[第1実施形態]
本発明の第1実施形態について図面を参照して詳細に説明する。以下、CSMA/CAに基づく無線システムとして、無線LANシステムを用いた場合の例を示す。第1実施形態に係るヘテロジニアスネットワークシステムは、周辺のCSMA/CAに基づく無線システムの情報である無線システム環境情報を収集し、収集した無線システム環境情報Hを用いたスループット推定を実行する。第1実施形態では、無線システム環境情報を収集する第1の方法及び第2の方法を説明する。
図1は、第1実施形態における、ヘテロジニアスネットワークシステムの構成を示す図である。ヘテロジニアスネットワークシステムは、端末10‐1‐1〜端末10‐N‐UNと、無線システム200と、親システム300を備える。無線システム200は、アクセスポイント20‐1〜20‐M(Mは、1以上の整数)を有する。無線システム200は、例えば、無線LANシステムや、アンライセンスバンドで動作するセルラシステムである。親システム300は、基地局30−1〜30‐N(Nは、1以上の整数である)を有する。親システム300は、ライセンスバンドで通信する。
基地局30-k(kは、1〜Nまでの整数のいずれか)は、端末10-k-1〜端末10-k-Ukとの間で、制御信号、又は、制御信号及びデータ信号を無線通信している。Ukは、基地局30−kと通信可能な端末数である。
以下、端末10‐1‐1〜端末10‐N‐UN(無線LAN端末)に共通する事項については、接続する親システム300の基地局30の番号を表す2番目の符号と、その基地局30と通信する端末10の通し番号となる3番目の符号とを省略して、「端末10」と表記する。端末10は、無線システム200のアクセスポイント20との間で、データ通信可能なリンク(図1では、実線で表されている)、又は、BSSID情報及び利用チャネル等を示す制御信号が検出可能なリンク(図1では、点線で表されている)を有する。
第1実施形態の第1の方法では、端末10が検出する周辺の無線システム環境情報(アクセスポイント情報)を、親システム300に通知し、アクセスポイント20と最も近い距離で通信する端末10からの端末周辺無線システム環境情報を選択することで、端末10の接続先(通信先)となるアクセスポイント20(AP)から検出可能な無線システム環境情報(AP周辺無線システム環境情報)を推定する。
第1実施形態の第2の方法では、アクセスポイント20が検出した無線システム環境情報(アクセスポイント情報)を、ビーコンや通信パケットを通じて端末10に通知し、端末10から親システム300に通知し、親システム300でAP周辺無線システム環境情報を取得する。
図2は、第1実施形態における、無線システム環境情報を取得する第1の方法の動作手順を示すフローチャートである。無線システム環境情報を収集する第1の方法では、親システム300は、端末周辺無線システム環境情報、及び、AP周辺無線システム環境情報(アクセスポイント周辺無線システム環境情報)の少なくとも一方を端末10から収集し、記憶する。端末周辺無線システム環境情報は、無線システム環境情報を作成するための情報であり、周辺のアクセスポイント20を表す情報である。
(ステップS000)端末10は、検出可能な無線システム通信機器(アクセスポイント20及び端末10の少なくとも一方)の情報、又は、アクセスポイント20からの受信信号から得られた「アクセスポイント20から検出可能な無線システム通信機器の情報」を、親システム300に出力する。
図3は、第1実施形態における、端末10から収集された端末周辺無線システム環境情報を表により示す図である。図3に示す表の上から1行目には、端末10‐1が端末周辺無線システム環境情報を検出可能な(聞こえる)アクセスポイント20の識別情報(BSSID)と、利用しているチャネル、そのチャネルの受信電力の平均値(平均受信電力)[dBm]と、がまとめられている。
例えば、図3に示す表の上から1行目「1‐1」の一つ目の項目「BSSID1」は、C1、つまりチャネル「1番」を用いている。端末10‐1‐1におけるBSSID1からの信号の平均受信電力は、−55[dBm]である。また、端末10‐1‐1がアクセス可能なSSID(アクセスポイント20の識別子であり、SSIDが一致するアクセスポイント20とのみ通信することにより混信を防ぐ)を有するBSSIDについては、表において枠内を網掛けしている。チャネルの番号は、IEEEで定められたチャネル番号に従っている。チャネルの番号「1〜13」は、2[GHz]帯域に対応する。チャネルの番号「36〜140」は5[GHz]帯域に対応する。
図2に戻り、第1の方法のフローチャートの説明を続ける。
(ステップS001)親システム300の基地局30は、端末10から端末周辺無線システム環境情報を取得した場合、端末周辺無線システム環境情報に含まれるBSSIDが、親システム300に記憶された無線システム環境情報にすでに含まれているか否かを確認する。無線システム環境情報にすでに含まれている場合(ステップS001:YES)、基地局30は、処理をステップS002に進める。一方、無線システム環境情報にすでに含まれていない場合(ステップS001:NO)、基地局30は、処理をステップS003に進める。
(ステップS002)基地局30は、BSSIDを無線システム環境情報に新たに登録する。基地局30は、処理をステップS001に戻す。
(ステップS003)基地局30は、取得した端末周辺無線システム環境情報のBSSIDを確認する。基地局30は、BSSIDに対応付けられた平均受信電力の値が、すでに記憶しているBSSIDの更新電力(更新しきい値)を上回るか否かを判定する。
(ステップS004)基地局30は、そのBSSIDの端末周辺無線システム環境情報として、BSSIDに対応付けられた端末10の端末周辺無線システム環境情報を記憶する。基地局30は、処理をステップS003に戻す。
なお、上記のステップS003における「更新しきい値」には、そのBSSIDの端末周辺無線システム環境情報として前回に記憶した端末10の平均受信電力の値を用いることができる。また、平均受信電力が高いほど情報の精度は上がるが、推定してからの時間が長くなると、情報の精度が下がる。このため、更新しきい値は、情報の推定時刻又は記憶時刻から時間が経過するほど、値が下げられてもよい。更新しきい値は、式(3)により表される。
ここで、PTHは、更新しきい値である。PBSSIDは、BSSIDの端末周辺無線システム環境情報を推定した端末10における、そのBSSIDからの受信信号である。Δtは、経過時間である。P0は、更新しきい値オフセットである。ρは、時間経過しきい値低下係数である。P0に正の値を導入することで、更新しきい値は、時間的に少しでも新しい情報を優先できる。
ρは、アクセスポイント20の周辺の環境、アクセスポイント20の利用チャネル、又は、テザリングやモバイルルータの出入りが多く時間的な変化が大きい環境に応じて、相対的に大きくされてもよい。また、ρは、周辺の無線システムの利用形態に変化がないアクセスポイント20では、相対的に小さくされてもよい。
無線システム環境情報を収集する第1の方法では、親システム300は、アクセスポイント20で検出可能な無線システム通信の情報をアクセスポイント20から直接収集する手段を持たない。このため、親システム300は、端末10の周辺のアクセスポイント20を表す情報として端末10が推定した端末周辺無線システム環境情報を、端末10から収集することにより、アクセスポイントから検出可能なAP周辺無線システム環境情報を推定する。
具体的には、アクセスポイント20−jと最も近い位置にいる端末10−k−iが推定する端末周辺無線システム環境情報が、アクセスポイント20−jで検出されるであろう無線システム通信の情報に近いことを利用する。極端な例を挙げれば、端末10−k−iがアクセスポイント20−jと同じ位置に存在し、同じアンテナ構成を有すれば、両者は完全に一致することが期待できる。端末10−k−iとアクセスポイント20−jとが完全に同じ場所に存在することは考えにくいが、両者の位置が近ければ、つまり、アクセスポイント20−jからの信号を高い電力で受信する端末10−k−iが存在すれば、アクセスポイント20−jから検出されるであろう無線システムの通信情報は、端末10−k−iで検出された無線システム通信情報で置き換えることができる。このため、親システム300は、平均受信電力が最も高くなる端末10を、BSSID毎に選択する。逆に、BSSIDからの平均受信電力が非常に高い場合には、端末10から端末周辺無線システム環境情報を親システム300へ出力することもできる。
親システム300は、BSSID1、2及び5について、最も平均受信電力が高い端末10‐1‐1を選択する。親システム300は、BSSID3、6及び7について、最も平均受信電力が高い端末10‐1‐3を選択する。親システム300は、BSSID4及び8について、最も平均受信電力が高い端末10‐1‐6を選択する。親システム300は、選択された端末10が推定した端末周辺無線システム環境情報を、その端末10で最も平均受信電力が高いBSSIDを有するアクセスポイント20が推定したAP周辺無線システム環境情報と同じにする。
図4は、第1実施形態における、端末周辺無線システム環境情報のBSSID毎に整理された無線システム環境情報を示す図である。図4では、BSSIDの下に示された値は、参照した端末10におけるそのBSSIDの信号の平均受信電力[dBm]である。この平均受信電力の値が大きいほど、そのBSSIDのアクセスポイント20と端末10との距離が近く、情報の信頼度も高いことを示す。
図4では、表において枠内を網掛けしているBSSID9及びとBSSID10は、ベンダごとに振り分けられているBSSIDに基づいて、テザリング又はモバイルルータなどの局所的又は一時的に現れるアクセスポイント20に割り当てられたBSSIDを示す。また、そのBSSIDと同じ周波数チャネル(同CH)を用いているBSSIDは、表の左側に示されている。それ以外のBSSIDは、異なるチャネル(異CH)として、表の右側に示されている。
ここで、確かなBSSIDと、不確かなBSSIDとは、切り分け可能である。例えば、アクセスポイント20と端末10との間の距離dに対する伝搬ロスは、式(4)により表される(単位は[dB])。ここで、fは、搬送波周波数である。
図5は、第1実施形態における、距離と伝搬ロスとの関係を示す図である。端末10‐1‐kにおける平均受信電力R1,kは、式(5)により表される。ここで、Ptは、 送信電力[dBm]である。
アクセスポイント20の送信電力が17[dBm]である場合、BSSID1の平均受信電力「−55[dBm]」は、式(5)に基づいて距離に変換された場合、約12[m]となる。よって、BSSID1の情報には、±12[m]の誤差が含まれている、と考えられる。この誤差は、実際には受信できないBSSIDを抽出するために有効である。これは、さらし端末問題が生じている否かを判定するために、BSSIDを検出可能な範囲にいるアクセスポイント20のBSSIDは、正しく把握される必要があるためである。
所定のBSSIDを有するアクセスポイント20と、他のBSSIDを有するアクセスポイント20と、の間の平均受信電力に対して距離の誤差が与える誤差は、考慮される必要がある。距離の誤差が与える誤差は、端末周辺無線システム環境情報を受信した端末10が、その端末周辺無線システム環境情報に含まれるBSSIDに基づいて推定されるBSSIDを有するアクセスポイント20よりも近い場合に、特に問題となる。
図6は、第1実施形態における、端末10が推定した端末周辺無線システム環境情報から無線システム環境情報を作成する場合の問題点を示す図である。端末10‐1‐1は、アクセスポイント20‐2から受信した信号を、BSSID2を有するアクセスポイント20‐2からの信号として受信する。端末10‐1‐1は、BSSID2の平均受信電力を、−80[dBm]と推定する。端末10‐1‐1は、アクセスポイント20‐2よりもアクセスポイント20‐1に近い。このため、親システム300は、端末10‐1‐1が推定したBSSID情報を、アクセスポイント20‐1における端末周辺無線システム環境情報として用いることになる。
図6の上段に示すケース1のように、アクセスポイント20‐1がアクセスポイント20‐2に対し、端末10‐1‐1よりも遠くにいる場合、端末10‐1‐1がアクセスポイント20‐1から受信した端末周辺無線システム環境情報には、アクセスポイント20‐2を表す情報が含まれていない可能性がある。一方、図6の下段に示すケース2のように、アクセスポイント20‐1とアクセスポイント20‐2とが近い位置にいる場合、端末10‐1‐1がアクセスポイント20‐1から受信した端末周辺無線システム環境情報には、アクセスポイント20‐2を表す情報も含まれている可能性がある。
なお、アクセスポイント20の方が端末10よりも高所に設置されている場合、アクセスポイント20は、周辺の他のアクセスポイント20からの信号を、端末10よりも取得しやすい。このように、端末10‐1‐1で受信された端末周辺無線システム環境情報が、端末10‐1‐1から最も近いアクセスポイント20‐1でも検出可能とは限らない点は、考慮される必要がある。
図7は、第1実施形態における、アクセスポイント20からの距離と、推定距離ずれが引き起こす平均受信電力誤差との関係を示す図である。図6に示す問題点が生じる無線システム200のセル端について、アクセスポイント20からの距離が仮定された場合、平均受信電力に対する誤差量は、推定可能である。
図8は、第1実施形態における、BSSID毎に選択した端末10における平均受信電力と、生じうる平均受信電力の誤差との関係を示す図である。図8では、図7に示す関係において、無線システム200のセル端(セルエッジ)について、アクセスポイント20からの距離は、40[m]、50[m]、60[m]と仮定されている。
セル端が仮定された場合、BSSID毎に選択した端末10における、平均受信電力に対する誤差は、BSSID毎に見積り可能である。図8に示す「端末における平均受信電力」と、平均受信電力誤差(RSSI(Received Signal Strength Indicator)エラー)との関係は、予め記憶される。これにより、所定のBSSIDを有するアクセスポイント20には受信されていない可能性のある、他のBSSIDを有するアクセスポイント20の端末周辺無線システム環境情報は、抽出可能となる。例えば、セル端が40[m]である場合、端末10における平均受信電力Rp[dBm]と、平均受信電力誤差ΔRAP[dB]との関係は、2次関数で近似することもできる。
図4に示すように、BSSID1では、選択した端末10の平均受信電力は、−55[dBm]である。平均受信電力誤差ΔRAPは、式(6)により、3.8[dB]である。BSSID2では、選択した端末10の平均受信電力は、−58[dBm]である。平均受信電力誤差ΔRAPは、式(6)により、4.5[dB]である。BSSID3では、選択した端末10の平均受信電力は、−52[dBm]である。平均受信電力誤差ΔRAPは、式(6)により、3.1[dB]である。BSSID4では、選択した端末10の平均受信電力は、−66[dBm]である。平均受信電力誤差ΔRAPは、式(6)により、6.9[dB]である。
BSSID5では、選択した端末10の平均受信電力は、−60[dBm]である。平均受信電力誤差ΔRAPは、式(6)により、5.0[dB]である。BSSID6では、選択した端末10の平均受信電力は、−52[dBm]である。平均受信電力誤差ΔRAPは、式(6)により、3.1[dB]である。BSSID7では、選択した端末10の平均受信電力は、−51[dBm]である。平均受信電力誤差ΔRAPは、式(6)により、2.9[dB]である。BSSID8では、選択した端末10の平均受信電力は、−56[dBm]である。平均受信電力誤差ΔRAPは、式(6)により、4.0[dB]である。
最小検出感度を−90[dBm]とした場合、平均受信電力が誤差により−90[dBm]以下になるのは、BSSID4を有するアクセスポイント20から検出可能と推定された、BSSID5を有する他のアクセスポイント20を表す情報(端末周辺無線システム環境情報)である。このBSSID5は、図4では、BSSID4と記載された行に示されている。この端末周辺無線システム環境情報は、信頼性が低いと判定される。
以上のように、本実施形態に係るヘテロジニアスネットワークシステムは、端末10と、無線システム200と、親システム300とを備える。無線システム200は、複数のアクセスポイント20を含む。親システム300は、少なくとも一つの基地局30を含む。
図9は、第1実施形態における、無線システム環境情報を取得する第2の方法の動作手順を示すフローチャートである。無線システム環境情報を収集する第2の方法では、親システム300は、AP周辺無線システム環境情報を端末10から収集し、記憶する。
まず、アクセスポイント20−jは、アクセスポイント20−j周辺で通信を行うアクセスポイント20及び端末10のうち、少なくともアクセスポイント20の情報を推定する。推定する内容は、例えば、周辺アクセスポイント20のBSSID、周辺アクセスポイント20の利用チャネル、周辺アクセスポイント20からの信号の平均受信電力値、周辺アクセスポイント20のパケット占有率、周辺アクセスポイント20と通信する端末の数、及び、周辺のアクセスポイント20から検出可能なアクセスポイント20のBSSIDのうち、少なくとも一つである。
(ステップS800)アクセスポイント20−jは、検出したAP周辺無線システム環境情報を、周辺の端末10へ通知する。
(ステップS801)端末10でAP周辺無線システム環境情報を取得し、AP周辺無線システム環境情報、並びに、アクセスポイント20のBSSID及びチャネル情報の少なくとも一方を、親システム300の基地局30へ出力する。
(ステップS802)親システム300の情報整理部は、AP周辺無線システム環境情報を更新する。
端末10は、無線システム200の検出可能な範囲にいるアクセスポイント20−jから、アクセスポイント20−jの周辺の無線システム環境情報を取得する第1周辺情報収集部と、アクセスポイント20−jに関する情報を、無線通信により基地局30へ出力する第1端末情報出力部と、を有する。
親システム300は、アクセスポイント20−jに関する情報を、第1端末情報出力部から収集する情報収集部と、第1の方法又は第2の方法により、アクセスポイント20から検出可能な他のアクセスポイント20を表す情報(AP周辺無線システム環境情報)を記憶する情報整理部と、情報収集部により収集されたAP周辺無線システム環境情報及び端末周辺無線システム環境情報の少なくとも一方に基づいて、無線システム200に端末10がアクセスする際のスループットの低下リスク(無線システムリスク情報)を評価するリスク評価部と、を有する。
本実施形態に係る通信回線選択方法は、端末10の第1周辺情報収集部が実行するステップと、端末10の第1端末情報出力部が実行するステップと、親システム300の情報収集部が実行するステップと、親システム300の情報整理部が実行するステップと、親システム300のリスク評価部が実行するステップと、親システム300、基地局30又は端末10の第1トラヒック選択部が実行するステップとを有する。
端末10の第1周辺情報収集部は、検出可能な範囲に存在するアクセスポイント20の情報、及び、アクセスポイント20―jから通知される「アクセスポイント20−jから検出されるアクセスポイント20の情報」の少なくとも一方を取得する。端末10の第1端末情報出力部は、取得した無線システム環境情報を、無線通信により出力する。
親システム300の情報収集部は、端末10から入力された無線システム環境情報を、第1端末情報出力部から収集する。親システム300の情報整理部は、アクセスポイント20から検出可能な他のアクセスポイント20の情報を、第1の方法又は第2の方法に基づいてアクセスポイント20毎に、AP周辺無線システム環境情報として記憶する。また、親システム300の情報整理部は、端末10から検出可能なアクセスポイント20の情報を、第1の方法又は第2の方法に基づいてアクセスポイント20毎に、端末周辺無線システム環境情報として記憶する。
親システム300のリスク評価部は、情報収集部により収集されたAP周辺無線システム環境情報及び端末周辺無線システム環境情報の少なくとも一方に基づいて、無線システム200のスループットの低下リスクを評価する。親システム300の第1トラヒック選択部は、スループット評価部によるスループット評価の結果と、リスク評価部によるリスク評価の結果と、に基づいて、端末10との無線通信の相手となるアクセスポイント20及び基地局30の少なくとも一方を定める。
第1トラヒック選択部は、親システム300により推定された「無線システム200のスループットの低下リスク」に基づいて、無線システム200のアクセスポイント20、及び、親システム300の基地局30のうち少なくとも一方を、接続先として選択する。
第1トラヒック選択部は、端末10とデータ通信を行うアクセスポイント20−jとの間の信号受信電力の平均値(平均受信電力)、アクセスポイント20−jから検出される同一チャネルのアクセスポイントのBSSIDの数、アクセスポイント20−jに接続している端末10の数、及び、アクセスポイント20−jに接続している端末10のトラヒック量のうち少なくとも一つにおいて、スループットを評価し、推定されたスループット値及び安定性の双方に基づいて、無線システム200のアクセスポイント20、及び、親システム300の基地局30のうち少なくとも一方を、接続先として選択することもできる。
これにより、ヘテロジニアスネットワークシステム、及び、通信回線選択方法は、無線システム200と共存する親システム300と、無線システム200または親システム300に接続する端末10と、を含むヘテロジニアスネットワークにおいて、無線システム200に接続する端末10のスループットの不安定性を推定し、急激なスループット低下を生じない端末に無線システム200とのデータ通信を行うように選択できる。このようにすることで、急激なスループットの低下を防ぐことでユーザの満足度の低下を防ぎ、予測できないスループット低下が許容できないQoSクラス、アプリケーション利用に対応する端末に、搬送波感知多重アクセス(CSMA/CA)に基づく通信でありながら、安定したスループットを提供できる。
つまり、本実施形態に係るヘテロジニアスネットワークシステムは、無線システム200のスループットの不安定さを予め予測することで、スループットが大きく変動しうる端末10を検出する。本実施形態に係るヘテロジニアスネットワークシステムは、予測できないスループット低下が許容できない端末10を、無線システム200のアクセスポイント20と通信させないことができる。本実施形態に係るヘテロジニアスネットワークシステムは、スループットの急減な低下を許容できないアプリケーションを利用している端末10、すなわち、スループットが低下すると問題のある端末10を、基地局30と、又は、基地局30及びアクセスポイント20と、データ通信させる。
本実施形態に係るヘテロジニアスネットワークシステムは、データ通信を行おうとするアクセスポイント20−jから検出できる同じチャネルを用いるアクセスポイント20の数を、無線システム200のスループットの低下リスク情報として用いることができる。本実施形態に係るヘテロジニアスネットワークシステムは、接続しようとするアクセスポイント20−jから検出できる同じチャネルを用いるアクセスポイント20に関する通信パケット占有率を、無線システム200のスループットの低下リスク情報として用いることができる。本実施形態に係るヘテロジニアスネットワークシステムは、接続しようとするアクセスポイント20−jから検出できる同じチャネルを用いるアクセスポイント20のうち互いに検出できないアクセスポイント20の数を、無線システム200のスループットの低下リスク情報として用いることができる。本実施形態に係るヘテロジニアスネットワークシステムは、端末10−k−iにおいて検出できるデータ通信を行おうとするアクセスポイント20−jと同じチャネルを用いるアクセスポイント20−j以外のアクセスポイント20の数を、無線システム200のスループットの低下リスク情報として用いることができる。本実施形態に係るヘテロジニアスネットワークシステムは、データ通信を行おうとするアクセスポイント20−jにおいて検出できるが端末10−k−iで検出できないアクセスポイント20−jと同じチャネルを用いるアクセスポイント20の数を、無線システム200のスループットの低下リスク情報として用いることができる。本実施形態に係るヘテロジニアスネットワークシステムは、端末10−k−iで検出可能だがデータ通信を行おうとするアクセスポイント20−jにおいて検出できないアクセスポイント20−jと同じチャネルを用いるアクセスポイント20の数を、無線システム200のスループットの低下リスク情報として用いることができる。本実施形態に係るヘテロジニアスネットワークシステムは、端末10−k−iで検出できるアクセスポイント20のうち互いに検出できないアクセスポイント20の数を、無線システム200のスループットの低下リスク情報として用いることができる。
端末10は、自端末の位置を示す位置情報を出力する位置情報出力部を有することもできる。情報整理部は、アクセスポイント20を表す情報を、端末10の位置情報に対応付けて記憶する。リスク評価部は、動作していない端末10の位置を示す位置情報に基づいて、推定結果に基づいて、低下リスクを評価する。
第1端末情報出力部は、さらし端末問題や隠れ端末問題などの無線システム固有の問題や、他の電子機器による干渉信号、又は、レーダ検出によるチャネル移動により一定時間、端末10からの送受信が成功しない場合、データ通信を行う相手であるアクセスポイント20−jに対する不通情報(一定時間不通情報)を、基地局30に通知する。
情報整理部は、端末10からの不通情報及び原因情報を、アクセスポイント20−j毎に記憶する。記憶された不通情報は、無線システム200のアクセスポイント20−jのスループットが低下するリスクを示す情報として、用いることができる。
親システム300は、端末10におけるアクセスポイント20からの信号の受信電力値、アクセスポイントの識別情報(ID)、利用可能な周波数帯域幅、及び、無線通信によりアクセスしている端末10の数のうち少なくとも一つに基づいて、又は、アクセスポイント20又は端末10において測定されたスループット実測値に基づいて、無線システム200の端末10におけるスループットの期待値を評価する無線システムスループット評価部を有する。基地局30は、無線システムスループット評価部による評価の結果と、リスク評価部による評価の結果と、を通知する評価通知部を有する。端末10は、評価通知部から通知された無線システムスループット評価部による評価の結果及びリスク評価の結果に基づいて、アクセスポイント20及び基地局30の少なくとも一方と通信するトラヒック選択部を有する。
[第2実施形態]
第2実施形態では、アクセスポイント20が親システム300と通信する点が、第1実施形態と相違する。第2実施形態では、第1実施形態との相違点についてのみ説明する。
第2実施形態では、無線システム環境情報を収集する第3の方法を説明する。アクセスポイント20は、親システム300と直接通信することが可能である。また、アクセスポイント20は、基地局30を経由して親システム300と通信してもよい。また、アクセスポイント20は、他のネットワークを経由して親システム300と通信してもよい。
図10は、第2実施形態における、ヘテロジニアスネットワークシステムの構成を示す図である。第2実施形態では、親システム300は、アクセスポイント20で検出可能な無線システムの通信情報(AP周辺無線システム環境情報)、及び、アクセスポイント20におけるトラヒック情報を、アクセスポイント20から直接取得できるため、より正確な無線システム環境情報を収集することができる。AP周辺無線システム環境情報には、アクセスポイント20のトラヒック情報が含まれていてもよい。ここで、アクセスポイント20におけるAP周辺無線システム環境情報及びトラヒック情報のうち少なくとも一方をアクセスポイント20から収集する頻度と、端末10から端末周辺無線システム環境情報を収集する頻度とは、それぞれ独立に定めることができるものとする。
親システム300は、端末周辺無線システム環境情報(例えば、図3を参照)を、無線システムをONにしている端末10から収集する。また、親システム300は、AP周辺無線システム環境情報を、少なくとも一つのアクセスポイント20から収集する。
図11は、第2実施形態における、アクセスポイント20から無線システム環境情報を取得する第3の方法の動作手順を示すフローチャートである。第3の方法は、第1の実施形態に示す第1の方法又は第2の方法と併用することができる。
(ステップS100)アクセスポイント20−jは、アクセスポイント20の周辺の無線システムの通信情報(AP周辺無線システム環境情報)、及び、自装置の送受信のトラヒック情報の少なくとも一方を収集する。アクセスポイント20の周辺の無線システム通信の情報とは、例えば、検出できるアクセスポイント20のBSSIDや使用するチャネル、受信電力、配下の端末の数、又は、パケットの時間占有率の情報などである。自装置のトラヒック情報とは、例えば、アクセスポイント20−jが通信を行う端末の数、平均スループット、パケットの時間占有率、バッファに記憶する送受のパケット信号のデータ量、バッファにデータ量が残留する時間比率、バックホールの通信容量、不通情報、又は、それらの上下回線ごとの情報のうち少なくとも一つを含む情報である。
(ステップS101)これらの収集された情報は、無線又は有線の通信を介して、親システム300へ出力される。
(ステップS102)親システム300は、収集された情報を、AP周辺無線システム環境情報として記憶する。
第2の実施形態で得られるアクセスポイント20の情報は、第1の実施形態の第2の方法でも得ることができるが、トラヒック情報を得ることができる点と頻度が、第2の方法とは異なる。第2の方法とどちらの頻度が高くなるかは利用形態によるため、一意には決まらないが、親システム300は、通信の負荷及び頻度に基づいて、第1実施形態の第2の方法と第2実施形態の第3の方法との少なくとも一方により、アクセスポイント20の情報を収集できる。
本来、第2実施形態の第3の方法と、第1実施形態の第2の方法とでは、アクセスポイント20−jのAP周辺無線システム環境情報のアクセスポイント20−j(すなわち、自装置)に対応する平均受信電力は、測定できない。第1実施形態の第1の方法と、第1実施形態の第2の方法と、第2実施形態の第3の方法と、を併用する場合、親システム300は、アクセスポイント20−jのAP周辺無線システム環境情報のアクセスポイント20−j(すなわち自装置)に対応する平均受信電力を、非常に大きい値として定めることができる。例えば、親システム300は、アクセスポイント20から取得した情報の平均受信電力相当を、0[dBm]などと定義することで、式(3)のように、更新しきい値(判定しきい値)を経過時間毎に定義してもよい。
また、第1実施形態に係る環境情報を推定する第1の方法とは異なり、親システム300は、BSSIDに関する情報の項目毎に、更新しきい値を定めることができる。親システム300は、周辺に設置された機器から検出可能なBSSIDや、そのBSSIDの平均受信電力など、時間的に変化が少ないものは、更新しきい値を時間経過に応じて減少させないようにする。一方、親システム300は、テザリング端末又はモバイルルータのBSSIDについては、更新しきい値を時間経過に応じて減少させ、平均受信電力が低い情報でも更新しやすくすることができる。
図12は、第1の方法と、第2の方法又は第3の方法と、を併用する場合を示すフローチャートである。ステップS900、ステップS901及びステップS902は、第1の方法と同様である。
(ステップS903)親システム300は、端末周辺無線システム環境情報を端末10から取得した際、BSSID及び端末周辺無線システム環境情報毎に、平均受信電力と更新しきい値とを比較する。親システム300は、対応する平均受信電力が更新しきい値に対して高いか否かを判定する。対応する平均受信電力が更新しきい値に対して高い場合(ステップS903:YES)、親システム300は、処理をステップS904に進める。対応する平均受信電力が更新しきい値に対して高くない場合(ステップS903:NO)、親システム300は、処理を終了する。
(ステップS904)親システム300は、無線システム環境情報の項目を、端末10から収集した端末周辺無線システム環境情報に基づいて更新する。親システム300は、処理をステップS903に戻す。
図13は、第2実施形態における、アクセスポイント20から収集されたAP周辺無線システム環境情報及びトラヒック情報がBSSID毎に整理された無線システム環境情報の例を示す図である。親システム300は、端末10からの端末周辺無線システム環境情報と、アクセスポイント20からのAP周辺無線システム環境情報と、に基づいて、アクセスポイント20の無線システム環境情報を作成する。
図13に示す無線システム環境情報では、「AP‐1」は、2[GHz]及び5[GHz]を同時に利用できるマルチキャリア・アクセスポイント(AP)であり、BSSID1及びBSSID2を有している。アクセスポイント20は、複数のBSSIDを有することができるので、端末10で測定した異なるBSSIDが、異なるアクセスポイント20に対応するとは限らない。
アクセスポイント20からの情報により、信号を受信して復号可能なBSSID情報の他に、図13に示すように、そのBSSIDに所属する端末10の数、バッファにデータが存在して送信待ちとなっているビジー状態の百分率、バックボーン回線のスループット容量などが収集可能である。
また、アクセスポイント20からの情報により、対象端末に対する平均受信電力、アップリンク回線の占有率、アプリケーション情報、端末のモビリティ情報、動的電波周波数選択(DFS:Dynamic Frequency Selection)バンドのレーダ検出情報、2[GHz]の他システム干渉検出情報、テザリング・モバイルルータAP観測情報、位置情報、通信利用パラメータ情報(変調方式と符号化率インデックス、MIMO通信空間多重数、マルチユーザMIMOモード利用情報、ショートガードインターバル利用情報、チャネルフィードバック方式情報など)、不通情報、並びに、これらの情報の時刻及び曜日特性情報などが収集可能である。また、アクセスポイント20は、ビジー率について、パケットの時間的占有率を端末10毎又はBSSID毎に推定し、推定結果を親システム300へ出力してもよい。
親システム300は、図13に示す無線システム環境情報を、アクセスポイント20から直接得ることで、端末10から受信した端末周辺無線システム環境情報のBSSID毎に整理された無線システム環境情報(図4を参照)よりも、正確な無線システム環境情報とすることができる。
アクセスポイント20から収集される端末周辺無線システム環境情報は、必ずしもリアルタイムで収集できるとは限らない。このため、端末周辺無線システム環境情報において動的に変わりうるパラメータについては、信頼度は低い。例えば、数分〜数時間スケールで現れる、テザリング端末又はモバイルルータなどのアクセスポイント20として動作している装置、及び、チャネルを動的に変更するBSSIDを有する他のアクセスポイント20などについては、アクセスポイント20から収集したAP周辺無線システム環境情報は、端末10から収集した端末周辺無線システム環境情報よりも精度が低いと考えられる。
そこで、親システム300は、アクセスポイント20から受信したAP周辺無線システム環境情報が整理された無線システム環境情報(図13を参照)と、端末10から受信した端末周辺無線システム環境情報が整理された無線システム環境情報(図4を参照)と、を比較する。この比較により、親システム300は、周辺の無線システム通信環境の推定精度を向上させることができる。
親システム300は、例えば、テザリング端末又はモバイルルータなどのアクセスポイント20(図13では、BSSID9及びBSSID10)の存在のずれ(相違)がある場合、及び、同じBSSIDに用いている周波数チャネルにずれがある場合、新しい端末周辺無線システム環境情報を優先する。
アクセスポイント20から受信したAP周辺無線システム環境情報が整理された無線システム環境情報を示す表(図13を参照)では、アクセスポイント20‐1「AP‐1」の行において、BSSID7の利用チャネルは、100番(C100)となっている。一方、端末10から受信した端末周辺無線システム環境情報が整理された無線システム環境情報を示す表(図13を参照)では、BSSID7の利用チャネルは、120番(C120)となっている。端末10から受信した端末周辺無線システム環境情報が、アクセスポイント20から受信した端末周辺無線システム環境情報よりも新しい場合、親システム300は、端末10から受信した端末周辺無線システム環境情報に基づいて、無線システム環境情報におけるBSSID7の利用チャネルを100番とする。
図13では、テザリング端末又はモバイルルータが有するBSSID10は、新しい情報であり、端末10が受信している。このため、BSSID1及びBSSID2に基づいて現在ではBSSID10が検出される、と考えることができる。その他のBSSIDの観測情報や平均受信電力の値などは、アクセスポイント20で測定した結果が正確であるとしてもよい。
情報を結合する際、図4に示すBSSID毎に端末周辺無線システム環境情報を取得した端末10における平均受信電力の値と、端末周辺無線システム環境情報又はAP周辺無線システム環境情報を収集してから経過した時間と、に基づいて、図4に示す無線システム環境情報と、図13に示す無線システム環境情報と、を統合することもできる。
端末周辺無線システム環境情報又はAP周辺無線システム環境情報を収集してから経過した時間を親システム300が正確に把握できるよう、端末10は、端末周辺無線システム環境情報を親システム300に出力する際、その端末周辺無線システム環境情報を推定した時刻を出力することができる。同様に、アクセスポイント20は、AP周辺無線システム環境情報を親システム300に出力する際、そのAP周辺無線システム環境情報を推定した時刻を出力することができる。
また、親システム300は、推定した時刻を知らなくても、推定後ただちに情報を使ってフィードバックするなどして、端末周辺無線システム環境情報又はAP周辺無線システム環境情報を取得した時刻に基づいて、端末10又はアクセスポイント20が推定した時刻をおおよそ推定することもできる。
端末周辺無線システム環境情報又はAP周辺無線システム環境情報を推定した時刻から現在までの経過時間Δtを推定できる場合、図3及び図13にそれぞれ示すように、無線システム環境情報には、収集した情報に基づいて、経過時間Δt[分]が含まれている。よって、親システム300は、リアルタイム性が求められる情報については、端末周辺無線システム環境情報及びAP周辺無線システム環境情報のうち、経過時間Δtが小さい方の情報を選択する。一方、親システム300は、リアルタイム性が求められない情報については、AP周辺無線システム環境情報、又は、平均受信電力が高い端末10から受信した端末周辺無線システム環境情報を、確からしい情報として選択できる。
第1実施形態における無線システム環境情報を収集する第1の方法及び第2の方法と同様に、第2実施形態における無線システム環境情報を収集する第3の方法によっても、親システム300は、BSSID毎に整理された無線システム環境情報を作成する。
図14は、第2実施形態における、更新された無線システム環境情報を示す図である。つまり、図14は、図4に示す無線システム環境情報が、図13に示す無線システム環境情報に基づいて更新された無線システム環境情報である。更新される箇所は、図14において、「BSSIDと同一」と記載されている。
親システム300は、端末周辺無線システム環境情報を端末10から基地局30を介して取得できない場合、アクセスポイント20から受信したAP周辺無線システム環境情報のみに基づいて、無線システム環境情報を作成する。また、アクセスポイント20は、端末10により推定された端末周辺無線システム環境情報を受信し、端末10により推定された端末周辺無線システム環境情報として、親システム300に転送してもよい。
親システム300は、図14の下段に追加された表のように、BSSIDの通信と同一チャネルにおけるビーコンなどの制御信号の数を、端末10又はアクセスポイント20から収集する。親システム300は、制御信号が全体時間に対してどの程度の送信時間を占めているかを、ビーコン数に基づいて推定することができる。
図15は、第2実施形態における、親システムの無線システム環境情報作成・更新部を示す図である。親システム300は、端末無線システム情報収集部100と、AP無線システム情報収集部101と、無線システム環境情報作成・更新部102とを有する。
端末無線システム情報収集部100は、通信可能な端末10から、端末周辺無線システム環境情報を収集する。AP無線システム情報収集部101は、AP周辺無線システム環境情報及びトラヒック情報のうち少なくとも一方を、通信可能なアクセスポイント20から収集する。無線システム環境情報作成・更新部102は、図4及び図13に示す無線システム環境情報を記憶する。また、無線システム環境情報作成・更新部102は、図4及び図13に示す無線システム環境情報を更新する。
端末無線システム情報収集部100、AP無線システム情報収集部101、及び、無線システム環境情報作成・更新部102は、親システム300に含まれるコンピュータに備えられる。また、端末無線システム情報収集部100、AP無線システム情報収集部101、及び、無線システム環境情報作成・更新部102は、親システム300に含まれる基地局30に備えられてもよい。また、端末無線システム情報収集部100、AP無線システム情報収集部101、及び、無線システム環境情報作成・更新部102は、データ通信を実行する基地局30とは別に制御信号を通信するマクロセル基地局に、備えられてもよい。
スループットが評価される対象エリアは、各機能ブロックが親システム300に備えられた場合、各機能ブロックがマクロセル基地局に備えられた場合、各機能ブロックが基地局30に備えられた場合の順に、小さくなる。スループットが評価される対象エリアが小さくなるに従い、無線システム200に含まれるアクセスポイント20と通信する全ての端末10のスループットを推定することは難しくなる。一方、スループットが評価される対象エリアが小さくなるに従い、無線システム環境情報を記憶する記憶部の容量を小さく構成することができる。端末周辺無線システム環境情報及びAP周辺無線システム環境情報を親システム300に出力する頻度及び通信ビット量は、スループットが評価される対象エリアが小さくなるに従い減少する。また、AP周辺無線システム環境情報及びトラヒック情報を親システム300に出力する頻度及び通信ビット量も、スループットが評価される対象エリアが小さくなるに従い減少する。
次に、スループットの不安定性として最低スループットを推定する方法を説明する。
親システム300は、式(1)に基づいて、スループットの期待値を評価する。親システム300は、測定されたスループットに基づいて、スループットの期待値を評価してもよい。親システム300は、信号を検出可能な範囲にいる他のアクセスポイント20から信号が占有する時間τpや、アクセス頻度が判らない場合でも、アクセス先のアクセスポイント20‐jのみを考慮して、スループットの期待値を評価する。
親システム300は、アプリケーションで用いられるデータパケット長τDと、SIFS(Short IFS)と、DIFS(Distributed Inter-Frame Space)と、ランダムアクセスのためのコンテンションウィンドウサイズの平均値などによる制御信号のオーバーヘッドτCWと、アクセスポイント20−pが一回の通信に占める時間長τpと、に基づいて、MAC効率ηjを算出する。MAC効率ηjは、式(7)により表される。
親システム300は、MAC効率ηjを式(1)に代入することにより、端末10‐k‐iの無線システムチャネルにおける推定スループットTk,i(スループットの期待値)を算出する。親システム300は、アクセスポイント20‐jと同じチャネルを用いているアクセスポイント20の数Ljで、MAC効率ηjを除算することにより、スループットの期待値を推定してもよい。
ユーザの満足度に深刻な影響を与える最低スループットやその頻度は、これらの方法で算出できない。これらスループットの期待値からスループットがどれだけ低下するか、及び、その頻度や持続時間が分かれば、親システム300は、ユーザの端末10の通信条件にスループットの期待値が適合するか否かを、予め判定することができる。
スループットの大きな低下を引き起こす要因には、(i)さらし端末問題、(ii)隠れ端末問題、(iii)テザリング端末又はモバイルルータによるアクセスポイント20の数の変化、(iv)レーダや他システムからの干渉、が挙げられる。
(i)さらし端末問題
親システム300は、同じ周波数チャネルを用いる複数の無線システム装置が存在し、それら複数の無線システム装置が互いに信号を検出可能か否かと、それら複数の無線システム装置がどの程度の時間で信号を送信するかとの情報に基づいて、さらし端末問題のリスクを判定する。以下、図14に示す無線システム環境情報に基づいて、下り回線と上り回線とに分けて説明する。
<下り回線について>
図14では、端末10は、アクセスポイント20‐1「AP‐1」と、アクセスポイント20‐3「AP‐3」と、アクセスポイント20‐4「AP‐4」と、に接続している。このため、アクセスポイント20‐1、20‐3及び20‐4が受けている「さらし端末問題」の影響を考える。
図14では、同じチャネルを有するBSSIDが受信されると期待されるのは、BSSID1及びBSSID3である。BSSID1については、同じチャネルにBSSID9及びBSSID10が存在する。さらし端末問題は、互いに信号を検出可能であることが成立条件である。このため、BSSID1、BSSID9及びBSSID10を有するそれぞれのアクセスポイント20は、それぞれフルバッファ状態(ビジー状態)で常に送信を行うための信号を持っている状態であっても、周波数リソースがおよそ3分の1に振り分けられる。この場合、さらし端末問題による大きな問題は生じない。
次に、BSSID3を有するアクセスポイント20は、BSSID4を有するアクセスポイント20、及び、BSSID5を有するアクセスポイント20と、チャネルを共有している。BSSID4を有するアクセスポイント20と、BSSID5を有するアクセスポイント20とは、図14に示されているように、互いに信号を受信できない可能性が高い。
つまり、BSSID4を有するアクセスポイント20は、BSSID5を有するアクセスポイント20から信号を受信することができない。また、BSSID5を有するアクセスポイント20は、BSSID4を有するアクセスポイント20から信号を受信することができない。したがって、BSSID4を有するアクセスポイント20と、BSSID5を有するアクセスポイント20とは、互いに独立に動作し、他方が信号を送信中でも自装置から信号を送信可能である。このため、BSSID3を有するアクセスポイント20が全くアクセスできない場合が考えられる。
親システム300は、BSSID4を有するアクセスポイント20と、BSSID5を有するアクセスポイント20とが、どのくらいの長さのデータパケットを用いて、どの程度の頻度でフルバッファ状態での通信を行うかと、ビーコン(Beacon)数となどに基づいて、スループットが実際にどこまで低下し得るかを推定できる。
例えば、BSSID4を有するアクセスポイント20が80[%]、BSSID5を有するアクセスポイント20が70[%]の確率(アクセス確率)で送信を実行する場合、CSMA/CAにおいて、BSSID3を有するアクセスポイント20が送信権を取得する確率は、6[%](=20[%]×30[%])である。つまり、式(1)に値0.06を乗算したものが、最小スループットとなる。
ビーコンなどの制御信号が、BSSID3を有するアクセスポイント20から数多く受信されている場合、BSSID4を有するアクセスポイント20と、BSSID5を有するアクセスポイント20とのアクセス確率を下げるスループットは、BSSID4を有するアクセスポイント20と、BSSID5を有するアクセスポイント20との通信状況に依存する。このため、スループットの推定は困難である。
親システム300は、BSSID3を有するアクセスポイント20の下り回線において、急激なスループット低下が生じ得ることを確認できる。親システム300は、アクセスポイント20‐jとの下り回線通信を実行している端末10に、スループットが低下したタイミング及び持続時間を報告させる。
親システム300は、急激なスループット低下が生じ得る場合、アクセスポイント20‐jのチャネルを変更させる。また、親システム300は、スループットが低下する原因となっているBSSID4を有するアクセスポイント20における送信権の取得頻度を低下させる。また、親システム300は、コンテンションウィンドウサイズを増やす。また、親システム300は、BSSID4を有するアクセスポイント20に対して、無送信時間区間を指定する。
<上り回線について>
図14について、端末10が通信相手とするアクセスポイント20と、そのアクセスポイント20と同じチャネルを用いる他のBSSIDを有するアクセスポイント20とが、互いに信号を検出可能となっているか否かを確認する。
端末10‐1‐3と、端末10‐1‐4とが、BSSID3を有するアクセスポイント20にそれぞれ接続したものとする。端末10‐1‐3は、BSSID4を有するアクセスポイント20からの信号と、BSSID5を有するアクセスポイント20からの信号とを検出可能であるため、アクセス権を取得しづらくなると考えられる。一方、端末10‐1‐4は、BSSID4を有するアクセスポイント20からの信号のみを検出可能であるため、アクセス権を取得しづらくならないと考えられる。
よって、端末10‐1‐3は、上り回線及び下り回線ともに、スループットが低下するリスクがあるといえる。親システム300は、他のBSSIDを有するアクセスポイント20と通信するよう、端末10‐1‐3に指示する。
図16は、第2実施形態における、下り回線スループットを評価する動作手順を示すフローチャートである。つまり、図16は、さらし端末問題による下り回線スループット低下を検出する動作手順を示すフローチャートである。
(ステップS301)親システム300は、端末10‐k‐iがアクセスしようとするアクセスポイント20のBSSIDと同じチャネルを用いているアクセスポイント20から検出可能である他のBSSIDを抽出する。
(ステップS302)親システム300は、抽出された他のBSSIDの数が一つ以下であるか否かを判定する。抽出された他のBSSIDの数が一つ以下である場合(ステップS302:YES)、親システム300は、ステップS305に処理を進める。一方、抽出された他のBSSIDの数が二つ以上である場合(ステップS302:NO)、親システム300は、ステップS303に処理を進める。
(ステップS303)親システム300は、抽出されたBSSIDの情報を参照し、互いに信号を検出可能であるか否かを判定する。互いに信号を検出可能である場合(ステップS303:YES)、親システム300は、ステップS305に処理を進める。一方、互いに信号を検出可能でない場合(ステップS303:NO)、親システム300は、ステップS304に処理を進める。
(ステップS304)親システム300は、抽出したBSSIDを有するアクセスポイント20からの下り回線通信において、さらし端末問題による大きなスループット低下が起こり得ると判定する。親システム300は、抽出されたBSSIDを有するアクセスポイント20に対する端末10‐k‐iからのアクセスに対し、さらし端末問題によるスループット低下を示すフラグ情報を有効にする。親システム300は、具体的な最低スループットを、他のBSSIDを有するアクセスポイント20の通信状況に基づいて推定する。
(ステップS305)親システム300は、抽出されたBSSIDを有するアクセスポイント20の下り回線に対し、安定した通信が可能であると判定する。同じBSSIDが存在する分だけ、周波数リソースの配分比が減るものの、そのチャネルにおけるBSSIDと、配下の端末10の数とに基づいて推定可能なスループットが期待される。
図17は、第2実施形態における、上り回線スループットを評価する動作手順を示すフローチャートである。つまり、図16は、さらし端末問題による上り回線スループット低下を検出する動作手順を示すフローチャートである。
(ステップS401)親システム300は、端末10‐k‐iがアクセスしようとするアクセスポイント20のBSSIDと同じチャネルを用いているアクセスポイント20から検出可能である他のBSSIDを抽出する。
(ステップS402)親システム300は、抽出された他のBSSIDの数が一つ以下であるか否かを判定する。抽出された他のBSSIDの数が一つ以下である場合(ステップS402:YES)、親システム300は、ステップS405に処理を進める。一方、抽出された他のBSSIDの数が二つ以上である場合(ステップS402:NO)、親システム300は、ステップS403に処理を進める。
(ステップS403)親システム300は、抽出されたBSSIDの情報を参照し、互いに信号を検出可能であるか否かを判定する。互いに信号を検出可能である場合(ステップS403:YES)、親システム300は、ステップS405に処理を進める。一方、互いに信号を検出可能でない場合(ステップS403:NO)、親システム300は、ステップS404に処理を進める。
(ステップS404)親システム300は、抽出したBSSIDを有するアクセスポイント20からの上り回線通信において、さらし端末問題による大きなスループット低下が起こり得ると判定する。親システム300は、抽出されたBSSIDを有するアクセスポイント20に対する端末10‐k‐iからのアクセスに対し、さらし端末問題によるスループット低下を示すフラグ情報を有効にする。親システム300は、具体的な最低スループットを、他のBSSIDを有するアクセスポイント20の通信状況に基づいて推定する。
(ステップS405)親システム300は、抽出されたBSSIDを有するアクセスポイント20の上り回線に対し、安定した通信が可能であると判定する。同じBSSIDが存在する分だけ、周波数リソースの配分比が減るものの、そのチャネルにおけるBSSIDと、配下の端末10の数とに基づいて推定可能なスループットが期待される。
図16及び図17において、下り回線と上り回線とに分けて説明したが、RTS/CTS(request to send / clear to send)の交換の場合、図16については、上り回線でRTS/CTSを用いる場合に、CTSが返ってこない問題に置き換えられてもよい。また、図17については、下り回線でRTS/CTSを用いる場合に、CTSが返ってこない問題に置き換えられてもよい。
(ii)隠れ端末問題
親システム300は、端末10‐k‐iと、その接続先であるアクセスポイント20とで、接続先であるアクセスポイント20のBSSIDで用いているチャネルにおいて、検出可能なBSSIDが一致するか否かを判定する。
端末10‐k‐iと、その接続先であるアクセスポイント20とで、検出可能なBSSIDが一致しない場合、余分なBSSIDを検出可能でない装置から、余分なBSSIDを検出可能である装置への通信において、隠れ端末問題が生じる可能性がある。
一致しないBSSIDが通信される頻度が所定頻度よりも大きい場合、RTS/CTS信号を用いることで、隠れ端末問題が解決される可能性がある。しかし、一致しないBSSIDがフルバッファ状態のように常に送信され続けている場合には、CTSを送信することができないため、隠れ端末は解決されない可能性がある。
図18は、第2実施形態における、隠れ端末問題を検出する動作手順を示すフローチャートである。つまり、図18は、隠れ端末問題によるスループット低下を検出する動作手順を示すフローチャートである。
(ステップS501)親システム300は、端末10‐k‐iがアクセスしようとしているアクセスポイント20のBSSIDが通信に用いられているチャネルと同じチャネルにおいて、そのアクセスポイント20が検出可能な他のBSSIDと、端末10‐k‐iが検出可能な他のBSSIDと、を抽出する。
(ステップS502)親システム300は、抽出したBSSID同士が一致するか否かを判定する。抽出したBSSID同士が一致する場合(ステップS502:YES)、親システム300は、処理をステップS505に進める。一方、抽出したBSSID同士が一致しない場合(ステップS502:NO)、親システム300は、処理をステップS503に進める。
(ステップS503)親システム300は、余分な他のBSSIDをいずれの装置が検出可能かを判定する。余分なBSSIDを端末10‐k‐iが検出可能である場合(ステップS503:端末10‐k‐i)、親システム300は、処理をステップS507に進める。余分なBSSIDをアクセスポイント20が検出可能である場合(ステップS503:BSSID)、親システム300は、処理をステップS504に進める。余分なBSSIDを端末10‐k‐i及びアクセスポイント20が検出可能である場合(ステップS503:両方)、親システム300は、処理をステップS506に進める。
(ステップS504)親システム300は、端末10‐k‐iからアクセスポイント20への上り回線通信における送信パケットが、一致しない他のBSSIDを有するアクセスポイント20からの送信パケットと衝突するリスクが生じると判定する。端末10は、RTS信号を送信し、所定のBSSIDを有するアクセスポイント20からCTSを取得することで、スループットの低下を防ぐことができる可能性がある。
(ステップS505)親システム300は、所定のBSSIDを有するアクセスポイント20との通信で、隠れ端末問題によるスループットが低下するリスクは低い、と判定する。
(ステップS506)親システム300は、端末10‐k‐iと、所定のBSSIDを有するアクセスポイント20との間の上り回線及び下り回線で、パケット衝突のリスクが生じると判定する。端末10‐k‐iと、所定のBSSIDを有するアクセスポイント20とは、RTS/CTSによる通信を行うことで、スループットの低下を防ぐことができる可能性がある。
(ステップS507)親システム300は、アクセスポイント20から端末10‐k‐iへの下り回線通信における送信パケットが、一致しない他のBSSIDを有するアクセスポイント20からの送信パケットと衝突するリスクが生じると判定する。所定のBSSIDを有するアクセスポイント20は、RTS信号を送信し、端末10からCTSを取得することで、スループットの低下を防ぐことができる可能性がある。
ただし、一致しないBSSIDを有するアクセスポイント20がフルバッファに近い状態で常に送信しようとしている場合、所定のBSSIDを有するアクセスポイント20は、RTS/CTSを行う際にCTSを送信できず、MAC効率をさらに低下させてしまう場合がある。このため、親システム300は、一致しないBSSIDを有するアクセスポイント20のトラヒックに応じて、RTS/CTSの利用を判定することもできる。
(i)さらし端末問題、及び、(ii)隠れ端末問題では、実際に生じているトラヒックは、大きな影響を受ける。つまり、隠れ端末となる条件、又は、さらし端末となる条件が成立していたとしても、それらの問題を引き起こす無線システム装置が、その瞬間に通信を行っていなければ、アクセス権の取得が困難になることはない。また、隠れ端末となる条件、さらし端末となる条件が成立していたとしても、それらの問題を引き起こす無線システム装置が、その瞬間に通信を行っていなければ、パケット衝突を引き起こすこともない。
よって、親システム300は、周辺のアクセスポイント20のトラヒックの傾向について記憶することで、(i)さらし端末問題、及び、(ii)隠れ端末問題による、現時点でのスループットの低下が生じるか否かを、評価することができる。
図19は、第2実施形態における、アクセスポイント20から収集されたAP周辺無線システム環境情報がBSSID毎に整理された無線システム環境情報である。親システム300は、曜日(平日、土曜、日曜)に分けて、時間帯あたりのトラヒック傾向を、無線システム環境情報として記憶している。また、親システム300は、周辺のチャネルについて、無線通信パケットの時間占有率を、値0.0から1.0までの0.1単位で評価し、評価結果を無線システム環境情報として記憶している。
親システム300は、端末10から端末周辺無線システム環境情報を収集し、サーバ装置の記憶部に記憶させる。親システム300は、AP周辺無線システム環境情報を、アクセスポイント20から収集し、サーバ装置の記憶部に記憶させる。
親システム300は、「さらし端末問題」又は「隠れ端末問題」を引き起こしているアクセスポイント20のトラヒックが多い場合、すなわち、アクセスポイント20の時間占有率が高い場合、大きなスループット低下が生じやすいとして、リスクを大きく評価する。(図16のステップS304、又は、図17のステップS404を参照)。一方、親システム300は、「さらし端末問題」又は「隠れ端末問題」を引き起こしているアクセスポイント20のトラヒックが少ない場合、すなわち、アクセスポイント20の時間占有率が低い場合、大きなスループット低下が生じにくいとして、リスクを小さく評価する。
(iii)テザリング端末又はモバイルルータによるアクセスポイント20の数の変化
図14では、テザリング端末又はモバイルルータと考えられるアクセスポイント20のBSSIDは、BSSID9とBSSID10である。図14では、チャネル1(C1)、つまり、2[GHz]であるチャネル1〜13まで用いたテザリング端末及びモバイルルータのみが示されている。テザリング端末及びモバイルルータは、5[GHz]の利用も開始しており、今後増加することが予想される。よって、限定された時間で現れるテザリング端末及びモバイルルータの数、並びに、テザリング端末及びモバイルルータが引き起こすリスクは、考慮される必要がある。
親システム300は、現れたテザリング端末又はモバイルルータが、「さらし端末問題」又は「隠れ端末問題」を引き起こした場合、「さらし端末問題」又は「隠れ端末問題」を引き起こしたことを示す情報を、通常とは別の情報として保持する。例えば、親システム300は、図14に示す無線システム環境情報を更新する際、テザリング端末及びモバイルルータの数、チャネル情報、又は、引き起こされた問題が「さらし端末問題」若しくは「隠れ端末問題」のいずれであるかを示す情報を記憶する。
親システム300は、時間帯、日付、曜日などに基づいて無線システム環境情報から特徴量を抽出することで、チャネル及び位置毎に、所定のBSSIDを有するアクセスポイント20と通信する際のリスクを判定する。問題を引き起こしているテザリング端末又はモバイルルータが、親システム300と接続している場合、親システム300は、図14に示す無線システム環境情報に基づいて、テザリング端末及びモバイルルータの動作をどのチャネルで行うべきかを指定する。
親システム300は、テザリング端末又はモバイルルータと、親システム300とが接続されている場合、トラヒックをリアルタイムに把握できるため、親システム300に接続している端末10によるスループットへの影響を、予め推定できる。ここで、テザリング端末又はモバイルルータが、「さらし端末問題」又は「隠れ端末問題」により、他の端末のスループットの低下の一因となっている場合、親システム300は、親システム300からテザリング端末又はモバイルルータへのデータ送信を制限する。また、親システム300は、テザリング端末又はモバイルルータから影響を受けている端末10を、親システム300との通信、又は、他のBSSIDを有するアクセスポイント20との通信に切り替える。
図20は、第2実施形態における、テザリング端末及びモバイルルータを検出する動作手順を示すフローチャートである。テザリング端末及びモバイルルータを検出する場合、トリガは、第1のトリガと、第2のトリガとの二つがある。第1のトリガは、無線システム機能を有効にしたアクセスポイント20又は端末10が主体となるトリガである。
(ステップS601)アクセスポイント20又は端末10は、BSSIDを検出する。
(ステップS602)アクセスポイント20又は端末10は、親システム300に前回までに通知したBSSIDと、今回検出したBSSIDとが異なっているか否かを判定する。BSSIDが異なっている場合(ステップS602:YES)、アクセスポイント20又は端末10は、処理をステップS603に進める。一方、BSSIDが同じである場合(ステップS602:NO)、アクセスポイント20又は端末10は、テザリング端末及びモバイルルータを検出する処理を終了する。
(ステップS603)アクセスポイント20又は端末10は、今回検出したBSSIDを、親システム300に通知する。アクセスポイント20又は端末10は、今回検出したBSSIDを、動的BSSID情報として記憶する。
第2のトリガは、親システム300が主体となるトリガである。
(ステップS604)親システム300は、BSSID情報を含むAP周辺無線システム環境情報及びトラヒック情報のうち少なくとも一方を、特定のアクセスポイント20から定期的に取得する。親システム300は、BSSID情報を含む端末周辺無線システム環境情報を、特定のアクセスポイント20及び端末10から定期的に取得する。例えば、親システム300は、予め定められたタイミングとなった場合、特定のアクセスポイント20及び端末10に、BSSID情報を要求する。親システム300は、取得したBSSID情報含む無線システム環境情報を、記憶部に記憶させる。親システム300は、処理をステップS603に進める。
(iv)レーダや他システムからの干渉
5[GHz]におけるDFSバンドのレーダ検出や、2[GHz]における電子レンジ又はブルートゥース(登録商標)等による他システム干渉も、予期しないスループット低下を引き起こす。親システム300は、これらレーダや他システムからの干渉を表す情報についても、時間帯、日付、曜日毎に発生頻度及び持続時間を記憶する。所定のBSSIDを有するアクセスポイント20と、レーダや他システムが利用しているチャネルで通信してしまうリスクを、判定することができる。
無線システム環境情報の収集源が端末10である場合、すなわち、端末周辺無線システム環境情報を収集する場合、判定の基準には、レーダや他システムの信号を識別する機能は必要ない。親システム300は、チャネル変更の通知があったことを示す情報を、端末10がアクセスポイント20から受信することにより、他システムからの干渉を推定する。また、親システム300は、無線システムパケットと判定できない信号が一定レベル以上の電力で継続的に受信されていることを示す情報を、端末10がアクセスポイント20から受信することにより、他システムからの干渉を推定してもよい。
親システム300は、無線システム環境情報の収集源がアクセスポイント20である場合、すなわち、AP周辺無線システム環境情報及びトラヒック情報のうち少なくとも一方を収集する場合、チャネル変更の通知があったことを示す情報を、アクセスポイント20から受信することにより、レーダを検出した干渉を推定する。また、親システム300は、無線システムパケットと判定できない信号が一定レベル以上の電力で継続的に受信されていることを示す情報を、アクセスポイント20から受信することにより、レーダを検出した干渉を推定してもよい。この場合、親システム300は、レーダの検出に伴うチャネルの移動や復帰の処理を実行しているアクセスポイント20に対応付けたフラグ情報を更新することにより、そのアクセスポイント20への新規のアクセスを止めるよう、端末10を制御してもよい。
図21は、第1実施形態及び第2実施形態における、さらし端末問題、隠れ端末問題、レーダからの干渉、他システムからの干渉、テザリング端末又はモバイルルータからの干渉による通信の不通によるリスクを評価する動作手順を示すフローチャートである。端末10は、無線システム200との通信を開始する。
(ステップS701)アクセスポイント20−j、又は、アクセスポイント20−jとデータ通信を行う端末10−k−iは、アクセスポイント20−jと端末10−k−iとの間の上り回線又は下り回線に、著しいスループットの低下又は不通状態が生じた場合(ステップS701:YES)、親システム300は、処理をステップS702に進める。一方、無線システム200における不通状態が発生していない場合(ステップS701:NO)、無線システム200における通信が続く限りS701を繰り返す。
(ステップS702)アクセスポイント20−j又は端末10−k−iは、スループットが低下したことを示す情報、又は、不通となったことを示す情報を、親システム300に通知する。アクセスポイント20−jがチャネルを移動する場合、移動先チャネルを親システム300へ通知することもできる。また、レーダからの干渉である場合、レーダ観測の持続時間及び観測チャネルを示す情報を付加することもできる。これらの情報は、図19に示すように、時間帯毎に整理される。
図22は、第1実施形態及び第2実施形態における、端末10の主導でトラヒック選択を実行するヘテロジニアスネットワークシステムの構成を示す図である。親システム300は、無線システム通信リスク評価部206と、無線システム環境情報記憶部205とを有する。基地局30‐kは、リスク通知部201と、無線システム環境情報取得部204とを有する。端末10‐k‐iは、通信形態決定部202と、無線システム環境情報出力部203と、トラヒック選択部207と、端末通信形態情報出力部208を有する。
端末10‐k‐iの無線システム環境情報出力部203は、端末10‐k‐iが検出した端末周辺無線システム環境情報を、親システム300と通信する基地局30‐kに、無線通信により出力する。基地局30‐kの無線システム環境情報取得部204は、受信した端末周辺無線システム環境情報に基づいて無線システム環境情報を作成し、作成した無線システム環境情報を、親システム300の無線システム環境情報記憶部205に出力する。
親システム300の無線システム通信リスク評価部206は、無線システム環境情報記憶部305に記憶された無線システム環境情報に基づいて、無線システム200の対応するアクセスポイント20−jと端末10−k−iと間のスループットの低下リスクを評価する。無線システム通信リスク評価部206は、スループットの低下リスクの評価結果を、基地局30‐kのリスク通知部201に出力する。リスク通知部201は、スループットの低下リスクの評価結果を、端末10‐k‐iに出力する。
端末10‐k‐iのトラヒック選択部207は、スループット低下リスクの評価結果に基づいて、アクセスポイント20及び基地局30のうち少なくとも一方を接続先として決定する。トラヒック選択部207の決定に基づき、通信形態決定部は、アクセスポイント20及び基地局30のうち、選択された接続先とのデータ通信を行う。ここで、トラヒック選択部において、端末通信形態情報出力部から端末10−k−iが用いるアプリケーション情報をトラヒック選択の判定に用いることができる。例えば、データ通信の不通や急激なトラヒック低下を許容できないアプリケーションにおいて、無線システムのリスクが少しでもある場合には、無線システム200単独での通信を避ける判断をすることができる。つまり、リアルタイム性が重要であり且つ瞬断を許容できないアプリケーションを利用しないよう制御する。リアルタイム性が重要であり且つ瞬断を許容できないアプリケーションは、例えば、通話、テレビ通話、電話会議又はオンラインゲームである。さらに、端末10‐k‐iが検出した端末周辺無線システム環境情報、又は、端末10‐k‐iの親システム300との契約形態も考慮して、トラヒック選択部207はデータ通信相手(接続先)を決定できる。
図23は、第1実施形態及び第2実施形態における、無線システム200の主導でトラヒック選択を実行するヘテロジニアスネットワークシステムの構成を示す図である。親システム300は、無線システム通信リスク評価部306と、無線システム環境情報記憶部205とを有する。アクセスポイント20は、端末通信形態情報出力部307を有する。基地局30‐kは、トラヒック選択部301と、無線システム環境情報取得部304とを有する。端末10‐k‐iは、通信形態決定部302と、無線システム環境情報出力部303とを有する。
端末10‐k‐iの無線システム環境情報出力部303は、端末10‐k‐iが検出した端末周辺無線システム環境情報を、親システム300と通信する基地局30‐kに、無線通信により出力する。基地局30‐kの無線システム環境情報取得部304は、受信した端末周辺無線システム環境情報に基づいて無線システム環境情報を作成し、作成した無線システム環境情報を、親システム300の無線システム環境情報記憶部305に出力する。
無線システム200の端末通信形態情報出力部307は、アクセスポイント20が検出したAP周辺無線システム環境情報を、親システム300の無線システム通信リスク評価部306に出力する。無線システム通信リスク評価部306は、受信したAP周辺無線システム環境情報に基づいて、無線システム環境情報記憶部305に記憶されている無線システム環境情報を更新する。
親システム300の無線システム通信リスク評価部306は、無線システム環境情報記憶部305に記憶された無線システム環境情報に基づいて、基地局30‐k無線システム200のスループットの低下リスクを評価する。無線システム通信リスク評価部306は、スループットの低下リスクの評価結果を、基地局30‐kのトラヒック選択部301に出力する。トラヒック選択部301は、スループットの低下リスクの評価結果に基づいて、親システム300及び無線システム200の少なくとも一方を接続先として選択する。トラヒック選択部301は、選択した接続先を示す情報を、端末10‐k‐iに出力する。
端末10‐k‐iの通信形態決定部202は、トラヒック選択部301が選択した接続先を示す情報に基づいて、親システム300及び無線システム200の少なくとも一方を接続先として選択する。
これにより、親システム300は、親システム300の回線がひっ迫したことにより、いずれかの端末10を無線システム200にオフロードしなければならない場合、どの端末10を無線システム200との通信に切り替えるべきかを、判定することができる。また、親システム300は、無線システム200との通信によるスループットの低下リスクが小さい端末10を、無線システム200との通信に切り替えることができる。また、親システム300は、無線システム200との通信によるスループットの低下リスクが高い端末10には、無線システム200との通信と、親システム300との通信と、を併用させることにより、急激なスループットの低下をさせないようにすることもできる。
以上のように、アクセスポイント20は、他のアクセスポイント20を表す情報を取得する第2周辺情報収集部と、他のアクセスポイント20を表す情報を、無線通信により出力する第2端末情報出力部と、を有する。親システム300の情報収集部は、他のアクセスポイント20を表す情報を、第2端末情報出力部から収集する。親システム300の情報整理部は、記憶した他のアクセスポイント20を表す情報を、端末周辺無線システム環境情報及びAP周辺無線システム環境情報に基づいて更新する。
これにより、親システム300は、端末周辺無線システム環境情報に相当するAP周辺無線システム環境情報を、アクセスポイント20から直接取得できるため、より正確な無線システム環境情報を作成することができる。
以下、図33に示したシミュレーション諸元を用い、各部屋の中心にアクセスポイント20を設置した場合における、無線システム200のスループット不安定性評価の効果を示す。
親システム300における無線LAN環境情報を用い、端末10のうち、安定したスループットが得られるものを選び出す効果を評価した。シミュレーション諸元は、図33を用いて示した諸元と同じであり、100部屋にアクセスポイント20を1台ずつ、計100台のアクセスポイント20と、各部屋2台の計200台の端末10とで、スループットを評価した。
まず、最も簡単なシナリオとして、AP周辺無線システム環境情報における端末10‐k‐iが、データ通信を行おうとするアクセスポイント20−jから検出されている、同じチャネルの他のアクセスポイント20の数により、不安定性を評価した結果を示す。
図24は、第1実施形態及び第2実施形態における、生成パケットレート20[Mbps]の場合、AP周辺無線システム環境情報の同一チャネルのアクセスポイント数で制限する制御によるスループット特性を示す図である。
同じチャネルの他のアクセスポイント数が多いほど、不安定と評価する。このため、親システム300の無線システム通信リスク評価部206又は無線システム通信リスク評価部306は、他のアクセスポイント数がある一定の値以下となるアクセスポイント20にアクセスする端末10を、安定するスループットが期待できる端末10である評価する。
RTS/CTSを用いない場合(実線)と、用いる場合(点線)とのいずれでも、他のアクセスポイント数が少ないアクセスポイント20に対応する端末10は、低スループットとなる端末10の確率を低下させることができる。
特に、RTS/CTSを用いる場合の方が、効果は大きい。今回のシミュレーション諸元では、他のアクセスポイント数が3以下、2以下、1以下、及び、0の場合で、それぞれ選択された端末10の数の割合は、82.0[%]、64.0[%]、34.2[%]、9.2[%]であった。
アクセスポイント20から周囲のアクセスポイント20が見えない(他のアクセスポイント数が0)との条件である場合、端末10が「隠れ端末問題」や「さらし端末問題」の条件になっていることにより、スループットの低下が生じている。また、アクセスポイント20から周囲のアクセスポイント20が見えないとの条件である場合、他の端末10から送信されるACKやCTS信号が、パケット衝突やNAV(Network allocation vector)の設定になっていることにより、スループットの低下が生じている。
アクセスポイント20で聞こえる他のアクセスポイント20の数を1以下とした場合、10[%]アウテッジのスループットは、RTS/CTS無しで、4.3[Mbps]であった。一方、アクセスポイント20で聞こえる他のアクセスポイント20の数を1以下とした場合、10[%]アウテッジのスループットは、RTS/CTS有りで、8.6[Mbps]であった。
アクセスポイント20で聞こえる他のアクセスポイント20の数を0とした場合、10[%]アウテッジのスループットは、RTS/CTS無しで、7.3[Mbps]であった。一方、アクセスポイント20で聞こえる他のアクセスポイント20の数を0とした場合、10[%]アウテッジのスループットは、RTS/CTS有りで、15.9[Mbps]であった。
図25は、第1実施形態及び第2実施形態における、生成パケットレート80[Mbps]の場合、AP周辺無線システム環境情報の同一チャネルのアクセスポイント数で制限する制御によるスループット特性を示す図である。この場合も同様に、他のアクセスポイント20の数をある程度以下とすることで、スループットを大きく低下させない端末10を選択可能である。
他のアクセスポイント数を1以下とし、34.2[%]の端末10を安定と判断した場合、10[%]アウテッジのスループットは、RTS/CTS有りで、0.87[Mbps]である。一方、他のアクセスポイント数を1以下とし、34.2[%]の端末10を安定と判断した場合、10[%]アウテッジのスループットは、RTS/CTS無しで0.97[Mbps]である。
他のアクセスポイント数を0とし、9.1[%]の端末10を安定と判断した場合、10[%]アウテッジのスループットは、RTS/CTS有りで、6.1[Mbps]である。一方、他のアクセスポイント数を0とし、9.1[%]の端末10を安定と判断した場合、10[%]アウテッジのスループットは、RTS/CTS無しで、10.1[Mbps]である。
このように、単にアクセスポイント20において検出できる他のアクセスポイント20の数を基にすることもできるが、無線システム環境情報をより複雑にすることで、選択する端末10の数の割合を増やしつつ、低スループットとなるアウテッジ端末の割合を減らすことができる。
次に、端末10‐k‐iがデータ通信を行おうとするアクセスポイント20‐jから検出されている、同じチャネルの他のアクセスポイント20の数(AP周辺無線システム環境情報における、アクセスポイント20‐jと同じチャネルのアクセスポイント20の数)と、端末10‐k‐iから検出できるデータ通信相手となるアクセスポイント20−j以外から検出されている、同じチャネルを用いるアクセスポイント20の数(端末周辺無線システム情報における、端末10‐k‐iの情報)とのうち、大きい方の値(以下、「他のアクセスポイントの数の最大値」という。)に基づいて不安定性を評価した結果を示す。
図26は、第1実施形態及び第2実施形態における、生成パケットレート20[Mbps]の場合、AP周辺無線システム環境情報の同一チャネルのアクセスポイント数と、端末周辺無線システム環境情報の同一チャネルのアクセスポイント数とのうち、大きい方の数で制限する制御によるスループット特性を示す図である。
アクセスポイント20から検出される情報と、端末10から検出される情報との双方を考慮することで、不安定性の評価制度をより高めることができる。他のアクセスポイントの数の最大値が、3以下、2以下、1以下、又は、0となるように端末10を選択することで、本シミュレーション条件では、それぞれ71.2[%]、48.5[%]、20.0[%]、5.0[%]の端末10を選択することができる。
選択された端末10の割合が、アクセスポイント20に検出される同一チャネルの他のアクセスポイントの数が異なっているため、図24に示す場合との単純比較はできないが、特性は大きく改善している。例えば、他のアクセスポイントの数の最大値を1以下として20[%]の端末10を選択した場合の10[%]アウテッジのスループットは、11.2[Mbps]、17.6[Mbps]である。したがって、9.2[%]の端末10を選択した、図24に示す他のアクセスポイントの数が0の場合よりも、特性は大きく改善している。
図27は、第1実施形態及び第2実施形態における、生成パケットレート80[Mbps]の場合、AP周辺無線システム環境情報の同一チャネルのアクセスポイント数と、端末周辺無線システム環境情報の同一チャネルのアクセスポイント数とのうち、大きい方の数で制限する制御におけるスループット特性を示す図である。
他のアクセスポイントの数の最大値を1以下として、20[%]の端末10を選択した場合の10[%]アウテッジのスループットは、5.6[Mbps]、6.7[Mbps]である。したがって、図25に示す9.2[%]の端末10を選択した場合には及ばないが、特性は近いものとなっている。
図28は、第1実施形態及び第2実施形態における、生成パケットレート20[Mbps]の場合、アクセスポイント20と端末10とでそれぞれ検出できるアクセスポイント20に違いがないことを条件とした制御と、アクセスポイント20と端末10とでそれぞれ検出できるアクセスポイント20が、独立動作するグループに属さないことを条件とした制御と、によるスループット特性を示す図である。
不安定性を条件で定義した二つの例を示す。一つ目は、検出されているアクセスポイント20のずれを用いるものである。端末10‐k‐iがデータ通信を行おうとするアクセスポイント20‐jから検出されている、同じチャネルの他のアクセスポイント20の組み合わせ(AP周辺無線システム環境情報における、アクセスポイント20‐jの情報)と、端末10‐k‐iから検出されている、データ通信相手となるアクセスポイント20‐j以外の同じチャネルを用いるアクセスポイント20の組み合わせ(端末周辺無線システム情報における、端末10‐k‐iの情報)と、が互いに同じである条件の端末10は、安定したスループットが期待できる端末10として選択される。
二つ目は、独立動作するアクセスポイント20のグループの存在を用いるものである。端末10‐k‐iがデータ通信を行おうとするアクセスポイント20‐jから検出されている、同じチャネルのアクセスポイント20が互いにアクセスポイント20‐jも含めて検出しているかを、AP周辺無線システム環境情報に基づいて判定する。
同様に、端末10‐k‐iから検出できるアクセスポイント20が互いに検出できる関係であるかを、AP周辺無線システム環境に基づいて判定し、アクセスポイント20‐jと端末10‐k‐iとから検出される同じチャネルのアクセスポイント20が、それぞれ互いに検出し合える条件となる端末10が選択される。
独立動作するアクセスポイント20グループは、アクセスポイント20‐j又は端末10‐k‐jが検出する同じチャネルのアクセスポイント20についてのみ、判定するものとした。つまり、アクセスポイント20‐1から、アクセスポイント20‐2〜20‐4が同じチャネルで検出されている場合、アクセスポイント20‐2〜20‐4について、AP周辺無線システム環境情報において同じチャネルで検出されるアクセスポイント20を確認する。
例えば、アクセスポイント20‐2〜20‐4について、アクセスポイント20‐1、20‐3、20‐4及び20‐5と、アクセスポイント20‐1、20‐2、20‐4及び20‐6と、アクセスポイント20‐1、20‐2及び20‐3とが同じチャネルで、それぞれ検出されているとする。
この場合、アクセスポイント20‐5やアクセスポイント20‐6など、余分なアクセスポイント20は検出されるものの、少なくともアクセスポイント20‐1から検出される範囲のアクセスポイント20‐1、20‐2、20‐3及び20‐4は、互いに検出される条件であるため、独立動作するアクセスポイント20のグループは無し、と判定できる。
しかし、同じ条件でアクセスポイント20‐2に接続する端末10に対しては、アクセスポイント20‐2で同じチャネルで検出されるアクセスポイント20‐1、20‐3、20‐4及び20‐5について、互いに検出条件を確認する。このため、例えば、アクセスポイント20‐5において同じチャネルで検出されるアクセスポイント20が、アクセスポイント20‐2、20‐3及び20‐4である場合、アクセスポイント20‐1が検出されないため、独立動作するアクセスポイント20のグループは有る、つまり、スループットが不安定となる端末10がある、と判定できる。
検出されたアクセスポイント20のずれに基づいて判定すると、本シミュレーション条件では、31.2[%]の端末10は、スループットが安定している端末10として選択できる。この場合、10[%]アウテッジのスループットは、14.5[Mbps]、17.6[Mbps]であり。これは、9.2[%]の端末10を選択した図24に示す他のアクセスポイントの数が0の場合と、20[%]の端末10を選択した図26に示す他のアクセスポイントの数の最大値を1以下にした場合とのいずれと比較しても、改善された又は同等の特性が得られている。
独立動作するアクセスポイント20のグループが無いことで判定した場合、全体の内22.4[%]の端末10が選択されるが、特にRTS/CTS無しの場合の特性は、著しく改善される。10[%]のアウテッジのスループットは、RTS/CTS無しで、18.7[Mbps]である。一方、10[%]のアウテッジのスループットは、RTS/CTS有りで、19.2[Mbps] である。図24の場合と、図26の場合とのいずれと比較しても、22.4[%]もの端末10を選択して、非常に高い特性が得られる。
図29は、第1実施形態及び第2実施形態における、生成パケットレート80[Mbps]の場合、アクセスポイント20と端末10とでそれぞれ検出できるアクセスポイントに違いがないことを条件とした制御と、アクセスポイント20と端末10とでそれぞれ検出できるアクセスポイント20が、独立動作するグループに属さないことを条件とした制御と、によるスループット特性を示す図である。
検出されたアクセスポイント20のずれが無いとの判定と、独立動作するアクセスポイント20のグループが無いとの判定とで、RTS/CTS無しで、スループット(2.9[Mbps],1.8[Mbps])が得られる。検出されたアクセスポイント20のずれが無いとの判定と、独立動作するアクセスポイント20のグループが無いとの判定とで、RTS/CTS有りで、スループット(15.8[Mbps],9.1[Mbps])が得られる。
同程度の割合の端末10を選択する図25に示す、他のアクセスポイントの数が1以下の結果は、他のアクセスポイントの数の最大値が1以下の結果(図27を参照)と、を比較しても、高い特性となることが分かる。
また、条件は組み合わせることもできる。例えば、他のアクセスポイント20のずれ無しの判定と、独立動作するアクセスポイント20のグループが無いとの判定とで、両方の条件を満たすアクセスポイント20を選択することもできる。この場合、17.9[%]の端末10が選択されるが、これは、独立動作するアクセスポイント20のグループが無いとの判定の場合(20[%]の端末10が選択される)よりも、特性が若干改善する程度である。
また、これらの条件は、数に置き換えて考えることもできる。例えば、検出されたアクセスポイント20の数のずれは、端末10‐k‐iで検出できるが基地局30‐jでは検出できないアクセスポイント20の数として、又は、基地局30‐jで検出できる端末10‐k‐iの数として評価できる。図28及び図29に示された結果は、これらの数を0としたことに対応する。
また、独立動作するアクセスポイント20のグループについても、アクセスポイント20‐jで検出される同じチャネルのアクセスポイントのうち、少なくとも一方が検出できない条件となる数を用いることができる。図28及び図29に示された結果は、この数を0としたことに対応する。
条件の組み合わせの例として、独立動作するアクセスポイント20のグループが無いとの条件に、図26及び図27に示した、他のアクセスポイントの数の最大値が1以下となる条件を加えた結果を、図30及び図31に示す。
参考として、他のアクセスポイントの数の最大値が2以下の条件と、独立動作するアクセスポイント20のグループが無いとの条件との組み合わせの結果を示す。これは、選択された端末10の数が、独立動作するアクセスポイント20のグループが無いとの場合と変わらず、独立動作するアクセスポイント20のグループが無いとの条件のみの場合と、結果は同様である。このように、条件を組み合わせても結果が変わらない場合もある。
図30は、第1実施形態及び第2実施形態における、生成パケットレート20[Mbps]の場合、アクセスポイント20と端末10とでそれぞれ検出できるアクセスポイント20が、独立動作するグループに属さないとの条件を満たし、かつ、同一チャネルで検出される他のアクセスポイントの数が、アクセスポイント20と端末10とでそれぞれ1台以下である、とした制御によるスループット特性を示す図である。
図31は、第1実施形態及び第2実施形態における、生成パケットレート80[Mbps]の場合、アクセスポイント20と端末10とでそれぞれ検出できるアクセスポイント20が、独立動作するグループに属さないとの条件を満たし、かつ、同一チャネルで検出される他のアクセスポイントの数が、アクセスポイント20と端末10とでそれぞれ1台以下である、とした制御によるスループット特性を示す図である。
図31では、10[%]アウテッジの値は、独立動作するアクセスポイント20のグループが無い場合と比較して、改善度に大きな違いはない。この場合でも、特性の改善がみられる端末10は存在する。20[Mbps]のトラヒックを生成した図30に示す例では、RTS/CTS有りの場合に、独立動作するアクセスポイント20のグループが無いとの条件では、2.2[%]の端末10が1[Mbps]以下の低スループット、又は、不通の状態となってしまっていた。これに、他のアクセスポイントの数の最大値が1以下との条件を付与することで、1[Mbps]以下になる低スループットの端末10の数は、0.3[%]まで削減される。また、80[Mbps]のトラヒックを発生させた場合では、CDFで、20〜50[%]の端末10のスループットが、1〜10[Mbps]程度、改善する。
以上のように、AP周辺無線システム環境情報や、端末周辺無線システム環境情報などを組み合わせて用いることで、スループットが安定している端末10を選択することができる。このように選択することで、スループットが変化してから通信回線を選択するのではなく、周りのトラヒックの変動によってスループットが低下し得る端末10を、予測することができる。
ただし、安定したスループットが期待できると予測された端末10の割合は、与えられた通信環境に依存する。そこで、親システム300の無線システム通信リスク評価部206又は無線システム通信リスク評価部306は、複数の基準によるリスク評価を保持し、各基準により選択される端末の割合を、予め評価しておくことができる。親システム300の無線リソースがひっ迫するなどして、端末10を無線システム200に新たに割り当てたい場合、複数のリスク判定基準から、都合のよい割合となるリスク判定基準を選択し、基地局30のリスク通知部201又はトラヒック選択部301に通知することもできる。
これまで示したシミュレーション結果は、PHY層のスループットを均一としているため、リスク評価がスループットとも対応している。スループットが1[Mbps]以下になるような不通状態とみなせる端末10を選択する場合には、前述の方法でも、低スループットとなる端末10を、無線システム200のみとデータ通信させないように制御できる。
ただし、PHY層でのスループットや、同じアクセスポイント20にアクセスする端末10の数に基づいて、無線リソースの分割を考慮するほうが効果は高い。このため、端末10‐k‐iにおけるアクセスポイント20‐jからの信号の受信電力値、アクセスポイント20の識別情報(アクセスポイント20‐jのバックホール通信容量などのトラヒック情報)、利用可能な周波数帯域幅(例えば、無線LANでは、20[MHz]、40[MHz]、80[MHz]、160[MHz]を用いるモードが存在し、帯域幅が増えればスループットの期待値も増える)、及び、アンライセンスバンドでアクセスポイント20‐jにアクセスしている端末10の数に基づいて、無線リソースの分割の効果を考慮し、期待値としてのスループットを予測することもできる。また、アクセスポイント20‐j又は端末10‐k‐iにおいて測定されたスループット実測値を用いることもできる。
このようにして評価されたスループット値と不安定性とを考慮することで、安定したスループットが期待できる端末10を選択できる。例えば、端末10‐k‐iに許容できる最低スループットの期待値を設定し、かつ、安定性の指標も満たすように制御することで、スループットの期待値が低い端末10が無線システム200を用いないように、制御することができる。
また、ここまで評価に用いたAP周辺無線システム環境情報や、端末周辺無線システム環境情報から得られる数を複数用いて、実際にスループットが低下するか否かを示す指標を比較して関数を作成し、リスクを評価することもできる。例えば、評価したスループットの期待値に対し、スループットが大きく低下した情報を端末10又は基地局30から収集し、スループットの期待値からのずれの大きさをスループット低下の指標とし、このスループット低下指標と、これによりリスク評価情報を表現する関数とを、AP周辺無線システム環境情報や、端末周辺無線システム環境情報から得られる数に基づいて導出し、リスク評価値とすることもできる。
無線システム200のスループット及び不安定性評価の少なくとも一方が基準を満たさない場合、親システム300とのみ通信する場合と、無線システム200及び親システム300と通信する場合とを、併用することができる。例えば、親システム300の基地局30‐kのライセンスバンドにおける、無線リソースの利用状況、端末10‐k‐iの消費電力の許容値、及び、端末10‐k‐iの利用するアプリケーションのうち少なくとも一つに基づいて、判定することができる。
端末10‐k‐iは、選択された通信回路によらず、制御信号の通信を親システム300と常に行うこともできる。
無線システム200の一例であるCSMA/CAに基づいて動作する、アンライセンスバンドの無線通信システムは、単一のシステムである必要はない。例えば、無線LANシステムと、アンライセンスバンドを利用するセルラシステムとが共存している場合にも、BSSIDに類するアクセスポイントの識別番号(ID)を、少なくとも一方のシステムから端末10が取得することにより、親システム300は、無線システム環境情報を記憶することができる。
無線システム通信リスク評価部206又は無線システム通信リスク評価部306は、複数の指標の和、最大値、最小値及び関数のうち少なくとも一つから得られる値を、無線システムリスク情報として記憶する。
本実施形態に係るヘテロジニアスネットワークシステムは、親システム300(例えば、モバイルシステム)に対して、無線システム200をオフロードとして活用するヘテロジニアスネットワークにおいて、無線システム200のスループットの低下リスクを評価する。これにより、本実施形態に係るヘテロジニアスネットワークシステムは、端末10が接続先を無線システム200に切り替えたことによるスループットの著しい低下を、防ぐことができる。
以上、この発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。
上述した実施形態における端末、アクセスポイント、基地局及びヘテロジニアスネットワークシステムをコンピュータで実現するようにしてもよい。その場合、この機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することによって実現してもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD−ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持しているものも含んでもよい。また上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよく、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであってもよく、PLD(Programmable Logic Device)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等のプログラマブルロジックデバイスを用いて実現されるものであってもよい。