以下、本発明の例示的な実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下の各図においては、実施形態の説明に必要ではない構成要素については図から省略する。
図1は、本発明の一実施形態に係る光伝送装置100の構成例を示す図であり、特に、特定のモードの信号光についての分離(ドロップ)を行う部分の構成例を示している。図1に示すように、光伝送装置100は、光ファイバ110内を伝搬してきた1つ以上のモードに信号光が出力される光出力部120と、空間光変調器(SLM)130と、位相共役鏡140とを備える。SLM130は、光出力部120から出力された信号光が入射する位置に設けられる。位相共役鏡140は、光出力部120から出力された信号光の伝搬方向において、SLM130の後段に設けられている。本実施形態では、光ファイバ110は、複数の空間モードの信号光が伝搬可能な光ファイバであるマルチモードファイバ(MMF)で構成されている。なお、光出力部120から位相共役鏡140までの光路上には、SLM130の他に、半波長板(HWP:Half Wave Plate)、ポラライザP、及びアナライザAも設けられており、これらによって信号光の偏光状態が調整される。
SLM130は、特定のモードの信号光を回折させ、当該特定のモード以外の他のモードの信号光を透過させる回折パターンを表示可能である。SLM130は、外部からの制御に応じて、任意の回折パターンを生成し、生成した回折パターンを表示しうる。光出力部120から出力された1つ以上のモードの信号光が、SLM130に表示されている回折パターンに入射すると、SLM130に表示されている回折パターンで回折可能なモードの信号光は、所定の回折角で回折する。また、それ以外のモードの信号光は、SLM130に表示されている回折パターンを透過して、SLM130の後段へ伝搬する。このようにして、特定のモードの信号光を、他のモードの信号光から分離することができる。
図1では、光ファイバ110内を伝搬してきたLP01,LP11,LP21モードの信号光が、光出力部120から出力され、SLM130に入射する。SLM130には、LP11モードの信号光を回折可能な回折パターンが表示されている。このため、SLM130は、回折パターンに入射したLP01,LP11,LP21モードの信号光のうち、LP11モードの信号光のみを回折させ、他のモードの信号光から分離する。
一方、LP11以外のLP01,LP21モードの信号光は、SLM130を透過する。SLM130の回折パターンを透過した信号光には、図2に示すように、位相分布の変化が発生する(即ち、位相分布が崩れる)。このため、特定のモードの信号光をSLM130で分離した後の残りのモード光信号は、信号品質が極端に劣化した状態となる。
本実施形態では、上述のような位相分布の変化を補償するために、図1に示すように、位相共役鏡140を用いる。図3は、位相共役鏡140を用いて上述のような位相分布の変化を補償する仕組みを説明するための説明図である。位相共役鏡140は、反射面に入射した光の波面を反転して位相共役光を発生させる(例えば、非特許文献4を参照。)。
図3に示すように、SLM130を透過した信号光が位相共役鏡140に入射すると、位相共役鏡140は、当該信号光の伝搬方向(矢印310)に対して逆方向(矢印320)に伝搬する位相共役光を発生させる。位相共役鏡140で発生した位相共役光は、SLM130に表示された回折パターンを矢印320の方向に再び透過する。その結果、光出力部120側から位相共役鏡140側への、1回目の透過により信号光に生じた位相の変化が、位相共役鏡140側から光出力部120側への、2回目の透過により補償される。SLM130を再び透過した信号光は、元のモードパターンの信号光に復元され、即ち、SLM130で分離された特定のモード以外の、残りのモードの信号光として、再び光出力部120から光ファイバ110内へ入力される。
具体的には、図1では、SLM130で分離されたLP11モード以外のLP01,LP21モードの信号光が、上述の位相分布の変化が補償された元のモードパターンの信号光に復元された状態で、光出力部120から光ファイバ110内に入力される。このように、本実施形態によれば、SLM130による特定のモードの信号光の分離を、他のモードの信号光に信号品質の劣化を生じさせることなく行うことが可能になる。
なお、図1には図示していないが、光伝送装置100は、SLM130に表示された回折パターンにおける回折により分離された、特定のモード以外のモードの信号光を出力するための光出力部を、信号光が回折する方向に備えていてもよい。
本実施形態に係る光伝送装置100では、上述のような、特定のモードの信号光についての分離だけでなく、図1に示す構成を利用して、特定のモードの信号光についての挿入(アッド)を行うことも可能である。図4は、光伝送装置100において特定のモードの信号光を挿入する例を示す図である。同図では、光ファイバ110内を伝搬してきたLP01,LP21モードの信号光に対して、光伝送装置100においてLP11モードの信号光を挿入(多重)する場合を一例として示している。
この場合、SLM130には、LP11モードを生成可能な干渉パターンを与えておけばよい。即ち、SLM130は、LP11モードの信号光を回折させる回折パターンを表示すればよい。このような状態で、SLM130の回折パターンによる信号光の回折方向に対して逆方向(矢印410の方向)から当該回折パターンに信号光を照射すると、当該回折パターンに対応したLP11モードの信号光が、光出力部120の方向へ発生する。このようにして発生したLP11モードの信号光は、他のモード(LP01,LP21)の信号光と多重された状態で、光出力部120から光ファイバ110内へ入力される。
その際、LP01,LP21モードの信号光については、図1に示す分離の場合と同様、位相共役鏡140の作用によって、SLM130による位相分布の変化が補償される。したがって、本実施形態によれば、SLM130による特定のモードの信号光の挿入(多重)を、他のモードの信号光に信号品質の劣化を生じさせることなく行うことが可能になる。
本実施形態に係る光伝送装置100では、図1及び図4に示す、SLM130を用いた特定のモードの信号光についての分離及び挿入を、同時に行うことが可能である。この場合、SLM130は、図1に示すように、光出力部120から出力される特定のモード(LP11)の第1の信号光についての分離を行うとともに、図4に示すように、当該特定のモード(LP11)の第2の信号光についての多重を行う。
また、本実施形態に係る光伝送装置100は、光サーキュレータを用いることで、光伝送路上に配置することが可能である。図5は、光サーキュレータ150を備えた光伝送装置100の構成例を示す図である。同図では、光伝送装置100に対してLP01,LP11,LP21の3モードの信号光が入力され、光伝送装置100がLP01モードの信号光を分離して、残りのLP11,LP21モードの信号光を出力する例を示している。
図5に示すように、光伝送装置100は、光サーキュレータ150を備える。光サーキュレータ150は、第1のポートから入力される信号光を第2のポートに出力し、当該第2のポートから入力される信号光を第3のポートに出力する素子である。本実施形態では、光サーキュレータ150の第2のポートが、光ファイバ110を介して光出力部120と接続されており、第1のポート及び第3のポートは、光伝送装置100の入力ポート及び出力ポートとしてそれぞれ機能する。
図5に示す光伝送装置100では、光サーキュレータ150の第1のポートから、1つ以上のモード(LP01,LP11,LP21)の信号光が入力されると、それらの信号光は、光出力部120から出力される。これにより、図1に示すように、SLM130によってLP01モードの信号光が分離される。また、残りのLP11,LP21モードの信号光は、SLM130による位相分布の変化が補償された状態で、光出力部120を介して光ファイバ110内に戻される。その結果、光サーキュレータ150の第1のポートから入力されたLP01,LP11,LP21モードの信号光は、LP01モードの信号光についての分離が行われた状態で、光サーキュレータ150の第3ポートから出力される。
なお、図5に示す光伝送装置100では、SLM130によって、図4に示すように、特定のモードの信号光についての挿入を行うことも可能である。即ち、光サーキュレータ150の第1のポートから入力されたLP01,LP11,LP21モードの信号光は、LP01モードの信号光についての分離及び挿入の少なくともいずれかが行われた状態で、光サーキュレータ150の第3のポートから出力されうる。
また、図5に示す構成を図6に示す構成に変更することによって、光伝送装置100において、複数の特定のモードの信号光についての分離及び挿入を同時に行うことが可能になる。図6は、複数(N個)の光サーキュレータ150−1〜150−Nを備えた光伝送装置100において、複数(N個)の特定のモードの信号光を分離または挿入する例を示す図である。同図では、光伝送装置100に対してLP01,LP11,LP21の3モードの信号光が入力され、光伝送装置100が、SLM130−1〜130−Nによる信号光の分離及び挿入の結果として、LP01',LP11',LP21'モードの信号光を出力する例を示している。
図6に示すように、光伝送装置100は、縦続接続されたN個(Nは2以上の整数。)の光サーキュレータ150−1〜150−Nと、それぞれの光サーキュレータに対応する、N個の光出力部120−1〜120−N、N個のSLM130−1〜130〜N、及び位相共役鏡140−1〜140−Nとを備える。光サーキュレータ150−1〜150−(N−1)の第3のポートは、次段の光サーキュレータの第1ポートと接続されている。光サーキュレータ150−1の第1のポートは、光伝送装置100の入力ポートとして機能し、光サーキュレータ150−Nの第3のポートは、光伝送装置100の出力ポートとして機能する。
光出力部120−1〜120−Nは、光ファイバを介して、対応する光サーキュレータ150−1〜150−Nの第2のポートと接続されている。また、SLM130−1〜130〜Nは、外部からの制御に応じて、それぞれが異なる特定のモードに対応する回折パターンを表示する。
図6に示す光伝送装置100では、光サーキュレータ150−1の第1のポートから、1つ以上のモード(LP01,LP11,LP21)の信号光が入力される。これらの信号光は、SLM130−1〜130−Nが表示する各回折パターンに対応する各特定のモードの信号光についての分離及び挿入(多重)の少なくともいずれかが行われる。その結果として得られたLP01',LP11',LP21'モードの信号光は、光サーキュレータ150−Nの第3のポートから出力される。上述の図5に示す実施形態と同様、LP01',LP11',LP21'モードの信号光は、SLM130−1〜130−Nによる位相分布の変化が補償された状態で出力される。
図6に示す実施形態によれば、SLM130−1〜130−Nのそれぞれに表示する回折パターンを制御することによって、複数のモードの信号光についての挿入及び分離を選択的に実行することが可能である。
上述の実施形態は、以下で説明するように、更に種々の形態に変更して実施することが可能である。以下では、図7〜図9を参照して、1つのSLM130によって、複数の特定のモードの信号光についての分離及び挿入(多重)を行う例について説明する。
図7は、光伝送装置100において複数の特定のモードの信号光を分離する例を示す図である。同図に示すように、SLM130に、それぞれ異なる特定のモードの信号光を回折させる複数の回折パターンを合成した合成パターンを回折パターンとして表示させることによって、同時に複数のモードの信号光を分離することが可能になる。
図7では、SLM130は、LP11及びLP21モードの信号光をそれぞれ回折可能なパターンを合成した合成パターンを生成及び表示している。光ファイバ110内を伝搬してきたLP01,LP11,LP21モードの信号光が、光出力部120から出力され、SLM130に入射する。SLM130は、合成パターンに入射したそれらの信号光のうち、当該合成パターンに対応するLP11及びLP21モードの信号光を回折させることで、他のモード(LP01)の信号光から分離する。
一方、残りのLP01モードの信号光は、上述の位相分布の変化が補償された元のモードパターンの信号光に復元された状態で、光出力部120から光ファイバ110内に入力される。このように、図7に示す実施形態によれば、SLM130による複数の特定のモードの信号光の分離を、他のモードの信号光に信号品質の劣化を生じさせることなく行うことが可能になる。
なお、SLM130に、複数の回折パターンの干渉縞をそれぞれ異なるピッチに設定して合成した合成パターンを表示させてもよい。この場合、SLM130は、合成パターンに対応する複数の特定のモードの信号光を、それぞれ異なる回折角で回折させることになる。これにより、分離した複数のモードの信号光を、個別に取り出すことが可能である。
また、図7に示す光伝送装置100では、複数の特定のモードの信号光についての分離だけでなく、挿入も同時に行うことが可能である。図8は、光伝送装置100において複数の特定のモードの信号光を分離及び挿入する例を示す図である。図8では、SLM130は、光出力120から出力される特定のモード(LP11)の信号光についての分離を行うとともに、別の特定のモード(LP21)の信号光についての挿入を同時に行っている。このようにして、SLM130は、複数の特定のモードに対応した合成パターンを表示することで、当該合成パターンに対応する各特定のモードの信号光についての分離及び挿入の少なくともいずれかを行う。
図9は、図5と同様、光サーキュレータ150を備えた光伝送装置100の構成例を示す図である。ただし、図9では、SLM130に、図7及び図8と同様、それぞれ異なる特定のモードの信号光を回折させる複数の回折パターンを合成した合成パターンを回折パターンとして表示させる例を示している。このような構成により、光サーキュレータ150の第1のポートから入力された信号光は、SLM130に表示された合成パターンに対応する各特定のモードの信号光についての分離及び挿入の少なくともいずれかが行われた状態で、光サーキュレータ150の第3のポートから出力される。
図9に示す実施形態によれば、1個のSLM130を用いて、複数のモードの信号光についての分離及び挿入を行うことが可能になる。即ち、図6に示すように、複数のSLM及び位相共役鏡を設ける必要がなくなり、より簡易な装置構成を実現できる。
上述の種々の実施形態によれば、信号光のモード多重伝送において、SLMを用いた特定のモードの信号光の挿入及び分離を、他のモードの信号光の品質を劣化させずに行うことが可能になる。これにより、光ネットワーク内の各拠点において、必要な数のモードの信号光の分離及び挿入を行うことを実現できる。したがって、従来の波長分割多重技術における各波長の分離及び挿入と同様に、モード多重伝送においてモードの分離及び挿入を行うことが可能となる。