JP2015022042A - 単一細胞を解析するための顕微鏡システム、単一細胞の解析方法及び解析用キット - Google Patents
単一細胞を解析するための顕微鏡システム、単一細胞の解析方法及び解析用キット Download PDFInfo
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Abstract
【解決手段】本発明は、単一細胞を解析するための顕微鏡システムであって、顕微鏡と、顕微鏡のステージに載置される培養容器中に配置される、細胞が1個のみ接着できる主面を有し、磁性体を含む、少なくとも1つのマイクロプレートと、磁場発生手段と、を備え、前記磁場発生手段が、マイクロプレートを所望の位置及び/又は角度に動かせるよう構成されている、顕微鏡システムを提供する。
【選択図】図4
Description
しかしながら、これらの方法では、接着細胞を解析する場合、基板から細胞を剥離することが必要となり、解析に先立ってトリプシン処理が行われる。このような化学物質による処理は、細胞の生存率を低下させ、細胞の形態や機能に悪影響を及ぼす可能性がある(非特許文献3)。接着細胞の挙動や機能、微生物との相互作用を解析するためには、その接着性を維持して自然に近い状態で解析することが望ましい。生体を構成する細胞の大部分は接着細胞であることから、このような解析方法が強く求められている。
そして、かかるシステムを用いて、実際に細胞が接着したマイクロプレートを自在に傾けて共焦点レーザ顕微鏡で観察することにより、あらゆる方向で100nm程度の解像度を持つ2次元画像が得られる結果、細胞内のアクチンファイバーや微小管の一本一本の繊維の断面まで鮮明に観察することができることを確認した。また、接着細胞に寄生虫が侵入する際の両者の細胞膜における相互作用も鮮明に観察することができ、寄生虫侵入のプロセスに関する新たな知見を得た。
加えて、かかるマイクロプレートを細胞に毒性を与えることなく極めて効率よく製造する方法を見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、
〔1〕単一細胞を解析するための顕微鏡システムであって、
顕微鏡と、
顕微鏡のステージに載置される培養容器中に配置される、細胞が1個のみ接着できる主面を有し、磁性体を含む、少なくとも1つのマイクロプレートと、
磁場発生手段と、を備え、
前記磁場発生手段は、マイクロプレートを所望の位置及び/又は角度に動かせるよう構成されている、顕微鏡システム;
〔2〕前記顕微鏡が、共焦点レーザ顕微鏡又は位相差顕微鏡である、上記〔1〕に記載の顕微鏡システム;
〔3〕前記磁場発生手段が、環状の磁石又はコイルであり、
前記マイクロプレートが、環状の磁石又はコイルの中央に配置される、上記〔1〕又は〔2〕に記載の顕微鏡システム;
〔4〕前記培養容器が、マイクロ流体デバイスである、上記〔1〕から〔3〕のいずれかに記載の顕微鏡システム;
〔5〕上記〔1〕から〔4〕のいずれかに記載の顕微鏡システムを用いて単一細胞を解析する方法であって
前記マイクロプレートに細胞を接着させる工程と、
前記磁場発生手段を制御して前記マイクロプレートを顕微鏡で観察しやすい位置及び/又は角度に動かす工程と、
前記マイクロプレートに接着した細胞を顕微鏡で観察する工程と、
を含む方法;
〔6〕前記顕微鏡が共焦点レーザ顕微鏡又は位相差顕微鏡であって、前記磁場発生手段によって、細胞の観察したい断面がx−y平面となるようにマイクロプレートを傾ける、上記〔5〕に記載の方法;
〔7〕微生物の細胞への侵入又は細胞からの放出の解析に用いられる、上記〔5〕又は〔6〕に記載の方法;
〔8〕単一細胞の解析用キットであって、
基板上にアルギン酸カルシウムゲルを介して、1以上のマイクロプレートが固定されたマイクロプレート固定基板を備え、
前記マイクロプレートは、細胞が1個のみ接着できる主面を有し、磁性体を含む、キット;
〔9〕さらに、磁場発生手段を備える、上記〔8〕に記載のキット、
に関する。
これにより、これまでわからなかった細胞内部の構造や、細胞内タンパク質やオルガネラの局在を詳細に知ることができる。また、細胞間相互作用や細胞と微生物の相互作用における両者の細胞膜の境界も鮮明に観察することができるので、そのメカニズムの研究に大きく貢献する。
本発明に係る顕微鏡システムは、単一細胞を解析するための顕微鏡システムであって、顕微鏡と、少なくとも1つのマイクロプレートと、磁場発生手段と、を備える。
本明細書において「顕微鏡」は、単一細胞を観察できるものである限り特に限定されないが、例えば、実体顕微鏡、蛍光顕微鏡、レーザ走査顕微鏡、共焦点レーザ顕微鏡、位相差顕微鏡などの光学顕微鏡;透過型電子顕微鏡、走査型電子顕微鏡などの電子顕微鏡;原子間力顕微鏡、走査型トンネル顕微鏡、走査型近接場光顕微鏡などの走査型プローブ顕微鏡;X線顕微鏡;超音波顕微鏡などが挙げられる。
中でも、本発明に係る顕微鏡システムは、細胞を所望の位置及び/又は角度に動かすことができることから、共焦点レーザ顕微鏡や位相差顕微鏡が適している。
したがって、細胞とマイクロプレートの接着面における細胞の最大径が、マイクロプレートの最大径の40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上となるような関係が好ましい。細胞とマイクロプレートの接着面における細胞の最大径とは、細胞の接着面の形状の周囲における任意の2点を結んだ直線の長さが最大となる場合の長さを意味する。また単一細胞を二日間以上培養すると細胞は分裂、増殖するが、細胞とマイクロプレートの接着面のサイズをこのような関係とすると、分裂後、マイクロプレート上に初めにあった細胞はそのまま接着状態を維持し、増殖した細胞はもとの細胞の上部に重なって存在し、次第にマイクロプレートから剥離される。そのためマイクロプレートの細胞数を安定的かつ長期間にわたって単一に限定することが可能となる。
マイクロプレートは、全体として、平板、ディスク状、又は円錐台等の形状とすることができるが、これらに限定されない。
なお、マイクロプレートに2個以上の細胞が重なって接着できる場合であっても、そのうち1個の細胞のサイズが上記条件を満たしている限り、「細胞が1個のみ接着できる」に該当する。
磁性体を含むマイクロプレートに外部から磁場をかけると、磁性体に磁気双極子モーメントが誘導され、マイクロプレートが磁場に沿って動く。
また、磁性体はどのような形状であってもよい。例えば、マイクロプレート平面状に磁性体を長方形にパターニングすれば、その長軸方向が与えられた磁場方向に配向する。
また、培養容器として、マイクロ流体デバイスを用いてもよい。マイクロ流体デバイスとは、MEMS(Microelectromechanical Systems)などのマイクロ加工技術を利用して、微小流路や反応容器を作製したデバイスである。培養容器としてマイクロ流体デバイスを用いてもよいし、培養容器としてシャーレを用い、その中にマイクロ流体デバイスを配置してもよい。
マイクロプレートを構成する材料としては、例えば、ガラス、金属、半導体、セラミックス、樹脂(例えばパラキシリレン系ポリマー)、又はこれらの複合材料などが挙げられるがこれらに限定されない。複数の材料からなる層構造としてもよい。
環状の磁場発生手段を用いれば、共焦点レーザ顕微鏡を用いる場合にもレーザ光の光路を阻害しないという利点もある。
磁場発生手段としてコイルを用いる場合、コイルに流す電流の量を調節することによって、マイクロプレートの傾斜角度を精緻に制御することが可能となる。
本発明に係る顕微鏡システムは、既存の顕微鏡に、マイクロプレートと磁場発生手段を適宜配置することにより構成することができる。マイクロプレートは、培養容器内に配置する。磁場発生手段はその形状に応じて、細胞の観察を阻害しないよう配置すればよい。例えば、環状の磁石やコイルを用いる場合には、その中央にマイクロプレートが来るように顕微鏡のステージに置けばよい。
また、図1(a)に示されるように、フォトリソグラフィ法によって形成してもよい。
図1(a)に示す方法では、SiO2基板をでアルギン酸ハイドロゲルでコーティングして犠牲層を形成した後、パリレン(登録商標)でさらにコーティングする。その上にクロム層とパーマロイ層を順に蒸着により形成し、必要に応じてパターニングする。クロム層はパーマロイをパリレンに接着するための層として機能する。
パーマロイは、溶出して細胞に悪影響を及ぼす可能性があるため、ここにパリレンをさらに積層する。その後、アルミニウムマスクをパリレン上にパターニングし、エッチングによってマイクロプレートを所望の形状に成形する。
続いて、フォトレジストを除去し、適宜洗浄した後、マイクロプレート表面は細胞の接着を促進する物質でコーティングし、マイクロプレートの周囲に露出した基板表面は、細胞接着やタンパク質吸着が生じにくい物質(例えば、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)ポリマー)でコーティングする。
図1(a)の方法は一例であり、材料や、積層方法、パターニング方法は、当業者が適宜選択することができる。
犠牲層として、アルギン酸カルシウムハイドロゲルを用いれば、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄することでハイドロゲル中のカルシウムイオンがナトリウムに置換されることでゲルが溶出するので、使用者において簡便にマイクロプレートを基板から外すことができる。ゲルの溶出は、PBS添加後一分以内で起こる。アルギン酸カルシウムゲルを用いる場合、そのままパリレンを積層するとゲルの水分によってパリレンの構造が壊れることがあるため、脱気などの方法でゲルの水分をある程度除去してからパリレンを積層するとよい。
PBSは細胞に悪影響を与えることもないので、マイクロプレート固定基板を購入した使用者が、アレイ状に並んだマイクロプレート上にまず細胞を接着させ、その後PBSで洗浄することによって、それぞれに単一細胞が接着したマイクロプレートを得ることが可能である。
なお、犠牲層は、細胞に悪影響を及ぼすことなく溶出させることができるものであればよく、アルギン酸ハイドロゲル以外の材料を用いてもよい。例えば犠牲層をゼラチンで形成すれば、穏やかに加熱することにより犠牲層を除去することができ、また光刺激に応答して分解する光分解性ゲルを用いることで、特定の波長の光を照射することで除去することができる。
本発明に係る単一細胞の解析方法は、本発明の顕微鏡システムを用いるものであり、前記マイクロプレートに細胞を接着させる工程と、前記磁場発生手段を制御して前記マイクロプレートを顕微鏡で観察しやすい位置及び/又は角度に動かす工程と、前記マイクロプレートに接着した細胞を顕微鏡で観察する工程と、を含む。
細胞がアレイ状のマイクロプレートのそれぞれに接着したら、犠牲層の種類に応じた方法でマイクロプレートを基板から外す。この際、磁場をかけながら外すとマイクロプレートの動きを制御することができる。
マイクロプレートは、例えば磁場をかけながら、ナノツイーザ(nano-tweezers)等の器具を用いて動かしてもよい。ナノツイーザによれば、マイクロプレートを一つずつ精緻に配置することが可能である。
また、本工程では、マイクロプレートを、マイクロ流体デバイスの流路に配置し、流体の動きでマイクロプレートの位置や動きを制御することもできる。流路に堰を適宜設計することによって、マイクロプレートを所望の場所に移動及び固定できるので、例えばアレイ状に並べてもよい。マイクロ流体デバイスによれば、多くのマイクロプレートを高速に一括して再配置することができ、その状態で磁場をかけて、多くのマイクロプレートを同様に傾けることも可能である。また、マイクロ流体デバイスに配置すれば、層流を加えて新鮮な培養液や反応刺激物を細胞に送達することも可能である。
これに対し、本発明によれば、マイクロプレートを傾けることによって、画像を得たい断面をx−y平面とすることができるので、1枚の画像として直接撮影でき、極めて解像度の高い画像を短時間で得ることが可能である。
なお、本明細書において、顕微鏡の「x−y平面」とは、顕微鏡の光軸に垂直な平面を意味する。
また、本発明に係る解析方法によれば、マイクロプレートに山状に接着した細胞の頂点付近から寄生虫が侵入する様子を鮮明に捉えることができた。寄生虫の侵入や放出は20秒程度の短時間で起こるものであるため、複数のx−y画像を得て3次元画像を再構築する方法で観察することはほとんど不可能であった。
本発明に係る方法によれば、微生物が細胞に侵入したか否かのみならず、細胞と微生物との境界の様子や、微生物が侵入する角度等も観察することができる。また細胞の膜表面下で起こる現象は、基礎生物学にとどまらず創薬や細胞スクリーニングなどの広い領域の研究対象となっており、外界から細胞内に移入するエンドサイトーシス・ファゴサイトーシス、細胞外からの小胞などの輸送とされるエキソサイトーシス、またマイクロサイズの小胞の膜直下でのやり取りであるメンブレントラフィックが挙げられる。これらの現象も従来より全て細胞をシャーレごと傾斜化するなどの方法で解析しようとされており、本デバイスの応用され得る技術として考えられる。
本発明に係る単一細胞の解析用キットは、マイクロプレート固定基板、即ち、基板上にマイクロプレートがアレイ状に配置された構造体を備える。マイクロプレート固定基板においては、マイクロプレートがアルギン酸カルシウムゲルを介して基板に固定されていることが好ましい。このような構成であれば、使用者においてマイクロプレート固定基板上の各マイクロプレートに単一細胞を接着させた後、PBSで洗浄することによって、穏やかにマイクロプレートを基板から分離することができる。
(1)マイクロプレートの作製
図1aに、マイクロプレートの製造方法の概略を示す。
ガラス基板上にアルギン酸ハイドロゲル層を設けた。アルギン酸ハイドロゲル層は、まず塗布されたアルギン酸ナトリウム溶液を塩化カルシウム溶液に漬けてゲル化させることにより、目的の厚みを持った薄膜のハイドロゲルを得る。このアルギン酸の上にマイクロプレートを配置することで、ハイドロゲル層を溶かすことで、プレート上の細胞に毒性を与えることなく、基板からマイクロプレートを分離できる犠牲層としての機能を有する。
マイクロプレートの材料には、生体適合性と透明度に優れたParylene-C(DPX−C、Speedline Technology)を用いた。アルギン酸ハイドロゲルの犠牲層上に、paryleneを積層し(Labcoater PDS2010 Specialty Coating Systems, Indianapolis)、クロム層とパーマロイ(78 Permalloy, 100-nm-thickness, Nilaco corp.)層をさらにスパッタリングして、paryleneマイクロプレートに磁性を与えた。パーマロイ層は、その上部にフォトレジストを塗布し、任意の形状を持つマスクを通じて光を照射することで、目的の形状をしたフォトレジストマスクをパターニングした後に、王水によりエッチングする。その後、露出したクロム層をHY液(和光純薬工業)によりエッチングし、フォトレジスト以外の領域のパリレン層を露出させる。この際、フォトレジストマスクのパターンを長方形に設計することで、長方形の形状をもつクロム・パーマロイ層を形成することができる。
クロム層は、パーマロイとparyleneの接着層として機能する。
続いて、パーマロイの微量の溶出が細胞に毒性を与えるのを防ぐため、パーマロイをparylene層で再度コーティングし、接着細胞がパーマロイに直接接触しないようにした。paryleneの第1層と第2層を合わせた厚みは約1μmであった。Alマスク層をparylene上にフォトレジストを用いてパターニングし、O2プラズマでエッチングした(RIE-10NR、SAMCO、International Inc.)。O2プラズマではAl層はエッチングされず、paryleneとアルギン酸ハイドロゲルのみがエッチングされる。そのためAl層でカバーされていない部分が、ガラス基板表面が露出するまでエッチングされ、Al層のparyleneとアルギン酸の層が残る。この際、任意のAlマスク層の形状を作製することで、その形状に応じたparyleneマイクロプレートを作製することが可能となる。最後に、細胞接着の促進を阻害するフォトレジストをアセトンにより除去し、イソプロピルアルコール(IPA)でリンスした。
続いて、基板表面にタンパク質吸着と細胞接着を防ぐ2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)ポリマーを塗布し、基盤に残っているAl層を除去した。これによりAl層の直下に存在するparyleneの表面が露出する。その後細胞の接着を誘導するタンパク質であるフィブロネクチンを添加することで、MPCポリマーのあるガラス表面にはフィブロネクチンは接着せず、マイクロプレートのみに吸着し、細胞が接着するようにパターニングした。マイクロプレートの材質であるparyleneは疎水性の表面を有するため、フィブロネクチンの疎水性の構造と特異的に吸着するため、タンパク質の塗布が可能となると考えられる。
図1b及びcに、基板上に形成されたマイクロプレートの光学顕微鏡写真とSEM像をそれぞれ示す。長方形のバーの形をしたパーマロイのパターンがparyleneでコーティングされたマイクロプレートが観察された。
ヒト包皮線維芽細胞(human foreskin fibroblast cells; HFF)及びマウス線維芽細胞様細胞(NIH/3T3)を用いた。細胞の培養条件は、37℃、5% CO2とし、10%のウシ胎児血清(FBS, F7524-500ML, SIGMA)及び10μg/mlのゲンタマイシンを含むDMEM培地(DMEM, 11885, Gibco)を培地として用いた。細胞をマイクロプレート上に分散させた後、プレートへの予備的な細胞接着が完了するまで2時間培養した。マイクロプレートに接着していない細胞を除去するために、マイクロプレートをリン酸緩衝生理食塩水(PBS)でリンスした。
Toxoplasma gondiiを用いた。T. gondii RH株は、HFF細胞内で維持した。T. gondiiはDMEM中、タキゾイト(tachyzoite)として増殖させた。寄生虫は、21Gの針で吸引して宿主細胞から分離し、ポリカーボネート膜フィルター(pore size 3μm、Millipore)で濾過して宿主細胞と細胞残屑を除いた。Caを含むPBSバッファ(pH 7.2)で洗浄し、500×gの遠心処理を10分行って回収した。
細胞染色は、細胞を4%パラホルムアルデヒド溶液で固定し、0.1% Triton X-100で透過性にし、1% BSAで1時間ブロッキングした。α−チューブリン染色は、細胞をマウスモノクローナル抗α−チューブリン抗体(1:100、Sigma)とインキュベートし、続いて、Alexa-Fluor-488結合抗マウスIgG(1:100、Molecular Probes)とインキュベートした。アクチン・フィラメントは、TRITC結合ファロイジン(1:100、Molecular Probes)で染色した。DAPI(ProLong gold antifade reagent with DAPI, Invitrogen)で核を対比染色した後、Olympus顕微鏡で蛍光像を得た。
1.マイクロプレートへの細胞の接着
細胞は、各マイクロプレートに接着した後、図2Aに示されるとおり、その表面全体に拡がった。いくつかの細胞は、二つのマイクロプレートにまたがって配置された。細胞が接着して拡がるまで約2時間かかった。
各マイクロプレート上の細胞数は、マイクロプレートの直径と懸濁した細胞の濃度に依存した。
マイクロプレートの直径を変えて、細胞の接着の状態を調べた結果を図2Bに示す。直径が小さいとアポトーシスが起きる可能性が高く、マイクロプレートに接着する細胞数とのバランスから、50μmのマイクロプレートが最適であると判断した。
また、マイクロプレート上に添加する細胞の濃度を変えて、細胞の接着の状態を調べた結果を図2Cに示す。HFF細胞では、4×104細胞/mL、NIH3T3細胞では、2×105細胞/mLのときに、1個ずつ細胞が接着したマイクロプレートが最も多く得られた。
その後、PBSを添加することで磁場をかけながら基板からプレートをはずした。その際細胞はマイクロプレートから剥離されず、接着状態を維持したまま、マイクロプレートごと浮遊した。浮遊化させることにより、ナノツイーザ(AOI electronics, co., Ltd)やマイクロピペットを用いて、個別に一つ一つの細胞を操作することができた。PBSによる剥離前、剥離後、細胞の操作前、操作後のすべての段階において細胞は生存しており、活性が維持されていることが確認された。またParyleneはヤング率が4GPaにも及ぶ高い機械的強度を有するため、細胞の培養後もひずみやたわみを生じることなく、平板な表面構造を維持していた。また磁場をかけた後も平坦な表面構造を維持していた。
図3に、磁場を利用して細胞の位置や角度を制御した際の代表的な顕微鏡写真を示す。
磁場を強くすると、ほとんどの細胞はマイクロプレートごと傾いた(Tilt)。また、磁場の方向を帰ると、その場で回転した(Rotation)。さらに、磁場の方向を制御することにより、300μm/minの速度で、細胞を水平方向に移動させることができた(Translational motion)。これらの動作を組み合わせることにより、目的のマイクロプレート上の細胞のみを顕微鏡の視野内に配置させ、目的の角度に配向させた状態で長時間の観察が可能となる。これらの動作は、パーマロイ層が20 μm×5 μm×100 nmの形状を持つ場合、0.2 mTの磁場の強さで作用する。ただこの磁場の強さに限定されることはなく、パーマロイ層の厚みや形状を変えることで、任意の磁場の強度に応答することが可能となる。
図4は、磁場によってマイクロプレートを立たせ、ナノツイーザを用いて2つの細胞を接触させたところを示す。このように精密に細胞の角度と位置を制御することにより、細胞の相互作用を最適な方向から観察できるようになった。従来から複数の細胞を接着化状態で配置し、細胞間相互作用の解析を行う研究が広く行われてきたが、細胞の隣接配置のために上記のトリプシンなどの細胞を剥離する工程を入れなければならず、細胞周期の変動や細胞死の誘導、また接着状態を阻害されているため膜タンパク質の変質により本来の細胞の機能を見ることができないという問題があった。そこで本手法を用いることで細胞を接着状態が維持されたまま隣接配置が可能であるため、より組織に存在する細胞に近い活性を保持して、細胞の機能を観察、解析することに成功した。
図5に、共焦点レーザ顕微鏡による観察の概念を示す。上段に示すとおり、従来は容器等に接着した細胞を観察する場合、容器に垂直な方向の断面については、複数の水平断面像から三次元構造を再構築して得なければならず、解像度が低くなる上に、時間もかかるという問題があった。
本発明によれば、マイクロプレートを自由に回転させることができるため、マイクロプレートに垂直な方向を顕微鏡のx−y平面にすることができ、あらゆる方向の断面図を、従来の方法で水平断面像と得るのと同じように得ることができる。したがって、解像度の高い像を短時間で得ることが可能である。そのため細胞内の蛍光物質の褪色が最低限に抑えられるという利点だけでなく、微生物の感染などの数秒単位で起こる細胞の現象をリアルタイムでとらえることが可能となる。
本発明に係る方法で、マイクロプレートを回転させて観察したところ、細胞の輪郭が明瞭に観察され、アクチンファイバーや微小管の断面を、鮮明な点として捉えることができた(図右)。細胞内には多くの種類のタンパク質が存在し、細胞の生命活動維持に貢献している。そのほとんどが研究対象となっており、詳細な細胞内での局在や発現量を解析するための簡便で高解像度な画像を取得できる手法として応用が可能となる。
マイクロプレートを立てた状態で、T. gondiiが細胞に侵入する様子を共焦点レーザ顕微鏡で横から観察した。
代表的な像を図7〜9に示す。感染性微生物は、通常、宿主細胞の膜への接着、侵入、細胞内への封入の3つの段階を経て宿主細胞に感染する。微生物と宿主細胞の相互作用を調べるためには、各段階において、宿主細胞の形態を制御しながら、細胞膜周辺の細胞境界の高解像度の画像を得る必要がある(T. Teshima, et al., Digest Tech. Papers MicroTAS'12 Conference, Okinawa, October 29 - November 1, 2012, pp. 2.A1-2.、V. Carruthers, et al., Current Opinion in Microbiology, vol. 10, pp. 83-89, 2007.)。
この点、図7に示されるとおり、本発明の方法によれば、T. gondiiが細胞に近づくと、細胞膜表面がT. gondiiに引き寄せられるように盛り上がることが観察された。そして、図8に示されるとおり、細胞膜がT. gondiiを包むような状態で、T. gondiiが細胞に侵入していく様子が鮮明に見られた。また、細胞内に封入された微生物とその周囲の様子も明らかとなった(図9)。
従来、微生物は宿主細胞の細胞膜を破壊して侵入すると考えられており、微生物と宿主細胞の膜の間にこのような相互作用があることは、本発明によって確認されたまったく新しい知見である。
マイクロプレートを傾けた状態で、T. gondiiが細胞に侵入する様子を位相差顕微鏡で横から観察した。その結果、寄生虫が細胞に侵入していく様子を動画で捉えることができた。いくつかの時点の像を図9に示す。これにより、寄生虫が宿主細胞に侵入していく角度、侵入の際の寄生虫の形態やタイムスケールが明らかになった。
従来の方法では、容器等に接着した細胞に寄生虫が侵入する方向と、観察の光軸とが同軸上にあったため、位相差顕微鏡で細胞に寄生虫が侵入する様子を観察することは不可能であり、寄生虫が宿主細胞に侵入していく角度やタイムスケールは、本発明によって確認されたまったく新しい知見である。本技術を、現在盛んに研究されているタンパク質の局在を可視化する細胞イメージング技術と組み合わせることにより、侵入に必要なタンパク質を細胞の侵入時に、いつ、どの場所で、どのタイミングで発現するかを確認することが可能となり、それらのワクチン候補となる薬剤の効能スクリーニングの一助として期待される。
Claims (9)
- 単一細胞を解析するための顕微鏡システムであって、
顕微鏡と、
顕微鏡のステージに載置される培養容器中に配置される、細胞が1個のみ接着できる主面を有し、磁性体を含む、少なくとも1つのマイクロプレートと、
磁場発生手段と、を備え、
前記磁場発生手段は、マイクロプレートを所望の位置及び/又は角度に動かせるよう構成されている、顕微鏡システム。 - 前記顕微鏡が、共焦点レーザ顕微鏡又は位相差顕微鏡である、請求項1に記載の顕微鏡システム。
- 前記磁場発生手段が、環状の磁石又はコイルであり、
前記マイクロプレートが、環状の磁石又はコイルの中央に配置される、請求項1又は2に記載の顕微鏡システム。 - 前記培養容器が、マイクロ流体デバイスである、請求項1から3のいずれか1項に記載の顕微鏡システム。
- 請求項1から4のいずれか1項に記載の顕微鏡システムを用いて単一細胞を解析する方法であって、
前記マイクロプレートに細胞を接着させる工程と、
前記磁場発生手段を制御して前記マイクロプレートを顕微鏡で観察しやすい位置及び/又は角度に動かす工程と、
前記マイクロプレートに接着した細胞を顕微鏡で観察する工程と、
を含む方法。 - 前記顕微鏡が共焦点レーザ顕微鏡又は位相差顕微鏡であって、前記磁場発生手段によって、細胞の観察したい断面がx−y平面となるようにマイクロプレートを傾ける、請求項5に記載の方法。
- 微生物の細胞への侵入又は細胞からの放出の解析に用いられる、請求項5又は6に記載の方法。
- 単一細胞の解析用キットであって、
基板上にアルギン酸カルシウムゲルを介して、1以上のマイクロプレートが固定されたマイクロプレート固定基板を備え、
前記マイクロプレートは、細胞が1個のみ接着できる主面を有し、磁性体を含む、
キット。 - さらに、磁場発生手段を備える、請求項8に記載のキット。
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