JP2015139420A - 化学物質検出方法 - Google Patents

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仁 村岡
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健 下野
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健治 永井
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Masateru Taniguchi
正輝 谷口
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Abstract

【課題】 化学物質を高感度かつリアルタイムな検出を小型で簡単な構成で実現すること。
【解決手段】 化学物質受容体102と、Gタンパク質103と、アデニル酸シクラーゼ104と、cAMPが結合した時に形状変化を引き起こす特性を有するcAMP結合型タンパク質700と、微小貫通孔107を備え、化学物質105が化学物質受容体102に結合することにより産生されるcAMPとcAMP結合型タンパク質との複合体108が微小貫通孔107に送られ、cAMPが微小貫通孔107を通過するときに、微小貫通孔107の溶液抵抗の変化により微小貫通孔107の出入り口の間に流れる電流が変化する。この電流を検出することにより、化学物質105を高感度に検出することが可能となる。
【選択図】図2

Description

本発明は高感度かつリアルタイムで化学物質検出する簡便な方法を提供することに関するものである。
高感度でかつ特異性の高い化学物質センサを作成するためには、生体に存在する化学物質受容体を利用するのが効率的な方法である。生体由来の受容体を利用した化学物質検出方法としては、目的の受容体と関連して動作する膜タンパク質を分子生物学的手法によって細胞に発現させ、受容体と膜タンパク質との間に発生する内因性シグナルパスウエーを利用して、化学物質を検出するというものがあった(たとえば、非特許文献1)。
図1に示すように、生体の細胞膜201には、(1)化学物質受容体(レセプター)102、細胞内側(図1では脂質二重膜101の下側)に(2)Gタンパク質103、(3)アデニル酸シクラーゼ104が存在する。例えば、神経伝達物質などの化学物質105が、化学物質受容体102の細胞外側(図1では細胞膜201の上側)に結合すると、化学物質受容体102の近傍にあるGタンパク質103が活性化する。Gタンパク質103が活性化すると、その近傍に存在するアデニル酸シクラーゼ104を活性化させる。アデニル酸シクラーゼが活性化すると、細胞内に存在するアデノシン三リン酸(ATP)を脱リン酸化し、環状アデノシン一リン酸(cAMP)を産生する。
非特許文献1では、cAMPと特異的に結合し、ホタル由来の発光するタンパク質であるルシフェラーゼを改変して作成されたcAMP結合型発光タンパク質202を予め細胞内に発現させておき、さらに基質であるルシフェリン203を与えておくと、化学物質105が化学物質受容体102に結合したことによって産生されるcAMPが、cAMP結合型発光タンパク質202の形状変化を引き起こし、ルシフェリン203と結合して発光する。この現象を利用すれば、化学物質受容体102に結合する前記化学物質105の結合量を、cAMP結合型発光タンパク質202の光量変化として検出可能であることが開示されている。
また、同様の技術をさらに進化させた技術として、cAMP結合型発光タンパク質と蛍光タンパク質が隣接する融合タンパク質を用いて生物発光共鳴エネルギー移動(BRET)現象を利用し発光の効率を飛躍的に上昇させる技術が開示されている(非特許文献2)。
Fan, F. et al., Novel Genetically Encoded Biosensors Using Firefly Luciferase. ACS Chem. Biol., 3, 346−51 (2008) Kenta S. et al., Luminescent proteins for high−speed single−cell and whole−body imaging. Nature Communication., 3, no.1262. (2012)
従来の方法では、目的の化学物質を高感度、かつ、高精度に検出できず、かつ、小型で簡便な構成で実現することができなかった。
本発明の一態様は、化学物質を検知または定量する方法であって、脂質二重膜と前記脂質二重膜の裏側に微小貫通孔を有しており、前記脂質二重膜には、化学物質受容体と、Gタンパク質と、アデニル酸シクラーゼとを具備しており、前記脂質二重膜は、裏側にATPおよびcAMPが結合した時に形状変化を引き起こす特性を有するcAMP結合型タンパク質を有しており、前記方法は、検知または定量される化学物質を前記脂質二重膜の表側からさらに供給し、前記化学物質受容体が前記Gタンパク質と前記アデニル酸シクラーゼを活性化させ、前記ATPが脱リン酸化してcAMPに変化する工程、前記cAMPとcAMP結合型タンパク質が複合体を形成する工程、前記微小貫通孔に前記cAMP結合型タンパク質とcAMP結合型タンパク質にcAMPが結合した前記複合体とを輸送する工程、前記微小貫通孔に前記cAMP結合型タンパク質あるいはcAMP結合型タンパク質にcAMPが結合した前記複合体が通過するときに、前記微小貫通孔における溶液抵抗の変化に伴う貫通孔出入り口間の電流の大きさによって、cAMP結合型タンパク質にcAMPが結合した前記複合体を検出する工程、cAMP結合型タンパク質にcAMPが結合した前記複合体の濃度変化に基づいて前記化学物質を検知または定量する工程を有する、化学物質検出方法である。
また、本発明の他の一態様は、化学物質を検知または定量する方法であって、脂質二重膜と前記脂質二重膜の裏側に微小貫通孔を有しており、前記脂質二重膜には、化学物質受容体と、Gタンパク質と、アデニル酸シクラーゼとを具備しており、前記脂質二重膜は、裏側にATPおよびcAMPが結合した時に形状変化を引き起こす特性を有するcAMP結合型タンパク質を有しており、前記方法は、検知または定量される化学物質を前記脂質二重膜の表側からさらに供給し、前記化学物質受容体が前記Gタンパク質と前記アデニル酸シクラーゼを活性化させ、前記ATPが脱リン酸化してcAMPに変化する工程、前記cAMPとcAMP結合型タンパク質が複合体を形成する工程、前記微小貫通孔に前記cAMP結合型タンパク質とcAMP結合型タンパク質にcAMPが結合した前記複合体とを輸送する工程、前記微小貫通孔に前記cAMP結合型タンパク質とcAMP結合型タンパク質にcAMPが結合した前記複合体とが通過するときに、前記微小貫通孔で計測される溶液抵抗の変化の大きさによって、前記cAMP結合型タンパク質とcAMP結合型タンパク質にcAMPが結合した前記複合体とを区別して測定する工程、前記cAMP結合型タンパク質およびcAMP結合型タンパク質にcAMPが結合した前記複合体の濃度変化に基づいて前記化学物質を検知または定量する工程を有する、化学物質検出方法である。
前記微小貫通孔が、直径10ナノメートル以上のサイズを有しても良い。
前記cAMP結合型タンパク質が、nano−Lantern(cAMP)であっても良い。
前記化学物質受容体が、Gタンパク質を活性化するGタンパク質共役受容体(GPCR)であっても良い。
前記化学物質受容体が、ホルモン受容体、神経伝達物質受容体、味覚受容体、嗅覚受容体またはフェロモン受容体であっても良い。
前記Gタンパク質が、Gsタンパク質であっても良い。
前記Gタンパク質が、Gsタンパク質のαサブユニットであっても良い。
本発明の実施形態の化学物質検出方法によれば、目的の化学物質を高感度、かつ、高精度に検出するだけでなく、小型で簡便な構成で実現することができる。
従来の化学物質検出方法の概念図 本発明の実施の形態1における化学物質検出方法の構成図 本発明の実施の形態1における化学物質検出デバイスの構成図 (a)〜(c)は、本発明の実施の形態1における、化学物質の存在における微小貫通孔における溶液抵抗の変化に伴う電流の変化を示すグラフおよびその解析結果を示す図 本発明の実施の形態2における化学物質検出方法の構成図 (a)〜(d)は、本発明の実施の形態2における、化学物質の存在における微小貫通孔における溶液抵抗の変化に伴う電流の変化を示すグラフとその解析結果を示す図 nano−Lantern(cAMP)を示す図
まず、本発明者らの着眼点について説明する。
参考文献1(未公開の特願2013−141711)には、小型で化学物質を検出する方法として、微小間隙で計測されるトンネル電流の大きさによって化学物質の計測を行う方法が開示されている。その方法では、化学物質受容体と、Gタンパク質と、アデニル酸シクラーゼとを具備した脂質二重膜と脂質二重膜の裏側にATPを有してかつ微小間隙を有し、検知される化学物質を脂質二重膜の表側から供給し、化学物質受容体がGタンパク質とアデニル酸シクラーゼを活性化させることでATPが脱リン酸化したcAMPを微小間隙に輸送してその微小間隙で計測されるトンネル電流の大きさによって、cAMPを検出してひいてはその濃度変化に基づいて化学物質を検知または定量する方法である。また、同参考文献1では微小間隙だけではなくナノポアでのトンネル電流測定方法も開示されている。
非特許文献1ならびに非特許文献2に開示されている化学物質検出方法は、cAMP結合型発光タンパク質から発生される微弱な光量を検出する必要があり、冷却CCDなど大型の超高感度検出計が必要となる。また、S/Nを向上させるためには迷光の除去などが必要となり、装置が大型かつ複雑になってしまうという課題を有していた。
また、参考文献1の方法は上記の課題を解決する高感度かつリアルタイムで検出する方法のものであるが、原理上ナノギャップ以外を通過する物質が大半を占める中でギャップ間を偶然通過する物質を検出する方法であるため溶液内の物質検出における確実性を確保できない場合がある。ナノギャップの代わりにナノポアを用いる方法では、上記の参考文献1ではそのサイズが具体的に示されていないが、cAMPのサイズとの関係上1nm程度という非常に微細なポア形成が必要なうえ、トンネル電流を計測する構造として、ポアを横断する方向にシリコン基板の両端からさらに一対の電極をパターニングする必要があり、作製が非常に困難である。
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
(実施の形態1)
図2は、本発明の実施の形態1における化学物質検出方法の構成図である。図2において、図1と同じ構成要素については同じ符号を用い、説明を省略する。
図2において、脂質二重膜101は人工的に脂質から構成されたものが脂質保持層106に保持されている。化学物質受容体102、Gタンパク質103、および、アデニル酸シクラーゼ104が発現している細胞の細胞膜201を、脂質二重膜101へ融合させることによって、化学物質受容体102、Gタンパク質103、および、アデニル酸シクラーゼ104が脂質二重膜101に保持されている。脂質保持層106に保持されている脂質二重膜101の下側に微小貫通孔107が設置されており、脂質二重膜101と微小貫通孔107の間には電解液が満たされている。微小貫通孔107を縦断する方向(図2に示す微小貫通孔の上下方向)に流れる電流を測定する。脂質二重膜101と微小貫通孔107間のチャンバー内にはあらかじめcAMP結合型タンパク質が保持されている。
cAMP結合型タンパク質は既存の種々のものでよいがcAMPが結合した時に形状変化を引き起こす特性を有するものを用いる。たとえば非特許文献2に開示されている、nano−Lantern(cAMP)を用いることができる(図7に図示)。nano−Lantern(cAMP)は化学発光タンパク質と蛍光タンパク質をハイブリッド化した、改変型ウミシイタケルシフェラーゼ(改変RLuc)とVenusとを融合した構造をしており、改変RLucはあらかじめN末端側とC末端側に分割されており、その間にcAMP受容体の基質ペプチド結合ドメイン(cAMP−BD)で接続している構成をしている。
nano−Lantern(cAMP)はcAMPと結合することで、化学発光タンパク質の分割されていた部分である、改変RLuc(N末端側)702と改変RLuc(C末端側)703がコンパクトな構造になり、cAMP結合型タンパク質にcAMPが結合した複合体108を形成し、その結果、タンパク質全体としてかさ高さが小さくなる特性を持っている。RLuc、VenusおよびcAMP−BDの分子量はそれぞれ約37kDa、26kDa、17kDaであり、cAMPの分子量が329であることから、cAMPと比較するとかなり大きいサイズと見積もることができる。以降の実験はcAMP結合型タンパク質700としてnano−Lantern(cAMP)を用いて行った。
かかる構成によれば、化学物質105が化学物質受容体102に結合することによって産生されたAMPが脱リン酸化してcAMPが産生され、産生されたcAMPはcAMP結合型タンパク質700と結合し、cAMP結合型タンパク質にcAMPが結合した複合体108を形成する。微小貫通孔107は、cAMP結合型タンパク質にcAMPが結合した複合体108が通過できる程度の大きさを持っており、cAMP結合型タンパク質にcAMPが結合した複合体108が微小貫通孔107の出入り口の方向に電界が印加されている。微小貫通孔107に電界を印加し、かつイオン電流を測定するために、微小貫通孔107の上下方向に1対の電極を設けてその間に電界を印加するとともに計測器が接続されている。cAMP結合型タンパク質にcAMPが結合した複合体108が微小貫通孔107近傍に送られ、微小貫通孔107を通過する。そのとき、微小貫通孔107における溶液抵抗の変化に伴う電流の大きさが変化する。その結果、微小貫通孔107の上下方向に設けた1対の電極においてcAMPの変化量が測定されることとなり、簡単な構成で化学物質105を検出することができる。
なお、本実施の形態において、脂質二重膜101として人工的に脂質より構成したが、生体の細胞膜の一部を切り取って脂質保持層106に取り付けても良い。
なお、本実施の形態において、化学物質受容体102、Gタンパク質103、および、アデニル酸シクラーゼ104はそれらが発現している細胞の細胞膜201を脂質二重膜101に融合させたが、人工的に合成して脂質二重膜101に保持させても良い。
なお、本実施の形態において、cAMP結合型タンパク質にcAMPが結合した複合体108が微小貫通孔107を通過するように電界を印加したが、圧力や重力、磁力になどによって、cAMP結合型タンパク質にcAMPが結合した複合体108が微小貫通孔107を通過するようにしても良い。
(実施の形態2)
図5は、本発明の実施の形態2の化学物質検出方法の構成図である。図2との相違点は、微小貫通孔107によって検出する物質がcAMP結合型タンパク質にcAMPが結合した複合体108だけでなくcAMP結合型タンパク質700も対象とし、cAMP結合型タンパク質にcAMPが結合した複合体108とcAMP結合型タンパク質700が微小貫通孔107を通過するときに、微小貫通孔107を縦断する方向に流れている電流の変化を区別して検出するところである。
図5において、脂質二重膜101と微小貫通孔107の間には電解液が満たされており、その中にATPも混入されている。化学物質105が化学物質受容体102に結合すると、図2で説明したと同様のシグナルパスウエーが活性化され、ATPの脱リン酸化によってcAMPが産生される。cAMP結合型タンパク質700およびcAMP結合型タンパク質にcAMPが結合した複合体108が微小貫通孔107を通過するように電界が印加されており、微小貫通孔107を縦断する方向(図2に示す微小貫通孔107の上下方向)に流れる電流を測定するために、微小貫通孔107の上下方向に1対の電極を設けてその間に電界を印加するとともに計測器が接続されている(実施の形態2の構成)。
かかる構成によれば、微小貫通孔107近傍に送られたcAMP結合型タンパク質700およびcAMP結合型タンパク質にcAMPが結合した複合体108が微小貫通孔107を通過するとき、微小貫通孔107を縦断する方向に流れる電流が検出される。このとき、cAMP結合型タンパク質700およびcAMP結合型タンパク質にcAMPが結合した複合体108の間で検出される電流の大きさが異なるため、それぞれを区別して測定される。その結果、cAMP結合型タンパク質700およびcAMP結合型タンパク質にcAMPが結合した複合体108の変化量が測定されることとなり、簡単な構成で化学物質105を検出することができる。
なお、本実施の形態において、cAMP結合型タンパク質700およびcAMP結合型タンパク質にcAMPが結合した複合体108が微小貫通孔107を通過するように電界を印加したが、圧力や重力、磁力になどによって、cAMP結合型タンパク質700およびcAMP結合型タンパク質にcAMPが結合した複合体108が微小貫通孔107を通過するようにしても良い。
次に、本発明の実施例1について具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
(化学物質受容体発現細胞の作製とプロテオリポソームの作製)
化学物質受容体、Gタンパク質を株化細胞の細胞膜表面(脂質二重膜)に共発現させる方法については、参考文献1などに詳細に開示されている。ここでは、参考文献1と同様に化学物質受容体としてβ1アドレナリン受容体を、Gタンパク質としてGsαタンパク質を発現させた。それぞれの膜タンパク質をコードするcDNAを増幅し、それをクローニングする。そして、それぞれの膜タンパク質をコードするcDNAを組み込んだ発現プラスミドを調製した。次に、2種類の発現プラスミドをベクターとして株化細胞(HEK293)内へ導入することにより、株化細胞表面の脂質二重膜に、2種類の膜タンパク質を共発現させた。
株化細胞の1つであるHEK293細胞に、発現プラスミド2種類を導入し、化学物質受容体、およびGタンパク質を共発現させた。また、アデニル酸シクラーゼはHEK293細胞が初めから保有しているため、必要な膜タンパク質群はHEK293細胞の細胞膜上に上記の方法で用意される。人工的に作製した脂質二重膜へHEK293細胞の細胞膜の一部を融合することによって、膜タンパク質群を脂質二重膜上に移植する。そのために、HEK293細胞よりプロテオリポソームを作製した。膜タンパク質を発現させたHEK293細胞を、超音波破砕装置によって破砕した。5秒破砕、5秒休止の繰り返しを10分間氷上で行ったところ、直径50〜150nmの大きさのプロテオリポソームが得られた。このプロテオリポソームは、HEK293細胞の細胞膜の一部から構成されるリポソームで、HEK293細胞の細胞膜に存在していた膜タンパク質を有するリポソームである。
(化学物質検出デバイスの作製)
図3に本発明の実施の形態である化学物質検出デバイスの構成図を示す。化学物質検出デバイスは3つのチャンバーから構成されており、第一のチャンバー111と第二のチャンバー112の間に脂質保持層106が設置されている。また、第二のチャンバー112と第三のチャンバー113の間に微小貫通孔107が設置されている。第一のチャンバー111と、第二のチャンバー112、および、第三のチャンバー113には電解液114が満たされている。
微小貫通孔107の上下に設置されている第二のチャンバー112と第三のチャンバー113には、電界印加および電流測定用の銀/塩化銀電極121が備え付けられており、微小間隙107を上下に通過するように電界を与えることができる。銀/塩化銀電極121を含めた計測部122は微小な抵抗変化を計測できる回路であれば特に問わないが、今回は非反転増幅回路にて構成する。
この電界によって、あらかじめ第二のチャンバー112内に保持したcAMP結合型タンパク質700に脂質二重膜101で産生されたcAMPが結合した複合体108を微小貫通孔107に輸送することができる。微小貫通孔107の溶液抵抗に伴う電流は、計測部122によって計測することができる。よって、cAMP結合型タンパク質にcAMPが結合した複合体108が微小貫通孔107を通過すると、電流の大きさの変化として検出することが可能である。
脂質保持層106は、厚さ0.1mmのテフロン(登録商標)の板を用い、人工の脂質二重膜を形成するために中央に直径0.1mmの孔があけられている。脂質二重膜101は、脂質溶液を用いて直径0.1mmの孔にハケ塗り法により形成する。脂質溶液は、デカンを溶媒とし、ホスファチジルセリンとホスファチジルコリンが1:1になるように混合させ、脂質濃度が20mg/mlになるように作製したものを用いる。
HEK293細胞を破砕して作製されたプロテオリポソームを、脂質保持層106に作製した脂質二重膜101近傍に近づけて接触させると、プロテオリポソームと脂質二重膜101とが融合する。このような融合を繰り返し行うことによって、化学物質受容体、Gタンパク質、そして、アデニル酸シクラーゼといった膜タンパク質群が保持された脂質二重膜101が形成される。
微小貫通孔107eは以下のようにして作製する。窒化シリコン35nm膜付のシリコンウエハ上に,両面アライナーによって下穴用の描画をフォトリソによって行う。この穴をKOH水溶液によってエッチングを行い、これにより,10um四方のSiN膜のみを残した構造体を作製する。ここにZEPを塗布し,上から40nm径の穴を電子線描画し,その形状をRIEによって貫通させることで作製する。
(化学物質の検出)
図4(a)にcAMP結合型タンパク質にcAMPが結合した複合体108が微小貫通孔107を通過したときに検出される電流の波形を示す。ここでは、cAMP結合型タンパク質にcAMPが結合した複合体108を混入した電解液を第二のチャンバー112と第三のチャンバー113の両方での電極間に流して得られた電流の波形を示している。cAMP結合型タンパク質にcAMPが結合した複合体108が微小貫通孔107を通過すると、パルス状の波形が出現した。
化学物質が投与されると、脂質二重膜に存在する膜タンパク質群でcAMPが産生される。そのcAMPがあらかじめ第二のチャンバー112内に保持したcAMP結合型タンパク質700と結合し、cAMP結合型タンパク質にcAMPが結合した複合体108を形成する。
微小貫通孔107を通過すると、パルス状の電流波形が検出される。微小貫通孔107はcAMP結合型タンパク質にcAMPが結合した複合体108の大きさとほぼ同じ大きさで設計されているため、cAMP結合型タンパク質にcAMPが結合した複合体108が1分子ずつしか通過できない。そのため、cAMP結合型タンパク質にcAMPが結合した複合体108が1分子ずつ微小貫通孔107を通過したときに、1つのパルス状の電流波形が発生すると考えられる。よって、パルス状の電流波形の頻度を検出することによって、産生されたcAMPを検知また定量することができる。
図4(b)には、化学物質(イソプロテレノール)が投与される前の電流に見られるパルス波形の頻度を示している。縦軸に頻度、横軸にパルス波形の大きさを示している。図4(c)には、化学物質(イソプロテレノール)が投与された後の電流に見られるパルス波形の頻度を示している。化学物質が投与された結果、cAMPが多く産生され、あらかじめ保持したcAMP結合型タンパク質と結合し、cAMP結合型タンパク質にcAMPが結合した複合体108を形成してその結果、cAMP結合型タンパク質にcAMPが結合した複合体108が微小貫通孔107を通過したときに発生するパルス状の波形の頻度が増加する。電流に現れるパルス状の波形の頻度について、化学物質投与前(図4(b))と投与後(図4(c))を比較することにより、投与された化学物質の検出と定量が可能である。
次に、本発明の実施例2について具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。なお、化学物質受容体発現細胞の作製、プロテオリポソームの作製、および、化学物質検出デバイスの作製については実施例1と同じ要領で作製した。
(化学物質の検出)
図6(b)および(b)に、cAMP結合型タンパク質700およびcAMP結合型タンパク質にcAMPが結合した複合体108が微小貫通孔107を通過したときに検出される電流の波形を示す。図6(b)では、cAMP結合型タンパク質700だけを混入した電解液を流して得られた電流の波形を示している。一方、図6(b)では、cAMP結合型タンパク質にcAMPが結合した複合体108だけを混入した電解液を流して得られた電流の波形を示している。いずれの場合も、パルス状の波形を観察することができた。図6(b)と図6(b)で観察されたパルス状の波形の大きさを比較すると、cAMP結合型タンパク質700由来の波形の方が、cAMP結合型タンパク質にcAMPが結合した複合体108由来の波形よりも大きくなることがわかる。
このことから、電流に見られるパルス状の波形の大きさによって、cAMP結合型タンパク質にcAMPが結合した複合体108由来の波形か、cAMP結合型タンパク質700由来の波形かを区別できる。
化学物質が投与されると、脂質二重膜に存在する膜タンパク質群でATPが脱リン酸化してcAMPが産生される。もともと存在するcAMP結合型タンパク質700およびcAMP結合型タンパク質に産生されたcAMPが結合した複合体108が微小貫通孔107を通過すると、パルス状の電流波形が検出される。図6(b)および(b)で示したとおり、cAMP結合型タンパク質700およびcAMP結合型タンパク質にcAMPが結合した複合体108が通過したときに発生するパルス状の電流波形の大きさは、通過する物体の大きさと微小貫通孔107との大きさの関係と関連がある。これは、cAMP結合型タンパク質700にcAMPが結合することでタンパク質全体のかさ高さが小さくなり、その結果微小貫通孔107の溶液抵抗の増加度合いが小さくなることから電流の減少度合いが小さくなっていることを示唆している。
このため、cAMP結合型タンパク質700の通過とcAMP結合型タンパク質にcAMPが結合した複合体108の通過を区別してその頻度を検出することが可能である。
図6(c)には、化学物質が投与される前の電流に見られるパルス波形の頻度を示している。縦軸に頻度、横軸にパルス波形の大きさを示す。図4(d)には、化学物質が投与された後の電流に見られるパルス波形の頻度を示している。化学物質が投与された結果、cAMPが産生され、その結果cAMP結合型タンパク質700と結合し、cAMP結合型タンパク質にcAMPが結合した複合体108を形成する。cAMP結合型タンパク質にcAMPが結合した複合体108が微小貫通孔107を通過したときに発生するパルス状の波形の頻度が増加する。一方、結合前のcAMP結合型タンパク質700が微小貫通孔107を通過したときに発生するパルス状の波形の頻度は多少減少するが、十分量のcAMP結合型タンパク質700が存在することからさほど変化が見られない。よって、電流に現れるcAMP結合型タンパク質にcAMPが結合した複合体108由来およびcAMP結合型タンパク質由来のパルス状の波形の頻度を区別して検出することによって、より正確に化学物質投与前(図6(c))と投与後(図6(d))のcAMPの変化を検出することが可能となり、投与された化学物質のより正確な検出と定量ができる。
以上のように、化学物質が化学物質受容体に結合すると、Gタンパク質およびアデニル酸シクラーゼが活性し、ATPが脱リン酸化してcAMPが産生される。その結果cAMP結合型タンパク質700と結合し、cAMP結合型タンパク質にcAMPが結合した複合体108を形成する。cAMP結合型タンパク質700とcAMP結合型タンパク質にcAMPが結合した複合体108は微小貫通孔107へ輸送され、微小貫通孔107を通過する。このとき、微小貫通孔107で計測されていたトンネル電流で発生するパルス状の波形を大きさで区別することによって、正確にcAMPの変化を検出でき、化学物質の検出と定量が可能となる。
本発明にかかる化学物質検出方法は、簡便な構成で高感度な検出能力を有し、環境ホルモンなどの化学物質センサ等として有用である。また薬品スクリーニング等の用途にも応用できる。
101 脂質二重膜
102 化学物質受容体
103 Gタンパク質
104 アデニル酸シクラーゼ
105 化学物質
106 脂質膜保持層
107 微小貫通孔
108 cAMP結合型タンパク質にcAMPが結合した複合体
111 第一のチャンバー
112 第二のチャンバー
113 第三のチャンバー
121 銀/塩化銀電極
122 計測部
201 細胞膜
202 cAMP結合型発光タンパク質
203 ルシフェリン
700 cAMP結合型タンパク質
701 蛍光タンパク質
702 改変RLuc(N末端側)
703 改変RLuc(C末端側)

Claims (14)

  1. 化学物質を検知または定量する方法であって、
    脂質二重膜と前記脂質二重膜の裏側に微小貫通孔を有しており、
    前記脂質二重膜には、化学物質受容体と、Gタンパク質と、アデニル酸シクラーゼとを具備しており、
    前記脂質二重膜は、裏側にATPおよびcAMPが結合した時に形状変化を引き起こす特性を有するcAMP結合型タンパク質を有しており、
    前記方法は、
    検知または定量される化学物質を前記脂質二重膜の表側からさらに供給し、前記化学物質受容体が前記Gタンパク質と前記アデニル酸シクラーゼを活性化させ、前記ATPが脱リン酸化してcAMPに変化する工程、
    前記cAMPとcAMP結合型タンパク質が複合体を形成する工程、
    前記微小貫通孔に前記cAMP結合型タンパク質とcAMP結合型タンパク質にcAMPが結合した前記複合体とを輸送する工程、
    前記微小貫通孔に前記cAMP結合型タンパク質あるいはcAMP結合型タンパク質にcAMPが結合した前記複合体が通過するときに、前記微小貫通孔における溶液抵抗の変化に伴う貫通孔出入り口間の電流の大きさによって、cAMP結合型タンパク質にcAMPが結合した前記複合体を検出する工程、および
    cAMP結合型タンパク質にcAMPが結合した前記複合体の濃度変化に基づいて前記化学物質を検知または定量する工程を有する、化学物質検出方法。
  2. 前記微小貫通孔が、直径10ナノメートル以上のサイズを有する、請求項1に記載の化学物質検出方法。
  3. 前記cAMP結合型タンパク質が、nano−Lantern(cAMP)である、請求項1に記載の化学物質検出方法。
  4. 前記化学物質受容体が、Gタンパク質を活性化するGタンパク質共役受容体(GPCR)である、請求項1に記載の化学物質検出方法。
  5. 前記化学物質受容体が、ホルモン受容体、神経伝達物質受容体、味覚受容体、嗅覚受容体またはフェロモン受容体である、請求項4に記載の化学物質検出方法。
  6. 前記Gタンパク質が、Gsタンパク質である、請求項1に記載の化学物質検出方法。
  7. 前記Gタンパク質が、Gsタンパク質のαサブユニットである、請求項6に記載の化学物質検出方法。
  8. 化学物質を検知または定量する方法であって、
    脂質二重膜と前記脂質二重膜の裏側に微小貫通孔を有しており、
    前記脂質二重膜には、化学物質受容体と、Gタンパク質と、アデニル酸シクラーゼとを具備しており、
    前記脂質二重膜は、裏側にATPおよびcAMPが結合した時に形状変化を引き起こす特性を有するcAMP結合型タンパク質を有しており、
    前記方法は、
    検知または定量される化学物質を前記脂質二重膜の表側からさらに供給し、前記化学物質受容体が前記Gタンパク質と前記アデニル酸シクラーゼを活性化させ、前記ATPが脱リン酸化してcAMPに変化する工程、
    前記cAMPと前記cAMP結合型タンパク質が複合体を形成する工程、
    前記微小貫通孔に前記cAMP結合型タンパク質とcAMP結合型タンパク質にcAMPが結合した前記複合体とを輸送する工程、
    前記微小貫通孔に前記cAMP結合型タンパク質とcAMP結合型タンパク質にcAMPが結合した前記複合体とが通過するときに、前記微小貫通孔で計測される溶液抵抗の変化の大きさによって、前記cAMP結合型タンパク質とcAMP結合型タンパク質にcAMPが結合した前記複合体とを区別して測定する工程、および
    前記cAMP結合型タンパク質およびcAMP結合型タンパク質にcAMPが結合した前記複合体との濃度変化に基づいて前記化学物質を検知または定量する工程
    を有する、化学物質検出方法。
  9. 前記微小貫通孔が、直径10ナノメートル以上のサイズを有する、請求項8に記載の化学物質検出方法。
  10. 前記cAMP結合型タンパク質がnano−Lantern(cAMP)である、請求項8に記載の化学物質検出方法。
  11. 前記化学物質受容体が、Gタンパク質を活性化するGタンパク質共役受容体(GPCR)である、請求項8に記載の化学物質検出方法。
  12. 前記化学物質受容体が、ホルモン受容体、神経伝達物質受容体、味覚受容体、嗅覚受容体またはフェロモン受容体である、請求項11に記載の化学物質検出方法。
  13. 前記Gタンパク質が、Gsタンパク質である、請求項8に記載の化学物質検出方法。
  14. 前記Gタンパク質が、Gsタンパク質のαサブユニットである、請求項13に記載の化学物質検出方法。
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