JP2015136752A - 硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性を発揮する表面被覆切削工具 - Google Patents
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Abstract
Description
ただ、前記従来のTi−Al系の複合窒化物層を被覆形成した被覆工具は、比較的耐摩耗性にすぐれるものの、高速断続切削条件で用いた場合にチッピング等の異常損耗を発生しやすいことから、硬質被覆層の改善についての種々の提案がなされている。
一方、従前より汎用されていた物理蒸着法による硬質被覆層の蒸着形成においては、Alの含有割合xを0.6以上にすることは困難で、より一段と切削性能を向上させることが望まれている。
例えば、特許文献4には、TiCl4、AlCl3、NH3の混合反応ガス中で、650〜900℃の温度範囲において化学蒸着を行うことにより、Alの含有割合xの値が0.65〜0.95である(Ti1−xAlx)N層を蒸着形成できることが記載されているが、この文献では、この(Ti1−xAlx)N層の上にさらにAl2O3層を被覆し、これによって断熱効果を高めることを目的とするものであるから、xの値を0.65〜0.95まで高めた(Ti1−xAlx)N層の形成によって、切削性能へ如何なる影響があるかという点についてまでの開示はない。
しかし、前記特許文献1に記載されている被覆工具は、(Ti1−xAlx)N層からなる硬質被覆層が物理蒸着法で蒸着形成され、硬質被覆層中にSiの窒化物相を介在させることにより、fcc構造を有し柱状に成長するTiAlN層内にナノ結晶が分散し、このナノ結晶が格子歪を発生し分散強化機構により、TiAlNの硬度を上昇させるものであるが、このナノ結晶の介在による作用で脆くなり、靭性が低下し、例えば、合金鋼の高速断続切削に供した場合には、耐チッピング性が十分であるとは言えないという課題があった。
また、特許文献2および特許文献3に記載されている被覆工具は、それぞれ耐欠損性および耐摩耗性・耐酸化特性を向上させることを意図しているが、高速断続切削等の衝撃が伴うような切削条件下では、耐チッピング性が十分でないという課題があった。
一方、前記特許文献4に記載されている化学蒸着法で蒸着形成した(Ti1−xAlx)N層については、Al含有量xを高めることができ、また、立方晶構造を形成させることができることから、所定の硬さを有し耐摩耗性にすぐれた硬質被覆層が得られるものの、基体との密着強度は十分でなく、また、靭性に劣るという課題があった。
さらに、前記特許文献5に記載されている被覆工具は、所定の硬さを有し耐摩耗性にはすぐれるものの、靭性に劣ることから、合金鋼の高速断続切削加工等に供した場合には、チッピング、欠損、剥離等の異常損傷が発生しやすく、満足できる切削性能を発揮するとは言えないという課題があった。
そこで、本発明者らは、硬質被覆層を構成する(Ti1−xAlx)(CyN1−y)層について鋭意研究したところ、硬質被覆層にSiを含有させ(Ti1−x―yAlxSiy)(CzN1−z)層をNaCl型の面心立方構造を有する結晶相を少なくとも含み、かつ、アニール処理を施すことにより、結晶粒の周囲にSiの窒化物、炭化物、炭窒化物のうちの1種または2種以上からなる微細結晶粒子または微細アモルファス相が介在してナノコンポジット構造を形成することを見出した。
すなわち、(Ti1−x―yAlxSiy)(CzN1−z)のNaCl型の面心立方構造を有する結晶相を少なくとも含む硬質被覆物層の結晶粒子間にSiの窒化物、炭化物、炭窒化物のうちの1種または2種以上からなる微細結晶粒子または微細アモルファス相が三次元的に混じり合う複合膜(ナノコンポジット被膜)を硬質被覆層として用いることにより、(Ti1−x―yAlxSiy)(CzN1−z)結晶の周囲をSiの窒化物、炭化物、炭窒化物のうちの1種または2種以上からなる微細結晶粒子または微細アモルファス相が取り囲むナノコンポジット構造を有し、その結果、転位の発生・移動が阻止されるだけでなく、粒界滑りも発生しにくいため、耐塑性変形性が向上し超高硬度が得られるという新規な知見を得た。
また、前記複合窒化物または複合炭窒化物層内の結晶粒を皮膜断面側から観察した場合に、複合窒化物または複合炭窒化物層内のNaCl型の面心立方構造を有するTiとAlとSiの複合窒化物または複合炭窒化物の結晶粒について工具基体と平行な面内の粒子幅をw、工具基体と垂直な方向の粒子長さをlとし、前記wとlとの比l/wを各結晶粒のアスペクト比aとし、さらに、個々の結晶粒について求めたアスペクト比aの平均値を平均アスペクト比A、個々の結晶粒について求めた粒子幅wの平均値を平均粒子幅Wとした場合、平均粒子幅Wが0.05〜1.0μm、平均アスペクト比Aが5以下であり、
前記NaCl型の面心立方構造を有する結晶粒の周囲にSiの窒化物、炭化物、炭窒化物から選ばれる1種または2種以上の結晶粒またはアモルファス相が存在していることにより、NaCl型の面心立方構造を有するTiとAlとSiの複合窒化物または複合炭窒化物の結晶粒に衝撃が加わったとしても、粒界滑りも発生しにくいため、従来の硬質被覆層に比して、硬さ、耐塑性変形性、靭性が高まり、その結果、耐チッピング性、耐欠損性が向上し、長期に亘ってすぐれた耐摩耗性を発揮する。
(a)成膜工程:
工具基体表面に、反応ガス組成(容量%)を、TiCl4:3.0〜4.0%、Al(CH3)3:0〜3.0%、AlCl3:6.0〜8.0%、SiCl4:2.5〜3.5%、NH3:7.0〜10.0%、N2:11.0〜15.0%、C2H4:0.0〜0.5%、H2:残、反応雰囲気圧力:2.0〜5.0kPa、反応雰囲気温度:700〜900℃として、所定時間、熱CVD法を行うことにより、所定の目標層厚の(Ti1−x―yAlxSiy)(CzN1−z)層を成膜する。
(b)アニール工程:
前記(a)の成膜工程後に、アニール温度:800〜900℃の条件からなる、アニール工程を所定時間行う。
「(1) 炭化タングステン基超硬合金、炭窒化チタン基サーメットまたは立方晶窒化ホウ素基超高圧焼結体のいずれかで構成された工具基体の表面に、硬質被覆層を設けた表面被覆切削工具において、
前記硬質被覆層は、化学蒸着法により成膜された平均層厚1〜20μmのTiとAlとSiの複合窒化物または複合炭窒化物層を少なくとも含み、組成式:(Ti1−x―yAlxSiy)(CzN1−z)で表した場合、複合窒化物または複合炭窒化物層のAlのTiとAlとSiの合量に占める平均含有割合xavgおよび複合窒化物または複合炭窒化物層のSiのTiとAlとSiの合量に占める平均含有割合yavgならびに複合窒化物または複合炭窒化物層のCのCとNの合量に占める平均含有割合zavg(但し、xavg、yavg、zavgはいずれも原子比)が、それぞれ、0.60≦xavg≦0.88、0.10≦yavg≦0.25、0≦zavg≦0.005、xavg+yavg≦0.98を満足し、
前記複合窒化物または複合炭窒化物層は、NaCl型の面心立方構造を有するTiとAlとSiの複合窒化物または複合炭窒化物の相を少なくとも含み、
また、前記複合窒化物または複合炭窒化物層内の結晶粒を皮膜断面側から観察した場合に、複合窒化物または複合炭窒化物層内のNaCl型の面心立方構造を有するTiとAlとSiの複合窒化物または複合炭窒化物の結晶粒について工具基体と平行な面内の粒子幅をw、工具基体と垂直な方向の粒子長さをlとし、前記wとlとの比l/wを各結晶粒のアスペクト比aとし、さらに、個々の結晶粒について求めたアスペクト比aの平均値を平均アスペクト比A、個々の結晶粒について求めた粒子幅wの平均値を平均粒子幅Wとした場合、平均粒子幅Wが0.05〜1.0μm、平均アスペクト比Aが5以下であり、
前記NaCl型の面心立方構造を有する結晶粒の周囲にSiの窒化物、炭化物、炭窒化物から選ばれる1種または2種以上の結晶粒またはアモルファス相が存在していることを特徴とする表面被覆切削工具。
(2) 前記NaCl型の面心立方構造を有する結晶粒の周囲に存在するSiの窒化物、炭化物、炭窒化物からなる結晶粒またはアモルファス相の平均サイズが5〜50nmであることを特徴とする(1)に記載の表面被覆切削工具。
(3) 前記複合窒化物または複合炭窒化物層は、TiとAlとSiのうち少なくともAlを含み、C,Nのうち少なくともNを含む化合物でウルツ鉱型の六方晶構造を有する結晶粒が存在し、皮膜断面側から測定した場合に、該ウルツ鉱型の六方晶構造を有する結晶粒の存在する面積割合が30面積%以下であることを特徴とする(1)または(2)に記載の表面被覆切削工具。
(4) 前記炭化タングステン基超硬合金、炭窒化チタン基サーメットまたは立方晶窒化ホウ素基超高圧焼結体のいずれかで構成された工具基体と前記TiとAlとSiの複合窒化物または複合炭窒化物層との間にTiの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層、炭酸化物層および炭窒酸化物層のうちの1層または2層以上からなり、かつ、0.1〜20μmの合計平均層厚を有するTi化合物層からなる下部層が存在することを特徴とする(1)乃至(3)のいずれかに記載の表面被覆切削工具。
(5) 前記複合窒化物または複合炭窒化物層の上部に、少なくとも1〜25μmの平均層厚を有する酸化アルミニウム層を含む上部層が存在することを特徴とする(1)乃至(4)のいずれかに記載の表面被覆切削工具。
(6) 前記複合窒化物または複合炭窒化物層は、少なくとも、トリメチルアルミニウムを反応ガス成分として含有する化学蒸着法により成膜されたものであることを特徴とする(1)乃至(5)のいずれかに記載の表面被覆切削工具。」
に特徴を有するものである。
なお、本発明における硬質被覆層は、前述のような複合窒化物または複合炭窒化物層をその本質的構成とするが、さらに、従来から知られている下部層や上部層などと併用することにより、複合窒化物または複合炭窒化物層が奏する効果と相俟って、一層すぐれた特性を創出することができることは言うまでもない。
本発明の硬質被覆層は、化学蒸着された組成式:(Ti1−x―yAlxSiy)(CzN1−z)で表されるTiとAlとSiの複合窒化物または複合炭窒化物層を少なくとも含む。この複合窒化物または複合炭窒化物層は、硬さが高く、すぐれた耐摩耗性を有するが、特に平均層厚が1〜20μmのとき、その効果が際立って発揮される。その理由は、平均層厚が1μm未満では、層厚が薄いため長期の使用に亘っての耐摩耗性を十分確保することができず、一方、その平均層厚が20μmを越えると、TiとAlとSiの複合窒化物または複合炭窒化物層の結晶粒が粗大化し易くなり、チッピングを発生しやすくなる。したがって、その平均層厚を1〜20μmと定めた。
本発明の硬質被覆層を構成する複合窒化物または複合炭窒化物層は、組成式:(Ti1−x―yAlxSiy)(CzN1−z)で表した場合、AlのTiとAlとSiの合量に占める平均含有割合xavgおよびSiのTiとAlとSiの合量に占める平均含有割合yavgおよびCのCとNの合量に占める平均含有割合zavg(但し、xavg、yavg、zavgはいずれも原子比)が、それぞれ、0.60≦xavg≦0.88、0.10≦yavg≦0.25、0≦zavg≦0.005、xavg+yavg≦0.98を満足するように制御する。
その理由は、Alの平均含有割合xavgが0.60未満であると、TiとAlとSiの複合窒化物または複合炭窒化物層の硬さに劣るため、合金鋼等の高速断続切削に供した場合には、耐摩耗性が十分でない。一方、Alの平均含有割合xavgが0.88を超えると、相対的にTiの平均含有割合が減少するため、NaCl型の面心立方構造を維持できず、そのため高温硬さが低下し、耐摩耗性が低下する。したがって、Alの平均含有割合xavgは、0.60≦xavg≦0.88と定めた。
また、Siの平均含有割合yavgが0.10未満であると、本発明で期待する粒界における微細Si化合物粒子が十分にできず、一方、0.25を超えると粒界にSi化合物が粗大化して偏析してしまいTiとAlとSiの複合窒化物または複合炭窒化物層の靭性が低下し、合金鋼等の高速断続切削に供した場合には、耐摩耗性が十分でない。したがって、Siの平均含有割合yavgは、0.10≦yavg≦0.25と定めた。
また、xavg+yavgの値は、0.98を超えると、相対的なTi平均含有割合の減少にり、靭性が低下し、チッピング、欠損を発生しやすくなることから、xavg+yavgの値は、0.98以下とすることが必要である。
また、複合窒化物または複合炭窒化物層に含まれるCの平均含有割合(原子比)zavgは、0≦zavg≦0.005の範囲の微量であるとき、複合窒化物または複合炭窒化物層と工具基体もしくは下部層との密着性が向上し、かつ、潤滑性が向上することによって切削時の衝撃を緩和し、結果として複合窒化物または複合炭窒化物層の耐欠損性および耐チッピング性が向上する。一方、Cの平均含有割合zavgが0≦zavg≦0.005の範囲を逸脱すると、複合窒化物または複合炭窒化物層の靭性が低下するため耐欠損性および耐チッピング性が逆に低下するため好ましくない。したがって、Cの平均含有割合zavgは、0≦zavg≦0.005と定めた。
前記複合窒化物または複合炭窒化物層内の結晶粒を皮膜断面側から観察した場合に、複合窒化物または複合炭窒化物層内のNaCl型の面心立方構造を有するTiとAlとSiの複合窒化物または複合炭窒化物の結晶粒について工具基体と平行な面内の粒子幅をw、工具基体と垂直な方向の粒子長さをlとし、前記wとlとの比l/wを各結晶粒のアスペクト比aとし、さらに、個々の結晶粒について求めたアスペクト比aの平均値を平均アスペクト比A、個々の結晶粒について求めた粒子幅wの平均値を平均粒子幅Wとした場合、平均粒子幅Wが0.05〜1.0μm、平均アスペクト比Aが5以下を満足するように制御する。
平均アスペクト比が5以下の時、複合窒化物または複合炭窒化物層を構成する結晶粒は粒状組織となり、すぐれた耐摩耗性を示す。一方、平均アスペクト比Aが5を超えると結晶粒が柱状晶になり靭性が低下し、かつ、結晶相内に本発明の特徴であるナノコンポジット構造を形成しにくくなるため好ましくない。また、平均粒子幅Wが0.05μm未満であると耐摩耗性が低下し、1.0μmを超えると靭性が低下する。したがって、複合窒化物または複合炭窒化物層を構成する結晶粒の平均粒子幅Wは、0.05〜1.0μmと定めた。
前記複合窒化物または複合炭窒化物層中のNaCl型の面心立方構造を有する結晶粒の周囲に存在するSiの窒化物、炭化物、炭窒化物からなる結晶粒またはアモルファス相は平均サイズ(「平均サイズ」については後記参照)が5〜50nmのとき、ナノコンポジット構造を形成する効果により靭性が向上する。一方、平均サイズが5nm未満のとき、上記効果が十分に得られない。また、平均サイズが50nmを超えると靭性が低下する。したがって、Siの窒化物、炭化物、炭窒化物からなる結晶粒またはアモルファス相の平均サイズは、5〜50nmと定めた。
下部層、上部層を設ける場合、前述したような効果を十分に奏するためには、下部層に含まれるTi化合物層の合計平均層厚については、0.1μm以上とすることが好ましく、上部層に含まれる酸化アルミニウム層の平均層厚については1μm以上とすることが好ましい。一方、下部層に含まれるTi化合物層の合計平均層厚が20μmを超えると結晶粒が粗大化し易くなり、チッピングを発生しやすくなる。また、上部層に含まれる酸化アルミニウム層の平均層厚が25μmを超えると結晶粒が粗大化し易くなり、チッピングを発生しやすくなる。
前記複合窒化物または複合炭窒化物層は、NaCl型の面心立方構造を有するTiとAlとSiの複合窒化物または複合炭窒化物の相を少なくとも含み、
また、前記複合窒化物または複合炭窒化物層内の結晶粒を皮膜断面側から観察した場合に、複合窒化物または複合炭窒化物層内のNaCl型の面心立方構造を有するTiとAlとSiの複合窒化物または複合炭窒化物の結晶粒について工具基体と平行な面内の粒子幅をw、工具基体と垂直な方向の粒子長さをlとし、前記wとlとの比l/wを各結晶粒のアスペクト比aとし、さらに、個々の結晶粒について求めたアスペクト比aの平均値を平均アスペクト比A、個々の結晶粒について求めた粒子幅wの平均値を平均粒子幅Wとした場合、平均粒子幅Wが0.05〜1.0μm、平均アスペクト比Aが5以下であり、
前記NaCl型の面心立方構造を有する結晶粒の周囲にSiの窒化物、炭化物、炭窒化物から選ばれる1種または2種以上の結晶粒またはアモルファス相が存在していることにより、硬質被覆層が、所定量のSiを含有することでTiとAlの複合窒化物または複合炭窒化物層に比べを硬さが向上するとともに、(Ti1−x―yAlxSiy)(CzN1−z)結晶粒の周囲に、Siの窒化物、炭化物、炭窒化物から選ばれる1種または2種以上の微細結晶粒またはアモルファス相が存在していることにより、靭性が向上する。その結果、耐チッピング性が向上するという効果が発揮され、従来の硬質被覆層に比して、長期の使用に亘ってすぐれた切削性能を発揮し、被覆工具の長寿命化が達成される。
(a)表4に示される形成条件A〜J、すなわち、反応ガス組成(容量%)を、TiCl4:3.0〜4.0%、Al(CH3)3:0.0〜3.0%、AlCl3:6.0〜8.0%、SiCl4:2.5〜3.5%、NH3:7.0〜10.0%、N2:11.0〜15.0%、C2H4:0.0〜0.5%、H2:残として、反応雰囲気圧力:2.0〜5.0kPa、反応雰囲気温度:750〜900℃として、所定時間、熱CVD法を行うことにより、表6に示される平均粒子幅Wおよび平均アスペクト比Aの粒状組織の(Ti1−x―yAlxSiy)(CzN1−z)層を成膜する(成膜工程)。
(b)前記(a)の成膜工程時に、表4に示されるアニール条件a〜c、すなわち、アニール温度:800〜900℃、アニール時間:30〜120分でアニールする(アニール工程)。
(c)前記(a)の成膜工程後に(b)からなるアニール工程を行うことによって、複合窒化物または複合炭窒化物層がNaCl型の面心立方構造を有するTiとAlとSiの複合窒化物または複合炭窒化物の相を少なくとも含み、NaCl型の面心立方構造を有する結晶粒の周囲にSiの窒化物、炭化物、炭窒化物から選ばれる1種または2種以上の結晶粒またはアモルファス相が存在している(Ti1−x―yAlxSiy)(CzN1−z)層を含む、表6に示される目標層厚を有する硬質被覆層を形成することにより本発明被覆工具1〜15を製造した。
なお、本発明被覆工具6〜13については、表4に示される形成条件で、表5に示される下部層および/または表6に示される上部層を形成した。
なお、本発明被覆工具6〜13と同様に、比較被覆工具6〜13については、表3に示される形成条件で、表5に示される下部層および/または表7に示される上部層を形成した。
参考のため、工具基体Bおよび工具基体Cの表面に、従来の物理蒸着装置を用いて、アークイオンプレーティングにより、参考例の(Ti1−x―yAlxSiy)(CzN1−z)層を目標層厚で蒸着形成することにより、表7に示される参考被覆工具14、15を製造した。
なお、参考例の蒸着に用いたアークイオンプレーティングの条件は、次のとおりである。
(a)前記工具基体BおよびCを、アセトン中で超音波洗浄し、乾燥した状態で、アークイオンプレーティング装置内の回転テーブル上の中心軸から半径方向に所定距離離れた位置に外周部に沿って装着し、また、カソード電極(蒸発源)として、所定組成のTi−Al−Si合金を配置し、
(b)まず、装置内を排気して10−2Pa以下の真空に保持しながら、ヒーターで装置内を500℃に加熱した後、前記回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体に−1000Vの直流バイアス電圧を印加し、かつTi−Al−Si合金からなるカソード電極とアノード電極との間に200Aの電流を流してアーク放電を発生させ、装置内にAlおよびTiおよびSiイオンを発生させ、もって工具基体表面をボンバード洗浄し、
(c)次に、装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入して4Paの反応雰囲気とすると共に、前記回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体に−50Vの直流バイアス電圧を印加し、かつ、前記Ti−Al−Si合金からなるカソード電極(蒸発源)とアノード電極との間に120Aの電流を流してアーク放電を発生させ、前記工具基体の表面に、表7に示される目標組成、目標層厚の(Ti,Al,Si)N層を蒸着形成し、参考被覆工具14、15を製造した。
また、複合窒化物または複合炭窒化物層のAlの平均含有割合xavgおよびSiの平均含有割合yavgについては、電子線マイクロアナライザ(Electron−Probe−Micro−Analyser:EPMA)を用い、表面を研磨した試料において、電子線を試料表面側から照射し、得られた特性X線の解析結果の10点平均からAlの平均含有割合xavgをおよびSiの平均含有割合yavg求めた。Cの平均含有割合zavgについては、二次イオン質量分析(Secondary−Ion−Mass−Spectroscopy:SIMS)により求めた。イオンビームを試料表面側から70μm×70μmの範囲に照射し、スパッタリング作用によって放出された成分について深さ方向の濃度測定を行った。Cの平均含有割合zavgはTiとAlとSiの複合窒化物または複合炭窒化物層についての深さ方向の平均値を示す。
さらに、TEM(倍率50000〜200000倍)を用いて、複合窒化物または複合炭窒化物層の微小領域の観察を複数視野の1〜5μm平方(工具種別により最適な観察範囲を選定)に亘って行い、エネルギー分散型X線分光法(EDS)を用いて、断面側から面分析を行ったところ、前記NaCl型の面心立方構造を有する結晶粒の周囲に、Siの窒化物、炭化物、炭窒化物から選ばれる1種または2種以上の微細結晶粒またはアモルファス相が存在してナノコンポジット構造を構成していることを確認した。また、上記面分析において、Siの窒化物、炭化物、炭窒化物から選ばれる1種または2種以上の微細結晶粒またはアモルファス相のサイズを画像処理により算出し面積を求めて、同一面積の円で近似した場合の直径を算出し、個々の微細結晶粒またはアモルファス相について平均することで求めた平均直径をSiの窒化物、炭化物、炭窒化物から選ばれる1種または2種以上の微細結晶粒またはアモルファス相の平均サイズとした。
切削試験: 乾式高速正面フライス、センターカット切削加工、
被削材: JIS・SCM440幅100mm、長さ400mmのブロック材、
回転速度: 890 min−1、
切削速度: 350 m/min、
切り込み: 1.0 mm、
一刃送り量: 0.15 mm/刃、
切削時間: 8分、
(a)表4に示される形成条件A〜J、すなわち、反応ガス組成(容量%)を、TiCl4:3.0〜4.0%、Al(CH3)3:0.0〜5.0%、AlCl3:1.0〜2.0%、SiCl4:4.0〜5.0%、NH3:7.0〜10.0%、N2:6.0〜10.0%、C2H4:0.0〜1.0%、H2:残として、反応雰囲気圧力:2.0〜5.0kPa、反応雰囲気温度:750〜900℃として、所定時間、熱CVD法を行うことにより、表6に示される平均粒子幅Wおよび平均アスペクト比Aの粒状組織の(Ti1−x―yAlxSiy)(CzN1−z)層を成膜する(成膜工程)。
(b)前記(a)の成膜工程時に、表4に示されるアニール条件a〜c、すなわち、アニール温度:800〜900℃、アニール時間:30〜120分でアニールする(アニール工程)。
(c)前記(a)の成膜工程後に(b)からなるアニール工程を行うことによって、表6に示される目標層厚を有する立方晶結晶と六方晶結晶とが存在する粒状組織の(Ti1−x―yAlxSiy)(CzN1−z)層からなる硬質被覆層を形成することにより本発明被覆工具16〜30を製造した。
なお、本発明被覆工具19〜28については、表3に示される形成条件で、表11に示される下部層および/または表12に示される上部層を形成した。
なお、本発明被覆工具19〜28と同様に、比較被覆工具19〜28については、表3に示される形成条件で、表11に示される下部層および/または表13に示される上部層を形成した。
なお、アークイオンプレーティングの条件は、実施例1に示される条件と同様の条件を用いた。
また、前記本発明被覆工具16〜30、比較被覆工具16〜28および参考被覆工具29、30の硬質被覆層について、実施例1に示される方法と同様の方法を用いて、Alの平均含有割合xavg、Siの平均含有割合yavg、Cの平均含有割合zavg、粒状組織(Ti1−x―yAlxSiy)(CzN1−z)層を構成する結晶粒の平均粒子幅W、平均アスペクト比A、結晶粒全体に対するウルツ鉱型の六方晶構造の結晶相の占める面積割合を求めた。その結果を、表12および表13に示す。
(切削条件1)
工具基体:炭化タングステン基超硬合金、炭窒化チタン基サーメット、
切削試験: 炭素鋼の乾式高速断続切削試験、
被削材: JIS・SCM435の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度: 370m/min、
切り込み: 1.2mm、
送り: 0.2mm/rev、
切削時間:5分、
(通常の切削速度は、220m/min)、
(切削条件2)
切削試験: 鋳鉄の湿式高速断続切削試験、
被削材: JIS・FCD450の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度: 360m/min、
切り込み: 1.0mm、
送り: 0.2mm/rev、
切削時間: 5分、
(通常の切削速度は、200m/min)、
表14に、前記切削試験の結果を示す。
なお、本発明被覆工具34〜38については、表3に示される形成条件で、表16に示すような下部層および/または表17に示すような上部層を形成した。
なお、本発明被覆工具34〜38と同様に、比較被覆工具34〜38については、表3に示される形成条件で、表16に示すような下部層および/または表18に示すような上部層を形成した。
なお、アークイオンプレーティングの条件は、実施例1に示される条件と同様の条件を用い、前記工具基体の表面に、表18に示される目標組成、目標層厚の(Ti,Al,Si)N層を蒸着形成し、参考被覆工具39,40を製造した。
工具基体:立方晶窒化ホウ素基超高圧焼結体、
切削試験: 浸炭焼入れ合金鋼の乾式高速断続切削加工、
被削材: JIS・SCr420(硬さ:HRC62)の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度: 230 m/min、
切り込み: 0.12m、
送り: 0.1m/rev、
切削時間: 4分、
表19に、前記切削試験の結果を示す。
Claims (6)
- 炭化タングステン基超硬合金、炭窒化チタン基サーメットまたは立方晶窒化ホウ素基超高圧焼結体のいずれかで構成された工具基体の表面に、硬質被覆層を設けた表面被覆切削工具において、
前記硬質被覆層は、化学蒸着法により成膜された平均層厚1〜20μmのTiとAlとSiの複合窒化物または複合炭窒化物層を少なくとも含み、組成式:(Ti1−x―yAlxSiy)(CzN1−z)で表した場合、複合窒化物または複合炭窒化物層のAlのTiとAlとSiの合量に占める平均含有割合xavgおよび複合窒化物または複合炭窒化物層のSiのTiとAlとSiの合量に占める平均含有割合yavgならびに複合窒化物または複合炭窒化物層のCのCとNの合量に占める平均含有割合zavg(但し、xavg、yavg、zavgはいずれも原子比)が、それぞれ、0.60≦xavg≦0.88、0.10≦yavg≦0.25、0≦zavg≦0.005、xavg+yavg≦0.98を満足し、
前記複合窒化物または複合炭窒化物層は、NaCl型の面心立方構造を有するTiとAlとSiの複合窒化物または複合炭窒化物の相を少なくとも含み、
また、前記複合窒化物または複合炭窒化物層内の結晶粒を皮膜断面側から観察した場合に、複合窒化物または複合炭窒化物層内のNaCl型の面心立方構造を有するTiとAlとSiの複合窒化物または複合炭窒化物の結晶粒について工具基体と平行な面内の粒子幅をw、工具基体と垂直な方向の粒子長さをlとし、前記wとlとの比l/wを各結晶粒のアスペクト比aとし、さらに、個々の結晶粒について求めたアスペクト比aの平均値を平均アスペクト比A、個々の結晶粒について求めた粒子幅wの平均値を平均粒子幅Wとした場合、平均粒子幅Wが0.05〜1.0μm、平均アスペクト比Aが5以下であり、
前記NaCl型の面心立方構造を有する結晶粒の周囲にSiの窒化物、炭化物、炭窒化物から選ばれる1種または2種以上の結晶粒またはアモルファス相が存在していることを特徴とする表面被覆切削工具。 - 前記NaCl型の面心立方構造を有する結晶粒の周囲に存在するSiの窒化物、炭化物、炭窒化物からなる結晶粒またはアモルファス相の平均サイズが5〜50nmであることを特徴とする請求項1に記載の表面被覆切削工具。
- 前記複合窒化物または複合炭窒化物層は、TiとAlとSiのうち少なくともAlを含み、C,Nのうち少なくともNを含む化合物でウルツ鉱型の六方晶構造を有する結晶粒が存在し、皮膜断面側から測定した場合に、該ウルツ鉱型の六方晶構造を有する結晶粒の存在する面積割合が30面積%以下であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の表面被覆切削工具。
- 前記炭化タングステン基超硬合金、炭窒化チタン基サーメットまたは立方晶窒化ホウ素基超高圧焼結体のいずれかで構成された工具基体と前記TiとAlとSiの複合窒化物または複合炭窒化物層との間にTiの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層、炭酸化物層および炭窒酸化物層のうちの1層または2層以上からなり、かつ、0.1〜20μmの合計平均層厚を有するTi化合物層からなる下部層が存在することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の表面被覆切削工具。
- 前記複合窒化物または複合炭窒化物層の上部に、少なくとも1〜25μmの平均層厚を有する酸化アルミニウム層を含む上部層が存在することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の表面被覆切削工具。
- 前記複合窒化物または複合炭窒化物層は、少なくとも、トリメチルアルミニウムを反応ガス成分として含有する化学蒸着法により成膜されたものであることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の表面被覆切削工具。
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