JP2015140774A - 直噴ガソリンエンジンの制御装置 - Google Patents

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Abstract

【課題】過早着火を抑制しつつ、スモークの発生を低減する。
【解決手段】エンジン1は、エンジン本体と、インジェクタ33と、エンジン制御器100とを備えている。エンジン制御器100は、エンジン1のエンジン負荷が所定の高負荷であって且つ該エンジン1の回転数が所定の低回転の運転領域において、圧縮行程中期以前に行われる前段噴射71と、前段噴射71の後に行われる後段噴射72とをインジェクタ33に行わせる。前段噴射71は、後段噴射72を行う時点においてシリンダ11の径方向周辺部17bの燃料濃度が径方向中央部17aの燃料濃度よりも濃くなるように、燃料を噴射する。後段噴射72は、複数回の燃料噴射を含む多段噴射であって、燃料が着火する時点において径方向中央部17aの燃料濃度が径方向周辺部17bの燃料濃度よりも濃くなるように、燃料を噴射する。
【選択図】図10

Description

ここに開示された技術は、直噴ガソリンエンジンの制御装置に関するものである。
従来より、燃料噴射を分割して行うエンジンが知られている。例えば、特許文献1に係るエンジンにおいては、吸気行程中又は圧縮行程中に1回目の燃料噴射を行って燃焼室内に希薄混合気を形成し、その後、圧縮行程中に2回目の燃料噴射を行って燃焼室内に過濃混合気を形成している。これにより、スートの発生を抑制しつつ出力トルクを高めている。
特開平11−101127号公報
ところで、負荷が高い運転領域等において燃料量が増加すると、スモークが発生しやすくなる。スモークの発生を抑制するためには、燃焼室内の空気を有効に活用し、燃料濃度が高くなり過ぎることを防止する必要がある。
そのためには、燃料を比較的早期に燃焼室内に噴射することが考えられるが、燃料噴射が早くなると、過早着火の可能性も高まる。
ここに開示された技術は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、過早着火を抑制しつつ、スモークの発生を低減することにある。
ここに開示された技術は、直噴ガソリンエンジンの制御装置が対象である。この直噴ガソリンエンジンの制御装置は、気筒内に設けられたピストンを有するエンジン本体と、少なくともガソリンを含む燃料を上記気筒内に噴口を介して噴射するインジェクタと、上記インジェクタの噴射態様を制御する制御部とを備え、上記制御部は、上記エンジン本体のエンジン負荷が所定の高負荷であって且つ該エンジン本体の回転数が所定の低回転の運転領域において、圧縮行程中期以前に行われる前段噴射と、該前段噴射の後に行われる後段噴射とを上記インジェクタに行わせ、上記前段噴射は、上記後段噴射を行う時点において上記気筒の径方向の周辺部の燃料濃度が該径方向の中央部の燃料濃度よりも濃くなるように、燃料を噴射し、上記後段噴射は、複数回の燃料噴射を含む多段噴射であって、燃料が着火する時点において上記径方向の中央部の燃料濃度が該径方向の周辺部の燃料濃度よりも濃くなるように、燃料を噴射するものとする。
ここで、「圧縮行程中期」とは、圧縮行程を初期、中期、終期とに三等分した場合の中期を意味する。「気筒の径方向の周辺部」とは、気筒を径方向において最大径の半分で二分割したときの外側の領域を意味する。一方、「気筒の径方向中央部」とは、気筒を径方向において最大径の半分で二分割したときの内側の領域を意味する。
上記の構成によれば、前段噴射により気筒内の径方向周辺部により多くの燃料噴霧を飛散させ、後段噴射により気筒内の径方向中央部により多くの燃料噴霧を飛散させることによって、燃料噴霧を径方向に広く分散させることができる。このとき、後段噴射を多段噴射とすることによって、燃料噴霧が気筒内の径方向中央部に留まりやすくすることができる。
詳しくは、後段噴射は、複数の燃料噴射を含む多段噴射であるので、燃料噴霧が気筒内の径方向中央に集まりやすい。詳しくは、燃料が噴射されると、コアンダ効果によって噴口の近傍には負圧になる領域が発生する。この負圧領域の圧力はしだいに回復するが、燃料が連続的に噴射されると、次々と負圧領域が形成されるので、負圧領域の負圧が維持され、負圧領域が大きくなる。その結果、燃料噴霧は、負圧に引き寄せられ、径方向への広がりが抑制される。つまり、多段噴射を行うことによって、後段噴射の燃料噴霧は、気筒内の径方向中央部に集まりやすくなる。そのため、着火時においては、後段噴射による燃料噴霧の分布は、気筒内の径方向中央部の燃料濃度が径方向周辺部の燃料濃度よりも高くなる。
尚、前段噴射は、単段噴射で構成するとか、多段噴射であれば、噴射間隔を後段噴射よりも長くする等、後段噴射よりも燃料噴霧が遠くへ飛散しやすい噴射態様で行われる。また、前段噴射は、後段噴射よりも早めに行われるので、気筒内の周辺部まで飛散していく時間が確保される。つまり、前段噴射では、少なくとも着火時において、好ましくは、後段噴射が行われる時点において気筒内における径方向周辺部の燃料濃度が径方向中央部の燃料濃度よりも高くなるようになっている。
その結果、着火時には、気筒内の径方向周辺部に少なくとも前段噴射による燃料噴霧が存在し、気筒内の径方向中央部に少なくとも後段噴射による燃料噴霧が存在するようになる。こうして、燃料噴霧を径方向に広く分散させることによってスモークの発生を低減することができる。また、前段噴射は、比較的に早めに燃料を噴射するものの、前段噴射による燃料は、全噴射量の一部であってそれほど多くはないので、過早着火を抑制することができる。
また、上記インジェクタは、上記噴口の有効断面積を調整可能に構成されており、上記後段噴射は、上記噴口の有効断面積が上記前段噴射に比べて小さい複数回の燃料噴射を含むようにしてもよい。
上記の構成によれば、噴口の有効断面積が変わると、噴口から噴射される燃料噴霧の粒径が変化する。燃料噴霧の粒径が変わると、燃料噴霧の運動量が変化する。燃料噴霧の運動量が変わると、燃料噴霧の飛散距離が変化する。詳しくは、噴口の有効断面積が小さくなるほど、燃料噴霧の粒径が小さくなり、燃料噴霧の飛散距離が短くなる。
よって、前段噴射は、後段噴射に比べて噴口の有効断面積が大きいので、燃料噴霧の運動量が相対的に大きくなり、該燃料噴霧が遠くまで飛散しやすくなる。つまり、前段噴射による燃料噴霧は、気筒内の径方向周辺部に飛散しやすくなる。一方、後段噴射は、前段噴射よりも噴口の有効断面積が小さい複数回の燃料噴射を含んでいるので、燃料噴霧は、気筒内の径方向中央に留まりやすくなる。
また、噴口の有効断面積は、燃料噴霧の負圧領域からの影響の受けやすさにも影響する。つまり、噴口の有効断面積が大きいと、燃料噴霧の粒径が大きいので、燃料噴霧は負圧領域からの影響を受けにくい。粒径の大きい燃料噴霧は、負圧領域にあまり引き寄せられず、負圧領域により減速される程度も小さい。それに対し、噴口の有効断面積が小さいと、燃料噴霧の粒径が小さいので、燃料噴霧は負圧領域からの影響を受けやすい。粒径の小さい燃料噴霧は、負圧領域に引き寄せられやすく、また、負圧領域により減速されやすい。そのため、後段噴射における多段噴射の噴口の有効断面積を小さくすることによって、燃料噴霧を気筒内の径方向中央により集めやすくすることができる。
さらに、上記後段噴射は、第1噴射群と、該第1噴射群と比べて上記噴口の有効断面積が相対的に小さく及び/又は噴射間隔が相対的に小さい第2噴射群とを含むようにしてもよい。
ここで、燃料の噴射間隔が変化すると、負圧領域の大きさが変化する。詳しくは、噴射間隔が大きいときには、次の燃料が噴射されるまでの間に負圧領域の圧力が回復し得るため、負圧領域は小さくなる。負圧領域が小さいと、燃料噴霧の径方向への広がりが大きくなる。それに対し、噴射間隔が小さいときには、燃料が次々と噴射されることで、負圧領域の負圧が維持され、負圧領域は大きくなる。負圧領域が大きいと、燃料噴霧の径方向への広がりが抑制される。
つまり、上記第1噴射群は、噴口の有効断面積が相対的に大きく及び/又は噴射間隔が相対的に大きいので、進行方向への飛散距離が相対的に長く且つ拡散して径方向へ広がった燃料噴霧を形成する。それに対し、第2噴射群は、噴口の有効断面積が相対的に小さく及び/又は噴射間隔が相対的に小さいので、進行方向への飛散距離が相対的に短く且つ径方向への広がりが抑制された燃料噴霧を形成する。
後段噴射は、気筒内の径方向の比較的中央部に燃料噴霧を分布させるが、このような第1噴射群及び第2噴射群を含んでいるので、その径方向中央部の中でも燃料噴霧を分散させることができる。
また、上記前段噴射及び上記後段噴射が行われる運転領域においては、上記気筒内にEGRガスが還流されていてもよい。
上記の構成によれば、不活性ガスであるEGRガスが気筒内に存在するので、前段噴射により燃料が早期に噴射されたとしても、該燃料噴霧の過早着火が抑制される。
上記前段噴射及び上記後段噴射による燃料は、該後段噴射が完了した後に着火するようにしてもよい。
この構成によれば、前段噴射による燃料噴霧と後段噴射による燃料噴霧とで混合気が形成された後に燃料が着火する。その結果、着火時における気筒内において燃料噴霧を径方向に広く分散させることができ、スモークの発生を低減することができる。
また、上記インジェクタは、上記噴口が形成されたノズル本体と、該噴口を開閉する弁体とを有し、該弁体のリフト量に応じて該噴口の有効断面積が変化するように構成されているようにしてもよい。
上記のインジェクタによれば、弁体のリフト量を調整することによって、噴口の有効断面積を調整することができ、ひいては、燃料噴霧の粒径を変更することができる。
また、直噴ガソリンエンジンの制御装置は、気筒内に設けられたピストンを有するエンジン本体と、少なくともガソリンを含む燃料を上記気筒内に噴口を介して噴射するインジェクタと、上記インジェクタの噴射態様を制御する制御部とを備え、上記インジェクタは、上記噴口の有効断面積を調整可能に構成されており、上記制御部は、上記エンジン本体のエンジン負荷が所定の高負荷であって且つ該エンジン本体の回転数が所定の低回転の運転領域において、圧縮行程中期以前に行われる前段噴射と、該前段噴射の後に行われる後段噴射とを上記インジェクタに行わせ、上記後段噴射は、上記前段噴射に比べて上記噴口の有効断面積が相対的に小さい複数回の燃料噴射を含むようにしてもよい。
この構成によれば、前段噴射の噴口の有効断面積は相対的に大きいので、燃料噴霧の運動量が大きく、遠くまで飛散しやすい。燃料噴霧の運動量が大きいことと、前段噴射が後段噴射よりも先に行われることが相俟って、前段噴射による燃料噴霧は、気筒内の径方向周辺部まで飛散しやすい。
一方、後段噴射の噴口の有効断面積は相対的に小さいので、燃料噴霧の運動量が小さく、飛散距離が相対的に短い。また、後段噴射は、前段噴射よりも後に行われるので、着火までの時間が短く、燃料噴霧が飛散していく時間が短い。さらに、後段噴射は、多段噴射を含んでおり、前段噴射に比べて大きな負圧領域が形成され、燃料噴霧の径方向への広がりが抑制される。後段噴射の燃料噴霧は上述の如く運動量が小さいので、負圧領域の影響を受けやすく、径方向への広がりがさらに抑制される。これらが相俟って、後段噴射による燃料噴霧は、気筒内の径方向中央部に飛散しやすい。
その結果、着火時には、気筒内の径方向周辺部と中央部とに燃料噴霧が広く分布することになり、スモークの発生を低減することができる。また、前段噴射は、比較的に早めに燃料を噴射するものの、前段噴射による燃料は、全噴射量の一部であってそれほど多くはないので、過早着火を抑制することができる。
上記構成によれば、過早着火を抑制しつつ、スモークの発生を低減することができる。
直噴ガソリンエンジンを示す概略構成図である。 インジェクタの内部構成を示す断面図である。 エンジンの運転マップを例示する図である。 燃焼室内に形成される混合気層の形状を概念的に示す断面図である。 インジェクタから噴射する燃料噴霧の広がり方向を説明する図である。 燃料の噴射間隔を示す図である。 外開弁式のインジェクタのリフト量を示す図である。 (A)燃料の噴射間隔が長いときの燃料噴霧の広がりを示す概念図、(B)燃料の噴射間隔が短いときの燃料噴霧の広がりを示す概念図である。 (A)インジェクタのリフト量が小さいときの燃料噴霧の広がりを示す概念図、(B)インジェクタのリフト量が大きいときの燃料噴霧の広がりを示す概念図である。 高負荷且つ低回転領域における噴射態様を示す図である。 高負荷且つ低回転領域において燃焼室内に形成される混合気層を概念的に示す図である。 その他の実施形態に係るインジェクタの内部構成を示す断面図である。
以下、例示的な実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、直噴ガソリンエンジン1(以下、単にエンジン1という)を概略的に示す。エンジン1は、エンジン本体に付随する様々なアクチュエータ、様々なセンサ、及び、該センサからの信号に基づきアクチュエータを制御するエンジン制御器100を含む。
エンジン1は、自動車等の車両に搭載され、その出力軸は、図示しないが、変速機を介して駆動輪に連結されている。エンジン1の出力が駆動輪に伝達されることによって、車両が推進する。エンジン1のエンジン本体は、シリンダブロック12と、その上に載置されるシリンダヘッド13とを備えており、シリンダブロック12の内部に複数のシリンダ(気筒)11が形成されている(図1では、シリンダ11を1つのみ示す)。シリンダブロック12及びシリンダヘッド13の内部には、図示は省略するが冷却水が流れるウォータージャケットが形成されている。
ここで、エンジン1の燃料は、本実施形態ではガソリンであるが、バイオエタノール等を含むガソリンであってもよく、少なくともガソリンを含む液体燃料であれば、どのような燃料であってもよい。
各シリンダ11内には、ピストン15が摺動自在にそれぞれ嵌挿されている。ピストン15は、シリンダ11及びシリンダヘッド13と共に燃焼室17を区画している。図例では、燃焼室17は所謂ペントルーフ型であり、その天井面(つまり、シリンダヘッド13の下面)は吸気側及び排気側の2つの傾斜面からなる三角屋根状をなしている。ピストン15の冠面は、上記天井面に対応した凸形状をなしていて、冠面の中心部には、凹状のキャビティ(凹部)15aが形成されている。尚、上記天井面及びピストン15の冠面の形状は、後述の、高い幾何学的圧縮比が実現するのであれば、どのような形状であってもよい。例えば、天井面及びピストン15の冠面(つまり、キャビティ15aを除く部分)の両方が、シリンダ11の中心軸に対して垂直な面で構成されていてもよく、天井面が上記のように三角屋根状をなす一方、ピストン15の冠面(つまり、キャビティ15aを除く部分)がシリンダ11の中心軸に対して垂直な面で構成されていてもよい。
図1には1つのみ示すが、シリンダ11毎に2つの吸気ポート18がシリンダヘッド13に形成され、それぞれがシリンダヘッド13の下面(つまり、燃焼室17の天井面における吸気側の傾斜面)に開口することで燃焼室17に連通している。同様に、シリンダ11毎に2つの排気ポート19がシリンダヘッド13に形成され、それぞれがシリンダヘッド13の下面(つまり、燃焼室17の天井面の排気側の傾斜面)に開口することで燃焼室17に連通している。吸気ポート18は、シリンダ11内に導入される新気が流れる吸気通路(図示省略)に接続されている。吸気通路には、吸気流量を調整するスロットル弁20が介設しており、エンジン制御器100からの制御信号を受けて、スロットル弁20の開度が調整される。一方、排気ポート19は、各シリンダ11からの既燃ガス(つまり、排気ガス)が流れる排気通路(図示省略)に接続されている。排気通路には、図示は省略するが、1つ以上の触媒コンバータを有する排気ガス浄化システムが配置される。触媒コンバータは、三元触媒を含む。
シリンダヘッド13には、吸気弁21及び排気弁22が、それぞれ吸気ポート18及び排気ポート19を燃焼室17から遮断(閉)することができるように配設されている。吸気弁21は吸気弁駆動機構により、排気弁22は排気弁駆動機構により、それぞれ駆動される。吸気弁21及び排気弁22は所定のタイミングで往復動して、それぞれ吸気ポート18及び排気ポート19を開閉し、シリンダ11内のガス交換を行う。吸気弁駆動機構及び排気弁駆動機構は、図示は省略するが、それぞれ、クランクシャフトに駆動連結された吸気カムシャフト及び排気カムシャフトを有し、これらのカムシャフトはクランクシャフトの回転と同期して回転する。また、少なくとも吸気弁駆動機構は、吸気カムシャフトの位相を所定の角度範囲内で連続的に変更可能な、液圧式、電動式又は機械式の位相可変機構(Variable Valve Timing:VVT)23を含んで構成されている。尚、VVT23と共に、弁リフト量を連続的に変更可能なリフト可変機構(CVVL(Continuous Variable Valve Lift))を備えるようにしてもよい。
また、シリンダヘッド13には、点火プラグ31が配設されている。この点火プラグ31は、例えば、ねじ等の周知の構造によって、シリンダヘッド13に取付固定されている。点火プラグ31は、図例では、シリンダ11の中心軸に対し、排気側に傾斜した状態で取付固定されており、その先端部は燃焼室17の天井部に臨んでいる。この点火プラグ31の先端部は、後述のインジェクタ33のノズル口41の近傍に位置する。尚、点火プラグ31の配置はこれに限定されるものではない。本実施形態では、点火プラグ31は、プラズマ点火式のプラグであり、点火システム32はプラズマ発生回路を備える。そして、点火プラグ31は、点火システム32によって放電でプラズマを発生させ、そのプラズマを点火プラグ31の先端から気筒内にジェット状に噴射させて、燃料の点火を行う。点火システム32は、エンジン制御器100からの制御信号を受けて、点火プラグ31が所望の点火タイミングでプラズマを発生するよう、それに通電する。尚、点火プラグ31は、プラズマ点火式のプラグに限らず、一般によく使用されている火花点火式のプラグであってもよい。
シリンダヘッド13におけるシリンダ11の中心軸上には、気筒内(つまり、燃焼室17内)に燃料を直接噴射するインジェクタ33が配設されている。このインジェクタ33は、例えばブラケットを使用する等の周知の構造でシリンダヘッド13に取付固定されている。インジェクタ33の先端は、燃焼室17の天井部の中心に臨んでいる。
図2に示すように、インジェクタ33は、シリンダ11内に燃料を噴射するノズル口41が形成されたノズル本体40と、ノズル口41を開閉する外開弁42とを有する、外開弁式のインジェクタである。インジェクタ33は、所定の中心軸Sに対して傾斜する方向であって該中心軸Sを中心とする径方向外側へ広がる方向へ燃料を噴射すると共に、ノズル口41の有効断面積を調整可能に構成されている。ノズル口41は、噴口の一例であり、外開弁42は、弁体の一例である。
ノズル本体40は、中心軸Sに沿って延びる管状の部材であって、その内部を燃料が流通する。ノズル口41の開口縁は、ノズル本体40の先端部において、先端側ほど径が大きくなるテーパ状に形成されている。ノズル本体40の基端側の端部は、内部にピエゾ素子44が配設されたケース45に接続されている。外開弁42は、弁本体42aと、弁本体42aからノズル本体40内を通ってピエゾ素子44に接続された連結部42bとを有している。弁本体42aは、ノズル本体40の先端においてノズル本体40から外側に露出している。弁本体42aの連結部42b側の部分が、ノズル口41の開口縁と略同じ形状を有しており、該部分がノズル口41の開口縁に当接(つまり、着座)しているときには、ノズル口41が閉状態となる。
インジェクタ33は、中心軸Sがシリンダ11の中心軸Xと一致し、ノズル口41が燃焼室17の天井部に臨む状態で配置されている。
ピエゾ素子44は、電圧の印加による変形により、外開弁42を中心軸方向に押圧してノズル本体40のノズル口41の開口縁からリフトさせることによって、ノズル口41を開放する。このとき、燃料がノズル口41から中心軸Sに対して傾斜した方向であって中心軸Sを中心とする半径方向へ広がる方向へ噴射される。具体的には、燃料は、中心軸Sを中心とするコーン状(詳しくはホローコーン状)に噴射される。そのコーンのテーパ角は、本実施形態では、90°〜100°である(ホローコーンにおける内側の中空部のテーパ角は70°程度である)。そして、ピエゾ素子44への電圧の印加が停止すると、ピエゾ素子44が元の状態に復帰することで、外開弁42がノズル口41を再び閉状態とする。このとき、ケース45内における連結部42bの周囲に配設された圧縮コイルバネ46がピエゾ素子44の復帰を助長する。
ピエゾ素子44に印加する電圧が大きいほど、外開弁42の、ノズル口41を閉じた状態からのリフト量(以下、単にリフト量という)が大きくなる(図7も参照)。このリフト量が大きいほど、ノズル口41の開度(つまり、有効断面積)が大きくなってノズル口41から気筒内に噴射される燃料噴霧の粒径が大きくなる。逆に、リフト量が小さいほど、ノズル口41の開度が小さくなってノズル口41から気筒内に噴射される燃料噴霧の粒径が小さくなる。ピエゾ素子44の応答は速く、例えば1サイクル中に20回程度の多段噴射が可能である。但し、外開弁42を駆動する手段としては、ピエゾ素子44には限られない。
燃料供給システム34は、外開弁42(ピエゾ素子44)を駆動するための電気回路と、インジェクタ33に燃料を供給する燃料供給系とを備えている。エンジン制御器100は、所定のタイミングで、リフト量に応じた電圧を有する噴射信号を上記電気回路に出力することで、該電気回路を介してピエゾ素子44及び外開弁42を作動させて、所望量の燃料を、気筒内に噴射させる。上記噴射信号の非出力時(つまり、噴射信号の電圧が0であるとき)には、外開弁42によりノズル口41が閉じられた状態となる。このようにピエゾ素子44は、エンジン制御器100からの噴射信号によって、その作動が制御される。こうしてエンジン制御器100は、ピエゾ素子44の作動を制御して、インジェクタ33のノズル口41からの燃料噴射及び該燃料噴射時におけるリフト量を制御する。
上記燃料供給系には、図示省略の高圧燃料ポンプやコモンレールが設けられており、その高圧燃料ポンプは、低圧燃料ポンプを介して燃料タンクより供給されてきた燃料をコモンレールに圧送し、コモンレールは、その圧送された燃料を、所定の燃料圧力で蓄える。そして、インジェクタ33が作動する(つまり、外開弁42がリフトされる)ことによって、上記コモンレールに蓄えられている燃料がノズル口41から噴射される。
エンジン制御器100は、周知のマイクロコンピュータをベースとするコントローラであって、プログラムを実行する中央演算処理装置(CPU)と、例えばRAMやROMにより構成されてプログラム及びデータを格納するメモリと、電気信号の入出力をする入出力(I/O)バスと、を備えている。エンジン制御器100は、制御部の一例である。
エンジン制御器100は、少なくとも、エアフローセンサ51からの吸気流量に関する信号、クランク角センサ52からのクランク角パルス信号、アクセル・ペダルの踏み込み量を検出するアクセル開度センサ53からのアクセル開度信号、及び、車速センサ54からの車速信号をそれぞれ受ける。エンジン制御器100は、これらの入力信号に基づいて、例えば、所望のスロットル開度信号、燃料噴射パルス、点火信号、バルブ位相角信号等といった、エンジン1の制御パラメータを計算する。そして、エンジン制御器100は、それらの信号を、スロットル弁20(正確には、スロットル弁20を動かすスロットルアクチュエータ)、VVT23、後述するEGR弁25、燃料供給システム34(正確には、上記電気回路)及び点火システム32等に出力する。
このエンジン1の幾何学的圧縮比εは、15以上40以下とされている。本実施形態では、エンジン1は圧縮比=膨張比となる構成から、高圧縮比と同時に、比較的高い膨張比を有するエンジン1でもある。幾何学的圧縮比を高くすることによって、熱効率の向上を図る。
燃焼室17は、図1に示すように、シリンダ11の壁面と、ピストン15の冠面と、シリンダヘッド13の下面(つまり、天井面)と、吸気弁21及び排気弁22それぞれのバルブヘッドの面と、によって区画形成されている。そして、このエンジン1では、冷却損失を低減するべく、これらの各面に、断熱層61,62,63,64,65を設けることによって、燃焼室17を断熱化している。尚、以下において、これらの断熱層61〜65を総称する場合は、断熱層に符号「6」を付す場合がある。断熱層6は、これらの区画面の全てに設けてもよいし、これらの区画面の一部に設けてもよい。また、図例では、シリンダ壁面の断熱層61は、ピストン15が上死点に位置した状態で、そのピストンリング14よりも上側の位置に設けられており、これにより断熱層61上をピストンリング14が摺動しない構成としている。但し、シリンダ壁面の断熱層61はこの構成に限らず、断熱層61を下向きに延長することによって、ピストン15のストロークの全域、又は、その一部に断熱層61を設けてもよい。また、燃焼室17を直接区画する壁面ではないが、吸気ポート18や排気ポート19における、燃焼室17の天井面側の開口近傍のポート壁面に断熱層を設けてもよい。尚、図1に図示する各断熱層61〜65の厚みは実際の厚みを示すものではなく単なる例示であると共に、各面における断熱層の厚みの大小関係を示すものでもない。
燃焼室17の断熱構造について、さらに詳細に説明する。燃焼室17の断熱構造は、上述の如く、燃焼室17を区画する各区画面に設けた断熱層61〜65によって構成されるが、これらの断熱層61〜65は、燃焼室17内の燃焼ガスの熱が、区画面を通じて放出されることを抑制するため、燃焼室17を構成する金属製の母材よりも熱伝導率が低く設定される。ここで、シリンダ11の壁面に設けた断熱層61については、シリンダブロック12が母材であり、ピストン15の冠面に設けた断熱層62についてはピストン15が母材であり、シリンダヘッド13の天井面に設けた断熱層63については、シリンダヘッド13が母材であり、吸気弁21及び排気弁22それぞれのバルブヘッド面に設けた断熱層64,65については、吸気弁21及び排気弁22がそれぞれ母材である。したがって、母材の材質は、シリンダブロック12、シリンダヘッド13及びピストン15については、アルミニウム合金や鋳鉄となり、吸気弁21及び排気弁22については、耐熱鋼や鋳鉄等となる。
また、断熱層6は、冷却損失を低減する上で、母材よりも容積比熱が小さいことが好ましい。つまり、燃焼室17内のガス温度は燃焼サイクルの進行によって変動するが、燃焼室17の断熱構造を有しない従来のエンジンは、シリンダヘッドやシリンダブロック内に形成したウォータージャケット内を冷却水が流れることにより、燃焼室17を区画する面の温度は、燃焼サイクルの進行にかかわらず、概略一定に維持される。
一方で、冷却損失は、冷却損失=熱伝達率×伝熱面積×(ガス温度−区画面の温度)によって決定されることから、ガス温度と壁面の温度との差温が大きくなればなるほど冷却損失は大きくなってしまう。冷却損失を抑制するためには、ガス温度と区画面の温度との差温は小さくすることが望ましいが、冷却水によって燃焼室17の区画面の温度を概略一定に維持した場合、ガス温度の変動に伴い差温が大きくなることは避けられない。そこで、断熱層6の熱容量を小さくして、燃焼室17の区画面の温度が、燃焼室17内のガス温度の変動に追従して変化するようにすることが好ましい。
上記断熱層6は、例えば、母材上にZrO等のセラミック材料をプラズマ溶射によってコーティングして形成すればよい。このセラミック材料の中には、多数の気孔を含んでいてもよい。このようにすれば、断熱層6の熱伝導率及び容積比熱をより低くすることができる。
また、本実施形態では、図1に示すように、熱伝導率が非常に低くて断熱性に優れかつ耐熱性にも優れたチタン酸アルミニウム製のポートライナ181を、シリンダヘッド13に一体的に鋳ぐるむことによって、吸気ポート18に断熱層を設けている。この構成は、新気が吸気ポート18を通過するときに、シリンダヘッド13から受熱して温度が上がることを抑制乃至回避し得る。これによってシリンダ11内に導入する新気の温度(初期のガス温度)が低くなるため、燃焼時のガス温度が低下し、ガス温度と燃焼室17の区画面との差温を小さくする上で有利になる。燃焼時のガス温度を低下させることは熱伝達率を低くし得るから、そのことによる冷却損失の低減にも有利になる。尚、吸気ポート18に設ける断熱層の構成は、ポートライナ181の鋳ぐるみに限定されない。
このエンジン1では、上述の通り幾何学的圧縮比εを15≦ε≦40に設定している。理論サイクルであるオットーサイクルにおける理論熱効率ηthは、ηth=1−1/(εκ−1)であり、圧縮比εを高くすればするほど、理論熱効率ηthは高くなる。しかしながら、エンジン(正確には、燃焼室の断熱構造を有しないエンジン)の図示熱効率は、所定の幾何学的圧縮比ε(例えば15程度)でピークになり、幾何学的圧縮比εをそれ以上に高めても図示熱効率は高くならず、逆に、図示熱効率は低下することになる。これは、燃料量及び吸気量を一定のままで幾何学的圧縮比を高くした場合、圧縮比が高くなればなるほど、燃焼圧力及び燃焼温度が高くなることに起因している。上述したように、燃焼圧力及び燃焼温度が高くなることは、冷却損失を増大させることになるためである。
これに対し、このエンジン1では、高い幾何学的圧縮比εにおいて図示熱効率が高まるように、上述の通り、燃焼室17の断熱構造を組み合わせている。つまり、燃焼室17の断熱化により冷却損失を低減させ、それによって図示熱効率を高める。
一方で、燃焼室17を断熱化して冷却損失を低減させるだけでは、その冷却損失の低減分が排気損失に転換されて図示熱効率の向上にはあまり寄与しないところ、このエンジン1では、上述したように、高圧縮比化に伴う高膨張比化によって、冷却損失の低減分に相当する燃焼ガスのエネルギを、機械仕事に効率よく変換している。すなわち、このエンジン1は、冷却損失及び排気損失を共に低減させる構成を採用することによって、図示熱効率を大幅に向上させているということができる。
このエンジン1では、上記の燃焼室17及び吸気ポート18の断熱構造に加えて、気筒内(燃焼室17内)においてガス層による断熱層を形成することで、冷却損失をさらに低減するようにしている。以下、このことについて詳細に説明する。
図3は、エンジン1の温間時の運転マップを例示している。このエンジン1は、基本的には、運転領域の全域において、燃焼室17内の混合気を圧縮自己着火によって燃焼させるように構成されている。図3に示す運転マップにおいて、所定負荷よりも低い低負荷領域、及び、低負荷領域よりも負荷の高い中負荷領域において、燃焼室17内にガス層による断熱層を形成する。つまり、エンジン負荷が比較的低くかつ、それによって燃料噴射量が比較的少ない運転状態においては、燃焼室17内にガス層による断熱層を形成することによって、冷却損失を低減し、熱効率の向上を図る。ここで、低負荷領域及び中負荷領域はそれぞれ、エンジンの負荷領域を低、中、及び高の3つの領域に区分(例えば、三等分)したときの、低領域及び中領域に相当する、と定義してもよい。また、特に中負荷領域は、例えば全開負荷に対する所定負荷以下(例えば70%負荷以下)の領域としてもよい。
図4は、低負荷及び中負荷領域において、燃焼室17内に形成する混合気層の形状を概念的に示している。燃焼室17内にガス層による断熱層を形成するとは、同図に示すように、燃焼室17内の中央部に混合気層を形成すると共に、その周囲に新気を含むガス層を形成することである。このガス層は、新気のみであってもよく、新気に加えて、既燃ガス(つまり、EGRガス)を含んでいてもよい。尚、後述の通り、ガス層が断熱層の役割を果たす限度において、ガス層に少量の燃料が混じることは許容される。
混合気層の表面積(S)と体積(V)との比(S/V比)を小さくすることによって、燃焼時に周囲のガス層との伝熱面積が小さくなると共に、混合気層とシリンダ11の壁面との間のガス層により、混合気層の火炎がシリンダ11の壁面に接触することがなく、また、ガス層自体が断熱層となって、シリンダ11の壁面からの熱の放出を抑えることができるようになる。この結果、冷却損失を大幅に低減することができる。
エンジン制御器100は、燃焼室17内の中央部に混合気層が形成されかつ、その周囲にガス層が形成されるように、圧縮行程後半から膨張行程初期の期間にインジェクタ33のノズル口41からシリンダ11内に燃料を噴射させるべく、燃料供給システム34の電気回路に噴射信号を出力する。
低負荷領域においては、燃料噴射量が相対的に少ないことから、シリンダ11の中心軸X上に配設されたインジェクタ33から、圧縮行程後半から膨張行程初期の期間に、シリンダ11内に燃料を噴射することによって燃料噴霧の広がりを抑制して、燃焼室17内の中央部の混合気層と、その周囲のガス層とを形成することが比較的、容易に実現する。しかしながら、燃焼噴射量が増えるに従い、燃料噴射期間が長くなることから、燃料噴霧は特にシリンダ11の中心軸Xの方向に広がるようになり、その結果、混合気層は、例えばピストン15の冠面に触れるようになる。つまり、混合気層の周囲のガス層が確実に形成されなくなる。上述の通り、このエンジン1は、幾何学的圧縮比が高く、それに伴い燃焼室(つまり、ピストンが圧縮上死点に位置したときのシリンダ内空間)の容積が小さい。そのため、このエンジン1は、燃料噴霧がシリンダ11の中心軸Xの方向に広がったときに、混合気層はピストン15の冠面に触れやすい。
そこで、このエンジン1は、燃料噴射量が増える中負荷領域においても燃焼室17内の中心部の混合気層とその周囲のガス層とを確実に形成するために、燃焼室17内に形成する混合気層の形状をコントロールする。具体的には、図4に白抜きの矢印で示すように、燃料噴射量が増えたときには、燃料噴霧を、シリンダ11の中心軸Xに交差する径方向の外方に広がるようにする。そのことによって、混合気層の中心軸Xの方向の長さが長くなることを抑制して混合気層がピストン15の冠面に触れることを回避しつつ、中心軸Xの方向よりも空間的な余裕のある径方向の外方に混合気層を広げることによって、混合気層がシリンダ11の内壁に触れることも回避する。燃焼室17内に形成する混合気層の形状をコントロールすることは、燃焼室17内に形成される混合気層の中心軸方向の長さをL、径方向の幅をWとしたときに、長さLと幅Wとの比(L/W)を調整することであり、上述のS/V比を小さくする上で、L/W比を所定以上にしつつも、燃料噴射量が増えたときには、L/W比を小さくすることになる。
このような混合気層の形状のコントロールを実現するために、エンジン1では、インジェクタ33による燃料噴射の間隔(図6参照)とリフト量(図7参照)とがそれぞれ調整される。これにより、図5に示すように、燃料噴霧の進行方向への広がりと燃料噴霧の径方向への広がりとが独立して制御される。燃料噴射の間隔は、図6に概念的に示すように、燃料噴射の終了から、次の燃料噴射の開始までの間隔と定義される。上述の通り、このインジェクタ33は高応答であり、1〜2msecの間に、20回程度の多段噴射が可能である。また、インジェクタ33のリフト量は、図7に概念的に示すように、燃料の噴射開口面積に比例し、上述の通り、リフト量が大きいほど、噴射開口面積(即ち、ノズル口41の有効断面積)は大きくなり、リフト量が小さいほど、噴射開口面積は小さくなる。
図8は、インジェクタ33のリフト量を一定にした上で、燃料の噴射間隔を長くしたとき(同図(A))と、噴射間隔を短くしたとき(同図(B))との燃料噴霧の広がりの違いを、概念的に示している。インジェクタ33からホローコーン状に噴射された燃料噴霧は、燃焼室17内を高速で流れる。そのため、コアンダ効果により、ホローコーンの内側においてインジェクタ33の中心軸Sに沿うように、負圧領域が発生する。燃料噴射間隔が長いときには、燃料噴射から次の燃料噴射までの間に、負圧領域の圧力が回復するようになるため、負圧領域は小さくなる。これに対し、燃料噴射間隔が短いときには、間を空けずに燃料噴射が繰り返されるため、負圧領域の圧力が回復することが抑制される。その結果、負圧領域は、図8(B)に示すように、大きくなる。
燃料噴霧は、この負圧に引き寄せされるようになる。負圧領域は中心軸Sを中心とする径方向の中央側に形成されるため、負圧領域が相対的に大きいときには、図8(B)に示すように、燃料噴霧の径方向への広がりは抑制される。これに対し、負圧領域が相対的に小さいときには、図8(A)に示すように、燃料噴霧は、あまり引き寄せられないため、径方向へ広がりやすくなる。つまり、インジェクタ33の燃料の噴射間隔を短くすれば、燃料噴霧の径方向の広がりを抑制することが可能になる一方、その噴射間隔を長くすれば、燃料噴霧の径方向の広がりを促進することが可能になる。
図9は、燃料の噴射間隔を一定にした上で、インジェクタ33のリフト量を小さくしたとき(同図(A))と、リフト量を大きくしたとき(同図(B))との燃料噴霧の広がりの違いを、概念的に示している。この場合、噴射間隔が同じであるため、燃焼室17内の負圧領域は同じになるものの、リフト量が相違することによって、燃料噴霧の粒径が異なる。つまり、インジェクタ33のリフト量を小さくしたときには、燃料噴霧の粒径も小さくなるため、燃料噴霧の運動量が小さくなる。このため、燃料噴霧は、負圧によって径方向の中央側に引き寄せられやすくなり、図9(A)に示すように、径方向の外方への広がりが抑制される。これに対し、インジェクタ33のリフト量を大きくしたときには、燃料噴霧の粒径が大きくなるため、燃料噴霧の運動量が大きくなる。このため、燃料噴霧は、負圧に引き寄せられにくくなり、図9(B)に示すように、径方向の外方に広がり易くなる。つまり、インジェクタ33のリフト量を大きくすれば、燃料噴霧の径方向の広がりを促進することが可能になる一方、そのリフト量を小さくすれば、燃料噴霧の径方向の広がりを抑制することが可能になる。
また、粒径が大きい燃料噴霧は、運動量が大きいので、進行方向への飛散距離も長くなる。さらに、粒径が大きい燃料噴霧は、負圧領域の影響を受けて減速しにくく、このことによっても飛散距離が長くなる。それに対し、粒径が小さい燃料噴霧は、運動量が小さいので、進行方向への飛散距離が短くなる。さらに、粒径が小さい燃料噴霧は、負圧領域の影響を受けて減速しやすく、このことによっても飛散距離が短くなる。
このように、インジェクタ33の噴射間隔及びリフト量を変更することによって、燃料噴霧の広がりを、径方向と進行方向との2方向について独立して制御することが可能になる。そこで、このエンジン1では、リフト量が相対的に大きく且つ噴射間隔が相対的に大きい複数回の燃料噴射を含む第1噴射群と、リフト量が相対的に小さく且つ噴射間隔が相対的に小さい複数回の燃料噴射を含む第2噴射群とを組み合わせて、混合気層の形状を制御している。何れの噴射群においても、複数回の燃料噴射を行う多段噴射が実行される。ここで、多段噴射とは、燃料の噴射間隔(燃料噴射の終了から次の燃料噴射の開始までの間隔)が0.5ms以下の連続的な燃料噴射を意味する。
詳しくは、第1噴射群は、インジェクタ33のリフト量を第2噴射群よりも大きくし且つ、燃料の噴射間隔を第2噴射群よりも大きくした、所定回数の燃料噴射を含む。噴射間隔を広くすることによって負圧領域が小さくなる。それに加えて、リフト量を大きくして燃料噴霧の粒径を大きくすることによって、燃料噴霧の運動量が大きくなる。その結果、進行方向への飛散距離が相対的に長く且つ径方向へ広がった燃料噴霧が形成される。
第2噴射群は、インジェクタ33のリフト量を第1噴射群よりも小さくし且つ、燃料の噴射間隔を第1噴射群よりも小さくした、所定回数の燃料噴射を含む。噴射間隔を狭くすることによって負圧領域が拡大される。それに加えて、リフト量を小さくして燃料噴霧の粒径を小さくすることによって、燃料噴霧の運動量が小さくなる。その結果、進行方向への飛散距離が相対的に短く且つ径方向への広がりが抑制された燃料噴霧が形成される。
エンジン制御器100は、エンジン1の運転状態に応じて第1噴射群と第2噴射群との割合を変更することによって、混合気層をエンジン1の運転状態に応じた形状に制御している。基本的な原理としては、第1噴射群の割合を多くすることによって、径方向外方へ広がった混合気層が形成される一方、第2噴射群の割合を多くすることによって、径方向外側への広がりが抑制された混合気層が形成される。
尚、エンジン1の運転状態によっては、第1噴射群が省略され、第2噴射群だけが実行される場合や、第1噴射群に含まれる燃料噴射が1回だけで、あとは第2噴射群となる場合や、第2噴射群が省略され、第1噴射群だけが実行される場合や、第2噴射群に含まれる燃料噴射が1回だけで、あとは第1噴射群となる場合もある。また、第1噴射群の後に第2噴射群を実行してもよいし、第2噴射群のあとに第1噴射群を実行してもよい。
エンジン制御器100は、上述の多段噴射を前提として、エンジン1の運転状態に応じて第1噴射群8及び第2噴射群9の噴射態様をさらに細かく制御している。図10は、高負荷且つ低回転領域における噴射態様を示す図である。図11は、高負荷且つ低回転領域において燃焼室内に形成される混合気層を概念的に示す図である。
具体的には、エンジン制御器100は、図3においてハッチングで示す高負荷の低回転側の領域(ただし、全負荷領域を除く)において、前段噴射71と後段噴射72とをインジェクタ33に行わせている。
尚、高負荷領域(全負荷領域を除く)においては、エンジン制御器100は、EGRガスを排気通路から吸気通路に還流させている。図示は省略するが、エンジン1には、排気通路と吸気通路とを連通させるEGR通路が設けられている。EGR通路には、EGR通路を流通するEGRガスの流量を調整するEGR弁25と、EGR通路を流通するEGRガスを冷却するEGRクーラが設けられている。この高負荷領域において、還流されるEGRガスは、EGRクーラにより冷却されたEGRガスである。
エンジン制御器100は、高負荷領域において、EGRガスを還流させることによって空気過剰率λが1となるように制御している。空気過剰率λを1に調整することによって、排気通路に設けられた触媒のNOx浄化性能を高めることができる。
以下、前段噴射71及び後段噴射72について詳しく説明する。
前段噴射71は、圧縮行程中期以前に行われる。より詳しくは、前段噴射71は、圧縮行程中であってエンジン1の吸気バルブが閉弁した後に行われる。例えば、前段噴射71は、圧縮上死点前120〜90°で燃料噴射が終了するタイミングで実行される。
前段噴射71は、比較的大きなリフト量で実行される。前段噴射71による燃料噴霧は、粒径が大きく、運動量が大きい。そのため、前段噴射71による燃料噴霧は、比較的遠くまで飛散する。
また、前段噴射71は後段噴射72に先だって行われるので、その燃料噴霧は、後段噴射72が実行されるときには、燃焼室17の径方向(即ち、シリンダ11の径方向)周辺部17bまで達する。燃焼室17の径方向周辺部17bには、ピストン15の周縁部とシリンダ11の天井部との間に僅かな隙間(以下、「スキッシュエリア」と称する)17cが形成されている。少なくとも着火時には、前段噴射71による燃料噴霧は、スキッシュエリア17cにも到達している。換言すると、前段噴射71は、その燃料噴霧が着火時にはスキッシュエリア17cに到達しているようなタイミングで実行される。尚、燃料の着火は、例えば、燃料の燃焼質量割合が1%以上となることをもって判定することができる。
ここで、前段噴射71は、上述の如く、吸気バルブの閉弁後に行われるので、吸気流動が或る程度収まっており、燃焼室17の径方向周辺部17bに達した燃料噴霧は、その場に留まりやすい。
尚、前段噴射71の燃料量は、後段噴射72の燃料量よりも少ない。
後段噴射72は、前段噴射71の後であって、圧縮上死点までに噴射が完了するタイミングで実行される。後段噴射72は、複数回の燃料噴射を含む多段噴射である。
詳しくは、後段噴射72は、第1噴射群8と第2噴射群9とを含んでいる。第1噴射群8は、インジェクタ33のリフト量を第2噴射群9よりも大きくし且つ、燃料の噴射間隔を第2噴射群9よりも大きくした、所定回数(図10の例では2回)の燃料噴射80,80を含んでいる。第2噴射群9は、インジェクタ33のリフト量を第1噴射群8よりも小さくし且つ、燃料の噴射間隔を第1噴射群8よりも小さくした、所定回数(図10の例では4回)の燃料噴射90,90,…を含んでいる。第1噴射群8のリフト量は、前段噴射71と同程度である。第2噴射群9のリフト量は、前段噴射71よりも小さい。
第1噴射群8は、燃料噴霧の粒径が大きく且つ負圧領域が大きいので、進行方向への飛散距離が相対的に長く且つ径方向へ広がった燃料噴霧が形成される。一方、第2噴射群9は、燃料噴霧の粒径が小さく且つ負圧領域が小さいので、進行方向への飛散距離が相対的に短く且つ径方向への広がりが小さい燃料噴霧が形成される。
このような第1噴射群8及び第2噴射群9による燃料噴射の結果、着火時(圧縮上死点後の所定のタイミング)には、燃料噴霧は、燃焼室17の径方向に広く分散した状態となる。
詳しくは、前段噴射71により、比較的早いタイミングで且つ比較的粒径の大きな、即ち、運動量の大きな燃料噴霧が噴射されることによって、少なくとも後段噴射72が行われる時点における燃焼室17においては、径方向周辺部17bの燃料濃度が径方向中央部17aの燃料濃度よりも濃い混合気が形成される。このとき、前段噴射71を単段噴射で行うことによって、多段噴射で行う場合に比べて、燃料噴霧が遠くまで飛散しやすくなる。
その後、後段噴射72により、比較的遅いタイミングで且つ比較的粒径の小さな、即ち、運動量の小さな燃料噴霧が大きな負圧領域が形成される状態で噴射されることによって、少なくとも着火時点における燃焼室17においては、径方向中央部17aの燃料濃度が径方向周辺部17bの燃料濃度よりも濃い混合気が形成される。このとき、インジェクタ33のリフト量を相対的に大きくし且つ燃料の噴射間隔を相対的に大きくした第1噴射群8と、リフト量を相対的に小さくし且つ、噴射間隔を相対的に小さくした第2噴射群9とを組み合わせることによって、進行方向への飛散距離が相対的に長く且つ径方向への広がりが大きい燃料噴霧と進行方向への飛散距離が相対的に短く且つ径方向への広がりが小さい燃料噴霧とを形成し、燃焼室17の径方向中央部17aにおいて燃料噴霧を広く分散させることができる。
尚、第1噴射群8による燃料噴霧は、第2噴射群9の燃料噴霧に比べて飛散距離が長く且つ径方向へ広がっているだけで、前段噴射71による燃料噴霧と比べると、飛散距離は短く且つ径方向への広がりは小さい。
このように、前段噴射71は、燃焼室17の径方向周辺部17bに径方向中央部17aよりも多くの燃料噴霧を分布させ、後段噴射72は、燃焼室17の径方向中央部17aに径方向周辺部17bよりも多くの燃料噴霧を分布させる。これら前段噴射71と後段噴射72とによって、着火時には、燃焼室17の径方向に広く分散した混合気が形成される。つまり、局所的に燃料濃度が高い部分が形成されることが防止される。
そして、前段噴射71及び後段噴射72が完了した後に燃料が着火する。つまり、燃料噴霧が燃焼室17の径方向に広く分散した混合気が形成された後に着火する。そのため、スモークの発生が抑制される。
このとき、前段噴射71は比較的に早めに実行されるものの、前段噴射71の燃料量は後段噴射72の燃料量よりも少なく、それほど多くはないので、過早着火を抑制することができる。また、この運転領域においては、不活性ガスであるEGRガスが燃焼室17内に存在するので、このことによっても前段噴射71による燃料噴霧の過早着火が抑制される。
このように、エンジン1は、シリンダ11内に設けられたピストン15を有するエンジン本体と、少なくともガソリンを含む燃料を上記シリンダ11内にノズル口41を介して噴射するインジェクタ33と、上記インジェクタ33の噴射態様を制御するエンジン制御器100とを備え、上記エンジン制御器100は、上記エンジン1のエンジン負荷が所定の高負荷であって且つ該エンジン1の回転数が所定の低回転の運転領域において、圧縮行程中期以前に行われる前段噴射71と、該前段噴射71の後に行われる後段噴射72とを上記インジェクタ33に行わせ、上記前段噴射71は、上記後段噴射72を行う時点において上記シリンダ11の径方向の周辺部17bの燃料濃度が該径方向の中央部17aの燃料濃度よりも濃くなるように、燃料を噴射し、上記後段噴射72は、複数回の燃料噴射を含む多段噴射であって、燃料が着火する時点において上記径方向の中央部17aの燃料濃度が該径方向の周辺部17bの燃料濃度よりも濃くなるように、燃料を噴射する。
この構成によれば、燃焼室17の径方向周辺部17bにより多くの燃料噴霧を噴射する前段噴射71を行い、その後に、燃焼室17の径方向中央部17aにより多くの燃料噴霧を噴射する後段噴射72を行うことによって、少なくとも着火時点においては燃料噴霧が燃焼室17の径方向に広く分散した状態となり、スモークの発生を抑制することができる。さらに、前段噴射71の燃料量は、後段噴射72の燃料量よりも少ないので、前段噴射71による燃料噴霧の過早着火が抑制される。
このとき、後段噴射72を多段噴射とし、そのリフト量を前段噴射71よりも小さくすることによって、後段噴射72による燃料噴霧の飛散距離が短くなると共に径方向への広がりが抑制されるので、後段噴射72による燃料噴霧を燃焼室17の径方向中央部17aに集めることができる。
それに加えて、後段噴射72にリフト量が相対的に大きく且つ噴射間隔が相対的に大きい第1噴射群8とリフト量が相対的に小さく且つ噴射間隔が相対的に小さい第2噴射群9とを含ませることによって、燃焼室17の径方向中央部17aにおける燃料濃度の均等化を図ることができ、スモークの発生をより抑制することができる。
《その他の実施形態》
以上のように、本出願において開示する技術の例示として、上記実施形態を説明した。しかしながら、本開示における技術は、これに限定されず、適宜、変更、置き換え、付加、省略などを行った実施の形態にも適用可能である。また、上記実施形態で説明した各構成要素を組み合わせて、新たな実施の形態とすることも可能である。また、添付図面および詳細な説明に記載された構成要素の中には、課題解決のために必須な構成要素だけでなく、上記技術を例示するために、課題解決のためには必須でない構成要素も含まれ得る。そのため、それらの必須ではない構成要素が添付図面や詳細な説明に記載されていることをもって、直ちに、それらの必須ではない構成要素が必須であるとの認定をするべきではない。
上記実施形態について、以下のような構成としてもよい。
例えば、インジェクタ33による燃料の噴射態様は、図10に示す例に限られず、以下のようにしてもよい。
前段噴射71は、1回に限られるものではない。前段噴射71は、複数の燃料噴射を含んでいてもよい。その場合には、噴射間隔は、少なくとも後段噴射72の第2噴射群9の噴射間隔よりも長く、さらには第1噴射群8の噴射間隔よりも長いことが好ましい。
後段噴射72は、第1噴射群8と第2噴射群9とを含んでいるが、何れか一方だけであってもよい。また、後段噴射群72は、第1噴射群8及び第2噴射群9以外の燃料噴射を含んでいてもよい。すなわち、後段噴射72は、多段噴射を含む限り、任意の噴射態様を採用することができる。
第1噴射群8の噴射回数及び第2噴射群9の噴射回数も、図10の例に限られるものではない。また、第1噴射群8においてリフト量が一定であるが、リフト量が異なっていてもよい。第2噴射群9のリフト量も異なっていてもよい。第2噴射群9の噴射間隔は一定であるが、噴射間隔が異なっていてもよい。尚、第1噴射群8の噴射回数が3回以上である場合には、それらの噴射間隔は一定であっても、異なっていてもよい。
さらに、上記多段噴射では、第1噴射群8の後に第2噴射群9が実行されるが、これを逆にして、第2噴射群9の後に第1噴射群8が実行されてもよい。
上述のような第1噴射71及び第2噴射72が行われるのは高負荷且つ低回転の運転領域に限られない。中負荷領域等のそれ以外の運転領域において同様の制御を行ってもよい。
また、インジェクタの構成は、上記実施形態に限られるものではない。噴口の有効断面積を変更できる限り、任意のインジェクタを採用することができる。例えば、図12に示すような、VCO(Valve Covered Orifice)ノズルタイプのインジェクタ233であってもよい。図12は、インジェクタ233の内部構成を示す断面図である。
詳しくは、インジェクタ233は、シリンダ11内に燃料を噴射するノズル口241が形成されたノズル本体240と、ノズル口241を開閉するニードル弁242とを有する。ノズル本体240は、所定の中心軸Sに沿って延びる管状の部材であって、その内部を燃料が流通する。ノズル本体240の先端部は、円錐状に形成されている。ノズル本体240の先端部の内周面には、すり鉢状のシート部243が形成されている。ノズル本体240の先端部に、複数のノズル口241が貫通形成されている。ノズル口241の一端は、シート部243に開口している。ノズル口241は、中心軸S回りに等間隔で複数配置されている。ニードル弁242の先端部は、円錐状に形成され、ノズル本体240のシート部243に着座するようになっている。ノズル口241は、ニードル弁242がシート部243に着座することによって閉鎖されるようになっている。ノズル口241は、噴口の一例であり、ニードル弁242は、弁体の一例である。
ニードル弁242は、インジェクタ33と同様にピエゾ素子により駆動される。ニードル弁242が駆動され、シート部243からリフトされると、シート部243とニードル弁242との間に燃料が流通可能な隙間が形成され、この隙間を流通する燃料がノズル口241を介してノズル本体240の外部に噴射される。
このとき、ノズル口241の内周面には、燃料が流通する際にキャビテーションが発生する。このキャビテーションの度合い(例えば、キャビテーションが発生する領域の大きさ)は、ニードル弁242とシート部243との隙間、即ち、ニードル弁242のリフト量に応じて変化する。具体的には、ニードル弁242のリフト量が小さく、ニードル弁242とシート部243との隙間が小さいときには、キャビテーションが発生する領域も大きくなる。一方、ニードル弁242のリフト量が大きく、ニードル弁242とシート部243との隙間が大きいときには、キャビテーションが発生する領域も小さくなる。キャビテーションが発生する領域が大きいと、ノズル口241の有効断面積は小さくなる。キャビテーションが発生する領域が小さいと、ノズル口241の有効断面積は大きくなる。つまり、ニードル弁242のリフト量が小さいほど、ノズル口241の有効断面積は小さくなり、ニードル弁242のリフト量が大きいほど、ノズル口241の有効断面積は大きくなる。
さらに、上記実施形態では、インジェクタ33のリフト量と燃料噴射間隔とを変更することによって、燃焼室17内の混合気層の形状を変更することが可能であるが、これに加えて、燃料圧力を高くすることは、インジェクタ33のリフト量と燃料噴射間隔との変更に伴う、混合気層の形状の変更幅を、さらに拡大する。つまり、燃料圧力を高くすることによって、インジェクタ33のリフト量を大きくしたときには、燃料噴霧の運動エネルギがより大きくなり、燃料噴射間隔を狭くしたときには、負圧の程度が高くなって負圧領域がより拡大する。その結果、混合気層の形状の変更幅が、さらに拡大する。
尚、上記の例では、燃焼室17及び吸気ポート18の断熱構造を採用するとともに、気筒内(燃焼室17内)にガス層による断熱層を形成するようにしたが、ここに開示する技術は、燃焼室17及び吸気ポート18の断熱構造を採用しないエンジンにも適用することができる。
また、ここに開示する燃料噴射技術は、燃焼室17内に混合気層とその周囲のガス層とを形成しているが、これに限られるものではない。ガス層が存在せず、混合気層が燃焼室17の壁面と接触する場合でも、上記燃料噴射技術を採用することができる。例えば、燃焼室17の容積に対して燃料噴射量が多くなると、混合気層が燃焼室17の壁面と接触する場合もある。そのような場合であっても、燃焼室17の中央近傍での熱量の発生を増加させ、壁面近傍での熱量の発生を抑制することによって、燃焼室17の壁面からの放熱を抑制し、冷却損失を低減することができる。
以上説明したように、ここに開示された技術は、直噴ガソリンエンジンの制御装置について有用である。
1 エンジン
11 シリンダ(気筒)
15 ピストン
17 燃焼室
17a 径方向中央部
17b 径方向周辺部
33 インジェクタ
40 ノズル本体
41 ノズル口(噴口)
42 外開弁(弁体)
71 前段噴射
72 後段噴射
8 第1噴射群
9 第2噴射群
100 エンジン制御器(制御部)
233 インジェクタ
241 ノズル口(噴口)
242 ニードル弁(弁体)
S 中心軸
X 中心軸

Claims (7)

  1. 気筒内に設けられたピストンを有するエンジン本体と、
    少なくともガソリンを含む燃料を上記気筒内に噴口を介して噴射するインジェクタと、
    上記インジェクタの噴射態様を制御する制御部とを備え、
    上記制御部は、上記エンジン本体のエンジン負荷が所定の高負荷であって且つ該エンジン本体の回転数が所定の低回転の運転領域において、圧縮行程中期以前に行われる前段噴射と、該前段噴射の後に行われる後段噴射とを上記インジェクタに行わせ、
    上記前段噴射は、上記後段噴射を行う時点において上記気筒の径方向の周辺部の燃料濃度が該径方向の中央部の燃料濃度よりも濃くなるように、燃料を噴射し、
    上記後段噴射は、複数回の燃料噴射を含む多段噴射であって、燃料が着火する時点において上記径方向の中央部の燃料濃度が該径方向の周辺部の燃料濃度よりも濃くなるように、燃料を噴射する直噴ガソリンエンジンの制御装置。
  2. 請求項1に記載の直噴ガソリンエンジンの制御装置において、
    上記インジェクタは、上記噴口の有効断面積を調整可能に構成されており、
    上記後段噴射は、上記噴口の有効断面積が上記前段噴射に比べて小さい複数回の燃料噴射を含む直噴ガソリンエンジンの制御装置。
  3. 請求項1又は2に記載の直噴ガソリンエンジンの制御装置において、
    上記後段噴射は、第1噴射群と、該第1噴射群と比べて上記噴口の有効断面積が相対的に小さく及び/又は噴射間隔が相対的に小さい第2噴射群とを含む直噴ガソリンエンジンの制御装置。
  4. 請求項1乃至3の何れか1つに記載の直噴ガソリンエンジンの制御装置において、
    上記前段噴射及び上記後段噴射が行われる運転領域においては、上記気筒内にEGRガスが還流されている直噴ガソリンエンジンの制御装置。
  5. 請求項1乃至4の何れか1つに記載の直噴ガソリンエンジンの制御装置において、
    上記前段噴射及び上記後段噴射による燃料は、該後段噴射が完了した後に着火する直噴ガソリンエンジンの制御装置。
  6. 請求項1乃至5の何れか1つに記載の直噴ガソリンエンジンの制御装置において、
    上記インジェクタは、上記噴口が形成されたノズル本体と、該噴口を開閉する弁体とを有し、該弁体のリフト量に応じて該噴口の有効断面積が変化するように構成されている直噴ガソリンエンジンの制御装置。
  7. 気筒内に設けられたピストンを有するエンジン本体と、
    少なくともガソリンを含む燃料を上記気筒内に噴口を介して噴射するインジェクタと、
    上記インジェクタの噴射態様を制御する制御部とを備え、
    上記インジェクタは、上記噴口の有効断面積を調整可能に構成されており、
    上記制御部は、上記エンジン本体のエンジン負荷が所定の高負荷であって且つ該エンジン本体の回転数が所定の低回転の運転領域において、圧縮行程中期以前に行われる前段噴射と、該前段噴射の後に行われる後段噴射とを上記インジェクタに行わせ、
    上記後段噴射は、上記前段噴射に比べて上記噴口の有効断面積が相対的に小さい複数回の燃料噴射を含む直噴ガソリンエンジンの制御装置。
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