JP2015107061A - 海藻の育成方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】スジアオノリのように房状の形態を有する海藻や、ホンダワラ類のように粘着性を有する海藻を育成するに当たって、市販の液肥よりも廉価な固体の施肥材を用いて、固体の施肥材から出る懸濁物質の海藻への付着等の問題を防止しながら、必要な栄養素を安定的に供給して育成できる海藻の育成方法を提供することを目的とする。【解決手段】腐植物質又は魚かすと、鉄鋼スラグとを水に浸漬し、当該水中に窒素成分、リン成分、及び鉄成分を溶出させると共に、当該溶出水中に含まれる懸濁物質を沈降又はろ過して除去し、除去後の溶出水を、海水を有する培養槽に供給し、当該培養槽中で、房状または粘着性を有する海藻を育成させることを特徴とする海藻の育成方法。【選択図】図1

Description

本発明は、海藻の育成方法に関する。特には、スジアオノリのように房状の形態を有する海藻や、ホンダワラ類のように粘着性を有する海藻を育成する方法に関する。
従来、ノリ、コンブなどの大型海藻を含む海藻類は、沿岸部の海上または海中(実海域)を利用して栽培、採取されてきた。しかし、水温、降雨などの天候や水質の変動に大きく影響を受け、生産量、品質共に安定的に生産し続けることは非常に困難である。
そこで、目的とする海域を水質面から改善するために、以下の1)〜5)の手法が提案、実施されている。
1)施肥材を充填した袋あるいは籠状の構造物を海中に沈設あるいは埋設することで、栄養成分を海水中に供給する方法(特許文献1)。
該手法は、栄養成分の拡散を考慮しなければならないため、数t規模での施用となり、大規模な工事が必要となる。そのため、目的海域への環境負荷が大きいことが懸念される。このような問題に対し、以下の手法が提案されている。
2)陸上に液肥を作製する設備を設け、パイプラインで目的海域まで液肥を輸送するという手法(特許文献2)。
しかし、陸上で作製する液肥中の各種栄養塩類の濃度を制御できた場合であっても、施肥によって生育が見込まれる海藻の種類は不特定多数であるため、過剰に添加した場合には、目的の海域を富栄養化する恐れがある。また、海洋への施肥であることから、拡散を見込んだ上での施肥が必要となり、大量の施肥材の準備が必要となる。
このような問題を踏まえて特定の海藻の栽培を効率的に実施するために、次のような手法が考案されている。
3)多段式の水槽を作製し、その中で徐々に海藻を大きくすることで、海藻の栽培から収穫までをすべて陸上で行う手法(特許文献3)。
海藻の大きさに合わせて水槽の規模を変えていくことで、効率的に海藻を生長させることができるものの、水槽に引き入れる海水中の栄養塩類の含有濃度の変動といった不安定さによって、生産量が変動する可能性が非常に高く、安定的な生産が可能になるとは言い難い。
そこで、陸上養殖に栄養塩の添加を組み込んだ手法が開発されている。
4)ケイ素、窒素、リン濃度を測定して、栄養濃度が過度にならないように水槽内に添加する方法(特許文献4)
5)窒素、リン、カリウムをある割合で配合した液肥を水槽内の窒素がある濃度範囲を保つように添加する方法(特許文献5)。
これらの方法は、海水を用いた陸上養殖で制御困難な水質を栄養塩類の添加によって解決しているものの、ケイ素やカリウムを必須としない種、例えば、スジアオノリやホンダワラ類の生育に適しているとは言い難い。特に、ケイ素は珪藻が繁茂する可能性が高いため、目的とする海藻の生長を阻害する可能性がある。カリウムに関しては、海水中に2〜4g/Lと多量に含まれている元素であり、陸上養殖といえども、海水中で枯渇する可能性は極めて低い。したがって、カリウムを施肥する必要性は低い。
また、ノリやコンブ等の海藻の育成には、鉄分が必要であることが判ってきており、鉄分を安定的に供給する必要性がある。
更にまた、市販の液肥を使用する場合、液肥自体のコストが高いという問題があった。
特開2006−212036号公報 特開2011−155906号公報 特開2012−213379号公報 特開2005−328810号公報 特願2006−512532号公報
これまでに提案・実施されてきた海藻の育成方法は、以下のような課題を有している。
1)実海域では、ノリやコンブなどの目的の海藻に対して施肥材中の栄養成分を十分に供給できないことが多かった。
2)また、実海域において、栄養成分の拡散を見込んだ上での施肥材の供給となると、大過剰な供給となり、目的海域への環境負荷が大きい。
3)施肥材中には、ノリやコンブなどの目的の海藻にとって必須な栄養素である窒素成分、リン成分、鉄成分だけでなく、これらが必須としない栄養素が多く含まれている場合がある。特に、ケイ素が添加されると珪藻の繁茂を助長する可能性が高く、目的の海藻の生長を阻害する恐れがある。
4)施肥材として市販の液肥を使用する場合、製造コストが高くなるという問題がある。
そこで、発明者らは、上記1)、2)の問題を解消するには、実海域では無く、陸域で培養槽を用いて海藻を育成する必要があると考え、また、上記3)、4)の問題を解決するには、ケイ素分を余り含まず、廉価である固体の施肥材を用いるとよいと考えて、陸域の培養槽において、窒素成分及びリン成分の供給源として腐植物質又は魚かすを使用し、鉄成分の供給源として製鋼スラグを使用して、ノリやコンブなどの海藻を育成することを検討した。なお、カリウム成分は通常海水中に十分含まれていることから海水中で培養することでカリウム不足の問題は生じないと考えた。
ここで、腐植物質とは、腐植土(腐葉土)等の落ち葉や倒木などの植物リターが、それをエネルギー源とする土壌微生物によって分解されてゆく過程で出来てくる暗色で不定形の有機物の総称である。
ところが、施肥材として、培養槽中に直接、腐植物質又は魚かすと製鋼スラグとを投入して、海藻を育成したところ、スジアオノリのように房状の形態を有する海藻や、ホンダワラ類のように粘着性を有する海藻では、上記施肥材中の細粒分が懸濁物質となって培養槽中の海水に懸濁し、これらの海藻の房の内部に入り込んだり、海藻表面の粘着部に付着してしまうという現象が生じることが新たに判った。このような現象は、実海域に施肥材を投与した際には、海流等によって懸濁物質濃度が希薄化するため、見られなかったものであり、培養槽で上記施肥材を投与した際に初めて見出された現象である。
そのため、育成後の海藻を回収した後、これらの懸濁物質を海藻から除去するため、洗浄に大変な時間と手間暇がかかるという問題が新たに生じることが判った。
そこで、本発明は、スジアオノリのように房状の形態を有する海藻や、ホンダワラ類のように粘着性を有する海藻を育成するに当たって、市販の液肥よりも廉価な固体の施肥材を用いて、固体の施肥材から出る懸濁物質の海藻への付着等の問題を防止しながら、必要な栄養素を安定的に供給して育成できる海藻の育成方法を提供することを目的とする。
本発明の要旨とするところは、次の(1)〜(9)である。
(1) 腐植物質及び魚かすのうち少なくとも一方と、鉄鋼スラグとを水に浸漬し、当該水中に窒素成分、リン成分、及び鉄成分を溶出させ、ついで、当該溶出水中に含まれる懸濁物質を沈降又はろ過することで除去し、懸濁物質除去後の溶出水を、海水を有する培養槽に供給し、当該培養槽中で、房状または粘着性を有する海藻を育成させることを特徴とする海藻の育成方法。
(2)前記鉄鋼スラグが、炭酸化製鋼スラグであることを特徴とする(1)に記載の海藻の育成方法。
(3)前記房状または粘着性を有する海藻が、スジアオノリ又はホンダワラ類であることを特徴とする(1)または(2)に記載の海藻の育成方法。
(4)前記腐植物質又は魚かすと、鉄鋼スラグとを浸漬する水が、海水であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれか1項に記載の海藻の育成方法。
(5)前記懸濁物質を除去した溶出水を、海水と共に、前記培養槽に供給することを特徴とする(1)〜(4)のいずれか1項に記載の海藻の育成方法。
(6)前記腐植物質及び魚かすのうち少なくとも一方と鉄鋼スラグとを浸漬する水が、海水であることを特徴とする(1)〜(5)のいずれか1項に記載の海藻の育成方法。
(7)液肥供給タンク内で、前記腐植物質及び魚かすのうち少なくとも一方と鉄鋼スラグとを水に浸漬して、前記懸濁物質の沈降を行い、上澄みとなる溶出水を、海水と共に前記培養槽に供給することを特徴とする(1)〜(6)のいずれか1項に記載の海藻の育成方法。
(8)前記培養槽へ、前記溶出水を連続的又は断続的に供給することを特徴とする(1)〜(7)のいずれか1項に記載の海藻の育成方法。
(9)前記培養槽内の海水中の、窒素濃度、リン濃度、及び鉄濃度を管理し、それぞれの濃度が所定の濃度範囲になるように、前記溶出水の供給量を調整することを特徴とする(1)〜(8)のいずれか1項に記載の海藻の育成方法。
本発明により、スジアオノリのように房状の形態を有する海藻や、ホンダワラ類のように粘着性を有する海藻を育成する際、市販の液肥よりも廉価な固体の施肥材を用いて、固体の施肥材から出る懸濁物質の海藻への付着等の問題を防止しながら、必要な栄養素を安定的に供給して海藻を育成することが可能となる。
施肥材の施用方法「液肥供給」を示した図である。 「液肥供給」の排水ラインの設置箇所を示した図である。 「液肥供給」の液肥タンクの設置箇所を示した図である。 「液肥供給」の施肥材を充填したパイプの設置を示した図である。 「液肥供給」の閉鎖循環を示した図である。 施肥材の施用方法「籠入り」を示した図である。 施肥材を用いない場合(対照区)の栽培方法を示した図である。 対照区における窒素、リン、鉄の水質の変化を示す図である。 実験区1における窒素、リン、鉄の水質の変化を示す図である。 実験区2における窒素、リン、鉄の水質の変化を示す図である。 実験区における窒素、リン、鉄の水質の変化を示す図である。
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
本発明の海藻の育成方法について説明する。本発明においては、海藻の育成を、海水を有する培養槽で行う。その理由の一つは、施肥材を直接実海域に投与して海藻を育成する場合には、海流の影響等によって、施肥材から溶出する栄養分が希薄化してしまうことから、海藻周辺に適量の栄養成分を供給するには、過剰の施肥材を投与する必要があり、効率が悪く、且つ、対象とする海藻を安定的に育成することが難しいためである。
また、本発明においては、施肥原料として、腐植物質又は魚かすと、鉄鋼スラグとをベースとする固体の施肥材を用いる。そのため、高価な市販の液肥を使用した場合と比べて施肥コストを削減することができると共に、腐植物質又は魚かすから溶出されるキレート物質に鉄鋼スラグから溶出される鉄イオンが取り込まれることによって、海藻に必要な栄養成分の一つであるが供給が難しい鉄成分を安定的に供給することができる。
しかしながら、上記固体の施肥材をそのまま上記培養槽へ施肥した場合には、施肥材から出る懸濁物質が培養槽の海水中に懸濁して、海藻へ付着したり海藻の間に取り込まれる等の現象が生じて問題となることが判ったため、本発明においては、培養槽への上記固体の施肥材の直接投与は行わず、替わりに、先ず一旦、上記固体の施肥材から窒素成分、リン成分、及び鉄成分を水中に溶出させ、得られた溶出水から懸濁物質を沈降又はろ過して除去する操作を行い、除去後の溶出水を、上記培養槽へと供給する。こうすることで、スジアオノリやホンダワラ類のように、房状、又は、粘着性を有する海藻の育成であっても、培養槽中の海藻への懸濁物質の付着や取り込まれを防止でき、その結果、育成して回収した海藻から懸濁物質を除去するために、洗浄に大変な時間と手間暇をかけるという問題を、回避することができる。
更にまた、上記懸濁物質除去後の溶出水を、容量が一定の培養槽へと供給することから、実海域で海藻を育成する場合と比べて、海藻の育成に必要な栄養成分の適量供給や、海藻近傍の海水中の栄養成分の適量濃度保持が容易となり、安定して海藻を育成することができる。
なお、本発明において、使用する腐植物質又は魚かすは、どちらか一方の使用に限らず、両方を使用しても構わない。
本発明において対象とする海藻は、上記固体の施肥材を直接海藻の近傍へ施肥した場合に、懸濁物質の付着や取り込まれが問題となる房状の海藻、又は、粘着性を有する海藻である。すなわち、海藻を培養槽中で育成した際、上記固体の施肥材を直接培養槽へと施肥した場合に、懸濁物質の付着や取り込まれが問題となる房状の海藻、又は、粘着性を有する海藻である。
そのうち、房状に生長する海藻の代表例としてスジアオノリが挙げられる。スジアオノリは、藻体が幅200μm程度で非常に細く、大きくなると分枝し、15cm程度まで生長する。また、一つの付着器からは、複数の藻体が発芽することで、筆の毛先のように房状に生長する。藻体そのものに粘着性はないが、藻体の一本一本が非常に細いため、海水中に懸濁物質が存在すると、それを取り込みやすいこと、特に本発明に係る施肥原料から出る細粒分が懸濁物質となって培養槽中の海水に懸濁し、取り込まれ易いことが判った。
また、混入した懸濁物質を取り除くためには、何度も藻体を海水で洗浄しなくてはならないことも判明した。そのため、海藻を回収した後の作業が非常に煩雑になり、さらに、回収した藻体がちぎれるなどのダメージを受けることもあり、収率が低下する恐れもあることが判った。
一方、粘着性を有する海藻については、ホンダワラ類が挙げられる。ホンダワラ類は、藻体が生殖器床をはじめとして全体的に粘着性を帯びているため、海水中の懸濁物質を取り込みやすい。さらに、ホンダワラ類は発芽初期から主枝を形成し、それを伸長させながら分枝し、葉を形成しながら1m以上にまで生長するため、藻体は、大型で複雑な構造となる。そのため、藻体全体が取り込んだ懸濁物質を全て除去することは非常に難しい。実際に、天然で採取されたホンダワラ類を食用にするためには、藻体への砂等の実海域で付着した付着物を取り除くために非常な手間暇がかけられるため、市場では高値で取引されている。本発明に係る施肥原料を直接海藻近傍に施肥した場合は、施肥材から出る細粒分が付着し易く、一旦当該細粒分が付着すると、実海域で付着する砂等以上に、取り除くために非常な手間暇がかかることが判った。
この他、スジアオノリやホンダワラ類と同様の特徴を有する海藻として、テングサ、イトグサといった粘着性を有し、且つ分枝した複雑な構造の海藻、そして、ワカメやコンブといった全体的に粘着性物質に覆われている海藻についても、藻体の表面に細粒分が付着したり、分枝部分に入り込むことによって、品質を落とすだけでなく、収穫後の藻体の洗浄作業がより重労働になることから、本発明の対象となる。それらの中でも、本発明に係る施肥原料からの懸濁物質となる細粒分を、最も取り込み易く又は付着し易く、且つ、取り除き難い海藻が、スジアオノリ及びホンダワラ類であり、当該海藻に本発明を適用することがより好ましい。
上記の海藻を育成するためには、生長に必要な栄養素を安定的に供給することが重要である。特に実海水を用いる陸上養殖において施肥を行う場合、培養槽内に海水と一緒に混入される珪藻をはじめとした植物プランクトンではなく、いかに目的の海藻に添加した栄養塩類を効率的に摂取させ、生長させるかが非常に重要となる。一般的に、海藻よりも植物プランクトンの方が、栄養塩類の摂取速度が速いため、施肥の効果が目的の海藻に表れる前に、海水中の栄養塩類が欠乏してしまうことが養殖現場などでは起こりやすい。そのため、海藻の生長に必要な多種多様な栄養塩類の中から、目的とする海藻の特性に合わせて選択し、適切な濃度を設定しなければならない。
本発明において施肥により添加される栄養塩類は、窒素、リン、鉄である。窒素は、各種アミノ酸を構成する主要元素であり、リンは、核酸をはじめ、光合成や呼吸によって産生されるエネルギーATPの根幹をなす元素であることから、陸上植物と同様に、多くの海藻の生育にとって、必須元素であることは明確である。
鉄については、クロロフィルaの生合成経路において、補酵素として機能することが知られている。この他、光合成経路および呼吸経路における電子伝達系の補酵素として機能し、窒素摂取時の硝酸および亜硝酸の還元に関与することから、藻類の生育に必要不可欠な元素であることが分かる。また、海藻の多くの種は、光合成色素としてクロロフィルaを有しており、スジアオノリをはじめとした緑藻では特に含有量が多い。さらに、鉄の添加によってコンブやホンダワラ類の生長が促進されることが知られている。これらのことからも、鉄は海藻にとって重要な元素であることが明らかである。
一般的な海藻培養用の培地には、多くの場合ケイ素が含まれているが、陸上養殖においては、実海水と一緒に混入する珪藻といった植物プランクトンの増殖を助長することになってしまい、目的とする海藻の生長を阻害しかねないため、ケイ素を添加することは好ましくない。この他、海藻の生長に必要な栄養素として、カリウムやカルシウム、マグネシウム等が挙げられるが、これらは、海水中に十分量が溶解しているため、陸上で培養を行ったとしても欠乏する可能性は低く、施肥材の中に含める必要性は低いと考える。また、海水中の窒素、リン、鉄の濃度は、海況や季節変動によって影響を受けやすい。特に、窒素、リンについては、欠乏によってノリの色落ちが漁場全体に起こるほどである。鉄についても、鉄の欠乏が原因と考えられている磯焼け海域が存在するほどである。
以上のように、窒素、リン、鉄は、海水中で最も欠乏しやすく、且つ変動しやすい栄養塩類であることから、本発明においてこれらを含有する固体の施肥材からの溶出水によって適量添加することは、海藻の安定的な生育に極めて効果的である。
また、本発明において培養槽内に供給されるべき窒素、リン、鉄の槽中の適正濃度については、海藻の種類によって違いはあり、その都度、適宜調整すればよい。すなわち、排水中に含まれる各栄養塩類(より具体的には、栄養塩類中の窒素、リン、鉄)の濃度が所定濃度(定量下限値)以上となれば、対象藻類が各元素(成分)を十分に摂取できたことになる。そこで、溶出水及び海水中の各成分の濃度を管理(測定)し、測定結果に基づいて培養槽へ供給する当該溶出水及び海水の流量を制御する。これにより、培養槽に供給される各成分の濃度を制御する。さらに、培養槽からの排水中に含まれる各成分の濃度を管理(測定)する。そして、培養槽からの排水中に含まれる各成分の濃度が所定濃度以上となるように、培養槽に供給される各成分の濃度を制御する。すなわち、培養槽へ供給する溶出水及び海水の流量を制御する。
スジアオノリ、又はホンダワラ類を対象とした場合は、以下の通りである。溶出液中の濃度、培養槽に供給する海水中の濃度、及び培養槽へ供給する当該溶出水及び海水の流量から算出した窒素濃度として1.0mg/L以上で培養槽に添加し、排水中の濃度が0.1mg/L(定量下限値)以上となれば、培養槽内において藻類が十分量を摂取したと判断できる。添加する窒素の形態は、藻類が最も摂取しやすい硝酸態であることが望ましい。ただし、アンモニア態であっても問題ない。
溶出液中の濃度、培養槽に供給する海水中の濃度、及び培養槽へ供給する当該溶出水及び海水の流量から算出したリン濃度として0.2mg/L以上で添加し、排水中の濃度が0.1mg/L(定量下限値)以上となれば、培養槽内における藻類の生育に十分であると判断できる。その形態は、藻類が摂取しやすいリン酸態であることが望ましい。添加した栄養塩類を効率的に摂取させるためには、多くの沿岸海水と同様に窒素:リンの質量比を7〜10:1とするのがよい。
溶出液中の濃度および培養槽に供給する海水中の濃度から算出した鉄濃度(2価鉄、3価鉄の合計)として、5〜10μg/Lとなるように添加し、排水中の濃度が1μg/L(定量下限値)以上となれば、培養槽内において藻類が十分量を摂取したと判断できる。排水中の濃度が1μg/L未満となると、藻類は鉄欠乏状態となり、生長が滞るだけでなく、藻体の色彩が淡色化してしまう。
なお、各成分の添加濃度は、ある程度過剰であっても問題は無いが、所定の定量上限値以下であることが好ましい。このような定量上限値も海藻の種類によって異なる。例えばスジアオノリ、又はホンダワラ類を対象とした場合、窒素の上限値は、2mg/Lであり、リンの定量上限値は、0.2mg/Lであり、鉄の上限値は、20μg/Lである。
本発明では、固体の施肥材として、腐植物質又は魚かすと鉄鋼スラグとを使用するが、腐植物質は鉄のキレーターとなる腐植酸を多分に含有しているため、スラグから溶出した鉄分は、腐植酸と錯体を形成し、溶出する。一般的に、市販の液肥には鉄のキレーターとして化学合成されたEDTAが使用されているが、これに比べて、腐植酸と結合した鉄は生物利用性が高く、低濃度で効果を示すことが分かっている。このため、市販の液肥よりも本発明における固体の施肥材の方が、施用量を少なく抑えられ、より安価に施肥を行うことが可能となる。窒素、リン、鉄の複合供給材として、腐植物質に炭酸化製鋼スラグを混合した穏効性の固形肥料を作成し、施肥することが望ましい。
本発明に使用する腐植物質としては、ケイ素の含有量が比較的少ないクヌギ、ブナ等の広葉樹を腐葉土化したものが好ましいが、この他にも、有機物、魚介類の食品残渣等を発酵させて得られ、無機態の窒素やリンを豊富に含む魚かす等でもよい。
魚かすの原料としては、ケイ素の含有が少ない鮭等の食品残渣が好ましい。魚かすの発酵の過程では、有機物はバクテリアによって分解され、無機物となり、得られた腐植物質中にはスジアオノリが栄養塩として容易に摂取しうる無機態窒素(硝酸態窒素、アンモニア態窒素)やリン酸態リンが多量に含まれている。これらの栄養塩類が溶出し、窒素、リンの供給源となる。また、分解過程に精製される有機酸の一種である腐植酸は金属イオンとの錯体形成能を有しており、炭酸化製鋼スラグから溶出する鉄イオンと錯体を形成し、長時間海水中に溶存態として存在できるため、海藻が鉄分として摂取することができる。
腐植物質または魚かす中にケイ素を多く含む場合には、水槽に引き込む海水をあらかじめUV殺菌、または砂ろ過等によって海水中に含まれる珪藻をはじめとした微細藻類を除去することが好ましい。しかし、除去には大型設備の導入が必要となり、初期投資が大きくなるため、あらかじめケイ素を含まない腐植物質または魚かすを選定することがより望ましい。
鉄を供給する穏効性の固形肥料としては、それが穏効性であればよく、鉄鋼スラグを用いることができる。製鐵所から生成する鉄鋼スラグは、鉄鋼製造工程において副産物として発生する。鉄鋼スラグは大別して、高炉スラグと製鋼スラグに分けられるが、本発明に使用するスラグは、製鋼スラグに限定されるものではないものの、鉄分含有量が高炉スラグ(約0.4質量%)は製鋼スラグ(約20質量%)に比べて低いため、より効率的な鉄分供給を行う場合には、製鋼スラグを使用することが好ましい。
製鋼スラグは、製鋼炉(転炉、電気炉)において、銑鉄やスクラップから鋼を製造する際に生成するスラグの総称であるが、本発明に用いる製鋼スラグは、転炉系の製鋼スラグであることが望ましい。転炉系の製鋼スラグは電気炉系製鋼スラグと比較し、成分組成が安定しており、品質管理が容易である。また、近年、鋼品質の高度化に対応するため、転炉による精錬のみでは不純物の除去が不十分となり、転炉前後の工程(溶銑予備処理、2次精錬)を付加された高級鋼製造工程から生成する溶銑予備処理スラグや2次精錬スラグも、転炉スラグと同様に転炉系の製鋼スラグに含まれる。本発明において使用する製鋼スラグは、粗鋼生産量の約40質量%相当量が生成することからも、安価で且つ安定的な供給が可能であり、鉄の供給材として非常に有望である。
本発明に使用する製鋼スラグとしては、炭酸化処理した製鋼スラグを用いることが特に望ましい。製鋼スラグはf−CaOを(可溶性石灰)も1〜2質量%前後含んでいるため、水中のpHを一時的に上昇させやすいという性質がある。このため、「炭酸化処理」を施し、f−CaOをCaCOとした「炭酸化製鋼スラグ」とし、溶出水のpH上昇の程度を抑制することが望ましい。製鋼スラグの炭酸化処理は、製鋼スラグを二酸化炭素又は炭酸含有水と接触させることにより実施することができる。この操作により、CaOはCaCOとなり、また、CaCOは製鋼スラグの表面上に形成されるため、残存するCa2+の急激な溶出を抑制することができる。このような炭酸化処理を製鋼スラグに施すことにより、水域での一時的なpHの上昇を防ぐことができる。
炭酸化処理を施していない製鋼スラグを使用する場合には、スラグからの鉄分の溶出を促すために、施肥材を浸漬した溶液をリンゴ酸やクエン酸といった有機酸によってpH8未満に調整すればよい。
高炉スラグについても、pH8未満の溶液に浸漬することによって、製鋼スラグと同様に鉄分の溶出を促すことができるため、鉄分を供給する固形肥料として高炉スラグを製鋼スラグと同様に用いることができるが、鉄分の含有量が少ないため、製鋼スラグに比べて多量の投入が必要となる。
また、電炉スラグは、鉄以外に、海藻の育成環境には好ましくない重金属を含むことがあり、使用の際は十分な注意が必要であることから、転炉系の製鋼スラグ又は高炉スラグを使用することが望ましい。
鉄を主に供給したい場合の好ましい一形態としては、鉄を15〜25質量%含む炭酸化製鋼スラグと腐植物質および/または魚かす(腐植物質、魚かす共に窒素 0.5〜1.5質量%、リン酸 0.5〜1.5質量%含有)とその配合比率(質量比)が炭酸化製鋼スラグ:腐植物質または魚かす=1〜3:1となるように混合すればよい。対象とする海藻、水槽内、または養殖に使用する海水中に欠乏している栄養塩類によって、その配合比率を自在に変えることができる。鉄だけでなく、窒素、リンが欠乏している場合には、上記の配合に加えて、適正濃度となるように腐植物質または魚かすを加えればよい。
次に、本発明で使用する装置(図1)の一例を説明する。スジアオノリの場合、藻体を培養槽内で浮遊させるが、ホンダワラ類はスジアオノリと同様に藻体を浮遊させて生育させることもあるものの、多くの場合、発芽時にプラスチック等でできた着生板に付着させるため、着生板を培養槽の底に設置して生育させる。このような藻体の設置方法以外には、スジアオノリとホンダワラ類とで装置構成に違いはない。
該装置は、培養槽1、排水ライン2、溶出水供給口3、施肥材4、液肥タンク5、ポンプ6で構成されている。培養槽1は、海藻を投入し、養殖・培養する容器であり、養殖・培養の規模によるが例えば1〜7tの容積で、上面が開口したタンクである。タンクの形態は、円筒形、直方体いずれでもよく、設置する設備や面積によって適宜選定すればよい。また、屋外に設置する場合、外部からの混入物が懸念される場合には、開口部を塞ぐ蓋やシートを設置してもよい。
培養槽1には排水ライン2が付属しており、培養槽1内を滞留した海水が装置外に排水される。排水ライン2の設置位置は、海水の十分な滞留を考慮して培養槽1の底面とし、ライン2を培養槽1の所望の水位まで立ち上げることが好ましいが、特に制限するものではなく、例えば、図2に示すように、培養槽1の所望の水位と同じ高さに設置してもよい。溶出水供給口3から培養槽1に、施肥材(固体の施肥原料)から溶出された溶出水(液肥)が供給される。本形態では、この溶出水供給口3から海水も一緒に供給される。
溶出水供給口3に繋がる配管は、海水を導入する配管と、その途中に設置された、施肥材4を所定量入れた液肥供給タンク5からポンプ6を経由して供給される溶出水の配管とが合流して形成される構造となっており、これにより溶出水(液肥)と海水とが供給される。
液肥供給タンク5には、腐植物質又は魚かすと鉄鋼スラグとが水中に浸漬され、当該水中に窒素成分、リン成分、及び鉄成分が溶出されている。溶出させるための水は、淡水、海水を問わないが、1時間当たりの溶出水の吐出量が培養槽の容積の10体積%以上になった場合には、培養槽内の塩濃度が低下し、藻類の生育に影響が及ぼされるため、海水が好ましい。
別の実施形態として、図3に示すように、溶出水の供給(溶出水供給口3)と海水の供給(溶出水供給口3’)とを分けても構わない。この場合、ポンプ6を付属した液肥タンク5の配管を培養槽1付近に別途、設置してもよい。
また、液肥タンク5中に浮遊する懸濁物質は、通常、自然沈降するため、ポンプ6の吸水口を液肥タンク5の水面上部に設置すれば懸濁物質の混入を防ぐことができる。ポンプ6は上澄みを汲み上げるためである。しかし、液肥タンク5中の海水を投入もしくは追加した直後には、懸濁物質が巻き上がるため、培養槽1への混入を防ぐ対策として、液肥タンク5の上面にメッシュのようなフィルター7を設置してもよい(図1〜3参照)。
更にまた、液肥タンク5を別途設置することが困難な場合には、図4に示すように、溶出水供給口3の手前に施肥材4を充填したパイプを設置し、溶出水供給口3側にフィルター7を付属することで施肥材からの懸濁物質の混入を防いで、施肥材の溶出液を培養槽1に供給することもできる。この他、液肥タンク5とポンプ6の間にストレーナーを設ける、もしくは、溶出水供給口3にフィルターを付属してもよい。
培養槽内に供給されるべき窒素、リン、鉄の濃度を管理する方法としては、定期的に培養槽からの排水ラインから海水を採取し、分析を行い、各栄養塩類が所定濃度以上になるように適宜添加量を決定するのが好ましい。培養槽が空気曝気等によって十分に混合されている場合には、培養槽のいずれかの場所で採取しても問題ないが、混合が不十分な場合には、排水ラインから採取し、分析に供することが好ましい。分析方法としては、窒素(硝酸態窒素、アンモニア態窒素)、リン(リン酸態リン)は、オートアナライザー(フランベール社製、TRAACS2000)を使用し、鉄に関しては、採水後に塩酸で酸処理(pH2.0未満)を行い、海水中の鉄分を全て溶解させた上で、ICP―MSによって分析を行う。定期的な分析が困難な場合には、上記の手法によって得られた排水ラインの分析値、または使用する海水の過去の分析値を参考にして、添加量を決定し、ポンプによる定期的な添加でもよい。
培養方法として、海水をかけ流す(溶出水及び海水が培養槽を経由してそのまま排出される)場合には、(図1〜4)に示したような液肥供給タンクの設置方法で問題ないが、施設が内陸に位置し、使用できる海水に制限がある場合には、図5に示すように、溶出水供給ライン8と排水ライン2を連結させ、閉鎖循環として、ラインの途中に液肥タンク5を設置してもよい。あるいは、培養開始時に栄養成分の全所定量を水槽に添加し、収穫時まで閉鎖循環で栽培してもよい。
なお、図1〜図3、図5の実施形態において、液肥タンク5への水の供給は、バッチ的に投入しても、連続して投入しても構わない。水をバッチ投入する場合は、時間の経過や、液肥タンク5中の水量変化によって、溶出水中の窒素成分、リン成分、鉄成分の濃度が変わってくることから、濃度変化に合せてポンプ6からの溶出水の吐出流量を適宜調整することが好ましい。また、水を連続投入する場合は、ポンプ6からの吐出流量を一定に保ちながら、それと同量の水を連続して供給することで、液肥タンク5内の溶出水の貯留量を一定に保ち、且つ、タンク内の固体の施肥原料の投入量を適宜調整することで溶出水中の各成分の濃度も一定に保つようにすることができる。
但し、バッチ投入の場合および連続投入の場合共に、各成分をある程度過剰に投入する分には問題は無いことから、溶出水に濃度変動が生じるとしても、変動時の最小濃度×溶出水流量が、培養槽における各成分の必要量を確保していれば、育成上の問題は生じない。なお、培養槽1への溶出液の供給は、連続的であっても断続的(バッチ的)であってもよい。
本発明のように固形の施肥材を浸漬して溶出水(液肥)を調整することの利点として、浸漬する水は都度追加し(バッチ的に投入、もしくは連続投入)、施肥材を繰り返し使用すればよいので、施肥作業が簡便で、固形の施肥材も効率的に使用できることが挙げられる。市販の液肥や試薬から液肥を調整する場合には、その都度の調整作業が煩雑になってしまうだけでなく、コストも高くなる。
(実施例1)効果的な施用方法の検討
房状の形態で生長するスジアオノリの生育に適した施肥材の施用方法を検討した。本発明例として、100L水槽(培養槽1)にスジアオノリ藻体のみを50g(湿重量(湿質量))入れ、海水の供給口側に20kgの施肥材と60Lの海水を入れた100L液肥タンクを設置し、ポンプを介して海水と一緒に液肥を供給できるようにした(本発明例1、図1、以下液肥供給)。
施肥材には、炭酸化製鋼スラグと広葉樹の剪定材由来の腐植物質を質量比で2:1に混合したものを使用し、液肥タンクの上面には、平均目合1mmのナイロン製メッシュを設置し、施肥材からの懸濁物質が液肥に混入しないようにした。液肥は、0.75L/hrの流速で連続的に供給した。液肥タンク内の海水がなくなった際には、新たに海水を加えて、繰り返し施肥材を使用した。また、海水の供給流量は、18L/hrとした。排水ラインを培養槽の液面の高さに設置することによって、供給量と同量が排水されるようにした。
もう一方は、比較例として、100L水槽に本発明例と同資材、同配合で調整した施肥材20kgを充填した籠を100L水槽に沈設し、そこに、スジアオノリ藻体を50g入れて、海水を流速18L/hrとなるようにかけ流した(比較例1、図6、以下籠入り)。
本発明例、比較例共に培養槽内は、空気曝気することによって十分に混合され、スジアオノリ藻体が均一に浮遊するようにした。
比較例1の「籠入り」では、施肥材の沈設直後から、施肥材中の細粒分が水槽内に懸濁し、実験期間中、沈静化することはなかった。一方、本発明例1の「液肥供給」では、液肥供給タンクからは懸濁物質の殆ど存在しない液体が供給され、濁度の変化はほとんどなかった。
その結果、5日後に収穫した際には、比較例1の「籠入り」の藻体には、スジアオノリの各房の根元に細粒分が混入してしまい、藻体の洗浄に非常に手間取った。7tの培養槽に「籠入り」の形態で上記施肥材を施用した際には、施肥をしない時には1回で完了した洗浄作業が、4回必要となり、作業時間が計50分も延長となった。一方、本発明例の「液肥供給」では、細粒分の混入はほとんどなく、収穫後は、施肥をしないものと同様の洗浄処理で十分であった。以上の検討から、房状の形態をする海藻には、液肥による施肥が効果的であることが明らかとなった。また、広葉樹の剪定材由来の腐植物質を、魚かすに置き換えた以外は実施例1と同条件で試験したところ、スジアオノリの収穫量は少々減少したものの、細粒分の混入はほとんどなく、収穫後は、施肥をしないものと同様の洗浄処理で十分であった。以上より、腐食物質と魚かすのそれぞれにおいて、収穫時に細粒分の混入はほとんどない結果となった。また、上記の各実験結果によれば、腐食物質と魚かすの両方を用いた場合でも、収穫時に細粒分の混入はほとんどないことは明らかである。
(実施例2)スジアオノリの栄養塩類濃度の調整
100L水槽にスジアオノリを約50g(湿重量(湿質量))入れ、5日間での液肥添加実験を行った。培養槽内は、空気曝気することによって十分に混合され、スジアオノリ藻体が均一に浮遊するようにした。窒素、リン、鉄濃度の水質分析のために行った定期的な採水は、排水ラインから行い、排水中の各栄養塩類の濃度は、液肥添加濃度に対してスジアオノリが摂取しなかった分であると捉え、スジアオノリが過不足なく摂取することができ、生長に適した窒素、リン、鉄の濃度を検討した。本実験で水槽に投入したスジアオノリ約50g(湿重量(湿質量))は、これまでの検討で100L水槽を使って培養を行う場合に5日間で生長量が最大となる藻体量である。
液肥の添加方法は、実施例1の本発明例1と同様に行った(図1)。まず、100L水槽の溶出水供給口手前に液肥タンクを設置した。液肥タンクの中には、炭酸化製鋼スラグと広葉樹の剪定材由来の腐植物質を質量比2:1で混合した施肥材30kgを入れ、液固質量比3:1となるように海水90Lを加えた。液肥タンクからは、ポンプを介して流速1.15L/hrで連続的に液肥を供給し、液肥タンク内の海水がなくなった際には、新たに海水を加えて、繰り返し施肥材を使用した。また、排水ラインは培養槽の液面の高さに設置することによって、供給量と同量が排水されるようにした(かけ流し条件)。対照区に関しては、溶出水供給口側に液肥供給タンクを設置せず、海水のかけ流し条件下で実験を行った(図7)。海水の流量は、実験区1、2、対照区のいずれも同一条件(流速18L/hr)とした。結果を以下に示す。
<対照区1>対照区において、培養槽に供給した海水は窒素、リン濃度は、約0.4mg/L、約0.05mg/Lであり比較的に豊富に含まれた海水である。しかし、鉄に関しては0.7μg/Lと低濃度であり、鉄欠乏海水であった。各分析値は、実験開始後から各濃度が定量下限値を下回り、培養槽内において鉄を含めた栄養塩類が欠乏しいていることは明らかであった(図8)。
<実験区1>溶出液中の濃度および培養槽に供給する海水中の濃度から算出したスジアオノリ育成中の培養槽における各栄養塩類濃度が、実験開始時の濃度で窒素0.5mg/L、リン0.23mg/L、鉄10μg/Lとなるように液肥を添加した場合の結果を図9に示す。排水中の窒素は、添加直後から減少し、2日目には、定量下限値を下回ったことから、液肥の添加濃度が不十分であることが明らかである。リンについては、排水濃度が添加直後から減少し、2日目には、定量下限値を下回った。その後、排水濃度は微増したが、定量下限値に届かなかった。したがって、添加濃度が不十分であることが分かった。一方、鉄については、2日目から5日目まで約6〜8μg/Lが残ったことから、添加濃度が余剰であることが推察された。
<実験区2>溶出液中の濃度および培養槽に供給する海水中の濃度から算出したスジアオノリ育成中の培養槽における各栄養塩類濃度が、実験開始時の濃度で窒素1.2mg/L、リン0.27mg/L、鉄6μg/Lとなるように添加実験を行った(図10)。排水中の窒素は、実験開始直後は、減少したものの、2日目以降は約0.4mg/L以上が残存するようになった。リンは、実験開始時には、排水中の濃度が減少したものの、最終的には約0.1mg/L残り続けた。鉄に関しては、実験期間中約1μg/Lで推移したことから、添加した鉄分の約8割がスジアオノリに摂取されたと考えられる。また、実験期間中の培養槽内の珪藻を含めた植物プランクトンの量を海水中のクロロフィル測定によって確かめたところ、実験開始時から約0.7μg/Lで推移し、施肥による増殖は認められなかった。このことからも、添加した液肥中の栄養塩類のほとんどがスジアオノリに摂取されたことが分かり、かつ、適正濃度であることが推察される。
対照区、実験区1および2で生育したスジアオノリの湿重量(湿質量)について表1にまとめた。対照区に比べて、実験区ではいずれも実験終了時の湿重量(湿質量)を大きく上回っていたが、実験区2は実験区1の約2.5倍となり、窒素、リン、鉄を過不足なく与えることによってスジアオノリの生長が促進されることが明らかとなった。
Figure 2015107061
(実施例3)ホンダワラ類(ジョロモク)への育成効果の確認
実施例1の実験区と同様の装置および施肥材を用いて、複雑な構造を有するジョロモクの生長に対する施肥の効果を検証した。起毛加工を施したプラスチック製板に受精卵を着生させ、約1ヵ月間順致培養したジョロモク藻体(総湿重量(総湿質量)50g)を用い、着生板を培養槽の底に固定して生育させた。実験期間中の実験区(施肥区)の水質は、窒素に関しては、溶出液中の濃度および培養槽に供給する海水中の濃度から算出した濃度(添加濃度)が、2mg/L以上であったのに対し、排水中の濃度は、0.1mg/L以上で推移した。リンについては、溶出液中の濃度および培養槽に供給する海水中の濃度から算出した濃度(添加濃度)が、0.1〜0.3mg/Lであったのに対して、排水中の濃度は0.03〜0.13mg/L(測定値の算術平均値は定量下限値以上となった)で推移した。鉄に関しては、溶出液中の濃度および培養槽に供給する海水中の濃度から算出した濃度(添加濃度)が、6〜14μg/Lであったのに対して、排水中の濃度は5μg/L未満(測定値の算術平均値は定量下限値以上となった)で推移した(図11)。実験期間中の培養槽内の珪藻を含めた植物プランクトンの量に関しては、海水中のクロロフィル量が、実験区、対照区共に約3μg/Lで推移し、施肥による増殖は認められなかった。このことからも、添加した液肥中の栄養塩類のほとんどがジョロモクに摂取されたことは明らかだった。
以上の水質の変化に対して、60日後のジョロモク藻体の湿重量(湿質量)は、実験区において191.3g、対照区では62.5gとなり、実験区は対照区の約3倍にまで生長し、施肥の効果が実証された。また、本実験では、施肥材を液肥の形態で添加を行ったことで、複雑な構造を有するジョロモク藻体への施肥材中の細粒分が付着、混入することはなかった。
(実施例4)コンブ藻体の生長に効果を及ぼす鉄形態の比較
コンブ藻体(胞子体)の生長に効果を及ぼす鉄の形態を比較するために、以下の培養実験を行った。ろ過滅菌海水に市販されている液肥(以下、市販液肥)、炭酸化製鋼スラグと広葉樹の剪定材由来の腐植物質を1:2で混合した施肥材からの溶出液(以下、溶出液)をそれぞれ鉄の添加濃度が0、5、10、100μg/Lとなるように調整し、培地を作製した。鉄以外には、窒素1.0mg/L、リン0.1mg/Lとなるように、市販液肥、溶出液共に濃度を合わせた。各培地200mlを入れた300mlガラス製三角フラスコに葉長約10mmのコンブ藻体を5個体ずつ加え、15℃、長日条件(明期14時間、暗期10時間)に設定した培養庫において静置条件で10日間の培養実験を行った。コンブ藻体の生長に及ぼす効果は、培養実験前後の葉長(胞子体の付着器から先端部を測定)を比較することによって評価した。
10日間の培養実験におけるコンブ藻体の生長量を表2にまとめた。10日後の葉長は、市販液肥では、0〜10μg/Lで顕著な効果は見られなかったが、100μg/Lで2.52倍と大きく生長した。これに対し、溶出液では、5μg/L以上で2倍以上に大きく生長し、さらに、市販液肥のものよりも生長への効果は顕著であった。以上の結果から、本発明で使用する施肥材の溶出液は、市販液肥よりも低濃度で効果があることが明らかとなった。
Figure 2015107061
これらの結果を100L培養槽にスケールアップした結果、5日間の生育期間で市販液肥を1.5L使用して(鉄添加濃度;100μg/L)、約4000円であったのに対し、溶出液では、施肥材30kgを使用し(鉄添加濃度;10μg/L)し、220円と施肥にかかる費用を約1/20に抑えることができた。
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
1 培養槽
2 排水ライン
3 溶出水供給口
4 施肥材
5 液肥タンク
6 ポンプ
7 フィルター
8 溶出水供給ライン

Claims (9)

  1. 腐植物質及び魚かすのうち少なくとも一方と、鉄鋼スラグとを水に浸漬し、当該水中に窒素成分、リン成分、及び鉄成分を溶出させ、ついで、当該溶出水中に含まれる懸濁物質を沈降又はろ過することで除去し、懸濁物質除去後の溶出水を、海水を有する培養槽に供給し、当該培養槽中で、房状または粘着性を有する海藻を育成させることを特徴とする海藻の育成方法。
  2. 前記鉄鋼スラグが、炭酸化製鋼スラグであることを特徴とする請求項1に記載の海藻の育成方法。
  3. 前記房状または粘着性を有する海藻が、スジアオノリ又はホンダワラ類であることを特徴とする請求項1または2に記載の海藻の育成方法。
  4. 前記腐植物質及び魚かすのうち少なくとも一方と、鉄鋼スラグとを浸漬する水が、海水であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の海藻の育成方法。
  5. 前記懸濁物質を除去した溶出水を、海水と共に、前記培養槽に供給することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の海藻の育成方法。
  6. 前記腐植物質及び魚かすのうち少なくとも一方と鉄鋼スラグとを浸漬する水が、海水であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の海藻の育成方法。
  7. 液肥供給タンク内で、前記腐植物質及び魚かすのうち少なくとも一方と鉄鋼スラグとを水に浸漬して、前記懸濁物質の沈降を行い、上澄みとなる溶出水を、海水と共に前記培養槽に供給することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の海藻の育成方法。
  8. 前記培養槽へ、前記溶出水を連続的又は断続的に供給することを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の海藻の育成方法。
  9. 前記培養槽内の海水中の、窒素濃度、リン濃度、及び鉄濃度を管理し、それぞれの濃度が所定の濃度範囲になるように、前記溶出水の供給量を調整することを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の海藻の育成方法。
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