以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
図1は、本実施形態に係る電解加工装置10を概念的に示す概念図である。電解加工装置10は、工具電極100が装着されて、電解加工により加工対象である工作物200に付加加工および除去加工を施す装置である。付加加工は、電解液中の金属イオンを工作物200の表面に析出させて凸形状を造形する加工である。除去加工は、金属である工作物200の表面を電解液中へ溶解させて凹形状を造形する加工である。電解加工装置10は、工具電極100と工作物200への印加極性を反転させることにより、付加加工を行うか除去加工を行うかを選択することができる。なお、図示するように、工具電極100の中心軸に沿って工作物200から遠ざかる方向をz軸プラス方向とする。また、z軸に直交する一方向をx軸、z軸およびx軸共に直交する方向をy軸とする。以降のいくつかの図においては、図1の座標軸を基準として、それぞれの図の向きがわかるように座標軸を表示する。
電解加工装置10は、工作物200を載置するステージ300、z軸方向へ進退可能に工具電極100を保持するホルダー400、電解液550を吸引するポンプ500、電解液を介して工具電極100と工作物200の間に電圧を印加する電源600および電解加工装置10の全体を制御する制御ユニット700を主に備える。制御ユニット700は、CPU710と操作パネル720を含む。CPU710は、操作パネル720を介して入力された加工手順、加工条件等に従って加工制御を実行する。操作パネル720は、タッチパネルなどの入力部を備える表示装置であり、操作者からの入力を受け付けると共に、メニュー項目、加工進捗等の表示を行う。
工具電極100は、詳しくは後述するが、電解液550を供給する供給口120と、電解液550を回収する回収口130を備える金属製の工具電極である。電解液550は、工作物200の加工予定位置210に対向する端面である先端部110から加工予定位置210へ向けて吐出され、再び先端部110から回収される。工具電極100は、ホルダー400に交換可能に装着される。具体的には、クランプによりホルダー400に固定される。
ホルダー400は、z軸方向に沿って固定された支柱410に軸支されており、ホルダー400と一体的に設けられた駆動部420の駆動力により、支柱410を上下する。したがって、工具電極100は、ホルダー400の上下移動に伴って、工作物200に対して進退する。なお、駆動部420は、例えば、支柱410に噛み合うギア機構を含むモータによって構成される。
ステージ300は、チャック310により工作物200を固定する載置台である。チャック310は、xy平面方向へ移動可能であり、工作物200の表面に設定される加工予定位置210を、工具電極100の先端部110の直下に配置することができる。
ポンプ500は、回収口130に接続された回収チューブ562を介して、電解液550を吸引する吸引ポンプである。ポンプ500は、例えば、ゲージ圧で最大吸引圧力が−53kPa、最大吸引量が0.6L/min程度の能力を有する。ポンプの性能は、工作物、工具電極および電解液の性質、加工速度等の加工条件などに合わせて適宜選択される。また、ポンプ500は、圧力計510を備え、圧力計510は、電解液550の吸引圧力を出力する。CPU710は、加工中においては圧力計510の出力を受け取って、電解液550の吸引圧力を監視する。
回収された電解液550は、濾過装置580へ送られて不純物が濾過される。濾過装置580は、電解液550のイオン濃度を一定に保つ濃度調整装置581を含む。濃度調整装置581は、電解液550のイオン濃度を検出してCPU710へ出力する。CPU710は、定期的にイオン濃度を監視し、イオン濃度の低下を検知したら、濃度調整装置581が貯蔵している電解質を電解液550に投入する。また、イオン濃度の上昇を検知したら、濃度調整装置581が貯蔵している水などの溶媒を電解液550に投入する。つまり、CPU710は、濃度調整装置581を介してイオン濃度の回復を図る濃度調整制御を実行する。イオン濃度が保たれ濾過された電解液550は、濾過装置580に接続された還流チューブ563を介して、タンク520へ送られて貯蔵される。
タンク520は、電解液550を貯蔵する容器である。タンク520には供給チューブ561の一端が接続されており、供給チューブ561の他端は供給口120に接続されている。供給チューブ561は、電解加工装置10の停止状態においても電解液550で満たされるように、タンク520と供給口120に接続されている。
このように、電解液550の循環経路は、タンク520→供給チューブ561→工具電極100(供給口120→先端部110→回収口130)→回収チューブ562→ポンプ500→濾過装置580→還流チューブ563→(タンク520)として確立される。ここで、電解液550を循環させるポンプ500は、上述の通り工具電極100の回収口130に接続された吸引ポンプとして設けられており、本実施形態においては、供給口120に電解液550を押し出す送出用のポンプは接続されていない。電解液550が工具電極100の先端部110を経て循環するメカニズムは、他の図を用いて後述する。なお、本実施形態においては、回収した電解液550を濾過してタンク520へ戻す構成であるが、タンク520が加工に必要な量の電解液550を貯蔵できるのであれば、電解液550をタンク520へ戻す構成でなくても良い。
電源600は、工作物接続線610を介して接続された工作物200と、工具接続線620を介して接続された工具電極100との間に電位差を生じさせる。電源600は、CPU710によって制御される。具体的には、CPU710は、生じさせる電位差を設定したり、間欠的に電位差を生成させたり、印加極性を反転したりする。CPU710は、印加極性については、工作物200に対して工具電極100に印加する電圧を高くする正電位極性と、工作物200に対して工具電極100に印加する電圧を低くする負電位極性のいずれかを設定する。例えば、正電位極性の場合、工作物200をグランド電位として、工具電極100にプラスの電圧を与える。あるいは、後述するように、工作物200にプラスのオフセット電圧を与える場合には、そのオフセット電圧よりも高い電圧を工具電極100に与える。CPU710は、様々な態様の印加制御を実行し得る。例えば、加工中のパルス電流の値を一定にする定電流モードを実行する。パルス電流は、一例として、ハイレベルの電流値が15A、ローレベルの電流値が0A、パルス幅が5msec、パルス周期が50msecである。
正電位極性に設定した場合は、加工予定位置210に対して付加加工が施され、負電位極性に設定した場合は、加工予定位置210に対して除去加工が施される。いずれの印加極性で制御されているかは、例えばLEDのインジケータ601によって確認することができる。
なお、工作物接続線610は、直接的に工作物200に接続されていても、チャック310などを介して工作物200に接続されていても良い。同様に、工具接続線620は、直接的に工具電極100に接続されていても、ホルダー400などを介して工具電極100に接続されていても良い。
図2は、電解加工装置10に装着される工具電極100と、加工対象である工作物200の断面図である。本実施形態に係る工具電極100は、二重円筒構造であり、その胴部をホルダー400によって保持されている。
より具体的には、外筒140と内筒150の2つの筒がz軸方向を中心軸として同心状に入れ子に嵌め込まれている。外筒140の上部の内径と内筒150の上部の外径とはほぼ等しく、互いに嵌合している。外筒140は、当該上部以外においては、先端部110まで当該上部よりも内径が大きく形成されている。当該上部の下端側の境界部には、Oリング160が嵌め込まれており、外筒140と内筒150を互いに固定している。
例えば、外筒140の外径は10mmであり、上記上部以外の内径は8mmである。同様に、内筒150の外径は5mmであり、内径は3mmである。なお、図においては、説明の観点からこの比率とは異なる比率で示している。
このように二重円筒構造を採用することにより、外筒140の内面と内筒150の外面との間の空間である第1内通孔121と、内筒150の内面から中心軸側の空間である第2内通孔131とが形成される。第1内通孔121は、工具電極100の上方において、電解液550を導入する供給口120と連通している。第2内通孔131は、工具電極100の上端において、電解液550を排出する回収口130と連通している。
第1内通孔121は、先端部110側で開口されており、開口部は電解液550を加工予定位置210へ吐出する吐出口171として機能する。第2内通孔131も、先端部110側で開口されており、開口部は電解液550を吸引する吸引口172として機能する。このような構造においては、第1内通孔121の吐出口171は、第2内通孔131の吸引口172よりも、先端部110において周縁側に設けられることになる。
図示するように、先端部110は、外筒140の先端部である外筒先端部141と、内筒150の先端部である内筒先端部151とから構成される。外筒先端部141は、内径が先端へ向かって徐々に大きくなるような、先細となるテーパを有する。内筒先端部151は、外筒140方向へ伸延する鍔部として形成される。鍔部は、工作物200の表面である加工予定位置210に対向する面においては平面であるが、外筒140方向へ向かって徐々に肉薄となるテーパを有する。本実施形態において、鍔部の外径は9mmである。このような、外筒先端部141のテーパと内筒先端部151のテーパにより、吐出口171は、第1内通孔121の流路断面よりも狭い開口となり、また、鉛直方向よりも若干周縁方向へ傾斜して形成される。
内筒先端部151がこのような幅広な鍔部として形成されることにより、内筒先端部151は、加工予定位置210との間で電流を流す実効的な電極として機能する。したがって、少なくとも内筒150が導電体であれば、外筒140が絶縁体であっても付加加工および除去加工を行うことができる。内筒150には、工作物200の素材に応じて様々な導電体を採用し得るが、例えば工作物200がステンレス鋼で場合、黄銅を用いることができる。特に、付加加工を行う場合に工具電極100自身が溶解しないように、表面を金、銀などでメッキしても良い。
本実施形態においては、工作物200は、ニッケル合金であり、外筒140、内筒150は、共に表面が金メッキされた黄銅であるものとして説明する。また、電解液550は、工具電極100および工作物200の素材に応じて適宜選択される。本実施形態においては、硝酸銅水溶液を用いる。
外筒先端部141は、内筒先端部151よりも、工作物200側へ突出している。電解加工においては、工具電極100と工作物200とを接触させない。加工時において、工作物200の表面に対する外筒先端部141のクリアランスをcとする。また、内筒先端部151と工作物200の表面との距離である極間距離をgwとする。すると、外筒先端部141の内筒先端部151に対する突出量は、gw−cとなる。本実施形態においては、突出量は50μmである。
このような断面構造において、先端部110が工作物200の表面に十分接近し、電解液550がポンプ500により吸引されて循環している状況における流路について説明する。
電解液550は、供給口120から第1内通孔121へ導入され、第1内通孔121を通過して吐出口171へ到達する。そして、電解液550は、ポンプ500の吸引力により吐出口171から吐出される。吸引圧力は中心軸方向である吸引口172側から作用し、また、外筒先端部141が工作物200の表面側へ突出して外部に漏れにくい構造であることから、ほぼ全量の電解液550が吸引口172へ向かって流動する。すなわち、電解液550は、内筒先端部151と工作物200の表面との間に形成される極間空間を充填するように吸引口172へ移動する。吸引口172から再び工具電極100の内部に取り込まれた電解液550は、第2内通孔131を通過して回収口130へ到達して外部へ排出される。
さらに、電解液550が工具電極100の先端部110を経て循環するメカニズムについて、図3を用いて、穴加工の各段階を追いつつ詳述する。図3は、付加加工の各段階を示す、工具電極100と工作物200の断面図である。
図3(a)は、工具電極100の先端部110を徐々に工作物200の表面へ近づけている段階の様子を示す図である。この段階では、先端部110が工作物200の表面から大きく離間しているので、ポンプ500が吸引しても吸引口172からは空気が取り込まれるのみであり、したがって、電解液550は第2内通孔131へは導かれない。一方、タンク520と接続されている第1内通孔121は、電解液550で満たされている。ここで、上述のように吐出口171は第1内通孔121の流路断面よりも狭く、また、供給口120には送出用のポンプは接続されていないので、電解液550は、吐出口171における表面張力により第1内通孔121に留まり、吐出口171から滴下しない。なお、本実施形態においては、表面張力により電解液550を第1内通孔に留めるが、電解液550が滴下しない構成はこれに限らない。例えば、圧力差により開閉する弁を吐出口171近傍に設けて滴下を防ぐことができる。また、供給口120の高さとタンク520の液面の高さを調整することによっても、吐出口171の圧力差により滴下を防ぐことができる。
図3(b)は、工具電極100の先端部110が工作物200の表面へ十分近づき、電解液550が循環し始めた段階の様子を示す図である。実質的には図2の先端部の様子と同様である。先端部110を徐々に工作物200の表面へ近づけると、内筒先端部151と工作物200の表面によって形成される極間空間である流路の断面積が狭められ、吸引口172から取り込まれる空気の流速が増加する。すると、ベンチェリ効果により極間空間の圧力が低下する。極間空間と第1内通孔121の圧力差が閾値を超えると、それまで第1内通孔に留まっていた電解液550が、吐出口171から吹き出し、極間空間を満たしつつ吸引口172へ向かって流動する。そして、吸引圧力により吸引口172から吸い上げられ、第2内通孔131を遡る。このようにして電解液550の循環が開始され、先端部110と工作物200の表面との間が一定の間隔未満であれば、循環が継続される。
吐出口171は、吸引口172よりも周縁側に設けられているので、電解液550は、工具電極100の中心軸方向へ向かって流れる。したがって、周縁方向へ向かって流すよりも、電解液550が先端部110より外側へ漏れ出すことを大幅に低減できる。すなわち、電解液550を加工領域に限定して循環させることができる。また、極間空間の流路断面gwよりも、工作物200の表面に対する外筒先端部141のクリアランスcを小さくしているので、電解液550の漏出を防ぐと共に、電解液550の循環中における空気の流入を低減することもできる。
図3(c)は、電解液550中の銅が析出して凸形状が成長する様子を示す。電解液550の循環が開始された後に、電源600による通電を開始すると、電解反応が進み、先端部110の形状に応じた隆起(凸形状)が徐々に形成される。隆起が成長すると極間距離gwが狭まるので、隆起の成長に応じて工具電極100を矢印方向(z軸プラス方向)へ段階的に引き上げる。
なお、本実施形態においては、供給口120には送出用のポンプを接続しないが、ポンプ500と協調的に動作する送出用ポンプを供給チューブ561に介在させても良い。上述のようにベンチェリ効果は極間空間と第1内通孔121の圧力差が閾値を超えたときに生じるが、送出用ポンプを補助的に作動させ、第1内通孔121の圧力を一時的に高めることにより、電解液550の吹き出しを促すことができる。このような構成を採用すれば、粘度の高い電解液、粒状物が混在する電解液などに対しても有効にベンチェリ効果を生じさせることができる。
本実施形態においては対象とする加工領域に限定的に電解液550を供給することができるので、図示するように、工具電極100の先端形状が隆起形状として転写されるように加工が進行する。すなわち、対象とする加工領域以外では加工が進行することなく、精度の高い付加加工を実現することができる。
ここで、従来の電解加工装置による加工方法との違いについて説明する。従来の電解加工装置は、電解液槽を満たす電解液に沈められた工作物に対し、少なくとも工具電極先端を電解液に浸して工作物に接近させて、工作物と工具電極の間に電流を流していた。このような構成を採用した場合、電解液中において、工具電極と工作物の加工対象領域(工具電極先端との対向領域)以外の領域との間にも電流経路が生じてしまい、結果的に加工対象領域以外も加工が進んでしまっていた。つまり、電解液が加工領域以外にも存在することが漂流電流を発生させる原因となって、加工精度の低下を招いていた。また、このような構成の場合、大型の電解液槽が必要となるので、大量の電解液を消費し、環境汚染の観点からも好ましくなかった。
また、別の従来の電解加工装置によれば、電解液を工作物に直噴させることにより、生成する不純物の除去を行い、加工速度の向上を実現する。しかし、対象とする加工領域に限定して電解液を供給するのではないので、加工精度の向上はわずかであり、やはり大量の電解液を消費することには変わりがなかった。精度の良い付加加工を実現するためには、対象加工領域に限定して電解液を行き渡らせること、換言すれば、対象加工領域以外の領域は電解液に浸されないことが重要である。この観点において、電解加工機は、電解液を対象加工領域に吐出すると共に、対象加工領域から漏出させること無く確実に回収することが要求される。本実施形態における電解加工装置10は、これらの要求を満たして加工精度が優れると共に、少量の電解液で加工を行えるという利点を有する。
図4は、除去加工の段階を示す、工具電極100と工作物200の断面図である。特に、除去加工の一形態である穴加工において、加工深さfまで進んだ様子を示す。図示するように、工具電極100の先端形状が穴形状として転写されるように加工が進行する。穴が成長すると極間距離gwが広がるので、穴の成長に応じて工具電極100を矢印方向(z軸マイナス方向)へ段階的に送る。本実施形態においては、対象とする加工領域以外では加工が進行することなく、精度の高い除去加工を実現することができる。換言すると、工具電極100の側面と加工によって形成された穴の内面との間隔である側面ギャップgsを小さくすることができる。
次に、極間距離と吸引圧力の関係について説明する。図5は、電解加工開始時における工作物200の表面に対する極間距離と吸引圧力の関係を示す図である。図において、横軸は内筒先端部151と工作物200の表面との距離である極間距離(μm)を表し、縦軸は圧力計510が示す吸引圧力(kPa)を表す。
この実験結果から、吸引圧力を監視すれば、極間距離が推定できることがわかる。特に、付加加工においては、隆起の成長に伴って極間距離が小さくなるので、吸引圧力が徐々に低下することがわかる。同様に、除去加工においては、穴の成長に伴って極間距離が大きくなるので、吸引圧力が徐々に上昇することがわかる。そこで、本実施形態において、電解加工装置10は、付加加工においては、CPU710が監視する圧力計510の吸引圧力が予め定められた閾値Paを下回ったら工具電極100を一定量引き離す動作を繰り返して、目標高さの凸形状を成形する。同様に、除去加工においては、CPU710が監視する圧力計510の吸引圧力が予め定められた閾値Piを上回ったら工具電極100を一定量近づける動作を繰り返して、目標深さの凹形状を成形する。
閾値Paおよび閾値Piは適宜設定し得る。互いに異なる値にしても良いし、同じ値にしても良い。例えば、図の例においては、両閾値とも、極間距離の変化に対する吸引圧力の変化量が大きい領域と小さい領域の境界値であるおよそ100μmに対応する−9kPaとする。また、付加加工において工具電極100を引き離すステップ量、および除去加工において工具電極100を近づけるステップ量は、境界値として採用した100μmよりも小さいことが好ましいが、ここでは安全幅を考慮してここでは10μmとする。
従来の電解加工装置においては、極間距離の測定が困難であり、多くの場合は経験則に基づいて単位時間当たりの工具電極の送り量を決定していた。しかし、実際の極間距離に基づく送り制御ではないので、加工速度にむらが生じたり、加工形状が安定しなかったりしていた。しかし、本実施形態のように、極間距離と相関を持つ吸引圧力を監視して工具電極を移動する制御は、いわゆるフィードバック制御であり、このような制御によれば、最適な加工速度と、安定した加工形状を得ることができる。なお、上述の応用例のように、補助的に送出用ポンプを備える場合であっても、吸引圧力を監視する段階において送出用ポンプを停止させれば、同様にフィードバック制御を実行することができる。
次に、CPU710の制御について説明する。図6は、電解加工の制御フロー図である。フローは、工具電極100がホルダー400に装着され、電解加工装置10が起動した時点から開始する。
CPU710は、ステップS101で、ポンプ500を始動させ、吸引を開始する。この時点では、図3(a)の段階であり、第2内通孔131を介して空気が吸い込まれる。
ステップS102へ進み、CPU710は、駆動部420を駆動して、工具電極100を徐々に工作物200へ接近させる。ステップS103では、CPU710は、圧力計510の出力値を受け取り、当該出力値が電解液550の循環時における圧力範囲に含まれるか否かを判断することにより、電解液550の循環が開始されたか否かを判断する。なお、工具電極100の先端部110が工作物200の加工予定位置210へ接近することにより、電解液550が自ら循環を開始するメカニズムは、図3(b)を用いて説明した通りである。電解液550の循環がまだ開始されていないと判断した場合は、ステップS102へ戻る。
電解液550の循環が開始されたと判断したら、CPU710は、ステップS104へ進み、指定された加工が付加加工であるか、除去加工であるかを判断する。付加加工であると判断した場合にはステップS105へ進み、除去加工であると判断した場合にはステップS112へ進む。
付加加工であると判断してステップS105へ進むと、CPU710は、工作物200に対して工具電極100に印加する電圧を高くする正電位極性を設定して、電源600に通電を開始させる。工作物200は、この時点から電解反応が始まり、凸形状の生成が進行する。
CPU710は、圧力計510の出力値Ptを継続的に受け取ることにより、付加加工中の吸引圧力を監視する。ステップS106では、CPU710は、吸引圧力としての出力値Ptが予め定められた閾値Pa(図4を用いて説明した例では−9kPa)を下回ったか否かを判断する。下回っていないと判断した場合には、ステップS106を定期的に繰り返す。
下回ったと判断した場合には、CPU710は、ステップS107で、工具電極100のそれまでの引き離し量を積算して、凸形状が目標高さに到達したか否かを判断する。目標高さに到達していないと判断した場合には、ステップS108へ進み、工具電極100を予め定められた距離であるDa(図4を用いて説明した例では10μm)分だけ引き離す。そして、ステップS106へ戻る。ステップS106からステップS108を繰り返すことにより、凸形状が高くなる。このように、CPU710と駆動部420は、工具電極100と工作物200の距離を調整する調整部として機能する。
ステップS107で目標高さに到達したと判断したら、ステップS109へ進み、CPU710は、電源600による通電を停止させる。そして、ステップS110へ進み、駆動部420を駆動して、工具電極100を工作物200から退避させる。すると、退避過程において電解液550の循環が自ずと停止するので、その後ステップS111で、ポンプ500の吸引を停止させ、一連の付加加工を終了する。
ステップS104で除去加工であると判断してステップS112へ進むと、CPU710は、工作物200に対して工具電極100に印加する電圧を低くする負電位極性を設定して、電源600に通電を開始させる。工作物200は、この時点から電解反応が始まり、凹形状の生成が進行する。
CPU710は、圧力計510の出力値Ptを継続的に受け取ることにより、除去加工中の吸引圧力を監視する。ステップS113では、CPU710は、吸引圧力としての出力値Ptが予め定められた閾値Pi(図4を用いて説明した例では−9kPaを超えたか否かを判断する。超えていないと判断した場合には、ステップS113を定期的に繰り返す。
超えたと判断した場合には、CPU710は、ステップS114で、工具電極100のそれまでの送り量(近づけた量)を積算して、目標深さに到達したか否かを判断する。目標深さに到達していないと判断した場合には、ステップS115へ進み、工具電極100を予め定められた距離であるDi(図4を用いて説明した例では10μm)分だけ近づける。そして、ステップS113へ戻る。ステップS113からステップS115を繰り返すことにより、凹形状が深くなる。
ステップS114で目標深さに到達したと判断したら、ステップS116へ進み、CPU710は、電源600による通電を停止させる。そして、ステップS110へ進み、駆動部420を駆動して、工具電極100を工作物200から退避させる。すると、退避過程において電解液550の循環が自ずと停止するので、その後ステップS111で、ポンプ500の吸引を停止させ、一連の除去加工を終了する。
以上においては工具電極100をz軸方向へ移動させる付加加工と除去加工について説明してきたが、工具電極100をxy平面方向へも移動させることにより、工作物200に三次元加工を施すこともできる。図7は、三次元加工への応用を説明する概念図である。
図7(a)で示すように、工作物220の表面にN字形状の凹部を形成する除去加工について説明する。電解加工装置は、工具電極100をxy平面方向へ移動させる駆動部を備え、目標深さに応じて工具電極100をN字に沿って何度か掃引させる。このとき、図7(b)に示すように、一度の掃引において進行させる加工深さsは、極間距離gwよりも小さく留める。s<gwであれば、矢印方向へ工具電極100を移動させることができるので、掃引を繰り返すことにより徐々に深さを大きくすることができ、目標深さのN字形状の凹部を工作物220の表面に形成することができる。なお、工作物220に対して工具電極100をxy平面方向へ移動させるのではなく、工具電極100に対して工作物220をxy平面方向へ移動させても良い。
付加加工についても同様である。例えば、工作物220の表面にN字形状の凸部を形成する場合には、印加極性を反転させて、目標高さに応じて工具電極100をN字に沿って何度か掃引させれば良い。もちろん、付加加工と除去加工を連続的に行っても良い。工具電極100と工作物220の相対的な移動と、印加極性を制御すれば、付加と除去を任意に施すことができるので、より自由に三次元形状を形成することができる。使用者は、例えば操作パネル720を介して制御ユニット700へ予めプログラムすれば、CPU710は、当該プログラムに沿って付加加工と除去加工を切り替えつつ連続的に三次元形状を形成することができる。このような構成により、本実施形態に係る電解加工装置は、いわば金属を素材とする3Dプリンタのような造形を可能とする。
また、本実施形態における工具電極100によれば、電解液を対象加工領域に限定して循環させることができるので、工具電極を鉛直方向に支持しなくても良い。例えば、工具電極を保持するホルダーが、固定された工作物に対して工具電極の先端部を鉛直方向とは異なる方向からも接近させることができるロボットハンドのような移動機構を備えれば、鉛直方向とは異なる方向へ加工を進めることができる。
また、以上説明した本実施形態においては、二重円筒構造の工具電極100を説明したが、工具電極の構造は、2つの円筒を組み合わせるものに限らない。金属棒に対して第1内通孔と第2内通孔をドリル加工により形成しても良い。この場合、第1内通孔の吐出口は、第2内通孔の吸引口よりも、先端部において周縁側に設けることが好ましい。また、工具電極は円柱形状に限らず、さまざまな形状を採用し得る。
図8は、他の工具電極800の外観斜視図である。図は、電解液の経路がわかるように、一部の内部構造を細線で示している。工具電極800は、工具電極100に替えて電解加工装置10に装着し得る。
工具電極800は、主に、中央プレート810と、中央プレート810を挟み込む第1挟持プレート820および第2挟持プレート830と、これら3枚のプレートを支持するベースプレート850と、3枚のプレートをベースプレート850へ固定する固定ブロック840により構成される。
中央プレート810は略正方形の薄板であり、共通の一辺から第1スリット811および第2スリット812が形成されている。第1スリット811および第2スリット812は、中央プレート810が第1挟持プレート820および第2挟持プレート830に挟み込まれることにより、それぞれ、電解液550を供給する第1内通孔と電解液550を回収する第2内通孔として機能する。そして、当該一辺における開口は、それぞれ、電解液550を吐出する吐出口8111と電解液550を吸引する吸引口8121として機能する。
第1スリット811のうち供給口8112と反対の端である供給口8112は、第1接続孔861と連通している。第1接続孔861は、中央プレート810、第1挟持プレート820および第2挟持プレート830に跨いで形成された円柱孔であり、上述の供給チューブ561は、第1接続孔861に差し込まれて嵌合している。したがって、供給チューブ561を介して供給される電解液550は、工具電極800の内部を流通して吐出口8111へ到達できる。
同様に、第2スリット812のうち吸引口8121と反対の端である回収口8122は、第2接続孔862と連通している。第2接続孔862は、中央プレート810、第1挟持プレート820および第2挟持プレート830に跨いで形成された円柱孔であり、上述の回収チューブ562は、第2接続孔862に差し込まれて嵌合している。したがって、吸引口8121から吸引された電解液550は、工具電極800の内部を流通して回収チューブ562へ到達できる。
固定ブロック840は、重ね合わされた3枚のプレート(中央プレート810、第1挟持プレート820および第2挟持プレート830)を、ビス841の螺合によりベースプレート850側へ押しつけてベースプレート850へ固定するクランプ部材である。本実施例においては、固定ブロック840を採用してクランプする構造を成すが、固定構造は様々なバリエーションを採用し得る。例えば、ベースプレート850とは反対側に位置する第1挟持プレート820側から、重ね合わされた3枚のプレートを貫通してビスをベースプレート850へ螺合する構成でも良い。
ベースプレート850は、ビス851を介して、ホルダー400に固定される。なお、固定はビスに限らず、例えばベースプレート850の一部を円筒形状にすることにより、他の一般的な工具電極と互換性を持たせた固定構造を採用することもできる。
なお、工具電極800は、少なくとも電極として機能させる中央プレート810が工作物200に応じた導電体であれば良い。他の部材については、樹脂等の絶縁体を採用しても良い。
図9は、工具電極800の製造方法を説明する説明図である。図9(a)は、中央プレート810へ第1スリット811および第2スリット812を形成するスリット形成工程を示す図である。第1スリット811および第2スリット812は、ワイヤ放電加工により形成される。したがって、その幅はおよそ放電ワイヤの線径となるので、目標とする電解液の循環量に応じて適宜放電ワイヤが選択される。
図示するように、第1スリット811を形成する放電ワイヤは、中央プレート810の外縁を成す一辺の略中央から約45度の方向へ進行し、途中から対辺へ向かって進行する。放電ワイヤは、対辺へ到達する手前で停止する。当該一辺における端点は、工具電極800として組み上げられたときに吐出口8111となり、他の端点は、供給口8112となる。
同様に、第2スリット812を形成する放電ワイヤは、上記一辺の略中央であって吐出口8111とは少し離れた点から、第1スリット811の進行方向とは逆の約45度の方向へ進行し、途中から対辺へ向かって進行する。放電ワイヤは、対辺へ到達する手前で停止する。当該一辺における端点は、工具電極800として組み上げられたときに吸引口8121となり、他の端点は、回収口8122となる。なお、中央プレート810の板圧は、例えば0.1mmである。
図9(b)は、工具電極800の組み立て工程の、特に内通孔形成工程を示す分解斜視図である。まず、中央プレート810は、第1挟持プレート820および第2挟持プレート830に挟まれて相互の位置が調整される。このとき、互いの位置がずれないように相互に接着しても良い。位置調整がされた3枚のプレートは、固定ブロック840によりベースプレート850側へ押しつけられてビス841により固定される。このように2枚の挟持プレートに挟まれることにより、電解液550を供給する第1内通孔と電解液550を回収する第2内通孔が形成される。
図9(c)は、第1接続孔861および第2接続孔862を形成する流路形成工程を示す図である。固定されて一体化された中央プレート810、第1挟持プレート820および第2挟持プレート830は、ベースプレート850ごとボール盤に装着され、ドリル910によりそれぞれ第1接続孔861および第2接続孔862が形成される。このとき、中央プレート810は、第1挟持プレート820および第2挟持プレート830のそれぞれに対して薄いので、第1接続孔861および第2接続孔862は、第1挟持プレート820および第2挟持プレート830の少なくともいずれかに跨いで形成される。形成された第1接続孔861および第2接続孔862には、上述のように、それぞれ供給チューブ561および回収チューブ562が挿入されて嵌合する。
図10は、工具電極800の先端部の拡大図である。図示するように、吐出口8111の開口長さはgiであり、例えば0.2mmである。また、吸引口8121の開口長さはgoであり、例えば1.0mmである。本実施例のように、吸引口8121の開口長さを吐出口8111の開口長さより大きくすると、すなわち、吸引口の開口面積を吐出口の開口面積よりも大きくすると、電解液550の循環がスムースとなる。
吸引口8121と吐出口8111の間は、電解液550が循環する領域であり、実質的に電解加工が進行する加工領域である。この間隔は、電解加工を行う加工精度に合わせて適宜設定される。また、この加工領域においては、中央プレート810の一辺に対してオフセットするように、若干退避させることが好ましい。図の例ではオフセット量はgwであり、例えば0.02mmである。このようにオフセットを持たせることにより、電解液550の循環がよりスムースとなる。また、加工領域において電極が溶解しないように、表面を金、銀などでメッキしても良い。
なお、以上の例では、中央プレート810、第1挟持プレート820および第2挟持プレート830を、いずれも略同一の正方形であるとして説明したが、形状はこれに限らない。例えば、吸引口8121と吐出口8111の近傍の実質的な加工領域を、工作物側へ突出させても良い。実質的な加工領域を突出させれば、加工中における工具電極800のxy方向への移動を容易にすることができる。
次に、電解加工機全体のバリエーションについて説明する。図11は、他の電解加工装置20を概念的に示す概念図である。上述の電解加工装置10は、装着できる工具電極がひとつであったが、複数の工具電極が装着できるように電解加工装置を構成しても良い。電解加工装置20は、工具電極を2つ装着できる構成の例である。なお、図1の電解加工装置10と同じ要素については同符番を付してその説明を省略する。
上述のように、工具電極の先端部で電解液を循環させる場合、電解液と接する工作物表面の面積が加工速度および加工精度に大きく影響する。そこで、例えば、多くの電解液を循環させる工具電極と、少ない電解液を循環させる工具電極を組み合わせて加工すれば、高速な粗加工と高精度な仕上げ加工を両立することができる。
また、付加加工と除去加工を共に行う場合には、一方を付加加工に最適な工具電極を採用し、他方を除去加工に最適な工具電極を採用することもできる。すなわち、付加加工は付加加工に最適な工具電極を用いて行い、除去加工は除去加工に最適な工具電極を用いて行う。このように付加加工と除去加工で用いる工具電極を専用化することにより、共通した電解液を利用する場合であっても、工具電極が溶解することがなく、また析出した金属が工具電極に付着することもない電解加工を実現することができる。
電解加工装置20は、第1工具電極1001および第2工具電極1002を備える。第1工具電極1001は、電解液550を供給する第1供給口1201と、電解液550を回収する第1回収口1301を備える金属製の工具電極である。電解液550は、工作物200の加工予定位置210に対向する端面である第1先端部1101から加工予定位置210へ向けて吐出され、再び第1先端部1101から回収される。第1工具電極1001は、第1ホルダー4001に交換可能に装着される。
第1回収口1301は、第1回収チューブ5621を介してポンプ500と接続されている。第1供給口1201は、第1供給チューブ5611を介してタンク520と接続されている。第1供給チューブ5611は、電解加工装置20の停止状態においても電解液550で満たされるように接続されている。第1工具電極1001が用いられる場合には、電解液550の循環経路は、タンク520→第1供給チューブ5611→第1工具電極1001(第1供給口1201→第1先端部1101→第1回収口1301)→第1回収チューブ5621→ポンプ500→濾過装置580→還流チューブ563→(タンク520)として確立される。
第1ホルダー4001は、z軸方向に沿って固定された第1支柱4101に軸支されており、第1ホルダー4001と一体的に設けられた第1駆動部4201の駆動力により、第1支柱4101を上下する。したがって、第1工具電極1001は、第1ホルダー4001の上下移動に伴って、工作物200に対して進退する。なお、第1駆動部4201は、例えば、第1支柱4101に噛み合うギア機構を含むモータによって構成される。
第2工具電極1002は、電解液550を供給する第2供給口1202と、電解液550を回収する第2回収口1302を備える金属製の工具電極である。電解液550は、工作物200の加工予定位置210に対向する端面である第2先端部1102から加工予定位置210へ向けて吐出され、再び第2先端部1102から回収される。第2工具電極1002は、第2ホルダー4002に交換可能に装着される。
第2回収口1302は、第2回収チューブ5622を介してポンプ500と接続されている。第2供給口1202は、第2供給チューブ5612を介してタンク520と接続されている。第2供給チューブ5612は、電解加工装置20の停止状態においても電解液550で満たされるように接続されている。第2工具電極1002が用いられる場合には、電解液550の循環経路は、タンク520→第2供給チューブ5612→第2工具電極1002(第2供給口1202→第2先端部1102→第2回収口1302)→第2回収チューブ5622→ポンプ500→濾過装置580→還流チューブ563→(タンク520)として確立される。
第2ホルダー4002は、z軸方向に沿って固定された第2支柱4102に軸支されており、第2ホルダー4002と一体的に設けられた第2駆動部4202の駆動力により、第2支柱4102を上下する。したがって、第2工具電極1002は、第2ホルダー4002の上下移動に伴って、工作物200に対して進退する。なお、第2駆動部4202は、例えば、第2支柱4102に噛み合うギア機構を含むモータによって構成される。
ステージ300は、ガイドレール320に載置されて、xy方向へ自在に移動する。ステージ300のxy方向への移動は、CPU710により制御される。特に、ステージ300は、加工に供する工具電極が切り替えられるタイミングに同期して、加工予定位置210をこれまで用いていた工具電極の先端部に対向する位置から新たに用いる工具電極の先端部に対向する位置へ移動する。
第1工具電極1001と第2工具電極1002とは、工具接続線621により接続されて同電位に保たれる。このように構成すれば電源600に切替スイッチを設けなくても良いので、簡易な回路構成を採用することができる。もちろん、CPU710により第1工具電極1001と第2工具電極1002の電位を独立に制御できるように、電源600に切替スイッチを設けて、それぞれの工具電極に対して工具接続線を接続しても良い。このように構成すれば、CPU710は、例えば、第1工具電極1001を付加加工用として、第2工具電極1002を除去加工用として制御することができる。
本実施例においては、ベンチェリ効果を利用して電解液550を循環させるので、2つの工具電極に対してポンプ500およびタンク520を共有することができる。すなわち、加工に供する工具電極を工作物200へ接近させればその先端部において電解液550が循環し始め、加工に供さない工具電極を工作物から離間させておけば、ポンプ500が吸引しても電解液550が循環することもなければ飛散することも無い。したがって、本実施例においては、ポンプ500およびタンク520を複数設けなくても良いので、電解加工装置20全体の構成を簡素化することができる。
図12は、他の電解加工装置30を概念的に示す概念図である。上述の電解加工装置10は、循環させる電解液が1種類であったが、複数種類の電解液を選択的に循環させるように構成しても良い。電解加工装置30は、2種類の電解液を循環させることができる構成の例である。なお、図1の電解加工装置10と同じ要素については同符番を付してその説明を省略する。
電解加工装置において電解液の選択は、加工速度および加工精度に大きく影響する。そこで、例えば、電解反応が早いが精度のコントロールが困難な電解液と、電解反応は遅いが精度のコントロールが容易な電解液を組み合わせて選択的に用いれば、高速な粗加工と高精度な仕上げ加工を両立することができる。例えば、前者の電解液として硫酸銅溶液を、後者の電解液として硝酸銅溶液を利用し得る。
また、付加加工と除去加工を共に行う場合には、それぞれに最適な電解液を採用することもできる。このように付加加工と除去加工で用いる電解液を専用化することにより、共通した工具電極を利用する場合であっても、工具電極が溶解することがなく、また析出した金属が工具電極に付着することもない電解加工を実現することができる。例えば、前者の電解液として硝酸銅溶液を、後者の電解液として硝酸ナトリウム溶液を利用し得る。
第1ポンプ5001は、第1回収チューブ5621を介して切替弁570に接続された、第1電解液5501を吸引する吸引ポンプである。第1電解液5501は、例えば、除去加工に供される硝酸ナトリウム溶液である。第1回収チューブ5621は、図1を用いて説明した吸引ポンプ500と同様の性能を有する。また、第1ポンプ5001は、第1圧力計5101を備え、第1圧力計5101は、第1電解液5501の吸引圧力を出力する。CPU710は、加工中においては第1圧力計5101の出力を受け取って、第1電解液5501の吸引圧力を監視する。
回収された第1電解液5501は、第1濾過装置5801へ送られて不純物が濾過される。循環中に濃度の調整が不要な電解液を用いる場合は、図1を用いて説明したような濃度調整装置を設けなくても良いが、加工中に濃度が変化する電解液を用いる場合には、濃度調整装置を設けても良い。濾過された第1電解液5501は、第1タンク5201へ送られて貯蔵される。
第1タンク5201は、第1電解液5501を貯蔵する容器である。第1タンク5201には第1供給チューブ5611の一端が接続されており、第1供給チューブ5611の他端は切替弁570に接続されている。
第2ポンプ5002は、第2回収チューブ5622を介して切替弁570に接続された、第2電解液5502を吸引する吸引ポンプである。第2電解液5502は、例えば、付加加工に供される硝酸銅溶液である。第2回収チューブ5622は、図1を用いて説明した吸引ポンプ500と同様の性能を有する。また、第2ポンプ5002は、第2圧力計5102を備え、第2圧力計5102は、第2電解液5502の吸引圧力を出力する。CPU710は、加工中においては第2圧力計5102の出力を受け取って、第2電解液5502の吸引圧力を監視する。
回収された第2電解液5502は、第2濾過装置5802へ送られて不純物が濾過される。このとき、図1を用いて説明したように、濃度調整装置581を設けて濃度調整を行っても良い。濾過された第2電解液5502は、第2タンク5202へ送られて貯蔵される。
第2タンク5202は、第2電解液5502を貯蔵する容器である。第2タンク5202には第2供給チューブ5612の一端が接続されており、第2供給チューブ5612の他端は切替弁570に接続されている。
切替弁570は、第1電解液5501を循環させるか、第2電解液5502を循環させるかを切り替える弁機構を備える。切替弁570の弁機構は、CPU710の制御により駆動される。より具体的には、切替弁570には、一端が工具電極100の供給口120に接続された供給チューブ561の他端が接続されており、弁機構は、供給チューブ561と、第1供給チューブ5611および第2供給チューブ5612のいずれかを連通させる。また、切替弁570には、一端が工具電極100の回収口130に接続された回収チューブ562の他端が接続されており、弁機構は、回収チューブ562と、第1回収チューブ5621および第2回収チューブ5622のいずれかを連通させる。このとき、弁機構は、供給チューブ561と第1供給チューブ5611を連通させる場合には、回収チューブ562と第1回収チューブ5621を連通させる。同様に、供給チューブ561と第2供給チューブ5612を連通させる場合には、回収チューブ562と第2回収チューブ5622を連通させる。
このように構成することにより、第1電解液5501を利用する場合には、その循環経路は、第1タンク5201→第1供給チューブ5611→切替弁570→供給チューブ561→工具電極100(供給口120→先端部110→回収口130)→回収チューブ562→切替弁570→第1回収チューブ5621→第1ポンプ5001→第1濾過装置5801→(第1タンク5201)として確立される。同様に、第2電解液5502を利用する場合には、その循環経路は、第2タンク5202→第2供給チューブ5612→切替弁570→供給チューブ561→工具電極100(供給口120→先端部110→回収口130)→回収チューブ562→切替弁570→第2回収チューブ5622→第2ポンプ5002→第2濾過装置5802→(第2タンク5202)として確立される。
以上のように、図11を用いて複数の工具電極を選択的に利用する例を、図12を用いて複数種類の電解液を選択的に循環させる例を説明したが、もちろん、相互に組み合わせた電解加工装置を構成することもできる。複数設けられた工具電極のそれぞれに複数種類の電解液を循環させることができれば、より多彩な加工を効果的に実現することができる。
次に、印加電圧のバリエーションについて説明する。上述の各例においては、工具電極および工作物の一方をグランド電位とし、他方を正電位とするパルス印加制御を行っていた。しかし、印加制御はこれに限らない。
パルス印加制御を行えば、加工精度が向上することが知られているが、例えば除去加工において、0ボルトと+Vボルトの間でオンとオフを繰り返すと、パルスの立ち下がり時のオーバーシュートにより瞬間的に負電位となる場合がある。パルス印加制御にいては、オンとオフが短時間の間に何度も繰り返されるので、負電位となる累積時間が大きくなり、結果的に工具電極が溶解を招く。0ボルトと−Vボルトの間でオンとオフを繰り返す付加加工においても同様であり、パルスの立ち上がり時のオーバーシュートにより瞬間的に正電位となる場合がある。この場合は、結果的に工具電極に金属が析出することになる。つまり、0ボルトを基準としてパルス印加制御を行うと、工具が消耗する場合があった。これまでは、工具電極の消耗を回避したい場合には、パルス印加制御では無く、直流印加制御が行われてきた。
本実施形態における、印加制御のバリエーションについて説明する。図13は、当該バリエーションに係る印加電圧の例を示す図である。CPU710は、例えば除去加工において正電位のパルスを与える場合、グランド電位を少し持ち上げて、正電位のオフセット電圧を与えるように制御することができる。この場合、図示するように、ハイレベル電圧をVHIとし、ローレベル電圧をVLOとし、Xpパルスごとに一定の停止時間を設ける。具体的には、VHIを10V程度に設定する場合、VLOはVHIの1割から3割程度の範囲である例えば2V程度にすれば良いことが実験的にわかった。このように、同極側にオフセット電圧を設ければ、パルスの立ち下がり時に電位が反転する恐れが軽減され、よって工具電極の消耗を回避できる。
また、一定の停止時間の間に工具電極を振動させれば、工具電極に付着する不純物を除去したり、電解液を攪拌したりすることができる。具体的には、工具電極に貼着した圧電素子をCPU710によって制御すれば、工具電極を当該停止時間に同期させて振動させることができる。
以上の実施形態において、付加加工を施す場合には、表面に特定の金属薄膜を形成すれば、薄膜干渉による着色効果を得ることもできる。本実施形態によれば、部分的に薄膜を形成することができるので、三次元形状の特定箇所に着色効果を施すことができる。
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
特許請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。特許請求の範囲、明細書、および図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。