JP2015083708A - 処理溶液、酸性電気めっき浴、電気めっき皮膜、および、電気めっき皮膜形成方法 - Google Patents

処理溶液、酸性電気めっき浴、電気めっき皮膜、および、電気めっき皮膜形成方法 Download PDF

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Abstract

【課題】ナノメートルサイズで粒子径が揃うとともに、10重量%以上の二硫化モリブデンを含有する複合めっき皮膜を形成することが可能な技術を提供する。
【解決手段】テトラチオモリブデン酸アンモニウムと、2−プロピン−1−スルホン酸ナトリウムとの付加反応によりモリブデン酸誘導体水溶液を生成する。そして、その水溶液を含有する酸性電気めっき浴を用いて、電気めっき皮膜を形成する。上記モリブデン酸誘導体水溶液を酸性電気めっき浴に添加しても、めっき浴中のニッケル,銅,コバルト等の金属は沈殿しないため、上記水溶液を含む酸性電気めっき浴によって、二硫化モリブデンとめっき浴中の金属との複合めっき皮膜を形成することが可能となる。これにより、ナノメートルサイズで粒子径が揃うとともに、10重量%以上の二硫化モリブデンを含有する複合めっき皮膜を形成することが可能となる。
【選択図】図5

Description

本発明は、チオ酸塩を含む処理溶液等に関する。
従来から、耐摩耗性および固体潤滑性を高めるための処理が、チオ酸塩を含む処理溶液を用いて行われている。例えば、テトラチオモリブデン酸イオンを含む水溶液中に被処理物を浸漬して陽極電解処理を施すと、被処理物の表面に三硫化モリブデンが沈着する。そして、その沈着した三硫化モリブデンを熱処理によって、二硫化モリブデンに変化させる。これにより、被処理物の表面に二硫化モリブデンの皮膜が形成され、耐摩耗性および固体潤滑性を高めることが可能となる。このような処理方法を利用した技術としては、アルミニウム又はアルミニウム合金への二硫化モリブデン含浸処理方法(下記特許文献1および下記特許文献2参照)、アルミニウム又はアルミニウム合金をアルマイト処理した後に、テトラチオモリブデン酸塩水溶液と酸水溶液への交互浸漬する二次電界処理方法(下記特許文献3参照)、鉄鋼表面に形成させたリン酸塩皮膜中に二硫化モリブデンを坦持させる方法(下記特許文献4参照)等がある。このような処理方法では、予め、被処理物の表面を多孔質化させる処理を施し、テトラチオモリブデン酸塩溶液中で生成された硫化モリブデンが、多孔質中に坦持される。
そこで、このような技術を利用して、テトラチオモリブデン酸塩、つまり、チオ酸塩を含む酸性電気めっき浴によって、ニッケル,銅,コバルト等の金属とチオ酸塩が酸性分解して生成する硫化モリブデン粒子とが複合しためっき皮膜を形成することが考えられる。しかしながら、チオ酸塩を酸性電気めっき浴に添加すると、めっき浴中のニッケル,銅,コバルト等の金属が硫化物となって共に沈澱するため、チオ酸塩を含む酸性電気めっき浴を作製することができない。
一方で、ニッケル,銅,コバルト等の金属と硫化モリブデンとを複合させためっき皮膜を形成する方法としては、二硫化モリブデン粒子をめっき浴中で機械的に攪拌し、二硫化モリブデン粒子を懸濁させためっき浴を用いる方法が知られている。例えば、アルコール中で解粒処理した二硫化モリブデン懸濁液を加えためっき浴を用いる方法(下記特許文献5参照)が知られている。
特開昭53−146938号公報 特開昭58−53112号公報 特公平2−42916号公報 特開平11−256357号公報 特許第4617327号公報
上記特許文献5に記載の技術を利用することで、ニッケル,銅,コバルト等の金属と硫化モリブデンとを複合させためっき皮膜を形成することが可能となる。しかしながら、めっき浴中で分散している二硫化モリブデン粒子は、0.5〜2.0μmと比較的大きいため、緻密な皮膜を形成し難い。また、この手法では、10重量%以上の二硫化モリブデンを含有する皮膜を形成することは困難である。本発明は、そのような実情に鑑みてなされたものであり、ナノメートルサイズで粒子径が揃うとともに、10重量%以上の二硫化モリブデンを含有する複合めっき皮膜を形成することが可能な技術の提供を課題とする。
上記課題を解決するために、本発明の処理溶液は、水溶性官能基を有する不飽和炭化水素と、チオ酸塩との付加反応により生成されることを特徴とする。
上記課題を解決するために、本発明の酸性電気めっき浴は、水溶性官能基を有する不飽和炭化水素と、チオ酸塩との付加反応により生成される処理溶液を含有することを特徴とする。
上記課題を解決するために、本発明の電気めっき皮膜は、水溶性官能基を有する不飽和炭化水素と、チオ酸塩との付加反応により生成される処理溶液を含有する酸性電気めっき浴を用いて形成されることを特徴とする。
上記課題を解決するために、本発明の電気めっき皮膜形成方法は、水溶性官能基を有する不飽和炭化水素と、チオ酸塩との付加反応により生成される処理溶液を含有する酸性電気めっき浴を用いて、電気めっき皮膜を形成することを特徴とする。
本発明の処理溶液は、水溶性官能基を有する不飽和炭化水素と、チオ酸塩との付加反応により生成されており、この処理溶液を酸性電気めっき浴に添加しても、めっき浴中のニッケル,銅,コバルト等の金属は沈殿しない。これにより、本発明の処理溶液を含む酸性電気めっき浴によって、複合めっき皮膜を形成することが可能となり、ナノメートルサイズで粒子径が揃うとともに、10重量%以上の二硫化モリブデンを含有する複合めっき皮膜を形成することが可能となる。
(スルホメチルエタンジイル)ポリチオモリブデートイオン水溶液中のスルホメチルエタンジイル基およびテトラチオモリブデンの組成構造を示す図である。 硫化モリブデンと金属イオンとの構造を示す図である。 ニッケルめっき浴中でスルホン酸基による可溶性で安定化したチオ酸ニッケル錯体の分散している状態を示す図である。 実施例1〜8の酸性電気めっき浴および比較例1の酸性電気めっき浴の配合量および、電気めっきの条件を示す図である。 実施例1〜8の酸性電気めっき浴および比較例1の酸性電気めっき浴を用いて形成される電気めっき皮膜の評価結果を示す図である。
本発明に記載の「処理溶液」は、水溶性官能基を有する不飽和炭化水素と、チオ酸塩との付加反応により生成される。つまり、チオ酸塩に、水溶性官能基を有するアルキン化合物または、アルケン化合物を反応させることで、チオ酸誘導体が生成される。そのチオ酸誘導体は、チオ酸のイオウ原子にエチレン基が結合したS−エタンジイル基(−S−CH−CHR−S−)或いは、アセチレン基が結合したS−エチレンジイル基(−S−CH=CR−S−)を有し、水溶性改質基(R)として、スルホネート基、カルボキシル基、ポリテーテル基、ヒドロキル基、四級アンモニウム基などを有する。さらに、付加結合反応を起こすアルケン基、アルキン基を有する化合物、または、開環付加反応を起こすエポキシ基、グリシジル基を有する化合物を、安定化改質剤として使用することが可能である。
なお、スルホネート官能基としては、アリルスルホン酸塩、2−メチル−2−プロペン−1−スルホン酸塩、3−ブテン−1−スルホン酸塩、4−ペンテン−1−スルホン酸塩、5−ヘキセン−1−スルホン酸塩、プロパギルスルホン酸塩、ビニルスルホネート、フェニル(メタ)アリルエーテルスルホン酸塩、または、2−アクリルアミド−メチルプロパンスルホン酸塩などがあり、特に、プロパギルスルホン酸ナトリウム、2−メチル−2−プロペン−1−スルホン酸ナトリウムが好ましい。また、チオ酸塩としては、チオモリブデン酸塩、チオタングステン酸塩、チオ銅酸塩、チオ錫酸塩、チオ砒酸、チオアンチモン酸などがあり、チオモリブデン酸塩、チオタングステン酸塩が好ましく、特に、チオモリブデン酸塩が好ましい。さらには開環付加反応を起こす分子内環状スルホン酸エステル類も安定化改質剤として使用することが可能である。特に、プロパンサルトンが好ましい。
水溶性官能基を有する不飽和炭化水素と、チオ酸塩との混合モル比は、1:20〜20:1であればよく、特に、1:5〜5:1であることが好ましい。
上記処理溶液に金属イオンを添加することで、分散溶解性の高い黒色コロイド溶液を調整することが可能である。例えば、スルホネート官能基を有する不飽和炭化水素とチオモリブデン酸塩との付加反応により生成された処理溶液、つまり、スルホメチルエタンジイル基(−CH−CH(CHSOH−)−)を有する水溶性の(スルホメチルエタンジイル)ポリチオモリブデートイオン水溶液に、金属イオン(Co、Cu、Ni、Pd、Rh、Ruなど)を添加することで、金属イオンと、親水性の高い(スルホメチルエタンジイル)ポリチオモリブデートイオンの少なくとも一部とが結合した構造をなす水溶性モリブデン/金属複合硫化物イオン(アルキルスルホン酸イオンと硫化物イオン)を有する分散溶解性の高い黒色コロイド溶液が調整される。
具体的には、(スルホメチルエタンジイル)ポリチオモリブデートイオン水溶液中のスルホメチルエタンジイル基(−CH−CH(CHSOH−)−)は、図1に示すように、テトラチオモリブデン2量体あたりに1〜2個の割合で結合していると考えられる。この構造に起因して、(スルホメチルエタンジイル)ポリチオモリブデートイオン水溶液に添加された金属イオンが安定的に分散すると考えられる。つまり、(スルホメチルエタンジイル)ポリチオモリブデートイオン水溶液に金属イオンを添加することで、図2に示すように、ナノサイズの硫化モリブデンと金属イオンとが配位結合し、図3に示す状態で溶液中において分散すると考えられる。
このように、上記処理溶液に金属イオンを添加することで、金属イオンを沈殿させることなく、分散溶解性の高い黒色コロイド溶液が調整され、この溶液を、電気めっき浴として用いることが可能となる。なお、めっき浴としては、添加する金属イオンの種類により、ニッケルめっき浴、銅めっき浴、コバルトめっき浴、さらに言えば、Mn,Fe,Sn,Pd,Ru,Rhなどの金属を含んだめっき浴を調整することが可能である。
上記処理溶液を含む電気めっき浴での不飽和炭化水素とチオ酸塩との付加反応により生成されるチオ酸誘導体の濃度は、0.001〜10質量%であることが好ましく、特に、0.01〜1質量%であることが好ましい。
上記処理溶液を含む電気めっき浴のpHは、1.0〜6.0であることが好ましく、特に、2.0〜4.0であることが好ましい。また、浴温は、20〜80℃であることが好ましく、特に、40〜60℃であることが好ましい。
上記処理溶液を含む電気めっき浴には、導電性および緩衝性を与える化合物として、無機酸、有機酸、それらのアルカリ塩類、有機錯化剤などと、それらのアルカリ塩類、さらに、有機アミン、有機ポリアミンなどが含まれてもよい。
上記処理溶液を含む電気めっき浴には、さらに、皮膜安定剤、皮膜密着性強化剤として、フェノール水酸基を有する化合物、フェノール酸塩など低分子化合物や、それらを骨格に持つ高分子化合物、タンニン、タンニン酸、カテキンなどポリフェノールといわれる高分子化合物などが含まれてもよい。
上記処理溶液を含む電気めっき浴では、陽極電解と陰極電解とを交互に繰り返す電解方式、所謂、PR電解方式を採用することが好ましい。これにより、金属と硫化モリブデンとが適切に複合された皮膜を形成することが可能となる。なおPR電解方式を採用する際には、陰極電解時の電流密度を0.1〜20A/dmとし、陽極電解時の電流密度を0.1〜20A/dmとすることが好ましく、特に、陰極電解時の電流密度を1〜5A/dmとし、陽極電解時の電流密度を1〜5A/dmとすることが好ましい。また、陰極電解時間を0.1〜10秒とし、陽極電解時間を0.1〜5秒とすることが好ましく、陰極電解時間と陽極電解時間との比率は、陰極電解時間:陽極電解時間=1:0.1〜1:1とすることが好ましい。
また、溶性陽極、若しくは、不溶性陽極を長期に使用する場合には、隔膜分離極、若しくは、水素拡散電極などを使用することが好ましい。
また、上記処理溶液を含む電気めっき浴によって皮膜を形成する前に、ストライクめっきを施すことが好ましい。これにより、上記処理溶液を含む電気めっき浴による皮膜を適切に形成するとともに、密着性を高くすることが可能となる。なお、ストライクめっき処理時の陰極電流密度は、2〜20A/dmであることが好ましく、特に、5〜15A/dmであることが好ましい。また、浴温は、15〜35℃であることが好ましい。
上記処理溶液を含む電気めっき浴を用いることで、モリブデン含有率の高い皮膜を形成することが可能である。具体的には、例えば、皮膜中のモリブデン含有率を、10〜30重量%とすることが可能であり、二硫化モリブデンに換算すると、15〜50重量%の皮膜を形成することが可能である。
上記処理溶液を含む電気めっき浴を用いて形成される皮膜には、添加する金属イオン等を調整することで、Ni,Cu,Co,Mn,Fe,In,Ir,Pt,Sn,Pd,Ag,Ru,Rhなどの単金属または、それら2元素以上の合金、さらには、誘導共析するMo,Wなどを含む多元合金などを含むことが可能である。さらに、皮膜には、Mo,W,Zr,Si,Ce,V,Al,Ni,Cu,Co,Mn,Fe,In,Sn,Pd,Ag,Ru,Rhなどの金属酸化物、硫化物などの微粒子、カーボンナノチューブ,カーボンナノファイバー,カーボンブラックのような炭素体、アルカリ金属化合物イオン,アルカリ土類金属化合物などを含むことが可能である。
以下に実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明する。ただし、本発明は、この実施例に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した種々の態様で実施することができる。
図4に示す配合の各原料から、実施例1〜8および比較例1の電気めっき皮膜を形成するための酸性電気めっき浴を調整した。
実施例1〜8の酸性電気めっき浴の原料のモリブデン酸誘導体水溶液は、テトラチオモリブデン酸アンモニウムと2−プロピン−1−スルホン酸ナトリウムとによって生成される。テトラチオモリブデン酸アンモニウムは、以下の手法により生成される。濃アンモニア水400mlに水200mlを加え、ヘプタモリブデン酸アンモニウム71gを溶解させる。そして、60〜70℃に加熱した後に、22%硫化アンモニウム500mlを添加する。これにより、テトラチオモリブデン酸アンモニウムが生成される。このようにして生成されたテトラチオモリブデン酸アンモニウム3g(11.53mmol)を、水1000mlに溶解させる。そして、2−プロピン−1−スルホン酸ナトリウムの20%水溶液8.19ml(11.53mmol)を加え、1時間、攪拌する。その後、50℃の恒温で8時間放置し、反応させる。これにより、モリブデン酸誘導体水溶液が生成される。
なお、上記手法により生成されたモリブデン酸誘導体水溶液を用いて、酸性電気めっき浴を調整する際に、めっき浴の金属が沈殿するか否かを確認するべく、以下の実験を行った。詳しくは、0.5mol/LのNi,Cu,Co,Mn,Fe,Agの各々の金属が溶解している硫酸水溶液(pH=2)に、上記モリブデン酸誘導体水溶液1cc添加した。この結果、Agのみが沈殿し、他の金属(Ni,Cu,Co,Mn,Fe)は沈殿しなかった。つまり、上記モリブデン酸誘導体水溶液を用いて、酸性電気めっき浴(銀めっき浴を除く)を調整することが可能である。なお、比較試験として、テトラチオモリブデン酸アンモニウム3gを水1000mlに溶解し、その水溶液1ccを、0.5mol/LのNi,Cu,Co,Mn,Fe,Agの各々の金属が溶解している硫酸水溶液(pH=2)に添加した。この結果、全ての金属(Ni,Cu,Co,Mn,Fe,Ag)が沈殿した。このことから、テトラチオモリブデン酸アンモニウムに、2−プロピン−1−スルホン酸ナトリウムを反応させることで、金属の沈殿を防止できることが解る。
また、実施例8の酸性電気めっき浴の原料のタングステン酸誘導体水溶液は、テトラチオタングステン酸アンモニウムと2−プロピン−1−スルホン酸ナトリウムとによって生成される。詳しくは、テトラチオタングステン酸アンモニウム(和光純薬工業株式会社製)4g(11.52mmol)を、水1000mlに溶解させる。そして、2−プロピン−1−スルホン酸ナトリウムの20%水溶液8.18ml(11.52mmol)を加え、1時間、攪拌する。その後、50℃の恒温で8時間放置し、反応させる。これにより、タングステン酸誘導体水溶液が生成される。
上記手法によりモリブデン酸誘導体水溶液および、タングステン酸誘導体水溶液が生成されると、実施例1〜8の酸性電気めっき浴が調整される。具体的には、モリブデン酸誘導体水溶液500mlに硫酸ニッケル120gおよび硼酸30gを完全に溶解し、水で希釈することで、1Lの実施例1〜6の酸性電気めっき浴が調整される。また、モリブデン酸誘導体水溶液500mlに硫酸ニッケル240g、塩化ニッケル45gおよび硼酸30gを完全に溶解し、水で希釈することで、1Lの実施例7の酸性電気めっき浴が調整される。また、モリブデン酸誘導体水溶液250mlとタングステン酸誘導体水溶液250mlとに硫酸ニッケル120gおよび硼酸30gを完全に溶解し、水で希釈することで、1Lの実施例8の酸性電気めっき浴が調整される。
また、比較例1の酸性電気めっき浴は、以下の手法に従って調整される。まず、スルファミン酸ニッケル260g、塩化ニッケル60g、硼酸15g、ラウリル硫酸ナトリウム0.04g、1,3,6−ナフタレントリスルフォン酸三ナトリウム12gを水に溶解させることで、1Lのスルファミン酸ニッケルめっき液を調整する。一方で、二硫化モリブデンの微粉末(粒径:1.5μm,住鉱潤滑剤株式会社製)20gを120mlのエタノールに、超音波によって混合しておく。そして、上記スルファミン酸ニッケルめっき液1Lと、二硫化モリブデンが混合されたエタノール120mlとを混合し、55℃で24時間のエアレーションを行う。これにより、上記めっき液からエタノールが除去され、比較例1の酸性電気めっき浴が調整される。なお、実施例1〜8および比較例1の酸性電気めっき浴のpHは、希硫酸、若しくは、水酸化ナトリウムにより、図4に示すpHに調整される。
実施例1〜8および比較例1の酸性電気めっき浴による電気めっき皮膜の形成前には、皮膜の密着性を高めるべく、以下の条件に従ってニッケルストライクが行われる。なお、対極として、ニッケル、若しくは、不溶性陽極が使用される。
塩化ニッケル・6HO:250g/L
白塩酸:120cc/L
pH:1以下
陰極電流密度:10A/dm
浴温:25℃
上記条件でニッケルストライクが行われると、実施例1〜8の酸性電気めっき浴を用いて、図4に示す条件に従ったPR電解方式の電気めっきが行われる。詳しくは、実施例1および2の酸性電気めっき浴では、陰極電解時の電流密度が2A/dmとされ、陽極電解時の電流密度が1A/dmとされる。そして、陰極電解時間が5秒とされ、陽極電解時間が2秒とされる。また、実施例3〜8の酸性電気めっき浴では、陰極電解時の電流密度が1A/dmとされ、陽極電解時の電流密度が0.5A/dmとされる。そして、陰極電解時間が5秒とされ、陽極電解時間が5秒とされる。さらに、実施例7の酸性電気めっき浴では、攪拌された状態で電気めっきが行われる。一方、実施例1〜6および8の酸性電気めっき浴では、無攪拌の状態で電気めっきが行われる。なお、浴温は、50℃とされている。また、対極として、ニッケル若しくは、不溶性陽極が使用され、その対極は、隔膜によって隔離された状態で電気めっきが行われる。
上記条件でPR電解方式の電気めっきが行われることで、ニッケルと硫化モリブデンとの複合皮膜が形成される。さらに、実施例2および実施例5の酸性電気めっき浴を用いて形成された電気めっき皮膜に対して、400℃の条件下で2時間、加熱処理を行った。この加熱処理により、皮膜中の硫化モリブデンが二硫化モリブデンとされる。
また、比較例1の酸性電気めっき浴では、上記条件でニッケルストライクが行われた後に、図4に示す条件に従った陰極電解方式の電気めっきが行われる。詳しくは、攪拌された状態の比較例1の酸性電気めっき浴において、電流密度が2A/dmとされた陰極電解方式の電気めっきが行われる。なお、浴温は、55℃とされている。この条件で陰極電解方式の電気めっきが行われることで、ニッケルと硫化モリブデンとの複合皮膜が形成される。
上述したようにして形成された電気めっき皮膜に対して、以下の方法によって物性評価を行った。
具体的には、実施例1〜8および、比較例1の酸性電気めっき浴を用いて形成された電気めっき皮膜の膜厚を測定した。この試験結果を、図5の「膜厚」の欄に示しておく。なお、実施例1〜8の酸性電気めっき浴を用いて形成された電気めっき皮膜の膜厚は、簡易精密膜厚測定器(CSEM−CALOTEST ナノテック株式会社製)を用いて測定し、比較例1の酸性電気めっき浴を用いて形成された電気めっき皮膜の膜厚は、蛍光X線微少部膜厚計(SFT−9200 SIIナノテクノロジー株式会社製)を用いて測定した。
また、実施例1〜8および、比較例1の酸性電気めっき浴を用いて形成された電気めっき皮膜の硬さを測定した。この試験結果を、図5の「硬さ」の欄に示しておく。なお、電気めっき皮膜の硬さは、ナノインデンター・システム(Nano Indenter G200 東陽テクニカ株式会社製)を用いて測定した。
また、実施例1〜8および、比較例1の酸性電気めっき浴を用いて形成された電気めっき皮膜の構成成分を分析するべく、EDS分析を行った。この結果を、図5の「ESD分析」の欄に示しておく。なお、EDS分析は、分析走査電子顕微鏡(JSM−6480A 日本電子株式会社製)を用いて行った。
また、実施例1〜8および、比較例1の酸性電気めっき浴を用いて形成された電気めっき皮膜の摩擦係数を測定した。摩擦係数の測定は、ボールオンディスク型摩擦摩耗試験器(TRIBOMETER ナノテック株式会社製)を用いて、下記の条件に従って行った。
ボール材質:SUS440C
ボール直径:φ6mm
押付荷重:2N、5N、10N
回転速度:0.1cm/sec
摺動距離:10mm
T.P.材質:SKH51
T.P.の前洗浄:アセトン拭き取りのみ
室温:20℃(年中一定)
湿度:35%
データ取得:20.0Hz
潤滑油:無し
この結果を、押付荷重毎に、図5の「摩擦係数(2N)」、「摩擦係数(5N)」、「摩擦係数(10N)」の欄に示しておく。
また、実施例1〜8および、比較例1の酸性電気めっき浴を用いて形成された電気めっき皮膜中の硫化モリブデンの粒径を、測定した。比較例1の酸性電気めっき浴を用いて形成された電気めっき皮膜中の硫化モリブデンの粒径は、0.5〜2.0μmであり、実施例3の酸性電気めっき浴を用いて形成された電気めっき皮膜中の硫化モリブデンの粒径は、数nm〜数十nmである。なお、硫化モリブデンの粒径の測定は、反応科学超高圧走査透過電子顕微鏡(JEM−1000K RS 日本電子株式会社製)を用いて行った。
以上の評価結果から、モリブデン酸誘導体水溶液を含む電気めっき浴を用いることで、摩擦係数の低い皮膜を形成することが可能であることが解る。具体的には、図5から解るように、実施例1〜8の電気めっき浴を用いて形成されためっき皮膜の摩擦係数は、0.12〜0.38(実施例1の摩擦係数(5N)除く)である。一方、比較例1の電気めっき浴を用いて形成されためっき皮膜の摩擦係数は、0.38〜0.64である。このように、モリブデン酸誘導体水溶液を含む電気めっき浴を用いることで、摩擦係数の低い皮膜を形成することが可能となる。
また、モリブデン酸誘導体水溶液を含む電気めっき浴を用いることで、皮膜中の硫化モリブデンの含有率を高くするとともに、PR電解方式の電気めっきの条件を変更することで、皮膜中の硫化モリブデンの含有率を任意に調整することが可能となる。具体的には、図5から解るように、比較例1の電気めっき浴を用いて形成されためっき皮膜中のモリブデンの重量%は、4.91重量%である。一方、実施例1〜8の電気めっき浴を用いて形成されためっき皮膜中のモリブデンの重量%は、4.41〜21.86重量%となっており、PR電解方式の電気めっきの条件(電流密度,電解時間等)を変更することで、任意に調整可能である。このように、モリブデン酸誘導体水溶液を含む電気めっき浴を用いることで、皮膜中の硫化モリブデンの含有率を高くするとともに、皮膜中の硫化モリブデンの含有率を任意に調整することが可能となる。特に、モリブデンの重量%が15重量%を超えるめっき皮膜を形成することが可能であり、従来の電気めっきでは、このような高いモリブデンの含有率を達成することは困難である。
また、モリブデン酸誘導体水溶液を含む電気めっき浴を用いることで、皮膜中の硫化モリブデンの粒径を小さくすることが可能となる。具体的には、上述したように、比較例1の電気めっき浴を用いて形成されためっき皮膜中の硫化モリブデンの粒径は、0.5〜2.0μmである。一方、実施例3の電気めっき浴を用いて形成されためっき皮膜中の硫化モリブデンの粒径は、数nm〜数十nmである。このように、モリブデン酸誘導体水溶液を含む電気めっき浴を用いることで、皮膜中の硫化モリブデンの粒径を飛躍的に小さくすることが可能となり、緻密な皮膜を形成することが可能となる。
また、電気めっき浴に、モリブデン酸誘導体水溶液だけでなく、タングステン酸誘導体水溶液を含ませても、モリブデン酸誘導体水溶液を含む電気めっき浴と同等のめっき皮膜を形成することが可能である。具体的には、図5から解るように、実施例8の電気めっき浴を用いて形成されためっき皮膜中のモリブデンの重量%は、9.15重量%であり、タングステンの重量%は、8重量%である。このように、モリブデン酸誘導体水溶液およびタングステン酸誘導体水溶液を含む電気めっき浴を用いることで、モリブデンの重量%およびタングステンの重量%が高いめっき皮膜を形成することが可能である。また、図5から解るように、実施例8の電気めっき浴を用いて形成されためっき皮膜の摩擦係数は、実施例1〜7の電気めっき浴を用いて形成されためっき皮膜の摩擦係数と同程度である。このように、モリブデン酸誘導体水溶液およびタングステン酸誘導体水溶液を含む電気めっき浴を用いることで、摩擦係数の低いめっき皮膜を形成することが可能である。
以下、本発明の諸態様について列記する。
(1)水溶性官能基を有する不飽和炭化水素と、チオ酸塩との付加反応により生成されることを特徴とする処理溶液。
(2)前記チオ酸塩が、
チオモリブデン酸塩とチオタングステン酸塩との少なくとも一方であることを特徴とする(1)項に記載の処理溶液。
(3)前記チオ酸塩が、
チオモリブデン酸塩であることを特徴とする(1)項または(2)項に記載の処理溶液。
(4)前記水溶性官能基が、
スルホン酸塩基であることを特徴とする(1)項ないし(3)項のいずれか1つに記載の処理溶液。
(5)前記不飽和炭化水素が、
炭素間三重結合を有することを特徴とする(1)項ないし(4)項のいずれか1つに記載の処理溶液。
(6)水溶性官能基を有する不飽和炭化水素と、チオ酸塩との付加反応により生成される処理溶液を含有することを特徴とする酸性電気めっき浴。
(7)前記チオ酸塩が、
チオモリブデン酸塩とチオタングステン酸塩との少なくとも一方であることを特徴とする(6)項に記載の酸性電気めっき浴。
(8)前記チオ酸塩が、
チオモリブデン酸塩であることを特徴とする(6)項または(7)項に記載の酸性電気めっき浴。
(9)前記水溶性官能基が、
スルホン酸塩基であることを特徴とする(6)項ないし(8)項のいずれか1つに記載の酸性電気めっき浴。
(10)前記不飽和炭化水素が、
炭素間三重結合を有することを特徴とする(6)項ないし(9)項のいずれか1つに記載の酸性電気めっき浴。
(11)前記酸性電気めっき浴が、
0.01〜1.0質量%の前記処理液を含有することを特徴とする(6)項ないし(10)項のいずれか1つに記載の酸性電気めっき浴。
(12)水溶性官能基を有する不飽和炭化水素と、チオ酸塩との付加反応により生成される処理溶液を含有する酸性電気めっき浴を用いて形成されることを特徴とする電気めっき皮膜。
(13)前記チオ酸塩が、
チオモリブデン酸塩とチオタングステン酸塩との少なくとも一方であることを特徴とする(12)項に記載の電気めっき皮膜。
(14)前記チオ酸塩が、
チオモリブデン酸塩であることを特徴とする(12)項または(13)項に記載の電気めっき皮膜。
(15)前記水溶性官能基が、
スルホン酸塩基であることを特徴とする(12)項ないし(14)項のいずれか1つに記載の電気めっき皮膜。
(16)前記不飽和炭化水素が、
炭素間三重結合を有することを特徴とする(12)項ないし(15)項のいずれか1つに記載の電気めっき皮膜。
(17)前記酸性電気めっき浴が、
0.01〜1.0質量%の前記処理液を含有することを特徴とする(12)項ないし(16)項のいずれか1つに記載の電気めっき皮膜。
(18)前記電気めっき皮膜が、
前記酸性電気めっき浴を用いてPR電解法により形成されることを特徴とする(12)項ないし(17)項のいずれか1つに記載の電気めっき皮膜。
(19)水溶性官能基を有する不飽和炭化水素と、チオ酸塩との付加反応により生成される処理溶液を含有する酸性電気めっき浴を用いて、電気めっき皮膜を形成することを特徴とする電気めっき皮膜形成方法。
(20)前記チオ酸塩が、
チオモリブデン酸塩とチオタングステン酸塩との少なくとも一方であることを特徴とする(19)項に記載の電気めっき皮膜形成方法。
(21)前記チオ酸塩が、
チオモリブデン酸塩であることを特徴とする(19)項または(20)項に記載の電気めっき皮膜形成方法。
(22)前記水溶性官能基が、
スルホン酸塩基であることを特徴とする(19)項ないし(21)項のいずれか1つに記載の電気めっき皮膜形成方法。
(23)前記不飽和炭化水素が、
炭素間三重結合を有することを特徴とする(19)項ないし(22)項のいずれか1つに記載の電気めっき皮膜形成方法。
(24)前記酸性電気めっき浴が、
0.01〜1.0質量%の前記処理液を含有することを特徴とする(19)項ないし(23)項のいずれか1つに記載の電気めっき皮膜形成方法。
(25)前記電気めっき皮膜が、
前記酸性電気めっき浴を用いてPR電解法により形成されることを特徴とする(19)項ないし(24)項のいずれか1つに記載の電気めっき皮膜形成方法。

Claims (15)

  1. 水溶性官能基を有する不飽和炭化水素と、チオ酸塩との付加反応により生成されることを特徴とする処理溶液。
  2. 前記チオ酸塩が、
    チオモリブデン酸塩とチオタングステン酸塩との少なくとも一方であることを特徴とする請求項1に記載の処理溶液。
  3. 前記チオ酸塩が、
    チオモリブデン酸塩であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の処理溶液。
  4. 前記水溶性官能基が、
    スルホン酸塩基であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1つに記載の処理溶液。
  5. 前記不飽和炭化水素が、
    炭素間三重結合を有することを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1つに記載の処理溶液。
  6. 水溶性官能基を有する不飽和炭化水素と、チオ酸塩との付加反応により生成される処理溶液を含有することを特徴とする酸性電気めっき浴。
  7. 前記チオ酸塩が、
    チオモリブデン酸塩とチオタングステン酸塩との少なくとも一方であることを特徴とする請求項6に記載の酸性電気めっき浴。
  8. 前記チオ酸塩が、
    チオモリブデン酸塩であることを特徴とする請求項6または請求項7に記載の酸性電気めっき浴。
  9. 前記水溶性官能基が、
    スルホン酸塩基であることを特徴とする請求項6ないし請求項8のいずれか1つに記載の酸性電気めっき浴。
  10. 前記不飽和炭化水素が、
    炭素間三重結合を有することを特徴とする請求項6ないし請求項9のいずれか1つに記載の酸性電気めっき浴。
  11. 前記酸性電気めっき浴が、
    0.01〜1.0質量%の前記処理液を含有することを特徴とする請求項6ないし請求項10のいずれか1つに記載の酸性電気めっき浴。
  12. 水溶性官能基を有する不飽和炭化水素と、チオ酸塩との付加反応により生成される処理溶液を含有する酸性電気めっき浴を用いて形成されることを特徴とする電気めっき皮膜。
  13. 前記電気めっき皮膜が、
    前記酸性電気めっき浴を用いてPR電解法により形成されることを特徴とする請求項12に記載の電気めっき皮膜。
  14. 水溶性官能基を有する不飽和炭化水素と、チオ酸塩との付加反応により生成される処理溶液を含有する酸性電気めっき浴を用いて、電気めっき皮膜を形成することを特徴とする電気めっき皮膜形成方法。
  15. 前記電気めっき皮膜が、
    前記酸性電気めっき浴を用いてPR電解法により形成されることを特徴とする請求項14に記載の電気めっき皮膜形成方法。
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