しかしながら、クラッシュリリーフを有する一対の半割メタルからなる軸受メタルをバランサ装置に使用した場合に、軸受面とクラッシュリリーフの境界を起点としてバランサメタル(バランサ装置の軸受メタルをいう)の内周面に剥離が生じるという問題が本願の発明者らによって発見された。このような問題は、クランクシャフトを支持する軸受メタルより、バランサメタルに発生し易いことが確認された。
本発明は、以上の背景に鑑みてなされたものであって、バランサシャフトのジャーナル部を回転可能に支持するべく、一対の半割メタルを有するバランサメタルにおいて、軸受面とクラッシュリリーフとの境界を起点とした剥離を抑制することを課題とする。
上記課題を解決するために、本発明は、軸受部材(18、19)に装着される一対の半割メタル(31)を有し、バランサシャフト(7、8)のジャーナル部(11)を回転可能に支持するバランサメタル(16)であって、前記半割メタルのそれぞれは、周方向における両端部に形成された合わせ面(32)と、内周部において前記周方向における中央から両端側に進むにつれて深さが漸増するように凹設されたオイルリリーフ(36)と、前記内周部の前記合わせ面近傍において、前記周方向において両端側に進むにつれて深さが漸増するように前記オイルリリーフの底面から更に凹設されたクラッシュリリーフ(37)とを有し、前記ジャーナル部の直径をD(mm)とし、前記半割メタルの前記周方向における中央から66°の回転位置における前記オイルリリーフの深さであるオイルリリーフ量をMo(mm)とした場合に、数式
を満たすことを特徴とする。
この構成によれば、オイルリリーフの深さを所定の深さにすることによって、オイルリリーフのクラッシュリリーフとの境界をなす端部における油膜圧力を低減し、オイルリリーフとクラッシュリリーフとの境界を起点とした剥離を抑制することができる。
本願の発明者らの調査によると、軸受面とクラッシュリリーフとの境界を起点とする剥離が発生する場合には、軸受面のクラッシュリリーフとの境界をなす端部における油膜圧力が他の部分に対して局所的に上昇していることが確認された。一方、クランクシャフトの軸受メタルでは、軸受面のクラッシュリリーフとの境界をなす端部における油膜圧力が他の部分に対して上昇していることが確認されなかった。この理由は、以下のように考えられる。
クランクシャフトは、シリンダ軸線方向に沿って往復運動するピストンに連結されているため、シリンダ軸線方向と平行な方向に最も大きなラジアル荷重を発生する。クランクシャフトを支持する軸受メタルは、シリンダ軸線方向と直交する方向に合わせ面及びクラッシュリリーフが配置されるため、クラッシュリリーフ近傍の油膜圧力は、他の部分に対して比較的小さくなる。
しかしながら、バランサシャフトはクランクシャフトと異なり、特定のラジアル方向にのみ大きな荷重を発生させることはなく、1回転する間にバランサメタルの周方向における各部に概ね均質に荷重を加える。そのため、クラッシュリリーフが配置された部分にも他の部分と同様にバランサシャフトから荷重が加わることになる。クラッシュリリーフが配置された部分は、バランサシャフトのジャーナル部の外周面との距離が大きくなるため、スクイズ効果やくさび効果による油膜圧力の上昇が抑制され、軸受面として機能しない。そのため、ジャーナル部はクラッシュリリーフ側に一層接近し、軸受面のクラッシュリリーフの境界をなす端部の油膜圧力が局所的に上昇することになる。
バランサシャフトは、ピストン・クランク系が生じる慣性力や偶力を低減するために、不釣合い質量を有し、重心が回転中心から偏倚した位置に配置されている。これにより、バランサシャフトは、回転する際に、回転中心に対して重心が偏倚した方向にバランサメタルに荷重を与える。このように、バランサメタルでは、通常のシャフトを支持する軸受メタルよりも油膜圧力が上昇し易くなっている。この影響も重なって、バランサメタルでは、軸受面のクラッシュリリーフとの境界をなす端部における油膜圧力が上昇する。
そのため、軸受面のクラッシュリリーフとの境界をなす端部における油膜圧力を減少させるためには、クラッシュリリーフの境界部分における表面形状を滑らかにし、この境界部分に局所的な油膜圧力の上昇を発生させないようにすることが有効である。オイルリリーフの深さ(量)を所定の深さにすることによって、オイルリリーフとクラッシュリリーフとの境界の表面形状が滑らかになると共に、境界におけるオイルリリーフ側の油膜圧力の上昇を抑えることができる。本願発明者らは、この思想に基づいて、ジャーナル部の直径Dに対するオイルリリーフ量Moの比が剥離に与える影響を調査したところ、上記数式(1)の範囲で剥離が抑制されることを見出した。一方、Ka値が上記数式(1)の範囲を越えて増加すると(Kaが16.0×10−4以上になると)、ジャーナル部の外周面とバランサメタルの内周面との曲率関係により、ヘルツ面圧が増加し、油膜圧力が上昇するようになる。これにより、半割メタルの内周面に剥離が発生する可能がある。
また、上記の発明において、前記オイルリリーフは、前記周方向における中央から両端側に進むにつれて深さの変化率が大きくなるとよい。
この構成によれば、オイルリリーフとクラッシュリリーフとの境界部分の表面形状変化を滑らかにすることができる。
また、上記の発明において、前記オイルリリーフ量Moは、前記ジャーナル部の直径が26mmである場合に、0.010mm以上0.040mm以下であるとよい。
この構成によれば、オイルリリーフのクラッシュリリーフとの境界をなす端部における油膜圧力の上昇が抑制され、オイルリリーフのクラッシュリリーフとの境界をなす端部及びオイルリリーフとクラッシュリリーフとの境界を起点とした剥離が抑制される。
また、上記の発明において、前記オイルリリーフ量Moは、前記ジャーナル部の直径が33mmである場合に、0.013mm以上0.050mm以下であるとよい。
この構成によれば、オイルリリーフのクラッシュリリーフとの境界をなす端部における油膜圧力の上昇が抑制され、オイルリリーフのクラッシュリリーフとの境界をなす端部及びオイルリリーフとクラッシュリリーフとの境界を起点とした剥離が抑制される。
以上の構成によれば、バランサシャフトのジャーナル部を回転可能に支持するべく、一対の半割メタルを有するバランサメタルにおいて、軸受面とクラッシュリリーフとの境界を起点とした剥離が抑制される。
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態を説明する。
図1は、バランサ装置を示す分解斜視図である。図1に示すように、バランサ装置1は、ランチェスター型バランサとして構成されている。本実施形態に係るバランサ装置1は、自動車用のレシプロ内燃機関に設けられるものであり、内燃機関のピストン及びクランクシャフトからなる系の慣性力の2次成分(2次振動)を抑制する。
バランサ装置1は、外殻をなすハウジング2を有している。ハウジング2は、互いにボルト締結される上ハウジング3及び下ハウジング4を含む。ハウジング2は、内燃機関のシリンダブロックの下部にボルト締結され、クランクシャフトの下方にクランクシャフトと干渉しないように配置される。
ハウジング2内には、第1バランサシャフト7及び第2バランサシャフト8が互いに平行に配置されている。第1バランサシャフト7は3つのジャーナル部11を有し、第2バランサシャフト8は2つのジャーナル部11を有している。また、第1及び第2バランサシャフト7、8のそれぞれは、径方向外方に突出した扇形状の2つの不釣合い質量12と、1つのギヤ部13とを有している。第1及び第2バランサシャフト7、8の不釣合い質量12は互いに対称となる位置に設けられ、2つの不釣合い質量12はジャーナル部11の1つを両側から挟む位置に設けられている。
第1及び第2バランサシャフト7、8の各ジャーナル部11は、上ハウジング3及び下ハウジング4によって形成される軸受孔15に、バランサメタル16を介して回転可能に支持されている。第1及び第2バランサシャフト7、8は、それぞれのギヤ部13が互いに噛み合うことによって、同一の回転速度で逆方向に回転する。第1バランサシャフト7は、第2バランサシャフト8に対して端部がハウジング2外に延出し、その端部には図示しない被動ギヤが設けられる。被動ギヤは、クランクシャフトの端部に設けられたクランクギヤに、2倍の回転速度で回転するように噛み合っている。これにより、第1バランサシャフト7はクランクシャフトに対して逆方向に2倍の回転速度で回転し、第2バランサシャフト8はクランクシャフトに対して同一方向に2倍の回転速度で回転する。
上ハウジング3は下方に向けて突出した上縦壁18を有し、下ハウジング4は上方に向けて突出した下縦壁19を有する。上縦壁18の下端は平面状の上突き当て面21を形成し、下縦壁19の上端は平面状の下突き当て面22を形成している。上突き当て面21及び下突き当て面22が互いに突き合わされることによって、ハウジング2の壁部が構成されている。上縦壁18には上突き当て面21から凹設された軸受孔上半部25が形成され、下縦壁19には下突き当て面22から凹設された軸受孔下半部26が形成されている。軸受孔上半部25及び軸受孔下半部26は、それぞれの断面が同一の直径を有する半円形(中心角180°)に形成され、協働して断面が円形の両端が開口した軸受孔15を形成する。軸受孔上半部25及び軸受孔下半部26の孔面には、周方向に延在する軸受孔油溝28が形成されている。軸受孔油溝28は、下ハウジング4に形成されたハウジング油路29に連通している。ハウジング油路29は、内燃機関の油路に連通しており、軸受孔油溝28に潤滑油を供給する。
図2はバランサメタルの斜視図である。図3の(A)はバランサシャフトのジャーナル部及びバランサメタルの寸法関係を示す模式図、(B)は図3A中の破線3Bで囲まれた部分の拡大図である。なお、図3では各寸法を明確にするために形状を誇張して描画しており、精密な寸法を示すものではないことに留意されたい。図2及び図3に示すように、各軸受孔15に装着されるバランサメタル16は、半円筒状に形成された一対の半割メタル31から構成されている。一対の半割メタル31は、互いに同一の形状に形成されている。
各半割メタル31は、外周部を構成する台金(裏金)と、裏金の内周側に設けられた軸受層(ライニング)とを有し、バイメタルとして構成されている。裏金は例えば炭素鋼から形成されており、軸受層は、軟質金属層を構成する例えばアルミニウム合金から形成されている。他の実施形態では、軸受層はCu−Pb合金やCu−Sn−Pb合金等から形成されてもよい。
半割メタル31は、その周方向における両端部のそれぞれに合わせ面32を有している。合わせ面32は、合わせ面32の外縁と連続する半割メタル31の外周面34に接する接線に対して直交する面に形成されている。半割メタル31の外周面34は径が一定した円周面に形成されている。一方、半割メタル31の内周側は、オイルリリーフ36及びクラッシュリリーフ37が形成され、径が一定となっていない。オイルリリーフ36は、半割メタル31の内周面に凹設された凹部であり、半割メタル31の周方向における中央から両端側に進むにつれて深さが漸増するように形成されている。オイルリリーフ36は、バランサメタル16の中心Oを中心とした基準円100に対して凹設した凹部といえる。また、オイルリリーフ36は、バランサメタル16の中心Oから半割メタル31の周方向における中央側に偏倚した点を中心とした円弧(真円)に形成されている。クラッシュリリーフ37は、半割メタル31の周方向における両端部において、オイルリリーフ36の底面から更に凹設された凹部であり、半割メタル31の周方向において両端側に進むにつれて深さが漸増するように形成されている。オイルリリーフ36及びクラッシュリリーフ37の存在によって、半割メタル31は周方向において中央から両端側に進むにつれて肉厚が薄くなっている。
図3に示すように、バランサメタル16及び半割メタル31の形状は、各寸法をもって規定される。半割メタル31の軸線方向における長さをメタル幅B(mm)とする。半割メタル31の厚み(半割メタル31の径方向における長さ)は、周方向における中央部が最も厚く、この位置における厚みをメタル肉厚T(mm)とする。オイルリリーフ36の深さ(すなわち半割メタル31の径方向における長さ)は、半割メタル31の周方向における中央では0であり、端部側に進むにつれて深さが漸増し、端部において最大となる。半割メタル31の周方向における中央から端部側に66°の回転位置におけるオイルリリーフ36の深さをオイルリリーフ量Mo(mm)とする。クラッシュリリーフ37の深さ(半割メタル31の径方向における長さ)は、オイルリリーフ36の底面を基準(深さ0mm)とした深さを規定する。クラッシュリリーフ37は、半割メタル31の周方向において端部側に進むほど、オイルリリーフ36の底面からの深さが漸増し、合わせ面32との境界において最大となる。クラッシュリリーフ37の深さの最大値、すなわち合わせ面32との境界における深さをクラッシュリリーフ量Mc(mm)とする。合わせ面32に直交する方向におけるクラッシュリリーフ37の長さをクラッシュリリーフ長さHc(mm)とする。すなわち、クラッシュリリーフ長さHcは、合わせ面32から、クラッシュリリーフ37の周方向における中央側の端部(オイルリリーフ36とクラッシュリリーフの境界であって、クラッシュリリーフ37の深さが0となる位置)までの垂線の長さをいう。
バランサシャフトのジャーナル部11の直径をジャーナル直径Dとする。半割メタル31の軸線とジャーナル部11の軸線とが一致する状態において、半割メタル31の内周面の周方向における中央とジャーナル部11の外面までの距離をメタルクリアランスCL(mm)とする。メタルクリアランスCLは、オイルリリーフ36及びクラッシュリリーフ37が存在しない場合のバランサメタルの内周面(すなわち、基準円100)との距離ということもできる。
各寸法を例示すると、ジャーナル直径Dは、例えば15mm以上50mm以下、好ましくは20mm以上40mm以下である。メタル幅Bは、例えば15mm以上50mm以下、好ましくは20mm以上35mm以下である。オイルリリーフ量Moは、例えば0.005mm以上0.050mm以下、好ましくは0.010mm以上0.045mm以下である。クラッシュリリーフ高さHcは、例えば1.0mm以上5.0mm以下、好ましくは2.0mm以上4.0mm以下である。クラッシュリリーフ量Mcは、例えば0.010mm以上0.060mm以下、好ましくは0.010mm以上0.030mm以下である。メタルクリアランスCLは、例えば0.03mm以上0.15mm以下、好ましくは0.05mm以上0.1mm以下である。メタル肉厚Tは、例えば1.0mm以上5.0mm以下、好ましくは1.5mm以上3.0mm以下である。
また、半割メタル31は、次の数式(1)を満たすように寸法が設定されている。
次の数式(2)に示すように、クラッシュリリーフ量Mcをジャーナル直径Dで除した値を、Ka値とする。
半割メタル31の内周側の軸線方向における中央部に周方向に延在するメタル油溝41が凹設されている。半割メタル31の合わせ面32どうしを突き合わせて1つのバランサメタル16を構成すると、各半割メタル31のメタル油溝41は互いに周方向において連続し、1つの環状溝を構成する。メタル油溝41の底部の適所には、径方向に貫通する油孔42が形成されている。各半割メタル31が軸受孔上半部25及び軸受孔下半部26に装着された状態で、軸受孔油溝28とメタル油溝41とは油孔42によって連通され、バランサメタル16の内周側に潤滑油が供給される。
半割メタル31の内周側の軸線方向における両端部には周方向に沿ってテーパ面44が形成されている。このテーパ面44は、各バランサシャフトがすりこぎ運動をした場合に、バランサメタル16とバランサシャフトとの接触を避ける目的で設けられている。
各半割メタル31は、軸受孔上半部25及び軸受孔下半部26にそれぞれ装着される。各半割メタル31は、軸受孔上半部25及び軸受孔下半部26に装着された状態で、周方向における両端部が軸受孔上半部25及び軸受孔下半部26から外方に微小量突出する。この状態で、第1及び第2バランサシャフト7、8を各半割メタル31間に配置し、上ハウジング3及び下ハウジング4をボルトによって締結する。上ハウジング3及び下ハウジング4を締結することによって、各半割メタル31は、合わせ面32において互いに突き合わされ、周方向に圧縮されて円筒状のバランサメタル16が形成される。
次に、表1を参照して、バランサメタル16の各寸法と、オイルリリーフ36とクラッシュリリーフ37との境界を起点とした剥離(以下、単に剥離という)との関係について説明する。表1に示すように、ジャーナル直径D、メタル幅B、オイルリリーフ量Mo、クラッシュリリーフ高さHc、クラッシュリリーフ量Mc、メタルクリアランスCLをそれぞれ設定したバランサメタル16のサンプル1〜16を作成した。
表1に示すように、サンプル1〜26では、メタル幅Bは22mm、クラッシュリリーフ高さHcは4.0mm、クラッシュリリーフ量Mcは0.03mm、メタルクリアランスCLは0.1mmと一定にしている。サンプル1〜13では、オイルリリーフ量Moの剥離に対する影響を確認するために、ジャーナル直径Dを26mmに固定し、オイルリリーフ量Moを0〜0.040mmの範囲で変化させている。また、サンプル14〜26では、ジャーナル直径Dを33mmに固定し、オイルリリーフ量Moを0〜0.070mmの範囲で変化させている。各サンプルにおけるKa値は、上記の数式(2)に基づいて算出している。
表1中における最大油膜圧力(MPa)は、ジャーナル部11及びバランサメタル16間に存在する油膜のうち、圧力が最大となる位置における油膜の圧力である。各サンプルにおける油膜圧力は、EHD潤滑(弾性流体潤滑)理論に基づく数値解析により算出した。数値解析は、第2バランサシャフト8の2つの不釣合い質量の間に配置されるバランサメタル16について行った。数値解析の条件は、第2バランサシャフト8の回転数を14000rpm(エンジン回転数:7000rpm)、第2バランサシャフト8の慣性荷重を7540N、油温を140℃とした。最大油膜圧力が生じる位置は、バランサメタル16の形状により変化する。
各サンプル1〜26の評価方法は以下のとおりである。評価は、第2バランサシャフト8の2つの不釣合い質量の間に配置されるバランサメタル16について行った。第2バランサシャフト8の回転数を14000rpm(エンジン回転数:7000rpm)、第2バランサシャフト8の慣性荷重を7540N、油温を140℃として、100時間の間、回転を継続させた後に、目視によって評価を行った。評価は、バランサメタル16の内周面に剥がれや表面の荒れ(凹凸)、欠けが目視によって確認されたものをNG(不良)とし、これらが確認されないものをOK(良好)とした。
サンプル1〜13の評価結果から、ジャーナル直径Dを26mm、メタル幅Bを22mm、クラッシュリリーフ高さHcを4.0mm、クラッシュリリーフ量Mcを0.03mm、メタルクリアランスCLを0.1mmとした場合には、オイルリリーフ量Moが0.010mm以上0.040mm以下の範囲、すなわちKa値が3.9×10−4以上15.4×10−4以下の範囲で剥離が確認されない(サンプル5〜11参照)。このとき、最大油膜圧力は、480〜570MPaであり、最大油膜圧力が570MPa以下であれば、オイルリリーフ36のクラッシュリリーフ37との境界をなす端部を含む内周面のいずれの部分にも剥離が生じないといえる。オイルリリーフ量Moが0mm以上0.025mm以下の範囲(Ka値が0以上9.6×10−4以下の範囲)では、最大油膜圧力はオイルリリーフ36のクラッシュリリーフ37との境界をなす端部において確認され、オイルリリーフ量Moの増加に伴って減少する。一方、オイルリリーフ量Moが0.025mmより大きく、0.060mm以下の範囲(Ka値が9.6×10−4より大きく23.1×10−4以下の範囲)では、最大油膜圧力は半割メタル31の周方向における中央部において確認され、オイルリリーフ量Moの増加に伴って増加する。サンプル1〜4では、オイルリリーフ36のクラッシュリリーフ37との境界をなす端部に剥離が確認され、サンプル12〜13では半割メタル31の周方向における中央部において剥離が確認された。
サンプル14〜26の評価結果から、ジャーナル直径Dを33mm、メタル幅Bを28mm、クラッシュリリーフ高さHcを4.0mm、クラッシュリリーフ量Mcを0.03mm、メタルクリアランスCLを0.1mmとした場合には、オイルリリーフ量Moが0.013mm以上0.050mm以下の範囲、すなわちKa値が3.9×10−4以上15.2×10−4以下の範囲で剥離が確認されない(サンプル18〜24参照)。このとき、最大油膜圧力は480〜590MPaであり、最大油膜圧力が590MPa以下であればオイルリリーフ36のクラッシュリリーフ37との境界をなす端部を含む内周面のいずれの部分にも剥離が生じないといえる。オイルリリーフ量Moが0mm以上0.030mm以下の範囲(Ka値が0以上9.1×10−4以下の範囲)では、最大油膜圧力はオイルリリーフ36のクラッシュリリーフ37との境界をなす端部において確認され、オイルリリーフ量Moの増加に伴って減少する。一方、オイルリリーフ量Moが0.030mmより大きく0.070mm以下の範囲(Ka値が9.1×10−4以上21.2×10−4以下の範囲)では、最大油膜圧力は半割メタル31の周方向における中央部において確認され、オイルリリーフ量Moの増加に伴って増加する。サンプル14〜17では、オイルリリーフ36のクラッシュリリーフ37との境界をなす端部に剥離が確認され、サンプル25〜26では半割メタル31の周方向における中央部において剥離が確認された。
図4は、Ka値に対する最大油膜圧力を示すグラフである。図4に示すように、サンプル1〜26のKa値を横軸とし、最大油膜圧力を縦軸とすると、Ka値に対する最大油膜圧力は、下向きに凸となる近似曲線で表される。Ka値は、0から増加した場合に3.9×10−4以上となったときに初めて、評価がOKになる。Ka値が3.9×10−4になるときの最大油膜圧力が590MPaであるため、近似曲線と最大油膜圧力590MPaとの交点を算出すると、Ka値が16.0×10−4のときに、最大油膜圧力590MPaになる。以上より、Ka値が3.9×10−4以上16.0×10−4以下となる場合に、最大油膜圧力が590MPa以下となり剥離が発生せず、3.6×10−4以下、又は18.2×10−4以上となる場合に、最大油膜圧力が610MPa以上となり剥離が発生することが判る。これらの結果から、メタル幅Bを22mm又は28mm、クラッシュリリーフ高さHcを4.0mm、クラッシュリリーフ量Mcを0.03mm、メタルクリアランスCLを0.1mmとした場合には、Ka値が3.9×10−4以上16.0×10−4以下の場合に、最大油膜圧力は590MPa以下となり、剥離も確認されないことが判る。なお、近似曲線と最大油膜圧力590MPaとの交点を算出しなくても、表1からKa値が3.9×10−4以上15.4×10−4以下となる場合に、最大油膜圧力590MP以下になり、剥離も確認されないことが判る。
図5は、バランサメタル16の内周側形状を示す図であり、(A)オイルリリーフ量Moが0.005mmの場合、(B)オイルリリーフ量Moが0.016mmの場合を示す。図5(A)、(B)に示すバランサメタル16では、ジャーナル直径Dは26mm、メタル幅Bは22mm、クラッシュリリーフ高さHcは4.0mm、クラッシュリリーフ量Mcは0.03mm、メタルクリアランスCLは0.1mmであり、オイルリリーフ量Moだけが異なる。図5では、バランサメタル16の周方向における角度位置を横軸とし、内周部の基準円100からの距離(すなわち、オイルリリーフ36及びクラッシュリリーフ37による深さ)を縦軸としている。周方向における角度位置は、一方の半割メタル31の周方向における中央を0°としている。
図5(A)、(B)に示すように、オイルリリーフ36の深さは、周方向における中央から端部側に進むにつれて深さの変化率が大きくなっている。これにより、オイルリリーフ36とクラッシュリリーフ37との境界部における表面形状変化が、滑らかになる。すなわち、オイルリリーフ36とクラッシュリリーフ37との境界部に形成される稜がなす角度が鈍くなる。周方向における中央から端部側に進む際のオイルリリーフ36の深さの変化率が大きくするほど、オイルリリーフ36とクラッシュリリーフ37との境界部における表面形状変化は滑らかになる。また、図5(A)、(B)に示すように、オイルリリーフ量Moを増加させることによって、オイルリリーフ36とクラッシュリリーフ37との境界部における形状変化が滑らかになる。
以上に示したように、本実施形態に係るバランサメタル16では、ジャーナル直径Dに対するオイルリリーフ量Moの比(Ka値)を所定の範囲内にすることによって、オイルリリーフ36のクラッシュリリーフ37との境界をなす端部の局所的な油膜圧力の上昇を抑制し、オイルリリーフ36とクラッシュリリーフ37との境界を起点とした剥離を抑制している。ジャーナル直径Dに対するオイルリリーフ量Moの比(Ka値)を0から増加させると、オイルリリーフ36の深さが深くなり、オイルリリーフ36のクラッシュリリーフ37との境界をなす端部における油膜圧力が低下すると共に、オイルリリーフ36とクラッシュリリーフ37との境界における表面形状変化が小さくなり、局所的な油膜圧力の上昇が抑制される。一方、Ka値が所定の範囲を越えて増加すると、ジャーナル部11の外周面とバランサメタル16の内周面の曲率関係により、ヘルツ面圧が増加し、油膜圧力が半割メタル31の周方向における中央部において上昇するようになる。これにより、半割メタルの周方向における中央部において剥離が発生する可能がある。
また、オイルリリーフ36は、周方向における中央から両端側に進むにつれて深さの変化率が大きくなるように形成されているため、オイルリリーフ36とクラッシュリリーフ37との境界における表面形状が滑らかになり(表面形状変化が小さくなり)、局所的な油膜圧力の上昇が抑制される。
サンプル1〜26についての評価から、ジャーナル直径Dに対するオイルリリーフ量Moの比(Ka値)が、3.9×10−4以上16.0×10−4以下、好ましくは3.9×10−4以上15.4×10−4以下の場合に剥離が十分に抑制されることが確認された。
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。本実施形態では、バランサ装置1は、ピストン・クランク系の慣性力の2次成分を抑制する装置として構成したが、他の実施形態では慣性力の1次成分や偶力等を抑制する装置として構成してもよい。また、バランサ装置1は、本実施形態ではシリンダブロックから独立したハウジング2を有する構成としたが、他の実施形態ではシリンダブロックと一体に形成されてもよい。この場合には、バランサメタル16はシリンダブロック等の他の軸受部材に支持されることになる。