(実施形態1)
本実施形態の電磁継電器1は、図1に示すように、接点装置2と、電磁石装置3と、補助コイル4とを備えている。接点装置2は、固定接点21および可動接点22を有する。
電磁石装置3は、励磁コイル31を有し、励磁コイル31への通電時に磁気回路に生じる磁束によって、固定接点21から離れた開位置より固定接点21に接触する閉位置へ可動接点22を移動させる。補助コイル4は、励磁コイル31と同軸周りに巻かれたコイルであって、接点装置2と直列に接続されており、可動接点22が閉位置にあるときに接点装置2を通して流れる負荷電流によって、磁気回路上に励磁コイル31の生じる磁束と同じ向きの磁束を生じる。
また、本実施形態では、補助コイル4は、励磁コイル31の中心軸に直交する平面において励磁コイル31の内側に配置されている。
以下、本実施形態の電磁継電器1について詳しく説明する。ただし、以下に説明する電磁継電器1は、本発明の一例に過ぎず、本発明は、下記実施形態に限定されることはなく、この実施形態以外であっても、本発明に係る技術的思想を逸脱しない範囲であれば、設計等に応じて種々の変更が可能である。
本実施形態においては、電磁継電器1が、電気自動車(EV)に搭載され、図2に示すように走行用のバッテリ101から負荷(たとえばインバータ)102への直流電力の供給路上に接点装置2を挿入するように接続されて用いられる場合を例とする。この電磁継電器1の励磁コイル31は、電気自動車のECU(電子制御ユニット)103からの制御信号に応じてオンとオフとが切り替わるスイッチング素子104を介して、励磁用電源105に接続されている。これにより、電磁継電器1は、ECUからの制御信号に応じて接点装置2が開閉し、走行用のバッテリ101から負荷102への直流電力の供給状態を切り替えることができる。
本実施形態では、接点装置2は、図1に示すように、一対の固定接点21と、一対の可動接点22と、各固定接点21を支持する一対の接点台11,12と、両可動接点22を支持する可動接触子13とを有している。接点装置2の構成について詳しくは後述するが、接点装置2は、固定接点21および可動接点22を一対ずつ備えることにより、接点装置2が閉じた状態で一対の接点台11,12間が可動接触子13を介して短絡する。したがって、接点装置2は、走行用のバッテリ101(図2参照)からの直流電力が、一対の接点台11,12および可動接触子13を通して負荷102(図2参照)へ供給されるように、バッテリ101と負荷102との間に挿入される。なお、接点装置2は、バッテリ101の出力端間において負荷102と直列に接続されていればよく、バッテリ101の負極(マイナス極)と負荷102との間に挿入されていてもよい。
本実施形態に係る電磁継電器1は、図1に示すように、上述した接点装置2、電磁石装置3、補助コイル4に加えて、ホルダ14と、接圧ばね15と、シャフト16と、一対のヨーク17,18とを備えている。さらに、電磁継電器1は、走行用のバッテリ101(図2参照)から負荷102(図2参照)への直流電力の供給路上に挿入される一対の出力端子T1,T2と、励磁用電源105に接続される一対の入力端子T3,T4(図2参照)とを備えている。
電磁石装置3は、励磁コイル31の他に、継鉄32と、固定鉄芯33と、可動鉄芯34と、復帰ばね35とを有している。なお、電磁石装置3は、合成樹脂製であって励磁コイル31が巻き付けられるコイルボビン(図示せず)を有していてもよい。
継鉄32は、固定鉄芯33および可動鉄芯34と共に、励磁コイル31の通電時に生じる磁束が通る磁気回路を形成する。そのため、継鉄32と固定鉄芯33と可動鉄芯34とは磁性材料から形成されている。
本実施形態においては、継鉄32は、励磁コイル31の中心軸方向の両側に設けられて互いに対向する第1継鉄321および第2継鉄322を具備している。以下では、励磁コイル31の中心軸方向を上下方向とし、励磁コイル31から見て第1継鉄321側を上方、第2継鉄322側を下方として説明するが、電磁継電器1の使用形態を限定する趣旨ではない。
継鉄32は、第1継鉄321と第2継鉄322との周縁部同士を連結する第3継鉄323と、第2継鉄322の上面の中央部から上方に突出する形の円筒状に形成された第4継鉄324とをさらに具備している。ここでは、第1継鉄321および第2継鉄322はそれぞれ矩形板状に形成されている。第3継鉄323は、第1継鉄321の下面において互いに対向する一対の辺と、第2継鉄322の上面における互いに対向する一対の辺とを連結するように、一対設けられている。第4継鉄324は、その下端部が第2継鉄322の中央部に形成された保持孔(図示せず)に嵌合している。
励磁コイル31は、これら第1継鉄321と第2継鉄322と第3継鉄323とで囲まれた空間に配置されており、その内側に第4継鉄324と固定鉄芯33と可動鉄芯34とが配置されている。励磁コイル31の内径は第4継鉄324の外径よりも大きく形成され、励磁コイル31の内周面と第4継鉄324の外周面との間に所定幅の隙間が確保されている。励磁コイル31は、その両端が一対の入力端子T3,T4(図2参照)に接続されている。
固定鉄芯33は、第1継鉄321の下面の中央部から下方に突出する形の円筒状に形成され、その上端部が継鉄(第1継鉄321)32に固定されている。固定鉄芯33の外径は、第4継鉄324の内径よりも小さく形成されている。さらに、固定鉄芯33の下端面と第4継鉄324の上端面との間には、上下方向においてギャップ(隙間)が確保されている。
可動鉄芯34は、円柱状に形成されており、固定鉄芯33の下方において、その上端面を固定鉄芯33の下端面に対向させるように配置されている。可動鉄芯34の外径は第4継鉄324の内径よりも小さく形成され、可動鉄芯34は第4継鉄324の内側を第4継鉄324の内周面に沿って上下方向に移動する。言い換えれば、可動鉄芯34は、その上端面が固定鉄芯33の下端面に接触した第1の位置と、その上端面が固定鉄芯33の下端面から離れた第2の位置との間で移動可能に構成されている。
また、電磁石装置3は、非磁性材料からなり固定鉄芯33および可動鉄芯34を収納する筒体(図示せず)を有していてもよい。筒体は、上面が開口した有底円筒状に形成され、上端部(開口周部)が第1継鉄321に固定され、下部が第4継鉄324の内側に嵌合する。これにより、筒体は、可動鉄芯34の移動方向を上下方向に制限し、且つ可動鉄芯34の第2の位置を規定する。
なお、電磁石装置3は、励磁コイル31と第4継鉄324と固定鉄芯33と可動鉄芯34とが全て上下方向に沿った同一直線上に中心軸を有するように構成されている。
復帰ばね35は、固定鉄芯33の内側に配置されており、可動鉄芯34を下方(第2の位置)へ付勢するコイルばねである。
上述した構成により、可動鉄芯34は、励磁コイル31に通電されていないとき(非通電時)には、固定鉄芯33との間に磁気吸引力が生じないため、復帰ばね35のばね力によって固定鉄芯33から離れた第2の位置に位置することになる。一方、励磁コイル31に通電されると、可動鉄芯34は、固定鉄芯33との間に磁気吸引力が生じるため、復帰ばね35のばね力に抗して上方に引き寄せられ固定鉄芯33に接触する第1の位置に移動する。
言い換えれば、電磁石装置3は、励磁コイル31の通電時には、継鉄32と固定鉄芯33と可動鉄芯34とで形成される磁気回路に励磁コイル31が磁束を生じるので、この磁気回路の磁気抵抗が小さくなるように可動鉄芯34を移動させる。具体的には、電磁石装置3は、励磁コイル31の通電時、磁気回路のうち固定鉄芯33の下端面と第4継鉄324の上端面との間のギャップを可動鉄芯34で埋めるように、可動鉄芯34を第2の位置から第1の位置へ移動させる。
要するに、電磁石装置3は、励磁コイル31への通電時に磁気回路に生じる磁束によって可動鉄芯34を上方へ移動させ、励磁コイル31への通電が停止すると復帰ばね35のばね力によって可動鉄芯34を下方へ移動させる。このように、電磁石装置3は、励磁コイル31の通電状態の切り替えに伴い可動鉄芯34を上下方向に移動させることにより、接点装置2の開状態と閉状態とを切り替えるための駆動力を発生する。
接点装置2における一対の接点台11,12は、電磁石装置3の上方において上下方向に直交する平面内の一方向に並ぶように配置されており、各々、当該平面内での断面形状が円形状となる円柱状に形成されている。これら一対の接点台11,12は、電磁石装置3の継鉄32や固定鉄芯33との位置関係が固定されている。具体的には、電磁継電器1は、下面が開口した箱状に形成され第1継鉄321との間に固定接点21および可動接点22を収納するケース(図示せず)を備えている。一対の接点台11,12は、このケースの底板(上壁)に形成された丸孔に挿通された形でケースに接合されている。ケースは、たとえばセラミックなどの耐熱性材料より形成されており、その開口周部が第1継鉄321の上面の周縁部に対して、連結体(図示せず)を介して接合されている。
なお、ケースと連結体と第1継鉄321と上述した筒体とは、内部に気密空間を形成する気密容器を形成することが望ましく、この場合、気密容器内には水素を主体とする消弧ガスが封入されていることが望ましい。これにより、気密容器内に収納されている固定接点21および可動接点22において開極する際にアークが発生したとしても、アークは消弧ガスによって急速に冷却され迅速に消弧可能になる。ただし、固定接点21および可動接点22は気密容器に収納される構造に限らない。
一対の接点台11,12は、導電性材料から形成されており、各々の下端部には固定接点21が設けられている。一対の接点台11,12の各々は、その外径が各接点台11,12における上端部以外の部位に比べて上端部で大きく形成されている。一対の接点台11,12のうち第1の接点台11は、その上端部に第1の出力端子T1が接続されている。一方、一対の接点台11,12のうち第2の接点台12は、その上端部に第2の出力端子T2が補助コイル4を介して接続されている。つまり、補助コイル4は、第2の接点台12と第2の出力端子T2との間に挿入されている。言い換えれば、補助コイル4は、図2に示すように一対の出力端子T1,T2間において接点装置2と直列に接続されている。
可動接触子13は、導電性材料から矩形板状に形成されており、その長手方向の両端部を一対の接点台11,12の下端部に対向させるように一対の接点台11,12の下方に配置されている。可動接触子13のうち、各接点台11,12に設けられている固定接点21に対向する各部位には、可動接点22がそれぞれ設けられている。
可動接触子13は、電磁石装置3によって上下方向に駆動される。これにより、可動接触子13に設けられている各可動接点22は、それぞれ対応する固定接点21に接触する閉位置と、固定接点21から離れた開位置との間で移動することになる。可動接点22が閉位置にあるとき、つまり接点装置2が閉じた状態では、第1の接点台11と第2の接点台12とは可動接触子13を介して短絡する。したがって、接点装置2が閉じた状態では、第1の出力端子T1と第2の出力端子T2との間は補助コイル4を介して導通し、走行用のバッテリ101から負荷102へ補助コイル4を介して直流電力が供給されることになる。
シャフト16は、非磁性材料にて上下方向に延びた丸棒状に形成されており、電磁石装置3で発生した駆動力を、電磁石装置3の上方に設けられている接点装置2へ伝達する。シャフト16は、第1継鉄321の中央部に形成された透孔325に挿通されており、固定鉄芯33および復帰ばね35の内側を通って、その下端部が可動鉄芯34に固定されている。シャフト16の上端部は、可動接触子13を保持するホルダ14に固定されている。
ホルダ14は、可動接触子13の上下方向の両側に設けられて互いに対向する上板141および下板142と、上板141と下板142との周縁部同士を連結する側板143とを具備している。ここでは、上板141および下板142はそれぞれ矩形板状に形成されている。側板143は、上板141の下面において互いに対向する一対の辺と、下板142の上面における互いに対向する一対の辺とを連結するように、一対設けられている。下板142の中央部にはシャフト16の上端部が固定されている。これにより、電磁石装置3で発生した駆動力はシャフト16にてホルダ14へと伝達され、可動鉄芯34が上下方向に移動するのに伴いホルダ14が上下方向に移動する。
一対のヨーク17,18は、磁性材料からなり、ホルダ14に囲まれた空間において可動接触子13の上下方向の両側に設けられている。一対のヨーク17,18のうち、可動接触子13の上側に設けられた第1のヨーク17は、上板141の下面に固着され、ホルダ14と一体化されている。一対のヨーク17,18のうち、可動接触子13の下側に設けられた第2のヨーク18は、可動接触子13に固着され、可動接触子13と一体化されている。ここでは、第2のヨーク18は、図3Bに示すように、その上面に凹部181が形成されており、凹部181内に可動接触子13が嵌り込むような形で可動接触子13と一体化されている。一対のヨーク17,18の機能については後述する。
接圧ばね15は、ホルダ14の下板142と第2のヨーク18との間に配置されており、可動接触子(第2のヨーク18)13を上方へ付勢するコイルばねである。
次に、上述した構成の電磁継電器1の基本的な動作について図3A,図3B,図4A,図4Bを参照して簡単に説明する。なお、図3Aおよび図4Aは接点装置2を含む電磁継電器1の要部を示す断面図、図3Bは図3AのX−X断面図、図4Bは図4AのX−X断面図である。
図3A,図3Bは励磁コイル31の非通電時における電磁継電器1の状態を示している。この状態では、電磁石装置3の可動鉄芯34が第2の位置に位置するため、ホルダ14は、電磁石装置3によってシャフト16を介して下方に引き下げられている。このとき、ホルダ14は、その上板141にて第1のヨーク17を介して可動接触子13を下方に押し下げることになる。そのため、可動接触子13は、第1のヨーク17によって上方への移動が規制され、一対の可動接点22を一対の固定接点21から離れた開位置に位置させる。
このとき、第2のヨーク18は、接圧ばね15によって可動接触子13ごと上方へ付勢されているので、第1のヨーク17に下方から接触し第1のヨーク17と共に可動接触子13を包囲する。この状態(図3A,図3Bの状態)では、接点装置2は開いた状態にあるので、一対の接点台11,12間は非導通であり、一対の出力端子T1,T2間が非導通となる。
一方、図4A,図4Bは励磁コイル31の通電時における電磁継電器1の状態を示している。この状態では、電磁石装置3の可動鉄芯34が第1の位置に位置するため、ホルダ14は、シャフト16を介して上方に押し上げられている。このとき、ホルダ14は、その上板141に固定されている第1のヨーク17を上方へ移動させることになる。そのため、可動接触子13は、第1のヨーク17による上方への移動規制が解除され、ホルダ14の下板142にて接圧ばね15および第2のヨーク18を介して上方に押し上げられ、一対の可動接点22を一対の固定接点21に接触する閉位置に位置させる。
このとき、ホルダ14は、第1のヨーク17が可動接触子13から離れる位置まで押し上げられており、第1のヨーク17と第2のヨーク18との間にはギャップが形成される。第2のヨーク18は、接圧ばね15によって可動接触子13ごと上方へ付勢されているので、一対の可動接点22と一対の固定接点21との間の接圧(接触圧)を確保することができる。この状態(図4A,図4Bの状態)では、接点装置2は閉じた状態にあるので、一対の接点台11,12間は導通し、一対の出力端子T1,T2間が導通する。
次に、一対のヨーク17,18の機能について説明する。
まず、一対のヨーク17,18がないと仮定した場合について説明する。この場合、励磁コイル31の通電時において、可動接触子13(並びにそれと一体化されている構成要素)には図5に示すような力が作用する。すなわち、可動接触子13には、図5に示すように、接圧ばね15からの第1の力F1が上向きに作用し、電磁反発力である第2の力F2と、垂直抗力である第3の力F3とが下向きに作用する。
第1の力F1は、接圧ばね15から可動接触子13に対して常時作用する。第2の力F2は、一対の接点台11,12の一方から他方に向けて可動接触子13を通して流れる電流に起因して発生する。つまり、一対の接点台11,12の一方から他方へ可動接触子13を通して電流I1(図7A参照)が流れると、この電流I1によって可動接触子13の周辺に磁束φ1(図7A参照)が生じる。この磁束φ1と可動接触子13を流れる電流I1とによって、可動接触子13には、可動接点22を固定接点21から離す向き(下向き)のローレンツ力(電磁反発力)が、第2の力F2として作用することになる。第3の力F3は、可動接触子13に作用する上向きの力と下向きの力とがつり合うように、固定接点21から可動接触子13に作用する垂直抗力である。
また、一対のヨーク17,18がないと仮定した場合、励磁コイル31の通電時において、ホルダ14および可動鉄芯34(並びにそれらと一体化されている構成要素)には図6に示すような力が作用する。すなわち、ホルダ14および可動鉄芯34には、図6に示すように、磁気吸引力である第4の力F4が上向きに作用し、接圧ばね15からの第5の力F5と、復帰ばね35からの第6の力F6と、垂直抗力である第7の力F7とが下向きに作用する。
第4の力F4は、励磁コイル31の通電時に固定鉄芯33と可動鉄芯34との間に作用する。第5の力F5は、接圧ばね15からホルダ14の下板142に対して常時作用する。第6の力F6は、復帰ばね35から可動鉄芯34に対して常時作用する。第7の力F7は、ホルダ14および可動鉄芯34に作用する上向きの力と下向きの力とがつり合うように、固定鉄芯33から可動鉄芯34に作用する垂直抗力である。
ここで、一対の接点台11,12の一方から他方へ可動接触子13を通して流れる電流I1が、短絡電流などの大電流であると、上述したように可動接触子13に作用する電磁反発力(第2の力F2)が大きくなる。この電磁反発力は、可動接点22と固定接点21との間の接圧を低減させるように作用するので、可動接触子13への電磁反発力の影響は極力小さく抑えることが望ましい。
そこで、本実施形態の電磁継電器1は、一対のヨーク17,18を備えることにより、このような電磁反発力の可動接触子13への影響を極力小さく抑えている。具体的には、一対のヨーク17,18は、電磁反発力の原因となる磁界(磁場)の可動接触子13への影響の抑制と、一対のヨーク17,18間の磁気吸引力との2つの作用によって、可動接触子13への電磁反発力の影響を抑制する。
すなわち、第1のヨーク17がない場合、可動接触子13の周辺には図7Aに示すような磁束φ1が生じるが、可動接触子13の上方に第1のヨーク17が設けられることにより、可動接触子13の周辺の磁束φ1は図7Bに示すように変化する。なお、図7A,図7Bは、可動接触子13および第1のヨーク17について図4AのX−X断面に相当する断面を模式的に表している。
つまり、第1のヨーク17が設けられた図7Bの状態では、可動接触子13の周辺の磁束φ1のうち、電磁反発力の原因となる向き(図7Bでは左向き)の磁界を生じる磁束は、主に第1のヨーク17内を通過する。上記磁界とは反対向きの(図7Bでは右向き)の磁界を生じる磁束は、主に可動接触子13を通過する。
そのため、可動接触子13を流れる電流I1に対して作用する磁界は、電磁反発力の原因となる磁界とは反対向きの磁界が支配的になり、可動接触子13には、可動接点22を固定接点21に接触させる向き(上向き)のローレンツ力F10が作用することになる。言い換えれば、第1のヨーク17は、電磁反発力の原因となる磁界の可動接触子13への影響を抑制する機能を持つ。
また、一対のヨーク17,18は、可動接触子13を囲むように設けられているので、可動接触子13に電流I1が流れると、この電流I1によって可動接触子13の周囲に発生する磁束が、一対のヨーク17,18を通ることになる。これにより、第1のヨーク17と第2のヨーク18との間には磁気吸引力が生じ、第2のヨーク18には図5に示すように第8の力F8が上向きに作用し、第1のヨーク17には図6に示すように第9の力F9が下向きに作用する。
ここで、第1のヨーク17はホルダ14の上板141に固定されているので、第2のヨーク18は、第1のヨーク17との間の磁気吸引力(図5に示す第8の力F8)によって可動接触子13ごと上方に引き上げられる。つまり、一対のヨーク17,18間の磁気吸引力は、可動接触子13に対して可動接点22を固定接点21へ接触させる向き(上向き)に作用し、可動接触子13への電磁反発力の影響を抑制する。
ところで、一対のヨーク17,18を用いた構成では、励磁コイル31の通電時に、第1のヨーク17に対して作用する磁気吸引力(図6に示す第9の力F9)は、固定鉄芯33から可動鉄芯34に作用する磁気吸引力(図6に示す第4の力F4)と逆向きに働く。第4の力F4は、電磁継電器1に外部から振動や衝撃が加わっても可動鉄芯34が動かないように可動鉄芯34を固定鉄芯33側(第1の位置)に固定する力である。そのため、短絡時などで可動接触子13を流れる電流I1が増大し、第9の力F9に対して第4の力F4が不足しているような場合、可動鉄芯34を位置固定する力が不足して、電磁継電器1の振動や衝撃に対する耐性が低下する可能性がある。
さらにまた、短絡時などで可動接触子13を流れる電流I1が増大して第9の力F9が第4の力F4に対して過大となる場合、第1のヨーク17がホルダ14ごと第2のヨーク18(下方)に引き寄せられることがある。この場合、可動鉄芯34と固定鉄芯33との間に乖離が生じて、可動接点22と固定接点21との間の接圧が低減する可能性がある。
また、電磁石装置3において固定鉄芯33と可動鉄芯34との間に作用する磁気吸引力を大きくすれば、第9の力F9に対し第4の力F4が不足することに起因した、振動や衝撃に対する耐性の低下や接点装置2の接圧の低減は、ある程度抑制できる。しかし、電磁石装置3の磁気吸引力を大きくすると、電磁石装置3の大型化につながり、電磁石装置3での消費電力の増大やコスト増につながる。
本実施形態に係る電磁継電器1は、電磁石装置3の励磁コイル31とは別に補助コイル4を備えることにより、これらの課題を解決する。
すなわち、補助コイル4は、図1に示すように、励磁コイル31と同軸周りに巻かれたコイルであって、接点装置2と直列に接続されている。本実施形態では、補助コイル4は、第2の接点台12と第2の出力端子T2との間に接続されている。これにより、補助コイル4は、接点装置2が閉じた状態で、走行用のバッテリ101から負荷102へ供給される負荷電流(電流I1)の経路の一部を形成し、この負荷電流によって励磁される。
このとき補助コイル4の生じる磁束が、継鉄32と固定鉄芯33と可動鉄芯34とで形成される磁気回路上において、励磁コイル31の生じる磁束と同じ向きとなるように、補助コイル4の巻き付け方向は設定されている。したがって、可動接点22が閉位置にある状態で、磁気回路(継鉄32と固定鉄芯33と可動鉄芯34)上には、励磁コイル31の生じる磁束に補助コイル4の生じる磁束分を加えた磁束が生じることになる。
さらに詳しく説明すると、本実施形態では、磁気回路のうち固定鉄芯33と可動鉄芯34とを含む直線状の一部の周囲に、励磁コイル31と補助コイル4とが巻かれている。補助コイル4および励磁コイル31は、補助コイル4の外周に励磁コイル31が重なるように二重巻きにされている。励磁コイル31の内周面と第4継鉄324の外周面との間には、上述したように隙間が確保されているので、この隙間を利用して補助コイル4は配置される。言い換えれば、補助コイル4は、上下方向に沿った励磁コイル31の中心軸に直交する平面において励磁コイル31の内側に設けられている。
なお、電磁石装置3が、励磁コイル31が巻き付けられるコイルボビン(図示せず)を有する場合には、固定鉄芯33と可動鉄芯34と補助コイル4とは、コイルボビンの内側に配置される。
ここで、補助コイル4には、走行用のバッテリ101から負荷102へ供給される負荷電流が流れるので、補助コイル4での損失(銅損)を小さく抑えるように、コイル線(銅線)の線径を大きく且つ線長を短くすることが望ましい。補助コイル4の起磁力は、補助コイル4を流れる電流の大きさと、補助コイル4の巻き数(ターン数)との積で表される。補助コイル4で生じる磁束が必要になるのは、基本的には、短絡電流などの過大な電流I1が可動接触子13を流れる場合である。たとえば数千アンペア(A)の短絡電流を想定すれば、補助コイル4は、3〜10回程度の巻き数で十分な起磁力を生じることができるので、補助コイル4の巻き数を3〜10回程度に抑えてコイル線を短くすることが望ましい。
以上説明した本実施形態の電磁継電器1によれば、励磁コイル31と同軸周りに巻かれたコイルであって、接点装置2と直列に接続された補助コイル4が、電磁石装置3の励磁コイル31に加えて備わっている。この補助コイル4は、可動接点22が閉位置にあるときに接点装置2を通して流れる負荷電流によって、磁気回路上に励磁コイル31の生じる磁束と同じ向きの磁束を生じるように構成されている。
したがって、固定鉄芯33から可動鉄芯34に作用する磁気吸引力(図6に示す第4の力F4)は、励磁コイル31で生じる磁気吸引力に、接点装置2を流れる負荷電流の大きさに応じて補助コイル4で生じる磁気吸引力を加えた大きさになる。そのため、一対の出力端子T1,T2間を流れる電流が大きくなるほど、固定鉄芯33から可動鉄芯34に作用する磁気吸引力が増大する。よって、本実施形態の電磁継電器1によれば、第1のヨーク17に作用する磁気吸引力(図6に示す第9の力F9)に対して第4の力F4が不足することに起因した、振動や衝撃に対する耐性の低下や、接点装置2の接圧の低減が生じにくくなる。
また、この電磁継電器1は、基本的には、電磁石装置3の励磁コイル31が生じる磁束によって接点装置2が開状態から閉状態に切り替えられ、且つ接点装置2が閉状態に維持されるのであって、接点装置2の動作状態は接点装置2に流れる電流には依存しない。したがって、一対の出力端子T1,T2間を流れる電流(負荷電流)が小さくなっても、接点装置2の動作状態(閉状態)は電磁石装置3によって十分に維持され、接点の接触安定性が低下する可能性は低くなる。
さらに、補助コイル4は、電磁石装置3の励磁コイル31と同軸周りに巻かれているので、補助コイル4の漏れ磁束と励磁コイル31の漏れ磁束とが互いに相殺する可能性も低い。したがって、補助コイル4が励磁された状態で、補助コイル4と励磁コイル31とで磁束が相殺されることより、接点装置2の動作状態(閉状態)を維持するための磁束が減少することに起因して接点の接触安定性が低下する可能性は低くなる。
結果的に、本実施形態の構成によれば、接点の接触安定性が向上した電磁継電器1を提供することができる。
しかも、電磁石装置3の磁気吸引力は、接点装置2に電流(負荷電流)が流れていない状態において、接点装置2を開状態から閉状態に切り替え、且つ接点装置2を閉状態に維持するのに必要十分な大きさであればよい。そのため、短絡電流などの過大な電流I1が可動接触子13に流れた際には、補助コイル4により固定鉄芯33−可動鉄芯34間の磁気吸引力を増大しながらも、電磁石装置3の大型化を避けることができ、電磁石装置3での消費電力の増大やコスト増を回避できる。言い換えれば、短絡電流などの過大な電流I1が可動接触子13に流れた際の固定鉄芯33−可動鉄芯34間の磁気吸引力を同一とするならば、補助コイル4がない場合に比べて、電磁石装置3を小型化することができ、消費電力の低下やコスト減が期待できる。
また、本実施形態では、補助コイル4は、励磁コイル31の中心軸に直交する平面において励磁コイル31の内側に配置されているので、励磁コイル31の外側に配置される場合に比べて同じ巻き数でも補助コイル4のコイル線の線長を短くできる。そのため、電磁継電器1は、補助コイル4の銅損を小さく抑えることができ、また補助コイル4を設けたことによる重量の増加を小さく抑えることができる。さらに、補助コイル4を設けたことにより電磁石装置3の外形が大きくなることはないので、補助コイル4が励磁コイル31の外側に配置される場合に比べて、電磁継電器1はコンパクトになる。
なお、本実施形態においては、電磁継電器1が、一対のヨーク17,18を備える構成を前提として、補助コイル4を備える場合について説明したが、この構成に限らず、一対のヨーク17,18は省略されていてもよい。
(実施形態2)
本実施形態の電磁継電器1は、図8に示すように、補助コイル4が、励磁コイル31の中心軸に直交する平面において励磁コイル31の外側に配置されている点で、実施形態1の電磁継電器1と相違する。以下、実施形態1と同様の構成については、共通の符号を付して適宜説明を省略する。
本実施形態では、励磁コイル31の内周面と第4継鉄324の外周面との間に隙間を確保する必要はないので、図8に示すように、励磁コイル31の内径は実施形態1の構成に比べて小さく形成されている。ここで、励磁コイル31の巻き数が実施形態1と同じであるとすれば、励磁コイル31の外径は実施形態1に比べて小さくなるので、励磁コイル31の外周面と第3継鉄323の内周面との間には隙間が確保され、この隙間を利用して補助コイル4は配置される。
つまり、図8の例では、補助コイル4は、第3継鉄323の内側に設けられている。補助コイル4および励磁コイル31は、励磁コイル31の外周に補助コイル4が重なるように二重巻きにされる。
補助コイル4は、実施形態1と同様に、接点装置2を流れる負荷電流によって、磁気回路(継鉄32と固定鉄芯33と可動鉄芯34)上に、励磁コイル31の生じる磁束と同じ向きの磁束を生じるように構成されている。
以上説明した本実施形態の電磁継電器1によれば、電磁石装置3の構造に大幅な変更を加えることなく、補助コイル4を付加することが可能になる。したがって、電磁継電器1は、補助コイル4を付加することに伴う、補助コイル4以外の構造の変更を最小限に抑えることができる。また、電磁継電器1は、接点装置2の切り替え等を基本的に担う電磁石装置3の効率を損なうことなく、補助コイル4を付加することができる。
さらに、補助コイル4は励磁コイル31の外側に配置されているので、補助コイル4の放熱性を高めることができ、短絡電流などの過大な電流が補助コイル4に流れた場合でも、効率的に放熱することができる。
その他の構成および機能は実施形態1と同様である。
(実施形態3)
本実施形態の電磁継電器1は、図9に示すように、補助コイル4が、励磁コイル31の中心軸に直交する平面において励磁コイル31の内側と外側との両方に配置されている点で、実施形態1の電磁継電器1と相違する。以下、実施形態1と同様の構成については、共通の符号を付して適宜説明を省略する。
本実施形態では、補助コイル4は、第1の補助コイル41と第2の補助コイル42とを有している。第1の補助コイル41は、第1の接点台11と第1の出力端子T1との間に挿入され、第2の補助コイル42は、第2の接点台12と第2の出力端子T2との間に挿入されている。言い換えれば、一対の出力端子T1,T2間において、第1の補助コイル41と接点装置2と第2の補助コイル42とは直列に接続されている。
第2の補助コイル42は、実施形態1の補助コイル4と同様に励磁コイル31の内側に配置されている。励磁コイル31の内周面と第4継鉄324の外周面との間には隙間が確保されているので、この隙間を利用して第2の補助コイル42は配置される。
また、第1の補助コイル41は、実施形態2の補助コイル4と同様に励磁コイル31の外側に配置されている。本実施形態では、図9に示すように、励磁コイル31の外周面と第3継鉄323の内周面との間には隙間が確保され、この隙間を利用して第1の補助コイル41は配置される。
つまり、図9の例では、第1の補助コイル41は、第3継鉄323の内側に設けられている。第1の補助コイル41および励磁コイル31は、励磁コイル31の外周に第1の補助コイル41が重なるように二重巻きにされる。
第1の補助コイル41と第2の補助コイル42とは、いずれも接点装置2を流れる負荷電流によって、磁気回路(継鉄32と固定鉄芯33と可動鉄芯34)上に、励磁コイル31の生じる磁束と同じ向きの磁束を生じるように構成されている。そのため、可動接点22が閉位置にある状態で、磁気回路上には、励磁コイル31の生じる磁束に第1の補助コイル41の生じる磁束分と第2の補助コイル42の生じる磁束分とを加えた磁束が生じることになる。
以上説明した本実施形態の電磁継電器1によれば、第1の補助コイル41と第2の補助コイル42との各々が、可動接点22が閉位置にあるときに接点装置2を通して流れる負荷電流によって、磁気回路上に励磁コイル31の生じる磁束と同じ向きの磁束を生じる。したがって、固定鉄芯33から可動鉄芯34に作用する磁気吸引力は、励磁コイル31で生じる磁気吸引力に、第1の補助コイル41で生じる磁気吸引力と第2の補助コイル42で生じる磁気吸引力とを加えた大きさになる。その結果、電磁継電器1は、第1の補助コイル41と第2の補助コイル42とのいずれか一方のみが設けられた構成に比べて、固定鉄芯33から可動鉄芯34に作用する磁気吸引力が一層増大し、接点の接触安定性がより向上する。
しかも、第1の補助コイル41は励磁コイル31の外側に配置されているので、第1の補助コイル41の放熱性を高めることができ、短絡電流などの過大な電流が第1の補助コイル41に流れた場合でも、効率的に放熱することができる。また、第2の補助コイル42は、励磁コイル31の中心軸に直交する平面において励磁コイル31の内側に配置されているので、励磁コイル31の外側に配置される場合に比べて同じ巻き数でも第2の補助コイル42のコイル線の線長を短くできる。そのため、電磁継電器1は、第2の補助コイル42の銅損を小さく抑えることができ、また第2の補助コイル42を設けたことによる重量の増加を小さく抑えることができる。
その他の構成および機能は実施形態1と同様である。
(参考例)
本参考例の電磁継電器1は、図10に示すように、補助コイル4を構成する第1の補助コイル41と第2の補助コイル42とが、励磁コイル31と異なる軸周りに巻かれている点で、実施形態3の電磁継電器1と相違する。以下、実施形態3と同様の構成については、共通の符号を付して適宜説明を省略する。
本参考例では、継鉄32と固定鉄芯33と可動鉄芯34とで形成される磁気回路のうち、固定鉄芯33と可動鉄芯34とを含む直線状の一部の周囲には、励磁コイル31が巻かれている。さらに、この磁気回路のうち、一対の第3継鉄323の一方(図10では左側)の第3継鉄323の周囲には第1の補助コイル41が巻かれ、他方の(図10では右側)の第3継鉄323の周囲には第2の補助コイル42が巻かれている。
この構成では、励磁コイル31の内周面と第4継鉄324の外周面との間に隙間を確保する必要はないので、図10に示すように、励磁コイル31の内径は実施形態3の構成に比べて小さく形成されている。ここで、励磁コイル31の巻き数が実施形態3と同じであるとすれば、励磁コイル31の外径は実施形態3に比べて小さくなるので、励磁コイル31の外周面と第3継鉄323との間に補助コイル4を巻き付けるスペースが確保される。
さらに、本参考例では、図10に示すように、上下方向に直交する平面内において第1継鉄321と第2継鉄322とが、実施形態3の構成に比べて大きく形成されている。第3継鉄323は、第1継鉄321と第2継鉄322との周縁よりやや内側の部位同士を連結している。これにより、第1継鉄321と第2継鉄322との間には、第3継鉄323の外側において補助コイル4を巻き付けるスペースが確保される。第1の補助コイル41および第2の補助コイル42は、これらのスペースを利用して、一対の第3継鉄323の各々に巻き付けられる。
第1の補助コイル41と第2の補助コイル42とは、いずれも接点装置2を流れる負荷電流によって、磁気回路(継鉄32と固定鉄芯33と可動鉄芯34)上に、励磁コイル31の生じる磁束と同じ向きの磁束を生じるように構成されている。そのため、可動接点22が閉位置にある状態で、磁気回路上には、励磁コイル31の生じる磁束に第1の補助コイル41の生じる磁束分と第2の補助コイル42の生じる磁束分とを加えた磁束が生じることになる。
以上説明した本参考例の電磁継電器1によれば、補助コイル4が励磁コイル31と同軸周りに巻かれる必要がないので、補助コイル4の配置の自由度が高くなる。すなわち、補助コイル4は、磁気回路の一部の周囲に巻かれ、この磁気回路上に、接点装置2を流れる負荷電流によって、励磁コイル31の生じる磁束と同じ向きの磁束を生じる構成であればよい。したがって、電磁継電器1は、たとえば可動鉄芯34が直進往復移動するプランジャ型の電磁石装置3に限らず、ヒンジ型の電磁石装置を採用する場合でも、補助コイル4を付加することが可能である。
なお、補助コイル4は、本参考例では第1の補助コイル41および第2の補助コイル42の2つのコイルを有しているが、この構成に限らず、1つあるいは3つ以上のコイルが補助コイル4として設けられていてもよい。
その他の構成および機能は実施形態3と同様である。