JP2015128385A - いもち病抵抗性を付与する真性抵抗性遺伝子Pita−2及びその対立遺伝子Pi19の利用 - Google Patents

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Abstract

【課題】未だ同定及び単離がされていないいもち病真性抵抗性遺伝子の欠損変異株をスクリーニングし、さらにマップベースクローニング法によりいもち病真性抵抗性遺伝子の配列を同定・単離すること、さらには同定・単離された遺伝子配列を利用した植物のいもち病真性抵抗性の改変方法を提供することを課題とする。
【解決手段】真性抵抗性遺伝子Pi19及びPita-2をコードする塩基配列を同定し、単離したことに基づき、これらの遺伝子を植物へ遺伝子導入することにより本課題が解決する。
【選択図】図4

Description

本発明は、植物における病害抵抗性遺伝子に関する。より具体的に、本発明は、イネ科植物において発生するいもち病に対する真性抵抗性遺伝子に関する。
植物が本来有している病原体に対する抵抗性反応は、基礎的抵抗性、真性抵抗性、及び圃場抵抗性に大きく分けられる(非特許文献1)。基礎的抵抗性は、病原微生物の種類に寄らない病害に対する比較的弱い抵抗性であり、病原菌のありふれた構造、鞭毛タンパク質フラジェリン、キチンやリポ多糖などである病原体由来分子パターン(pathogen-associated molecular patterns; PAMPs)を、対応する受容体が認識することにより誘導される。通常、この基礎的抵抗性により、植物は環境中に存在する多くの病原菌から守られている。
一方で、この基礎的抵抗性による防御をかいくぐって感染する能力を有するようになった病原菌に対しては、植物は、真性抵抗性及び圃場抵抗性を発揮することにより罹病からまぬがれている。真性抵抗性は、少数の主働遺伝子支配による質的な抵抗性と定義されており、例えば1個の真性抵抗性遺伝子(以下、R遺伝子と呼ぶ)によって誘導される過敏感反応に基づく抵抗性である。このような真性抵抗性遺伝子を有する植物は、真性抵抗性遺伝子に対応する病原菌の病原性系統(レース)に対しては、強力な抵抗性を発揮するものの、異なる病原性系統(レース)に対してはほとんど抵抗性を発揮できず、親和性の病原菌が現れることによって数年で効果が失われてしまうことが経験的に知られている。圃場抵抗性は、多数の微動遺伝子支配による量的な抵抗性と定義されており、真性抵抗性が機能しない条件下で観察される病原菌非特異的な比較的弱い抵抗性のことをいう。このように、真性抵抗性は、圃場抵抗性に比べ非常に強力であることから、育種を通じて真性抵抗性遺伝子を有する耐病性のイネ品種が育成されてきた。
真性抵抗性に関与する遺伝子座として、90種類以上が知られており、そのうち、Pid2、Pib、Pita遺伝子など、17個の遺伝子の配列が同定されている(非特許文献2)。このうちPid2遺伝子はreceptor like kinase (RLK)構造を持つタンパク質をコードすることが知られている。一方で、残り16個の遺伝子は、ヌクレオチド結合部位(NBS)や、ロイシンリッチリピート(LRRs)を持つNBS−LRRクラス遺伝子であることが明らかとなっている。しかしながら、これらのドメインを有さない遺伝子については、遺伝子座が大まかに同定されている場合であっても、その遺伝子配列の同定及び単離は依然として困難である。
イネのいもち病と抵抗性育種 p175-186 高坂・山崎編 1980博友社 Wang et al. Plant J 19:55-64, 1999, Hayashi et al., 1998 Phytopathology, 88(8), 822-827 Kiyosawa et al. 1967 Japanese Journal of Breeding, 17, 165-172 Fuse et al. 2001 Plant Biotech. 18, 219-222 Takahashi et al. 2010 BMC Plant Biol. 10:1751
本発明の課題は、未だ同定及び単離がされていないいもち病真性抵抗性遺伝子の欠損変異株をスクリーニングし、さらにマップベースクローニング法によりいもち病真性抵抗性遺伝子の配列を同定・単離すること、さらには同定・単離された遺伝子配列のDNAを利用した植物のいもち病真性抵抗性の改変方法を提供することである。
本発明者らは、上記課題を解決するために、真性抵抗性遺伝子欠損変異体のスクリーニング法において、真性抵抗性遺伝子としてPish及びPi19を有することが知られているイネ品種(日本晴)を親株として用いて、突然変異誘導変異株群を取得した。次に非病原性遺伝子AvrPi19を有するいもち病菌への感染性を利用することにより、突然変異誘導変異株群からPi19遺伝子欠損変異体を取得した。さらに、Pi19遺伝子欠損変異体と、コシヒカリとを交配することによりマップベースクローニングを行い、Pi19遺伝子座が存在する領域を約1.8Mbの範囲にまで絞り込みを行った。次に、日本晴/カサラス染色体断片置換系統群と交配することによりマップベースクローニングを行ってPi19遺伝子座が存在する領域を約34kbの範囲にまで絞り込み、Pi19遺伝子の候補オープンリーディングフレーム(ORF)を同定した。Pi19遺伝子欠損変異株と、日本晴において、この候補ORFの塩基配列をシーケンスしたところ、Pi19遺伝子欠損変異株において、変異が生じていることが確認できた。さらにPi19遺伝子欠損変異株及び真性抵抗性遺伝子を有さない品種に、変異が生じていないPi19候補ORF配列を導入したところ、これらの植物体が、AvrPi19を有するいもち病菌への感染に対して抵抗性を持つことができることを確認した。これらの実験により当該候補ORFが、Pi19遺伝子がコードするタンパク質のコード領域であることが同定された。
さらに、本発明者らは、Pi19遺伝子の遺伝子座の近傍に存在することが報告されているPita-2遺伝子座に着目し(非特許文献3)、Pita-2遺伝子座を有する品種(Reiho、PiNo.4、コシヒカリBL3号、IRBL-ta2、Tadukan)において、Pi19遺伝子配列に対応する塩基配列を解析したところ、驚くべきことにPi19遺伝子配列に相当する染色体領域に、Pi19遺伝子をコードするアミノ酸配列に極めて近いアミノ酸配列をコードする遺伝子が存在することを見いだした。そこで、本発明者らは、この遺伝子配列が、Pita-2遺伝子の候補遺伝子配列であるという仮説を立て、この遺伝子配列を、Pita-2遺伝子を持たないイネ系統に導入し、非病原性遺伝子AvrPita-2を有するいもち病菌に対する抵抗性を調べたところ、このAvrPita-2を有するいもち病菌に対して抵抗性を発揮することが示された。これらの実験結果から、Pi19遺伝子配列に相当する染色体領域に存在する配列が、Pita-2遺伝子の配列であること、さらにPita-2遺伝子が、Pi19遺伝子の対立遺伝子であることを同定した。
したがって、本発明は、以下のものに関する:
[1] 植物において、いもち病に対する真性抵抗性を付与するDNAであって、
(1)配列番号1のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA;
(2)配列番号1の配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA;
(3)配列番号1の配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA;
(4)配列番号2の塩基配列からなるDNA;
(5)配列番号2の塩基配列に相補する配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA;
(6)配列番号2の塩基配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有する塩基配列からなるDNA;
(1’)配列番号3のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA;
(2’)配列番号3において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA;
(3’)配列番号3に対して少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA;
(4’)配列番号4の塩基配列からなるDNA;
(5’)配列番号4の塩基配列に相補的な配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA;及び
(6’)配列番号4の塩基配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有する塩基配列からなるDNA
からなる群から選ばれる、前記DNA。
[2] 前記DNAが、cDNAである、項目1に記載のDNA。
[3] 項目1又は2に記載のDNAを含むベクター。
[4] 項目1の(1)〜(6)からなる群から選ばれるDNAと、項目1の(1’)〜(6’)からなる群から選ばれるDNAとを含む、項目3に記載のベクター。
[5] 項目3に記載のベクターにより遺伝子導入され、Pita-2遺伝子をコードするDNA又はPi19遺伝子をコードするDNAを含む、形質転換細胞。
[6] 項目4に記載のベクターにより遺伝子導入され、Pita-2遺伝子をコードするDNA及びPi19遺伝子をコードするDNAを含む、形質転換細胞。
[7] 項目5又は6の形質転換細胞を含む、形質転換イネ科植物体。
[8] 項目7に記載の形質転換植物体の子孫またはクローンである、形質転換イネ科植物体。
[9] 前記形質転換イネ科植物体が、イネである、項目7又は8に記載の形質転換植物体。
[10] 項目7〜9のいずれか1項に記載の形質転換植物体の繁殖材料。
[11] 項目1の(1)〜(6)からなる群から選ばれるDNAからなる、Pita-2遺伝子、又は項目1の(1’)〜(6’)からなる群から選ばれるDNAからなる、Pi19遺伝子。
[12] 項目11に記載のPita-2遺伝子をホモ接合型で含み、かつ項目11に記載のPi19遺伝子をホモ接合で含む、イネ。
[13] 項目7又は8に記載の形質転換イネ科植物体の製造方法であって、項目3又は4に記載のベクターを、イネ科植物の細胞に導入する工程、及び当該植物細胞から植物体を再生させる工程、を含む前記製造方法。
[14] 前記形質転換イネ科植物体がイネである、項目13に記載の方法。
本発明のPi19遺伝子及びPita-2遺伝子の遺伝子配列が同定及び単離されたことにより、これらの遺伝子の植物体への導入が可能になる。これらの遺伝子を遺伝子導入された植物体は、それぞれAvrPi19及び/又はAvrPita-2を有するいもち病菌に対して抵抗性を有する。
ttm変異体のスクリーニングと相補検定の結果を示す。(A)Pi19遺伝子による抵抗性を喪失した変異体2系統(ttm12とttm17)と、親株である日本晴について、いもち病菌株H06-47-1(AvrPi19)の接種から7日後の葉の写真を示す。(B)ttm12変異体とttm17変異体を交配して得られたF1個体について、いもち病菌株H06-47-1(AvrPi19)の接種から7日後の葉の写真を示す。 複数のいもち病菌((A)H06-74-1(AvrPi19)、(B)Kyu77-07A(AvrPish)、及び(C)Kyu89-246(Avr-Pib))に対する接種検定結果を示す。US1:Pi19遺伝子座を持たないイネ品種、日本晴:日本晴を遺伝背景に持つpish遺伝子欠損変異体、日本晴:日本晴にPib遺伝子をかけ合わせにより導入したBL系統である。エラーバーは標準偏差、はTurkey-Kramer法を用いた多重比較検定(危険率1%)を行った結果、有意差ありと判定されたことを示す。 (A)ttm12変異体とコシヒカリを交配し、その後代を用いたttm12遺伝子座のマッピングにより特定されたttm12変異体の原因遺伝子座の候補領域と、マッピングに利用したマーカーの位置を示す模式図である。(B)ttm12変異体と日本晴/カサラスの染色体断片置換系統群を交配し、その後代を用いたttm12遺伝子座のマッピングにより特定されたttm12変異体の原因遺伝子座の候補領域と、マッピングに利用したマーカーの位置を示す模式図である。(C)ttm12遺伝子座がマッピングされた34kbの領域に、機能未知遺伝子が存在することを示す模式図である。 ttm12変異体およびttm17変異体におけるPi19遺伝子の変異箇所を配列番号3に基づいて示す。ttm12変異体のPi19遺伝子には1アミノ酸置換(グルタミン酸からロイシン)変異があり、ttm17変異体のPi19遺伝子には27アミノ酸の欠損となる変異があった。下線部はリピート配列と考えられる配列を示す。 SalIにより切断されたゲノムDNA断片(配列番号5)を用いて作成されたPi19遺伝子欠損変異体の相補試験用コンストラクトに用いた領域の模式図である。 ゲノムDNA断片(配列番号5)を導入したことによるPi19遺伝子欠損変異体の相補試験結果を示す。上段はいもち病菌(A:H06-47-1(AvrPi19);B:Kyu89-246(AvrPita2))を接種した結果である。下段はPCR産物を電気泳動した結果であり、上のバンドが導入遺伝子PAC−19由来のPi19遺伝子、下のバンドがttm17変異体由来の81塩基対(欠失された27アミノ酸に対応)分短いPi19遺伝子がそれぞれ存在していることを示す。EV(empty vector)は実験コントロールとして使用した、PAC−19を含まないベクターのみを導入したイネ系統である。 日本晴(NB)のPi19遺伝子配列と他の品種が持つPi19遺伝子配列に対応する配列におけるアミノ酸配列を比較した図である。図7Aは、ともにPi19遺伝子座を有し、Pita-2遺伝子座を有さないことが知られている日本晴(配列番号3)とイネ品種カサラス(配列番号6)の比較であり、カサラスは、836位に変異を有する。 日本晴(NB)のPi19遺伝子配列と他の品種が持つPi19遺伝子配列に対応する配列におけるアミノ酸配列を比較した図である。図7Bは、Pi19遺伝子座を有し、Pita-2遺伝子座を有さないことが知られている日本晴(配列番号3)と、Pita-2遺伝子座を有し、Pi19遺伝子座を有さないことが知られているイネ品種PiNo.4(配列番号1)との比較であり、828位〜858位にかけて変異が見られる。 日本晴(NB)のPi19遺伝子配列と他の品種が持つPi19遺伝子配列に対応する配列におけるアミノ酸配列を比較した図である。図7Cは、Pi19遺伝子座を有し、Pita-2遺伝子座を有さないことが知られている日本晴(配列番号3)と、Pi19遺伝子座もPita-2遺伝子座も有さないことが知られているイネ品種US1(配列番号7)との比較であり、遺伝子配列全体にわたり変異が見られる。 Pi19遺伝子とPita-2遺伝子のcDNA導入用コンストラクトと、これらの遺伝子のゲノム配列を比較した模式図を示す。ボックスがエキソンであり、黒色部分がコード領域である。 Pi19遺伝子、Pita-2遺伝子の相補試験結果を示す。(*)は抵抗性を示した個体である。上段はいもち病菌接種結果、下段はPCR産物の電気泳動結果であり、矢印は導入遺伝子特異的なバンド、印のないものは元のイネ品種の持つ内在遺伝子由来のバンドである。(A)は、AvrPi19及びAvrPita-2を有するいもち病菌(H06-47-1)に対して罹病性であるttm12変異株及びUS1が、Pi19及び/又はPita-2遺伝子の導入により抵抗性を獲得できたこと、さらにAvrPi19を有するいもち病菌(CHNOS58-3-1)に対して罹病性であるUS1が、Pi19遺伝子の導入により抵抗性を獲得できたことを示す。 Pi19遺伝子、Pita-2遺伝子の相補試験結果を示す。(*)は抵抗性を示した個体である。上段はいもち病菌接種結果、下段はPCR産物の電気泳動結果であり、矢印は導入遺伝子特異的なバンド、印のないものは元のイネ品種の持つ内在遺伝子由来のバンドである。(B)は、AvrPita-2を有するいもち病菌(Kyu89-246)に対して罹病性であるttm12変異株が、Pita-2遺伝子の導入により抵抗性を獲得でき、かかる抵抗性がPita-2遺伝子特異的であることを示す。 Pi19遺伝子、Pita-2遺伝子の相補試験結果を示す。(*)は抵抗性を示した個体である。上段はいもち病菌接種結果、下段はPCR産物の電気泳動結果であり、矢印は導入遺伝子特異的なバンド、印のないものは元のイネ品種の持つ内在遺伝子由来のバンドである。(C)は、いもち病菌(GFOS 8-1-1)に対して罹病性であるttm12変異株及びUS1が、Pita-2遺伝子やPi19遺伝子の導入では抵抗性を獲得できず、これらの抵抗性がそれぞれAvrPi19遺伝子及びAvrPita-2遺伝子を有するいもち病菌に対してのみ特異的であることを示す。 Pi19遺伝子の予測アミノ酸配列(配列番号3)及びPita-2遺伝子の予測アミノ酸配列(配列番号1)を比較して示す。
イネの主要な病気の一つであるいもち病とは、いもち病菌の感染により引き起こされる病気であり、冷夏長雨の年に発生することが多く、発生した場合には水稲の凶作をもたらす。いもち病に感染すると植物体の一部あるいは全体に、変色や壊死が生じる。いもち病の感染部位により、葉いもち、穂いもち、苗いもち、籾いもち、節いもち、葉節(葉舌)いもちなどと呼ばれることもあるが、これらは感染部位の違いにすぎず、本発明における「いもち病」とは、これら全ての部位に発生するいもち病を含むものとする。
いもち病を引き起こすいもち病菌は、イネ科の植物に感染するカビ(子嚢菌門)であり、その学名は、Magnaporthe griseaであるが、特にイネのいもち病菌についてはMagnaporthe oryzaeと呼ばれることもある。本発明では、いもち病菌は、最も広義で解釈すべきであるが、好ましい態様では、イネいもち病菌のことを指す。いもち病菌は、宿主特異性を有しており、イネの品種に応じて罹病性は大きく異なっている。宿主特異性をもたらす原因として、いもち病菌と植物の各々に存在する2つの遺伝子、すなわち、いもち病菌が有する「非病原性遺伝子(Avr)遺伝子」と植物が有する「真性抵抗性(R)遺伝子」が関与していることが明らかにされている。非病原性遺伝子は、病原性を示すいもち病菌系統(レース)についての研究に基づき、約90種が知られており、本発明では、AvrPi19、AvrPita-2、AvrPishなどの非病原性遺伝子が用いられる。
真性抵抗性遺伝子は、いもち病菌の有する非病原性遺伝子の産物を、病原菌の感染のシグナルとして認識するシステムに関与する遺伝子である。真性抵抗性遺伝子によりコードされたタンパク質が、特定のいもち病菌由来の非病原性遺伝子の産物と相互作用することからシグナル伝達が生じ、それにより植物が有する防御システムを活性化することができると考えられているが、このような作用機序に限定されることを意図するものではない。真性抵抗性は、少数の主導遺伝子により支配されており、通常1の真性抵抗性遺伝子によって誘導される。したがって、ある態様では真性抵抗性遺伝子は、1のタンパク質をコードしている。本発明では、真性抵抗性遺伝子として、Pi19遺伝子、Pita-2遺伝子、Pish遺伝子などが使用される。
Pi19遺伝子を有するイネは、AvrPi19遺伝子を有するいもち病に対して真性抵抗性を発揮する。Pi19遺伝子は、これまでにイネ第12染色体に存在することが知られていたが、その配列については全く知られておらず、遺伝子座が大まかに決定されているにすぎなかった。本発明者らにより、Pi19遺伝子のタンパク質コード領域が、配列番号4の塩基(又はヌクレオチド)配列からなるDNAであることが明らかにされた。さらにこの塩基配列から、Pi19遺伝子が、推定868アミノ酸配列(配列番号3)からなるタンパク質をコードすることが明らかになった。したがって、Pi19遺伝子とは、最も狭義には、配列番号4の塩基配列からなるcDNAを指すが、配列番号3のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするcDNAを指してもよい。さらに、広義には、配列番号3のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードすることが可能な全てのDNAを指し、例えば縮重配列を有するDNA、全てのエキソン配列及び全ての又は一部のイントロン配列からなるDNA、さらにプロモーターや、ターミネーターなどの調節配列を含むDNAを指すこともある。狭義についての記載が発明を限定することを意図するものではなく、Pi19遺伝子の範囲は、最も広義に解するべきであるが、その適切な範囲は、当業者であれば適宜選択することもできる。別の態様では、Pi19遺伝子には、Pi19遺伝子に変異が加わっているものの、Pi19遺伝子と同一の機能、例えばAvrPi19遺伝子を有するいもち病に対して真性抵抗性を付与する能力を保持する変異遺伝子も、Pi19遺伝子に包含してもよい。
Pita-2遺伝子を有するイネは、AvrPita-2遺伝子を有するいもち病に対して真性抵抗性を発揮する。Pita-2遺伝子は、これまでにイネ第12染色体に存在することが知られていたが、その配列については全く知られておらず、遺伝子座が大まかに決定されているにすぎなかった。本発明者らにより、Pita-2遺伝子のタンパク質コード領域が、配列番号2の塩基配列からなるDNAであることが明らかにされた。この配列から、Pita-2遺伝子が、推定864アミノ酸からなる配列(配列番号1)からなるタンパク質をコードすることが明らかにされた。したがって、Pita-2遺伝子とは、最も狭義には、配列番号2の塩基配列からなるcDNAを指すが、配列番号1のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするcDNAを指してもよい。さらに、広義には、配列番号1のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードすることが可能な全てのDNAを指し、例えば縮重配列を有するDNA、全てのエキソン配列及び全て又は1部のイントロン配列からなるDNA、やプロモーターや、ターミネーターなどの調節配列を含むDNAを指すこともある。狭義についての記載が発明を限定することを意図するものではなく、Pita-2遺伝子の範囲は、最も広義に解するべきであるが、その適切な範囲は、当業者であれば適宜選択することもできる。別の態様では、Pita-2遺伝子には、Pita-2遺伝子に変異が加わっているものの、Pita-2遺伝子と同一の機能、例えばAvrPita-2遺伝子を有するいもち病に対して真性抵抗性を付与する能力を保持する変異遺伝子も、Pita-2遺伝子に包含してもよい。
Pi19遺伝子とPita-2遺伝子は98%以上の相同性を示した。興味深いことに、Pi19遺伝子ならびにPita-2遺伝子の予測アミノ酸配列にはRLKやNBS−LRR様の構造は見られず、既知のドメインや構造を見いだすことが出来ない一方で、機能が不明なリピート配列のようなものが見いだせた。また、データベース検索の結果Pi19遺伝子はイネではシングルコピーであり、その相同遺伝子はイネ科植物においてのみ見られる。したがって、Pi19遺伝子、Pita-2遺伝子はイネ科植物が進化の過程で獲得した遺伝子であり、これまで知られている真性抵抗性遺伝子とは異なるいもち病菌側の非病原性因子(エフェクター)の認識機構、および抵抗性シグナル活性化機構の存在が示唆される。
変異遺伝子には、コードするタンパク質が元の遺伝子と同一の機能を有しつつ、元の遺伝子がコードするタンパク質のアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA、や元の遺伝子がコードするタンパク質のアミノ酸配列に対して、少なくとも70%の配列同一性を有するアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNAが含まれる。1の態様では、欠失、置換、若しくは付加されるアミノ酸の残基数は、元の遺伝子の機能が妨げられない範囲であれば任意の数であってよく、例えば50未満、好ましくは30未満、より好ましくは20未満、さらに好ましくは10未満であり、最も好ましくは、1又は数個、すなわち1から9の中から選ばれる整数が任意に選択される。さらにより好ましくは、欠失、置換、若しくは付加されるアミノ酸残基数は、1〜6の中から選ばれ、より好ましくは5以下、4以下、3以下、2以下、又は1である。さらに別の態様では、配列同一性は、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%、及び少なくとも99%からなる群より任意に選択できる。導入した遺伝子と、元々自然界に存在する遺伝子との識別を可能にするため、コード領域又は非コード領域において、タンパク質の機能に与えない範囲で、塩基配列に置換を加えることができる。このような変異を加えておくことで、後代の植物体であっても、本発明に係るPi19遺伝子又はPita-2遺伝子を導入された植物体であることを、PCRやシーケンスを行うことで容易に決定することもできる。タンパク質の機能に影響を与えない観点から、このような塩基配列における置換は、アミノ酸の変異を生じさせない同義置換であることが好ましい。
別の態様では、変異遺伝子には、元の遺伝子のコード領域である塩基配列に相補する配列からなるDNAとストリンジェント条件下でハイブリダイズするDNA、又は元の遺伝子のコード領域である塩基配列に対して少なくとも70%の配列同一性を有する塩基配列からなるDNAが含まれる。ストリンジェント条件下とは、好ましくは中〜高ストリンジェント条件下であり、その条件は当業者であれば任意に選択することができる。高ストリンジェント条件の1の例として、6M尿素、0.4%SDS、0.5×SSCを含む溶液中において、60℃以上の条件が挙げられる。各成分の濃度は、これらの濃度よりも高く設定することができるし、温度についても例えば63℃、65℃、70℃の温度を適宜選択することができる。塩基配列に対する配列同一性は、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%、及び少なくとも99%からなる群より任意に選択できる。
本発明に係るPita-2遺伝子又はPi19遺伝子のDNAは、DNA一本鎖又は二本鎖として存在していてもよいが、保存や取り扱いの観点から、ベクターに導入されることが好ましい。ベクターとしては、市販のプラスミド、ファージ、コスミド、BAC、PACなどが利用でき、当業者であれば、本技術分野で行われる一般的方法を用いて、単離したDNAをこれらのベクターに導入することができる。ベクターの好ましい態様の一例として大腸菌を宿主とするベクターがあり、その場合、大腸菌で増幅を誘導するための「ori」や、形質転換された大腸菌を選抜するため、抗生物質、例えばアンピシリンやテトラサイクリン、カナマイシン、クロラムフェニコール等に対する耐性遺伝子を有することが好ましい。ベクターの好ましい態様の他の例としては植物に遺伝子導入するためのバイナリーベクターがあり、これらはアグロバクテリウムを宿主とするものがさらに好ましい。この態様のベクターは、アグロバクテリウム中での増幅を可能にするための「Ri-ori」や、遺伝子導入のためのボーダー配列を有することが好ましい。2箇所のボーダー配列に挟まれた「T-DNA」の配列には、植物体における発現を促進するためのプロモーターやターミネーター、さらには薬剤耐性遺伝子が存在しており、T-DNA中にPita-2遺伝子やPi19遺伝子のDNAを導入することにより、植物体内における目的遺伝子の発現が可能になる。大腸菌用のベクターの例としては、M13系ベクター、pUC系ベクター、pBR322、pBluescript、pCR-Script、pGEM-T、pDIRECT、アグロバクテリウム用のベクターの例としてはpPZP、pCAMBIA、pBI系ベクターなどが挙げられるがこれらに限定されることを意図するものではない。
本発明に係るPita-2遺伝子及び/又はPi19遺伝子のDNAを含むベクターは、細胞に遺伝子導入される。遺伝子導入とは、外来遺伝子を生物に導入することをいう。遺伝子導入される細胞としては、細菌、酵母、植物細胞、昆虫細胞、動物細胞など任意の細胞が挙げられる。したがって、本発明において形質転換細胞は、細菌、酵母、植物細胞、昆虫細胞、動物細胞など任意の細胞由来であってもよいが、好ましくは植物細胞である。細胞にベクターを遺伝子導入する方法は、細胞の種類に応じて、本技術分野に既知の任意の方法を用いて行われればよい(「形質転換プロトコール<植物編>」編者:田部井豊、発行:(株)化学同人、発行日:2012年9月20日)。遺伝子導入方法として、生物学的、化学的又は物理的手法のいずれを用いてもよい。細菌への遺伝子導入には、コンピテントセルを用いた方法や、電気穿孔法などが用いられる一方で、植物細胞への導入には、ウイルス、アグロバクテリウム、パーティクルガンを用いた方法が主に行われるが、これらの方法に限定されることはない。作成したベクターを細菌、特に大腸菌に遺伝子導入して増幅する観点から、形質転換細胞として、大腸菌細胞が好ましい。さらに別の態様では、Pi19遺伝子及び/又はPita-2遺伝子を有するバイナリーベクターは、植物細胞に遺伝子導入される。形質転換植物細胞としては、イネ科植物の細胞が好ましく、特にイネの細胞が好ましい。本発明の形質転換イネ科植物細胞は、Pita-2遺伝子及び/又はPi19遺伝子を発現していてもよいし、発現せずに単にこれらの遺伝子を有しているだけであってもよい。より好ましい態様では、形質転換イネ科植物細胞は、Pita-2遺伝子及びPi19遺伝子の両方を発現する。
形質転換イネ科植物細胞は、オーキシンやサイトカイニンなどの植物ホルモンを添加した培地で培養することにより、カルスを形成させ、さらに培養を行うことにより、形質転換イネ科植物体を取得することができる。カルスの形成培地や、形質転換イネ科植物体への分化誘導培地については、本技術分野に既知であり、例えば「形質転換プロトコール<植物編>」(編者:田部井豊、発行:(株)化学同人、発行日:2012年9月20日)に開示されている。形質転換イネ科植物体には、形質転換イネ科植物体の子孫も含まれる。このような子孫には、自家交配又は他家交配により得られた種子から発芽した植物体であってもよい。本発明は、形質転換イネ科植物体の繁殖材料にも関しており、繁殖材料として、種子、果実、切穂、塊茎、塊根、株、カルス、プロトプラスト等が挙げられる。
本発明のDNAを有するベクターを用いることによって得られる形質転換イネ科植物体は、遺伝子導入により導入されたPita-2遺伝子及び/又はPi19遺伝子を有する。その形質、すなわちAvrPita-2やAvrPi19を有するいもち病菌に対する抵抗性を調べることで、本発明の形質転換イネ植物体に該当するか判定できることもある。好ましくは、Pita-2遺伝子配列やPi19遺伝子配列から作成されたプライマーなどのマーカーを用いて、本発明の形質転換イネ科植物体に該当するか判定できることもある。より好ましい態様では、本発明の形質転換イネ科植物細胞や形質転換イネ科植物体は、Pita-2遺伝子をホモ接合型で含み、かつPi19遺伝子をホモ接合型で含む。この場合のPita-2遺伝子及びPi19遺伝子は、元々の品種が有する遺伝子であってもよいし、遺伝子導入により導入された遺伝子であってもよいが、いずれか一方は、遺伝子導入により導入された遺伝子である。なぜなら、Pita-2遺伝子と、Pi19遺伝子は、対立遺伝子の関係にあるため、自然界にはホモ接合型でPita-2遺伝子とPi19遺伝子の両方を有する植物体は存在しないからである。また、イネ科植物は自家受粉作物(自殖性作物)であり、流通するイネ科植物の種子は、数世代自家交配が行われて遺伝子が固定されている。したがって、流通しているイネ科植物体の種子、又は圃場に植わっている植物体において、Pita-2遺伝子とPi19遺伝子の両方を有する種子又は植物体があれば、それは、極めて高い確率で、本発明の形質転換イネ科植物細胞の子孫であると同定することができる。
本発明において、Pita-2遺伝子又はPi19遺伝子を導入する植物としては、特に制限はないが、通常、いもち病に罹病性の植物、特にイネ科の植物が挙げられる。イネ科植物の例として、イネ、コムギ、オオムギ、エンバク、トウモロコシ、ハトムギ、イタリアンライグラス、ペレニアルライグラス、チモシー、メドーフェスク、キビ、アワ、サトウキビが挙げられるが、好ましくはイネが用いられる。イネの種類については、特に限定されず、任意の品種が用いられてもよく、例えばインディカ種であっても、ジャポニカ種であってもよいし、インディカ種とジャポニカ種との交配品種・系統や野生イネ、あるいは栽培品種と野生イネの交配・交雑品種であってもよい。
本発明により、Pi19の遺伝子配列及びPita-2の遺伝子配列が特定されたことにより、この配列に基づいて、これらの遺伝子に連鎖する分子マーカーを提供することができる。本発明における「分子マーカー」とは、Pi19遺伝子又はPita-2と遺伝的に連鎖するDNA領域であって、他のDNA領域と識別可能なDNA領域をいう。このような遺伝子配列については、遺伝子の特定された配列情報を元に、当業者であれば適宜決定することが可能である。
本発明の分子マーカーとしては、STS(Sequence Tagged Site)マーカーを挙げることができる。STSマーカーとは、DNA上の配列タグ部位(STS)の多型の有無の判定に利用できるDNA領域をいい、STSとは、DNA上の特定位置に特異的な配列部位をいう。STSの多型は、該特定配列部位を含むDNA領域をPCR法等の核酸増幅法により増幅し、該増幅産物をアガロースまたはポリアクリルアミドゲル電気泳動にかけることにより、バンドの有無や位置の違いとして検出することができる。
本発明の分子マーカーとしてSTSマーカーを用いる場合は、本発明の識別方法を、例えば以下のようにして行うことができる。まず、被検イネおよびいもち病真性抵抗性の形質を有するイネからDNA試料を周知方法によって調製する。次に、調製したDNAを鋳型として、プライマーDNAを用いて核酸増幅反応(例えば、PCR法)を行う。増幅したDNA断片の大きさを、電気泳動等により被検イネといもち病真性抵抗性遺伝子と連鎖するマーカーとの間で比較し、同様の遺伝子型を示す場合には、該被検植物は、いもち病真性抵抗性の形質を有すると判定される。
本発明の識別方法に使用するプライマーDNAは、当業者においては、各種分子マーカーについての配列情報を考慮して、最適なプライマーを適宜設計することが可能である。通常、上記プライマーとは、イネに特異的に存在し、Pita-2遺伝子又はPi19遺伝子と連鎖する塩基配列を挟み込むように設計された、該塩基配列を増幅するための一対のプライマーセットである。このようなプライマーは、配列を決定すれば、自動オリゴヌクレオチド合成機等を利用して作製することができる。また、当業者においては周知の多型検出方法、例えば、上記PCRプライマーを用いた後述のPCR−SSCP法等によっても本発明の方法を実施することが可能である。
さらに本発明は、以下の(a)〜(c)の工程を含む方法であって、分子量または塩基配列が一致するときに、被検植物がいもち病真性抵抗性遺伝子Pi19又はPita-2を有すると判定する方法を提供する。
(a)被検植物からDNA試料を調製する工程
(b)該DNA試料からPi19遺伝子又はPita-2遺伝子の領域を増幅する工程
(c)増幅したDNA断片を検出する工程
DNA試料の調製(抽出)方法としては、当業者においては、公知の方法によって行うことができる。好ましい調製方法として、例えば、CTAB法を用いてDNAを抽出する方法を挙げることができる。また、本発明の識別方法に供される、DNA試料は、特に制限されるものではないが、通常、被検植物であるイネから抽出するゲノムDNAを用いる。また別の態様では、RT−PCRにより生成したcDNAの試料を用いてもよい。これらのDNAの採取源としては特に限定されるものではなく、イネのいずれの組織からも抽出できる。例えば、穂、葉身、葉鞘、根、茎、種子、胚乳部、フスマ、胚等から抽出することができる。
Pi19遺伝子又はPita-2遺伝子の領域は、PCR法を用いて増幅することができる。使用するプライマーは、増幅領域に応じて任意に選択することができる。Pi19遺伝子とPita-2遺伝子で配列が異なる領域に基づきプライマーを設計した場合に、一方の遺伝子のみを増幅するプライマーを作成することもできる。この場合増幅が見られれば、いずれかの遺伝子を有することを判定することができる。
増幅したDNA断片の検出は、任意の方法により行われる。例えば、増幅したDNA断片を電気泳動で分離することにより、分子量に応じてDNA断片を分離して、検出することができる。電気泳動分析は常法にしたがって行えばよい。例えば、アガロースまたはポリアクリルアミドのゲル中で電圧をかけて電気泳動し、分離したDNAパターンを分析することができる。電気泳動は、DNAを変性し、一本鎖DNAにして電気泳動を行ってもよいし、二本鎖DNAのまま電気泳動を行ってもよい。電気泳動により分離されたDNAは、エチジウムブロマイドなどの核酸検出試薬を用いて検出することが可能になる。
検出されたDNA断片の分子量に応じて、いもち病真性抵抗性遺伝子Pi19又はPita-2を有するか判定することもできるし、さらにバンドを切り出して、シーケンスを行うことにより配列決定をして、判定することもできる。
別の態様では、制限酵素の配列特異性を利用して、いもち病真性抵抗性遺伝子Pi19又はPita-2を判定することもできる。より具体的には、Pi19遺伝子配列特異的又はPita-2遺伝子配列特異的に切断する酵素を選択して、使用し、一方の遺伝子を切断した上で、これらの配列を増幅するプライマーを用いる。これにより、増幅が生じ、所定の大きさのバンドが得られるか否かにより、いもち病真性抵抗性遺伝子Pi19又はPita-2の有無を判定することができる。
<いもち病菌株の取得>
いもち病菌は、次に挙げる菌株については農業生物資源研究所ジーンバンクより取り寄せた:Kyu77-07A(MAFF242858、Pishに非親和性、Pi19、Pita-2に親和性、同レース102.0)、Kyu89-246(MAFF101506、Pita-2、Pibに非親和性、Pi19に親和性、同レース003.0)、GFOS8-1-1(MAFF101527、Pita-2、Pi19に親和性、同レース303.0)、CHNOS58-3-1(MAFF101267、Pi19に非親和性、同レース000.0)。H06-47-1菌株 (Pi19、Pita-2に非親和性、日本の判別品種によるレース000.0)は、以下に説明する交雑法により作出した。
<H06-47-1菌株の作出方法>
いもち病菌株H06-47-1は、以下の手順により作製した。独立行政法人農業生物資源研究所耐病性作物研究開発ユニットの管理する、いもち病菌株3986-R-22とCHNOS58-3-1を、公知の技術(「植物病原性微生物研究法」脇本哲監修、ソフトサイエンス社、平成5年4月2日発行)により交配した。その後代を単胞子分離して系統を確立した。それぞれのいもち病菌系統を、国際判別イネ品種群(国際稲研究所(IRRI)から入手可能)に、文献(JIRCAS Working Report No.63、17-33)に記載の方法で接種して、罹病性か否かを病徴の有無により判別することで各いもち病菌の遺伝子型を特定し、AvrPi19のみを持ついもち病菌系統を選抜した。
<いもち病菌接種方法>
いもち病菌の感染は、文献(JIRCAS Working Report No.63、17-33)に記載の方法で概ね行った。具体的には、100,000個/mlの胞子懸濁液(0.01% tween20を含む)をイネの葉に噴霧接種した後、暗所、温度25℃、湿度100%の接種箱内で20時間静置し、その後温室内で生育させた。
<いもち病に対する抵抗性の定性的評価方法>
イネのいもち病菌に対する抵抗性は、温室で生育させた播種後2〜4週間のイネに上記の方法でいもち病菌を感染させ、接種後7〜14日目に葉に現れたいもち病斑のサイズおよび形態を観察し評価した。
<いもち病に対する抵抗性の定量的評価方法>
いもち病に対する抵抗性の定量的測定は下記の方法で行った。いもち病菌接種から7日後に、感染させたイネの葉身からゲノムDNA(イネおよびいもち病菌由来のDNAを含む)を回収し、リアルタイムPCR(TaKaRa Thermal Cycler Dice Real Time System TP800)を用いて、いもち病菌のもつ28S rDNAを特異的に増幅し、イネのゲノム量に対する相対値を算出した。いもち病菌の28S rDNAを特異的に増幅するプライマーとして、AOL617 とAOL618を使用し、イネのゲノム量を定量するためにイネゲノム上の特異的な配列を増幅するプライマーとしてAOL21とAOL23を用いた。PCR条件は95℃(30秒)を1サイクル、95℃(5秒)、60℃(30秒)を40サイクルで行った:
AOL617 5’-TACGAGAGGAACCGCTCATTCAGATAATTA-3’(配列番号8)
AOL618 5’-TCAGCAGATCGTAACGATAAAGCTACTC-3’(配列番号9)
AOL21 5’-GAGCGATGCATATCGCACAGCTG-3’(配列番号10)
AOL23 5’-GGTCTGGCTGCTTACTAGAGTC-3’(配列番号11)
<イネ変異体スクリーニング方法>
真性抵抗性の誘導に必須なR遺伝子、および関連因子の同定を目的として、いもち病R遺伝子Pi19をもつイネ品種「日本晴」を背景とする変異体集団をスクリーニングに供した。本変異体集団は、イネゲノムリソースセンター(Rice Genome Resource Center(RGRC))のホームページ(http://www.rgrc.dna.affrc.go.jp/jp/index.html)内のTos17ミュータントパネルデータベースより取得した。1次スクリーニングでは、1系統につき20個体、2次スクリーニングでは40個体播種し、いもち病菌(H06-47-1株)に対する抵抗性を指標に選抜を行った。相補試験のコントロールとしては、いもち病真性抵抗性遺伝子座Pi19、Pita-2のいずれも持たないことが知られているイネ品種「US1」を用いた。このスクリーニングにより、イネいもち病に対する真性抵抗性に変化を生じたttm (tissue-culture triggered mutation)変異体の選抜を行い、2系統の変異体(ttm12、ttm17)を単離同定することに成功した(図1A)。ttm12変異体とttm17変異体は、それぞれコシヒカリ、日本晴、又は日本晴の第12染色体の短腕部を含む領域をカサラスの染色体領域に置換した日本晴/カサラス染色体置換系統であるCSSL−52と交配し、F2及びF3を取得した。このF2またはF3でその変異表現型が1:3に分離したことから、ttm12変異体とttm17変異体は、ともに劣性の1遺伝子変異をもつことが明らかとなった(表1)。なお、CSSL−52はイネゲノムリソースセンター(Rice Genome Resource Center(RGRC))のホームページ(http://www.rgrc.dna.affrc.go.jp/jp/index.html)から入手した。
ttm12変異体とttm17変異体が同一遺伝子座の変異体か確認するため、ttm12変異体とttm17変異体の交配により得られたF1集団を用いていもち病菌に対する接種試験を行った。ttm12変異体とttm17変異体をかけ合わせたF1集団では、AvrPi19を持ついもち病菌(H06-47-1)に対して、親系統と同様に抵抗性が喪失しており、機能が回復しなかったことから(図1B)、ttm12変異体とttm17変異体は同一遺伝子座に変異を持っていることが明らかとなった。
ttm12変異体およびttm17変異体は、Pi19遺伝子に基づく抵抗性(すなわち、AvrPi19を有するH06-47-1株に対する抵抗性)を示すことは出来なくなっていた。一方、異なるR遺伝子であるPish遺伝子に基づく抵抗性(すなわち、AvrPishを有するKyu77-07Aに対する抵抗性)には影響がなく、親系統でありPish遺伝子座を持つ日本晴と同程度のいもち病への抵抗性を示した。Kyu77-07Aは、pish遺伝子座に変異を持った日本晴(図2の日本晴(pish))に対しては病原性を示したことから、特異性があることを確認した。また、別の異なるR遺伝子であるPibに基づく抵抗性(すなわち、AvrPibを有するKyu89-246に対する抵抗性)による罹病性の程度にも親系統である日本晴との差異は認められなかった(図2)。Kyu89-246は、かけ合わせによりPib遺伝子座を持たせた日本晴(図2の日本晴(Pib))に対しては病原性を示さなかったことから、特異性があることを確認した。この結果から、ttm12変異体、ttm17変異体の原因遺伝子は、Pi19遺伝子による真性抵抗性の発動に必須な遺伝子、あるいはR遺伝子Pi19そのものである可能性が考えられた。
<ポジショナルクローニング>
R遺伝子について解析が行われており、Pi19遺伝子座を持つことによりいもち病菌株H06-47-1に対し抵抗性を示すことが明らかであるコシヒカリを交配親に選び、ttm12変異体と交配した。これらのF2集団から変異型を示す10個体を選抜し、これらを用いて、日本晴/コシヒカリ間のSNPをタイピングアレイにより網羅的に解析し、領域の絞り込みを進めた。その結果、ttm12変異体の推定原因遺伝子座は、第12番染色体短腕上の、マーカーNag08J35512とNag08J35562の約1.8Mb間に存在すると予測した(図3A)。次に詳細にマッピングするため、第12染色体の短腕部を含む領域をカサラスに置換した日本晴/カサラス染色体置換系統(CSSL52) (NK-SL54-20030430)とttm12を交配し、得られたF2、F3個体を解析に用いた。日本晴/カサラス染色体置換系統はイネゲノムリソースセンター(Rice Genome Resource Center(RGRC))のホームページ(http://www.rgrc.dna.affrc.go.jp/jp/index.html)から取得した。このF2、F3集団を用いて、詳細なマッピングを行った結果、第12染色体上の2つのSNPマーカー間(snps_48303とsnps_48309)、約34kbの間に、Pi19遺伝子の候補領域が絞り込まれた(図3B)。RAPデータベース(Rice Annotation Project Database(RAP-DB)、http://rapdb.dna.affrc.go.jp/)より、この領域には1遺伝子(Os12g0285100;仮説上の遺伝子)が存在することが予測された(図3C)。なお、日本晴とカサラスのSNPマーカーであるsnps_48303(C/T)を検出するため、下記のプライマーAOL1120とAOL1121を使用し、またsnps_48309(A/G)を検出するプライマーとして、AOL1122とAOL1123を使用した:
AOL1120 5’-AACACACGAAGCATGAGCTG-3’(配列番号12)
AOL1121 5’-CTGTCTCCACATGCATGACC-3’(配列番号13)
AOL1122 5’-GGACAAAGGGGAGGAAGAAG-3’(配列番号14)
AOL1123 5’-CACGACGATGACAACGAGAG-3’(配列番号15)
RAPデータベースアクセッション番号Os12g0285100の遺伝子について、ttm12変異体及びttm17変異体における配列を調べたところ、ttm12変異体では、1アミノ酸置換(グルタミン酸からロイシン)の変異が見つかった。さらに、ttm17変異体では27アミノ酸の欠損となる変異が見つかった(図4)。2つの独立の変異体で同一遺伝子内に異なる変異が見つかったことから、Os12g0285100遺伝子がttm12変異体及びttm17変異体の原因遺伝子(以下「Pi19遺伝子」と呼ぶ)であると考えられた。
<相補性試験>
Pi19遺伝子がttm12変異体及びttm17変異体の原因遺伝子であることを確かめるため、相補性実験を行った。相補性試験に供するゲノムDNAを取得するため、農業生物資源研究所イネゲノム育種研究ユニットが管理する日本晴ゲノムDNA由来のPACライブラリーから、Pi19遺伝子領域を含むPACをPCRにより選抜した。用いたプライマーセットはAOL1193とAOL1198、AOL1135とAOL1205、AOL1136とAOL1137、AOL1142とAOL1143、並びにAOL1144とAOL1145であり、5組全てで増幅がみられたPACとしてPAC19を得た。PAC19を制限酵素SalI(東洋紡(TOYOBO))で消化し、Pi19遺伝子領域を含む約15kbの断片(図5)をバイナリーベクターpPZP2H-lac(参考文献Fuse et al. 2001 Plant Biotech. 18 219-222)に組み込み、ベクターを作製した。そのベクター又は遺伝子断片を含まない空のベクター(Empty Vector(EV))をttm17変異体にアグロバクテリウム法によって導入し、それぞれ形質転換体を得た。これらの形質転換体に対して、AvrPi19を持ついもち病菌(H06-47-1)に対する抵抗性と、AvrPi19を持たないいもち病菌(Kyu89-246)に対する抵抗性を調べた(図6)。その結果、PAC−19を導入したttm17変異体では、AvrPi19を持ついもち病菌H06-47-1に対して抵抗性を示すが(図6A)、AvrPi19を持たないいもち病菌Kyu89-246に対しては抵抗性を示さなかった(図6B)。AvrPi19を持ついもち病菌H06-47-1に対する抵抗性を回復させたことから、ttm17変異体の原因遺伝子が、Pi19遺伝子であることが示され、その配列が配列番号3のアミノ酸配列をコードすることが証明された。一方、AvrPi19を持たないいもち病菌Kyu89-246に対する抵抗性は見られなかった。このことから、Pi19遺伝子産物が非特異的な抵抗性を付与しないことが示された。AOL1143及びAOL1167のプライマーを用いてPCRを行うことにより、ttm17形質転換体に対して、PAC−19が導入されていること確認した(図6A、B下段:黒矢頭が形質転換により導入されたPi19遺伝子断片を示す):
AOL1135: 5’-GATTTGGTATGGGAGGAGCA-3’(配列番号16)
AOL1136: 5’-TAAACCTGGCCCAAGACAAG-3’(配列番号17)
AOL1137: 5’-TTGCTTGCCTCAGTAGACGA-3’(配列番号18)
AOL1138: 5’-TGCTTCTTGAAAAGGGGAGA-3’(配列番号19)
AOL1139: 5’-AACCGACTCCCTCTTGGAAT-3’(配列番号20)
AOL1140: 5’-ATTTGTCGGCCACATCTTTC-3’(配列番号21)
AOL1141: 5’-GTCCGCTGTTCCTGCTCTAC-3’(配列番号22)
AOL1142: 5’-GCTCTGCCATACAGGACCAT-3’(配列番号23)
AOL1143: 5’-GCAACTTACAGGCATGCAGA-3’(配列番号24)
AOL1144: 5’-TGCTGCGAATGTAGAGGTTG-3’(配列番号25)
AOL1145: 5’-TGCCACGATCATATTGAGGA-3’(配列番号26)
AOL1146: 5’-TCCTCGGTTTGCATTACTCC-3’(配列番号27)
AOL1167: 5’-TCTTCACCTGGCAGATTTCC-3’(配列番号28)
AOL1169: 5’-GCCACCAGCGAAAAACTCT-3’(配列番号29)
AOL1174: 5’-TCAAGAGATACAACACGCGTTG-3’(配列番号30)
AOL1179: 5’-AACGTGGGTGTATGTGTCACA-3’(配列番号31)
AOL1181: 5’-TGCCGCCATCATATTGAAGA-3’(配列番号32)
AOL1184: 5’-AAATGCTTGGCTGAACTGGT-3’(配列番号33)
AOL1185: 5’-CTTGTTTGAACGAGCGTGATC-3’(配列番号34)
AOL1193: 5’-CTCCCTCAATCCCTTCATCA-3’(配列番号35)
AOL1198: 5’-GATGGGTTTGCGAGGTAATG-3’(配列番号36)
AOL1205: 5’-GAACTGGTTGACGAGAACCAC-3’(配列番号37)
<Pi19遺伝子座の調査とPita-2遺伝子の同定>
非特許文献3では、第12番染色体に座上するPi19遺伝子座がPita-2遺伝子と強く連鎖しているか、同じ遺伝子座の対立遺伝子である旨、言及されている。また、Pi19遺伝子座は同じ第12番染色体上の別のR遺伝子であるPita遺伝子座とも強く連鎖しているか、同じ遺伝子座の対立遺伝子である可能性がある旨も記載されている。
Pi19遺伝子のコード領域の塩基配列が特定されたことにより、Pi19遺伝子座が正確に特定された。この情報を元に公知のデータベースを確認したところ、RAPデータベース(Rice Annotation Project Database(RAP-DB)、http://rapdb.dna.affrc.go.jp/)上の情報から、Pi19遺伝子座の近傍220kbの位置に、既に遺伝子が単離同定されているPita遺伝子座が存在していることがわかった。Pita-2遺伝子座は未同定であったことから、Pi19遺伝子がPita−2遺伝子と対立遺伝子の関係にある可能性が考えられた。そこで、Pi19遺伝子について複数の品種間での多型を調べることにした。Pi19遺伝子の塩基配列が判明していること及び多型が存在するため、品種により複数のプライマーセットを使い分けることで塩基配列を決定した。具体的には、日本晴、コシヒカリ、愛知旭、カサラス及びIRBL19-Aの各品種ではAOL1135とAOL1136、AOL1137とAOL1138、AOL1139とAOL1140、AOL1141とAOL1142、AOL1143とAOL1144、AOL1145とAOL1146を用いた。PiNo.4及びレイホウでは、AOL1135とAOL1136、AOL1137とAOL1138、AOL1139とAOL1140、AOL1141とAOL1142、AOL1143とAOL1144、AOL1145とAOL1174を用いた。コシヒカリBL3号、IRBL-ta2及びTadukanでは、AOL1135とAOL1136、AOL1137とAOL1138、AOL1139とAOL1140、AOL1141とAOL1142、AOL1143とAOL1144、AOL1145とAOL1179を用いた。LTHでは、AOL1139とAOL1140、AOL1141と1142、AOL1143とAOL1144、AOL1179とAOL1181を用いた。US1では、AOL1169とAOL1184、AOL1139とAOL1140、AOL1141とAOL1142、AOL1143とAOL1144、AOL1179とAOL1181を用いた。IR24ではAOL1193とAOL1185、AOL1139とAOL1140、AOL1141とAOL1142、AOL1143とAOL1144、AOL1179とAOL1181を用いた。それぞれのプライマーセットを用いてゲノミックDNAを鋳型としてPCR増幅を行い、塩基配列を決定した。その塩基配列から推定したアミノ酸配列をアライメントした(図7A、B、C)。Pi19遺伝子座を持つことがこれまでに知られている品種(日本晴、コシヒカリ、愛知旭、カサラス、IRBL19-A)では、カサラスに1アミノ酸の多型が見つかった以外はすべてアミノ酸配列が保存されていた(図7A)。一方、Pi19遺伝子座を持たずにPita-2遺伝子座をもつことが知られている品種(PiNo.4、レイホウ、コシヒカリBL3号、IRBL-ta2、Tadukan)では、Pi19遺伝子とは異なるもののこれらの品種間では完全に保存された共通のアミノ酸配列が見られ、Pi19遺伝子と比較するとC末端側に多型が集中していた(図7B)。Pi19遺伝子もPita-2遺伝子の両方をもたないことが知られている品種(LTH、US1、IR24)では、 Pi19遺伝子に比べ広範囲にわたって多数の多型が生じていた(図7C)。既知の各品種の遺伝子型と保存されたアミノ酸配列にほぼ完全な一致がみられたことから、Pi19遺伝子とPita-2遺伝子とが対立遺伝子の関係にあることが推測された。
Pi19遺伝子とPita-2遺伝子のそれぞれについて相補試験を行った。Pi19遺伝子の上流約2Kbをプロモーター領域とし、この領域に、Pita-2遺伝子座を持つイネ品種から取得したcDNA配列又はPi19遺伝子のcDNA配列を連結し、さらにNOSターミネーターを連結したDNA断片をpPZP2H-lac(Fuse et al. 2001 Plant Biotech. 18 219-222)に導入し、発現ベクターを作製した(図8)。Pi19遺伝子、Pita-2遺伝子には約7kbの長いイントロンが存在するため、cDNA配列を用いた相補試験とした。Pi19遺伝子相補試験用挿入配列を配列番号38で示し、Pita-2遺伝子相補試験用挿入配列を配列番号39で示す。それぞれの発現ベクターを、ttm12変異体およびPi19遺伝子座を持たないことが知られているイネ品種US1にアグロバクテリウム法により導入し、形質転換体を得た。なお、プライマーAOL1174及びAOL1352を用いて、PCRを行うことにより、導入したDNA配列と内生遺伝子のDNA配列の判別を行った図9A、B、Cの下段の電気泳動像において、矢印で示すバンドが導入したDNA配列であることを示す。コントロールとして、何も導入していないpPZP2H-lacベクターをttm12、ttm17変異体およびUS1へそれぞれ導入した(Empty Vector(EV))。
AOL1174 5’-TCAAGAGATACAACACGCGTTG-3’(配列番号30)
AOL1352 5’-CATCTGTGTAGTCCCTACTCC-3’(配列番号40)
こうして得られた遺伝子導入ttm12変異体およびイネ品種US1について、いもち病菌の接種実験を行った(図9)。Pi19遺伝子を導入したttm12変異体に、AvrPi19及びAvrPita-2を持ついもち病菌株H06-47-1を接種したところ、抵抗性の回復がみられた。Pi19遺伝子を導入したUS1に、AvrPi19及びAvrPita-2を持ついもち病菌株H06-47-1及びAvrPi19のみを持ついもち病菌株CHNOS58-3-1をそれぞれ接種したところ、いずれに対しても抵抗性の回復がみられた(図9A)。一方、Pi19遺伝子を導入したttm12変異体又はUS1に、AvrPita-2のみを持ついもち病菌株Kyu89-246を接種したところ、抵抗性はみられなかった(図9B)。同様に、Pi19遺伝子を導入したttm12変異体又はUS1に、AvrPi19、AvrPita-2のいずれも持たないいもち病菌株GFOS8-1-1を接種したところ、抵抗性はみられなかった(図9C)。Pita-2遺伝子を導入したttm12変異体に、AvrPi19及びAvrPita-2を持ついもち病菌株H06-47-1を接種したところ、抵抗性の回復がみられた(図9A)。Pita-2遺伝子を導入したttm12変異体に、AvrPita-2のみを持ついもち病菌株Kyu89-246を接種したところ、やはり抵抗性の回復がみられた(図9B)。一方、Pita-2遺伝子を導入したttm12変異体に、AvrPi19、AvrPita-2のいずれも持たないいもち病菌株GFOS8-1-1を接種したところ、抵抗性はみられなかった(図9C)。以上の結果それぞれレース特異性を示すことから、日本晴のもつOs12g0285100遺伝子がPi19遺伝子であり、PiNo.4、レイホウ、コシヒカリBL3号、IRBL-ta2、Tadukanにおけるその対立遺伝子がPita-2遺伝子であると結論付けた(図10)。

Claims (14)

  1. 植物において、いもち病に対する真性抵抗性を付与するDNAであって、
    (1)配列番号1のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA;
    (2)配列番号1の配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA;
    (3)配列番号1の配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA;
    (4)配列番号2の塩基配列からなるDNA;
    (5)配列番号2の塩基配列に相補する配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA;及び
    (6)配列番号2の塩基配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有する塩基配列からなるDNA
    からなる群から選ばれる、前記DNA。
  2. 前記DNAが、cDNAである、請求項1に記載のDNA。
  3. 請求項1又は2に記載のDNAを含むベクター。
  4. 植物において、いもち病に対する真性抵抗性を付与するDNAであって、
    (1)配列番号3のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA;
    (2)配列番号3において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA;
    (3)配列番号3に対して少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA;
    (4)配列番号4の塩基配列からなるDNA;
    (5)配列番号4の塩基配列に相補的な配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA;及び
    (6)配列番号4の塩基配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有する塩基配列からなるDNA
    からなる群から選ばれる、DNAをさらに含む、請求項3に記載のベクター。
  5. 請求項3に記載のベクターにより遺伝子導入され、Pita-2遺伝子をコードするDNAを含む、形質転換細胞。
  6. 請求項4に記載のベクターにより遺伝子導入され、Pita-2遺伝子をコードするDNA及びPi19遺伝子をコードするDNAを含む、形質転換細胞。
  7. 請求項5又は6の形質転換細胞を含む、形質転換イネ科植物体。
  8. 請求項7に記載の形質転換植物体の子孫またはクローンである、形質転換イネ科植物体。
  9. 前記形質転換イネ科植物体が、イネである、請求項7又は8に記載の形質転換植物体。
  10. 請求項7〜9のいずれか1項に記載の形質転換植物体の繁殖材料。
  11. 請求項1に記載のDNAからなる、Pita-2遺伝子。
  12. 請求項11に記載のPita-2遺伝子をホモ接合型で含み、かつ、以下の:
    (1)配列番号3のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA;
    (2)配列番号3において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質をコードし、いもち病に対する真性抵抗性を付与するDNA;
    (3)配列番号3に対して少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列からなるタンパク質をコードし、いもち病に対する真性抵抗性を付与するDNA;
    (4)配列番号4の塩基配列からなるDNA;
    (5)配列番号4の塩基配列に相補的な配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、いもち病に対する真性抵抗性を付与するDNA;及び
    (6)配列番号4の塩基配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有する塩基配列からなり、いもち病に対する真性抵抗性を付与するDNA
    からなる群から選ばれるDNAからなるPi19遺伝子をホモ接合で含む、イネ。
  13. 請求項7又は8に記載の形質転換イネ科植物体の製造方法であって、請求項3又は4に記載のベクターを、イネ科植物の細胞に導入する工程、及び当該植物細胞から植物体を再生させる工程、を含む前記製造方法。
  14. 前記形質転換イネ科植物体がイネである、請求項13に記載の方法。
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