JP2015086082A - ストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイトおよびその微粒子の製造方法 - Google Patents
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【課題】任意の比率でストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイトを高純度で得るための、簡便でかつ生産性の良好なストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイトの製造方法、およびコーティング用途に好適なストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイト微粒子の製造方法を与えること。
【解決手段】ストロンチウム塩とカルシウム塩を含有する水溶液と、リン酸塩を含有する水溶液を混合することでリン酸水素塩を合成し、得られたリン酸水素塩に対して0.2モル比以上の炭酸塩、または0.4モル比以上の炭酸水素塩を混合するストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイトの製造方法、およびこれをメディアミルを使用して湿式分散処理を行うストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイト微粒子の製造方法。
【選択図】なし
【解決手段】ストロンチウム塩とカルシウム塩を含有する水溶液と、リン酸塩を含有する水溶液を混合することでリン酸水素塩を合成し、得られたリン酸水素塩に対して0.2モル比以上の炭酸塩、または0.4モル比以上の炭酸水素塩を混合するストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイトの製造方法、およびこれをメディアミルを使用して湿式分散処理を行うストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイト微粒子の製造方法。
【選択図】なし
Description
本発明は任意の比率でストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイトを高純度で得るための簡便で生産性の良好な製造方法、およびコーティング用途に好適なストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイト微粒子の製造方法に関する。
生体硬組織を再生することを目的とする再生医療分野において、例えば顆粒状のヒドロキシアパタイトを利用した骨欠損部の修復治療などの各種整形外科治療等が広く行われている。この際、結晶性の高いヒドロキシアパタイトを使用した場合、生体内において炎症反応を惹起するケースや、ヒドロキシアパタイト結晶が破骨細胞によって吸収されず、骨の修復過程に於いて重要であるリモデリングの過程に於いてむしろ不利に働く場合があることが知られている。この場合、生体内に於いてより溶解性、吸収性の高いβ−TCP(リン酸三カルシウム)を併用、もしくはこれを単独で用いることで骨の修復が促進されることが知られている。さらに、近年、ヒドロキシアパタイト中のリン酸基が一部炭酸イオンに置き換わった(B型)炭酸カルシウムアパタイトを利用することで、アパタイトの結晶性が低下し、生体内においてアパタイトの溶解、吸収性が一段と向上することから、さらに好ましく骨の修復治療に利用することが出来ることが知られている。こうした、特に再生医療用途において好適に使用出来る(B型)炭酸カルシウムアパタイトの製造方法の例として、例えば非特許文献1に示される石膏(硫酸カルシウム)をリン酸水素アンモニウム塩で処理する方法や、非特許文献2に示されるカルサイト(炭酸カルシウム)をリン酸水素ナトリウム塩で処理する方法、或いは特許文献1に示される酢酸カルシウム塩水溶液と、炭酸アンモニウムおよびリン酸水素一アンモニウムを溶解した溶液をpH7.4で60℃において混合して反応することで炭酸カルシウムアパタイトを製造する方法などを挙げることが出来る。
骨の修復過程を促進する別の方法として、ストロンチウム化合物の薬理効果を利用する方法が試みられている。例えば、特許文献2には、軟骨障害および骨障害の治療に有効であるストロンチウム塩とビタミンDを組み合わせた薬学的組成物が示されており、更に特許文献3には、ストロンチウムと有機酸との間で形成される水溶性ストロンチウム塩から成る軟骨障害および骨障害の治療に有効である薬学的組成物が開示されている。従って、ストロンチウムを含むアパタイトを前記の生体インプラント用途等に用いることで、骨治療に関して有用な薬理作用も併せて期待される。
ストロンチウム化合物の薬理作用は、量依存性があり、過剰な投与では逆に骨の再生に逆効果であることも知られており、骨再生を行う生体内の局所的部位に於いて、溶離するストロンチウム化合物の濃度が制御された形で存在することが好ましい。従って、ストロンチウム化合物として、生体内での溶解性が適度な範囲にある化合物が望まれているのが実情である。
上記の技術的背景から、ストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイトを生体内硬組織の再生医療などの用途に用いることで、炭酸カルシウムアパタイトの性質を利用して、生体に吸収されやすく、これに伴ってストロンチウムの徐放性を発揮出来るため、極めて好ましい効果が期待される。こうした観点から、非特許文献3には、ストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイトの合成方法と、これを用いてディスクを作製し、その表面において骨芽細胞を培養した場合の、細胞の初期接着と増殖および活性を評価し、炭酸カルシウムアパタイト中に含まれるストロンチウムの割合とこれらの性質との相関について報告を行っている。その結果として、ストロンチウムを導入することで細胞の初期接着が促進され、細胞の骨アルカリフォスファターゼ活性とストロンチウムの割合には最適値が存在することも報告している。しかしながら上記の報告に用いられるストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイトは、炭酸ストロンチウムを含む石膏を作製し、これをリン酸ナトリウム水溶液中に浸漬して100℃で7日間という長時間を有して作製されるものであり、更には生成物中に不純物として微量の炭酸カルシウムが混在し純度に問題があった。更には、利用しようとするアパタイトの形状も、骨充填材などの用途で好ましく利用される微粒状或いは顆粒状ではなく、あらかじめ石膏の形でモールド可能な形状に限られる問題や、硬くて脆いため利用方法に制限があった。
ストロンチウムを含むアパタイトは、従来から生体適合性や生体に対する安全性が確認されていることに加え、さらにユニークな特性の一つとしてX線造影性に優れることが知られている。ストロンチウムを含むアパタイトの用途の一つとして、上記の骨充填材以外に各種生体インプラントへの適用が挙げられる。例えば生体インプラントの表面コートに利用するなどのコーティング素材としての利用を想定した場合、コートされた表面が生体親和性を示すと共に、X線造影性を付与出来るという利点が出てくる。コーティングする際の基材としては、チタンなどの金属や、ポリエステル、PEEK樹脂などのプラスチック材料が挙げられる。それらの表面にストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイトを含む層をコーティングにより形成する場合、表面コート層の厚みや性状が均一であることが必要とされ、コーティング適性として、ストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイトが出来るだけ微細で均一な微粒子であることと、ストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイト微粒子の分散物を含有するコーティング液中において、ストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイト微粒子が安定に分散し、経時により沈降することや、沈殿物や凝集物を発生させることのない適性が要求される。従来の様々な製造方法で得られるストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイトは粒状もしくは塊状の粉体として得られ、これらは水などの媒体中に安定で微粒子状に分散した分散物を得ることが困難で、コーティング用途に適用することが困難であった。
特許文献4には、生体インプラント表面にストロンチウムを含むアパタイト層を形成する方法が開示される。この方法は従来から検討されている疑似体液から基材表面にアパタイト層を形成する手法にならったもので、インプラント基材表面にストロンチウム塩を含む溶液から自発的にストロンチウムを含むアパタイト層を形成する方法であるが、アパタイト層の厚みの制御が困難であり、層の形成にも長時間を要し、加えてストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイトの層を形成することは極めて困難であった。
特許文献5にはストロンチウムを含むアパタイト及び/またはリン酸ストロンチウムを含むリン酸ストロンチウム系失透ガラスからなる生体インプラント材料が開示されている。このリン酸ストロンチウム系失透ガラスの製造方法として例示される方法は、酸化ストロンチウムを五酸化燐とともにガラス原料成分として二酸化珪素およびアルミナ等を含む各種酸化物を加えて1600℃の高温で溶融し、冷却することで失透ガラスを製造するものである。この際、酸化ストロンチウムとともに酸化カルシウムを任意の割合で混合することで、アパタイト中にストロンチウムとカルシウムが任意の割合で含まれる固溶体が得られることが開示されている。この方法を利用してストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイトを製造しようとしても、こうした炭酸カルシウムアパタイトは600℃以上の高温で炭酸ガスを放出し、得られるアパタイト中には炭酸イオンが含まれないことが知られている。
特許文献6には、同様にストロンチウムを含むアパタイト及び/またはリン酸ストロンチウムを含むリン酸ストロンチウム系失透ガラス粉末と練和剤を用いた医科用または歯科用硬化性組成物が開示されている。特に、歯科用セメント材料として、良好な硬化特性とX線造影能を備えることから好ましいが、この場合もストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイトを含むガラス体としての利用方法に限られることから、ガラス等の成分を含まない純度の高いストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイトの製造方法が望まれていた。
特許文献7には、ストロンチウムを含むアパタイトの製造方法として、リン酸水素ストロンチウムと水酸化ストロンチウムまたは炭酸ストロンチウムをポットミルを用いて混合、攪拌しメカノケミカル的な反応によりストロンチウムを含むアパタイトの前駆体を得た後に、これを800℃程度の温度で仮焼することでストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイトを合成する方法が開示されている。この方法においても、高温で処理するため炭酸カルシウムアパタイトが得られず、さらには原料物質の粉体を長時間攪拌する必要があり、その後の仮焼の工程でも高温で処理する必要があることから、反応条件の僅かな差異で生成物の純度や構造が大きく左右されることがあり、生産性が低く、高純度のストロンチウムを含むアパタイトが得難いという問題があった。
非特許文献4には、均一沈殿法によるストロンチウムを含むアパタイトの合成方法が示されている。この中で、ストロンチウムを含むアパタイトの合成方法として、尿素を用いて、リン酸ストロンチウム塩の前駆体を経てストロンチウムを含むアパタイトを合成する方法が示されている。この方法では、尿素の加水分解反応を利用することから、発生する二酸化炭素が生成するアパタイト中に取り込まれる場合がある。このことで、炭酸イオンが取り込まれたストロンチウムアパタイトが生成する場合があるため、この方法はストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイトの合成方法と捉えることも出来るが、反応条件により導入される炭酸イオンの比率は大きく異なり、更にはこれ以外にも塩素イオン等の種々の不純物が含まれる場合があることから、純度の高いストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイトを得ることは困難であった。
Y. Suzuki, et al, Dental Materials Journal, 24(4), 515-521, (2005).
K. Ishikawa, et al, Journal of the Ceramic Society of Japan, 118(5), 341-344, (2010).
A. Sakai, et al, Dental Materials Journal, 31(2), 197-205, (2005).
加藤千晴、藤田一美、松田恵三、日本化学会誌、No.3、321-327、(2002)
本発明は任意の比率でストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイトを高純度で得るための、簡便でかつ生産性の良好なストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイトの製造方法、およびコーティング用途に好適なストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイト微粒子の製造方法を与えることを課題とする。
本発明の課題は、下記の製造方法を用いることで基本的に解決される。
1.ストロンチウム塩とカルシウム塩を含有する水溶液と、リン酸塩を含有する水溶液を混合することでリン酸水素塩を合成し、得られたリン酸水素塩に対して0.2モル比以上の炭酸塩、または0.4モル比以上の炭酸水素塩を混合するストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイトの製造方法。
2.上記1に記載の製造方法により得られたストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイトを、メディアミルを使用して湿式分散処理を行うストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイト微粒子の製造方法。
3.上記湿式分散処理を行う際に、ポリリン酸(塩)を加えて湿式分散処理を行う、上記2に記載のストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイト微粒子の製造方法。
1.ストロンチウム塩とカルシウム塩を含有する水溶液と、リン酸塩を含有する水溶液を混合することでリン酸水素塩を合成し、得られたリン酸水素塩に対して0.2モル比以上の炭酸塩、または0.4モル比以上の炭酸水素塩を混合するストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイトの製造方法。
2.上記1に記載の製造方法により得られたストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイトを、メディアミルを使用して湿式分散処理を行うストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイト微粒子の製造方法。
3.上記湿式分散処理を行う際に、ポリリン酸(塩)を加えて湿式分散処理を行う、上記2に記載のストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイト微粒子の製造方法。
本発明により、任意の比率でストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイトを高純度で得るための、簡便でかつ生産性の良好なストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイトの製造方法、およびコーティング用途に好適なストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイト微粒子の製造方法を与えることが出来る。
本発明を構成する要素として、ストロンチウム塩とカルシウム塩を含む水溶液と、リン酸塩を含有する水溶液を混合することでリン酸水素塩(リン酸水素カルシウム結晶中にカルシウムイオンと共にストロンチウムイオンを含むリン酸水素塩)を得る工程と、次いで、得られたリン酸水素塩と炭酸塩、または炭酸水素塩を混合する工程の2つが基本である。以下に各々の工程で用いる構成要素について説明を行う。
リン酸水素塩を得る工程に於いて、本発明で好ましく用いることの出来るストロンチウム塩としては、水溶性のストロンチウム塩であれば任意のストロンチウム塩を用いることが出来るが、好ましい例として、塩化ストロンチウムおよびその水和物、臭化ストロンチウムおよびその水和物、ヨウ化ストロンチウムおよびその水和物、酢酸ストロンチウムおよびその水和物、硝酸ストロンチウム、シュウ酸ストロンチウムおよびその水和物、ギ酸ストロンチウムおよびその水和物、水酸化ストロンチウムおよびその水和物、酸化ストロンチウムなどを用いることが出来る。
リン酸水素塩を得る工程に於いて、本発明で好ましく用いることの出来るカルシウム塩としては、水溶性のカルシウム塩であれば任意のカルシウム塩を用いることが出来るが、好ましい例として、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、酢酸カルシウムおよびこれら各々の水和物を好ましく用いることが出来る。なお本発明に於いて水溶性とは、10℃の水に対する溶解性が1質量%以上であることを意味する。
本発明に於いてはストロンチウム塩及びカルシウム塩を含む水溶液を用いてリン酸水素塩を合成することが特徴である。両者のモル比率の和が一定である場合、様々なモル比率でストロンチウム塩とカルシウム塩の両方を含む混合物を以下に述べる反応の際に用いることで、得られる炭酸カルシウムアパタイト中に含まれるストロンチウムイオンの割合を任意の比率で制御出来ることが本発明の特徴の一つである。
リン酸水素塩を得る工程に於いて、用いるリン酸塩の例としては、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸水素二リチウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸二水素リチウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸リチウム、リン酸アンモニウム及びこれら各々の水和物等が好ましい例として挙げられる。これらについても、10℃の水に対する溶解性が1質量%以上である水溶性のリン酸塩が好ましく用いることが出来る。
ストロンチウム塩とカルシウム塩を含有する水溶液と、リン酸塩を含有する水溶液を混合して反応を行うことで、ストロンチウムイオンとカルシウムイオンが結晶中に均質に分布したリン酸水素塩が結晶性沈殿物として得られる。ストロンチウム塩とカルシウム塩を含有する水溶液は両者を共に溶解した水溶液を用いることが好ましい。ストロンチウム塩とカルシウム塩を含有する水溶液と、リン酸塩を含有する水溶液を混合する方法としては、前者の水溶液を後者のリン酸塩を含有する水溶液中に添加する方法や、逆に、前者の水溶液中に後者のリン酸塩を含有する水溶液を混合する方法を用いても良い。更には、前者の水溶液と後者のリン酸塩を含む水溶液を別々に各々独立して水中に添加し、水中に於いて各々の塩が均一に混合するよう攪拌を行う添加方法を行っても良い。リン酸水素塩を合成する際に使用するストロンチウム塩とカルシウム塩のモル数の和と、リン酸塩のモル数の比は0.9:1.1〜1.1:0.9の範囲の比率である場合が好ましく、さらに反応中の混合物のpHが6〜8の範囲にある場合が好ましい。この場合生成するリン酸水素塩中にはストロンチウムイオンとカルシウムイオンが均一に含まれる。反応温度に関しても0〜100℃の範囲で、より好ましくは20〜70℃の範囲で反応を行うことが好ましく、これらの条件以外の反応条件でストロンチウム塩とカルシウム塩を含有する水溶液とリン酸塩を含有する水溶液を混合して反応を行った場合、リン酸水素塩以外の組成を有する様々なリン酸塩が生成する場合があり、次に示す炭酸塩を混合する反応で高純度のストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイトが得難い場合がある。
本発明においては、任意の比率でストロンチウム塩及びカルシウム塩を含有する水溶液とリン酸塩を含有する水溶液を混合することでアパタイトの前駆体であるリン酸水素塩を最初に合成し、次いでこれと炭酸塩または炭酸水素塩を混合して反応を行うことで、結晶中に任意の比率でストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイトを製造することが可能となる。この際、後述する実施例に於いて示すように、炭酸カルシウムアパタイト中に含まれるストロンチウムイオンの割合に応じて炭酸カルシウムアパタイトの結晶性を制御することが出来ることが明らかとなった。従って、本発明のストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイトの製造方法を用いることで、最初の1段目の工程で添加したストロンチウム塩とカルシウム塩のモル比率がそのまま最終生成物であるストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイト中に含まれるストロンチウムイオンとカルシウムイオンの比率となり、さらにその結晶性についても制御することが可能となる。
上記で得られるリン酸水素塩を用いて、これに炭酸塩を0.2モル比以上で、または炭酸水素塩を0.4モル比以上で混合することで本発明の目的とするストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイトを高純度で得ることを見出したものである。リン酸水素塩からストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイトを生成する過程で、リン酸水素塩からリン酸が脱離することで、該アパタイトが生成するが、この際、反応系中に炭酸塩または炭酸水素塩を添加することで、発生するリン酸を中和し、該アパタイトの生成を促進すると共に、生成する該アパタイト中のリン酸基の一部が炭酸基に置き換わった(B型)炭酸アパタイトの構造を有する該アパタイトを生成することが反応の機構として挙げられる。発生するリン酸を中和するために必要とされる炭酸塩のモル比に対して、炭酸塩の代わりに炭酸水素塩を用いた場合、炭酸塩の2倍のモル比の炭酸水素塩が必要である。
本発明の製造方法で得られるストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイトは、ナノメートルオーダーの極めて微細な微粒子から構成されることも特徴の一つである。本発明においてリン酸水素塩と炭酸塩を混合する際、水性媒体中に於いてリン酸水素塩と炭酸塩を共存させて、室温(25℃)もしくは室温以上の温度で攪拌を行うことが好ましく、用いる炭酸塩または炭酸水素塩としては、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸アンモニウム等の10℃の水に対する溶解性が1質量%以上である水溶性の炭酸塩または炭酸水素塩が特に好ましい。また、本発明に於いて水性媒体とは、水を少なくとも50質量%以上、より好ましくは60質量%以上含む媒体であって、必要に応じて水以外に、水に混和する各種有機溶剤や、或いは窒素、ヘリウム、炭酸ガス、その他の気体を導入した状態で反応を行っても良い。また、水中においてリン酸水素塩は通常懸濁した状態で存在し、炭酸塩または炭酸水素塩は必ずしも水性媒体中において完全に溶解せずに、懸濁した状態で混合して反応を行っても良い。さらに、反応の際の条件として反応温度は40℃以上である場合が好ましい。反応の際の温度が室温より低い場合には、リン酸水素塩が完全にストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイトに変換されずに生成物中に残存する場合がある。反応温度が室温もしくは室温より高い場合、温度が高い方が短時間で目的とするストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイトが得られるため好ましい。また、反応温度の上限は、100℃以下である場合が好ましい。
上記のリン酸水素塩と炭酸塩または炭酸水素塩の混合方法に関しては様々な方法で行うことが出来る。例えば、リン酸水素塩を水中に於いて懸濁した状態で攪拌しながら、これに炭酸塩または炭酸水素塩を固体もしくは溶液の状態で徐々に添加しながら反応を行う方法や、或いはリン酸水素塩と、炭酸塩または炭酸水素塩とを最初に全量混合して反応を行う方法、或いは、炭酸塩または炭酸水素塩を溶解した水溶液中にリン酸水素塩を徐々に添加しながら反応を行う方法等、何れの方法を行っても良い。更には、水中にリン酸水素塩と炭酸塩または炭酸水素塩を各々別々に添加しながら両者を混合し、加熱を行っても良い。この際最も重要な点は、リン酸水素塩を定量的に炭酸アパタイトに変換するためには、反応系中に存在するリン酸水素塩に対して最低限0.2モル比以上の炭酸塩、または0.4モル比以上の炭酸水素塩が同時に存在していることが好ましく、これ以下のモル比で炭酸塩または炭酸水素塩が含まれている場合、反応系および生成物に未反応のリン酸水素塩が残存して含まれる場合がある。
後述する実施例に於いて示すように、本発明の更なる特徴として、上記のリン酸水素塩に対する炭酸塩または炭酸水素塩の比率を種々変えることで、生成するストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイト中に含まれる炭酸イオンの比率を制御出来ることが挙げられる。従って、上記のような様々な方法に従ってリン酸水素塩と炭酸塩または炭酸水素塩を混合して反応を行った場合、両者のモル比率に従って、生成するストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイト中に含まれる炭酸イオンの比率が変化する。ストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイトとして均一な組成の炭酸カルシウムアパタイトを得るためには、両者のモル比が反応を通して一定であることが好ましい。そのためには、例えば両者を最初から全量一括混合して加熱を行う方法や、或いは水中にリン酸水素塩と炭酸塩または炭酸水素塩を各々別々に、両者のモル比を調節しながら添加し、両者を混合し、反応を行う方法が好ましい。最も簡便な方法は、前者の、全量一括混合して反応を行う方法である。本発明では、リン酸水素塩に対して0.2モル比以上の炭酸塩または0.4モル比以上の炭酸水素塩を混合して反応を行うと、後述する実施例において示すように、炭酸塩または炭酸水素塩のモル比に応じて、生成するストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイト中の炭酸イオンの比率を制御出来る。しかしながら、炭酸塩または炭酸水素塩を極端に大過剰に用いた場合、反応系の攪拌が不十分であるなどの場合に、ストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイト以外に炭酸カルシウムなどの不純物が副成して含まれ、高純度の炭酸カルシウムアパタイトが得られない場合がある。こうした炭酸カルシウムなどの不純物の副成を防止するためには、リン酸水素塩と炭酸塩または炭酸水素塩を一括混合して加熱を行う場合には、リン酸水素カルシウム二水和物に対する炭酸塩のモル比が0.2〜1.2の範囲内、または炭酸水素塩のモル比が0.4〜2.4の範囲内の比率で全量を同時に混合して反応を行うことが好ましい。リン酸水素塩に対する炭酸塩のモル比が1.2、または炭酸水素塩のモル比が2.4を超えて両者を一括混合して反応を行った場合、反応系の攪拌が不十分である場合などで炭酸カルシウムなどの不純物が生成物中に含まれる場合がある。一方、リン酸水素塩と炭酸塩を一括混合して反応を行う方法以外の方法で反応を行った場合、例えばリン酸水素塩を含む水中に炭酸塩を添加して混合を行う場合や、リン酸水素塩と炭酸塩を別々に水中に添加して混合する場合には、リン酸水素塩に対する炭酸塩のモル比は0.2〜2.0の範囲内、または炭酸水素塩のモル比が0.4〜4.0の範囲内の比率で反応を行うことが好ましく、この比率を超えて炭酸塩を用いて反応を行っても過剰な炭酸塩が反応系中に残存する場合がある。
上記のリン酸水素塩と炭酸塩または炭酸水素塩を混合して反応を行う際の系のpHについては特に制御する必要はなく、上記のリン酸水素塩に対する炭酸塩もしくは炭酸水素塩の好ましいモル比率の範囲内に於いて反応を行う場合には、反応系のpHは反応初期及び反応完結時の何れに於いてもpH=6〜10の範囲にあることから、この範囲で反応を行うことが好ましい。
上記の本発明の製造方法で得られるストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイトは微粒状の粉体であるが、後述する実施例の中で示すように、それぞれの粉体を走査型電子顕微鏡で観察すると、ナノメートルサイズの微小なストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイト微粒子が集合して粉体を形成しており、比表面積の極めて大きな表面多孔質の粉体であることが判明した。これらのストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイト微粒子集合体は例えばクロマト用カラム用担体としての用途や、蛋白や様々なイオン性物質に対する吸着剤の用途に対して粉体として利用することも出来る。本発明では特にコーティング用途に好適であるストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイト微粒子の製造方法を見出すことを目的の一つとして検討を行い、本発明の製造方法で得られるストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイトを用いて、これをメディアミルを使用して湿式分散処理を行うことで、コーティング用途に適したストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイト微粒子を製造出来ることを見出したものである。
上記でコーティング用途に好適であるとは、コーティングにより形成されるコート層の厚みに対して、該コート層中に含まれるストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイト微粒子の体積平均粒子径がそれ以下であることが好ましく、該コート層の厚みを超えた大きさの微粒子が含まれている場合、該コート層から微粒子が露出し、表面の平滑性が失われる場合がある。本発明で意図するコーティング(生体インプラントへの表面コート)によって形成されるコート層の厚みは高々10μmであることから、従って、本発明で目的とする該アパタイト微粒子の大きさとしては、体積平均粒子径において10μm以下であることが好ましい。より好ましくは、体積平均粒子径に於いて40nmから10μmの範囲であり、体積平均粒子径が小さいほど均一性に優れたコーティング膜が形成されることからより好ましい。
さらに、本発明に於いてコーティング用途に好適であるための条件として、コーティング用途に用いるための、ストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイト微粒子を分散した分散液において、該微粒子の分散安定性が良好であり、長期間(例えば室温に於いて1週間の保管期間)の保存に際しても微粒子の凝集や沈降が発生しないことが挙げられる。
上記のストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイト微粒子の製造方法として特に好ましい方法は、従来から知られている様々な湿式分散処理方法を利用することが出来る。好ましい湿式分散方法としては、メディアミルを利用した湿式分散方式が特に好ましく、具体的には、ストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイトを導入した媒体中に於いて、通常ガラスビーズやアルミナビーズ、その他のセラミックビーズ等のメディアを加えて振盪や攪拌を行い、ストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイト粒子と該ビーズが機械的に衝突し、微粉砕されることで微粒化を行う処理方法が挙げられる。少量をバッチ方式で処理を行う場合には、メディアミルとしてペイントコンディショナーを使用して数時間に亘る振盪を行うことで湿式分散処理を行うことが出来る。また上記したメディアミルとして、ダイノミルのような連続方式での湿式分散処理が可能である装置を用いて、これを複数台直列に配置して1パスで湿式分散処理を行っても良く、或いは1台のメディアミルを用いて複数回処理を繰り返すことも好ましく行うことが出来る。このような湿式分散処理を行うことで、経時により沈降することや、沈殿物や凝集物が発生することが無く、また均一な厚みのコート層が得られるといったコーティング用途に好適なストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイト微粒子を得ることが出来る。
ストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイトを分散するための媒体としては水が最も好ましいが、水に対して20質量%未満の添加量であれば、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類や、1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン等の環状エーテル類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド等の極性溶媒等、水と混和性のある種々の溶剤を添加して用いることも出来る。
上記したメディアを利用してストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイトの湿式分散処理を行う場合に、使用するメディアはセラミックビーズを用いることが好ましい。特にストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイトを分散する場合に、ビーズが研磨されるなどしてビーズ由来の不純物が得られるストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイト微粒子の分散物に混入することを防止することが好ましい。こうした目的で利用できるセラミックビーズとして、具体的にはZrO、立方晶ジルコニア、イットリウム安定化ジルコニア、ジルコニア強化アルミナなどのジルコニアを含有するセラミックビーズを最も好ましく用いることが出来る。また、メディアの平均直径は0.01〜10mmの範囲にあることが好ましく、より好ましくは0.1〜5mmである。こうしたメディアを使用したメディアミルを用いる湿式分散処理の条件は、通常行われる室温での処理であり、特に処理時間や温度等に関する制限は無い。また、パス回数については1回で十分である場合もあるが、2〜7回程度のパス回数で処理を行うことで、より粒子径分布が狭く、かつ分散安定性に優れたストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイト微粒子の分散物が得られることから好ましく行うことが出来る。
上記のストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイト微粒子の分散物を製造する際に、分散剤として、各種界面活性剤や無機化合物および各種水溶性ポリマーなどを添加して湿式分散処理を行い、得られるストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイト微粒子の分散物における体積平均粒子径をより小さくすることが好ましい。
上記の分散剤として用いることの出来るアニオン性界面活性剤としては、ラウリン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウム等の高級脂肪酸塩類、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリル硫酸ナトリウム等のアルキル硫酸塩類、オクチルアルコール硫酸エステルナトリウム、ラウリルアルコール硫酸エステルナトリウム、ラウリルアルコール硫酸エステルアンモニウム等の高級アルコール硫酸エステル塩類、アセチルアルコール硫酸エステルナトリウム等の脂肪族アルコール硫酸エステル塩類、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩類、ブチルナフタレンスルホン酸ナトリウム、イソプロピルナフタレンスルホン酸ナトリウム等のアルキルナフタレンスルホン酸塩類、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム等のアルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩類、ラウリル燐酸ナトリウム、ステアリル燐酸ナトリウム等のアルキル燐酸エステル塩類、ラウリルエーテル硫酸ナトリウムのポリエチレンオキサイド付加物、ラウリルエーテル硫酸アンモニウムのポリエチレンオキサイド付加物、ラウリルエーテル硫酸トリエタノールアミンのポリエチレンオキサイド付加物等のアルキルエーテル硫酸塩のポリエチレンオキサイド付加物類、ノニルフェニルエーテル硫酸ナトリウムのポリエチレンオキサイド付加物等のアルキルフェニルエーテル硫酸塩のポリエチレンオキサイド付加物類、ラウリルエーテル燐酸ナトリウムのポリエチレンオキサイド付加物等のアルキルエーテル燐酸塩のポリエチレンオキサイド付加物類、ノニルフェニルエーテル燐酸ナトリウムのポリエチレンオキサイド付加物等のアルキルフェニルエーテル燐酸塩のポリエチレンオキサイド付加物類等を挙げることができる。
前記の分散剤として用いることの出来るノニオン性界面活性剤としては、種々の鎖長のポリエチレンオキサイドに、アルキル基やフェニル基およびアルキル置換フェニル基が結合したポリエチレンオキサイドアルキルエーテル、ポリエチレンオキサイドアルキルフェニルエーテルが好ましく用いることが出来、これらの内でも、商品名TWEEN20、同40、同60および同80として知られるソルビタンモノアルキレート誘導体が最も好ましく用いることが出来る。
前記の分散剤として用いることの出来る水溶性ポリマーとしては、例えば、ゼラチン、ゼラチン誘導体(例えば、フタル化ゼラチン等)、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキシド、キサンタン、カチオン性ヒドロキシエチルセルロース、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン、デンプン、各種変性デンプン(例えばリン酸変性デンプン等)等を挙げることが出来る。
前記の分散剤として用いることの出来る無機化合物として各種リン酸塩を挙げることが出来るが、特に好ましい例として下記で示すポリリン酸(塩)を挙げることが出来る。この場合、得られるストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイト微粒子の分散物中に含まれる微粒子の大きさが体積平均粒子径にして40〜900nmの範囲にある微粒子に分散され、実質的に有機物を含まず、高純度で分散安定性に優れたストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイト微粒子の分散物が得られることから、極めて好ましく用いることが出来る。
本発明により得られるストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイト微粒子の分散物をコーティング用途に使用して、例えば前記した生体インプラントへの適用を行った場合、ストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイト微粒子の分散物中に有機物が含まれていると、生体に対する安全性が損なわれる場合がある。よって本発明のストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイト微粒子の製造方法によって得られる分散物は、有機物を含有しないことが好ましい。尚、本発明において実質的に有機物を含まないとは、ストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイトに対して有機物が1質量%以下であることを意味する。より好ましくは0.1質量%以下である。
上記で用いることの出来るポリリン酸(塩)の例として、ピロリン酸(ナトリウム)、トリポリリン酸(ナトリウム)、テトラポリリン酸(ナトリウム)、直鎖状のポリリン酸(ナトリウム)のような直鎖状のポリリン酸(塩)及びこれらの水和物が挙げられ、或いは環状化合物であるヘキサメタリン酸(ナトリウム)などを含み、実際には高分子化合物であるメタリン酸(ナトリウム)や、或いは、直鎖状骨格のみならず、分岐構造を含むウルトラリン酸(ナトリウム)及びこれらの水和物などを挙げることが出来る。これらの種々のポリリン酸(塩)は複数の種類を任意の割合で混合して用いても良い。なおここでポリリン酸(塩)とは、ポリリン酸あるいはこれらの塩であることを意味する。
上記のような種々の分散剤を用いてストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイト微粒子を製造する場合には、ストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイトに対する各種分散剤の比率についても好ましい範囲が存在する。ストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイト100質量部に対して、用いられる分散剤の量は、5〜100質量部とすることが最も好ましい。
以下に実施例によって本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例中の百分率は断りのない限り質量基準である。
(実施例1〜4)(各種リン酸水素塩の合成)
塩化ストロンチウム六水和物(和光純薬工業製試薬)と塩化カルシウム二水和物(和光純薬工業製試薬)をそれぞれ表1に示す割合で混合し、各々を1リットルの三角フラスコ内に移し、イオン交換水350グラムを加えて溶解した。これとは別に、500mlのガラスビーカー内にリン酸水素二アンモニウム(和光純薬工業製試薬)66グラム(0.5モル)を秤取り、イオン交換水300グラムを加えて溶解した。上記で作製した塩化ストロンチウムと塩化カルシウムの両方を溶解した水溶液を導入した三角フラスコを50℃に調整した水浴上に移し、攪拌しながら滴下漏斗を用いて、リン酸水素二アンモニウムを溶解した水溶液を1時間に亘って徐々に滴下し、ストロンチウムイオンとカルシウムイオンを含むリン酸水素塩を合成した。反応時の反応系のpHは何れの実施例においても6.5であった。得られた各々のリン酸水素塩をグラスフィルターを用いて吸引濾過を行った。フィルター上の白色沈殿は更に繰り返しイオン交換水で洗浄を行った後、40℃に調節した乾燥器内で1昼夜乾燥を行い、それぞれの実施例で白色の粉体を得た。得られた粉体の質量は、ストロンチウム塩、カルシウム塩、およびリン酸水素塩に対する理論収量に合致した収量であった。
塩化ストロンチウム六水和物(和光純薬工業製試薬)と塩化カルシウム二水和物(和光純薬工業製試薬)をそれぞれ表1に示す割合で混合し、各々を1リットルの三角フラスコ内に移し、イオン交換水350グラムを加えて溶解した。これとは別に、500mlのガラスビーカー内にリン酸水素二アンモニウム(和光純薬工業製試薬)66グラム(0.5モル)を秤取り、イオン交換水300グラムを加えて溶解した。上記で作製した塩化ストロンチウムと塩化カルシウムの両方を溶解した水溶液を導入した三角フラスコを50℃に調整した水浴上に移し、攪拌しながら滴下漏斗を用いて、リン酸水素二アンモニウムを溶解した水溶液を1時間に亘って徐々に滴下し、ストロンチウムイオンとカルシウムイオンを含むリン酸水素塩を合成した。反応時の反応系のpHは何れの実施例においても6.5であった。得られた各々のリン酸水素塩をグラスフィルターを用いて吸引濾過を行った。フィルター上の白色沈殿は更に繰り返しイオン交換水で洗浄を行った後、40℃に調節した乾燥器内で1昼夜乾燥を行い、それぞれの実施例で白色の粉体を得た。得られた粉体の質量は、ストロンチウム塩、カルシウム塩、およびリン酸水素塩に対する理論収量に合致した収量であった。
各々の実施例で得られたリン酸水素塩を用いて広角X線回折測定を行った。図1は実施例1で得られたストロンチウムとカルシウムを含むリン酸水素塩の広角X線回折パターンを示す。図2は実施例2で得られたストロンチウムとカルシウムを含むリン酸水素塩の広角X線回折パターンを示す。図3は実施例3で得られたストロンチウムとカルシウムを含むリン酸水素塩の広角X線回折パターンを示す。図4は実施例4で得られたストロンチウムとカルシウムを含むリン酸水素塩の広角X線回折パターンを示す。図1および図2で示す実施例1および2で得られたリン酸水素塩はほぼリン酸水素ストロンチウムのX線回折パターンと一致しており、リン酸水素ストロンチウムの結晶格子中にカルシウムイオンが均一に分布している結果であった。一方、図4の実施例4で得られたリン酸水素塩では、大部分がリン酸水素カルシウム二水和物(ブルシャイト)のX線回折パターンを示しており、この中に少量のリン酸水素ストロンチウム型結晶が含まれている結果であった。また、図3の実施例3で得られたリン酸水素塩では、リン酸水素ストロンチウム型結晶が大部分であり、この中に少量のリン酸水素カルシウム型結晶が含まれている結果であった。
実施例1〜4で得られたカルシウムとストロンチウムを併せて含むリン酸水素塩の粉体をスライドグラス上に固定し、エネルギー分散型X線分光法(EDS)を用いて該粉体中に存在するストロンチウムとカルシウムの分布およびそれらの質量比を測定したところ、何れの試料についても粉体中にカルシウムおよびストロンチウムは均一に分布しており、さらにカルシウムとストロンチウムの質量比は、各々の実施例で合成の際に用いたそれぞれのモル比に対応した質量比と良く一致する結果が得られた。即ち、合成の際に仕込み比として用いたカルシウム/ストロンチウムのモル比と、得られたリン酸水素塩に含まれるカルシウム/ストロンチウムのモル比は一致する結果を得た。
上記の各々の実施例で得られた白色の粉体の全量(0.5モル)を1リットル三角フラスコへ移し、イオン交換水600グラムを加えて攪拌を行いながら、炭酸ナトリウムを27グラム(0.25モル)添加した。反応系のpHは何れの実施例でも9.5であった。これをホットプレート上で攪拌しながら反応系の温度を80℃に上昇し、この温度で3時間加熱攪拌を行った。その後室温まで冷却し、吸引濾過を行って生成物をグラスフィルター上に回収した。イオン交換水により十分に洗浄を行った後、80℃に調節した乾燥器内で1昼夜加熱乾燥を行い各々の実施例で白色の粉体を得た。得られた粉体は広角X線回折により解析を行い図5〜8に示す回折パターンを得たことから、各々の実施例で得られた白色の粉体は、ストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイトであることが判った。図5は実施例1で得られたストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイトの広角X線回折パターンを示す。図6は実施例2で得られたストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイトの広角X線回折パターンを示す。図7は実施例3で得られたストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイトの広角X線回折パターンを示す。図8は実施例4で得られたストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイトの広角X線回折パターンを示す。これらの回折パターンより、何れの実施例においても、得られた生成物中にはストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイト以外の不純物の存在は認められず、高純度で結晶性の良好な該アパタイトが得られていることが明かとなった。また、ストロンチウムと共に含まれるカルシウムイオンの比率が増大するに従って生成した炭酸カルシウムアパタイトの結晶性が次第に低下することが分かった。
更に、各々の実施例で得られたストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイトをFT−IRを用いて解析を行った。図9は実施例1で得られたストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイトのFT−IRスペクトルチャートを示す。図10は実施例2で得られたストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイトのFT−IRスペクトルチャートを示す。図11は実施例3で得られたストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイトのFT−IRスペクトルチャートを示す。図12は実施例4で得られたストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイトのFT−IRスペクトルチャートを示す。これらのチャートから、Feathersotone等の方法に従い、1001cm−1付近のリン酸イオンに基づく吸収ピーク強度に対する1405cm−1の炭酸イオンに基づく吸収ピーク強度の比率から定量を行った結果、ストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイト中に含まれる炭酸イオンの比率として実施例1では20.6質量%、実施例2では19.7質量%、実施例3では15.6質量%、および実施例4では14.2質量%の値がそれぞれ得られた。
各々の実施例で得られたストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイトの粉体を用いて、エネルギー分散型X線分光法(EDS)を用いて該粉体中に存在するストロンチウムとカルシウムの分布およびそれらの質量比を測定したところ、何れの試料についても粉体中にカルシウムおよびストロンチウムは均一に分布しており、さらにカルシウムとストロンチウムの質量比は、各々の実施例でリン酸水素塩の合成の際に用いたそれぞれのモル比に対応した質量比と良く一致する結果が得られた。
図13および図14には実施例2および4で得られた粉体の走査型電子顕微鏡写真を示す。図13は、実施例2で得られたストロンチウムとカルシウムを6:4のモル比で含有するストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイトの走査型電子顕微鏡写真を表す。拡大倍率は10万倍である。図14は、実施例4で得られたストロンチウムとカルシウムを2:8のモル比で含有するストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイトの走査型電子顕微鏡写真を表す。拡大倍率は10万倍である。何れの場合もナノメートルサイズの微細なストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイトの一次粒子が集合して該粉体を形成していることが明かとなった。尚、ここでは示していないが、実施例1および実施例3で得られたストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイトの走査型電子顕微鏡に依る観察では、何れの場合も同様にナノメートルサイズの微細なストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイトの一次粒子が集合して該粉体を形成していることが確認された。
(分散剤を使用しない場合のストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイト微粒子の製造方法と評価結果)
上記実施例1〜4で得たストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイト20グラムを0.2リットルのポリプロピレン容器に移し、さらにイオン交換水80グラムおよび粒径0.3mmのジルコニアビーズを160グラム加えて密閉し、ペイントコンディショナーを使用して6時間振盪処理を行った。その後、濾布を使用して分散物からジルコニアビーズを分離した。得られた分散物のpHは何れも7.5であり、固形分濃度は20質量%であった。得られた分散物を用いて、分散している該アパタイト微粒子の体積平均粒子径を測定するために、光散乱回折式粒度分布計(堀場製作所製粒度分布測定装置LA−920)を用いて測定し、図15〜図18に示す結果を得た。図15は実施例1で得られたストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイトを分散剤を使用せず湿式分散処理を行って得られたストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイト微粒子分散物の粒子径分布曲線を表す。図15より求められた体積平均粒子径は、メジアン径で2.3μmであり、比較的粒子径分布の狭い微粒子であることが明らかとなった。図16は実施例2で得られたストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイトを分散剤を使用せず湿式分散処理を行って得られたストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイト微粒子分散物の粒子径分布曲線を表す。図16より求められた体積平均粒子径は、メジアン径で2.5μmであり、比較的粒子径分布の狭い微粒子であることが明らかとなった。図17は実施例3で得られたストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイトを分散剤を使用せず湿式分散処理を行って得られたストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイト微粒子分散物の粒子径分布曲線を表す。図17より求められた体積平均粒子径は、メジアン径で2.1μmであり、比較的粒子径分布の狭い微粒子であることが明らかとなった。図18は実施例4で得られたストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイトを分散剤を使用せず湿式分散処理を行って得られたストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイト微粒子分散物の粒子径分布曲線を表す。図18より求められた体積平均粒子径は、メジアン径で2.1μmであり、比較的粒子径分布の狭い微粒子であることが明らかとなった。上記で得られた各々の分散物に含まれるストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイト微粒子の分散安定性を評価するために、各々の分散物を透明ガラス製容器内に入れて1週間室温で静置しておき、静値後の分散物の様子を目視で観察したが、何れの場合も沈殿物や凝集物の発生もなく、安定に分散していることが確認された。さらに、得られた分散物を用いて、これをスライドガラス上に乾燥塗布膜厚が約3μmになるよう塗布を行った。乾燥後に塗膜を観察したところ、何れの場合もほぼ完全に透明である均一な塗布膜が形成されていることが確認された。
上記実施例1〜4で得たストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイト20グラムを0.2リットルのポリプロピレン容器に移し、さらにイオン交換水80グラムおよび粒径0.3mmのジルコニアビーズを160グラム加えて密閉し、ペイントコンディショナーを使用して6時間振盪処理を行った。その後、濾布を使用して分散物からジルコニアビーズを分離した。得られた分散物のpHは何れも7.5であり、固形分濃度は20質量%であった。得られた分散物を用いて、分散している該アパタイト微粒子の体積平均粒子径を測定するために、光散乱回折式粒度分布計(堀場製作所製粒度分布測定装置LA−920)を用いて測定し、図15〜図18に示す結果を得た。図15は実施例1で得られたストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイトを分散剤を使用せず湿式分散処理を行って得られたストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイト微粒子分散物の粒子径分布曲線を表す。図15より求められた体積平均粒子径は、メジアン径で2.3μmであり、比較的粒子径分布の狭い微粒子であることが明らかとなった。図16は実施例2で得られたストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイトを分散剤を使用せず湿式分散処理を行って得られたストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイト微粒子分散物の粒子径分布曲線を表す。図16より求められた体積平均粒子径は、メジアン径で2.5μmであり、比較的粒子径分布の狭い微粒子であることが明らかとなった。図17は実施例3で得られたストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイトを分散剤を使用せず湿式分散処理を行って得られたストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイト微粒子分散物の粒子径分布曲線を表す。図17より求められた体積平均粒子径は、メジアン径で2.1μmであり、比較的粒子径分布の狭い微粒子であることが明らかとなった。図18は実施例4で得られたストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイトを分散剤を使用せず湿式分散処理を行って得られたストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイト微粒子分散物の粒子径分布曲線を表す。図18より求められた体積平均粒子径は、メジアン径で2.1μmであり、比較的粒子径分布の狭い微粒子であることが明らかとなった。上記で得られた各々の分散物に含まれるストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイト微粒子の分散安定性を評価するために、各々の分散物を透明ガラス製容器内に入れて1週間室温で静置しておき、静値後の分散物の様子を目視で観察したが、何れの場合も沈殿物や凝集物の発生もなく、安定に分散していることが確認された。さらに、得られた分散物を用いて、これをスライドガラス上に乾燥塗布膜厚が約3μmになるよう塗布を行った。乾燥後に塗膜を観察したところ、何れの場合もほぼ完全に透明である均一な塗布膜が形成されていることが確認された。
(ポリリン酸(塩)を用いた際のストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイト微粒子の製造方法と評価結果)
上記実施例4で得たストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイト20グラムを0.2リットルのポリプロピレン容器に移し、これにピロリン酸ナトリウム十水和物(和光純薬工業製試薬)を4グラム添加し、さらにイオン交換水76グラムおよび粒径0.3mmのジルコニアビーズを160グラム加えて密閉し、ペイントコンディショナーを使用して6時間湿式分散処理を行った。その後、濾布を使用して分散物からジルコニアビーズを分離した。得られた分散物のpHは7.5であり、固形分濃度は22質量%であった。得られた分散物を用いて、分散しているストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイト微粒子の大きさを先の場合と同様にして測定し、図19に示す結果を得た。図19は、実施例4で得られたストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイトを分散剤としてポリリン酸(塩)を使用して湿式分散処理を行って得られたストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイト微粒子分散物の粒子径分布曲線を表す。求められた体積平均粒子径は、メジアン径で110nmであった。ポリリン酸(塩)として使用したピロリン酸ナトリウム十水和物の添加により、粒子径が大幅に低下したnmオーダーの微細なストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイト微粒子が得られることが明らかとなった。上記で得られた分散物に含まれるストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイト微粒子の分散安定性を評価するために、分散物を透明ガラス製容器内に入れて1週間室温で静置しておき、静値後の分散物の様子を目視で観察したが、沈殿物や凝集物の発生もなく、安定に分散していることが確認された。
上記実施例4で得たストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイト20グラムを0.2リットルのポリプロピレン容器に移し、これにピロリン酸ナトリウム十水和物(和光純薬工業製試薬)を4グラム添加し、さらにイオン交換水76グラムおよび粒径0.3mmのジルコニアビーズを160グラム加えて密閉し、ペイントコンディショナーを使用して6時間湿式分散処理を行った。その後、濾布を使用して分散物からジルコニアビーズを分離した。得られた分散物のpHは7.5であり、固形分濃度は22質量%であった。得られた分散物を用いて、分散しているストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイト微粒子の大きさを先の場合と同様にして測定し、図19に示す結果を得た。図19は、実施例4で得られたストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイトを分散剤としてポリリン酸(塩)を使用して湿式分散処理を行って得られたストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイト微粒子分散物の粒子径分布曲線を表す。求められた体積平均粒子径は、メジアン径で110nmであった。ポリリン酸(塩)として使用したピロリン酸ナトリウム十水和物の添加により、粒子径が大幅に低下したnmオーダーの微細なストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイト微粒子が得られることが明らかとなった。上記で得られた分散物に含まれるストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイト微粒子の分散安定性を評価するために、分散物を透明ガラス製容器内に入れて1週間室温で静置しておき、静値後の分散物の様子を目視で観察したが、沈殿物や凝集物の発生もなく、安定に分散していることが確認された。
(ストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイト微粒子のコーティング評価結果)
上記のピロリン酸ナトリウム十水和物を添加して湿式分散処理後に得られた分散物を用いて、これをスライドガラス上に乾燥塗布膜厚が約2μmになるよう塗布を行った。乾燥後に塗膜を観察したところ、何れの実施例の場合もほぼ完全に透明である均一な塗布膜が形成されていることが確認された。
上記のピロリン酸ナトリウム十水和物を添加して湿式分散処理後に得られた分散物を用いて、これをスライドガラス上に乾燥塗布膜厚が約2μmになるよう塗布を行った。乾燥後に塗膜を観察したところ、何れの実施例の場合もほぼ完全に透明である均一な塗布膜が形成されていることが確認された。
(実施例5)
先の実施例1において合成したストロンチウムイオンとカルシウムイオンを8:2のモル比率で含むリン酸水素塩(0.5モル)を用いて、これに実施例1では炭酸ナトリウムを27グラム(0.25モル)用いたところを本実施例では13.5グラム(0.125モル)使用して同様に反応を行い、得られた生成物を広角X線回折およびFT−IRを使用して解析した結果、高純度のストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイトが生成していることが確認された。FT−IRスペクトルチャートから本実施例で得られたストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイト中に含まれる炭酸イオンの比率として8.0質量%の値が得られた。また、得られたストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイトの粉体を用いて、エネルギー分散型X線分光法(EDS)を用いて該粉体中に存在するストロンチウムとカルシウムの分布およびそれらの質量比を測定したところ、何れの試料についても粉体中にカルシウムおよびストロンチウムは均一に分布しており、さらにカルシウムとストロンチウムの質量比は、先の実施例1で得られた該アパタイトに対する質量比と良く一致する結果が得られた。
先の実施例1において合成したストロンチウムイオンとカルシウムイオンを8:2のモル比率で含むリン酸水素塩(0.5モル)を用いて、これに実施例1では炭酸ナトリウムを27グラム(0.25モル)用いたところを本実施例では13.5グラム(0.125モル)使用して同様に反応を行い、得られた生成物を広角X線回折およびFT−IRを使用して解析した結果、高純度のストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイトが生成していることが確認された。FT−IRスペクトルチャートから本実施例で得られたストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイト中に含まれる炭酸イオンの比率として8.0質量%の値が得られた。また、得られたストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイトの粉体を用いて、エネルギー分散型X線分光法(EDS)を用いて該粉体中に存在するストロンチウムとカルシウムの分布およびそれらの質量比を測定したところ、何れの試料についても粉体中にカルシウムおよびストロンチウムは均一に分布しており、さらにカルシウムとストロンチウムの質量比は、先の実施例1で得られた該アパタイトに対する質量比と良く一致する結果が得られた。
(実施例6)
先の実施例1において合成したストロンチウムイオンとカルシウムイオンを8:2のモル比率で含むリン酸水素塩(0.5モル)を用いて、これに実施例1では炭酸ナトリウムを27グラム(0.25モル)用いたところを本実施例では64グラム(0.6モル)使用して同様に反応を行い、得られた生成物を広角X線回折およびFT−IRを使用して解析した結果、高純度のストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイトが生成していることが確認された。FT−IRスペクトルチャートから本実施例で得られたストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイト中に含まれる炭酸イオンの比率として27.0質量%の値が得られた。また、得られたストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイトの粉体を用いて、エネルギー分散型X線分光法(EDS)を用いて該粉体中に存在するストロンチウムとカルシウムの分布およびそれらの質量比を測定したところ、何れの試料についても粉体中にカルシウムおよびストロンチウムは均一に分布しており、さらにカルシウムとストロンチウムの質量比は、先の実施例1で得られた該アパタイトに対する質量比と良く一致する結果が得られた。
先の実施例1において合成したストロンチウムイオンとカルシウムイオンを8:2のモル比率で含むリン酸水素塩(0.5モル)を用いて、これに実施例1では炭酸ナトリウムを27グラム(0.25モル)用いたところを本実施例では64グラム(0.6モル)使用して同様に反応を行い、得られた生成物を広角X線回折およびFT−IRを使用して解析した結果、高純度のストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイトが生成していることが確認された。FT−IRスペクトルチャートから本実施例で得られたストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイト中に含まれる炭酸イオンの比率として27.0質量%の値が得られた。また、得られたストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイトの粉体を用いて、エネルギー分散型X線分光法(EDS)を用いて該粉体中に存在するストロンチウムとカルシウムの分布およびそれらの質量比を測定したところ、何れの試料についても粉体中にカルシウムおよびストロンチウムは均一に分布しており、さらにカルシウムとストロンチウムの質量比は、先の実施例1で得られた該アパタイトに対する質量比と良く一致する結果が得られた。
(実施例7)
先の実施例1において合成したストロンチウムイオンとカルシウムイオンを8:2のモル比率で含むリン酸水素塩(0.5モル)を用いて、これに実施例1では炭酸ナトリウムを27グラム(0.25モル)用いたところを本実施例では炭酸水素ナトリウムを18グラム(0.21モル)使用して同様に反応を行い、得られた生成物を広角X線回折およびFT−IRを使用して解析した結果、高純度のストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイトが生成していることが確認された。FT−IRスペクトルチャートから本実施例で得られたストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイト中に含まれる炭酸イオンの比率として5.0質量%の値が得られた。また、得られたストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイトの粉体を用いて、エネルギー分散型X線分光法(EDS)を用いて該粉体中に存在するストロンチウムとカルシウムの分布およびそれらの質量比を測定したところ、何れの試料についても粉体中にカルシウムおよびストロンチウムは均一に分布しており、さらにカルシウムとストロンチウムの質量比は、先の実施例1で得られた該アパタイトに対する質量比と良く一致する結果が得られた。
先の実施例1において合成したストロンチウムイオンとカルシウムイオンを8:2のモル比率で含むリン酸水素塩(0.5モル)を用いて、これに実施例1では炭酸ナトリウムを27グラム(0.25モル)用いたところを本実施例では炭酸水素ナトリウムを18グラム(0.21モル)使用して同様に反応を行い、得られた生成物を広角X線回折およびFT−IRを使用して解析した結果、高純度のストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイトが生成していることが確認された。FT−IRスペクトルチャートから本実施例で得られたストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイト中に含まれる炭酸イオンの比率として5.0質量%の値が得られた。また、得られたストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイトの粉体を用いて、エネルギー分散型X線分光法(EDS)を用いて該粉体中に存在するストロンチウムとカルシウムの分布およびそれらの質量比を測定したところ、何れの試料についても粉体中にカルシウムおよびストロンチウムは均一に分布しており、さらにカルシウムとストロンチウムの質量比は、先の実施例1で得られた該アパタイトに対する質量比と良く一致する結果が得られた。
(実施例8)
先の実施例1において合成したストロンチウムイオンとカルシウムイオンを8:2のモル比率で含むリン酸水素塩(0.5モル)を用いて、これに実施例1では炭酸ナトリウムを27グラム(0.25モル)用いたところを本実施例では炭酸水素ナトリウムを65グラム(0.77モル)使用して同様に反応を行い、得られた生成物を広角X線回折およびFT−IRを使用して解析した結果、高純度のストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイトが生成していることが確認された。FT−IRスペクトルチャートから本実施例で得られたストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイト中に含まれる炭酸イオンの比率として15.0質量%の値が得られた。また、得られたストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイトの粉体を用いて、エネルギー分散型X線分光法(EDS)を用いて該粉体中に存在するストロンチウムとカルシウムの分布およびそれらの質量比を測定したところ、何れの試料についても粉体中にカルシウムおよびストロンチウムは均一に分布しており、さらにカルシウムとストロンチウムの質量比は、先の実施例1で得られた該アパタイトに対する質量比と良く一致する結果が得られた。
先の実施例1において合成したストロンチウムイオンとカルシウムイオンを8:2のモル比率で含むリン酸水素塩(0.5モル)を用いて、これに実施例1では炭酸ナトリウムを27グラム(0.25モル)用いたところを本実施例では炭酸水素ナトリウムを65グラム(0.77モル)使用して同様に反応を行い、得られた生成物を広角X線回折およびFT−IRを使用して解析した結果、高純度のストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイトが生成していることが確認された。FT−IRスペクトルチャートから本実施例で得られたストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイト中に含まれる炭酸イオンの比率として15.0質量%の値が得られた。また、得られたストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイトの粉体を用いて、エネルギー分散型X線分光法(EDS)を用いて該粉体中に存在するストロンチウムとカルシウムの分布およびそれらの質量比を測定したところ、何れの試料についても粉体中にカルシウムおよびストロンチウムは均一に分布しており、さらにカルシウムとストロンチウムの質量比は、先の実施例1で得られた該アパタイトに対する質量比と良く一致する結果が得られた。
(実施例9)
先の実施例1において合成したストロンチウムイオンとカルシウムイオンを8:2のモル比率で含むリン酸水素塩(0.5モル)を用いて、これに実施例1では炭酸ナトリウムを27グラム(0.25モル)用いたところを本実施例では炭酸水素ナトリウムを101グラム(1.2モル)使用して同様に反応を行い、得られた生成物を広角X線回折およびFT−IRを使用して解析した結果、高純度のストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイトが生成していることが確認された。FT−IRスペクトルチャートから本実施例で得られたストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイト中に含まれる炭酸イオンの比率として25.0質量%の値が得られた。また、得られたストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイトの粉体を用いて、エネルギー分散型X線分光法(EDS)を用いて該粉体中に存在するストロンチウムとカルシウムの分布およびそれらの質量比を測定したところ、何れの試料についても粉体中にカルシウムおよびストロンチウムは均一に分布しており、さらにカルシウムとストロンチウムの質量比は、先の実施例1で得られた該アパタイトに対する質量比と良く一致する結果が得られた。
先の実施例1において合成したストロンチウムイオンとカルシウムイオンを8:2のモル比率で含むリン酸水素塩(0.5モル)を用いて、これに実施例1では炭酸ナトリウムを27グラム(0.25モル)用いたところを本実施例では炭酸水素ナトリウムを101グラム(1.2モル)使用して同様に反応を行い、得られた生成物を広角X線回折およびFT−IRを使用して解析した結果、高純度のストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイトが生成していることが確認された。FT−IRスペクトルチャートから本実施例で得られたストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイト中に含まれる炭酸イオンの比率として25.0質量%の値が得られた。また、得られたストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイトの粉体を用いて、エネルギー分散型X線分光法(EDS)を用いて該粉体中に存在するストロンチウムとカルシウムの分布およびそれらの質量比を測定したところ、何れの試料についても粉体中にカルシウムおよびストロンチウムは均一に分布しており、さらにカルシウムとストロンチウムの質量比は、先の実施例1で得られた該アパタイトに対する質量比と良く一致する結果が得られた。
(比較例1)
先の実施例1において合成したストロンチウムイオンとカルシウムイオンを8:2のモル比率で含むリン酸水素塩を用いて、これに実施例1では炭酸ナトリウムを27グラム(0.25モル)用いたところを本比較例では8グラム(0.075モル)使用して同様に加熱を行い、得られた生成物を広角X線回折およびFT−IRを使用して解析した結果、生成物には出発物質のリン酸水素塩がそのまま残存していることが分かった。
先の実施例1において合成したストロンチウムイオンとカルシウムイオンを8:2のモル比率で含むリン酸水素塩を用いて、これに実施例1では炭酸ナトリウムを27グラム(0.25モル)用いたところを本比較例では8グラム(0.075モル)使用して同様に加熱を行い、得られた生成物を広角X線回折およびFT−IRを使用して解析した結果、生成物には出発物質のリン酸水素塩がそのまま残存していることが分かった。
(比較例2)
先の実施例7において炭酸水素ナトリウムを18グラム(0.21モル)用いたところを本比較例2では14グラム(0.17モル)使用して同様に加熱を行い、得られた生成物を広角X線回折およびFT−IRを使用して解析した結果、生成物には出発物質のリン酸水素塩がそのまま残存していることが分かった。
先の実施例7において炭酸水素ナトリウムを18グラム(0.21モル)用いたところを本比較例2では14グラム(0.17モル)使用して同様に加熱を行い、得られた生成物を広角X線回折およびFT−IRを使用して解析した結果、生成物には出発物質のリン酸水素塩がそのまま残存していることが分かった。
本発明の製造方法により得られるストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイトは、クロマトグラフィー用カラム用担体や各種吸着剤として利用可能である。或いは、各種生体活性インプラントとしての利用も可能である。更には、フィルムや繊維への表面処理を行うことで生体に親和性を有する各種親水性材料を提供することが可能である。
Claims (3)
- ストロンチウム塩とカルシウム塩を含有する水溶液と、リン酸塩を含有する水溶液を混合することでリン酸水素塩を合成し、得られたリン酸水素塩に対して0.2モル比以上の炭酸塩、または0.4モル比以上の炭酸水素塩を混合するストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイトの製造方法。
- 前記請求項1に記載の製造方法により得られたストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイトを、メディアミルを使用して湿式分散処理を行うストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイト微粒子の製造方法。
- 前記湿式分散処理を行う際に、ポリリン酸(塩)を加えて湿式分散処理を行う、前記請求項2に記載のストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイト微粒子の製造方法。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2013223571A JP2015086082A (ja) | 2013-10-28 | 2013-10-28 | ストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイトおよびその微粒子の製造方法 |
Applications Claiming Priority (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2013223571A JP2015086082A (ja) | 2013-10-28 | 2013-10-28 | ストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイトおよびその微粒子の製造方法 |
Publications (1)
Publication Number | Publication Date |
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JP2015086082A true JP2015086082A (ja) | 2015-05-07 |
Family
ID=53049269
Family Applications (1)
Application Number | Title | Priority Date | Filing Date |
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JP2013223571A Pending JP2015086082A (ja) | 2013-10-28 | 2013-10-28 | ストロンチウムを含む炭酸カルシウムアパタイトおよびその微粒子の製造方法 |
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Country | Link |
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JP (1) | JP2015086082A (ja) |
Cited By (1)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
US11577216B2 (en) * | 2019-01-09 | 2023-02-14 | Japan Atomic Energy Agency | Carbonate apatite with high carbonate content |
-
2013
- 2013-10-28 JP JP2013223571A patent/JP2015086082A/ja active Pending
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Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
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US11577216B2 (en) * | 2019-01-09 | 2023-02-14 | Japan Atomic Energy Agency | Carbonate apatite with high carbonate content |
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