実施の形態を説明する前に概要を説明する。伝送路が二重化された同期網(例えばSDH/SONET網)において運用系伝送路が切り替えられた場合、通信データが一部欠落しても通常問題は生じない。しかし、この切替に伴い同じデータを二重に受信し、重複するデータを配下の装置へ出力してしまうと、配下の装置の予期しない誤動作を招くことがある。したがって、同期網の通信装置の二重受信保護機能は必須となっている。
同期網の通信装置は、外部装置への重複データ出力を抑制するために予め定められた時間であり、二重受信保護機能を有効にする時間を規定する二重受信保護時間(以下、単に「保護時間」と呼ぶ。)を保持する。保護時間の長さは、安全のために、通信装置で予め定められた設計値・想定値としての最大遅延時間の値に固定されることが多い。最大遅延時間は、網の運用上(規約上、設計上)許容される最大数の通信装置を配置した同期網における、0系伝送路と1系伝送路間のデータ伝送遅延時間、言い換えれば、データ伝送に要する時間差の最大値である。また、データの送信元から通信装置まで、運用上許容される最大数の通信装置が介在する場合の、0系伝送路と1系伝送路間のデータ伝送遅延時間の最大値とも言える。実施の形態の最大遅延時間は50ミリ秒であることとする。
保護時間を装置運用での最大遅延時間に設定することで、運用系伝送路の切替に伴う重複データの出力は防止できるが、トレードオフとしてデータの欠落量は増加する。したがって、最大遅延時間が最適な保護時間とは必ずしも言えない。
そこで実施の形態では、二重受信保護時間の最適化方法を提案する。具体的には、実施の形態の通信システムでは、同期網の通信装置間で遅延時間計測用の目印データを運用系伝送路と待機系伝送路のそれぞれを介して送受し、目印データ受信の伝送路間での時間差を測定する。言い換えれば、伝送路間で生じている伝送遅延時間を実測する。そして、測定した時間差にもとづいて保護時間の長さを自動で調整する。これにより、保護時間が適切な長さに自動で調整され、運用系伝送路が切り替えられた場合の、重複データの出力防止と、データ欠落量の抑制を両立させることができる。
図1は、実施の形態の通信システムの構成を示す。SDH通信システム10は、SDH通信装置12とSDH通信装置14を備える。SDH通信装置12とSDH通信装置14は、所定のマスタクロックに同期して信号を伝送する同期網であるSDH網を構成する伝送装置である。SDH通信装置12とSDH通信装置14はそれぞれ端末側装置16と端末側装置18に接続される。端末側装置16は、ユーザ網の各種端末や、サーバ、通信装置等、複数の装置を含む。
SDH通信装置12とSDH通信装置14は直接接続されてもよく、他のSDH通信装置を含むSDH網を介して接続されてもよい。またSDH通信システム10は、3つ以上のSDH通信装置をリングトポロジで接続したリング網を構成してもよい。いずれの場合も、SDH通信装置12とSDH通信装置14は、複数の光伝送路により冗長接続され、実施の形態では0系伝送路と1系伝送路の2つにより接続される。また、以下では説明の簡明化のため、端末側装置16と端末側装置18間で論理的な伝送路であるパスを疎通させることとする。実際には、複数のSDH通信装置に接続された複数の端末側装置間でメッシュ状にパスを構築してもよいことはもちろんである。
図2は、図1のSDH通信装置12の機能構成を示すブロック図である。SDH通信装置12は、光IF部20と、光IF部22と、空間スイッチ24と、インタフェース盤30を備える。同図の構成は、インタフェース盤30の接続先が端末側装置18になることを除き、SDH通信装置14にも当てはまる。
本明細書のブロック図において示される各ブロックは、ハードウェア的には、コンピュータのCPUやメモリをはじめとする素子や機械装置、電子回路で実現でき、ソフトウェア的にはコンピュータプログラム等によって実現される。ここでは、それらの連携によって実現される機能ブロックを描いている。したがって、これらの機能ブロックはハードウェア、ソフトウェアの組合せによっていろいろなかたちで実現できることは、当業者には理解されるところである。
光IF部20は、外部装置が0系伝送路へ送出した通信データを0系伝送路から受信する。また、外部装置へ伝送すべき通信データを0系伝送路へ送出する。光IF部22は、外部装置が1系伝送路へ送出した通信データを1系伝送路から受信する。また、外部装置へ伝送すべき通信データを1系伝送路へ送出する。光IF部20は、光電気変換および電気光変換を適宜実行してもよいことはもちろんである。
空間スイッチ24は、端末側装置16と端末側装置18間で疎通している複数のパスの通信データを多重化(例えば時分割多重化)する。また、複数のパスの通信データが多重化された多重化後データに対する多重分離処理を実行し、疎通しているパスごとの通信データを抽出する。空間スイッチ24は、0系スイッチ26と1系スイッチ28を含む。
0系スイッチ26は、0系伝送路へ送出すべきデータであり、インタフェース盤30から渡された複数のパスの通信データに対する多重化処理を実行し、多重化後のデータを光IF部20に渡す。また0系スイッチ26は、光IF部20が0系伝送路から受信したデータに対する多重分離処理を実行し、パスごとに分離した通信データをインタフェース盤30に渡す。1系スイッチ28は、1系伝送路へ送出すべきデータであり、インタフェース盤30から渡された複数のパスの通信データに対する多重化処理を実行し、多重化後のデータを光IF部22に渡す。また1系スイッチ28は、光IF部22が1系伝送路から受信したデータに対する多重分離処理を実行し、パスごとに分離した通信データをインタフェース盤30に渡す。
インタフェース盤30は、記憶部32と、端末インタフェース部(端末IF部38)と、シンボル追加部40と、空間スイッチインタフェース部(空間スイッチIF部42)と、ルート選択部44と、遅延時間検出部46と、保護時間決定部48を含む。記憶部32は、各種データを記憶する記憶領域であり、パス情報保持部34と保護時間保持部36を含む。
パス情報保持部34は、端末側装置16と端末側装置18間で疎通している複数のパスに関するパスごとのパス情報を保持する。パス情報は、運用系伝送路として使用している伝送路が、0系伝送路かまたは1系伝送路かを示す情報を含む。例えば、端末側装置16の装置Aと端末側装置18の装置B間のパスでは0系伝送路を運用系伝送路として使用するとき、端末側装置16の装置Cと端末側装置18の装置D間のパスでは1系伝送路を運用系伝送路として使用するかもしれない。前者のパスでは1系伝送路が待機系伝送路となり、後者のパスでは0系伝送路が待機系伝送路となる。パス情報保持部34は、パスの識別情報と、運用系伝送路の識別情報、待機系伝送路の識別情報を対応づけて保持する。
保護時間保持部36は、端末側装置16と端末側装置18間で疎通しているパスごとの二重受信保護時間の長さを示す情報を保持する。例えば、パスの識別情報と、運用系伝送路を0系から1系へ切り替える際の保護時間(以下「0系1系保護時間」と呼ぶ。)と、運用系伝送路を1系から0系へ切り替える際の保護時間(以下「1系0系保護時間」と呼ぶ。)を対応づけて保持する。保護時間の長さの初期値は、装置運用での最大遅延時間に設定されてもよい。
端末IF部38は、端末側装置16とのインタフェースの終端処理を実行する。例えば、端末IF部38は、端末側装置16から送信されたパスごとの通信データ(以下、「送信データ」とも呼ぶ。)を受信し、シンボル追加部40に渡す。このとき、0系装置内伝送路と1系装置内伝送路の両方に送信データを送出する。0系装置内伝送路は、SDH網の0系伝送路で伝送されるデータを通信装置内で伝送するために設けられた装置内部の伝送路である。1系装置内伝送路は、SDH網の1系伝送路で伝送されるデータを通信装置内で伝送するために設けられた装置内部の伝送路である。また端末IF部38は、ルート選択部44から出力されたパスごとの通信データを取得し、端末側装置16へ送信する。
シンボル追加部40は、0系装置内伝送路と1系装置内伝送路の両方からパスごとの送信データを受信し、各パスの送信データにシンボルを付加する。シンボルは、遅延時間計測用の目印データである特殊シンボルと、ダミーデータであるダミーシンボルを含む。特殊シンボルとダミーシンボルは、いずれもSDH通信システム10の通信装置間で予め定められた態様のビット列であればよい。例えば、特殊シンボルは全てのビットが「1」の所定長のビット列でもよく、ダミーシンボルは全てのビットが「0」で、特殊シンボルと同じ長さのビット列でもよい。
シンボル追加部40は、SDH通信システム10内の通信装置(言い換えれば対向の通信装置)で定められた最大遅延時間50ミリ秒より長い時間間隔を空けて、通信データに特殊シンボルを繰り返し追加する。実施の形態では、50ミリ秒より十分に長い500ミリ秒ごとに特殊シンボルを追加する。具体的には、シンボル追加部40は、パスごとの送信データを識別し、1つのパスのある送信データに特殊シンボルを追加後、500ミリ秒を経過するまでは、同パスの他の送信データにダミーシンボルを追加する。そして500ミリ秒を経過すると、同パスの次の送信データに特殊シンボルを再度追加する。シンボル追加部40は、特殊シンボルまたはダミーシンボルを追加後の送信データを、0系装置内伝送路と1系装置内伝送路のそれぞれに送出する。
空間スイッチIF部42は、空間スイッチ24とのインタフェース機能を実行する。具体的には、0系装置内伝送路を介してシンボル追加部40から受け付けた送信データを、0系装置内伝送路を介して0系スイッチ26へ送出する。また、0系装置内伝送路を介して0系スイッチ26から受け付けた受信データを、0系装置内伝送路を介して遅延時間検出部46へ送出する。同様に、1系装置内伝送路を介してシンボル追加部40から受け付けた送信データを、1系装置内伝送路を介して1系スイッチ28へ送出する。また、1系装置内伝送路を介して1系スイッチ28から受け付けた受信データを、1系装置内伝送路を介して遅延時間検出部46へ送出する。
ルート選択部44は、0系と1系それぞれの装置内伝送路から受信データを受け付ける。ルート選択部44は、パスごとの受信データを識別し、各パスについてパス情報保持部34のパス情報に記録された運用系伝送路からの受信データを受け付けた場合に、その受信データを出力データとして選択する。例えば、あるパスの運用系伝送路が0系伝送路であるとき、0系装置内伝送路から受け付けた当該パスの受信データを出力データとして選択する。ルート選択部44は、選択した出力データから特殊シンボルおよびダミーシンボルを削除し、シンボル削除後の出力データを端末IF部38へ送出する。ルート選択部44は、待機系伝送路からの受信データを受け付けた場合、その受信データを出力データとして選択することなく廃棄する。
図2には不図示だが、SDH通信装置12は、疎通しているパスごとに、運用系伝送路を、それまでの待機系伝送路へ切り替えるべき切替条件が充足されたか否かを判定する切換判定部をさらに備える。例えば、切換判定部は、あるパスの運用系伝送路が0系伝送路であるときに、光IF部20で信号断が検出されると、当該パスの切替条件が充足されたと判定する。切換判定部は、運用系伝送路の切替を、パス情報保持部34に保持されたパス情報へ反映する。例えば、あるパスの新たな運用系伝送路としてそれまで待機系伝送路であった1系伝送路を指定し、当該パスの新たな待機系伝送路としてそれまで運用系伝送路であった0系伝送路を指定する旨を、当該パスのパス情報に記録する。
切換判定部は、0系伝送路と1系伝送路のいずれかの異常が検出された場合に、パス情報保持部34のパス情報を参照して異常発生の伝送路を運用系伝送路としているパスを切替対象パスとして特定してもよい。そして、切替対象パスのパス情報における運用系伝送路を変更してもよい。切換判定部は、運用系伝送路を切り替えたパスの識別情報をルート選択部44に通知してもよい。
ルート選択部44は、切換判定部からの通知を受け付け、または、パス情報保持部34のパス情報の更新状況を監視することにより、運用系伝送路の切替発生をパスごとに検知する。ルート選択部44は、あるパスの運用系伝送路から受信データを受け付けているときに、当該パスの運用系伝送路の切替を検知すると、新たな運用系伝送路、すなわちそれまでの待機系伝送路からの受信データを出力データとして選択するよう切り替える。ただし、切替を検知してから保護時間保持部36に保持された当該パスの保護時間の間は、新たな運用系伝送路からの受信データを出力データとして選択することを抑制する。言い換えれば、当該パスの保護時間が経過したことを条件として、新たな運用系伝送路からの受信データを出力データとして選択し、出力する。
具体的には、運用系伝送路が0系伝送路から1系伝送路へ切り替えられた場合、0系伝送路からの受信データを出力データとして選択する状態から、0系1系保護時間の経過後、1系伝送路からの受信データを出力データとして選択する状態へ切り替える。また、運用系伝送路が1系伝送路から0系伝送路へ切り替えられた場合、1系伝送路からの受信データを出力データとして選択する状態から、1系0系保護時間の経過後に、0系伝送路からの受信データを出力データとして選択する状態へ切り替える。
遅延時間検出部46は、空間スイッチIF部42から送出された受信データを、0系と1系それぞれの装置内伝送路を介して受け付ける。遅延時間検出部46は、受け付けた受信データのパスを識別し、その受信データに付加されたシンボルが特殊シンボルか、またはダミーシンボルかを識別する。特殊シンボルが付加されていた場合、パスごとの遅延時間検出処理を実行し、ダミーシンボルが付加されていた場合、遅延時間検出処理をスキップする。遅延時間検出部46は、0系装置内伝送路を介して空間スイッチIF部42から受け付けた送信データを、0系装置内伝送路を介してルート選択部44へ送出する。また、1系装置内伝送路を介して空間スイッチIF部42から受け付けた送信データを、1系装置内伝送路を介してルート選択部44へ送出する。
遅延時間検出処理を説明する。遅延時間検出部46は、0系装置内伝送路からの受信データ中に特殊シンボルを検出すると、タイマ算出回路において時間計測を開始させ、1系装置内伝送路からの受信データ中に特殊シンボルを検出するまでの時間を計測する。ここで計測した時間、すなわち、0系伝送路で特殊シンボルが伝送されてから、1系伝送路で特殊シンボルが伝送されるまでの時間差を「0系1系遅延時間」と呼ぶこととする。また遅延時間検出部46は、1系装置内伝送路からの受信データ中に特殊シンボルを検出すると、タイマ算出回路において時間計測を開始させ、0系装置内伝送路からの受信データ中に特殊シンボルを検出するまでの時間を計測する。ここで計測した時間、すなわち、1系伝送路で特殊シンボルが伝送されてから、0系伝送路で特殊シンボルが伝送されるまでの時間差を「1系0系遅延時間」と呼ぶこととする。
遅延時間検出部46は、上記の遅延時間検出処理を疎通しているパスごとに実行する。そして、パスの識別情報と、0系1系遅延時間と、1系0系遅延時間を保護時間決定部48へ通知する。パスの識別情報と0系1系遅延時間の組み合わせと、パスの識別情報と1系0系遅延時間の組み合わせを、各々別個に保護時間決定部48へ通知してもよい。なお、装置運用での最大遅延時間50ミリ秒をタイマのタイムアウト値と設定してもよい。タイマ算出回路はタイムアウト値を超過するとタイムアウトを検出し、遅延時間検出部46へ通知してもよい。この場合、遅延時間検出部46は、0系1系遅延時間または1系0系遅延時間としてタイムアウトを示す所定値を設定してもよい。
保護時間決定部48は、パスの識別情報と、0系1系遅延時間と、1系0系遅延時間を遅延時間検出部46から受け付ける。保護時間決定部48は、遅延時間検出部46による遅延時間検出処理の結果にもとづいて疎通している各パスの保護時間を決定する。そして、保護時間保持部36に格納された複数のパスの保護時間のうち、パスの識別情報が示す特定のパスの保護時間を更新する。
具体的には、0系1系遅延時間の長さが、装置運用での最大遅延時間50ミリ秒以下であれば、その遅延時間の長さを当該パスの新たな0系1系保護時間として決定し、保護時間保持部36に記録する。この場合、0系伝送路を介したデータ伝送に対して、1系伝送路を介したデータ伝送が遅延しているため、その遅延量を保護時間とすることで、二重データ受信を回避できる保護時間を確保しつつデータ欠落量も抑制できる。なお、1系0系遅延時間の長さが、装置運用での最大遅延時間以下の場合も同様に、その遅延時間の長さを当該パスの新たな1系0系保護時間として決定し、保護時間保持部36に記録する。
その一方、0系1系遅延時間の長さが、装置運用での最大遅延時間より長く、または、タイムアウトを示す値であれば、当該パスの新たな0系1系保護時間として0を記録し、すなわち保護時間なしで即時切替を示す値に更新する。この場合は、0系伝送路で特殊シンボルが受信されたときには既に1系伝送路で特殊シンボルは受信済みである。すなわち、0系伝送路を介したデータ伝送が、1系伝送路を介したデータ伝送より遅延している。したがって、0系1系保護時間を0にしても二重データ受信は発生せず、データ欠落量も抑制できる。なお、1系0系遅延時間の長さが、装置運用での最大遅延時間より長く、または、タイムアウトを示す値であるときも同様に、当該パスの新たな1系0系保護時間として0を記録する。
以上の構成によるSDH通信システム10の動作を説明する。ここでは、SDH網を介した端末側装置16から端末側装置18への通信データの伝送を例に説明する。
送信側のSDH通信装置12の端末IF部38は、端末側装置16から端末側装置18宛に送信された送信データを受信し、0系装置内伝送路と1系装置内伝送路の両方にパスごとの送信データを出力する。シンボル追加部40は、0系装置内伝送路と1系装置内伝送路のそれぞれから受け付けたパスごとの送信データに、パスを単位として500ミリ秒ごとに特殊シンボルを追加し、500ミリ秒経過前はダミーシンボルを追加する。そして、0系装置内伝送路と1系装置内伝送路の両方にシンボル付加済みのパスごとの送信データを出力する。0系スイッチ26は、シンボル付加済みのパスごとの送信データを時分割多重化した多重化後のデータを光IF部20に渡し、光IF部20はそのデータを0系伝送路へ送出する。同様に、1系スイッチ28は、シンボル付加済みのパスごとの送信データを時分割多重化した多重化後のデータを光IF部22に渡し、光IF部22はそのデータを1系伝送路へ送出する。
受信側のSDH通信装置14の光IF部20は、0系伝送路を介して伝送された通信データを受信し、0系スイッチ26に渡す。光IF部22は、1系伝送路を介して伝送された通信データを受信し、1系スイッチ28に渡す。0系スイッチ26は、多重化された通信データに対する多重分離処理を実行し、分離後のパスごとの通信データを、0系伝送路から受信されたパスごとの受信データとしてインタフェース盤30へ出力する。1系スイッチ28は、多重化された通信データに対する多重分離処理を実行し、分離後のパスごとの通信データを、1系伝送路から受信されたパスごとの受信データとしてインタフェース盤30へ出力する。ルート選択部44は、パスごとに定められた運用系伝送路からの受信データを出力データとして選択し、出力データから特殊シンボルおよびダミーシンボルを削除した上で端末IF部38に渡す。端末IF部38は、ルート選択部44から渡された出力データを端末側装置18へ送信する。
SDH通信装置14の切換判定部は、疎通しているパスごとに運用系伝送路の切替条件が充足されたか否かを判定し、切替条件を充足した切替対象パスの情報をルート選択部44へ通知する。ルート選択部44は、切替対象パスについて、それまでの運用系伝送路からの受信データを出力データとして選択することを停止する。そして、当該パスで定められた保護時間が経過したことを条件として、新たな運用系伝送路からの受信データを出力データとして選択する。
SDH通信装置14の遅延時間検出部46は、疎通しているパスごとに、0系伝送路からの受信データに特殊シンボルが含まれるか否かを判定し、並行して、1系伝送路からの受信データに特殊シンボルが含まれるか否かを判定する。遅延時間検出部46は、0系伝送路で伝送されたあるパスの受信データの中に特殊シンボルを検出すると、その時点から、1系伝送路で伝送された当該パスの受信データの中に特殊シンボルを検出するまでの0系1系遅延時間を測定する。同様に、1系伝送路で伝送されたあるパスの受信データの中に特殊シンボルを検出すると、その時点から、0系伝送路で伝送された当該パスの受信データの中に特殊シンボルを検出するまでの1系0系遅延時間を測定する。
SDH通信装置14の保護時間決定部48は、あるパスの0系1系遅延時間が50ミリ秒以下の場合、当該パスの0系1系保護時間を0系1系遅延時間の長さに変更する。その一方、0系1系遅延時間が50ミリ秒より大きい場合、もしくはタイムアウトを示す値の場合、当該パスの0系1系保護時間を0に変更する。同様に保護時間決定部48は、あるパスの1系0系遅延時間が50ミリ秒以下の場合、当該パスの1系0系保護時間を1系0系遅延時間の長さに変更する。その一方、1系0系遅延時間が50ミリ秒より大きい場合、もしくはタイムアウトを示す値の場合、当該パスの1系0系保護時間を0に変更する。
図3は、保護時間を最大遅延時間に固定する場合の出力データを模式的に示す。図3(a)は、送信側のSDH通信装置12から0系伝送路と1系伝送路の両方へ送信されるデータ列(・・・A〜P・・・)を示している。図3(b)は、受信側のSDH通信装置14において0系伝送路と1系伝送路のそれぞれで受信されるデータ列を示している。この例では、0系伝送路でのデータ伝送は、1系伝送路でのデータ伝送より2単位分遅延していることとする。
図3(c)は、運用系伝送路の切替に伴うSDH通信装置14からの出力データ列を示している。0系伝送路からデータ「B」を受信時に運用系伝送路が1系伝送路へ切り替えられると、50ミリ秒間は、1系伝送路からの受信データを出力データとして選択せず、端末側装置18との間で予め定められた代替データを出力する。代替データは、有効なデータではないことを示すビット列、言い換えれば、端末側装置18側で廃棄(無視)すべきダミーデータであり、この例ではオール1のビット列としている。そして、50ミリ秒が経過すると、その時点以降の1系伝送路からの受信データを出力する。この結果、重複データの出力は回避できるが、SDH通信装置12からの送信データのうち「C」〜「L」は欠落する。
逆の切替として、1系伝送路からデータ「D」を受信時に運用系伝送路が0系伝送路へ切り替えられると、50ミリ秒間は、0系伝送路からの受信データを出力データとして選択せず、代替データを出力する。そして、50ミリ秒が経過すると、その時点以降の0系伝送路からの受信データを出力する。この結果、重複データの出力は回避できるが、SDH通信装置12からの送信データのうち「E」〜「N」は欠落する。
図4は、保護時間を実施の形態の手法で動的に調整する場合の出力データを模式的に示す。図4(a)は、送信側のSDH通信装置12から0系伝送路と1系伝送路の両方へ送信されるデータ列を示している。実際には複数のパスの送信データが多重化されるが、ここでは1つのパスの送信データのみを示している。多重分離後の1つのパスについての受信データとも言える。同図で示すように、500ミリ秒ごとに特殊シンボル「β」が挿入されている。「α」はダミーシンボルを示している。
図4(b)は、受信側のSDH通信装置14において0系伝送路と1系伝送路のそれぞれで受信されるデータ列を示している。ここでも、0系伝送路でのデータ伝送は、1系伝送路でのデータ伝送より2単位分遅延していることとする。この場合、SDH通信装置14の遅延時間検出部46は、0系1系遅延時間として最大遅延時間である50ミリ秒より大きい値を検出し、1系0系遅延時間として50ミリ秒以下の値を検出する。その結果、SDH通信装置14の保護時間決定部48は、0系1系保護時間の長さを0に調整し、1系0系保護時間の長さを1系0系遅延時間の長さに調整する。
図4(c)は、運用系伝送路の切替に伴うSDH通信装置14からの出力データ列を示している。0系伝送路からデータ「B」を受信時に運用系伝送路が1系伝送路へ切り替えられると、即時に1系伝送路からの受信データを出力データとして選択する。したがって、重複データの出力を回避しつつ、SDH通信装置12からの送信データのうち欠落するデータも「C」「D」に抑えることができる。
逆の切替として、1系伝送路からデータ「D」を受信時に運用系伝送路が0系伝送路へ切り替えられると、そこから1系0系遅延時間に等しい保護時間の間は、0系伝送路からの受信データを出力データとして選択せず、保護時間経過後に0系伝送路からの受信データを出力する。したがって、重複データの出力を回避しつつ、SDH通信装置12からの送信データの欠落も回避できる。
このように、実施の形態のSDH通信システム10によると、これまで装置運用上の最大遅延時間に固定されてきた二重受信保護時間を、パスごとに最適な時間に設定することができる。これによりSDH網で疎通している各パスについて、運用系伝送路の変更に伴う通信装置の重複データの出力、すなわち端末側装置における重複データの受信を防止しつつ、データの欠落量も低減できる。
また、SDH通信システム10によると、比較的短い間隔で定期的に特殊シンボルを送受し、二重受信保護時間を更新する。これにより、SDH網における最新の通信状態を反映した適切な二重受信保護時間を維持しやすくなる。また、SDH通信システム10では、既存の二重受信保護機能を活用し、その機能の有効時間を動的に変更するため迅速かつ容易な実装が可能となる。
以上、本発明を実施の形態をもとに説明した。これらの実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せによりいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
第1の変形例を説明する。上記実施の形態では、保護時間決定部48における保護時間調整態様の判定閾値として装置運用での最大遅延時間を用いた。変形例として、判定閾値を装置運用での最大遅延時間より大きい値としてもよい。判定閾値の具体的な値は、SDH通信システム10の運用者の知見や経験、SDH通信システム10を使用した実験等により決定されてもよい。例えば、装置運用での最大遅延時間が50ミリ秒のとき、判定閾値を倍の100ミリ秒に定めてもよい。この場合、保護時間決定部48は、0系1系遅延時間が100ミリ秒以下であれば、0系1系保護時間の長さを0系1系遅延時間の長さに設定し、0系1系遅延時間が100ミリ秒より大きければ、0系1系保護時間の長さを0に設定してもよい。1系0系遅延時間にもとづく1系0系保護時間の調整についても同様である。
この変形例によると、0系伝送路と1系伝送路間における実際の遅延時間が、設計上の最大遅延時間を万が一超過する場合でも、二重受信保護時間の長さを適切な値に設定しやすくなる。例えば、判定閾値が50ミリ秒であるときに実際の遅延時間が60ミリ秒となると、保護時間を0に変更する結果、重複データの出力が発生する可能性がある。判定閾値を装置運用での最大遅延時間より大きい値に設定することにより、重複データの出力回避を一層確実なものにできる。
第2の変形例を説明する。上記実施の形態では、遅延時間の計測値が装置運用での最大遅延時間より長ければ、二重受信保護時間を0にすることとした。変形例として、1回の計測値で保護時間を0にすることに代えて、複数回の計測値にもとづいて保護時間を徐々に短くしてもよい。言い換えれば、遅延時間の計測値が装置運用での最大遅延時間より長ければ、二重受信保護時間をそれまでの長さより短い値に調整してもよい。例えば、保護時間決定部48は、あるパスについて遅延時間が装置運用での最大遅延時間より長いと連続して判定すると、そのパスの保護時間を50ミリ秒→30ミリ秒→10ミリ秒→0と段階的に短くしてもよい。この変形例によると、瞬間的な伝送遅延状態に代えて、ある程度の期間に亘る0系伝送路と1系伝送路間での伝送遅延の傾向を反映した長さに保護時間を設定できる。これにより、重複データの出力回避を一層確実なものにできる。なお第1の変形例と組み合わせてもよく、すなわち、保護時間決定部48の判定閾値を装置運用での最大遅延時間より大きくする場合も第2の変形例の技術は有用である。
第3の変形例を説明する。上記実施の形態では、保護時間決定部48は、パスごとの新たな保護時間を決定後、各パスのそれまでの保護時間を自動的に書き換えることとした。変形例として、保護時間決定部48は、SDH通信システム10の運用者・保守者による保護時間の設定を支援するために、パスごとの新たな保護時間を決定後、各パスの保護時間を示す情報を運用者・保守者の端末へ通知してもよい。また、各パスの保護時間を示す情報を、運用者・保守者へ通知するための予め定められた記憶領域へ記録してもよい。
上述した実施の形態および変形例の任意の組み合わせもまた本発明の実施の形態として有用である。組み合わせによって生じる新たな実施の形態は、組み合わされる実施の形態および変形例それぞれの効果をあわせもつ。また、請求項に記載の各構成要件が果たすべき機能は、実施の形態および変形例において示された各構成要素の単体もしくはそれらの連携によって実現されることも当業者には理解されるところである。