JP2015004744A - 光学部品 - Google Patents

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信治 亀田
Shinji Kameda
信治 亀田
克仁 吉田
Katsuto Yoshida
克仁 吉田
賢一 栗巣
Kenichi Kurisu
賢一 栗巣
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Abstract

【課題】レーザー加工機や赤外線カメラ等の用途で使用される光学部品に関し、前記光学部品を構成する素材の合成時に局所的な歪が発生したとしても、レンズとして使用できる方策を提供する。
【解決手段】光軸に垂直な方向の断面が円形の光学部品において、前記光軸方向から見て、前記光軸から前記光学部品の最外周までの距離をRとしたときに、前記光軸から0.5Rの距離に位置する任意の4カ所の残留応力の平均値σavが1MPa以上であり、かつ前記4カ所の残留応力が、|σmax−σav|/σav≦1.3(ここで、σmaxは前記4カ所の残留応力の内、偏差の絶対値が最も大きい残留応力である。)の関係を満たすようにする。
【選択図】図1

Description

本発明は、レーザー加工機や赤外線カメラ等の用途で使用される光学部品に関する。
セレン化亜鉛(ZnSe)は赤外線の透過特性に優れていることから、切断加工や板金に用いられる炭酸ガスレーザー用のレンズや透過窓などの光学部品として使用されている。本用途ではレーザー光の出力が非常に高いことから、透過窓やレンズでの吸収を極めて小さく抑える必要がある。炭酸ガスレーザーは9.4μmと10.6μmを中心とする2つの波長帯の赤外線レーザーを発光するが、前記赤外線レーザー光の吸収を極めて小さく抑えるために、透過窓やレンズとして使用されるZnSeには高い純度と適切なZn:Seの化学量論組成比が要求される。このため現在はCVD(Chemical Vapour Deposition)法を用いて、ZnSeの多結晶体が合成されている(特許文献1)。
特公昭61−24465号公報
CVD法を用いてZnSe多結晶体の素材を合成する際、特許文献1に記載されている通り、黒鉛基板上にZnSe多結晶体を成長させる。このとき黒鉛基板から脱離した黒鉛粒子等の微小な異物が、成長途中のZnSe素材に取り込まれることがある。また、雰囲気ガスが成長途中のZnSe素材に取り込まれると、気泡として残存する場合がある。ZnSe素材中にこのような微少な異物や気泡が存在すると、異物や気泡の周囲に歪が発生する。かかる局所的な歪が存在するZnSe素材を用いてレンズを作製すると、前記歪によって光軸が傾いたり、非対称性が生じることによって光学性能が悪化するため、異物や気泡が内在するレンズはこれまで不良品として廃棄されてきた。一方、CVD法で合成したZnSe多結晶体は高価であるため、素材合成時に局所的な歪が発生したとしても、レンズとして使用できる方策が求められていた。
本発明者らは上記の要請に鑑み、ZnSe多結晶体をCVD法で合成する際に素材に局所的な歪が発生したとしても、レンズとして使用できる方策について鋭意検討を重ねた。その結果、局所的な歪を内在するレンズであっても、後からレンズ全体に回転対称な分布となるよう歪を導入することにより、局所的な歪の存在による非対称性に起因した光学特性の劣化を抑制することを可能にし、本発明を完成させたものである。
すなわち、本発明の第1の態様は、光軸に垂直な方向の断面が円形の光学部品であって、前記光軸方向から見て、前記光軸から前記光学部品の最外周までの距離をRとしたときに、前記光軸から0.5Rの距離に位置する任意の4カ所の残留応力の平均値σavが1MPa以上であり、かつ前記4カ所の残留応力が、|σmax−σav|/σav≦1.3(ここで、σmaxは前記4カ所の残留応力の内、偏差の絶対値が最も大きい残留応力である。)の関係を満たす光学部品である。
前記光学部品において、光学部品を構成する材料はセレン化亜鉛、ゲルマニウム、硫化亜鉛のいずれかであることが好ましい。
前記光学部品は、好ましくはレンズである。
本発明の第2の態様は、上記の光学部品を用いたレーザー加工機である。
以上のような本発明によれば、光学部品の素材に内在する微少な異物や気泡に起因して発生する局所的な歪によって、光軸が傾いたり、非対称性が生じることによって光学性能が悪化することを抑制できる。
レーザー加工機のレンズに内在する歪と焦点位置の関係を示す模式図である。
以下、本発明の第1の態様である光学部品の実施形態について説明する。
本発明の光学部品は、光軸に垂直な方向の断面が円形であって、前記光軸方向から見て、前記光軸から前記光学部品の最外周までの距離をRとしたときに、前記光軸から0.5Rの距離に位置する任意の4カ所の残留応力の平均値σavが1MPa以上であり、かつ前記4カ所の残留応力が、|σmax−σav|/σav≦1.3(ここで、σmaxは前記4カ所の残留応力の内、偏差の絶対値が最も大きい残留応力である。また、任意の4カ所において測定した残留応力のそれぞれの値からσavを引き算した値を偏差と定義する。)の関係を満たしている。合成時の微少な異物や気泡が素材に内在することにより、光学部品中に局所的な歪が発生している場合であっても、同程度の歪を前記光学部品全体に光軸に対して回転対称な分布となるように導入することにより、局所的な歪の影響を打ち消すことができる。
光学部品が凸レンズである場合を例に取ると、歪が内在しない凸レンズでは入射光の光軸の延長上に焦点が存在する。これに対して、微少な異物や気泡が偏在することにより凸レンズ中に局所的かつ光軸に対して非対称な歪が発生する場合には、入射光の光軸の延長上から焦点が外れてしまう。入射光の光軸の延長上から焦点が外れると、後述するようにレーザー加工機に用いた場合に、切断が困難になる等の不具合が発生する。一方、歪を凸レンズ全体に回転対称な分布となるように導入すると、歪が内在しない場合と比べて焦点距離は変化するが、焦点は入射光の光軸の延長上に存在する。その結果、レーザー加工機に用いた場合でも、歪が内在しない凸レンズと同様に、良好な切断が可能となる。
本発明においては、合成時の微少な異物や気泡に起因して素材に内在する局所的な歪の影響を打ち消すために、光軸方向から見て、前記光軸から前記光学部品の最外周までの距離をRとしたときに、前記光軸から0.5Rの距離に位置する任意の4カ所の残留応力の平均値σavを1MPa以上にする。σavが1MPa未満では局所的な歪の影響を十分に打ち消すことができず、歪の非対称性が残ることがあるからである。歪を光学部品全体に導入する方法としては、プレス成形用の上下一対の押し型の間に光学部品をセットし、前記光学部品を構成する材料の融点(絶対温度)もしくは昇華点(絶対温度)の1/2以上の温度に保持しながら、5MPa以上60MPa以下の圧力を加えることが挙げられる。
加えて、光軸方向から見て、前記光軸から前記光学部品の最外周までの距離をRとしたときに、前記光軸から0.5Rの距離に位置する任意の4カ所の残留応力が、下記の(I)式の関係を満たすようにする。
|σmax−σav|/σav≦1.3 ・・・(I)
ここで、σmaxは前記4カ所の残留応力の内、偏差の絶対値が最も大きい残留応力である。(I)式の左辺は光学部品の内部に存在する歪の偏りの度合を示すパラメータである。(I)式は歪を前記光学部品全体に光軸に対して回転対称な分布となるように導入することを意味している。|σmax−σav|/σavの値が1.3を超える場合、導入した歪は光学部品全体に回転対称な分布とはならず、局所的な歪の影響を打ち消すことが困難になる。
このとき、光学部品内部に存在する歪の量を直接定量化することは困難であるため、前記歪によって生じる光の複屈折の量を測定し、その測定結果から光学部品内部の残留応力を算出した。前記残留応力の大小は前記歪の大小と対応している。前記残留応力の測定には、神港精機(株)製ポーラリメーターSF−IIC型を用いた。前記ポーラリメーターは光源とカメラの間に直交させた2枚の偏光板を配置し、さらに前記偏光板の間に測定試料と単色化のための黄色フィルター、回転位相差板を配置する構造になっている。回転位相差板を挿入した状態で回転位相差板を挿入しないときと同一の画像が得られる角度を0度と定義し、回転位相差板の角度を変えながら画像を撮影して、0度のときに最大光量となる画像内の領域は残留応力が0である。ある領域において最大光量となる回転位相差板の角度が大きくなると共に、前記領域の残留応力は大きくなる。回転位相差板の角度θ(゜)と残留応力σ(MPa)の関係は下記の(II)式で表される。
σ=|Rsin2θ/(0.98ct)×9.8×10−2| ・・・(II)
ここで、Rは回転位相差板の位相差(nm)、cは光学材料に依存した光弾性定数、tは測定試料の厚み(cm)である。
光学部品の内部に存在する残留応力には圧縮応力と引張応力があり、測定試料の配置を工夫することにより、回転位相差板の角度が+方向か−方向かによって、どちらの応力が残留しているかを知ることも可能である。しかしながら、光学部品にとっては圧縮応力と引張応力の違いは位相遅れを起こす偏光成分の違いでしかなく、一般に円偏光を扱うレーザー加工や、非偏光を扱うカメラ等の用途においては、残留応力の絶対値が同じであれば、圧縮か引張かによって光学的な差は生じない。したがって、本願においては(II)式に示す通り、回転位相差板の角度θから算出される残留応力の絶対値を残留応力σと定義する。
本発明の光学部品に用いる材料はZnSeに限定されず、ゲルマニウム(Ge)や硫化亜鉛(ZnS)等の赤外線を透過する材料も用いることができる。GeやZnSを用いた光学部品においても、プレス成形用の上下一対の押し型の間に前記光学部品をセットし、前記光学部品を構成する材料の融点(絶対温度)もしくは昇華点(絶対温度)の1/2以上の温度に保持しながら、5MPa以上60MPa以下の圧力を加えて、歪を前記光学部品全体に導入することが可能だからである。
本発明の光学部品は、光の直進や屈折、干渉などの性質を利用した光学機器に用いられる、光を透過する部品の総称であって、例えば、レンズ、透過窓、プリズム、フィルター、ビームスプリッターなどが含まれるが、とりわけ、レンズとして用いた場合にその効果が大きい。微少な異物や気泡が偏在するとレンズ中に局所的かつ光軸に対して非対称な歪が発生し、入射光の光軸の延長上から焦点が外れてしまう。これに対して、本発明のレンズでは歪をレンズ全体に回転対称な分布となるように導入することにより、微少な異物や気泡の偏在に起因する局所的かつ光軸に対して非対称な歪を打ち消し、歪が内在しないレンズと同様に、焦点を入射光の光軸の延長上に存在させることができる。このため、COレーザーに代表される赤外線レーザー、赤外線センサー、赤外線カメラなどの用途で使用されるレンズとして好適に用いることができる。
本発明の第2の態様は、第1の態様である光学部品を備えるレーザー加工機である。以下、本発明の光学部品が凸レンズである場合を例に取って、前記凸レンズをレーザー加工機に用いる場合の効果を説明する。
図1(a)に示すように、歪が内在しない凸レンズでは入射光の光軸の延長上に焦点が存在する。歪が内在しない凸レンズを用いてレーザー加工を行うと、アシストガスの噴流軸と光軸が一致していることにより、レーザー光で溶かされた溶融材がアシストガスで吹き飛ばされ、きれいな切断が実現できる。
一方、図1(c)に示すように、微少な異物や気泡が内在することにより凸レンズ中に局所的かつ光軸に対して非対称な歪が発生している場合には、焦点の位置が入射光の光軸の延長上から外れてしまう。入射光の光軸の延長上から焦点がずれると、アシストガスの噴流軸と光軸が一致せず、溶融材がアシストガスによって吹き飛ばされなくなり、切断が困難になる。
これに対して、図1(b)に示すように、歪をレンズ全体に回転対称な分布となるように導入した本発明の凸レンズにおいては、歪が内在しない図1(a)の場合と比べて焦点距離は少し変化するが、焦点は入射光の光軸の延長上に存在する。このため、被削材に吸収されるエネルギー量の変化が小さく、焦点距離の余裕幅は広い。また、アシストガスの噴流軸と光軸が一致していることにより、レーザー光で溶かされた溶融材がアシストガスで吹き飛ばされる。その結果、歪をレンズ全体に回転対称な分布となるように導入した本発明の凸レンズをレーザー加工機に用いると、歪が内在しない凸レンズと同様にきれいな切断が実現できる。
次に、本発明の光学部品の製造方法を、ZnSeを用いた光学部品を例として説明する。本発明の光学部品の製造工程は、ZnSe多結晶体の合成工程、加圧熱処理工程、光学部品への成形工程を備える。
(合成工程)
本発明の光学部品に用いるZnSe多結晶体は、高純度の材料が得られるという観点から、CVD法を用いて作製することが好ましい。具体的には、搬送ガスとして純度99.999%程度のアルゴンガスを用い、純度99.999%程度のセレン化水素および純度99.999%程度の溶融亜鉛からの亜鉛蒸気を、温度600〜800℃、雰囲気圧力10kPa以下の反応炉内で反応させ、黒鉛基板上にZnSe多結晶体のバルクを成長させることにより、合成することができる。このとき、わずかに入り込んだ微少な異物や気泡の影響によって、ZnSe多結晶体の内部に局所的な歪が発生する。
(加圧熱処理工程)
上記のようにして合成したZnSe多結晶体を、不純物濃度が0.001vol%以下、かつ圧力が0.1気圧以上10気圧以下の非酸化性ガス雰囲気中において、920℃以上1050℃以下の温度に保持して熱処理する。非酸化性ガスとしては、窒素ガス、アルゴンガス、水素ガスまたはこれらの混合ガスを用いることができる。このとき、非酸化性ガスの不純物濃度を0.001vol%以下、かつ雰囲気圧力を0.1気圧以上10気圧以下とするのは、非酸化性ガス雰囲気中に不純物として含まれる酸素ガスの分圧を抑え、CVD法により合成したZnSe多結晶体中に数ppmのオーダーで含有されていた不純物酸素を、1ppm以下に減少させ、熱処理後のZnSe多結晶体の光の透過率の低下を抑制するためである。非酸化性ガスの不純物濃度が0.001vol%を超えるか、あるいは雰囲気圧力が10気圧を超えるような場合には、非酸化性ガス雰囲気中に不純物として含まれる酸素ガスの分圧が高くなり、ZnSe多結晶体中からの不純物酸素の離脱が十分に進行せず、熱処理後のZnSe多結晶体中の不純物酸素を1ppm以下に減少させるのが困難になることがある。一方、雰囲気圧力が0.1気圧未満の場合、920℃以上1050℃以下の温度に保持する際に、ZnSeが分解・昇華する可能性があるため、雰囲気圧力は0.1気圧以上とすることが好ましい。また、920℃未満の温度で熱処理をしても、ZnSe多結晶体中の不純物酸素を1ppm以下に減少させることは難しく、1050℃を超える温度で熱処理をするとZnSeが分解・昇華する可能性があるため、熱処理温度は920℃以上1050℃以下とすることが好ましい。
このとき、920℃以上1050℃以下の温度に保持する際に、ZnSe多結晶体に5MPa以上60MPa以下の圧力を加えて歪を導入する。具体的には、円筒形状の胴型の内部にプレス成形用の上下一対の押し型を挿入し、その間にZnSe多結晶体をセットして、上下方向に荷重を加えることにより、ZnSe多結晶体を加圧することができる。前記型の材料としては、黒鉛やグラッシーカーボン等の熱処理温度においても耐熱性のある材料を用いる。熱処理温度において60MPaを超える圧力を加えると、ZnSe多結晶体が破損することがある。一方、熱処理温度において加える圧力が5MPa未満では、微少な異物や気泡の内在に起因してZnSe多結晶体に偏在する、局所的かつ光軸に対して非対称な歪を打ち消すのに十分な歪を導入することが困難になる。このため、熱処理温度において加える圧力は、5MPa以上60MPa以下であることが好ましい。
熱処理温度においてZnSe多結晶体を加圧する際には、ZnSe多結晶体全体を均一に加圧することが特に重要である。ZnSe多結晶体全体を均一に加圧することによって、光学部品に光軸に対して回転対称な歪を導入することが可能になる。具体的には、上下押し型と胴型に用いる材料の熱膨張係数を考慮して、上下押し型のそれぞれの外径と胴型の内径とのクリアランスが、熱処理温度において0.010mm以下となるように設計する。加えて、7〜8mm厚さの押し型の上下両端面と、胴型内面に対向する側面の直角度を0.005mm以下となるように作製することにより、加圧の際に上下の押し型が傾くことを抑制できる。その結果、ZnSe多結晶体が偏って加圧されることがなくなり、加圧によって光学部品に導入される歪の分布を、光軸に対して回転対称とすることができる。
(光学部品への成形工程)
従来は、合成したZnSe多結晶体のバルクを切削、研削もしくは研磨などの加工手段を用いて、所定の光学部品の形状に成形した後、ポーラリメーターを用いて前記光学部品を選別検査し、内部に局所的な歪が存在するものは不良品として廃却して、内部に歪がないものだけを使用していた。このため、高価なZnSe多結晶体のバルクから得られる光学部品の個数が減少し、歩留まりの低下を招いていた。
一方、本発明の光学部品においては、前記加圧熱処理工程における加圧の際に光学部品の形状を転写した上下押し型を用いることにより、歪を導入するのと同時に、塑性変形によって光学部品を成形することが可能である。具体的には、合成したZnSe多結晶体のバルクから光学部品と同じ重量のプリフォームを切り出し、光学部品の形状を転写した上下押し型を用いて前記プリフォームを加圧熱処理して光学部品を得る。光軸に対して回転対称な歪を導入して内部に局所的に存在する歪の影響を打ち消すことで、これまで不良品として廃却されていたものも使用可能となり、ZnSe多結晶体のバルクから得られる光学部品の歩留まりが大幅に向上した。
また、本発明の光学部品は、合成したZnSe多結晶体のバルクを前記加圧熱処理した後、切削、研削もしくは研磨などの加工手段を用いて、所定の光学部品の形状に成形することによっても得ることができる。
加圧熱処理工程において、前記クリアランスと前記直角度を制御して加圧の偏りを抑制し、光軸に対して回転対称な歪を光学部品に導入する方法は、上述のZnSeを用いた光学部品に限られず、GeやZnS等の材料を用いた光学部品にも適用が可能である。
(実施例1)
搬送ガスとして純度99.999%のアルゴンガスを用い、純度99.999%のセレン化水素および純度99.999%の溶融亜鉛からの亜鉛蒸気を、温度700℃、雰囲気圧力7kPaの反応炉内で反応させて、黒鉛基板上にZnSe多結晶体のバルクをCVD成長させた。
合成したZnSe多結晶体バルクから直径36mm、厚さ7mmの円盤形状の試料を切り出した。直径36mm、最外周の厚さ8mm、端面と側面の直角度0.003mmで、前記試料と接する面を鏡面仕上げした、グラッシーカーボン製の上下一対の押し型を用いて前記試料を挟み、耐熱セラミックス製の円筒形状の胴型に挿入した。これらを圧力400kPaの不活性ガス雰囲気中で1000℃に保持しながら、6.6MPaで一軸加圧することによって、前記試料を片側に曲率半径178mmの凸面を備える平凸レンズに変形させた。このとき、上下押し型のそれぞれの外径と胴型の内径とのクリアランスが、1000℃において0.003mmとなるようにした。
神港精機(株)製ポーラリメーターSF−IIC型を用いて、前記平凸レンズの光軸から半径の1/2の距離に位置する任意の4カ所における光の複屈折の量を測定し、その測定結果から平凸レンズ内部の残留応力を算出した。具体的には、4カ所の測定点のそれぞれにおいて画面上で前記測定点を中心とする2mm角の範囲の回転位相差板の角度を測定し、その平均値から残留応力を算出した。その結果、前記4カ所の測定点の残留応力は、それぞれ1.64MPa、1.64MPa、1.96MPa、2.62MPaであった。したがって、σavは1.965MPa、σmaxは2.62MPaとなり、|σmax−σav|/σavの値は0.33となる。
前記平凸レンズをレーザー加工機に取り付け、加工試験を行った。加工機は三菱電機製2512H2、レーザー発振器は三菱電機製25SRP(レーザー波長:10.6μm、定格出力:1000W、ピーク出力:2500W、最大加工速度:15000mm/分)である。被削材は厚さ2.3mmの軟鋼である。これを2000mm/分で送りながら切断した。焦点位置を被削材の表面から深さ方向に少しずつずらして切断試験を繰り返し、溶融材の付着(以下、ドロスという。)が観察されないきれいな切断面が得られる範囲を決定し、焦点距離の余裕幅を求めた。実施例1の平凸レンズを用いた試験では被削材の表面から深さ方向に3.0mmまで焦点距離をずらしてもドロスがないきれいな切断面が得られ、さらに3.5mmまで焦点距離をずらすと切断が困難になった。この結果、実施例1の平凸レンズをレーザー加工に用いると、次に記載する従来から良品としてきた平凸レンズとほぼ同等のレーザー加工性能が達成できることが確認された。
(従来例1)
実施例1と同一の方法で合成したZnSe多結晶体バルクから、直径36mm、厚さ10mmの円盤形状の試料を切り出した後、超精密研削法を用いて実施例1の平凸レンズと同一寸法に加工した。実施例1と同様にして加工後の平凸レンズ内部の残留応力を測定し、局所的に偏在する特異な残留応力を有しない、従来から良品としてきた平凸レンズを選別し、従来例1の平凸レンズとした。当該平凸レンズの光軸から半径の1/2の距離に位置する任意の4カ所の測定点における残留応力は、それぞれ0MPa、0.82MPa、0.82MPa、0.41MPaであった。したがって、σavは0.5125MPa、σmaxは0MPaとなり、|σmax−σav|/σavの値は1.0となる。
従来例1の平凸レンズをレーザー加工機に取り付け、実施例1と同じ条件で加工試験を行った。その結果、従来例1の平凸レンズでは被削材の表面から深さ方向に3.0mmまで焦点距離をずらしてもドロスが発生せず、きれいな切断面が得られた。さらに3.5mmまで焦点距離をずらすと、ドロスが発生したが切断は可能であった。
(比較例1)
実施例1と同一の方法で合成したZnSe多結晶体バルクから、直径36mm、厚さ10mmの円盤形状の試料を切り出した後、超精密研削法を用いて実施例1の平凸レンズと同一寸法に加工した。実施例1と同様にして加工後の平凸レンズ内部の残留応力を測定し、特異な残留応力が局所的に偏在する平凸レンズを選別して、比較例1の平凸レンズとした。当該平凸レンズの光軸から半径の1/2の距離に位置する任意の4カ所の測定点における残留応力は、それぞれ0MPa、0.82MPa、0.82MPa、2.45MPaであった。したがって、σavは1.0225MPa、σmaxは2.45MPaとなり、|σmax−σav|/σavの値は1.4となる。
比較例1の平凸レンズをレーザー加工機に取り付け、実施例1と同じ条件で加工試験を行った。その結果、ジャストフォーカスでも切断できなかった。これは、平凸レンズ中に局所的かつ光軸に対して非対称な歪が発生しているため、焦点の位置が入射光の光軸の延長上から外れてしまい、その結果光軸とアシストガスの噴流軸が一致しなくなり、焦点位置にアシストガスが当たらなくなって、溶融材がアシストガスによって吹き飛ばされなくなるからである。
(比較例2)
実施例1と同一の方法で合成したZnSe多結晶体バルクから、直径36mm、厚さ7mmの円盤形状の試料を切り出した後、実施例1で用いた上下一対の押し型とは、端面と側面の直角度が0.01mmであることだけが異なるグラッシーカーボン製の上下一対の押し型を用いた他は、実施例1と同様の加圧熱処理を行い、実施例1と同一寸法の平凸レンズを作製した。当該平凸レンズの光軸から半径の1/2の距離に位置する任意の4カ所の測定点における残留応力は、それぞれ0MPa、1.64MPa、1.31MPa、4.58MPaであった。したがって、σavは1.8825MPa、σmaxは4.58MPaとなり、|σmax−σav|/σavの値は1.4となる。
比較例2の平凸レンズには、4.58MPaという特異な残留応力が局所的に偏在する測定点が存在している。この理由は、実施例1と比較して、最外周の厚さが8mmの押し型において、上下両端面と胴型内面に対向する側面の直角度が0.01mmと大きかったために、加圧熱処理の際に上下の押し型が傾き、その結果、ZnSe多結晶体が偏って加圧されたことにより、加圧によって平凸レンズに導入される歪の分布が、光軸に対して非対称になったものと推測される。
比較例2の平凸レンズをレーザー加工機に取り付け、実施例1と同じ条件で加工試験を行った。その結果、ジャストフォーカスで一応切断はできるが、ドロスが発生し、切断面が汚くなった。これは、平凸レンズ中に局所的かつ光軸に対して非対称な歪が発生しているため、焦点の位置が入射光の光軸の延長上からずれてしまい、その結果光軸とアシストガスの噴流軸が一致しなくなったために、溶融材の吹き飛ばしが不十分になったためである。
今回開示された実施形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の技術的範囲は上記の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の範囲でのすべての変更が含まれる。
本発明は、レーザー加工機や赤外線カメラ等の用途で使用される光学部品を提供する。本発明によれば、光学部品を構成する素材中に微少な異物や気泡等が存在する場合でも、非対称な歪の内在に起因する光学性能の悪化を抑制することができる。その結果、従来不良品として廃棄されてきたものも使用することが可能になる。
1 歪のないレンズ、2 アシストガス噴流、3 ノズル、4 焦点、5 被削材、6 回転対称な歪が入ったレンズ、7 非対称な歪が入ったレンズ

Claims (4)

  1. 光軸に垂直な方向の断面が円形の光学部品であって、前記光軸方向から見て、前記光軸から前記光学部品の最外周までの距離をRとしたときに、前記光軸から0.5Rの距離に位置する任意の4カ所の残留応力の平均値σavが1MPa以上であり、かつ前記4カ所の残留応力が下記の(I)式の関係を満たす光学部品。
    |σmax−σav|/σav≦1.3 ・・・(I)
    ここで、σmaxは前記4カ所の残留応力の内、偏差の絶対値が最も大きい残留応力である。
  2. 前記光学部品を構成する材料がセレン化亜鉛、ゲルマニウム、硫化亜鉛のいずれかである請求項1に記載の光学部品。
  3. 前記光学部品がレンズである請求項1または請求項2に記載の光学部品。
  4. 請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の光学部品を備えるレーザー加工機。
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