A)の(a)2μm、(b)200nmで示す高さ方向上部の多層CNTの直線性と、サンプル2の図4(A)の(a)2μm、(b)200nmで示す高さ方向上部の多層CNTの直線性は低いのに対して、サンプル3の図5(A)の(a)2μm、(b)200nmで示す高さ方向上部の多層CNTの直線性はきわめて高いことが判る。
サンプル1の図3(B)の(a)2μm、(b)200nmで示す高さ方向中部の多層CNTの直線性と、サンプル2の図4(B)の(a)2μm、(b)200nmで示す高さ方向中部の多層CNTの直線性は上部よりもさらに低くなっているのに対して、サンプル3の図5(B)の(a)2μm、(b)200nmで示す高さ方向中部の多層CNTの直線性はきわめて依然として高いことが判る。
サンプル1の図3(C)の(a)2μm、(b)200nmで示す高さ方向下部の多層CNTの直線性と、サンプル2の図4(C)の(a)2μm、(b)200nmで示す高さ方向下部の多層CNTの直線性は中部よりもさらに低くなっているのに対して、サンプル3の図5(C)の(a)2μm、(b)200nmで示す高さ方向下部の多層CNTの直線性はきわめて依然として高いことが判る。
以上のSEM写真からの目視判定だけでも本実施形態の多層CNT集合構造2を構成する多層CNT2aの直線性は、他の多層CNT集合構造を構成する多層CNTのそれと比較して、上部、中部、下部の全体にわたって直線性が極めて高いことが明らかである。
このような本実施形態の多層CNT集合構造2を特定するための評価方法を図6ないし図18を参照して説明し、この評価方法で特定した多層CNT集合構造2を図19を参照して説明する。
本実施形態での多層CNT集合構造2の評価はX線の回折現象を利用して行う。
図6を参照してX線の回折現象を説明する。X線は波長0.001nmから数10nmの電磁波である。X線は一般にX線管内でフィラメントから出る熱電子を高電圧で加速し、金属ターゲットに衝突させることで発生する。実施形態では金属ターゲットとして例えばCuを用いる。この場合のX線波長は1.5418Åである。図6において、11a,11b,11cは、Cuを構成する原子12の配列線を示す。各線11a,11b,11cの間隔をdとし、かつ、入射X線13の入射角度をθとすると、入射X線13に対して回折X線14の光路差(A−O−A´)は2d×sinθとなる。上記光路差が、X線波長λの整数倍nであればブラッグ条件を満たし、原子12で散乱されたX線は互いに強め合って回折X線14となる。これを式で表すと、2d×sinθ=nλである。
以上から入射したX線は出射するとき、入射X線と出射X線との間の光路差が上記ブラッグ条件を満たすと、回折X線14の強度が強くなる。
そして、このようなブラッグ条件に関して、図7を参照して多層CNT17(図1(a)の多層CNT2a)に対するX線の回折現象を説明する。図7で示す多層CNT17は、その断面構成で模式的に示されている。この多層CNT17は、複数のグラフェンシート17a,17b,…が同軸管状となっていて、そのグラフェンシート面がc面となり、グラフェンシートのc(002)面間隔が上記ブラッグ条件における間隔dに相当する。なお、グラフェンシートの詳細は周知なので説明を略する。
上記グラフェンシート面の接線19に対して所定の入射角度(θ±δφ)でX線15が入射すると共に、その入射したX線15はグラフェンシート面の接線19に対して所定の出射角度(θ±δφ)で回折して、回折X線18として出射する。このような回折においてブラッグ条件を満たしてX線回折を起こすことができる体積要素はわずかな角度(±δφ)内の結晶により与えられる。
図8ないし図10を参照して本発明の実施形態にかかる多層CNT集合構造の評価方法の実施に用いる評価装置の構成を説明する。図8に評価装置におけるX線発生装置と多層CNT集合構造の平面構成を示し、図9に同X線発生装置と多層CNT集合構造の側面構成を示す。また、図10に多層CNT集合構造内の多層CNTに対する入射X線と回折X線とを示す。X線発生装置は金属ターゲットが例えばCuのX線発生装置である。
多層CNT29の集合構造24に対してX線入射側にスリット20−22が配置され、X線出射側にスリット23が配置される。入射側スリット20−22のうち、スリット20,21は所定間隔を隔てて対向配置されたX線幅制限スリットであり、スリット22は、両スリット20,21間に配置された散乱制限スリットである。これらスリット20−22は、入射X線25を半径方向線幅L1に、高さ方向線幅をL2以下に制限する。線幅L1は、集合構造24の直径D以下であり、線幅L2は、集合構造24の基板27上からの高さH以下である。ただし、上記線幅L1,L2は多層CNTの構造評価に関して本発明を限定するものではない。
多層CNT集合構造24は、複数の多層CNT29が密集集合してなるものであり、その平面視における側面の外形形状は円形形状となっている。ただし、多層CNT集合構造24は、平面視円形形状に限定されるものではない。すなわち、多層CNT集合構造24は、入射X線が入射し、回折X線として出射するまでの集合構造内の平面視方向のX線通過面積が略一定であればその平面視形状は特に限定されない。
多層CNT29は基板27上に触媒微粒子の作用で成長したものである。多層CNT集合構造24を配置した基板27は、回転台28上で図中の矢印A方向に自転駆動されるようになっている。なお、多層CNT集合構造24を回転させることは多層CNTの評価の平均化を図るものであり、必ずしも、回転させることが多層CNT集合構造の評価を行ううえで必須とはならない。
以上において、入射X線25はスリット20−22により線幅L1,L2に制御されてから多層CNT集合構造24に一方側面24aから入射し、回折角度2θxで回折X線26として他方側面24bから出射する。
多層CNT集合構造24に入射したX線25は当該集合構造24を透過X線30として透過したり、回折X線26として回折したりして出射するX線の強度を測定できるようにX線検出器31が配置されている。X線検出器31は、多層CNT集合構造24の中心回りを図中矢印B方向に走査することができると共に各走査位置を検出位置としている。入射X線25が回折せず透過X線30(図11参照)として出射する際に、その出射方向におけるX線検出器31の検出位置はP0で、また、入射X線25が回折し、回折X線26(図8−図11参照)として出射する際に、その出射方向におけるX線検出器31の検出位置はP1で表している。
多数の多層CNT29が集合してなる多層CNT集合構造24全体に入射したX線25の挙動と、単一の多層CNT29に入射したX線25の挙動は同等と考えられ、図8では入射X線25は回折して回折X線26として集合構造24全体から出射された状態で示され、図10では入射X線25は回折して回折X線26として単一の多層CNT29から出射された状態で示される。この場合、図10で示す多層CNT29は、集合構造24を構成する個々の多層CNTであり、入射X線25は、例えば、その最表層29aのグラフェンシート面と、最表層内側の内層29bのグラフェンシート面とに入射する。そして、これら両グラフェンシート面での光路差により回折して回折X線26として出射される。そして、これら個々の多層CNT29が集合構造24として全体的に回折X線26として出射する。
図11ないし図14を参照して実施形態の多層CNT集合構造24の評価方法を説明する。図13は、図8に対応するものであり、多層CNT29の集合構造24は、基板27上で多層CNT29が多数集合したものであり、その集合構造24の外側面24aは平面視円形形状の一部分である円弧形状になっている。この多層CNT集合構造24の側面24aに入射X線25が入射すると共に多層CNT集合構造24の上記円形形状の別部分の円弧形状をなす側面24b,24cから出射する。この出射されたX線のうち、側面24bから出射したX線は回折X線26として、また、側面24cから出射したX線は透過X線30としてX線検出器31の各検出位置で検出される。
図12に、回折X線26の強度を縦軸に、また、X線検出器31の検出位置2θxを横軸にとって、検出位置ごとの回折X線強度をラインL1,L2,L3で示す。これらラインL1,L2,L3のうちL1は検出位置0−P1間でのX線強度を示し、X線強度がほぼ一定に変化するベースラインを構成する。L2は検出位置P1−P3間においてX線強度がピーク状に変化するピークラインを構成する。L3は、検出位置P3以降でX線強度がほぼ一定に変化するベースラインを構成する。
ピークラインL2領域では、検出位置P1ではピーク最小とし該検出位置P1からX線強度がピークへ向けて強くなる方向に変化し、検出位置P2でX線強度がピーク最大となり、検出位置P2から検出位置P3へ向けてX線強度が弱くなる方向に変化し、検出位置P3でピーク最小となる。そして検出位置P1−P3間でピークラインL2に対してピークがない場合には、X線強度はベースラインL1、L3と共にベースラインL4(破線ライン)を構成する。そして、検出位置P1−P3間においてベースラインL4とピークラインL2とで囲む面積をピーク面積と定義することができる。ここでベースラインL4は、ベースラインL1の検出位置方向終端とベースラインL3の検出位置方向始端とを略直線で結ぶラインである。このピーク面積からは、集合構造24における多層CNT19の配向性と集合密度とが判る。
図13で示すように、入射X線25を多層CNT集合構造24の高さ方向ZにおいてZ1−Z2の範囲で走査し、この走査において入射X線25に対する、透過X線30の強度を測定すると、図14における横軸が集合構造24の高さ位置Z、縦軸が透過X線30の強度とする波形図から各高さ位置での透過X線30の強度が判る。この場合、ΔQで示す部分が透過X線30の強度の減衰量となる。図13でZ1、図14で−Z1は、集合構造24の最高位置、図13でZ2、図14で−Z2は集合構造24の最低位置を示す。図14では多層CNT集合構造24の高さ位置−Z1と−Z2それぞれでの透過X線強度の差、すなわち、図14のΔQで示す領域は入射X線が集合構造24に入射してから出射X線として出射するまでの当該X線強度に対して、入射X線の入射高さでのX線強度減衰量を表している。このX線強度減衰量は多層CNT集合構造24の多層CNT29の高さ方向における集合密度を示す。
具体的には、入射X線の入射高さが−Z1より高いときの透過X線強度を示すラインをベースラインL5とし、入射X線の入射高さが−Z1ないし−Z2の範囲のときの透過X線強度を示すラインを減衰量ラインL6とし、入射X線の入射高さが−Z2より低いときの透過X線強度を示すラインをベースラインL7とした場合、X線強度減衰量は、ベースラインL5のX線強度と減衰量ラインL6のX線強度との差である。
したがって、これら図12のピーク面積と図14のX線強度減衰量とからピーク面積/減衰量の式を演算することで、多層CNT集合構造24を構成する多層CNT29の配向性が判る。これはピーク面積は多層CNT29の配向性と密度、減衰量は密度の情報を示すので、上記式から配向性が判る。
次に、図3(B)、図4(B)、図5(B)それぞれの多層CNT集合構造(サンプル1,2,3)高さ方向中部における多層CNTの直線性を、図15、図16を参照して説明する。
図15には各サンプル1,2,3それぞれに対して各検出位置における回折X線強度の波形(図12に対応する波形)を示す。ただし、図解のため、図15で縦軸方向は回折X線強度を示すが、各サンプル1,2,3の回折X線強度を示すのではないから、縦軸の表記を省略している。図15で示すように、各サンプル1,2,3それぞれの回折X線のピーク位置およびピーク高さ、ピーク波形形状、等が相違している。直線性が低いサンプルよりも直線性が最も高いサンプルでその回折X線強度のピークが明瞭に現れていることが判り、このことから、サンプル1,2,3それぞれの多層CNT集合構造の構造評価を行うことができる。
すなわち、サンプル1では回折X線強度の振幅が検出位置変化に対して大きく変化し、ピークが不明瞭である。また、サンプル2では回折X線強度の振幅が各検出位置に対してサンプル1よりも小さく変化し、ピークが比較的明瞭に現れている。そして、サンプル3では回折X線強度の振幅が各検出位置変化に対して最も小さく変化し、かつ、特定の検出位置でのピーク高さがきわめて明瞭に現れている。このことから、上記回折X線強度波形からでも相対的にサンプル内の多層CNTの直線性を評価することができる。
図16に、図15で示す回折X線強度波形において、ピーク面積を構成するピーク波形において、c面間隔(d002)に対する各サンプル1,2,3それぞれのピーク面積内のX線強度ピーク値からの半値幅(d002FWHM)を示す。図16で示すように、サンプル1,2,3のうち、直線性が低いサンプル1では四角形(□)で示すようにc面間隔と半値幅とが共に大きく、直線性が中のサンプル2では三角形(△)で示すようにc面間隔と半値幅とが共に中であり、直線性が高い本実施形態のサンプル1では円形(○)で示すようにc面間隔と半値幅とが共に小さい。このことから、多層CNT集合構造における多層CNTの直線性を判定評価することができる。
図15、図16はサンプル1,2,3の多層CNT集合構造それぞれの高さ方向中部でのX線強度波形から、c面間隔と半値幅の関係を求め、多層CNT集合構造高さ方向中央部分での直線性の評価をしたものであり、多層CNT集合構造高さ方向全体ではない。そこで、図17、図18を参照して多層CNT集合構造高さ方向全体での直線性評価を説明する。
サンプル1,2,3それぞれの高さ方向全体に関しては、上記したように、サンプル1では図3(A)(B)(C)に直線性低の多層CNT集合構造(サンプル1)の高さ方向上部、中部、下部それぞれのSEM写真、サンプル2では図4(A)(B)(C)に直線性中の多層CNT集合構造(サンプル2)の高さ方向上部、中部、下部それぞれのSEM写真、サンプル3では図5(A)(B)(C)に本実施形態の多層CNT集合構造2に対応するもので、直線性高の多層CNT集合構造(サンプル3)の高さ方向上部、中部、下部それぞれのSEM写真を示す。
図17に、サンプル1,2,3の多層CNT集合構造それぞれの高さ方向複数検出位置でのX線強度波形を示す。サンプル1,2,3それぞれの各検出位置でのX線強度波形は図解のため高さ方向に離して示している。
サンプル1の場合、その高さ方向複数位置でのX線強度におけるピーク高さが低い。このことから高さ方向複数位置でのX線強度におけるピーク高さが低い多層CNT集合構造は直線性が低い多層CNTが集合した構造であることが判る。
サンプル2の場合、高さ方向複数位置でのX線強度におけるピーク高さはサンプル1より高い。このことから高さ方向複数位置でのX線強度におけるピーク高さが中程度の多層CNT集合構造は、直線性が中程度の多層CNTが集合した構造であることが判る。
サンプル3の場合、高さ方向複数位置でのX線強度におけるピーク高さは最も高い。このことから高さ方向複数位置でのX線強度におけるピーク高さが高い多層CNT集合構造は、直線性が高い多層CNTが集合した構造であることが判る。
図18に、図17で示すサンプル1,2,3それぞれのX線強度波形において、c面間隔(d002)に対するサンプル1,2,3それぞれの半値幅を示す。各サンプル1,2,3それぞれでは高さ方向複数の検出に対応して四角形(□)、三角形(△)、円形(○)で示す。図18で示すように直線性が低いサンプル1ではc面間隔(d002)と半値幅それぞれの値が共に大きい領域に四角形(□)が集中し、直線性が中程度のサンプル2ではc面間隔と半値幅それぞれの値が共に中の領域に三角形(△)が集中し、直線性が高いサンプル3ではc面間隔と半値幅とが共に小さい領域に円形(○)が集中している。
このことからX線強度波形において、c面間隔(d002)に対する半値幅(d002FWHM)の関係から多層CNT集合構造内での多層CNTの直線性を判定評価することができる。
図19を参照してサンプル1,2,3それぞれの多層CNT集合構造2の構造を特定する。図19は図18に対応するもので、横軸xにc面間隔(d002)、縦軸yに半値幅(d002FWHM)をとっている。
本実施形態のサンプル3に係る直線性が高く、CNTの層形成状態が完全な多層CNTからなる多層CNT集合構造は次式(1)(2)で示す2つの直線、好ましくは、次式(3)(4)で示す2つの直線で挟まれるy軸方向半値幅y[nm]の範囲と、x軸方向c面間隔をx[nm]として、0.338nm≦x≦0.355nmの範囲、好ましくは0.34nm≦x≦0.35nmの範囲と囲む領域内に規定される構造である。
y=2.00x−0.668…(1)
y=3.25x−1.084…(2)
y=2.30x−0.769…(3)
y=2.95x−0.983…(4)
ただし、上記ピーク面積は上記構造に入射したX線が該構造内を回折して別側複数位置から出射する際、各位置の変化に伴い形成される出射X線強度のピーク波形の面積である。
また、サンプル1,2に係る直線性およびCNTの層が不完全な多層CNTからなる多層CNT集合構造は、上記領域外にある。ここで、CNTの層形成が不完全な多層CNTとは、例えば、CNTを形成する筒構造が完全円筒ではなく、部分的にコーン形状になっているものを多く含んでいるもののことである。
以上説明したように、本実施形態では、基板上に触媒微粒子の作用で成長した複数の多層CNTの集合構造を評価する方法であって、上記集合構造の任意側面にX線を入射するステップと、上記集合構造の別側面回りにX線検出器を走査し、各走査位置でのX線検出器出力から上記集合構造側面回りに出射される回折X線の強度を測定すると共に、上記測定した回折X線の強度からピーク面積を演算するステップとを含み、この演算したピーク面積から、多層CNTの配向性および集合密度に関する情報を得ることができる。
また、上記入射X線を集合構造の高さ方向に走査し、各走査位置でのX線検出器出力から上記集合構造を透過する透過X線の強度を測定すると共に、上記測定した透過X線の強度から減衰量を演算するステップを含む場合は、上記演算したピーク面積と減衰量とから上記集合構造の配向性を解析することができる。
さらに、ピーク面積を構成する回折X線強度波形ラインにおけるグラフェンシートのc面間隔と、ピーク面積半値幅とを演算するステップを含む場合は、そのc面間隔と、ピーク面積半値幅とから多層CNT集合構造内の多層CNTの直線性を評価することができる。
1 触媒基板
2 多層CNT集合構造
2a 多層CNT
17 多層CNT
20−23 スリット
24 多層CNT集合構造
25 入射X線
26 回折X線
27 基板
28 回転台
29 多層CNT
30 透過X線
31 X線検出器