JP2015062400A - 癌組織由来細胞凝集塊を調製するための方法及び癌組織由来細胞凝集塊を用いる抗癌剤スクリーニング方法、抗癌剤の定量分析又は癌組織の放射線感受性試験 - Google Patents
癌組織由来細胞凝集塊を調製するための方法及び癌組織由来細胞凝集塊を用いる抗癌剤スクリーニング方法、抗癌剤の定量分析又は癌組織の放射線感受性試験 Download PDFInfo
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【解決手段】 癌組織から得た細胞塊又はそれを培養して得られた細胞凝集塊を細胞支持用基質に包埋した状態で培養して細胞を増殖させる工程と、培養後の細胞塊を単一細胞化する工程と、得られた細胞を、凸部間の間隔が細胞の大きさより小さな凹凸構造を有する培養器中で培養して、細胞凝集塊を形成する工程とを含む方法とする。
【選択図】なし
Description
この近藤等の方法の改良として、近藤等の方法と同様の方法で得られた細胞凝集塊をトリプシンで分解して単一細胞化し、得られた細胞をROCK阻害剤を用いて近藤等の方法で再凝集させて、細胞凝集塊を形成する方法が開示されている(特許文献2)。この方法では、一旦、単一細胞化され、細胞間接触が一時的に絶たれるが、ROCK阻害剤を用いて直ぐに細胞間接触を回復することで培養器の表面と非接触の状態での培養により細胞凝集塊の再形成を可能にしている。この文献での単一細胞化の目的は必ずしも明らかではないが、「腫瘍始原細胞」又は「腫瘍幹細胞」と呼ばれる亜集団を獲得することにあることが示唆されている(特許文献2段落0005)。他の改良としては、近藤等の方法で得られる癌組織由来細胞塊(CTOS)を用いた抗癌剤のスクリーニング方法が提案されている(特許文献3)。
これに対して、細胞と培養器底面との接触を維持しながらも接着強度を低減する構造の培養器を用いたり、近藤らの方法で用いていた細胞支持物質に代え、透明な有機物質で培養部表面を覆った培養器を用いて、細胞塊を培養する方法が提案されている。
例えば、鴨島らは、U字状の底を有する培養器で培養する方法を提案しており(非特許文献5)、伊藤らは、ヒドロゲルで培養部の表面を被覆した培養器で培養する方法を提案しており(非特許文献6)、steadmanらは、HEMAで培養部の表面を被覆した培養器で培養する方法を提案している(非特許文献7)。
しかしながら、これらの方法では、培養中の細胞の死滅率が近藤らの方法より高くなるという問題がある(非特許文献1)。
これに対して、本発明者らは、培養器底面にナノスケールの微細な凹凸構造を設けて、細胞と培養器底面との適度な接触刺激を維持しながらも、細胞遊走、細胞間凝集を可能として、細胞凝集塊を形成する方法を報告している(非特許文献1)。この報告では、癌細胞株を用いた試験で、各細胞が集合して凝集し、各小凝集塊同士も統合されてより大きな細胞凝集塊が形成されること、2次元培養に比べて有意差があるほど培養により死滅する細胞は増大しないこと、各細胞凝集塊集団間で細胞数に殆ど差がなく、外観形状も均一であること、得られた細胞凝集塊の内部は、癌組織と同様に低酸素状態にあることを実証している。
この方法に対する改良としては、培養容器内の溶液の動きを抑制する着脱可能な仕切板を付設する方法(特許文献4)、凹凸構造部分に放射線を照射して細胞接着を向上させた方法(特許文献5)、増殖速度の異なる2種以上の細胞が共存しても両者が他方を駆逐することなく並存し得ることを利用して、患者からの細胞(癌細胞と繊維芽細胞等の増殖速度の異なる細胞が混在する)を初代培養する方法(特許文献6)が提案されている。また、他の改良としては、レクチン等の細胞凝集剤と共に培養する方法、及びその方法で得られた細胞凝集塊の薬剤スクリーニングのための使用が提案されている(特許文献7)。
すなわち、近藤等の方法では、形成される細胞凝集塊の細胞数及び構造を制御することが難しく、得られる細胞凝集塊集団は、構造が不均一であり細胞数のばらつきが大きい。この結果、この方法によって得られた細胞塊を、上記抗癌剤のハイコンテント/ハイスループットスクリーニング等に使用すると、各ウェルの試験条件が異なり、試験結果の評価を困難にする。
また、培養器底面にナノスケールの微細な凹凸構造を設けて、細胞と培養器底面との適度な接触刺激を維持しながらも、細胞遊走、細胞間凝集を促す方法では、患者から採取した癌組織の細胞を初代培養する場合、細胞を増殖・維持することが困難でありこのような細胞への利用は不向きである。このため、実際の利用では、もっぱら癌細胞株を使用しているのが現状である(非特許文献1、特許文献4、5及び7)。また、この方法で患者癌組織由来細胞を初代培養したとしても、患者組織由来細胞には、複数種の細胞が混在しており(特許文献6参照)、実質的に癌細胞以外の細胞が混在しない細胞凝集塊の集団を得ることは困難である。
従って、本発明は、このような従来の3次元培養法の欠点を克服し、均質で細胞数の揃った癌組織由来細胞凝集塊の集合を大量に調製可能な方法を提供することを第一の目的とする。また、本発明は、このような方法で得られる癌組織由来細胞凝集塊を用いる、ハイスループットな薬剤スクリーニング、抗癌剤定量アッセイ又は癌組織放射線感受性試験を提供することを第二の目的とする。
癌組織から細胞塊を得る工程と、
該細胞塊を細胞支持物質に包埋した状態で培養して細胞凝集塊を得る工程と
該細胞凝集塊を単一細胞化する工程と、
得られた細胞を、凸部の間隔が該細胞の大きさより小さな凹凸構造を有する培養器で培養し、細胞凝集塊を再形成する工程とを含む、癌組織由来細胞凝集塊を調製するための方法を提供する。
本発明はまた、他の実施の形態において、
癌組織から得た細胞塊又は該細胞塊を培養して得た細胞凝集塊を細胞支持用基質に包埋した状態で培養して細胞を増殖させる工程と、培養後の細胞塊を単一細胞化する工程とを含む方法により得られた細胞を、凸部間の間隔が細胞の大きさより小さな凹凸構造を有する培養器中で培養して、細胞凝集塊を形成する工程を含む、癌組織由来細胞凝集塊の調製方法を提供する。
このような酵素処理としては、コラゲナーゼ、トリプシン、パパイン、ヒアルロニダーゼ、C. histolyticum neutral protease、サーモリシン、及びディスパーゼの1種単独、又はこれらの2種以上の組合せによる処理を挙げることができる。
選別の対象となる細胞塊は、体積平均粒子径8μm〜10μm程度の小さなものを含んでもよいが、球形に近い場合は、直径20μm〜500μmの細胞塊を対象とすることが好ましく、直径30μm〜400μmの細胞塊を対象とすることがより好ましく、直径40μm〜250μmの細胞塊を対象とすることが更に好ましい。同様に、楕円形状の場合には、長径20μm〜500μmの細胞塊を対象とすることが好ましく、長径30μm〜400μmの細胞塊を対象とすることがより好ましく、長径40μm〜250μmの細胞塊を対象とすることが更に好ましい。同様に、不定形の場合には、体積平均粒子径20μm〜500μmの細胞塊を対象とすることが好ましく、体積平均粒子径30μm〜400μmの細胞塊を対象とすることがより好ましく、体積平均粒子径40μm〜250μmの細胞塊を対象とすることが更に好ましい。
例えば、位相差顕微鏡を用いて(体積)平均粒子径、直径、長径等の細胞塊のサイズで分別する場合には、CCDカメラを取り付けたものを用いてサイズ分布及び細胞塊形状を評価することが好ましい。
篩による場合、上記細胞サイズの分布を考慮し、メッシュサイズ8μmを通過しないが500μmを超えるメッシュサイズは通過する成分を回収してもよいが、メッシュサイズ20μmを通過しないが500μmを通過する成分を回収することが好ましく、メッシュサイズ40μmを通過しないが250μmを通過する成分を回収することがより好ましい。また、篩による分別は粗いメッシュから細かなメッシュへと複数段階に分けて行うことが好ましい。
本発明においては、得られた癌組織由来細胞塊をそのまま細胞支持物質に包埋した状態で培養するか、最初細胞支持物質を用いずに培養して得られた細胞凝集塊を細胞支持物質に包埋した状態で培養して細胞凝集塊を形成させる。
このような培養法では、細胞同士の接触が維持されている一方で培養器と非接触な状態で培養され、これにより、実質的に癌組織由来の癌細胞のみからなる細胞凝集塊を形成し得ると共に細胞を実質的に無期限で増殖・維持できる。従って、この段階で、純粋な癌細胞の集合を大量に生成することができると共に、次の単一細胞化を行う時間的制約を無くすることができる。一方、この段階で形成される細胞凝集塊は、極性を有するものが多く、略球形又は楕円球形の細胞凝集塊の他、不定形の細胞凝集塊を多く含み、直径又は長径が1mm程の大きな細胞凝集塊も含む。このため、全体の細胞数は多いものの、凝集塊毎及びウェル毎の細胞数のばらつきが大きく、凝集塊の構造も種々のものが混在する。
細胞支持用物質としては、例えば、コラーゲンゲルや、ゼラチン、ポリ−L−リジン、ポリ−D−リジン、ラミニン、フィブロネクチンが挙げられる。
単一化された癌細胞で再形成された細胞凝集塊は、大きさや凝集塊当たりの細胞数にバラつきが少なく、多数のウェル中にそれぞれ細胞凝集塊を播種して試験を行うハイスループット/ハイコンテントなアッセイに均一な条件を提供することができる。
酵素処理に用いる酵素としては、トリプシン及びディスパーゼの何れか1種又は組合せを用いることが好ましい。これらの酵素は、例えば、コラゲナーゼ、パパイン、ヒアルロニダーゼ、C. histolyticum neutral protease、及びサーモリシンから選択される1種又は2種以上と組合せてもよい。酵素処理条件は、用いる酵素に応じて単一細胞まで分解するのに十分な条件を選択することが好ましいが、通常、pH6〜8、好ましくはpH7.2〜7.6の緩衝液、例えばPBS又はハンクスの平衡塩溶液中で、例えば20〜40℃、好ましくは25〜39℃で、例えば0.0001〜5%w/v、好ましくは0.001%〜0.5% w/vで行う。また、処理時間は細胞ダメージを防ぐ点からはできる限り短い方が好ましため、通常0.5〜20分間であり、1〜10分間がより好ましい。
また、単一細胞化処理の前に、後述する細胞凝集促進剤を含む培地で処理(30〜40℃、典型的には37℃で、10〜2時間、好ましくは20分から1時間培地中に維持)し、その後単一細胞化することが好ましい。このような前処理は、単一細胞化処理により細胞のダメージを軽減すると共に、処理後の細胞を培養した際に凝集を促進する効果を有する。
凹凸構造の形状としては、例えば、線状(ラインアンドスペース)、ピラー状、ホール状、正多角形や円形のセル形状等を挙げることができ、これらの形状の1種のみ、又は2種以上を組合せた凹凸構造とすることができる。もっとも、培養器内の凹凸構造が均一な方が、均一な細胞凝集塊を得られ易いとの点から、正多角形や円形のセルが規則的に複数配列した構造が好ましい。
培地としては、例えば細胞培養一般的に用いられている、細胞培養基本培地、分化培地、初代培養専用培地等を用いることができ、具体的には、例えば、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、グラスゴーMEM(GMEM)、RPMI1640、ハムF12、MCDB培地等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
血清代替物としては、例えば、アルブミン、アミノ酸(例えば、非必須アミノ酸)、トランスフェリン、脂肪酸、インスリン、コラーゲン前駆体、微量元素、2−メルカプトエタノールまたは3’チオールグリセロールなどを挙げることができる。
増殖因子としては、例えばEGF、bFGF、IGF等を挙げることができ、サイトカインとしては、各種Interleukin(IL)、各種Interferon(IFN)等を挙げることができる。また、分化誘導因子としては、例えばレチノイン酸を挙げることができる。
本発明で用いられる細胞凝集促進剤としては細胞表面に存在する物質又は細胞膜を特異的に認識して結合し、架橋構造を形成する物質であり、例えば細胞接着分子、ROCK阻害剤等を挙げることができる。中でも単一化細胞の細胞死を抑制し、細胞凝集を促進する点でROCK阻害剤が好ましい。
また、乳癌、子宮癌、前立腺癌などの特定の癌の細胞を培養する場合には、それぞれ特定のホルモンの存在下で培養することが好ましい。具体的には、乳癌に対するエストロゲン、子宮癌に対するプロフェステロン、前立腺癌に対するテストステロンなどである。
また、本発明の方法を複数のウェルを有する培養器で行った場合にはウェル間での細胞数のばらつきは小さい。
このような薬剤は、既知の薬剤の場合もあるし未知の薬剤の場合もある。例えば、既知の薬剤に対する個々の患者の癌組織の感受性をスクリーニングすることができる。また、本発明により種々の患者から癌組織由来細胞凝集塊を調製し、それらを用いて未知の化合物に対する感受性を試験することで、抗癌剤をスクリーニングすることもできる。
大腸がん患者から摘出された組織片を2mm角に細断し、Hank's Balanced Salt Solution (HBSS)中で数回洗浄した。これを0.26 U/mL Liberase DH solution (Roche Diagnostics)中で、37℃で2h処理した後、順に500μmメッシュのフィルター及び100μmメッシュのフィルターで濾した。続いて、フィルター透過物を40μmのセルストレーナーにかけ細胞塊を回収した。HBSSで2回洗浄後、StemPro hESC SFM-kit(Gibco A1000701)で調製した幹細胞培養用基礎培地に、8ng/mL bFGF(Wako 064-04541)、0.1mM 2-メルカプトンメタノール(Wako 137-06862)を添加した幹細胞培養用培地で浮遊培養し、細胞凝集塊を得た。
こうして得られた細胞凝集塊を上述した幹細胞培養用培地に10μM Y27632(Wako 253-00513)を添加した培地で、浮遊状態で、37℃で30分以上前処理し、その後細胞凝集塊を回収し、PBSで洗浄した。
単細胞化された細胞懸濁液を、ぞれぞれ、DMEM/F-12-GlutaMAX培地(血清無添加、1% penicillin-streptmycin solution添加)及びDMEM培地(Wako 044-29765)(10% FBS、1% penicillin-streptmycin solution添加)で培養した以外は、実施例1と同様にして細胞凝集塊を再形成した。
実施例1〜3の方法で得られた細胞凝集塊を以下の方法で評価した。
(光学顕微鏡による鏡検)
実施例1〜3の何れの方法で得られた培養産物を光学顕微鏡(50倍、無染色)で確認した。何れの方法でも細胞塊が形成されていたが(図1A−C)、10% FBS添加DMEM培地を用いて単一化した細胞を培養した実施例3で得られた細胞凝集塊は、100〜200μmの大きな略球状の細胞塊が殆どの細胞凝集塊の集合であった(図1C)。
実施例3で形成された細胞凝集塊及び実施例3の単一細胞化処理前の細胞凝集塊をパラフィンに包埋し、切片を作成し、ヘマトキシリン・エオジン染色して、光学顕微鏡(400倍)で組織学的形態を確認した。後者の細胞凝集塊は、極性を示し、形・大きさがまちまちであったのに対して(図2B)、実施例3の方法で得られた細胞塊は、きれいな球形であり、形・大きさがほぼ均一であった(図2A)。
抗Eカドヘリン抗体(BDバイオサイエンス社製)及びAlexa-488標識二次抗体(Molecular Probes)とDAPI(核染色用)を用いて、実施例3で形成された細胞凝集塊及び実施例3の単一細胞化処理前の細胞凝集塊を蛍光免疫組織染色した。両細胞凝集塊とも、細胞間接着の特異的分子であるEカドヘリンを細胞間に発現して、立体構造を形成していることが示された(図3A及びB)。
実施例3の方法で形成された細胞凝集塊及び実施例3の単一細胞化処理前の細胞凝集塊をそれぞれ1000個ずつ50μl PBSに懸濁し、これに等量のマトリゲル GFR(バイオサイエンス社製、BD 356230)を加え調整した。これらをそれぞれNOD.CB17−Prkdc〈scid〉/Jマウス(Charles River)(n=4)の皮下に移植し、腫瘍形成の有無を確認し、腫瘍径を計測して、腫瘍形成能及び増殖速度を評価した。
両細胞凝集塊とも、すべてのマウスで腫瘍を形成し、その増殖速度に違いがないことが示された(図4)。
上記のマウスへの移植により形成された腫瘍組織をパラフィンで包埋し、切片を作成した。得られた組織切片を、ヘマトキシリン・エオジン染色して、光学顕微鏡(50倍、200倍)にて組織学的形態を観察した(図5)。
実施例3の単一細胞化処理前の細胞凝集塊の移植で形成された腫瘍は、元の患者癌組織と同様に、癌細胞の周囲に間質が入り込む構造を有していることが確認された。この結果は、近藤らの報告(非特許文献4)と同様である。なお、こうした間質構造は、株化されたがん細胞で作成した移植腫瘍では見られない。実施例1の方法で形成された細胞凝集塊の移植で形成された腫瘍でも、元の患者癌組織と同様に、癌細胞の周囲に間質が入り込む構造を有していた。これにより、本発明の方法で得られた細胞凝集塊及びそれを移植した生体で形成される腫瘍は、元の患者癌組織の特性をよく反映していることが示唆された。
実施例3の方法で細胞凝集塊が形成された時点で、培養器の各ウェルの細胞数をCellTiter−Glo Luminescent Cell Viability Assay(Promega社製)を用いてATP量を定量化することで評価し、細胞塊の増殖が培養器各ウェル間で均一であるかを検討した。
図6に示す通り、実施例3の方法で形成される細胞凝集塊の各ウェルにおける細胞活性はほぼ均等であった。これにより、本発明による方法で形成される細胞凝集塊は、各ウェルの細胞数にばらつきがなく、薬剤スクリーニングや抗癌剤定量性試験での利用に特に適することが示された。
実施例3の方法で得られた細胞凝集塊を有する培養器の各ウェルに、標準阻害剤キット(文部科学省科学研究費補助金・がんの特性等を踏まえた総合支援活動・化学療法基盤支援活動提供)の各増殖阻害剤(下記表に示す)を最終濃度1μMでそれぞれ添加した。3日間の培養後、各ウェルの細胞のATP含量をCellTiter-GloTM Luminescent Cell Viability Assay(プロメガ社製)を用いて測定し、阻害剤の効果を評価した。阻害剤の効果は、阻害剤無添加のウェルのATP含量に対する各ウェルのATP含量の比率により評価した。また、比較のため、ヒト大腸がん細胞株HT-29を用い、実施例3の方法のうち単一細胞化処理後の工程のみを実施して得られた細胞凝集塊について同様の薬剤スクリーニングを行った。結果を表1に示す。
表1に示すCell viabilityが低い物質ほど、癌細胞殺傷効果が高いと評価される候補薬剤である。実施例3の方法で形成された細胞凝集塊を用いた薬剤スクリーニングの結果、Actinomycin D、Trichostatin A、Cucurbitacin I、Staurosporine及びMG132は高感受性(Cell viability 10%未満)とされた。これに対して、ヒト大腸がん細胞株HT-29に実施例3の方法のうち単一細胞化処理後の工程のみを実施して得られた細胞凝集塊を用いた薬剤スクリーニングでは、MG132でのみ高感受性とされたが、他の薬剤では感受性が低い結果となった。また、実施例3の方法で形成された細胞凝集塊を用いた薬剤スクリーニングの結果、17-AAG Camptothecin、及びScriptaid等の薬剤が中程度(Cell viability 10%-20%)の感受性を示した他、Doxorubicin、Cantharidin他多くの薬剤で感受性が低かった。
この結果、本発明の方法により実施して得られる患者癌組織由来の細胞凝集塊を用いた薬剤スクリーニングを行うことで、癌細胞株を用いた薬剤スクリーニングより多くの候補化合物が選択されることが明らかになった。また、これにより、患者個別の癌組織に適合したより多くの薬剤が選択できると期待される。
上記の実施例3の方法で形成された細胞凝集塊を用いた薬剤スクリーニングの結果、高感受性とされたActinomycin D、Trichostatin A、Cucurbitacin I、Staurosporine及びMG132、感受性が中程度とされた17-AAG、感受性が低いとされたCantharidin及びDoxorubicinを、上述のように実施例3の方法の単一細胞化処理前の細胞凝集塊を移植して腫瘍を形成したマウスに投与した。投与は、Trichostatin A、Cucurbitacin I、Staurosporine、MG132、17-AAG、Cantharidin、及びDoxorubicinは、1mg/kg/dayをマウス腹腔内に投与し、Actinomycin Dは、0.04 mg/kg/dayをマウス腹腔内に投与し、週5回11日間投与した。各薬剤の一回投与量は、Trichostatin A; Vigushin et al Clinical Cancer Res 2001, MG132; Harris et al 2011 Arch Otolaryngol Head Neck Surg, 17-AAG; Chaklader et al. Exp Oncol 2012, Cantharidin; Chang et al Food Chem Toxicol 2008, Doxorubicin; Ottewell et al J Natl Cancer Inst 2008; Actinomycin D; Marks and Venditti Cancer Res 1976, Cucurbitacin I; Blaskovich et al. Cancer Res 2003, Staurosporine; Akinaga et al. Cancer Res 1991に従って決定した。
図7に示す通り、スクリーニング試験で高感受性とされたActinomycin D、Trichostatin A、Cucurbitacin I、Staurosporine及びMG132は、インビボの移植腫瘍に対しても治療効果が高いことが示された。一方、感受性が中程度であった17-AAG、感受性が低かったCantharidin及びDoxorubicinでは、インビボの移植腫瘍に対する治療効果は低かった。こうしたことから、本発明による方法で得られた患者癌組織由来細胞凝集塊を用いて薬剤スクリーニングを行うことにより、生体内腫瘍で実際に奏功する治療薬剤を高確率で選択できる可能性が示唆された。
Claims (5)
- 癌組織から得た細胞塊又は該細胞塊を培養して得た細胞凝集塊を細胞支持用基質に包埋した状態で培養して細胞を増殖させる工程と、
培養後の細胞塊を単一細胞化する工程と、
得られた細胞を、凸部間の間隔が細胞の大きさより小さな凹凸構造を有する培養器中で培養して、細胞凝集塊を形成する工程と
を含む、癌組織由来細胞凝集塊の調製方法。 - 請求項1に記載の方法で得られた癌組織由来細胞凝集塊を用いて抗癌活性を有する化合物をスクリーニングする方法又は該化合物の抗癌活性を定量する方法。
- 請求項1に記載の方法で得られた癌組織由来細胞凝集塊を用いて該癌組織の放射線感受性を評価する方法。
- 請求項1に記載の方法で得られた癌組織由来細胞凝集塊を、ヒト以外の動物に移植する癌モデル動物の作製方法。
- 無血清の動物細胞培養用組成物及び細胞支持用物質と、
凸部間の間隔が細胞の大きさより小さな凹凸構造を有する培養器、無血清又は血清添加動物細胞培養用組成物及び細胞凝集促進剤と
を含む、癌組織由来細胞凝集塊を調製するためのキット。
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