JP2015133920A - コザック配列を有するベクター及びそれを導入した細胞 - Google Patents

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Abstract

【課題】遺伝子組み換えを用いたタンパク質生産技術に関し、コザック配列の好適な組み合わせにより抗体の組み換え体を効率よく生産するH鎖遺伝子とL鎖遺伝子の発現ベクターおよび細胞等を提供する。【解決手段】特定のコザック配列がウサギ由来の抗体H鎖遺伝子に隣接して含まれるベクターと、特定のコザック配列がウサギ由来の抗体L鎖遺伝子に隣接して含まれるベクターとをCOS−1細胞に導入し、それを培養し、産生された抗体を回収する。【選択図】図1

Description

本発明は、タンパク質発現ベクター及びそれを導入した細胞等に関するものである。
遺伝子組み換え技術の進歩により、動物細胞を用いてタンパク質を製造することが可能になった。細胞内におけるタンパク質の合成には、転写と翻訳のステップがある。転写とは、タンパク質をコードする遺伝子を基にしてmRNAが作られる工程である。そして翻訳とは、このmRNAを基にしてタンパク質が組み上げられる工程である。
タンパク質の生合成における翻訳の工程は、mRNAにリボソームが結合することから始まる。mRNAに結合したリボソームは、塩基配列を読み取りながらその上を動き、開始コドンを探す。そして開始コドンをみつけると、その場所を起点としてタンパク質の合成を開始する。
タンパク質の合成はこの開始コドンを起点として始まるが、その周辺にはよく保存された配列が存在する。この配列はコザック配列と呼ばれており、タンパク質の翻訳を効率的に行う上で必須なことが示されている(非特許文献1)。ただしこの配列は厳密な共通配列ではなく、これと一致しない配列も存在する。
脊椎動物におけるコザック配列は、gccgccaccaugg(配列番号1)またはgccgccgccaugg(配列番号2)である(非特許文献2)。その中でも特に重要な役割を果たすのが、開始コドン(aug)の3塩基上流にあるプリン塩基(aまたはg)と開始コドン(aug)の次にあるgだと考えられている。
動物細胞を用いて効率的にタンパク質を製造するためには、目的タンパク質の遺伝子配列の上流にこのコザック配列を付加することが必要である。しかし開始コドン(aug)の3塩基上流に位置するプリン塩基は、aとgのどちらを用いた場合に、即ちコザック配列として配列番号1又は2のどちらを用いた場合に、より高い効率で翻訳を行うのか明確に定まっていない。そのため動物細胞を用いてタンパク質製造を行う場合、どちらのコザック配列がその生産に適しているか個別に調べる必要がある。このコザック配列の最適化を行わないと、タンパク質の翻訳効率が落ちてその生産性が低下する原因となりうる。
Kozak,M. Nature.308,241(1984) Kozak,M. Nucleic, Acids, Res.15,20,8125(1987)
抗体分子は、重鎖(H鎖)と軽鎖(L鎖)の2種類のポリペプチドが組み合わさって出来ている。そのためこの組み替え体を作る場合、H鎖とL鎖に対応する2種類の遺伝子配列が必要となる。抗体の製造は主に、この2種類の遺伝子を動物細胞へ導入して行われている。そのためその生産性を上げるためにはやはり、それぞれの配列にコザック配列を付加する必要がある。しかしここで問題になるのは、開始コドン(aug)の3塩基上流をaとgのどちらにするかという点である。特に抗体分子はH鎖とL鎖の2種類の遺伝子を同時に発現させる必要があるため、考えられるコザック配列の組み合わせは4通りある(1:H鎖kozak a×L鎖kozak a,2:H鎖kozak a×L鎖kozak g,3:H鎖kozak g×L鎖kozak a,4:H鎖kozak g×L鎖kozak g)。しかしこの中でどの組み合わせが最も高い生産量を示すかは明らかになっておらず、効率よく抗体を製造する上で大きな課題となっていた。
本発明者らは上記課題に関し鋭意検討した結果、本発明に到達した。即ち本発明は以下のとおりである。
(1)配列番号1又は2に記載のコザック配列と、ウサギ由来の抗体遺伝子とを含むことを特徴とするベクター。
(2)コザック配列がウサギ由来の抗体遺伝子に隣接している(1)に記載のベクター。
(3)コザック配列が配列番号1である(1)又は(2)に記載のベクター。
(4)抗体がH鎖及び/又はL鎖である(1)〜(3)いずれかに記載のベクター。
(5)抗体がプロゲステロンに対する抗体である(1)〜(4)いずれかに記載のベクター。
(6)(1)〜(4)いずれかに記載のベクターを導入した細胞。
(7)細胞がCOS−1である(6)に記載の細胞。
(8)(6)又は(7)に記載の細胞を培養し、産生された抗体を回収することを特徴とする抗体の製造方法。
(9)(8)に記載の方法により製造される抗体。
以下に本発明を更に詳細に説明する。
本発明に用いられるベクターには特に限定はなく、適応できるベクターは非常に幅広い。具体的には、pBApo−CMV(タカラバイオ社)・pBApo−EF1α(タカラバイオ社)・pHTC(プロメガ社)・pSI(プロメガ社)・pCI(プロメガ社)・pF5A(プロメガ社)・pCAGGS(Niwa, H. Gene, 108, 193(1991))・pEGFP−C1(クロンテック社)・pCMV−HA(クロンテック社)・pTRE−Myc(クロンテック社)・pCEP4(ライフテクノロジーズ社)・pcDNA5(ライフテクノロジーズ社)・pEF1(ライフテクノロジーズ社)などにおいて適応可能である。またこれらのベクター以外でも、動物細胞や無細胞タンパク質翻訳系などにおいて抗体を発現させられるものであれば何でもよく、特にその種類が限定されるわけではない。
本発明において、コザック配列は配列番号1又は2で表わされるものであり、ウサギ由来の抗体遺伝子に隣接していることが好ましい。これはコザック配列がウサギ由来の抗体遺伝子と直接結合していることを意味し、特にコザック配列がウサギ由来の抗体遺伝子の上流に隣接していることが好ましい。
またコザック配列が配列番号1である場合には、高い効率で翻訳が行われ、抗体の生産性が向上するため好ましい。
抗体の態様には特に限定はなく、適応できるフォーマットは非常に幅広い。具体的には、通常のIgG等の抗体ばかりでなく、H鎖とL鎖をリンカーで繋ぎ合わせた一本鎖抗体・H鎖とL鎖のFab領域を入れ替えた抗体・GFPやアルカリホスファターゼなどのタンパク質と抗体とをリンカーで繋ぎ融合させたキメラ抗体・H鎖単独で抗原結合能を有する抗体・L鎖単独で抗原結合能を有する抗体・抗原結合能を有するFab領域を免疫動物と異なる生物種の抗体に移植した抗体などにおいて適応可能である。またこれらの態様以外でも、抗体分子に由来した抗原結合能を有するタンパク質であれば何でもよく、とくにその態様や形態・フォーマットが限定されるわけではない。
抗体がH鎖及びL鎖である場合、コザック配列は1つであってもよいが、H鎖とL鎖のそれぞれに対して1つずつの計2つあるほうが好ましい。このようにコザック配列が2つの場合、それらはH鎖遺伝子とL鎖遺伝子のそれぞれに隣接してることが好ましく、特に上流に隣接していることが好ましい。また2つのコザック配列は、いずれも配列番号1であることが好ましい。
なお抗体としては、何に対する抗体であってもよいが、例えばプロゲステロンに対する抗体を例示することができる。
本発明で使用できる細胞株の種類は非常に幅広い。具体的には、CHO−K1細胞・CHO−DG44細胞・COS−1細胞・COS−7細胞・HEK293細胞・HEK293T細胞などにおいて適応可能であるが、特にCOS−1細胞が好ましい。またこれらの細胞株以外でも、抗体を発現できる能力を有する細胞であれば何でもよく、特にその種類が限定されるわけではない。
そして更にこの方法が適応できるのは、動物細胞のみではない。遺伝情報を基に抗体を作ることが可能なシステムであれば何でもよく、例えば細胞抽出液を利用した無細胞タンパク質翻訳系においても適応可能である。具体的には、TnTシステム(プロメガ社)・Transdirectシステム(島津製作所社)・PUREflexシステム(ジーンフロンティア社)などのシステムにおいて適応可能である。またこれらのシステム以外でも、抗体を作ることができるシステムであれば何でもよく、特にその種類が限定されるわけではない。
本発明によるベクターを導入した細胞を培養し、産生された抗体を回収する方法には特に限定なく、通常の方法により行うことができる。
本発明により、効率よく抗体を製造することが可能となった。特に、H鎖kozak a×L鎖kozak aの組み合わせを用いた時に抗体の生産量が最も高くなることが明らかになった。すなわち本発明の組み合わせでコザック配列を付加することにより、効率よく抗体を製造することが可能になった。
抗体の発現量を示す図である。
以下、ウサギ抗プロゲステロン抗体の実施例を用いて本発明について詳細に説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではない。
(1)ウサギモノクローナル抗体のクローニング
以下の方法により抗プロゲステロンウサギモノクローナル抗体を取得した(特開2013−083448号公報、特開2013−124224号公報、特開2009−240300号公報参照)。まず、プロゲステロンにリンカーを生やしてBSAと結合させた。そしてこのBSA−プロゲステロンを抗原としてウサギに免疫した。その後、免疫を行なったウサギから抗体産生細胞を単離した。そしてこの細胞から抗体遺伝子をクローニングしてモノクローナル抗体を取得した。尚このクローニングの際、H鎖遺伝子・L鎖遺伝子の上流に隣接してそれぞれコザック配列(gccgccaccaugg(配列番号1)またはgccgccgccaugg(配列番号2))を付加し、それを用いて発現ベクターを構築した。このクローニングにより全部で4種類のベクターができるが、以下それぞれHAベクター(H鎖遺伝子にgccgccaccaugg配列(配列番号1)を付加)・HGベクター(H鎖遺伝子にgccgccgccaugg配列(配列番号2)を付加)・LAベクター(L鎖遺伝子にgccgccaccaugg配列(配列番号1)を付加)・LGベクター(L鎖遺伝子にgccgccgccaugg配列(配列番号2)を付加)とする。またこれと同時にコザック配列を付加していないベクターも作製し、実験のコントロールとして用いた(H鎖遺伝子を含むものをHベクター、L鎖遺伝子を含むものをLベクターとする)。
(2)抗体発現ベクターの動物細胞への導入
作製した抗体発現ベクターをCOS−1細胞へ導入した。実験手順は以下の通りである。
まず、10%ウシ血清を含むD−MEM培地(ライフテクノロジーズ社製)にCOS−1細胞を懸濁して6ウェルプレート(グライナー社製)に1.6ml/ウェルずつ播いた。このプレートを37℃・5%CO条件下に置き、プレート一面に細胞が増殖するまで培養を継続した。細胞がプレート一面に増殖したら、使用していた培地を一旦除去した。そしてここへ新たにOpti−MEM培地(ライフテクノロジーズ社製)を1.6ml/ウェルずつ加えた。その後このプレートを37℃・5%CO条件下で3時間静置した。
この3時間の静置が終わる30分前に、以下の溶液を作製した。まず800μlのOpti−MEM培地に80μlのlipofectamine2000(ライフテクノロジーズ社製)を加えてよく混和した。そしてこの溶液にH鎖遺伝子を含むベクターとして133ngのHベクター、HAベクターまたはHGベクターと、L鎖遺伝子を含むベクターとして266ngのLベクター、LAベクターまたはLGベクターを加えてよく混和した。その後このベクターを含む溶液を37℃の条件下で30分間静置した。尚ここでは、Hベクター×Lベクター・HAベクター×LAベクター・HGベクター×LAベクター・HAベクター×LGベクター・HGベクター×LGベクターの5種類の組み合わせでH鎖遺伝子を含むベクターとL鎖遺伝子を含むベクターを加えた溶液を作製した。
Opti−MEM培地へ培地交換を行ってから3時間後、上述のH鎖遺伝子を含むベクターとL鎖遺伝子を含むベクターを混和した溶液をそれぞれ800μl/ウェルずつプレートに添加した。その後このプレートを37℃・5%CO条件下に置き、1週間培養して抗体を発現させた。
(3)抗体発現量の比較
抗体発現ベクターを導入した細胞の培養上清を回収し、その中にある抗体の発現量をELISAで調べた。尚、ELISAの実施手順は以下の通りである。
まずヤギ−抗ウサギ抗体を0.5μg/mlとなるように固相化バッファ(12mM NaCO、38mM NaHCO、pH 9.6)へ溶かした。そしてこれを100μl/ウェルずつELISA用プレート(96ウェル、グライナー社製)に分注した。このプレートを室温で1時間静置した後、洗浄バッファ(1mM Tris−Cl、7.5mM NaCl、0.05% tween20、pH 7.4)で各ウェルを3回洗浄した。その後ブロッキングバッファ(8.1mM NaHPO・12HO、1.5mM KHPO、137mM NaCl、2.7mM KCl、1% スキムミルク、pH7.5)を200μl/ウェルずつ加えて室温で1時間静置し、洗浄バッファで各ウェルを1回洗浄した。このプレートにインキュベーションバッファ(8.1mM NaHPO・12HO、1.5mM KHPO、137mM NaCl、2.7mM KCl、0.1% skim milk、pH7.5)を70μl/ウェルずつ加え、その後、培養上清を30μl/ウェルずつ加えた。次にこのプレートを室温で1時間静置し、洗浄バッファで各ウェルを3回洗浄した。そしてこのプレートにアルカリホスファターゼで標識したヤギ−抗ウサギ抗体を含むインキュベーションバッファを100μl/ウェルずつ加えて室温で1時間静置し、洗浄バッファで各ウェルを3回洗浄した。最後にこのプレートへ100μl/ウェルずつアルカリホスファターゼバッファ(1M ジエタノールアミン、0.5mM MgCl、1mM リン酸4−メチルウンベリフェリル、pH9.8)を加えて30分静置し、蛍光強度を測定して(励起光 360nm/蛍光 465nm)抗体の発現量を調べた。
実験の結果を図1に示す。図1からも明らかなように、抗体遺伝子にコザック配列を付加するとその生産量が大幅に向上することが確認できた。そしてその中でも特に、HAベクターとLAベクターを掛け合わせた場合に抗体の生産量が最も高くなることが明らかになった。
以上の結果から、開始コドンの3塩基上流をaとしたコザック配列、即ち配列番号1のコザック配列を、H鎖遺伝子とL鎖遺伝子の両方の上流に隣接して付加すると、抗体の生産量が最も高くなることが明らかになった。このように本発明を用いることにより、効率よく抗体を製造することが可能になった。

Claims (9)

  1. 配列番号1又は2に記載のコザック配列と、ウサギ由来の抗体遺伝子とを含むことを特徴とするベクター。
  2. コザック配列がウサギ由来の抗体遺伝子に隣接している請求項1に記載のベクター。
  3. コザック配列が配列番号1である請求項1又は2に記載のベクター。
  4. 抗体がH鎖及び/又はL鎖である請求項1〜3いずれかに記載のベクター。
  5. 抗体がプロゲステロンに対する抗体である請求項1〜4いずれかに記載のベクター。
  6. 請求項1〜4いずれかに記載のベクターを導入した細胞。
  7. 細胞がCOS−1である請求項6に記載の細胞。
  8. 請求項6又は7に記載の細胞を培養し、産生された抗体を回収することを特徴とする抗体の製造方法。
  9. 請求項8に記載の方法により製造される抗体。
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