JP2015120188A - 狭開先レーザ溶接方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】溶接割れ及び融合不良を抑制することが可能な狭開先レーザ溶接方法を提供する。【解決手段】被溶接材を突き合わせて狭開先を形成し、レーザ光を導光して集光照射し、前記レーザ光の照射部に溶接ワイヤを送給しつつ前記溶接ワイヤ及び前記被溶接材を溶融させて溶接ビードを形成し、前記溶接ビードを多層積層して被溶接材の積層溶接を行う狭開先レーザ溶接方法において、前記狭開先の開先幅は2mm以上4mm以下であり、2層目以降の前記溶接ビードの形成の際、前記レーザ光を、前記照射部における前記レーザ光の照射幅Sと開先底幅Wとの比S/Wが1/4以上3/4以下となるように照射し、且つ、前記溶接ビードの溶込み形状を、前記溶接ビードの積層高さと下層溶接ビードへの溶込み深さの和である溶け込み高さHと、前記溶接ビードの開先幅方向の溶込みの最大幅WMとの比H/WMが1.5以上2.5以下となるように溶接条件を制御する。【選択図】図11

Description

本発明は、被溶接材の溶接部位に狭開先を形成し、狭開先内にレーザ光を導光して集光照射し、狭開先内のレーザ光の照射部に溶接ワイヤを供給しながら開先部を積層溶接する狭開先レーザ溶接方法に関する。
レーザ溶接は、熱源のレーザビームのエネルギー密度が高いため、通常のアーク溶接に比べ、深い溶込みが得られる。さらに、低歪み、高速度、高精度の溶接継手が得られることから、現在各分野で使用されている。
レーザ溶接は、溶け込みが深く、溶接金属の凝固速度が速い。このため、溶接金属内部の中央部に、溶接欠陥(例えば、凝固割れ等の溶接割れや、溶接ビードと被溶接材との融合不良)が生じやすいという難点を有する。また、厚さ25mmを超える厚板を被溶接部材とする溶接においては、被溶接材の突き合わせ部に狭開先を形成し、狭開先内にレーザ光を導光して集光照射し、狭開先内のレーザ光の照射部に溶接ワイヤを供給しながら開先部を積層溶接する方法が行われている。レーザ溶接の溶接割れは一般的に溶接金属内部に生じることが多い。このため、溶接割れの有無を溶接後すぐ目視検査等で判断することができないので、溶接終了後に、放射線透過試験(Radiographic Testing:RT)や超音波探傷試験(Ultrasonic Testing:UT)等により溶接割れ発生の有無を確認する検査が行われている。溶接割れが発見された場合、溶接金属内部に生じた割れを除去し、補修溶接を行い、健全な溶接継手を確保する方法がとられているが、RTやUT等の検査や補修溶接作業に多くの工数を必要とする。
このため、溶接金属内部に溶接割れ等の溶接欠陥を生じさせない健全な継手が得られる溶接技術や仮に溶接割れが起きても、溶接割れは表面に開口し、確認または検出し易い溶接技術が必要とされている。
特開2013‐128938号公報(特許文献1)には、レーザ溶接を用いた薄板(板厚0.5mm〜3.2mm)のフランジ端部重ね溶接方法において、溶接部の凝固過程で、等軸晶を溶融池内に生成させることにより溶接時の凝固割れを抑制することを特徴とするレーザ溶接方法が開示されている。この方法は、薄板の重ねワンパス溶接である。
特開平9‐201687号公報(特許文献2)には、溶接の作業効率の向上を図るため、被溶接部を狭い開先幅に設定しフィラーワイヤを供給しつつレーザトーチからレーザビームを上記狭い開先幅を通して上記フィラーワイヤの部分に照射し、積層溶接することを特徴とする狭開先レーザ溶接方法が開示されている。
特開平7‐323386号公報(特許文献3)には、欠陥発生の抑制を目的とし、レーザを用いた厚板の溶接において、レーザビームの焦点位置をルートフェース上より焦点距離の1/20以上離してビームを照射し、溶加材としてフラックスコアードワイヤを使用することを特徴とし、1層目は完全溶込溶接とし、2層目以上は焦点位置を前層ビード上より焦点距離の1/20以上離してビームを照射し、2層目以上に使用する溶加材としてフラックスコアードワイヤを使用して多層溶接することを特徴とするレーザ溶接方法が開示されている。この方法は、1層目は完全溶込溶接とし、2層目以上は焦点位置を大きく離してビームを照射し、熱伝導型のレーザ溶接条件を用い溶接することを特徴とする。
特許第3671544号(特許文献4)には、50重量%以上の鉄、および0.2重量%以上の炭素、または0.045重量%以上の硫黄、または0.04重量%以上のりんを含有する鉄・炭素鋼材料、およびクロム当量とニッケル当量の比Creq/Nieqが1.48以下のステンレス鋼から選ばれた複数の板材を重ね合わせ、これに酸素ガス含有量を5〜50容量%に調整しているアシストガスを吹きつけながら、レーザビームを照射して、溶接部におけるW/L比(但しWは溶融部のビード幅を表し、Lは前記複数の板材の接合部の幅を表す)を、1.0〜1.5の範囲にコントロールすることを特徴とするレーザ溶接方法が開示されている。この溶接方法は重ねワンパス溶接であり、本発明の狭開先多層盛レーザ溶接とは異なる。
特開2013‐128938号公報 特開平9‐201687号公報 特開平7‐323386号公報 特許第3671544号
特許文献1には、溶接金属の成分の制御によって溶接金属の中央部に等軸晶を生成させることにより溶接時の凝固割れを抑制することが記載されているが、厚板の狭開先レーザ多層溶接方法ではなく、薄板重ねワンパスレーザ溶接方法である。また、溶接成分を制御しないで、溶接プロセス制御の観点で溶接割れを抑制する方法については記載されていない。
特許文献4には、溶接割れを防止するため、アシストガスに酸素を含有するガスを用いてレーザ溶接部におけるW/L比を1.0〜1.5の範囲にコントロールすることが開示されているが、突き合わせ溶接であり、開先内にレーザを照射し、照射部にフィラーワイヤを供給しながら積層溶接する場合の溶接欠陥の発生を抑制する方法については記載されていない。
特許文献2および特許文献3には、狭開先内にレーザを照射し多層溶接する方法が開示されている。特許文献2には溶接欠陥の発生の防止あるいは抑制方法については記載されていない。特許文献3には被溶接材の溶融不良による溶接欠陥(融合不良)を防止し無欠陥の溶接継ぎ手を得る方法が開示されているが、溶接割れの発生の防止あるいは抑制方法については記載されていない。
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、溶接割れ及び融合不良を抑制することが可能な狭開先レーザ溶接方法を提供することにある。
本発明は、上記目的を達成するため、
被溶接材を突き合わせて狭開先を形成し、前記狭開先内にレーザ光を導光して集光照射し、前記狭開先内の前記レーザ光の照射部に溶接ワイヤを送給しつつ前記溶接ワイヤ及び前記被溶接材を溶融させて溶接ビードを形成し、前記溶接ビードを多層積層して被溶接材の積層溶接を行う狭開先レーザ溶接方法において、
前記狭開先の開先幅は2mm以上4mm以下であり、
2層目以降の前記溶接ビードの形成の際、
前記レーザ光を、前記照射部における前記レーザ光の照射幅Sと前記照射部の開先底幅Wとの比S/Wが1/4以上3/4以下となるように照射し、
且つ、前記溶接ビードの溶込み形状を、前記溶接ビードの積層高さDと下層溶接ビードへの溶込み深さPの和である溶け込み高さHと、前記溶接ビードの開先幅方向の溶込みの最大幅WMとの比H/WMが1.5以上2.5以下となるように溶接条件を制御することを特徴とする狭開先レーザ溶接方法を提供する。
本発明によれば、溶接割れ及び融合不良を抑制することが可能な狭開先レーザ溶接方法を提供することができる。
狭開先レーザ溶接方法の工程の1部を模式的に示す図である。 溶接金属(2層目溶接ビード)に発生した溶接割れの1例を示す断面光学顕微鏡写真である。 本発明に係る狭開先レーザ溶接方法が適用される被溶接材の1例を示す斜視模式図である。 図3の正面図である。 本発明に係る狭開先レーザ溶接方法を用いて作製した積層溶接ビードの一例を示す断面模式図である。 本発明に係る狭開先レーザ溶接方法を用いて作製した溶接ビードの一例を示す断面模式図である。 本発明に係る狭開先レーザ溶接方法を用いて作製した積層溶接ビードの一例を示す断面模式図である。 本発明に係る狭開先レーザ溶接方法を用いて作製した溶接ビードの一例を示す断面模式図である。 本発明に係る狭開先レーザ溶接方法を用いて作製した溶接ビードの溶込み形状の一例を示す断面模式図である。 本発明に係る狭開先レーザ溶接方法を用いて作製した溶接ビードの溶込み形状の一例を示す断面模式図である。 実施例1のS/WとH/WMと溶接欠陥の有無の関係を示す図である。 実施例2のレーザ光4の揺動幅WEと照射幅Sの関係を示す図である。 実施例の溶接構造物の開先形状を示す断面模式図である。 実施例3で作製した積層溶接ビードの断面模式図である。
(本発明の基本思想)
狭開先レーザ溶接方法は、原子力発電プラント等の大型構造物に使用される、板の厚さが25mmを超える厚板のステンレス鋼の溶接に用いられる方法である。
図1は狭開先レーザ溶接の工程の1部を模式的に示す図である。図1に示すように、まず被溶接材100(101a及び101b)の突き合わせ部に狭開先102を形成する。図示されていないレーザ発振器から発振されたレーザ光は、光ファイバー8により伝送され加工ヘッド7に送られる。加工ヘッド7でレンズにより集光されたレーザ光4は被溶接部材101aと101bにより形成された狭開先102内に導光されて集光照射され、被溶接材101a、101b及び溶接ワイヤ(フィラーワイヤ)3を溶融し、溶融プール9を形成しながら溶接を行い溶接ビード5を形成し、溶接ビード5を多層積層して開先部を埋めて行われる。
溶接ワイヤ3は溶接方向前方から溶融プール9内に送給される。溶融プール9及びその近傍は、シールドガスノズル6から噴出されたシールドガスによりシールドされる。
上記狭開先レーザ溶接では、下部の溶接ビードの表面、開先壁の側面および溶接ワイヤを安定的に溶融させるために、レーザ光4は焦点位置をずらしたデフォーカス条件で照射される。しかし、積層部の溶接ビードの溶け込み形状におけるH/WM比(Hは溶接ビードの溶け込み高さを表し、溶接ビードの積層高さと下部ビードへの溶込み深さの和であり、WMは溶接ビードの開先幅方向の溶込みの最大幅を表す)が1以上になると、図2に示したように溶接金属(溶接ビード)200の中央に凝固割れ201(図2中黒い部分)が生じるという問題がある。
一般に溶接割れを抑制するためには、溶接ワイヤを添加し溶接金属のフェライト量を増加させることが有効といわれているが、狭開先溶接では、一般のV型開先等に比べ被溶接材の希釈率が高いので、被溶接材のCr当量/Ni当量が1.40以下のオーステナイト系ステンレス鋼に対してはワイヤの添加のみでは溶接割れの発生を防止することが困難である。また、Cr当量/Ni当量が低くなると、溶融金属の凝固も不安定となりやすく、溶接割れとともに融合不良を生じやすくなる。
本発明者らは、狭開先レーザ溶接方法において、溶接金属の成分を制御することなく溶接欠陥を抑制することが可能な溶接方法の条件について鋭意検討した。その結果、レーザ光の照射幅Sと照射部の開先底幅Wとの比S/Wと、溶接ビードの溶け込み高さHと溶接ビードの開先幅方向の溶込みの最大幅WMとの比H/WMを一定の範囲に制御することで、溶接欠陥を抑制することが可能であることを見出した。本発明は、該知見に基づくものである。
以下、本発明の実施形態を図面を用いて詳細に説明する。ただし、以下の説明は本発明の内容の具体例を示すものであり、本発明はこれらの説明に限定されるものではなく、本明細書に開示される技術的思想の範囲内において当業者による様々な変更および改良が可能である。
本発明に係る狭開先レーザ溶接方法は、上述した図1に示した態様で実施することができる。図1には示していないが、レーザ発振器、ワイヤ送給制御装置、ガス流量制御装置及び溶接マニピュレータは溶接制御装置に接続されており、レーザ出力、レーザ光の焦点はずし距離、溶接速度及びワイヤ送給速度等の溶接条件並びに動作タイミング等が制御される。
レーザ光4としては、設備の小型化が可能で、高品質の溶接部が得られ易いファイバーレーザ、ディスクレーザ等のファイバー伝送が可能な波長が1μm程度のレーザを用いることが好ましい。COレーザのように発振波長の長いレーザの場合、溶接装置が大型となると共にプラズマが発生しやすいため溶接部に欠陥を生じやすく好ましくない。
レーザ加工ヘッド7は、図示していない溶接マニピュレータに搭載され、直線溶接が出来るように構成されている。本発明のような開先幅の狭い(2mm以上4mm以下)狭開先溶接では、溶込み形状に及ぼす溶接姿勢の影響は小さいことから、溶接姿勢は特に限定されないが、下向きおよび横向き姿勢で実施することが好ましい。
図3は本発明に係る狭開先レーザ溶接方法が適用される被溶接材の1例を示す斜視模式図であり、図4は図3の正面図である。図3及び図4に示したように、本発明に係る狭開先レーザ溶接方法では、被溶接材1aと1bを突き合わせて狭開先2を形成し、突き合せ溶接を行う。被溶接材1a、1bとしては特に限定は無いが、本発明は原子力プラント等の構造物に使用される、板厚が25mm以上で材料成分から算出されるCr当量/Ni当量が1.31以上1.40以下のオーステナイト系ステンレス鋼の溶接に好適である。そのような被溶接材として、例えば板厚30mmのオーステナイト系ステンレス鋼SUS316Lを用いることができる。SUS316Lは、ディロングの組織図(Cr当量:Cr+Mo+1.5×Si+0.5×Nb、Ni当量:Ni+30×C+30×N+0.5×Mn、単位:mass%)から算出したCr当量/Ni当量は1.36である。
図4に示したように、溶接開先の中央部には、被溶接材1a及び1bの部材面を合わせたルートフェース10が形成されており、その片側に開先溝部11が形成されている。本明細書では被溶接材1a及び1bの開先溝部11が形成されている面を「被溶接材表面」とし、対向する面を「被溶接材底面」とする。図中、θは開先角度である。ルートフェース10の長さLは、レーザ出力を考慮し、ルートフェースの突き合せ面が片面から溶接して完全に貫通溶融できる長さとすることが好ましい。開先溝部11は、本発明では開先幅BWが2mm〜4mm(2mm以上4mm以下)となるように形成する。開先幅BWは開先両側面(被溶接材1a及び被溶接材1bの開先側面)と開先底部との交点間の距離である。なお、開先底面の端部は曲率を有している。開先角度θは特に限定は無いが、4°〜5°が好ましい。
図5は本発明に係る狭開先レーザ溶接方法を用いて作製した積層溶接ビードの一例を示す断面模式図である。図5に示したように、溶接は、開先組み立てを行った後、開先溝部11の底部の中心部に、集光されたレーザ光4を照射し、形成された溶融プール内に溶接ワイヤ3を送給しながら細く長い形状の初層溶接ビード12を形成し、ルートフェース10の接合された面を貫通溶融接合させる。初層溶接ビード12の形成条件については、ルートフェースを完全に溶融させるため、レーザ光4の焦点位置が開先底面から板厚方向に0mm以上+5mm以下又は0mm以上−5mmとすることが好ましい。なお、ここで「−」とは、被溶接材の底面(ルートフェース10)方向を示し、「+」とは、被溶接材の表面方向を示す。
ルートフェース10を溶接後、狭開先内の初層溶接ビード12の表面部にレーザ光4を照射し、溶接ワイヤ3を供給しつつ、レーザ光4で溶接ワイヤ3と被溶接材1a及び1bを溶融させて開先溝部11を埋め、多数の溶接ビード13(13a、13b及び13c)を積層する。このように溶接ビードの形成を繰り返すことにより、開先部を埋めて接合させる。このとき、溶接割れは2層目が最も生じやすい。そこで、本発明では2層目以降の溶接ビードの形成の際、溶接ビードの溶込み形状を、以下のように制御する。
図6及び図7は本発明に係る狭開先レーザ溶接方法を用いて作製した積層溶接ビードの一例を示す断面模式図である。図6は初層溶接ビード形成後を、図7は2層目の溶接ビード形成後の状態を示している。本発明において開先底幅Wとは図6のように、下層溶接ビード(図6では初層溶接ビード12)表面の開先幅方向の開先壁面と下層溶接ビードとの境界間の距離である。また、本発明において溶込み形状の最大幅WMは、図7のように、溶接ビード13の溶込みにおける開先幅方向の最大幅である。溶接ビード13の溶込み高さHは、溶接ビード13の溶込み形状における板厚方向の溶込み下端(最大溶込み部)と溶接ビード表面間の距離である。この溶接ビード13の溶込み高さHは、下層溶接ビードに溶け込んだ深さである溶込み深さPと下層溶接ビード表面から上に盛られた溶接金属の高さ(溶接ビードの積層高さ)Dの和である。
本発明では、2層目以降の溶接ビードの形成の際、上述した溶接ビードの溶け込み高さHと、溶接ビードの開先幅方向の溶込みの最大幅WMとの比H/WMが1.5以上2.5以下となるように溶接条件を制御する。H/WMが1.5未満及び2.5より大きくなると、溶接割れおよび融合不良(溶接金属と被溶接材の非接触部分)が生じやすくなる。
図8は本発明に係る狭開先レーザ溶接方法を用いて作製した積層溶接ビードの一例を示す断面模式図である。図8に示したように、本発明においてレーザ光4の照射幅Sは、開先底面14へ照射されたレーザ光の開先幅方向の幅である。図8の場合は、初層溶接ビード12の表面でのレーザ光の幅(ビーム径)である。
本発明では、2層目以降の溶接ビードの形成において、レーザ光4を、照射部におけるレーザ光4の照射幅Sと照射部の開先底幅Wとの比S/Wが1/4以上3/4以下となるように溶接条件を制御する。
S/Wが1/4未満の場合、レーザ光が過度に集光され、溶接ビードの幅は狭くなり、深さ方向では深くなりやすく、開先側面の底部に融合不良が生じやすくなる。また、S/Wが3/4を超えると、レーザ光が広い範囲に集光され、溶接ビードの溶け込み高さHが小さくなりやすく、積層された溶接ビード間に融合不良が生じやすくなる。さらに、開先壁とレーザ光が干渉しやすくなるので、ビード形成不良を起こしやすくなり、融合不良や溶接割れを生ずる。
以上のことから、溶接割れ及び融合不良の無い健全な積層溶接ビードを得るためには、S/Wを1/4以上3/4以下とし、且つ積層ビードの溶込み形状をH/WMが1.5以上2.5以下となるように溶接条件を制御することで、溶接欠陥の発生を抑制することができ、良好な溶接ビードが得られる。
なお、レーザ光4の照射幅Sは、レーザ光4の焦点位置15を被溶接材の底面方向又は表面方向(開先板厚方向の上方向)にずらすことにより制御することができる。また、レーザ光4を開先幅方向に揺動・走査させることにより制御することもできる。
また、溶接ビードの溶込み形状(W、H及びWM)は、レーザ出力、溶接速度、溶接ワイヤ送給速度、レーザ光の照射幅(焦点はずし距離)及び溶接ワイヤ挿入位置等により制御することができる。
Sの値は、集光レンズにおけるレーザ光のビーム径、レンズの焦点距離及びデフォーカス距離によって算出される。また、H、W及びWMの値は、被溶接材の断面を光学顕微鏡により観察して測定することができる。
本発明の狭開先レーザ溶接方法において、溶接ビードの溶込み深さPを2mm以上7mm以下とすることが好ましい。大型構造物の溶接では、拘束度や構造物の熱容量等の影響で、溶接ビードの溶込み深さPが開先底幅W未満の場合、融合不良を生じやすい。また。溶込み深さが深くなり7mmを超えるようになると溶接割れを生じやすくなる。このため、溶接ビード13の溶込み深さPは、2mm以上7mm以下とすることが好ましい。
図9及び図10は、本発明に係る狭開先レーザ溶接方法を用いて作製した溶接ビードの溶込み形状の一例を示す模式図である。図9は溶込み形状の最大幅WMの位置16が、積層高さDの1/2の位置より上方(被溶接材の表面方向)にある場合の溶込み形状であり、図10は溶込み形状の最大幅WMの位置16が、積層高さDの1/2の位置より下方(被溶接材の底面方向)にある場合の溶込み形状である。溶込み形状の最大幅WMの位置により溶接金属の最終凝固部が異なる。図9のような溶込み形状の場合には、最終凝固部は溶接ビードの表面近傍となる。したがって、仮に溶接ビード形成時に溶接割れが生じても、次の溶接ビード(上層の溶接ビード)の形成時に溶接割れを埋めることができる。また、最上層の溶接ビード形成時に溶接割れが生じても、溶接割れの開口部は表面となるので、溶接割れ有無の判定および補修が容易となるので、溶接検査工程等を大幅に削減することができる。
一方、図10のような溶込み形状の場合には、最終凝固部は溶接ビードの中央部分となり、仮に溶接ビード形成時に溶接割れが生じた場合、次の溶接ビード(上層の溶接ビード)の形成時に溶接割れを埋めることができなくなる。また溶接割れ有無の判定を、RTやUTで検査しなければならない。
以上のことから、溶接割れおよび融合不良の発生を抑制する積層ビードの溶込み形状としては、開先幅方向の溶込みの最大幅WMの位置16が積層高さDの1/2より上方にある形状とすることが望ましい。
以下、本発明を実施例によりより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(試験No.1〜15の溶接条件と溶接欠陥評価結果)
本実施例では溶接条件を変えて(開先幅BW、S/W及びH/WMの値を変えて)溶接を行い、溶接欠陥の有無を調査した。
本実施例では、被溶接材1a及び1bとして板厚30mmのオーステナイト系ステンレス鋼SUS316L(Cr当量/Ni当量1.36)用い、溶接ワイヤとしてYS308Lを用いた。ルートフェース10の長さLは、8mmとした。また、開先幅BWを2mm〜4mmとし、開先角度θを4°〜5°とした。
レーザ光として、波長1030nmのレーザ光を使用した。溶接は、レーザ出力:4〜6kW、溶接速度:100〜500mm/min、溶接ワイヤ送給速度:1〜3mm/min、溶接挿入ワイヤ位置:溶接プール中央部として行った。本実施例では、すべての試験について溶接ビードの前開先幅方向の溶込みの幅が最大となる位置が、溶接ビードの積層高さDの1/2より上方となるようにした。初層溶接ビード溶接時のレーザ光の焦点位置を、開先底面の0〜+5mmとした。溶接は下向きおよび横向き姿勢で実施した。Sの値は、0.56〜1mmであり、集光レンズにおけるレーザ光のビーム径、レンズの焦点距離及びデフォーカス距離によって算出した。なお、焦点位置のずらし距離(焦点はずし距離)と照射部におけるレーザ光のビーム径の関係をあらかじめビームプロファイラーを用いて測定し、Sを算出した。本実施例の溶接条件を後述する表1に示す。
なお、開先底幅W、溶接ビードの溶込み深さP及び開先幅方向の溶込みの最大幅WMは、溶接後、構造物から溶接部を切りだし、2層目の溶接ビード断面を光学顕微鏡で観察して測定した値である。
溶接欠陥の評価として、溶接割れの有無及び融合不良の有無を検査した。検査は、溶接後の構造物から溶接部を切りだし、2層目の溶接ビードの断面を光学顕微鏡で観察して溶込み形状から目視で溶接欠陥(溶接割れ及び融合不良)の有無を判断して行った。溶接欠陥が無いものを「合格」とし、溶接割れ及び融合不良の少なくとも1一方があるものを「不合格」と評価した。評価結果を表1に示す。
Figure 2015120188
表1に示したように、本発明の規定(S/Wが1/4以上3/4以下、H/WMが1.5以上2.5以下)を満たすものは、溶接欠陥の評価結果が全て「合格」であったが、本発明の規定を満たさないもの(試験No.2〜4、11、13及び14)は溶接欠陥が生じ、評価結果が「不合格」であった。この結果から、本発明において、溶接欠陥を抑制するためにS/Wが1/4以上3/4以下、H/WMが1.5以上2.5以下とすることが有効であることが示された。
図11は実施例1のS/WとH/WMと溶接欠陥の有無の関係を示す図である。図中、「○」は溶接欠陥無しを示し、「×」は溶接欠陥有りを示す。
(試験No.16〜18の溶接条件と評価結果)
本実施例ではレーザ光4の開先幅方向に揺動・走査させる方法により照射幅Sを変えて溶接を行い、溶接欠陥の有無を調査した。レーザ光4の照射幅Sの制御方法以外の条件は、実施例1と同様である。
実施例1では、開先底部に照射されるレーザ光4の照射幅Sは焦点位置を前記狭開先内の照射位置より上方(開先表面方向)にずらすことにより所定の幅になるように制御したが、本実施例では、照射幅Sを、ビームスキャナを用いて開先幅方向に揺動・走査させる方法により制御した。
図12はレーザ光4の揺動幅WEと照射幅Sの関係を示す図である。本実施例では、照射幅Sは開先底面14に照射されたレーザ光4のビーム径LWと揺動幅WEの和とした。図12ではレーザ光4の焦点位置15を開先底面14より上方にずらしているが、焦点位置を開先底面14としてもよい。また、揺動・走査は開先幅方向に往復揺動してもよいが、本実施例では開先中心線を中心とする円状にビームを揺動・走査させた。このため本実施例の照射幅Sは、レーザ光4の円状ビームの直径とレーザビームのスポット径の和とした。レーザ光4のビームの径LWは0.28mm、円状ビームの周波数は8Hz、溶接速度は20cm/minとした。表2に初層溶接後、揺動幅LWを0mm(揺動なし)、1.0mm、1.5mmとして2層目の積層溶接を行った場合の溶込み深さP、S/WおよびH/WMと溶接欠陥の結果を示す。
Figure 2015120188
表2に示したように、レーザビームを揺動させてS/Wを本発明の規定範囲内(1/4〜3/4)としたもの(試験No.17及び18)は、溶接欠陥評価結果が全て合格となった。一方、揺動を行わなかった試験No.16は、S/Wが0.09と小さくなり、溶接割れおよび融合不良が認められた。
以上の結果から、レーザビームを揺動させることで照射幅Sを制御しても、S/Wが1/4〜3/4で、且つH/WMが1.5〜2.5の範囲内であれば健全な溶接ビードが得られることが確認された。なお、本試験では、レーザビームを円状に走査させたが、四角形状、コの字形あるいはU字型に走査させてもよい。
本実施例では、本発明に係る狭開先レーザ溶接方法を用いて、厚板の円筒形構造物を溶接した。図13は本実施例で溶接した開先形状を示す図である。
被溶接材1a及び1bの板厚Lは50mmである。被溶接材1aと1bを突き合わせ、両側に開先溝部11a、11bを形成した。中央部のルートフェース10の高さLは15mmとした。開先幅BWは3mmである。なお、開先溝部11aと11bの開先角度は、収縮、変形等を考慮し、積層進行において各層積層時の開先底幅が3.0±0.3mmの範囲になるように設定した。被溶接材1aと1bと突き合わせはルートフェース10部に合わせ段差17を設けて開先底部がずれないように合わせた。被溶接材1a、1bはCr当量/Ni当量1.40のオーステナイト系ステンレス鋼SUS316Lである。開先底部に照射されるレーザ光4の照射幅Sは焦点位置を前記狭開先内の照射位置より上方(開先表面方向)にずらすことにより所定の幅に設定した。溶接は横向き姿勢で実施した。
図14に本実施例の狭開先レーザ溶接における積層の模式図を示す。図14において、紙面の上方が円筒形構造物の外側であり、紙面の下方が円筒形構造物の内側である。両面から溶接し8パスで接合した。まず初層溶接を両面から行い、初層溶接ビードの12aと12bとをラップさせルートフェース部を完全に溶融させたのち、積層溶接により開先溝部を埋めた。初層後の積層溶接は、まず、外側から2層目溶接ビード18aを形成し、次に内側から溶接して2層目溶接ビード18bを形成した。つぎに内側から溶接し3層目ビード19bを形成したのち、外側から溶接し外側3層目ビード19aを形成した。最終層の4層目は外側4層目ビード20aを形成した後、最後に内側4層目ビード20bを溶接した。表3に各層の溶接前の開先底幅Wとその層の溶込み深さP、レーザビームの照射幅Sと開先底幅Wとの比(S/W)及び溶接ビードの溶込み高さHと開先幅方向の最大溶込み幅WMとの比(H/WM)と、溶接欠陥の評価結果を示す。
Figure 2015120188
いずれの層にも溶接欠陥(溶接割れ及び融合不良)の発生は認められなかった。2層目〜4層目の各ビードの溶込み形状のH/WMは1.6〜2.2であり、溶接割れ並びに融合不良が生じないとされるH/Wの範囲1.5〜2.5内である。また。溶込み深さPも好ましいとされる2mm〜7mmの範囲内である。本実施例の結果、2層目以降の積層溶接においても、S/Wが1/4〜3/4で、且つH/WMが1.5〜2.5の範囲内の溶込み形状が得られる条件で溶接を行えば健全な溶接ビードが得られることが確認された。
以上説明したように、本発明によれば溶接割れ及び融合不良を抑制することが可能な狭開先レーザ溶接方法を提供できることが示された。
なお、上述した実施形態や実施例は、本発明の理解を助けるために説明したものであり、本発明は、記載した具体的な構成のみに限定されるものではない。例えば、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。すなわち、本発明は、本明細書の実施形態や実施例の構成の一部について、削除・他の構成に置換・他の構成の追加をすることが可能である。
例えば、上記実施例では、30mmと50mm厚さの板の狭開先突き合せ溶接に適用して結果について説明したが、被溶接材はこれらに限定されるものではない。また、本発明の実施例では、Cr当量/Ni当量が1.31〜1.40のオーステナイト系ステンレス鋼を用いたが、Cr当量/Ni当量が1.40以上のオーステナイト系ステンレス鋼SUS304やSUS316L鋼の溶接においても同様な結果が得られるのは言うまでもない。
1,1a,1b…被溶接材、2…狭開先、3…溶接ワイヤ、4…レーザ光、5…溶接ビード、6…シールドガスノズル、7…加工ヘッド、8…光ファイバー、9…溶融プール、10…ルートフェース、11…開先溝部、12,12a,12b…初層溶接ビード、13,13a,13b,13c…溶接ビード、14…開先底面、15…レーザ光の焦点位置、16…開先幅方向の溶込みの最大幅WMの位置、17…合わせ段差、18a,18b…2層目溶接ビード、19a,18b…3層目溶接ビード、20a,18b…4層目溶接ビード。

Claims (6)

  1. 被溶接材を突き合わせて狭開先を形成し、前記狭開先内にレーザ光を導光して集光照射し、前記狭開先内の前記レーザ光の照射部に溶接ワイヤを送給しつつ前記溶接ワイヤ及び前記被溶接材を溶融させて溶接ビードを形成し、前記溶接ビードを多層積層して被溶接材の積層溶接を行う狭開先レーザ溶接方法において、
    前記狭開先の開先幅は2mm以上4mm以下であり、
    2層目以降の前記溶接ビードの形成の際、
    前記レーザ光を、前記照射部における前記レーザ光の照射幅Sと前記照射部の開先底幅Wとの比S/Wが1/4以上3/4以下となるように照射し、
    且つ、前記溶接ビードの溶込み形状を、前記溶接ビードの積層高さDと下層溶接ビードへの溶込み深さPの和である溶け込み高さHと、前記溶接ビードの開先幅方向の溶込みの最大幅WMとの比H/WMが1.5以上2.5以下となるように溶接条件を制御することを特徴とする狭開先レーザ溶接方法。
  2. 前記レーザ光の照射幅Sを、前記レーザ光の焦点位置を前記被溶接材の底面方向又は表面方向にずらすことにより制御することを特徴とする請求項1に記載の狭開先レーザ溶接方法。
  3. 前記レーザ光の照射幅Sを、前記レーザ光を前記開先幅方向に揺動・走査させることにより制御することを特徴とする請求項1又は2に記載の狭開先レーザ溶接方法。
  4. 前記溶接ビードの溶込み深さPが2mm以上7mm以下となるように溶接条件を制御することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の狭開先レーザ溶接方法。
  5. 前記溶接ビードの前記開先幅方向の溶込みの幅が最大となる位置が、前記溶接ビードの積層高さDの1/2より上方にあることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の狭開先レーザ溶接方法。
  6. 前記被溶接材は、材料成分から算出されるCr当量/Ni当量が1.31以上1.40以下のオーステナイト系ステンレス鋼であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の狭開先レーザ溶接方法。
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